(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-08
(45)【発行日】2024-08-19
(54)【発明の名称】電動工具
(51)【国際特許分類】
B25F 5/00 20060101AFI20240809BHJP
【FI】
B25F5/00 G
(21)【出願番号】P 2020064781
(22)【出願日】2020-03-31
【審査請求日】2022-12-12
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002527
【氏名又は名称】弁理士法人北斗特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】瀬古 真司
(72)【発明者】
【氏名】清水 秀規
【審査官】須中 栄治
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-160181(JP,A)
【文献】特開2019-098427(JP,A)
【文献】特開2013-202694(JP,A)
【文献】特開2020-046049(JP,A)
【文献】特開2005-287912(JP,A)
【文献】特開2004-361580(JP,A)
【文献】特開平08-006418(JP,A)
【文献】中国実用新案第207788865(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25F1/00-5/02
B25D1/00-17/32
B23D45/00-65/04
B27B1/00-23/00
B27G1/00-23/00
B28D1/00-7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端工具が保持される保持部と、
ステータ及び前記ステータに対して回転するロータを有するモータと、
前記ロータの回転を前記先端工具に伝達する伝達機構と、を備えた電動工具であって、
前記ロータは、前記伝達機構に連結された回転軸と、前記回転軸と共に回転するロータ本体と、を有し、
前記電動工具は、少なくとも前記ロータ本体を含み回転する回転体を備え、
前記電動工具は、潤滑剤を吸い込む性質を有し前記回転体と前記伝達機構との間に配置された吸収部材を更に備え、
前記吸収部材は、前記回転体に固定されて
おり、
前記電動工具は、前記回転体と前記伝達機構との間に配置された固定部を更に備え、
前記ロータは、前記固定部に対して回転し、
前記電動工具は、前記回転軸を回転可能に保持する軸受を更に備え、
前記固定部は、前記軸受を保持する軸受保持台を含み、
前記吸収部材は、前記回転軸の軸方向における前記回転体と前記軸受保持台との間に配置されている、
電動工具。
【請求項2】
前記吸収部材は、前記固定部に接している、
請求項1に記載の電動工具。
【請求項3】
前記吸収部材は、前記回転体に接している、
請求項1又は2に記載の電動工具。
【請求項4】
前記回転体は、ファンを更に含む、
請求項1~3のいずれか一項に記載の電動工具。
【請求項5】
前記吸収部材は、前記回転軸が通される貫通孔を有する、
請求項1~4のいずれか一項に記載の電動工具。
【請求項6】
前記吸収部材は、材料として不織布を含む、
請求項1~5のいずれか一項に記載の電動工具。
【請求項7】
前記吸収部材は、耐熱性を有する、
請求項1~6のいずれか一項に記載の電動工具。
【請求項8】
前記吸収部材の形状は、シート状である、
請求項1~7のいずれか一項に記載の電動工具。
【請求項9】
前記モータ及び前記伝達機構を収容しているハウジングを更に備え、
前記ハウジングは、前記回転体と対向する位置と、前記回転体から見て前記伝達機構側とは反対側の位置と、のうち少なくとも一方に、通気孔を有する、
請求項1~8のいずれか一項に記載の電動工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は一般に電動工具に関し、より詳細には、先端工具を保持する電動工具に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載の電動工具は、駆動源であるモータと、モータの回転動力を減速したうえで伝達する減速機構部と、減速機構部を介して伝達された回転動力を出力軸にまで伝達する駆動伝達部とを備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1記載の電動工具では、減速機構部又は駆動伝達部等に潤滑剤が塗布されている場合に、潤滑剤が移動してモータ(回転体)に到達する可能性があった。よって、モータの回転力により潤滑剤がモータの周囲に飛散する可能性があった。
【0005】
