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特許7535768光安定性が高く且つ光毒性が低いユビキノール送達剤
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-08
(45)【発行日】2024-08-19
(54)【発明の名称】光安定性が高く且つ光毒性が低いユビキノール送達剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/122 20060101AFI20240809BHJP
   A61P 39/06 20060101ALI20240809BHJP
   C07C 215/10 20060101ALI20240809BHJP
   C07C 69/40 20060101ALI20240809BHJP
【FI】
A61K31/122
A61P39/06
C07C215/10 CSP
C07C69/40
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020005513
(22)【出願日】2020-01-16
(65)【公開番号】P2021113162
(43)【公開日】2021-08-05
【審査請求日】2022-12-28
(73)【特許権者】
【識別番号】598015084
【氏名又は名称】学校法人福岡大学
(74)【代理人】
【識別番号】100092901
【弁理士】
【氏名又は名称】岩橋 祐司
(74)【代理人】
【識別番号】100188260
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 愼二
(72)【発明者】
【氏名】高田 二郎
(72)【発明者】
【氏名】松永 和久
(72)【発明者】
【氏名】加留部 善晴
(72)【発明者】
【氏名】瀬戸口 修一
(72)【発明者】
【氏名】後藤 将太朗
【審査官】三上 晶子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/021034(WO,A1)
【文献】特開2008-231077(JP,A)
【文献】国際公開第2018/081644(WO,A1)
【文献】国際公開第1998/004512(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/235939(WO,A1)
【文献】Won-Kyu JU et al.,“Ubiquinol promotes retinal ganglion cell survival and blocks the apoptotic pathway in ischemic retinal degeneration”,Biochemical and Biophysical Research Communications,2018年09月,Vol. 503, No. 4,p.2639-2645,DOI: 10.1016/j.bbrc.2018.08.016
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00- 33/44
A61P 1/00- 43/00
C07C 1/00-409/44
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)
【化1】
(式中R及びRはそれぞれ水素原子またはN,N-ジアルキルグリシン、及びその塩から選ばれる置換基を意味し、R,Rの少なくとも一方はN,N-ジアルキルグリシン、及びその塩である。nは1~10の整数を意味する。)で表されるユビキノールのカルボン酸エステル誘導体またはその塩の1種類を含有する、光曝露下に適用されるユビキノール送達剤。
【請求項2】
一般式(1)
【化1】
(式中及びRはそれぞれジカルボン酸ダブルエステルを意味し、R ,R の少なくとも一方はジカルボン酸ダブルエステルである。nは1~10の整数を意味する。)で表されるユビキノールカルボン酸エステル誘導体である、光曝露下に適用されるユビキノール送達剤。
【請求項3】
一般式(1)
【化1】
(式中及びRはそれぞれN-アルキルグリシン及びその塩から選ばれる置換基を意味し、R ,R の少なくとも一方はN-アルキルグリシン、及びその塩である。nは1~10の整数を意味する。)で表されるユビキノールカルボン酸エステル誘導体である、光曝露下に適用されるユビキノール送達剤。
【請求項4】
一般式(1)
【化1】
(式中及びRはそれぞれジカルボン酸ヘミエステル及びその塩から選ばれる置換基を意味し、R ,R の少なくとも一方はジカルボン酸ヘミエステル、及びその塩である。nは1~10の整数を意味する。)で表されるユビキノールカルボン酸エステル誘導体である、光曝露下に適用されるユビキノール送達剤。
【請求項5】
請求項1~4に記載の送達剤において、含有するユビキノールのカルボン酸エステル誘導体にその対イオンあるいは対イオンの塩をモル比1:2~1:10で含有し、水溶液とした時、粒子サイズ10nm以下のミセル溶液を与える固形剤及び液剤である、光曝露下に適用されるユビキノール送達剤。
【請求項6】
請求項1~4に記載の送達剤を含有する光曝露下に適用される皮膚外用剤。
【請求項7】
請求項1~4に記載の送達剤を含有する光曝露下に適用される点眼剤。
【請求項8】
請求項1~4に記載の送達剤を含有する光曝露下に適用される眼軟膏剤。
【請求項9】
下記一般式(4)で示されるユビキノールカルボン酸エステル誘導体又はその塩。
【化2】
(一般式(4)において、R及びRそれぞれ、HOH2C-(CH(OH))4CH2NHCH3・HOOCCH2CH2CO-、CH3CH2OOCCH2CH2CO-及び(CH3)2CHOOCCH2CH2CO-からなる群より選択されるカルボン酸残基を意味し、R ,R の少なくとも一方は、HOH 2 C-(CH(OH)) 4 CH 2 NHCH 3 ・HOOCCH 2 CH 2 CO-、CH 3 CH 2 OOCCH 2 CH 2 CO-及び(CH 3 ) 2 CHOOCCH 2 CH 2 CO-である。nは1~10の整数を意味する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遮光を必要とせず遮光が困難な状態においても光安定性が高く、且つ光毒性を示さないユビキノール送達剤に関する。
【背景技術】
【0002】
コエンザイムQ(CoQ, ユビキノン、UQ)は2,3-ジメトキシ-5-メチル-1,4-ベンゾキノンの6位にポリイソプレニル基を有する化合物であり、イソプレン単位数(n)を付して区別される。哺乳動物ではn=10のユビキノン-10、げっ歯動物ではn=9のユビキノン-9が主要なユビキノンである(非特許文献Crane, 2001)。ユビキノンはミトコンドリアの呼吸鎖においてフラボタンパク質とチトクローム系間の酸化還元系を構成し、酸化的リン酸化を制御することで電子伝達系として機能し、ATP合成において重要な役割をしている。
【0003】
ユビキノンは内因性であり2種類の生合成ルートが示されている。1つはミトコンドリア酵素Coq2の触媒により4-ヒドロキシ安息香酸とオリゴプレニルピロリン酸からプレニル化されたユビキノールになり主としてミトコンドリア呼吸鎖に用いられる(非特許文献1)。他の1つはゴルジ体膜酵素UBIAD1(非ミトコンドリアプレニル化酵素)の触媒により4-ヒドロキシ安息香酸とオリゴプレニルピロリン酸から生成するユビキノールであり、主としてゴルジ体由来の膜及びリポタンパク質をタンパク質酸化及び脂質過酸化から保護する抗酸化剤として機能する(非特許文献2)。抗酸化活性は還元型ユビキノールしか発揮できないのでユビキノールとして生合成されることを示している。
【0004】
ユビキノンは次のような状態や病気に対して有益な作用を発揮する。歯周病、血液循環系病、記憶障害、疲労、異常心鼓動、高血圧、免疫機能障害、C型肝炎など肝臓病、加齢、片頭痛の予防、スポーツにおける人の能力の改善等である。ユビキノン(酸化型)を投与しても、体内では多くが還元型ユビキノールとして存在することが知られており、優れた作用の多くは還元型であるユビキノールの優れた抗酸化作用によると考えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2005-2005
【文献】特許第4255716号
【文献】特開2002-104922
【文献】特許第5096653号
【非特許文献】
【0006】
【文献】Forsgren et al., Biochem J, 2004; 519-526.
【文献】Mugoni et al., Cell, 2013; 152: 504-518.
【文献】Imada I et al., Chem Pharm Bull, 1964; 12 (9): 1042-1046.
【文献】Onoue S et al., Eur J Pharm, 2012; 46: 492-499.
【文献】Kwon SS et al., Colloids Surf A Physicochem Eng Asp, 2002; 210: 95-104.
【文献】Wang J et al., J Nanosci Nanotechnol, 2012; 12 (3): 2136-48.
【文献】Onoue S et al., E Eur J Pharm, 2014; 53: 118-125.
