(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-08
(45)【発行日】2024-08-19
(54)【発明の名称】親魚の産卵管理装置
(51)【国際特許分類】
A01K 63/06 20060101AFI20240809BHJP
A01K 61/10 20170101ALI20240809BHJP
【FI】
A01K63/06 B
A01K61/10
A01K63/06 C
(21)【出願番号】P 2020136868
(22)【出願日】2020-08-14
【審査請求日】2023-08-06
(73)【特許権者】
【識別番号】520002760
【氏名又は名称】株式会社クラハシ
(74)【代理人】
【識別番号】100126712
【氏名又は名称】溝口 督生
(72)【発明者】
【氏名】釘宮 雄一
【審査官】吉田 英一
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-262723(JP,A)
【文献】特開2007-242321(JP,A)
【文献】特開2013-188207(JP,A)
【文献】特開2009-284828(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 63/06
A01K 61/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
親魚と育成水を収容可能な収容容器と、
前記育成水の温度を制御する温度制御部と、
前記収容容器へ照射する光照射を制御する光照射制御部と、
前記親魚の産卵期間および非産卵期間の少なくとも一つを制御する期間制御部を備え、
前記温度制御部は、
前記育成水の温度の範囲を示す温度帯域および
前記育成水の温度の変化を示す温度変化の少なくとも一方に基づいて、前記育成水の温度を制御し、
前記期間制御部は、前記温度帯域、前記温度変化および前記光照射の少なくとも一つに基づいて、前記産卵期間および非産卵期間の少なくとも一つの期間を制御
し、
前記温度帯域は、
雌の親魚が実際に産卵可能な温度帯域である産卵可能温度帯域よりも狭い温度帯域である産卵温度帯域と、
前記産卵温度帯域の下限より低い所定の温度以下の温度帯域である休養温度帯域と、
雄の親魚が射精可能な射精温度帯域と、
産卵された卵が受精可能な受精温度帯域と、
を含み、
前記産卵期間において、
前記温度制御部が、前記育成水を、前記受精温度帯域に制御することで、受精卵を生成可能とできる、近海魚である親魚の産卵管理装置。
【請求項2】
前記期間制御部は、
前記温度制御部において、前記育成水を前記休養温度帯域に制御させ、
前記光照射制御部において、1日当たりの光照射時間を第1時間以下とさせる、
ことで、前記非産卵期間を生じさせる、
請求項1記載の親魚の産卵管理装置。
【請求項3】
前記期間制御部は、
前記温度制御部において、前記育成水を前記産卵温度帯域に制御させ、
前記光照射制御部において、1日当たりの光照射時間を第2時間以上とさせる、
ことで、前記産卵期間を生じさせ、
前記第2時間は前記第1時間より長い、
請求項2記載の親魚の産卵管理装置。
【請求項4】
前記期間制御部は、
前記温度制御部において、前記育成水を前記産卵温度帯域から徐々に低下させる前記温度変化を生じさせ、
前記光照射制御部において、1日当たりの光照射時間を第1時間以下とさせる、
ことで、前記産卵期間から前記非産卵期間に移行させる、
請求項1記載の親魚の産卵管理装置。
【請求項5】
前記産卵期間および前記非産卵期間が生じさせられることで、同一の雌の親魚が、複数の期間に渡って産卵可能である、
請求項1から4のいずれか記載の親魚の産卵管理装置。
【請求項6】
前記光照射制御部は、太陽光もしくは疑似太陽光を、前記光として照射する、
請求項1から5のいずれか記載の親魚の産卵管理装置。
【請求項7】
前記近海魚は、キス類(シロギスなど)、アジ類、イワシ類、イカ類(アオリイカなど)、ベラ類(キュウセンなど)、ハタ類(キジハタなど)、メバル、アナゴ、ハゼ、カワハギ類、オコゼ、舌平目、カニ類の少なくとも一つを含む、