本開示は、潤滑剤が飛散する可能性を低減できる電動工具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様に係る電動工具は、保持部と、モータと、伝達機構と、を備える。前記保持部には、先端工具が保持される。前記モータは、ステータ及びロータを有する。前記ロータは、前記ステータに対して回転する。前記伝達機構は、前記ロータの回転を前記先端工具に伝達する。前記ロータは、回転軸と、ロータ本体と、を有する。前記回転軸は、前記伝達機構に連結されている。前記ロータ本体は、前記回転軸と共に回転する。前記電動工具は、回転体を備える。前記回転体は、少なくとも前記ロータ本体を含む。前記回転体は、回転する。前記電動工具は、吸収部材を更に備える。前記吸収部材は、潤滑剤を吸い込む性質を有する。前記吸収部材は、前記回転体と前記伝達機構との間に配置されている。前記吸収部材は、前記回転体に固定されている。前記電動工具は、前記回転体と前記伝達機構との間に配置された固定部を更に備える。前記ロータは、前記固定部に対して回転する。前記電動工具は、前記回転軸を回転可能に保持する軸受を更に備える。前記固定部は、前記軸受を保持する軸受保持台を含む。前記吸収部材は、前記回転軸の軸方向における前記回転体と前記軸受保持台との間に配置されている。
【発明の効果】
【0007】
本開示は、潤滑剤が飛散する可能性を低減できるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、一実施形態に係る電動工具の斜視図である。
【
図3】
図3は、同上の電動工具の要部の断面図である。
【
図4】
図4Aは、比較例に係る電動工具の要部の断面図である。
図4Bは、一実施形態に係る電動工具の要部の断面図である。
【
図5】
図5は、同上の電動工具の要部の、後側から見た分解斜視図である。
【
図6】
図6は、同上の電動工具の要部の、前側から見た分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(実施形態)
以下、実施形態に係る電動工具1について、図面を用いて説明する。ただし、下記の実施形態は、本開示の様々な実施形態の1つに過ぎない。下記の実施形態は、本開示の目的を達成できれば、設計等に応じて種々の変更が可能である。また、下記の実施形態において説明する各図は、模式的な図であり、図中の各構成要素の大きさ及び厚さそれぞれの比が必ずしも実際の寸法比を反映しているとは限らない。
【0010】
(1)概要
図1、
図2に示すように、本実施形態の電動工具1は、保持部71と、モータ3と、伝達機構4と、を備える。保持部71には、先端工具72が保持される。モータ3は、ステータ32及びロータ31を有する。ロータ31は、ステータ32に対して回転する。伝達機構4は、ロータ31の回転を先端工具72に伝達する。ロータ31は、回転軸311と、ロータ本体310と、を有する。回転軸311は、伝達機構4に連結されている。ロータ本体310は、回転軸311と共に回転する。電動工具1は、回転体R1を備える。回転体R1は、少なくともロータ本体310を含む。回転体R1は、回転する。電動工具1は、吸収部材AB1を更に備える。吸収部材AB1は、潤滑剤を吸い込む性質を有する。吸収部材AB1は、回転体R1と伝達機構4との間に配置されている。
【0011】
本実施形態によれば、伝達機構4又はその周辺の部材に潤滑剤が塗布されている場合に、潤滑剤が移動して回転体R1に到達することを吸収部材AB1により抑制できる。よって、回転体R1の回転力により潤滑剤が回転体R1の周囲に飛散する可能性を低減できる。
【0012】
本実施形態では、回転体R1は、ロータ本体310とファン33とを含む。つまり、回転体R1は、ファン33を更に含む。ファン33は、ロータ本体310と共に回転する。
【0013】
(2)詳細
電動工具1は、作業者が片手で把持可能な可搬型の電動工具である。
【0014】
図2に示すように、本実施形態の電動工具1は、モータ3と、伝達機構4と、ケース6と、ハウジング2と、を備える。伝達機構4は、モータ3の回転軸311の回転を先端工具72(
図1参照)に伝達する。ケース6は、伝達機構4の少なくとも一部を収容している。ハウジング2は、モータ3、伝達機構4及びケース6を収容している。
【0015】
電動工具1は、先端工具72であるビット(ドライバービット)を保持するための保持部71を備える。保持部71には、先端工具72が着脱可能に装着される。伝達機構4は、モータ3の回転を利用して先端工具72を駆動する。本実施形態の電動工具1では、伝達機構4は、インパクト機構IM1を含む。本実施形態の電動工具1は、インパクト機構IM1による打撃力でねじ締め作業を行う電動式のインパクトドライバーである。
【0016】
電動工具1には、充電式の電池パック9(
