(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-08
(45)【発行日】2024-08-19
(54)【発明の名称】イオン透過膜
(51)【国際特許分類】
B01D 61/28 20060101AFI20240809BHJP
B01D 61/46 20060101ALI20240809BHJP
B01D 69/02 20060101ALI20240809BHJP
B01D 71/02 20060101ALI20240809BHJP
B01D 71/34 20060101ALI20240809BHJP
B01D 71/36 20060101ALI20240809BHJP
D04H 1/413 20120101ALI20240809BHJP
D04H 1/4318 20120101ALI20240809BHJP
【FI】
B01D61/28
B01D61/46 500
B01D69/02
B01D71/02
B01D71/34
B01D71/36
D04H1/413
D04H1/4318
(21)【出願番号】P 2020123891
(22)【出願日】2020-07-20
【審査請求日】2023-06-30
(31)【優先権主張番号】P 2019169562
(32)【優先日】2019-09-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(72)【発明者】
【氏名】名木野 俊文
(72)【発明者】
【氏名】内海 省吾
【審査官】中村 泰三
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-508937(JP,A)
【文献】FENGLIN HUANG ET AL,Electrochemical Properties of LLTO/Fluoropolymer-Shell Cellulose-Core Fibrous Membrane for Separator of High Performance Lithium-Ion Battery,MATERIALS,2016年01月26日,vol. 9, no. 2,p. 75,DOI: 10.3390/ma9020075
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 61/00-58
B01D 69/02
B01D 71/00-82
C08J 5/18-24
D04H 1/413、4318
H01M 8/02-0297
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン伝導体粒子と繊維基材とを含むイオン透過膜であって、
前記イオン伝導体粒子が、前記繊維基材内部に埋め込まれた部分と、前記繊維基材表面に露出した部分とを有し、
前記イオン透過膜の厚み方向において、上面から下面まで、前記露出した部分が連続して
おり、
前記繊維基材の平均繊維径をAナノメートル(nm)、前記イオン伝導体粒子の平均粒子径をBナノメートル(nm)としたとき、B×0.2<A<Bを満たす、イオン透過膜。
【請求項2】
前記イオン伝導体粒子がリチウム(Li)を含む無機化合物である請求項1に記載のイオン透過膜。
【請求項3】
前記繊維基材が疎水性である請求項1または2に記載のイオン透過膜。
【請求項4】
前記繊維基材が、フッ化ビニリデンのホモポリマーおよびコポリマー、テトラフルオロエチレンのホモポリマーおよびコポリマー、ならびにクロロトリフルオロエチレンのホモポリマーおよびコポリマーからなる群より選択されるいずれか1つを含む、請求項1~3の何れか一つに記載のイオン透過膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はイオン透過膜に関する。
【背景技術】
【0002】
レアメタルは、携帯電話・スマートフォン、家電品、および自動車部品など数多くのハイテク機器において必要不可欠であるものの、安定的な資源確保が難しいことから、レアメタル回収技術に注目が集まりつつある。また、今まで産業廃棄していた廃液に処理工程を加えることで、廃棄することなく再利用する技術も重要視されている。レアメタル回収技術および廃液の再利用技術には、イオン交換樹脂または吸着剤を用いることが主流であるが、近年、循環型社会構築のために環境に配慮した回収・再利用プロセスとして様々な機能膜を用いる分離技術活用が有効的と考えられつつある。
【0003】
