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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-08
(45)【発行日】2024-08-19
(54)【発明の名称】医療用牽引具
(51)【国際特許分類】
   A61B 17/02 20060101AFI20240809BHJP
【FI】
A61B17/02
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020068568
(22)【出願日】2020-04-06
(65)【公開番号】P2021164534
(43)【公開日】2021-10-14
【審査請求日】2023-03-15
(73)【特許権者】
【識別番号】390029676
【氏名又は名称】株式会社トップ
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 浩
(72)【発明者】
【氏名】日村 義彦
【審査官】段 吉享
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-000629(JP,A)
【文献】国際公開第2011/126050(WO,A1)
【文献】特開2004-105247(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 17/02
A61B 17/22-17/221
A61B 17/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
把持対象を把持するクリップに先端側が接続される紐状部材と、
前記紐状部材の基端側が所定の回転中心周りに巻き回される回転部材と、
前記回転部材を保持すると共に、前記紐状部材の前記回転部材から延出する部分が進退自在に挿通される挿通孔を有する保持部材と、を備え、
前記保持部材は、前記回転部材を前記挿通孔に対して近接離隔する方向に移動自在に構成され、前記回転部材を前記保持部材に対して前記回転中心周りに回転不能に保持する第1保持部と、前記第1保持部において前記回転部材が前記挿通孔から離隔する移動方向の延長上に設けられ、前記回転部材を前記保持部材に対して前記回転中心周りに回転可能に保持する第2保持部と、を有すると共に、
前記回転部材が前記第1保持部と前記第2保持部の間を移動自在に構成されることを特徴とする医療用牽引具。
【請求項2】
請求項1に記載の医療用牽引具において、
前記紐状部材は、自身の先端部を自身の前記先端部よりも基端側の部分において自身に沿って移動自在に接続して形成したループ状の接続部を有することを特徴とする医療用牽引具。
【請求項3】
請求項1または2に記載の医療用牽引具において、
前記回転部材は、前記回転中心に対して互いに異なる遠心方向に延出する一対の延出部を有し、
前記第1保持部は、前記延出部が前記回転部材の移動方向に対して交差する方向に延出する状態で前記回転部材を保持するように構成されることを特徴とする医療用牽引具。
【請求項4】
請求項1からまでのいずれか1項に記載の医療用牽引具において、
前記保持部材は、前記挿通孔が設けられる筒状部と、前記筒状部から延出する一対の腕状部と、を有し、
前記回転部材は、前記回転中心に沿って互いに相反する方向に突出する一対の突出部を有すると共に、前記一対の腕状部の間に配置され、
前記第1保持部は、前記一対の腕状部にそれぞれ設けられて前記突出部の少なくとも一部を収容する長孔または溝から構成され、
前記第2保持部は、前記長孔と連続するように前記一対の腕状部にそれぞれ設けられて前記突出部の少なくとも一部を収容する円孔または前記回転中心を中心とする円周状となる内側面を有する凹部から構成され、
前記突出部は、前記回転中心に対する横断面形状が長手方向を有する形状に構成され、
前記突出部の横断面形状の長手方向寸法は、前記第1保持部を構成する前記長孔または前記溝の幅より大きく且つ前記第2保持部を構成する前記円孔または前記凹部の内径より小さいことを特徴とする医療用牽引具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に内視鏡を用いた処置において、病変部等を牽引するための医療用牽引具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、内視鏡を用いて食道、胃または大腸等の病変部を切除する手法として、内視鏡的粘膜切除術(EMR)および内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)の二種類が知られている。このうち、EMRは、金属製のスネアで病変部を絞扼し、高周波電流を流して切除する手法である。また、ESDは、高周波ナイフ等でまず病変部の周囲を切開し、その後病変部の下の粘膜下層を剥離して病変部を切除する手法である。
【0003】
