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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-07
(45)【発行日】2024-08-16
(54)【発明の名称】周波数変換レーザ装置
(51)【国際特許分類】
   H01S 3/109 20060101AFI20240808BHJP
   G02F 1/37 20060101ALI20240808BHJP
   H01S 3/10 20060101ALI20240808BHJP
   H01S 3/1109 20230101ALI20240808BHJP
   H01S 3/1123 20230101ALI20240808BHJP
【FI】
H01S3/109
G02F1/37
H01S3/10
H01S3/1109
H01S3/1123
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2023555172
(86)(22)【出願日】2022-03-02
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-08
(86)【国際出願番号】 EP2022055236
(87)【国際公開番号】W WO2022189223
(87)【国際公開日】2022-09-15
【審査請求日】2023-10-18
(31)【優先権主張番号】102021202391.6
(32)【優先日】2021-03-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】514315849
【氏名又は名称】フォトン エネルギー ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】110003421
【氏名又は名称】弁理士法人フィールズ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ヴォルフガング シュスルバウアー
【審査官】佐藤 美紗子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2006/0045148(US,A1)
【文献】PERKINS P E ET AL.,EFFICIENT INTRACAVITY DOUBLING IN FLASH-LAMP-PUMPED ND,JOURNAL OF THE OPTICAL SOCIETY OF AMERICA,米国,1987年08月01日,Vol.4, No.8,1281-1285
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 3/03-3/227
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ装置(2)であって、
2つの共振器ミラー(6,8)、すなわち出力ミラー(6)と端部ミラー(8)とを有する光共振器(4)と、
第1の周波数(f1)の光を発生するための光活性媒質(10)と、
前記第1の周波数(f1)の光を異なる周波数(f2,f3)の光に変換するための光非線形媒質(18)と、ここで、前記光活性媒質(10)及び前記光非線形媒質(18)は、前記共振器ミラー(6,8)の間の光線経路に配置されており、
第1の偏光作用レーザ光学系(20)であって、前記出力ミラー(6)によって前記端部ミラー(8)の方向に反射された前記第1の周波数(f1)の光を、偏光された前記第1の周波数(f1)の光の周波数変換が前記光非線形媒質(18)を通過する際に抑制されるように、偏光する第1の偏光作用レーザ光学系(20)と、を備える、レーザ装置(2)。
【請求項2】
前記第1の偏光作用レーザ光学系(20)は、前記出力ミラー(6)によって前記端部ミラー(8)の方向に反射された前記第1の周波数(f1)の光を、偏光された前記第1の周波数(f1)の光の周波数変換が前記光非線形媒質(18)を通過する際に最小化されるように、偏光する、請求項1に記載のレーザ装置(2)。
【請求項3】
第2の偏光作用レーザ光学系(22)であって、前記出力ミラー(6)の方向に伝搬する前記第1の周波数(f1)の光を、偏光された前記第1の周波数(f1)の光の周波数変換が前記光非線形媒質(18)を通過する際に促進されるように、偏光する第2の偏光作用レーザ光学系(22)を備える、請求項1又は2に記載のレーザ装置(2)。
【請求項4】
