(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-08
(45)【発行日】2024-08-19
(54)【発明の名称】pHに依存しない水系二次水素電池
(51)【国際特許分類】
H01M 12/08 20060101AFI20240809BHJP
H01M 4/56 20060101ALI20240809BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20240809BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20240809BHJP
H01M 4/58 20100101ALI20240809BHJP
H01M 4/52 20100101ALI20240809BHJP
H01M 4/90 20060101ALI20240809BHJP
【FI】
H01M12/08 S
H01M4/56
H01M4/505
H01M4/525
H01M4/58
H01M4/52
H01M4/90 M
H01M4/90 X
(21)【出願番号】P 2021556202
(86)(22)【出願日】2020-04-01
(86)【国際出願番号】 US2020026141
(87)【国際公開番号】W WO2020205950
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2022-09-21
(32)【優先日】2019-04-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】521425180
【氏名又は名称】エナーベニュー ホールディングス リミテッド
(73)【特許権者】
【識別番号】515158308
【氏名又は名称】ザ ボード オブ トラスティーズ オブ ザ レランド スタンフォード ジュニア ユニバーシティー
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】チェン、ウェイ
(72)【発明者】
【氏名】キュイ、イ
【審査官】井原 純
(56)【参考文献】
【文献】特開昭59-063666(JP,A)
【文献】国際公開第2018/222609(WO,A1)
【文献】特開昭59-141176(JP,A)
【文献】国際公開第2019/032704(WO,A1)
【文献】特開2017-170426(JP,A)
【文献】特表2016-503723(JP,A)
【文献】米国特許第5746064(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 12/00-12/08
H01M 4/56
H01M 4/505
H01M 4/525
H01M 4/58
H01M 4/52
H01M 4/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属水素電池であって、
第1の電極
であって、炭素質材料と、
PbO、PbO
2
、ならびにSb、CrおよびCaからなる群から選択された1つまたは複数の元素でドープされたPbO
2
からなる群から選択された材料、あるいは
LiMn
2
O
4
、LiCo
2
O
4
、LiFeO
2
、LiNiO
2
、LiFePO
4
、リチウムコバルトニッケル酸化物、リチウムコバルトマグネシウム酸化物、リチウムマンガンコバルト酸化物、リチウムマンガンクロム酸化物、リチウムニッケルマンガンコバルト酸化物、リン酸コバルトリチウム、リン酸酸化バナジウムリチウム、およびフッ化リン酸バナジウムリチウムからなる群から選択された材料、あるいは
Ni(OH)
2
、NiOOH、コバルトおよび亜鉛からなる群から選択された1つまたは複数の元素がドープされたNi(OH)
2
、ならびにコバルトおよび亜鉛からなる群から選択された1つまたは複数の元素がドープされたNiOOHからなる群から選択された材料
のうちの1つとを含む、第1の電極と
多孔質基材と、前記多孔質基材を覆うコーティングとを含む第2の電極と、
前記第1の電極と前記第2の電極との間に配置された電解質
であって、前記第1の電極の材料の選択に応じて-1~15から選択されるpH値を有する、電解質と
を備え、
前記第2の電極は、
充電中に水素ガスを生成し、放電中に水素ガスを酸化し、前記コーティングは、前記第2の電極において水素発生反応および水素酸化反応を触媒する二機能性触媒を含み、かつ
前記二機能性触媒は、
絡み合った炭素ナノフレークと、前記絡み合った炭素ナノフレーク上に固定されたルテニウム、リン化ルテニウム、硫化ルテニウム、炭化ルテニウム、窒化ルテニウム、およびリン化ルテニウム・硫化ルテニウムのうちの1つまたは複数のナノ粒子とを含み、前記絡み合った炭素ナノフレーク上に固定された前記ナノ粒子を含む前記二機能性触媒は、前記多孔質基材の表面にコーティングされている、金属水素電池。
【請求項2】
前記電解質が水系電解質である、請求項
1に記載の金属水素電池。
【請求項3】
前記第1の電極が、PbO、PbO
2
、ならびにSb、CrおよびCaからなる群から選択された1つまたは複数の元素でドープされたPbO
2
からなる群から選択された前記材料を含む場合、前記電解質が酸性である、請求項
1に記載の金属水素電池。
【請求項4】
前記電解質がH
2SO
4を含む、請求項
3に記載の金属水素電池。
【請求項5】
前記電解質が、MnCl
2、MnSO
4、Mn(NO
3)
2、およびMn(CH
3COO)
2からなる群から選択された材料を含む、請求項
1に記載の金属水素電池。
【請求項6】
前記第1の電極が、LiMn
2
O
4
、LiCo
2
O
4
、LiFeO
2
、LiNiO
2
、LiFePO
4
、リチウムコバルトニッケル酸化物、リチウムコバルトマグネシウム酸化物、リチウムマンガンコバルト酸化物、リチウムマンガンクロム酸化物、リチウムニッケルマンガンコバルト酸化物、リン酸コバルトリチウム、リン酸酸化バナジウムリチウム、およびフッ化リン酸バナジウムリチウムからなる群から選択された前記材料を含む場合、前記電解質がリチウムの塩を含む、請求項
1に記載の金属水素電池。
【請求項7】
前記第1の電極が、Ni(OH)
2
、NiOOH、コバルトおよび亜鉛からなる群から選択された1つまたは複数の元素がドープされたNi(OH)
2
、ならびにコバルトおよび亜鉛からなる群から選択された1つまたは複数の元素がドープされたNiOOHからなる群から選択された前記材料を含む場合、前記電解質がアルカリ性である、請求項
1に記載の金属水素電池。
【請求項8】
前記電解質が、KOH、NaOH、LiOH、およびそれらの組み合わせからなる群から選択されたアルカリを含む、請求項
7に記載の金属水素電池。
【請求項9】
前記第1の電極と、前記第2の電極と、前記電解質とが中に配置された筐体をさらに備え、前記筐体は、入口弁と、前記入口弁に流体接続された入口と、出口弁と、前記出口弁に流体接続された出口とを含む、請求項1から
8のいずれか一項に記載の金属水素電池。
【請求項10】
水素ガスを貯蔵する貯蔵タンクと、前記出口弁を介して前記出口と前記貯蔵タンクとの間に流体接続されたポンプとをさらに備える、請求項
9に記載の金属水素電池。
【請求項11】
金属水素電池であって、
酸化鉛を含む第1の電極と、
多孔質基材と、前記多孔質基材を覆うコーティングとを含む第2の電極と、
前記第1の電極と前記第2の電極との間に配置された酸性電解質
であって、7未満のpHを有する、電解質と
を備え、
前記第2の電極は、
充電中に水素ガスを生成し、放電中に水素ガスを酸化し、前記コーティングは、前記第2の電極において水素発生反応および水素酸化反応を触媒する二機能性触媒を含
み、
前記二機能性触媒は、絡み合った炭素ナノフレークと、前記絡み合った炭素ナノフレーク上に固定されたルテニウム、リン化ルテニウム、硫化ルテニウム、炭化ルテニウム、窒化ルテニウム、およびリン化ルテニウム・硫化ルテニウムのうちの1つまたは複数のナノ粒子とを含み、前記絡み合った炭素ナノフレーク上に固定された前記ナノ粒子を含む前記二機能性触媒は、前記多孔質基材の表面にコーティングされている、
金属水素電池。
【請求項12】
前記酸化鉛が、PbO
2、PbO、ならびにSb、CrおよびCaからなる群から選択された1つまたは複数の元素でドープされたPbO
2からなる群から選択される、請求項
11に記載の金属水素電池。
【請求項13】
前記酸性電解質がH
2SO
4を含む、請求項
11に記載の金属水素電池。
【請求項14】
金属水素電池であって、
無機リチウム化合物を含む第1の電極と、
多孔質基材と、前記多孔質基材を覆うコーティングとを含む第2の電極と、
前記第1の電極と前記第2の電極との間に配置された電解質
であって、10未満のpHを有する、電解質と
を備え、
前記第2の電極は、
充電中に水素ガスを生成し、放電中に水素ガスを酸化し、前記コーティングは、前記第2の電極において水素発生反応および水素酸化反応を触媒する二機能性触媒を含み、
