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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-08
(45)【発行日】2024-08-19
(54)【発明の名称】モータ
(51)【国際特許分類】
   H02K 3/24 20060101AFI20240809BHJP
【FI】
H02K3/24 Z
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021555916
(86)(22)【出願日】2020-09-11
(86)【国際出願番号】 JP2020034409
(87)【国際公開番号】W WO2021095343
(87)【国際公開日】2021-05-20
【審査請求日】2023-07-10
(31)【優先権主張番号】P 2019204341
(32)【優先日】2019-11-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106116
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100131495
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 健児
(72)【発明者】
【氏名】菱田 光起
(72)【発明者】
【氏名】近藤 元輝
(72)【発明者】
【氏名】吉川 祐一
【審査官】三澤 哲也
(56)【参考文献】
【文献】独国特許出願公開第102012212637(DE,A1)
【文献】特開2012-100433(JP,A)
【文献】実開昭48-042008(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 3/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のステータコアシートを積層する積層体を含むステータコアと、
前記ステータコアに具備するティースを磁心の一部とするステータコイルを含むステータと、前記ステータコアの前記ティースの先端と空隙を介して回転自在に支承されるロータとを含むモータにおいて、
前記ステータコイルは、
前記ステータコイルの導体部と前記導体部を被覆する絶縁性の被膜とを含む導線部を有し且つ前記導体部の断面形状が実質的に矩形であり、
予め定められたターン数のコイルであり且つ前記ステータコイルの前記ターン数のうちの最初のターンから前記ターン数のうちの最後のターンまでの間に実質的に連続する螺旋面を含み、
前記断面形状の前記矩形における四辺のうち相対する対向の二辺を前記螺旋面に含み、
前記ステータコアの前記積層する方向であり且つ前記ステータコアの端面よりも前記ステータコイルが突出する箇所であるコイルエンド部の一部分における前記導体部に、前記ステータコアの外径方向に対面する側から前記ロータの位置する方向に対面する側に亘って欠設する欠設構造部を含むモータ。
【請求項2】
前記欠設構造部は、コイルエンド部の一部分に、前記ステータコアの外径方向に対面する側から前記ロータの位置する方向に対面する側に亘って溝状に欠設する溝部である請求項1記載のモータ。
【請求項3】
前記欠設構造部は、コイルエンド部の一部分に、前記ステータコアの外径方向に対面する側から前記ロータの位置する方向に対面する側に亘って孔状に欠設する孔部である請求項1記載のモータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータに関する。本発明は、特にモータのステータコイルの構成に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、産業、車載用途で、モータの需要は高まっている。その中で、モータの効率向上、低コスト化が要望されている。
【0003】
モータの効率向上の一つの手法として、ステータのスロット内に配置されるステータコイルの占積率を向上させることが知られている。ステータコイルの占積率を向上させることで、モータの駆動時に、ステータコイルに流れる電流に起因する損失を抑制できる。
【0004】
