(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-07
(45)【発行日】2024-08-16
(54)【発明の名称】クロロプレン重合体及びその製造方法、クロロプレン重合体組成物、並びに、浸漬成形体
(51)【国際特許分類】
C08L 11/00 20060101AFI20240808BHJP
C08F 136/18 20060101ALI20240808BHJP
C08F 236/18 20060101ALI20240808BHJP
C08J 5/02 20060101ALI20240808BHJP
A41D 19/00 20060101ALI20240808BHJP
A61M 25/00 20060101ALI20240808BHJP
【FI】
C08L11/00
C08F136/18
C08F236/18
C08J5/02 CEQ
A41D19/00 P
A61M25/00 500
(21)【出願番号】P 2023509076
(86)(22)【出願日】2022-03-16
(86)【国際出願番号】 JP2022011969
(87)【国際公開番号】W WO2022202556
(87)【国際公開日】2022-09-29
【審査請求日】2023-06-16
(31)【優先権主張番号】P 2021049008
(32)【優先日】2021-03-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100185591
【氏名又は名称】中塚 岳
(74)【代理人】
【識別番号】100160897
【氏名又は名称】古下 智也
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 実沙樹
(72)【発明者】
【氏名】加藤 真洋
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 雄志
【審査官】櫛引 智子
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-245841(JP,A)
【文献】特開昭48-089285(JP,A)
【文献】特開平07-292166(JP,A)
【文献】特開2019-143002(JP,A)
【文献】特開昭63-245449(JP,A)
【文献】特開2011-021046(JP,A)
【文献】特開2005-154756(JP,A)
【文献】特開2000-170846(JP,A)
【文献】特開2002-121232(JP,A)
【文献】特開2000-302920(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L,C08F,C08J,B29C,A41D,A61M
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロロプレンと2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエンとの共重合体を含有する重合体Aと、クロロプレンの単独重合体、及び、クロロプレンと2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエンとの共重合体からなる群より選ばれる少なくとも一種を含有する重合体Bと、の混合物であるクロロプレン重合体であって、
前記クロロプレン重合体のトルエン可溶分のゲル浸透クロマトグラフィー測定において、重量平均分子量が500,000~900,000である第一ピークと、重量平均分子量が7,000~80,000である第二ピークと、を有し、
前記クロロプレン重合体のトルエン不溶分が60質量%以上であ
り、
前記重合体Aにおけるトルエン可溶分の重量平均分子量が500,000~900,000であり、
前記重合体Bにおけるトルエン可溶分の重量平均分子量が7,000~80,000であり、
前記重合体Aのトルエン不溶分が70質量%以上であり、
前記重合体Bのトルエン不溶分が5質量%以下であり、
前記重合体Aの割合が、前記重合体A及び前記重合体Bの合計を基準として固形分で70~95質量%である、クロロプレン重合体。
【請求項2】
請求項
1に記載のクロロプレン重合体を含有する、クロロプレン重合体組成物。
【請求項3】
請求項
2に記載のクロロプレン重合体組成物の浸漬成形体。
【請求項4】
手袋、風船、カテーテル又は長靴である、請求項
3に記載の浸漬成形体。
【請求項5】
クロロプレン及び2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエンを、連鎖移動剤、水、アルカリ、乳化剤、還元剤、及び、重合開始剤の存在下、重合温度10~45℃、重合率80~95%で重合して得られる重合体Aと、
クロロプレン90~100質量部を、連鎖移動剤1~10質量部、水、アルカリ、乳化剤、還元剤、及び、重合開始剤の存在下、重合温度10~45℃、重合率60~90%で重合して得られる重合体Bと、を混合する工程を備え、
前記重合体Bの前記重合における2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエンの割合が10質量部以下であ
り、
前記重合体Aにおけるトルエン可溶分の重量平均分子量が500,000~900,000であり、
前記重合体Bにおけるトルエン可溶分の重量平均分子量が7,000~80,000であり、
前記重合体Aの割合が前記重合体A及び前記重合体Bの合計を基準として固形分で70~95質量%である、クロロプレン重合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロロプレン重合体及びその製造方法、クロロプレン重合体組成物、並びに、浸漬成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
クロロプレン重合体は、浸漬成形体(浸漬製品)、繊維処理剤、紙加工剤、粘着剤、接着剤、弾性アスファルト(改質アスファルト)、弾性セメント等の種々の分野で利用されている。特に浸漬成形体では、家庭用、産業用、手術用等の各種手袋の主原料としてクロロプレン重合体が用いられている。手袋の用途においては、従来天然ゴムが主に使用されていたが、天然ゴムに含まれるタンパク質等によるアレルギーが問題となるため、合成ゴム手袋の使用が勧められてきた。中でも、クロロプレン重合体は、風合い等において天然ゴムに近い物性を有するため、天然ゴムからの代替材料として検討されている(例えば、下記特許文献1~2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開2019/009038号
