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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-07
(45)【発行日】2024-08-16
(54)【発明の名称】供試魚の処置方法
(51)【国際特許分類】
   A01K 61/10 20170101AFI20240808BHJP
   A01K 61/95 20170101ALI20240808BHJP
【FI】
A01K61/10
A01K61/95
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2024017000
(22)【出願日】2024-02-07
(62)【分割の表示】P 2022165476の分割
【原出願日】2022-10-14
(65)【公開番号】P2024058671
(43)【公開日】2024-04-25
【審査請求日】2024-04-25
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000192590
【氏名又は名称】株式会社神鋼環境ソリューション
(74)【代理人】
【識別番号】100154726
【弁理士】
【氏名又は名称】宮地 正浩
(72)【発明者】
【氏名】藤原 尚美
(72)【発明者】
【氏名】豊久 志朗
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 友希子
【審査官】坂田 誠
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2022/210397(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2006/0081192(US,A1)
【文献】特開2008-110260(JP,A)
【文献】実開昭57-45946(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 61/10
A01K 61/95
A01K 61/80
A61M 5/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
柔軟性を有する保持具を備え、前記保持具が、上面側において前後方向に沿って延在して上方の開放部から投入された供試魚を内部に保持する保持用溝と、前記保持用溝の底部において前後方向に沿って延在して前記保持用溝の内部に保持された供試魚の腹部を下面側に露出させるスリットとを有し、前記保持具の下面側に内側から外側に向かう引張力を生じさせることで、前記スリットの幅が拡大する供試魚保持装置を使用して、供試魚の腹部に対して所定の処置を施す供試魚の処置方法であって、
前記保持具の保持用溝の内部に供試魚を保持させた後に、前記保持具の天地を反転させると共に、前記保持具の下面側に内側から外側に向かう引張力を生じさせて前記スリットの幅を拡大させた状態で、前記保持具の下面側から前記スリットを通じて、前記保持用溝の内部に保持された供試魚の腹部に対して所定の処置を施す供試魚の処置方法。
【請求項2】
前記保持具が、前記保持用溝が形成された溝形成部分と、当該溝形成部分の左右両側部の下部側から両側方に延出する一対の側翼部分とを有して形成されており、
前記一対の側翼部分の夫々の外側端部を溝形成部分の上面側に向けて移動させて近接させる形態で当該一対の側翼部分を屈撓させる側翼部分屈撓操作を行って、前記保持具の下面側に内側から外側に向かう引張力を生じさせる請求項1に記載の供試魚の処置方法。
【請求項3】
前記保持具の下面が平面状に形成されており、
前記保持具において、前記スリットが、前記保持具の下面に開口するように設けられている請求項1又は2に記載の供試魚の処置方法。
【請求項4】
前記保持用溝が、開放部を頂点とした略二等辺三角形の断面形状を有するものとして形成されている請求項1又は2に記載の供試魚の処置方法。
【請求項5】
目的物質を封入する注射器と、当該注射器から供給された目的物質を先端から流出させる注射針と、を備えた供試魚腹腔内投与具を用いて、前記所定の処置として、前記保持具の保持用溝の内部に保持された供試魚の腹部に対して注射針を刺入れた状態で当該供試魚の腹腔内に前記注射針を通じて目的物質を投与する腹腔内投与を施し、
前記注射針の外周部に、前記腹腔内投与時において供試魚の腹部に対して所定の基準刺入れ深さで前記注射針が刺入れられたときに当該供試魚の腹部表面に接する刺入れ深さ案内部を設ける請求項1又は2記載の供試魚の処置方法。
【請求項6】
前記刺入れ深さ案内部を、前記腹腔内投与時において供試魚の腹部に対して所定の基準刺入れ角度で前記注射針が刺入れられたときに前記供試魚の腹部表面に平行となる形態で前記注射針の外周部に設ける請求項5に記載の供試魚の処置方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柔軟性を有する保持具を備え、前記保持具が、上面側において前後方向に沿って延在して上方の開放部から投入された供試魚を内部に保持する保持用溝を有する供試魚保持装置、当該供試魚保持装置を使用して、供試魚の腹部に対して所定の処置を施す供試魚の処置方法、及び、当該所定の処置として、前記保持具の保持用溝の内部に保持された供試魚の腹部に対して注射針を刺入れた状態で当該供試魚の腹腔内に前記注射針を通じて目的物質を投与する腹腔内投与を施すための供試魚腹腔内投与具に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ゼブラフィッシュが実験対象動物として非常に注目されている。ゼブラフィッシュのような供試魚を用いた動物実験では、例えば、腹腔内投与などの所定の処置を供試魚に施す際に供試魚を保持するにあたり、供試魚に対するダメージを最小限に抑えて、つまり、体表面などに損傷を与えず、火傷の症状を引き起こすこともなく、できるだけ優しく供試魚を保持することが重要な課題となる。