ステータコイルの占積率を向上させる手法として、銅材を用いた鋳造コイルをスロット内に配置する等の構成が示されている(例えば、特許文献1を参照)。
【0005】
モータ効率を低下させる要因の一つに、ステータコイルにおける銅損やステータコアにおける鉄損等の発熱に起因する温度上昇がある。モータの内部に冷媒を循環させて放熱を図り温度上昇を抑制することが知られている(例えば、特許文献2を参照)。
【0006】
ステータコイルの占積率が向上すると、スロット内でのデッドスペースが小さくなる。しかし、デッドスペースは冷媒の流路の一部を構成しており、スロット内でのデッドスペースが小さくなることは、冷媒の流路が狭くなることと等しく、冷媒の流量を減少させてしまう。その結果、冷媒による冷却効果が有効に作用しないこととなる。ステータコイルまたはステータコアの発熱に起因する温度上昇は過剰なものとなり、モータの効率(efficiency)の低下を招くこととなる。
【0007】
なお、モータの効率とは、モータへの入力電力に対するモータからの機械出力の比を百分率(percentage、単位記号[%])で表すものである。占積率とは、スロットまたはインシュレータ等の巻線収容部の収容断面積に対して、導線等の導体部分が占める割合である。導線等の断面が円形であれば、隣り合う円形の間には、デッドスペースを生じるため、占積率を高めることには限界がある。また、導線の絶縁被膜の厚み等も占積率を低下させる要因となる。ちなみに、導線の絶縁被膜の厚みが一定であると、導線の径寸法が小さい場合ほど、絶縁被膜の厚みまたは絶縁被膜の占める面積の比率は高い。
【0008】
一方、ステータのスロット内に配置されるステータコイルの占積率の向上に伴って、ステータコイルに生じる渦電流による損失が顕著に現れる場合もある。その為に、コイルの渦電流を低減させる手法として、集合導体における断面が複数の領域で構成される導体をステータコイルに用いる等の構成が示されている(例えば、特許文献3を参照)。
【0009】
ステータコイルは、外部からの交番電流の供給を受けて励磁される。当然、ステータコイルを含むステータに発生する磁束は、交番磁束である。この交番磁束は、ステータコア及びロータコアを主な磁路とする。しかし、交番磁束の一部は漏洩磁束となって、ステータコア及びロータコア以外の部分を鎖交する。漏洩磁束の多い箇所の一つとしては、ステータコアのティース先端側であることが従来から知られている。導体断面が円形の導線である場合は、漏洩磁束が鎖交する導体面積が限られている。このため、導線に生じる渦電流は顕著では無い。
【0010】
一方、ステータコイルの占積率を高めるために、導体断面における幅寸法を、導体断面における厚み寸法よりも大きい寸法とした細長断面形状を有する導体によって、螺旋面を有する螺旋状の積層コイルを構成する。この場合は、漏洩磁束が鎖交する導体面積は、導体断面が円形の導線の場合よりも、数倍広い。これにより、渦電流の発生は顕著なものとなる。
【0011】
ステータコイルは、外部からの交番電流の供給を受けて励磁される。当然、ステータコイルを含むステータに発生する磁束は、交番磁束である。この交番磁束は、ステータコア及びロータコアを主な磁路とするが、交番磁束の一部は漏洩磁束となって、ステータコア及びロータコア以外の部分を鎖交する。漏洩磁束の多い箇所の一つとしては、ステータコアのティース先端側であることが従来から知られている。導体断面が円形の導線である場合は、漏洩磁束が鎖交する導体面積が限られているため、導線に生じる渦電流は顕著では無い。
【0012】
一方、ステータコイルの占積率を高めるために、導体断面における幅寸法を、導体断面における厚み寸法よりも大きい寸法とした細長断面形状を有する導体によって、螺旋面を有する螺旋状の積層コイルを構成する。この場合は、漏洩磁束が鎖交する導体面積は、導体断面が円形の導線の場合よりも、数倍広く、渦電流の発生は顕著なものとなる。例えば、ステータコイルのサイズ、材料の抵抗率、またはモータの駆動条件によっては発熱が大きくなり、それらの損失が無視できない。これにより、モータとしての効率が低下する等の課題が考察された。
【0013】
