(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-07
(45)【発行日】2024-08-16
(54)【発明の名称】質量分析計及び方法
(51)【国際特許分類】
H01J 49/42 20060101AFI20240808BHJP
H01J 49/02 20060101ALI20240808BHJP
H01J 49/00 20060101ALI20240808BHJP
H01J 49/06 20060101ALI20240808BHJP
【FI】
H01J49/42 450
H01J49/02 700
H01J49/42 850
H01J49/00 400
H01J49/06 100
H01J49/06 700
(21)【出願番号】P 2023561090
(86)(22)【出願日】2022-04-07
(86)【国際出願番号】 GB2022050871
(87)【国際公開番号】W WO2022214815
(87)【国際公開日】2022-10-13
【審査請求日】2023-11-27
(32)【優先日】2021-04-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】521073028
【氏名又は名称】エイチジーエスジー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100205659
【氏名又は名称】齋藤 拓也
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【氏名又は名称】岩池 満
(74)【代理人】
【識別番号】100185269
【氏名又は名称】小菅 一弘
(72)【発明者】
【氏名】ホイズ ジョン ブライアン
【審査官】右▲高▼ 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】Michisato Toyoda et al.,Multi-turn time-of-flight mass spectrometers with electrostatic sectors,JOURNAL OF MASS SPECTROMETRY,2003年11月,volume 38, issue 11, pages 1125-1142,https://doi.org/10.1002/jms.546
【文献】豊田岐聡 ほか,マルチターン飛行時間型質量分析計,Journal of the Mass Spectrometry Society of Japan,2012年,vol.60, no.6
【文献】Ken-ichi Bajo et al.,Development of electrostatic-induced charge detector for multiturn time-of-flight mass spectrometer,JOURNAL OF MASS SPECTROMETRY,2022年10月26日,volume 57, issue 11, e4892,https://doi.org/10.1002/jms.4892
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 49/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電荷検出質量分析計(CDMS)であって、
静電セクタ場イオントラップ及び誘導電荷検出器であって、前記静電セクタ場イオントラップが前記誘導電荷検出器を介してイオン経路を少なくとも部分的に画定するように構成される、静電セクタ場イオントラップ及び誘導電荷検出器と、
断片化デバイスと、
を備える、CDMS。
【請求項2】
前記静電セクタ場イオントラップは、画定された前記イオン経路の周囲でイオンを移動させるように構成され、前記イオンを移動させると、前記誘導電荷検出器において信号が誘導され、
前記CDMSは、誘導された前記信号を使用して前記イオンの質量電荷比及び電荷を決定し、決定された前記質量電荷比及び電荷に基づいて前記イオンの質量を決定するように構成される、請求項1に記載のCDMS。
【請求項3】
前記CDMSは、プリカーサーイオンの質量を決定するように構成され、前記断片化デバイスは、同じ前記プリカーサーイオンを断片化するように構成される、請求項2に記載のCDMS。
【請求項4】
前記静電セクタ場イオントラップは、前記断片化デバイスを介して前記イオン経路を少なくとも部分的に画定するように構成される、請求項1~3のいずれか一項に記載のCDMS。
【請求項5】
前記イオン経路から前記断片化デバイスにイオンを排出するための手段をさらに備え、前記断片化デバイスは、前記静電セクタ場イオントラップの外部にある、請求項1~3のいずれか一項に記載のCDMS。
【請求項6】
前記静電セクタ場イオントラップは、前記イオン経路から排出されたイオンを出すためのイオン出口を備える、請求項5のCDMS。
【請求項7】
前記断片化デバイスは、前記プリカーサーイオン及び/又はそのプロダクトイオンをトラップするように構成される、請求項1~6のいずれか一項に記載のCDMS。
【請求項8】
前記断片化デバイスは、前記イオン経路に導入される前記プロダクトイオンのイオンエネルギーを増加させるように構成される、請求項1~7のいずれか一項に記載のCDMS。
【請求項9】
前記断片化デバイスは、前記プロダクトイオンを前記イオン経路内にパルス化することによって、前記プロダクトイオンを前記イオン経路内に導入するように構成される、請求項7に記載のCDMS。
【請求項10】
前記断片化デバイスによる断片化のためにプリカーサーイオンを単離するように構成されたイオン単離光学素子を備える、請求項1~9のいずれか一項に記載のCDMS。
【請求項11】
前記イオン単離光学素子は、断片化のために複数のプリカーサーイオンを単離するように構成され、単離された前記複数のプリカーサーイオンは、それぞれ所定の上限質量閾値と下限質量閾値との間の質量を有する、請求項10に記載のCDMS。
【請求項12】
前記イオン単離光学素子は、四重極レンズ、アインツェルレンズ、偏向板を備え、及び/又はそれらであり、及び/又は前記静電セクタ場イオントラップによって提供され、又はそれらの組み合わせである、請求項10又は請求項11に記載のCDMS。
【請求項13】
前記イオン単離光学素子は、前記静電セクタ場イオントラップ内の1つ以上の前記プリカーサーイオンの振動周波数、例えばその高調波に従って電界を印加することによって、1つ以上の前記プリカーサーイオンを単離するように構成される、請求項10~12のいずれか一項に記載のCDMS。
【請求項14】
前記静電セクタ場イオントラップは、第一の静電セクタ及び第二の静電セクタを含む静電セクタのセットを備える、請求項1~13のいずれか一項に記載のCDMS。
【請求項15】
前記第一の静電セクタは、円筒形、トロイダル形、又は球形の静電セクタを備える、及び/又はそれらである、請求項14に記載のCDMS。
【請求項16】
前記第一の静電セクタと前記第二の静電セクタとは、互いに対向し、任意選択で、前記静電セクタのセットは、前記第一の静電セクタ及び前記第二の静電セクタのみを含む、請求項14又は15に記載のCDMS。
【請求項17】
前記第一の静電セクタは、前記第一の静電セクタによる場の境界を定めるように配置された第一のシャントを含むシャントのセットを備える、請求項4~7のいずれか一項に記載のCDMS。
【請求項18】
前記静電セクタ場イオントラップは、等時性である、請求項1~17のいずれか一項に記載のCDMS。
【請求項19】
前記静電セクタ場イオントラップは、少なくとも部分的に、前記イオン経路を2つ又は3つの相互直交次元に画定するように構成される、請求項1~18のいずれか一項に記載のCDMS。
【請求項20】
前記静電セクタ場イオントラップによって画定される前記イオン経路は、クロスオーバーを含む、請求項1~19のいずれか一項に記載のCDMS。
【請求項21】
前記静電セクタ場イオントラップは、イオンを前記イオン経路に導入するためのイオン入口を備える、請求項1~20のいずれか一項に記載のCDMS。
【請求項22】
前記誘導電荷検出器は、第一の電荷検出器管を含む電荷検出器管の第一のセットを備え、任意選択で、長さL及び幅Wを有する前記第一の電荷検出器管は、前記長さLと前記幅Wとの比が3:2~5:2の範囲にあり、例えば2:1である、請求項1~21のいずれか一項に記載のCDMS。
【請求項23】
前記誘導電荷検出器を介する前記イオン経路の一部は、前記静電セクタ場イオントラップによって画定される前記イオン経路の30%~70%の範囲、好ましくは40%~60%の範囲にあり、例えば50%である、請求項1~22のいずれか一項に記載のCDMS。
【請求項24】
前記イオン経路を少なくとも部分的に第一の次元に拘束するように配置された第一の焦点レンズを含む静電焦点レンズのセットであって、好ましくは、前記第一の次元は、前記誘導電荷検出器を介する前記イオン経路の方向に直交する、静電焦点レンズのセットを備える、請求項1~23のいずれか一項に記載のCDMS。
【請求項25】
前記誘導電荷検出器を介する前記イオン経路の断面は、弓形であり、-3°~+3°の範囲、好ましくは-2°~+2°の範囲、より好ましくは-1°~+1°の範囲の中心角を有する、請求項17に記載のCDMS。
【請求項26】
前記誘導電荷検出器は、接地電位で動作するように構成される、請求項1~25のいずれか一項に記載のCDMS。
【請求項27】
例えばイオンを前記イオン経路にパルス化することによって、前記イオン経路に導入される前記イオンのイオンエネルギーを増大させるように構成されたリフトデバイスを備え、任意選択で、前記リフトデバイスは、前記イオン経路に導入される前記イオンをトラップするように構成される、請求項1~26のいずれか一項に記載のCDMS。
【請求項28】
イオンの質量を決定する方法であって、
静電セクタ場イオントラップによって、誘導電荷検出器を介して、少なくとも部分的にそれによって画定されるイオン経路の周囲でプリカーサーイオンを移動させるステップと、
移動する前記プリカーサーイオンによって、前記誘導電荷検出器において信号を誘導するステップと、
誘導された前記信号を使用して、前記プリカーサーイオンの質量を決定するステップと、
前記プリカーサーイオンを断片化し、そこからプロダクトイオンを提供するステップと、
前記プロダクトイオンの質量を決定するステップと、
を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電荷検出質量分析計(CDMS)に関する。
【背景技術】
【0002】
電荷検出質量分析(CDMS)は、高分子の複雑なスペクトルのデコンボリューションを可能にする技術である。分子のサイズが増加するにつれて、それらの分子が獲得し得る異なる電荷状態の数が増加する。限界において、異なる質量を有する分子の重複電荷状態は、従来の質量分析計(MS)の質量電荷比m/zスケール上で不鮮明な連続体を引き起こす。このような質量スペクトルは、個々の種がもはや別個のピークとして目立たないため、分析的に有用な情報をほとんど又は全くもたらさない。これは、高分子のエレクトロスプレーの場合に特に問題であり、その理由は、このイオン化技術は、分子量が増加するにつれて、多くの異なる電荷状態をもたらすからである。イオンの質量電荷m/zを決定するMSとは対照的に、CDMSは、イオンの質量電荷m/z及び電荷zの両方を決定することによって質量(すなわち、単に質量対電荷のm/zではない)を決定する。従来のCDMSでは、個々のイオンをイオントラップに注入し、誘導電荷検出管を通して前後に振動させる。特定のイオンが誘導電荷検出管に入ると、特定のイオンは小さな測定可能な電圧を誘起し、その振幅はその電荷に比例する。振動の測定された周期時間は、特定のイオンの質量電荷比m/zをもたらし、これらの2つの測定の積は、特定のイオンの真の質量を与える。イオントラップ内で多くの振動を可能にし、結果として生じる信号をフーリエ変換(FT)によって分析することは、電荷及び質量電荷比m/z測定の両方の精度を向上させる。真の質量の測定は、質量電荷比m/zのみを決定する直交加速飛行時間(oa-TOF)MS等の従来のMSとは対照的である。CDMSの精度は、電荷測定値に不確実性を与える検出電子機器内の電子ノイズと、振動周期の変動を与える入射イオンのエネルギー拡散との2つの制限要因に依存する。
【0003】
2012年に、Contino及びJarrold[1]は、単一イオンについて30の基本電荷の検出限界を有する電荷検出質量分析計(CDMS分析器としても知られる、文脈から明らかなCDMS)を提示した。この論文は、その時点でのCDMSの包括的な概説を提供し、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。このCDMSは、デュアル半球偏向分析器(HDA)に結合されたエレクトロスプレー源と、それに続く、像電荷検出器を組み込んだコーントラップとを備えていた。イオンは、トラップに入る前にデュアルHDAによってエネルギーを選択した。トラップされたイオンの基本振動周波数を高速フーリエ変換(FFT)により抽出した。振動周波数及び運動エネルギーは、トラップされたイオンの質量電荷比m/zを提供した。基本周波数でのFFTの大きさは、電荷に比例した。特に、このCDMSでは、デュアルHDAをエネルギーフィルタとして使用して、静電コーントラップに入るイオンエネルギーの拡散を制限し、それによって発振周波数の変動を低減し、単一イオンについて30個の基本電荷の検出の限界を達成する必要があった。しかしながら、静電コーントラップに入るイオンエネルギーの拡散を制限すると、CDMSのスループットが低下した。電子機器のノイズがより低いことは、2015年までに、Keifer、Shinholt及びJarrold[2]が、真の質量測定に十分な整数レベルより良好な改善された電荷精度を実証したことを意味した。
【0004】
2018年に、Hogan及びJarrold[3]は、セグメント化された静電線形イオントラップ(ELIT)を採用したが、これは、以前のCDMSのコーントラップよりもイオンエネルギーによる振動周期への依存性が低かった。このCDMSも、デュアルHDAエネルギーフィルタを使用することが必要であったが、イオンエネルギー拡散及び半径方向位置による発振周波数への有意な依存性は残った。特に、このCDMSでは、イオン振動周波数の運動エネルギー依存性は、桁違いに低減され、これは、質量電荷比m/z比決定の不確実性の桁違いの低減につながるはずであった。しかしながら、イオン発振周波数の軌道依存性による4倍の改善しか得られなかった。
【0005】
したがって、CDMSを改善する必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の1つの目的は、とりわけ、本明細書で特定されるか又は他の場所で特定されるかにかかわらず、先行技術の欠点の少なくともいくつかを少なくとも部分的に除去又は軽減するCDMSを提供することである。例えば、本発明の実施形態の目的は、上流エネルギーフィルタ又はセレクタの必要性を排除するイオントラップ幾何学的形状を有するCDMSを提供することである。例えば、本発明の実施形態の目的は、例えば、イオン初期条件への依存性を低減することによって、イオン振動期間の等時性を改善するCDMSを提供することである。例えば、本発明の実施形態の目的は、例えば、イオン初期条件への依存性を低減することによって、イオン振動周期の等時性を改善しながら、上流エネルギーフィルタ又はセレクタの必要性を排除するイオントラップ幾何学的形状を有するCDMSを提供することである。例えば、実施形態の目的は、例えば、プリカーサーイオン及びそのプロダクトイオンの質量を提供することによって、イオンの構造情報を提供するCDMSを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第一の態様は、電荷検出質量分析計(CDMS)を提供し、CDMSは、
静電セクタ場イオントラップ及び誘導電荷検出器を備え、
静電セクタ場イオントラップが誘導電荷検出器を介してイオン経路を少なくとも部分的に画定するように構成される。
【0008】
第二の態様は、イオンの質量を決定する方法を提供し、この方法は、
静電セクタ場イオントラップによって、誘導電荷検出器を介して、少なくともそれによって部分的に画定されるイオン経路の周囲でイオンを移動させるステップと、
移動するイオンによって、誘導電荷検出器において信号を誘導するステップと、
誘導された信号を使用してイオンの質量を決定するステップと、
を含む。
【0009】
第三の態様は、電荷検出質量分析計(CDMS)を提供し、CDMSは、
静電セクタ場イオントラップ及び誘導電荷検出器であって、静電セクタ場イオントラップが誘導電荷検出器を介してイオン経路を少なくとも部分的に画定するように構成される、静電セクタ場イオントラップ及び誘導電荷検出器と、
断片化デバイスと、
を備える。
【0010】
第四の態様は、イオンの質量を決定する方法を提供し、この方法は、
静電セクタ場イオントラップによって、誘導電荷検出器を介して、少なくともそれによって部分的に画定されるイオン経路の周囲でプリカーサーイオンを移動させるステップと、
移動するプリカーサーイオンによって、誘導電荷検出器において信号を誘導するステップと、
誘導された信号を使用して、プリカーサーイオンの質量を決定するステップと、
プリカーサーイオンを断片化し、そこからプロダクトイオンを提供するステップと、
プロダクトイオンの質量を決定するステップと、
を含む。
【0011】
第五の態様は、電荷検出質量分析計(CDMS)を提供し、CDMSは、
静電イオントラップ及び誘導電荷検出器であって、静電イオントラップは、誘導電荷検出器を介してイオン経路を少なくとも部分的に画定するように構成される、静電イオントラップ及び誘導電荷検出器と、
断片化デバイスと、
イオン経路から断片化デバイスにイオンを排出するための手段と、
任意選択で、断片化デバイスからイオン経路にイオンを注入するための手段と、
を備える。
【0012】
第六の態様は、イオンの質量を決定する方法を提供し、この方法は、
静電セクタ場イオントラップによって、誘導電荷検出器を介して、少なくとも部分的にそれによって画定されるイオン経路の周囲でプリカーサーイオンを移動させるステップと、
移動するプリカーサーイオンによって、誘導電荷検出器において信号を誘導するステップと、
誘導された信号を用いてプリカーサーイオンの質量を決定するステップと、
プリカーサーイオンを断片化し、そこからプロダクトイオンを提供するステップであって、イオン経路から断片化デバイスにプリカーサーイオンを排出し、その中でプリカーサーイオンを断片化してプロダクトイオンを提供し、任意選択で断片化デバイスからイオン経路にプロダクトイオンを排出することを含む、ステップと、
プロダクトイオンの質量を決定するステップと、
を含む。
【0013】
(発明の詳細な説明)
本発明によれば、添付の特許請求の範囲に記載されるようなCDMSが提供される。方法も提供される。本発明の他の特徴は、従属請求項及び以下の説明から明らかになる。
【0014】
第一の態様は、電荷検出質量分析計(CDMS)を提供し、CDMSは、
静電セクタ場イオントラップ及び誘導電荷検出器を備え、
静電セクタ場イオントラップが誘導電荷検出器を介してイオン経路を少なくとも部分的に画定するように構成される。
【0015】
第一の態様によるCDMSは、誘導電荷検出器においてイオンによって誘導される信号を使用して、イオンの質量電荷比m/z及び電荷zを検出することによって、イオン経路の周囲を移動するイオンの質量を決定するように構成され得る。
