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特許7535655塩素化ビニルポリマーの水分散体及びフィルム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-07
(45)【発行日】2024-08-16
(54)【発明の名称】塩素化ビニルポリマーの水分散体及びフィルム
(51)【国際特許分類】
   C08F 14/08 20060101AFI20240808BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20240808BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20240808BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20240808BHJP
   C09D 127/08 20060101ALI20240808BHJP
【FI】
C08F14/08
B32B27/30 C
C08J5/18 CER
C09D5/02
C09D127/08
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2023509310
(86)(22)【出願日】2022-03-24
(86)【国際出願番号】 JP2022014092
(87)【国際公開番号】W WO2022203012
(87)【国際公開日】2022-09-29
【審査請求日】2023-05-26
(31)【優先権主張番号】P 2021052304
(32)【優先日】2021-03-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165951
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 憲悟
(72)【発明者】
【氏名】細江 夏樹
【審査官】小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-127523(JP,A)
【文献】特開昭47-023492(JP,A)
【文献】特開2011-006594(JP,A)
【文献】特開2008-038129(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 14/00-14/28
C08F 114/00-114/28
C08F 214/00-214/28
C09D 5/02
C09D 127/08
B32B 27/30
C08J 5/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化ビニリデンポリマーの水分散体であり、
前記塩化ビニリデンポリマーの水分散体は酸素系漂白剤を含み、
前記塩化ビニリデンポリマーの水分散体35gに純水75gと1mol/Lの塩酸10mLとを加えて20℃で5分間、300rpmで攪拌した混合物の色を基準色として、前記塩化ビニリデンポリマーの水分散体35gに純水65gと1mol/Lの塩酸10mLと10w/V%のヨウ化カリウム水溶液10mLとを加えて20℃で5分間、300rpmで攪拌した混合物の色差を測定したときに、ΔE*abが15以上1000以下であることを特徴とする、塩化ビニリデンポリマーの水分散体。
【請求項2】
前記塩化ビニリデンポリマーの総質量を100質量%としたときに、塩化ビニリデンに由来する構造単位の質量割合が70質量%以上である、請求項1に記載の塩化ビニリデンポリマーの水分散体。
【請求項3】
20℃、50%RH環境下でマイクロ波式の固形分計を用いて求めた固形分が10質量%以上である、請求項1または2に記載の塩化ビニリデンポリマーの水分散体。
【請求項4】
塩化ビニリデンに由来する構造単位、及び塩化ビニリデンに対する反応性比r1が0.7未満である共重合モノマーに由来する構造単位を含み、前記反応性比r1が0.7未満である前記共重合モノマーに由来する構造単位の質量割合が、前記塩化ビニリデンに由来する構造単位と前記反応性比r1が0.7未満である前記共重合モノマーに由来する構造単位と前記反応性比r1が0.7以上である共重合モノマーに由来する構造単位との合計質量を100質量%としたときに、1質量%以上である、請求項1~のいずれか一項に記載の塩化ビニリデンポリマーの水分散体。
【請求項5】
前記反応性比r1が0.7未満である共重合モノマーが、ニトリル基を有するモノマー、カルボキシル基を有するモノマー及びメタクリル酸メチルからなる群から選ばれる少なくとも一種である、請求項に記載の塩化ビニリデンポリマーの水分散体。
【請求項6】
前記ニトリル基を有するモノマーがメタアクリロニトリルである、請求項に記載の塩化ビニリデンポリマーの水分散体。
【請求項7】
前記ニトリル基を有するモノマーに由来する構造単位の質量割合が、前記塩化ビニリデンに由来する構造単位と前記反応性比r1が0.7未満である前記共重合モノマーに由来する構造単位と前記反応性比r1が0.7以上である前記共重合モノマーに由来する構造単位との合計質量を100質量%としたときに、1質量%以上である、請求項又はに記載の塩化ビニリデンポリマーの水分散体。
【請求項8】
前記カルボキシル基を有するモノマーが、アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸又はメタクリル酸である、請求項のいずれか一項に記載の塩化ビニリデンポリマーの水分散体。
【請求項9】
前記反応性比r1が0.7未満である共重合モノマーに由来する構造単位の質量割合が、前記塩化ビニリデンに由来する構造単位と反応性比r1が0.7未満である前記共重合モノマーに由来する構造単位と前記反応性比r1が0.7以上である共重合モノマーに由来する構造単位との合計質量を100質量%としたときに、5質量%以上20質量%以下である、請求項のいずれか一項に記載の塩化ビニリデンポリマーの水分散体。
【請求項10】
請求項1~のいずれか一項に記載の塩化ビニリデンポリマーの水分散体が塗布された層を有することを特徴とする、フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩素化ビニルポリマーの水分散体、及び該水分散体が塗布された層を有するフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
食品や医薬品の品質保持の為には、それを包装するフィルムが、大気中の酸素、窒素、二酸化炭素、水蒸気といった気体を十分遮断、密閉する必要がある。この点、種々の樹脂の中でも、塩素化ビニル系共重合体水分散体、特に塩化ビニリデン系共重合体水分散体樹脂から形成された層を有するフィルムは、水蒸気や酸素のバリア性に優れていることから、食品や医薬品包装用途に非常に適している。
【0003】
近年、下記理由から、包装フィルムは、より高いガスバリア性が求められている。
1)より長期間にわたる医薬品及び食品材料品質の保持、薬効の保持;
2)高齢化に伴う、包装製品の内包物の押出し性向上需要に対応した薄膜化;
3)生産性向上の為の薄膜化。
バリア性を有するフィルムを構成する塩化ビニリデン系共重合体水分散体としては、特許文献1~5に記載のものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2013/125699号
【文献】特表2001-526315号公報
【文献】特開平05-202107号公報
【文献】特開2018-127523号公報
【文献】特開昭60-192768号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1~5に記載される塩素化ビニル共重合体は、フィルムとして保管している間に経時で黄変する、つまりは外観が次第に悪くなるという問題がある。
特に、特許文献4及び5に記載される塩素化ビニル共重合体では、特許文献1~3に記載されているものと比べてバリア性が高い反面、黄変の点で更なる改良の余地があった。これは、バリア性を高くするコモノマーには黄変性を高くする性質があり、バリア性と耐黄変性にはトレードオフの関係があるためである。
【0006】
そこで、本発明の目的は、塗工後のフィルムにおいて、高い水蒸気バリア性を保ちながら、黄変を抑制することができる、塩素化ビニルポリマーの水分散体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記のような問題点を解決するために鋭意研究を重ねた結果、ヨウ化カリウム水溶液を滴下した際に一定以上の変色を示すよう設計した塩素化ビニルポリマーの水分散体とすることで、それを塗布したフィルムは高い水蒸気バリア性を保ったまま優れた耐黄変性を示すことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1]塩化ビニリデンポリマーの水分散体であり、前記塩化ビニリデンポリマーの水分散体は酸素系漂白剤を含み、前記塩化ビニリデンポリマーの水分散体35gに純水75gと1mol/Lの塩酸10mLとを加えて20℃で5分間、300rpmで攪拌した混合物の色を基準色として、前記塩化ビニリデンポリマーの水分散体35gに純水65gと1mol/Lの塩酸10mLと10w/V%のヨウ化カリウム水溶液10mLとを加えて20℃で5分間、300rpmで攪拌した混合物の色差を測定したときに、ΔE*abが15以上1000以下であることを特徴とする、塩化ビニリデンポリマーの水分散体。
[2]前塩化ビニリデンポリマーの総質量を100質量%としたときに、塩化ビニリデンに由来する構造単位の質量割合が70質量%以上である、[1]に記載の塩化ビニリデンポリマーの水分散体。
]20℃、50%RH環境下でマイクロ波式の固形分計を用いて求めた固形分が10質量%以上である、[1]または[2]に記載の塩化ビニリデンポリマーの水分散体。