第2の偏光作用レーザ光学系(22)は、前記出力ミラー(6)の方向に伝搬する前記第1の周波数(f1)の光を、偏光された前記第1の周波数(f1)の光の周波数変換が前記光非線形媒質(18)を通過する際に最大化されるように、偏光する、請求項3に記載のレーザ装置(2)。
【請求項5】
前記第1の偏光作用レーザ光学系(20)及び前記第2の偏光作用レーザ光学系(22)として、波長板、又は偏光回転子が使用されている、請求項3又は4に記載のレーザ装置(2)。
【請求項6】
第1の偏光作用レーザ光学系(20)として、λ/4板(32)が使用され、
第2の偏光作用レーザ光学系(22)として、偏光回転子が使用されている、請求項3又は4に記載のレーザ装置(2)。
【請求項7】
第1の偏光作用レーザ光学系(20)及び第2の偏光作用レーザ光学系(22)として、それぞれ偏光回転子が使用されている、請求項3又は4に記載のレーザ装置(2)。
【請求項8】
前記光共振器(4)は、直線状の光線経路を有する、請求項1~のいずれか一項に記載のレーザ装置(2)。
【請求項9】
前記出力ミラー(6)の下流側に接続され、周波数変換された光に対する前記第1の偏光作用レーザ光学系(20)の作用を補償するように形成された第3の偏光作用レーザ光学系(34)を備える、請求項1~のいずれか一項に記載のレーザ装置(2)。
【請求項10】
前記第1の偏光作用レーザ光学系(20)及び前記第3の偏光作用レーザ光学系(34)は、同一の構造であるが互いに90°回転されたλ/4板(32,36)によって形成されている、請求項に記載のレーザ装置(2)。
【請求項11】
Qスイッチ(38)を備える、請求項1~10のいずれか一項に記載のレーザ装置(2)。
【請求項12】
前記Qスイッチ(38)は、電気光学Qスイッチ、又は音響光学Qスイッチ、又はパッシブQスイッチである、請求項11に記載のレーザ装置(2)。
【請求項13】
前記光活性媒質(10)は、固体である、請求項1~12のいずれか一項に記載のレーザ装置(2)。
【請求項14】
前記光活性媒質(10)は、ネオジムドープ・オルトバナジン酸イットリウム結晶(24)である、請求項13に記載のレーザ装置(2)。
【請求項15】
前記光非線形媒質(18)は、タイプIの位相整合構造の光非線形結晶を含む、請求項1~14のいずれか一項に記載のレーザ装置(2)。
【請求項16】
前記光非線形媒質(18)は、三ホウ酸リチウム結晶(30,42)を含む、請求項15に記載のレーザ装置(2)。
【請求項17】
前記光非線形媒質(18)は、少なくとも2つの互いに隣り合って接続された光非線形結晶を含む、請求項1~14のいずれか一項に記載のレーザ装置(2)。
【請求項18】
前記少なくとも2つの互いに隣り合って接続された光非線形結晶は、三ホウ酸リチウム結晶(30,42)である、請求項17に記載のレーザ装置(2)。
【請求項19】
前記少なくとも2つの互いに隣り合って接続された光非線形結晶(30,42)は、タイプIの位相整合構造の第1の結晶(30)と、タイプIIの位相整合構造の第2の結晶(42)とを含む、請求項17又は18に記載のレーザ装置(2)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、周波数変換レーザ装置、すなわち、レーザ光を発生させるための、任意に、レーザ光をガイド、形成、変換及び/又は増幅するための光学装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザ放射による刻み又はマーキングのような産業用途においては、固体レーザ、すなわち、光活性媒質が結晶状の、又はガラス状(すなわちアモルファス)の固体によって形成されたレーザ装置がしばしば使用される。このような固体によって生成される光は、通常、赤外領域、特に800nm以上の波長にある。しかしながら、多くの用途において必要とされるような短波長の光の発生のための(特に商業的に利用可能な)固体材料はまだない。
【0003】
固体レーザを用いて緑、青、紫、又は紫外領域のレーザ光を発生させる一般的な方法は、いわゆる周波数変換である。その際、最初に基本周波数(基礎周波数ともいう)において発生した光の一部が、(光学的に)非線形な媒質によって異なる周波数の光に変換される。その際、変換された光の周波数は、基本周波数の数倍、特に基本周波数の2~3倍であることが多い。周波数変換された光は、その元となる基本周波数の光とコヒーレントであり、同じ方向に放出される。
【0004】