EMRは、処置が比較的短時間で完了するものの、切除可能な病変部の大きさがスネアの大きさに制限される。従って、病変部が比較的広範囲である場合にはESDが用いられるが、粘膜下層を広範囲に亘って剥離していくと、剥離の途中で、切除済みの病変部によって内視鏡の視野が遮られることがある。このため、近年では、止血用のクリップ等で切除済みの病変部を把持し、患者の体外からこのクリップを牽引することで切除済みの病変部を持ち上げて内視鏡の視野を確保するといった手法が用いられている。
【0004】
クリップの牽引には種々の手法があるが、簡易的な手法として、クリップに結び付けた適宜の長さの紐や糸に錘を接続し、この錘を患者の体外で垂下させて牽引する手法(Sinkerシステム法)が用いられる場合がある(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】坂本直人、外6名、「大腸ESDにおける新たなトラクション法」、日本消化器内視鏡学会雑誌、日本消化器内視鏡学会、平成29年7月20日、第59巻、第7号、p.1514-1523
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、錘を使用する手法では、専用の糸や錘が用意されているわけではないため、絹糸に適当な鉗子を錘として接続するといった手法で行われている。このため、処置の途中で絹糸を適切な長さに切断してクリップに結び付けたり、病変部をクリップで把持した後に絹糸を鉗子で挟んで錘としたりする必要があり、簡易的な手法の割に手間を要するという問題があった。
【0007】
本発明は、このような実情に鑑み、病変部等の牽引を簡便に行うことが可能な医療用牽引具を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の医療用牽引具は、把持対象を把持するクリップに先端側が接続される紐状部材と、前記紐状部材の基端側が所定の回転中心周りに巻き回される回転部材と、前記回転部材を保持すると共に、前記紐状部材の前記回転部材から延出する部分が進退自在に挿通される挿通孔を有する保持部材と、を備え、前記保持部材は、前記回転部材を前記挿通孔に対して近接離隔する方向に移動自在に構成され、前記回転部材を前記保持部材に対して前記回転中心周りに回転不能に保持する第1保持部と、前記第1保持部において前記回転部材が前記挿通孔から離隔する移動方向の延長上に設けられ、前記回転部材を前記保持部材に対して前記回転中心周りに回転可能に保持する第2保持部と、を有すると共に、前記回転部材が前記第1保持部と前記第2保持部の間を移動自在に構成されることを特徴とする。
【0009】
本発明の医療用牽引具によれば、クリップに紐状部材の先端側を接続し、回転部材を第2保持部に位置させて紐状部材を適切な長さに繰り出した後に回転部材を第1保持部に位置させるだけで、病変部等の牽引の準備が完了する。その後、クリップで病変部等を把持した後に保持部材および回転部材を錘として垂下させるだけで、病変部等を牽引することができる。すなわち、きわめて簡便に病変部等の牽引を行うことができる。
【0010】
また、本発明の医療用牽引具において、前記紐状部材は、自身の先端部を自身の前記先端部よりも基端側の部分において自身に沿って移動自在に接続して形成したループ状の接続部を有することが好ましい。
【0011】
これによれば、接続部をクリップに引っ掛けた後に、回転部材を第1保持部において挿通孔から離隔する方向に移動させるだけで、接続部のループを縮小してクリップに締結することが可能となるため、紐状部材をクリップに容易且つ確実に接続することができる。
【0013】
これによれば、接続部をクリップに締結する操作、および回転部材を回転可能にする操作(すなわち、紐状部材を繰り出し可能にする操作)を1つの動作で連続的に行うことが可能となるため、病変部等の牽引の準備を容易且つ迅速に行うことができる。
【0014】
また、本発明の医療用牽引具において、前記回転部材は、前記回転中心に対して互いに異なる遠心方向に延出する一対の延出部を有し、前記第1保持部は、前記延出部が前記回転部材の移動方向に対して交差する方向に延出する状態で前記回転部材を保持するように構成されることが好ましい。
【0015】
これによれば、接続部をクリップに締結する操作、および回転部材を回転可能にする操作を回転部材に2本の指をかけて行うことが可能となるため、病変部等の牽引の準備を容易且つ迅速に行うことができる。
【0016】
また、本発明の医療用牽引具において、前記保持部材は、前記挿通孔が設けられる筒状部と、前記筒状部から延出する一対の腕状部と、を有し、前記回転部材は、前記回転中心に沿って互いに相反する方向に突出する一対の突出部を有すると共に、前記一対の腕状部の間に配置され、前記第1保持部は、前記一対の腕状部にそれぞれ設けられて前記突出部の少なくとも一部を収容する長孔または溝から構成され、前記第2保持部は、前記長孔と連続するように前記一対の腕状部にそれぞれ設けられて前記突出部の少なくとも一部を収容する円孔または前記回転中心を中心とする円周状となる内側面を有する凹部から構成され、前記突出部は、前記回転中心に対する横断面形状が長手方向を有する形状に構成され、前記突出部の横断面形状の長手方向寸法は、前記第1保持部を構成する前記長孔または前記溝の幅より大きく且つ前記第2保持部を構成する前記円孔または前記凹部の内径より小さいことが好ましい。