一従来例として図4A図4B及び図4Cを例示する。図4Aは、従来例として例示するステータコイル5の正面図である。図4Bは、従来例として例示するステータコイル5を示す斜視図である。図4Cは、従来例として例示するステータコイル5の側面図である。ステータコイル5では、各ターンのコイル線路部5qにおいて、図4Aにおいて仮想的に表す点線と矢印Aとで示すような渦電流45が発生する。渦電流45によって、ジュール熱が発生し、損失となりモータの効率を低下させる。さらには、渦電流に起因するモータ自体の自己温度上昇は、モータ自体の銅損の増加を招く。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】独国特許出願公開第102012212637号明細書
【文献】特開2015-109733号公報
【文献】特開2009-199749号公報
【発明の概要】
【0015】
本発明は、ステータコイルの占積率を高めた場合においても、渦電流に起因する発熱に対して、放熱性を高めたステータコイルを提供する。本発明は、従来よりもステータコイル及びモータの特性を高めることを課題とする。
【0016】
課題を解決するために、第1の発明は、複数のステータコアシートを積層する積層体を含むステータコアと、ステータコアに具備するティースを磁心の一部とするステータコイルを含むステータと、ステータコアのティースの先端と空隙を介して回転自在に支承されるロータとを含むモータにおいて、ステータコイルは、ステータコイルの導体部と導体部を被覆する絶縁性の被膜を含む導線部を有し且つ導体部の断面形状が実質的に矩形であり、予め定められたターン数のコイルであり且つステータコイルのターン数のうちの最初のターンからターン数のうちの最後のターンまでの間に実質的に連続する螺旋面を含み、断面形状の矩形における四辺のうち相対する対向の二辺を螺旋面に含み、ステータコアの積層する方向であり且つステータコアの端面よりもステータコイルが突出する箇所であるコイルエンド部の一部分に、ステータコアの外径方向に対面する側からロータの位置する方向に対面する側に亘って欠設する欠設構造部を含むモータである。
【0017】
また、第2の発明は、欠設構造部は、コイルエンド部の一部分に、ステータコアの外径方向に対面する側からロータの位置する方向に対面する側に亘って溝状に欠設する溝部である第1の発明のモータである。
【0018】
また、第3の発明は、欠設構造部は、コイルエンド部の一部分に、ステータコアの外径方向に対面する側からロータの位置する方向に対面する側に亘って孔状に欠設する孔部である第1の発明のモータである。
【0019】
本発明によれば、ステータコイルの占積率を高めた場合においても、渦電流に起因する発熱に対して、放熱性を高めたステータコイルを見出し、従来よりもステータコイルの特性を高めたモータを提供可能である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1A】実施の形態1に係るモータを示す上面図
図1B】実施の形態1に係るモータを示す側面図
図1C図1Bにおける1C-1C線における断面図
図2】実施の形態1に係るステータコイルの正面図
図3】実施の形態2に係るステータコイルの正面図
図4A】従来例として例示するステータコイルの正面図
図4B】従来例として例示するステータコイルの斜視図
図4C】従来例として例示するステータコイルの側面図
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明のモータに関して図面を適宜に参照して説明する。なお、以下に記す各実施の形態は、一例示に過ぎず、本発明、その適用物またはその用途を制限することを意図するものではない。
【0022】
(実施の形態1)
[モータの構造について]
図1Aは、実施の形態1に係るモータを示す上面図である。図1Bは、実施の形態1に係るモータを示す側面図である。図1Cは、図1Bにおける1C-1C線における断面図である。ただし、いずれにおいても、カバーケース、インシュレータなどの絶縁物等は図示していない。モータ1は、カバーケース(図示せず)の内部に、シャフト2と、ロータ3と、ステータ4と、インシュレータ(図示せず)と、ステータコイルU11、U22、U32、U41、V12.V21、V31、V42、W11、W22、W32、W41と、バスバー51,52,53、54と、を備える。
【0023】
