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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-08
(45)【発行日】2024-08-19
(54)【発明の名称】固体電解質材料およびそれを用いた電池
(51)【国際特許分類】
   H01B 1/06 20060101AFI20240809BHJP
   H01B 1/08 20060101ALI20240809BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20240809BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20240809BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20240809BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20240809BHJP
   C01G 33/00 20060101ALI20240809BHJP
   C01G 35/02 20060101ALI20240809BHJP
   C01G 35/00 20060101ALI20240809BHJP
【FI】
H01B1/06 A
H01B1/08
H01M10/0562
H01M10/052
H01M4/62 Z
H01M4/13
C01G33/00 A
C01G35/02
C01G35/00 C
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020562876
(86)(22)【出願日】2019-10-31
(86)【国際出願番号】 JP2019042907
(87)【国際公開番号】W WO2020137155
(87)【国際公開日】2020-07-02
【審査請求日】2022-09-27
(31)【優先権主張番号】P 2018248585
(32)【優先日】2018-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018248586
(32)【優先日】2018-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019125548
(32)【優先日】2019-07-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019159080
(32)【優先日】2019-08-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004314
【氏名又は名称】弁理士法人青藍国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100143236
【弁理士】
【氏名又は名称】間中 恵子
(72)【発明者】
【氏名】田中 良明
(72)【発明者】
【氏名】上野 航輝
(72)【発明者】
【氏名】浅野 哲也
(72)【発明者】
【氏名】酒井 章裕
【審査官】遠藤 尊志
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-107665(JP,A)
【文献】特開2004-235155(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 1/06
H01B 1/08
H01M 10/0562
H01M 10/052
H01M 4/62
H01M 4/13
C01G 33/00
C01G 35/02
C01G 35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
実質的に、Li、M、O、およびXからなり、
ここで、
Mは、NbおよびTaからなる群より選択される少なくとも一種の元素であり、
Xは、Cl、Br、およびIからなる群より選択される少なくとも一種の元素であり、かつClを含み、
Cu-Kα線を用いたX線回折測定によって得られるX線回折パターンにおいて、回折角2θの値が11.06°以上11.09°以下である第1範囲に最大強度または2番目に大きい強度のピークが存在する第1結晶相を含有する、
固体電解質材料。
【請求項2】
Mは、Taを含む、
請求項1に記載の固体電解質材料。
【請求項3】
NbおよびTaの合計に対するTaのモル比は、0.5以上1.0以下である、
請求項1または2に記載の固体電解質材料。
【請求項4】
Mは、Taである、
請求項3に記載の固体電解質材料。
【請求項5】
前記X線回折パターンにおいて、回折角2θの値が17.85°以上17.96°以下である第2範囲に、前記第1結晶相に由来するピークがさらに存在する、
請求項1から4のいずれか一項に記載の固体電解質材料。
【請求項6】
前記第1結晶相とは異なる第2結晶相をさらに含有する、
請求項1から5のいずれか一項に記載の固体電解質材料。
【請求項7】
Mに対するLiのモル比Li/Mは、0.60以上2.4以下である、
請求項1から6のいずれか一項に記載の固体電解質材料。
【請求項8】
前記モル比Li/Mは、0.96以上1.20以下である、
請求項7に記載の固体電解質材料。
【請求項9】
Xに対するOのモル比O/Xは、0.16以上0.35以下である、
請求項1から8のいずれか一項に記載の固体電解質材料。
【請求項10】
前記モル比O/Xは、0.31以上0.35以下である、
請求項9に記載の固体電解質材料。
【請求項11】
正極、
負極、および
前記正極および前記負極の間に配置されている電解質層、を備え、
前記正極、前記負極、および前記電解質層からなる群より選択される少なくとも1つは、請求項1から10のいずれか一項に記載の固体電解質材料を含有する、
電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、固体電解質材料およびそれを用いた電池に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、硫化物固体電解質材料が用いられた全固体電池を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-129312号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示の目的は、高いリチウムイオン伝導度を有する固体電解質材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の固体電解質材料は、Li、M、O、およびXを含み、ここで、Mは、NbおよびTaからなる群より選択される少なくとも一種の元素であり、Xは、Cl、Br、およびIからなる群より選択される少なくとも一種の元素であり、かつClを含む。