【0017】
これによれば、保持部材および回転部材をそれぞれ例えば樹脂により一体成形し、腕状部を弾性変形させて回転部材を保持部材に組み付けることが可能となるため、医療用牽引具の生産性を高めると共に、生産コストを低減することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の医療用牽引具によれば、病変部等の牽引を簡便に行うことが可能という優れた効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施形態に係る医療用牽引具の正面図である。
図2】Aは、医療用牽引具1の左側面図である。Bは、図1におけるI-I線断面図である。
図3】Aは、回転部材の正面図である。Bは、回転部材の平面図である。
図4】A~Cは、医療用牽引具の使用方法の一例を示した概略図である。
図5】AおよびBは、医療用牽引具の使用方法の一例を示した概略図である。
図6】AおよびBは、医療用牽引具の使用方法の一例を示した概略図である。
図7】医療用牽引具の変形例を示した正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を、添付図面を参照して説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る医療用牽引具1の正面図である。また、図2Aは、医療用牽引具1の左側面図であり、図2Bは、図1におけるI-I線断面図である。これらの図に示されるように、医療用牽引具1は、先端側が病変部等を把持するためのクリップに接続される紐状部材10と、紐状部材10の基端側が巻き回される回転部材20と、紐状部材10の先端側が挿通されると共に回転部材20を保持する保持部材30と、を備えている。すなわち、医療用牽引具1は、回転部材20および保持部材30がESD等の処置を受ける生体の体外で垂下される錘として機能するようになっている。
【0021】
紐状部材10は、適宜の太さの糸から構成されている。紐状部材10の材質は、特に限定されるものではなく、例えばポリアミド、ポリプロピレン、ポリエステルまたは絹等を採用することができる。また、紐状部材10は、単糸から構成されるものであってもよいし、編糸から構成されるものであってもよいし、その他の紐状の部材から構成されるものであってもよい。紐状部材10の長さは、特に限定されるものではないが、手術台に横臥した生体等の体外で回転部材20および保持部材30を適切に垂下させるためには1~2m程度であることが好ましい。
【0022】
紐状部材10の先端側には、ループ状の接続部11が設けられている。この接続部11は、紐状部材10の先端部を先端部よりも基端側の位置において紐状部材10に結び付けることでループ状(輪状)に構成されている。また、紐状部材10の先端部の結び目11aは、紐状部材10に沿って移動自在に結び付けられており、接続部11はループの大きさを自在に変更可能となっている。従って、接続部11は、クリップ等を接続部11内に挿通させた状態で紐状部材10を引っ張ることでクリップ等に締結可能となっており、クリップ等に紐状部材10を容易に接続可能に構成されている。
【0023】
回転部材20は、保持部材に30に対して回転中心C周りに回転することで紐状部材10の繰り出しおよび巻き取りを行うものである。図3Aは、回転部材20の正面図であり、図3Bは、回転部材20の平面図である。これらの図に示されるように、回転部材20は、紐状部材10が回転中心C周りに巻き回される巻回部21と、巻回部21の軸方向の両側において回転中心Cに対して遠心方向に延出する4つの(二対の)延出部22と、巻回部21の軸方向の両側に設けられた一対の円柱部23と、一対の円柱部23からそれぞれ回転中心Cに沿って突出する一対の突出部24と、を備えている。
【0024】
巻回部21は、回転中心Cを中心軸とする横断面形状が長円形状の柱体から構成されており、外周面に紐状部材10が巻き回されるようになっている。巻回部21には、回転中心Cに直交する方向に貫通する貫通孔21aが設けられており、この貫通孔21aの途中には、内径を縮小した縮径部21bが設けられている(図2B参照)。紐状部材10は、貫通孔21a内に挿通され、基端部に設けた結び目等の係止部12が縮径部21bに係止することで、巻回部21に対して回転不能に固定される(図2B参照)。
【0025】
なお、本実施形態では、巻回部21の横断面形状を長円形状としているが、巻回部21の横断面形状は紐状部材を巻き回し可能な形状であれば特に限定されるものではなく、例えば円形状、楕円形状または多角形状等であってもよい。