図1参照)が着脱可能に取り付けられる。電動工具1は、電池パック9を電源として動作する。電池パック9は、電動工具1の構成要素ではない。ただし、電動工具1は、電池パック9を備えていてもよい。電池パック9は、複数の二次電池(例えば、リチウムイオン電池)を直列接続して構成された組電池と、組電池を収容した電池パックケース90と、を備えている。電池パック9は、電池パック9の情報を示す電池情報を通信するための、通信用コネクタを備える。電池情報には、例えば、温度情報、残容量情報、定格電圧情報、定格容量情報、充電回数の情報等が含まれる。
【0017】
図1、
図2に示すように、電動工具1のハウジング2は、胴体部21と、グリップ部22と、ベース部23と、を有する。胴体部21の形状は、中空の筒状である。グリップ部22は、胴体部21の外周面から胴体部21の一径方向に沿った一方向に突出している。グリップ部22は、上記一方向に長い中空の筒形状に形成されている。グリップ部22の内部空間は、胴体部21の内部空間とつながっている。グリップ部22の長手方向の一端には、胴体部21がつながっており、他端には、ベース部23がつながっている。ベース部23には、電池パック9が着脱可能に取り付けられる。
【0018】
図2に示すように、電動工具1は、スイッチ回路モジュール81と、操作部82と、正逆切換スイッチ83と、を更に備える。また、電動工具1は、制御回路モジュールを更に備える。
【0019】
スイッチ回路モジュール81は、グリップ部22の内部空間に配置されている。スイッチ回路モジュール81は、制御回路モジュールと接続されている。制御回路モジュールは、ベース部23に収容されている。
【0020】
スイッチ回路モジュール81は、メインスイッチを含む。メインスイッチは、電池パック9からモータ3に電力を供給するための電力供給路を開閉する。操作部82は、電動工具1の使用者の指によって操作されるトリガレバーである。操作部82は、スイッチ回路モジュール81に連結されている。操作部82は、操作者の指による操作によってグリップ部22に引き込まれる。
【0021】
スイッチ回路モジュール81では、操作部82の引き込み量が所定量以下の場合にはメインスイッチがオフし、操作部82の引き込み量が所定量を超えるとメインスイッチがオンする。これにより、スイッチ回路モジュール81は、電池パック9からモータ3への電力の供給と遮断とを切り換える。また、スイッチ回路モジュール81は、操作部82の引き込み量が上記の所定量を超えると、操作部82の引き込み量に応じた操作信号を、制御回路モジュールに送信する。これにより、操作部82の引き込み量に応じて、モータ3へ供給される電力の大きさが変化し、これにより、モータ3の回転軸311の回転速度が変化する。
【0022】
また、スイッチ回路モジュール81は、正逆切換スイッチ83に接続されている。正逆切換スイッチ83は、モータ3の回転軸311の回転方向を切り換えるためのスイッチである。正逆切換スイッチ83は、胴体部21とグリップ部22との境界付近に設けられている。
【0023】
制御回路モジュールは、スイッチ回路モジュール81及びモータ3と接続されている。制御回路モジュールは、電池パック9が電動工具1に取り付けられた状態で、電池パック9の一対の電源端子及び通信コネクタに接続される。これにより、制御回路モジュールには、一対の電源端子を介して電池パック9から電力が供給される。また、制御回路モジュールは、通信コネクタを介して電池パック9から電池情報を取得する。また、制御回路モジュールは、スイッチ回路モジュール81からの操作信号に基づいて、モータ3を制御する。より詳細には、制御回路モジュールは、モータ3の回転軸311の回転速度及び回転方向等を制御する。
【0024】
モータ3は、ブラシレスモータである。モータ3は、ロータ31と、ステータ32と、を有する。ロータ31は、ロータ本体310と、回転軸311と、複数の永久磁石312と、を有する。ステータ32は、ステータ本体320と、複数のコイル321と、を有する。
【0025】
ロータ本体310は、磁性材料により形成されたロータコアである。回転軸311及び複数の永久磁石312は、ロータ本体310に保持されている。回転軸311及び複数の永久磁石312は、ロータ本体310と共に回転する。
【0026】
ステータ本体320は、磁性材料により形成されたステータコアである。ステータ本体320は、ロータ本体310の周囲に配置されている。すなわち、ステータ本体320は、ロータ本体310を囲んでいる。複数のコイル321は、ステータ本体320に巻かれている。
【0027】
ロータ31は、ステータ32に対して回転する。すなわち、複数のコイル321から発生する磁束が複数の永久磁石312に作用することにより、ロータ31が回転する。ロータ31の回転力(駆動力)は、回転軸311から伝達機構4へ伝達される。
【0028】