特に近年、リチウムイオン電池の原材料として、リチウム(Li)の産業上における重要性が高まっている。特に電気自動車(EV)用途でLiイオン電池が採用されるようになり、その原材料として大量のLiが必要とされつつある。このLiは鉱石、または水分蒸発量の多い乾燥した地域の塩湖などから採取することも可能であるが、海水中に非常に多く含まれていることも知られており、地球上の全海水中に含まれるLiの総量は、地上埋蔵量よりはるかに多いことが知られている。また、他のレアメタルと同様に、安定的な資源確保の目的で、産業廃棄していたLiイオン電池からLiを回収する検討も進められつつある。
【0004】
しかしながら、Liは、海水1リットル当たり約0.2mgしか含まれていない。また、産業廃棄していたLiイオン電池には、Li以外にニッケル(Ni)またはコバルト(Co)などの化合物も多く含まれている。そのため、Liは、海水およびLiイオン電池から効率よく回収することが難しい金属材料といえる。
【0005】
こうした背景の下、特許文献1では、Liを選択的に透過させる選択透過膜を用いて、Liイオンを含む原液から効率的にLiのみ回収することを試みている。特許文献1では、Liイオンを選択的に透過させる選択透過膜が、Liを含む無機化合物の焼結体であり、焼結体の大きさとして5cm角程度のものを面内方向で接合して一体化し、実質的に大面積とした選択透過膜が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【0007】
本発明の一態様に係るイオン透過膜は、イオン伝導体粒子と繊維基材とを含むイオン透過膜であって、
前記イオン伝導体粒子が、前記繊維基材内部に埋め込まれた部分と、前記繊維基材表面に露出した部分とを有し、
前記イオン透過膜の厚み方向において、上面から下面まで、前記露出した部分が連続している。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1A】
図1Aは、本発明の実施形態に係るイオン透過膜の模式図である。
【
図2】
図2は、本発明の実施形態に係るイオン透過膜の表面の走査型電子顕微鏡写真である。
【
図3A】
図3Aは、本発明の実施形態に係るイオン透過膜において、繊維基材の平均繊維径がイオン伝導体粒子の平均粒子径と同等より少し小さい(具体的には、イオン伝導体粒子の平均粒子径の0.2倍より大きく、1倍より小さい)場合の、繊維1本を拡大した模式図である。
【
図3C】
図3Cは、本発明の実施形態に係るイオン透過膜において、繊維基材の平均繊維径がイオン伝導体粒子の平均粒子径よりも大きい場合の、繊維1本を拡大した模式図である。
【
図3E】
図3Eは、本発明の実施形態に係るイオン透過膜において、繊維基材の平均繊維径がイオン伝導体粒子の平均粒子径の0.2倍以下である場合の、繊維基材の繊維1本を拡大した模式図である。
【
図4】
図4は、プレスした後の本発明の実施形態に係るイオン透過膜の表面の走査型電子顕微鏡写真である。
【
図5】
図5は、本発明の実施形態に係るイオン透過膜の、イオン透過機能の評価方法を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
特許文献1では、焼結体の硬度が高い反面、非常にもろいために、大量の原液を高速に処理する場合、高い圧力がかかると割れてしまう問題があった。また、上記接合部においても同様に、高い圧力がかかると接合がはずれてしまう問題もあった。
【0010】
本発明は、上記問題を解決するものであって、大量の原液の高速処理を可能にする高い耐久性を有し、イオンを選択的かつ高効率に透過させる十分なイオン透過機能を発揮できるイオン透過膜を提供することを目的とする。
【0011】
以下本発明の実施形態に係るイオン透過膜について、図面を参照しながら説明する。なお、以下の説明においては、同じ構成部分には同じ符号を付して、適宜説明を省略している。また、本明細書において、「平均繊維径」および「平均粒子径」は、それぞれメジアン径を意味する。
【0012】
図1Aは、本発明の実施形態に係るイオン透過膜の模式図を示しており、
図1Bは、
図1Aのうち、破線で囲ったX部分の拡大図を示しており、
図1Cは、
図1Bに示すIC-IC線断面図を示しており、
図1Dは、
図1Aのうち、点線で囲ったY部分の拡大図を示している。
図2は、本発明の実施形態に係るイオン透過膜の表面の走査型電子顕微鏡写真である。比較のために、
図6Aおよび6Bに、従来のイオン透過膜の模式図を示す。
【0013】
本発明の実施形態に係るイオン透過膜1は、
図1Bに示すように、イオン伝導体粒子2と繊維基材3(ドットパターンで示される)とを含んでいる。
図1Cに示すように、イオン伝導体粒子2は、繊維基材3の内部に埋め込まれた部分(以下、「埋込部」と称することがある)2a(