請求項1から6のいずれか記載の親魚の産卵管理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、近海魚の養殖に必要となる卵の産卵を管理しつつ親魚の適切な飼育を実現する親魚の産卵管理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の世界的な人口増加、中流層の増加、途上国の経済成長、魚介物を食す嗜好の向上などが相まって、世界的に魚介類の消費が増加している。また、魚介類を収穫する方法(漁業方法)の技術開発や、流通技術開発などが相まって、魚介類の収穫量も増加している。
【0003】
このように、魚介類などの水産資源の需要の増加、およびこれに対応する供給能力の増加が同時並行的に進んでいる。この同時並行的な増加により、水産資源の減少や、場合によっては枯渇が懸念されている。特に、過去においては魚介類の食文化の少なかった新興国においても魚介類を食す文化が発達して、多くの国で魚介類の需要が上がっている側面もある。これに人口増加や経済成長も加わって、全世界的に水産資源の減少や枯渇が進んでいる。
【0004】
需要の増加とこれに伴う供給増加以外にも、地球温暖化による海水温の上昇や環境悪化に伴って、水産資源の減少が進んでいる。このため、漁獲量以上に、水産資源が減少していたり枯渇に近づいていたりする実情もある。
【0005】
実際に、魚種によっては、世界的な枠組みで漁獲量に制限を行う方向もある。各国において割り当てられる漁獲量は、各国の需要希望を満たすレベルになく、歴史的に水産資源を多く消費してきた日本においては、自国の需要希望を満たすことが供給として難しくなってきている。
【0006】
また、漁獲制限や漁獲割り当てでは、国力によって変動しうる。近年の日本は、経済力の相対的低下などの国力低下によって、漁獲割り当てでは十分な需要希望を満たせない結果になっていることも多い。加えて、従来では魚介類を食べる文化が低かった国でも嗜好が変化して、魚介類を食すことが多くなってきている。これらの結果、漁獲制限に対して漁獲割り当てを希望する国や地域が増加している。この点でも、日本における需要に見合う漁獲量を得ることが難しくなっている。
【0007】
もちろん、漁獲割り当ての管理がなされていない種類の魚介類でも、漁獲能力の違いや市場での調達力などによって、日本が需要を満たす水産資源の確保が難しくなっている状況がある。
【0008】
このように、世界全体での水産資源の減少や枯渇の問題というマクロの問題と、世界の中の相対的な位置において、日本が自国需要を満たす水産資源の確保が難しくなっているミクロの問題がある。また、このマクロの問題とミクロの問題は、魚種によっては、非常にシビアな状況となっている。魚種によっては、天然での漁獲が非常に厳しくなっているものもある。
【0009】
このような状況においては、天然の魚介類を収穫することから、養殖、畜養といった水産資源の育成を行うことが求められるようになっている。養殖や畜養によって、安定的に水産資源を確保すると共に需要を満たすためである。また、天然の水産資源の枯渇を防止して、循環可能な水産ビジネスを作り上げることも目指されている。
【0010】
養殖や畜養に関するいくつかの技術が提案されている(例えば、特許文献1、2、3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2009-284828号公報
【文献】特開2016-77267号公報
【文献】実用新案登録3150213号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記従来技術の状況において、マグロやサーモンといった大型で広域を回遊する回遊魚は、その商品単価の高さや需要の広さにより養殖や畜養が盛んに行われている。また、これら大型の回遊魚は、稚魚を収穫したうえで畜養することも多い。このため、これらの回遊魚の一部においては、養殖や畜養技術が発展している状態にある。
【0013】
一方、小型であることも多い近海魚については、種類によっては養殖や畜養技術が十分に開発されていないことも多い。特に、近海魚も近年減少が激しくなっており、漁獲高が下がっている。また地球温暖化による環境変化に伴って、近海魚の回遊ルートや漁獲地域が変化しており、近海漁業での収穫が難しくなっている側面もある。あるいは、環境変化に伴い、資源として減少している側面もある。
【0014】