電動工具1は、ファン33と、駆動回路モジュール34と、を備える。ファン33及び駆動回路モジュール34は、ハウジング2に収容されている。より詳細には、ファン33及び駆動回路モジュール34は、ハウジング2の胴体部21に収容されている。
【0029】
図3、
図5に示すように、ファン33は、複数の羽根331と、円環部332と、ハブ333と、を有する。ハブ333の形状は、有底筒状である。ハブ333の底面3330には、モータ3の回転軸311が通される貫通孔3331が形成されている。ハブ333は、モータ3の回転軸311に連結されている。これにより、ファン33は、回転軸311及びロータ本体310と共に回転する。
【0030】
円環部332の形状は、平面視円環形の板状である。ハブ333は、円環部332の内縁からロータ本体310側へ突出している。複数の羽根331は、円環部332の表面(ロータ本体310側の面)からロータ本体310側へ突出している。複数の羽根331は、放射状に設けられている。
【0031】
図2に示す駆動回路モジュール34は、制御回路モジュールにより制御されてモータ3を駆動する。駆動回路モジュール34は、回路基板と、回路基板に実装された複数のトランジスタと、回路基板及び複数のトランジスタを封止している封止部と、を含む。
【0032】
回転軸311の軸方向(長さ方向)において、駆動回路モジュール34、ロータ本体310、ファン33、吸収部材AB1及び伝達機構4がこの順に並んでいる。
【0033】
ハウジング2は、モータ3及び伝達機構4を収容している。ハウジング2は、ケース6を更に収容している。より詳細には、モータ3、伝達機構4及びケース6は、ハウジング2の胴体部21に収容されている。胴体部21は、複数の通気孔211、212(
図1参照)を有している。通気孔211、212は、回転体R1と対向する位置と、回転体R1から見て伝達機構4側とは反対側(駆動回路モジュール34側)の位置と、のうち少なくとも一方に設けられている。本実施形態では、回転体R1と対向する位置に複数の通気孔211が設けられ、回転体R1から見て伝達機構4側とは反対側の位置に複数の通気孔212が設けられている。
【0034】
図3に示すように、伝達機構4は、駆動軸41と、ハンマ42と、コイルばね43と、スピンドル44と、打撃部45と、第1軸受46と、第2軸受47と、遊星歯車機構48と、2つの鋼球49と、を有する。
【0035】
モータ3の回転軸311は、遊星歯車機構48に連結されている。モータ3の回転軸311の回転は、遊星歯車機構48を介して駆動軸41に伝達される。伝達機構4におけるインパクト機構IM1は、駆動軸41、ハンマ42、コイルばね43、スピンドル44、打撃部45及び2つの鋼球49を含む。モータ3の回転軸311の回転は、インパクト機構IM1によりスピンドル44に伝達される。スピンドル44の先端は、保持部71(
図2参照)の一部を兼ねている。
【0036】
モータ3と第2軸受47との間の距離は、モータ3と第1軸受46との間の距離よりも短い。駆動軸41は、第2軸受47に回転可能に支持されている。スピンドル44は、第1軸受46に回転可能に支持されている。駆動軸41は、スピンドル44と連結されている。よって、スピンドル44は、駆動軸41と共に回転する。
【0037】
ハンマ42は、ハンマ本体420を有する。ハンマ本体420は、駆動軸41を通す貫通孔421を有する。ハンマ本体420は、貫通孔421の内周面に溝部423を有する。溝部423と、駆動軸41の外周面に設けられた溝部413との間に2つの鋼球49が挟まれている。2つの鋼球49が溝部413を移動し、これに伴い、ハンマ42は、駆動軸41に対して、駆動軸41の軸方向に移動可能であり、かつ、駆動軸41に対して回転可能である。伝達機構4では、ハンマ42が駆動軸41に対して回転すると、その角度に応じてハンマ42が駆動軸41の軸方向に沿ってスピンドル44に近づく方向又はスピンドル44から遠ざかる方向に移動する。
【0038】
ハンマ42は、ハンマ本体420のスピンドル44側の面424(
図6参照)から突出した2つの突起425(
図6参照)を有する。ハンマ本体420の外形形状は円柱状である。2つの突起425は、ハンマ本体420の周方向において略等間隔で配置されている。2つの突起425は、打撃部45を打撃可能(打撃部45と衝突可能)である。駆動軸41の軸方向の一方から見て、2つの突起425の各々の形状は、扇状である。打撃部45は、スピンドル44と一体に形成されている。
【0039】
コイルばね43は、ハンマ42と遊星歯車機構48との間に配置されている。コイルばね43は、円錐コイルばねである。インパクト機構IM1は、ハンマ42とコイルばね43との間に挟まれた複数の鋼球50及びリング51を更に含む。これにより、ハンマ42は、コイルばね43に対して回転可能である。ハンマ42は、駆動軸41の軸方向に沿った方向において打撃部45側への力をコイルばね43から受けている。