図1Cの破線で囲まれた部分)と、表面に露出した部分(以下、「露出部」と称することがある)2bとを有する。
図1Cに示すように、繊維基材3は、イオン伝導体粒子2との接合部分において、埋込部2aの分だけ凹んだ形状をとる。露出部2bによりイオン透過膜1のイオン透過機能を付与しつつ、埋込部2aによりイオン伝導体粒子2を繊維基材3に固定することができる。
【0014】
本発明の実施形態に係るイオン透過膜1は、
図1Dに示すように、イオン透過膜1の厚み方向Zにおいて、イオン透過膜1の上面1aから下面1bまで、複数のイオン伝導体粒子2の露出部2b同士が互いに接触しながら連続している。このように、上面1aから下面1bまで露出部2bが連続することで、イオン伝導パス2c(破線の矢印)が形成されて、イオン透過膜1がイオン透過機能を有するようになる。
また、複数の繊維基材3は、繊維基材3同士互いに接触していることが好ましく、この接触部分において、繊維基材3同士が融着していることがより好ましい。これにより、イオン透過膜の機械的強度、特に破断伸び率が向上する。
【0015】
図2に示すように、イオン伝導体粒子2が柔軟性のある繊維基材3の内部に少なくとも部分的に埋め込まれてしっかりと固定されている。このような構造をとることにより、大量の原液を高速に処理する場合に、高い圧力がかかっても破壊されることなく、かつ、イオン伝導体粒子2の脱落を大幅に抑制することができる。
【0016】
それに対して、
図6Aに示すように、上述された従来のイオン透過膜101に関しては、焼結体104を接着部105で接合した構造であり、
図6Bに示すようにイオン伝導体粒子102が、非常に密な構造となっており、表面含め空隙が非常に少なくなっている。そのため、硬度は高い反面、非常にもろいために割れやすく、接着部105においても接合が離れやすくなっている。
【0017】
本発明の実施形態に係るイオン伝導体粒子2は、例えば、リチウムイオン伝導体である窒化リチウム(Li3N)、Li10GeP2S12、(Lax,Liy)TiOz、(ここで、x=2/3-a、y=3a―2b、z=3-b、0<a≦1/6、0≦b≦0.06、y>0)、Li置換型NASICON(Na Super Ionic Conductor)型結晶であるLi1+x+yAlx(Ti,Ge)2-xSiyP3-yO12(ここで、0≦x≦0.6、0≦y≦0.6)などLiを含む無機化合物を用いることができる。これらの材料は、いずれも10-4~10-3Scm-1以上の高いLiイオン伝導率を示す。なお、イオン伝導体粒子2は、イオン伝導性を有していれば上記の材料に限定されるものではない。なお、イオン伝導率が10-7Scm-1以上の場合、イオン伝導性を有すると判断する。
【0018】
本発明の実施形態に係るイオン伝導体粒子2の平均粒子径は、50nm以上500μm以下とすることが、イオン伝導体粒子2が埋込部2aと露出部2bとを有する構成を実現する上で好ましい。
【0019】
本発明の実施形態に係るイオン伝導体粒子2の、イオン伝導体粒子2および繊維基材3の合計体積に対する割合は、30体積%以上にしておくことが好ましい。この範囲にしておくことで、イオン透過膜において、イオン伝導体粒子2が互いに接触しやすくなり、イオン伝導パス2cが形成されやすくなる。より好ましくは35体積%以上であり、さらに好ましくは40体積%以上である。
また、上記割合は、95体積%以下にしておくことが好ましい。これにより、繊維基材3が一定以上の体積を占めることとなり、十分な破断伸び率を確保できるとともに、イオン伝導体粒子の埋込部2aを確保しやすくなり、イオン伝導体粒子の脱落を抑制できる。より好ましくは90体積%以下であり、さらに好ましくは85体積%以下である。
【0020】
本発明の実施形態に係る繊維基材3は、フッ化ビニリデンのホモポリマーおよびコポリマー、テトラフルオロエチレンのホモポリマーおよびコポリマー、ならびにクロロトリフルオロエチレンのホモポリマーおよびコポリマーからなる群より選択されるいずれか1つを含むことが望ましいが、疎水性および柔軟性を有していれば上記の材料に限定されるものではない。疎水性を有することで、イオン透過膜による処理の対象、例えば海水などが、そのままイオン透過膜を透過してしまう現象(以下、「クロスオーバー現象」ともいう)を効果的に抑制することができる。柔軟性を有することで、イオン透過膜に高い耐久性を付与することができる。例えば、ASTM D-570の試験方法により測定される吸水率が0.1%以下の場合、材料が疎水性を有すると判断し、JIS K7161の試験方法により測定される破断伸び率が1%以上の場合、材料が柔軟性を有すると判断する。
【0021】