【0026】
延出部22は、医療用牽引具1の操作時に使用者の指がかけられる部分である。本実施形態では、互いに相反する方向に延出する一対の延出部22を、巻回部21の軸方向の両側にそれぞれ設けている。延出部22は、略台形平板状に構成されており、本実施形態では、延出部22の先端側に基端側よりも厚肉の厚肉部22aを設けると共に、延出部22の幅方向の両端面に厚肉部22aにおいて最も凹むように形成された凹部22bを設けることで、使用者が指をかけやすくしている。
【0027】
また、延出部22の先端側に厚肉部22aを設けることで、回転部材20の慣性モーメントが大きくなるため、回転部材20の回転を安定させることができる。本実施形態ではまた、延出部22を巻回部21に対してフランジ状に構成することで、巻回部21に巻き回された紐状部材10が巻回部21から脱落するのを防止する脱落防止部としても機能するようにしている。
【0028】
なお、厚肉部22aは、延出部22の互いに対抗していない外側面22cを部分的に膨出させることで構成されている。また、延出部22の互いに対抗する内側面22dは、互いに略平行な平面状に構成されており、紐状部材10の繰り出しおよび巻き取りを阻害しないようになっている。
【0029】
円柱部23は、回転中心Cを中心軸とする円柱状に構成され、巻回部21の両側の延出部22から回転中心Cに沿って突出するように設けられている。円柱部23の頂面23aと外周面23bの間の角部には適宜の丸みが設けられている。
【0030】
突出部24は、回転中心Cを中心軸とする角丸四角柱状に構成され、円柱部23の頂面23aから回転中心Cに沿って突出するように設けられている。より具体的には、突出部24の回転中心Cに対する(回転中心Cに直交する)横断面形状は、長手方向を有する長方形の四隅の角を丸めると共に、長手方向の両端の短辺の中央部を滑らかに膨出させた形状に構成されている。
【0031】
突出部24は、横断面形状の長手方向が延出部22の延出方向と直交する姿勢で配置されている。また、突出部24の横断面形状の長手方向寸法は、円柱部23の外径よりも小さく設定されている。突出部24の頂面24aと側面24bの間の角部には適宜の丸みが設けられている。また、突出部24の側面24bは、上述の横断面形状の通り、角部に丸みが設けられているため、滑らかに連続している。
【0032】
図1ならびに図2AおよびBに戻って、保持部材30は、紐状部材10の先端側(回転部材20から延出している部分)が進退自在に挿通される筒状部31と、回転部材20を保持する一対の腕状部32と、を備えている。筒状部31は、内部に挿通孔31aが設けられると共に、外径が先端側(腕状部32の反対側)に向けて2段階で縮径された円筒状に構成されている。
【0033】
挿通孔31aは、基端側(腕状部32側)から、先端側に向けて漸次内径が縮径された第1テーパ部31a1と、第1テーパ部31a1の最小径が軸方向に維持された等径部31a2と、等径部31a2の内径から先端側に向けて漸次内径が縮径された第2テーパ部31a3と、第2テーパ部31a3の最小径が軸方向に維持された小径部31a4と、から構成されている。
【0034】
挿通孔31aの小径部31a4の内径は、紐状部材10の外径よりもやや大きい径に設定されている。本実施形態では、このような小径部31a4を設けると共に、接続部11の結び目11aを、小径部31a4を通過不能な大きさに設定している。これにより本実施形態では、接続部11を筒状部31の先端から突出させた状態で紐状部材10を基端側に引っ張るだけで、結び目11aを筒状部31の先端面31bに係止させて接続部11のループの大きさを縮小させることが可能となっている。また、本実施形態では、第1テーパ部31a1および第2テーパ部31a3を設けて挿通孔31aの基端側を拡径することで、医療用牽引具1の組立時における紐状部材10の挿入を容易化している。
【0035】
一対の腕状部32は、筒状部31の基端の正面側および背面側からそれぞれ筒状部31の軸方向に沿って延出するように設けられている。腕状部32の外側面32aは、筒状部31の外周面と連続するように設けられている。また、腕状部32の互いに対抗する内側面32bは、互いに略平行な平面状に構成されると共に、保持部材30の先端側(腕状部32の基端側)の先端側内側面32b1と、先端側内側面32b1よりも互いに近接した基端側内側面32b2と、先端側内側面32b1と基端側内側面32b2の間で両者に対して傾斜した段付き部32b3が設けられている。
【0036】
互いに対向する先端側内側面32b1の間の距離は、回転部材20の円柱部23の頂面23aの間の距離よりもやや小さく設定されている。また、互いに対抗する基端側内側面32b2の間の距離は、回転部材20における巻回部21の軸方向の両側の延出部22の外側面22cの間の距離よりもやや大きく設定されている。
【0037】