【0016】
本発明者は、最先端のCDMS機器の主要な限界が、イオン振動周波数の初期角度、位置、特に入射イオンのエネルギー拡散への依存性にあることを認識した。さらなる制限は、最先端の静電反射トラップの低い空間電荷容量である。低速イオンは、高速イオンよりも相互に強く相互作用することが知られている。空間電荷容量が低くなるのは、イオンが反射トラップのミラーセクションにおいて方向を反転するときに、イオンがほぼゼロ速度まで減速されるという事実から生じる。これらの反射トラップの空間電荷容量が低いために、一般に、単一のイオン種の連続注入が必要となり、その結果、デューティサイクルが低くなり、実験時間を長くすることが必要になる。
【0017】
本発明者は、CDMSトラップの要件を改善すると、静電セクタ場を含む非点収差TOF分析器のイオン光学特性によって提供されることを認識した。Poschenrieder[4](参照により本明細書に組み込まれる)による1972年のセミナーの論文では、トロイダル電気セクタと無電界ドリフト領域との組み合わせを使用する等時性焦点合わせの全般的な理論が提示された。この論文では、破壊的な電子増倍管に基づく検出を伴う入口及び出口開口を有する古典的な飛行時間型分析器に向けられた。初期エネルギー及び角度広がりの影響は一次まで排除され得、特定の特別な場合、位置広がりも排除され得ることが示された。3つの初期条件の全て、すなわち、検出器平面における一次に対するエネルギー、位置及び角度を満たす分析器は、非点収差分析器として知られている。この論文では、Poschenriederは、三次元的な8の字の経路(three-dimensional figure of eight (8) path)でイオンを送るように配置された2つの対向する球状の電場セクタを利用する特別な幾何学的形状を提示した。対称性を考慮すると、提案された幾何学的形状の非点収差の挙動が得られ、また分析器の多くの往復に対して安定したイオン閉じ込めにもつながる。この幾何学的形状の利用は、TOF分析器にとって問題となるが、その理由は、イオンによって経路が閉じられるために、注入及び検出が困難になるからである。閉路多重往復分析器は、異なる質量のイオンが互いに追い越し、エイリアススペクトル(aliased spectrum)をもたらすので、質量範囲の制限を受けることがよく知られている。CDMSは、イオンが等時性パケットに注入されないので、TOFとは異なり、むしろ、個々のイオンを含むイオンビームのセクションは、デバイスに入ることができ、閉じたイオン経路の周囲で独立して振動することができるようにトラップされる。このような8の字の分析器は、エネルギー及び横方向の許容生(acceptance)に関するその優れたイオン光学特性に起因して、CDMS機器のために改善されたイオントラップの要件を満たす。動作時、イオンは、注入中に低電位に保持され、次いで、所望の期間にわたってイオンをトラップするように上昇させられる、外側球体内の穴を通して注入されてもよい。このような8の字セクタTOFの注入方法は、Ishiharaによる特許[13]に記載されている。
【0018】
(静電セクタ場イオントラップ)
静電セクタ場イオントラップは周期的構造であり、少なくとも部分的に閉じたイオン経路(軌道としても知られる)を画定し、その結果、イオンが閉じたイオン経路の周囲を繰り返し(振動としても知られる)、例えば、積分又は非積分の巻き数で移動し得ることを理解されたい。一般に、イオンはイオン経路の周囲を少なくとも1ターン、好ましくは少なくともNターン(Nは1以上の自然数で、例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10、20、50、100、200、500又はそれ以上である)移動する。したがって、静電セクタ場イオントラップは、マルチターン(マルチパスとしても知られる)静電セクタ場イオントラップとして知られ得、ひいては、CDMSは、マルチターンCDMSとして知られ得る。概して、イオンが移動するターンの数を増やすこと、したがって、測定時間を長くすることは、それゆえ、決定される質量の不確実性を低減させる。しかしながら、ターンの数を増やすと、分析時間も長くなる一方で、残留ガス、他のイオン及び/又はCDMSの壁等との衝突等による特定のイオンの損失の可能性も高くなる。例えば、最大で2×10-9Torr又はそれ以上に真空を改善することによって、残留ガスとの衝突による特定のイオンの損失の可能性が低減され得、それによってターンの数が増加する。したがって、イオンが移動するターンの数は、それに応じてバランスがとられてもよい。イオン経路の周囲を移動するイオンの基本周波数fは、質量電荷比m/zに依存し、誘導電荷検出器を用いて下記のように測定される。静電セクタ場イオントラップが一次に対して等時性である場合、質量の不確実性は、例えば、参考文献[3]のELITと比較して低減され、このことは、以下でより詳細に説明される。
【0019】
静電セクタ場イオントラップは、誘導電荷検出器を介してイオン経路を少なくとも部分的に画定するように構成されることを理解されたい。すなわち、使用時に、静電セクタ場イオントラップは、誘導電荷検出器を介してイオン経路を少なくとも部分的に画定する。少なくとも部分的には、イオン経路は、静電セクタ場イオントラップによって完全に画定されてもよく、あるいは、静電セクタ場イオントラップによって部分的に画定され、1つ以上のイオン光学要素、例えば、レンズ及び/又は磁石によって部分的に画定されてもよいことを理解されたい。一例では、静電セクタ場イオントラップは、誘導電荷検出器を介してイオン経路を(すなわち、全体的に)画定するように構成される。イオン経路は、仮定的な完全イオンのイオン光軸であり、イオン光軸は、平面を画定する弓形の閉じた線であることを理解されたい。対照的に、エネルギー拡散は、イオン集団の角度及び空間偏差とともに、イオン経路がイオン光軸の周りで体積的に掃引するように、それぞれのイオン軌道がイオン光軸から平面内外に逸脱することを意味する。イオン経路の断面、例えば、その形状及び/又は寸法は、それに直交し、イオン経路の周囲で変化し得ることを理解されたい。特に、以下により詳細に説明されるように、イオンは、イオン経路の周囲で、例えば、交互に、点焦点及び平行焦点にされてもよく、一方、球状静電セクタは、例えば、少なくとも部分的に球状イオン経路を生じさせてもよい。追加的及び/又は代替的に、イオン経路は、イオンビームとして説明及び/又は定義され得る。
【0020】
イオンは、イオンの瞬間的な運動方向が絶えず変化するにもかかわらず、軌道方向は一定であるという点で、イオン経路の周囲を一定の向きで移動し、これは便宜上、一方向性と呼ばれ得ることを理解されたい。対照的に、イオンは、ELIT、例えば参考文献[2]及び[3]のELITにおいて、交互に反対の方向で前方及び後方に移動し、これは、便宜上、双方向又は往復運動と呼ばれ得、それによって、反対方向に移動するイオン間の相互相互作用をもたらし、その中に複数のイオンを導入することを妨げる。より詳細には、典型的には、試料の不均質性に応じて、質量スペクトルを生成するために数千のイオンが測定される。参考文献[3]の連続(又はランダム)トラップモードによれば、ELITがゼロのイオン、1つのイオン、又は2つ以上のイオンを含有する確率は、実現され得る単一イオンELITトラップ事象の最大数がちょうど37%(すなわち、37%のデューティサイクル)であるように、ポアソン分布によって与えられる。100msの長いトラッピング期間について、単一イオントラッピング事象の最適な割合は、ELITについて毎時約13,300個の単一イオン事象の最大値に等しく、その結果、均質な試料のスペクトルは、最適な条件下で(すなわち、信号が安定しており、単一イオントラッピング事象の数が実現され得る最大値に近いとき)半時間未満で取得されてもよい。対照的に、静電セクタ場イオントラップによって少なくとも部分的に画定される単方向閉イオン経路は、例えば、以下で詳細に説明されるように、複数のイオンのそれぞれの質量を同時に決定するために使用されてもよく、それによって、ELITと比較して取得時間を短縮する。特に、先に論じたように、静電セクタ場イオントラップの空間電荷容量は、反射ベースのイオントラップと比較して増加し、単方向イオン経路は、複数のイオンの間の相互相互作用を低減又は排除するので、イオンは、ミラーセクション内で周回するにつれて低速まで減速しなければならない。さらに、所与のイオン経路長に対して、イオン経路の有効平均断面積、したがってその体積は、例えば、静電セクタ場イオントラップに対するイオン経路によって、概して、イオンは、イオン光軸に対して横断して、例えば、弧状に扇状に広がることが可能になるため、静電セクタ場イオントラップに対して、ELITに対してより大きくなる。したがって、静電セクタ場イオントラップは、イオンの運動エネルギーが比較的一定である一方で、比較的多くのイオン、例えばELITと比較して1桁以上多くのイオンで満たすことができる。さらに、参考文献[2]及び[3]のELITの双方向又は往復イオン経路は、例えば、複数のイオンがトラップされる場合、その荷電管内で誘発される重複信号をもたらし、それによって、質量決定を妨げる。対照的に、単方向イオン経路は、2つ以上のイオンによって誘導電荷検出器に誘起される信号が重複する可能性が低減されることを意味する。一般に、部分的に重複する誘導信号は、周波数領域において分離され得るが、例えば、位相コヒーレントイオン、追い越しイオン、又は反対方向に移動するイオンに起因して、完全に重複する誘導信号は、質量決定を妨げ得ることを理解されたい。したがって、位相コヒーレントイオンを回避するために、又はクラウドを避けることが好ましいが、一方、単方向経路は、反対方向に移動することを排除する。特に、以下により詳細に説明されるように、複数のイオンは、相互に空間的及び/又は時間的に分離されるように導入されてもよく、それによって、誘導電荷検出器において誘発される重複信号の可能性を低減又は排除する。したがって、静電セクタ場イオントラップ内のイオンの数をわずか10まで増加させることによって、また、デューティサイクルが37%だけに制限されないので、ELITに関しては、代わりに、同じ質量スペクトルを1分未満で取得することができる。
【0021】
一般に、分析器の入口と出口との間のイオンの移動のイオン光学的な記述は、移動行列として、又は光線追跡を介して表され得る。曲線座標系(x,y,z)は、その原点を光軸上に有し、zが光軸に沿って定義され得る。等しい質量のイオンに対して、そのような伝達行列は、時間が関心事項である場合、以下のように表してもよい。
【数1】
式中、X及びAは、それぞれz軸に対する特定のイオンの位置(典型的には横方向偏差x、yに分解される)及び傾斜角(典型的には角度偏差α、βに分解される)を記述し、δK=(K/(K
0-1))及びδT=(T/(T
0-1))は、それぞれ相対エネルギー及び時間偏差であり、インデックスi及びi+1は、それぞれ入口及び出口におけるこれらの量を示す。K及びK
0は、それぞれ参照イオン及び特定イオンのエネルギーであり、T及びT
0は、それぞれ参照イオン及び特定イオンが分析器に出入りする時間である。(X│X)及び(A│A)は、拡大項(magnification terms)を表し、(X│A)及び(A│X)は合焦項(focusing terms)を表す。これらの項をそれぞれゼロに等しくすることにより、平行から点、点から平行、点から点及び平行から平行のイオン光学系が提供される。(X│δK)、(A│δK)及び(δT│δK)は、エネルギー偏差に対する分散項(dispersion terms)を表す。あるいは、伝達行列は、例えば、横方向偏差x、y、角度偏差α、β及び/又は質量偏差γの観点から、代替的に表現されてもよい。
【0022】
関心のある用途のために、イオンは、比較的低いエネルギーを有する低強度源(すなわち、低エネルギーイオン)に由来するが、比較的大きなエネルギー拡散δKを有する。
【0023】
同じ質量電荷比m/zを有するが、異なるエネルギーを有するイオンは、(δT│δK)=0の場合、同時に分析器を通って移動する。そのような分析器は、エネルギー等時性である。一例では、│(δT│δK)│≦0.1で、好ましくは、│(δT│δK)│≦0.05で、より好ましくは、│(δT│δK)│≦0.01である。すなわち、分析器は、準エネルギー等時性であってもよく、それによって、幾何学的形状の許容を緩和しながら、比較的多数のターンが依然として可能になる。(δT│X)、(δT│A)、(X│δK)及び/又は(A│δK)の範囲は、同様に定義されてもよい。
【0024】
焦点面は、角度分布を有する光軸から送られたイオンが分析器を通過した後に焦点に導かれる位置であることを理解されたい。一次元xにおいて、これは、収差理論で(x│a)=0として数学的に表される。分析器は、焦点面で(x│a)=(y│b)=0である場合、非点収差的に挙動する(すなわち、非点収差である)。
【0025】
より一般的には、同じ質量電荷比m/zを有するが、入口において異なるエネルギー及び異なる傾斜角を有するイオンは、(X│A)=(A│X)=(A│δK)=0である場合、エネルギー及び入口傾斜角とは無関係に出口を通って移動する。そのような分析器は、非点収差及び無彩色集束であり、軌道は鏡面対称である。一例では、│(X│A)│、│(A│X)│及び/又は│(A│δK)≦0.1、好ましくは│(X│A)│、│(A│X)│及び/又は│(A│δK)≦0.05、より好ましくは、│(X│A)│、│(A│X)│及び/又は│(A│δK)=0.01である。すなわち、分析器は、準非点収差及び/又は準無彩色であってもよく、それによって、幾何学的形状の許容を緩和しながら、比較的多数のターンが依然として可能になる。
【0026】
一般に、無彩色系は、横方向座標の伝達行列要素が運動量に依存しないものである。概して、等時性システムは、系を通る軌道の通過時間が初期座標に依存しないものである。一次無彩色系も、純粋な運動量依存性を除いて等時性であることは周知である。逆もまた真である。この結果は、高次を意図する。色項が全てある次数まで消滅する系では、通過時間が同じ次数までの横方向座標から独立するように、条件を見出すことができる。同じ条件下では、逆もまた真である。
【0027】
しかしながら、(X│A)=(A│X)=0の空間集束要件は、各ターンについて特定のイオンに対して同一のイオン軌道を必要とする。関心のある用途では、空間集束要件は、特定のイオンが位相空間において安定的に移動することのみを仮定することによって緩和され得、したがって、
-2≦(X│X)+(A│A)≦2
であることが必要である。
【0028】
このようにして、特定のイオンは、異なるターン中に異なる軌道上を移動してもよい。この緩和は、また、例えば、設計自由度を増加させ、及び/又は構造誤差を許容しても、代替的及び/又は追加的に、例えば、イオン注入から生じる空間及び/又は角度偏差に適応してもよい。
【0029】
逆に、完全な空間的及び時間的集束は、ターン数が増加するにつれて、特定のイオンをターン毎に同じ位置に同じ傾斜角で戻すことによって、イオンビーム発散及び質量分解能劣化を排除する。そのような完全な空間的及び時間的集束を有するTOF MS分析器幾何学的形状が提案されており(MULTUM、MULTUM II、及び平面的な8の字)、そのいくつかは、[15]を参照して、以下により詳細に説明されるように構築され、この文献は、参照することによって全体として本明細書に組み込まれる。
【0030】
一例では、静電セクタ場イオントラップは、第一の静電セクタ及び第二の静電セクタを含む静電セクタのセットを備える。第一の静電セクタ及び第二の静電セクタは、例えば、イオン経路によって横断される無電解領域(ドリフト空間としても知られる)によって相互に離間されることを理解されたい。誘導電荷検出器は無電界領域に配置されることを理解されたい。誘導電荷検出器は、電界内に配置することができるが、電源からのノイズの直接容量結合は、検出を制限する。一例では、静電セクタ場イオントラップは、第一の静電セクタ及び第二の静電セクタを含む静電セクタのセットと、Q個の四重極レンズを含む電気四重極レンズのセットとを備え、Qは1以上の自然数であり、例えば、Qは静電セクタの数の4倍又は6倍である。一般に、四重極レンズは、1つの座標方向に集束し、互いに直交する座標方向にデフォーカスする。したがって、単一の四重極レンズを使用して、例えば、イオンビームをある点に集束させること、又は二次元画像を生成することはできない。しかしながら、2つの四重極レンズ(ダブル)と3つの四重極レンズ(トリプレット)等の四重極レンズの組み合わせで二次元焦点合わせを行ってもよい。例えば、静電セクタの入口と出口にそれぞれ対応して2つの四重極レンズダブレットを配置してもよい。一例では、静電セクタ場イオントラップは、電気四重極レンズ及び/又はRF電気レンズのセットを備えず、それによって複雑さを低減する。静電セクタは、半径方向に互いに間隔を空けて配置され、2つの相互直交次元の対応する曲率半径を有する2つの対応する電極を備え、対応する対向するDC電位が印加され、それによって、それを通るイオン光軸を画定するトロイダル電場を提供することと、ここで、イオン光軸(すなわち、中心軌道)上の電位は、好ましくは、無電界領域、例えば接地における電位と同じであることを理解されたい。静電セクタ場イオントラップは、それに電気的に結合される電源、例えばDC電源のセットを備えることを理解されたい。
【0031】
追加的及び/又は代替的に、静電セクタ場イオントラップは、第一のセル及び第二のセルを含むセルのセット(ユニット又は要素としても知られる)によって定義されてもよく、第一のセルは、ドリフト空間のセットと、第一の静電セクタを含む静電セクタのセットと、任意選択で四重極レンズのセットとを備える。第二のセルは、第一のセルに関して説明されたようなものであり得ることを理解されたい。セルの対称形状は、より容易に理解されるが、原理は、非対称形状セルにまで及ぶ。4つのセルによって画定される静電セクタ場イオントラップは、参考文献[15]のMULTUM及びMULTUM II等、2つのセルの二重対称形状であると見なすことができる。参考文献[15]の平面的な8の字の幾何学的形状は、一見したところ、2つのセルによって画定されるように見えるが、完全な焦点合わせは、2ターン後に達成され、したがって、この平面的な8の字の幾何学的形状も、4つのセルによって画定される。
【0032】
一例では、第一の静電セクタは、円筒形、トロイダル形、又は球形の静電セクタを含み、及び/又はその静電セクタである。円筒形の静電セクタは、1つの次元のみに事実上単一の曲率半径を有する(相互に直交する次元における第二の曲率半径は無限大である)、最も単純な幾何学的形状を提供するが、その直交次元、例えばy方向にイオンを閉じ込めず、したがって、概して、前記y方向(曲線座標)に電場を閉じ込めることを必要とする。円筒形静電セクタは、一般に、電気四重極レンズと共に使用される。MULTUM及び参考文献[15]の平面的な8の字の幾何学的形状は、それぞれ4つ及び2つの円筒形静電セクタを備え、それぞれ8つの電気四重極レンズを一緒に備える。トロイダル静電セクタは、2つの相互に直交する次元に2つの異なる曲率半径を有し、その比は、有効化のために定義されなければならず、電気四重極レンズが必要とされないように、両方の次元にイオンを閉じ込めることができる。トロイダル静電セクタは2つの異なる曲率半径を有するので、その構成は、比較的複雑である。参考文献[15]のMULTUM II及び参考文献[16]の菱形の幾何学的形状は、それぞれ4つのトロイダル静電セクタを備え、電気四重極レンズを必要としない。球状静電セクタは、トロイダル静電セクタの特別な場合であり、同じ2つの曲率半径を有し、電気四重極レンズが必要とされないように両次元にイオンを閉じ込めることができる。参考文献[4]の8の字の幾何学的形状は、2つの球面静電セクタを含み、電気四重極レンズを必要としない。したがって、セルを球形静電セクタに基づかせることによって、イオン光学構成要素の数は、円筒形静電セクタ又はトロイダルセクタに基づくセルと比較して低減され得る。