【文献】特開2019-143002号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
クロロプレン重合体を用いて得られる浸漬成形体(手袋等)においては、天然ゴム又はイソプレンゴムを用いる場合と比べて柔軟性が劣る場合がある。そのため、クロロプレン重合体に対しては、当該クロロプレン重合体を用いて得られる浸漬成形体の柔軟性を向上させることが求められる。
【0005】
また、クロロプレン重合体に対しては、当該クロロプレン重合体を用いて得られる浸漬成形体において、優れた柔軟性に加えて優れた破断強度を達成することが求められる。
【0006】
本発明の一側面は、優れた柔軟性及び破断強度を有する浸漬成形体を得ることが可能なクロロプレン重合体を提供することを目的とする。本発明の他の一側面は、上述のクロロプレン重合体を含有するクロロプレン重合体組成物を提供することを目的とする。本発明の他の一側面は、上述のクロロプレン重合体組成物の浸漬成形体を提供することを目的とする。本発明の他の一側面は、優れた柔軟性及び破断強度を有する浸漬成形体を得ることが可能なクロロプレン重合体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面は、クロロプレンの単独重合体、及び、クロロプレンと2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエンとの共重合体からなる群より選ばれる少なくとも一種を含有し、トルエン可溶分のゲル浸透クロマトグラフィー測定において、重量平均分子量が500,000~900,000である第一ピークと、重量平均分子量が7,000~80,000である第二ピークと、を有し、トルエン不溶分が60質量%以上である、クロロプレン重合体に関する。
【0008】
上述のクロロプレン重合体は、クロロプレンと2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエンとの共重合体を含有する重合体Aと、クロロプレンの単独重合体、及び、クロロプレンと2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエンとの共重合体からなる群より選ばれる少なくとも一種を含有する重合体Bと、の混合物であり、前記重合体Aにおけるトルエン可溶分の重量平均分子量が500,000~900,000であり、前記重合体Bにおけるトルエン可溶分の重量平均分子量が7,000~80,000であり、前記重合体Aのトルエン不溶分が70質量%以上であり、前記重合体Bのトルエン不溶分が5質量%以下である、クロロプレン重合体であってよい。
【0009】
本発明の他の一側面は、上述のクロロプレン重合体を含有する、クロロプレン重合体組成物に関する。
【0010】
本発明の他の一側面は、上述のクロロプレン重合体組成物の浸漬成形体に関する。
【0011】
本発明の他の一側面は、クロロプレン及び2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエンを、連鎖移動剤、純水、アルカリ、乳化剤、還元剤、及び、重合開始剤の存在下、重合温度10~45℃、重合率80~95%で重合して得られる重合体Aと、クロロプレン90~100質量部を、連鎖移動剤1~10質量部、純水、乳化剤、アルカリ、還元剤、及び、重合開始剤の存在下、重合温度10~45℃、重合率60~90%で重合して得られる重合体Bと、を混合する工程を備え、前記重合体Bの前記重合における2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエンの割合が10質量部以下である、クロロプレン重合体の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一側面によれば、優れた柔軟性及び破断強度を有する浸漬成形体を得ることが可能なクロロプレン重合体を提供することができる。本発明の他の一側面によれば、上述のクロロプレン重合体を含有するクロロプレン重合体組成物を提供することができる。本発明の他の一側面によれば、上述のクロロプレン重合体組成物の浸漬成形体を提供することができる。本発明の他の一側面によれば、優れた柔軟性及び破断強度を有する浸漬成形体を得ることが可能なクロロプレン重合体の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0014】
本明細書において、数値範囲の「A以上」とは、A、及び、Aを超える範囲を意味する。数値範囲の「A以下」とは、A、及び、A未満の範囲を意味する。本明細書に段階的に記載されている数値範囲において、ある段階の数値範囲の上限値又は下限値は、他の段階の数値範囲の上限値又は下限値と任意に組み合わせることができる。本明細書に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてよい。「A又はB」とは、A及びBのどちらか一方を含んでいればよく、両方とも含んでいてよい。本明細書に例示する材料は、特に断らない限り、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。組成物中の各成分の含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。「(メタ)アクリル酸」とは、アクリル酸、及び、それに対応するメタクリル酸の少なくとも一方を意味し、「(メタ)アクリレート」等の他の類似の表現においても同様である。「トルエン可溶分」及び「トルエン不溶分」の測定においては、室温23℃のトルエンを用いることができる。
【0015】
<クロロプレン重合体及びクロロプレン重合体組成物>
まず、本実施形態に係るクロロプレン重合体について説明する。本実施形態に係るクロロプレン重合体は、クロロプレン(2-クロロ-1,3-ブタジエン)を単量体単位として有する重合体であり、クロロプレンの単独重合体、及び、クロロプレンと2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエンとの共重合体からなる群より選ばれる少なくとも一種を含有する。本実施形態に係るクロロプレン重合体は、クロロプレンの単独重合体、又は、クロロプレンと2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエンとの共重合体が水中に分散しているものであってよい。