腕状部32の先端部(保持部材30の基端部)には、外側(正面側または背面側)に向けて略角錐台状に膨出した膨出部32cが設けられており、腕状部32の先端側(保持部材30の基端側)の端面32dは、医療用牽引具1の操作時に使用者が例えば親指を配置する部分となっている。
【0038】
また、一対の腕状部32には、それぞれ長孔状の第1保持部33および円孔状の第2保持部34が設けられている。回転部材20は、この第1保持部33内または第2保持部34内に突出部24が挿通(収容)されることで、保持部材30に保持されている。具体的には、第1保持部33は、回転部材20を保持部材30に対して回転中心C周りに回転不能に保持する部分であり、第2保持部34は、回転部材20を保持部材30に対して回転中心C周りに回転可能に保持する部分である。なお、図1ならびに図2AおよびBでは、第2保持部34に保持された状態の回転部材20を二点鎖線で示している。
【0039】
第1保持部33は、保持部材30の軸方向、すなわち挿通孔31aと略平行に延在する長孔状に構成されている。第1保持部33を構成する長孔の幅は、回転部材20の突出部24の横断面形状の長手方向寸法より小さく、且つ突出部24の横断面形状の幅方向寸法(短手方向寸法)よりやや大きく設定されている。これにより回転部材20は、突出部24が第1保持部33内に挿通されて第1保持部33に保持された状態では、保持部材30に対して回転中心C周りに回転不能となっている。また、回転部材20は、第1保持部33に保持された状態では、挿通孔31aに対して近接離隔する方向に移動自在となっている。
【0040】
上述のように、腕状部32の先端側内側面32b1の間の距離は、回転部材20の円柱部23の頂面23aの間の距離よりもやや小さいため、回転部材20の突出部24が第1保持部33内に挿通されて第1保持部33に保持された状態では、頂面23aが先端側内側面32b1と接触し、2つの腕状部32を押し広げるようにして、腕状部32および円柱部23が弾性変形した状態となっている。すなわち、第1保持部33に保持された状態では、回転部材20は2つの腕状部32に挟持されており、頂面23aと先端側内側面32b1の間の摩擦力によって回転部材20が不用意に移動しないようになっている。
【0041】
また、回転部材20が第1保持部33に保持された状態では、回転部材20の移動方向に対して直交する方向に延出部22が延出することとなる。従って使用者は、腕状部32の端面32dに例えば親指を配置し、延出部22に例えば人差し指および中指をかけて回転部材20を挿通孔31aから離隔する方向に移動させることが可能となっている。
【0042】
第2保持部34は、腕状部32の先端側、すなわち挿通孔31aとは反対側において第1保持部33と連続するように(一体的に)設けられている。すなわち、回転部材20は、第1保持部33と第2保持部34の間を移動自在となっている。第2保持部34を構成する円孔の内径は、回転部材20の円柱部23の外径および突出部24の横断面形状の長手方向寸法よりもやや大きく設定されている。また、第2保持部34は、段付き部32b3および基端側内側面32b2に対応する位置に設けられている。
【0043】
これにより回転部材20は、突出部24が第2保持部34内に挿通されて第2保持部34に保持された状態では、保持部材30に対して回転中心C周りに回転自在となっている。上述のように、腕状部32の基端側内側面32b2の間の距離は、回転部材20の延出部22の外側面22cの間の距離よりもやや大きい程度であるため、回転部材20が第2保持部34に保持された状態では、突出部24と共に円柱部23も第2保持部34内に挿通された状態となる。これにより、第2保持部34に保持された状態の回転部材20は、円柱部23の外周面23bと第2保持部34の内周面の摺動によってスムーズに回転可能となっている。
【0044】
なお、図2Aでは、図1に示す状態から90°回転させた状態の回転部材20を二点鎖線で示している。図2Aに示されるように、回転部材20および腕状部32が回転部材20を回転させた場合に互いに干渉しないように構成されていることは言うまでもない。
【0045】
また、第2保持部34は、第1保持部33において回転部材20が挿通孔31aから離隔する移動方向の延長上に配置されているため、使用者は、回転部材20を第1保持部33において挿通孔31aから離隔させた後に、そのまま同じ操作を継続することで、回転部材20を第2保持部34に移動させる、すなわち回転部材20を第2保持部34に保持された状態に移行させることが可能となっている。
【0046】
図1に示されるように、回転部材20が、保持部材30の軸方向(すなわち、第1保持部33における回転部材20の移動方向)に対して直交する方向に延出部22が延出する姿勢で第2保持部34に保持されている場合、腕状部32の先端側の端面32dは、回転部材20よりも軸方向に突出した状態となる。換言すれば、腕状部32の第2保持部34に対して第1保持部33とは反対側の端面32dは、第2保持部34にある図1に示す姿勢の回転部材20よりも回転部材20の移動方向において突出している。