【0040】
インパクト機構IM1では、駆動軸41が略半回転するごとにハンマ42と打撃部45とが衝突する。衝突後、駆動軸41がモータ3の駆動力によって回転し続け、ハンマ42は、コイルばね43を圧縮させながら、スピンドル44から遠ざかる方向に移動するので、ハンマ42が打撃部45を乗り越えて次の衝突が発生する。
【0041】
遊星歯車機構48は、モータ3の回転軸311の回転速度とトルクとを、ねじ回し動作に必要な回転速度とトルクとに変換する。遊星歯車機構48は、減速装置である。遊星歯車機構48は、太陽歯車481と、2つの遊星歯車482と、リングギア483と、を含む。太陽歯車481は、モータ3の回転軸311に連結されている。2つの遊星歯車482は、太陽歯車481の外側で太陽歯車481に噛み合う。リングギア483は、2つの遊星歯車482に噛み合い、2つの遊星歯車482を支持している。
【0042】
電動工具1は、軸受53(第3軸受)と、第4軸受54(
図2参照)と、を更に備えている。伝達機構4と軸受53との間の距離は、伝達機構4と第4軸受54との間の距離よりも短い。軸受53及び第4軸受54は、モータ3の回転軸311を回転可能に支持している。第4軸受54は、ハウジング2に保持されている。
【0043】
ケース6は、取付ベース61と、カバー62と、を有する。カバー62は、合金により形成されている。カバー62の形状は、筒状である。カバー62は、伝達機構4の少なくとも一部を囲んでいる。
【0044】
取付ベース61は、電気絶縁性を有する。取付ベース61は、合成樹脂により形成されている。取付ベース61には、軸受53が取り付けられる。取付ベース61の内側には、遊星歯車機構48が配置されている。取付ベース61は、カバー62の一端(モータ3側の端)を覆うようにカバー62に結合されている。
【0045】
図5、
図6に示すように、取付ベース61の外形形状は円柱状である。取付ベース61は、モータ3の回転軸311の軸方向に沿った方向において、ロータ本体310から離れるにつれて外径が段階的に大きく形成されている。
【0046】
取付ベース61は、互いに外径が異なる大径部611と中径部612と小径部613とを含む。大径部611、中径部612及び小径部613のうち大径部611の外径が最も大きく、小径部613の外径が最も小さい。モータ3の回転軸311の軸方向に沿った方向において、大径部611、中径部612及び小径部613のうち小径部613がロータ本体310に最も近い位置に配置され、大径部611がロータ本体310から最も遠い位置に配置される。大径部611、中径部612及び小径部613の形状は、同心の有底円筒状である。大径部611には貫通孔6110が、中径部612には貫通孔6120が、小径部613には貫通孔6130が形成されている。貫通孔6110、6120、6130はつながっている。貫通孔6110、6120、6130には、回転軸311が通されている。
【0047】
また、取付ベース61は、複数(
図5では4つ)の突出部615を有する。複数の突出部615は、中径部612の周囲に等間隔に設けられている。複数の突出部615は、中径部612とつながっている。
【0048】
図3に示すように、回転軸311を支持する軸受53は、小径部613の貫通孔6130内に配置されている。軸受53の外径は貫通孔6130の内径と略同じである。
【0049】
小径部613は、中径部612側とは反対側の端に、凸部6131を有している。小径部613は、凸部6131においてロータ本体310側へ突出している。凸部6131の形状は、環状(より詳細には、円環状)である。
【0050】
駆動軸41を支持する第2軸受47は、中径部612の貫通孔6120内に配置されている。第2軸受47の外径は、貫通孔6120の内径と略同じである。
【0051】
遊星歯車機構48のリングギア483は、取付ベース61に保持されている。リングギア483は、取付ベース61にインサート成形されている。したがって、リングギア483は、取付ベース61に固定されている。リングギア483は、大径部611の貫通孔6110内に配置されている。
【0052】
回転軸311の軸方向(長さ方向)において、駆動回路モジュール34、ロータ本体310、ファン33、吸収部材AB1及び伝達機構4がこの順に並んでいる。また、吸収部材AB1と伝達機構4との間に、軸受53と、取付ベース61の少なくとも一部(小径部613)とが配置されている。
【0053】
(3)潤滑剤
伝達機構4のうち、例えば、遊星歯車機構48及びハンマ42等には、潤滑剤が塗られている。したがって、ケース6には、潤滑剤が収容されている。潤滑剤は、伝達機構4の摩擦及び摩耗等を抑制するために用いられる。潤滑剤は、電気絶縁性を有する。潤滑剤は、例えば、半固体潤滑剤である。より詳細には、潤滑剤は、合成炭化水素油系のグリスである。