前記二機能性触媒は、絡み合った炭素ナノフレークと、前記絡み合った炭素ナノフレーク上に固定されたルテニウム、リン化ルテニウム、硫化ルテニウム、炭化ルテニウム、窒化ルテニウム、およびリン化ルテニウム・硫化ルテニウムのうちの1つまたは複数のナノ粒子とを含み、前記絡み合った炭素ナノフレーク上に固定された前記ナノ粒子を含む前記二機能性触媒は、前記多孔質基材の表面にコーティングされている、
金属水素電池。
【請求項15】
前記無機リチウム化合物が、LiMn
2O
4、LiCo
2O
4、LiFeO
2、LiNiO
2、LiFePO
4、リチウムコバルトニッケル酸化物、リチウムコバルトマグネシウム酸化物、リチウムマンガンコバルト酸化物、リチウムマンガンクロム酸化物、リチウムニッケルマンガンコバルト酸化物、リン酸コバルトリチウム、リン酸酸化バナジウムリチウム、およびフッ化リン酸バナジウムリチウムからなる群から選択される、請求項
14に記載の金属水素電池。
【請求項16】
前記電解質がリチウムの塩を含む、請求項
15に記載の金属水素電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2019年4月2日に出願された米国特許出願第16/373,247号の優先権を主張し、その内容全体を参照により本開示に援用するものとする。
【背景技術】
【0002】
環境への影響を最小限に抑えたエネルギー技術が求められている。水素電池は、周囲の生態系への脅威がほとんどない無害な物質であるガス状の水素に基づく二次電池である。再生可能エネルギーの二次電池への大規模な貯蔵は、グリーングリッド開発の機会を提供する。しかしながら、既存の水素電池技術では、グリッドストレージの要件を満たすことはとてもできない。新しい触媒を利用した水素電池、または定置用エネルギー貯蔵のための新しい化学反応が、環境に優しいエネルギーグリッドの実現に向けた改善策となる。
【発明の概要】
【0003】
ルテニウム系触媒を利用した水素金属二次電池について本明細書で説明する。この新しいルテニウム系触媒は、さまざまな異なる化学反応を利用しており、適切な電解質と電極とを組み合わせることで、あらゆる水系のpH範囲(例えば、pH:-1~15)で動作することができる。この電池は、電解質によって分離された2つの電極で構成されていてよく、一方の電極には、水素発生反応および水素酸化反応の両方の反応を触媒することができるルテニウム系の二機能性触媒が含まれている。さらに、さまざまな異なる触媒で作用することができる水素金属電池の新しい化学反応について本明細書で説明する。
【0004】
本開示の一実施形態は、金属水素電池であって、第1の電極と、第2の電極と、第1の電極と第2の電極との間に配置された電解質とを備え、第2の電極は、第2の電極において水素発生反応および水素酸化反応を触媒する二機能性触媒を含み、二機能性触媒は、ルテニウムまたはルテニウム含有化合物を含む、金属水素電池を提供する。
【0005】
また、一実施形態において、酸化鉛を含む第1の電極と、第2の電極と、第1の電極と第2の電極との間に配置された酸性電解質とを備えた金属水素電池であって、第2の電極は、第2の電極において水素発生反応および水素酸化反応を触媒する二機能性触媒を含む、金属水素電池が提供される。いくつかの実施形態において、酸化鉛は、PbO2、PbO、ならびにSb、CrおよびCaからなる群から選択された1つまたは複数の元素でドープされたPbO2からなる群から選択される。いくつかの実施形態において、酸性電解質はH2SO4を含む。
【0006】
別の実施形態は、無機リチウム化合物を含む第1の電極と、第2の電極と、第1の電極と第2の電極との間に配置された電解質とを備え、第2の電極は、第2の電極において水素発生反応および水素酸化反応を触媒する二機能性触媒を含む、金属水素電池を提供する。
本発明の実施形態において、例えば以下の項目が提供される。
(項目1)
金属水素電池であって、
第1の電極と
第2の電極と、
前記第1の電極と前記第2の電極との間に配置された電解質と
を備え、
前記第2の電極は、前記第2の電極において水素発生反応および水素酸化反応を触媒する二機能性触媒を含み、かつ
前記二機能性触媒は、ルテニウムまたはルテニウム含有化合物を含む、
金属水素電池。
(項目2)
前記ルテニウム含有化合物が、リン化ルテニウム、硫化ルテニウム、炭化ルテニウム、窒化ルテニウム、およびリン化ルテニウム・硫化ルテニウムからなる群から選択される、項目1に記載の金属水素電池。
(項目3)
前記二機能性触媒がリン化ルテニウムを含む、項目1に記載の金属水素電池。
(項目4)
前記第2の電極が、導電性基材と、前記導電性基材を覆うコーティングとを含み、前記コーティングが前記二機能性触媒を含む、項目1から3のいずれか一項に記載の金属水素電池。
(項目5)
前記電解質が水系電解質である、項目1から4のいずれか一項に記載の金属水素電池。
(項目6)
前記電解質が酸性である、項目5に記載の金属水素電池。
(項目7)
前記電解質がH
2
SO
4
を含む、項目6に記載の金属水素電池。
(項目8)
前記第1の電極が、PbO
2
、PbO、ならびにSb、CrおよびCaからなる群から選択された1つまたは複数の元素でドープされたPbO
2
からなる群から選択された材料を含む、項目6または7に記載の金属水素電池。
(項目9)
前記電解質が10未満のpHを有する、項目5から8のいずれか一項に記載の金属水素電池。
(項目10)
前記電解質が、MnCl
2
、MnSO
4
、Mn(NO
3
)
2
、およびMn(CH
3
COO)
2
からなる群から選択された材料を含む、項目9に記載の金属水素電池。
(項目11)
前記電解質がさらにH
2
SO
4
を含む、項目10に記載の金属水素電池。
(項目12)
前記第1の電極が炭素質材料を含む、項目10または11に記載の金属水素電池。
(項目13)
前記電解質がリチウムの塩を含む、項目9から12のいずれか一項に記載の金属水素電池。
(項目14)
前記第1の電極が、LiMn
2
O
4
、LiCo
2
O
4
、LiFeO
2
、LiNiO
2
、LiFePO
4
、リチウムコバルトニッケル酸化物、リチウムコバルトマグネシウム酸化物、リチウムマンガンコバルト酸化物、リチウムマンガンクロム酸化物、リチウムニッケルマンガンコバルト酸化物、リン酸コバルトリチウム、リン酸酸化バナジウムリチウム、およびフッ化リン酸バナジウムリチウムからなる群から選択された材料を含む、項目13に記載の金属水素電池。
(項目15)
前記電解質がアルカリ性である、項目5に記載の金属水素電池。
(項目16)
前記電解質が、KOH、NaOH、LiOH、およびそれらの組み合わせからなる群から選択されたアルカリを含む、項目15に記載の金属水素電池。
(項目17)
前記第1の電極が、Ni(OH)
2
、NiOOH、コバルトおよび亜鉛からなる群から選択された1つまたは複数の元素がドープされたNi(OH)
2
、ならびにコバルトおよび亜鉛からなる群から選択された1つまたは複数の元素がドープされたNiOOHからなる群から選択された材料を含む、項目16に記載の金属水素電池。
(項目18)
前記第1の電極と、前記第2の電極と、前記電解質とが中に配置された筐体をさらに備え、前記筐体は、入口弁と、前記入口弁に流体接続された入口と、出口弁と、前記出口弁に流体接続された出口とを含む、項目1から17のいずれか一項に記載の金属水素電池。
(項目19)
水素ガスを貯蔵する貯蔵タンクと、前記出口弁を介して前記出口と前記貯蔵タンクとの間に流体接続されたポンプとをさらに備える、項目18に記載の金属水素電池。
(項目20)
金属水素電池であって、
酸化鉛を含む第1の電極と、
第2の電極と、
前記第1の電極と前記第2の電極との間に配置された酸性電解質と
を備え、
前記第2の電極は、前記第2の電極において水素発生反応および水素酸化反応を触媒する二機能性触媒を含む、金属水素電池。
(項目21)
前記酸化鉛が、PbO
2
、PbO、ならびにSb、CrおよびCaからなる群から選択された1つまたは複数の元素でドープされたPbO
2
からなる群から選択される、項目20に記載の金属水素電池。
(項目22)
前記酸性電解質がH
2
SO
4
を含む、項目21に記載の金属水素電池。
(項目23)
金属水素電池であって、
無機リチウム化合物を含む第1の電極と、
第2の電極と、
前記第1の電極と前記第2の電極との間に配置された電解質と
を備え、
前記第2の電極は、前記第2の電極において水素発生反応および水素酸化反応を触媒する二機能性触媒を含む、金属水素電池。
(項目24)
前記無機リチウム化合物が、LiMn
2
O
4
、LiCo
2
O
4
、LiFeO
2
、LiNiO
2
、LiFePO
4
、リチウムコバルトニッケル酸化物、リチウムコバルトマグネシウム酸化物、リチウムマンガンコバルト酸化物、リチウムマンガンクロム酸化物、リチウムニッケルマンガンコバルト酸化物、リン酸コバルトリチウム、リン酸酸化バナジウムリチウム、およびフッ化リン酸バナジウムリチウムからなる群から選択される、項目23に記載の金属水素電池。
(項目25)
