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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-08
(45)【発行日】2024-08-19
(54)【発明の名称】固体電解質材料およびこれを用いた電池
(51)【国際特許分類】
   H01B 1/06 20060101AFI20240809BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20240809BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20240809BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20240809BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20240809BHJP
   C01G 29/00 20060101ALI20240809BHJP
   C01G 25/00 20060101ALI20240809BHJP
【FI】
H01B1/06 A
H01M10/0562
H01M10/052
H01M4/62 Z
H01M4/13
C01G29/00
C01G25/00
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021506160
(86)(22)【出願日】2019-12-11
(86)【国際出願番号】 JP2019048473
(87)【国際公開番号】W WO2020188913
(87)【国際公開日】2020-09-24
【審査請求日】2022-09-27
(31)【優先権主張番号】P 2019048882
(32)【優先日】2019-03-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004314
【氏名又は名称】弁理士法人青藍国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100143236
【弁理士】
【氏名又は名称】間中 恵子
(72)【発明者】
【氏名】久保 敬
(72)【発明者】
【氏名】浅野 哲也
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 晃暢
(72)【発明者】
【氏名】酒井 章裕
【審査官】木村 励
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/198494(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/139657(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/025582(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/141735(WO,A1)
【文献】国際公開第2000/028608(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第104073257(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 1/06
H01M 10/0562
H01M 10/052
H01M 4/62
H01M 4/13
C01G 29/00
C01G 25/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
i、Zr、Y、M、およびXからなり、
Mは、Al、Ga、In、Sc、およびBiからなる群より選択される少なくとも一種の元素であり、かつ
Xは、ClおよびBrからなる群より選択される少なくとも一種の元素であり、
以下の組成式(1)により表され、
Li 6-(4-a-b)c (Zr 1-a-b b a c 6 ・・・式(1)
ここで、以下の数式
a>0、
b>0、
(a+b)<1、および
0<c<1.5、
が充足される、
固体電解質材料。
【請求項2】
数式:0.01≦a≦0.4、が充足される、
請求項に記載の固体電解質材料。
【請求項3】
数式:0.01≦a≦0.2、が充足される、
請求項に記載の固体電解質材料。
【請求項4】
数式:0.9≦c≦1.2、が充足される、
請求項からのいずれか一項に記載の固体電解質材料。
【請求項5】
数式:1.0≦c≦1.2、が充足される、
請求項に記載の固体電解質材料。
【請求項6】