【文献】Qin B et al., J Agric Food Chem, 2017; 65: 3360-3367.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
現在、ユビキノールの体内レベルを確保するために酸化型ユビキノンと還元型ユビキノールが用いられている。しかし、ユビキノンとユビキノールはどちらも光に対して極めて不安定であることが知られている(非特許文献3)。また、本願実施例3、4や非特許文献4で示されるように、ユビキノンの光照射では、タイプI光化学反応で生成する活性酸素種等が原因となる直接的光毒性と、タイプII光化学反応で生成する一重項酸素と生体成分との反応を介した間接的光毒性の2種類の光毒性が惹起される。即ち、ユビキノール送達剤としてこれらのユビキノンあるいはユビキノールを用いる場合、原料医薬品に始まり製剤化過程、流通過程、医療機関での保存期間を経由して患者への投与が完了するまで、光によって化学的安定性と毒性学的安定性(分解生成物や異物による副作用の発現、刺激性)が影響を受けた場合、安定性の低下による有効性の低下だけでなく、望ましくない副作用発現の恐れがある。従って、ユビキノール送達剤は、これらの全過程を通じて光に対する安定性を確保し且つ光毒性を回避できる必要がある。
【0008】
酸化型ユビキノンの光分解に対する安定性の改善に、自己乳化ドラッグデリバリーシステム(SEDDS)化(非特許文献4)、poly(methyl methacrylate) (PMMA)によるナノ粒子化(非特許文献5)、ナノ脂質担体化(非特許文献6)、ナノ結晶分散SEDDS(s-SEDDS)(非特許文献7),PEG化ソラネノールミセル(非特許文献8)、シクロデキストリンによる包接化(特許文献1、3)、カラメル色素などによる遮光化(特許文献2)などの製剤化が試みられている。また、還元型ユビキノールの光安定の改善にシクロデキストリンによる包接化が開示されている(特許文献3)。自己乳化ドラッグデリバリーシステム(SEDDS)化(非特許文献4)では、光安定化と光毒性(一重項酸素の生成とROSの生成)の抑制が示されているが、光分解の半減期は15minが40minに伸びる程度であり安定性の確保には十分とは言えない。
【0009】
特に、ユビキノンあるいはユビキノールを皮膚外用剤あるいは点眼剤として適用する場合、適用後に適用部位を遮光することは困難であり、遮光による光安定性の確保ができないためユビキノンあるいはユビキノールの皮膚外用剤としての用途は大きく損なわれている。また、酸化型ユビキノンは太陽光やUVA照射によってROSと一重項酸素が発生することから、ROSによる直接的光毒性と一重項酸素によるスクワレンなどの皮表脂質の過酸化による間接的光毒性が懸念される。他に、紫外線により一重項酸素を生成する光増感剤としてポルフィリン、テトラサイクリン、ケトプロフェン、フラ一レン60等が知られている。このような背景から、遮光を必要とせず遮光が困難な状態においても光安定性が確保され且つ光毒性を示さない活性型ユビキノール送達剤が望まれている。
【0010】
特定のユビキノールカルボン酸エステル誘導体が、優れた水溶性及び生体内での還元型ユビキノール放出性を発揮し、様々な剤型においてユビキノール送達剤として機能することを見いだし開示している(特許文献4)。しかし、ユビキノールカルボン酸エステル誘導体が、遮光を必要とせず遮光が困難な状態においても光安定性が高く、且つ光毒性を示さないユビキノール送達剤として有効であるか否かを明らかにしていない。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前述のとおり、本発明者等は特定の構造を有するユビキノールカルボン酸エステル誘導体が、優れた水溶性及び生体内での還元型ユビキノール放出性を発揮し得ることを見いだし開示している(特許文献4)。引き続き有用性を検討した結果、ユビキノールカルボン酸エステル誘導体は、遮光を必要とせず、或いは遮光が困難な状態においても光安定性が高く、且つ光毒性を示さないで活性型ユビキノール送達剤として有効であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明にかかるユビキノール送達剤は、
一般式(1)
【0013】
【化1】
(式中R及びRはそれぞれ水素原子またはグリシン、N -アシルグリシン、N -アルキルグリシン、N,N -ジアルキルグリシン、アシル、ジカルボン酸ヘミエステル及びその塩から選ばれる置換基を意味し、R1, R2の少なくとも一方はグリシン、N -アシルグリシン、N -アルキルグリシン、N,N -ジアルキルグリシン、アシル、ジカルボン酸ヘミエステル、及びその塩である。nは1~10の整数を意味する。)で表されるユビキノールのカルボン酸エステル誘導体またはその塩の1種類を含有する、光曝露下に適用されるものである。
また、前記送達剤において、上記一般式(1)中R及びRはそれぞれ水素原子またはジカルボン酸ダブルエステルを意味し、R, Rの少なくとも一方はジカルボン酸ダブルエステルで表されるユビキノールカルボン酸エステル誘導体であることが好適である。
また、前記送達剤において、上記一般式(1)中R及びRはそれぞれ水素原子またはグリシン、N -アシルグリシン、N -アルキルグリシン、N,N -ジアルキルグリシン、ジカルボン酸ヘミエステル、及びその塩から選ばれる置換基を意味し、R, Rの少なくとも一方はグリシン、N -アシルグリシン、N -アルキルグリシン、N,N -ジアルキルグリシン、ジカルボン酸ヘミエステル、及びその塩で表されるユビキノールのカルボン酸エステル誘導体にその対イオンあるいは対イオンの塩をモル比1:2~1:10で含有し、水溶液とした時、粒子サイズ10 nm以下のミセル溶液を与える固形剤及び液剤であることが好適である。
【0014】
また、本発明にかかる皮膚外用剤は、前記一般式(1)で表されるユビキノールカルボン酸エステル誘導体またはその塩を含有することを特徴とする。
また、本発明にかかる点眼剤は、前記一般式(1)で表されるユビキノールカルボン酸エステル誘導体またはその塩を含有することを特徴とする。
また、本発明にかかる眼軟膏剤は、前記一般式(1)で表されるユビキノールカルボン酸エステル誘導体またはその塩を含有することを特徴とする。
また、本発明にかかるユビキノールカルボン酸エステル誘導体は、前記一般式(1)において、R及びRは、HOH2C-(CH(OH))4CH2NHCH3・HOOCCH2CH2CO-、CH3CH2OOCCH2CH2CO-及び(CH3)2CH00CCH2CH2CO-からなる群より選択されるカルボン酸残基であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
以上説明したように本発明にかかる遮光を必要とせず遮光が困難な状態においてさえも高い光安定性が確保され、且つ光毒性を示さない活性型ユビキノール送達剤によれば、ユビキノールカルボン酸エステルまたはその塩、またはユビキノールカルボン酸エステルの対イオン混合物を用いることにより、皮膚投与、点眼等の遮光が困難な状態においてさえも、光安定性が高く且つ光毒性を示さないで活性型ユビキノール送達を可能にできる。また、遮光が困難な投与形態に限らず、製剤化過程、流通過程、医療機関での保管のあり方や病棟における取り扱いから患者投与までの投与手順のあり方を通じて光安定性が大きく変動することなく、且つ光毒性の可能性を回避して活性型ユビキノール送達を可能にできる。本発明は遮光のための添加剤や特定の製剤形態を必要としないため、広範な製剤に応用できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】ユビキノールカルボン酸エステル誘導体の人工太陽光に対する光安定性の説明図。■:ユビキノン、□:ユビキノール、▲:化合物1、△:化合物2、▼:化合物3、●:化合物9
図2】遮光下における化合物9エタノール溶液中の組成物の経時変化の説明図。●:化合物9(ビスエステル体)、○:モノエステル体、■:ユビキノール、□:ユビキノン
