(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-08
(45)【発行日】2024-08-19
(54)【発明の名称】導電材、およびこれを利用した導電膜ならびに太陽電池
(51)【国際特許分類】
H01B 1/24 20060101AFI20240809BHJP
H01B 5/14 20060101ALI20240809BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20240809BHJP
C08L 25/18 20060101ALI20240809BHJP
C01B 32/172 20170101ALI20240809BHJP
【FI】
H01B1/24 A ZNM
H01B5/14 A
C08K3/04
C08L25/18
C01B32/172
(21)【出願番号】P 2020039321
(22)【出願日】2020-03-06
【審査請求日】2022-12-23
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1)令和元年7月21日から26日に独国ヴュルツブルグにおいて開催された第20回ナノチューブと低次元材料の科学と応用に関する国際会議(20th International Conference on the Science and Application of Nanotubes and Low-Dimensional Materials)で発表(2)令和元年10月26日から10月30日に韓国成均館大学において開催された第10回新興材料に関するA3シンポジウム:エレクトロニクス、エネルギー及び環境用のナノ材料(10th A3 Symposium on Emerging Materials:Nanomaterials for Electronics,Energy and Environment)で発表
(73)【特許権者】
【識別番号】899000068
【氏名又は名称】学校法人早稲田大学
(73)【特許権者】
【識別番号】507046521
【氏名又は名称】株式会社名城ナノカーボン
(74)【代理人】
【識別番号】110003063
【氏名又は名称】弁理士法人牛木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野田 優
(72)【発明者】
【氏名】謝 栄斌
【審査官】木村 励
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/225863(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0136224(US,A1)
【文献】特開2018-203969(JP,A)
【文献】国際公開第2014/084159(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0087164(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 1/24
H01B 5/14
C08K 3/04
C08L 25/18
C01B 32/172
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンナノチューブ(CNT)と
、分散剤およびドーパントとして機能するポリスチレンスルホン酸(PSS酸)との混合物を含
み、前記PSS酸以外の分散剤を含まない導電材であって、
前記混合物中において、前記CNTと前記PSS酸とを合わせた含有率が100 wt%であり、
前記混合物中の硫黄(S)と炭素(C)の元素比(S/C比)が原子数比で0.001以上0.1以下である導電材。
【請求項2】
請求項
1に記載の導電材で構成され、
前記CNTの面積載量が1 mg/m
2以上10000 mg/m
2以下である導電膜。
【請求項3】
請求項
2に記載の導電膜を半導体表面に備える太陽電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は導電材、およびこれを利用した導電膜ならびに太陽電池に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブ(以下、CNTともいう)は、特有の1次元構造、優れた固有の電気ならびに電子特性、および高い化学安定性や熱安定性のために、電子機器、エネルギー装置等の分野で広く応用されている。
【0003】
CNTは柔軟性と軽量性に優れた導電材料であり、透明導電膜、透明ヒータ、軽量導電性ワイヤー等、多様な応用が検討されているが、導電性がやや不足しているのが現状である。CNTに対する各種ドーパントが知られているが、安定で高性能なドーピングは実現していない。したがって、CNT導電性向上のために多様なドーパントが検討されてきた。
【0004】
例えば、代表的なドーパントとしてSOCl2、HNO3、HAuCl4等があり、ドーパントがCNT表面に吸着して電子を奪うことで、CNTを強くp型にドーピングし、CNTの導電性が向上する。しかしながら、これらのドーパントは短時間で脱離するので、安定性に乏しい。一方、ポリ(3, 4-エチレンジオキシチオフェン)(以下、PEDOTともいう)は導電性高分子の代表格で、ポリ(スチレンスルホン酸)(polystyrene sulfonic acid、以下、PSS酸ともいう)によりp型にドーピングすることで高い導電性を発現するが、PEDOTが時間とともに凝集し導電性が低下する。
【0005】
CNTのドーピングによる導電性向上の研究は多数あるが、PSS酸をドーパントとしたCNT導電膜の先行技術は見当たらない。一方、PSS酸ないしポリ(スチレンスルホン酸)化合物(polystyrene sulfonate、以下、PSS酸化合物ともいう)の水溶液またはエタノール溶液がCNTの分散に有効なことが一部で報告されている(例えば、非特許文献1~3、特許文献1および2)。PSS酸化合物にはPSS酸塩とPSS酸エステルがあるが、非特許文献2および3では特に、PSS酸Na塩(poly(sodium styrene sulfonate)、ポリ(スチレンスルホン酸ナトリウム))がCNTの良好な分散剤であることが報告されている。PSS酸とPSS酸化合物は、いずれもPSSと略記されることが多いが、PSS酸は強酸である一方、PSS酸化合物は塩ないしエステルであるため性質が大きく異なる。
【0006】
CNTの液体中での良好な分散条件は、様々な応用で、CNTの最大の可能性を実現し得る。通常、CNTは、ファンデルワールス相互作用、π-πスタッキング相互作用、および、疎水性相互作用のために、CNT単独では、水溶液中で分散することは難しい。界面活性剤の吸着、包み込み、表面機能化、および、剥離により、CNTは水溶液中で良く分散することもあり得る。しかしながら、界面活性剤が残留したり、高濃度の強酸を使用することが、実際の応用での実現可能性を妨げる。したがって、容易で高効率な分散方法が強く望まれる。
【0007】
CNTを含む透明導電膜(CNT-TCF)により、可撓性の光電子工学デバイスおび生体電子工学デバイスを製造することができる。通常、CNT-TCFの製造方法は、乾式法と湿式法とに分けられる。乾式法では、浮遊触媒化学気相成長法(FCCVD)により気相内で製造されたCNTは、反応炉の下流でメンブレンフィルタを使用して流れをフィルタリングすることにより直接収集され、これによりCNTを損傷することがなく、高品質の膜を保つ。しかしながら、この方法は、CNTを反応炉内で凝集させずにメンブレンフィルタ上で薄膜に成形するため、反応炉内のCNTの濃度を低く保つ必要があり、結果、生産性が劣るという本質的な問題がある。一方で、CNTを反応炉内で高濃度に合成し、綿状の凝集体として多量に得る生産性の高い合成技術も実用化している。この既製のCNTの凝集体を用いる場合は、CNTを一旦分散する必要があり、湿式法が適用される。湿式法は、CNTの分散に続けて、膜を形成するための濾過またはコーティング、界面活性剤の除去、および、ドーピング処理を含む、いくつかのステップで構成される。この場合は、CNTの品質と収量のトレードオフが存在し、例えば、分散を強くするとCNT粉末からCNT膜への収率が増加する一方で、CNT膜への損傷も増加する。
【0008】
本発明者らは、このトレードオフを克服するために、繰り返し分散-分取プロセスを提案した(非特許文献4)。CNTの分散剤の一つであるドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(SDBS)の水溶液にCNT粉末を添加し、軽い超音波処理(3分)によりCNT粉末の一部を分散し、遠心分離により上澄みのCNT分散液を分取し、沈殿物のCNT凝集体にSDBS水溶液を添加して再度分散にかける工程を13サイクル繰り返すことで、CNTの損傷を抑えつつCNTの凝集体から膜への高い転換効率(約90%)を達成している。しかしながら、この方法には後述するような問題が残されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】国際公開WO2013/042482号公報
【文献】国際公開WO2013/073259号公報
【非特許文献】
【0010】
【文献】M.J. O'Connell, et al., Chem. Phys. Lett. 2001, 432, 265.