Mは、Al、Ga、およびInからなる群より選択される少なくとも一種の元素である、
請求項1からのいずれか一項に記載の固体電解質材料。
【請求項7】
正極、
負極、および
前記正極および前記負極の間に配置されている電解質層、を備え、
前記正極、前記負極、および前記電解質層からなる群より選択される少なくとも1つは、請求項1からのいずれか一項に記載の固体電解質材料を含有する、
電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、固体電解質材料およびこれを用いた電池に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、硫化物固体電解質材料が用いられた全固体電池を開示している。
【0003】
特許文献2は、組成式Li6-3z(0<z<2、X=ClまたはBr)により表される固体電解質材料を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-129312号公報
【文献】国際公開第2018/025582号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示の目的は、高いリチウムイオン伝導度を有する固体電解質材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の固体電解質材料は、Li、Zr、Y、M、およびXを含み、Mは、Al、Ga、In、Sc、およびBiからなる群より選択される少なくとも一種の元素であり、かつXは、ClおよびBrからなる群より選択される少なくとも一種の元素である。
【発明の効果】
【0007】
本開示は、高いリチウムイオン伝導度を有する固体電解質材料を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、第2実施形態による電池1000の断面図を示す。
図2図2は、固体電解質材料のイオン伝導度を評価するために用いられる加圧成形ダイス300の模式図を示す。
図3図3は、実施例1による固体電解質材料のインピーダンス測定結果を示すCole-Cole線図のグラフである。
図4図4は、実施例1による電池の初期放電特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の実施形態が、図面を参照しながら説明される。
【0010】
(第1実施形態)
第1実施形態による固体電解質材料は、Li、Zr、Y、M、およびXを含む。Mは、Al、Ga、In、Sc、およびBiからなる群より選択される少なくとも一種の元素である。Xは、ClおよびBrからなる群より選択される少なくとも一種の元素である。第1実施形態による固体電解質材料は、高いリチウムイオン伝導度を有する。
【0011】
第1実施形態による固体電解質材料は、充放電特性に優れた電池を得るために用いられ得る。当該電池の例は、全固体二次電池である。
【0012】
第1実施形態による固体電解質材料には、硫黄が含まれないことが望ましい。硫黄を含有しない固体電解質材料は、大気に暴露されても、硫化水素が発生しないので、安全性に優れる。特許文献1に開示された硫化物固体電解質材料は、大気に曝露されると、硫化水素が発生し得ることに留意せよ。
【0013】
第1実施形態による固体電解質材料は、実質的に、Li、Zr、Y、M、およびXからなっていてもよい。「第1実施形態における固体電解質材料が、実質的に、Li、Zr、Y、M、およびXからなる」とは、第1実施形態による固体電解質材料において、固体電解質材料を構成する全元素の物質量の合計に対する、Li、Zr、Y、M、およびXの物質量の合計のモル比が、90%以上であることを意味する。一例として、当該モル比は95%以上であってもよい。第1実施形態による固体電解質材料は、Li、Zr、Y、M、およびXのみからなっていてもよい。このような固体電解質材料は、高いリチウムイオン伝導度を有する。
第1実施形態による固体電解質材料は、不可避的に混入される元素を含有していてもよい。当該元素の例は、水素、窒素、または酸素である。このような元素は、固体電解質材料の原料粉、または、固体電解質材料を製造あるいは保管するための雰囲気中に存在し得る。
【0014】
第1実施形態による固体電解質材料は、以下の組成式(1)により表される材料であってもよい。
Li6-(4-a-b)c(Zr1-a-b ・・・(1)
ここで、以下の数式
a>0、
b>0、
(a+b)<1、および
0<c<1.5
が充足される。
式(1)により表される材料は、高いリチウムイオン伝導度を有する。当該固体電解質材料は、硫黄を含有しないので、安全性に優れる。
【0015】