レーザ装置の共振器キャビティ内に非線形媒質を配置し、それによって共振器内において周波数変換された光を発生させることが多い。このため、専門用語においては、この周波数変換方法を「共振器内非線形周波数変換」ともいう。このような共振器においては、基本周波数の光は、共振器ミラーの間を両方向に進む途中において非線形媒質を通過し、その際、それぞれ、周波数変換が行われる。従って、周波数変換された光は、非線形媒質を通して前方向(すなわち共振器の出力ミラーに向かう方向)だけではなく、後方向(すなわち共振器の反対側の端部ミラーに向かう方向)にも放出される。前方向に放出された周波数変換された光の一部は、共振器からの分離によって容易に使用することができるが、後方向に放出された周波数変換された光の一部は、通常、望ましくない障害信号である。なぜなら、この光は、前方向に放出される周波数変換された光との不利な干渉によって、レーザ活性の効率と安定性とを損なうからである。更に、後方向に放出される周波数変換された光の一部は、共振器の構成要素、特に活性媒質に対する負荷の増加(したがって、摩耗の増加)につながる。
【0005】
この欠点に対処するために、周波数変換レーザ装置には屈曲共振器が備えられることがある。このために、共振器ミラーの間に偏向ミラーを配置し、その偏向ミラーは、基本周波数の光を偏向させ、それによって共振器を2つのアームに細分化する。その際、活性媒質は屈曲共振器の一方のアームに配置され、一方、非線形媒質は第2のアームに配置される。偏向ミラーは、変換された光の周波数に対して透過性である。これによって、変換された光は共振器の第2アームのみを循環させることができる。
【0006】
偏向ミラーは、その際、変換された光を共振器から分離するためにも使用できる。共振器の効率を更に高めるために、代替的に、第3の共振器ミラーを偏向ミラーの下流側、つまり第2の共振器アームの延長上に配置することも可能であり、その第3の共振器ミラーは、偏向ミラーを透過した周波数変換された光を第2の共振器アームに反射させる。それによって、第2の共振器アームは、第3の共振器ミラーを用いて、周波数変換された光に対して独自の、共振周波数変換を強制する共振器キャビティを形成する。
【0007】
しかしながら、このような曲げ共振器は、構造が非常に複雑になるため、製造に多大な労力を要し、それは、対応するレーザ装置の商業的な有用性を制限する。特に、2つの共振器アーム又は共振器キャビティの長さを互いに適合させるために、アクティブな安定化処置が必要になることが多い。
【0008】
更に、屈曲共振器は比較的大きな設置スペースを取るため、それは、対応するレーザ装置の有用性を同様に制限する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、効果的であると同時に簡単に実現できる周波数変換レーザ装置を提示するという課題に基づいている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この課題は、本発明によれば、請求項1の特徴を有するレーザ装置によって解決される。本発明の有利な、及び、部分的にそれ自体が発明的な実施形態及び更なる発展は、従属請求項及び以下の説明に記載されている。
【0011】
本発明によるレーザ装置は、従来の方法において、2つの共振器ミラー、すなわち出力ミラーと端部ミラーを有する光共振器を備える。出力ミラーは光共振器の前面側を示す。それに対応して、出力ミラーに投射される光の伝搬方向は、「前方向」という。一方、端部ミラーに入射する光は、反対に「後方向」に伝搬する。光共振器は、レーザ装置の動作中に第1の周波数の光を発生させる光活性媒質(レーザ媒質)を更に含む。第1の周波数は、以下においては「基本周波数」ともいう。第1の周波数の光は、それに対応して「基本波」という。
【0012】
光共振器(以下、「共振器」と称する場合がある)に加えて、レーザ装置は、レーザ装置の動作中に、第1の周波数の光、言い換えれば基本波の一部を別の周波数の光に変換する(光学的な)非線形媒質を備える。その際、別の周波数は、好ましくは、しかしながら必須ではなく、基本波の整数倍、特に2倍、3倍、4倍である。周波数変換された別の周波数の光を、基本波と区別するために、以下一般に「変換波」という。別の周波数が基本波の周波数の整数倍である場合、周波数変換された光は「調和した波」又は略して「高調波」ともいう。その際、周波数変換された光は、周波数が2倍の場合は「第2次高調波」、周波数が3倍の場合は「第3次高調波」等、という。
【0013】
出力ミラーは、変換された波に対して(完全に又は少なくとも部分的に)透過性を有するように形成される。それに対して、両方の共振器ミラーは、基本波に対しては不透過性であることが好ましい。