【発明の効果】
【0006】
本開示は、高いリチウムイオン伝導度を有する固体電解質材料を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、第2実施形態による電池1000の断面図を示す。
図2図2は、第2実施形態による電極材料1100の断面図を示す。
図3図3は、固体電解質材料のイオン伝導度を評価するために用いられる加圧成形ダイス300の模式図を示す。
図4図4は、サンプル1による固体電解質材料のイオン伝導度の温度依存性を示すグラフである。
図5図5は、サンプル1、8、および9による固体電解質材料のX線回折パターンを示すグラフである。
図6図6は、サンプル1から7による固体電解質材料のX線回折パターンを示すグラフである。
図7図7は、サンプル1による電池の初期放電特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本開示の実施形態が、図面を参照しながら説明される。
【0009】
(第1実施形態)
第1実施形態による固体電解質材料は、Li、M、O、およびXを含み、ここで、Mは、NbおよびTaからなる群より選択される少なくとも一種の元素であり、Xは、Cl、Br、およびIからなる群より選択される少なくとも一種の元素であり、かつClを含む。第1実施形態による固体電解質材料は、高いリチウムイオン伝導度を有する。
【0010】
第1実施形態による固体電解質材料は、想定される電池の使用温度範囲(例えば、-30℃から80℃の範囲)において、高いリチウムイオン伝導度を維持できる。したがって、第1実施形態による固体電解質材料が用いられた電池は、温度変化がある環境においても安定して動作できる。
【0011】
安全性の観点から、第1実施形態による固体電解質材料には、硫黄が含まれないことが望ましい。硫黄を含有しない固体電解質材料は、大気に曝露されても、硫化水素が発生しないので、安全性に優れる。特許文献1に開示された硫化物固体電解質材料が大気に曝露されると、硫化水素が発生し得ることに留意せよ。
【0012】
固体電解質材料のイオン伝導性を高めるために、MはTaを含んでもよい。
【0013】
固体電解質材料のイオン伝導度を高めるために、NbおよびTaの合計に対するTaのモル比は、0.5以上1.0以下であってもよい。すなわち、Mを構成するNbの物質量をmNb、Mを構成するTaの物質量をmTaとするとき、数式:0.5≦mTa/(mNb+mTa)≦1.0、が充足されてもよい。
【0014】
固体電解質材料のイオン伝導度をさらに高めるために、数式:mTa/(mNb+mTa)=1.0、が充足されてもよい。すなわち、Mは、Taであってもよい。
【0015】
第1実施形態による固体電解質材料は、実質的に、Li、M、O、およびXからなっていてもよい。ここで、「第1実施形態による固体電解質材料が、実質的に、Li、M、O、およびXからなる」とは、第1実施形態による固体電解質材料を構成する全元素の物質量の合計に対する、Li、M、O、およびXの物質量の合計のモル比が、90%以上であることを意味する。一例として、当該モル比は、95%以上であってもよい。
【0016】
固体電解質材料のイオン伝導度を高めるために、第1実施形態による固体電解質材料は、Li、M、O、およびXのみからなっていてもよい。
【0017】
固体電解質材料のリチウムイオン伝導度を高めるために、Xは、臭素(すなわち、Br)およびヨウ素(すなわち、I)からなる群より選択される少なくとも一種の元素とClとを含んでもよい。このとき、Xを構成する全元素の物質量の合計に対するClの物質量のモル比は、30%以上であってもよい。
【0018】
固体電解質材料のリチウムイオン伝導度を高めるために、Xは、Clであってもよい。
【0019】
Cu-Kα線を用いたX線回折測定によって得られるX線回折パターンにおいて、回折角2θの値が11.05°以上11.15°以下である第1範囲にピークが存在する第1結晶相を含有していてもよい。第1結晶相は、高いリチウムイオン伝導度を有する。第1実施形態による固体電解質材料は、第1結晶相を含有することにより、リチウムイオンが拡散するために経路が形成されやすくなる。その結果、固体電解質材料が高いリチウムイオン伝導度を有する。
【0020】
X線回折は、Cu-Kα線(波長1.5405Åおよび1.5444Å、すなわち、波長0.15405nmおよび0.15444nm)を用いて、θ-2θ法により測定される。X線回折パターンにおける回折ピークの回折角は、SN比(すなわち、バックグラウンドノイズNに対する信号Sの比)の値が3以上で、かつ半値幅が10°以下である山状の部分の最大強度を示す角度を意味する。半値幅とは、回折ピークの最大強度をIMAXとしたとき、強度がIMAXの半分の値となる2つの角度の差により表わされる幅のことである。
【0021】
第1結晶相のX線回折パターンにおいては、第1範囲に存在するピークが、例えば、最大強度、または、2番目に大きい強度を示す。
【0022】
固体電解質材料のイオン伝導性を高めるために、X線回折パターンにおいて、第1範囲だけでなく、回折角2θの値が17.85°以上17.96°以下である第2範囲にも、第1結晶相に由来するピークが存在していてもよい。
【0023】
第1実施形態による固体電解質材料は、第1結晶相とは異なる第2結晶相をさらに含有していてもよい。すなわち、X線回折パターンにおいて、第1結晶相のピークとは異なる回折角2θにピークが存在する第2結晶相をさらに含有していてもよい。第2結晶相を含有することにより、第1結晶相間のリチウムイオン伝導が促進され得る。その結果、固体電解質材料がより高いイオン伝導度を有する。
【0024】
第2結晶相は、例えば、LiClに由来する結晶相である。
【0025】
第2結晶相は、第1結晶相の間に介在していてもよい。
【0026】
固体電解質材料のイオン伝導性を高めるために、Mに対するLiのモル比Li/Mは、0.60以上2.4以下であってもよい。望ましくは、モル比Li/Mは、0.96以上1.20以下であってもよい。このようにモル比Li/Mの値を選択することにより、Li濃度が最適化される。
【0027】
固体電解質材料のイオン伝導性を高めるために、Xに対するOのモル比O/Xは、0.16以上0.35以下であってもよい。望ましくは、モル比O/Xは、0.31以上0.35以下であってもよい。このようにモル比O/Xの値を選択することにより、第1結晶相が実現されやすくなる。
【0028】
第1実施形態による固体電解質材料の形状は、限定されない。当該形状の例は、針状、球状、または楕円球状である。第1実施形態による固体電解質材料は、粒子であってもよい。第1実施形態による固体電解質材料は、ペレットまたは板の形状を有するように形成されてもよい。
【0029】