【0016】
本実施形態に係るクロロプレン重合体は、トルエン可溶分のゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)測定において、重量平均分子量(Mw)が500,000~900,000である第一ピークと、重量平均分子量(Mw)が7,000~80,000である第二ピークと、を有する。本実施形態に係るクロロプレン重合体のトルエン不溶分は、60質量%以上である。
【0017】
本実施形態に係るクロロプレン重合体によれば、優れた柔軟性及び破断強度を有する浸漬成形体を得ることができる。本実施形態に係るクロロプレン重合体によれば、優れた柔軟性、破断強度及び破断伸びを有する浸漬成形体を得ることもできる。
【0018】
トルエン可溶分のGPC測定における上述の第一ピーク及び第二ピークは、ポリスチレン換算の重量平均分子量として得ることができる。GPC測定は、実施例に記載の条件で行うことができる。
【0019】
クロロプレン重合体のトルエン不溶分が60質量%以上であると、優れた柔軟性を得ることができる。クロロプレン重合体のトルエン不溶分は、63質量%以上、65質量%以上、68質量%以上、70質量%以上、72質量%以上、75質量%以上、77質量%以上、78質量%以上、80質量%以上、又は、83質量%以上であってよい。クロロプレン重合体のトルエン不溶分は、85質量%以下、83質量%以下、80質量%以下、78質量%以下、77質量%以下、75質量%以下、72質量%以下、70質量%以下、68質量%以下、65質量%以下、又は、63質量%以下であってよい。これらの観点から、クロロプレン重合体のトルエン不溶分は、60~85質量%、60~83質量%、60~80質量%、60~75質量%、60~70質量%、65~83質量%、65~80質量%、65~75質量%、65~70質量%、70~83質量%、70~80質量%、70~75質量%、75~83質量%、又は、75~80質量%であってよい。
【0020】
本実施形態に係るクロロプレン重合体は、クロロプレンと2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエンとの共重合体を含有する重合体Aと、クロロプレンの単独重合体、及び、クロロプレンと2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエンとの共重合体からなる群より選ばれる少なくとも一種を含有する重合体Bと、の混合物であり、重合体Aにおけるトルエン可溶分の重量平均分子量(Mw)が500,000~900,000であり、重合体Bにおけるトルエン可溶分の重量平均分子量(Mw)が7,000~80,000であり、重合体Aのトルエン不溶分が70質量%以上であり、重合体Bのトルエン不溶分が5質量%以下である態様であってよい。当該態様において、重合体Aの割合は、重合体A及び重合体Bの合計を基準として固形分で70~95質量%であってよい(すなわち、重合体A/重合体Bの固形分の質量比は、70/30~95/5であってよい)。
【0021】
重合体A及び重合体Bにおけるトルエン可溶分の重量平均分子量は、GPC測定により得ることが可能であり、ポリスチレン換算の重量平均分子量として得ることができる。GPC測定は、実施例に記載の条件で測定することができる。
【0022】
クロロプレン重合体の第一ピークの重量平均分子量、又は、重合体Aにおけるトルエン可溶分の重量平均分子量が500,000以上であると、優れた破断強度を得ることができる。クロロプレン重合体の第一ピークの重量平均分子量、及び、重合体Aにおけるトルエン可溶分の重量平均分子量は、優れた破断強度を得やすい観点から、530,000以上、550,000以上、580,000以上、600,000以上、630,000以上、650,000以上、680,000以上、700,000以上、730,000以上、750,000以上、780,000以上、800,000以上、830,000以上、又は、850,000以上であってよい。
【0023】
クロロプレン重合体の第一ピークの重量平均分子量、又は、重合体Aにおけるトルエン可溶分の重量平均分子量が900,000以下であると、優れた柔軟性を得ることができる。クロロプレン重合体の第一ピークの重量平均分子量、及び、重合体Aにおけるトルエン可溶分の重量平均分子量は、優れた柔軟性を得やすい観点から、850,000以下、830,000以下、800,000以下、780,000以下、750,000以下、730,000以下、700,000以下、680,000以下、650,000以下、630,000以下、600,000以下、580,000以下、550,000以下、又は、530,000以下であってよい。
【0024】
これらの観点から、クロロプレン重合体の第一ピークの重量平均分子量、及び、重合体Aにおけるトルエン可溶分の重量平均分子量は、500,000~850,000、500,000~800,000、500,000~750,000、500,000~700,000、600,000~900,000、600,000~850,000、600,000~800,000、600,000~750,000、600,000~700,000、650,000~900,000、650,000~850,000、650,000~800,000、650,000~750,000、又は、650,000~700,000であってよい。
【0025】
クロロプレン重合体の第二ピークの重量平均分子量、又は、重合体Bにおけるトルエン可溶分の重量平均分子量が7,000以上であると、浸漬成形体を良好に得ることができる。クロロプレン重合体の第二ピークの重量平均分子量、及び、重合体Bにおけるトルエン可溶分の重量平均分子量は、浸漬成形体を良好に得やすい観点から、7,500以上、8,000以上、10,000以上、12,000以上、15,000以上、16,000以上、又は、17,000以上であってよい。クロロプレン重合体の第二ピークの重量平均分子量、及び、重合体Bにおけるトルエン可溶分の重量平均分子量は、優れた破断伸びを得やすい観点から、30,000以上、50,000以上、又は、70,000以上であってよい。