前記電解質がリチウムの塩を含む、項目23に記載の金属水素電池。
(項目26)
前記二機能性触媒が、金属またはその合金を含む、項目23から25のいずれか一項に記載の金属水素電池。
(項目27)
前記金属が、白金、ルテニウム、ニッケル、コバルト、モリブデン、タングステン、銀、パラジウム、イリジウム、金、ロジウム、マンガン、および鉄からなる群から選択される、項目26に記載の金属水素電池。
【図面の簡単な説明】
【0007】
本明細書に記載されている図面は、単に例示すことを目的としている。これらの図面は、本開示の範囲を限定することを意図するものではない。
【0008】
【
図1】
図1のa)は、pHに依存しない水系二次水素電池の概略図を示し、
図1のb)は、それらの酸化還元電位のプールベ図を示す。
【0009】
【
図2】
図2のパネルa,bおよびcは、RuP
2/C電極触媒の特性を示す。
【0010】
【
図3】
図3のパネルa,bおよびcは、異なる電解質におけるRuP
2/C電極触媒の電気化学性能を示す。
【0011】
【
図4】
図4のa),b)は、Pb-RuセルおよびPb-Ptセルを用いた酸性の鉛水素電池の電気化学性能の比較を示し、
図4のc)は、Pb-Ruセルの長期サイクル安定性を示す。
【0012】
【
図5】
図5のa),b)は、Mn-RuセルおよびMn-Ptセルを用いた中性のマンガン水素電池の電気化学性能の比較を示し、
図5のc)は、Mn-Ruセルの長期サイクル安定性を示し、
図5のd)は、充電後のMn-Ruセルの特性を示し、
図5のe)は、放電後のMn-Ruセルの特性を示す。
【0013】
【
図6】
図6のa),b)は、アルカリ性のニッケル水素電池の電気化学性能の比較を示し、
図6のc)は、異なる電流密度におけるNi-Ruセルの比容量を示し、
図6のd)は、Ni-Ruセルの長期サイクル安定性を示す。
【0014】
【
図7】
図7は、RuP
2/C電極触媒の特性を示す。
【0015】
【
図8】
図8のパネルaおよびbは、Ru/C電極触媒の特性を示す。
【0016】
【
図9】
図9のパネルa,b,cおよびdは、Mn-RuおよびMn-Ptセルの放電曲線を示す。
【0017】
【
図10】
図10のa),b)は、初期状態のカーボンナノファイバーを示し、
図10のc),d)は、充電後のMn-Ruセル正極を示し、
図10のe),f)は、放電後のMn-Ruセル正極の特性を示す。
【0018】
【
図11】
図11は、Mn-Ruセル正極のa)充電時およびb)放電時の特性を示す。
【0019】
【
図12】
図12は、LMO-Ruセルの異なるレートでの充放電曲線を示す。
【0020】
次に、本開示の特定の実施形態について詳しく参照する。本開示の特定の実施形態について説明するが、本開示の実施形態を開示された実施形態に限定することは意図していないことが理解されるであろう。それに対して、本開示の実施形態への言及は、添付の特許請求の範囲によって定義される本開示の実施形態の精神と範囲との中に含まれ得る代替物、変更物および均等物をカバーすることを意図している。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下の説明の目的のために、本開示によって提供される実施形態は、明示的に別段の定めがある場合を除き、さまざまな代替的な変形およびステップシーケンスを想定できることを理解されたい。さらに、実施例以外、または特に明細されていない場合、本明細書および特許請求の範囲で使用される成分の量などを表すあらゆる数値は、あらゆる場合において「約」という用語で修飾されていると理解されたい。したがって、別段の定めがない限り、以下の明細書および添付の特許請求の範囲に記載されている数値パラメータは、得ようとする所望の特性に応じて変化し得る近似値である。少なくとも、特許請求の範囲の範囲への均等論の適用を制限しようとするものではないが、各数値パラメータは、報告された有効桁数を考慮し、通常の丸め技法を適用して解釈されるべきである。
【0022】
本発明の広範な範囲を示す数値範囲およびパラメータは近似値であるにもかかわらず、具体例で示された数値は可能な限り正確に報告されている。しかしながら、どのような数値であっても、それぞれの試験測定で見られる標準的なばらつきに起因した本質的に一定の誤差を必然的に含んでいる。
【0023】
また、ここに記載されている任意の数値範囲は、そこに包含されているすべての部分範囲を含むことを意図していることが理解されるべきである。例えば、「1~10」の範囲は、記載された約1の最小値と約10の最大値との間(および記載された約1の最小値と記載された約10の最大値とを含む)のすべての部分範囲を含むことを意図しており、すなわち、約1に等しいかそれより大きい最小値と、約10に等しいかそれ以下の最大値とを有する。また、本出願では、場合によっては「および/または」が明示的に使用されることもあるが、特に明記しない限り、「または」の使用は「および/または」を意味する。
【0024】
電気化学セルとは、電気エネルギーを蓄えたり生成したりする装置のことを指し、電池などがこれにあたる。本開示によって提供される電気化学セルは、充電可能であり得る。
【0025】
水系二次電池は、低コストで不燃性の水系電解質であり環境に優しいという有利な特徴を持つことから、代替エネルギー貯蔵システムとして使用することの期待が高まっている。しかしながら、先行技術の水系電池、例えば鉛蓄電池(鉛酸電池)、ニッケル水素電池(Ni-MH)および水系リチウム/ナトリウム(Li/Na)イオン電池には、サイクル寿命が短く、エネルギー密度が低いという望ましくない特性があり、大規模なエネルギー貯蔵用途には適していない。例えば、鉛酸電池は、よく知られているように、Pb負極のサルフェーションにより不可逆的なPbSO4が形成され、活物質の損失およびセルの故障を引き起こすため、約500サイクルの短い寿命しか示さない。Ni-MH電池のMH負極は、電池の充放電時に体積の膨張/収縮が繰り返されるため、サイクル寿命が不安定になる。最近開発された水系Li/Naイオン電池(LiMn2O4活性炭、プルシアンブルー-ポリピロール)は良好なサイクル寿命を示すが、エネルギー密度は低容量の負極材料の利用によって制限されている。したがって、大規模な蓄電に適した性能を持つ水系二次電池の課題は、低コスト、高容量で、さまざまな水系電解質に対して化学的/電気化学的に安定した負極材料を開発することに大きく依存している。新しいエネルギー貯蔵化学反応を用いた水系二次電池の開発は、非常に望ましいものであるが、非常に困難である。
【0026】
本開示は、いくつかの実施形態において、電力系統の蓄電の可能性を持つ、全pH範囲(pH:-1~15)で動作する水系二次水素電池のファミリーについて説明する。
【0027】
これらのpHに依存しない電池は、本明細書のさまざまな実施形態に記載されているように、高エネルギー、高出力、長寿命、低コストで安全なエネルギー貯蔵システムを構築するための新しい化学反応を提供する。pHに依存しない水素電池は、正極では、変換反応、例えば(4.5M H2SO4中のPbO2;1M LiSO4中のLiMn2O4;30%KOH中のNi(OH)2)またはMnO2の析出/剥離反応(中性および酸性電解質中の3M MnSO4)のいずれかによる、負極では可逆的な水素発生/水素酸化反応(HER/HOR)による、高活性のリン化ルテニウム電極触媒によって触媒される、種々の酸化還元化学反応で動作する。このリン化ルテニウムは、全pH範囲において、先行技術のPt/C電極触媒と同等の比活性およびHER/HORの優れた長期安定性を示す。pHに依存しない水素電池は、高い動作電位(Pb-H2セルでは約1.75V;LMO-H2、Mn-H2およびNi-H2セルでは約1.3V)、大容量(Pb-H2およびNi-H2セルでは約200mAh g-1;LMO-H2セルでは約108mAh g-1;Mn-H2セルでは約125Ah L-1)、長いサイクル寿命(Pb-H2セルでは3000サイクル超;Mn-H2セルでは5000サイクル超;Ni-H2セルでは1000サイクル超)ならびに速い充放電スピード(Pb-H2セルでは100C超;Mn-H2セルでは50C超)などの優れた電気化学性能を示す。
ルテニウム触媒を用いた水素電池
【0028】
いくつかの実施形態において、金属水素電池は、第1の電極と、ルテニウムまたはルテニウム含有化合物で構成された二機能性触媒で構成された第2の電極と、第1の電極と第2の電極との間に配置された電解質とで構成されている。この二機能性触媒は、第2の電極において水素発生反応および水素酸化反応を触媒する。
【0029】
電池とは、電気エネルギーを化学エネルギーとして蓄える電気化学セルのことである。電池の充電時または放電時に、酸化還元反応により、後で使用するためにエネルギーが蓄えられたり、分子が低エネルギー状態を取ることによる仕事量としてエネルギーが放出されたりする。二次電池とは、エネルギーを何度も蓄えるために使用できる電池のことである。エネルギーが枯渇すると、より多くのエネルギーを電流としてシステムに適用し、その蓄えを補充することができる。