【文献】C. Hassam and D.A. Lewis, Aust. J. Chem. 2014, 67, 66.
【文献】Y.J. Jeong, et al., J. Mater. Chem. C 2016, 4, 4912.
【文献】H. Shirae, et al., Carbon 2015, 91, 20.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1では、PSS共重合体が開示され、これを用いたCNTの分散剤やCNTの分散液が報告されている。しかしながら、CNTおよびPSSを用いて成膜されるCNT-PSS複合膜や、PSSによるCNTへのドーピングについての記載はない。
【0012】
特許文献2では、PSSを、CNTや導電性ポリマー等の水性分散体の物性向上に有用な分散剤として利用することが開示されている。しかしながら、CNTに対してはPSSの分散効果についてしか記載されておらず、CNT-PSS複合膜や、PSSによるCNTへのドーピングについての記載はない。
【0013】
非特許文献1には、PSS酸化合物およびポリビニルピロリドン(PVP)がCNTの分散剤として有効であることが開示されている。しかしながら、CNT-PSS酸化合物複合膜の導電性についての記載はない。また、非特許文献1で使用されているPSS酸化合物は塩ないしはエステルであって、後述するようにドーピングの効果がほとんど認められず、PSS酸については何の記載もない。
【0014】
非特許文献2には、単層カーボンナノチューブ(SWCNT)および多層カーボンナノチューブ(MWCNT)のPSS酸Na塩による分散について開示されている。非特許文献2では、分散液を濾過して得たCNT-PSS酸Na塩複合体において、PSS酸Na塩に対するCNTの質量比率について議論されているが、CNT-PSS酸Na塩複合膜の導電性についての記載はない。PSS酸Na塩に対するCNTの質量比率は1程度が最適な比率であるとしている。また、非特許文献2で使用されているPSSはPSS酸Na塩であって後述するようにドーピングの効果がほとんど認められず、PSS酸については何の記載もない。
【0015】
非特許文献3には、PSS酸化合物のエタノール溶液にMWCNTを分散し、インクジェット印刷で導電性のコンポジットパターンを形成することが開示されている。50 mgのPSS酸化合物を加えたエタノール1 mLの溶液中にMWCNTを1 wt%で分散させている。PSS酸化合物は6 wt%程度なので、PSS酸化合物に対するCNTの重量比率は1/6程度の溶液である。CNT分散液をインクで直接印刷し、洗浄を行っていないので、PSS酸化合物がかなり過剰に含まれている。また、非特許文献3で使用されているPSS酸化合物は塩ないしはエステルであって、後述するようにドーピングの効果がほとんど認められず、PSS酸については何の記載もない。
【0016】
本発明者らが開発した、SDBSを分散剤として用いるCNT-TCFの製造方法では、温水や酸を用いた洗浄によるSDBSの除去、および、予め調製された膜へのドーパントの添加といった残された問題があった。硝酸をドーピングしたCNT-TCFは、ドーパントの脱離のために、大気中における長期安定性において、不安定な電気特性を示した。したがって、安定で優れたCNT-TCFを製造するための容易で効率的な方法を開発することが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、構造的に安定なCNTのネットワーク構造と、化学的に安定なPSSの特徴を活かし、CNT表面にPSS酸を薄く吸着させることで、高い導電性と大気環境下での長期間安定性、高温安定性(耐熱性)および高湿安定性を実現できる導電材、およびこれを利用した導電膜ならびに太陽電池を提供する。
【0018】
本発明の導電材は、カーボンナノチューブ(CNT)とポリスチレンスルホン酸(PSS酸)との混合物を含むことができる。
【0019】
本発明の導電材は、前記混合物中の硫黄(S)と炭素(C)の元素比(S/C比)が原子数比で0.001以上0.1以下とすることができる。
【0020】
本発明の導電材は、前記混合物中において、CNTとPSS酸とを合わせた含有率を10 wt%以上とすることができる。
【0021】
本発明は、上記の導電材で構成され、CNTの面積載量が1 mg/m2以上10000 mg/m2以下である導電膜を提供することができる。
【0022】
本発明は、上記の導電膜を半導体表面に備える太陽電池を提供することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、PSS酸は強い分散能を有するので、PSS酸の水溶液中でCNTは容易に分散し、この分散液を塗布するだけで、分散剤の除去や他のドーパントの追加をすることなく、容易に導電材が得られるという実用上の利点が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明に係る実施形態1の導電材の製造工程を示すフロー図である。
【
図2】本発明に係る実施形態2の導電材の製造工程を示すフロー図である。
【
図3】本発明に係る実施形態3の導電材の製造工程を示すフロー図である。
【
図4】本発明に係る実施形態4の導電材の製造工程を示すフロー図である。
【
図5】本発明に係る実施形態1の導電材の製造工程の一例を示す概略図である。
【
図6】本発明に係るPSS酸ドープCNT膜の透過率スペクトルを示す図である。
【
図7】本発明に係るPSS酸ドープCNT膜のSEM写真図である。
【
図8】本発明に係る実施例および比較例において、2 wt%のPSS酸水溶液で0~10分間の超音波処理を行ったCNT膜の光透過率およびシート抵抗の測定結果を示す図である。
【
図9】本発明に係る実施例および比較例において、PSS酸濃度を0.5~4 wt%に変化させて3分間の超音波処理を行ったCNT膜の光透過率およびシート抵抗の測定結果を示す図である。
【
図10】PSS酸を使用した場合のσ
dc/σ
op 比を、PSS酸Na塩を使用してCNTを分散させた場合と比較して示す図である。
【
図11】CNT懸濁液の吸収度に従ったCNTの分散率を計算するための較正直線である。
【
図12】2 wt%のPSS酸水溶液で3分間の超音波処理を行った場合のCNTの分散率を示す図である。
【
図13】本発明に係る実施例および比較例において、2 wt%のPSS酸水溶液で0~10分間の超音波処理を行ったCNT膜のラマンスペクトルを示す図である。
【
図14】本発明に係る実施例および比較例において、PSS酸濃度を0.5~4 wt%に変化させて3分間の超音波処理を行ったCNT膜のラマンスペクトルを示す図である。
【
図15】本発明に係る実施例および比較例のCNT膜のD-bandに対するG-bandのピーク強度比(G/D比)を示す図である。
【
図16】本発明に係る実施例および比較例において、2 wt%のPSS酸水溶液で0~10分間の超音波処理を行ったCNT膜のG/D比、G-bandシフトおよびσ
dc/σ
op 比を示す図である。
【
図17】本発明に係る実施例および比較例において、PSS酸濃度を0.5~4 wt%に変化させて3分間の超音波処理を行ったCNT膜のG/D比、G-bandシフトおよびσ
dc/σ
op 比を示す図である。
【
図18】本発明に係る実施例のPSS酸ドープCNT膜を洗浄する前のTEM写真図である。