【0033】
一例では、第一の静電セクタは、45.0°超、好ましくは少なくとも60.0°、例えば60.0°超~270.0°の範囲、好ましくは90.0°~240.0°の範囲の偏向角ψ0を有する。一例では、第二の静電セクタは、第一の静電セクタに関して説明した通りであり、例えば、同じ又は異なる偏向角ψ0を有する。一例では、静電セクタのセットの各静電セクタは、同じ偏向角ψ0を有する。このようにして、複雑さが低減され、及び/又は対称性が増加する。一例では、静電セクタのセットの交互の静電セクタは、同じそれぞれの偏向角ψ0を有する。
【0034】
一例では、静電セクタのセットは、360.0°超、好ましくは少なくとも390.0°、例えば360.0°超~720.0°の範囲、好ましくは390.0°~660.0°の範囲の総偏向角ψ0を有する。すなわち、イオン経路は、クロスオーバー(crossover)を含む。
【0035】
一例では、静電セクタのセットは、8つの45°トロイダル静電セクタのリングを備えないか、又はそれらのリングからなっていない。
【0036】
一例では、第一の静電セクタと第二の静電セクタとは、例えば、直接、対角線方向及び/又は直径方向に互いに対向し、イオン経路及び/又はイオン光軸は、第一の静電セクタの出口と第二の静電セクタの入口との間で直線的である。一例では、第一の静電セクタの出口と第二の静電セクタの入口との間のイオン経路及び/又はイオン光軸は、無電界領域にある。すなわち、第一の静電セクタの出口と第二の静電セクタの入口との間のイオン経路及び/又はイオン光軸は、例えば、四重極レンズを含まない。
【0037】
一例では、静電セクタのセットは、第一の静電セクタ及び第二の静電セクタのみを含み、好ましくは、第一の静電セクタ及び第二の静電セクタは、公称199.2°、例えば198.2°~200.2°の範囲内、好ましくは198.7°~199.7°の範囲内、より好ましくは、199.0°~199.4°の範囲内、例えば199.2°の偏向角ψ0を有する半径rの球状静電セクタであり、静電セクタ場イオントラップは、公称5.9r(例えば、2%以内、好ましくは1%以内)の長さgrの4つの無電界領域を備え、それによって、参考文献[4]に従う三次元の8の字の幾何学的形状を提供する。
【0038】
一例では、静電セクタ場イオントラップは、第一の無電界領域及び第二の無電界領域を含む無電界領域(ドリフト領域としても知られる)のセットを備える。一例では、無電界領域のセットを通るイオン経路の長さは、イオン経路の全長の少なくとも50%、好ましくは少なくとも55%、より好ましくは少なくとも60%、最も好ましくは少なくとも65%である。このようにして、誘導充電器検出器は、イオン経路の約50%に沿って延在するように無電界領域のセットに配置されてもよく、それによって測定デューティサイクルを増加させる。
【0039】
一例では、第一の静電セクタは、第一の静電セクタによる場の境界を定めるように配置された第一のシャントを含むシャントのセットを備える。このようにして、第一の静電セクタに起因するフリンジ電界を制御することができ、及び/又は誘導電荷検出器をそれに起因する電界から遮蔽することができる。例えば、シャントは、誘導電荷検出器に結合されたノイズを数桁まで減衰させることができる。例えば、第一の静電セクタに電気的に結合された100Vの電源は、<1mVのRMSノイズを示し得る。シャントを使用すると、このノイズは、約1μVのRMSまで減衰され得、したがって、典型的には0.6μV/電荷の感度を有する適切な電荷感受性増幅器と適合し得る。
【0040】
一例では、静電セクタ場イオントラップ(すなわち、その挙動)は、上述のように、例えば1ターン後及び/又は整数ターン後に、例えばエネルギーに関して一次等時性である(すなわち、エネルギー等時性)。このようにして、参考文献[3]のELIT等のELITと比較して、質量電荷比m/zの不確実性が低減される。そのような静電セクタ場イオントラップの例示的な幾何学的形状は、参考文献[4]の8の字、参考文献[15]のMULTUM、MULTUM II及び平面的な8の字、並びに参考文献[16]の菱形を含む。他の幾何学的形状も知られている。一例では、静電セクタ場イオントラップは、エネルギーに関して一次に対して等時性であり、二次に対する残差、例えば、二次に対する放物線残差を有する。これにより、イオンのエネルギー分散ΔEが小さいことによる質量電荷比m/zの不確実性がさらに低減される。二次空間収差は、周回中のイオンの歳差運動をもたらし、これは、例えば、円筒形及び/又はトロイダル静電セクタに基づく静電セクタ場イオントラップにおける歳差運動から生じるイオン損失を防止するように、制約電場を使用して制御されても、あるいは例えば、球形静電セクタに基づく静電セクタ場イオントラップのために許容されてもよい。
【0041】
一例では、静電セクタ場イオントラップは、少なくとも部分的に、イオン経路を2つ又は3つの相互直交次元に画定するように構成される。例えば、静電セクタ場イオントラップは、少なくとも部分的に、イオン経路を、x,z次元等の2つの相互直交次元で画定するように構成されてもよく、イオン光軸が平面を画定する平面静電セクタ場イオントラップと呼ばれてもよい。位置、傾斜角及び/又はエネルギーの偏差は、イオンビームが、例えば位相空間において、それに対して横断する分布によって表され得るように、イオンをイオン光軸から逸脱させることを理解されたい。平面静電セクタ場イオントラップの例には、参考文献[15]のMULTUM、MULTUM II及び平面的な8の字、並びに参考文献[16]の菱形が含まれる。そのような平面静電セクタ場イオントラップの構成は、簡素化してもよく、必要に応じて、四重極レンズを含む円筒形、トロイダル及び/又は球形静電セクタに基づいてもよい。
【0042】
一例では、静電セクタ場イオントラップによって画定されるイオン経路は、クロスオーバー又は点焦点を含み、例えば、参考文献[15]のMULTUM、MULTUM II及び平面的な8の字、並びに参考文献[4]の8の字である。このようにして、静電セクタ場イオントラップは、エネルギーに関して等時性であってもよいが、イオン経路の長さは、例えば、リングと比較して、静電セクタ場イオントラップの所与の外周又は面積に対して増加する。
【0043】
(誘導電荷検出器)
CDMSは、誘導電荷検出器を備え、イオン経路は、誘導電荷検出器を介して(すなわち、それを通して)画定される。換言すれば、誘導電荷検出器は、イオン経路を少なくとも部分的に包囲するか、又は取り囲む。
【0044】
一般に、イオンが誘導電荷検出器を通って移動するとき、イオンは電荷を誘導し、電荷は、信号を出力する電荷感知増幅器によって検出される。誘導電荷検出器は、プロセッサ及びメモリを備えるコンピュータに通信可能に結合可能な、又は結合された電荷感知増幅器及び任意選択でデジタイザを備えることを理解されたい。イオンの質量は、フーリエ分析によって信号を使用して決定することができ、フーリエ分析は、例えば、フーリエ変換(FT)又は高速フーリエ変換(FFT)、最小二乗法、フィルタ対角化法(FDM)及び/又は最大尤度法等を使用する。一例では、信号は、分析のために増幅及び/又はデジタル化され得る時間領域信号を含み、及び/又は時間領域信号である。例えば、FFTを使用すると、時間領域においてノイズを超えて上昇しない電荷の検出を可能にし、LODを<7e(基本電荷)まで低下させる。質量電荷比m/zは、以下の式
【数2】
の関係によって基本周波数fの二乗に反比例する。
式中、Cは、イオンエネルギーと静電セクタ場イオントラップの次元との関数である定数である。典型的には、Cは、イオン軌道シミュレーションから、又は既知の種を使用するデバイスの較正によって決定される。イオンの電荷zは、FFTの大きさ(ここでは、イオンサイクルの数又はトラップ時間を考慮する)に比例する。したがって、質量電荷比m/z及びイオンの電荷zを決定することによって、イオンの質量mは、乗算によって自明に計算され得る。
【0045】
一例では、誘導電荷検出器は、第一の電荷検出器管を含む電荷検出器管の第一のセットを備える。例えば、電荷検出器管は、無電界領域の1つ以上に、例えば無電界領域の全てに配置されてもよい。例えば、電荷検出器管の第一のセットは、複数の電荷検出器管を含むセグメント化電荷検出器管を備えても、及び/又はそれであってもよい。一例では、誘導電荷検出器は、電荷検出器管の第一のセットを含む電荷検出器管のC個のセットを備え、Cは1以上の自然数であり、例えば1、2、3、4、5、6、7、8、9、10以上であり、例えば、Cは無電界領域の数に等しい。このようにして、誘導電荷検出のデューティサイクルを増加させてもよい。一例では、電荷検出器管の第一のセットは、セグメント化電荷検出器管、例えば、軸方向及び/又は半径方向にセグメント化された電荷検出器管を備え、及び/又はそれである。セグメントが直列又はタンデムであるように、電荷検出器管を軸方向にセグメント化することによって、信号は、セグメントのそれぞれにおいて、それを通って移動するイオンによって連続的に誘導されてもよい。例えば、以下に説明するように、セグメントの長さをその幅の約2倍を超えて増加させることは、誘導信号の大きさを実質的に増加させないが、複数のセグメント、したがって、誘導信号は、測定統計を改善する。セグメントが平行であるように、電荷検出器管を半径方向にセグメント化することによって、z次元(曲線座標)において実質的に一致するが、x及び/又はy次元において相互に分離される2つのイオンは、異なる半径方向セグメントにおいて信号を誘起し得、それによって、そうでなければ、2つのイオンが電荷検出管を通って一緒に移動することに起因する、信号重複の可能性を低減させる。このようにして、CDMSのイオン容量を増加させることができる。一例では、誘導電荷検出器の内部断面、例えば、形状は、それを通るイオン経路の断面、例えば形状に対応し、例えば類似している。例えば、円筒形のボアを有する電荷検出器管は、概して円筒形のイオン経路に適しているが、第一の電荷検出器管は、例えば、電気四重極レンズに入る及び/又は出る円錐台形のイオン経路に対応してテーパ付きのボアを有するように、又は球形の静電セクタに入る及び/又は出るイオン経路のためのアニュラス又はテーパ付きのアニュラスを提供するように適合されてもよい。一例では、第一の電荷検出器管は、外側電極及び内側電極を備え、それによって、イオン経路のための環状部又はテーパ状環状部を、それを通して提供し、任意選択で、その間に1つ以上の支持体を備え、その支持体は、例えば、それとのイオン衝突の可能性を低減させるように配置され、及び/又はそのように適合される断面を有する。
【0046】
一例では、長さL及び幅Wを有する第一の電荷検出器管は、長さLと幅Wとの比が、3:2~8:2の範囲、好ましくは3:2~5:2の範囲にあり、例えば2:1であり、及び/又は長さLと幅Wとの比が少なくとも2:1である。特に、誘導信号の大きさは、第一の電荷検出器管をその幅に対してさらに長くしても、実質的に増加しない。
【0047】
一例では、誘導電荷検出器を介したイオン経路の一部は、静電セクタ場イオントラップによって画定されるイオン経路の30%~70%の範囲、好ましくは40%~60%の範囲、例えば50%である。このようにして、例えば、FTによって分析されるイオンの時間領域信号における信号処理アーチファクト等のアーチファクトが低減される。特に、誘導電荷検出器を介したイオン経路の部分が、静電セクタ場イオントラップによって画定されるイオン経路の約50%である場合、FTによって時間領域信号を分析するときの偶数次高調波は、低減又は排除され得る。理想的な50%デューティサイクル方形波は、そのFFTに偶数次の高調波を有さず、高調波が少ないほど、基本ピークの大きさが大きくなる。基本ピークの大きさはイオンの電荷に比例するので、大きさが増加すると、基本ピークの信号対雑音比が増加し、電荷の不確実性が減少することがある。
【0048】
一例では、CDMSは、第一の静電焦点レンズを含む静電焦点レンズのセットを備え、第一の静電焦点レンズは、イオン経路を少なくとも部分的に第一の次元に、例えば、それに対して横方向に拘束するように配置される。換言すれば、イオン経路は、例えば一軸方向に圧縮されてもよい。一例では、静電焦点レンズのセットは、イオン経路を少なくとも部分的に第二の次元に、例えば、それに対して横方向に拘束するように配置され、第一の次元と第二の次元とは、相互に直交する。換言すれば、イオン経路は、例えば二軸方向に圧縮されてもよい。このようにして、静電焦点レンズのセットに起因して生じる空間収差がもしあれば、それが有意ではない間に、CDMSの構造を単純化することができる。追加的及び/又は代替的に、イオン経路を拘束することによって、イオン経路の断面積が低減され、それによって、その立ち上がり時間を改善するため、誘導電荷検出器の内部寸法、例えば、内径が低減されてもよい。一例では、第一の次元は、誘導電荷検出器を介したイオン経路の方向に直交する。一例では、第一の焦点レンズは、例えば、イオン経路のクロスオーバーを横切って配置された円柱レンズ、アインツェルレンズ及び/又はプレートレンズを含み、及び/又はそれである。このようにして、幾何学的形状を単純化しながら、クロスオーバーに関する対称性を維持することができる。例えば、アインツェルレンズは、少なくとも回転対称性を維持することができる。一例では、静電焦点レンズのセットは、イオン経路を少なくとも部分的に第二の次元に、例えば、それに対して横方向に拘束するように配置され、第一の次元と第二の次元とは、相互に直交する。第一の焦点レンズを含む静電焦点レンズのセットは、例えば、RF場及び/又は磁場ではなく、少なくとも部分的に、イオン経路を第一の次元に制約するように配列されることを理解されたい。
【0049】
一例では、誘導電荷検出器を介するイオン経路の断面は、弓形であり、-3°~+3°の範囲、好ましくは-2°~+2°の範囲、より好ましくは-1°~+1°の範囲の中心角を有する。このようにして、イオンビームは、比較的狭いアークに閉じ込められ、それにより、イオン経路の断面積が減少するので、誘導電荷検出器の内部寸法、例えば、内径が減少し、それによってその立ち上がり時間が改善される。
【0050】
一例では、誘導電荷検出器は、接地電位で動作するように構成される。このようにして、ノイズレベルが低減され、非常に低い誘起信号を検出できる。
【0051】
(イオン導入)
一例では、CDMSは、イオン経路にイオンを導入するための手段を備える。一例では、イオンの導入は、無電界領域を介して、例えば、[14]に記載されるような偏向電極を使用する等、x方向及び/又はy方向(曲線座標)のイオン変位を切り替えることによって行われる。一例では、イオンの導入は、静電セクタ場イオントラップを介して、例えば、[13]に記載されているように、例えば第一の静電セクタのみを第一の静電セクタに切り替えることによって、あるいは静電セクタのセットを、例えば2つ以上又は全ての静電セクタを、変更すべきところは変更して切り替えることによって、行われる。第一の静電セクタのみを切り替え、それによって残りの静電セクタをそれらのそれぞれの動作電位で動作させることによって、導入された第一のイオンが第一の静電セクタの近位に到達するまでイオン経路を充填するように、イオンをイオン経路に連続的に導入することができ、その後、第一の静電セクタは、そのそれぞれの動作電位に切り替えて戻される。例えば、8の字の幾何学的形状の場合、イオンは、8の字の上部の約3/4を満たすように導入され得る。逆に、そのセットの全ての静電セクタを切り替えることで、必要な電源数を減らしながら、制御を簡素化することができる。一例では、静電セクタ場イオントラップ、例えば、第一の静電セクタは、イオンをイオン経路に導入するためのイオン入口を備える。一例では、イオン入口は、第一の静電セクタの外側電極を通る通路を備え、及び/又はその通路である。
【0052】
(エネルギーフィルタ)
一例では、CDMSは、静電セクタ場イオントラップに入るイオンエネルギーの拡散を制限するためのエネルギーフィルタ、例えば、前述のデュアルHDAを備えない。参考文献[2]及び[3]のコーントラップ及びELITとは対照的に、静電セクタ場イオントラップCDMSは、イオンエネルギー拡散及び/又は半径方向及び/又は角度位置イオンに対する偏差に対して比較的広い許容差を有するが、この比較的広い許容差の外側のイオン、例えば、高エネルギー又は軸外のイオンは不安定であり、したがって、他のイオンの質量決定に悪影響を及ぼすことなく静電セクタ場イオントラップの壁と急速に衝突する。一例では、CDMSは、0.40%超、好ましくは少なくとも0.5%、より好ましくは少なくとも1%、最も好ましくは少なくとも2%、3%又は4%のエネルギー許容性を有する。一例では、CDMSは、最大で20%、好ましくは最大で15%、より好ましくは最大で10%のエネルギー許容性を有する。
【0053】
(リフトデバイス)
一例では、CDMSは、イオン経路に導入されるイオンのイオンエネルギーを増加させるように構成されたリフトデバイスを備える。一例では、リフトデバイスは、イオン経路に導入されるイオンをトラップするように構成される。このようにして、イオンは、例えば、その中に導入された複数のイオンを相互に空間的及び/又は時間的に分離するように、静電セクタ場イオントラップの中への導入のためにゲート制御されてもよく、それにより、複数のイオンは、概して、その周りで同時に相互に空間的及び/又は時間的に分離して移動する。一例では、リフトデバイスは、イオン経路に導入されるイオンをコリメートするように構成され、それによって、互いに空間的に分離されたイオンのペンシル(pencil)を提供する。一例では、リフトデバイスは、複数P個のイオン(すなわち、イオンの集団)を導入するように構成され、Pは、1より大きい自然数、例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10、20、50、100又はそれ以上のイオンであり、好ましくは、Pは少なくとも4であり、より好ましくは、Pは少なくとも10、10、20、50、100又はそれ以上のイオンである。Pは、導入されたイオンの平均数であり、典型的にはポアソン分布を有するイオンの数であり、ここで、イオンは、相互に空間的にランダムに分離され、それによって、イオン経路の一部に沿って実質的にランダムな離散初期位置を採用し、すなわち、相互に空間的に及び/又は時間的に分離され、それによって、複数のイオンは、概して、相互に空間的に及び/又は時間的にその周りで同時に分離されて移動することを理解されたい。高い強度限界では、磁気セクタの場合のように、イオンビームは、ビームに沿った直線距離当たりに多くのイオンを含む。スケールの他端において、イオンは、ポアソン分布に従って個々に注入される(しかし、空間電荷の考慮とは別に、その挙動において依然としてビームである)。一例では、リフトデバイスは、イオンをイオン経路内にパルス化することによってイオンをイオン経路内に導入するように構成される。より一般的には、一例では、CDMSは、イオンをイオン経路に導入するための手段を備え、この手段は、概してリフトデバイスに関して説明したようなものであるが、任意選択で、イオンエネルギーを増加させる。一例では、イオンをイオン経路に導入するための手段は、複数P個のイオン(すなわち、集団)をイオン経路に導入するための手段を備え、Pは1より大きい自然数であり、複数のイオンは、それぞれ、イオン経路の一部に沿って実質的にランダムな離散初期位置を採り、その結果、複数のイオンは、概して、相互に空間的及び/又は時間的にその周囲で同時に分離されて、移動する。すなわち、イオン、例えば、複数のイオンは、典型的には、四重極分析器、飛行時間分析器等の従来の質量電荷分析器、又は三次元四重極イオントラップ、円筒形イオントラップ、線形四重極イオントラップ、又はオービトラップ等のイオントラップ分析器等に導入するために集束されるように、空間的及び/又は時間的に集束されない。換言すれば、イオンを集束させる努力は行われない。むしろ、無秩序なイオン集団が、例えば、ガスセル内のイオンを熱化することによって提供されるように、イオン経路に導入され、これは、集束することなく、イオンのエネルギー分布を低減させる。これらのイオンが、イオン経路への導入前にトラップされ、及び/又はイオンのそれぞれのエネルギーが増加する場合(例えば、リフトデバイスを使用して)、イオンは、イオン経路への導入時に、空間的及び/又は時間的に、イオンの無秩序及び/又は非相関を実質的に維持する電位勾配を印加することによって、イオン経路に導入されてもよい。