図3】人工太陽光照射における化合物9エタノール溶液中の組成物の経時変化の説明図。●:化合物9(ビスエステル体)、○:モノエステル体、■:ユビキノール、□:ユビキノン
図4A】ユビキノンの光分解の波長特性の説明図。●:279 nm、○:310 nm、■:341 nm、□:373 nm
図4B】ユビキノールの光分解の波長特性の説明図。●:279 nm、○:310 nm、■:341 nm、□:373 nm
図5A】ユビキノールカルボン酸エステル誘導体の光分解の波長特性(297nm)の説明図。■:ユビキノン、□:ユビキノール、▲:化合物1、△:化合物2、▼:化合物3
図5B】ユビキノールカルボン酸エステル誘導体の光分解の波長特性(310nm)の説明図。■:ユビキノン、□:ユビキノール、▲:化合物1、△:化合物2、▼:化合物3
図6】人工太陽光照射におけるタイプI光化学反応による活性酸素種(ROS)生成状態の説明図。■:ユビキノン、□:ユビキノール、▲:化合物1、△:化合物2、▼:化合物3、●:化合物9、▽:スリソベンゾン、○:キニーネ
図7】人工太陽光照射におけるタイプII光化学反応による一重項酸素生成状態の説明図。■:ユビキノン、□:ユビキノール、▲:化合物1、△:化合物2、▼:化合物3、●:化合物9、▽:スリソベンゾン、○:キニーネ
図8】UVA照射とUVB照射におけるタイプI光化学反応による活性酸素種(ROS)生成状態の説明図。■:ユビキノン、□:ユビキノール、▲:化合物1、△:化合物2、▼:化合物3、●:化合物9、▽:スリソベンゾン、○:キニーネ
図9】UVA照射とUVB照射におけるタイプII光化学反応による一重項酸素生成状態の説明図。■:ユビキノン、□:ユビキノール、▲:化合物1、△:化合物2、▼:化合物3、●:化合物9、▽:スリソベンゾン、○:キニーネ
図10】カチオン性ユビキノールカルボン酸エステルとアニオン性対イオン混合物水溶液の粒子サイズの説明図。
図11】アニオン性ユビキノールカルボン酸エステルとカチオン性対イオン混合物水溶液の粒子サイズの説明図。
図12A】ユビキノンとユビキノールカルボン酸エステルによるヒト表皮角化細胞への細胞内ユビキノールの送達性の評価の説明図。○:コントロール、■:ユビキノン、●:化合物9
図12B】ユビキノンとユビキノールカルボン酸エステルによるヒト表皮角化細胞への細胞内ユビキノンの送達性の評価の説明図。○:コントロール、■:ユビキノン、●:化合物9
図13】アニオン性ユビキノールカルボン酸エステルとカチオン性対イオン混合物水溶液のラット静脈内投与後の血漿中ユビキノールの説明図。●:化合物10(ユビキノン当量5 mg/kg)、△:化合物10(ユビキノン当量1 mg/kg)
図14】H2O2刺激によるヒト表皮角化細胞への細胞毒性に対するユビキノールカルボン酸エステルの抑制効果の評価の説明図。□:H2O2非添加、■:H2O2添加 (300 μM)Control(H2O2添加)vs * p < 0.05, * *p < 0.05 by Dunnett’s test
図15A】H2O2刺激ヒト表皮角化細胞へのユビキノールカルボン酸エステルによる細胞内ユビキノンの送達性の説明図。□:H2O2非添加、■:H2O2添加
図15B】H2O2刺激ヒト表皮角化細胞へのユビキノールカルボン酸エステルによる細胞内ユビキノール送達性の説明図。□:H2O2非添加、■:H2O2添加
図16】H2O2刺激によるヒト表皮角化細胞のMMP-1 mRNA発現に対するユビキノールカルボン酸エステルの抑制効果の説明図。□:H2O2非添加、■:H2O2添加Control(H2O2添加) vs * *p < 0.05 by Dunnett’s test
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細な説明を行うが、本発明はこれらに限定されないことは言うまでもない。
本発明は、上記一般式(1)で表される化合物またはその塩またはユビキノールカルボン酸エステルの対イオン混合物を用いる遮光を必要とせず遮光が困難な状態においても光安定性が高く且つ光毒性を示さない活性型ユビキノール送達剤に関する。前記一般式(1)で表される化合物は、単独で製剤に含有させることもできるし、その塩またはユビキノールカルボン酸エステルの対イオン混合物として製剤に配合することもできる。
【0018】
本発明において、窒素置換基を有するカルボン酸残基R1、R2としては次のものが例示される。窒素原子に対し水素原子ないし、1または2のアルキル基、アシル基が結合したもの。前記アルキル基としては、炭素数1~6の直鎖、もしくは分岐のアルキル基であり次のものが例示される。メチル基、エチル基、n-プロピル、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-へキシル基、イソブチル基、1-メチルプロピル基、tert-ブチル基、1-エチルプロピル基、イソアミル基。上記アルキル基としてはメチル基、エチル基が好ましい。また、アシル基を有する場合の炭化水素鎖も同様に定義可能である。
【0019】
アミノ基とカルボニル基の間は、好ましくは炭素数1~7の直鎖、分岐または環状のアルキレン基で結合される。分岐状のアルキレン基とは、例えばイソプロピル、イソブチル、tert-ブチル、1-エチルプロピルなどのアルキル基から誘導されたアルキレン基である。環状アルキレン基とは、シクロペンタン環、シクロヘキサン環、あるいはメチルシクロヘキサン環などを構造中に含むアルキレン基を意味する。アルキレン基として特に好ましいのは、メチレン基あるいはエチレン基である。
【0020】
ハロゲン化水素酸塩としては、塩酸塩、臭化水素酸塩などが好ましい。本発明において、ハロゲン化水素酸塩は融点が原体のキノン化合物よりも高くなる場合が多く、製剤化にあたっての取り扱いが容易になる利点がある。その他の塩としては次のものが例示される。アルキルスルホン酸塩としてはメタンスルホン酸塩等、糖酸塩としてはグルコン酸塩、グルコヘプタン酸塩、ラクトビオン酸塩等。
【0021】
本発明において、ジカルボン酸ヘミエステル残基R1、R2はジカルボン酸ヘミエステル及びそのアルカリ金属塩またはメグルミン塩から選ばれる。ジカルボン酸残基のカルボニル基間は炭素数2~4の直鎖のアルキレン基で結合される。アルキレン基としては、エチレン基またはプロピレン基が特に好ましい。アルカリ金属塩としてナトリウム塩、カリウム塩が好ましい。
【0022】
本発明において、ジカルボン酸ダブルエステル残基はジカルボン酸のカルボニル基間は炭素数2~4の直鎖のアルキレン基で結合される。アルキレン基としては、エチレン基またはプロピレン基が特に好ましい。エステルはエチルエステル、イソプロピルエステル等が好ましい。
【0023】
本発明において窒素置換基を有するカルボン酸残基を有するユビキノールカルボン酸エステルの対イオン混合物の対イオンは内因性の胆汁酸またはその塩が好ましく、特にタウロコール酸ナトリウムが好ましく、ユビキノールカルボン酸エステルと対イオン混合物の混合モル比は1:2~1:10が好ましい。ジカルボン酸ヘミエステル残基を有するユビキノールカルボン酸エステルの対イオン混合物の対イオンはメグルミンが好ましく、ユビキノールカルボン酸エステルと対イオン混合物の混合モル比は1:2~1:10が好ましい。
【0024】
前記一般式(1)で表される本発明化合物の製造方法は種々考えられるが、代表的な方法を述べれば以下の通りである。一般式(2)で表されるユビキノンを還元剤で還元し、一般式(3)で表されるユビキノールとし、このユビキノールと窒素置換基を有するカルボン酸、若しくはその反応性酸誘導体またはこれらのハロゲン化水素酸塩とを常法によりエステル化反応を行うことにより、本発明の目的物質(1)を得ることができる。一般式(2)で表されるユビキノンと亜鉛末と酢酸と酸無水物とを常法によりカルボン酸ヘミエステルを得る。ユビキノールカルボン酸ヘミエステルとアルコールとを常法によりエステル化反応を行いユビキノールカルボン酸アルコールエステルを得る。
【0025】
【化2】
【0026】
ここで用いる還元剤は水素化ホウ素ナトリウム、ハイドロサルファイトナトリウム、トリーn-ブチルフォスフィン、塩化亜鉛、塩化第1スズなどを挙げることができる。
【0027】