【
図19】本発明に係る実施例のPSS酸ドープCNT膜を洗浄した後のTEM写真図である。
【
図20】元のままのCNT膜、および、温水による洗浄なし、洗浄ありのPSS酸ドープCNT膜のXPSスペクトルの一部を示す図である。
【
図21】元のままのCNT膜、および、温水による洗浄なし、洗浄ありのPSS酸ドープCNT膜のXPSスペクトルの全体を示す図である。
【
図22】洗浄なし、および洗浄ありのPSS酸ドープCNT膜の透過率を示す図である。
【
図23】本発明に係る実施例および比較例において、大気環境下での抵抗値の経時変化を示す図である。
【
図24】本発明に係る実施例および比較例において、25~250℃で10分間加熱した際の抵抗値の変化を示す図である。
【
図25】本発明に係る実施例および比較例において、85℃、高湿環境下での抵抗値の経時変化を示す図である。
【
図26】本発明に係る実施例のPSS酸ドープCNT膜の単位面積あたりの質量とシート抵抗の関係を示す図である。
【
図27】本発明に係る実施例および比較例の太陽電池の構造の模式図である。
【
図28】本発明に係る実施例および比較例の太陽電池の電流密度-電圧特性を示す図である。
【
図29】本発明に係る実施例の太陽電池の発電特性の安定性を示す曲線因子(Fill Factor,FF)およびエネルギー変換効率(PCE)を示す図である。
【
図30】本発明に係る実施例のPSS酸ドープCNT膜にナフィオン(Nafion)を複合化した太陽電池の電流密度-電圧特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の導電材、およびこれを利用した導電膜ならびに太陽電池の好ましい実施形態について、図面および実施例に基づいて説明する。
【0026】
本実施形態の導電材6(
図5参照)は、カーボンナノチューブ(CNT)とポリスチレンスルホン酸(PSS酸)との混合物を含むものである。ここで、PSS酸は、CNTの分散剤およびドーパントとして機能する。
【0027】
従来のポリ(3, 4-エチレンジオキシチオフェン):PSS(PEDOT:PSS)は、一般的な有機導電体であり、PSS酸がp型ドープしたPEDOTが高電気伝導性を実現する。しかしながら、PEDOTは、水蒸気に暴露すると徐々に塊になり、安定性に乏しい結果となる。CNT膜はPEDOTよりも非常に安定であるので、PSS酸を使用してCNTにp型ドープする方法が有用である。
【0028】
SDBSはCNTの分散剤として従来使用されてきたが、CNT分散液の濾過ないし塗布でCNT膜を作製した際に、膜中にSDBSが残留し、CNT-CNT間の導電性を阻害するため、温水や硝酸によるSDBSの除去処理が必要であった。さらに導電性を高めるべくCNT膜にドープ処理を施すことが一般的であった。一方で、PSS酸ないしPSS酸化合物はSDBSと同じアルキルベンゼンスルホン酸であるため高い分散効果を持ち、その上、PSS酸は直接ドーパントとして機能するため、CNT膜からのPSS酸の除去処理が不要であり、またPSS酸を追加するドープ処理も不要であるため、効率的なプロセスにより導電材6を実現することができる。
【0029】
PSS酸水溶液2を使用した分散-薄膜化プロセスをCNTに適用することで、追加の酸処理またはドーピングを行うことなく、高い導電性を有し、長期間安定性、高温安定性および高湿安定性にもすぐれた導電材6を製造することができる。特に、PSS酸水溶液2と上述の繰り返し分散-分取プロセスを組み合わせると、CNT粉末のほぼ全量を、高性能の導電材6に加工することができる。さらに、CNT分散液からCNT薄膜を作製すると、光透過性にも優れた導電材6を製造することができる。
【0030】
本実施形態の導電材6は、薄膜状の形状を有する導電膜7であっても、線状の形状を有する導電線であってもよい。導電膜7や導電線は、例えばアスペクト比により区別することができる。例えば、導電材6の最も小さい方向のサイズをx、xと直交する方向の最も小さいサイズをyとしたときに、アスペクト比y/xが10以上の導電材6のことを特に導電膜7と呼ぶことができる。また、導電材6の最も小さい方向のサイズをx、xと直交する方向の最も小さいサイズをy、xおよびyと直交する方向のサイズをzとしたときに、アスペクト比z/x、z/yがともに10以上の導電材6のことを特に導電線と呼ぶことができる。
【0031】
従来、分散剤として使用されているSDBSやPVA、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)やコール酸ナトリウム(SC)、PSS酸Na塩等は、CNTに強く吸着して分散作用を示すものの、CNTの導電率を向上させるドーパントとしての効果はほとんどなかった。本実施形態のPSS酸は、分散剤として有効である上に、ドーパントとしての効果も有することが特徴である。
【0032】
帯電防止剤、有機ELや太陽電池の正孔注入層、透明導電膜として従来利用されているPEDOT:PSSを、n型シリコン基板の表面に塗布すると簡易に太陽電池を作製することもできる。しかし、上述のようにPEDOT:PSSは湿度に弱く、吸水して凝集することで、PEDOTのネットワークが切れて太陽電池の性能が経時的に悪化してしまう。これに対し、本実施形態の導電膜7(PSS酸ドープCNT膜)を半導体表面に備えることで、長寿命の太陽電池を作製することができる。
【0033】
本実施形態の導電材6、および当該導電材6で構成される導電膜7では、混合物中のPSS酸とCNTの混合比は適切に調整される。硫黄と炭素の元素比(S/C比)は、原子数比で0.001以上0.1以下とすることができ、例えば0.003~0.1であることが好ましく、0.01~0.1であることがより好ましい。元素比が0.001未満であると、CNTへのPSS酸のドープ効果が不足し、導電性があまり向上しない。元素比が0.1を超えると、絶縁体であるPSS酸が過剰となり、導電材6および導電膜7が高抵抗となる。
【0034】
本実施形態の導電材6、および当該導電材6で構成される導電膜7では、CNT-PSS酸に他の成分を混ぜた混合物であってもよい。混合物中におけるCNTとPSS酸とを合わせた含有率は、10 wt%以上とすることができ、例えば30~100 wt%であることが好ましく、50~100 wt%であることがより好ましい。CNT-PSS酸膜からなる導電材6は、体積分率で50~90%程度の空隙を有することが多く、その空隙を埋めるように他の成分を入れることで導電性を損なわずに他の成分の機能を追加することができる。含有率が10 wt%未満であると、CNT間のネットワーク形成が阻害され、導電性が低下する恐れがある。なお、上記の数値は混合膜中での他の成分の比率であり、他の成分が混合膜の外側にさらに存在してもよい。例えば、太陽電池の一例では、CNT-PSS酸膜の上からナフィオン(Nafion)をコートすると性能が向上する。ナフィオンは導電材6の隙間を埋めるだけでなく、その外側にナフィオンだけの層を形成して、反射防止の機能を付与する場合がある。
【0035】