ここで、シャフト2の長手方向(図1A紙面に対して垂直な方向)をZ軸方向と呼称し、これに直交する方向(図1A紙面に対して平行な方向)をX軸方向、Y軸方向と呼称する。
【0024】
また、「一体」あるいは「一体化」とは、複数の部品が、ボルト締め、または、かしめ等の機械的に接続されているだけでなく、共有結合、イオン結合、金属結合などの材料結合によって、部品が電気的に接続された1つの物体、または部品全体が溶融などによって材料結合され電気的に接続された1つの物体の状態をいう。
【0025】
モータ1の内部には、図示しない冷媒が循環し、モータの発熱を冷媒によって冷却する構成を有する。冷媒は、ステータコア、ステータコイル及びロータ周辺の各々に有する隙間を流路として、冷媒を循環させる上流部から下流側へ流れ、再び上流部へ戻り循環する。冷媒の流路の一部には、冷媒を冷却するための放熱部などを具備する。冷媒の循環は、強制的に循環を行う装置を具備しても良い。このような構成を具備させることで、ロータ3及びステータ4の冷却を図る。
【0026】
ロータ3は、シャフト2の外周に接して設けられている。ロータ3は、ステータ4に対向してN極、S極がシャフト2の外周方向に沿って交互に配置された磁石31を含んでいる。なお、ロータ3に用いられる磁石31としてネオジム磁石を使用しているが、その材料、形状、または材質については、モータの出力等に応じて適宜変更可能である。
【0027】
ステータ4は、実質的に円環状のステータコア41と、その内周に沿って等間隔に設けられた複数のティース42と、ティース42間にそれぞれ設けられたスロット43とを有している。ステータ4は、Z軸方向から見て、ロータ3の外側に、ロータ3と一定の間隔を持って離間して配置されている。
【0028】
ステータコア41は、複数のコアセグメントの集合体として構成される。コアセグメントの構成は、ヨーク44と、複数のティース42とからなる構成である。なお、コアセグメントの構成は、本実施の形態に例示する他に適宜好適な構成を選択し得る。例えば、ヨーク44は、一つの円環状の形状である。しかし、ヨーク44は、複数の扇型形状のコアセグメントを構成し、この扇型形状のコアセグメントを円環状に配置する構成でも良い。ステータコア41及び各コアセグメントは、例えば珪素等を含有した電磁鋼板を、予め定めた形状に打ち抜き加工したコアシート(ステータコアシート41a)を複数積層して一体化して構成した積層体である。
【0029】
なお、本実施の形態において、ロータ3の磁極数は、ステータ4に対向するN極が5個であり、S極が5個の計10極である。スロット43の数は12個である。しかし、ロータ3の磁極数とスロット43の数は、特にこれに限定されるものではない。その他の磁極数とスロット数との組合せについても適用可能である。
【0030】
ステータ4は12個のステータコイルU11、U22、U32、U41、V12.V21、V31、V42、W11、W22、W32、W41を有している。ステータコイルは各ティース42に対して装着されている。ステータコイルは、Z軸方向から見て、各々のスロット43内に配置されている。つまり、ステータコイルU11、U22、U32、U41、V12.V21、V31、V42、W11、W22、W32、W41はティース42に対して集中巻になっている。さらに、ステータコイルU11、U22、U32、U41がバスバー51と、ステータコイルV12~V42はバスバー52と、ステータコイルW11~W41はバスバー53とそれぞれ一体化されて配置されている。ここでバスバーは構成されていてもいなくてもよく、結線基板やリード線などによる接続であっても良い。
【0031】
ここで、ステータコイルを表わす符号UXY、VXY、WXYのうち、最初の文字はモータ1の各相(本実施の形態の場合は、U相、V相、W相)を表わす。2番目の文字は同相内のステータコイルの配列順を表わす。3番目の文字はステータコイルである螺旋状のコイルの周回方向を表わす。本実施の形態では、1は時計回り方向、2は反時計回り方向である。従って、ステータコイルU11は、U相の配列順が1番目のステータコイルで、周回方向が時計回り方向であることを表わす。ステータコイルV42は、V相の配列順が4番目のステータコイルで、周回方向が反時計回り方向であることを表わす。なお、時計回りとは、モータ1の中心から見て右回りをいい、「反時計回り」とはモータ1の中心から見て左回りをいう。