このような近海魚については、稚魚を採取してから畜養などをすることもできるが、小型であったり稚魚採取地域の特定が難しかったりなどの理由で、稚魚採取をスタートとするよりも、親魚からの産卵をスタートして養殖することが求められている。すなわち、親魚に適切に産卵を行わせること、産卵した卵に受精させて受精卵とすること、産卵や受精をさせながらも、親魚の健康を維持して適切な育成を継続させることなどが求められている。
【0015】
すなわち、維持可能な産卵や受精を管理して、親魚の適切な生活を維持する技術が求められている。
【0016】
特許文献1は、採卵・受精後の孵化期, 養魚期, 飼育期を経て河川に放流前の稚魚を生産する回帰魚の稚魚生産方法であって、孵化期,養魚期,飼育期の一部又は全てで使用する生産水に、任意に設定できる1日相当周期の温度変化を付与することを特徴とする回帰魚の稚魚生産方法を開示する。
【0017】
特許文献1では、既に稚魚となって育成されている生産方法に関するものであり、産卵された卵の孵化などに適用できる技術ではない。また、親魚からの産卵や受精を維持可能に適切に管理する技術に関係しない。
【0018】
特許文献2は、マグロの稚魚を未成魚になるまで飼育する未成魚飼育槽を備えた陸上飼育装置であって、前記未成魚飼育槽は、稚魚を飼育する稚魚飼育槽での飼育を終えた稚魚を前記稚魚飼育槽から水流によって未成魚飼育槽に受け入れるための第1 配管を有することを特徴とするマグロの陸上飼育装置を開示する。
【0019】
特許文献2は、マグロの稚魚から未成魚になるための飼育装置に関わり、近海魚の卵の孵化に適用できない。また、孵化に対する技術や示唆を与えるものではなく、近海魚の卵の孵化や育成に係るものではない。また、親魚からの産卵や受精を維持可能に適切に管理する技術に関係しない。勿論、維持可能な産卵などを管理しつつも、親魚が健康で適切な寿命を生存できることも考慮されていない。
【0020】
特許文献3は、魚卵人工孵化槽において、育成床材12の直下に設置した下網10の下部に、円形の孔14を一定間隔で複数個開けた孔の位置が異なる2種類の整流板A11aと整流板B11bを交互に3枚設置し、孵化室5と排水室6を分けている排水側仕切板を取り外し可能な3枚の堰板様可動堰8を備えて構成される自然浮上型魚卵収容人工孵化育成槽を開示する。
【0021】
特許文献3は、卵から孵化した稚魚の育成を主とするものであり、卵の孵化の精度を上げることを目的としていない。このため、孵化の精度を上げるための育成に係る技術の開示や示唆が無い。また、特許文献3は、孵化した稚魚と稚魚から次のステージへの育成に構造的に対応した育成櫓に係るものであり、孵化はもちろんのこと、親魚からの産卵や受精を維持可能に適切に管理する技術に関係しない。
【0022】
このように、従来技術では、近海魚の親魚からの産卵、受精を維持可能に管理することができない問題があった。加えて、適切な産卵や受精を行わせつつ、親魚の健康的な生存を維持することに対応できてない問題があった。これらの問題が解決されないと、水産資源として減少している近海魚の養殖が実現できない問題がある。結果として、近海魚の需要を満たすことができなくなってしまう。
【0023】
本発明は、これらの課題に鑑み、近海魚の親魚による維持可能な産卵と受精を管理しつつ、親魚の健康生命の維持も図る親魚の産卵管理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0024】
上記課題に鑑み、親魚の産卵管理装置は、親魚と育成水を収容可能な収容容器と、
育成水の温度を制御する温度制御部と、
収容容器へ照射する光照射を制御する光照射制御部と、
親魚の産卵期間および非産卵期間の少なくとも一つを制御する期間制御部を備え、
温度制御部は、前記育成水の温度の範囲を示す温度帯域および前記育成水の温度の変化を示す温度変化の少なくとも一方に基づいて、育成水の温度を制御し、
期間制御部は、温度帯域、温度変化および光照射の少なくとも一つに基づいて、産卵期間および非産卵期間の少なくとも一つの期間を制御し、
前記温度帯域は、
雌の親魚が実際に産卵可能な温度帯域である産卵可能温度帯域よりも狭い温度帯域である産卵温度帯域と、
前記産卵温度帯域の下限より低い所定の温度以下の温度帯域である休養温度帯域と、
雄の親魚が射精可能な射精温度帯域と、
産卵された卵が受精可能な受精温度帯域と、
を含み、