【0054】
(電源)
一例では、CDMSは、静電セクタ場イオントラップに電気的に結合された、第一の電源を含む電源のセット、例えばDC電源を備える。一例では、電源のセットは、静電セクタのセットの内側電極及び外側電極にそれぞれ電気的に結合された第一の電源及び第二の電源を備える。一例では、CDMSは、第一の焦点レンズを含む静電焦点レンズのセットを備え、電源のセットは、静電焦点レンズのセット、例えば第一の焦点レンズに電気的に結合された第三の電源を含む。
【0055】
(イオン源)
一例では、CDMSは、イオン源、例えば、エレクトロスプレーイオン化(ESI)源又はナノスプレーイオン化源等の大気圧イオン化(API)源を備える。他のイオン源も知られている。
【0056】
(磁石)
一例では、CDMSは、磁気偏向器又はセクタを含まない。すなわち、CMSは、静電セクタのみと、任意選択で、本明細書に説明されるような電気四重極レンズ及び/又は電気レンズとを備えてもよい。
【0057】
(イオン処理)
一例では、CDMSは、イオン処理のための静電セクタ場イオントラップの上流及び/又は下流の1つ以上のデバイスを備え、そのイオン処理とは、例えば、試薬イオン又はプリカーサーイオンと共トラップされた試薬イオン等の外部注入粒子を使用したイオンの起動、(例えば、外部注入)電子との相互作用、好ましくは、電子脱離(例えば、高速電子を含むエネルギー荷電粒子を使用する)、プロトン付着又は電荷低減プロセスによるイオンの質量電荷比の操作、基底状態又は励起状態のイオンと中性分子(例えば、外部から注入される)との間の相互作用、光子との相互作用、補助AC波形又はRFトラップ波形のデューティサイクル変動を使用するイオン運動の励起、AC波形又はデューティサイクル制御を使用するイオン単離、衝突活性化解離、イオン蓄積及び移動である。処理には、同時に又は連続的に実行されるべき上記機能のうちの1つ以上が関与し得る。
【0058】
(真空システム)
一例では、CDMSは、例えば静電セクタ場イオントラップ及びその中の誘導電荷検出器を収容するチャンバを含む真空システムと、真空ポンプと、コントローラとを備える。一例では、チャンバは、例えば、最大で1×10-8Torr、好ましくは最大で5×10-9Torr、より好ましくは最大で2×10-9Torrか、それより良好な真空を有する差動ポンプ式チャンバである。
【0059】
(質量分析計)
一例では、CDMSは、スタンドアロンCDMSを備え、及び/又はスタンドアロンCDMSである。逆に、一例では、CDMSは、質量分析計に含まれ、例えば、その中に一体的に(すなわち、最初から(ab initio))含まれるか、又はアップグレードもしくはレトロフィットとして含まれる。
【0060】
(好ましい実施例)
1つの好ましい例において、電荷検出質量分析計(CDMS)は、
静電セクタ場イオントラップ及び誘導電荷検出器を備え、
静電セクタ場イオントラップは、誘導電荷検出器を介してイオン経路を少なくとも部分的に画定するように構成され、
静電セクタ場イオントラップは、第一の静電セクタ及び第二の静電セクタを含む静電セクタのセットを備え、第一の静電セクタ及び第二の静電セクタは、イオン経路によって横断される無電界領域によって相互に離間され、静電セクタ場イオントラップは、周期的構造であり、閉鎖イオン経路を少なくとも部分的に画定し、その結果、閉鎖イオン経路の周囲のイオンは、例えば、整数又は非整数のターンだけ繰り返し移動し、
CDMSは、複数P個のイオンをイオン経路に導入するための手段を備え、Pは1より大きい自然数であり、複数のイオンは、それぞれ、イオン経路の一部に沿って実質的にランダムな離散初期位置をとり、その結果、複数のイオンは、概して、空間的及び/又は時間的にその周りで同時に分離して移動する。
【0061】
(方法)
第二の態様は、イオンの質量を決定する方法を提供すし、この方法は、
静電セクタ場イオントラップによって、イオンを、誘導電荷検出器を介して、少なくともそれによって部分的に画定されるイオン経路の周囲でイオンを移動させるステップと、
移動するイオンによって、誘導電荷検出器において信号を誘導するステップと、
誘導された信号を使用してイオンの質量を決定するステップと、
を含む。
【0062】
イオン、イオン経路、誘導電荷検出器、及び/又は静電セクタ場イオントラップは、第一の態様に関して説明したようなものであり得る。一例では、第二の態様による方法は、第一の態様に従うCDMSを使用して実行される。
【0063】
一例では、本方法は、第一の態様に関して説明したように、例えば、イオン源を用いてイオンを供給することを含む。一例では、本方法は、第一の態様に関して説明したように、静電セクタ場イオントラップの上流及び/又は下流でイオンを処理することを含む。一例では、本方法は、例えば、[14]に記載されるような偏向電極を使用して、及び/又は[13]に記載されるような第一の静電セクタ内のイオン入口を介して等、例えば、x方向及び/又はy方向(曲線座標)にイオンを変位させることによって、例えば、無電界領域を介してイオンをイオン経路に導入することを含み、イオン入口は、第一の静電セクタの外側電極を通る通路を備え、及び/又はその通路である。一例では、イオン入口を介してイオン経路にイオンを導入することは、第一の静電セクタに印加される電位を制御することを含み、例えば、イオンを導入しながら第一の静電セクタを接地電位等の第一の電位に保持することと、イオンをイオン経路に導入した後に第一の静電セクタに動作電位等の第二の電位を印加することとを含む。換言すれば、第一の静電セクタは、例えば、イオン注入中に接地されてもよく、印加された電位は、その後、上昇(又は、イオン極性に応じて低下)する。一例では、イオン入口を介してイオン経路にイオンを導入することは、第二の静電セクタに印加される電位を制御すること、例えば、イオンを導入しながら第二の静電セクタに第二の電位を印加することを含む。換言すれば、第二の静電セクタに印加される電位は、イオン注入中に維持されてもよい。一例では、イオンをイオン経路に導入することは、複数のイオンをイオン経路に導入することを含み、イオンは、第一の態様に関して説明したように、複数のイオンが概して空間的に及び/又は時間的にその周りで同時に分離されて移動するように、空間的に及び/又は時間的に互いに分離される。一例では、複数のイオンは、第一の態様に関して説明したように、P個のイオンを含む。すなわち、TOF MSとは対照的に、複数のイオンは、パケット内になく、代わりに離散的である。TOF MSがTOF測定の不確実性を低減するためには、典型的にはプッシャーによって提供され、及び/又は空間的に集束された、パケット化されたイオン(束状イオン又はクラウドのイオンとしても知られる)が必要である。複数のイオンを相互に空間的及び/又は時間的に分離することによって、複数のイオンの各々の個々のイオンの質量を決定することができる。特に、イオンのそれぞれの信号は、イオン経路が双方向又は往復運動ではなく単方向であるため、たとえ複数のターンの後でも、同じ質量電荷比m/zであっても、重複しにくい。イオン経路が、例えば8の字の幾何学的形状のように、クロスオーバーを含む場合であっても、クロスオーバーに近接する複数のイオンのうちの2つのイオン間の相互作用は、これらのイオンもイオン経路の周囲を一定の速度で移動している間は、起こりそうにない。対照的に、参考文献[3]のELIT等の従来のCDMSは、単一イオンのみの質量を決定することに限定されているが、その理由は、複数のイオンの線形反射が、複数のイオンが相互に対向する反射器の間で双方向に又は往復的に誘導電荷検出器を通って移動するときに、それぞれの信号が重なり合うことになるからである。さらに、2つのイオン間の相互作用は、イオンが加速される前に静止するまで減速される、相互に対向する反射器において、かなりなものであり得る。一例では、本方法は、第一の態様に関して説明したように、イオン経路に導入される1つ及び/又は複数のイオンのイオンエネルギーを増加させることを含む。一例では、本方法は、第一の態様に関して説明したように、イオン経路に導入される複数のイオンをコリメートすることを含む。一例では、本方法は、静電セクタ場イオントラップに入るイオンエネルギーの拡散を制限するために、1つ及び/又は複数のイオンをエネルギーフィルタリングすることを含まない。
【0064】
一例では、イオンをイオン経路の周囲に移動させることは、イオンをイオン経路の周囲に少なくとも1ターン、好ましくは少なくともNターン移動させることを含み、ここで、Nは1以上の自然数であり、例えば2、3、4、5、6、7、8、9、10、20、50、100、200、500又はそれ以上である。一例では、イオン経路の周囲でイオンを移動させることは、第一の態様に関して説明したように、イオンを準エネルギー等時性又は等時性に移動させることを含む。一例では、イオン経路の周囲でイオンを移動させることは、イオンを空間的及び/又は時間的に集束させることを含む。一例では、イオン経路の周囲でイオンを移動させることは、第一の態様に関して説明したように、円筒形、トロイダル形、又は球形の静電セクタを通してイオンを移動させることを含む。一例では、イオン経路の周囲でイオンを移動させることは、360.0°超、好ましくは少なくとも390.0°、例えば360.0°超~720.0°の範囲、好ましくは390.0°~660.0°の範囲の総偏向角ψ0を通して、したがって、クロスオーバーを通してイオンを移動させることを含む。一例では、イオン経路の周囲でイオンを移動させることは、第一の態様に関して説明したように、二次元又は三次元で8の字の幾何学的形状を通してイオンを移動させることを含む。一例では、イオン経路の周囲でイオンを移動させることは、第一の態様に関して説明したように、イオンを、例えばイオン経路を横切る第一の次元に少なくとも部分的に拘束することを含む。
【0065】
一例では、誘導電荷検出器において信号を誘導することは、信号を誘導することを含み、誘導電荷検出器は、接地電位で動作している。一例では、誘導電荷検出器において信号を誘導することは、第一の態様に関して説明したように、誘導電荷検出器に備えられた電荷検出器管の第一のセットにおいて信号のセットを誘導することを含む。
【0066】
一例では、信号を使用してイオンの質量を決定することは、第一の態様に関して説明したように、フーリエ分析を含み、フーリエ分析は、例えば、フーリエ変換(FT)又は高速フーリエ変換(FFT)、最小二乗法、フィルタ対角化法(FDM)及び/又は最大尤度法又は信号の類似物を使用する。
【0067】
(断片化)
第三の態様は、電荷検出質量分析計(CDMS)を提供し、CDMSは、
静電セクタ場イオントラップ及び誘導電荷検出器であって、静電セクタ場イオントラップが誘導電荷検出器を介してイオン経路を少なくとも部分的に画定するように構成される、静電セクタ場イオントラップ及び誘導電荷検出器と、
断片化デバイスと、
を備える。
【0068】
CDMSは、誘導電荷検出器においてイオンによって誘導される信号を使用して、イオンの質量電荷比m/z及び電荷zを検出することによって、イオン経路の周囲を移動するイオンの質量を決定するように構成され得る。
【0069】
タンデム質量分析は、選択されたプリカーサーイオンに対する構造情報及び増加した特異性(選択性としても知られる)をもたらす確立された技術である。一般に、標的(すなわち選択された)質量電荷比m/zを有するイオン(すなわちプリカーサーイオン)を単離し、続いて断片化して、フルスペクトルモードでイオンの構造に関する情報を得る。三重四重極(タンデム四重極としても知られる)実験では、標的断片イオンをモニターして、実験の特異性を増大させ、標的分子に関する高度に定量的な情報を得る。タンデム質量分析実験は、四重極、イオントラップ、飛行時間、FTICR、磁気セクタ、及びOrbitrap(RTM)機器を含む、種々の質量分析計の組み合わせを使用して行われる。これらの実験の全てについて、所望の単離ステップを行うために、選択されたプリカーサーイオンの質量電荷比m/z(したがって質量)の知識が必要とされる。非常に高い質量のイオンの特定の場合において、プリカーサーイオンのみの質量電荷比m/zのエレクトロスプレーイオン化知識を利用することは、選択されたイオンの真の質量を決定するには不十分であり、その理由は、このイオン化技術が、上述したように、分子量が増加するにつれて多くの異なる電荷状態をもたらすからである。したがって、その後に断片化して構造的及び/又は定量的情報を得るために、標的質量の高分子量種を選択できる必要がある。本明細書に記載されるように、CDMSは、これらの非常に大きなエレクトロスプレー生成されたイオンの質量を測定するための証明された技術である。Bennerによって最初に記載されたコーントラップ形状[17]及びELIT[18]を利用するCDMS機器を使用して、断片化研究を実施した。これらの研究において、光断片化は、それぞれ円錐トラップ及びELIT内で起こる。しかしながら、このアプローチは、生成された光断片(すなわち、プロダクトイオン)間のイオン運動エネルギーの共有をもたらし、それによって、これらの光断片のいくつかをトラップ内で不安定にさせ(したがって、これらの光断片の損失)、トラップ自体の最適な設計エネルギーからの逸脱に起因して、残りの光断片の質量分解能が低下する。さらに、このアプローチは、これらのCDMSが単一イオンの質量の決定に本質的に限定されているにもかかわらず、光断片化される1つ又は複数のプリカーサーイオンの選択ができない。
【0070】
対照的に、第三の態様によるCDMSは、イオンの混合物(すなわち、異なる質量を有する)のそれぞれの質量の決定、静電セクタ場イオントラップデバイスの内部又は外部の断片化のための単一の選択された種(すなわち、単一のプリカーサーイオン、又は同じ質量を有する複数のプリカーサーイオン)又は複数の選択された種(すなわち、質量窓内の異なる質量を有する複数のプリカーサーイオン)の単離を可能にし、プロダクトイオン(一般に、プロダクトイオン、すなわち、1つ以上のプロダクトイオン又は複数のプロダクトイオン)がイオン経路に再導入されると、プロダクトイオンの全質量範囲にわたる真のタンデム質量分析実験が提供される。
【0071】
複数の選択された種の単離は、CDMSのスループット及び感度を改善することができる。P個のイオンの集団がCDMSに導入されるとき、それ自体のm/z及びz値を有する各イオンによって、イオンの集団の質量の測定が可能になり得る。第三の態様によれば、真の質量窓を選択することができ、質量窓は、下限質量閾値及び上限質量閾値を有する。この質量窓の内側に入る質量を有する集団のイオンは、断片化のために単離され得るが、質量窓の外側に入る質量を有する他のイオンは、拒絶され得る。次いで、選択された種を断片化に供することができ、次いで、タンデムデータを取得するために、プロダクトイオンをCDMSに再注入して戻すことができる。
【0072】
従来のタンデム質量分析技術では、イオン集団のm/z値の決定は破壊的プロセスであり、したがって、断片化プロセスは、m/z値が決定された同じイオンに対して行われない。対照的に、第三の態様に従うCDMSは、非破壊プロセスにおいてイオンの混合物のそれぞれの質量を決定するように構成され得る。断片化のために選択された種は、質量が決定された同じ1つ以上のプリカーサーイオンであってもよい。
【0073】
第三の態様に従うCDMSは、変更すべきところは変更して、第一の態様によるCDMSに関して説明されたようなものとすることができ、その説明は簡潔にするために繰り返されない。すなわち、第一の態様によるCDMSは、断片化デバイスをさらに備えるように適合されてもよく、それによって、第三の態様に従うCDMSを提供する。
【0074】
(断片化デバイス)
一例では、断片化デバイスは、衝突誘起解離(CID)、光に基づく光断片化(ランプ又はレーザベース、UV、可視又は赤外線)、電子捕獲解離(ECD)、電子移動解離(ETD)、電子誘起解離(EID)、表面誘起解離(SID)、共鳴誘起解離の断片化技術のうちの1つ以上を備えるRFイオントラップを含み、及び/又はそのRFイオントラップである。他の断片化技術も知られている。一例では、断片化デバイスは、例えば、プリカーサーイオン及び/又はそのプロダクトイオンをトラップするための1つ以上の領域を備えることによって、プリカーサーイオン及び/又はそのプロダクトイオンをトラップするように構成される。このようにして、プリカーサーイオンは、(イオン経路から直接的又は間接的に)導入され、例えば第一の領域内にトラップされ、その後、例えば、第二の領域にその中の断片化のために電位勾配を適用することによって移動されてもよく、その後、プロダクトイオンは、同様に、第一の領域又は第三の領域に戻り、任意選択で、その中のそれぞれのエネルギーが、イオン経路に移動する前に増加する。
【0075】
一例では、断片化デバイスは、例えば、プロダクトイオンを所定の電位差で加速することにより、イオン経路に導入されるプロダクトイオンのイオンエネルギーを増加(より一般的には制御)するように構成されている。このようにして、プロダクトイオンのイオンエネルギーは、静電セクタ場トラップの設計、例えば最適な設計に対応するように制御され得、それによって、前述のように、光断片化を含む従来のCDMSの欠点を克服する。
【0076】
一例では、断片化デバイスは、例えば緩衝ガスとの衝突冷却によってプロダクトイオンを熱化し、プロダクトイオンを質量決定のために静電セクタ場トラップ内に所望の運動エネルギーまで加速する(すなわち、プロダクトイオンのイオンエネルギーを増加させる)ように構成される。
【0077】
一例では、断片化デバイスは、例えば、参照により全体が本明細書に組み込まれる米国特許第5847386号に記載されているような、例えば、四重極、六重極又は八重極等の多極線形イオントラップであるRFイオントラップを備え、及び/又はRFイオントラップである。一例では、断片化デバイスは、例えば、参照により全体が本明細書に組み込まれる米国特許第5206506号に記載されているような積層電極デバイスを備え、及び/又は積層電極デバイスである。一例では、断片化デバイスは、3D四重極イオントラップを備え、及び/又は3D四重極イオントラップである。一例では、断片化デバイスは、例えば、参照により全体が本明細書に組み込まれる米国特許第7312442号、米国特許第7755034号、米国特許第6995366号、欧州特許第1706890号又は国際公開第2017/134436号に記載されているような線形イオントラップを備え、及び/又は線形イオントラップである。