本実施形態の導電材6で構成される導電膜7では、CNTの面積載量は、1 mg/m2以上10000 mg/m2以下とすることができる。CNTの面積載量が1~10 mg/m2であれば、可視光の透過率が85~98%の透明導電膜を作ることができる。一方で、CNTの面積載量が10~100 mg/m2であれば、半透明な柔軟導電膜を作ることができる。また、CNTの面積載量が100~10000 mg/m2であれば、シート抵抗の小さい不透明な導電膜を作ることができ、シートヒーターとして好適である。CNTの面積裁量が1 mg/m2未満であると、CNT間のネットワークが十分に形成されないため、高抵抗な膜となる。一方で、CNTの面積載量が10000 mg/m2より大きいと、CNTやPSS酸の原料コストが増大し、またCNT-PSS酸膜の基板への密着性が低下する虞がある。
【0036】
本実施形態の導電膜7(PSS酸ドープCNT膜)は、ライン状のパターンを形成した透明ヒータやフレキシブルプリント基板用配線等に応用することもでき、適宜、開口率を規定することができる。
【0037】
本実施形態の混合物としての導電材6は、密度、屈折率、機械強度、および基材への密着性を制御するためのその他の成分を含むことができる。その他の成分としては、例えば、各種の高分子バインダーやイオン交換樹脂等を使用することができる。
【0038】
本実施形態のPSS酸は、PSS酸Na塩やPSS酸エステル等の化合物ではなく、-SO3H基を有する酸状態である。硝酸やクロロスルホン酸はCNTへのp型ドーパントとして優れているので、同様にPSS酸を、分散後に取り除くことなく、優れたドーパントとしても直接機能する分散剤として使用することで、効率的な導電材6および導電膜7の製造工程を実現することができる。なお、PSS酸Na塩等の塩を分散剤に用いてCNTを分散してCNT-PSS酸塩複合体を製造した後に、強酸で処理してPSS酸塩を酸状態にすることで導電材6および導電膜7を製造してもよい。また、PSS酸エステルを分散剤に用いてCNTを分散してCNT-PSS酸エステル複合体を製造した後に、PSS酸エステルを加水分解して酸状態にすることで導電材6および導電膜7を製造してもよい。
【0039】
(実施形態1)
本発明に係る実施形態1の導電材6、および当該導電材6で構成される導電膜7の製造工程の概略図を、
図1に示す。
【0040】
まず、容器にCNTの凝集体1とPSS酸と溶媒とを加え、溶媒にPSS酸が溶解しCNTが分散した分散液を調整する。溶媒としては、水、1価アルコールや多価アルコールが適している。CNTとPSS酸と溶媒を容器中で撹拌することで、CNTを分散させてPSS酸を溶解させることができる。さらに超音波分散や、ビーズミル、ボールミル、ジェットミル等の各種の分散法を適用してもよい。また、予めPSS酸を溶媒に溶解したうえで、CNTの凝集体を加えて分散させてもよい。
【0041】
続けて分散液から溶媒を取り除くことで、CNT-PSS酸導電材6を作製する。例えばメンブレンフィルタ5を用いて濾過することで溶媒を除去し、メンブレンフィルタ5上にCNT-PSS酸導電材6を膜状で得て、CNT-PSS酸導電膜7を製造することができる。さらにCNT-PSS酸導電材6をメンブレンフィルタ5から分離してCNT-PSS酸導電材6を自立膜として得てもよい。また、CNT-PSS酸導電材6をメンブレンフィルタ5から任意の基材上に転写してもよい。
【0042】
また、分散液を任意の基材上にブレードコートやバーコート、スプレーコート等で塗工し、乾燥することで、CNT-PSS酸導電材6を膜状で得て、CNT-PSS酸導電膜7を製造してもよい。また、分散液を有機溶媒等の貧溶媒中にノズルから吐出することで、CNT-PSS酸導電材6を線状で得て、CNT-PSS酸導電線を製造してもよい。さらには、分散液をフリーズドライすることで、CNT-PSS酸導電材6をスポンジ状で得てもよい。なお、CNT-PSS酸複合材中のCNT/PSS酸比率を調整するために、後工程で洗浄等によりPSS酸の一部を除去してもよい。CNT-PSS酸導電材6の製造方法に濾過を採用した場合は、CNT-PSS酸導電材6を作製した時点で過剰なPSS酸は除去されるため、洗浄工程を省略することができ、一層好適である。
【0043】
(実施形態2)
本発明に係る実施形態2について、
図2を用いて説明する。実施形態1の方法において、PSS酸を用いずにスチレンスルホン酸(SS酸)を用いて、導電材6を製造する。
【0044】
CNTとSS酸と溶媒を用意し、分散液を調整し、さらに分散液から溶媒を除去することで、CNT-SS酸複合材を作製する。そのうえで、SS酸を重合することでCNT-PSS酸導電材6を得る。
【0045】
(実施形態3)
本発明に係る実施形態3について、
図3を用いて説明する。各種方法で作製された、膜状、パターン膜状、線状、スポンジ状等の任意の形状をしたCNT部材と、PSS酸を溶媒に溶かしたPSS酸溶液を準備し、CNT部材とPSS酸溶液を複合化して溶媒を除去することで、CNT-PSS酸導電材6を製造する。
【0046】
膜状のCNT部材を用いる場合、当該膜状CNT部材は、分散や塗布等の湿式法で作製したものでも、FCCVD法で合成したCNTをフィルタや基材に捕集する乾式法で作製したものでもよい。パターン膜状CNT部材は、膜状CNT部材をエッチング加工したものでも、CNT分散液をパターン印刷したものでも、FCCVD法で合成したCNTをパターン捕集したものでもよい。線状CNT部材は、CNT分散液から湿式紡糸したものでも、基板上に合成したCNT垂直配向膜から乾式紡糸したものでも、FCCVD法で合成したCNTの綿状凝集体から乾式紡糸したものでも良い。スポンジ状CNT部材は、FCCVD法で合成して得られたCNT凝集体を用いても、CNT分散液のフリーズドライ等で得たものを用いてもよい。
【0047】
(実施形態4)
本発明に係る実施形態4について、
図4を用いて説明する。各種方法で作製された、膜状、パターン膜状、線状、網状、スポンジ状等の任意の形状をしたCNT部材と、SS酸を溶媒に溶かしたSS酸溶液を準備し、CNT部材とSS酸溶液を複合化して溶媒を除去することで、CNT-SS酸複合材を得る。さらにSS酸を重合することで、CNT-PSS酸導電材6を製造する。
【0048】
本発明の導電材6は、CNTおよびPSS酸以外の成分を含むことができる。CNTおよびPSS酸に加えて、特にバインダーを含むと、導電材の機械強度や耐久性を向上できて好適である。CNTおよびPSS酸に加えて、特に透明な成分を含むと、導電材の密度や屈折率を調整できて好適である。また、CNTおよびPSS酸に加えて、PSS酸塩やPSS酸エステル等のPSS酸化合物を含んでもよい。これらの際は、CNT分散溶液に予め当該成分を含めておいてもよく、もしくはCNT-PSS酸導電材6を作製後に当該成分を追加してもよい。なお、CNTおよびPSS酸に加えて、水分を含んでもよい。PSS酸は親水性であるため大気中の水分を吸収し得るが、CNT-PSS酸導電材は水蒸気共存下でも安定であるため、水分の吸収防止や除去対策をしなくても良好に機能する。
【実施例】
【0049】
本明細書において言及される全ての文献はその全体が引用により本明細書に取り込まれる。ここに記述される実施例は本発明の実施形態を例示するものであり、本発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
【0050】
以下に本発明の実施例として作製したPSS酸ドープCNT膜7と、その評価結果について説明する。
【0051】
<PSS酸水溶液中におけるCNTの分散-製膜処理>
本実施例では、CNTの分散および製膜処理の一例として、