ユビキノールのエステル化反応は常法に従うが、1級または2級アミノ基あるいは側鎖に水酸基、チオール基を有するアミノ酸の各官能基をtert-ブトキシカルボニル基(以下t-BOC基と略記)、ベンジルオキシカルボニル基(以下Z基と略記)、9-フルオレニルメトキシカルボニル基(以下FMOC基と略記)などの適切な保護基で保護して用い、N,N-ジアルキルアミノ酸またはピリジンカルボン酸はハロゲン化水素酸塩を用いてジシクロヘキシルカルボジイミド(以下DCCと略記)、塩酸1-メチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)-カルボジイミド(以下EDCと略記)、N,N-ジサクシニミドオギザレート(以下DSOと略記)などの活性エステル化試薬の存在下に反応を行うことが好ましい結果を与える。この際溶媒としてはピリジンが好ましい。
【0028】
また、反応性酸誘導体を用いる方法では、酸ハロゲナイトとりわけ酸クロリドを用いる方法が好ましい結果を与える。この際溶媒としては無水ベンゼン-無水ピリジン混合物が好ましい。ハロゲン化水素酸塩及びアルキルスルフォン酸塩は常法により遊離のアミノ酸エステルとハロゲン化水素酸またはアルキルスルフォン酸を反応させて製造する。N-アシルアミノ酸エステルを製造した後、常法によりハロゲン化水素酸で脱保護基化することによってハロゲン化水素酸塩を製造することができる。
【0029】
ユビキノールカルボン酸ヘミエステルはユビキノン、亜鉛、無水ジカルボン酸を加熱反応させて製造する。酢酸―酢酸ナトリウム中での反応が好ましい結果を与える。
【0030】
ユビキノールカルボン酸ダブルエステルはユビキノールカルボン酸ヘミエステルを常法によりエステル化することで製造する。
[皮膚外用剤]
本発明にかかるユビキノールカルボン酸エステル誘導体は、その優れた光安定性、低光毒性から、皮膚外用剤に用いることができる。
ユビキノールカルボン酸エステル誘導体を皮膚外用剤に用いる際の濃度は、0.01~1質量%(以下、単に「%」と略す。)が好ましく、0.05~0.5%が特に好ましい。この範囲内であれば、ユビキノールカルボン酸エステル誘導体を安定に配合することができ、優れた薬効を発揮することができる。
【0031】
本発明のユビキノールカルボン酸エステル誘導体は単独で皮膚外用剤として用いることができるが、一種又は二種以上の添加剤と混合することによって皮膚外用剤を調製することもできる。必要に応じて添加される添加剤としては、皮膚用化粧料や外用医薬品の製剤に一般的に用いられる、水(精製水、温泉水、深層水等)、アルコール、油剤、界面活性剤、金属セッケン、ゲル化剤、粉体、アルコール類、水溶性高分子、皮膜形成剤、樹脂、紫外線防御剤、包接化合物、抗菌剤、香料、消臭剤、塩類、pH調節剤、清涼剤、動物・微生物由来抽出物、植物抽出物、血行促進剤、収斂剤、抗脂漏剤、美白剤、抗炎症剤、本発明の一重項酸素消去剤以外の活性酸素消去剤、細胞賦活剤、保湿剤、キレート剤、角質溶解剤、酵素、ホルモン類、ビタミン類等が挙げられる。皮膚外用剤の調製は、常法に従って行うことができ、前記添加剤の配合量も本発明の効果を損なわない範囲で、常法に従って決定することができる。
【0032】
前記皮膚用外用剤の形態については限定されず、乳液、クリーム、化粧水、美容液、パック、洗顔料、メーキャップ化粧料等の皮膚用化粧料に属する形態;シャンプー、ヘアートリートメント、ヘアースタイリング剤、養毛剤、育毛剤等の頭髪化粧料に関する形態;及び分散液、軟膏、エアゾール、貼付剤、パップ剤等の外用医薬品の形態;のいずれであってもよい。
【0033】
[点眼剤]
本発明のユビキノールカルボン酸エステル誘導体は、その優れた光安定性、低光毒性から、投与剤型としては、点眼剤も採用できる。添加剤として、等張化剤、緩衝剤、pH調節剤、可溶化剤、増粘剤(分散剤)、安定化剤(抗酸化剤)、保存剤(防腐剤)等を適宜配合することにより、周知の方法で製剤化することができる。また、pH調節剤、増粘剤、分散剤等を添加し、薬物を懸濁化させることによって、安定な点眼剤を得ることもできる。
【0034】
等張化剤としては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されるものであれば特に制限されず、例えば、イオン性等張化剤としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム等が挙げられ、非イオン性等張化剤としてはグリセリン、プロピレングリコール、ソルビトール、マンニトール等が挙げられる。
【0035】
緩衝剤としては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されるものであれば特に制限されず、例えば、リン酸、リン酸塩、クエン酸、酢酸若しくはε-アミノカプロン酸等を挙げることができる。
【0036】
pH調節剤としては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されるものであれば特に制限されず、例えば、塩酸、リン酸、クエン酸、酢酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ホウ酸、ホウ砂、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等が挙げられる。点眼剤のpHは眼科製剤に許容される範囲内にあればよいが、4.0~9.0であり、より好ましくは5.5~8.5となる範囲が挙げられる。
【0037】
可溶化剤としては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されるものであれば特に制限されず、例えば、ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ビタミンE TPGS、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ショ糖脂肪酸エステル等が挙げられる。
【0038】
増粘剤及び分散剤としては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されるものであれば特に制限されず、例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース若しくはヒドロキシプロピルセルロース等のセルロース系高分子;ポリビニルアルコール;又はポリビニルピロリドン等を挙げることができる。
【0039】
安定化剤としては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されるものであれば特に制限されず、例えば、エデト酸、エデト酸一ナトリウム、エデト酸二ナトリウム、エデト酸四ナトリウム、クエン酸ナトリウム等が挙げられ、エデト酸ナトリウムは水和物であってもよい。
【0040】
抗酸化剤としては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されるものであれば特に制限されず、例えば、アスコルビン酸、ビタミンE、ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール、エリソルビン酸ナトリウム、没食子酸プロピル、亜硫酸ナトリウム等が挙げられる。
【0041】
保存剤(防腐剤)としては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されるものであれば特に制限されず、例えば、ベンザルコニウム塩化物、ベンザルコニウム臭化物、ベンゼトニウム塩化物、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸プロピル、クロロブタノール等が挙げられ、これらの保存剤を組み合わせて使用することもできる。
【0042】
[眼軟膏剤]
本発明のユビキノールカルボン酸エステル誘導体の投与剤型としては、眼軟膏剤も挙げられ、白色ワセリン、プラスチベース若しくは流動パラフィン等の汎用される基剤を用いて調製することができる。
【実施例
【0043】