【0078】
(内部断片化デバイス)
一例では、静電セクタ場イオントラップは、少なくとも部分的に、断片化デバイスを介して(参照:断片化デバイス及び誘導電荷検出器がイオン経路に沿って直列になるように誘導電荷検出器を介して)イオン経路を画定するように構成される。すなわち、断片化デバイスは、イオン経路が断片化デバイスを通過するように、例えば、静電セクタのセットの第一の静電セクタと第二の静電セクタとの間にある。換言すれば、断片化デバイスは、イオン経路が断片化デバイスを通して連続的であるように、静電セクタ場イオントラップに対して内部又はインライン(in-line)にあるものとして説明され得る。すなわち、イオンが断片化デバイスに入り、イオンがそこから出ることは、それぞれイオン経路から直接、及びイオン経路へ直接である。例えば、1つ以上のプリカーサーイオンのそれぞれの質量は、例えば、第一の態様に関して説明されるように、断片化デバイスが停止されている(すなわち、1つ以上のプリカーサーイオンが断片化せずにそれを通って移動することを可能にするように第一の状態で構成される)間に決定される。その後、断片化デバイスが起動され(すなわち、1つ又は複数のプリカーサーイオンを断片化するように第二の状態に構成され)、1つ以上のプリカーサーイオンは、イオン経路が断片化デバイスを通るので、そこを通って移動すると、その中のそれぞれのプロダクトイオンに断片化される。その後、断片化デバイスは停止され、例えば第一の態様に関して説明したように、1つ以上のプロダクトイオンのそれぞれの質量が決定される。一例では、断片化デバイスは、以下で説明するように、断片化デバイスに入るとプリカーサーイオンをトラップし、プリカーサーイオンを断片化し、それによってそこから複数のプロダクトイオンを提供し、任意選択で、以下で説明するように、複数のプロダクトイオンをトラップし、複数のプロダクトイオンのそれぞれのイオンエネルギーを増加させるように構成されると、複数のプロダクトイオンは、複数のプロダクトイオンのそれぞれの質量を決定するために増加したそれぞれのイオンエネルギーを有する断片化デバイスを出る。すなわち、プリカーサーイオンはトラップされ、断片化され、結果として生じるプロダクトイオンのイオンエネルギーは、プロダクトイオンのそれぞれの質量をインラインで決定するために増加される。
【0079】
(外部断片化デバイス)
一例では、CDMSは、イオン経路から断片化デバイスにイオンを排出するための手段を備える。すなわち、断片化デバイスは、イオン経路が断片化デバイスを横断しないように、静電セクタ場イオントラップの外側にある。換言すれば、断片化デバイスは、静電セクタ場イオントラップに対して外部又はオフラインであるものとして説明され得る。すなわち、イオンが断片化デバイスに入り、イオンがそこから出ることは、それぞれイオン経路から間接的、及びイオン経路へ間接的である。例えば、1つ以上のプリカーサーイオンのそれぞれの質量は、例えば、第一の態様に関して説明したように決定される。イオン経路は断片化デバイスを介さないので、断片化デバイスは、起動又は停止され得る。その後、プリカーサーイオンはイオン経路から断片化デバイスに排出され、断片化デバイスは起動される(すなわち、1つ以上のプリカーサーイオンを断片化するように第二の状態に構成される)と、1つ以上のプリカーサーイオンはその中のそれぞれのプロダクトイオンに断片化される。その後、プロダクトイオンが断片化デバイスからイオン経路に注入され(すなわち導入され)、例えば第一の態様に関して説明したように、1つ以上のプロダクトイオンのそれぞれの質量が決定される。一例では、イオンを排出するための手段は、イオン経路から断片化デバイスにプリカーサーを排出するように構成され、断片化デバイスは、以下で説明するように、排出されたプリカーサーイオンを断片化デバイスに入るとトラップし、プリカーサーイオンを断片化し、それによってそこから複数のプロダクトイオンを提供し、以下で説明するように、任意選択で複数のプロダクトイオンをトラップし、複数のプロダクトイオンのそれぞれのイオンエネルギーを増加させ、複数のプロダクトイオンのそれぞれの質量を決定するために、増加したそれぞれのイオンエネルギーを有する複数のプロダクトイオンをイオン経路に注入(すなわち、導入)するように構成される。すなわち、プリカーサーイオンが排出され、プリカーサーイオンがトラップされ、断片化され、結果として生じるプロダクトイオンのイオンエネルギーがオフラインで増加し、プロダクトイオンがプロダクトイオンのそれぞれの質量を決定するためにイオン経路に注入される。一例では、イオンをイオン経路から断片化デバイスに排出するための手段は、1つ以上の偏向電極及び/又は偏向/集束場を備え、及び/又はそれであり、例えば、以下で説明するように、直交Y方向に印加される。一例では、静電セクタ場イオントラップは、イオン経路から排出されたイオンを出すためのイオン出口を備える。イオン出口は、イオン入口に関して記載した通りであってもよい。一例では、イオン入口は、イオン出口を提供し、すなわち、結合されたイオン入口/出口を提供する。
【0080】
一例では、断片化デバイスは、例えば、プリカーサーイオンを静電セクタ場イオントラップに導入することに関して説明したように、プロダクトイオンをイオン経路にパルス化することによってプロダクトイオンをイオン経路に導入するように構成される。このようにして、プロダクトイオンは、空間的に分離されたイオンのペンシルとして静電セクタ場イオントラップに入り、それによってその質量決定を改善する。
【0081】
一例では、断片化デバイスは、前述のように、イオン経路に導入されるイオンのイオンエネルギーを増加させるように構成されたリフトデバイスと組み合わされる。すなわち、断片化デバイス及びリフトデバイスは、単一のデバイスとして組み合わされてもよく、その機能は、独立して又は依存して行われてもよく、例えば、プリカーサーイオンについては断片化なしでリフトのみで行われても、あるいはプロダクトイオンについては断片化及びリフトで行われてもよい。
【0082】
(イオン単離光学デバイス)
一例では、CDMSは、断片化デバイスによる断片化のためにプリカーサーイオンを単離するように構成されたイオン単離光学素子を備える。このようにして、CDMSによって決定された質量又は質量電荷比m/zを有する特定のプリカーサーイオン、例えば、空間的に分離されたプリカーサーイオンのペンシル等の複数のプリカーサーイオンは、その特定のプリカーサーイオンについて構造情報が得られ得るように、断片化デバイスによる断片化のために選択され、それによって、前述のように、光断片化を含む従来のCDMSの欠点を克服する。質量窓内のCDMSによって決定された質量を有する複数のプリカーサーイオンは、断片化デバイスによる断片化のために選択されてもよい。一例では、質量窓は、CDMSによるイオン集団の質量の決定に基づいて選択されてもよく、質量窓は、下限質量閾値及び上限質量閾値を有する。一例では、イオン単離光学素子は、断片化デバイスによる断片化のために、1つのプリカーサーイオン種(すなわち、特定の質量又は特定の質量電荷比m/zを有する単一のプリカーサーイオン又は複数のプリカーサーイオン)又は複数のプリカーサーイオン種(すなわち、質量窓内の質量を有する複数のプリカーサーイオン)を単離するように構成される。一例では、イオン単離光学素子は、単離されるプリカーサーイオン以外のイオンの損失を引き起こすことによって、例えば、これらの他のイオンをイオン単離光学素子及び/又は静電セクタ場トラップ内で不安定にすることによって、プリカーサーイオンを単離するように構成される。
【0083】
一例では、イオン単離光学素子は、四重極レンズ、アインツェルレンズ、偏向板を備え、及び/又はそれらであり、及び/又は静電セクタ場イオントラップによって提供され、あるいはそれらの組み合わせである。一例では、四重極レンズは、集束電圧、デフォーカス及び/又は偏向電圧を使用して1つ以上のプリカーサーイオンを単離し、単離される1つ以上のプリカーサーイオンを選択的に集束し、単離される1つ以上のプリカーサーイオン以外のイオンを選択的にデフォーカスし、及び/又は単離される1つ以上のプリカーサーイオン又は単離される1つ以上のプリカーサーイオン以外のイオンをそれぞれ選択的に偏向するように構成される。一例では、アインツェルレンズは、集束電圧を使用して1つ以上のプリカーサーイオンを単離し、単離される1つ以上のプリカーサーイオンを選択的に集束させるように構成される。一例では、偏向板は、単離される1つ以上のプリカーサーイオンを選択的に偏向させるように、又は単離される1つ以上のプリカーサーイオン以外のイオンを選択的に偏向させるように構成される。一例では、静電セクタ場イオントラップは、その質量電荷比m/zに従って印加される振動電圧によって1つ以上のプリカーサーイオンを単離し、1つ以上のプリカーサーイオン以外のイオンをその中で不安定にするように選択させるように構成される。このようにして、質量窓内に質量電荷比m/z又はその高調波を全て有する単一のプリカーサーイオン又は複数のプリカーサーイオン、あるいは質量電荷比m/z又はその高調波を全て有する複数のプリカーサーイオンが、単離されるか、又はそれぞれ単離される。一例では、イオン単離光学素子は、例えば、参照により全体が本明細書に組み込まれる[19]の中でVerenchikovによって記載されているように、静電セクタ場イオントラップ内のプリカーサーイオンの振動周波数、例えばその高調波に従って、その質量電荷m/zに従って電界を印加することによってプリカーサーイオンを単離するように構成される。より詳細には、Verenchikov[19]は、イオンが等時性オープントラップに通される、共鳴質量分析計(Resonance Mass Spectrometer)と称するデバイスを提案した。オープントラップとは、イオンがトラップ内で第一の方向に多数の振動を受けることを意味する。デバイスは、二次元電場を利用してこれらの二次元のイオンをトラップするが、イオンは全て第三の次元に進み、デバイスから破壊検出器に出ることができる。イオン経路は閉鎖されないので、オープントラップという用語が使用される。異なる質量電荷比のn個のイオンのセットは、固有の振動周波数{f1,f2,…,fn}を有し、各周波数は、分析器を通る等時性通過時間の逆数である。選択された周波数Fの高周波偏向場を印加することによって、その周波数Fの高い数高調波を有するイオンのみが、オープントラップを通過して検出器に到達することを可能にされる(すなわち、選択される)。すなわち、固有の周波数fiを有するイオンは、以下の条件:
F=N×fi 又は F=(N+0.5)×fi
を満たさなければならない。式中、Nは整数であり、fiは選択されたイオンの振動の周波数である。
【0084】
Verenchikovの特許は、イオンが電子増倍管(EMT)又はマイクロチャネルプレート(MCP)等の破壊的検出器によって検出される前に、イオンがデバイスを通って直交方向に進行するときにイオンが変調されることを可能にするオープントラップに必要な実質的に二次元の場を利用する。対照的に、第一の態様及び第三の態様によるCDMSは、閉じたトラップであり、特に誘導検出を有する閉じた三次元イオントラップである。イオンは、静電セクタ場トラップの無電界領域に配置された偏向場によって変調され得、[19]と同じ原理で固有の種(すなわち、選択された質量窓内の質量を有する1つ又は複数のプリカーサーイオンである)の選択を可能にする。単離後、選択された種は、前述のように、断片化デバイスにおけるその後の断片化のために静電セクタ場トラップの外に出され得る。得られた断片又はプロダクトイオンの集団は、次いで、タンデム質量分析のために静電セクタ場トラップに戻して再加速され得る。第一の態様に関して説明したように、静電セクタ場イオントラップは、比較的高い空間電荷容量を有し、歪みのない断片集団の正確な同時質量決定を可能にする。複数のプリカーサーイオンの選択は、第一及び第三の態様によるCDMSの比較的高い空間電荷容量を利用することができる。
【0085】
(MSn)
一例では、CDMSは、さらなる構造解明のためにn次プロダクトイオンを繰り返し単離及び断片化することによってイオンのMSn実験を実行するように構成される。
【0086】
(リアルタイム)
一例では、質量の決定は、リアルタイムフーリエ変換処理を含む。このようにして、単離に必要な共振周波数の早期表示を信号の検査から決定することができ、単離をより迅速に行うことができる。選択された種を効率的に単離すると、実験サイクル時間を加速することが可能になり、したがって、CDMSチャンバ内の残留ガス分子との衝突によって所望の種を損失する可能性が少なくなる。
【0087】
(好ましい実施例)
1つの好ましい実施例では、電荷検出質量分析計(CDMS)は、
静電セクタ場イオントラップ及び誘導電荷検出器であって、
静電セクタ場イオントラップが誘導電荷検出器を介してイオン経路を少なくとも部分的に画定するように構成される、静電セクタ場イオントラップ及び誘導電荷検出器と、
断片化デバイスと、
を備え、
静電セクタ場イオントラップは、第一の静電セクタ及び第二の静電セクタを含む静電セクタのセットを備え、第一の静電セクタ及び第二の静電セクタは、イオン経路によって横断される無電解領域によって相互に離間され、静電セクタ場イオントラップは、周期的構造であり、閉鎖イオン経路を少なくとも部分的に画定し、その結果、閉鎖イオン経路の周囲のイオンは、例えば、整数又は非整数のターンだけ繰り返し移動し、
CDMSは、P個のプリカーサーイオンの集団をイオン経路に導入するための手段を備え、Pは1より大きい自然数であり、プリカーサーイオンの集団は、それぞれイオン経路の一部に沿って実質的にランダムな離散初期位置を採り、その結果、プリカーサーイオンの集団は、概して、相互に空間的及び/又は時間的にその周囲で同時に分離されて、移動し、
CDMSは、断片化デバイスによる断片化のために、特定の1つ又は複数のプリカーサーイオン種を単離するように構成されたイオン単離光学素子を備え、イオン単離光学素子は、静電セクタ場イオントラップ内の特定の1つ又は複数のプリカーサーイオンの振動周波数、例えばその高調波に従って、その質量電荷m/zに従って電界を印加することによって特定の1つ又は複数のプリカーサーイオンを単離するように構成され、
CDMSは、イオン経路から断片化デバイスにイオンを排出するための手段を備え、イオンを排出するための手段は、イオン経路から断片化デバイスに特定の1つ又は複数のプリカーサーイオンを排出するように構成され、断片化デバイスは、排出された特定のプリカーサーイオンを断片化デバイスに入るとトラップし、特定の1つ又は複数のプリカーサーイオンを断片化し、それによってそこから複数のプロダクトイオンを提供し、以下で説明するように、任意選択で複数のプロダクトイオンをトラップし、複数のプロダクトイオンのそれぞれのイオンエネルギーを増加させ、複数のプロダクトイオンのそれぞれの質量を決定するために、増加したそれぞれのイオンエネルギーを有する複数のプロダクトイオンをイオン経路に注入するように構成される。
【0088】
(方法)
第四の態様は、イオンの質量を決定する方法を提供し、この方法は、
静電セクタ場イオントラップによって、誘導電荷検出器を介して、少なくともそれによって部分的に画定されるイオン経路の周囲でプリカーサーイオンを移動させるステップと、
移動するプリカーサーイオンによって、誘導電荷検出器において信号を誘導するステップと、
誘導された信号を使用して、プリカーサーイオンの質量を決定するステップと、
プリカーサーイオンを断片化し、そこからプロダクトイオンを提供するステップと、
プロダクトイオンの質量を決定するステップと、
を含む。
【0089】
プリカーサーイオン、イオン経路、誘導電荷検出器、静電セクタ場イオントラップ、断片化、及び/又はプロダクトイオンは、第三の態様に関して説明したようなものであり得る。一例では、第四の態様による方法は、第三の態様によるCDMSを使用して実行される。
【0090】
一例では、この方法は、
1. 異なる質量電荷比を有するイオンの集団(すなわち、イオン集団)を、好ましくは互いに空間的に分離されたイオンのペンシルとして、静電セクタ場イオントラップに導入するステップと、
2. 静電セクタ場イオントラップによって、誘導電荷検出器を介してイオン経路の周囲にイオン集団を移動させるステップと、移動するイオン集団によって、誘導電荷検出器においてそれぞれの信号を誘導するステップと、イオン集団のそれぞれの質量を、イオン集団の測定されたそれぞれの基本振動周波数及びそれぞれの誘導信号を使用して決定するステップと、
3. イオン集団から単一の質量種(すなわち、単離されるプリカーサー)又は複数の質量種(すなわち、選択された質量窓内の質量を有する、単離される複数のプリカーサーイオン)を選択するステップと、
4. イオン集団に含まれる他のイオンを排出するために、選択された種の振動周波数の選択された高調波でイオン経路に振動偏向及び/又は(非)集束場を印加するステップと、
5. 任意選択で、選択された種を、その排出に備えて比較的狭い「Z」軌道に閉じ込めるようにレンズ電位を調整するステップと、
6. 例えば、周波数及び/又は位相情報の使用によって時間調整された静電セクタ場イオントラップのそのセットの静電セクタの電位を、例えば、低減することによって、選択された種を上流又は下流で静電セクタ場イオントラップから断片化デバイスに排出するステップと、
7. 断片化デバイスを使用して、選択された種を断片化し、それによって、そこからプロダクトイオン集団を提供し、任意選択で、プロダクトイオン集団のそれぞれのイオンエネルギーを制御する(例えば、増加させる)ステップと、
8. 好ましくは空間的に分離されたイオンのペンシルとして、プロダクトイオン集団を静電セクタ場イオントラップに導入するステップと、
9. イオン集団に関して説明したように、変更すべきところは変更して、プロダクトイオン集団のそれぞれの質量を決定するステップと、
10. 任意選択で、ステップ3~9を繰り返してMSn分析を提供するステップと、
を含む。
【0091】
(CDMS)
第五の態様は、電荷検出質量分析計(CDMS)を提供し、CDMSは、
静電イオントラップ及び誘導電荷検出器であって、静電イオントラップは、誘導電荷検出器を介してイオン経路を少なくとも部分的に画定するように構成される、静電イオントラップ及び誘導電荷検出器と、
断片化デバイスと、
イオン経路から断片化デバイスにイオンを排出するための手段と、
断片化デバイスからイオン経路にイオンを注入するための手段と、
を備える。
【0092】
第三の態様によるCDMSとは対照的に、第五の態様によるCDMSは、静電セクタ場イオントラップ等の静電イオントラップを備え、それによって、参考文献[2]、[3]、[17]及び[18]によって記載されるようなコーントラップ及びELITを含む。しかしながら、第五の態様によるCDMSの断片化デバイスは、第三の態様に関して説明したような外部断片化デバイスを備え、及び/又は外部断片化デバイスであり、それによって、前述のような光断片化を含む従来のCDMSの欠点を克服する。
【0093】
第五の態様によるCDMSは、変更すべきところは変更して、第三の態様によるCDMSに関して説明されたようなものであり得る。
【0094】
(方法)
第六の態様は、イオンの質量を決定する方法を提供し、この方法は、
静電セクタ場イオントラップによって、誘導電荷検出器を介して、少なくとも部分的にそれによって画定されるイオン経路の周囲でプリカーサーイオンを移動させるステップと、