固体電解質材料のリチウムイオン伝導性を高めるために、組成式(1)において、数式:0.01≦a≦0.4、が充足されてもよく、あるいは数式:0.05≦a≦0.4、が充足されてもよい。固体電解質材料のリチウムイオン伝導性をさらに高めるために、数式:0.01≦a≦0.2、が充足されてもよく、あるいは数式:0.05≦a≦0.2、が充足されてもよい。
【0016】
固体電解質材料のリチウムイオン伝導性を高めるために、組成式(1)において、数式:0.9≦c≦1.2、が充足されてもよい。固体電解質材料のイオン伝導性をさらに高めるために、数式:1.0≦c≦1.2、が充足されてもよい。
【0017】
固体電解質材料のリチウムイオン伝導性を高めるために、Mは、Al、Ga、In、Sc、およびBiからなる群より選択される一種の元素であってもよい。
【0018】
固体電解質材料のリチウムイオン伝導性を高めるために、Mは、Al、Ga、およびInからなる群より選択される少なくとも一種の元素であってもよい。低コスト化のために、Mは、Alであってもよい。
【0019】
第1実施形態による固体電解質材料は、結晶質であってもよく、あるいは非晶質であってもよい。
【0020】
第1実施形態による固体電解質材料の形状は、限定されない。当該形状の例は、針状、球状、または楕円球状である。第1実施形態による固体電解質材料は、粒子であってもよい。第1実施形態による固体電解質材料は、ペレットまたは板の形状を有するように形成されてもよい。
【0021】
イオン伝導度をさらに高め、かつ活物質のような他の材料との良好な分散状態を形成するために、第1実施形態による固体電解質材料の形状が粒子状(例えば、球状)である場合、第1実施形態による固体電解質材料は、0.1μm以上100μm以下のメジアン径を有していてもよい。望ましくは、0.5μm以上10μm以下のメジアン径を有していてもよい。メジアン径は、体積基準の粒度分布における累積体積が50%に等しい場合の粒径を意味する。体積基準の粒度分布は、レーザー回折散乱法または画像解析装置により測定され得る。
【0022】
固体電解質材料と活物質との良好な分散状態を形成するために、第1実施形態による固体電解質材料は、活物質よりも小さいメジアン径を有していてもよい。
【0023】
第1実施形態による固体電解質材料は、例えば、下記の方法により、製造される。
【0024】
目的とする組成の配合比となるような、ハロゲン化物の原料粉を用意する。一例として、Li2.22(Zr0.60.2Al0.21.05Clを作製する場合には、LiCl原料粉、ZrCl原料粉、YCl原料粉、およびAlCl原料粉(すなわち、4種のハロゲン化物の原料粉)が、2.22:0.63:0.21:0.21のLiCl:ZrCl:YCl:AlClモル比となるように用意される。合成過程において生じ得る組成変化を相殺するように、あらかじめ調整されたモル比で原料粉は混合されてもよい。
【0025】
原料粉は、遊星型ボールミルのような混合装置内でメカノケミカル的に(すなわち、メカノケミカルミリング処理の方法により)互いに反応し、反応物が得られる。反応物は、真空中または不活性雰囲気中で焼成されてもよい。あるいは、原料粉の混合物が、真空中または不活性雰囲気中で焼成され、反応物を得てもよい。焼成は、100℃以上650℃以下で、1時間以上行われてもよい。
【0026】
これらの方法により、第1実施形態による固体電解質材料が得られる。
【0027】
(第2実施形態)
以下、第2実施形態が説明される。第1実施形態において説明された事項は、適宜、省略される。
【0028】
第2実施形態による電池は、正極、電解質層、および負極を備える。電解質層は、正極および負極の間に配置されている。
【0029】
正極、電解質層、および負極からなる群より選択される少なくとも1つは、第1実施形態による固体電解質材料を含有する。
【0030】
第2実施形態による電池は、優れた充放電特性を有する。
【0031】
図1は、第2実施形態による電池1000の断面図を示す。
【0032】
電池1000は、正極201、電解質層202、および負極203を備える。電解質層202は、正極201および負極203の間に配置されている。
【0033】
正極201は、正極活物質粒子204および固体電解質粒子100を含有する。
【0034】
電解質層202は、電解質材料(例えば、固体電解質材料)を含有する。
【0035】
負極203は、負極活物質粒子205および固体電解質粒子100を含有する。
【0036】
固体電解質粒子100は、第1実施形態による固体電解質材料を主たる成分として含有する粒子である。第1実施形態による固体電解質材料を主たる成分として含む粒子とは、最も多く含まれる成分が第1実施形態による固体電解質材料である粒子を意味する。固体電解質粒子100は、第1実施形態による固体電解質材料からなる粒子であってもよい。