本発明化合物の光安定性が高く且つ光毒性が低いユビキノール送達剤としての有用性を示すため、まず、人工太陽光照射における光安定性を酸化型ユビキノン及び還元型ユビキノールとの比較により評価した実験例をあげる。また、分光機による光照射により光安定性の波長特性を酸化型ユビキノンとの比較により評価した実施例をあげる。次に、UVA照射ならびにUVB照射による直接的光毒性の原因となるタイプI光化学反応による活性酸素種の生成及び間接的光毒性の原因となるタイプII光化学反応による一重項酸素の生成を酸化型ユビキノンとの比較により評価した実施例をあげる。また、水溶液がnmオーダー粒子サイズの混合ミセルを形成できるユビキノールカルボン酸エステルと対イオン混合物の実施例をあげる。さらに、本発明化合物のヒト表皮角化細胞に対するユビキノールの送達性を評価した実施例をあげる。最後に、アニオン性ユビキノールカルボン酸エステルと対イオン混合物に水を加え即時溶解液としたものをラットに静脈内投与し、投与後の血漿中動態を調べ、注射投与の実行可能性について評価した実施例をあげる。
【0044】
実施例1
下記の製造方法A~Hに示す方法により、表1~2に示すユビキノール誘導体を製造した。また、得られた物質の質量スペクトル(イオン化法; FD法及びFAB法)、1H-NMRスペクトルを表3~4に示す。
【0045】
製造方法A
アミノ酸0.1 molを蒸留水-ジオキサン(1: 1, v/v)100 mlに溶解し、トリエチルアミン30 mlを加え、ジ-tert-ブチルジカルボネートを徐々に加え30分間室温で撹拌する。減圧下ジオキサンを留去し、炭酸水素ナトリウム水溶液(0.5 M)50 mlを加え酢酸エチル100 mlで洗う。酢酸エチル層を50 mlの炭酸水素ナトリウム水溶液で洗い、水層を合わせて氷冷下でクエン酸水溶液(0.5 M)を加えて酸性(pH3)とし、塩化ナトリウムを飽和させた後、酢酸エチルで抽出する(100 ml×3回)。抽出液を無水硫酸ナトリウムで脱水後、減圧下溶媒を留去し、油状残渣にイソプロピルエーテルを加えるか、または冷却して結晶化させて、N-t-BOC-アミノ酸を得る。ユビキノン-10(ユビキノン) 1.16 mmolをイソプロピルエーテル100 mlに溶解し、水素化ホウ素ナトリウム2.8 mmolをメタノール15 mlに懸濁させて加え、溶液の黄色が無色になるまで室温で撹拌する。反応液にアルゴンガスを飽和させた蒸留水100 mlを加えイソプロピルエーテル層を洗う。分液後イソプロピルエーテル層を無水硫酸ナトリウムで脱水し減圧下溶媒を留去しユビキノール-10(ユビキノール)を得る。ユビキノールにN-t-BOCアミノ酸2.8 mmol、DCC 2.8 mmol、無水ピリジン30 mlを加え雰囲気をアルゴンガスに置換した後、室温で24時間撹拌する。溶媒を減圧下留去し、残渣に酢酸エチルを加えて可溶性画分を抽出する(100 ml×2回)。抽出液を減圧下濃縮し、残渣をシリカゲルフラッシュクロマトグラフィー(溶離溶媒; n-ヘキサン: 酢酸エチル, 85: 15)で分離精製し、ユビキノール-1,4-ビス-N-t-BOC-アミノ酸エステルを得る。ユビキノール-1,4-ビス-N-t-BOC-アミノ酸エステルを少量のアセトンに溶解し、塩酸-ジオキサン(2.5~4.0 N)をエステル結合量の約20倍量の塩酸相当量を加え脱保護基化を行う。反応終了後溶媒を減圧留去し、残渣をアセトンで再結晶してユビキノール-1,4-ビス-アミノ酸エステルの塩酸塩を得る。
【0046】
製造方法B
ユビキノン1.16 mmolをイソプロピルエーテル100 mlに溶解し、水素化ホウ素ナトリウム2.8 mmolをメタノール15 mlに懸濁させて加え、溶液の黄色が無色になるまで室温で撹拌する。反応液にアルゴンガスを飽和させた蒸留水100 mlを加えイソプロピルエーテル層を洗う。分液後イソプロピルエーテル層を無水硫酸ナトリウムで脱水し減圧下溶媒を留去しユビキノールを得る。ユビキノールにN-t-BOCアミノ酸1.4 mmol、DCC1.4 mmol、無水ピリジン30 mlを加え雰囲気をアルゴンガスに置換した後、室温で24時間撹拌する。溶媒を減圧下留去し、残渣に酢酸エチルを加えて可溶性画分を抽出する(100 ml×2回)。抽出液を減圧下濃縮し、残渣をシリカゲルフラッシュクロマトグラフィー(溶離溶媒; n-ヘキサン: 酢酸エチル, 85: 15)で分離精製し、ユビキノール-1-N-t-BOC-アミノ酸エステルとユビキノール-4-N-t-BOC-アミノ酸エステルを得る。ユビキノール-1-N-t-BOC-アミノ酸エステル、もしくはユビキノール-4-N-t-BOC-アミノ酸エステルを少量のアセトンに溶解し、塩酸-ジオキサン(2.5~4.0 N)をエステル結合量の約20倍量の塩酸量に相当する量加え脱保護基化を行う。反応終了後溶媒を減圧留去し、残渣をアセトンで再結晶してユビキノール-1-アミノ酸エステル、及びユビキノール-4-アミノ酸エステルの塩酸塩を得る。
【0047】
製造方法C
ユビキノン1.16 mmolをイソプロピルエーテル100 mlに溶解し、水素化ホウ素ナトリウム2.8 mmolをメタノール15 mlに懸濁させて加え、溶液の黄色が無色になるまで室温で撹拌する。反応液にアルゴンガスを飽和させた蒸留水100 mlを加えイソプロピルエーテル層を洗う。分液後イソプロピルエーテル層を無水硫酸ナトリウムで脱水し減圧下溶媒を留去しユビキノールを得る。ユビキノールに塩酸N,N-ジアルキルアミノ酸2.8 mmol、DCC2.8 mmol、無水ピリジン30 mlを加え雰囲気をアルゴンガスに置換した後、室温で24時間撹拌する。溶媒を減圧下留去し、残渣を蒸留水に懸濁させ炭酸水素ナトリウムを加えてpH7~8にした後に酢酸エチルで可溶性画分を抽出する(100 ml×3回)。抽出液を無水硫酸ナトリウムで脱水後減圧下溶媒を留去し,残渣をシリカゲルフラッシュクロマトグラフィー(溶離溶媒; n-ヘキサン: 酢酸エチル, 85: 15)で分離精製し、ユビキノール-1,4-ビス-N,N-ジアルキルアミノ酸エステルを得る。ユビキノール-1,4-ビス-N,N-ジアルキルアミノ酸エステルを少量のn-ヘキサンに溶解し、2倍モル量の塩酸-ジオキサン(2.5~4.0 N)を加え、溶媒を減圧下留去し、残渣をアセトンで再結晶してユビキノール-1,4-ビス-N,N-ジアルキルアミノ酸エステル塩酸塩を得る。
【0048】
製造方法D
ユビキノン1.16 mmolをイソプロピルエーテル100 mlに溶解し、水素化ホウ素ナトリウム2.8 mmolをメタノール15 mlに懸濁させて加え、溶液の黄色が無色になるまで室温で撹拌する。反応液にアルゴンガスを飽和させた蒸留水100 mlを加えイソプロピルエーテル層を洗う。分液後イソプロピルエーテル層を無水硫酸ナトリウムで脱水し減圧下溶媒を留去しユビキノールを得る。ユビキノールに塩酸N,N-ジアルキルアミノ酸2.8 mmol、DCC2.8 mmol、無水ピリジン30 mlを加え雰囲気をアルゴンガスに置換した後、室温で24時間撹拌する。溶媒を減圧下留去し、残渣を蒸留水に懸濁させ炭酸水素ナトリウムを加えてpH7~8にした後に酢酸エチルで可溶性画分を抽出する(100 ml×3回)。抽出液を無水硫酸ナトリウムで脱水後減圧下溶媒を留去し,残渣をシリカゲルフラッシュクロマトグラフィー(溶離溶媒; n-ヘキサン: 酢酸エチル, 85: 15)で分離精製し、ユビキノール-1-N,N-ジアルキルアミノ酸エステルとユビキノール-4-N,N-ジアルキルアミノ酸エステルを得る。ユビキノール-1-N,N-ジアルキルアミノ酸エステル、もしくはユビキノール-4-N,N-ジアルキルアミノ酸エステルを少量のn-ヘキサンに溶解し、2倍モル量の塩酸-ジオキサン(2.5~4.0 N)を加え、溶媒を減圧下留去し、残渣をアセトンで再結晶してユビキノール-1-N,N-ジアルキルアミノ酸エステルとユビキノール-4-N,N-ジアルキルアミノ酸エステルの塩酸塩を得る。
【0049】
製造方法E
ユビキノール-1,4-ビス-N,N-ジアルキルアミノ酸エステル2 mmolをジクロロメタン20 mlに溶解し、アルキルスルホン酸4.1 mmolを加え撹拌する。析出する結晶を濾取してユビキノール-1,4-ビス-N,N-ジアルキルアミノ酸エステルのアルキルスルホン酸塩を得る。