第1実施形態による固体電解質材料の形状が粒子状(例えば、球状)である場合、当該固体電解質材料は、0.1μm以上100μm以下のメジアン径を有していてもよく、あるいは0.5μm以上10μm以下のメジアン径を有していてもよい。これにより、第1実施形態による固体電解質材料は、より高いイオン伝導性を有する。さらに、第1実施形態による固体電解質材料および他の材料が良好に分散し得る。
【0030】
粒子のメジアン径は、体積基準の粒度分布における体積累積50%に相当する粒径(d50)を意味する。体積基準の粒度分布は、レーザー回折測定装置または画像解析装置により測定され得る。
【0031】
第1実施形態による固体電解質材料の形状が粒子状(例えば、球状)である場合、当該固体電解質材料は、活物質よりも小さいメジアン径を有していてもよい。これにより、第1実施形態による固体電解質材料および活物質が良好な分散状態を形成できる。
【0032】
第1実施形態による固体電解質材料は、下記の方法により、製造され得る。
【0033】
目的の組成を有するように、原料粉が用意される。原料粉の例は、酸化物、水酸化物、ハロゲン化物、または酸ハロゲン化物である。
【0034】
一例として、Li、Ta、O、およびClから構成される固体電解質材料において、原料混合時のモル比Li/Mおよびモル比O/Xの値が、それぞれ、1.0および0.2である場合、LiおよびTaClが1:2のモル比で用意される。原料粉の種類を選択することにより、MおよびXの元素種が決定される。原料粉の混合比を選択することにより、Li/MおよびO/Xのモル比が決定される。
【0035】
原料粉の混合物を遊星型ボールミルのような混合装置内でメカノケミカル的に(すなわち、メカノケミカルミリングの方法により)互いに反応させ、反応物が得られる。反応物は、真空中または不活性雰囲気(例えば、アルゴン雰囲気または窒素雰囲気)中で焼成されてもよい。あるいは、混合物を真空中または不活性ガス雰囲気中で焼成し、反応物を得てもよい。これらの方法により、第1実施形態による固体電解質材料が得られる。
【0036】
上記の焼成により、Mの一部またはXの一部が蒸発する場合がある。その結果、得られた固体電解質材料のモル比Li/Mおよびモル比O/Xの値は、用意した原料粉のモル量から算出される値よりも大きくなり得る。具体的には、モル比Li/Mは20%程度、モル比O/Xは40%から75%程度大きくなり得る。
【0037】
原料粉、原料粉の混合比、および反応条件が選択されることにより、第1実施形態による固体電解質材料が目的の回折ピークの位置(すなわち、結晶構造)を有し得る。
【0038】
固体電解質材料の組成は、例えば、ICP発光分光分析法、イオンクロマトグラフィー法、不活性ガス溶融-赤外線吸収法、またはEPMA(Electron Probe Micro Analyzer)法により決定される。ただし、酸素量は、測定精度が低いため、10%程度の誤差が含まれ得る。
【0039】
(第2実施形態)
以下、第2実施形態が説明される。第1実施形態において説明された事項は、適宜、省略される。
【0040】
第2実施形態による電池は、正極、負極、および電解質層を備える。電解質層は、正極および負極の間に配置されている。正極、負極、および電解質層からなる群より選択される少なくとも1つは、第1実施形態による固体電解質材料を含有する。第2実施形態による電池は、優れた充放電特性を有する。
【0041】
図1は、第2実施形態による電池1000の断面図を示す。
【0042】
電池1000は、正極201、負極203、および電解質層202を備える。電解質層202は、正極201および負極203の間に配置されている。
【0043】
正極201は、正極活物質粒子204および固体電解質粒子100を含有する。
【0044】
電解質層202は、電解質材料(例えば、固体電解質材料)を含有する。
【0045】
負極203は、負極活物質粒子205および固体電解質粒子100を含有する。
【0046】
固体電解質粒子100は、第1実施形態による固体電解質材料を含有する粒子である。固体電解質粒子100は、固体電解質材料を主たる成分として含む粒子であってもよい。第1実施形態による固体電解質材料を主たる成分として含む粒子とは、最も多く含まれる成分が第1実施形態による固体電解質材料である粒子を意味する。固体電解質粒子100は、第1実施形態による固体電解質材料からなる粒子であってもよい。
【0047】
正極201は、金属イオン(例えば、リチウムイオン)を吸蔵および放出可能な材料を含有する。正極201は、例えば、正極活物質(例えば、正極活物質粒子204)を含有する。
【0048】
正極活物質の例は、リチウム含有遷移金属酸化物、遷移金属フッ化物、ポリアニオン材料、フッ素化ポリアニオン材料、遷移金属硫化物、遷移金属オキシ硫化物、または遷移金属オキシ窒化物である。リチウム含有遷移金属酸化物の例は、Li(NiCoAl)O、Li(NiCoMn)O、またはLiCoOである。
【0049】
電池のコストおよび安全性の観点から、正極活物質としてリン酸リチウムが使用されてもよい。
【0050】
正極201が第1実施形態による固体電解質材料を含有し、かつ、XがI(すなわち、ヨウ素)を含む場合、正極活物質としてリン酸鉄リチウムが使用されてもよい。Iを含む第1実施形態による固体電解質材料は酸化されやすい。正極活物質としてリン酸鉄リチウムを用いれば、固体電解質材料の酸化反応が抑制される。すなわち、低いリチウムイオン伝導性を有する酸化層が形成されることが抑制される。その結果、電池が高い充放電効率を有する。
【0051】
正極201が第1実施形態による固体電解質材料だけでなく、正極活物質として遷移金属オキシフッ化物をも含有していてもよい。第1実施形態による固体電解質材料は、遷移金属オキシフッ化物によりフッ化されても、抵抗層が形成されにくい。その結果、電池が高い充放電効率を有する。
【0052】
遷移金属オキシフッ化物は、酸素およびフッ素を含有する。一例として、遷移金属オキシフッ化物は、組成式LiMeにより表される化合物である。ここで、Meは、Mn、Co、Ni、Fe、Al、Cu、V、Nb、Mo、Ti、Cr、Zr、Zn、Na、K、Ca、Mg、Pt、Au、Ag、Ru、W、B、Si、およびPからなる群より選択される少なくとも1つの元素であり、かつ、以下の数式:0.5≦p≦1.5、0.5≦q≦1.0、1≦m<2、および0<n≦1が充足される。このような遷移金属オキシフッ化物の例は、Li1.05(Ni0.35Co0.35Mn0.30.951.90.1である。
【0053】
正極活物質粒子204は、0.1μm以上100μm以下のメジアン径を有していてもよい。正極活物質粒子204が0.1μm以上のメジアン径を有する場合、正極201において、正極活物質粒子204および固体電解質粒子100が良好な分散状態を形成できる。これにより、電池の充放電特性が向上する。正極活物質粒子204が100μm以下のメジアン径を有する場合、正極活物質粒子204内のリチウム拡散速度が向上する。このため、電池が高出力で動作し得る。