塩化ビニリデンに由来する構造単位、及び塩化ビニリデンに対する反応性比r1が0.7未満である共重合モノマーに由来する構造単位を含み、前記反応性比r1が0.7未満である前記共重合モノマーに由来する構造単位の質量割合が、前記塩化ビニリデンに由来する構造単位と前記反応性比r1が0.7未満である前記共重合モノマーに由来する構造単位と前記反応性比r1が0.7以上である共重合モノマーに由来する構造単位との合計質量を100質量%としたときに、1質量%以上である、[1]~[]のいずれかに記載の塩化ビニリデンポリマーの水分散体。
]前記反応性比r1が0.7未満である共重合モノマーが、ニトリル基を有するモノマー、カルボキシル基を有するモノマー及びメタクリル酸メチルからなる群から選ばれる少なくとも一種である、[]に記載の塩化ビニリデンポリマーの水分散体。
]前記ニトリル基を有するモノマーがメタアクリロニトリルである、[]に記載の塩化ビニリデンポリマーの水分散体。
]前記ニトリル基を有するモノマーに由来する構造単位の質量割合が、前記塩化ビニリデンに由来する構造単位と前記反応性比r1が0.7未満である前記共重合モノマーに由来する構造単位と前記反応性比r1が0.7以上である前記共重合モノマーに由来する構造単位との合計質量を100質量%としたときに、1質量%以上である、[]又は[]に記載の塩化ビニリデンポリマーの水分散体。
]前記カルボキシル基を有するモノマーが、アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸又はメタクリル酸である、[]~[]のいずれかに記載の塩化ビニリデンポリマーの水分散体。
]前記反応性比r1が0.7未満である共重合モノマーに由来する構造単位の質量割合が、前記塩化ビニリデンに由来する構造単位と反応性比r1が0.7未満である前記共重合モノマーに由来する構造単位と前記反応性比r1が0.7以上である共重合モノマーに由来する構造単位との合計質量を100質量%としたときに、5質量%以上20質量%以下である、[]~[]のいずれかに記載の塩化ビニリデンポリマーの水分散体。
10][1]~[]のいずれかに記載の塩化ビニリデンポリマーの水分散体が塗布された層を有することを特徴とする、フィルム。
【発明の効果】
【0009】
本発明の塩素化ポリマーの水分散体によれば、塗工後のフィルムが、高い水蒸気バリア性を保ちながら、耐黄変性に優れるという効果を有する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について、詳細に説明する。以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。本発明はその要旨の範囲内で適宜に変形して実施できる。
【0011】
[塩素化ビニルポリマーの水分散体]
本実施形態の塩素化ビニルポリマーの水分散体(以下、単に「水分散体」ともいう。)は、塩素化ビニルポリマーの水分散体35gに純水75gと1mol/Lの塩酸10mLとを加えて20℃で5分間、300rpmで攪拌した混合物の色を基準色として、前記塩素化ビニルポリマーの水分散体35gに純水65gと1mol/Lの塩酸10mLと10w/V%のヨウ化カリウム水溶液10mLとを加えて20℃で5分間、300rpmで攪拌した混合物の色差を測定したときに、ΔE*abが1.0以上であることを特徴とする。
【0012】
本実施形態の塩素化ビニルポリマーの水分散体において、上記ΔE*abは、1.0以上であり、好ましくは6.0以上であり、特に好ましくは15以上である。また、1000以下であることが好ましく、より好ましくは500以下、更に好ましくは200以下である。ΔE*abが上記範囲であると、塗工後のフィルムにおいて、高い水蒸気バリア性を保ちながら、黄変を良好に抑制することができる。特に、ΔE*abが1000以下であると、塗工後のフィルムに残留した開始剤が外部(例えば、食品包装用途や医薬品包装用途でフィルムを使用する場合における食品や医薬品)に移行してしまうリスクを抑えることができる。
ΔE*abを上記範囲に制御する方法としては、例えば、後述する酸化剤を、好ましくは塩素化ビニルポリマーの重合終了後に水分散体に添加する方法等が挙げられる。水分散体中の酸化剤の含有量が多いほど、ΔE*abの値は大きくなる。
【0013】
<ΔE*abの測定方法>
上記ΔE*abは、具体的には、以下のようにして測定することができる。
(サンプル調製)
測定に用いる試薬は全て20℃に温調する。水分散体35gに純水65gを加えて希釈した水分散体100mLを、250mLのPP製試薬瓶に取る。そこに10w/V%のヨウ化カリウム水溶液10mLと1mol/Lの塩酸10mLとを滴下して蓋を締め、25mm×φ8mmの攪拌子を用いて300rpmで5分間攪拌する。得られた水分散体をΔE*abの測定用サンプルとする。
基準色には、ヨウ化カリウム水溶液の代わりに10mLの純水を加えて同様の操作を行ったサンプルの測定結果を用いる。
(変色測定)
コニカミノルタ製の色差計CM-5を用いて変色測定を行う。CM-5オプションの30mmφのシャーレに、上記サンプル10mLを測り取り、下記測定条件にてCM-5の測定法の一つであるシャーレ測定を行う。測定を3回行い、その平均値を各サンプルのΔE*abとする。
〈測定条件〉
表色系:L*a*b*
インデックス:YI ASTM E313-96
視野;10°
主光源:D65
第二光源:なし
なお、ヨウ化カリウム水溶液の添加後は、空気中の酸素によりヨウ化カリウムが酸化されてヨウ素が生成することがあるため、規定の5分間の攪拌を行った後は可能な限り速やかに、遅くとも5分以内に変色測定を行う。
【0014】
(塩素化ビニルポリマー)
上記塩素化ビニルポリマーは、少なくとも塩素化ビニルモノマーに由来する構造単位を含み、更に、塩素化ビニルモノマーと共重合可能なモノマーに由来する構造単位を含んでいてもよい。
なお、本明細書において、上記塩素化ビニルモノマーと共重合可能なモノマーを「共重合モノマー」と称する場合がある。上記共重合モノマーとしては、例えば、塩化ビニリデンに対する反応性比r1が0.7未満である共重合モノマー(「反応性比r1が0.7未満の共重合モノマー」と称する場合がある)、塩化ビニリデンに対する反応性比r1が0.7以上である共重合モノマー(「反応性比r1が0.7以上の共重合モノマー」と称する場合がある)等が挙げられ、好ましくは塩化ビニリデンに対する反応性比r1が0.7未満である共重合モノマーに由来する構造単位である。
【0015】
上記塩素化ビニルモノマーは、塩素を含有するモノマーの総称であり、好ましくは塩化ビニル、塩化ビニリデンであり、特に好ましくは塩化ビニリデン(以下、VDCとも示す)である。
上記塩素化ビニルモノマーは、1種を単独で用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0016】
塩素化ビニルモノマーと共重合可能なモノマーとしては、例えば、無水マレイン酸;イタコン酸;アクリル酸メチル(以下、MAとも示す)、メタクリル酸メチル(以下、MMAとも示す)、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、n-ブチルアクリレート、n-ブチルメタクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、メタクリル酸グリシジル、アクリル酸グリシジル、アクリロニトリル(以下、ANとも示す)、メタクリロニトリル(以下、MANとも示す)、アクリル酸(以下、AAとも示す)、メタクリル酸(以下、MAAとも示す)、アクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド等の(メタ)アクリルモノマー;2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸(AMPS)またはその塩(ナトリウム塩など);2-スルホエチルメタクリル酸(2-SEM)またはその塩(ナトリウム塩など);メタクリレート末端ポリプロピレングリコールのホスフェートエステルまたはその塩(ナトリウム塩など)等が挙げられるが、これらに限定されず、塩素化ビニルモノマーと共重合可能な任意のモノマーとしてよい。
上記塩素化ビニルモノマーと共重合可能なモノマーは、1種を単独で用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0017】
上記塩素化ビニルモノマーに由来する構造単位の質量割合としては、塩素化ビニルポリマーの総質量を100質量%としたときに、70質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、さらに好ましくは85質量%以上、よりさらに好ましくは87質量%以上である。また、上記質量割合は、99質量%以下であることが好ましく、より好ましくは95質量%以下、さらに好ましくは93質量%以下、よりさらに好ましくは92質量%以下である。
上記範囲内に塩素化ビニルモノマーに由来する構造単位の質量割合を設定することで、本実施形態の塩素化ビニルポリマー(共重合体)の水分散体から形成される層を有するフィルムが、内包物の品質を十分に保持するバリア性を発現することが可能になる。
【0018】
上記塩素化ビニルモノマーと共重合可能なモノマーに由来する構造単位の質量割合としては、塩素化ビニルポリマーの総質量を100質量%としたときに、30質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましく、さらに好ましくは15質量%以下、よりさらに好ましくは13質量%以下である。また、上記質量割合は、1質量%以上であることが好ましく、より好ましくは5質量%以上、さらに好ましくは7質量%以上、よりさらに好ましくは8質量%以上である。