【0026】
クロロプレン重合体の第二ピークの重量平均分子量、又は、重合体Bにおけるトルエン可溶分の重量平均分子量が80,000以下であると、優れた柔軟性を得ることができる。クロロプレン重合体の第二ピークの重量平均分子量、及び、重合体Bにおけるトルエン可溶分の重量平均分子量は、優れた柔軟性を得やすい観点から、70,000以下、50,000以下、30,000以下、20,000以下、18,000以下、17,000以下、16,000以下、又は、15,000以下であってよい。クロロプレン重合体の第二ピークの重量平均分子量、及び、重合体Bにおけるトルエン可溶分の重量平均分子量は、優れた破断強度を得やすい観点から、12,000以下、10,000以下、8,000以下、又は、7,500以下であってよい。
【0027】
これらの観点から、クロロプレン重合体の第二ピークの重量平均分子量、及び、重合体Bにおけるトルエン可溶分の重量平均分子量は、7,000~50,000、7,000~30,000、7,000~20,000、7,000~17,000、10,000~80,000、10,000~50,000、10,000~30,000、10,000~20,000、10,000~17,000、15,000~80,000、15,000~50,000、15,000~30,000、15,000~20,000、又は、15,000~17,000であってよい。
【0028】
重合体Aのトルエン不溶分は、優れた柔軟性及び破断強度を得やすい観点から、70質量%以上、75質量%以上、80質量%以上、又は、85質量%以上であってよい。重合体Aのトルエン不溶分は、90質量%以上、又は、95質量%以上であってもよい。重合体Aのトルエン不溶分は、優れた柔軟性及び破断強度を得やすい観点から、95質量%以下、90質量%以下、又は、85質量%以下であってよい。これらの観点から、重合体Aのトルエン不溶分は、70~95質量%、70~90質量%、70~85質量%、80~95質量%、80~90質量%、80~85質量%、85~95質量%、又は、85~90質量%であってよい。
【0029】
重合体Bのトルエン不溶分は、優れた柔軟性及び破断強度を得やすい観点から、5質量%以下、4質量%以下、3質量%以下、2質量%以下、又は、1質量%以下であってよい。重合体Bのトルエン不溶分は、0質量%以上であり、優れた柔軟性及び破断強度を得やすい観点から、0質量%超、0.5質量%以上、又は、1質量%以上であってよい。これらの観点から、重合体Bのトルエン不溶分は、0質量%超5質量%以下、0質量%超3質量%以下、0質量%超2質量%以下、0質量%超1質量%以下、0.5~5質量%、0.5~3質量%、0.5~2質量%、0.5~1質量%、1~5質量%、1~3質量%、又は、1~2質量%であってよい。
【0030】
重合体Aの割合は、優れた柔軟性及び破断強度を得やすい観点から、重合体A及び重合体Bの合計を基準として、固形分で下記の範囲であってよい。重合体Aの割合は、70質量%以上、75質量%以上、80質量%以上、又は、85質量%以上であってよい。重合体Aの割合は、95質量%以下、90質量%以下、85質量%以下、80質量%以下、又は、75質量%以下であってよい。これらの観点から、重合体Aの割合は、70~95質量%、70~90質量%、70~85質量%、又は、75~85質量%であってよい。
【0031】
クロロプレンの単独重合体は、クロロプレンを単独で重合させることにより得ることができる。クロロプレンと2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエンとの共重合体は、クロロプレン及び2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエンを単量体単位として有する重合体であり、クロロプレンと2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエンとを含む単量体組成物を重合させることにより得ることができる。
【0032】
クロロプレンと2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエンとの共重合体は、クロロプレン及び2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン以外の他の単量体の単量体単位を有してよい。このような単量体としては、(メタ)アクリル酸のエステル類((メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル等)、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート(2-ヒドロキシメチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等)、(メタ)アクリル酸、1-クロロ-1,3-ブタジエン、ブタジエン、イソプレン、エチレン、スチレン、(メタ)アクリロニトリルなどが挙げられる。一方で、クロロプレンと2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエンとの共重合体は、クロロプレン及び2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン以外の他の単量体の単量体単位を有していなくてもよく、実質的にクロロプレンの単量体単位及び2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエンの単量体単位からなる共重合体であってよい。
【0033】
重合体A又は重合体Bにおける2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエンとの共重合体において、クロロプレン(単量体)の割合は、得られた浸漬成形体が優れた柔軟性を発現しやすい観点から、単量体100質量部(クロロプレン重合体を得るための単量体(原料単量体)の合計100質量部、又は、クロロプレン及び2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエンの合計100質量部。以下同様)に対し、下記の範囲であってよい。クロロプレンの割合は、80質量部以上、85質量部以上、88質量部以上、又は、90質量部以上であってよい。クロロプレンの割合は、99質量部以下、98質量部以下、97質量部以下、95質量部以下、94質量部以下、92質量部以下、又は、91質量部以下であってよい。これらの観点から、クロロプレンの割合は、80~99質量部、80~98質量部、80~95質量部、80~92質量部、85~99質量部、85~98質量部、85~95質量部、85~92質量部、90~99質量部、90~98質量部、90~95質量部、又は、90~92質量部であってよい。