移動するプリカーサーイオンによって、誘導電荷検出器において信号を誘導するステップと、
誘導された信号を用いてプリカーサーイオンの質量を決定するステップと、
プリカーサーイオンを断片化し、そこからプロダクトイオンを提供するステップであって、イオン経路から断片化デバイスにプリカーサーイオンを排出し、その中でプリカーサーイオンを断片化してプロダクトイオンを提供し、断片化デバイスからイオン経路にプロダクトイオンを排出することを含む、ステップと、
プロダクトイオンの質量を決定するステップと、
を含む。
【0095】
第六の態様による方法は、変更すべきところは変更して、第五の態様による方法に関して記載されたようなものであり得る。一例では、第六の態様による方法は、第五の態様によるCDMSを使用して実行される。
【0096】
(定義)
本明細書を通して、用語「備えている」又は「備える」は、特定された成分を含むが、他の成分の存在を排除するものではないことを意味する。用語「から本質的になっている」又は「から本質的になる」は、特定された成分を含むが、不純物として存在する材料、成分を提供するために使用されるプロセスの結果として存在する不可避の材料、及び着色剤等の本発明の技術的効果を達成する以外の目的のために添加される成分を除く他の成分を除外することを意味する。用語「からなっている」又は「からなる」は、特定された成分を含むが、他の成分を除外することを意味する。適切な場合、文脈に応じて、「備える」又は「備えている」という用語の使用は、「から本質的になる」又は「から本質的になっている」という意味を含むと解釈されてもよく、また「からなる」又は「からなっている」という意味を含むと解釈されてもよい。本明細書に記載される任意の特徴は、必要に応じて、特に添付の特許請求の範囲に記載されるような組み合わせで、個々に使用されても、又は互いに組み合わせて使用されても、そのいずれでもよい。本明細書に記載される本発明の各態様又は例示的な実施形態の任意選択の特徴は、また、適切な場合、本発明の全ての他の態様又は例示的な実施形態にも適用可能である。換言すれば、本明細書を読む当業者は、本発明の各態様又は例示的な実施形態の任意選択の特徴を、異なる態様及び例示的な実施形態との間で交換可能かつ組み合わせ可能なものとして、見なすべきである。
【図面の簡単な説明】
【0097】
本発明をよりよく理解するために、また本発明の例示的な実施形態をどのように実施し得るかを示すために、単なる例として、添付の図面を参照する。
【0098】
【
図1B】
図1Aの従来のCDMSに基づく従来のCDMSを概略的に示す。
【
図2A】トロイダルセクタ場を採用する従来の静電セクタ場を図式的に描写する。
【
図2B】トロイダルセクタ場を採用する従来の静電セクタ場を図式的に描写する。
【
図3】例示的な実施形態で、フリンジ場を制御するためのシャントをさらに備える静電セクタ場イオントラップを概略的に示す。
【
図4A】例示的な実施形態に従うCDMSを概略的に示す。
【
図4B】CDMSのためのイオン軌道の軌跡の上方、側面及び端部からの立面図を概略的に示す。
【
図5A】例示的な実施形態に従って、軸(z)次元にイオンを閉じ込めるために原点にレンズを含むCDMSを概略的に示す。
【
図5B】CDMSのためのイオン軌道の軌跡の上方、側面及び端部からの立面図を概略的に示す。
【
図5C】CDMSのためのイオンのSIMIONシミュレーションの斜視図である。
【
図5D】CDMSの軸方向断面図をより詳細に示す。
【
図5E】CDMSの一部の切り抜き斜視CAD画像をより詳細に示す。
【
図5F】CDMSの一部の分解斜視CAD画像をより詳細に示す。
【
図5G】CDMSの軸方向断面図をより詳細に示す。
【
図6】従来のCDMSと比較した、
図5A~5CのCDMS5の理想からのイオンエネルギー偏差(%)の関数としての周波数の変化(%)のグラフである。
【
図7】例示的な実施形態に従うCDMSについて、フーリエ変換における高調波の強度を高めるための、比較的狭い電荷検出器管の利点を概略的に示す。
【
図8】例示的な実施形態に従うCDMSについて、分析器通過当たりの過渡の数を増加させるためのセグメント化された電荷検出器管を概略的に示す。
【
図9】例示的な実施形態に従って、リフトデバイスを備えるCDMSを概略的に示す。
【
図10】例示的な実施形態に従うCDMSを概略的に示す。
【
図11】例示的な実施形態に従うCDMSを概略的に示す。
【
図12】例示的な実施形態に従うCDMSを概略的に示す。
【
図13】例示的な実施形態に従うCDMSを概略的に示す。
【
図14】例示的な実施形態に従うCDMSを概略的に示す。
【
図15】例示的な実施形態に従う方法を概略的に示す。
【
図17A】原点にイオン単離光学素子を含む例示的な実施形態に従うCDMSにおいて、イオンを軸方向(z)次元に閉じ込めるために、そのレンズに電圧を印加する際のイオン軌道の軌跡の側面及び端部からの立面図を概略的に示す。
【
図17B】レンズに絶縁電圧を印加する際のイオン軌道の軌跡の側面及び端部からの立面図を概略的に示す。
【
図17C】イオンを軸方向(z)次元にさらに閉じ込めるために、レンズに電圧を印加した後のイオン軌道の軌跡の側面及び端部からの立面図を概略的に示す。
【
図18】例示的な実施形態に従うCDMS18を概略的に示す。
【
図19】例示的な実施形態に従うCDMS18を概略的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0099】
図1Aは、従来のCDMS10を概略的に示し、
図1Bは、
図1Aの従来のCDMS10に基づく従来のCDMS20を概略的に示す。
【0100】
図1Aは、より詳細には、Contino及びJarroldによるCDMS10[1]を概略的に示す。CDMS10は、エレクトロスプレー源1を含み、4つの差動ポンプ領域(I~IV)に分割される。第一の領域Iはイオン漏斗2を含み、第二の領域II及び第三の領域IIIはそれぞれ六極子イオンガイド3を含み、第四の領域IVは集束レンズ4を介したイオンのための2つの代替経路を提供し、直交リフレクトロン飛行時間型質量分析計(TOF-MS)5又はデュアル半球偏向分析器(HDA)6の後には、像電荷検出器管を組み込んだコーントラップ7が続く。コーントラップ7内のイオンの発振周波数は、イオンのm/zに関係するが、イオンの運動エネルギーにも依存する。m/z決定における不確実性を低減するために、デュアルHDA6を用いて、コーントラップ7に導入するイオン運動エネルギーの狭い窓を選択した。HDA6は、2つの同心半球電極からなり、そのそれぞれは、180°の偏向角ψ
0を有し、異なる電位に保持され、1/r
2に比例する電界を生成する。
図1Aに示すように、2つの半球状電極は、S字形のタンデム配列に配置され、したがって、開放(例えば、閉鎖)イオン経路を画定し、イオンビームが、退出時にその元の方向を維持することを可能にする。2つの半球状電極に印加される電極電位は、どの運動エネルギーが通過するか、したがって、どのイオンが濾過されるかを決定する。これらの電極電位、並びに入口及び出口開口の位置及び直径を慎重に選択することにより、デュアルHDA6のエネルギー分解能が改善される。コーントラップ7は、直径6.35mmの開口を有し、95.25mm離れて位置する2つの円錐形エンドキャップからなり、それによって、静電線形イオントラップを提供する。コーントラップ7に入るイオンの数は、複数のイオンをトラップする確率が少なくなる程度に低く保たれた。電荷検出器管(長さ25.4mm、ID6.35mm)を、遮蔽シリンダー内に取り付けられた絶縁体によって中心軸に沿って保持された。イオンが検出器管を通過するとき、等しい大きさだが反対の符号の像電荷が誘起される。
【0101】
図1Bは、参考文献[3]の円筒形ELITトラップ(すなわちCDMS20)の従来技術の幾何学的形状をより詳細に概略的に示している。このELITは、電荷検出器管(C)が位置する端部キャップ間に電界のない領域を形成するために、そのそれぞれの入口に接地されたシールドリング電極(GS)を有する2つの互いに対向する等間隔の3電極ミラー(E1、E2、E3)を備える。リング電極V1、V2、V3にそれぞれ印加される電位V1、V2、V3は、平均130eV/zのガウスエネルギー分布及び1eV/zのFWHMを有する100個の軸方向イオンについて振動周波数の最小幅を生成するように最適化された。このELITは、CDMS10のコーントラップ7と比較して実質的に改善されたエネルギー依存性を有し、CDMS10のコーントラップ7に取って代わる。すなわち、CDMS20は、また、イオンエネルギー拡散による発振周波数の変動が最小限に保たれるように、デュアル半球静電エネルギーセレクタ(すなわち、デュアルHDA6)からなる上流エネルギーフィルタリングデバイスを必要とする。イオンのより低いエネルギー拡散を選択すると、CDMS20の全体的な透過が減少する。CDMS10と同様に、ELITに入るイオンの数は、複数のイオンをトラップする確率が小さくなるように低く保たれた。
【0102】
本発明の目的は、イオンの大部分をCDMSトラップ内に入れることによって、イオン透過を改善することである。
【0103】
図2A及び
図2Bは、トロイダルセクタ場を採用する従来の静電セクタ場を概略的に示す。
【0104】
本発明の発明者は、静電場による飛行時間型エネルギー集束を考慮したPoschenrieder[4]によって最初に提案された幾何学的形状を採用することによって、より良好なエネルギー集束特性が達成され得ることを認識した。特に、Poschenriederは、飛行時間がもはや一次に対する初期エネルギーの関数ではなく、質量電荷比m/zのみの関数である、線形ドリフト空間及び場の構成を考慮した。そのような構成は、等時性としても知られている。ほぼ等しいエネルギーのイオンについては、軌道が全ての質量に対して同じであるべきでなので、静電場が使用されるべきである。Poschenriederは、処置をトロイダルセクタ場に限定したが、他の構成も、以下で説明されるように可能である。
【0105】
Poschenriederの研究は、飛行時間型質量分析のための初期イオン条件を補償するための特別な配置におけるトロイダルセクタ場の使用を提案した。
図2A及び
図2Bは、そのような配置の一般的な形態を示す。デバイスは、半径方向(
図2A)及び軸方向(
図2B)の両方の視点から考慮され、それぞれ、電場のための異なる曲率半径を伴い、したがって、それらは、トロイダルセクタ場分析器として公知である。DC電位V1は、半径方向平面内に半径R1を有する内側電極に印加され、DC電位V2は、半径方向平面内に半径R2を有する外側電極に印加される。イオン光軸は、半径方向平面において半径R0を有する。デバイスは、それぞれ半径方向に幅u
0、軸方向に幅w
0を有するスリットによって有効に区切られた、半径方向に偏向角ψ
0、受容角2α
0を有し、軸方向に受容角2ωを有する。等時性平面は、デバイスの入口及び出口から距離g
rで、イオン光軸に対して角度ηで配置され、そこでのイオンの点集束を提供する。この論文は、飛行時間(TOF)分析器として操作されることを意図した幾つかの幾何学的形状を提示し、それによって、イオンのパケット(クラウドとしても知られる)が入口開口を通して注入され、電子増倍管又は同様の破壊検出器を使用して出口平面で検出される。電気セクターTOF分析器は、それらの非点収差特性に起因して、TOF-SIMS機器等の撮像用途における用途を見出した[5]。しかしながら、それらは、それらのエネルギー集束特性が一次に限定されるため、直交加速(oa)TOF分析器の主流用途にはあまり適していない。これは、直交加速が、リフレクトロンベースのTOF分析器によってより良好に補償されるイオンビーム内の非常に大きいエネルギー拡散をもたらすからである[6]。CDMS機器の特定の場合では、直交加速の必要性がないため、イオンエネルギーの変動は、上流ビーム調整によって決定されるビームエネルギーの長手方向の変動によってのみ与えられる。数パーセントの典型的なエネルギー変動は、静電セクタ場イオントラップの一次エネルギー集束特性によって容易に適応させることができ、これは、[3]で実証されたものよりも優れている。静電セクタ場イオントラップは、イオンが加速エネルギーによって決定される実質的に一定の速度で移動するというさらなる利点を有する。これは、イオンがミラーセクション内で回転する際に低速に減速しなければならない反射ベースのデバイスと比較した場合に、セクタの空間電荷容量を改善する。
【0106】
TOF MS用にPoschenriederによって提案された特定の幾何学的形状(しかし、TOF MS注入及び検出には依然として問題がある)及びそれに対する改良は、本発明者によって初めて理解されるように、例示的な実施形態に従うCDMS用の静電セクタ場イオントラップを提供する。
【0107】
静電セクタ場に入った後に、イオンエネルギー
【数3】
で質量mを有する理想的なイオンのイオン速度νは、Poschenrieder[4]の以下の式(7)によって一次に与えられる。
【数4】
式中、
βは、イオンエネルギーE
aまで加速されたイオンについての部分的イオンエネルギー拡散(fractional ion energy spread)であり、ΔE<<E
aで、
β=ΔE/E
a
uは、中心経路u
0からのイオンの偏差で、
h及びkは、以下:
【数5】
によって与えられる補助パラメータであり、
式中、r
0は、中心等電位面の半径方向半径で、ρ
0は、軸方向半径であり、
ψ
0は、限界180°≦ψ
0h≦360°の間のセクタ場の偏向角であり、
α
0は、入射角である。
【0108】
静電セクタ場を通る飛行時間teは、以下:
dt
e=r
0(1+u)(ds)/v
の積分によって得られる。その一次は、Poschenrieder[4]の以下の式(8)を与える。
【数6】
【0109】
入射角α
0に対するt
eの依存性を排除することは、Poschenrieder[4]の以下の式(9)を必要とする。
【数7】
【0110】
この式は、フィールドエッジからのソースポイントの距離grを定義する。grが正の場合、Poschenrieder[4]の式(9)は、限界180°≦ψ0h≦360°の間の偏向角(セクタ角としても知られる)ψ0を有する静電セクタ場を記述する。この静電セクタ場構成は、ψi=ψ0/2における中間像と、出口側のフィールドエッジから距離gr’=grにおけるソース点に対して対称な第二の像とを有する。
【0111】
Poschenrieder[4]の式(9)に従う静電セクタ場は、同時に、第二の画像において一次色収差がない。しかしながら、大きな横方向エネルギー分散が中間像において見出され得るが、送信エネルギー拡散は、ここでは適切な絞りによって制限され得る。
【0112】
静電セクタ場内の部分的イオンエネルギー拡散β=ΔE/E
aによる飛行時間Δt
eの分散は、以下のPoschenrieder[4]の式(10)によって与えられる。
【数8】
【0113】
長さDの線形ドリフト管に沿った分散Δt
Dは、以下のPoschenrieder[4]の式(11)によって簡略に与えられる。
【数9】
【0114】
静電セクタ場がこの人から解放されるためには、Δt
e+Δt
D=0である必要があり、これにより、以下のPoschenrieder[4]の式12によって与えられる集束条件が得られる。
【数10】
【0115】
実際の線形ドリフト長Dは、入口側のgrと、出口側のgr’と、いくつかの追加のドリフト範囲dとを含むことができる。
【0116】
したがって、Poschenrieder[4]の式12に従う静電セクタ場は、全長Dの線形ドリフト範囲を含む任意の2つの点について、飛行時間(等時性)のエネルギー依存分散がない。さらに、この静電セクタ場は、フィールドエッジから距離grにある点Gに対して無彩色の放射イメージングを提供する。
【0117】
半径方向の中間像と軸方向の中間像とがψ
i=ψ
0/2で一致する非点収差イメージングを有する静電セクタ場を考える。g
aが、トロイダルセクタ場の指向性集束特性から、軸方向集束のためのフィールドスリットからの入口の距離を表す場合、フィールドエッジからのソース点の距離g
rは、以下のPoschenrieder[4]の式20によって与えられる。
【数11】
【0118】
したがって、h=k及びc=1となり、これは、球面コンデンサ場に対応する。Poschenrieder[4]の式12及びD=2g
r=2g
aの設定から、以下のPoschenrieder[4]の式21が得られる。
【数12】
【0119】
グラフ解により、以下の値が得られる。
ψ0=199.2°
gr=5.9r
【0120】
この静電セクタ場について、
図3に概略的に示すように、光源とその画像は正確に一致し、その結果、時間と空間の焦点合わせは一致する。Poschenrieder[4]は、この静電セクタ場がTOF質量分析計にあまり適していないことに注目したが、逆に、本発明者は、この静電場が代わりに静電場イオントラップに適していることを認識した。特に、この静電セクタ場は、エネルギーに関して完全に等時性であり、分解能は、もはやスリット幅に依存しない。偏向角ψ
0=199.2°及び距離g
r=5.9rのこれらの値は、図式的に得られ、したがって、計算の算出方法は、改良された解を提供し得ることに留意されたい。さらに、構築された幾何学的形状は、ある程度までこれらの値の間の相互作用を可能にし、及び/又は残留又はフリンジ場を含む他の電場を補償してもよい。しかしながら、距離g
rは、真の非点収差性能を達成するために重要であり得る。
【0121】
Poschenriederの論文[4]は、ビーム初期条件(全てゼロから一次まで)に関する等時性(時間収差)に焦点を当てているが、その非点(空間)収差の扱いは、かなり限定的であった。Poschenrieder[4]は、「位置に対する角度」又は「エネルギーに対する角度」の空間収差を考慮していないように思われる。しかしながら、CDMSの非点収差(イメージング)要件は、CDMSの等時性要件と比較して二次的である。つまり、非点収差の要件は、誘導電荷検出のための十分に安定したイオン軌道であり、好ましくは、本明細書に記載されるような比較的狭い電荷管の使用を可能にし、イオン経路から離れる方へ動くイオンから生じるイオン損失を回避する。
【0122】
図3は、例示的な実施形態で、フリンジ場を制御するためのシャントをさらに備える静電セクタ場イオントラップ30を概略的に示す。
図3~
図14には、デカルト座標系(x,y,z)が適宜採用されている。
【0123】
この例では、静電セクタ場イオントラップ30は、第一の静電セクタ31A及び第二の静電セクタ31Bを含む静電セクタ31のセットを備える。この例では、第一の静電セクタ31Aは、球形の静電セクタである。この例では、第一の静電セクタ31Aと第二の静電セクタ31Bとは、互いに対向している。この例では、静電セクタ31のセットは、第一の静電セクタ31A及び第二の静電セクタ31Bのみを含む。この例では、第一の静電セクタ31Aは、第一の静電セクタ31Aによる場の境界を定めるように配置された第一のシャント32Aを含むシャント32のセットを備える。この例では、静電セクタ場イオントラップ30は、等時性である。この例では、静電セクタ場イオントラップ30は、3つの相互直交次元でイオン経路IPを画定するように構成される。この例では、静電セクタ場イオントラップ30によって画定されるイオン経路は、クロスオーバーを含む。この例では、静電セクタ場イオントラップ30は、特に第一の静電セクタ31Aの外側電極に設けられた、イオン経路にイオンを導入するためのイオン入口33を備える。この例では、第一の静電セクタ31Aの偏向角はψ0=199.2°である。この例では、無電界領域は、中央交差点(すなわち、原点は、焦点が達成される点である)までの長さgr=5.9rを有する。この例では、静電セクタ場イオントラップ30は、原点を通るx軸の周りに回転対称性を有する。この例では、静電セクタ場イオントラップ30は、原点を通るy-z平面において対称である。この例では、基本ユニットは、2つのドリフト空間(すなわち、それぞれの長さがgr=5.9rである2つの無電界領域)と、球状静電セクタ31A、31Bとを備える。この例では、第一の静電セクタ31Aの外側電極は23mmの内半径を有し、第一の静電セクタ31Aの内側電極は17mmの外径を有し、その結果、その間に6mmの球状半径方向間隙がある。第一のシャント32Aは、幅4mmのトロイダル開口を有し、それによって、第一の静電セクタ31Aの中への比較的大きい入口開口を提示する。第二の静電セクタ31Bは、概して第一の静電セクタ31Aに関して説明した通りであるが、イオン入口33を含まない。