塩素化ビニルモノマーと共重合可能なモノマーに由来する構造単位の質量割合が上記範囲であると、バリア性と成膜性のバランスが取れた塩素化ビニルポリマーの水分散体となる傾向にある。
【0019】
上述のとおり、塩素化ビニルポリマーは、任意選択で、塩化ビニリデンに対する反応性比r1が0.7未満の共重合モノマーに由来する構造単位を含んでいてもよい。
反応性比r1が0.7未満の上記共重合モノマーに由来する構造単位の質量割合としては、上記塩素化ビニルモノマーに由来する構造単位と反応性比r1が0.7未満の上記共重合モノマーに由来する構造単位と反応性比r1が0.7以上の上記共重合モノマーに由来する構造単位との合計質量を100質量%としたときに、20質量%以下であることが好ましく、より好ましくは15質量%以下、さらに好ましくは13質量%以下である。また、上記質量割合は1質量%以上であることが好ましく、より好ましくは5質量%以上、特に好ましくは7質量%以上である。
【0020】
また、上記塩素化ビニルポリマーの総質量100質量%中の、上記塩素化ビニルモノマーに由来する構造単位及び反応性比r1が0.7未満の上記共重合モノマーに由来する構造単位の合計質量の割合は、85質量%以上であることが好ましく、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上、特に好ましくは100質量%である。
【0021】
上述のとおり、塩素化ビニルポリマーは、任意選択で、塩化ビニリデンに対する反応性比r1が0.7以上の共重合モノマーに由来する構造単位を含んでいてもよい。
上記塩化ビニリデンに対する反応性比r1が0.7以上の共重合モノマーに由来する構造単位の質量割合としては、上記塩素化ビニルモノマーに由来する構造単位と反応性比r1が0.7未満の上記共重合モノマーに由来する構造単位と反応性比r1が0.7以上の上記共重合モノマーに由来する構造単位との合計質量を100質量%としたときに、5質量%以下であることが好ましく、より好ましくは3質量%以下である。
【0022】
上記塩素化ビニルポリマーは、上記の各構造単位の質量割合が上記範囲であると、本実施形態の塩素化ビニルポリマーの水分散体から形成される層を有するフィルムが、内包物の品質を十分に保持するバリア性を発現することが可能となる。
【0023】
塩化ビニリデンに対する反応性比r1は、塩化ビニリデンをモノマー1(M1)、コモノマーをモノマー2(M2)とした際に、M1のラジカルがM1と反応する反応の速度定数をk11、M1のラジカルがM2と反応する反応の速度定数をk12とし、r1=k11/k12で求められる一般的なモノマー反応性比r1である。上記反応性比r1としては、Polymer Handbook Forth Edition(ISBN:0-471-48171-8)に記載されている値を用いてよい。ただし、複数の値が記載されている場合は、最も低い値を用いるものとする。
【0024】
例として、いくつかのモノマーの塩化ビニリデンに対する反応性比r1を示す。
アクリル酸ブチル:0.84
アクリル酸エチル:0.58
アクリル酸メチル:0.7
アクリル酸:0.29
アクリロニトリル:0.28
メタクリル酸メチル:0.02
メタクリル酸:0.15
メタクリロニトリル:0.036
塩化ビニル:1.8
【0025】
塩化ビニリデンに対する反応性比r1が0.7未満である共重合モノマーとしては、公知のものが使用可能であり、好ましくはメタクリル酸メチル、ニトリル基を有するモノマー、及びカルボキシル基を有するモノマーである。
上記反応性比r1が0.7未満である共重合モノマーは、1種を単独で用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよく、ニトリル基を有するモノマーを含むことがより好ましい。
【0026】
上記ニトリル基を有するモノマーは、好ましくはアクリロニトリル、メタアクリロニトリルであり、特に好ましくはメタアクリロニトリルである。
ニトリル基を有するモノマーに由来する構造単位の質量割合としては、上記塩素化ビニルモノマーに由来する構造単位と反応性比r1が0.7未満の上記共重合モノマーに由来する構造単位と反応性比r1が0.7以上の上記共重合モノマーに由来する構造単位との合計質量を100質量%としたときに、1質量%以上であることが好ましく、より好ましくは3質量%以上、さらに好ましくは5質量%以上である。また、上記質量割合は、15質量%以下であることが好ましく、より好ましくは13質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下である。ニトリル基を有するモノマーに由来する構造単位の質量割合が上記範囲であると、塩素化ビニルポリマーの水分散体から作製されたフィルムが高い水蒸気バリア性を示す傾向にある。
【0027】
上記カルボキシル基を有するモノマーは、好ましくはアクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、メタクリル酸であり、より好ましくはアクリル酸、メタクリル酸である。
【0028】
塩化ビニリデンに対する反応性比r1が0.7以上のモノマーは、公知のものが使用可能であり、好ましくは塩化ビニル、アクリル酸メチル、アクリル酸ブチルである。
【0029】
これらのモノマーを共重合させることにより、上記塩素化ビニルポリマーの水分散体から作製されたフィルムは高い水蒸気バリア性を有する。
【0030】
なお、塩素化ビニルポリマーのモノマー組成は、下記の方法により採取したサンプルを、テトラヒドロフラン-d8に溶解させ、NMR測定を行うことで評価することができる。
【0031】
1)塩素化ビニルポリマーの水分散体を入手可能な場合は以下の方法を用いる。
塩素化ビニルポリマーの水分散体10mLを凍結乾燥し、凍結乾燥品を0.5g採取する。採取した凍結乾燥品を99.9質量%以上の純度のテトラヒドロフラン10mLに溶解させた溶液に、アセトンを40mL滴下する。生じた沈殿物をろ過し、ろ過して残った不溶分を採取する。
採取した不溶分を測定サンプルとする。
2)塩素化ビニルポリマーの水分散体を入手できず、水分散体が塗布されたフィルムのみ入手可能な場合は以下の方法を用いる。
塩素化ビニルポリマーが塗布されたフィルムより塩素化ビニルポリマーを分離し、0.5g採取し、99.9質量%以上の純度のテトラヒドロフラン10mLに完全に溶解させる。室温で溶解しない場合には、60℃以下に加熱して完全に溶解させる。溶液にアセトン40mL滴下し生じた沈殿物をろ過し、ろ過して残った不溶分を採取する。採取した不溶分を測定サンプルとする。
1)、2)において凍結乾燥品がテトラヒドロフランに溶けにくい場合は、テトラヒドロフランが沸騰しない範囲で加熱、攪拌してよい。
【0032】
塩素化ビニルポリマーがコートされたフィルムより塩素化ビニルポリマーを分離する手法としては下記の(A)~(C)の方法が可能な場合はこれらを用いる。(A)が可能な場合は(A)を用い、(A)が困難であり(B)が可能な場合は(B)を用い、(A)及び(B)が困難であり(C)が可能な場合は(C)を用いる。(A)~(C)のいずれも困難であり、その他に分離可能な手段がある場合はそれを用いてもよい。その場合、分離物中の塩素化ビニルポリマー以外の不純物の含有量は可能な限り少なくなるよう洗浄、乾燥することが好ましい。上記不純物の質量割合は、好ましくは測定試料中0.5質量%以下である。乾燥処理の条件として温度60℃以下、処理時間は10時間以下とする。ここで、不純物とは、混入したプライマーや溶剤等の塗工前の塩素化ビニルポリマーの水分散体に含まれない成分を指し、水分散体に初めから添加されている乳化剤等の添加剤は含まない。分離物中の乳化剤量は、下記の手順で測定することができる。i)乾燥させた分離物の質量をW1とする。ii)分離物を質量の50倍以上の大量の純水で洗浄する。この時、ポリマーも一緒に流れ出ないように注意する。iii)洗浄した分離物を乾燥させ質量をW2とする。iv)乳化剤の質量をW1-W2より求める。
(A)ピンセット等で物理的に剥離するか、削り出す。
(B)塩素化ビニルポリマーは溶解せず、プライマーを溶解させる溶剤を用いることで化学的に分離する。好ましくはアセトンである。
(C)塩素化ビニルポリマーが溶解し、基材のフィルムが溶解しない溶剤を用いて塩素化ビニルポリマーを溶出、乾燥させて分離させる。
(B)、(C)の方法により溶剤を用いて分離した場合は、塩素化ビニルポリマーが分解しない範囲で乾燥炉等を用いて乾燥させ、分離物中に占める溶剤の重量が0.5質量%以下であることを確認した後で測定を行う。乾燥条件は温度50℃以下、乾燥時間は10時間以下とし、必要な場合減圧下で行う。
【0033】
NMRの測定条件は下記のとおりである。
装置:JEOL RESONANCE ECS400(1H)、Bruker Biospin Avance600(13C)
観測核:1H(399.78MHz)、13C(150.91MHz)
パルスプログラム:Single pulse(1H)、zgig30(13C)
積算回数:256回(1H)、10000回(13C)
ロック溶媒:THF-d8
化学シフト基準:THF(1H:180ppm、13C:67.38ppm)
得られたNMRスペクトルを用いて、モノマーの帰属を行い、ピークを積分することでポリマー中の組成を同定する。
【0034】
例として、塩化ビニリデン、メタクリロニトリル、メタクリル酸メチル、アクリル酸、に由来する構造単位を含有するポリマーの場合、13C-NMRのスペクトルにおいて80~90ppmを積分することで塩化ビニリデンに由来する構造単位、110~130ppmを積分することでメタクリロニトリルに由来する構造単位、170~180ppmを積分することでメタクリル酸メチルに由来する構造単位、180~200ppmを積分することでアクリル酸に由来する構造単位の含有量を求め、全体に占める各モノマーの構成比を算出する。