【0034】
重合体A又は重合体Bにおいて、クロロプレンと共重合させる2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン(単量体)の割合は、得られた浸漬成形体が優れた柔軟性を発現しやすい観点から、単量体100質量部に対し、下記の範囲であってよい。2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエンの割合は、1質量部以上、2質量部以上、3質量部以上、5質量部以上、6質量部以上、8質量部以上、又は、9質量部以上であってよい。2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエンの割合は、20質量部以下、15質量部以下、12質量部以下、又は、10質量部以下であってよい。これらの観点から、2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエンの割合は、1~20質量部、2~20質量部、5~20質量部、8~20質量部、1~15質量部、2~15質量部、5~15質量部、8~15質量部、1~10質量部、2~10質量部、5~10質量部、又は、8~10質量部であってよい。2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエンの割合は、重合体の熱分解ガスクロマトグラフを測定することで求めることが可能であり、例えば、熱分解ガスクロマトグラフは以下の測定条件で実施できる。
・使用カラム:DB-5 0.25mmφ×30m(膜厚1.0μm)
・カラム温度:50℃→10℃/min→120℃→25℃/min→300℃
・注入口温度:270℃
・検出器温度:280℃
・試料量:0.05mg
【0035】
クロロプレン重合体を製造する際は、乳化重合、溶液重合、懸濁重合、塊状重合等の重合方法により原料単量体を重合する。これらの重合方法の中でも、制御しやすく、重合終了液からのポリマーを取り出しやすく、重合速度が比較的速い等、種々の利点がある乳化重合が好適である。
【0036】
乳化重合は、ラジカル重合の一種であり、例えば、原料単量体を、連鎖移動剤、水、アルカリ(例えば、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等の金属水酸化物)、乳化剤(分散剤)、還元剤(例えば亜硫酸水素ナトリウム)、重合開始剤などと共に反応缶中に投入して重合させる方法である。
【0037】
連鎖移動剤は、通常のクロロプレンの乳化重合に使用されるものを使用することができる。連鎖移動剤の具体例としては、n-ドデシルメルカプタン、tert-ドデシルメルカプタン等の長鎖アルキルメルカプタン類;ジイソプロピルキサントゲンジスルフィド、ジエチルキサンドゲンジスルフィド等のジアルキルキサントゲンジスルフィド類などが挙げられる。連鎖移動剤は、1種単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。重合体A又は重合体Bの重合において、連鎖移動剤の使用量は、単量体100質量部に対し、好ましくは0.01~10質量部である。重合体Aの重合において、連鎖移動剤の使用量は、単量体100質量部に対し、0.01~1質量部、0.01~0.1質量部、0.01~0.05質量部、0.02~1質量部、0.02~0.1質量部、又は、0.02~0.05質量部であってよい。重合体Bの重合において、連鎖移動剤の使用量は、単量体100質量部に対し、1~10質量部、1~8質量部、1~5質量部、3~10質量部、3~8質量部、又は、3~5質量部であってよい。
【0038】
乳化剤としては、アニオン性乳化剤、ノニオン性乳化剤等が挙げられる。アニオン性乳化剤としては、牛脂脂肪酸カリウム、部分水添牛脂脂肪酸カリウム、オレイン酸カリウム、オレイン酸ナトリウム等の脂肪酸塩;ロジン酸カリウム、ロジン酸ナトリウム、水添ロジン酸カリウム、水添ロジン酸ナトリウム等の樹脂酸塩;ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩;β-ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物のナトリウム塩などが挙げられる。ノニオン性乳化剤としては、ポリエチレングリコールエステル型乳化剤、ポリビニルアルコール等が挙げられる。これらの中でも、アニオン性乳化剤が好ましく、ロジン酸カリウム及びロジン酸ナトリウムからなる群より選ばれる少なくとも一種がより好ましい。乳化剤は、1種単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。重合体A又は重合体Bの重合において、乳化剤の使用量は、単量体100質量部に対し、好ましくは1.0~6.5質量部である。
【0039】
重合開始剤としては、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過酸化水素等の無機過酸化物;過酸化ベンゾイル等の有機過酸化物類などを用いることができる。重合開始剤は、1種単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。重合体A又は重合体Bの重合において、重合開始剤の使用量は、単量体100質量部に対し、好ましくは0.01~10質量部である。
【0040】
重合体A又は重合体Bの重合において、乳化重合する際に使用する水の量は、単量体100質量部に対し、好ましくは50~300質量部、より好ましくは80~150質量部である。
【0041】
重合体A又は重合体Bの重合において、重合温度は、特に限定されるものではないが、クロロプレン重合体の柔軟性の経時的安定性を保持しやすい観点から、5~55℃、10~45℃、15~45℃、15~40℃、15~35℃、又は、15~30℃の温度範囲であってよい。
【0042】