【0050】
製造方法F
ユビキノン1.16 mmol、亜鉛8.26 mmol、無水ジカルボン酸20.0 mmol、酢酸ナトリウム7.31 mmol、酢酸66.6 mmolを85℃で3時間還流する。室温冷却し生じた白い固形物に酢酸エチル200 mlと精製水100 mlを加え酢酸エチル可溶画分を抽出する(100 ml×3回)。抽出液を無水硫酸ナトリウムで脱水後減圧下溶媒を留去し,残渣をシリカゲルフラッシュクロマトグラフィー(溶離溶媒; n-ヘキサン: 酢酸エチル, 7: 3)で分離精製し、ユビキノール-1,4-ビス-ジカルボン酸ヘミエステルを得る。
【0051】
製造方法G
ユビキノール-1,4-ビス-ジカルボン酸ヘミエステル2 mmolを2倍molの1 N水酸化ナトリウム水溶液または2倍molのメグルミン水溶液を加え溶解させ、凍結乾燥させる。メタノール-アセトニトリルで再結晶し、ユビキノール-1,4-ビス-ジカルボン酸ヘミエステルナトリウム塩またはユビキノール-1,4-ビス-ジカルボン酸ヘミエステルメグルミン塩を得る。
【0052】
製造方法H
ユビキノール-1,4-ビス-ジカルボン酸ヘミエステルを1級または2級アルコールに溶解し塩酸を添加、室温で撹拌する。減圧下溶媒を留去しユビキノール-1,4-ビス-ジカルボン酸アルコールエステルを得る。
【0053】
以下、本発明に係る化合物の化学式及び対応する製造方法を表1に示す。なお、実施例1~6については、質量分析(m/z,FD-MSまたはFAB-MS)及び核磁気共鳴スペクトル(1H-NMR, δ(ppm,内部標準TMS))を表2に示す。









































【0054】
化合物
【0055】
【表1】
【0056】
化合物
【0057】
【表2】










【0058】
化合物(MS, NMR)
【0059】
【表3】

【0060】
化合物(MS, NMR)
【0061】
【表4】
【0062】
実施例2
ユビキノールカルボン酸エステル誘導体の人工太陽光に対する光安定性の評価
対照例にユビキノン(Uq-10) とユビキノール(UqH))を用い、試験化合物はユビキノールカルボン酸エステル誘導体(化合物1、2、3、5、9、11、12 ) 、化合物1-タウロコール酸Na(1:2.5)混合物、及び化合物9-メグルミン(1:10)混合物とした。各化合物のエタノール溶液を栓つき石英セルに入れ、温度25℃、垂直方向から人工太陽光(SOLAX 100W XC-100B、seric)を照度15000lxで照射し、経時的に薬物濃度をLC/MS/MSで測定した。照度は照度計 (デジタル照度計 LX-1108, マザーツール) を用いて測定した。人工太陽光照射による光分解の典型例として対照例であるユビキノン(Uq-10) とユビキノール(UqH)及びユビキノールカルボン酸エステル誘導体を図1に薬物残存量の経時変化を示した。測定した全ての化合物は擬一次反応に従って分解し、半減期を表5に示した。ユビキノン(Uq-10) とユビキノール(UqH)は光により短時間で分解し、半減期はそれぞれ1.8時間と2.0時間であった。ユビキノールカルボン酸エステルでは大きく光安定性が改善され半減期はユビキノンの15倍~50倍長くなり人工太陽光に対して高い光安定性を確保できることが明らかとなった。ユビキノール-1,4-ビス-ヘミサクシネート(化合物9)溶液の遮光下と人工太陽光照射におけるビスエステル体(化合物9)、モノエステル体、ユビキノール及びユビキノン量の経時変化を図2と3にそれぞれ示した。どちらにおいてもビスエステル体の急速な消失とモノエステル体の急速な増加、ユビキノールの緩やかな生成が観察され、遮光下と人工太陽光照射におけるビスエステル体の半減期はそれぞれ2.0時間と1.2時間であり、人工太陽光照射で加速された。モノエステル体からユビキノールへの加水分解はビスエステル体の加水分解に比較して明らかに遅く、半減期は遮光下と人工太陽光照射でそれぞれ43時間と31時間であり光照射においても対照例に比較して安定であった。化合物9のビスエステル体はモノエステル体に容易に加水分解されるが、モノエステル体として光安定性を維持することが明らかであり、この結果、実施例4、5で示すように光毒性を回避できると考えられる。
LC/MS/MS測定条件:質量分析装置:LCMS-8050 LIQUID CHROMATOGRAPH MASS SPECTROMETER (SHIMADZU)、高速液体クロマトグラフィー (HPLC)装置:Shimadzu HPLC System [System controller (CBM-20A), Pump (LD-20AD), Degasser (DGU-20As), UV detector (SPD-20A), Auto injector (SIL-20AC HT) ] を用いた。カラムはShim-pack XR-C8 3.0 x 75 mm, particle size 2.2 μm (SHIMADZU) を用いた。移動相は10mM 酢酸アンモニウムと0.1%酢酸のメタノール溶液と10mM 酢酸アンモニウムと0.1%酢酸のエタノール溶液をグラジエントモードで用いた。流速は0.2mL/min、サンプルクーラーは4℃、カラムオーブンは40℃とした。イオン化はElectrospray ionization (ESI) 法を用い、MRMモードで測定した。MRM:ユビキノン(863.5>197.0)、ユビキノール(882.6>196.5)、化合物1(1035.6>490.8)、化合物2(950.6>406.0)、化合物3(950.6>406.0)、化合物9(1083.0>297.0、mono-ester (979.0>197.0))、化合物11(1140.0>325.0)、化合物12(1168.0>339.05)、化合物13(1112.0>311.10)。
【0063】
【表5】


【0064】
実施例3
ユビキノールカルボン酸エステル誘導体の光分解の波長特性
対照例にユビキノン(Uq-10) とユビキノール(UqH))を用い、試験化合物はユビキノールカルボン酸エステル誘導体(化合物1、2、3、9 、11、12、13 ) 、化合物1-タウロコール酸Na(1:2.5)混合物、及び化合物9-メグルミン(1:10)混合物とした。各化合物のエタノール溶液を栓つき石英セルに入れ、温度25℃、分光照射器 (MM-3 多波長照射分光器, 分光計器) を用いて波長279-435 nmの光を照射し、経時的に試料中の薬物濃度を前述のLC/MS/MSで測定した。薬物残存率の対数値を照射エネルギーに対してプロットし直線を得た。対照例のユビキノンとユビキノールをそれぞれ図3(A),3(B)に示した。ユビキノンは279 nm以下で顕著な分解が観察され、ユビキノールは310 nm以下の波長によって顕著な分解が観察され、ユビキノールは長波長においても分解することが明らかであった。典型例としてユビキノン、ユビキノール、ユビキノールカルボン酸エステル誘導体(化合物1、2、3)の279 nmと310 nmにおける分解をそれぞれ図5A図5Bに示した。各波長における薬物量が初濃度の半分になる照射エネルギーを半減照射エネルギーとし表6に示した。279 nmではユビキノールのビスエステルに比較してモノカルボン酸エステルが速く分解され、安定性がエステル誘導体化の数により大きく異なった。310 nmではユビキノールのモノエステルとビスエステルの安定性は同程度でありエステル誘導体化の数の影響はなかった。




































【0065】
【表6】
【0066】
実施例4
人工太陽光照射におけるタイプI光化学反応による活性酸素種(ROS)生成