そこで、従来、合成樹脂板をU字形に折り曲げて、供試魚を保持する内面側にスポンジや不織布などの柔軟性を有する素材を貼り付けた魚保持具が提案された(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】登録実用新案第3051118号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
腹腔内投与などのように供試魚の腹部に対して所定の処置を施すにあたり、上記特許文献1に記載の魚保持具によれば、柔軟性を有する素材によって供試魚を優しく保持することが可能となる。しかしながら、例えば、供試魚を保持しているときに供試魚が暴れたりすれば、どうしても強い力で保持することになり、供試魚に対して何らかのダメージを与える可能性が高い。
また、供試魚が暴れるのを抑制するために、麻酔を施して供試魚を保持することが考えられるが、その場合には、実験結果が供試魚に投与した目的物質の影響であるか麻酔の影響であるかが不明となり、さらには、目的物質の反復投与を行う実験の場合には、投与の都度麻酔を施すとその影響が繰り返されることから、反復投与を行う実験ができないことになる。
更に、魚保持具により保持された供試魚の腹部に対して腹腔内投与などの所定の処置を施すにあたり、供試魚の腹部が魚保持具で隠蔽されていると、当該魚保持具に保持された状態で供試魚を前後軸周りに回転させて、供試魚の腹部を露出させる必要がある。しかしながら、この回転操作において、供試魚に大きなダメージを与えてしまうことが懸念される。
【0005】
この実情に鑑み、本発明の主たる課題は、ダメージを極力抑制して供試魚を所定の姿勢で確実に保持しながら、当該供試魚の腹部に対して適切に所定の処置を施すことができる技術を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1特徴構成は、柔軟性を有する保持具を備え、
前記保持具が、上面側において前後方向に沿って延在して上方の開放部から投入された供試魚を内部に保持する保持用溝を有する供試魚保持装置であって、
前記保持具が、前記保持用溝の底部において前後方向に沿って延在して前記保持用溝の内部に保持された供試魚の腹部を下面側に露出させるスリットを有する点にある。
【0007】
本構成によれば、柔軟性を有する保持具が有する保持用溝の内部に供試魚を優しく保持することが可能となり、例え供試魚が暴れようとしても、保持用溝の内部に保持されているために暴れにくく、結果的に供試魚に対するダメージを抑制することが可能となる。
そして、保持具における保持用溝の底部には上記スリットが設けられているので、下面側から当該スリットを通じて保持用溝の内部に保持されている供試魚の腹部に対して、供試魚腹腔内投与具を用いた腹腔内投与などの所定の処置を容易且つ確実に施すことができる。
従って、本発明により、ダメージを極力抑制して供試魚を所定の姿勢で確実に保持しながら、当該供試魚の腹部に対して適切に所定の処置を施すことができる技術を提供することができる。
【0008】
本発明の第2特徴構成は、前記保持具が、前記保持用溝が形成された溝形成部分と、当該溝形成部分の左右両側部の下部側から両側方に延出する一対の側翼部分とを有して形成されている点にある。
【0009】
本構成によれば、保持具において、溝形成部分の左右両側部の下部から両側方に延出する一対の側翼部分の夫々の外側端部を溝形成部分の上面側に向けて移動させて近接させる形態で、当該一対の側翼部分を屈撓させる側翼部分屈撓操作を行うことが可能となる。そして、このような側翼部分屈撓操作を行うと、溝形成部分において、下面側には内側から外側に向かう引張力が生じると共に、その上面側には外側から内側に向かう圧縮力が生じる。
よって、溝形成部分の保持用溝の内部に供試魚を保持した状態で上記側翼部分屈撓操作を行えば、上記圧縮力により保持用溝の幅が縮小することで当該保持用溝の内部に保持された供試魚を保持用溝の両側壁により適切に把持しながら、上記引張力により幅が拡大されたスリットを通じて一層容易且つ確実に、保持用溝の内部に保持されている供試魚の腹部に対して所定の処置を施すことができる。
【0010】
本発明の第3特徴構成は、前記保持具の下面が平面状に形成されており、
前記保持具において、前記スリットが、前記保持具の下面に開口するように設けられている点にある。
【0011】
本構成によれば、保持具においてスリットが平面状に形成された下面に開口するように設けられているので、当該保持具の下面に内側から外側に向かう引張力を生じさせることで、当該引張力を直接的にスリットに作用させて、当該スリットの幅を比較的大きく拡大させることができ、当該幅が比較的大きく拡大されたスリットを通じて一層容易且つ確実に、保持用溝の内部に保持されている供試魚の腹部に対して所定の処置を施すことができる。
特に、保持具が、上述したように溝形成部分と一対の側翼部分とを有して形成されている場合には、これら溝形成部分の下面と一対の側翼部分の下面とを同一平面状に形成することで、側翼部分屈撓操作を行うことにより保持具の下面に生じる引張力が直接的にスリットに作用することで、当該スリットの幅を一層大きく拡大させることができる。
【0012】
本発明の第4特徴構成は、前記保持用溝が、開放部を頂点とした略二等辺三角形の断面形状を有するものとして形成されている点にある。
【0013】
本構成によれば、保持具において、開放部側を頂点とした略二等辺三角形の断面形状を有するものとして形成された保持用溝の内部に供試魚を保持した状態では、比較的広い幅の空間にて供試魚を優しく保持しながら、開放部の幅が当該空間の幅よりも狭くなることで、当該開放部からの供試魚の脱落を好適に防止することができる。
【0014】
本発明の第5特徴構成は、本発明に係る供試魚保持装置を使用して、供試魚の腹部に対して所定の処置を施す供試魚の処置方法であって、
前記保持具の保持用溝の内部に供試魚を保持させ、
前記保持具の下面側から前記スリットを通じて、前記保持用溝の内部に保持された供試魚の腹部に対して所定の処置を施す点にある。
【0015】