【0030】
エネルギーの貯蔵および放出に関わる酸化還元反応は電極において行われ、電極は導電性の個別の固形成分であり、互いに電気的に絶縁されていなければならないが、酸化および/または還元されるべき化合物を含む導電性媒体とは相互に接触していなければならない。
【0031】
触媒とは、化学反応の活性化エネルギーを低下させ、より少ないエネルギー入力で化学反応を進行させる化合物である。本開示では、二機能性触媒は、水素発生反応および水素酸化反応の両方を触媒することができる。それにより、電池の充電が可能になる。
2H++2e-⇔H2
2H2O+2e-⇔H2+2OH-
【0032】
電解質とは、カチオンとアニオンとに解離し、それによりイオンを伝導する塩のことである。本発明の文脈において、電解質は、第1の電極と第2の電極との間のイオンの移動を可能にするものである。これは、一方の電極では還元反応によって解放された電子を受け入れ、それから他方の電極では酸化反応によってイオンを移動させることで起こる。
【0033】
ルテニウムは遷移金属である。ルテニウム含有化合物とは、ルテニウムを含む無機化合物、塩、金属合金、配位錯体および有機金属化合物のことである。ルテニウム含有化合物には、ルテニウムがドープされた物質も包含される。
【0034】
いくつかの実施形態において、二機能性触媒は、リン化ルテニウム、硫化ルテニウム、リン化ルテニウムと硫化ルテニウムとの合金、ルテニウム炭化物、窒化ルテニウム、またはそれらの組み合わせなどのルテニウム含有化合物で構成されている。いくつかの実施形態において、ルテニウム含有化合物は、ルテニウム合金(例えば、リン化ルテニウム、硫化ルテニウム、リン化ルテニウムと硫化ルテニウムとの合金)である。いくつかの実施形態において、ルテニウム含有化合物は、リン化ルテニウムである。
【0035】
いくつかの実施形態において、二機能性触媒は、リン化ルテニウム担持炭素(RuP2/C)である。いくつかの実施形態において、二機能性触媒は、ルテニウム担持炭素(Ru/C)である。いくつかの実施形態において、金属水素電池の二機能性触媒は、異なる材料の混合物からなり、これらは全体として水素発生反応および水素酸化反応に寄与する。
【0036】
いくつかの実施形態において、第1の電極は正極であり、第2の電極は負極である。いくつかの実施形態において、第2の電極は負極または正極である。
【0037】
pHに依存しない金属水素電池のいくつかの実施形態において、第2の電極は触媒水素電極である。いくつかの実施形態において、第2の電極は、導電性基材と、導電性基材を覆うコーティングとを含む。いくつかの実施形態において、コーティングは、約1μm~約100μm、約1μm~約50μm、または約1μm~約10μmの範囲のサイズ(または平均サイズ)を有するなど、酸化還元反応性材料の微細構造を含む。いくつかの実施形態において、二機能性触媒は、第2の電極において水素発生反応および水素酸化反応の両方を触媒するためにコーティング中に存在する。いくつかの実施形態において、コーティングは、二機能性触媒のナノ構造を含む。これらのナノ構造は、約1nm~約100nm、約1nm~約80nm、または約1nm~約50nmの範囲のサイズ(または平均サイズ)を有する。
【0038】
いくつかの実施形態において、遷移金属が酸化還元反応性材料に含まれており、それは鉛であってもよい。いくつかの実施形態において、鉛は二酸化鉛または一酸化鉛として含まれている。いくつかの実施形態において、酸化還元反応性材料に含まれる遷移金属はマンガンである。いくつかの実施形態において、マンガンは、酸化マンガン、酸化マンガンリチウム(LiMn2O4)またはドープされた酸化マンガン(例えば、ニッケルおよびコバルトまたは他の遷移金属でドープされたもの)として含まれている。いくつかの実施形態において、酸化還元反応性材料に含まれる遷移金属はニッケルである。いくつかの実施形態において、ニッケルは水酸化ニッケルまたはオキシ水酸化ニッケルとして含まれている。いくつかの実施形態において、亜鉛およびコバルトなどの一部の遷移金属が、水酸化ニッケルまたはオキシ水酸化ニッケルに含まれている。
【0039】
コバルト、鉄、ニッケルなどの他の遷移金属および金属酸化物も本開示に包含されている。いくつかの実施形態において、コバルトは、酸化コバルトおよび酸化コバルトリチウム(LiCoO2)として含まれている。いくつかの実施形態において、鉄は、酸化鉄、酸化鉄リチウム(LiFeO2)およびリン酸鉄リチウム(LiFePO4)として含まれている。いくつかの実施形態において、ニッケルは、酸化ニッケルおよび酸化ニッケルリチウム(LiNiO2)として含まれている。
【0040】
他の混合遷移金属酸化物としては、リチウムコバルトニッケル酸化物、リチウムコバルトマグネシウム酸化物、リチウムマンガンコバルト酸化物、リチウムマンガンクロム酸化物、およびリチウムニッケルマンガンコバルト酸化物などが本開示に包含されている。いくつかの実施形態において、第1の電極は、リン酸コバルトリチウム、リン酸酸化バナジウムリチウムおよびフッ化リン酸バナジウムリチウムなどのポリアニオン化合物を含む。
【0041】
いくつかの実施形態において、導電性基材は多孔質であり、例えば、少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、または少なくとも約50%かつ最大約80%、最大約90%、またはそれより大きい多孔率を有する。
【0042】
いくつかの実施形態において、導電性基材は、ニッケルフォームなどの金属フォームである。他の導電性基材としては、金属フォイル、金属メッシュ、金属フォイルおよび繊維状の導電性基材などが本開示に包含されている。
【0043】
いくつかの実施形態において、導電性基材は、炭素質材料を含む。いくつかの実施形態において、炭素質材料は、カーボンナノファイバーペーパー、カーボンクロス、カーボンマット、カーボンフェルト、カーボンマット、カーボンナノチューブフィルム、グラファイトフォイル、グラファイトフォーム、グラファイトマット、グラフェンフォイル、グラフェンファイバー、グラフェンフィルム、およびグラフェンフォームからなる群から選択される。他の導電性炭素質基材は本開示に包含されている。
【0044】
本開示のいくつかの実施形態は、一連のpHに依存しない金属水素電池に向けられており、この電池は、第1の電極と、第2の電極と、第1の電極と第2の電極との間に配置されたセパレータと、第1の電極と第2の電極との間に配置された電解質とを含む。
【0045】
pHに依存しない金属水素電池のいくつかの実施形態において、セパレータは、多孔質で吸水性および絶縁性のフィルムである。いくつかの実施形態において、セパレータは、セルロース繊維、ポリマー、例えばポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコールおよびナイロン、布地、例えばガラス繊維マット、酸化ジルコニアコーティングクロス、および他の吸水性物質を含む。いくつかの実施形態において、セパレータは多孔質であり、例えば、少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、または少なくとも約50%かつ最大約80%、最大約90%、またはそれより大きい多孔率を有する。
【0046】
いくつかの実施形態において、電解質は水系電解質である。本明細書では、白金を使用せず、pHに依存しない触媒水素負極によって実現された、種々の貯蔵化学反応を有する水系二次電池ファミリーについて報告する。種々の電荷貯蔵メカニズムに対する水素負極の汎用性を実証するために、PbO
2、MnO
2およびLiMn
2O
4ならびにNi(OH)
2など、産業界で十分に開発された4つの正極を、酸性、中性およびアルカリ性の電解質でそれぞれpHに依存しない水素電池に適用する。
図1のパネルaは、Pb-H
2、Mn-H
2、LMO-H
2およびNi-H
2と表記する4つの水系水素電池を異なるpH範囲で動作させたときの概略図を示す。RuP
2/C担持カーボンファイバーガス拡散層の高活性HER/HOR電極触媒によって、pHに依存しない水素負極を作製した。pHに依存しない水素電池の電荷貯蔵メカニズムについて、以下の例示的な式で説明する。
【0047】
酸性のPb-H2電池では、
PbO2+4H++SO4
2-+2e-⇔PbSO4+2H2O E0=1.685V(1)
2H++2e-⇔H2 E0=0V(2)
PbO2+H2SO4+H2⇔PbSO4+2H2O E0=1.685V(3)
である。
【0048】
中性・酸性のMn-H2電池では、
MnO2+4H++2e-⇔Mn2++2H2O E0=1.23V(4)
2H+2e-⇔H2 E0=0V(5)
MnO2+2H++H2⇔Mn2++2H2O E0=1.23V(6)
である
【0049】
中性のLMO-H2電池では
2MnO2+e-+Li+⇔LiMn2O4 E0=1.36V(7)
2H++2e-⇔H2 E0=0V(8)
2MnO2+1/2H2+Li+⇔LiMn2O4+H+ E0=1.36V(9)
である。