【0037】
正極201は、リチウムイオンのような金属イオンを吸蔵かつ放出可能な材料を含有する。正極201は、例えば、正極活物質(例えば、正極活物質粒子204)を含有する。
【0038】
正極活物質の例は、リチウム含有遷移金属酸化物、遷移金属フッ化物、ポリアニオン材料、フッ素化ポリアニオン材料、遷移金属硫化物、遷移金属オキシフッ化物、遷移金属オキシ硫化物、または遷移金属オキシ窒化物である。リチウム含有遷移金属酸化物の例は、Li(NiCoAl)OまたはLiCoOである。
【0039】
正極活物質粒子204は、0.1μm以上100μm以下のメジアン径を有していてもよい。正極活物質粒子204が0.1μm以上のメジアン径を有する場合、正極201において、正極活物質粒子204および固体電解質粒子100が良好に分散し得る。これにより、電池が高い充放電特性を有する。正極活物質粒子204が100μm以下のメジアン径を有する場合、正極活物質粒子204内のリチウム拡散速度が向上する。これにより、電池が高出力で動作し得る。
【0040】
正極活物質粒子204は、固体電解質粒子100よりも大きいメジアン径を有していてもよい。これにより、正極活物質粒子204および固体電解質粒子100が良好に分散し得る。
【0041】
電池のエネルギー密度および出力の観点から、正極201において、正極活物質粒子204の体積および固体電解質粒子100の体積の合計に対する正極活物質粒子204の体積の比は、0.30以上0.95以下であってもよい。
【0042】
電池のエネルギー密度および出力の観点から、正極201は、10μm以上500μm以下の厚みを有していてもよい。
【0043】
電解質層202は、電解質材料を含有する。当該電解質材料は、例えば、固体電解質材料である。電解質層202は、固体電解質層であってもよい。電解質層202に含まれる固体電解質材料は、第1実施形態による固体電解質材料であってもよい。
【0044】
電解質層202は、第1実施形態による固体電解質材料のみから構成されていてもよい。
【0045】
電解質層202は、第1実施形態による固体電解質材料とは異なる固体電解質材料のみから構成されていてもよい。第1実施形態による固体電解質材料とは異なる固体電解質材料の例は、LiMgX’、LiFeX’、Li(Al、Ga、In)X’、Li(Al、Ga、In)X’、またはLiIである。ここで、X’は、F、Cl、Br、およびIからなる群より選択される少なくとも1つの元素である。
【0046】
以下、第1実施形態による固体電解質材料は、第1固体電解質材料と呼ばれる。第1実施形態による固体電解質材料とは異なる固体電解質材料は、第2固体電解質材料と呼ばれる。
【0047】
電解質層202は、第1固体電解質材料だけでなく、第2固体電解質材料をも含有してもよい。このとき、第1固体電解質材料および第2固体電解質材料は、均一に分散していてもよい。
【0048】
第1固体電解質材料からなる層および第2固体電解質材料からなる層が、電池1000の積層方向に沿って、順に積層されてもよい。
【0049】
電解質層202は、1μm以上100μm以下の厚みを有していてもよい。電解質層202が1μm以上の厚みを有する場合、正極201および負極203が短絡しにくくなる。電解質層202が100μm以下の厚みを有する場合、電池が高出力で動作し得る。
【0050】
負極203は、リチウムイオンのような金属イオンを吸蔵かつ放出可能な材料を含有する。負極203は、例えば、負極活物質(例えば、負極活物質粒子205)を含有する。
【0051】
負極活物質の例は、金属材料、炭素材料、酸化物、窒化物、錫化合物、または珪素化合物である。金属材料は、単体の金属であってもよく、あるいは、合金であってもよい。金属材料の例は、リチウム金属またはリチウム合金である。炭素材料の例は、天然黒鉛、コークス、黒鉛化途上炭素、炭素繊維、球状炭素、人造黒鉛、または非晶質炭素である。容量密度の観点から、負極活物質の好適な例は、珪素(すなわち、Si)、錫(すなわち、Sn)、珪素化合物、または錫化合物である。
【0052】
負極活物質粒子205は、0.1μm以上100μm以下のメジアン径を有していてもよい。負極活物質粒子205が0.1μm以上のメジアン径を有する場合、負極203において、負極活物質粒子205および固体電解質粒子100が良好に分散し得る。これにより、電池の充放電特性が向上する。負極活物質粒子205が100μm以下のメジアン径を有する場合、負極活物質粒子205内のリチウム拡散速度が向上する。これにより、電池が高出力で動作し得る。