前記産卵期間において、
前記温度制御部が、前記育成水を、前記受精温度帯域に制御することで、受精卵を生成可能とできる。
【発明の効果】
【0025】
本発明の親魚の産卵管理装置は、近海魚の親魚からの産卵と受精とを持続可能に実現させる。特に、産卵や受精を行わせる時期と、これらを行わせない時期とを適切に変化させることで、親魚の疲労を軽減させる。親魚の疲労が軽減することで、親魚の寿命を想定した長期間の飼育が可能となる。
【0026】
また、親魚の疲労が少ないことで、親魚からの産卵や受精が、長期間にわたって行わせることができる。この結果、同じ親魚からの受精卵の採取ができる期間を長くすることができる。また、産卵時期と非産卵時期とを分けることで、受精卵を孵化させて稚魚を育成する育成装置での期間管理を容易とすることができる。
【0027】
これらの結果、水産資源として減少している近海魚の養殖を実現できる。また、減少している近海魚の水産資源増加に寄与できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本発明の近海魚の受精卵の孵化育成装置の、養殖全体での位置関係を示す模式図である。
【
図2】本発明の実施の形態1における親魚の産卵管理装置のブロック図である。
【
図3】本発明の実施の形態1における産卵期間と非産卵期間との切り替えを説明する模式図である。
【
図4】本発明の実施の形態1における温度帯域の相関関係図である。
【
図5】本発明の実施の形態1における産卵管理装置のブロック図である。
【
図6】本発明の実施の形態1における期間制御部による制御を示す模式図である。
【
図7】本発明の実施の形態2における期間制御の結果を示す模式図である。
【
図8】本発明の実施の形態2における産卵管理装置のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の第1の発明に係る親魚の産卵管理装置は、親魚と育成水を収容可能な収容容器と、
育成水の温度を制御する温度制御部と、
収容容器へ照射する光照射を制御する光照射制御部と、
親魚の産卵期間および非産卵期間の少なくとも一つを制御する期間制御部を備え、
温度制御部は、温度帯域および温度変化の少なくとも一方に基づいて、育成水の温度を制御し、
期間制御部は、温度帯域、温度変化および光照射の少なくとも一つに基づいて、産卵期間および非産卵期間の少なくとも一つの期間を制御する。
【0030】
この構成により、産卵と非産卵を繰り返すことで、親魚の寿命を延ばしつつトータルとしてより多くの産卵を実現できる。
【0031】
本発明の第2の発明に係る親魚の産卵管理装置では、第1の発明に加えて、温度帯域は、産卵温度帯域および休養温度帯域の少なくとも一つを含む。
【0032】
この構成により、産卵期間と非産卵期間とを、温度制御に基づいて確実に切り替えることができる。
【0033】
本発明の第3の発明に係る親魚の産卵管理装置では、第2の発明に加えて、産卵温度帯域は、雌の親魚が実際に産卵可能な温度帯域である産卵可能温度帯域よりも狭い温度帯域である。
【0034】
この構成により、産卵温度帯域の設定により、雌の親魚201による産卵を確実に行わせることができる。加えて、産卵時における雌の親魚201の体力的な消耗を低減させることができる。結果として、産卵される卵の生体的能力を向上させることもできる。
【0035】
本発明の第4の発明に係る親魚の産卵管理装置では、第2または第3の発明に加えて、休養温度帯域は、産卵温度帯域の下限より低い所定の温度以下の温度帯域である。
【0036】
この構成により、期間制御部は、非産卵期間を生じさせることができ、かつ雌の親魚201が、産卵による体力消耗をしないように休養させることができる。
【0037】
本発明の第5の発明に係る親魚の産卵管理装置では、第1から第4のいずれかの発明に加えて、温度帯域は、雄の親魚が射精可能な射精温度帯域および産卵された卵が受精可能な受精温度帯域を更に含む。
【0038】
この構成により、受精卵を生成させることができる。
【0039】
本発明の第6の発明に係る親魚の産卵管理装置では、第2から第5のいずれかの発明に加えて、期間制御部は、
温度制御部において、育成水を休養温度帯域に制御させ、
光照射制御部において、1日当たりの光照射時間を第1時間以下とさせる、
ことで、非産卵期間を生じさせる。