【0050】
アルカリ性のNi-H2電池では
NiOOH+H2O+e-⇔Ni(OH)2+OH- E0=0.49V(10)
2H2O+2e-⇔H2+2OH- E0=-0.83V(11)
NiOOH+1/2H2⇔Ni(OH)2 E0=1.32V(12)
である。
【0051】
電池の充放電プロセスでは、酸性のPb-H
2電池の正極は、4.5M H
2SO
4電解質中でPbO
2とPbSO
4との間の変換反応を繰り返す。中性および酸性のMn-H
2電池では、3M MnSO
4電解質中で可溶性のMn
2+と固体のMnO
2との間のマンガンの析出/剥離反応を正極が繰り返す。中性のLMO-H
2電池では、1M Li
2SO
4電解質中でLiMn
2O
4とMnO
2との間の変換反応を正極が繰り返す。アルカリ性のNi-H
2電池では、30%KOH電解質中でNi(OH)
2とNiOOHとの変換反応を正極が繰り返す。これらの4つの水素電池では、Ru
2P/C電極触媒を使用することによって、異なる電解質中で負極がHER/HORを繰り返す。これらの化学反応に他の電極触媒を使用することもできる。異なる正極を用いたpHに依存しない水素電池の酸化還元電位については、プールベ図(
図1のパネルb)に記載している。pHに依存しない堅牢な水素負極に任意の正極を組み合わせることによって、異なる酸化還元化学反応を有する水素二次電池を実現することができるが、これは他の任意の単一の材料または電極では実現することが困難である。なお、pHに依存しない水素電池は、本例で実証したものに限らず、二次電池のファミリー全体を対象としている。
【0052】
いくつかの実施形態において、水系電解質は酸性である。いくつかの実施形態において、水系電解質は、約7以下、例えば、約6.5以下、約6以下、約5.5以下、約5以下、約4.5以下、約4以下、約3.5以下、約3以下、約2.5以下、約2以下、または約1.5以下のpHを有する。
【0053】
いくつかの実施形態において、酸性電解質はH2SO4を含む。いくつかの実施形態において、水系電解質は、約0.1モル(M)~約10M、例えば、約0.1M~約10M、約0.1M~約6M、約0.1M~約3M、約0.5M~約2M、または約0.5M~約1.5Mの濃度範囲のH2SO4を含む。
【0054】
いくつかの実施形態において、第1の電極は酸化鉛を含む。非限定的な例としては、PbO、PbO2、ならびにSb、CrおよびCaからなる群から選択された1つまたは複数の元素でドープされたPbO2が挙げられる。
【0055】
いくつかの実施形態において、水系電解質は10未満のpHを有する。いくつかの実施形態において、水系電解質は、約7、例えば、約6.5~約9、約7~約9、約7.5~約9、約8~約9、または約8.5~約9のpHを有する。
【0056】
いくつかの実施形態において、水系電解質が10未満のpHを有する場合、水系電解質はマンガンイオンを含む。これらの実施形態のいくつかでは、マンガンイオンはMn2+を含むが、他の酸化状態を有するマンガンイオンも含むことができる。いくつかの実施形態において、マンガンイオンの濃度は、約0.1モル(M)~約4M、例えば、約0.1M~約4M、約0.1M~約3M、約0.1M~約2M、約0.5M~約2M、または約0.5M~約1.5Mの範囲である。いくつかの実施形態において、電解質は、MnCl2、MnSO4、Mn(NO3)2およびMn(CH3COO)2からなる群から選択された材料を含む。これらの実施形態のいくつかでは、電解質はさらにH2SO4を含む。
【0057】
いくつかの実施形態において、水系電解質が10未満のpHを有する場合、水系電解質は、多孔質の導電性支持体上へのマンガンの沈殿を酸化マンガンとして支持するように構成されている。これらの実施形態のいくつかでは、酸化マンガンはγ酸化マンガンを含む。いくつかの実施形態において、電解質は、多孔質の導電性支持体上へのマンガンの沈殿を酸化マンガンのナノシートまたは他のナノ構造として支持するように構成されている。
【0058】
いくつかの実施形態において、水系電解質のpHが10未満の場合、水系電解質はリチウムの塩を含んでいる。いくつかの実施形態において、電解質は、Li2SO4、LiCl、LiNO3、LiClO4、Li2CO3、Li3PO4、LiF、LiPF6、LiBF4からなる群から選択された塩を含む。これらの実施形態のいくつかでは、水系電解質は、約0.1モル(M)~約5M、例えば、約0.1M~約5M、約0.1M~約4M、約0.1M~約3M、約0.1M~約2M、約0.1M~約1M、または約0.1M~約0.5Mの濃度範囲の硫酸リチウムを含む。
【0059】
いくつかの実施形態において、第1の電極は、LiMn2O4、LiCo2O4、LiFeO2、LiNiO2、LiFePO4、リチウムコバルトニッケル酸化物、リチウムコバルトマグネシウム酸化物、リチウムマンガンコバルト酸化物、リチウムマンガンクロム酸化物、リチウムニッケルマンガンコバルト酸化物、リン酸コバルトリチウム、リン酸酸化バナジウムリチウム、およびフッ化リン酸バナジウムリチウムからなる群から選択された材料を含む。
【0060】
いくつかの実施形態において、水系電解質はアルカリ性である。いくつかの実施形態において、水系電解質は、7よりも高いpH、例えば、約7~約8、約7~約9、約7~約10、約7~約11、約7~約12、約7~約13、または約7~約14のpHを有する。
【0061】
いくつかの実施形態において、アルカリ性電解質はアルカリを含む。いくつかの実施形態において、アルカリ電解質は、KOH、NaOH、LiOH、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される。いくつかの実施形態において、水系電解質は、約0.1モル(M)~約10M、例えば、約0.1M~約10M、約0.1M~約8M、約0.1M~約5M、約0.1M~約3M、約0.1M~約2M、または約0.1M~約1Mの濃度範囲の水酸化カリウムを含む。
【0062】
いくつかの実施形態において、水系電解質は、他の金属含有化合物、例えば、硫酸ナトリウム、塩化ナトリウム、硝酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、過塩素酸ナトリウム、硫酸カリウム、塩化カリウム、硝酸カリウム、リン酸カリウム、または過塩素酸カリウムを含む。
【0063】
いくつかの実施形態において、電池はさらに、第1の電極と、第2の電極と、電解質とが中に配置された筐体を備えている。筐体は、入口弁と、入口弁に流体接続された入口と、出口弁と、出口弁に流体接続された出口とを含む。
【0064】
いくつかの実施形態において、電池はさらに、水素ガスを貯蔵する貯蔵タンクと、出口弁を介して出口と貯蔵タンクとの間に流体接続されたポンプとを備えている。
【0065】
本開示が提供する電池の一例の概略図を
図1のパネルaに示す。
図1のパネルaに示した構成以外の電池構成も可能である。
水素電池の新しい化学反応
【0066】
さらに、本明細書では、さまざまな二機能性触媒を用いて機能することができるpHに依存しない電池の新しい化学反応を利用した電池について説明する。
【0067】
いくつかの実施形態において、反応式(1)~(3)で示される化学反応を利用した水素電池が提供される。これらの電池は、酸性電解質でも動作し得る。いくつかの実施形態において、酸化鉛を含む第1の電極と、第2の電極において水素発生反応および水素酸化反応を触媒する二機能性触媒を含む第2の電極と、第1の電極と第2の電極との間に配置された酸性電解質とで構成された電池が提供される。
【0068】
酸化鉛の非限定的な例としては、PbO、PbO2、ならびにSb、CrおよびCaからなる群から選択された1つまたは複数の元素でドープされたPbO2が挙げられる。
【0069】
いくつかの実施形態において、酸性電解質は、約7以下、例えば、約6.5以下、約6以下、約5.5以下、約5以下、約4.5以下、約4以下、約3.5以下、約3以下、約2.5以下、約2以下、または約1.5以下のpHを有する。
【0070】
いくつかの実施形態において、酸性電解質はH2SO4を含む。いくつかの実施形態において、水系電解質は、約0.1モル(M)~約10M、例えば、約0.1M~約10M、約0.1M~約6M、約0.1M~約3M、約0.5M~約2M、または約0.5M~約1.5Mの濃度範囲のH2SO4を含む。
【0071】
いくつかの実施形態において、反応式(7)~(9)で示される化学反応を利用した水素電池が提供される。これらの電池は、中性または酸性電解質で動作し得る。いくつかの実施形態において、無機リチウム化合物を含む第1の電極と、第2の電極において水素発生反応および水素酸化反応を触媒する二機能性触媒を含む第2の電極と、第1の電極と第2の電極との間に配置された電解質とで構成された電池が提供される。
【0072】
無機リチウム化合物の非限定的な例としては、LiMn2O4、LiCo2O4、LiFeO2、LiNiO2、LiFePO4、リチウムコバルトニッケル酸化物、リチウムコバルトマグネシウム酸化物、リチウムマンガンコバルト酸化物、リチウムマンガンクロム酸化物、リチウムニッケルマンガンコバルト酸化物、リン酸コバルトリチウム、リン酸酸化バナジウムリチウム、およびフッ化リン酸バナジウムリチウムが挙げられる。