【0014】
光非線形媒質は共振器の内部に配置される。光活性媒質及び光非線形媒質は、共振器ミラー間の光線経路に配置される。
【0015】
本発明によれば、レーザ装置は、上記のものに加えて、(第1の)偏光作用レーザ光学系を備える。その偏光作用レーザ光学系は、出力ミラーによって端部ミラーの方向に反射された第1の周波数(すなわち基本波)の光を、偏光された第1の周波数の光の周波数変換が非線形媒質を通過する際に抑制されるように、偏光する。この第1の偏光作用レーザ光学系(以下において、一般性を制限することなく「(第1の)偏光子」と略称する)は、特に、共振器の光線経路において、非線形媒質と出力ミラーとの間に配置される。言い換えれば、第1の偏光子は、非線形媒質を後方向に通過する基本波が、周波数変換を引き起こさないか、又は、少なくとも第1の偏光子がない場合よりも弱い周波数変換を引き起こすことを、生じさせる。基本波が非線形媒質を後方向に通過することによって生じる周波数変換は、特に、基本波の適切な偏光によって最小化される。
【0016】
用語「偏光」又は「偏光する」として、ここ及び以下において、一般に、偏光特性の変化であると解される。第1の偏光子によって偏光された光は、以前とは異なる偏光特性を有する。例えば、基本波の偏光方向は、第1の偏光子によって回転され、直線偏光が円偏光に変換され、又は、円偏光が直線偏光に変換される。
【0017】
例えば独国特許出願公報第69008415T2号明細書に記載されているように、光非線形媒質のタイプ及び/又は構成(例えば、入射波の伝搬方向に対する結晶軸の方向)に応じて、「タイプI」及び「タイプII」という2つのタイプの周波数変換が存在することが知られている。タイプIの周波数変換は、同一偏光の入射波が非線形媒質と相互作用することによって起こる。それに対して、タイプIIの周波数変換は、直交偏光の入射波が非線形光媒質との相互作用をすることを必要とする。そのタイプ及び/又は構成によって、「タイプI」又は「タイプII」の周波数変換を引き起こす光非線形媒質を、以下において、短く「タイプI媒質」又は「タイプII媒質」(非線形光学結晶の場合は「タイプI結晶」又は「タイプII結晶」)ともいう。本発明は、特に、光非線形媒質におけるタイプIの周波数変換が、規則的に、入射光の偏光に顕著に依存するという認識に基づいている。その際、所定の偏光方向の光は最大効率において変換されるが、一方、直交する偏光方向の光は最小効率において変換されるか、あるいは全く変換されない。本発明によれば、共振器の効率を高めるために、この効果が利用される。後方向の周波数変換を抑制することによって、後方向に放出される変換波の部分が完全に、又は少なくとも部分的に減少され、それによって冒頭において説明した欠点が回避される。これによって、高い共振器効率が簡単に実現可能な方法によって達成される。
【0018】
好ましい実施形態においては、レーザ装置は、上記の第1の偏光子に加えて、第2の偏光作用レーザ光学系を備え、この第2の偏光作用レーザ光学系は、以下(これも一般性を限定することなく)「第2の偏光子」と略称する。この第2の偏光子は、出力ミラーの方向に伝搬する第1の周波数の光(すなわち、前方向に伝搬する基本波)を、この偏光された光の周波数変換が非線形媒質を通過する際に促進されるように、特に最大化されるように、偏光するという点において、第1の偏光子と比べて、反対の作用を有する。
【0019】
共振器の光線経路において、特にレーザ媒質と非線形媒質との間に配置される第2の偏光子は、それによって、非線形媒質を前方向に通過する基本波が、第1の偏光子がない場合よりも強い周波数変換を引き起こすように作用する。
【0020】
第1の偏光子、及び(存在する場合)第2の偏光子もまた、好ましくは、波長板(遅延板ともいう)、特にλ/4板、又は偏光回転子、例えばファラデー回転子、水晶回転子又は液晶回転子によって形成される。第1の偏光子及び第2の偏光子の両方が存在するレーザ装置の実施形態においては、2つの偏光子は、本発明の範囲内において、同じタイプに、又は、異なるタイプに形成され得る。したがって、本発明の好ましい一実施形態においては、第1の偏光子としてλ/4板が使用され、第2の偏光子として偏光回転子が使用される。その際、特に、偏光回転子は、入射基本波の偏光方向を45°回転させるように形成されている。レーザ装置の代替的な一実施形態において、第1の偏光子と第2の偏光子の両方がそれぞれ偏光回転子によって形成されている。その際、これらの偏光回転子も、入射基本波の偏光方向を45°回転させるように形成されている。