【0035】
上記の構成比の算出では、メタクリル酸メチルの量を求めるためにCOOCH基(下記式中のa)のピークを積分している。同じくCOOCH基を持つモノマーで塩化ビニリデンとよく共重合されるものとしてアクリル酸メチルがある。両者を区別する際は、HNMRのスペクトルにおいて、COOCH基が結合している主鎖の炭素に結合しているメチル基(下記式中のb)のピークの有無で判断する。このメチル基は結合している主鎖の炭素が水素と結合していないため分裂しておらず、ピーク位置は2ppm程度である。メタクリル酸メチル以外にメチル基を有するモノマー、例えばメタクリロニトリルが入っていた場合は、2ppm付近のメチル基のピークの本数が複数になっていることから判断できる。
【化1】
【0036】
また、アクリロニトリルとメタクリロニトリルの区別も同様にメチル基(上記式中のb)のピークの有無で判断する。
【0037】
必要に応じて上記の不溶分に対して二次元NMR測定、赤外分光法等を追加で測定し、モノマーの帰属を行う。また、組成が既知の共重合体を重合して同様の手法で測定を行い、比較を行ってもよい。
【0038】
本実施形態の塩素化ビニルポリマーの水分散体は、任意の酸化剤を含むことが好ましい。より好ましくは公知に漂白剤として用いられている酸化剤であり、更に好ましくは公知に酸素系漂白剤として用いられている酸化剤である。
これらの酸化剤は、1種を単独で用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0039】
酸素系漂白剤としては、特に限定されないが、好ましくはオゾン、過硫酸塩(過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等)、過炭酸塩(過炭酸ナトリウム、過炭酸カリウム、過炭酸アンモニウム等)、過酢酸、過酸化物(過酸化水素等)であり、特に好ましくは過酸化水素である。
【0040】
その他の漂白剤としては、塩素系漂白剤が挙げられ、特に限定されないが、好ましくは次亜塩素酸及び次亜塩素酸塩(次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カルシウム、次亜塩素酸カリウム等)である。塩素系漂白剤を用いる場合は、有害な塩素が発生する可能性があるため、水分散体を塩基性にすることが好ましく、特に好ましくは塩基性で緩衝能を持つようにする。
【0041】
一般に漂白剤として用いられているものは、黄変を抑制する効果が強く、好ましい。塩素系漂白剤は、酸性条件下で人体に有害な塩素ガスを発生させるため、水分散体のpHに制限が付いてしまう。一方、酸素系漂白剤は、任意のpH、特に黄変の原因となる脱塩酸反応の起きやすい低pHに設計できるため、より好ましい。酸素系漂白剤の中でも、酸素と水に分解し、臭気などの原因になり得る不純物を発生させない過酸化水素が最も好ましい。
【0042】
酸化剤の含有量は、塩素化ビニルポリマーの総質量を100質量%としたときに、好ましくは0.001質量%以上であり、より好ましく0.01質量%以上であり、更に好ましくは0.05質量%以上である。酸化剤量が増えるに伴い、フィルムの耐変色性が向上する。また、5質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることがより好ましい。この範囲内に設定することで、本実施形態の水分散体から形成される層を有するフィルムから内容物へ酸化剤が移行することを防ぐことができる。
【0043】
上記酸化剤を添加することにより、酸化剤が黄変の原因となる塩素化ビニルポリマーの分解により生じた二重結合を酸化し、着色を抑制する。驚くべきことに、塩素化ビニルポリマーの水分散体に添加した酸化剤による二重結合の分解は非常に緩やかであり、実使用上都合の良いことに、フィルムに加工した後も長期間にわたって黄変を抑制する。
なお、塩素化ビニルポリマーは主鎖骨格において分解しやすいところから優先的に分解する。分解しやすいところとは、例えば、バリア性を高めるコモノマーに由来する構造単位に隣接する塩素化ビニルモノマーに由来する構造単位である。酸化剤を添加すると、このような着色の原因になりやすい構造単位から優先して酸化されていき、また不可逆反応であるため、それ以降その構造単位は分解することがない。従って、酸化剤が消費され尽くした後も、本実施形態の塩素化ビニルポリマーは黄変が抑制される。
また、上記酸化剤を添加することにより黄変を抑制した塩素化ビニルポリマーは、驚くべきことに、酸化剤を添加しなかった塩素化ビニルポリマーとバリア性が同等である。これは、高いバリア性が求められる食品包装用途や医薬品包装用途において極めて都合が良い。
酸化剤の添加により黄変を抑制する利点として、他にも、既存の塩素化ビニルポリマーの水分散体に酸化剤を添加するだけで良いことが挙げられる。特許文献4では黄変を抑制するためにモノマー組成の最適化を行っているが、本実施形態の塩素化ビニルポリマーでは、酸化剤の添加により塩素化ビニルポリマーの水分散体の設計を変えることなく黄変を改良することができる。この性質は、通常長期の保存安定性の試験が必要となる塩素化ビニルポリマーの水分散体の開発において都合が良い。
【0044】
塩素化ビニルポリマーの水分散体が酸化剤を含む場合、上述のΔE*abの測定において、ヨウ化カリウムが酸化剤により酸化されてヨウ素が生成する。ヨウ素は褐色を示すため、水分散体に変色が見られる。水分散体が塗工後のフィルムの黄変を抑制するのに十分な酸化剤を含む場合、ΔE*abは1.0以上となる。
【0045】
塩素化ビニルポリマーの水分散体に含まれる酸化剤の量は、以下の酸化還元滴定により測定することができる。
<酸化剤の定量:酸化還元滴定>
測定に用いる試薬は全て20℃に温調する。水分散体35gに純水65gを加えて希釈した水分散体100mLを、250mLのPP製試薬瓶に取る。そこに10w/V%のヨウ化カリウム水溶液10mLと1mol/Lの塩酸10mLとを滴下し蓋を締め、25mm×φ8mmの攪拌子で300rpmで5分間攪拌する。得られた水分散体に、30秒に1回0.1mol/Lのチオ硫酸ナトリウム溶液を滴下していき、褐色がなくなった点を終点とする。終点までに要したチオ硫酸ナトリウム溶液の量を記録する。何度か測定を行い、滴下が10~15回で終了するように、1回当たりのチオ硫酸ナトリウム溶液の量を調節する。調整後、測定を3回以上行い、標準偏差が滴定値の20%以内に収まっていることを確認して、平均値を結果とする。
【0046】
水分散体の固形分1%あたりのチオ硫酸ナトリウム溶液の滴下量は、固形分1%あたりの酸化剤の物質量に比例し、酸化剤量の指標とできる。
固形分1%あたりのチオ硫酸ナトリウム溶液の滴下量は、滴定に要したチオ硫酸ナトリウム水溶液の量を固形分で割ることにより算出する。例えば、固形分10%の水分散体の滴下量が10mLであった場合、固形分1%あたりのチオ硫酸ナトリウム溶液の滴下量は1mLである。
固形分1%あたりのチオ硫酸ナトリウム溶液の滴下量は、好ましくは0.001mL以上であり、より好ましくは0.01mL以上であり、更に好ましくは0.1mL以上である。この範囲内であれば、変色を抑制するのに十分な量の酸化剤が成膜後にも残留する。
【0047】
水分散体に含まれる酸化剤の種類を特定する方法としては、遠心分離により水相を分離した後、高速液体クロマトグラフィーで水相を分析する方法が挙げられる。
【0048】
酸化剤は、任意のタイミングで水分散体に添加してよいが、好ましくは塩素化ビニルポリマーの重合終了以降であり、特に好ましくは塗工の直前である。可能な限り酸化剤の添加から塗工までの時間を短くすることにより、酸化剤が水溶液中で失活することを抑えられ、フィルムにした後の黄変を抑制する効果を上げることができる。
塩素化ビニルポリマーの重合中に酸化剤を添加することも可能ではあるが、添加された還元剤に還元されたり、加熱により分解したりして失活するため、最大限の効果は得られない。特許文献1~5に記載のように、重合において開始剤として過酸化物や過硫酸塩を添加することは一般的である。しかしながら、重合中は酸化剤の分解が起きやすく、開始剤として添加された酸化剤は消費されつくしてしまうため、特許文献1~5に記載の水分散体では、上述のようにヨウ化カリウム水溶液を滴下した際に着色が生じない。
【0049】
本実施形態の塩素化ビニルポリマーの水分散体には、酸化剤の安定剤を添加してもよい。
酸化剤の安定剤の例としては、ケイ酸塩、EDTAやDTPA等の石油化学系キレート剤、縮合リン酸塩などの合成系キレート剤、フィチン酸やフィチン酸塩等が挙げられる。本実施形態の水分散体においては、酸化剤がフィルム塗布後にも残留していることが重要である。水分散体の状態で酸化剤が失活してしまうと、黄変抑制効果が減少してしまうが、これらの安定剤を添加することにより水分散体の状態で酸化剤が安定化され、フィルム塗布後の黄変抑制効果が向上する。また、保管期間のばらつきなどに起因するフィルム塗布後の変色速度のばらつきを減少させることもでき、実用上都合が良い。
【0050】
また、本実施形態の塩素化ビニルポリマーの水分散体は、必要に応じて、一般的に使用されている種々の添加剤、例えば、消泡剤、レオロジー調整剤、増粘剤、分散剤、及び、界面活性剤等の安定化剤、湿潤剤、可塑剤、着色剤、シリコーンオイル、光安定剤、紫外線吸収剤、シランカップリング剤、無機フィラー、着色顔料、体質顔料等を含んでいてもよい。
また、本実施形態の塩素化ビニルポリマーの水分散体の溶媒は、水のみであってもよいし、水と他の溶媒(例えば、アルコール類やアセトン等)を含んでいてもよい。他の溶媒を含む場合、水100質量部に対して10質量部以下であることが好ましい。
【0051】
本実施形態の塩素化ビニルポリマーの水分散体のpHは、塩基を用いて調整されてよい。