【0032】
厳密には、ステータコイルU11,U41はU相のステータコイルであり、ステータコイルU22,U32はUバー相(U相ステータコイルと発生する磁界の向きが逆)のステータコイルである。しかし、以降の説明では、特に断らない限り、U相のステータコイルと総称する。ステータコイルV12~V42及びステータコイルW11~W41についても同様に、V相のステータコイル、W相のステータコイルとそれぞれ総称する。
【0033】
[ステータコイルの構造について]
図2は、実施の形態1に係るステータコイルの正面図である。また、図2に示す構成の本実施の形態に係るステータコイル5は、図1Cに示すモータ1のティース42に装着されたステータコイルU11、U22、U32、U41、V12.V21、V31、V42、W11、W22、W32、W41に適用される。ステータコイル5は、予め定められたターン数の環状体5mを含む螺旋状の構造を有する。環状体5mの各ターンの構成は、図2に示すとおり、平面視で実質的に矩形状である。図2においては、環状体5mの平面視における短形状の一部分のうち、長辺側は、ティースにおけるステータコアシート41aの積層面が現れる面の側の各々に位置し、コイル線路部5qと呼称する。環状体5mの平面視における短形状の一部分のうち、短辺側は、一対の長辺側であるコイル線路部5qの同方向の端側の間に位置し、これをコイルエンド部5rと呼称する。コイルエンド部5rは、ステータコア41における複数のステータコアシート41aを積層する方向であり且つステータコア41の端面よりもステータコイル5が突出する箇所でもある。
【0034】
コイル線路部5qの一方側からコイルエンド部5rの一方側へと移行する箇所をコイルコーナー部5sと呼称する。
【0035】
螺旋状のコイルであるステータコイル5は、導体部5gと、導体部5gの表面に設けられた絶縁性被膜5bと、ステータコイル5の第1ターン5t及び第10ターン5uからそれぞれ引出し部5cと、引出し部5dとを有している。また、ステータコイル5の第2ターンから第10ターン5uである環状体5mは平面視で実質的に矩形状の環状である。環状体5mは、2つの短辺と、2つの長辺と、4つコイルコーナー部5sとを有する。なお、図2においては、第1ターン5tから第9ターンまでの各々の環状体5mは、環状の形状にて1周する構成である。一方、第10ターン5uについては、環状の形状が1周に満たず、環状体5mにおける短辺が一つ分程足らない構成である。この構成を別の表現で示すとすれば、第10ターン5uは、環状の形状が、4分の1周程度ほど満たない、実質的には4分の3周(3/4周)する構成である。第10ターン5uが、4分の1周程度ほど満たないこととなる理由は、引出し部5c及び引出し部5dの配置の構成に起因する。引出し部5c及び引出し部5dの配置の位置次第で、第10ターン5uが、1周を満たす場合もあれば、1周よりも僅かに多く周回する場合も考察し得る。同様に、第1ターン5tが、1周に満たない場合もあれば、1周よりも僅かに多く周回する場合も考察し得る。
【0036】
導線部5aは断面が矩形の導体と導体を被覆する絶縁性被膜5bを有する。導線部5aは環状体構造を螺旋状に積層する構造体である。螺旋状に積層する構成は、モータにおける径方向の内外方向に積層する構造である。螺旋状に積層する構成は、予め定められたターン数の環状体5mを含むものである。例えば、予め定められたターン数は、第1ターン5tから第nターン(nは2以上の整数)からなる。なお、この第1ターン5tから第nターンを、ターン列と呼称する。
【0037】
導体部5gは断面が実質的に矩形の導電部材からなる線材である。この線材によって環状体5mを構成し、この環状体5mを10ターンについて螺旋状に積層し且つ単層の構造体を構成することによって、導体部5gは螺旋状のコイルを構成している。導体部5gは、例えば、銅、アルミニウム、亜鉛、マグネシウム、真鍮、鉄、SUS(Steel Use Stainless)等によって形成されている。これらは単層で記載している。しかし、単層のみならず、多層のコイルにおいても適用可能である。
【0038】