【0021】
少なくとも1つの偏光子によって達成される、前方向に進行する基本波に対する周波数変換の集中は、その際、共振器効率の低さを受け入れる必要なく、共振器の単純な形成を可能にする。特に、共振器の曲げの実施は、必要でもなく、好ましいものでもない。むしろ、好ましい実施形態においては、共振器は直線状の光線経路を有する。すなわち、共振器ミラー、レーザ媒質、光非線形媒質、及び各偏光子は、直線的な光軸に沿って並んでいる。この単純な構造によって、レーザ装置の動作中に生成されるレーザ光の高い安定性が、比較的少ない労力において達成される。アクティブな安定化装置は、必要ないため、本発明の好ましい実施形態においては設けられていない。
【0022】
第1の偏光子は、基本波に作用するように調整されているため、周波数変換された光(すなわち変換波)に対して本来的に未確定の作用を有する。それによって、共振器から分離されたレーザ光も、本来的に未確定の偏光特性を伴って生成される。それにもかかわらず、レーザ光の偏光特性を確定するために、好ましい実施形態におけるレーザ装置は、第1の偏光子及び第2の偏光子(存在する場合)に加えて、第3の偏光作用レーザ光学系(「第3の偏光子」ともいう)を備えており、この第3の偏光作用レーザ光学系は、出力ミラーの下流側に接続され、したがって共振器の外部に配置される。この第3の偏光子は、変換波(したがって共振器から分離されたレーザ光)に与える第1の偏光子の作用を補償するように形成されている。言い換えれば、第3の偏光子は、変換波に対する第1の偏光子の作用を取り消す。本発明のこの変形例の特に有用な一実施形態においては、第1の偏光子と第3の偏光子とは、同一の構造であるが、光軸の周りに互いに90°回転されたλ/4板によって形成されている。両方の偏光子において、「λ/4」という用語は、この場合、基本波の波長に関係する。
【0023】
一般に、本発明の範囲内のレーザ装置は、連続放出レーザ(CWレーザ)、又はパルスレーザとして動作させることができる。
【0024】
好ましくは、レーザ装置はQスイッチレーザである。この実施形態においては、レーザ装置は、共振器の光線経路、特に、レーザ媒質と、非線形媒質又は存在する場合は第2の偏光子との間に配置されたQスイッチを追加的に含み、これによって共振器のQを変更することができる。Qスイッチは、好ましくはアクティブQスイッチであり、そのアクティブQスイッチは、例えば、電気光学動作原理(例えば、ポッケルス・セル、カー・セル、又は電気光学変調器)、又は、音響光学動作原理(例えば、ブラッグ・セル)に基づく。しかしながら、原理的には、本発明の範囲内のレーザ装置は、特に半導体吸収ミラー(SESAM)又は非線形結晶(例えば、Cr:YAG結晶)の形態において、パッシブQスイッチを含むこともできる。代替的には、レーザ装置はモードロックレーザである。
【0025】
レーザ装置は、好ましくは固体レーザである。対応して、光活性媒質は、好ましくは固体、特にネオジムドープ・オルトバナジン酸イットリウム結晶(Nd:YVO結晶)を含む。
【0026】
非線形媒質は、好ましくは、そのタイプ及び/又は構造に関して、例えば入射波の伝搬方向に対する向きに関して、タイプIの周波数変換(すなわち、タイプIの位相整合構造における周波数変換)のために構成された媒質を含む。媒質は、その際、好ましくは固体、すなわち光非線形(タイプI)結晶、特に三ホウ酸リチウム(LBO)の結晶である。
【0027】
本発明の特別な一変形例においては、非線形媒質は、特に第1基本波の高次高調波を発生させるための非線形媒質は、少なくとも2つの互いに隣り合って接続された光非線形結晶、特にLBO結晶を有している。この場合、2つの結晶のうちの第1の結晶は、好ましくはタイプIの位相整合構造の結晶である。この第1の結晶は、この場合、基本波から中程度の周波数(例えば基本波の2倍の周波数)の第1の変換波を発生させるために使用される。第2の結晶は、特に、基本波と第1の変換波との相互作用の下に、より高い周波数の第2の変換波(例えば、基本周波数の3倍の波)を発生させるために使用されるものであり、基本的には、本発明の範囲内において、タイプIの位相整合構造の結晶によっても形成され得る。しかしながら、好ましくは、タイプIIの位相整合構造の結晶が第2の結晶に使用される。
【0028】
以下において、本発明の実施形態を、図面を参照してより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本発明によるレーザ装置の基本原理を概略的に簡略化して示す図である。