本構成によれば、本発明に係る供試魚保持装置を使用して、保持用溝の内部に保持された供試魚の腹部に対してスリットを通じて所定の処置を施すことにより、ダメージを極力抑制して供試魚を所定の姿勢で確実に保持しながら、当該供試魚の腹部に対して適切に所定の処置を施すことができる
【0016】
本発明の第6特徴構成は、上記第5特徴構成の所定の処置として、前記保持具の保持用溝の内部に保持された供試魚の腹部に対して注射針を刺入れた状態で当該供試魚の腹腔内に前記注射針を通じて目的物質を投与する腹腔内投与を施すための供試魚腹腔内投与具であって、
目的物質を封入する注射器と、当該注射器から供給された目的物質を先端から流出させる注射針と、を備え、
前記注射針の外周部に、前記腹腔内投与時において供試魚の腹部に対して所定の基準刺入れ深さで前記注射針が刺入れられたときに当該供試魚の腹部表面に接する刺入れ深さ案内部が設けられている点にある。
【0017】
本構成によれば、供試魚の腹部に対して上記所定の処置として上記腹腔内投与を施すための供試魚腹腔内投与具において、注射針の外周部に、上記基準刺入れ深さに基づいて上記刺入れ深さ案内部が設けられている。このことで、上記腹腔内投与時において、利用者は、供試魚の腹部に対して注射針を刺入れる際に、上記刺入れ深さ案内部が供試魚の腹部表面に接することによって、当該注射針が適切な基準刺入れ深さで供試魚の腹部に刺入れられていることを明確に知ることができる。よって、供試魚の腹部に対する注射針の実際の刺入れ深さの基準刺入れ深さに対する誤差による供試魚の負担を確実に軽減しながら、供試魚に対して常に安定した腹腔内投与を簡単に実施することができる。
【0018】
本発明の第7特徴構成は、前記刺入れ深さ案内部が、前記腹腔内投与時において供試魚の腹部に対して所定の基準刺入れ角度で前記注射針が刺入れられたときに前記供試魚の腹部表面に平行となる形態で前記注射針の外周部に設けられている点にある。
【0019】
本構成によれば、利用者は、供試魚の腹部に対して注射針を刺入れる際に、刺入れ深さ案内部が供試魚の腹部表面と平行となるように注射器の姿勢を保つことで、当該注射針が適切な基準刺入れ角度で供試魚の腹部に刺入れられていることを明確に知ることができる。よって、供試魚の腹部に対する注射針の実際の刺入れ角度の基準刺入れ角度に対する誤差による供試魚の負担を確実に軽減しながら、供試魚に対して常に安定した腹腔内投与を簡単に実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】供試魚処置設備全体の概略構成図
図2】供試魚誘導装置により供試魚保持装置への供試魚の誘導状態を示す断面図
図3】保持具に対する供試魚誘導装置の排出シュートの挿入状態を示す断面図
図4】供試魚保持装置において枠体に保持具及び前後の封鎖具をセットした状態を示す斜視図
図5】供試魚保持装置において枠体から保持具及び前後の封鎖具を分離した状態を示す斜視図
図6】第1実施形態の保持具の正面図
図7】第1実施形態の保持具の左側面図
図8】第1実施形態の保持具の平面図
図9】第1実施形態の保持具の底面図
図10】第1実施形態の保持具の斜視図
図11】側翼部分屈撓操作が行われて天地が反転された第1実施形態の保持具の正面視での断面図
図12】第2実施形態の保持具の正面図
図13】第2実施形態の保持具の左側面図
図14】第2実施形態の保持具の底面図
図15】第2実施形態の保持具の斜視図
図16】側翼部分屈撓操作が行われて天地が反転された第2実施形態の保持具の正面視での断面図
図17】第3実施形態の保持具の正面図
図18】第3実施形態の保持具の斜視図
図19】側翼部分屈撓操作が行われて天地が反転された第3実施形態の保持具の正面視での断面図
図20】腹腔内投与具の全体構成並びに腹腔内投与の状態を示す図
図21】腹腔内投与直前の腹腔内投与具の状態を示す部分拡大図
図22】腹腔内投与中の腹腔内投与具の状態を示す部分拡大図
【発明を実施するための形態】
【0021】
〔供試魚保持装置〕
本発明に係る供試魚保持装置の実施形態について、図面に基づいて説明する。
本実施形態の供試魚保持装置1は、図1図2、及び図3に示すように、供試魚Fを保持して各種の生体観察や生体実験などに供するための供試魚処置設備100(図1を参照)において、生体実験用の比較的小さな供試魚Fを対象に、ダメージを極力抑制して供試魚Fを所定の姿勢で確実に保持するものとして構成されている。具体的には、柔軟性を有する保持具10を備えており、当該保持具10が、上面10a側において前後方向に沿って延在して上方の開放部12aから投入された供試魚Fを内部に保持する有底で上方開口の保持用溝12を有する。そして、供試魚Fは、この保持用溝12の内部において、無理のない自然な状態で保持される。
尚、本実施形態において、供試魚Fとしては、ゼブラフィッシュ(Zebrafish)を想定しているが、生体実験に用いる小型の魚であればよく、例えば、ファットヘッドミノー(Fathead minnow)、メダカ(Ricefish)、グッピー(Guppy)などを供試魚Fとすることができる。
【0022】
尚、供試魚処置設備100は、図1に示すように、供試魚誘導装置70の投入部71Aへの投入前の供試魚Fを収容する第1水槽101と、保持具10による保持から開放された供試魚Fを収容する第2水槽102とを備える。第1水槽101と供試魚誘導装置70の投入部71Aとの近傍には、第1水槽101から取り出した供試魚Fを、投入部71Aに投入する前に一時的に収容する例えば透明のビーカなどの計量水槽103が設けられている。この計量水槽103は、重量計に載置されており、この重量計により、計量水槽103に収容された供試魚Fの重量測定などが行わる。計量水槽103に貯留されている水は、供試魚Fと共に、投入部71Aに投入される。
また、供試魚処置設備100には、保持具10が設置されて供試魚誘導装置70の排出部71Bから排出される水を受ける水受け部105が設けられており、排出部71Bから排出された供試魚Fが保持具10から脱落した場合であっても、当該脱落した供試魚Fを負担なく水受け部105に貯留された水に収容することができる。
【0023】
保持具10の保持用溝12への供試魚Fの投入は、利用者が手で行うこともできるが、