ROSの測定:試験化合物を10%ポリオキシエチレン(40)硬化ヒマシ油 (日光ケミカルズ) 、 2% エタノール、 1%グリセリン (富士フィルム和光) を含むリン酸緩衝液 (20 mM、pH7.4)に溶解(化合物濃度10 mM)し、その12.5 μLをニトロブルーテトラゾリウム リン酸緩衝溶液(400μM、 富士フィルム和光)125 μLに添加し、さらにリン酸緩衝液を加え全量を625 μLとした(試験化合物濃度200 μM)。試験液200 μL /wellで96 ウェルプレートに分注し、人工太陽光(SOLAX 100W XC-100B、seric)15000lxを照射した。照度は照度計 (デジタル照度計 LX-1108, マザーツール) を用いて測定した。陽性対照としてキニーネ(富士フイルム和光)、陰性対照としてスリソベンゾン(Combi-Blocks)を使用した。経時的に560 nm の吸光度を測定しROSの生成を評価した(図6)。表7に3時間照射後のROSレベルを陽性対照のキニーネ(100%)の百分率で示した。ユビキノンは陽性対照のキニーネよりは低いが明らかに経時的にタイプI光化学反応により生成するROSが高くなり直接的光毒性が懸念された。ユビキノールカルボン酸エステル誘導体(化合物1、2、3、9)の人工太陽光照射におけるROS生成は明らかに低く、タイプI光化学反応による直接的光毒性が低いことが明らかとなった。実施例2で示したように化合物9は人工太陽光照射によってビスエステル体がモノエステル体に速やかに加水分解されるがモノエステルの化学的安定性が高いため光毒性の高いユビキノンを生成しにくいために結果としてタイプI光化学反応による直接的光毒性が低いと考えられる。
【0067】
人工太陽光照射(15000lx、3h)による活性酸素種の生成
【0068】
【表7】



【0069】
実施例5
人工太陽光照射におけるタイプII光化学反応による一重項酸素生成
一重項酸素の測定: 試験化合物を10 %ポリオキシエチレン(40)硬化ヒマシ油 (日光ケミカルズ) 、2 % エタノール (富士フイルム和光)、 1 %グリセリン (富士フイルム和光) を含むリン酸緩衝液(20 mM、pH7.4)に溶解(化合物濃度 10 mM)し20 μLをイミダゾール(200 μM、富士フイルム和光)と p-ニトロソジメチルアニリン (200 μM、東京化成) を含むリン酸緩衝液500 μLに加え、さらにリン酸緩衝液を加え全量を1000 μLにした(試験化合物濃度200 μM)。この試験液200 μL /wellで96 ウェルプレートに分注し、人工太陽光(SOLAX 100W XC-100B、seric)15000lxを照射した。経時的に440 nm の吸光度を測定し一重項酸素の生成を評価した。なお、陽性対照としてキニーネ、陰性対照としてスリソベンゾンを使用した。図7に示すように、陽性対照のキニーネと同様にユビキノンは経時的に一重項酸素が高くなり、ユビキノールカルボン酸エステル誘導体(化合物1、2、3、9)では一重項酸素生成が明らかに低かった。表8に3時間照射後の一重項酸素レベルを陽性対照のキニーネ(100%)の百分率で示した。この結果、ユビキノンはタイプII光化学反応による間接的光毒性が懸念されるが、ユビキノールカルボン酸エステル誘導体(化合物1、2、3、9)は人工太陽光照射によりタイプII光化学反応による間接的光毒性を回避できることが明らかである。化合物9は実施例2と実施例4と同様な理由でタイプII光化学反応による間接的光毒性を回避できると考えられる。
【0070】
人工太陽光照射(15000lx、3h)による一重項酸素の生成
【0071】
【表8】

【0072】
実施例6
UVA照射とUVB照射におけるタイプI光化学反応による活性酸素種(ROS)生成
上記実施例4と同様に試料試験液を調製し、試験液200 μL /wellを 96 ウェルプレートに分注し、まずUVA(UV Crosslinker CL-1000L 365 nm、UVP)で10 J/cm2まで照射し、続いてUVB(UV Crosslinker CL-1000M 302 nm、UVP)を3 J/cm2まで照射した。経時的に560 nm の吸光度を測定しROSの生成を評価した。図8に示すように陽性対照であるキニーネはUVB照射においてのみROSを生成した。ユビキノンはUVAの照射とUVB照射のどちらの波長でも照射量に依存してROSを生成したことから、ユビキノンは広範囲のUV光によってタイプI光化学反応による直接的光毒性を発揮する可能性が明らかとなった。ユビキノールカルボン酸エステル誘導体ではUVAの照射とUVB照射のどちらの波長でもROS生成は低く(図8)、UV光による直接的光毒性を回避できることが明らかになった。
【0073】
実施例7
UVA照射とUVB照射におけるタイプII光化学反応による一重項酸素生成
上記実施例5と同様に試料試験液を調製し、試験溶液200 μL /wellを 96 ウェルプレートに分注し、まずUVA(UV Crosslinker CL-1000L 365 nm、UVP)で10 J/cm2まで照射し、続いてUVB(UV Crosslinker CL-1000M 302 nm、UVP)を3 J/cm2まで照射した。経時的に440 nm の吸光度を測定し一重項酸素の生成を評価した。図9に示すように陽性対照であるキニーネはUVB照射においてのみ一重項酸素を生成した。ユビキノンはUVAの照射とUVB照射のどちらの波長でも照射量に依存して一重項酸素を生成したことから、ユビキノンは広範囲のUV光によってタイプII光化学反応による間接的光毒性を発揮する可能性が明らかとなった。ユビキノールカルボン酸エステル誘導体ではUVAの照射とUVB照射のどちらの波長でも一重項酸素の生成は低く(図9)、UV光による間接的光毒性を回避できることが明らかになった。
【0074】
実施例8
カチオン性ユビキノールカルボン酸エステルとアニオン性対イオン混合物の調製及びその水溶液の粒子サイズ
化合物1とタウロコール酸ナトリウムのモル比1:1~1:10の混合物をメタノール溶液あるいは水溶液で調製し、減圧下乾燥もしくは凍結乾燥により粉末混合物を得た。混合物の水溶液(化合物1当量濃度22.5 mmol/L)の粒子径をZetasizer Nano ZS (MALVERN, Worcestershire, UK)、25℃で測定した。混合比1:2.5以上の混合物の水溶液は、平均粒子サイズ5 nmの溶液を与えた(図10)。混合物の水溶液は人工太陽光照射においても光毒性が低いことが示された(表7、8)。化合物1とタウロコール酸Naの混合物は、光毒性の低い、粒子サイズがnmオーダーの澄明な混合ミセルを与えることが明らかである。
【0075】
実施例9
アニオン性ユビキノールカルボン酸エステルとカチオン性対イオン混合物の調製及びその水溶液の粒子サイズ
化合物9とメグルミンのモル比1:1~1:10の混合物をメタノール溶液あるいは水溶液で調製し、減圧下乾燥もしくは凍結乾燥により粉末混合物を得る。混合比1:2以上の混合物に水を添加した溶液は(化合物9当量濃度23.5 mmol/L)、平均粒子サイズ9 nmの溶液を与える(図11)。混合物の水溶液は人工太陽光照射においても光毒性が低いことが示された(表7、8)。化合物9とメグルミンの混合物は、光毒性の低い、粒子サイズがnmオーダーの澄明な混合ミセルを与えることが明らかである。
【0076】
実施例10
ヒト表皮角化細胞へのユビキノールの送達性の評価
本発明化合物が遮光の困難な投与形態においても光安定性が高く且つ光毒性が低いユビキノール送達剤として機能できることを明らかにする目的で、皮膚投与を想定し、本発明化合物のヒト表皮角化細胞におけるユビキノール送達性を評価した。ヒト表皮角化細胞株(HaCaT細胞)を 12 ウェルプレートに播種 (1.0×105cells/well) し24時間培養後、試験化合物 (10 μM)をFBS10%の培地に溶解し細胞へ添加した。経時的に細胞中のユビキノール及びユビキノン濃度をLC/MS/MSで測定した。抽出法:各培養細胞にリン酸緩衝液 1ml加えスクレープ、ソニケートして得た細胞ホモジネート液 (200 μl) にメタノール(200 μl)、n-ヘキサン(600 μl)を加え攪拌後、4℃、3000 rpm、10分間遠心し上清500 μlを窒素ガスで濃縮、残渣をメタノール(50 μl)に再溶解しLC/MS/MS試料とした。タンパク濃度はBCA protein assay kit (Thermo Fisher Scientific)を用いて測定した。化合物9と酸化型ユビキノン添加時の細胞内ユビキノールとユビキノンをそれぞれ図12A, 図12Bに示した。薬物添加によってユビキノールとユビキノン共に経時的に高くなった。酸化型ユビキノン投与に比較して化合物9投与によって細胞内ユビキノールは、高い濃度で推移しAUCは20倍大きくなり、優れたユビキノール送達剤として機能することが明らかになった。本発明化合物が皮膚投与において遮光の困難な投与形態においても光安定性が高く且つ光毒性が低いユビキノール送達剤として機能できることが明らかである。