図5に概略的に示されるようにして、CNTの分散および製膜処理を行った。FCCVDで製造された1 mgのCNTの凝集体1(MEIJO eDIPS、EC grade、株式会社名城ナノカーボン、名古屋市、日本)を、30 mLのPSS酸水溶液2(ポリ(p-スチレンスルホン酸)、2 wt%、Wako、東京都、日本)に分散させた。CNTをPSS酸水溶液2中で分散させるために、2時間しっかりと撹拌し、その後、浴型超音波洗浄機(VS-50R、VELVO-CLEAR、東京都、日本)内で、0~60分間、超音波処理を行った。超音波処理後、4000 rpmで10分間、遠心分離を行った。次工程の吸引濾過による膜製造のために上澄み3を使用し、沈殿物4を次のサイクルの分散工程で使用した。
【0052】
<PSS酸ドープCNT膜の製造>
本実施例のPSS酸ドープCNT膜7は、吸引濾過法によって製造された。50~200 μLのCNT分散液と、15 mLの純水とを混合し、親水性のセルロースエステルメンブレンフィルタ5(VCWP、0.1 μmの細孔直径、Merck Millipore、Darmstadt、ドイツ)上に吸引濾過した。PSS酸ドープCNT膜7の厚さは、懸濁液の濾過量を変えることにより制御した。メンブレンフィルタ5は、その後、導電膜7が乾燥する前に、注意深く純水に浸された。導電膜7はメンブレンフィルタ5から分離されて水の上に浮いた。その後、導電膜7はポリエチレンテレフタレート(PET)膜(38 μm厚、帝人フィルムソリューション株式会社、東京都、日本)、石英ガラスまたはSiの基板上に移された。最後に、基板上の導電膜7を、ホットプレート上で、70℃で10分間、乾燥した。
【0053】
<比較例>
比較例として、PEDOT:PSS膜、および、硝酸(HNO3)ドープCNT膜を作製した。PEDOT:PSS膜は、PEDOT:PSS(500 S/cm、Heraeus Deutschland GmbH & Co. KG、レバークーゼン、ドイツ)溶液を、2000 rpmで1分間スピンコートし、続けて135℃で10分間アニーリングして形成した。
【0054】
HNO3ドープCNT膜は、CNTのSDBS水溶液への分散、吸引濾過、および、濃硝酸への1分間の浸漬によるドーピングにより製造した。
【0055】
<評価方法>
上澄み3のCNT濃度は、紫外線可視分光測光装置(UV-vis;V-630、日本分光株式会社, 東京都, 日本)を使用して光学的吸収を測定し、較正直線を使用して決定した。
【0056】
実施例および比較例の膜の透過率は550 nmにおいて紫外可視分光法(UV-vis)で測定し、シート抵抗は4探針法で測定した。
【0057】
実施例の膜は、走査型電子顕微鏡(SEM;S-4800、株式会社日立ハイテク、東京都、日本)、および、透過型電子顕微鏡(TEM;JEM-2100F、日本電子株式会社、昭島市、日本)を使用して観察した。
【0058】
実施例の膜のラマンスペクトルおよびXPSスペクトルは、それぞれ顕微ラマン分光装置(HR-800、株式会社堀場製作所、京都府、日本)、および、X線光電子分光装置(XPS;JPS-9010TR、日本電子株式会社、東京都、日本)を使用して測定した。ラマンスペクトルは、488 nmの波長の励起レーザーを使用して測定した。CNTの結晶性は、例えばレーザー顕微ラマン分光分析により分析することができる。レーザー顕微ラマン分光分析において、1590 cm-1付近に現れるピークは、G-bandと呼ばれ、六員環構造を有する炭素原子の面内方向の伸縮振動に由来するものである。また、1350 cm-1付近に現れるピークは、D-bandと呼ばれ、六員環構造に欠陥があると現れやすくなる。相対的なCNTの結晶性は、D-bandに対するG-bandのピーク強度比IG/ID(G/D比)によって評価することができる。G/D比が高いほど結晶性の高いCNTであるといえる。200 cm-1付近に現れるピークは、RBM(Radial Breathing Mode)と呼ばれる単層カーボンナノチューブ(SWCNT)に特有のもので、チューブの直径方向に振動するモードである。
【0059】
長期間安定性は、実施例および比較例の膜を大気中に1~1000時間放置した後にシート抵抗を測定することにより検討した。
【0060】
高温安定性は、実施例および比較例の膜をホットプレートにより25~200℃で10分間加熱した後にシート抵抗を測定することにより検討した。
【0061】
高湿安定性は、実施例および比較例の膜を85℃、高湿環境下に1~100時間放置した後にシート抵抗を測定することにより検討した。
【0062】
<評価結果>
CNTは、上述の分散-製膜処理により、PSS酸水溶液2に分散させた(
図5)。PSS酸は、水中におけるCNTの分散剤として優れた性能を示し、撹拌しただけでCNTの一部の分散を実現した。CNT-PSS酸水溶液の超音波処理を行った後、分散したCNTの量が増えた濃い色の溶液が得られた。
図6は、本実施例のPSS酸ドープCNT膜7の透過率スペクトルを示し、550 nmで91.8%の高い透明度を示している。
図7に示すSEM写真図は、塊のないCNT束のランダムなネットワークを示している。また、分散-製膜処理において、分散溶液の沈殿物4をCNTの凝集体1として再利用し、上澄み3を利用して高品質の導電材6および導電膜7を製造する繰り返しプロセスの有用性も分かった。
【0063】
超音波処理時間およびPSS酸濃度を含む分散条件を変化させることで、好適な分散条件を検討した。最初に、PSS酸の濃度を2 wt%に固定して、1サイクルの超音波処理時間を0~60分で変化させた。その後、異なる分散条件のCNT膜の光透過率およびシート抵抗を測定した(
図8)。比較例として、ドーピングなしのCNT膜も、CNTを0.5 wt%のSDBS水溶液に分散させることにより製造した。
【0064】
超音波処理を行わない場合(PSS酸水溶液2中でCNTを撹拌しただけ)、PSS酸ドープCNT膜は、SDBS溶液で超音波処理により製造したドーピングなしのCNT膜よりも高い導電率を示した。超音波処理を行った場合、シート抵抗は低下し、3分間の超音波処理を行ったPSS酸ドープCNT膜7において、90%および79%の透過率で、それぞれ115 Ω/sqおよび49 Ω/sqの低いシート抵抗が得られた。超音波処理時間を10分以上に増加すると、CNTの損傷が増加するために導電率が低下する結果となった。超音波処理時間を60分に延ばすことで、メンブレンフィルタ5に集められたCNT膜は、水中に浸漬したメンブレンフィルタ5から容易に分離することができなかった。
【0065】
超音波処理時間を3分間に固定し、PSS酸濃度を0.5~4 wt%に変化させた実験を行った(
図9)。PSS酸濃度が高いほど導電率は改善したが、PSS酸濃度が高すぎると、CNTないしCNTの束の間の直接的な接合が過剰なPSS酸により妨げられ、導電率が低くなった。
【0066】
透明導電膜の性能は、通常、光学伝導度(σ
op)に対する電気伝導度(σ
dc)の比により評価される:
【数1】
ここで、T は光透過率、Rsはシート抵抗、μ
0=4π×10
-7 N A
-2およびε
0 = 8.854×10
-12 C
2 N
-1m
-2 はそれぞれ、真空の透磁率および誘電率である。
【0067】