なお、以降の説明において、引出し部5cの先端から引出し部5dが設けられた位置の下方まで巻回された部分を第1ターン5tとする。以降の1周ずつ巻回された部分を順に第2ターン、第3ターン・・・第10ターン5uと順次数えることとする。各ターンの始点の取り方は任意に定めることができる。ステータコイル5の第1ターン5tが設けられた側を「外」、第10ターン5uが設けられた側を「内」と呼称する。これは、モータ構造の径方向に対し、モータの外側を「外」とし、モータの中心側を「内」としているためである。
【0039】
絶縁性被膜5bは、ステータコイル5と外部の部材(図示せず)を絶縁するように、導体部5gの表面全体に設けられている。例えば、図1A図1B及び図1Cに示すモータ1において、絶縁性被膜5b及び図示しない絶縁部材、例えば絶縁紙等によって、ステータコイル5とステータコア41及びティース42との間が絶縁される。ステータコイル5における隣接するターン間は絶縁性被膜5bによって絶縁されている。絶縁性被膜5bは、例えば、ポリイミド、ナイロン、PEEK(Poly Ether Ether Ketone、ポリエーテルエーテルケトン)、アクリル、アミドイミド、エステルイミド、エナメル、耐熱樹脂等によって形成されている。絶縁性被膜5bの厚みは、数十μm程度、例えば、5μmから50μmの間である。
【0040】
引出し部5c・引出し部5dは、いずれも導線部5aの一部である。引出し部5c・引出し部5dは、外部からの電流供給を受けるため、あるいは外部に電流を供給するために、ステータコイル5の側面、言いかえると、導線部5aのターン列と交差する平面から外側に延在している。外部の部材、例えば、図1A図1B及び図1Cに示すバスバー51、バスバー52、バスバー53、バスバー54のいずれかと接続するために、引出し部5c・引出し部5dにおいて、絶縁性被膜5bが除去されている。なお、絶縁性被膜5bは、引出し部5c・引出し部5dの全領域で除去されている必要はない。例えば、バスバー51、バスバー52、バスバー53、バスバー54との接続に必要な部分のみ絶縁性被膜5bが除去されていれば良い。
【0041】
ここで、本実施の形態に係るステータコイル5の形状の特徴について詳述する。ステータコイル5は、導体部5gと導体部5gを被覆する絶縁性被膜5bとを含む導線部5aを有する。ステータコイル5は、導線部5aの断面形状が実質的に矩形である構成と、予め
定められたターン数のコイルであり且つこのコイルの最初のターンから最後のターンまでの間に実質的に連続する螺旋面5iを含む構成と、上記の断面形状の矩形における四辺のうち相対する対向の二辺を螺旋面5iに含む構成と、を含む。ステータコイル5は、ステータコア41におけるステータコアシート41aを積層する方向であり且つステータコア41の端面よりもステータコイル5が突出する箇所であるコイルエンド部5rの一部分に、ステータコア41の外径方向に対面する側からロータ3の位置する方向に対面する側に亘って欠設する欠設構造部である。この欠設構造部は、例えば、溝状に欠設する溝部5e等の構造である。
【0042】
上記の欠設構造部は、後述するように、コイルエンド部5rの一部分に、ステータコア41の外径方向に対面する側からロータ3の位置する方向に対面する側に亘って孔状に欠設する孔部5f(図3を参照)でも良い。
【0043】
上記の欠設構造部は、ステータコア41の外径方向に対面する側からロータ3の位置する方向に対面する側に亘る方向から対面して見た溝部5eの形状は、図2に示すように、実質的にV字谷状の切り欠いた形状に見える。この溝部5eの形状は、V字谷状に限らず、U字谷状及びその他の形状でも良く、更には、V字谷状、U字谷状及びその他の形状の一部分に、鋭角な形状、円弧形状、鈍角な形状、曲線、または直線等を含んでも良く、その形状を特定するものではない。
【0044】
例えば、溝部5eの構造及び形状寸法は、ステータコイル5の剛性を損なわない程度であることが好ましい。導体部5gの断面形状が実質的に矩形である場合においては、導体部5gの断面形状における幅寸法に対する溝部5eの占める割合は、約1/3程度が好適と考察される。そして、溝部5eの溝底部(谷底部)には、曲面を有する谷状の溝構造、U字谷状の溝構造、または平坦面を有する溝構造を有しても良い。
【0045】