図2】レーザ装置の第1の具体的な実施形態を示す、図1による図である。
図3】レーザ装置の第2の具体的な実施形態を示す、図1による図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
全ての図において、対応する部品及び構造には常に同一の参照符号を付す。
【0031】
図1は、光共振器4を備えたレーザ装置2の概略図である。光共振器4は、2つの共振器ミラー6,8、すなわち出力ミラー6と端部ミラー8とによって形成されている。光共振器4は更に、(レーザ)媒質10を含んでおり、その(レーザ)媒質10は、図1においてのみ示されているポンプ装置12によって、光又は電気エネルギーを供給することによって、レーザ装置2の動作中にエネルギー的に励起(「ポンプ」)される。
【0032】
動作中において、ポンプ装置12によって励起されたレーザ媒質10は、基本周波数fの光を放出し、この基本周波数fの光は、共振器ミラー6,8間を(端部ミラー8から出力ミラー6に向かう)前方向14、及び(出力ミラー6から端部ミラー8に向かう)後方向16に循環する。以下においては基本波Fと呼ぶこの光に対して、出力ミラー6及び端部ミラー8は、(製造技術上実現される共振器ミラー6,8の品質の範囲内において)不透過性である。
【0033】
更に、光共振器4には光非線形媒質18が配置されており、この媒質18は、レーザ装置2の動作中に、基本波Fの一部を第2の周波数fの光に変換する。図示の例においては、第2の周波数fは、基本周波数fの整数倍に相当する(f=n・f;ここで、n=2,3,4,…)。したがって、第2の周波数fの周波数変換された光を、以下では高調波Hという。
【0034】
出力ミラー6は、高調波Hに対して透過性であるように(完全に又は少なくとも出力ミラー6の達成可能な品質の範囲内において可能な限り)形成される。
【0035】
非線形媒質18は光共振器4の内部、すなわち共振器ミラー6,8の間に配置されている。
【0036】
一方では、第1の偏光子20は、非線形媒質18と出力ミラー6との間に挿入接続されている。この第1の偏光子20は、レーザ装置2の動作中において、出力ミラー6によって反射され、それによって後方向16に伝搬する基本波Fの偏光に、以下のように作用する。すなわち、そのように偏光された基本波Fは、周波数変換を引き起こすことなく非線形媒質18を後方向16に通過するように作用する。第1の偏光子20による基本波Fの偏光によって、周波数変換された光の後方向16への放出は抑制される。
【0037】
他方、第2の偏光子22は、レーザ媒質10と非線形媒質18との間に挿入接続されている。この第2の偏光子22は、レーザ装置2の動作中において、レーザ媒質10によって前方向14に放出された基本波Fの偏光に、以下のように作用する。すなわち、そのように偏光された基本波Fは、非線形媒質18を通過する際に最大の周波数変換を引き起こすように作用する。第2の偏光子22による基本波Fの偏光によって、周波数変換された光の前方向14への放出は最大になる。
【0038】
両方の偏光子20及び22の相互作用によって、高調波Hが非線形媒質18から前方向14にのみ最大強度において放出されることが、達成される。
【0039】
出力ミラー6に入射すると、高調波Hは共振器4から分離され、第2の周波数fを有するレーザ光Lを生成する。
【0040】
端部ミラー8、レーザ媒質10、第2の偏光子22、非線形媒質18、第1の偏光子20及び出力ミラー6は、直線状の光軸23に沿って、したがって直線状の光線経路に沿って、互いに隣り合って配列されている。
【0041】
図2は、図1に概略的にのみ示したレーザ装置2の第1の具体例を示す図である。図2に示すレーザ装置2は、レーザ媒質10としてネオジムドープ・オルトバナジン酸イットリウム結晶(Nd:YVO結晶24)を有する固体レーザである。Nd:YVO結晶は、基本波Fを形成するために光波長λ1064nm(λ=1064nm)の赤外領域の光を放出する。この場合、対応して基本周波数fは282.0THz(f=282.0THz)である。レーザ媒質10によって前方向14に放出された基本波Fは、偏光方向が角度0°に割り当てられた直線偏光である。
【0042】
図2による実施例においては、ポンプ装置12は、ポンプレーザ光PによってNd:YVO結晶24を光学的に励起するダイオードレーザ26によって形成されている。
【0043】
前方向14においてNd:YVO結晶24の下流側に接続された第2の偏光子22は、基本波Fの偏光方向を45°の角度だけ回転させるファラデー回転子28として形成されている。