【0053】
負極活物質粒子205は、固体電解質粒子100よりも大きいメジアン径を有していてもよい。これにより、負極活物質粒子205および固体電解質粒子100が良好に分散し得る。
【0054】
電池のエネルギー密度および出力の観点から、負極203において、負極活物質粒子205の体積および固体電解質粒子100の体積の合計に対する負極活物質粒子205の体積の比は、0.30以上0.95以下であってもよい。
【0055】
電池のエネルギー密度および出力の観点から、負極203は、10μm以上500μm以下の厚みを有していてもよい。
【0056】
正極201、電解質層202、および負極203からなる群より選択される少なくとも1つは、イオン伝導性、化学的安定性、および電気化学的安定性を高める目的で、第2固体電解質材料を含有してもよい。
【0057】
第2固体電解質材料は、硫化物固体電解質であってもよい。
【0058】
硫化物固体電解質の例は、LiS-P、LiS-SiS、LiS-B、LiS-GeS、Li3.25Ge0.250.75またはLi10GeP12である。
【0059】
第2固体電解質材料は、酸化物固体電解質であってもよい。
【0060】
酸化物固体電解質の例は、
(i) LiTi(POまたはその元素置換体のようなNASICON型固体電解質、
(ii) (LaLi)TiOのようなペロブスカイト型固体電解質、
(iii) Li14ZnGe16、LiSiO、LiGeOまたはその元素置換体のようなLISICON型固体電解質、
(iv) LiLaZr12またはその元素置換体のようなガーネット型固体電解質、または
(v) LiPOまたはそのN置換体
である。
【0061】
第2固体電解質材料は、ハロゲン化物固体電解質であってもよい。
【0062】
ハロゲン化物固体電解質の例は、LiMeにより表される化合物である。ここで、p+m′q+3r=6、およびr>0が充足される。Meは、LiおよびY以外の金属元素と半金属元素とからなる群より選択される少なくとも1つの元素である。Zは、F、Cl、Br、およびIからなる群より選択される少なくとも1種の元素である。m′の値は、Meの価数を表す。
【0063】
「半金属元素」は、B、Si、Ge、As、Sb、およびTeを表す。
【0064】
「金属元素」は、周期表第1族から第12族中に含まれるすべての元素(ただし、水素を除く)、および、周期表第13族から第16族中に含まれるすべての元素(ただし、B、Si、Ge、As、Sb、Te、C、N、P、O、S、およびSeを除く)を表す。
【0065】
Meは、Mg、Ca、Sr、Ba、Zn、Sc、Al、Ga、Bi、Zr、Hf、Ti、Sn、Ta、およびNbからなる群より選択される少なくとも1つの元素であってもよい。
【0066】
ハロゲン化物固体電解質の例は、LiYClまたはLiYBrである。
【0067】
第2固体電解質材料は、有機ポリマー固体電解質であってもよい。
【0068】
有機ポリマー固体電解質の例は、高分子化合物およびリチウム塩の化合物である。
【0069】
高分子化合物は、エチレンオキシド構造を有していてもよい。エチレンオキシド構造を有する高分子化合物は、リチウム塩を多く含有できるため、イオン導電率をより高めることができる。
【0070】
リチウム塩の例は、LiPF、LiBF、LiSbF、LiAsF、LiSOCF、LiN(SOCF、LiN(SO、LiN(SOCF)(SO)またはLiC(SOCF)である。これらから選択される1種のリチウム塩が単独で使用されてもよい。あるいは、これらから選択される2種以上のリチウム塩の混合物が使用されてもよい。
【0071】
正極201、電解質層202、および負極203からなる群より選択される少なくとも1つは、リチウムイオンの授受を容易にし、電池の出力特性を向上する目的で、非水電解質液、ゲル電解質、またはイオン液体を含有していてもよい。
【0072】
非水電解液は、非水溶媒および当該非水溶媒に溶けたリチウム塩を含む。非水溶媒の例は、環状炭酸エステル溶媒、鎖状炭酸エステル溶媒、環状エーテル溶媒、鎖状エーテル溶媒、環状エステル溶媒、鎖状エステル溶媒、またはフッ素溶媒である。環状炭酸エステル溶媒の例は、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、またはブチレンカーボネートである。鎖状炭酸エステル溶媒の例は、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、またはジエチルカーボネートである。環状エーテル溶媒の例は、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、または1,3-ジオキソランである。鎖状エーテル溶媒の例は、1,2-ジメトキシエタンまたは1,2-ジエトキシエタンである。環状エステル溶媒の例は、γ-ブチロラクトンである。鎖状エステル溶媒の例は、酢酸メチルである。フッ素溶媒の例は、フルオロエチレンカーボネート、フルオロプロピオン酸メチル、フルオロベンゼン、フルオロエチルメチルカーボネート、またはフルオロジメチレンカーボネートである。これらから選択される1種の非水溶媒が単独で使用されてもよい。あるいは、これらから選択される2種以上の非水溶媒の混合物が使用されてもよい。