供試魚処置設備100には、供試魚Fに与えるダメージをできるだけ軽減するために、所定の供試魚誘導装置70が設けられている。
供試魚誘導装置70は、図2に示すように、投入部71Aから排出部71Bに亘って下方へ傾斜して延びる傾斜誘導路71が設けられている。そして、投入部71Aに供試魚Fが水Wと一緒に投入され、当該投入部71Aに投入された供試魚Fが水Wと一緒に傾斜誘導路71を通じて排出部71Bに誘導され、図3にも示すように、当該排出部71Bに誘導された供試魚Fが水Wと一緒に保持具10の保持用溝12に排出されて、当該保持用溝12に供試魚Fが保持される。尚、本実施形態では、傾斜誘導路71の延在方向を誘導路延在方向と呼び、誘導路延在方向に沿って投入部71Aから見て排出部71B側を前方側と呼び、誘導路延在方向に沿って排出部71Bから見て投入部71A側を後方側と呼ぶ。また、平面視で誘導路延在方向に沿った寸法を長さと呼び、平面視で誘導路延在方向に対する直交方向に沿った寸法を幅と呼ぶ。
【0024】
供試魚誘導装置70には、保持用溝12に対して供試魚Fを保持させるにあたり、保持用溝12からの供試魚Fの脱落を防止しながら、当該供試魚Fを略水平姿勢で安定して保持用溝12に保持させるために、傾斜誘導路71における排出部71Bの底部に形成された排出口72と、当該排出口72の周縁部から下方に延出する筒状の排出シュート73と、が設けられている。
即ち、図2に示すように、投入部71Aに対して水Wと一緒に投入された供試魚Fは、水Wと一緒に傾斜誘導路71を流れ滑って誘導路延在方向に沿った略水平姿勢となり、その水平姿勢を維持した状態で排出部71Bに誘導される。そして、排出部71Bに誘導された供試魚Fは、略水平姿勢を維持したままで傾斜誘導路71における底部に形成された排出口72から落下して排出シュート73内を通過し、その排出シュート73の下端開口部から保持具10の保持用溝12に向けて排出される。このことで、図3にも示すように、保持具10において誘導路延在方向に沿った水平方向に延びる保持用溝12に対し、排出シュート73内を通じて排出された供試魚Fは、略水平姿勢を維持したまま鉛直方向に進入して、当該保持用溝12に供試魚Fが、背部Faを上側とし腹部Fbを下側とする略水平姿勢で確実に保持されることになる。
【0025】
保持具10は、柔軟性、透水性、および、保水性を有する材料、例えばスポンジで構成されている。尚、本実施形態では、保持具10全体をスポンジで構成したが、柔軟性、透水性、および、保水性を備えた他の材料、例えば、不織布などで構成することもできる。
保持具10の形状は、図5にも示すように、平面視で矩形に形成されており、誘導路延在方向視(図3を参照)において、上面10a側の幅が下面10b側の幅よりも小さくなる略凸状に形成されている。そして、保持具10の上面10a側には、誘導路延在方向に延びる溝であって、上方が略直線状の開放部12aにより開放され、その下方の空間が供試魚Fを収容する収容部となる保持用溝12が形成されている。
保持具10において、保持用溝12は、誘導路延在方向に沿った長さが供試魚Fの全長(口の先端から尾びれの後端までの長さ)よりも長くなるように、保持具10の後端から前端に至るまでの全長に亘って設けられる。例えば、供試魚Fが全長40mm程度のゼブラフィッシュである場合、保持用溝12の長さは約50mmに設定することが望ましい。
保持用溝12の深さは、供試魚Fの鉛直方向の高さよりも若干大きくなっており、例えば、供試魚Fが全長40mm程度のゼブラフィッシュである場合、保持用溝12の深さは、5~25mmの範囲内に設定することが望ましい。
【0026】
保持具10の上面10a側には、上方から排出シュート73が挿入されるシュート挿入凹部15が形成されており、シュート挿入凹部15の底部15aに保持用溝12が形成されている。即ち、図2及び図3に示すように、傾斜誘導路71の排出部71Bの底部に形成された排出口72の周縁部から下方に延出する筒状の排出シュート73が、保持具10に形成されたシュート挿入凹部15に挿入されて、シュート挿入凹部15の底部15aに排出シュート73の下端開口部が当接する。このようにシュート挿入凹部15に排出シュート73が挿入されることにより、排出シュート73内を通じて排出された供試魚Fの保持具10外方への脱落が防止される。更に、排出シュート73をシュート挿入凹部15に挿入するだけで簡単に保持具10が供試魚誘導装置70に対して適切な位置に配置される。これらの構成により、排出シュート73内から排出された供試魚Fが、シュート挿入凹部15の底部15aに形成された保持用溝12に対して確実に進入することになる。
【0027】
平面視で誘導路延在方向に対する直交方向に沿ったシュート挿入凹部15の幅は、同方向に沿った排出シュート73の幅よりも若干小さめに設定されている。よって、図3に示すように、シュート挿入凹部15に対して若干幅が大きい排出シュート73が挿入されると、保持具10における保持用溝12の左右両側の側壁部12bが左右に押し広げられて、それら側壁部12bの間に形成されている保持用溝12の幅が左右に若干押し広げられることになる。すると、この状態では、排出シュート73内を通じて排出された供試魚Fをスムーズに保持具10の保持用溝12に進入させることができる。
【0028】
図1及び図2に示すように、供試魚処置設備100において、保持具10を排出シュート73に取り付けて設置する際には、当該保持具10の前後に、前方封鎖具20及び後方封鎖具21が設置される。即ち、図4及び図5にも示すように、保持具10の前方側には、保持用溝12の前方側開放部を封鎖する状態で前方封鎖具20が保持具10に対して分離可能な状態で設置され、当該保持具10の後方側には、保持用溝12の後方側開放部を封鎖する状態で後方封鎖具21が保持具10に対して分離可能な状態で設置される。これらの前方封鎖具20及び後方封鎖具21は、上端面が保持具10の上面と略同じ高さとなる略直方体の形状を有し、保持具10と同様に、柔軟性、透水性、および、保水性を有する材料、例えば、スポンジなどで構成されている。
【0029】