重合体A又は重合体Bの重合において、原料単量体の重合率(重合転化率)は、50~95%、60~95%、70~95%、80~95%、50~90%、60~90%、70~90%、80~90%、50~80%、60~80%、70~80%、50~70%、又は、60~70%であってよい。重合率をこの範囲内にすることで、クロロプレン重合体の固形分及び製造時の重合時間が適切となり生産性に優れる。
【0043】
原料単量体の重合率が目標の重合率に達し、重合を停止する際に添加する重合停止剤としては、例えば、チオジフェニルアミン、4-tert-ブチルカテコール、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、ジエチルヒドロキシルアミン等を用いることができる。
【0044】
重合後に未反応単量体を除去した後、濃縮操作により、固形分濃度を最適な範囲に調節することができる。重合体A又は重合体Bの重合において、固形分濃度は、45~65質量%の範囲であることが好ましい。
【0045】
本実施形態に係るクロロプレン重合体の製造方法の一態様は、クロロプレン及び2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエンを、連鎖移動剤、水(例えば純水)、アルカリ、乳化剤、還元剤、及び、重合開始剤の存在下、重合温度10~45℃、重合率80~95%で重合して得られる重合体Aと、クロロプレン90~100質量部を、連鎖移動剤1~10質量部、水(例えば純水)、アルカリ、乳化剤、還元剤、及び、重合開始剤の存在下、重合温度10~45℃、重合率60~90%で重合して得られる重合体Bと、を混合する工程を備え、重合体Bの重合における2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエンの割合が10質量部以下(例えば0~10質量部)である態様であってよい。当該態様において、重合体Aの割合は、重合体A及び重合体Bの合計を基準として固形分で70~95質量%であってよい。
【0046】
重合体A又は重合体Bの重合温度の数値範囲としては、本実施形態に係るクロロプレン重合体における重合温度に関して上述した各数値範囲を用いてよい。重合体A又は重合体Bの重合率の数値範囲としては、本実施形態に係るクロロプレン重合体における重合率に関して上述した各数値範囲を用いてよい。重合体Bの重合における連鎖移動剤の使用量の数値範囲としては、本実施形態に係るクロロプレン重合体における連鎖移動剤の使用量に関して上述した各数値範囲を用いてよい。重合体Bの重合における2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエンの割合は、1質量部以上、2質量部以上、3質量部以上、5質量部以上、6質量部以上、8質量部以上、又は、9質量部以上であってよい。重合体Aの割合の数値範囲としては、本実施形態に係るクロロプレン重合体における重合体Aの割合に関して上述した各数値範囲を用いてよい。
【0047】
本実施形態に係るクロロプレン重合体組成物は、本実施形態に係るクロロプレン重合体を含有する。本実施形態に係るクロロプレン重合体組成物は、pH調整剤、凍結安定剤、乳化安定剤、粘度調整剤、老化防止剤、防腐剤等を含有してよい。
【0048】
本実施形態に係るクロロプレン重合体組成物は、加硫剤、加硫促進剤、老化防止剤(酸化防止剤、例えばオゾン老化防止剤)、充填剤、可塑剤、顔料、着色剤、湿潤剤、消泡剤等の添加剤を含有してよい。本実施形態に係るクロロプレン重合体組成物は、クロロプレン重合体とこれらの添加剤とを含有する浸漬成形用の混合液であってよい。本実施形態に係るクロロプレン重合体組成物は、これらの添加剤を混合する前の態様として、加硫剤、加硫促進剤、老化防止剤、充填剤、可塑剤、顔料、着色剤、湿潤剤、及び、消泡剤からなる群より選ばれる少なくとも一種の添加剤を含有しない態様であってもよい。
【0049】
加硫剤としては、硫黄(分子状硫黄。例えば、S8等の環状硫黄);酸化亜鉛、酸化鉛、四酸化三鉛等の金属酸化物;酸化マグネシウムなどが挙げられる。加硫剤の含有量は、架橋が充分に進行しやすく、浸漬成形体の引張強度、モジュラス等を好適に得やすい観点、及び、浸漬成形体の好適な触感を得やすい観点から、クロロプレン重合体の固形分100質量部に対して0.5~10質量部であってよい。架橋剤は、1種単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0050】
加硫促進剤としては、チウラム系、ジチオカルバミン酸塩系、チオウレア系、グアニジン系、キサントゲン酸塩系、チアゾール系等の加硫促進剤が挙げられる。加硫促進剤は、適切な強度が得られやすい観点から、クロロプレン重合体の固形分100質量部に対して0.5~5質量部であってよい。加硫促進剤は、1種単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0051】
老化防止剤としては、オクチル化ジフェニルアミン、p-(p-トルエン-スルホニルアミド)ジフェニルアミン、4,4’-ビス(α,α-ジメチルベンジル)ジフェニルアミン、N,N’-ジフェニル-p-フェニレジアミン(DPPD)、N-イソプロピル-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン(IPPD)等のジフェニルアミン系化合物などが挙げられる。オゾン老化防止剤としては、N,N’-ジフェニル-p-フェニレジアミン(DPPD)、N-イソプロピル-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン(IPPD)等が挙げられる。老化防止剤としては、医療用手袋等のように外観(特に色調)又は衛生性が重視される場合には、ビンダードフェノール系老化防止剤を用いることができる。老化防止剤の含有量は、老化防止効果を充分に得やすい観点から、クロロプレン重合体の固形分100質量部に対して0.1~5質量部であってよい。
【0052】
<加硫物、浸漬成形体及びこれらの製造方法>
本実施形態に係るクロロプレン重合体組成物を加硫することにより加硫物を得てよい。本実施形態に係る加硫物は、本実施形態に係るクロロプレン重合体組成物の加硫物であり、本実施形態に係るクロロプレン重合体組成物を加硫して得られたものである。本実施形態に係る加硫物は、フィルム状であってよい。
【0053】