【0054】
正極活物質粒子204は、固体電解質粒子100よりも大きいメジアン径を有していてもよい。これにより、正極活物質粒子204および固体電解質粒子100が良好な分散状態を形成できる。
【0055】
電池のエネルギー密度および出力の観点から、正極201において、正極活物質粒子204の体積および固体電解質粒子100の体積の合計に対する正極活物質粒子204の体積の比は、0.30以上0.95以下であってもよい。
【0056】
図2は、第2実施形態による電極材料1100の断面図を示す。電極材料1100は、例えば、正極201に含まれる。電極活物質206が固体電解質粒子100と反応するのを防ぐために、電極活物質粒子206の表面には、被覆層216が形成されてもよい。これにより、電池の反応過電圧の上昇を抑制できる。被覆層216に含まれる被覆材料の例は、硫化物固体電解質、酸化物固体電解質、またはハロゲン化物固体電解質である。
【0057】
固体電解質粒子100が、硫化物固体電解質である場合、被覆材料は、第1実施形態による固体電解質材料であり、かつXはClおよびBrからなる群より選択される少なくとも1種の元素であってもよい。このような第1実施形態による固体電解質材料は、硫化物固体電解質よりも酸化されにくい。その結果、電池の反応過電圧の上昇を抑制できる。
【0058】
固体電解質粒子100が第1実施形態による固体電解質材料であり、かつXがIを含む場合、被覆材料は、第1実施形態による固体電解質材料であり、かつXはClおよびBrからなる群より選択される少なくとも1種の元素であってもよい。Iを含まない第1実施形態による固体電解質材料は、Iを含む第1実施形態による固体電解質材料よりも酸化されにくい。このため、電池が高い充放電効率を有する。
【0059】
固体電解質粒子100が第1実施形態による固体電解質材料であり、かつXがIを含む場合、被覆材料は、酸化物固体電解質を含んでもよい。当該酸化物固体電解質は、高電位でも優れた安定性を有するニオブ酸リチウムであってもよい。
【0060】
正極201は、第1正極活物質を含有する第1正極層および第2正極活物質を含有する第2正極層からなっていてもよい。ここで、第2正極層は、第1正極層および電解質層202の間に配置され、第1正極層および第2正極層は、Iを含む第1実施形態による固体電解質材料を含有し、かつ第2正極活物質の表面には、被覆層216が形成される。以上の構成によれば、電解質層202に含まれる第1実施形態による固体電解質材料が、第2正極活物質により酸化されるのを抑制できる。その結果、電池が高い充電容量を有する。被覆層206に含まれる被覆材料の例は、硫化物固体電解質、酸化物固体電解質、高分子固体電解質、またはハロゲン化物固体電解質である。ただし、被覆材料がハロゲン化物固体電解質である場合、ハロゲン元素としてIは含まない。第1正極活物質は、第2正極活物質と同じ材料であってもよく、あるいは第2正極活物質と異なる材料であってもよい。
【0061】
電池のエネルギー密度および出力の観点から、正極201の厚みは、10μm以上かつ500μm以下であってもよい。
【0062】
電解質層202は、電解質材料を含有する。当該電解質材料は、例えば、固体電解質材料である。電解質層202は、固体電解質層であってもよい。電解質層202に含まれる固体電解質材料は、第1実施形態による固体電解質材料を含有してもよい。電解質層202に含まれる固体電解質材料は、第1実施形態による固体電解質材料のみからなっていてもよい。
【0063】
電解質層202に含まれる固体電解質材料は、第1実施形態による固体電解質材料とは異なる固体電解質材料のみから構成されていてもよい。第1実施形態による固体電解質材料とは異なる固体電解質材料の例は、LiMgX’、LiFeX’、Li(Al、Ga、In)X’、Li(Al、Ga、In)X、またはLiIである。ここで、X’は、F、Cl、Br、およびIからなる群より選択される少なくとも一種の元素である。
【0064】
以下、第1実施形態による固体電解質材料は、第1固体電解質材料とも呼ばれる。第1実施形態による固体電解質材料とは異なる固体電解質材料は、第2固体電解質材料とも呼ばれる。
【0065】
電解質層202は、第1固体電解質材料だけでなく、第2固体電解質材料を含有していてもよい。第1固体電解質材料および第2固体電解質材料は、均一に分散していてもよい。
【0066】
電解質層202は、1μm以上100μm以下の厚みを有していてもよい。電解質層202が1μm以上の厚みを有する場合、正極201および負極203が短絡しにくくなる。電解質層202が100μm以下の厚みを有する場合、電池が高出力で動作し得る。
【0067】
負極203は、金属イオン(例えば、リチウムイオン)を吸蔵および放出可能な材料を含有する。負極203は、例えば、負極活物質(例えば、負極活物質粒子205)を含有する。
【0068】
負極活物質の例は、金属材料、炭素材料、酸化物、窒化物、錫化合物、または珪素化合物である。金属材料は、単体の金属であってもよく、あるいは合金であってもよい。金属材料の例は、リチウム金属またはリチウム合金である。炭素材料の例は、天然黒鉛、コークス、黒鉛化途上炭素、炭素繊維、球状炭素、人造黒鉛または非晶質炭素である。容量密度の観点から、負極活物質の好適な例は、珪素(すなわち、Si)、錫(すなわち、Sn)、珪素化合物、または錫化合物である。
【0069】
負極活物質は、負極203に含まれる固体電解質材料の耐還元性をもとに選択されてもよい。負極203が第1実施形態による固体電解質材料を含有する場合、負極活物質として、リチウムに対して0.27V以上でリチウムイオンを吸蔵かつ放出可能な材料が使用されてもよい。負極活物質がこのような材料であれば、負極203に含まれる第1実施形態による固体電解質材料が還元されるのを抑制できる。その結果、電池が高い充放電効率を有する。当該材料の例は、チタン酸化物、インジウム金属、またはリチウム合金である。チタン酸化物の例は、LiTi12、LiTi、またはTiOである。
【0070】
負極活物質粒子205は、0.1μm以上100μm以下のメジアン径を有していてもよい。負極活物質粒子205が0.1μm以上のメジアン径を有する場合、負極203において、負極活物質粒子205および固体電解質粒子100が良好な分散状態を形成できる。これにより、電池の充放電特性が向上する。負極活物質粒子205が100μm以下のメジアン径を有する場合、負極活物質粒子205内のリチウム拡散速度が向上する。これにより、電池が高出力で動作し得る。
【0071】
負極活物質粒子205は、固体電解質粒子100よりも大きいメジアン径を有していてもよい。これにより、負極活物質粒子205および固体電解質粒子100が良好な分散状態を形成できる。
【0072】
電池のエネルギー密度および出力の観点から、負極203において、負極活物質粒子205の体積および固体電解質粒子100の体積の合計に対する負極活物質粒子205の体積の比は、0.30以上0.95以下であってもよい。