pHが低いほど塗工後のフィルムの黄変度は低くなり、好ましい。これは、水分散体が酸化剤を含む場合、pHが高いほど酸化剤が分解しやすく、塗工されるまでに消費されてしまいやすいためであり、また、pHが高いほど塩素化ビニルモノマーに由来する構造単位が分解して二重結合を生成しやすいためでもある。
水分散体のpHは、好ましくは4.0以下であり、特に好ましくは3.0以下、更に好ましくは2.5以下である。ただし、塩素系漂白剤を用いる場合は、酸性条件下で有毒な塩素ガスが生成してしまうため、好ましいpHの範囲は6.0以上である。
上記のように、pHが高いほど塩素化ビニルモノマーに由来する構造単位が分解して二重結合を生成しやすいため、酸化剤の添加の有無に寄らずpHが高いほど黄変しやすくなる。しかしながら、高いpHは水分散体の凝集安定性を向上させる効果に加え、塗工機に用いられている金属の酸による腐食を抑制する効果があるため、用途によっては高いpHに調整することが好まれる。
pHの調整に用いられる塩基としては、任意の塩基が利用可能であり、例えば、アンモニア、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどの水酸化塩、ピロリン酸4ナトリウムやリン酸3ナトリウムなどのリン酸塩等が挙げられる。好ましくはリン酸塩である。リン酸塩は酸化剤の分解を抑制する作用もあるため好ましい。
【0052】
本実施形態の塩素化ビニルポリマーの水分散体の固形分は、10質量%以上であることが好ましく、より好ましくは40質量%以上であり、更に好ましくは50質量%以上である。また、80質量%以下であることが好ましく、より好ましくは70質量%以下、さらに好ましくは63質量%以下である。
固形分が高いほど塗工1回当たりの塗布量が増加し、塗工1回当たりのバリア性が高くなる。固形分が10質量%未満では濃度不足により安定的に塗工をすることが難しい。加えて、塗工1回当たりの塗布量が増えることで、目標の膜厚を得るまでに必要な塗工回数が削減される。これにより、フィルムが乾燥時の熱に晒される時間が短くなり、ハロゲン化ビニル共重合体の変色が抑制される。更に、熱による酸化剤の分解も抑制されるため、酸化剤によるフィルムの変色抑制効果が作用しやすい。
なお、本実施形態の水分散体中の固形分とは、水分散体中に含まれる全ての固形成分の総質量の割合を指し、塩素化ビニルポリマーのみであってもよいし、他の樹脂成分、上記の添加剤を含んでいてもよい。他の樹脂成分としては、後述のシードラテックス、塩素化ビニルポリマー粒子を被覆するポリマー等が挙げられる。
固形分に塩素化ビニルポリマー以外の成分の質量割合を含む場合、塩素化ビニルポリマー以外の成分の質量割合は、水分散体を100質量%として7質量%以下であることが好ましい。
【0053】
固形分の測定は、下記の方法により行うことができる。
<固形分の測定>
CEM製の固形分計SMART SYSTEM5に2.5gの水分散体を測り取り、20℃、50%RH環境下で測定を行う。3回測定した結果を平均し、(乾燥質量/水分散体の質量)×100の式により固形分を求める。
【0054】
(水分散体の製造方法)
本実施形態の塩素化ビニルポリマーの水分散体は、モノマー混合物を乳化重合することによって製造することができる。特に限定されないが、乳化重合は、通常、30~70℃の温度で行われる。重合温度は、好ましくは40~60℃の範囲内である。重合温度を70℃以下にすることにより、重合中の原料の分解が抑えられるため、好ましい。重合温度を30℃以上にすることにより、重合速度を上げることができるので、重合の効率が良くなる。
【0055】
上記塩素化ビニルモノマーの乳化重合を行う際に、原料として、同一の重合機もしくは別の重合機で合成した異なるモノマー組成を有する原料モノマーにより合成した水分散体をシードラテックスとして添加してもよい。好ましくはアクリル系モノマーまたはメタクリル系モノマーを乳化重合させた水分散体であり、より好ましくはメタクリル酸メチルの単独重合体もしくは共重合体またはメタクリル酸グリシジルの共重合体の水分散体、更に好ましくはホモメタクリル酸メチル重合体の水分散体である。
シードラテックスの添加により重合速度が上がることに加え、製品の成膜ライフが向上する効果が期待できる。
シードラテックスの添加量は、好ましくは塩素化ビニルポリマー100質量部に対して10質量部以下である。
シードラテックスの添加は、塩素化ビニルモノマーの重合を開始する前が好ましいが、モノマーの連続添加と並行してシードラテックスを連続添加するなどしてもよい。
【0056】
上記塩素化ビニルポリマーの水分散体の乳化重合終了後、同一の重合機もしくは別の重合機において、異なるモノマー組成の原料モノマーを水分散体に添加する形で追加の重合を行ってもよい。これにより、新しく添加したモノマーが重合してできたポリマーが塩素化ビニルポリマー粒子を被覆する構造を形成することができ、成膜ライフの向上やフィルムの力学物性の改善が期待できる。
追加の重合により形成したポリマーは、塩素化ビニルポリマー100質量部に対して10質量部以下であることが好ましい。
【0057】
上記塩素化ビニルポリマーの水分散体の乳化重合に用いることができる界面活性剤として、例えば、アルキル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩、アルキルスルホン酸塩等の陰イオン性界面活性剤が挙げられる。
【0058】
重合開始剤として、例えば、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム等の過硫酸塩、過酸化水素、tーブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド等の過酸化物等が挙げられる。好ましくはtーブチルハイドロパーオキサイドである。
【0059】
重合活性剤として、例えば、亜硫酸水素ナトリウム、Dアラボアスコルビン酸ナトリウムのような開始剤のラジカル分解を加速する重合活性剤が添加されていることが好ましい。これらの重合活性剤は、重合開始剤の分解を促進するために添加されることが好ましい。しかし一方で、酸化剤の分解を促進するため、添加量は、重合開始剤をラジカル分解させるのに必要な範囲で少なければ少ないほど良い。
【0060】
これら重合添加剤は、特に限定されず、例えば本技術分野において従来から好ましく使用されている種類であってよい。
【0061】
本実施形態の塩素化ビニルポリマーの水分散体に含まれる塩素化ビニルポリマー粒子は、特に限定されないが、その平均粒径は10~1000nmであることが好ましい。平均粒径をこの範囲とすることで、水分散体の貯蔵安定性が良く、塗工性が向上する。
【0062】
本実施形態の塩素化ビニルポリマーの水分散体は結晶核剤を含むことが好ましい。上記結晶核剤とは、水分散体を成膜させたフィルムの結晶化を促進する添加剤であり、樹脂の結晶化を促進させる公知の結晶核剤が使用可能である。
そのような結晶核剤として、リン酸エステル金属塩、安息香酸金属塩、ピメリン酸金属塩、ロジン金属塩、ベンジリデンソルビトール、キナクリドン、シアニンブルー、シュウ酸金属塩、ステアリン酸金属塩、アイオノマー、高融点PET、カーボンブラック、金属酸化物、金属硫酸塩、カオリン、クレイ、高融点ポリアミド、上述の本実施形態の塩素化ビニルポリマーとは異なる組成を有する結晶性樹脂、シリカ、酸化チタン、ワックス、上述の本実施形態の塩素化ビニルポリマーとは異なる高結晶性の塩素化ビニルポリマー粒子等が挙げられ、一種又は二種以上を併用することも可能である。
好ましくはシリカ、酸化チタン、ワックス、高結晶性の塩素化ビニルポリマー粒子であり、特に好ましくはワックス、高結晶性の塩素化ビニルポリマー粒子である。
結晶核剤の含有量は、塩素化ビニルポリマー100質量部に対して、好ましくは20質量部以下、より好ましくは10質量部以下、更に好ましくは5質量部以下、より更に好ましくは2質量部以下である。また、結晶核剤の含有量は、好ましくは0.05質量部以上である。
なお、複数の結晶核剤が添加されている場合は合計量を用いる。
【0063】
「ワックス」の語は、本明細書において、いかなる天然又は合成ワックスを示すものと理解される。更に言うと、ハゼロウ、ウルシロウ、サトウキビロウ、パームロウ、カンデリラロウ、ホホバ油、ビーズワックス、鯨ロウ、イボタロウ、羊毛ロウ、FTワックス、パラフィンワックス、マイクロワックス、カルナバワックス、密ロウ、シナロウ、オゾケライト、ポリオレフィンワックス及びモンタンワックス、これらのエステル化物があるが、これらに限定されるものではない。
【0064】
上記高結晶性の塩素化ビニルポリマー粒子は、添加により塩素化ビニルポリマーの成膜後の結晶化速度が増加する塩素化ビニルポリマー粒子であり、DSCで測定した190℃以下の最大の融解ピーク温度が好ましくは160℃以上であり、特に好ましくは170℃以上である。
ここで、最大の融解ピーク温度は下記の融解ピークの測定法に従って測定し、180℃以下での最大のピーク温度を用いる。
また、高結晶性の塩素化ビニルポリマー粒子は、好ましくは塩化ビニリデン共重合体粒子であり、特に好ましくは塩化ビニリデン共重合体を100質量%としたときに、91質量%以上の塩化ビニリデンが共重合された塩化ビニリデン共重合体粒子である。
<融解ピークの測定法>
(i)塩素化ビニルポリマーの水分散体を入手可能な場合、以下の方法を用いる。
塩素化ビニルポリマーの水分散体をアルミ板上に乾燥塗布量が10g/mとなるようにメイヤーバーにて塗布し、100℃に保ったオーブン中で1分間乾燥する。乾燥させたフィルムを5分以内にピンセットで剥離し、塩素化ビニルポリマーの単独膜を採取する。上記の単独膜から5mgを採取し測定に用いる。
【0065】
(ii)塩素化ビニルポリマーの水分散体を入手できず、水分散体が塗布されたフィルムのみ入手可能な場合は以下の方法を用いる。
塩素化ビニルポリマーが塗布されたフィルムより塩素化ビニルポリマーを分離し、5mg採取し測定に用いる。