【0044】
光非線形媒質18は、本実施例においては結晶によって、すなわち、基本周波数fの周波数倍増を引き起こすタイプIの位相整合構造の三ホウ酸リチウム結晶(LBO結晶30)によって形成されている。そのため、本実施例における第2の周波数fは、564.0THz(f=564.0THz)の値を有する。対応して、LBO結晶30が発生する高調波Hは、基本波Fの第2次高調波H2であり、波長λが532nmであるため、緑色可視光のスペクトル領域にある。また、LBO結晶30は、基本周波数fの光が45°の偏光方向によって線形偏光された場合に、最大効率において基本周波数fの光を第2の周波数fの光に変換するように、共振器4aの光線経路に整列されている。このようにして、ファラデー回転子28とLBO結晶30とは、基本波FがLBO結晶30を前方向14に通過する際の周波数倍増の効率が最大となるように、互いに調整されている。
【0045】
図2の例においては、前方向14においてLBO結晶30の下流側に接続された第1の偏光子22は、基本波F(したがって基本周波数fの光)に適応したλ/4板32によって形成されている。λ/4板32は、45°の偏光方向を有する直線偏光波として前方向14に進む基本波Fを円偏光波に(変換)偏光するように、共振器4の光線経路に配置されている。
【0046】
基本波Fは、下流側に接続された出力ミラー6において反射され、それによって、後方向16のλ/4板32に跳ね返される。円偏光波として後方向16に進む基本波Fは、今度はλ/4板32によって、偏光方向が135°の直線偏光波に(変換)偏光される。
【0047】
このように偏光された基本波Fは、今度はLBO結晶30を経由して後方向16に通過する。LBO結晶30の異方性と基本波Fの偏光によって、後方向16に伝搬する基本波Fについての周波数倍増の効率は最小となる。
【0048】
ファラデー回転子28を経由して後方向16に伝搬する基本波Fの通過の際に、基本波Fの偏光方向は再び45°回転する。それによって、基本波Fは、元の偏光方向0°に対応する偏光方向180°の直線偏光波として、後方向16にファラデー回転子28を離れる。端部ミラー8における反射後、基本波Fはレーザ媒質10(すなわちNd:YVO結晶24)に跳ね返され、上記の循環が新たに開始される。
【0049】
後方向16における周波数倍増の抑制によって、第2次高調波H2は、LBO結晶30によって(少なくともほぼ)もっぱら前方向14に放出される。その際、第2次高調波H2は、最初、偏光方向が135°の直線偏光波として存在する。λ/4板32は基本波F(及びその波長λ)に適応しているため、第2次高調波H2に対して、偏光に作用する明確な作用はない。そのため、第2次高調波H2は、λ/4板32を通過した後、不確定の偏光特性を有して存在する。
【0050】
この形態においては、第2次高調波H2は、出力ミラー6を介して共振器4から分離され、レーザ光Lを形成する。レーザ光Lに明確な偏光特性を与えるために、共振器4の外側において出力ミラー6の下流側に、更なるλ/4板36の形態の第3の偏光子34が接続されている。この更なるλ/4板36は、λ/4板32と同じ構造に形成されており、そのため基本波Fの波長λにも同様に適応される。しかしながら、λ/4板32と比較して、光軸23の周りに90°回転している。この更なるλ/4板36は、第2次高調波H2に対するλ/4板32の作用を補償する。そのため、レーザ光Lのλ/4板36の通過後、レーザ光Lは、偏光角135°を有する直線偏光の形態にある。
【0051】
図1に概略的に示した概念の任意の更なる形態において、図2のレーザ装置2は、Qスイッチのパルスレーザとして形成されている。このために、レーザ装置2は、更なる構成要素として、Qスイッチ38を備え、このQスイッチ38は、図2による表示においては、レーザ媒質10(ここでは、Nd:YVO結晶24)と第2の偏光子22(ここでは、ファラデー回転子28)との間に接続されている。Qスイッチ38は、図2に例示的に示すように、音響光学変調器40(ブラッグ・セル)として実施されている。
【0052】
それ自体公知の方法において、Qスイッチ38によって、共振器4のQは、2つのレーザパルスの間において、インターバル的にそれぞれ低下し、それによって、共振器4のレーザ作動が防止され、その結果、レーザ媒質10(すなわち、Nd:YVO結晶24)の特に強い励起が強制される。レーザパルスをトリガーするために、共振器4のQは、Qスイッチによって一時的に増加され、それによってレーザ作動が導入される。
【0053】