【0073】
図2に示される電極材料1100は、負極202に含有されてもよい。固体電解質粒子100が負極活物質(すなわち、電極活物質粒子206)と反応するのを防ぐために、電極活物質粒子206の表面には、被覆層216が形成されてもよい。これにより、電池が高い充放電効率を有する。被覆層216に含まれる被覆材料の例は、硫化物固体電解質、酸化物固体電解質、高分子固体電解質、またはハロゲン化物固体電解質である。
【0074】
固体電解質粒子100が第1実施形態による固体電解質材料である場合、被覆材料は硫化物固体電解質、酸化物固体電解質、または高分子固体電解質であってもよい。硫化物固体電解質の例は、LiS-Pである。酸化物固体電解質の例は、リン酸三リチウムである。高分子固体電解質の例は、ポリエチレンオキシドおよびリチウム塩の複合化合物である。このような高分子固体電解質の例は、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドである。
【0075】
電池のエネルギー密度および出力の観点から、負極203は、10μm以上500μm以下の厚みを有していてもよい。
【0076】
正極201、電解質層202、および負極203からなる群より選択される少なくとも1つは、イオン伝導性を高める目的で、第2固体電解質材料を含有していてもよい。第2固体電解質材料の例は、硫化物固体電解質、酸化物固体電解質、ハロゲン化物固体電解質、または有機ポリマー固体電解質である。
【0077】
本開示において、「硫化物固体電解質」は、硫黄を含有する固体電解質材料を意味する。「酸化物固体電解質」は、酸素を含有する固体電解質を意味する。酸化物固体電解質は、酸素以外のアニオン(ただし、硫黄アニオンおよびハロゲンアニオンは除く)を含有していてもよい。「ハロゲン化物固体電解質」は、ハロゲン元素を含有し、かつ、硫黄を含有しない固体電解質を意味する。ハロゲン化物固体電解質は、ハロゲン元素だけでなく、酸素を含有していてもよい。
【0078】
硫化物固体電解質の例は、LiS-P、LiS-SiS、LiS-B、LiS-GeS、Li3.25Ge0.250.75、またはLi10GeP12である。
【0079】
酸化物固体電解質の例は、
(i) LiTi(POおよびその元素置換体を代表とするNASICON型固体電解質、
(ii) (LaLi)TiO系のペロブスカイト型固体電解質、
(iii) Li14ZnGe16、LiSiO、LiGeOおよびその元素置換体を代表とするLISICON型固体電解質、
(iv) LiLaZr12およびその元素置換体を代表とするガーネット型固体電解質、または
(v) LiPOおよびそのN置換体
である。
【0080】
ハロゲン化物固体電解質の例は、LiMe’により表される化合物である。ここで、数式:a+mb+3c=6、およびc>0が充足される。Me’は、LiおよびY以外の金属元素と半金属元素とからなる群より選択される少なくとも1つである。Zは、F、Cl、Br、およびIからなる群より選択される少なくとも1種の元素である。mの値は、Me’の価数を表す。
「半金属元素」は、B、Si、Ge、As、Sb、およびTeである。
「金属元素」は、周期表第1族から第12族中に含まれるすべての元素(ただし、水素を除く)、および、周期表第13族から第16族に含まれるすべての元素(ただし、B、Si、Ge、As、Sb、Te、C、N、P、O、S、およびSeを除く)である。
Me’は、Mg、Ca、Sr、Ba、Zn、Sc、Al、Ga、Bi、Zr、Hf、Ti、Sn、Ta、およびNbからなる群より選択される少なくとも1つの元素であってもよい。
【0081】
ハロゲン化物固体電解質の例は、LiYClまたはLiYBrである。
【0082】
電解質層202が第1実施形態による固体電解質材料を含有する場合、負極203は、硫化物固体電解質材料を含有していてもよい。これにより、負極活物質に対して電気化学的に安定な硫化物固体電解質材料が、第1実施形態による固体電解質材料および負極活物質が互いに接触することを抑制する。その結果、電池の内部抵抗が低減される。
【0083】
有機ポリマー固体電解質の例は、高分子化合物およびリチウム塩の化合物である。高分子化合物は、エチレンオキシド構造を有していてもよい。エチレンオキシド構造を有する高分子化合物は、リチウム塩を多く含有できるため、より高いイオン導電率を有する。
【0084】
リチウム塩の例は、LiPF、LiBF、LiSbF、LiAsF、LiSOCF、LiN(SOCF、LiN(SO、LiN(SOCF)(SO)、またはLiC(SOCFである。これらから選択される1種のリチウム塩が単独で使用されてもよい。あるいは、これらから選択される2種以上のリチウム塩の混合物が使用されてもよい。
【0085】
正極201、電解質層202、および負極203からなる群より選択される少なくとも1つは、リチウムイオンの授受を容易にし、電池の出力特性を向上する目的で、非水電解質液、ゲル電解質、またはイオン液体を含有していてもよい。
【0086】
非水電解液は、非水溶媒および当該非水溶媒に溶けたリチウム塩を含む。非水溶媒の例は、環状炭酸エステル溶媒、鎖状炭酸エステル溶媒、環状エーテル溶媒、鎖状エーテル溶媒、環状エステル溶媒、鎖状エステル溶媒、またはフッ素溶媒である。環状炭酸エステル溶媒の例は、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、またはブチレンカーボネートである。鎖状炭酸エステル溶媒の例は、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、またはジエチルカーボネートである。環状エーテル溶媒の例は、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、または1,3-ジオキソランである。鎖状エーテル溶媒の例は、1,2-ジメトキシエタンまたは1,2-ジエトキシエタンである。環状エステル溶媒の例は、γ-ブチロラクトンである。鎖状エステル溶媒の例は、酢酸メチルである。フッ素溶媒の例は、フルオロエチレンカーボネート、フルオロプロピオン酸メチル、フルオロベンゼン、フルオロエチルメチルカーボネート、またはフルオロジメチレンカーボネートである。これらから選択される1種の非水溶媒が単独で使用されてもよい。あるいは、これらから選択される2種以上の非水溶媒の混合物が使用されてもよい。
【0087】
リチウム塩の例は、LiPF、LiBF、LiSbF、LiAsF、LiSOCF、LiN(SOCF、LiN(SO、LiN(SOCF)(SO)、またはLiC(SOCFである。これらから選択される1種のリチウム塩が単独で使用されてもよい。あるいは、これらから選択される2種以上のリチウム塩の混合物が使用されてもよい。リチウム塩の濃度は、例えば、0.5mol/リットル以上2mol/リットル以下の範囲にある。