【0054】
(4)吸収部材
図6に示すように、吸収部材AB1の形状は、シート状である。吸収部材AB1の平面視形状は、環状(より詳細には、円環状)である。つまり、吸収部材AB1は、貫通孔AB10を有する。貫通孔AB10には、回転軸311が通される。
【0055】
吸収部材AB1は、潤滑剤を吸い込む性質を有する。吸収部材AB1は、材料として不織布(フェルト)を含む。本実施形態では、吸収部材AB1は、不織布のみからなる。不織布の原料としては、例えば、ポリエステル系繊維が用いられる。
【0056】
吸収部材AB1は、耐熱性を有する。吸収部材AB1は、軸受53の近傍に配置されており、軸受53は回転軸311と摺動することで熱を発生する。そのため、吸収部材AB1は、軸受53が到達する温度以下の条件で物性を維持することが好ましい。例えば、吸収部材AB1は、100℃程度の温度以下の条件で物性を維持することが好ましい。100℃程度とは、例えば、90℃以上110℃以下の範囲である。
【0057】
また、吸収部材AB1は、難燃性を有する。吸収部材AB1は、例えば、UL94-V0に適合する難燃性を有する。
【0058】
図3に示すように、吸収部材AB1は、回転体R1と伝達機構4との間に配置されている。本実施形態では、回転体R1は、ロータ本体310とファン33とを含む。ロータ本体310と伝達機構4との間にファン33が配置されており、ファン33と伝達機構4との間に吸収部材AB1が配置されている。
【0059】
電動工具1は、回転体R1と伝達機構4との間に配置された固定部(取付ベース61)を備える。ロータ31は、固定部(取付ベース61)に対して回転する。吸収部材AB1は、回転体R1と固定部(取付ベース61)との間に配置されている。
【0060】
より詳細には、固定部(取付ベース61)は、軸受保持台(小径部613)を含む。軸受保持台(小径部613)は、回転軸311を回転可能に保持する軸受53を保持する。吸収部材AB1は、回転体R1と軸受保持台(小径部613)との間に配置されている。
【0061】
吸収部材AB1は、固定部(取付ベース61)に接している。より詳細には、吸収部材AB1は、軸受保持台(小径部613)に接している。また、吸収部材AB1は、回転体R1に接している。より詳細には、吸収部材AB1は、ファン33に接している。つまり、吸収部材AB1は、小径部613とファン33との間に挟まれている。吸収部材AB1は、小径部613とファン33とから圧力を受けて圧縮されている。小径部613は、吸収部材AB1と対向する位置に、凸部6131を有している。小径部613は、凸部6131において吸収部材AB1に接している。
【0062】
吸収部材AB1は、回転体R1に固定されている。より詳細には、吸収部材AB1は、回転体R1のファン33に固定されている。すなわち、ファン33のハブ333の底面3330(伝達機構4側の面)に、吸収部材AB1が固定されている。吸収部材AB1の固定方法としては、例えば、両面テープ又は接着剤等を介した接着固定を採用できる。
【0063】
吸収部材AB1は、軸受53と対向している。吸収部材AB1は、軸受53と回転体R1(ファン33)との間に配置されている。軸受53の内縁は、吸収部材AB1の貫通孔AB10の内縁よりも内側に位置する。
【0064】
(5)利点
本実施形態の電動工具1の利点について、
図3、
図4A、
図4Bを参照して説明する。
【0065】
上述の通り、伝達機構4のうち、例えば、遊星歯車機構48及びハンマ42等には、潤滑剤が塗られている。潤滑剤は、伝達機構4の動き及びそれに伴う振動等により移動して、回転体R1に到達する可能性がある。また、ハンマ42が回転軸311の軸方向に前進と後退とを繰り返すことで、ハンマ42付近の内圧が上昇し、これにより、潤滑剤がロータ本体310側へ押し出される可能性がある。また、例えば、潤滑剤の量が過剰である場合に、余分な潤滑剤が移動して、回転体R1に到達する可能性がある。また、潤滑剤として半固体又は潤滑剤又は固体潤滑剤を用いる場合に、ハウジング2内部の温度上昇により潤滑剤が液化することで、潤滑剤が移動しやすくなる可能性がある。
【0066】
ハンマ42に塗られた潤滑剤は、例えば、ハンマ42の回転によりケース6のカバー62の内面へ飛び散る可能性がある。さらに、インパクト機構IM1で生じる振動等により、潤滑剤が移動して、取付ベース61及び遊星歯車機構48へ移動する可能性がある。(
図3の矢印Y1で示す経路を参照。)
【0067】
潤滑剤が遊星歯車機構48の遊星歯車482に付着すると、潤滑剤は、遊星歯車482を伝って太陽歯車481に付着し、太陽歯車481を伝って軸受53に到達する可能性がある。(