【0040】
この構成により、雌の親魚が産卵しない非産卵期間を確実に生じさせることができる。
【0041】
本発明の第7の発明に係る親魚の産卵管理装置では、第2から第5のいずれかの発明に加えて、期間制御部は、
温度制御部において、育成水を産卵温度帯域に制御させ、
光照射制御部において、1日当たりの光照射時間を第2時間以上とさせる、
ことで、産卵期間を生じさせ、
第2時間は第1時間より長い。
【0042】
この構成により、雌の親魚が無理をせずに産卵できる産卵期間を確実に生じさせることができる。
【0043】
本発明の第8の発明に係る親魚の産卵管理装置では、第2から第5のいずれかの発明に加えて、期間制御部は、
温度制御部において、育成水を産卵温度帯域から徐々に低下させる温度変化を生じさせ、
光照射制御部において、1日当たりの光照射時間を第1時間以下とさせる、
ことで、産卵期間から非産卵期間に移行させる。
【0044】
この構成により、無理なく非産卵期間への移行が実現できる。
【0045】
本発明の第9の発明に係る親魚の産卵管理装置では、第1から第8のいずれかの発明に加えて、産卵期間および非産卵期間が生じさせられることで、同一の雌の親魚が、複数の期間に渡って産卵可能である。
【0046】
この構成により、トータルとして、同一の親魚からより多くの卵を得ることができる。
【0047】
本発明の第10の発明に係る親魚の産卵管理装置では、第5から第9のいずれかの発明に加えて、産卵期間において、
温度制御部が、育成水を、受精温度帯域に制御することで、受精卵を生成可能とできる。
【0048】
この構成により、受精卵を効率的に得ることができ、養殖や蓄養全体を効率的に進めることができる。
【0049】
本発明の第11の発明に係る親魚の産卵管理装置では、第1から第10のいずれかの発明に加えて、光照射制御部は、太陽光もしくは疑似太陽光を、光として照射する。
【0050】
この構成により、親魚の産卵や射精をより確実に促すことができる。
【0051】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態を説明する。
【0052】
(発明者の解析)
従来技術で説明したように、近海魚の養殖や蓄養が求められるようになっている。養殖や蓄養においては、稚魚を収穫して人口生簀や天然生簀において成魚まで育成する手法がある。このような稚魚をスタートとする養殖や蓄養は、制御までの育成のみで済むことから容易性は高いが、稚魚の収穫が必要となる。近年の水産資源の減少に伴い、天然環境で稚魚を収穫することも難しくなっている。
【0053】
また、養殖や蓄養のために天然環境にある稚魚を大量に収穫することは、将来的な水産資源の減少につながる問題もある。成魚と異なり、稚魚の生息数の把握は難しく、稚魚収穫のコントロールが難しい問題もある。また、数多くの稚魚が収穫されると、結果的に天然環境で成魚となって子孫を増やす機会を減少させることになる。結果として、将来的な水産資源の減少を招くことになりかねない。
【0054】
このような状況では、飼育している親魚から産卵および受精をさせて効率よくかつより多くの受精卵を得ることが重要になっている。また、同じ親魚による産卵できる寿命を、親魚の生物学的な健康を害することなく長くすることも必要になっている。
【0055】
しかしながら、化学的あるいは投薬的な手段によって排卵を促したり排卵量を増加させたりすることは、親魚の生物学的な健康を害するだけでなく、得られる受精卵の孵化や成長能力を損なう問題につながりかねない。こうなると、養殖や蓄養によって水産資源を増加させるという、本来の目的を達成できないことになる。
【0056】
発明者は、このような解析に基づいて、本発明に至った。
【0057】
(養殖の概要)
【0058】
図1は、本発明の近海魚の受精卵の孵化育成装置(以下、必要に応じて「孵化育成装置」と略す)の、養殖全体での位置関係を示す模式図である。従来技術で説明したように、近海魚の水産資源が減少している状況で、親魚からの産卵をスタートとした成魚までの養殖が必要となっている。天然環境で稚魚を収穫してから成魚まで育成する養殖では、結局、水産資源の減少や枯渇に繋がるからである。
【0059】
このため、
図1に示されるように、親魚、親魚による産卵と受精、受精卵から稚魚までの孵化と育成、稚魚からら最終的な成魚までの育成までで、養殖の全体が完了する。