σdc/σop 比は、電気的および光学的品質をまとめて定量化するものであって、σdc/σop 比の値が大きいほど透明導電膜(TCF)の性能がよいことを示す。2 wt%のPSS酸水溶液2における3分間の超音波処理の条件では、PSS酸ドープCNT膜7は、最大30のσdc/σop 比を示し、強酸ドーピングを使用したものに匹敵する。また、0.5 wt%~4 wt%のいずれの濃度のPSS酸水溶液を用いても、得られたPSS酸ドープCNT膜は、PSS酸を用いないCNT膜よりも高い導電性が得られた。
【0068】
本実施例ではPSS酸を使用した。
図10は、PSS酸を使用してCNTを分散させた場合について、PSS酸Na塩を使用してCNTを分散させた場合と比較した結果を示す。PSS酸Na塩を使用して製造した比較例のCNT膜のσ
dc/σ
op 比は、12.6であり、PSS酸を使用して製造した本実施例のPSS酸ドープCNT膜7の30.0よりもかなり低く、SDBSを使用して製造した比較例のCNT膜の14.2よりも低かった。これにより、PSS酸のドーピング性能が優れていることが分かる。
【0069】
CNT懸濁液の吸収度に従ってCNTの分散率を計算した(
図11)。CNTの分散率は、未加工の凝集体1からの上澄み3に対する、抽出されたCNTの割合を示す。2 wt%のPSS酸水溶液2を3分間超音波処理することで、CNTの凝集体1は、4サイクルでほぼ完全に(約90%)分散した(
図12)。PSS酸は、CNTの分散およびドーピングの両方で優れた性能を示した。
【0070】
ドーピングレベルの詳細をより理解するために、超音波処理のCNTの品質における効果を、ラマン散乱分光法により検討した。
図13および
図14は、異なるCNT分散を使用して調製したCNT膜のラマンスペクトルであり、
図15は、全てのCNT膜のD-bandに対するG-bandのピーク強度比(G/D比)をまとめたものである。
【0071】
超音波処理を行わなかった場合(0 min)、CNT膜は、D-bandピークがとても低く、元のままのCNTの凝集体1と同等である、約90の高いG/D比を示した。これは、PSS酸がCNTを損傷することなく分散させることができたことを示す。超音波処理時間を1分から3分、そして10分まで増やすことで、D-bandピークが強くなり、G/D比が約70、約60、約30と減少し、CNTの損傷が大きくなったことを示している。これに対し、超音波処理時間を3分と一定にして、PSS酸の濃度を変化させた場合、G/D比が55~65でほとんど変わらないままであった。これらの結果は、CNTへの損傷が、PSS酸ではなく、主に超音波処理によるものであったことを示している。
【0072】
G-bandのピークシフトは、ドーパントとCNTとの間の電荷移動により引き起こされると考えられる。G-bandは、超音波処理時間の増加により高波長にシフトした。これはCNTの束がほどけたり、ほどけたCNTをPSS酸により包み込んだりすることで、CNTからPSS酸に電子が移動してp型ドープが増大したことを示している。10分間の超音波処理を行った場合、CNT膜は、G-bandが1590 cm-1から1596 cm-1に大きなアップシフトを示した。しかしながら、10分間の超音波処理での効率的なドーピングは、CNTへのかなりの損傷(G/D比が約30)を伴って生じた。
【0073】
図16および
図17は、異なる分散条件で調製されたCNT膜の品質をまとめたものである。G/D比はCNTへの損傷の度合いを示し、G-bandシフトはCNTへのp型ドーピングの度合いを示し、σ
dc/σ
op 比は、これらのCNT膜の導電性を意味する。超音波処理時間が長いほど、および、PSS酸濃度が高いほど、G-bandのアップシフトおよびCNTのp型ドーピングが促進された。しかしながら、超音波処理時間が長すぎると、CNTへのかなりの損傷が生じ、σ
dc/σ
op 比は、最も良かった3分間における30から、10分間では28に減少した。CNTへの過度の損傷を避けるために、CNTが分散したらできるだけすぐに超音波処理浴から取り出すことが効果的である。本実施例では、0.5 wt%~4 wt%のいずれの濃度のPSS酸水溶液を用いても、PSS酸を用いないCNT膜よりも高い導電性を有するPSS酸ドープCNT膜が得られた。特に2 wt%のPSS酸水溶液2で3分間の超音波処理で、CNTの凝集体1が十分に分散され、PSS酸によりCNTが効率的にドーピングされ、最も良い導電性が実現された。
【0074】
調製されたままのPSS酸ドープCNT膜は、CNTの間の接合部での抵抗を増加し得る過剰なPSS酸を含んでいる虞がある。したがって、過剰なPSS酸を除去することができる洗浄プロセスを検討した。当該プロセスでは、濾過されたままのCNT膜は、フィルタから分離して水に浮かべられ、水浴により97℃で1時間加熱することで洗浄し、その後、乾燥のために、TEMグリッド、Si基板またはPET基板に移された。最初に、TEMにより、TEMグリッド上のCNTの微細構造を検討した。洗浄前のTEM写真図である
図18、および洗浄後のTEM写真図である
図19は、個々のCNTが、数nmと薄いPSS酸層で包まれていることを明確に示している。CNTとPSS酸との間の大きな接触面積は、効率的なドーピングを可能にした。洗浄後、CNTは露出面が増加し、CNTの壁からPSS酸が部分的に除去された。
【0075】
図20および
図21は、元のままのCNTの凝集体1、および、温水による洗浄なし、洗浄ありのPSS酸ドープCNT膜7のXPSスペクトルを示す。洗浄なし、および洗浄ありのPSS酸ドープCNT膜7が、PSS酸内の-SO
3Hに起因する167.8 eV付近のS 2pピークを明確に示しているのに対し、元のままのCNT膜は、S 2pに対するピークは全く見られなかった。洗浄することで、S濃度は2.75 at%から1.88 at%に減少し、PSS酸は32%減少したことが分かる。詳細な元素組成を表1にまとめた。
【0076】
表1の結果にて、C 1sはCNTとPSS酸に由来し、S 2pはPSS酸に由来するため、硫黄と炭素の元素比(S/C比)はPSS酸の含有率の良い指標となる。洗浄なしのPSS酸ドープCNT膜では、S/C比は原子数比で(2.75 at%)/(87.92 at%)=0.031となる。洗浄ありのPSS酸ドープCNT膜ではS/C比は0.021である。S/C比をx、PSS酸とCNTの質量比(PSS/CNT質量比)をyとすると、xからyは次のように見積もることができる。PSS酸は整数nを用いて(C8H8O3S)nと表わされ、PSS酸1/n molあたりCを8 mol、Hを8 mol、Oを3 mol、Sを1 mol含み、質量は184 gである。PSS/CNT質量比yを用いるとCNTの質量は184/y gであり、CNTは炭素のみからなるので、Cを(184/y)/12 = 15.3/y mol含む。PSS酸184 gとCNT 184/y gからなる混合物は、Cを8+15.3/y mol、Sを1 mol含むため、S/C比はx = 1/(8+15.3/y)となり、PSS/CNT質量比はy = 15.3/(1/x-8)と求まる。洗浄なしのPSS酸ドープCNT膜ではx = 0.031であることから、y = 0.63と求まり、CNTを61質量%、PSS酸を39質量%含むと求められる。
【0077】
【0078】
さらに、洗浄なし、および洗浄ありのPSS酸ドープCNT膜7の透明導電性を検討した(