【0073】
いくつかの実施形態において、電解質はリチウムの塩を含む。リチウム塩の非限定的な例としては、Li2SO4、LiCl、LiNO3、LiClO4、Li2CO3、Li3PO4、LiF、LiPF6、およびLiBF4が挙げられる。これらの実施形態のいくつかでは、水系電解質は、約0.1モル(M)~約5M、例えば、約0.1M~約5M、約0.1M~約4M、約0.1M~約3M、約0.1M~約2M、約0.1M~約1M、または約0.1M~約0.5Mの濃度範囲の硫酸リチウムを含む。
【0074】
いくつかの実施形態において、二機能性触媒は、遷移金属または1つもしくは複数の遷移金属含有化合物で構成されている。いくつかの実施形態において、二機能性触媒は、1つまたは複数の遷移金属リン化物、例えば、リン化ニッケル、リン化コバルト、リン化モリブデン、リン化タングステン、リン化銀、およびそれらの複合体を含む。二機能性触媒としての他の貴金属およびそれらの合金は、本開示に包含され、例えば、白金、パラジウム、イリジウム、金、ロジウム、銀、ならびに白金、パラジウム、ルテニウム、イリジウム、金、ロジウム、銀、ニッケル、コバルト、マンガン、鉄、モリブデン、タングステンなどの貴金属および非貴金属の遷移金属とのそれらの合金である。いくつかの実施形態において、負極触媒は、水素発生反応触媒と水素酸化反応触媒との組み合わせである。いくつかの実施形態において、金属水素電池の二機能性触媒は、異なる材料の混合物からなり、これらは全体として水素発生および水素酸化反応に寄与する。
【0075】
いくつかの実施形態において、二機能性触媒は白金で構成されている。いくつかの実施形態において、二機能性触媒は白金担持炭素(Pt/C)である。
【0076】
いくつかの実施形態において、第1の電極は正極であり、第2の電極は負極である。いくつかの実施形態において、第2の電極は負極または正極である。
【0077】
金属水素電池のいくつかの実施形態において、第2の電極は触媒水素電極である。いくつかの実施形態において、第2の電極は、導電性基材と、導電性基材を覆うコーティングとを含む。いくつかの実施形態において、コーティングは、約1μm~約100μm、約1μm~約50μm、または約1μm~約10μmの範囲のサイズ(または平均サイズ)を有するなど、酸化還元反応性材料の微細構造を含む。いくつかの実施形態において、二機能性触媒は、第2の電極において水素発生反応および水素酸化反応の両方を触媒するためにコーティング中に存在する。いくつかの実施形態において、コーティングは、二機能性触媒のナノ構造を含む。これらのナノ構造は、約1nm~約100nm、約1nm~約80nm、または約1nm~約50nmの範囲のサイズ(または平均サイズ)を有する。
【0078】
いくつかの実施形態において、酸化還元反応性材料に含まれる遷移金属は鉛である。いくつかの実施形態において、鉛は二酸化鉛または一酸化鉛として含まれている。いくつかの実施形態において、酸化還元反応性材料に含まれる遷移金属はマンガンである。いくつかの実施形態において、マンガンは、酸化マンガン、酸化マンガンリチウム(LiMn2O4)またはドープされた酸化マンガン(例えば、ニッケルおよびコバルトまたは他の遷移金属でドープされたもの)として含まれている。いくつかの実施形態において、酸化還元反応性材料に含まれる遷移金属はニッケルである。いくつかの実施形態において、ニッケルは水酸化ニッケルまたはオキシ水酸化ニッケルとして含まれる。いくつかの実施形態において、亜鉛およびコバルトなどの一部の遷移金属が、水酸化ニッケルまたはオキシ水酸化ニッケルに含まれている。
【0079】
コバルト、鉄、ニッケルなどの他の遷移金属および金属酸化物も本開示に包含されている。いくつかの実施形態において、コバルトは、酸化コバルトおよび酸化コバルトリチウム(LiCoO2)として含まれている。いくつかの実施形態において、鉄は、酸化鉄、酸化鉄リチウム(LiFeO2)およびリン酸鉄リチウム(LiFePO4)として含まれている。いくつかの実施形態において、ニッケルは、酸化ニッケルおよび酸化ニッケルリチウム(LiNiO2)として含まれている。
【0080】
他の混合遷移金属酸化物としては、リチウムコバルトニッケル酸化物、リチウムコバルトマグネシウム酸化物、リチウムマンガンコバルト酸化物、リチウムマンガンクロム酸化物、およびリチウムニッケルマンガンコバルト酸化物などが本開示に包含されている。いくつかの実施形態において、第1の電極は、リン酸コバルトリチウム、リン酸酸化バナジウムリチウムおよびフッ化リン酸バナジウムリチウムなどのポリアニオン化合物を含む。
【0081】
いくつかの実施形態において、導電性基材は多孔質であり、例えば、少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、または少なくとも約50%かつ最大約80%、最大約90%、またはそれより大きい多孔率を有する。
【0082】
いくつかの実施形態において、導電性基材は、ニッケルフォームなどの金属フォームである。他の導電性基材は、金属フォイル、金属メッシュ、金属フォイルおよび繊維状の導電性基材などが本開示に包含されている。
【0083】
いくつかの実施形態において、導電性基材は、炭素質材料を含む。いくつかの実施形態において、炭素質材料は、カーボンナノファイバーペーパー、カーボンクロス、カーボンマット、カーボンフェルト、カーボンマット、カーボンナノチューブフィルム、グラファイトフォイル、グラファイトフォーム、グラファイトマット、グラフェンフォイル、グラフェンファイバー、グラフェンフィルム、およびグラフェンフォームからなる群から選択される。他の導電性炭素質基材は本開示に包含されている。
【0084】
金属水素電池のいくつかの実施形態において、セパレータは、多孔質で吸水性および絶縁性のフィルムである。いくつかの実施形態において、セパレータは、セルロース繊維、ポリマー、例えばポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコールおよびナイロン、布地、例えばガラス繊維マット、酸化ジルコニアコーティングクロス、および他の吸水性物質を含む。いくつかの実施形態において、セパレータは多孔質であり、例えば、少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、または少なくとも約50%かつ最大約80%、最大約90%、またはそれより大きい多孔率を有する。
【0085】
いくつかの実施形態において、電池はさらに、第1の電極と、第2の電極と、電解質とが中に配置された筐体を備えている。筐体は、入口弁と、入口弁に流体接続された入口と、出口弁と、出口弁に流体接続された出口とを含む。
【0086】
いくつかの実施形態において、電池はさらに、水素ガスを貯蔵する貯蔵タンクと、出口弁を介して出口と貯蔵タンクとの間に流体接続されたポンプとを備えている。
本開示の態様
【0087】
態様1
金属水素電池であって、
第1の電極と
第2の電極と、
上記第1の電極と上記第2の電極との間に配置された電解質と
を備え、
上記第2の電極は、上記第2の電極において水素発生反応および水素酸化反応を触媒する二機能性触媒を含み、かつ
上記二機能性触媒は、ルテニウムまたはルテニウム含有化合物を含む、
金属水素電池。
【0088】
態様2
上記ルテニウム含有化合物が、リン化ルテニウム、硫化ルテニウム、炭化ルテニウム、窒化ルテニウム、およびリン化ルテニウム・硫化ルテニウムからなる群から選択される、態様1に記載の金属水素電池。
【0089】
態様3
上記二機能性触媒がリン化ルテニウムを含む、態様1または2に記載の金属水素電池。
【0090】
態様4
上記第2の電極が、導電性基材と、上記導電性基材を覆うコーティングとを含み、上記コーティングが上記二機能性触媒を含む、態様1から3までのいずれかに記載の金属水素電池。
【0091】
態様5
上記導電性基材が炭素質材料を含む、態様4に記載の金属水素電池。
【0092】
態様6
上記炭素質材料が、カーボンナノファイバーペーパー、カーボンクロス、カーボンマット、カーボンフェルト、カーボンマット、カーボンナノチューブフィルム、グラファイトフォイル、グラファイトフォーム、グラファイトマット、グラフェンフォイル、グラフェンファイバー、グラフェンフィルム、およびグラフェンフォームからなる群から選択される、態様5に記載の金属水素電池。
【0093】
態様7
上記コーティングが上記二機能性触媒のナノ構造を含む、態様4から6までのいずれかに記載の金属水素電池。
【0094】
態様8
上記電解質が水系電解質である、態様1から7までのいずれかに記載の金属水素電池。
【0095】
態様9
上記電解質が酸性である、態様8に記載の金属水素電池。
【0096】
態様10
上記電解質がH2SO4を含む、態様9に記載の金属水素電池。
【0097】
態様11