図3Aは、本発明の実施形態に係るイオン透過膜において、繊維基材の平均繊維径がイオン伝導体粒子の平均粒子径と同等より少し小さい(具体的には、イオン伝導体粒子の平均粒子径の0.2倍より大きく、1倍より小さい)場合の、繊維1本を拡大した模式図であり、
図3Bは、
図3Aに示す繊維のIIIB-IIIB線断面図である。
図3Bに示すように、イオン伝導体粒子2の埋込部2aが十分に確保できているため、イオン伝導体粒子2が繊維基材3にしっかりと固定でき、かつ、イオン伝導体粒子2の露出部2bも十分に大きく確保できている。そのことから、イオン伝導体粒子2が繊維基材3の表面にも十分露出した状態で担持できているため、イオン伝導体粒子2の脱落を抑制しつつ、イオン透過機能を十分に発揮することができる。なお、イオン伝導体粒子2のうち埋込部2aが体積比で5%以上であれば、埋込部2aが十分に確保できているといえる。また、イオン伝導体粒子2のうち露出部2bが体積比で50%以上であれば、露出部2bが十分に確保できているといえる。
【0022】
図3Cは、本発明の実施形態に係るイオン透過膜において、繊維基材の平均繊維径がイオン伝導体粒子の平均粒子径よりも大きい場合の、繊維1本を拡大した模式図であり、
図3Dは、
図3Cに示す繊維のIIID-IIID線断面図である。
図3Dに示すように、イオン伝導体粒子2の埋込部2aが十分に確保できているため、イオン伝導体粒子2が繊維基材3にしっかりと固定でき、その結果イオン伝導体粒子2の脱落を抑制できる。しかしながら、イオン伝導体粒子2の露出部2bが小さいため、イオン透過機能としては
図3Aおよび
図3Bの場合と比較して劣る。
【0023】
図3Eは、
図3Eは、本発明の実施形態に係るイオン透過膜において、繊維基材の平均繊維径がイオン伝導体粒子の平均粒子径の0.2倍以下である場合の、繊維基材の繊維1本を拡大した模式図であり、
図3Fは、
図3Eに示す繊維のIIIF-IIIF線断面図である。
図3Fに示すように、イオン伝導体粒子2の埋込部2aが、ほとんど確保できていないため、
図3A~
図3Dの場合と比較してイオン伝導体粒子2が脱落しやすくなる。
【0024】
以上より、本発明の実施形態に係る繊維基材3の平均繊維径をAナノメートル(nm)、イオン伝導体粒子2の平均粒子径をBナノメートル(nm)としたとき、B×0.2<A<Bを満たすことが望ましい。より好ましくは、B×0.2<A<B×0.75、さらに好ましくは、B×0.2<A<B×0.5を満たすことである。
【0025】
本発明の実施形態に係るイオン透過膜は、本発明の目的が達成される範囲内で、イオン伝導体粒子2および繊維基材3以外の他の部材を含んでいてもよい。
【0026】
本発明の実施形態に係るイオン透過膜の膜厚は、薄い程、イオン透過機能が向上するが、一方で耐久性は低下するため、使用条件によって最適な範囲に設計され得る。
【0027】
本発明の実施形態に係るイオン透過膜の空隙率は、10%以上30%以下が好ましい。10%以上とすることで、イオン透過膜の上面1aおよび下面1bに凹凸を効果的に形成でき、イオン透過膜で処理する対象との接触面積(当該対象が海水等の液体であれば接液面積)を向上させることができ、イオン透過機能を向上させることができる。また30%以下とすることで、クロスオーバー現象を効果的に抑制することができる。また、イオン伝導パス2cを形成しやすくなる。なお、空隙率は、イオン透過膜がイオン伝導体粒子および繊維基材からなる場合、以下の式(1)により算出できる。
空隙率(%) = 1-W/(V×(Di×ri+Df×rf))×100 ・・・(1)
ここで、Wは、イオン透過膜の重量(g)であり、Vはイオン透過膜の体積(cm3)であり、Diはイオン伝導体粒子の密度(g/cm3)であり、riはイオン伝導体粒子と繊維基材との合計体積に対するイオン伝導体粒子の体積比(%)であり、Dfは繊維基材の密度(g/cm3)であり、rfはイオン伝導体粒子と繊維基材との合計体積に対する繊維基材の体積比(%)である。
【0028】
本発明の実施形態に係るイオン透過膜は、大量の原液の高速処理を可能にする高い耐久性を有する。具体的には、後述する粒子脱落率を40重量%以下、破断伸び率を1%以上という機械的強度を示し、これにより、大量の原液を高速に処理したとしても耐久することができ、例えば膜が圧力によって破壊されたり、イオン透過機能が消失するといったことも抑制することができる。粒子脱落率について、好ましくは、20重量%以下、より好ましくは0重量%である。破断伸び率について、好ましくは5%以上、より好ましくは15%以上である。
【0029】