【0088】
ゲル電解質は、非水電解液を含浸させたポリマー材料が使用され得る。ポリマー材料の例は、ポリエチレンオキシド、ポリアクリルニトリル、ポリフッ化ビニリデン、ポリメチルメタクリレート、またはエチレンオキシド結合を有するポリマーである。
【0089】
イオン液体に含まれるカチオンの例は、
(i) テトラアルキルアンモニウムまたはテトラアルキルホスホニウムのような脂肪族鎖状4級塩類、
(ii) ピロリジニウム類、モルホリニウム類、イミダゾリニウム類、テトラヒドロピリミジニウム類、ピペラジニウム類、またはピペリジニウム類のような脂肪族環状アンモニウム、または
(iii) ピリジニウム類またはイミダゾリウム類のような含窒ヘテロ環芳香族カチオン
である。
【0090】
イオン液体に含まれるアニオンの例は、PF 、BF 、SbF 、AsF 、SOCF 、N(SOCF 、N(SO 、N(SOCF)(SO、またはC(SOCF である。
イオン液体はリチウム塩を含有してもよい。
【0091】
正極201、電解質層202、および負極203から選択される少なくとも1つは、粒子同士の密着性を向上する目的で、結着剤を含有していてもよい。
結着剤の例は、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、アラミド樹脂、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアクリルニトリル、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸メチルエステル、ポリアクリル酸エチルエステル、ポリアクリル酸ヘキシルエステル、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸メチルエステル、ポリメタクリル酸エチルエステル、ポリメタクリル酸ヘキシルエステル、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルピロリドン、ポリエーテル、ポリエーテルサルフォン、ヘキサフルオロポリプロピレン、スチレンブタジエンゴム、またはカルボキシメチルセルロースである。結着剤として、共重合体が使用されてもよい。当該結着剤の例は、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロアルキルビニルエーテル、フッ化ビニリデン、クロロトリフルオロエチレン、エチレン、プロピレン、ペンタフルオロプロピレン、フルオロメチルビニルエーテル、アクリル酸、およびヘキサジエンからなる群より選択された2種以上の材料の共重合体である。上記の材料から選択された2種以上の混合物が使用されてもよい。
【0092】
正極201および負極203から選択される少なくとも1つは、電子伝導性を高める目的で、導電助剤を含有していてもよい。
【0093】
導電助剤の例は、
(i) 天然黒鉛または人造黒鉛のようなグラファイト類、
(ii) アセチレンブラックまたはケッチェンブラックのようなカーボンブラック類、
(iii) 炭素繊維または金属繊維のような導電性繊維類、
(iv) フッ化カーボン
(v) アルミニウムのような金属粉末類、
(vi) 酸化亜鉛またはチタン酸カリウムのような導電性ウィスカー類、
(vii) 酸化チタンのような導電性金属酸化物、または
(viii) ポリアニリン、ポリピロール、またはポリチオフェンのような導電性高分子化合物
である。
【0094】
低コスト化のために、上記の(i)または(ii)の導電助剤が使用されてもよい。
【0095】
第2実施形態による電池の形状の例は、コイン型、円筒型、角型、シート型、ボタン型、扁平型、または積層型である。
【0096】
(実施例)
以下、実施例を参照しながら、本開示がより詳細に説明される。
【0097】
(サンプル1)
[固体電解質材料の作製]
-30℃以下の露点を有するドライ雰囲気(以下、「ドライ雰囲気」と呼ばれる)中で、原料粉としてLiおよびTaClが、1:2のLi:TaClモル比となるように用意された。これらの原料粉が乳鉢中で粉砕して混合され、混合粉が得られた。得られた混合粉は、遊星型ボールミルを用い、24時間、600rpmでミリング処理された。次いで、200℃で6時間、混合粉は焼成された。このようにして、Li、Ta、O、およびClからなる結晶相を含有する、サンプル1による固体電解質材料の粉末が得られた。
サンプル1による固体電解質材料のLi含有量およびTa含有量は、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析装置(Thermo Fisher Scientific製、iCAP7400)を用いて、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法により測定された。サンプル1による固体電解質材料のCl含有量は、イオンクロマトグラフ装置(Dionex製、ICS-2000)を用いて、イオンクロマトグラフィー法により測定された。サンプル1による固体電解質材料のO含有量は、酸素分析装置(堀場製作所製、EMGA-930)を用いて、不活性ガス溶融-赤外線吸収法により測定された。その結果、サンプル1の固体電解質材料は、1.20のモル比Li/Taおよび0.35のモル比O/Clを有していた。
【0098】
[イオン伝導度の評価]
図3は、固体電解質材料のイオン伝導度を評価するために用いられた加圧成形ダイス300の模式図を示す。
【0099】
加圧成形ダイス300は、枠型301、パンチ下部302、およびパンチ上部303を具備していた。枠型301は、絶縁性のポリカーボネートから形成されていた。パンチ上部303およびパンチ下部302は、いずれも電子伝導性のステンレスから形成されていた。
【0100】
図3に示される加圧成形ダイス300を用いて、下記の方法により、サンプル1による固体電解質材料のイオン伝導度が測定された。
【0101】
ドライ雰囲気中で、サンプル1による固体電解質材料の粉末(すなわち、図3において、固体電解質材料の粉末401)が加圧成形ダイス300の内部に充填された。加圧成形ダイス300の内部で、サンプル1による固体電解質材料に、パンチ下部302およびパンチ上部303を用いて300MPaの圧力が印加された。このようにして、サンプル1によるイオン伝導度測定セルが得られた。
【0102】
圧力が印加されたまま、パンチ下部302およびパンチ上部303が、周波数応答アナライザが搭載されたポテンショスタット(Princeton Applied Research社、VersaSTAT4)に接続された。パンチ上部303は、作用極および電位測定用端子に接続された。パンチ下部302は、対極および参照極に接続された。電気化学的インピーダンス測定法により、室温において、サンプル1による固体電解質材料のイオン伝導度が測定された。その結果、22℃で測定されたイオン伝導度は、8.2mS/cmであった。