塩素化ビニルポリマーがコートされたフィルムより塩素化ビニルポリマーを分離する手法としては、下記の(A)~(C)の方法が可能な場合はこれらを用いる。(A)が可能な場合は(A)を用い、(A)が困難であり(B)が可能な場合は(B)を用い、(A)及び(B)が困難であり(C)が可能な場合は(C)を用いる。(A)~(C)のいずれも困難であり、その他に分離可能な手段がある場合はそれを用いてもよい。その場合、分離物中の塩素化ビニルポリマー以外の不純物の含有量は可能な限り少なくなるよう洗浄、乾燥することが好ましい。上記不純物の質量割合は、好ましくは測定試料中0.5質量%以下である。乾燥処理の条件は、温度60℃以下、処理時間は10時間以下とする。ここで、不純物とは、混入したプライマーや溶剤等の塗工前の塩素化ビニルポリマーの水分散体に含まれない成分を指し、水分散体に初めから添加されている乳化剤等の添加剤は含まない。分離物中の乳化剤量は、下記の手順で測定することができる。i)乾燥させた分離物の質量をW1とする。ii)分離物を質量の50倍以上の大量の純水で洗浄する。この時ポリマーも一緒に流れ出ないように注意する。iii)洗浄した分離物を乾燥させ質量をW2とする。iv)乳化剤の質量をW1-W2より求める。
(A)ピンセット等で物理的に剥離するか、削り出す。
(B)塩素化ビニルポリマーは溶解せず、プライマーを溶解させる溶剤を用いることで化学的に分離する。好ましくはアセトンである。
(C)塩素化ビニルポリマーが溶解し、基材のフィルムが溶解しない溶剤を用いて塩素化ビニルポリマーを溶出、乾燥させて分離させる。
(B)、(C)の方法により溶剤を用いて分離した場合は、塩素化ビニルポリマーが分解しない範囲で乾燥炉等を用いて乾燥させ、分離物中に占める溶剤の重量が0.5質量%以下であることを確認した後で測定を行う。乾燥条件は温度50℃以下、乾燥時間は10時間以下とし、必要な場合減圧下で行う。
【0066】
上記の手法で採取したサンプルをTAintsruments社製の示差走査熱量分析計Q-2000を用いて窒素雰囲気下で10℃/minで170℃まで加熱し、10℃/minで-40℃まで冷却する。次に、10℃/minで190℃まで加熱し、190℃までの測定データを取得する。取得した190℃までの測定データのうち、180℃以上では塩化ビニリデンの分解が始まるため、180℃以上のデータは用いず、2度目の加熱時の、-40℃から180℃までの測定値を用いて最大の融解ピーク温度を求める。
【0067】
この測定ではサンプルパンとしてアルミニウムのTzero PanとTzero hermetic Lid(TAinstruments社製)を用い、レファレンスとしてこのパンの空パンを用いる。すなわち、サンプル測定結果から、空パン測定結果を差し引いた値に基づいて、最大の融解ピーク温度を算出する。
【0068】
これらの結晶核剤を添加することにより、成膜後の結晶化の進行が促進され塗膜は高い水蒸気バリア性を発揮する。
【0069】
本実施形態の塩素化ビニルポリマーの水分散体は、ブリスターパッケージや食品包装等に用いるフィルムの塗布材料として使用することができる。
【0070】
[フィルム]
本実施形態のフィルムは、上述の本実施形態の塩素化ビニルポリマーの水分散体が塗布された層を有する。該層は、上述の塩素化ビニルポリマーを少なくとも含み、上述の塩素化ビニルポリマーのみからなる層であってもよい。
【0071】
本実施形態のフィルムは、フィルム基材上に本実施形態の塩素化ビニルポリマーの水分散体が塗布された層を有することが好ましい。上記フィルム基材には、特に制限は無いが、代表的なものとして、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、ポリアミド及びポリプロピレン製のフィルムが挙げられる。最も一般的にはポリ塩化ビニル製のフィルムが用いられる。上記フィルム基材の厚みは、使用する材質により違いがあるが、通常8~300μmであってよい。
【0072】
本実施形態のフィルムは、任意選択で、本実施形態の塩素化ビニルポリマーとは異なる化学的もしくは物理的特性を有する少なくとも1種類の塩素化ビニルポリマーの層を更に含んでいてもよい。例えば、本実施形態の塩素化ビニルポリマーの水分散体を塗布した層の上にブロッキング防止やフィルムの滑り性向上を目的として、組成の異なる塩素化ビニルポリマーの水分散体を塗布したフィルムが挙げられる。
また、別の例として、本実施形態の塩素化ビニルポリマーの層と、可塑性の高いコモノマー、例えば、アクリル酸メチルやアクリル酸ブチルを用いて共重合した塩素化ビニル共重合体の層とを交互に積層したフィルムが挙げられる。この構造を有するフィルムは、高い耐衝撃性が期待できる。
なお、このように複数種類の塩素化ビニルポリマーの層を有するフィルムの場合、塩素化ビニルポリマー層の厚みは、全ての層の厚みの総和とする。
【0073】
本実施形態のフィルムの最外面は、本実施形態の塩素化ビニルポリマーが塗布された層以外の層で構成されることが好ましい。このような層構成により、本実施形態のフィルムに酸化剤を含む場合、酸化剤が溶出して内容物と接触することを防ぐことができる。
【0074】
上記塩素化ビニルポリマーの水分散体が塗布された層の乾燥後の塗膜質量は、特に限定されないが、好ましくは、1g/mであり、より好ましくは10g/m以上であり、更に好ましくは40g/m以上である。乾燥後の塗膜質量を増加させることによりフィルム全体としてのバリア性を向上させることができる。
しかしながら、塩素化ビニルポリマーの層の厚みが大きいほど、単位体積当たりの塩素化ビニルポリマーの変色度が小さくともフィルム全体としては変色度が大きく見える。従って、厚みが大きいほど塩素化ビニルポリマーの変色を抑制する本実施形態の塩素化ビニルポリマーは効果を発揮する。
【0075】
また、本実施形態のフィルムには、任意選択で、塩素化ビニルポリマーの水分散体が塗布された層以外に、塩素化ビニル以外の重合活性に富むモノマーを主体として機能的に調整された共重合体の層を含んでよい。このような層として、例えば、フィルム基材上に水系樹脂エマルジョンやアクリル系ディスパージョンを用いてプライマーを形成し、その上に上述の本実施形態の塩素化ビニルポリマーの水分散体が塗布された層を設けてもよい。
【0076】
本実施形態の塩素化ビニルポリマーの水分散体は、上で例示したようなフィルム基材へ塗布され、ブリスターパッケージとして利用することが好ましい。得られたブリスターパッケージは、優れたバリア性(例えば、酸素バリア性、水蒸気バリア性)を示す。
【0077】
さらに、本実施形態のフィルムは、ブリスターパッケージへの適用以外に、そのままコーティング剤としてクリヤー皮膜を形成させるために使用することもできる。
【0078】
上記フィルム基材に、上述の本実施形態の塩素化ビニルポリマーの水分散体を塗布する方法としては、被塗物表面に対して、エアースプレー、エアーレス、ロールコーター、カーテンフローコート、ロールコート、ディップコート、スピンコート等の公知の方法を用いることができる。通常、フィルム基材への塗布後は、常温又は加熱下で所定時間保持して乾燥される。
【0079】
本実施形態の塩素化ビニルポリマーの水分散体が塗布された層を有するフィルムについて、水蒸気バリア性と保管によるフィルムの黄変度の変化ΔYIは、下記パラメータ(1)、(2)を用いて評価することができる。
【0080】
(1)水蒸気バリア性
38℃及び100%RHの条件下、MOCON社の水蒸気透過度測定装置PERMATRAN 3/33を用いて本実施形態の塩素化ビニルポリマーの水分散体が塗布された層を有するフィルムの水蒸気バリア性を評価することができる(単位:g/m・day@38℃、100%RH)。
ただし、測定開始後48hrから60hrの間の測定値の平均値を水蒸気透過度とする。
測定は4回行い平均値を用いる。
特に限定されないが、本実施形態の塩素化ビニルポリマーの水分散体が塗布された層を有するフィルムは、高いバリア性(例えば、水蒸気バリア性)が要求される用途に適用することができ、その水蒸気透過度の好ましい数値範囲は0.6g/m・day以下、より好ましくは0.5g/m・day以下であり、更に好ましくは0.4g/m・day以下である。
【0081】
(2)フィルムの黄変度測定
(黄変度測定用の塗工フィルムの作製)
コロナ放電処理を施した延伸ポリ塩化ビニルフィルム(厚み250μm)の上に、プライマーとしてBASF社製のEmulder381Aを、メイヤーロッドを用いて乾燥後塗膜質量が2g/mとなるように塗布し、熱風循環乾燥機中にて85℃、15秒の乾燥処理を行う。このフィルムの上に、塩素化ビニルポリマーの水分散体を、メイヤーロッドにより1回の乾燥後塗膜質量が10g/mとなるように塗布し、熱風循環乾燥機中にて85℃、15秒の乾燥処理を行い、乾燥後の塗膜質量が60g/mになるまで重ね塗りする。
(黄変度測定)
得られた塗工フィルムを5cm角に切り出し、3枚重ねて測定サンプルとし、コニカミノルタ製の色差計CM-5を用いて下記の測定条件で黄変度(YI値)を測定する。この時の値を保管前の黄変度とする。次に、測定サンプルを40℃のオーブンに入れ、30日保管した後、再び下記の測定条件で黄変度を測定する。この時の値を保管後の黄変度とする。それぞれ3回測定を行い、その平均値を黄変度とする。保管後の黄変度から保管前の黄変度を引いた値が保管による黄変度の変化ΔYIである。
〈測定条件〉
表色系:L*a*b*
インデックス:YI ASTM E313-96
視野;10°
主光源:D65
第二光源:なし
【0082】
40℃30日間の色調の変化は、常温(20℃)であれば1年程度の保管に相当する。上記ΔYIは、1.4以下が好ましく、より好ましくは0.5以下、更に好ましくは0以下である。0以下の場合、黄変が完全に抑えられていることを意味する。
【0083】