本実施形態に係る浸漬成形体は、本実施形態に係るクロロプレン重合体組成物の浸漬成形体である。本実施形態に係る浸漬成形体は、本実施形態に係るクロロプレン重合体組成物を用いた浸漬成形体であり、本実施形態に係るクロロプレン重合体組成物を浸漬成形して得られたものである。本実施形態に係る浸漬成形体は、浸漬成形膜(フィルム状の浸漬成形体)であってよく、基材上に形成された浸漬成形膜であってよい。本実施形態に係る浸漬成形体は、柔軟性が非常に高く、また、浸漬成形体として充分な破断強度及び破断伸びを有する。本実施形態に係る浸漬成形体は、本実施形態に係る加硫物の成形体であってよい。本実施形態に係る浸漬成形体は、手袋、風船、カテーテル又は長靴であってよい。
【0054】
浸漬成形体(例えば浸漬成形膜)の厚さ(例えば最小の厚さ)は、下記の範囲であってよい。浸漬成形体の厚さは、0.01mm以上、0.05mm以上、0.10mm以上、0.15mm以上、又は、0.20mm以上であってよい。浸漬成形体の厚さは、0.50mm以下、0.45mm以下、0.40mm以下、0.35mm以下、0.30mm以下、又は、0.25mm以下であってよい。これらの観点から、浸漬成形体の厚さは、0.01~0.50mm、0.10~0.50mm、0.10~0.30mm、又は、0.10~0.25mmであってよい。浸漬成形体の厚さは、成形型をクロロプレン重合体組成物に浸漬する時間、クロロプレン重合体組成物の固形分濃度等によって調整することができる。浸漬成形体の厚さを薄くしたい場合、浸漬時間を短縮し、又は、クロロプレン重合体組成物の固形分濃度を低くすればよい。
【0055】
本実施形態に係る浸漬成形体の製造方法では、本実施形態に係るクロロプレン重合体組成物を浸漬成形する。本実施形態に係る浸漬成形体を製造する際の成形方法としては、公知の方法を使用することが可能であり、単純浸漬法、凝着浸漬法、感熱浸漬法、電着法等が挙げられる。製造しやすい観点、及び、一定の厚さの浸漬成形体が得られやすい観点から、凝着浸漬法を用いることができる。具体的には、凝集剤をコーティングした成形型をクロロプレン重合体組成物に浸漬し、クロロプレン重合体組成物を凝固させる。そして、浸出により水溶性不純物を除去した後に乾燥させ、さらに、加硫することにより浸漬成形膜(ゴム被膜)を形成した後に浸漬成形膜を離型する。これにより、フィルム状の浸漬成形体を得ることができる。
【実施例】
【0056】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、評価方法を以下に記載する。
【0057】
<評価方法>
(トルエン可溶分のGPC測定)
クロロプレン重合体A、B又は混合クロロプレン重合体を凍結乾燥させることにより得られた乾燥物20mgをトルエン20mlに12時間以上溶解させてゾルを分離させた。その後、分離したゾルをTHF溶液20mlに溶解することで試料を得て、下記の条件でゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)測定を行った。重量平均分子量(Mw)は、ポリスチレン換算で求めた。
測定装置:東ソー株式会社製、ゲル浸透クロマトグラフ(HLC-8320)
カラム:東ソー株式会社製、TSKgel ALPHA-M
溶離液:THF(LiBr:10mM)
溶離液流量:1.0ml/min
カラム温度:40℃
検出方法:示差屈折率(RI)計
検量線:標準ポリスチレンを用いて作成
【0058】
(トルエン不溶分)
クロロプレン重合体A,B又は混合クロロプレン重合体を凍結乾燥させることにより得られた乾燥物1gを2mm角に裁断することにより小片を得た後、この小片をコニカルビーカーに入れてトルエンで16時間溶解した。その後、遠心分離し、200メッシュ金網を用いてゲル分を分離した後に乾燥させて得られる乾燥物の質量を測定することによりトルエン不溶分を算出した。
【0059】
(評価用フィルムの厚さ)
試験片測厚器(高分子計器株式会社製、商品名:ASKER SDA-12)を用いて評価用フィルムの中央部の3か所の厚さ(フィルム厚)を測定し、最小の厚さを評価用フィルムの厚さとして得た。
【0060】
(評価用フィルムの物性)
JIS K 6251に準拠して評価用フィルムの100%伸長時モジュラス、破断強度及び破断伸びを測定した。柔軟性の指標である100%伸長時モジュラスが0.70MPa以下、かつ、破断強度が17.0MPa以上である場合を良好であると判断した。
【0061】
<クロロプレン重合体の調製>
(実施例1)
クロロプレン(単量体)90.5質量部、2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン(単量体)9.5質量部、n-ドデシルメルカプタン0.032質量部、純水90質量部、ロジン(荒川化学工業株式会社製、商品名:ハートールR-WW)4.5質量部、水酸化カリウム0.78質量部、β-ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物のナトリウム塩(花王株式会社製、商品名:デモールN)0.40質量部、及び、亜硫酸水素ナトリウム0.40質量部を混合した。重合開始剤として過硫酸カリウム0.1質量部を添加した後、重合温度15℃にて窒素気流下で重合を行った。重合率85%となった時点で、重合停止剤であるジエチルヒドロキシルアミン0.01質量部を加えて重合を停止させ、未反応単量体の除去、及び、濃縮操作により、固形分濃度60%のクロロプレン重合体Aを得た。クロロプレン重合体Aのトルエン可溶分のゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)測定を行った結果、トルエン可溶分の重量平均分子量(Mw)は607,000であった。また、クロロプレン重合体Aのトルエン不溶分は85質量%であった。
【0062】
クロロプレン(単量体)100質量部、n-ドデシルメルカプタン5.0質量部、純水90質量部、不均化ロジン(荒川化学工業株式会社製、商品名:ロンヂスK-25)5.3質量部、水酸化カリウム0.78質量部、β-ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物のナトリウム塩(花王株式会社製、商品名:デモールN)0.40質量部、及び、亜硫酸水素ナトリウム0.50質量部を混合した。重合開始剤として過硫酸カリウム0.1質量部を添加した後、重合温度40℃にて窒素気流下で重合を行った。重合率60%となった時点で、重合停止剤であるジエチルヒドロキシルアミン0.01質量部を加えて重合を停止させ、未反応単量体の除去、及び、濃縮操作により、固形分濃度60%のクロロプレン重合体Bを得た。クロロプレン重合体Bのトルエン可溶分のゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)測定を行った結果、トルエン可溶分の重量平均分子量(Mw)は16,000であった。また、クロロプレン重合体Bのトルエン不溶分は1質量%であった。