供試魚処置設備100において、保持具10の前後に前方封鎖具20及び後方封鎖具21が設置されるにあたり、保持具10に対して前方封鎖具20及び後方封鎖具21を正確な位置で保持させるための保持具台30が設けられている。この保持具台30は、保持具10及びその前後に配置された前方封鎖具20及び後方封鎖具21の底面全体を覆う底板31と、底板31の前後から前方封鎖具20の前面及び後方封鎖具21の後面に沿って上向き延出する前後の壁板32とを、一体化してなる。よって、この保持具台30の底板31上に保持具10、前方封鎖具20、及び後方封鎖具21を載置すると、その前後が壁板32により挟まれた状態となって、保持具10に対して前方封鎖具20及び後方封鎖具21が正確な位置で保持されることになる。
供試魚処置設備100では、保持具10と前方封鎖具20及び後方封鎖具21とは保持具台30により保持された状態で設置され、保持具10のシュート挿入凹部15に供試魚誘導装置70の排出シュート73が挿入される。すると、排出シュート73内を通じて排出されて保持用溝12に進入した供試魚Fは、前後の開放部から外方へ脱落することが防止される。尚、保持具台30において、着脱を必要とする保持具10を除き、前方封鎖具20及び後方封鎖具21については着脱を必要としないため、底板31に対して載置するだけでも良いが、適宜接着や両面テープ等により固定しても構わない。
【0030】
保持具10は、保持用溝12に保持された供試魚Fの腹部Fbに対して適切に腹腔内投与などの所定の処置を施すための構成を採用しており、その詳細について以下に説明を加える。
図2、及び図3に示すように、保持具10には、保持用溝12の底部12cにスリット17が設けられている。このスリット17は、保持用溝12の底部12cにおいて、幅方向の略中央部を通って当該保持用溝12の延在方向と同じ前後方向に沿って延在し、その前後方向における長さは、保持用溝12の前後の一部はスリット17を設けないようにして、保持用溝12の長さよりも若干短いものとして形成されている。
そして、保持用溝12の内部に保持された供試魚Fの腹部Fbを、このようなスリット17を通じて下面10b側に露出させることができる。よって、詳細については後述するが、図20に示すように、下面10b側から当該スリット17を通じて保持用溝12の内部に保持されている供試魚Fの腹部Fbに対して、供試魚腹腔内投与具50を用いた腹腔内投与などの所定の処置を容易且つ確実に施すことができる。
【0031】
スリット17等が形成された保持具10としては、その断面形状が異なるものとして、第1実施形態の保持具10A(図6図11を参照)、第2実施形態の保持具10B(図12図16を参照)、第1実施形態の保持具10C(図17図19を参照)を挙げることができる。以下、これら第1乃至第3実施形態の保持具10A,10B,10Cの詳細構成について説明を加える。
【0032】
〔第1実施形態〕
第1実施形態の保持具10Aを、図6図11に示す。図6は保持具10Aの正面図、図7は保持具10Aの左側面図、図8は保持具10Aの平面図、図9は保持具10Aの底面図、図10は保持具10Aの斜視図、図11は側翼部分屈撓操作が行われて天地が反転された保持具10Aの正面視での断面図である。尚、保持具10Aの右側面図は、左側面図(図7)と同一であるため省略する。また、図11では、保持具10Aの天地が反転された状態であるため、保持具10Aの上面10a側が下方側に位置し、保持具10Aの下面10b側が上方側に位置する。
【0033】
本実施形態の保持具10Aの全体の大きさは、図6に示す正面図を参照して、上下方向の高さが約50mmとされており、左右方向の幅が約100mmとされており、奥行き方向の厚さが約50mmとされている。
また、保持具10Aの上面10a側に形成されたシュート挿入凹部15の大きさは、図6に示す正面図を参照して、上下方向の深さが約15mmとされており、左右方向の幅が約15mmとされている。
【0034】
保持具10Aにおいて、保持用溝12は、主に図6に示すように、上面10a側のシュート挿入凹部15の底部15aに開放された開放部12aを頂点とした略二等辺三角形の断面形状を有するものとして形成されている。この保持用溝12の大きさは、図6の正面図を参照して、上下方向の高さが約15mmで、底辺の左右方向の幅が10mmとされている。
【0035】
開放部12aを頂点とした略二等辺三角形の断面形状を有する保持用溝12の内部に供試魚Fを保持した状態では、比較的広い幅の空間にて供試魚Fを優しく保持しながら、上面10a側の開放部12aの幅が当該空間の幅よりも狭くなることで、当該開放部12aからの供試魚Fの脱落が好適に防止される。例えば、図11に示すように、供試魚Fの腹部Fbに対する所定の処置を上方から施すべく、保持具10の天地を反転させた状態であっても、保持用溝12の内部に保持された供試魚Fが下方側に位置した開放部12aから落下することが好適に防止される。更に、保持用溝12の左右両側にある側壁部12bを利用者が外側から指で摘まむようにすれば、当該保持用溝12からの供試魚Fの脱落を一層好適に防止できる。
【0036】
主に図6に示すように、保持具10Aには、保持用溝12が形成された溝形成部分11と、その当該溝形成部分11の左右両側部の下部から両側方に延出する一対の側翼部分19とを有して形成されている。詳しくは、幅が約50mmの溝形成部分11の左右両側部夫々の下部側から、幅が約25mmの側翼部分19が左右両側方に延出しており、これら溝形成部分11の下面と一対の側翼部分19の下面とが同一平面状に形成されている。更に、上下方向における側翼部分19の位置は、溝形成部分11におけるスリット17、及び底部溝16の位置に重畳する位置とされており、溝形成部分11の下端面から高さ約20mmまでの領域に側翼部分19が位置する。
【0037】
保持具10Aには、主に図6及び図9に示すように、保持用溝12の下面10b側において、前後方向に沿って延在して下方が開放された矩形断面を有する底部溝16が形成されている。底部溝16の大きさは、図6の正面図を参照して、上下方向の深さが約10mmとされており、左右方向の幅が約15mmとされている。