本発明の実施形態に係るイオン透過膜のイオン透過機能として、例えば、Liイオン伝導体粒子を用いたイオン透過膜の場合、具体的には、後述するイオン回収率およびイオン移動速度について、Liイオン以外のイオン回収率を0.0%およびイオン移動速度を0.00mg/hrとしつつ、Liイオンのイオン回収率を0.1%以上およびイオン移動速度を0.05mg/hr以上にすることができる。Liイオンのイオン回収率について、好ましくは1%以上、より好ましくは5%以上である。Liイオンのイオン移動速度について、好ましくは、0.2mg/hr以上、より好ましくは1mg/hr以上である。
上記は、Liイオン伝導体粒子を用いたイオン透過膜の場合を例示しているが、Liイオン以外のイオン伝導体粒子を用いた場合も同様である。例えば、Naイオン伝導体粒子を用いたイオン透過膜の場合、Naイオン以外のイオン回収率を0.0%およびイオン移動速度を0.00mg/hrとしつつ、Naイオンのイオン回収率を0.1%以上およびイオン移動速度を0.05mg/hr以上にすることができる。
【0030】
本発明の実施形態に係るイオン透過膜は、単体でイオン透過に使用されてもよいし、電気透析装置などのイオン透過装置に組み込まれても良い。
イオン透過膜がイオン透過装置に組み込まれていると、大量の原液を高速に処理する場合に、高い圧力がかかっても破壊されにくく、かつ、イオン伝導体粒子2の脱落が大幅に抑制された、イオン透過装置およびイオン透過方法を実現することができる。
【0031】
イオン透過方法については、所望のイオンを含む水などの溶媒、土壌、および、産業廃棄物などにイオン透過膜を接触させることができればよい。
【0032】
イオン透過膜が接触させられる土壌および産業廃棄物などは、水などの溶媒で濡れていることが望ましい。イオン透過膜が水などの溶媒を介して接触させられると、イオン透過が効率的に行われる。そして、水などの溶媒、土壌、および産業廃棄物などに含まれる所望のイオンを脱離するために、超音波処理、またはマイクロ/ナノバブル発生装置によるバブリング処理などが必要に応じて併用されると、イオン透過がより効率的に行われる。
【0033】
次に、本発明の実施形態に係るイオン透過膜の製造方法について説明する。
本発明の実施形態に係るイオン透過膜の製造方法は、原料を作製するステップと、作製した原料を繊維として紡糸するステップと、を含む。
【0034】
原料を作製するステップにおいては、イオン伝導体粒子2と繊維基材3の材料である樹脂を混合する。この際、混錬機を用いて溶媒に分散することもできるが、熱可塑性樹脂の場合には、粉体混合機によるドライブレンドを行うこともできる。
【0035】
繊維として紡糸するステップにおいては、作製した原料が液体の場合には、通常の電界紡糸法のような湿式紡糸法によって紡糸することができる。
電界紡糸法により紡糸する場合、原料液に含まれる繊維基材3の原料の重量固形分濃度により、繊維基材3の繊維径を調整することができる。すなわち、繊維基材3の原料の重量固形分率を増大させることにより繊維基材3の繊維径を太くすることができ、繊維基材3の原料の重量固形分率を減少させることにより、繊維基材3の繊維径を細くすることができる。
本発明の実施形態においては、イオン伝導体粒子2の埋込部2aおよび露出部2bを十分に確保するために、イオン伝導体粒子2の平均粒子径との関係において、繊維基材3の原料の重量固形分率により繊維基材3の繊維径を適宜調整すればよい。
また、作製した原料が粉体のドライブレンドの場合には、通常の溶融紡糸法、または、溶融紡糸法と電界紡糸法とを組み合わせた紡糸法によって紡糸することができる。
【0036】
本発明の実施形態に係るイオン透過膜の製造方法は、さらにプレスするステップを含んでもよい。プレスするステップにおいては、繊維として紡糸した膜を通常の平板プレスまたはロールプレス装置によってプレスすることができる。この際、イオン伝導体粒子2および繊維基材3の材料である樹脂が溶融、変質しない温度をかけて熱プレスすることもできる。
このプレスするステップにより、空隙率を調整することができる。
図4は、プレスした後の本発明の実施形態に係るイオン透過膜の表面の走査型電子顕微鏡写真であり、
図2と比較して空隙が減少していることがわかる。
また、このプレスするステップにより、複数のイオン伝導体粒子2の露出部2b同士が、より確実に互いに接触するようになり、より多くのイオン伝導パス2cが形成されることで、イオン透過膜のイオン透過機能がより向上する。また、複数の繊維基材3は、繊維基材3同士が、より確実に互いに接触するようになり、イオン透過膜の機械的強度が向上する。
【実施例】
【0037】
以下、本発明者らが行った各実施例および各比較例について説明する。
【0038】