【0047】
従って、図1に示す姿勢で回転部材20が第2保持部34にある場合、腕状部32の端面32dに配置された使用者の親指は回転部材20と接触しないようになっている。これにより使用者は、腕状部32の端面32dに例えば親指を配置し、延出部22に例えば人差し指および中指をかけた状態のまま、回転部材20を第1保持部33から第2保持部34まで移動させることが可能となっている。
【0048】
また、回転部材20を第2保持部34に移動させることで、腕状部32による回転部材20の挟持が解消されるため、使用者はこれをクリック感として感じることができる。すなわち使用者は、回転部材20が第1保持部33から第2保持部34に移動したことを指先の感触だけで把握することが可能となっている。
【0049】
上述のように、回転部材20および保持部材30は錘として機能するものであり、両者の合計重量が病変部等の牽引力となる。本実施形態では、回転部材20をポリプロピレンから構成すると共に、保持部材30をアクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合合成樹脂(ABS樹脂)から構成し、回転部材20および保持部材30の合計重量を約10gwに設定している。
【0050】
回転部材20および保持部材30の合計重量(すなわち、医療用牽引具1が発生させる牽引力)は、食道、胃または大腸等のESDにおいては5~15gw(牽引力としては、5~15gf)であることが好ましい。但し、回転部材20および保持部材30の合計重量は、これに限定されるものではなく、医療用牽引具1の用途等に応じた適宜の重量を採用することができる。
【0051】
また、回転部材20および保持部材30の材質は、特に限定されるものではなく、ポリプロピレンおよびABS樹脂以外にも例えばポリエチレン、ポリカーボネートもしくはポリアミド等の各種樹脂を採用することが可能であり、各種ゴム、各種金属または各種セラミックス等を採用するようにしてもよい。また、回転部材20および保持部材30は、同一の材質から構成されるものであってもよい。また、回転部材20または保持部材30に、他の部分とは異なる材質から構成される部分を設けるようにしてもよく、この場合、重量の設定を容易化することができる。
【0052】
図示は省略するが、医療用牽引具1の組立では、まず紐状部材10の基端側を回転部材20に接続して巻回部21に巻き回す。次に、巻回部21から延出させた紐状部材10を挿通孔31aに挿通させた上で、回転部材20を弾性変形させた一対の腕状部32の間に挿入し、一対の突出部24を一対の腕状部32の第1保持部33または第2保持部34に挿通させる。そして、回転部材20を第1保持部33に沿って移動させて、最も挿通孔31a側の位置に配置する。
【0053】
最後に、紐状部材10の挿通孔31aから突出した部分に接続部11を形成する。紐状部材10は、予め十分な長さが巻回部21から延出されており、接続部11の形成は、第1保持部33の最も挿通孔31a側の位置から第2保持部34までの回転部材20の移動を接続部11が少なくとも阻害しない位置において行われる。本実施形態では特に、結び目11aを筒状部31の先端面31bに係止させた状態で回転部材20を第1保持部33の最も挿通孔31a側の位置から第2保持部34まで移動させた場合に接続部11のループがクリップ50に適度に締結される大きさに縮小する位置に、接続部11を形成するようにしている。以上の手順により、医療用牽引具1の組立が完了する。組立が完了した医療用牽引具1は、適宜の方法で滅菌された上で、包装体の内部に収容される。
【0054】
本実施形態では、回転部材20および保持部材30を上述のような構成とすることで、回転部材20および保持部材30をそれぞれ樹脂等の弾性変形可能な素材から一体成形し、腕状部32を弾性変形させて回転部材20を保持部材30に組み付けることを可能としている。これにより、医療用牽引具1の部品点数を最低限にするだけでなく、組立に接着や溶着等が不要となるため、医療用牽引具1の生産性を高めると共に、生産コストを低減することができる。また、回転部材20および保持部材30は、シンプルな形状に構成されているため、例えば酸化エチレンガス滅菌等の比較的低コストの滅菌方法を採用することが可能となっている。
【0055】
次に、医療用牽引具1の使用方法について説明する。図4A~D、図5AおよびB、ならびに図6AおよびBは、医療用牽引具1の使用方法の一例を示した概略図である。
【0056】
医療用牽引具1の使用に際しては、初めに病変部等を把持するクリップ50に紐状部材10の接続部11を接続する。このとき、クリップ50は、図4Aに示されるように、予めクリップ操作装置51の先端部に取り付けておき、クリップ操作装置51を内視鏡60の鉗子チャンネルに挿通して内視鏡60の先端から突出させた状態とする。また、内視鏡60の先端部に取り付ける先端フード61を使用する場合は、予め先端フード61を内視鏡60に取り付けておく。