【0073】
リチウム塩の例は、LiPF、LiBF、LiSbF、LiAsF、LiSOCF、LiN(SOCF、LiN(SO、LiN(SOCF)(SO)、またはLiC(SOCFである。これらから選択される1種のリチウム塩が単独で使用されてもよい。あるいは、これらから選択される2種以上のリチウム塩の混合物が使用されてもよい。リチウム塩の濃度は、例えば、0.5mol/リットル以上かつ2mol/リットル以下であってもよい。
【0074】
ゲル電解質として、非水電解液を含侵させたポリマー材料が使用され得る。ポリマー材料の例は、ポリエチレンオキシド、ポリアクリルニトリル、ポリフッ化ビニリデン、ポリメチルメタクリレート、またはエチレンオキシド結合を有するポリマーである。
【0075】
イオン液体に含まれるカチオンの例は、
(i) テトラアルキルアンモニウムまたはテトラアルキルホスホニウムのような脂肪族鎖状4級塩類、
(ii) ピロリジニウム類、モルホリニウム類、イミダゾリニウム類、テトラヒドロピリミジニウム類、ピペラジニウム類、またはピペリジニウム類のような脂肪族環状アンモニウム、または
(iii) ピリジニウム類またはイミダゾリウム類のような含窒ヘテロ環芳香族カチオン
である。
【0076】
イオン液体に含まれるアニオンの例は、PF 、BF 、SbF6- 、AsF 、SOCF 、N(SOCF 、N(SO 、N(SOCF)(SO、またはC(SOCF である。
【0077】
イオン液体はリチウム塩を含有していてもよい。
【0078】
正極201、電解質層202、および負極203からなる群より選択される少なくとも1つは、粒子同士の密着性を向上する目的で、結着剤を含有していてもよい。
【0079】
結着剤の例は、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、アラミド樹脂、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアクリルニトリル、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸メチルエステル、ポリアクリル酸エチルエステル、ポリアクリル酸ヘキシルエステル、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸メチルエステル、ポリメタクリル酸エチルエステル、ポリメタクリル酸ヘキシルエステル、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルピロリドン、ポリエーテル、ポリエーテルサルフォン、ヘキサフルオロポリプロピレン、スチレンブタジエンゴム、またはカルボキシメチルセルロースである。共重合体もまた、結着剤として使用され得る。このような結着剤の例は、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロアルキルビニルエーテル、フッ化ビニリデン、クロロトリフルオロエチレン、エチレン、プロピレン、ペンタフルオロプロピレン、フルオロメチルビニルエーテル、アクリル酸、およびヘキサジエンからなる群より選択された2種以上の材料の共重合体である。上記の材料から選択された2種以上の混合物が結着剤として使用されてもよい。
【0080】
正極201および負極203から選択される少なくとも1つは、電子伝導性を高める目的で、導電助剤を含有していてもよい。
【0081】
導電助剤の例は、
(i) 天然黒鉛または人造黒鉛のようなグラファイト類、
(ii) アセチレンブラックまたはケッチェンブラックのようなカーボンブラック類、
(iii) 炭素繊維または金属繊維のような導電性繊維類、
(iv) フッ化カーボン
(v) アルミニウムのような金属粉末類、
(vi) 酸化亜鉛またはチタン酸カリウムのような導電性ウィスカー類、
(vii) 酸化チタンのような導電性金属酸化物、または
(viii) ポリアニリン、ポリピロール、またはポリチオフェンのような導電性高分子化合物
である。低コスト化のために、導電助剤として、上記の(i)または(ii)が使用されてもよい。