(実施例1)
以下の製造方法によってイオン透過膜を製造した。
イオン伝導体粒子として、リチウムイオン伝導性ガラスセラミックス粉末(オハラ社製、LICGC粉末材)が、ポリフッ化ビニリデン樹脂(スリーエム社製、ダイニオンフッ素ポリマー)との合計に対して重量比で68%(体積比で55%)となるように秤量し、これらをジメチルアセトアミド(DMA)に重量固形分率が35%となるようにホモミキサーを用いてポリフッ化ビニリデンを溶解させつつイオン伝導体粒子を分散させた。このようにして作製した分散液を気温23℃、湿度50%の恒温恒湿下で、内径φ720μmの金属ニードルノズルに20kVの高電圧を印加し、電界紡糸法によって繊維化を行い、紡糸膜を作製した。上記以外の送液圧力および紡糸距離などの条件については、液滴などが発生せず、完全に繊維化できるように調整を行っている。そして、作製した紡糸膜をロールプレス装置によってプレスを行うことで空隙率を調整し、50mm角サイズに切り出してイオン透過膜を作製した。
【0039】
次に、様々な評価項目について具体的に説明する。
【0040】
(イオン伝導体粒子の平均粒子径)
イオン伝導体粒子(リチウムイオン伝導性ガラスセラミックス粉末)を水に分散させたものに対して、粒度分布測定装置(マイクロトラック・ベル社製、MT―3300EXII)を用いて、JIS Z8825(2013)に準拠して、レーザー回折・散乱法による粒子径分布測定により得られた体積基準の積算分率における50%粒子径(D50)を測定し、400nmという結果を得た。
【0041】
(繊維基材の平均繊維径)
SEM(PHENOM-World社製 走査型電子顕微鏡 Phenom G2Pro)を用いて、作製したイオン透過膜の表面像を、繊維が数10本表示される程度の倍率で10枚取得した。1枚のSEM像から10本の繊維をランダムに選択し、10枚のSEM像から選択した合計100本の繊維について、イオン伝導体粒子が埋め込まれていない箇所の繊維径を測定した。計測した結果からメジアン繊維径を算出し、100nmという結果を得た。
【0042】
(イオン透過膜の膜厚、空隙率)
50mm角サイズに切り出したイオン透過膜の密度および内部構造が変化しないよう潰さずにデジタルマイクロメータで膜厚を測定し、重量および原材料の密度を求めた上で、上記式(1)から空隙率を算出した。測定の結果、膜厚178μmであり、リチウムイオン伝導性ガラスセラミック粉末およびポリフッ化ビニリデン樹脂の密度は、それぞれ3.05g/cm3および1.78g/cm3であり、イオン透過膜の重量は0.84gであった。よって、空隙率23.6%という結果を得た。
【0043】
(イオン回収率、イオン移動速度、粒子脱落率)
図5は、本発明の実施形態に係るイオン透過膜の、イオン透過機能の評価方法を説明する模式図である。
図5に示すような貯留槽4を、作製した50mm角のイオン透過膜1で原液側4aと回収側4bに間仕切りし、原液側4aには、イオン5を投入し、回収側4bには、純水のみを投入した。イオン5として、Liイオン、NiイオンおよびCoイオンをそれぞれ、純水に対して100ppmの濃度で投入した。原液側4aをマグネットスターラーで攪拌しながら、5時間後まで1時間毎に回収側4bの各イオン移動量を、誘導結合プラズマ発光分析装置(サーモフィッシャー・サイエンティフィック社製 iCAP7400)にて測定し、5時間後の各イオン移動量(mg)を、初期の原液側各イオン量(mg)で除した比を各イオン回収率(%)として算出した。イオン移動速度については、1時間毎に測定した算出した各イオン移動量のうちの最大の値を採用して、それを1時間で除した値(mg/hr)として算出した。Liイオン回収率は7.1%、Liイオン移動速度は2.24mg/hrとの結果を得た。一方、NiイオンおよびCoイオンについては、イオン回収率は0.0%、イオン移動速度は0.00mg/hrとの結果を得た。また、この測定の前後において、イオン透過膜の重量変化を計測し、この比を粒子脱落率として算出した結果、0重量%という結果を得た。なお、測定後のイオン透過膜については、十分に乾燥を行い、水分を除去した状態で重量を測定している。
【0044】
(破断伸び率)
得られたイオン透過膜を幅10mm、長さ50mmの短冊状試験片に切り出し、引張試験機(AND社製 RTF-1310)にて破断伸び率を測定した。破断伸び率は18%という結果を得た。
【0045】
(実施例2)
実施例2では、イオン伝導体粒子とポリフッ化ビニリデン樹脂の重量固形分率の和が50%となるようにした以外の条件は実施例1と同様にイオン透過膜を作製した。評価についても実施例1と同様の評価を実施した。一般的に電界紡糸法による繊維化においては、原料液に含まれる樹脂の重量固形分濃度が高いほど繊維径を太くでき、低いほど繊維径を細くできることが知られており、実施例2においては、この効果で繊維基材の平均繊維径を実施例1よりも太くできている。