代替的には、レーザ装置2はモードロックレーザとして動作する。本実施形態(ハードウェア的には、本質的に図2による実施形態に対応する)においては、Q変調器、特に音響光学変調器40が共振器4内に配置されている。このQ変調器は、共振器4内のパルスの周期に対応する周波数によって共振器4のQを変調する。
【0054】
基本波Fと高調波H(この場合は第2次高調波H2)の進行を、明確化のために図2の共振器4の下方に概略的に示す。
【0055】
図3に示すレーザ装置2の実施形態は、光非線形媒質18が、ここでは、周波数倍増LBO結晶30に加えて、三ホウ酸リチウムからなる第2の結晶(LBO結晶42)を有する点において、図2に基づいて説明した実施形態と異なる。この第2の結晶は、共振器4の光線経路においてLBO結晶30と第1の偏光子20(ここにおいてもλ/4板32の形態)との間に接続されている。レーザ装置の動作中、この第2のLBO結晶42は、基本波Fと第2次高調波H2の作用を受けて、基本周波数fの3倍に相当する第3の周波数f(f=845.9THz)の光を発生する。この周波数3倍の光は、第3次高調波H3としてLBO結晶42から放出される。この光の波長λは354nmであり、電磁スペクトルの紫外領域に位置する。図3のレーザ装置2においては、第2次高調波H2と第3次高調波H3の両方が、出力ミラー6を介して共振器4から分離される。第2のLBO結晶42は、好ましくは、タイプIIの位相整合構造の結晶である。
【0056】
第2のLBO結晶42も、周波数変換(この場合、周波数3倍化)が前方向14に伝搬する基本波Fに対して最大になるように、共振器4の光線経路に整列される。LBO結晶42には第2次高調波H2がないことに基づいて、後方向16に伝搬する基本波Fによって周波数3倍化は起こらない。そのため、第3次高調波H3も、(少なくともほぼ)もっぱら前方向14に放出される。後方向16に伝搬する基本波FによるLBO結晶30内の周波数倍増は、λ/4板32による基本波Fの偏光によって、ここにおいても抑制される。
【0057】
出力ミラー6の下流側に接続された第3の偏光子34(ここにおいてもλ/4板36によって形成される)は、第2次高調波H2及び第3次高調波H3の両方について、λ/4板によって乱された元の直線偏光を復元する。
【0058】
図2による実施形態とは異なり、図3によるレーザ装置2は、λ/4板36の下流側に接続された周波数選択ミラー44を任意に備える。ミラー44は第3の周波数fの光に対して透過性であり、それによって、共振器4から分離された第3次高調波H3は、レーザ光Lの形成のためにミラー44を通過する。
【0059】
これに対して、共振器4から分離された第2次高調波H2は、ミラー44によって偏向される。第2次高調波H2は、例えば、レーザ作動を検出するために使用される光センサ46に投射される。
【0060】
基本波F及び高調波H(この場合、第2次高調波H2及び第3次高調波H3)の進行を、明確化のために、ここにおいても同様に、図3の共振器4の下方に概略的に示す。
【0061】
本発明の主題は、上記した実施例から特に明らかであるが、決してこれらに限定されるものではない。むしろ、本発明の更なる実施形態は、特許請求の範囲及び上記の説明から導き出すことができる。特に、図2及び図3に基づいて説明した第3の偏光子34及びQスイッチ38は、本発明によるレーザ装置2の他の実施形態においても使用することができる。更に、第1の偏光子20及び/又は第2の偏光子22は、図2及び図3に示されたものとは異なる方法において実施することもできる。例えば、λ/4板32の代わりに、第1の偏光子20にファラデー回転子を使用することができ、このファラデー回転子は、基本波の偏光方向を45°回転させる。更に、レーザ媒質10及び光非線形媒質18には、例として説明した以外の適切な材料を使用することもできる。
【符号の説明】
【0062】
2 レーザ装置
4 光共振器
6 出力ミラー
8 端部ミラー
10 (レーザ)媒質
12 ポンプ装置
14 前方向
16 後方向
18 (光非線形)媒質
20 (第1の)偏光子
22 (第2の)偏光子
23 光軸
24 Nd:YVO結晶
26 ダイオードレーザ
28 ファラデー回転子
30 LBO結晶
32 λ/4板
34 (第3の)偏光子
36 λ/4板
38 Qスイッチ
40 音響光学変調器
42 LBO結晶
44 (周波数選択)ミラー
46 光センサ
基本周波数
(第2の)周波数
F 基本波
H 高調波
H2(第2次)高調波
H3 (第3次)高調波
L レーザ光
P ポンプレーザ光
図1
図2
図3