【0077】
【表9】


【0078】
実施例11
アニオン性ユビキノールカルボン酸エステルのカチオン性対イオン混合物の水溶解液のラット静脈内投与後の送達性の評価
実施例9で示した化合物9とメグルミンの混合物(化合物10)は水溶解性が高く、水及び等張緩衝液を加えるとき速やかに溶解した。この液を雄性SDラット(8週齢)に静脈内投与し、血漿中のユビキノール濃度を実施例10に示した方法で経時的に測定した。ユビキノン当量1 mg/kgラット体重及び5 mg/kgラット体重のいずれの投与濃度においても、投与後5分から速やかに血漿中のユビキノールレベルが高くなった(図13)。アニオン性ユビキノールカルボン酸エステルのカチオン性対イオン混合物は静脈内投与においてもユビキノール送達剤として機能できることが明らかである。
【0079】
実施例12
ヒト表皮角化細胞HaCaT細胞の過酸化水素刺激における加齢によるヒト表皮角化細胞応答の変化に対するユビキノールカルボン酸エステルの効果を評価した。
H 2 O 2 刺激によるヒト表皮角化細胞への細胞毒性に対するユビキノールカルボン酸エステルの抑制効果の評価
試験化合物を0.1 %ポリオキシエチレン(40)硬化ヒマシ油(日光ケミカルズ)、1%エタノール(富士フイルム和光)、0.05 %グリセリン(富士フイルム和光)含有FBSフリーDMEM培地に溶解し試験化合物溶液とした。ヒト表皮角化細胞株(HaCaT細胞)を24ウェルプレートに(5.0×104 cells/well)播種し24時間培養後、培地を試験化合物溶液に置換し、さらに24時間培養した。試験液をH2O2未添加または添加のFBSフリー培地に交換し24時間培養後、細胞生存率をcell titer blue viability assay (Promega)を用いて測定した。図14に示すように、H2O2刺激HaCaT細胞の生存率は非H2O2刺激HaCaT細胞に比較して有意に低下し、ユビキノンあるいはユビキノールカルボン酸エステル(化合物9)の投与によって生存率は有意に高くなった。
【0080】
実施例13
H 2 O 2 刺激ヒト表皮角化細胞へのユビキノールカルボン酸エステルによる細胞内ユビキノンとユビキノール送達性の評価
試験化合物を0.1 %ポリオキシエチレン(40)硬化ヒマシ油(日光ケミカルズ)、1%エタノール(富士フイルム和光)、0.05 %グリセリン(富士フイルム和光)含有FBSフリーDMEM培地に溶解し試験化合物溶液とした。ヒト表皮角化細胞株(HaCaT細胞)を24ウェルプレートに(5.0×104 cells/well)播種し24時間培養後、培地を試験化合物溶液に置換し、さらに24時間培養した。試験液をH2O2未添加または添加のFBSフリー培地に交換し24時間培養後、実施例10と同様の抽出操作でLC/MS/MS測定試料とし、実施例2と同様の方法でLC/MS/MS測定した。ユビキノンは化合物9投与によってコントロールに比して有意に高くなったが、H2O2未添加または添加で有意な差は見られずH2O2添加の影響は見られなかった(図15A)。ユビキノールはユビキノン投与と化合物9投与でコントロールに比して有意に高くなった(図15B)。ユビキノールはH2O2未添加に比してH2O2添加によっていずれも低下したことから、加齢の原因となる酸化ストレス下ではユビキノールが抗酸化剤として機能し低くなると考えられる。
【0081】
実施例14
ヒト表皮角化細胞のH 2 O 2 刺激によるMMP-1 mRNA発現促進に対するユビキノールカルボン酸エステルの抑制効果
マトリックスメタロプロテアーゼ-1(MMP-1)のmRNAレベルを、リアルタイム逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)で分析した。GAPDHおよびMMP-1のプライマーセットを表2に示した。試験化合物溶液の調製は実施例13に記載した。HaCaT細胞を6 ウェルプレートに(5.0×105 cells/well)播種し24時間培養後、培地を試験化合物溶液に置換し、さらに24時間培養した。試験液をH2O2未添加または添加のFBSフリー培地に交換し24時間培養後に回収した。RNase阻害剤添加RNA later溶液(Thermo Fisher Scientific、米国マサチューセッツ州ウォルサム)で一晩4 ℃で保管、RNA抽出キット(High Pure RNA Isolation Kit、Roche, Basel, Switzerland)で全RNAを抽出。500 ngのRNAとReverTra Ace qPCR RTキット(TOYOBO、大阪、日本)を使用してcDNAを合成した。mRNA定量は、Light Cycler 480システム(Roche, Basel, Switzerland)を用いた。 Primer-Probe mix、Light Cycler 480 Probes Master(Roche)、および1 μLのcDNAテンプレートを使用した。標準PCR条件は、95 ℃ (10分)を1サイクル、95 ℃ (10秒)、60 ℃ (30秒)、72 ℃ (1秒) を45サイクル、50 ℃ (30秒) を1サイクルであった。 mRNA発現レベルは、各サンプル内のGAPDH量で除して決定した。H2O2処理HaCaT細胞中のMMP-1 mRNAはH2O2未処理細胞に比較して有意に高くなり、化合物9の投与によってMMP-1 mRNAは有意に低下した(図16)。H2O2処理による加齢モデルでのシワへの進展を抑制できることが示された。
【0082】
リアルタイムRT-PCRのプライマーセット
【0083】
【表10】


【0084】
以下に、本発明にかかるユビキノールカルボン酸エステル誘導体を皮膚外用剤に配合した配合例を示す。
[化粧水]
下記成分(3)、(4)及び(8)~(10)を混合溶解した溶液と、下記成分(1)、(2)、(5)~(7)及び(11)を混合溶解した溶液とを混合して均一にし、化粧水を得た。
(成分) (%)
(1)グリセリン 5.0
(2)1,3-ブチレングリコール 6.5
(3)ポリオキシエチレン(20E.O.)ソルビタン 1.2
モノラウリン酸エステル
(4)エチルアルコール 8.0
(5)ユビキノールカルボン酸エステル誘導体 0.05
(6)乳酸 0.05
(7)乳酸ナトリウム 0.1
(8)パラメトキシケイ皮酸-2-エチルヘキシル 3.0
(9)防腐剤 適量
(10)香料 適量
(11)精製水 残量
【0085】
[水中油型乳液]
下記成分(8)~(9)を成分(12)に添加し膨潤後、成分(10)を加えて混合し、70℃に加温し水相を調製した。下記成分(1)~(6)を70℃に加温し、これを前記水相に添加して、乳化した。この乳化物を室温まで冷却し、下記成分(7)、(11)及び(13)を添加し、均一に混合して乳液を得た。
(成分) (%)
(1)ポリオキシエチレン(10E.O.)ソルビタン 1.0
モノステアレート
(2)ポリオキシエチレン(60E.O.)ソルビット 0.5
テトラオレエート
(3)グリセリルモノステアレート 1.0
(4)ステアリン酸 0.5
(5)ベヘニルアルコール 0.5
(6)スクワラン 8.0
(7)ユビキノールカルボン酸エステル誘導体 0.1
(8)防腐剤 0.1
(9)カルボキシビニルポリマー 0.1
(10)水酸化ナトリウム 0.05
(11)エチルアルコール 5.0
(12)精製水 残量
(13)香料 適量
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5A
図5B
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12A
図12B
図13
図14
図15A
図15B
図16