【実施例
【0084】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明する。
なお、実施例、参考例及び比較例中の「部」及び「%」は、それぞれ「質量部」及び「質量%」を示す。
【0085】
<水分散体の重合例>
[実施例1]
ガラスライニングを施した耐圧反応器中に、モノマーの合計質量100部に対し、純水57部、Dアラボアスコルビン酸ナトリウム0.03部、アルキルスルホン酸ナトリウム0.2部を仕込み、攪拌しながら脱気を行った後、大気圧まで窒素で加圧し、内容物の温度を45℃に保った。別の容器に質量組成比がVDC/MAN=91/9となる原料モノマー混合物を作製した。原料モノマー混合物の内20部を上記耐圧反応器中に一括添加し、内圧が降下するまで重合した。続いて、残りのモノマー混合物80部を連続的に定量して圧入した。
並行して、t-ブチルハイドロパーオキサイド0.014部を純水3.5部に溶解した開始剤、Dアラボアスコルビン酸ナトリウム0.015部を純水3.5部に溶解した還元剤、及びアルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム1.6部を純水2.5部に溶解した乳化剤を連続的に定量圧入した。この間内容物を攪拌しながら45℃に保ち、内圧が十分に降下するまで反応を進行させた。
重合収率は99.9%であった。重合収率は、ほぼ100%なので、共重合体の組成は原料仕込み比にほぼ等しい。かくして得られた水分散体に対して、水蒸気ストリッピングによって未反応モノマーを除去した。
この重合において、モノマー混合物80部を連続的に圧入し、全量投入するまでの時間は40時間であった。
得られた水分散体の固形分100部に対して過酸化水素の質量割合が0.1部となるように過酸化水素水を添加した。その後、ピロリン酸4ナトリウムの20℃飽和水溶液と純水を用いて水分散のpHが2.5に、固形分が60%になるように調整を行った。
【0086】
[比較例1]
特許文献4の実施例1と同様に塩化ビニリデン共重合体の水分散体を作製した。
ガラスライニングを施した耐圧反応器中に、モノマーの合計質量100部に対し、純水57部、Dアラボアスコルビン酸ナトリウム0.03部、アルキルスルホン酸ナトリウム0.2部を仕込み、攪拌しながら脱気を行った後、内容物の温度を45℃に保った。別の容器に質量組成比がVDC/MMA/AN=90.1/9.4/0.5となる原料モノマー混合物を作製した。原料モノマー混合物のうち20部を上記耐圧反応器中に一括添加し、内圧が降下するまで重合した。続いて、残りのモノマー混合物80部を連続的に定量して圧入した。
並行してt-ブチルハイドロパーオキサイド0.014部を純水3.5部に溶解した開始剤、Dアラボアスコルビン酸ナトリウム0.015部を純水3.5部に溶解した還元剤、及びアルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム1.6部を純水2.5部に溶解した乳化剤を連続的に定量圧入した。この間内容物を攪拌しながら45℃に保ち、内圧が十分に降下するまで反応を進行させた。
重合収率は99.9%であった。重合収率は、ほぼ100%なので、共重合体の組成は原料仕込み比にほぼ等しい。かくして得られた水分散体に対して、水蒸気ストリッピングによって未反応モノマーを除去した後、固形分を50~60%に調整した。
この重合において、モノマー混合物80部を連続的に圧入し、全量投入するまでの時間は21時間であった。
【0087】
[比較例2]
過酸化水素を添加しなかった以外は実施例1と同様に水分散体を作製した。
【0088】
[比較例3]
原料モノマー混合物の質量組成比をVDC/MA=91/9とし、過酸化水素を添加しなかった以外は実施例1と同様に水分散体を作製した。
【0089】
[比較例4]
原料モノマー混合物の質量組成比をVDC/AN=91/9とし、過酸化水素を添加しなかった以外は実施例1と同様に水分散体を作製した。
【0090】
[比較例5]
原料モノマー混合物の質量組成比をVDC/MMA=91/9とし、過酸化水素を添加しなかった以外は実施例1と同様に水分散体を作製した。
【0091】
[比較例6]
過酸化水素の代わりに、還元系漂白剤として知られる亜硫酸水素ナトリウムを、水分散体の固形分100部に対して0.1部添加したこと以外は実施例1と同様に水分散体を作製した。
【0092】
[比較例7]
pHを8.0に調整し、過酸化水素を添加しなかった以外は実施例1と同様に水分散体を作製した。
【0093】
[比較例8]
pHを4.0に調整し、過酸化水素を添加しなかった以外は実施例1と同様に水分散体を作製した。
【0094】
[比較例9]
pHを1.6に調整し、過酸化水素を添加しなかった以外は実施例1と同様に水分散体を作製した。
【0095】
[比較例10]
固形分を1%に調整した以外は比較例2と同様に水分散体を作製した。
得られた水分散体を水蒸気透過度測定のため塗布したところ、亀裂の入った膜となってしまい、均一塗膜を得ることができなかった。
【0096】
[実施例2]
過酸化水素の質量割合を0.1部ではなく1.0部にした以外は実施例1と同様に水分分散体を作製した。
【0097】
参考例3]
過酸化水素の質量割合を0.1部ではなく0.01部にした以外は実施例2と同様に水分分散体を作製した。
【0098】
[実施例4]
過酸化水素の代わりに過硫酸ナトリウムを1.0部となるように添加した以外は実施例2と同様に水分散体を作製した。
【0099】
[実施例5]
過酸化水素の代わりに過炭酸ナトリウムを1.0部となるように添加した以外は実施例2と同様に水分散体を作製した。
【0100】
[実施例6]
過酸化水素の代わりに過酢酸を1.0部となるように添加した以外は実施例2と同様に水分散体を作製した。
【0101】
参考例7]
過酸化水素の代わりに次亜塩素酸ナトリウムを1.0部となるように添加し、pHを8.0に調整した以外は実施例2と同様に水分散体を作製した。
【0102】
[実施例8]
pHを4.0に調整した以外は実施例2と同様に水分散体を作製した。
【0103】
[実施例9]
pHを1.6に調整した以外は実施例2と同様に水分散体を作製した。
【0104】
[実施例10]
原料モノマー混合物の質量組成比をVDC/AN=91/9とした以外は実施例2と同様に水分散体を作製した。
【0105】
[実施例11]
原料モノマー混合物の質量組成比をVDC/MMA=91/9とした以外は実施例2と同様に水分散体を作製した。
【0106】
[実施例12]
原料モノマー混合物の質量組成比をVDC/MA=91/9とした以外は実施例2と同様に水分散体を作製した。
【0107】
[実施例13]
原料モノマー混合物の質量組成比をVDC/MAN=90/10とした以外は実施例2と同様に水分散体を作製した。
【0108】
[実施例14]
原料モノマー混合物の質量組成比をVDC/MAN=89/11とした以外は実施例2と同様に水分散体を作製した。
【0109】
[実施例15]
原料モノマー混合物の質量組成比をVDC/MAN=89/11とし、結晶核剤として、VDC/AN=98/2の原料モノマーを用いて比較例1と同様に合成した塩化ビニリデン共重合体の水分散体を乾燥質量で2.0部となるよう添加した以外は実施例2と同様に水分散体を作製した。
なお、下記の測定方法で結晶核剤として添加した塩化ビニリデン共重合体の最大の融解ピークを測定したところ、179℃であった。結晶核剤の添加により添加前の水分散体と比べて結晶化速度の向上が確認された。
(最大の融解ピークの測定)
塩化ビニリデン共重合体の水分散体をアルミ板上に乾燥塗布量が10g/mとなるようにメイヤーバーにて塗布し、100℃に保ったオーブン中で1分間乾燥した。乾燥させた乾燥物を5分以内にピンセットで採取し、塩化ビニリデン共重合体の乾燥物を採取した。上記の乾燥物から5mgを採取し測定に用いた。
サンプルをTAintsruments社製の示差走査熱量分析計Q-2000を用いて窒素雰囲気下で10℃/minで170℃まで加熱し、10℃/minで-40℃まで冷却した。次に、10℃/minで190℃まで加熱し、190℃までの測定データを取得した。取得した190℃までの測定データのうち、180℃以上では塩化ビニリデンの分解が始まるため、180℃以上のデータは用いず、二度目の加熱時の、-40℃から180℃までの測定値を用いて最大の融解ピーク温度を求めた。
なお、サンプルパンとしてアルミニウムのTzero PanとTzero hermetic Lid(TAinstruments社製)を用い、レファレンスとしてこのパンの空パンを用いた。すなわち、サンプル測定結果から、空パン測定結果を差し引いた値に基づいて、最大の融解ピーク温度を算出した。
【0110】
[実施例16]
過酸化水素に加えてフィチン酸ナトリウムを0.1部となるように添加した以外は実施例2と同様に水分散体を作製した。
【0111】
[実施例17]
過酸化水素に加えてケイ酸ナトリウムを0.1部となるように添加した以外は実施例2と同様に水分散体を作製した。
【0112】
[実施例18]
過酸化水素に加えてエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム(EDTA-2Na)を0.1部となるように添加した以外は実施例2と同様に水分散体を作製した。
【0113】
参考例19]
過酸化水素の質量割合を0.1部ではなく0.001部にした以外は実施例2と同様に水分分散体を作製した。
【0114】
[実施例20]
pHを2.5%アンモニア水で調整した以外は実施例2と同様に水分散体を作製した。
【0115】
[実施例21]
pHを1mol/L水酸化ナトリウム水溶液で調整した以外は実施例2と同様に水分散体を作製した。
【0116】
[実施例22]
固形分を10%に調整した以外は実施例2と同様に水分散体を作製した。
【0117】
[実施例23]