【0046】
(実施例3)
実施例3では、イオン伝導体粒子とポリフッ化ビニリデン樹脂の重量固形分率の和が30%となるようにした以外の条件は実施例1と同様にイオン透過膜を作製した。評価についても実施例1と同様の評価を実施した。実施例3においても、実施例2と同様の効果で、繊維基材の平均繊維径を実施例1よりも細くできている。
【0047】
(実施例4)
実施例4では、イオン伝導体粒子とポリフッ化ビニリデン樹脂の重量固形分率の和が55%となるようにした以外の条件は実施例1と同様にイオン透過膜を作製した。評価についても実施例1と同様の評価を実施した。実施例4においても、実施例2と同様の効果で、繊維基材の平均繊維径を更に太くできている。
【0048】
(比較例1)
比較例1では、イオン透過膜として、リチウムイオン伝導性ガラスセラミックス焼結体(オハラ社製、LICGC焼結体、50mm角サイズ)を用いた。評価についても実施例1と同様の評価を実施した。
【0049】
各実施例1~4および各比較例1における測定結果を表1に示す。なお、表1には記載していないが、各実施例1~4および各比較例1におけるNiイオンおよびCoイオンのイオン回収率は0.0%、イオン移動速度は0.00mg/hrであった。また、イオン透過膜性能の判定として、以下のようにした。
粒子脱落率について、0重量%をAA、0重量%超20重量%以下をA、20重量%超40重量%以下をB、40重量%超をCとした。
破断伸び率について、15%以上をAA、5%以上15%未満をA、1%以上5%未満をB、1%未満をCとした。
Liイオンのイオン回収率について、5%以上をAA、1%以上5%未満をA、0.1%以上1%未満をB、0.1%未満をCとした。
Liイオンのイオン移動速度について、1mg/hr以上をAA、0.2mg/hr以上1mg/hr未満をA、0.05mg/hr以上0.2mg/hr未満をB、0.05mg/hr未満をCとした。
B以上を良好な結果とし、そのうち、Aがより良好な結果であり、AAが最も良好な結果であるとした。Cは不良な結果であるとした。なお、表1において、C判定となった項目については、網掛けをした。
総合判定については、4性能(すなわち、粒子脱落率、破断伸び率、Liイオン回収率およびLiイオン移動速度)のうち、最も悪い判定を記載した。
【0050】
【0051】
表1に示すように、実施例1~4は、総合判定がB以上であり、良好なイオン透過膜性能を示した。また、実施例1~4が良好なイオン透過機能を示すことから、実施例1~4においてイオン伝導パスが形成されている(すなわち、イオン透過膜の厚み方向において、上面から下面まで、露出部が連続している)ことが判断できる。中でも実施例1および2は総合判定がA以上であり、より良好なイオン透過膜性能を示し、そのうち、実施例1は総合判定がAAであり、最も良好なイオン透過膜性能を示した。
一方、比較例1は総合判定がCであり、イオン透過膜性能が不良であった。比較例1では、イオン透過膜として焼結体を用いているため、イオン伝導体粒子が非常に密な構造となっており、もろさを示す破断伸び率が0.5%であり、非常に割れやすい(または破壊されやすい)ことがわかる。また、空隙率が7.1%と低く、イオン透過膜表面の接液面積が小さいため、Liイオン回収率が0.3%、Liイオン移動速度が0.11mg/hrと、実施例1~3と比較すると低い結果となっている。
【0052】
以下、実施例1~4のイオン透過膜の性能の違いについて考察する。
イオン伝導体粒子が柔軟性のある繊維基材の内部に少なくとも部分的に埋め込まれてしっかりと固定されている実施例1および2においては、イオン透過膜としての空隙率が20%以上と非常に高く、イオン透過膜表面の接液部のみではなく、イオン透過膜内部までイオン透過に寄与できているため、Liイオン回収率、Liイオン移動速度が比較例1と比べて向上できている。なお、イオンではなく液体自体が移動するクロスオーバー現象については発生していないことは確認している。また、もろさを示す破断伸び率についても、それぞれ18%、20%と高く、柔軟で破壊されにくいイオン透過膜を実現できていることがわかる。粒子脱落率としても、イオン透過測定前後で変化がなく、イオン伝導体粒子が繊維基材にしっかりと固定できている結果を得られた。
【0053】