【0124】
図3は、2つの対向する球面セクタ31A、31Bの特別な場合(半径方向場及び軸方向場について同じ曲率)をより詳細に示し、そのそれぞれが偏向角ψ
0=199.2°であり、中央クロスオーバー点(つまり点焦点)までの距離が5.9R
0(つまりg
r=5.9r)のフィールドフリー領域を有する。Poschenriederは、この配置の閉じた経路が、従来のTOF分析のための注入及び検出に問題があることを証明することができ、注入及び検出手段により適した開放幾何学的解決策を提案し始めたことを理解した。すなわち、Poschenriederは、イオンを導入するためのイオン導入口33を提案しなかった。さらに、Poschenriederは、フーリエ変換質量分析計で採用されるような誘導検出のためのそのような分析器の使用を提案しなかった。発明者の知る限りでは、フーリエ変換トラップにおけるイオンの小さな雲の誘導検出のためのトロイダル場の使用は、8つの45°のトロイダルセクタを使用する配置において、Wollnik[7]によって最初に提案されたが、そうでなければ、TOF MS分析器のためのリング形成に配置された未知の形状であった。また、後者では、Verenchikovは、フーリエ変換検出を伴うトロイダル場の使用を提案した[8]。しかしながら、これらの2つの提案のいずれも、CDMSのためにそのような幾何学的形状を使用することを考慮していない。
【0125】
図3の構成では、イオンは、第一の静電セクタ31Aの電極の電位が接地レベルに保持されている間に、第一の静電セクタ31Aの外側電極の穴(すなわち、イオン入口33)を通して注入される。トラップが満たされると、これらの電位は、それらの動作レベルまで上がり、トラッププロセスが開始される。第一の静電セクタ31Aの電極の電場を終端するためにシャント32A、32Bを追加することに留意されたい。シャント32A、32Bがないと、無電界領域に漏れ、静電セクタ場イオントラップの動作が破壊される。この特定のシャント形状は、当技術分野において公知であり、1935年にHerzogによって提案された(Yavor pp230[9]を参照)。
【0126】
図4Aは、例示的な実施形態に従うCDMS4を概略的に示し、
図4Bは、CDMS4のためのイオン軌道の軌跡の上方、側面及び端部からの立面図を概略的に示す。
【0127】
この例では、CDMS4は、静電セクタ場イオントラップ40及び誘導電荷検出器400を備え、静電セクタ場イオントラップ40は、誘導電荷検出器400を介して、イオン経路を少なくとも部分的に画定するように構成される。
【0128】
静電セクタ場トラップ40は、
図3に関して説明したような静電電界イオントラップ30について説明した通りであり、その説明は、簡潔にするために省略する。同様の参照符号は、同様の整数を示す。
【0129】
この例では、静電セクタ場イオントラップ40は、第一の静電セクタ41A及び第二の静電セクタ41Bを含む静電セクタ41のセットを備える。この例では、第一の静電セクタ41Aは、球状の静電セクタである。この例では、基本ユニットは、2つのドリフト空間と、球状静電セクタとを備える。この例では、第一の静電セクタ41Aと第二の静電セクタ41Bとは、互いに対向している。この例では、静電セクタ41のセットは、第一の静電セクタ41A及び第二の静電セクタ41Bのみを含む。この例では、第一の静電セクタ41Aは、第一の静電セクタ41Aによる場の境界を定めるように配置された第一のシャント42Aを含むシャント42のセットを備える。この例では、静電セクタ場イオントラップ40は、エネルギーに関して一次に対して等時性である。この例では、静電セクタ場イオントラップ40は、3つの相互直交次元でイオン経路を画定するように構成される。この例では、静電セクタ場イオントラップ40によって画定されるイオン経路は、クロスオーバーを含む。この例では、静電セクタ場イオントラップ40は、イオンをイオン経路に導入するためのイオン入口43を備える。この例では、第一の静電セクタ41Aの偏向角は、ψ0=199.2°である。この例では、無電界領域は、中心クロスオーバー点(すなわち原点)までの長さgr=5.9rを有する。この例では、第二の静電セクタ41Bは、第一の静電セクタ41Aに関して説明した通りである。この例では、静電セクタ場イオントラップ40は、原点を通るx軸の周りに回転対称性を有する。この例では、静電セクタ場イオントラップ40は、原点を通るy-z平面において対称である。この例では、誘導電荷検出器400は、第一の電荷検出器管410A及び第二の電荷検出器管410Bを含む電荷検出器管の第一のセット410を備える。この例では、長さL及び幅Wを有する第一の電荷検出器管は、長さLと幅Wとの比が3:2~5:2の範囲にあり、例えば2:1である。この例では、誘導電荷検出器400を介したイオン経路の一部は、静電セクタ場イオントラップ40によって画定されるイオン経路の約50%である。
【0130】
SIMION[10]シミュレーションは、
図4Aに示す幾何学的形状で実行され、イオンは、
図4Bに概略的に示すように、それらの初期条件に応じて無期限にトラップすることができた。イオンが狭い軸方向範囲(小さいz)に制限される場合、結果として生じる軌道は、y-z平面内の有限弧となる。再び
図4Aを参照すると、入力イオン条件が軌道Tに沿ったイオンのビームの形態をとることに注目すると、半径方向の復元力が軸方向の復元力よりも強いことが理解され得る。デバイスは、原点を通るx軸に関して回転対称であり、したがって、大きな角度成分β又は軸方向の広がりβを有するイオンは、イオン経路の周囲を多数通過した後、イオン軌道に静電セクタ全体を充填させ、フィールドフリー領域内の中空円錐形状及びセクタ内の球面を形成する。換言すれば、イオンは、ほぼ半球状の端部キャップ(公称199.2°の偏向角ψ
0を有する静電セクタの球状電極間のギャップに対応する)を有する、交差し、相互に対向する一対の円錐又はローブ(lobes)として説明され得る、薄い壁(理想的には、無限小の厚さ)にトラップされる。(CDMSによって必要とされる)分析器を多数通過した後に採用されたイオンビームIP(灰色で示される)の幾何学的投影が、
図4Bに示される。
【0131】
図5Aは、例示的な実施形態に従って、軸z次元にイオンを閉じ込めるために原点にレンズを含むCDMS5を概略的に示し、
図5Bは、CDMS5のためのイオン軌道の軌跡の上方、側面及び端部からの立面図を概略的に示し、
図5Cは、CDMS5のためのイオンのSIMIONシミュレーションの斜視図であり、
図5Dは、CDMS5の軸方向断面図をより詳細に示し、
図5Eは、CDMS5の一部の切り抜き斜視CAD画像をより詳細に示し、
図5Fは、CDMS5の一部の分解斜視CAD画像をより詳細に示し、
図5Gは、CDMS5の軸方向断面図をより詳細に示す。
【0132】
CDMS5は、概して、
図4A及び4Bに関して説明したようなCDMS4に関してした通りであり、その説明は、簡潔にするために省略する。同様の参照符号は、同様の整数を示す。
【0133】
この例では、静電セクタ場イオントラップ50は、第一の静電セクタ51A及び第二の静電セクタ51Bを含む静電セクタ51のセットを備える。この例では、第一の静電セクタ51Aは、球状の静電セクタである。この例では、第一の静電セクタ51Aと第二の静電セクタ51Bとは、互いに対向している。この例では、静電セクタ51のセットは、第一の静電セクタ51A及び第二の静電セクタ51Bのみを含む。この例では、第一の静電セクタ51Aは、第一の静電セクタ51Aによる場の境界を定めるように配置された第一のシャント52Aを含むシャント52のセットを備える。この例では、静電セクタ場イオントラップ50は、エネルギーに関して一次まで等時性である。この例では、静電セクタ場イオントラップ50は、3つの相互直交次元でイオン経路を画定するように構成される。この例では、静電セクタ場イオントラップ50によって画定されるイオン経路は、クロスオーバーを含む。この例では、静電セクタ場イオントラップ50は、イオンをイオン経路に導入するためのイオン入口53を備える。この例では、第一の静電セクタ51Aの偏向角は、ψ0=199.2°である。この例では、無電界領域は、中心クロスオーバー点(すなわち原点)までの長さgr=5.9rを有する。この例では、第二の静電セクタ51Bは、第一の静電セクタ51Aに関して説明した通りである。この例では、静電セクタ場イオントラップ50は、原点を通るx軸の周りに回転対称性を有する。この例では、静電セクタ場イオントラップ50は、原点を通るy-z平面において対称である。この例では、誘導電荷検出器500は、第一の電荷検出器管510A及び第二の電荷検出器管510Bを含む電荷検出器管510の第一のセットを備える。この例では、電荷検出器管の第一のセット510は、10のセグメントを含む軸方向にセグメント化された電荷検出器管を備える。この例では、長さL及び幅Wを有する第一の電荷検出器管は、長さLと幅Wとの比が3:2~5:2の範囲にあり、例えば2:1である。この例では、誘導電荷検出器500を介したイオン経路の一部は、静電セクタ場イオントラップ50によって画定されるイオン経路の約50%である。
【0134】
再び
図4Bを参照すると、回転表面は、いくつかのCDMSの構造に関係するときに潜在的なトポロジー的問題を引き起こす。イオンが中心軸(すなわち、x軸)全体の周りを回転できる場合、誘導電荷検出器500の中心電極又は内側電極、及び/又は第一の静電セクタ51A及び/又は第二の静電セクタ51Bの内側電極の支持は、イオン軌道が三次元でこれらの内側電極を完全に囲むので、問題となり得る。概して、支持体の追加は、イオンを衝突させ、分析器内で可能な振動の数を減少させるであろう。支持体52AS等の1つ以上の支持体は、例えば、内側電極と外側電極との間を架橋してもよく、イオン経路内のその断面積を小さくすることによって、それとの衝突によるイオンの損失を低減してもよい。追加及び/又は代替として、イオン経路は、支持体を回避するように制約されてもよい。したがって、支持体との衝突のこの問題に対する解決策は、イオン経路を少なくとも部分的に第一の次元に拘束するように配置された、第一の焦点レンズを含む静電焦点レンズのセットを含むことである。この例では、3つの電極を備える平面アインツェルレンズ54が、
図5Aにおいて、クロスオーバー点におけるデバイスの中心に示され、z方向(デカルト座標)に追加の焦点合わせを提供する。この第一の焦点レンズを加えた後のイオンの幾何学的投影を
図5B(A)~(C)に示す。球形電極を通る断面は、支持体52ASとともに
図5B(D)に示されている。その結果、イオンは今や有限の角度に閉じ込められ、支持体52ASをイオンビームから離して配置することができ、それによってCDMSの構築が容易になる。
【0135】
図5Aは、デバイス構成のいくつかの典型的な値を有する好ましい実施形態を概略的に示す。130eV/zのイオンエネルギーは、参考文献[3]の技術水準のELITトラップの直接比較を可能にするように選択されている。これらのデバイスの動作電圧(イオンエネルギー)を増加させると、より高い周波数が得られ、結果として、信号対雑音比及び分解能の改善をもたらし得ることを理解されたい。このような方法は、フィールドフリー領域を高電位で動作させる必要があり、電源からのノイズ注入の可能性があるため、未だ使用されていない。
図5Aに示す実施形態では、2つの帯電管510A、510Bは、中央zレンズ54の両側で使用される。再び
図3を参照すると、g
r=5.9rは、中心レンズの両側に比較的長い電界のない領域を与えるので、約100mmの長さの帯電管510A、510Bを使用することが可能になることが分かる。帯電管510A、510Bの断面が示されている。これらの帯電管510A、510Bは、構造上のトポロジー上の問題を示さず、例えばワイヤエロージョン又は放電加工(EDM)として知られる技術を用いて容易に作製することができる。好適なセグメント化帯電管は、
図8に関連して説明される。
【0136】
図5D~
図5Gは、CDMS5をより詳細に示す。この例では、第一の静電セクタ51Aの偏向角は、ψ
0=199.2°である。この例では、第一の静電セクタ51Aは、23mmの内半径及び28mmの外半径を有する外側球状電極51AOと、6mmの球状半径方向間隙が存在するように同心である17mmの外半径を有する内側球状電極51AIとを備える。この例では、外側球状電極51AO及び内側球状電極51AIは、それぞれ同様に、正方形の実質的に平面のフレームの中央に設けられ、304L又は316Lステンレス鋼(あるいは、例えば金被覆ガラス)等のUHV適合性導電体から機械加工され、任意選択で電解研磨される。この例では、シャント52Aは、同様に、そのようなフレーム内に設けられる。各フレームは、外側球状電極51AO、内側球状電極51AI、及びシャント52Aを横方向に位置合わせするために、4つの対応する絶縁体(例えば、アルミナもしくはマコール(RTM)等のセラミック、又はPTFE等のポリマーである)ロッド55A~55D(55C及び55Dは図示せず)上に取り付けるために、その近位隅に形成された4つの円形開口を含む。絶縁体スペーサ56Aは、外側球状電極51AOと内側球状電極51AIとを互いに軸方向に離間させる。外側球状電極51AOは、肉厚が5mmであり、各フレームから準半球状に膨出している。中実の内側球状電極51AIは、各フレームから準半球状に突出し、アインツェルレンズ54によって平坦化された8の字のイオン経路IPにおいて障害物が存在しないように配置された、直径方向に対向する2つの支持体51ASによって支持される。皿形シャント52Aの内側電極は、それぞれのフレームから突出し、概して内側球状電極51AIのための支持体51ASに関して説明されるように、2つの直径方向に対向する支持体52ASによって支持され、それによって、半径方向幅4mmの2つの準半円形開口521A、521B(すなわち、それぞれ、入口及び出口)を提供する。
【0137】
参考文献[3]の従来技術のELITに対する本発明の性能の利点を表1に示す。CDMS5は、参考文献[3]のELITと比較した場合、同等の角度及び空間許容性を有するが、単位時間あたりの過渡現象がより多く、エネルギー許容性が優れている。このエネルギー許容性が大きいことによって、より良好な分解能/感度特性をもたらすことができる。慎重な上流ビームコリメーション及び0.5eV/zのエネルギー拡散により、この実施形態では、数千のシングルパス質量分解能が期待される。
【0138】
【0139】
表1:参考文献[3]の従来技術のELITと比較して、例示的な実施形態によるCDMS5の性能の利点。1ms当たり23.26の過渡現象は、各帯電管の10セグメントに基づく。セグメント化がないと、ms当たりの過渡の数は、2.326に減少する。セグメント化がなくても、CDMS5は、競争力があり、よりシンプルであり、例えば、静電セクタ場イオントラップ50に導入するためのイオン運動エネルギーの狭い窓を選択するために上流デュアルHADを必要としない。逆に、
図9に関連して説明するように、リフトデバイスを用いてさらに多数の過渡現象を達成することもできる。
【0140】
図5Cは、イオンの損失のない、数百回転後のCDMS5のイオンのSIMIONシミュレーションである。アインツェルレンズは、
図4Bに示すように、CDMS4のイオンのSIMIONシミュレーションと比較してイオン軌道を制約する。
【0141】
図6は、従来のCDMS、特に
図1BのCDMSと比較した、
図5A~5CのCDMS5の理想からのイオンエネルギー偏差(%)の関数としての周波数の変化(%)のグラフである。より詳細には、SIMIONシミュレーションを実施し、CDMS5のエネルギー集束特性を計算した。zレンズ54を追加しても、顕著なデバイス解像度の劣化が生じないことが分かった。この幾何学的形状の一次集束は、本質的に放物線状の残留収差をもたらすと予想され、この特性が
図6に示されている。換言すれば、CDMS5の静電セクタ場イオントラップ50は、二次に放物線状の残差を有する一次に対して等時性であり、±3%のイオンエネルギー偏差に対して約0.05%の周波数の変化を与える。比較すると、参考文献[3]のELITトラップは、一次に対して等時性ではなく、代わりに一次において線形残差を有し、+3%のイオンエネルギー偏差に対して約0.275%の周波数の変化を与え、-3%のイオンエネルギー偏差に対して約-0.275%の周波数の変化を与える。したがって、CDMS5の静電セクタ場イオントラップ50は、参考文献[3]のELITトラップと比較して、エネルギー拡散に対する優れた耐性を示し、このことが本発明の主な利点の1つである。
【0142】
図7A及び
図7Bは、例示的な実施形態に従うCDMSについて、フーリエ変換における高調波の強度を高めるための、比較的狭い電荷検出器管の利点を概略的に示す。
【0143】
より詳細には、本発明のさらなる利点は、静電セクタ場イオントラップの非点収差又は準非点収差集束特性によってもたらされる。これらの特性は、イオンビームが分析器を横断するときに狭い弧に閉じ込められることを意味する。狭いイオンビームは、イオンの検出のために同様に狭い電荷管を使用することが可能であることを意味する。
図7A及び
図7Bは、どのようにより狭い帯電管がより鋭い過渡信号を生じさせるかを示す。この信号は、フーリエ理論の結果として、より高い周波数において高調波成分が増加する。処理された波形の信号対雑音比は、周波数とともに増加し、フーリエ変換質量分析法において高調波を使用すると、分解能が改善することは周知である。
【0144】
図8は、誘導電荷検出器400及び500に関して概して説明した誘導電荷検出器800を概略的に示し、これは、CDMS4及び/又はCDMS5等の例示的な実施形態に従うCDMSについて、分析器通過当たりの過渡現象の数を増加させるために、第一のセグメント化電荷検出器管810A及び第二のセグメント化電荷検出器管810Bを含む第一のセットのセグメント化電荷検出器管810を備える。この例では、第一のセグメント化電荷検出器管810A及び第二のセグメント化電荷検出器管810Bは、軸方向にセグメント化され、そのそれぞれが10個のセグメントを含む。
【0145】
CDMS4及びCDMS5の幾何学的形状によってもたらされる比較的長い帯電管によって、例えば、軸方向帯電管セグメント化が可能になる。原則として、移動するイオンによって誘発される信号は、それが管幅の2倍の長さを前記管内に通過した後は無視でき、有用な信号を無駄にする過度に長い管を作る。
図8は、パス当たりの過渡信号を増やすために、セグメント化をどのように使用し得るかを示す。そのようなセグメント化は、複数の増幅器の使用により、以前に提案されている[11]。そのようなセグメント化は、依然として、