【0057】
クリップ50への接続部11の接続では、まず図4Aに示されるように、例えばクリップ50の一方のツメを接続部11のループ内に挿入する。次に、図4Bに示されるように、回転部材20を第1保持部33に沿って挿通孔31aから離隔する方向に移動させることで、クリップ50に対して紐状部材10を引っ張り、結び目11aを筒状部31の先端面31bに係止させて接続部11のループを縮小させる。そして、図4Cに示されるように、回転部材20を第2保持部34に位置させる。
【0058】
このとき、使用者は、回転部材20の延出部22の凹部22bに例えば人差し指および中指を配置し、保持部材30の腕状部32の端面32dに例えば親指を配置して回転部材20を移動させることが可能であるため、迅速且つ容易にクリップ50に接続部11を接続することができる。
【0059】
上述のように本実施形態では、巻回部21から予め延出させておく紐状部材10の長さおよび接続部11のループの大きさを適宜に設定することで、回転部材20を第2保持部34に位置させたときに、接続部11が適度な締め付け状態でクリップ50に接続されるようにしている。従って、使用者は、例えば親指と人差し指および中指を互いに近接させる一動作のみで容易且つ確実に接続部11をクリップ50に接続可能であり、医療用牽引具1は操作性にきわめて優れたものとなっている。
【0060】
なお、回転部材20を第2保持部34に位置させた後も接続部11によるクリップ50の締め付けが弱い場合には、回転部材20を保持部材30と共に軽く引っ張る、または紐状部材10を直接摘まんで軽く引っ張ることで締め付けを強くすることができる。また、結び目11aが筒状部31の先端面31bに係止せず、回転部材20が第2保持部34に位置する前に接続部11に十分な締め付けが得られた場合には、保持部材30をクリップ50に近づけるように移動させることで、回転部材20を第2保持部34に位置させることができる。
【0061】
また、紐状部材10を直接引っ張る、または保持部材30を第1保持部33にある回転部材20と共に引っ張ることで接続部11をクリップ50に適度な締め付け状態で接続し、その後に回転部材20を第1保持部33から第2保持部34に移動させるようにしてもよいことは言うまでもない。
【0062】
紐状部材10の接続部11をクリップ50に接続したならば、回転部材20および保持部材30を錘として垂下させるのに必要な長さの紐状部材10を巻回部21から繰り出す。このとき、使用者は、例えば保持部材30の膨出部32cを正面側および背面側から人差し指と親指で摘まんで、回転部材20および保持部材30をクリップ50から離隔する方向に移動させるだけでよい。これにより図5Aに示されるように、紐状部材10がクリップ50に引っ張られるようにして回転部材20が保持部材30に対して回転し、紐状部材10が巻回部21から繰り出されることとなる。
【0063】
回転部材20の回転速度の調整は、膨出部32cを摘まむ力を加減し、腕状部32と回転部材20の間の摩擦力を調整することで、行うことができる。必要な長さの紐状部材10が繰り出されたならば、回転部材20の回転を停止させる。そして、図5Bに示されるように、回転部材20を第2保持部34から第1保持部33の最も挿通孔31a側の位置に移動させる。これにより、巻回部21から繰り出された紐状部材10の長さが固定される。
【0064】
なお、使用者は保持部材30を持つ手とは反対側の手で紐状部材10を持って引っ張ることで、紐状部材10を巻回部21から繰り出すようにしてもよい。いずれの方法によっても、使用者は迅速かつ容易に必要な長さの紐状部材10を繰り出すことができる。また、回転部材20の第2保持部34から第1保持部への移動は、例えば人差し指と中指で筒状部31を挟持し、親指と薬指で回転部材20の延出部22を押圧することで行うことができる。すなわち、医療用牽引具1では、回転部材20の移動操作を片手のみで行うことが可能となっている。
【0065】
必要な長さの紐状部材10が繰り出されたならば、クリップ50を内視鏡60の鉗子チャンネル内に収容した上で、内視鏡60を処置対象である生体の例えば消化管内等に挿入する。そして、内視鏡60の先端部が病変部等の近傍に到達したならば、使用者はクリップ操作装置51を操作して病変部等をクリップ50により把持し、クリップ50をクリップ操作装置51から切り離して生体内に留置する。その後、図6Aに示されるように、回転部材20および保持部材30を生体外で垂下させることにより、クリップ50により把持された病変部等に牽引力が加えられることとなる。
【0066】
図6Aに示す例では、手術台70上に横臥した生体の口から内視鏡60を挿入し、食道または胃における病変部を処置する場合を示している。医療用牽引具1によれば、回転部材20及び保持部材30を垂下するだけで病変部等に牽引力を加えることが可能であるため、使用者は内視鏡60および高周波ナイフ80等の処置具の操作に専念することができる。また、内視鏡60の挿入口となる生体の口部には、通常マウスピース90が配置されるため、紐状部材10の接触によって生体に負荷がかかるようなこともない。