図3の矢印Y2で示す経路を参照。)また、太陽歯車481、遊星歯車482及びリングギア483等に塗られた潤滑剤が同様にして、軸受53に到達する可能性がある。
【0068】
軸受53と回転軸311との間及び軸受53と取付ベース61との間には、隙間が無いことが望ましい。しかしながら、ハウジング2内の温度変化及びインパクト機構IM1で生じる振動等により、軸受53の周囲に、潤滑剤が通れる大きさの隙間が生じる可能性がある。よって、潤滑剤が軸受53の周囲の隙間を通過して、回転体R1に到達する可能性がある。
【0069】
図4Aに示すように、仮に吸収部材AB1が無いと、潤滑剤が回転体R1のファン33に付着し、ファン33の回転の遠心力によって潤滑剤がファン33の周囲に飛び散る可能性がある。(
図4Aの矢印Y3で示す経路を参照。)すると、潤滑剤がハウジング2の内面を伝ってロータ本体310に付着したり、潤滑剤が通気孔211又はその他の隙間からハウジング2の外部に漏れ出したりする可能性がある。
【0070】
これに対して、
図4Bに示すように、本実施形態では、吸収部材AB1が設けられており、吸収部材AB1により潤滑剤を吸収することができる。よって、潤滑剤がハウジング2の内面を伝ってロータ本体310に付着したり、潤滑剤が通気孔211又はその他の隙間からハウジング2の外部に漏れ出したりする可能性を低減できる。
【0071】
なお、吸収部材AB1がある程度の量の潤滑剤を吸収した場合に、潤滑剤の凝集性により、吸収部材AB1に吸収された潤滑剤に更に潤滑剤が凝集し得る。よって、吸収部材AB1自体が潤滑剤を吸収し得る量以上の量の潤滑剤を、吸収部材AB1に留めることができる。
【0072】
(実施形態の変形例)
以下、実施形態の変形例を列挙する。以下の変形例は、適宜組み合わせて実現されてもよい。
【0073】
吸収部材AB1は、不織布(フェルト)に限らず、他の材質であってもよい。吸収部材AB1は、例えば、スポンジ等の多孔質材料であってもよいし、不織布以外の布であってもよい。
【0074】
吸収部材AB1は、固定部(取付ベース61)と回転体R1とのうち、固定部に固定されていてもよいし、回転体R1に固定されていてもよい。あるいは、吸収部材AB1は、固定部にも回転体R1にも固定されず、固定部と回転体R1との間に挟まれて保持されていてもよい。
【0075】
吸収部材AB1の配置は、実施形態に示した配置に限定されない。吸収部材AB1は、例えば、軸受53と取付ベース61(固定部)との間、取付ベース61と伝達機構4との間、又は、伝達機構4と軸受53との間に配置されていてもよい。
【0076】
電動工具1は、ファン33を備えていなくてもよい。この場合に、吸収部材AB1は、例えば、ロータ本体310と固定部(取付ベース61)との間に配置されていればよい。
【0077】
ファン33は、ロータ本体310の後方に配置されていてもよい。つまり、ファン33と伝達機構4との間に、ロータ本体310が配置されていてもよい。この場合に、吸収部材AB1は、例えば、ロータ本体310と固定部(取付ベース61)との間に配置されていればよい。
【0078】
回転体R1は、ロータ本体310に加えて、中間部材を含んでいてもよい。中間部材は、ロータ本体310と伝達機構4との間に配置されロータ31と共に回転する。実施形態のファン33は、中間部材の一例である。
【0079】
電動工具1は、複数の吸収部材AB1を備えていてもよい。
【0080】
軸受53として、異物の侵入を抑制するシールを有したシールベアリングを用いてもよい。
【0081】
潤滑剤は、半固体潤滑剤に限らず、例えば、液体潤滑剤(潤滑油等)であってもよい。
【0082】
伝達機構4は、実施形態で説明した構成に限らず、遊星歯車機構48とは異なる歯車機構であってもよい。また、伝達機構4は、歯車に限らず、クラッチ板等を含んでいてもよい。
【0083】
電動工具1は、インパクトドライバーに限らず、例えば、インパクトレンチ、ドリルドライバー、ハンマドリル又はジグソー等でもよい。
【0084】
先端工具72は、保持部71に着脱可能に取り付けられてもよいし、保持部71に一体的に固定されていてもよい。
【0085】
(まとめ)
以上説明した実施形態等から、以下の態様が開示されている。
【0086】
第1の態様に係る電動工具(1)は、保持部(71)と、モータ(3)と、伝達機構(4)と、を備える。保持部(71)には、先端工具(72)が保持される。モータ(3)は、ステータ(32)及びロータ(31)を有する。ロータ(31)は、ステータ(32)に対して回転する。伝達機構(4)は、ロータ(31)の回転を先端工具(72)に伝達する。ロータ(31)は、回転軸(311)と、ロータ本体(310)と、を有する。回転軸(311)は、伝達機構(4)に連結されている。ロータ本体(310)は、回転軸(311)と共に回転する。電動工具(1)は、回転体(R1)を備える。回転体(R1)は、少なくともロータ本体(310)を含む。回転体(R1)は、回転する。電動工具(1)は、吸収部材(AB1)を更に備える。吸収部材(AB1)は、潤滑剤を吸い込む性質を有する。吸収部材(AB1)は、回転体(R1)と伝達機構(4)との間に配置されている。