【0103】
[イオン伝導度の温度依存性の評価]
図4は、サンプル1による固体電解質材料のイオン伝導度の温度依存性を示すグラフである。図4に示される結果は、下記の方法により測定された。
【0104】
上記のサンプル1によるイオン伝導度測定セルが、恒温槽に配置された。-30℃から80℃の範囲において、昇温過程および降温過程の両方でイオン伝導度が測定された。
【0105】
図4に示されるように、サンプル1による固体電解質材料は、-30℃から80℃の範囲において、高いリチウムイオン伝導度を維持していた。
【0106】
[X線回折]
図5は、サンプル1による固体電解質材料のX線回折パターンを示すグラフである。図5に示される結果は、下記の方法により測定された。
【0107】
-45℃以下の露点を有するドライ中で、X線回折装置(RIGAKU社、MiniFlex600)を用いて、サンプル1による固体電解質材料のX線回折パターンが測定された。X線源として、Cu-Kα線(波長1.5405Åおよび1.5444Å)が用いられた。
【0108】
サンプル1による固体電解質材料は、11.08°(すなわち、第1範囲)に回折ピークを有していた。この結果は、サンプル1による固体電解質材料が高いリチウムイオン伝導度を有する結晶相(すなわち、第1結晶相)を含有することを意味する。さらに、サンプル1による固体電解質材料は、17.92°(すなわち、第2範囲)にも回折ピークを有していた。
【0109】
サンプル1による固体電解質材料は、LiClに由来する回折ピークも有していた。これは、サンプル1による固体電解質材料が第1結晶相とは異なる第2結晶相を含有することを意味する。
【0110】
[電池の作製]
-60℃以下の露点を有するアルゴン雰囲気中で、サンプル1による固体電解質材料および正極活物質であるLiCoOが、50:50の体積比率となるように用意された。これらの材料が乳鉢中で混合され、混合物が得られた。
【0111】
9.5mmの内径を有する絶縁性の筒の中で、サンプル1による固体電解質材料(100mg)および上記の混合物(10.6mg)が、順に積層され、積層体が得られた。この積層体に360MPaの圧力が印加され、固体電解質層および正極が形成された。当該固体電解質層は、500μmの厚みを有していた。
【0112】
次に、固体電解質層に、200μmの厚みを有するLi-In合金が積層され、積層体が得られた。この積層体に80MPaの圧力が印加され、負極が形成された。
【0113】
ステンレス鋼から形成された集電体が正極および負極に取り付けられ、当該集電体に集電リードが取り付けられた。
最後に、絶縁性フェルールを用いて、絶縁性の筒の内部を外気雰囲気から遮断し、当該筒の内部を密閉した。
このようにして、サンプル1による電池が得られた。
【0114】
[充放電試験]
図7は、サンプル1による電池の初期放電特性を示すグラフである。図7に示される結果は、下記の方法により測定された。
【0115】
サンプル1による電池は、25℃の恒温槽に配置された。
80μA/cmの電流密度で3.6Vの電圧に達するまで、サンプル1による電池が充電された。当該電流密度は0.05Cレートに相当する。次に、80μA/cmの電流密度で2.5Vの電圧に達するまで、サンプル1による電池が放電された。当該電流密度は、0.05Cレートに相当する。
【0116】
充放電試験の結果、サンプル1による電池は、0.56mAhの初期放電容量を有していた。
【0117】
(サンプル2)
原料粉としてLiおよびTaClが、0.9:2のLi:TaClモル比となるように用意された。これ以外は、サンプル1と同様にして、サンプル2による固体電解質材料が得られた。サンプル2による固体電解質材料は、1.08のモル比Li/Taおよび0.31のモル比O/Clを有していた。
【0118】
サンプル2による固体電解質材料のイオン伝導度が、サンプル1と同様に測定された。その結果、22℃で測定されたイオン伝導度は、9.0mS/cmであった。
【0119】
サンプル2による固体電解質材料のX線回折パターンは、サンプル1と同様に測定された。測定結果は、図6に示される。サンプル2による固体電解質材料は、11.06°(すなわち、第1範囲)および17.88°(すなわち、第2範囲)に回折ピークを有していた。さらに、サンプル2による固体電解質材料は、LiClに由来する回折ピークも有していた。したがって、サンプル2による固体電解質材料は、第1結晶相および第2結晶相を含有していた。
【0120】
(サンプル3)
原料粉としてLiおよびTaClが、0.8:2のLi:TaClモル比となるように用意された。これ以外は、サンプル1と同様にして、サンプル3による固体電解質材料が得られた。サンプル3による固体電解質材料は、0.96のモル比Li/Taおよび0.27のモル比O/Clを有していた。
【0121】
サンプル3による固体電解質材料のイオン伝導度が、サンプル1と同様に測定された。その結果、22℃で測定されたイオン伝導度は、6.5mS/cmであった。
【0122】
サンプル3による固体電解質材料のX線回折パターンは、サンプル1と同様に測定された。測定結果は、図6に示される。サンプル3による固体電解質材料は、11.09°(すなわち、第1範囲)および17.96°(すなわち、第2範囲)に回折ピークを有していた。さらに、サンプル3による固体電解質材料は、LiClに由来する回折ピークも有していた。したがって、サンプル3による固体電解質材料は、第1結晶相および第2結晶相を含有していた。
【0123】
(サンプル4)
原料粉としてLiおよびTaClが、0.5:2のLi:TaClモル比となるように用意された。これ以外は、サンプル1と同様にして、サンプル4による固体電解質材料が得られた。サンプル4による固体電解質材料は、0.60のモル比Li/Taおよび0.16のモル比O/Clを有していた。
【0124】
サンプル4による固体電解質材料のイオン伝導度が、サンプル1と同様に測定された。その結果、22℃で測定されたイオン伝導度は、4.9mS/cmであった。
【0125】
サンプル4による固体電解質材料のX線回折パターンは、サンプル1と同様に測定された。測定結果は、図6に示される。サンプル4による固体電解質材料は、11.08°(すなわち、第1範囲)および17.93°(すなわち、第2範囲)に回折ピークを有していた。さらに、サンプル4による固体電解質材料は、LiClに由来する回折ピークも有していた。したがって、サンプル4の固体電解質材料は、第1結晶相および第2結晶相を含有していた。
【0126】
(サンプル5)
原料粉としてLiOおよびTaClが、1:1のLiO:TaClモル比となるように用意された。これ以外は、サンプル1と同様にして、サンプル5による固体電解質材料が得られた。サンプル5による固体電解質材料は、2.40のモル比Li/Taおよび0.28のモル比O/Clを有していた。