また、絶縁性被膜5bの着膜を良好なものとするために、溝部5eを配置する箇所を含む導体部5gの断面形状及び溝部5eを配置しない箇所である導体部5gの断面形状は、実質的に矩形である。しかし、この矩形である導線部5gの断面形状における四隅の角部に当る箇所は、鋭角な稜線を構成することは好適ではなく、稜線の先端が曲面(所謂、R面取り)、または、C面取りされた構成であることが好ましい。
【0046】
図2においては、溝部5eの配置箇所は、コイルエンド部5rにおけるティースに対面しない側であり且つ環状体5mにおける外周側のみであるが、これに限るものではない。例えば、溝部5eの配置箇所は、コイルエンド部5rにおけるティースに対面する側であり且つ環状体5mにおける内周側でも良い。更には、溝部5eの配置箇所は、環状体5mにおける内周側及び外周側の両方であっても良い。
【0047】
導体部5gの断面形状が実質的に矩形である場合においては、導体部5gの断面形状における幅寸法に対する溝部5eの占める割合は、約1/3程度に限定されるものではない。ステータコイル5の剛性と、ステータコイル5の電気抵抗値の増加によるジュール熱による発熱(自己発熱による温度上昇)とが、互いにトレードオフの関係にあることを配慮し且つモータの仕様に照らして、導体部5gの断面形状における幅寸法に対する溝部5eの占める割合を適宜に選択する。
【0048】
溝部5eの配置箇所の数についても、特に限定されるものではなく、ステータコイル5の剛性と、ステータコイル5の電気抵抗値の増加によるジュール熱による発熱(自己発熱による温度上昇)とが、互いにトレードオフの関係にあることを配慮し且つモータの仕様に照らして、適宜に選択する。
【0049】
なお、本実施の形態では、ステータコイル5のターン数を実質的に10とした。しかし、特にこれに限定するものでは無く、他の値であってもよい。なお、上述のとおり、本実施の形態におけるステータコイル5のターン数は、10を僅かに下回る9.75程度であるが、実質的には10と解釈されることが多い。
【0050】
以上のように、本実施の形態のモータ1は、複数のステータコアシート41aを積層する積層体を含むステータコア41と、ステータコア41に具備するティース42を磁心の一部とするステータコイル5を含むステータ4と、ステータコア41のティース42の先端と空隙を介して回転自在に支承されるロータ3とを含むモータ1において、ステータコイル5は、ステータコイル5の導体部5gと導体部5gを被覆する絶縁性の被膜を含む導線部5aを有し且つ導体部5gの断面形状が実質的に矩形であり、予め定められたターン数のコイルであり且つステータコイル5のターン数のうちの最初のターンからターン数のうちの最後のターンまでの間に実質的に連続する螺旋面を含み、断面形状の矩形における四辺のうち相対する対向の二辺を螺旋面に含み、ステータコア41の積層する方向であり且つステータコア41の端面よりもステータコイル5が突出する箇所であるコイルエンド部5rの一部分に、ステータコア41の外径方向に対面する側からロータ3の位置する方向に対面する側に亘って欠設する欠設構造部を含む。
【0051】
これにより、ステータコイル5の占積率を高めた場合においても、渦電流に起因する発熱に対して、放熱性を高めたステータコイル5を見出し、従来よりもステータコイル5の特性を高めたモータを提供可能である。
【0052】
また、欠設構造部は、コイルエンド部5rの一部分に、ステータコア41の外径方向に対面する側からロータ3の位置する方向に対面する側に亘って溝状に欠設する溝部5eであってもよい。
【0053】
(実施の形態2)
図3は、実施の形態2に係るステータコイル5の正面図である。本実施の形態におけるモータの構成については、実施の形態1と同様の内容であり、重複する内容については、その記述を省略する。
【0054】
本実施の形態における欠設構造部は、コイルエンド部5rの一部分に、ステータコア41の外径方向に対面する側からロータ3の位置する方向に対面する側に亘って孔状に欠設する孔部5f(図3を参照)である。
【0055】
また、上記の欠設構造部は、ステータコア41の外径方向に対面する側からロータ3の位置する方向に対面する側に亘る方向から対面して見た孔部5fの形状であって、図3に示すように、実質的に円形状に穿たれた丸孔として見える。孔部5fの形状は、円形状の丸孔に限らず、楕円状の楕円孔、四角状の四角孔、三角状の三角孔、多角形状の多角形孔、またはその他の形状でも良い。更には、その孔形状の一部分に、鋭角な形状、円弧形状、鈍角な形状、曲線、または直線等を含んでも良い。孔部5fの形状を特定するものではない。