そして、スリット17は、主に図6図8、及び図9に示すように、保持用溝12と底部溝16とを連通させる形態で、保持用溝12の底部12cに形成されている。スリット17は、図6の正面図を参照して、左右方向の幅が略0mmの切り込み状に形成されており、その大きさは、上下方向の深さが保持用溝12の底部12cの厚さと同じ約10mmとされており、奥行き方向の長さが約30mmとされている。尚、本実施形態では、スリット17を幅が略0mmの切り込み状に形成したが、数mmの幅を有する溝状に形成しても構わない。
即ち、保持用溝12の下方の下面10b側に底部溝16が形成されていることにより、保持用溝12の底部12cの厚みが薄くなりスリット17の深さが小さくなる。よって、スリット17を通じた供試魚Fの腹部Fbに対する所定の処置が、当該スリット17により邪魔されることが抑制される。
尚、スリット17の深さに相当する底部12cの厚さについては、スリット17の幅の拡大させ易さや底部12cの耐久性を考慮して適宜設定することができる。例えば本実施形態のように保持具10をスポンジで構成し、その底部10cに30mmの長さのスリット17を形成する場合には、スリット17の深さに相当する底部12cの厚さは10mm程度とすることが望ましい。
【0038】
利用者は、一対の側翼部分19の夫々の外側端部を指で摘まむようにして、保持具10Aを片手で把持する。そして、当該一対の側翼部分19の夫々の外側端部を溝形成部分11の上面10a側に向けて移動させて近接させる形態で、当該一対の側翼部分19を屈撓させる側翼部分屈撓操作を行い、当該保持具10Aの天地を反転させる。すると、図11に示す状態となる。
即ち、図11に示すように、保持具10Aに対して側翼部分屈撓操作を行うと、溝形成部分11において、下面10b側(図11では上方側)には内側から左右の外側に向かう引張力が生じると共に、その上面10a側(図11では下方側)には左右の外側から内側に向かう圧縮力が生じる。
よって、溝形成部分11の保持用溝12の内部に供試魚Fを保持した状態で側翼部分屈撓操作を行えば、圧縮力により保持用溝12の幅が縮小することで当該保持用溝12の内部に保持された供試魚Fを保持用溝12の両側壁により適切に把持しながら、引張力により幅が拡大された底部溝16やスリット17を通じて一層容易且つ確実に、保持用溝12の内部に保持されている供試魚Fの腹部Fbに対して所定の処置を施すことができる。
更に、保持用溝12の下方の下面10b側に底部溝16が形成されて、保持用溝12の底部12cの厚みが薄くなっているので、図11に示すように、側翼部分屈撓操作を行った際には、底部12cに形成されたスリット17の幅が拡大し易くなる。よって、拡大されたスリット17を通じて一層容易且つ確実に供試魚Fの腹部Fbに対して所定の処置を施すことができる。尚、側翼部分屈撓操作において、一対の側翼部分19の夫々の外側端部を指で摘まむ強さは適宜設定することができ、例えば図11に示す状態よりも強く摘まむようにしても構わない。この場合、保持用溝12及びその上面10a側にあるシュート挿入凹部15の幅が一層縮小されて、保持具10とその保持用溝12の内部に保持された供試魚Fとの一体性が高まることで、当該供試魚Fが一層強固に把持される。
【0039】
〔第2実施形態〕
第2実施形態の保持具10Bを、図12図16に示す。図12は保持具10Bの正面図、図13は保持具10Bの左側面図、図14は保持具10Bの底面図、図15は保持具10Bの斜視図、図16は側翼部分屈撓操作が行われて天地が反転された保持具10Bの正面視での断面図である。尚、保持具10Bの右側面図は、左側面図(図13)と同一であるため省略する。保持具10Bの平面図は、上記第1実施形態の保持具10Aの平面図(図8)と同一であるため省略する。また、図16では、保持具10Bの天地が反転された状態であるため、保持具10Bの上面10a側が下方側に位置し、保持具10Bの下面10b側が上方側に位置する。
【0040】
本実施形態の保持具10B(図12図16を参照)は、前述の第1実施形態の保持具10A(図6図11を参照)に対して、全体の幅や厚さ、シュート挿入凹部15の大きさ、保持用溝12の大きさ、溝形成部分11の幅並びに両側翼部分19の幅及び高さなどが共通しており、全体の高さや底部溝16の有無などにおいて両者は相違する。そして、以下の説明において、前述の第1実施形態と同様の構成については、詳細な説明を割愛する場合がある。
【0041】
本実施形態の保持具10Bは、前述の第1実施形態の保持具10Aとは異なって底部溝16(図6等を参照)が省略されたものとなっており、その分だけ溝形成部分11の高さが小さくなっている。
即ち、図12の正面図を参照して、本実施形態の保持具10Bの下面10bは平面状に形成されており、当該保持具10Bにおいて、スリット17が、保持具10Bの下面10bに開口するように設けられている。そして、本実施形態の保持具10Bの高さは、上記底部溝16の高さ分を差し引いた約40mmとされている。そして、上下方向における側翼部分19の位置は、溝形成部分11における保持用溝12の底部12c側の一部、及びスリット17の位置に重畳する位置とされており、溝形成部分11の下端面から高さ約20mmまでの領域に側翼部分19が位置して、上記スリット17が開口する溝形成部分11の下面と、その両側に位置する一対の側翼部分19の下面とが、同一平面状に形成されている。
尚、本実施形態において、保持具10Bを保持具台30に設置するにあたり、その上面10aの高さ位置を上記第1実施形態の保持具10Aと同じものとするために、第1実施形態の保持具10Aと比べて小さくなった高さ分に相当する厚みを有するスポンジ製のスペーサを、保持具10Bと保持具台30の底板31との間に介装することが望ましい。
【0042】
利用者は、一対の側翼部分19の夫々の外側端部を指で摘まむようにして、保持具10Bを片手で把持する。そして、当該一対の側翼部分19の夫々の外側端部を溝形成部分11の上面10a側に向けて移動させて近接させる形態で、当該一対の側翼部分19を屈撓させる側翼部分屈撓操作を行い、当該保持具10Bの天地を反転させる。すると、図16に示す状態となる。