【0127】
サンプル5による固体電解質材料のイオン伝導度が、サンプル1と同様に測定された。その結果、22℃で測定されたイオン伝導度は、3.3mS/cmであった。
【0128】
サンプル5による固体電解質材料のX線回折パターンは、サンプル1と同様に測定された。測定結果は、図6に示される。サンプル5による固体電解質材料は、11.08°(すなわち、第1範囲)および17.92°(すなわち、第2範囲)に回折ピークを有していた。さらに、サンプル5による固体電解質材料は、LiClに由来する回折ピークも有していた。したがって、サンプル5の固体電解質材料は、第1結晶相および第2結晶相を含有していた。
【0129】
(サンプル6)
原料粉としてLi、TaCl、およびNbClが、1:1.6:0.4のLi:TaCl:NbClモル比となるように用意された。これ以外は、サンプル1と同様にして、サンプル6による固体電解質材料が得られた。サンプル6による固体電解質材料は、1.20のモル比Li/(Ta+Nb)および0.35のモル比O/Clを有していた。
【0130】
サンプル6による固体電解質材料のイオン伝導度が、サンプル1と同様に測定された。その結果、22℃で測定されたイオン伝導度は、6.7mS/cmであった。
【0131】
サンプル6による固体電解質材料のX線回折パターンは、サンプル1と同様に測定された。測定結果は、図6に示される。サンプル6による固体電解質材料は、11.09°(すなわち、第1範囲)および17.93°(すなわち、第2範囲)に回折ピークを有していた。さらに、サンプル6による固体電解質材料は、LiClに由来する回折ピークも有していた。したがって、サンプル6の固体電解質材料は、第1結晶相および第2結晶相を含有していた。
【0132】
(サンプル7)
原料粉としてLi、TaCl、およびNbClが、1:1:1のLi:TaCl:NbClモル比となるように用意された。これ以外は、サンプル1と同様にして、サンプル7による固体電解質材料が得られた。サンプル7による固体電解質材料は、1.20のモル比Li/(Ta+Nb)および0.35のモル比O/Clを有していた。
【0133】
サンプル7による固体電解質材料のイオン伝導度が、サンプル1と同様に測定された、その結果、22℃で測定されたイオン伝導度は、5.7mS/cmであった。
【0134】
サンプル7による固体電解質材料のX線回折パターンは、サンプル1と同様に測定された。測定結果は、図6に示される。サンプル7による固体電解質材料は、11.07°(すなわち、第1範囲)および17.91°(すなわち、第2範囲)に回折ピークを有していた。さらに、サンプル7による固体電解質材料は、LiClに由来する回折ピークも有していた。したがって、サンプル7の固体電解質材料は、第1結晶相および第2結晶相を含有していた。
【0135】
(サンプル8)
原料粉としてLiClおよびTaClが、1:1のLiCl:TaClモル比となるように用意された。これ以外は、サンプル1と同様にして、サンプル8による固体電解質材料が得られた。サンプル8による固体電解質材料は、1.0のモル比Li/Taはおよび0のモル比O/Clを有していた。すなわち、サンプル8による固体電解質材料は、O(すなわち、酸素)を含有していなかった。
【0136】
サンプル8による固体電解質材料のイオン伝導度が、サンプル1と同様に測定された。その結果、22℃で測定されたイオン伝導度は、5.6×10-4mS/cmであった。
【0137】
サンプル8による固体電解質材料のX線回折パターンは、サンプル1と同様に測定された。測定結果は、図5に示される。サンプル8による固体電解質材料は、第1範囲および第2範囲に回折ピークを有していなかった。したがって、サンプル8による固体電解質材料は、第1結晶相を含有していなかった。
【0138】
(サンプル9)
原料粉としてLiClおよびLiが、1:1のLiCl:Liモル比となるように用意された。これ以外は、サンプル1と同様にして、サンプル9による固体電解質材料が得られた。サンプル9による固体電解質材料は、0.5のモル比O/Clを有していた。サンプル9による固体電解質材料は、元素Mを含有していなかった。
【0139】
サンプル9による固体電解質材料のイオン伝導度が、サンプル1と同様に測定された。その結果、22℃で測定されたイオン伝導度は、1.2×10-5mS/cmであった。
【0140】
サンプル9による固体電解質材料のX線回折パターンは、サンプル1と同様に測定された。測定結果は、図5に示される。サンプル9による固体電解質材料は、第1範囲および第2範囲に回折ピークを有していなかった。したがってサンプル9による固体電解質材料は、第1結晶相を含有していなかった。
【0141】
サンプル1~9について、構成元素、モル比、および測定結果が表1に示される。
【0142】
【表1】
【0143】
(考察)
表1から明らかなように、サンプル1~7による固体電解質材料は、室温において、1×10-3mS/cm以上の高いイオン伝導度を有する。
【0144】
図4に示されるように、サンプル1による固体電解質材料は、想定される電池の使用温度範囲において、高いリチウムイオン伝導度を有する。
サンプル1による電池は、室温において、充電および放電された。
【0145】
サンプル1および6を、サンプル7と比較すると明らかなように、数式:0.8≦mTa/(mNb+mTa)≦1.0が充足される場合、固体電解質材料がより高いイオン伝導性を有する。サンプル1をサンプル6と比較すると明らかなように、数式:mTa/(mNb+mTa)=1が充足される場合(すなわち、MがTaである場合)、イオン伝導性はさらに高くなる。
【0146】
サンプル1、2、および3を、サンプル4および5と比較すると明らかなように、モル比Li/Mの値が、0.96以上1.20以下であれば、固体電解質材料がより高いイオン伝導性を有する。
サンプル1および2を、サンプル3~5と比較すると明らかなように、モル比O/Clの値が、0.31以上0.35以下であれば、固体電解質材料がより高いイオン伝導性を有する。
【0147】
以上のように、本開示による固体電解質材料は、高いリチウムイオン伝導度を有するため、優れた充放電特性を有する電池を提供するために適切である。
【産業上の利用可能性】
【0148】
本開示の固体電解質材料は、例えば、全固体リチウムイオン二次電池のために利用される。
【符号の説明】
【0149】
100 固体電解質粒子
201 正極
202 電解質層
203 負極
204 正極活物質粒子
205 負極活物質粒子
206 電極活物質粒子
216 被覆層
300 加圧成形ダイス
301 枠型
302 パンチ下部
303 パンチ上部
401 固体電解質材料の粉末
1000 電池
1100 電極材料
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7