【0087】
上記の構成によれば、伝達機構(4)又はその周辺の部材に潤滑剤が塗布されている場合に、潤滑剤が移動して回転体(R1)に到達することを吸収部材(AB1)により抑制できる。よって、回転体(R1)の回転力により潤滑剤が回転体(R1)の周囲に飛散する可能性を低減できる。
【0088】
また、第2の態様に係る電動工具(1)は、第1の態様において、固定部(取付ベース61)を更に備える。固定部は、回転体(R1)と伝達機構(4)との間に配置されている。ロータ(31)は、固定部に対して回転する。吸収部材(AB1)は、回転体(R1)と固定部との間に配置されている。
【0089】
上記の構成によれば、潤滑剤が固定部(取付ベース61)を伝って回転体(R1)に到達する可能性を低減できる。
【0090】
また、第3の態様に係る電動工具(1)は、第2の態様において、軸受(53)を更に備える。軸受(53)は、回転軸(311)を回転可能に保持する。固定部(取付ベース61)は、軸受保持台(小径部613)を含む。軸受保持台は、軸受(53)を保持する。吸収部材(AB1)は、回転体(R1)と軸受保持台との間に配置されている。
【0091】
上記の構成によれば、潤滑剤が軸受保持台(小径部613)を伝って回転体(R1)に到達する可能性を低減できる。
【0092】
また、第4の態様に係る電動工具(1)では、第2又は3の態様において、吸収部材(AB1)は、固定部(取付ベース61)に接している。
【0093】
上記の構成によれば、吸収部材(AB1)が位置ずれする可能性を低減できる。
【0094】
また、第5の態様に係る電動工具(1)では、第1~4の態様のいずれか1つにおいて、吸収部材(AB1)は、回転体(R1)に接している。
【0095】
上記の構成によれば、吸収部材(AB1)が位置ずれする可能性を低減できる。
【0096】
また、第6の態様に係る電動工具(1)では、第1~5の態様のいずれか1つにおいて、吸収部材(AB1)は、回転体(R1)に固定されている。
【0097】
上記の構成によれば、吸収部材(AB1)が位置ずれする可能性を低減できる。
【0098】
また、第7の態様に係る電動工具(1)では、第1~6の態様のいずれか1つにおいて、回転体(R1)は、ファン(33)を更に含む。
【0099】
上記の構成によれば、モータ(3)を通気できる。
【0100】
また、第8の態様に係る電動工具(1)では、第1~7の態様のいずれか1つにおいて、吸収部材(AB1)は、回転軸(311)が通される貫通孔(AB10)を有する。
【0101】
上記の構成によれば、回転軸(311)周りに吸収部材(AB1)を配置できる。
【0102】
また、第9の態様に係る電動工具(1)では、第1~8の態様のいずれか1つにおいて、吸収部材(AB1)は、材料として不織布を含む。
【0103】
上記の構成によれば、吸収部材(AB1)を、潤滑剤を吸い込みやすいように形成できる。
【0104】
また、第10の態様に係る電動工具(1)では、第1~9の態様のいずれか1つにおいて、吸収部材(AB1)は、耐熱性を有する。
【0105】
上記の構成によれば、モータ(3)で発生する熱により吸収部材(AB1)が劣化する可能性を低減できる。
【0106】
また、第11の態様に係る電動工具(1)では、第1~10の態様のいずれか1つにおいて、吸収部材(AB1)の形状は、シート状である。
【0107】
上記の構成によれば、吸収部材(AB1)の設置スペースを低減できる。
【0108】
また、第12の態様に係る電動工具(1)は、第1~11の態様のいずれか1つにおいて、ハウジング(2)を更に備える。ハウジング(2)は、モータ(3)及び伝達機構(4)を収容している。ハウジング(2)は、回転体(R1)と対向する位置と、回転体(R1)から見て伝達機構(4)側とは反対側の位置と、のうち少なくとも一方に、通気孔(211、212)を有する。
【0109】
上記の構成によれば、潤滑剤が通気孔(211、212)から漏れ出す可能性を低減しつつ、ハウジング(2)の内部空間を通気できる。
【0110】
第1の態様以外の構成については、電動工具(1)に必須の構成ではなく、適宜省略可能である。
【符号の説明】
【0111】
1 電動工具
2 ハウジング
211、212 通気孔
3 モータ
31 ロータ
311 回転軸
310 ロータ本体
32 ステータ
33 ファン
4 伝達機構
53 軸受
61 取付ベース(固定部)
613 小径部(軸受保持台)
71 保持部
72 先端工具
AB1 吸収部材
AB10 貫通孔
R1 回転体