上記第1の電極が、PbO2、PbO、ならびにSb、CrおよびCaからなる群から選択された1つまたは複数の元素でドープされたPbO2からなる群から選択された材料を含む、態様9に記載の金属水素電池。
【0098】
態様12
上記電解質が10未満のpHを有する、態様8に記載の金属水素電池。
【0099】
態様13
上記電解質が、MnCl2、MnSO4、Mn(NO3)2、およびMn(CH3COO)2からなる群から選択された材料を含む、態様12に記載の金属水素電池。
【0100】
態様14
上記電解質がさらにH2SO4を含む、態様13に記載の金属水素電池。
【0101】
態様15
上記第1の電極が炭素質材料を含む、態様13に記載の金属水素電池。
【0102】
態様16
上記電解質がリチウムの塩を含む、態様12に記載の金属水素電池。
【0103】
態様17
上記電解質が、Li2SO4、LiCl、LiNO3、LiClO4、Li2CO3、Li3PO4、LiF、LiPF6、およびLiBF4からなる群から選択された塩を含む、態様16に記載の金属水素電池。
【0104】
態様18
上記第1の電極が、LiMn2O4、LiCo2O4、LiFeO2、LiNiO2、LiFePO4、リチウムコバルトニッケル酸化物、リチウムコバルトマグネシウム酸化物、リチウムマンガンコバルト酸化物、リチウムマンガンクロム酸化物、リチウムニッケルマンガンコバルト酸化物、リン酸コバルトリチウム、リン酸酸化バナジウムリチウム、およびフッ化リン酸バナジウムリチウムからなる群から選択された材料を含む、態様16に記載の金属水素電池。
【0105】
態様19
上記電解質がアルカリ性である、態様8に記載の金属水素電池。
【0106】
態様20
上記電解質がアルカリを含む、態様19に記載の金属水素電池。
【0107】
態様21
上記アルカリが、KOH、NaOH、LiOH、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、態様20に記載の金属水素電池。
【0108】
態様22
上記第1の電極が、Ni(OH)2、NiOOH、コバルトおよび亜鉛からなる群から選択された1つまたは複数の元素がドープされたNi(OH)2、ならびにコバルトおよび亜鉛からなる群から選択された1つまたは複数の元素がドープされたNiOOHからなる群から選択された材料を含む、態様20に記載の金属水素電池。
【0109】
態様23
上記第1の電極と、上記第2の電極と、上記電解質とが中に配置された筐体をさらに備え、上記筐体は、入口弁と、上記入口弁に流体接続された入口と、出口弁と、上記出口弁に流体接続された出口とを含む、態様1から22までのいずれかに記載の金属水素電池。
【0110】
態様24
水素ガスを貯蔵する貯蔵タンクと、上記出口弁を介して上記出口と上記貯蔵タンクとの間に流体接続されたポンプとをさらに備える、態様23に記載の金属水素電池。
【0111】
態様25
金属水素電池であって、
酸化鉛を含む第1の電極と、
第2の電極と、
上記第1の電極と上記第2の電極との間に配置された酸性電解質と
を備え、
上記第2の電極は、上記第2の電極において水素発生反応および水素酸化反応を触媒する二機能性触媒を含む、金属水素電池。
【0112】
態様26
上記酸化鉛が、PbO2、PbO、ならびにSb、CrおよびCaからなる群から選択された1つまたは複数の元素でドープされたPbO2からなる群から選択される、態様25に記載の金属水素電池。
【0113】
態様27
上記酸性電解質がH2SO4を含む、態様25に記載の金属水素電池。
【0114】
態様28
金属水素電池であって、
無機リチウム化合物を含む第1の電極と、
第2の電極と、
上記第1の電極と上記第2の電極との間に配置された電解質と
を備え、
上記第2の電極は、上記第2の電極において水素発生反応および水素酸化反応を触媒する二機能性触媒を含む、金属水素電池。
【0115】
態様29
上記無機リチウム化合物が、LiMn2O4、LiCo2O4、LiFeO2、LiNiO2、LiFePO4、リチウムコバルトニッケル酸化物、リチウムコバルトマグネシウム酸化物、リチウムマンガンコバルト酸化物、リチウムマンガンクロム酸化物、リチウムニッケルマンガンコバルト酸化物、リン酸コバルトリチウム、リン酸酸化バナジウムリチウム、およびフッ化リン酸バナジウムリチウムからなる群から選択される、態様28に記載の金属水素電池。
【0116】
態様30
上記電解質がリチウムの塩を含む、態様28に記載の金属水素電池。
【0117】
態様31
上記塩が、Li2SO4、LiCl、LiNO3、LiClO4、Li2CO3、Li3PO4、LiF、LiPF6、およびLiBF4からなる群から選択される、態様28に記載の金属水素電池。
【0118】
態様32
上記二機能性触媒が、金属またはその合金を含む、態様25または28に記載の金属水素電池。
【0119】
態様33
上記金属が、白金、ルテニウム、ニッケル、コバルト、モリブデン、タングステン、銀、パラジウム、イリジウム、金、ロジウム、マンガン、および鉄からなる群から選択される、態様32に記載の金属水素電池。
【0120】
態様34
上記二機能性触媒が、ルテニウムまたはルテニウム含有化合物を含む、態様32に記載の金属水素電池。
実施例
例1
酸性の鉛水素電池
【0121】
正極として市販のPbO
2を、水素負極としてRuP
2/Cを、電解質として4.5M H
2SO
4を用いることで、酸性のPb-H
2電池を初めて開発した。
図4は、Pb-H
2セルの電気化学性能を示している。電極触媒としてRuP
2/Cを用いたPb-H
2セル(Pb-Ruセルと表記)の電気化学性能は、電極触媒としてPt/Cを用いた電池(Pb-Ptセルと表記)と同等である。具体的には、Pb-Ruセルは、Pb-Ptセルと同様の放電挙動を示し、RuP
2/Cが水素触媒として所望の電気化学性能を実証すること示している。Pb-Ruセルの平均放電電位は約1.75Vと計算され、これはPb-Ptセルの平均放電電位よりもわずか約15mV低いだけである。Pb-Ruセルは、Pb-Ptセルと同様のレート容量を示すことがわかる。
図4のパネルbは、異なる電流密度の下でのPb-Ruセルの放電曲線であり、最大100mA cm
-2の高電流密度で高い容量維持率を示している。Pb-Ruセルは再充電性が向上しており、4500サイクル後の容量減衰はごくわずかである(
図4のパネルc)。従来の鉛蓄電池の容量低下は、Pb負極におけるサルフェーションにより引き起こされるPb/PbSO
4の不可逆的な酸化還元反応が原因であることはよく知られている。Pb負極を触媒水素負極に置き換えることで、負極のサルフェーションの問題を完全に解決することができる。さらに、RuP
2/C触媒を利用することで、Pb-Ptセルに比べてPb-Ruセルのコストが大幅に削減される。
例2
中性のMn-H
2電池
【0122】
Mn-H
2電池は、中性および弱酸性の両方の電解質で動作することができる。正極基材としてカーボンナノファイバーペーパーを、水素負極電極触媒としてRuP
2/Cを、電解質として3M MnSO
4または3M MnSO
4に50mM H
2SO
4を加えたものを用いることで、Mn-H
2電池の作製を実現した。
図5は、RuP
2/CおよびPt/Cの両方を水素負極として用いたMn-Hセルの電気化学性能を示している。電極触媒としてRuP
2/Cを用いたMn-Hセル(Mn-Ruセルと表記)は、電極触媒としてPt/Cを用いたMn-Hセル(Mn-Ptセルと表記)と同等の性能を示している。Mn-Ruセルの放電挙動(
図5のパネルa)およびレート容量(
図5のパネルb)は、Mn-Ptセル(
図9)と同等である。さらに、Mn-Ruセルは約125Ah l
-1の高い容量を有し、これは約124.8Ah l
-1の容量を持つMn-Ptセルと同様であることが示される。さらに、Mn-Ruセルは、5000サイクル後の容量低下がごくわずかで、安定したサイクル寿命を示している。(
図5のパネルc)。SEM(
図10)およびTEM(
図5のパネルd、
図11)の特性評価により、Mn-Ruセルのエネルギー貯蔵メカニズムが確認された。
例3
中性のLMO-H
2電池
【0123】
正極としてLiMn
2O
4を、水素負極としてRuP
2/Cを、電解質として1M Li
2SO
4を用いることで、LMO-H
2電池を作製した。
図12は、LMO-Ru電池の異なるレートでの典型的な充放電曲線を示している。LMO-Ruセルは、0.5℃で約1.3Vの放電電位および約108mAh g
-1の比容量を示し、LMO-H
2電池の開発に成功したことを実証している。
例4
アルカリ性のニッケル水素電池
【0124】
工業的に成熟したNi(OH)
2/NiOOHを正極として、RuP
2/Cを水素負極として用いることで、30%KOHの電解質中でアルカリ性のNi-H
2電池を作製した。RuP
2/CおよびPt/Cの電極触媒を用いたNi-H電池を、それぞれNi-RuセルおよびNi-Ptセルと表記する。そのようなNi-RuセルおよびNi-Ptセルの電気化学性能を
図6のパネルaに示す。Ni-Ruセルは、Ni-Ptセルと同等の充放電挙動を示している(