【0060】
本発明は、
図1の第1段階に対応するものである。第1段階で、雌の親魚は産卵し、雄の親魚は射精して、受精卵が得られる。親魚は、第1段階に対応する装置の収容容器に収容されている。この第1段階で得られた受精卵は、第2段階に移設されて、孵化育成され、最終的に第3段階で成魚まで成長されて、食用などに供されるようになる。
【0061】
第1段階では、産卵する雌の親魚と、卵に受精させる雄の親魚とが収容されており、産卵および受精を行わせる。この結果、受精卵が得られる。この受精卵を得るところまでを効率よく実現するのが、本発明の対象である。
【0062】
(全体概要)
図2は、本発明の実施の形態1における親魚の産卵管理装置のブロック図である。親魚の産卵管理装置(以下、必要に応じて「産卵管理装置」と略す)1は、
図2のように収容容器2、温度制御部3、光照射制御部5、期間制御部9を備える。
【0063】
収容容器2は、親魚200と育成水20とを収容可能である。また、親魚200として雌の親魚201と雄の親魚202とを収容可能である。また、雌の親魚201が産卵した卵101、これに雄の親魚202からの精子によって受精した受精卵100も収容可能である。なお、受精卵100は、
図1で説明したように、次の第2段階に移設されるので、孵化や稚魚育成までとして収容しているのではなく、産卵管理装置1が目的とする受精卵が得られたら、これを移設までの間において収容可能であるとの意味である。もちろん、物理的には受精卵100をその後も収容できることを除外するものではない。また、必要に応じてあるいは別の理由で、親魚200、育成水20、受精卵100以外を収容することを除外するものではない。
【0064】
雌の親魚201から産卵された卵101と、雄の親魚202から射精された精子102により受精して得られる受精卵100は、次の第2段階の孵化育成装置に移設される。この移設によって、第2段階で孵化・育成される。
【0065】
育成水は、収容容器2に親魚200と一緒に収容される。育成水20は、親魚200である近海魚の種類に応じたものであればよい。天然海水や、天然海水に何らかの添加物を添加した水でもよいし、人工的に生成された合成水でもよい。勿論、近海魚の特性に応じて、淡水やこれに準じる水が育成水20として収容されてもよい。
【0066】
温度制御部3は、収容容器2に収容されている育成水20の温度を制御する。育成水20そのものを直接的に制御してもよいし、収容容器2の温度を制御することで、間接的に育成水20の温度を制御してもよい。あるいは、収容容器2が設置されている室温の温度を制御することで、育成水の温度を制御してもよい。
【0067】
ここで、温度制御部3は、温度帯域および温度変化の少なくとも一方に基づいて、育成水20の温度を制御する。
【0068】
温度制御部3の制御は、後述する光照射制御部5での光照射の制御と併せて、雌の親魚201による産卵が行われる産卵期間と産卵が行われない非産卵期間が制御される。また、雄の親魚202による射精とこれに基づく受精を制御することができる。
【0069】
光照射制御部5は、収容容器2への光の照射を制御する。
図2では、光照射制御部5が、収容容器2へ光を照射している状態が示されている。
【0070】
光照射制御部5は、収容容器2へ光を照射したり照射を遮断したりできる。すなわち、光照射制御部5は、光の照射時間や照射強度、照射タイミングを制御できる。例えば、1日当たりの光照射時間を制御したり、光照射の時間帯を制御したりできる。また、光照射の時間間隔を制御することもできる。例えば、何分おきあるいは何時間おきに光を照射する、あるいは、特定の時間に光を照射するなどを制御できる。
【0071】
図2のように、光照射制御部5は、収容容器2に光を照射する(あるいは、照射を遮断する)。例えば、照射される光として自然光(太陽光)が用いられ、光照射制御部5は、この自然光の照射時間を制御する。自然光が照射されている状況において、照射されたくない時間にこの自然光を遮断するなどである。
【0072】
図2には、示していないが、光照射制御部5によって照射される光を遮蔽する遮蔽機構が備わっていてもよい。遮蔽機構によって、収容容器2に照射される光の照射時間や照射強度が制御される。遮蔽機構は、光照射制御部5とは別に設けられてもよいし、光照射制御部5の内部に設けられてもよい。特に、光照射制御部5が人工の光を照射する場合には、光照射制御部5の発光が制御されることで、遮蔽や減衰と同じ効果を生じさせることができる。