【0082】
第2実施形態による電池の形状の例は、コイン型、円筒型、角型、シート型、ボタン型、扁平型、または積層型である。
【0083】
(実施例)
以下、実施例を参照しがら、本開示がより詳細に説明される。
【0084】
(実施例1)
[固体電解質材料の作製]
-60℃以下の露点を有するアルゴン雰囲気(以下、「アルゴン雰囲気」と呼ばれる)中で、原料粉としてLiCl、ZrCl、YCl、およびAlClが、2.22:0.63:0.21:0.21のLiCl:ZrCl:YCl:AlClモル比となるように用意された。これらの原料粉は、乳鉢中で粉砕され、混合された。このようにして、混合粉を得た。遊星型ボールミルを用い、12時間、600rpmで混合粉はミリング処理した。このようにして、実施例1による固体電解質材料の粉末が得られた。実施例1による固体電解質材料は、Li2.22(Zr0.60.2Al0.21.05Clにより表される組成を有していた。
【0085】
実施例1による固体電解質材料の単位重量あたりのLi含有量は、原子吸光分析法により測定された。実施例1による固体電解質材料の単位重量あたりのZr含有量、Y含有量、およびAl含有量は、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法により測定された。これらの測定結果から得られたLi、Zr、Y、およびAlの含有量をもとに、Li:Zr:Y:Alのモル比が算出された。その結果、実施例1による固体電解質材料は、2.22:0.63:0.21:0.21のLi:Zr:Y:Alモル比を有していた。
【0086】
[イオン伝導度の評価]
図2は、固体電解質材料のイオン伝導度を評価するために用いられた加圧成形ダイス300の模式図を示す。
【0087】
加圧成形ダイス300は、枠型301、パンチ下部302、およびパンチ上部303を具備していた。枠型301は、絶縁性のポリカーボネートから形成されていた。パンチ下部302およびパンチ上部303は、いずれも電子伝導性のステンレスから形成されていた。
【0088】
図2に示される加圧成形ダイス300を用いて、下記の方法により、実施例1による固体電解質材料のインピーダンスが測定された。
【0089】
乾燥アルゴン雰囲気中で、実施例1による固体電解質材料(図2において、固体電解質材料の粉末101に等しい)が加圧成形ダイス300に内部に充填された。加圧成形ダイス300の内部で、実施例1による固体電解質材料に、パンチ下部302およびパンチ上部303を用いて300MPaの圧力が印加された。
【0090】
圧力が印加されたまま、パンチ下部302およびパンチ上部303を介して、周波数応答アナライザが搭載されたポテンショスタット(Princeton Applied Research社、VersaSTAT4)に接続された。電気化学的インピーダンス測定法により、室温において、実施例1による固体電解質材料のインピーダンスが測定された。
【0091】
図3は、実施例1による固体電解質材料のインピーダンス測定結果を示すCole-Cole線図のグラフである。
【0092】
図3において、複素インピーダンスの位相の絶対値が最も小さい測定点でのインピーダンスの実数値が、実施例1による固体電解質材料のイオン伝導に対する抵抗値とみなされた。当該実数値については、図3において示される矢印RSEを参照せよ。当該抵抗値を用いて、以下の数式(2)に基づいて、イオン伝導度が算出された。
【0093】
σ=(RSE×S/t)-1 ・・・(2)
ここで、σはイオン伝導度である。Sは、固体電解質材料のパンチ上部303との接触面積(図2において、枠型301の中空部の面積に等しい)である。RSEは、インピーダンス測定における固体電解質材料の抵抗値である。tは、固体電解質材料の厚み(図2において、固体電解質材料の粉末101から形成される層の厚みに等しい)である。
【0094】
22℃で測定された、実施例1による固体電解質材料のイオン伝導度は、2.09×10-3S/cmであった。
【0095】
[電池の作製]
乾燥アルゴン雰囲気中で、実施例1による固体電解質材料およびLiCoOが、70:30の体積比率となるように用意された。これらの材料は、乳鉢中で混合され、混合物が得られた。
【0096】
9.5mmの内径を有する絶縁性の筒の中で、実施例1による固体電解質材料(100mg)、上述の混合物(11.80mg)、およびアルミニウム粉末(14.7mg)が、この順に積層され、積層体を得た。この積層体に300MPaの圧力が印加され、固体電解質層および第1電極が形成された。固体電解質層は、500μmの厚みを有していた。
【0097】