【0056】
孔部5fの構造及び形状寸法は、ステータコイル5の剛性を損なわない程度であることが好ましい。導体部5gの断面形状が実質的に矩形である場合においては、導体部5gの
断面形状における幅寸法に対する孔部5fの占める割合は、約1/3程度が好適と考察される。
【0057】
絶縁性被膜5bの着膜を良好なものとするために、孔部5fを配置する箇所を含む導体部5gの断面形状及び孔部5fを配置しない箇所である導体部5gの断面形状は、実質的に矩形である。しかし、この矩形である導線部5gの断面形状における四隅の角部に当る箇所は、鋭角な稜線を構成することは好適ではなく、稜線の先端が曲面(所謂、R面取り)、またはC面取りされた構成であることが好ましい。
【0058】
図3においては、孔部5fの配置箇所は、コイルエンド部5rのほぼ中央部に一列状に配置する構成である。しかし、これに限るものではない。例えば、孔部5fの配置は、一列状ではなく、千鳥状に配置しても良い。
【0059】
導体部5gの断面形状が実質的に矩形である場合においては、導体部5gの断面形状における幅寸法に対する孔部5fの占める割合は、約1/3程度に限定されるものではない。ステータコイル5の剛性と、ステータコイル5の電気抵抗値の増加によるジュール熱による発熱(自己発熱による温度上昇)とが、互いにトレードオフの関係にあることを配慮し且つモータの仕様に照らして、導体部5gの断面形状における幅寸法に対する孔部5fの占める割合を適宜に選択すべきものである。
【0060】
また、溝部5eの配置箇所の数についても、特に限定されるものではない。溝部5eの配置箇所の数は、ステータコイル5の剛性と、ステータコイル5の電気抵抗値の増加によるジュール熱による発熱(自己発熱による温度上昇)とが、互いにトレードオフの関係にあることを配慮し且つモータの仕様に照らして、適宜に選択する。
【0061】
本実施の形態では、ステータコイル5のターン数を実質的に10とした。しかし、特にこれに限定するものでは無く、他の値であってもよい。なお、上述のとおり、本実施の形態におけるステータコイル5のターン数は、10を僅かに下回る9.75程度であるが、実質的には10と解釈されることが多い。
【0062】
本発明におけるステータコイル5は、鋳造により形成可能である。この方法によれば、断面積の大きい導線を容易に螺旋状のステータコイルを成形可能である。なお、上記の鋳造に限らず、他の方法で形成しても良い。例えば、銅、アルミニウム、亜鉛、マグネシウム、鉄、SUS、真鍮などの固体物から切削加工等によって形成しても良い。個々に成形された部品同士を溶接や接合による部材一体化により形成しても良い。
【0063】
以上のように、本実施の形態のモータ1において、欠設構造部は、コイルエンド部5rの一部分に、ステータコア41の外径方向に対面する側からロータ3の位置する方向に対面する側に亘って孔状に欠設する孔部5fである。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明によれば、ステータコイルの占積率を高めた場合においても、渦電流に起因する発熱に対して、放熱性を高めたステータコイルの構成を見出し、従来よりもステータコイルの特性を高めたモータを提供可能である。したがって、産業的価値の大いなるものである。
【符号の説明】
【0065】
1 モータ
3 ロータ
4 ステータ
5 ステータコイル
5a 導線部
5b 絶縁性被膜
5c 引出し部
5d 引出し部
5e 溝部
5f 孔部
5g 導体部
5i 螺旋面
5m 環状体
5q コイル線路部
5r コイルエンド部
5s コイルコーナー部
5t 第1ターン
5u 第10ターン
41 ステータコア
41a ステータコアシート
42 ティース
43 スロット
44 ヨーク
45 渦電流
51、52、53、54 バスバー
A 矢印
U11、U22、U32、U41、V12.V21、V31、V42、W11、W22、W32、W41 ステータコイル
図1A
図1B
図1C
図2
図3
図4A
図4B
図4C