図22)。洗浄することで、シート抵抗は、89%の光透過率において145 Ω/sqまでわずかに増加した。PSS酸水溶液2を使用した、洗浄の必要がない単純な製造工程により、過剰なPSS酸の混入がないPSS酸ドープCNT膜7を製造できることが分かった。洗浄なしのPSS酸ドープCNT膜は2 wt% PSS酸水溶液を用いて作製したが、
図9で説明した通り、用いるPSS酸溶液は1/4の濃度の0.5 wt%であっても2倍の濃度の4 wt%であっても、PSS酸ドープなしCNT膜よりも導電性に優れたPSS酸ドープCNT膜が得られた。すなわちS/C比は、洗浄なしのPSS酸ドープCNT膜での0.031の1/4にあたる0.008であっても、0.031の2倍である0.062であってもよい。また、前述のようにPSS酸ドープCNT膜は、体積分率で50~90%程度の空隙を有することが多く、CNTとPSS酸以外の成分を90 wt%まで含んでもよいため、S/C比は上記の値の1/10まで小さくてもよい。
【0079】
高導電率を長期間維持することができる長期間安定性、高温環境下で高導電率を維持することができる高温安定性、および、高湿環境下で高導電率を維持することができる高湿安定性は、導電材6および導電膜7の実際的応用における重大な課題である。PEDOT:PSS膜では、PEDOTが大気中で次第に塊になることで、粒子間距離が大きくなり、PSSに対する厚い障壁となり、最終的に、電荷ホッピングを下げて導電率が減少する。
【0080】
通常、CNT膜への化学ドーピングは、CNT表面に物理吸着されたNO
3
-/NO
2分子のようにドーパントの脱離のために、安定ではない。そこでまず、PSS酸水溶液2を使用して調製されたPSS酸ドープCNT膜7の長期間安定性を検討した(
図23)。結果は、以下の2つの比較例の膜の結果と比較した;(i)HNO
3ドープCNT膜、および、(ii)PEDOT:PSS膜。すべての膜は保護膜をつけることなく、大気中で室温に保たれた。
【0081】
比較例のPEDOT:PSS膜の抵抗値は、100時間後に鋭く上昇し、1000時間後にはほぼ2倍の値に達した。比較例のHNO3ドープCNT膜の抵抗値は、50時間後にすぐに上昇し始め、その後、最初の抵抗値の140%で安定した。しかしながら、これらの結果に対して、本実施例のPSS酸を使用して調製されたPSS酸ドープCNT膜7は、最初の抵抗値から10%のわずかな上昇のみで、優れた安定性を示した。
【0082】
これらの膜の高温安定性も、保護膜をつけずに検討した(
図24)。比較例のHNO
3ドープCNT膜の抵抗値は、温度の上昇とともに次第に上昇し、150℃で最初の抵抗値の230%に達した。本実施例のPSS酸を使用して調製されたPSS酸ドープCNT膜7、および、比較例のPEDOT:PSS膜は、約250℃での加熱後でさえも優れた安定性を示した。
【0083】
高湿環境下での高湿安定性も、保護膜をつけずに検討した(
図25)。比較例のHNO
3ドープCNT膜の抵抗値は、20時間で最初の抵抗値の198%に急激に増加し、その後も次第に増加して100時間後に229%まで増加した。比較例のPEDOT:PSS膜は、次第に継続して増加し、100時間で最初の抵抗値の145%まで増加した。本発明のPSS酸を使用して調製されたPSS酸ドープCNT膜7は、20時間で最初の抵抗値の128~132%まで増加し、その後わずかに減少して、100時間後に119~124%となった。このように、高湿環境下においても、本発明のPSS酸を使用して調製されたPSS酸ドープCNT膜7が最も高い安定性を示した。
【0084】
これらの結果は、大気環境下、高温条件下および高湿環境下でのPSS酸ドープCNT膜7の優れた安定性を示すものである。
<厚さの異なるPSS酸ドープCNT膜の製造>
【0085】
濾過する際のCNT分散液の量を変えたこと以外は実施例(<PSS酸ドープCNT膜の製造>)と同様の方法で、メンブレンフィルタ5上にPSS酸ドープCNT膜7を製造した。このとき用いたPSS酸水溶液2の濃度は2 wt%、超音波分散の時間は3分であった。メンブレンフィルタ5上に製造したPSS酸ドープCNT膜7のシート抵抗を、四探針法で計測した。メンブレンフィルタ5からPSS酸ドープCNT膜7をピンセットを用いて剥がした上で、PSS酸ドープCNT膜7の質量を電子天秤で、厚さをマイクロメータで測定した。
【0086】
PSS酸ドープCNT膜7の単位面積あたりの質量を、16.1~226 μg/cm2と変えて、厚さの異なるPSS酸ドープCNT膜を作製した。最も重い226 μg/cm2の膜は、厚さが5.25 μm、膜密度が0.43 g/cm3であった。ここで用いたCNTは直径2 nmで単層CNTを主に含み、密度は1.5 g/cm3である。これは以下の文献を参照できる。
Ch. Laurent, et al., Carbon 2010, 48, 2989.
PSS酸の密度は1.11 g/cm3である。これは以下のURLのWebサイトを参照できる。
https://www.chemicalbook.com/chemicalproductproperty_en_cb2307202.htm
実施例(<PSS酸ドープCNT膜の製造>)より、この膜はCNTを61質量%、PSS酸を39質量%含むと見積もられ、この膜1 cm3あたりCNTを0.26 g、0.17 cm3、PSS酸を0.17 g、0.15 cm3含むと計算できるため、空隙は0.68 cm3、空隙率は68体積%と見積もられる。
【0087】
単位面積あたりの質量とシート抵抗の関係を
図26および表2に示すが、両者は反比例し、16.1 μg/cm
2のときは8.87 Ω/sq、226μg/cm
2のときは0.62 Ω/sqであった。膜密度をd (g/cm
3)、単位面積あたりの質量をw (g/cm
2)とすると、膜厚t (cm)は、t = w/dとなる。電気抵抗率をρ (Ω cm)とすると、シート抵抗をRs (Ω/sq)は、Rs = ρ/t = ρd/wとなる。
図26ではRsとwが反比例の関係にあることから、これらの膜では膜密度dと電気抵抗率ρを一定に保ったままPSS酸ドープCNT膜の単位面積あたりの質量と膜厚を制御できたと考えられる。
【0088】
【表2】
<PSS酸ドープCNT膜を用いた太陽電池の製造>
【0089】
次に、PSS酸ドープCNT膜を用いた太陽電池の実施例について説明する。p型にドープしたCNT膜を、n型Si基板の表面に形成すると、ヘテロ接合型の太陽電池となることが知られている。CNT膜は大気中の水分や酸素により電子を奪われ、弱くp型にドープされているため、n型Si基板表面にCNT膜を形成するだけでも太陽電池となる。ここでは、PSS酸ドープCNT膜を用いた太陽電池を実施例とし、PSS酸ドープなしのCNT膜を用いた太陽電池を比較例とした。
【0090】
図27に実施例および比較例の太陽電池8の構造の模式図を、
図28に実施例および比較例の太陽電池の電流密度-電圧特性を示す。
【0091】