【0067】
図6Bは、粘膜100に生じた病変部110を切除するESDを実施中の生体内の様子を示している。ESDでは、予め病変部110の周囲の粘膜100および粘膜下層101を高周波ナイフ80で切開し、病変部110の下の粘膜下層101をある程度切除した後に、切除部分をクリップ50で把持して牽引する。
【0068】
病変部110の切除した部分を牽引することで、図6Bに示されるように、この部分に邪魔されることなく、内視鏡60の先端部を病変部110と固有筋層102の間に潜り込ませることができる。また、高周波ナイフ80で粘膜下層101を切除していっても、切除後の病変部110が垂れ下がる等して内視鏡60の視界を遮るのを防止することができる。
【0069】
次に、医療用牽引具1の変形例について説明する。図7は、医療用牽引具1の変形例を示した正面図である。なお、図7では、回転部材20が第2保持部34に保持された状態を示している。
【0070】
この例では、腕状部32の先端部(保持部材30の基端部)に正面視で略矩形状の切り欠き32eを設けることで、保持部材30の軸方向に対して直交する方向に延出部22が延出する姿勢で第2保持部34にある回転部材20を、例えば親指で押圧して第1保持部33に移動させることを可能としている。より具体的にこの例では、腕状部32の第2保持部34に対して第1保持部33とは反対側の端面32dを部分的に切り欠いた切り欠き32eを設けている。そして、この切り欠き32e内に例えば親指の指先を挿入することで、第2保持部34にある図1に示す姿勢の回転部材20を第1保持部33に向けて押圧することを可能としている。また、回転部材20を第1保持部33から第2保持部34に移動させる際には、切り欠き32eの両側の端面32dに跨るように親指等の腹を配置することで、親指等が回転部材20に接触しないようにすることができる。
【0071】
このような切り欠き32eを設けることで、回転部材20の第2保持部34から第1保持部33への移動操作をさらに容易化することが可能となるため、紐状部材10の繰り出し長さの調整をより迅速且つ容易に行うことができる。
【0072】
その他、図示は省略するが、接続部11は、結び目11aによってループ状に構成されるものに限定されず、例えば紐状部材10の先端部に設けた環状の別部材を先端部よりも基端側に接続することによってループ状に構成されるものであってもよい。また、接続部として、例えばナスカンやフック等を設けるようにしてもよい。また、紐状部材10の基端側の係止部12は、別部材から構成されるものであってもよい。
【0073】
また、回転部材20は、二対の延出部22ではなく一対の延出部22を備えるものであってもよい。また、二対の延出部22は、例えば正面視で回転部材20が十字形状を呈する方向等、互いに異なる方向に延出するものであってもよい。また、回転部材20の一対の延出部22は、例えば正面視で回転部材20がV字形状を呈するような方向に延出するものであってもよい。
【0074】
また、回転部材20は、円柱部23を備えず、突出部24のみを備えるものであってもよい。また、突出部24の横断面形状は、長手方向を有する形状であれば特に限定されるものではなく、例えば円を2つの弦で切り欠いた形状や楕円形状等、その他の形状であってもよい。また、回転部材20のその他の各部の形状および配置が、本実施形態で示した形状および配置に限定されないことは言うまでもない。
【0075】
また、保持部材30の第1保持部33は、回転部材20の突出部24の少なくとも一部を収容する溝から構成されるものであってもよい。同様に、第2保持部34は、突出部24の少なくとも一部を収容すると共に、回転中心Cを中心とする円周状となる内側面を有する凹部から構成されるものであってもよい。また、保持部材30のその他の各部の形状および配置が、本実施形態で示した形状および配置に限定されないことは言うまでもない。
【0076】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明の医療用牽引具は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【0077】
また、上述の実施形態において示した作用および効果は、本発明から生じる最も好適な作用および効果を列挙したものに過ぎず、本発明による作用および効果は、これらに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0078】
1 医療用牽引具
10 紐状部材
11 接続部
20 回転部材
22 延出部
24 突出部
30 保持部材
31 筒状部
31a 挿通孔
32 腕状部
33 第1保持部
34 第2保持部
50 クリップ
C 回転中心
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7