図8で接続されるような単一の増幅器の使用によって利点を提供するであろうことが知られている。この原理は、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴装置において実証されており、例えば、Nikolaevの研究[12]を参照されたい。
【0146】
さらに、静電セクタ場イオントラップ40の三次元の8の字の経路、さらには静電セクタ場イオントラップ40の制約された8の字の経路は、追加及び/又は代替として、前述のように、半径方向の電荷管セグメント化を可能にする。
【0147】
図9は、例示的な実施形態に従って、リフトデバイス99を備えるCDMS9を概略的に示す。CDMS9は、概して、CDMS5に関して説明される。静電セクタ場イオントラップ90及び誘導電荷検出器900は、ボックスとして概略的に示されており、このボックスは、例えば、CDMS5の静電セクタ場イオントラップ50及び誘導電荷検出器500を表し得る。例示的な実施形態に従うCDMSの静電セクタ場イオントラップのスループットを高めるために、比較的高いイオンビーム運動エネルギー、例えば100eV~1,000eVの範囲のイオンビーム運動エネルギーで動作させることが望ましい。高エネルギーで動作する利点は、取得が速くなり、エネルギーと角度に関して収差が少なくなることである。運動エネルギーを増加させる第一の方法は、TOF分析器について一般的に行われるように、誘導電荷検出器900を高い加速電位(正イオンに対する負電圧)でフローティングさせることである。しかしながら、CDMSの場合、電源上に存在するいかなるノイズも、CDMS分析器の非常に低い誘起信号をマスクするであろう。したがって、接地電位で動作する誘導電荷検出器は、隣接する接地プレートによってノイズから効果的に遮蔽され、(仮想接地である)増幅器段に直接結合され得るので、非常に好ましい。運動エネルギーを増加させる第二の方法は、上昇した電位によって上流イオン光学構成要素をフローティングさせることである。これは、技術的に問題があることが知られており、パッシェンの法則から生じる電界破壊により部品の放電を引き起こす可能性がある。この効果は、RFイオンガイドがしばしば使用される数mBar領域において特に問題であり、それによって、印加電圧を約200Vに、ひいてはイオンの運動エネルギーに制限する。この問題に対する解決策は、CDMSサイクルの充填部分中に管(コリメータ等)(すなわちリフトデバイス99)を高電位にパルス化することである。このようにして、コリメータ(又は他のイオン光学要素)が、電圧破壊が起こらない高真空で動作させられるので、問題のある放電を回避することができる。
図9は、静電セクタ場イオントラップ90内のイオンの運動エネルギーを増加させるために、そのような上流コリメータ99がパルス方式でどのように動作され得るかを示す。イオンは、ある程度の所定のエネルギーqV
eでコリメータ管99を満たす。時間t1において、コリメータ管99がイオンで満杯になると、コリメータ管は、増加した電位V
liftにパルス化される。これは、イオンが空間的に分離されたイオンのペンシルとしてトラップ90に入るときにイオンのエネルギーを増加させ、それは、依然として接地電位電荷管900及びシールド(すなわち、シャント)で操作される。イオンが導入される静電セクタは、イオンが導入されている間、過渡的に接地電位でもあることを理解されたい。時刻t2において、トラップ90が閉じられ、トラップサイクルが開始される。セクタ電極は、トラッピングサイクル中に、以下の式によってイオンエネルギーに関連する増加した電圧V
iを有しなければならないことに留意されたい。
【数13】
式中、i=1,2であり、運動エネルギーは、電子ボルトでT
oであり、これは(V
e+V
lift)に等しい。
【0148】
図10は、例示的な実施形態に従うCDMS10を概略的に示す。この例では、CDMS10は、静電セクタ場イオントラップ100及び誘導電荷検出器1000を備え、静電セクタ場イオントラップ100は、誘導電荷検出器1000を介して、イオン経路を少なくとも部分的に画定するように構成される。
【0149】
この例では、静電セクタ場イオントラップ100は、参考文献[15]のMULTUMに関して記載されている通りである。この例では、静電セクタ場イオントラップ100は、4つの同様の円筒形静電セクタ101A~101Dを含む静電セクタ101のセットを備え、そのそれぞれがψ0=156.87°の偏向角及び50mmの偏向半径を有する。この例では、静電セクタ場イオントラップ100は、8つの電気四重極レンズ102A~102Hを含む電気四重極レンズ102のセットを備える。この例では、基本ユニットは、4つのドリフト空間と、2つの電気四重極レンズと、円筒形静電セクタとを備える。この例では、静電セクタ場イオントラップ100は、エネルギーに関して一次に対して等時性である。この例では、静電セクタ場イオントラップ100によって画定されるイオン経路は、クロスオーバーを含み、それを通る3回の平面対称性を有する。イオン注入は、参考文献[14]に関して記載されるように、偏向によってもよいし、あるいはイオン入口を介してもよい。
【0150】
この例では、誘導電荷検出器1000は、概して誘導電荷検出器400,500及び800に関して説明されるように、4つのセグメント化電荷検出器管1010A、1010B、1010C、1010Dを含むセグメント化電荷検出器管の第一のセット1010を備える。
【0151】
図11は、例示的な実施形態に従うCDMS11を概略的に示す。この例では、CDMS11は、静電セクタ場イオントラップ110及び誘導電荷検出器1100を備え、静電セクタ場イオントラップ110は、誘導電荷検出器1100を介して、イオン経路を少なくとも部分的に画定するように構成される。
【0152】
この例では、静電セクタ場イオントラップ110は、参考文献[15]のMULTUM Linear plusに関して記載されている通りであり、概して、イオン注入(及び排出)を可能にする追加の電気四重極レンズを有する静電セクタ場イオントラップ100に関して記載されている通りである。
【0153】
この例では、誘導電荷検出器1100は、概して誘導電荷検出器1000に関して説明されるように、4つのセグメント化電荷検出器管1110A、1110B、1110C、1110Dを含む、セグメント化電荷検出器管1110の第一のセットを備える。
【0154】
図12は、例示的な実施形態に従うCDMS12を概略的に示す。この例では、CDMS12は、静電セクタ場イオントラップ120及び誘導電荷検出器1200を備え、静電セクタ場イオントラップ120は、誘導電荷検出器1200を介して、イオン経路を少なくとも部分的に画定するように構成される。
【0155】
この例では、静電セクタ場イオントラップ120は、参考文献[15]のMULTUMに関して記載されている通りである。この例では、静電セクタ場イオントラップ120は、4つの同様のトロイダル静電セクタ121A~121Dを含む静電セクタ121のセットを備え、そのそれぞれが、ψ0=157.10°の偏向角、50mmの偏向半径、及び0.0337のC1値を有する。この例では、静電セクタ場イオントラップ120は、電気四重極レンズを備えていない。この例では、基本ユニットは、2つのドリフト空間と、トロイダル静電セクタとを備える。この例では、静電セクタ場イオントラップ120は、エネルギーに関して一次に対して等時性である。この例では、静電セクタ場イオントラップ120によって画定されるイオン経路は、クロスオーバーを含み、それを通る3回の平面対称性を有する。イオン注入は、参考文献[14]に関して記載されるように、偏向によってもよいし、あるいはイオン入口を介してもよい。
【0156】
この例では、誘導電荷検出器1400は、概して誘導電荷検出器1000に関して説明されるように、4つのセグメント化電荷検出器管1410A、1410B、1410C、1410Dを含むセグメント化電荷検出器管の第一のセット1410を備える。
【0157】
図13は、例示的な実施形態に従うCDMS13を概略的に示す。この例では、CDMS13は、静電セクタ場イオントラップ130及び誘導電荷検出器1300を備え、静電セクタ場イオントラップ130は、誘導電荷検出器1300を介して、イオン経路を少なくとも部分的に画定するように構成される。
【0158】
この例では、静電セクタ場イオントラップ130は、参考文献[15]の平面的な8の字に関して説明した通りである。この例では、静電セクタ場イオントラップ130は、2つの同様の円筒形静電セクタ131A~131Bを含む静電セクタ131のセットを備え、そのそれぞれがψ0=227.95°の偏向角及び50mmの偏向半径を有する。この例では、静電セクタ場イオントラップ130は、8つの電気四重極レンズ132A~132Hを含む電気四重極レンズ132のセットを備える。この例では、基本ユニットは、6つのドリフト空間と、4つの電気四重極レンズと、円筒形静電セクタとを備える。この例では、静電セクタ場イオントラップ130は、エネルギーに関して一次に対して等時性である。この例では、静電セクタ場イオントラップ130によって画定されるイオン経路は、クロスオーバーを含み、それを通る3回の平面対称性を有する。イオン注入は、参考文献[14]に関して記載されるように、偏向によってもよいし、あるいはイオン入口を介してもよい。静電セクタ場イオントラップ130は、静電セクタ場イオントラップ30、40及び50の三次元の8の字の幾何学的形状とは対照的に、既に平面的な8の字の幾何学的形状を有するので、前述のようなトポロジー的問題は生じない。
【0159】
この例では、誘導電荷検出器1300は、概して誘導電荷検出器1000に関して説明されるように、4つのセグメント化電荷検出器管1310A、1310B、1310C、1310Dを含む、セグメント化電荷検出器管1310の第一のセットを備える。
【0160】
図14は、例示的な実施形態に従うCDMS14を概略的に示す。この例では、CDMS14は、静電セクタ場イオントラップ140及び誘導電荷検出器1400を備え、静電セクタ場イオントラップ140は、誘導電荷検出器1400を介して、イオン経路を少なくとも部分的に画定するように構成される。
【0161】
この例では、静電セクタ場イオントラップ140は、参考文献[16]の菱形に関して説明した通りである。この例では、静電セクタ場イオントラップ140は、2つの二重トロイダル静電セクタ142A、142Bを含む静電セクタ141のセットを備え、そのそれぞれが、ψ0=156.2°の偏向角を有する第一のトロイダル静電セクタ141Aと、ψ0=23.8°の偏向角を有する第二のトロイダル静電セクタ141Aとを含む。この例では、静電セクタ場イオントラップ120は、電気四重極レンズを含まない。この例では、基本ユニットは、3つのドリフト空間と、2つのトロイダル静電セクタとを備える。この例では、静電セクタ場イオントラップ140は、エネルギーに関して一次に対して等時性である。この例では、静電セクタ場イオントラップ140によって画定されるイオン経路は、クロスオーバーを含まず、1つの対称面を有する。イオン注入は、参考文献[14]に関して記載されるように、偏向によってもよいし、あるいはイオン入口を介してもよい。
【0162】
この例では、誘導電荷検出器1400は、概して誘導電荷検出器1000に関して説明されるように、4つのセグメント化電荷検出器管1410A、1410B、1410C、1410Dを含むセグメント化電荷検出器管の第一のセット1410を備える。
【0163】
CDMS4~9のいずれかは、CDMS10の領域IIIの六極子3とインターフェースし、それによってCDMS10の領域IVを置き換え、又は領域IVの集束レンズ4とインターフェースし、それによってHAD6及び修正されたコーントラップを領域IVの像電荷検出器7と置き換えることと、ここで、直交TOF-MS5は任意に除去されることを理解されたい。
【0164】
図15は、例示的な実施形態に従う方法を概略的に示す。特に、この方法は、イオンの質量を決定する方法である。本方法は、静電セクタ場イオントラップによって、誘導電荷検出器を介して、少なくともそれによって部分的に画定されるイオン経路の周囲でイオンを移動させるステップ(S1501)を含む。本方法は、移動するイオンによって、誘導電荷検出器において信号を誘導するステップ(S1502)を含む。本方法は、誘導された信号を使用してイオンの質量を決定するステップ(S1503)を含む。本方法は、本明細書に記載されるステップのいずれかを含んでもよい。
【0165】
図16は、参考文献[19]に記載されている従来の共鳴質量分離器(RMS)を概略的に示す。より詳細には、
図16は、円筒形セクタ及び周期的アインツェル及び四重極レンズのセットから構成される共鳴質量分離器におけるSIMIONモデル及び螺旋イオン軌道を示す。モデルRMS130は、Sakuraiら(Nucl.Instrum. Meth.A427, 1999, 182-186)と同様に、異なる半径を有する円筒形セクタ131及び132から構成される。円筒形セクタは、X-Y平面内に実質的に二次元の静電場を生成する。イオン経路133は、X-Y平面に対して小さな角度でイオンビーム(又は穏やかに束ねられたイオンパケット)を注入することによって、及びイオンを周期的アインツェルレンズ134のセット及び周期的四極レンズ135に閉じ込めることによって螺旋状に配置される。イオンは、X-Y平面における湾曲した楕円形の平均イオン経路投影と、ドリフトZ方向における比較的遅いイオンドリフトとから構成される螺旋イオン経路133をたどる。周期的レンズ134及び135は、適度なイオンパケット発散にもかかわらず、螺旋イオン経路に沿ってイオンビームを閉じ込める。モデル化RMSのパラメータは、以下の通りであって、イオン軌道は170×250mmのセルに刻み込まれ、回転当たりのイオン経路は700mmであり、Z長は200mmであり、40回転に適合し、全体でL=28mの全飛行経路を形成する。セクタは、6keVイオンビームを通過させるように励起され、その結果、m/z=1000における標的質量は、T
0=20μsにおいて単一回転を通過し、800μsにおいてRMSを通過する。イオンビームパラメータは、以下の通りであって、1mmのビーム直径、4mradの角度発散、及びFWHM=20eVのエネルギー拡散(ガウス分布)で、これは、ガス状RFガイドを通過して得ることができるイオンビームエミッタンスと比較して過剰である。AC励起が印加されない場合、1000amuのイオンは、損失なくRMSを通過する。AC励起
【数14】
は、次いで、4mmのアパーチャ及び4mmの有効長を有する四重極レンズ135に印加され、フリンジング場を説明する。AC信号が印加されると、分離器は、複数のm/z帯域をフィルタリングし、その形状は、AC振幅V
0及び周波数F=(N+0.5)/T
0に依存する。
【0166】
図17A~
図17Cは、例示的な実施形態に従うCDMS17を概略的に示す。CDMS17は、概して、CDMS4に関して説明されたようなものであり、さらに、断片化デバイス(図示せず)と、起点にイオン単離光学素子とを備える。集束レンズの中心要素は、CDMS4の対応する集束要素と比較して修正され、高周波偏向場の導入を可能にする。この幾何学的形状における効率的なトラップに必要とされるレンズのZ集束能力は依然として保持されるが、追加の偏向/集束場が直交Y方向に導入される。タンデム質量分析を実施するために、単離する目的の標的種を最初に同定することが必要であるが、これは、
図17Aに示されるCDMSの通常の電圧構成である。これは、フィルバイフィルベースで(on a fill by fill basis)実行される。CDMSについて可能な限り高い質量測定精度を達成するために、イオンは、周波数(m/zの関数)及び強度(信号強度の関数)を確認するために、分析器の多くの往復を実行することを可能にされる。所望のプリカーサー質量が特定されると、以下の形態の適切な振動電圧:
V=V
0cos[2πFt]
が、
図17Bに示すように、中央レンズプレートに印加される。単離ステップを行うのに要する時間は、必要とされる分離の分解能に依存する。この分解能は、トラップに含まれる異なる種についてのm/z依存発振周波数に関する最も近い距離によって決定することができる。選択された質量種が単離されると、その振動の周波数及び位相の知識によって、イオンの光軸に沿ってトラップからイオンを導くようにトラップ電極を切り替えることが可能になる。セクタ電極が切り替えられるときにイオンがトラップの外に正確に導かれるように、中央レンズ上のDC電圧を高めて、イオンを「Z」軸(
図17C)により緊密に閉じ込めることができる。イオンは、上流又は下流へと、外部断片化デバイスに送り返されてもよいしかるべき必要な変更を加えて、CDMS5、10、11、12、13、14及び16のための断片化デバイスを提供することができる。
【0167】
図18は、例示的な実施形態に従うCDMS18を概略的に示す。CDMS18は、概してCDMS12に関して説明したものであり、断片化デバイス185をさらに備える。この例では、静電セクタ場イオントラップ180は、断片化デバイス185を介してイオン経路を少なくとも部分的に画定するように構成される。しかるべき必要な変更を加えて、CDMS4、5、10、11、13、14及び16のための断片化デバイスを提供することができる。
【0168】
図19は、例示的な実施形態に従うCDMS19を概略的に示す。CDMS19は、概してCDMS17に関して説明したものであり、断片化デバイス195は、CDMS9のリフトデバイス99に関して説明したリフトデバイスをさらに備える。したがって、単離されたイオンは、したがって、上流へと外部断片化デバイス195に送り返され、そこで断片化され、プロダクトイオンは、プロダクトイオンと同様にイオン経路に導入される。
【0169】
好ましい実施形態を図示し、説明してきたが、当業者であれば、添付の特許請求の範囲に定義され、かつ上述の本発明の範囲から逸脱することなく、様々な変更及び修正を行うことができることを理解するであろう。
【0170】
本出願に関連して本明細書と同時に又は以前に出願され、本明細書と共に講習の閲覧に供される全ての論文及び文書に注意が向けられ、全てのそのような論文及び文書の内容は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0171】
本明細書(任意の添付の特許請求の範囲及び図面を含む)に開示される特徴の全て、及び/又はそのように開示される任意の方法もしくはプロセスのステップの全ては、そのような特徴及び/又はステップの多くともいくつかが相互排他的である組み合わせを除いて、任意の組み合わせで組み合わせてもよい。
【0172】
本明細書(任意の添付の特許請求の範囲及び図面を含む)において開示される各特徴は、別段の明示的な記載がない限り、同一、等価な、又は同様の目的を果たす代替の特徴によって置換してもよい。したがって、特に明記しない限り、開示される各特徴は、一般的な一連の等価な、又は同様の特徴の単なる一例にすぎない。
【0173】
本発明は、前述の実施形態の詳細に限定されない。本発明は、本明細書(任意の添付の特許請求の範囲及び図面を含む)に開示される特徴の任意の新規なもの又は任意の新規な組み合わせに、あるいはそのように開示される任意の方法又はプロセスのステップの任意の新規なもの又は任意の新規な組み合わせに及ぶ。
【0174】
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