図6のパネルa)。また、所望のレート容量(
図6のパネルb)および異なる電流密度の下での容量維持率(
図6のパネルc)も示している。さらに、Ni-Ruセルは、1000サイクルの安定したサイクル寿命を示している。(
図6のパネルd)。
例5
RuP
2/Cの作製および電極触媒活性
【0125】
RuP2/Cは、RuCl3とフィチン酸とを、室温で1時間撹拌下に純水に溶解することで均一に混合した後、3日間凍結乾燥するという2段階の化学的方法で調製した。RuP2および炭素のその場形成は、固体の前駆体をアルゴン中800℃で2時間かけて毎分5℃の昇温速度でアニールすることで実現された。サンプルを室温で冷却し、3M H2SO4、続いてDI水で洗浄し、80℃で12時間真空乾燥した。
【0126】
RuP2/Cの粉末とPVDFとをNMP中で9:1の質量比で混合し、20mg ml-1の濃度を有するスラリーを形成した。この懸濁液を約24時間撹拌し、次いでニッケルフォームまたはガス拡散電極の上にコーティングする前に30分間の超音波浴に供した。このニッケルフォームをRuP2/C懸濁液に約1分間浸漬し、次いで取り出して真空オーブンで80℃にて約24時間乾燥させた。浸漬-含浸-乾燥のプロセスを複数回適用することにより、RuP2/Cのニッケルフォームへの負荷量を増加させた。このRuP2/C懸濁液をガス拡散電極上にドロップキャストし、真空オーブンで80℃にて約24時間乾燥させた。
【0127】
前駆体にフィチン酸を添加しない以外は、同じ方法でRu/C電極を作製した。
【0128】
RuP
2/Cは、絡み合ったナノフレークに固定された2~5nmのサイズを有するナノ粒子の形態を示している(
図2のパネルaおよびb)。RuP
2/Cの走査型透過電子顕微鏡画像および元素マッピングは、均一に分散したナノ粒子と、それに対応するRu、P、CおよびNの元素を示している(
図7)。
図2のパネルcは、RuP
2/CのXRDスペクトルを示しており、電極触媒の組成および結晶構造が確認される。合成されたRuP
2/Cの利点を見分けるために、フィチン酸をプロセスで伴わない同様の方法でRu/Cの対照サンプルを調製した。Ru/C複合体には、20~200nmのサイズのRuナノ粒子が形成されていることがわかる(
図8のパネルa)。Ru/Cは、立方晶および六方晶の結晶構造で構成されている。(
図8のパネルb)。
【0129】
このRuP
2/CのHERおよびHORに対する電極触媒活性を、異なるH
2飽和電解質中での典型的な回転ディスク電極(RDE)測定によって調べた(
図3)。対照として、先行技術のPt/Cおよび合成されたRu/C電極触媒を含めた。RuP
2/Cの分極曲線は良好なHER/HOR性能を示しており、これは先行技術のPt/C触媒に匹敵し、Ru/Cよりも優れている。RuP
2/C電極触媒のごくわずかな過電位と高い比活性とは、RuP
2/CがすべてのpH範囲で優れたHER/HOR活性を有することを示している。
例6
異なる電解質中でのRuP
2/C電極触媒の電気化学性能
【0130】
このRuP
2/CのHERおよびHORに対する電極触媒活性は、異なるH
2飽和電解質(0.05M H
2SO
4、0.1M PBS、および0.1M KOH)中での典型的な回転ディスク電極(RDE)測定によって調べた(
図3)。対照として、先行技術のPt/Cおよび合成されたRu/C電極触媒を含めた。RuP
2/Cの分極曲線は良好なHER/HOR性能を示しており、これは先行技術のPt/C触媒に匹敵し、Ru/Cよりも優れている。RuP
2/C電極触媒のごくわずかな過電位と高い比活性とは、RuP
2/CがすべてのpH範囲で優れたHER/HOR活性を有することを示している。
方法
PbO
2、LiMn
2O
4およびNi(OH)
2の電極の作製
【0131】
PbO2およびNi(OH)2の電極は、市販の鉛蓄電池およびニッケル水素電池(エネループ,パナソニック)から入手し、それぞれPb-H2電池およびNi-H2電池の正極として使用した。LiMn2O4正極は、LiMn2O4パワーとPVDFおよびスーパーPとをNMP中で8:1:1の割合で混合してスラリーを形成し、ドクターブレードを用いてステンレス鋼箔上にキャストすることで調製した。続いて、LiMn2O4正極を、真空オーブンで80℃の温度にて24時間乾燥させた。
電気化学測定
【0132】
セルの電気化学測定は、Biologic VMP3マルチチャンネル電気化学ワークステーション(Bio-Logic Inc.フランス国)で行った。ガルバノスタット充放電測定を、異なる電流でカットオフ容量まで充電し、設定したカットオフ電圧まで放電することで行った。Pb-H2電池およびMn-H2電池に定電圧充電および定電流放電を適用した。測定はすべて室温(約20℃)で行った。
【0133】
触媒を作用電極、飽和カロメル電極(SCE)を参照電極、黒鉛棒を対向電極とする典型的な3電極構成で回転ディスク電極(RDE)測定を行うことで、RuP2/C、Ru/CおよびPt/C触媒のHER/HORに対する電極触媒活性を調べた。参照電極は、H2飽和0.1M KOH電解質中の可逆性水素電極(RHE)に対して校正し、E(RHE)=E(SCE)+1.01Vの関係が得られた。RDE電極上に触媒を調製するために、5重量%のナフィオンを加えて超音波浴下で約30分かけて均質なインクを形成することで、異なる触媒をエタノールと純水との混合液(体積比1:1)に分散させた。続いて、懸濁液10μlをグラッシーカーボンRDE(直径5mm)にドロップキャストし、次いで真空乾燥させた。サイクリックボルタンメトリー曲線およびリニアスイープボルタンメトリー曲線を5mV s-1で記録した。報告された電流密度は、電極の幾何学的な面積で規格化されている。
材料特性評価
【0134】
触媒は、X線回折(XRD)、走査型電子顕微鏡(SEM)および透過型電子顕微鏡(TEM)によって特性決定した。材料の結晶性および構造は、PANalytical X'Pert回折計により銅のK端X線を用いて調べた。製品の形態は、FEI XL30 Sirion SEMで観察した。FEI Tecnai G2 F20 X-TWIN TEMで、TEMおよびエネルギー分散型X線分光法(EDS)を行った。
【0135】
特に定義されていない限り、本明細書で使用されているすべての技術的および科学的な用語は、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者によって一般的に理解されているものと同じ意味を有している。
【0136】
本明細書に例示的に記載されている本発明は、本明細書で具体的に開示されていない任意の要素または複数の要素、限定または複数の限定がない場合でも適切に実施することができる。したがって、例えば、「備える・含む(comprising」、「含む(including)」、「含有する(containing)」などの用語は、限定するものではなく拡張的に読まれるものとする。さらに、本明細書で用いられている用語および表現は、限定するものではなく説明のための用語として使用されており、そのような用語および表現の使用には、説明および示された特徴またはその一部の任意の均等物を除外する意図はないが、特許請求された発明の範囲内でさまざまな変更が可能であることが認識される。
【0137】
したがって、本発明を好ましい実施形態および任意の特徴によって具体的に開示してきたが、本明細書に開示されるそこで具体化された発明の変更、改良および変形は、当業者が行うことができ、そのような変更、改良および変形は、本発明の範囲内であると考えられることが理解されるべきである。ここで提供される材料、方法および例は、好ましい実施形態を代表するものであり、例示的なものであり、本発明の範囲を限定することを意図したものではない。
【0138】
本明細書では、本発明を広範かつ一般的に説明してきた。一般的な開示の中に含まれるより狭義の種類および下位概念グループのそれぞれも本発明の一部を形成する。これには、本発明の一般的な記述に、属からの任意の主題を取り除く但し書きまたは否定的な限定を付したものが含まれ、この場合、除外された物が本明細書に具体的に記載されているか否かは無関係である。
【0139】
さらに、本発明の特徴または態様がマーカッシュグループの観点から説明されている場合、当業者は、本発明がそれによりマーカッシュグループのメンバーの任意の個々のメンバーまたはサブグループの観点からも説明されていることを認識するであろう。
【0140】
本明細書に記載されているすべての出版物、特許出願、特許およびその他の参考文献は、それぞれが個別に参照により援用されている場合と同じ程度に、その全体が参照により明示的に援用されている。矛盾が生じている場合は、定義を含めた本明細書が優先される。
【0141】
本開示を、上記の実施形態に関連して説明してきたが、前述の説明および例は、本開示の範囲を示すことを意図しており、限定するものではないことを理解されたい。本開示の範囲内の他の態様、利点および変更は、本開示が属する技術分野の当業者には明らかであろう。