即ち、図16に示すように、保持具10Bに対して側翼部分屈撓操作を行うと、溝形成部分11において、下面10b側(図16では上方側)には内側から左右の外側に向かう引張力が生じると共に、その上面10a側(図16では下方側)には左右の外側から内側に向かう圧縮力が生じる。そして、下面10b側に生じる上記引張力が、当該下面10bに開口するスリット17に直接的に作用することで、当該スリット17の幅が比較的大きく拡大することになる。
よって、溝形成部分11の保持用溝12の内部に供試魚Fを保持した状態で側翼部分屈撓操作を行えば、圧縮力により保持用溝12の幅が縮小することで当該保持用溝12の内部に保持された供試魚Fを保持用溝12の両側壁により適切に把持しながら、引張力により幅が比較的大きく拡大されたスリット17を通じて一層容易且つ確実に、保持用溝12の内部に保持されている供試魚Fの腹部Fbに対して所定の処置を施すことができる。
更に、このように供試魚Fの腹部Fbに対しスリット17を通じて所定の処置を施すにあたり、前述の第1実施形態の保持具10Aが有していた底部溝16(図6等を参照)が省略されているので、当該底部溝16が上記処置の邪魔になることが回避されている。
また、本実施形態の保持具10Bは、前述の第1実施形態の保持具10Aと比べて底部溝16の省略により形状が簡素化されている。このことで、例えば直方体のスポンジを切断して本実施形態の保持具10Bを製造する場合には、切断箇所が少なくなることで、製造コストが低減される上に、上記側翼部分屈撓操作に対する破損が抑制されて耐久性が向上される。
【0043】
〔第3実施形態〕
第3実施形態の保持具10Cを、図17図19に示す。図17は保持具10Cの正面図、図18は保持具10Cの斜視図、図19は側翼部分屈撓操作が行われて天地が反転された保持具10Cの正面視での断面図である。尚、保持具10Cの左側面図及び右側面図は、上記第2実施形態の保持具10Bの左側面図(図13)と同一であるため省略する。保持具10Cの平面図は、上記第1実施形態の保持具10Aの平面図(図8)と同一であるため省略する。保持具10Cの底面図は、上記第1実施形態の保持具10Aの底面図(図9)と同一であるため省略する。また、図19では、保持具10Cの天地が反転された状態であるため、保持具10Cの上面10a側が下方側に位置し、保持具10Cの下面10b側が上方側に位置する。
【0044】
本実施形態の保持具10C(図17図19を参照)は、前述の第1実施形態の保持具10A(図6図11を参照)に対して、全体の幅や厚さ、シュート挿入凹部15の大きさ、底部溝16の大きさ、溝形成部分11の幅並びに両側翼部分19の幅及び高さなどが共通しており、全体の高さ、保持用溝12の大きさ、スリット17の深さ(底部12cの厚さ)などにおいて両者は相違する。そして、以下の説明において、前述の第1実施形態と同様の構成については、詳細な説明を割愛する場合がある。
【0045】
本実施形態の保持具10Cは、詳細については後述するが、前述の第1実施形態の保持具10Aとは異なって保持用溝12の高さやスリット17の深さ(底部12cの厚さ)が小さくなっており、その分だけ溝形成部分11の高さが小さくなっている。
即ち、図17の正面図を参照して、本実施形態の保持具10Cの高さは、上記保持用溝12の高さやスリット17の深さ(底部12cの厚さ)の縮小分を差し引いた約40mmとされている。そして、上下方向における側翼部分19の位置は、溝形成部分11における保持用溝12の底部12c側の一部、スリット17、及び底部溝16の位置に重畳する位置とされており、溝形成部分11の下端面から高さ約20mmまでの領域に側翼部分19が位置する。
尚、本実施形態において、保持具10Cを保持具台30に設置するにあたり、その上面10aの高さ位置を上記第1実施形態の保持具10Aと同じものとするために、第1実施形態の保持具10Aと比べて小さくなった高さ分に相当する厚みを有するスポンジ製のスペーサを、保持具10Cと保持具台30の底板31との間に介装することが望ましい。
【0046】
本実施形態の保持具10Cの保持用溝12は、主に図17に示すように、前述の第1実施形態と同様の略二等辺三角形の断面形状を有するものとして形成されているが、前述の第1実施形態と比べて小さいものとされている。即ち、保持具10Cにおいて、保持用溝12の大きさは、図17の正面図を参照して、上下方向の高さが約10mmで、底辺の左右方向の幅が約5mmとされている。
また、スリット17の深さ(底部12cの厚さ)についても、前述の第1実施形態と比べて小さい約5mmとされており、スリット17を通じた供試魚Fの腹部Fbに対する所定の処置が、当該スリット17により邪魔されることが一層抑制される。
【0047】
利用者は、一対の側翼部分19の夫々の外側端部を指で摘まむようにして、保持具10Cを片手で把持する。そして、当該一対の側翼部分19の夫々の外側端部を溝形成部分11の上面10a側に向けて移動させて近接させる形態で、当該一対の側翼部分19を屈撓させる側翼部分屈撓操作を行い、当該保持具10Cの天地を反転させる。すると、図19に示す状態となる。
即ち、図19に示すように、保持具10Cに対して側翼部分屈撓操作を行うと、溝形成部分11において、下面10b側(図19では上方側)には内側から左右の外側に向かう引張力が生じると共に、その上面10a側(図19では下方側)には左右の外側から内側に向かう圧縮力が生じる。
よって、溝形成部分11の保持用溝12の内部に供試魚Fを保持した状態で側翼部分屈撓操作を行えば、圧縮力により保持用溝12の幅が縮小することで当該保持用溝12の内部に保持された供試魚Fを保持用溝12の両側壁により適切に把持しながら、引張力により幅が拡大された底部溝16やスリット17を通じて一層容易且つ確実に、保持用溝12の内部に保持されている供試魚Fの腹部Fbに対して所定の処置を施すことができる。
【0048】
〔腹腔内投与及びそれで用いられる腹腔内投与具〕
本発明に係る所定の処理及び腹腔内投与具の実施形態として、これまで説明してきた供試魚保持装置1の保持具10を用いた腹腔内投与及びそれに利用される腹腔内投与具の詳細について、図面に基づいて説明する。
【0049】