固形分を40%に調整した以外は実施例2と同様に水分散体を作製した。
【0118】
[実施例24]
固形分を50%に調整した以外は実施例2と同様に水分散体を作製した。
【0119】
得られた塩化ビニリデン共重合体の水分散体を用いて、以下の測定を行った。結果を表1に示す。
なお、測定は、上記の水分散体を調整してから1日以内に行った。また、測定を行うまでは水分散体を5℃で保管した。
【0120】
<ΔE*abの測定>
(1)サンプル調製
本測定で用いる試薬は全て20℃に温調した。水分散体35gに純水65gを加えて希釈した水分散体100mLを、250mLのPP製試薬瓶に取った。そこに10w/V%のヨウ化カリウム水溶液10mLと1mol/Lの塩酸10mLとを滴下して蓋を締め、25mm×φ8mmの攪拌子を用いて300rpmで5分間攪拌した。得られた水分散体をサンプルとした。
なお、基準色には、ヨウ化カリウム水溶液の代わりに10mLの純水を加えて同様の操作を行ったサンプルの測定結果を用いた。
(2)変色測定
コニカミノルタ製の色差計CM-5を用いて変色測定を行った。CM-5オプションの30mmφのシャーレに、上記サンプル10mLを測り取り、下記測定条件にてCM-5の測定法の一つであるシャーレ測定を行った。測定を3回行い、その平均値を各サンプルのΔE*abとした。
〈測定条件〉
表色系:L*a*b*
インデックス:YI ASTM E313-96
視野;10°
主光源:D65
第二光源:なし
なお、ヨウ化カリウム水溶液添加後は、空気中の酸素によりヨウ化カリウムが酸化されてヨウ素が生成することがあるため、規定の5分間の攪拌を行った後は可能な限り速やかに、遅くとも5分以内に変色の測定を行った。
【0121】
<酸化剤の定量:酸化還元滴定>
実施例及び参考例について以下のように酸化還元滴定を行い、酸化剤を定量した。比較例については、酸化剤を添加しておらず、また、開始剤として使用したt-ブチルハイドロパーオキサイドも、その添加量から重合後には残留していないと考えられるため、下記の測定は行わず、結果を0とした。
本測定で用いる試薬は全て20℃に温調した。水分散体35gに純水65gを加えて希釈した水分散体100mLを250mLのPP製試薬瓶に取った。そこに10w/V%のヨウ化カリウム水溶液を10mLと1mol/Lの塩酸を10mLとを滴下して蓋を締め、25mm×φ8mmの攪拌子を用いて300rpmで5分間攪拌した。得られた水分散体に、30秒に1回0.1mol/Lのチオ硫酸ナトリウム溶液を滴下していき、褐色がなくなった点を終点とした。終点までに要したチオ硫酸ナトリウム溶液の量を記録した。何度か測定を行い、滴下が10~15回で終了するように、1回当たりのチオ硫酸ナトリウムの量を調節した。調整後、測定を3回以上行い、標準偏差が滴定値の20%以内に収まっていることを確認して、平均値を結果とした。
実施例及び参考例で得た水分散体は、上記測定の結果、成膜後も残存するのに十分な量の酸化剤を含むことが分かった。
【0122】
<固形分の測定>
CEM製の固形分計SMART SYSTEM5に2.5gの水分散体を測り取り、20℃、50%RH環境下で測定を行った。3回測定した結果を平均し、(乾燥質量/水分散体の質量)×100の式により固形分を求めた。
【0123】
<水蒸気透過度(透湿度)の測定>
(透湿度測定用の塗工フィルム作製)
コロナ放電処理を施した延伸ポリ塩化ビニルフィルム(厚み250μm)の上に、プライマーとしてBASF社製のEmulder381Aを、メイヤーロッドを用いて乾燥後塗膜質量が2g/mとなるように塗布し、熱風循環乾燥機中にて85℃、15秒の乾燥処理を行った。このフィルムの上に、実施例、参考例及び比較例の各々で得られた塩化ビニリデン共重合体の水分散体を、メイヤーロッドにより1回の乾燥後塗膜質量が10g/mとなるように塗布し、熱風循環乾燥機中にて85℃、15秒の乾燥処理を行い、乾燥後の塗膜質量が40g/mになるまで重ね塗りした。得られた塗工フィルムを40℃のオーブンに入れ24時間保管した後、20℃湿度55%の恒温恒湿室で2時間調湿した。
【0124】
(水蒸気透過度(透湿度)の測定)
得られた塗工フィルムについて、38℃及び100%RHの条件下、MOCON社の水蒸気透過度測定装置PERMATRAN 3/33を用いて測定した(単位:g/m・day@38℃、100%RH)。
ただし、測定開始後48hrから60hrの間の測定値の平均値を水蒸気透過度とした。
測定は4回行い、平均値を用いた。
【0125】
<フィルムの黄変度の測定>
(黄変度測定用の塗工フィルム作製)
コロナ放電処理を施した延伸ポリ塩化ビニルフィルム(厚み250μm)の上に、プライマーとしてBASF社製のEmulder381Aを、メイヤーロッドを用いて乾燥後塗膜質量が2g/mとなるように塗布し、熱風循環乾燥機中にて85℃、15秒の乾燥処理を行った。このフィルムの上に、実施例、参考例及び比較例の各々で得られた塩化ビニリデン共重合体の水分散体を、メイヤーロッドにより1回の乾燥後塗膜質量が10g/mとなるように塗布し、熱風循環乾燥機中にて85℃、15秒の乾燥処理を行い、乾燥後の塗膜質量が60g/mになるまで重ね塗りした。
(黄変度測定)
得られた塗工フィルムを5cm角に切り出し、3枚重ねて測定サンプルとし、コニカミノルタ製の色差計CM-5を用いて下記の測定条件で黄変度(YI値)を測定した。この時の値を保管前の黄変度とした。次に、測定サンプルを40℃のオーブンに入れ、30日保管した後、再び下記の測定条件で黄変度を測定した。この時の値を保管後の黄変度とした。それぞれ3回測定を行い、その平均値を黄変度とした。保管後の黄変度から保管前の黄変度を引いた値を保管による黄変度の変化ΔYIとした。
〈測定条件〉
表色系:L*a*b*
インデックス:YI ASTM E313-96
視野;10°
主光源:D65
第二光源:なし
【0126】
<モノマー組成>
実施例、参考例及び比較例の塩素化ビニルポリマーのモノマー組成は、下記の方法により採取したサンプルをテトラヒドロフラン-d8に溶解させ、NMR測定を行うことで評価した。
水分散体10mLを凍結乾燥し、凍結乾燥品を0.5g採取した。採取した凍結乾燥品を99.9質量%以上の純度のテトラヒドロフラン10mLに溶解させた溶液に、アセトンを40mL滴下した。生じた沈殿物をろ過し、ろ過して残った不溶分を採取した。採取した不溶分を測定サンプルとした。
NMRの測定条件は下記の表のとおりである。
装置:JEOL RESONANCE ECS400(1H)
Bruker Biospin Avance600(13C)
観測核:1H(399.78MHz)、13C(150.91MHz)
パルスプログラム:Single pulse(1H)、zgig30(13C)
積算回数:256回(1H)、10000回(13C)
ロック溶媒:THF-d8
化学シフト基準:THF(1H:180ppm、13C:67.38ppm)
得られたNMRスペクトルを用いて、ピークを積分することでポリマー中の組成を同定した。含まれるモノマーの種類は仕込みモノマーから明らかである。
例として塩化ビニリデン、メタクリロニトリル、メタクリル酸メチル、アクリル酸、に由来する構造単位を含有するポリマーの場合、13C-NMRのスペクトルにおいて80~90ppmを積分することで塩化ビニリデンに由来する構造単位、110~130ppmを積分することでメタクリロニトリルに由来する構造単位、170~180ppmを積分することでメタクリル酸メチルに由来する構造単位、180~200ppmを積分することでアクリル酸に由来する構造単位の含有量を求め、全体に占める各モノマーの構成比を算出した。
メタクリル酸メチルの代わりにアクリル酸メチルに由来する構造単位を含む共重合体の場合、上記算出法のメタクリル酸メチルをアクリル酸メチルに読み替えて計算を行う。
また、メタクリロニトリルの代わりにアクリロニトリルに由来する構造単位を含む共重合体の場合、上記算出法のメタクリロニトリルをアクリロニトリルに読み替えて計算を行う。
実施例、参考例及び比較例で得たポリマーは、上記測定の結果、仕込み組成と同一のモノマー組成を有することが分かった。
【0127】
【表1-1】
【0128】
【表1-2】
【0129】
実施例及び比較例の測定結果を示す。
表1の結果から、本発明の塩素化ビニルポリマーの水分散体は、塗工後のフィルムの高い水蒸気バリア性を保ちながら、フィルム加工後の変色を大きく抑制できていることが実証された。特に、実施例1等のΔYI<0という結果は、40℃1か月の黄変を完全に抑制できていることを意味する。
水分散体のpHを上昇させるとフィルムの変色が大きくなるという傾向がみられるが、同じpHで比較した場合に、実施例は比較例と比べて変色を抑制できていることが分かる。変色と引き換えにpHを増加させる利点として、塗工機の金属部品の酸による腐食を防止することや、水分散体の凝集安定性を向上させることなどが挙げられるが、ΔE*abを1.0以上とすることで、そのようなケースにおいても黄変を軽減させることができることが分かる。
また、同じ質量部のコモノマーを共重合させた場合に、MAが最も黄変しづらく、MAN、AN、MMAはMAと比べて黄変しやすいという傾向がみられるが、いずれのコモノマーにおいても、ΔE*abを1.0以上とすることで黄変が抑制できていることが分かる。
比較例6から、一般に漂白剤として用いられている物質の中でも還元系の漂白剤では効果がないどころかむしろ黄変を促進させることが明らかである。つまり、単に漂白剤なら良いというわけではなく、ΔE*abを1.0以上とすることができる酸化剤であることで黄変を抑制することが実証された。
【産業上の利用可能性】
【0130】
本発明の塩素化ビニルポリマーの水分散体は、塗工後のフィルムの水蒸気バリア性及び耐黄変性に優れるため、食品や医薬品包装用フィルム、紙、一般家庭用品等の種々の材料への塗料として好適に使用可能である。