【0063】
次いで、これらのクロロプレン重合体A及びBをA/B=75/25(固形分の質量比)で混合することにより混合クロロプレン重合体を得た。混合クロロプレン重合体のトルエン可溶分のゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)測定を行った結果、重量平均分子量(Mw)が680,000である第一ピーク、及び、重量平均分子量(Mw)が17,000である第二ピークが確認された。また、混合クロロプレン重合体のトルエン不溶分は70質量%であった。
【0064】
(実施例2)
実施例1のクロロプレン重合体Bの単量体をクロロプレン90.5質量部及び2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン9.5質量部に変更したこと以外は実施例1と同様の手順で混合クロロプレン重合体を調製した。クロロプレン重合体A,B及び混合クロロプレン重合体の各種測定結果を表1に示す。
【0065】
(実施例3)
実施例1のクロロプレン重合体Aの重合温度を40℃に変更したこと以外は実施例1と同様の手順で混合クロロプレン重合体を調製した。クロロプレン重合体A,B及び混合クロロプレン重合体の各種測定結果を表1に示す。
【0066】
(実施例4、5)
実施例1のクロロプレン重合体Aの連鎖移動剤を実施例4、5でそれぞれ0.016質量部、0.054質量部に変更したこと以外は実施例1と同様の手順で混合クロロプレン重合体を調製した。クロロプレン重合体A,B及び混合クロロプレン重合体の各種測定結果を表1に示す。
【0067】
(実施例6)
実施例1のクロロプレン重合体Bの重合温度を15℃に変更したこと以外は実施例1と同様の手順で混合クロロプレン重合体を調製した。クロロプレン重合体A,B及び混合クロロプレン重合体の各種測定結果を表1に示す。
【0068】
(実施例7、8)
実施例1のクロロプレン重合体Bの連鎖移動剤を実施例7、8でそれぞれ1.0質量部、10.0質量部に変更したこと以外は実施例1と同様の手順で混合クロロプレン重合体を調製した。クロロプレン重合体A,B及び混合クロロプレン重合体の各種測定結果を表2に示す。
【0069】
(実施例9~11)
実施例1のクロロプレン重合体Aとクロロプレン重合体Bとの混合比を、実施例9~11でそれぞれ95/5、85/15、70/30(質量比)に変更したこと以外は実施例1と同様の手順で混合クロロプレン重合体を調製した。クロロプレン重合体A,B及び混合クロロプレン重合体の各種測定結果を表2に示す。
【0070】
(比較例1)
実施例1のクロロプレン重合体Aとクロロプレン重合体Bの混合比を100/0(質量比)に変更したこと以外は実施例1と同様の手順で混合クロロプレン重合体を調製した。クロロプレン重合体Aの各種測定結果を表3に示す。
【0071】
(比較例2、3)
実施例1のクロロプレン重合体Aの連鎖移動剤を比較例2、3でそれぞれ0.01質量部、0.08質量部に変更したこと以外は実施例1と同様の手順で混合クロロプレン重合体を調製した。クロロプレン重合体A,B及び混合クロロプレン重合体の各種測定結果を表3に示す。
【0072】
(比較例4)
実施例1のクロロプレン重合体Aの重合率を45%に変更したこと以外は実施例1と同様の手順で混合クロロプレン重合体を調製した。クロロプレン重合体A,B及び混合クロロプレン重合体の各種測定結果を表3に示す。
【0073】
(比較例5、6)
実施例1のクロロプレン重合体Bの連鎖移動剤を比較例5、6でそれぞれ0.25質量部、13.0質量部に変更したこと以外は実施例1と同様の手順で混合クロロプレン重合体を調製した。クロロプレン重合体A,B及び混合クロロプレン重合体の各種測定結果を表3に示す。
【0074】
<成形用クロロプレン重合体組成物の調製>
陶器製ボールミルを用いて、硫黄1質量部、酸化亜鉛(堺化学工業株式会社製、商品名:酸化亜鉛2種)2質量部、加硫促進剤(大内新興化学工業株式会社製、商品名:ノクセラーBZ)2質量部、老化防止剤(OMNOVA SOLUTIONS社製、商品名:Wingstay-L)2質量部、β-ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物のナトリウム塩(花王株式会社製、商品名:デモールN)0.1質量部、及び、水10.7質量部を20℃で16時間混合することにより固形分濃度40%の水分散液を調製した。上述の混合クロロプレン重合体の固形分100質量部にこの水分散液の固形分7.1質量部を混合した後、水を加えて全体の固形分濃度を30質量%に調整することにより成形用クロロプレン重合体組成物を作製した。
【0075】
<評価用フィルムの作製>
水61質量部、硝酸カリウム四水和物36質量部、及び、炭酸カルシウム3質量部を混合することにより凝固液を得た。この凝固液に外径50mmの陶器製の円筒(材質:セラミックス、シンコー株式会社製)を1秒間浸漬した後に円筒を取り出した。室温23℃にて3分間乾燥させた後、70℃で1分間乾燥させた。その後、上述の成形用クロロプレン重合体組成物に円筒を2分間浸漬した。続いて、130℃で3分間乾燥させた後、40℃の温水に円筒を1分間浸漬して洗浄した。その後、130℃で4時間加硫することにより、円筒の外周面等に評価用フィルム(浸漬成形体、加硫フィルム)を作製した。評価用フィルムを円筒の外周面から剥離して評価を行った。但し、比較例5では、浸漬成形体の粘着性が強く、円筒から剥離できなかったため、作製不可とした。
【0076】
<結果>
各実施例と各比較例との対比により、クロロプレン重合体が、トルエン可溶分のゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)測定において、重量平均分子量が500,000~900,000である第一ピークと、重量平均分子量が7,000~80,000である第二ピークと、を有し、クロロプレン重合体のトルエン不溶分が60質量%以上であれば、100%伸長時モジュラスが低く柔軟性に優れ、かつ、高い破断強度を示すことが分かる。
【0077】
【0078】
【0079】