図20に示すように、保持具10の保持用溝12の内部にダメージを極力抑制して供試魚Fを所定の姿勢で確実に保持しながら、当該保持具10の天地を反転させて、上方側からスリット17を通じて保持用溝12部の内部に保持された供試魚Fの腹部Fbに対して所定の処置を施す。
そして、本実施形態では、当該所定の処置として、供試魚Fの腹部Fbに対して注射針52を刺入れた状態で当該供試魚Fの腹腔内に注射針52を通じて目的物質を投与する腹腔内投与を実施する。尚、目的物質としては、実験用の被験物質や治療用の薬剤などのあらゆる目的の物質を用いることができる。
このような腹腔内投与において、注射針52は、例えば供試魚Fの腹部Fbにおける肛門から少しずれた箇所に対して所定の基準刺入れ角度As且つ基準刺入れ深さDsで刺入れられる。すると、注射針52の先端は供試魚Fの腹腔内へ適切に到達し、当該注射針52を通じて腹腔内へ目的物質を投与することができる。
【0050】
この腹腔内投与を施すための供試魚腹腔内投与具50は、図21及び図22にも示すように、目的物質を封入する注射器51と、当該注射器51から供給された目的物質を先端から流出させる注射針52と、を備えて構成されている。
更に、この供試魚腹腔内投与具50は、供試魚Fの腹部Fbに対する注射針52の実際の刺入れ深さの基準刺入れ深さDsに対する誤差による供試魚Fの負担を確実に軽減しながら、供試魚Fに対して常に安定した腹腔内投与を簡単に実施するための構成が採用されており、その構成について以下に説明する。
【0051】
注射針52の外周部には、腹腔内投与時(図22を参照)において供試魚Fの腹部Fbに対して所定の基準刺入れ深さDsで注射針52が刺入れられたときに、当該供試魚Fの腹部表面Fbaに接する刺入れ深さ案内部52Aが設けられている。具体的には、注射針52の基端部には筒状のガイド部材53が外嵌されている。そして、ガイド部材53の先端面53aが、腹腔内投与時において供試魚Fの腹部Fbに対して所定の基準刺入れ深さDsで注射針52が刺入れられたときに、当該供試魚Fの腹部表面Fbaに当接する形態で、上記刺入れ深さ案内部52Aとして機能する。
更に、ガイド部材53の先端面53aは、腹腔内投与時(図22参照)において供試魚Fの腹部Fbに対して所定の基準刺入れ角度Asで注射針52が刺入れられたときに供試魚Fの腹部表面Fbaに平行となる傾斜面とされている。
このような構成により、利用者は、図21に示すように、供試魚Fの腹部Fbに対して注射針52を刺入れる際に、ガイド部材53の先端面53aが供試魚Fの腹部表面Fbaと平行となるように注射器51の姿勢を保つことで、当該注射針52が適切な基準刺入れ角度Asで供試魚Fの腹部Fbに刺入れられていることを明確に知ることができる。
更に、図22に示すように、腹腔内投与時において、利用者は、供試魚Fの腹部Fbに対して注射針52を刺入れる際に、ガイド部材53の先端面53aが刺入れ深さ案内部52Aとして供試魚Fの腹部Fbに当接することによって、当該注射針52が適切な基準刺入れ深さDsで供試魚Fの腹部Fbに刺入れられていることを明確に知ることができる。
よって、供試魚Fの腹部Fbに対する注射針52の実際の刺入れ角度や刺入れ深さの基準刺入れ角度Asや基準刺入れ深さDsに対する誤差による供試魚Fの負担を確実に軽減ながら、供試魚Fに対して常に安定した腹腔内投与を簡単に実施することができる。
【0052】
尚、本実施形態では、ガイド部材53の先端面53aを上記刺入れ深さ案内部52Aとしたが、例えばガイド部材53を省略して、注射針52の外周部に設けた着色部、刻印部、又は溝部などを、上記刺入れ深さ案内部52Aとしても機能させても構わない。この場合、注射針52の外周部において本実施形態にてガイド部材53を設けていた範囲全体を着色して、その先端部を上記刺入れ深さ案内部52Aとしても機能させても構わない。
また、注射針52の外周部の着色部を刺入れ深さ案内部52Aとする場合には、その着色部を、腹腔内投与時において供試魚Fの腹部Fbに対して所定の基準刺入れ角度Asで注射針52が刺入れられたときに供試魚Fの腹部表面Fbaに平行となる線状などの形態とすることができる。
【0053】
〔別実施形態〕
本発明の他の実施形態について説明する。尚、以下に説明する各実施形態の構成は、それぞれ単独で適用することに限らず、他の実施形態の構成と組み合わせて適用することも可能である。
【0054】
(1)上記実施形態の保持具10では、保持用溝12が形成された溝形成部分11の左右両側部の下部側から両側方に延出する一対の側翼部分19を設けたが、この側翼部分19を省略しても構わない。
【0055】
(2)上記実施形態の保持具10では、開放部12aを頂点とした略二等辺三角形の断面形状を有する保持用溝12を設けたが、楕円や矩形などの別の形状の断面形状を有する保持用溝を設けても構わない。
【0056】
(3)上記実施形態では、供試魚保持装置1を使用して供試魚Fの腹部Fbに対して所定の処置を施す供試魚Fの処置方法として、供試魚腹腔内投与具50を用いた腹腔内投与を実施する例を説明したが、当該所定の処置は供試魚Fの腹部Fbに対して施される処置であればよく、例えば供試魚Fの腹部Fbの観察などのような腹腔内投与以外の別の処置を実施してもよい。
【0057】
(4)上記実施形態の供試魚腹腔内投与具50では、ガイド部材53の先端面53aを腹腔内投与時において供試魚Fの腹部表面Fbaに平行となる傾斜面としたが、ガイド部材53の先端面53aの傾斜角度や形状は適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0058】
1 供試魚保持装置
10 保持具
10A 保持具
10B 保持具
10C 保持具
10a 上面側
10b 下面側
11 溝形成部分
12 保持用溝
12a 開放部
12c 底部
16 底部溝
17 スリット
19 側翼部分
50 供試魚腹腔内投与具
51 注射器
52 注射針
52A 刺入れ深さ案内部
53 ガイド部材
53a 先端面
As 基準刺入れ角度
Ds 基準刺入れ深さ
F 供試魚
Fb 腹部
Fba 腹部表面

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22