太陽電池8の作製手順を以下に説明する。表面に厚さ500 nmの熱酸化膜(SiO2)10が形成され、熱酸化膜10にφ2 mmの円形の穴が開けられた、nドープSi(100)基板9(抵抗率1~5Ω cm、ドーパント:P)を用いた。PSS酸ドープCNT膜7は、上記<PSS酸ドープCNT膜の製造>で述べた方法と同様の方法で作製した。すなわちCNTを2 wt% PSS酸水溶液中で撹拌後、超音波を3分かけて分散し、吸引濾過によりメンブレンフィルタ5上にPSS酸ドープCNT膜7を形成し、純水に浸して水面に浮いたPSS酸ドープCNT膜7をnドープSi基板9表面上に回収した。PSS酸ドープなしCNT膜は、2 wt% PSS酸水溶液の代わりに0.5 wt% SDBS水溶液を用い、また水面にCNT膜を浮かせた状態で純水ごと95~97℃に70分間加熱してSDBSを除去した以外は、実施例と同様に作製した。続けて、CNT膜付きSi基板9の熱酸化膜10の開口部に金属箔を置いた上でAu膜11をRFマグネトロンスパッタリングで製膜することで、表面のAu電極を作製した。続けてSi基板9の裏面にAl膜12をRFマグネトロンスパッタリングで製膜することで、裏面のAl電極を作製した。
【0092】
作製した実施例たるPSS酸ドープCNT膜/n-Siヘテロ接合太陽電池8と、比較例たるPSS酸ドープなしCNT膜/n-Siヘテロ接合太陽電池の発電特性を、ソーラーシミュレーター(分光計器株式会社製CEP-2000MLQ、キセノンランプ、AM1.5G、100 mW/cm2)および太陽電池評価システム(日本分光株式会社製YQ-2000)を用いて評価した。
【0093】
図28の電流密度-電圧特性より、PSS酸ドープCNT膜を用いた太陽電池8は、PSS酸ドープなしCNT膜を用いた太陽電池よりも曲線因子(Fill Factor,FF)が向上し、発電効率が大きく向上したことがわかる。実施例および比較例に対し、太陽電池を4個ずつ作製して評価した結果を表3にまとめる。短絡電流密度Jscと解放電圧Vocともに比較例よりも実施例の方が向上し、比較例の平均のエネルギー変換効率(PCE)は7.71%であるのに対し、実施例の平均のPCEは11.69%と大きく向上していることがわかる。これはCNTがPSS酸により強くp型にドープされたため正孔と電子の分離がより効率的に行われ、またCNT膜の導電率が向上して電荷が熱酸化膜に開けられた円形の穴部分からAu電極までより効率的に輸送されたためである。
【0094】
【0095】
図29に実施例の太陽電池8の発電特性の安定性を示す。PSS酸ドープCNT膜表面に保護層を形成することなく、通常室環境にて保持し、発電特性を測定した。初期のPCEは11.40%であり、1000時間経過後のPCEは9.92%であった。この値は、比較例の初期のPCE 7.71%と比較して十分高い性能であり、本実施例のPSS酸ドープCNT膜/n-Siヘテロ接合太陽電池8は高性能を安定して保つことが分かる。
【0096】
次に、PSS酸ドープCNT膜に、ナフィオン(Nafion)を複合化した太陽電池を作製した。まず、PSS酸ドープCNT膜を用いた太陽電池を上述の通りに作製した。次に、ナフィオン水溶液(濃度10 wt%、富士フイルム和光純薬株式会社、大阪市、日本)を2-プロパノール(富士フイルム和光純薬株式会社、大阪市、日本)で希釈して5 wt%ナフィオン溶液を調製し、前記太陽電池の表面にスピンコートして(6000 rpm、30秒)、実験室環境で乾燥した。ナフィオンはPSS酸ドープCNT膜の空隙に浸透して複合膜を形成し、さらに余剰のナフィオンは複合膜の表面を覆うように層を形成した。CNT、PSS酸、ナフィオンの単位面積あたりの質量は、それぞれ0.7 μg/cm2、0.4 μg/cm2、51.6 μg/cm2であった。実施例(<厚さの異なるPSS酸ドープCNT膜の製造>)より、ナフィオン塗工前のCNT-PSS酸膜の膜密度は0.43 g/cm3、空隙率は68体積%であるから、CNT-PSS酸膜の膜厚は(1.1 μg/cm2)/( 0.43 g/cm3) = 26 nm、空隙を膜厚換算すると(26 nm)×(0.68) = 17 nmと求まる。ナフィオンの密度は1.97 g/cm3である。これは以下の文献を参照できる。
T. Ishida, et al., J. Soc. Mater. Sci. Jpn. 2007, 56, 1005.
これより、ナフィオン塗工時にCNT-PSS酸膜の空隙にナフィオンが3.4 μg/cm2浸透し、CNT 0.7 μg/cm2、PSS酸0.4 μg/cm2、ナフィオン3.4 μg/cm2からなりナフィオンを76質量%含むCNT-PSS酸-ナフィオン複合膜を形成したと見積もられる。その上に、余剰の約48 μg/cm2のナフィオンが厚さ約250 nmのナフィオン層を形成したと見積もられる。作製した実施例たるナフィオンコート・PSS酸ドープCNT膜/n-Siヘテロ接合太陽電池の発電特性を、ソーラーシミュレーター(分光計器株式会社製CEP-2000MLQ、キセノンランプ、AM1.5G、100 mW/cm2)および太陽電池評価システム(日本分光株式会社製YQ-2000)を用いて評価した。
【0097】
PSS酸ドープCNT膜にナフィオン(Nafion)を複合化した太陽電池の実施例であるS1~S4について、
図30の電流密度-電圧特性および表4にまとめた評価結果より、ナフィオンコートなしPSS酸ドープCNT膜/n-Siヘテロ接合太陽電池のJscが平均で27.26 mA/cm
2であるのに対し、ナフィオンコートありPSS酸ドープCNT膜/n-Siヘテロ接合太陽電池は34.47 mA/cm
2と大きく向上し、その結果、平均の発電効率も11.69%から14.12%と大きく向上したことが分かる。この結果より、PSS酸ドープCNT膜の特性を損なうことなく空隙にナフィオンを導入した複合膜およびその上のナフィオン膜を作製することができ、これらの膜の膜密度および屈折率を制御することにより光反射防止機能を付与することで、太陽電池の性能を向上できることが分かる。
【0098】
【0099】
以上のように、PSS酸水溶液2を使用した容易で効率的なCNTの分散-ドーピング方法により、高透過率、高導電率および高安定性のPSS酸ドープCNT膜7を製造した。PSS酸は、CNTを包み込むことで、効率的な分散およびドーピングを可能にする。2 wt%のPSS酸水溶液2で3分間の超音波処理を行うことで、CNTは、分散-抽出繰り返しプロセスの4サイクルで、ほぼ完全に分散し(約90%)、PSS酸ドープCNT膜7は、90%の光透過率で115 Ω/sqの低いシート抵抗を示した。さらに、PSS酸ドープCNT膜7は、保護膜を形成しなくても、1000時間の大気条件下における長期間安定性、大気中、250℃における高温安定性、および、85℃における高湿安定性を示した。さらにこのPSS酸ドープCNT膜をn-Si基板表面に貼り付けたヘテロ接合太陽電池は、高いエネルギー変換効率を安定して保った。加えてナフィオンを複合化させたPSS酸ドープCNT膜を用いることでヘテロ接合太陽電池の性能を一層向上できた。この単純なプロセスは、可撓性電子デバイスおよび太陽電池を含む様々なデバイスのための、低コスト、レアメタルフリー、および安定な透明導電膜(TCF)を製造するのに有用である。
【0100】
以上、本発明を実施形態および実施例に基づいて説明したが、本発明は種々の変形実施をすることができる。例えば、本発明の導電材6および導電膜7の製造工程のフロー図を
図1~4に示し、同製造工程を実行する際の概略図を
図5に示したが、各種容器や装置は一例の概略図であり、同様のプロセスを実行できるものであれば、同図のものに限定されない。
【符号の説明】
【0101】
1 CNTの凝集体
2 PSS酸水溶液
3 上澄み
4 沈殿物
5 メンブレンフィルタ
6 導電材、CNT-PSS酸導電材
7 導電膜、CNT-PSS酸導電膜、PSS酸ドープCNT膜
8 太陽電池
9 Si基板
10 熱酸化膜(SiO2)
11 Au膜
12 Al膜