ここで、実施例1と実施例2を比較して、実施例1の方がLiイオン回収率、Liイオン移動速度が高い傾向にあることは、イオン伝導体粒子の平均粒子径が共に400μmであることに対して、実施例1に関しては、繊維基材の平均繊維径が100μmと0.25倍となっており、イオン伝導体粒子が繊維基材表面に十分露出した状態で担持できていることに起因している。逆に、実施例2に関しては、繊維基材の平均繊維径が390μmと、イオン伝導体粒子の平均粒子径に対して同等より少し小さくなっており、イオン伝導体粒子の繊維基材表面への露出量が少なくなっているためである。
【0054】
繊維基材の平均繊維径を80μmと細くし、イオン伝導体粒子の平均粒子径の0.2倍となっている実施例3においては、空隙率は28.5%と非常に高められていることから、Liイオン回収率は7.8%、Liイオン移動速度は2.46mg/hrと高いイオン透過機能を示すが、繊維基材の繊維径が小さいことで、破断伸び率としては10%と実施例1および実施例2と比較して弱くなっている。また、粒子脱落率としても、イオン透過測定前後で30重量%脱落する結果となり、繊維基材の繊維径が細すぎることで、イオン伝導体粒子が繊維基材内部に埋め込まれた部分が少なく、比較的脱落しやすい構造になっていることがわかる。
【0055】
繊維基材の平均繊維径を420μmと太くし、イオン伝導体粒子の平均粒子径よりも大きくなっている実施例4においては、繊維基材の繊維径が太くなったことで実施例1および実施例2と比較して空隙率が19.2%と低くなる反面、破断伸び率としては22%と高くできている。しかしながら、繊維基材の繊維径がイオン伝導体粒子の平均粒子径より大きいことによって、露出部が小さい状態でイオン伝導体粒子が繊維基材に担持されているため、Liイオン回収率は0.2%、Liイオン移動速度は0.06mg/hrと、実施例1~3と比較して低いイオン透過機能となっている。また、イオン伝導体粒子の埋込部を十分に確保できていることから、イオン透過測定前後での粒子脱落率は0重量%となっている。
【0056】
以上の評価から、本発明の実施形態によれば、イオン伝導体粒子と繊維基材とを含み、イオン伝導体粒子が、繊維基材内部に埋め込まれた部分と、繊維基材表面に露出した部分とを有することにより、大量の原液の高速処理を可能にする高い耐久性を有し、イオンを選択的かつ高効率に透過させる十分なイオン透過機能を発揮できるイオン透過膜を提供できることが分かった。
【0057】
本発明の態様1は、イオン伝導体粒子と繊維基材とを含むイオン透過膜であって、
前記イオン伝導体粒子が、前記繊維基材内部に埋め込まれた部分と、前記繊維基材表面に露出した部分とを有し、
前記イオン透過膜の厚み方向において、上面から下面まで、前記露出した部分が連続しているイオン透過膜である。
本発明の態様1に係るイオン透過膜は、大量の原液の高速処理を可能にする高い耐久性を有し、イオンを選択的かつ高効率に透過させる十分なイオン透過機能を発揮することができる。
【0058】
本発明の態様2は、前記イオン伝導体粒子がリチウム(Li)を含む無機化合物である態様1に記載のイオン透過膜である。
【0059】
本発明の態様3は、前記繊維基材が疎水性である態様1または2に記載のイオン透過膜である。
【0060】
本発明の態様4は、前記繊維基材が、フッ化ビニリデンのホモポリマーおよびコポリマー、テトラフルオロエチレンのホモポリマーおよびコポリマー、ならびにクロロトリフルオロエチレンのホモポリマーおよびコポリマーからなる群より選択されるいずれか1つを含む、態様1~3の何れか一つに記載のイオン透過膜である。
【0061】
本発明の態様5は、前記繊維基材の平均繊維径をAナノメートル(nm)、前記イオン伝導体粒子の平均粒子径をBナノメートル(nm)としたとき、B×0.2<A<Bを満たす、態様1~4の何れか一つに記載のイオン透過膜である。
本発明の態様5に係るイオン透過膜は、イオンをより選択的かつ高効率に透過させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の実施形態に係るイオン透過膜は、従来の焼結体によるイオン透過膜よりも柔軟性が高く、高い比表面積を実現できるため、レアメタル、特にリチウムを廃液、廃材、および低濃度原液などから選択的にイオン透過させて効率的に回収することに利用することができる。
【符号の説明】
【0063】
1 イオン透過膜
1a イオン透過膜の上面
1b イオン透過膜の下面
2 イオン伝導体粒子
2a イオン伝導体粒子の埋込部
2b イオン伝導体粒子の露出部
2c イオン伝導パス
3 繊維基材
4 貯留槽
4a 貯蓄層の原液側
4b 貯蓄層の回収側
5 イオン
101 従来のイオン透過膜
102 イオン伝導体粒子
104 焼結体
105 接着部
Z イオン透過膜の厚み方向