次に、固体電解質層に、金属In(厚さ:200μm)が積層され、積層体が得られた。この積層体に80MPaの圧力が印加され、第2電極が形成された。第1電極は正極であり、第2電極は負極であった。
【0098】
次に、ステンレス鋼から形成された集電体が、第1電極および第2電極に取り付けられ、当該集電体に集電リードが取り付けられた。
【0099】
最後に、絶縁性フェルールを用いて、絶縁性の筒の内部が外気雰囲気から遮断され、密閉された。
【0100】
このようにして、実施例1による電池が得られた。
【0101】
[充放電試験]
図4は、実施例1による電池の初期放電特性を示すグラフである。初期充放電特性は、下記の方法により、測定された。
【0102】
実施例1による電池は、25℃の恒温槽に配置された。
【0103】
72μA/cmの電流密度で3.7Vの電圧に達するまで、実施例1による電池が充電された。当該電流密度は、0.05Cレートに相当する。
【0104】
次に、72μA/cmの電流密度で1.9Vの電圧に達するまで、実施例1による電池が放電された。当該電流密度は、0.05Cレートに相当する。
【0105】
充放電試験の結果、実施例1による電池は、0.71mAhの初期放電容量を有していた。
【0106】
(実施例2~45)
実施例2~44では、原料粉としてLiCl、ZrCl、YCl、およびMClが、{6-(4-a-b)c}:(1-a-b)c:bc:acのLiCl:ZrCl:YCl:MClモル比となるように用意された。
【0107】
実施例45では、原料粉としてLiCl、LiBr、YCl、AlCl、およびZrBrが、1.74:0.48:0.21:0.21:0.63のLiI:LiBr:YCl:AlCl:ZrBrモル比となるように用意された。
【0108】
上記の事項以外は、実施例1と同様にして、実施例2~45による固体電解質材料が得られた。
【0109】
実施例2~45による固体電解質材料のイオン伝導度が、実施例1と同様にして、測定された。測定結果は、表1および表2に示される。
【0110】
実施例2~45による固体電解質材料を用いて、実施例1と同様にして、電池が得られた。実施例2~45による電池は、実施例1と同様に、良好な充放電特性を有していた。
【0111】
実施例2~45による固体電解質材料のMおよびXの元素種、ならびに、a、b、およびcの値は、表1および表2に示される。
【0112】
(比較例1)
比較例1では、原料粉としてLiClおよびYClが、3:1のLiCl:YClモル比となるように用意された。上記の事項以外は、実施例1と同様にして、比較例1による固体電解質材料が得られた。
【0113】
比較例1による固体電解質材料のイオン伝導度が、実施例1と同様にして測定された。その結果、22℃における、比較例1の固体電解質材料のイオン伝導度は、5.70×10-4S/cmであった。
【0114】
【表1】
【0115】
【表2】
【0116】
(考察)
表1から明らかなように、実施例1~45による固体電解質材料は、室温において、6×10-4S/cm以上の高いイオン伝導性を有する。
【0117】
表1から明らかなように、aの値が、0.05以上0.4以下であれば、固体電解質材料は高いイオン伝導性を有する。実施例6および10を実施例12および15と比較すると明らかなように、aの値が0.05以上0.2以下であれば、イオン伝導性はさらに高くなる。aの値は、0.05未満であっても、固体電解質材料が高いイオン伝導度を有すると考えられる。aの値は、例えば、0.01以上0.4以下であってもよい。
【0118】
表1から明らかなように、cの値が、0.9以上1.2以下であれば、固体電解質材料は高いイオン伝導性を有する。実施例9、17、19、21、23、25、および26を、実施例16と比較すると明らかなように、cの値が1.0以上1.2以下であれば、イオン伝導性はさらに高くなる。
【0119】
全ての実施例1~45において、室温において電池は充電および放電された。
実施例1~45による固体電解質材料は、硫黄を含有しないため、硫化水素が発生しない。
【0120】
以上のように、本開示による固体電解質材料は、高いリチウムイオン伝導度を有し、かつ良好に充電および放電可能な電池を提供するために適切である。
【産業上の利用可能性】
【0121】
本開示の固体電解質材料は、例えば、電池(例えば、全固体リチウムイオン二次電池)において利用される。
【符号の説明】
【0122】
100 固体電解質粒子
101 固体電解質材料の粉末
201 正極
202 電解質層
203 負極
204 正極活物質粒子
205 負極活物質粒子
300 加圧成形ダイス
301 枠型
302 パンチ下部
303 パンチ上部
1000 電池
図1
図2
図3
図4