【0073】
あるいは、光照射制御部5は、人工の光を照射することでもよい。例えば、疑似的な人工的に作られた自然光や太陽光を照射することでもよい。例えば、LEDなどにより特定範囲の波長に調整された人工光が照射されてもよい。太陽光などの自然光は気象によって左右される。このため、人工光であれば、必要な光照射を確実に与えることができる。
【0074】
また、自然光と人工光を組み合わせて、光照射制御部5は、光を照射することでもよい。自然光で十分な場合には、光照射制御部5は、自然光を収容容器2に付与させる。一方で、自然光で不十分な場合には、光照射制御部5は、人工光を収容容器2に照射する。このとき、自然光のレベルが不十分な場合には、光照射制御部5は、自然光に追加して人工光を照射する。あるいは、自然光が照射できない時間帯において(天候により自然光が無い、夜間などの自然光がない時間帯など)、人工光を照射する。
【0075】
このように、光照射制御部5は、収容容器2に必要となる時間量や時間帯などをコントロールしながら、光を照射できる。この光照射制御部5による光照射時間にも基づいて、期間制御部9は、産卵期間と非産卵期間を制御できる。
【0076】
期間制御部9は、雌の親魚201が産卵する産卵期間と産卵しない非産卵期間の少なくとも一つを制御する。雌の親魚201は、産卵に対応する身体となって外部環境が整っていれば産卵を行う。魚種によっては、産卵対応の外部環境が整っていると、かなりの長期間にわたって産卵を続けてしまうことがある。このような長期間での産卵が続くと、雌の親魚201が疲弊してしまい、本来の寿命を全うできなくなる懸念がある。
【0077】
また、産卵期間が長くなりすぎると、産卵される卵101の生体的レベルが低減してしまい、孵化や育成の段階でマイナスが生じうる。また、雄の親魚202の射精期間と合致しないと、目的とする受精卵100が得られないことになってしまいかねない。
【0078】
また、産卵期間が長すぎると、得られる受精卵100が多くなりすぎて、次の第2段階での孵化育成のキャパシティを超えてしまう問題も生じる。あるいは、産卵期間の長さとこれによる産卵量の多さがある程度を超えてしまうと、親魚200が、卵101や受精卵100を食べてしまうことへの対策が難しくなる問題もある。勿論、収容容器2内部で作業工程より早く孵化してしまうと、孵化後の仔稚魚の共喰いが生じるなどの問題もある。
【0079】
このため、このような問題が生じないように、産卵期間と非産卵期間とを制御することが求められる。上記のような問題発生が抑制され、親魚の健康的な寿命も確保されるからである。親魚の健康的な寿命が確保されれば、同じ親魚200から、より効率的かつ長い期間に渡って受精卵100を得ることができるようになる。
【0080】
ここで、期間制御部9は、温度帯域、温度変化および光照射の少なくとも一つに基づいて、産卵期間と非産卵期間の少なくとも一つの期間を制御する。温度帯域および温度変化は、温度制御部3によって制御される要素である。光照射時間は、光照射制御部5により制御される要素である。すなわち、期間制御部9は、温度制御部3と光照射制御部5とを制御して(温度制御部3での温度帯域や温度変化を設定し、光照射制御部5での光照射時間を設定する)、結果として、産卵期間と非産卵期間とを切り替える。
【0081】
図3は、本発明の実施の形態1における産卵期間と非産卵期間との切り替えを説明する模式図である。期間制御部9がこのようにして、雌の親魚201の産卵期間と非産卵期間とを切り替える。この切り替えによって、産卵期間には産卵を行わせ、非産卵期間には、雌の親魚201を休ませたり次の産卵への準備を整わせたりする。
【0082】
また、産卵期間において、雄の親魚202が射精をしやすい環境を整えることで、産卵期間での受精卵100の生成を確実に行わせる。こうして、親魚200の健康状態の維持や寿命の確保を図りながら、効率よく受精卵を得ることができる。
【0083】
(温度制御)
温度制御部3は、温度帯域および温度変化の少なくとも一つを制御する。ここで、温度帯域は、産卵温度帯域および休養温度帯域の少なくとも一つを含む。産卵温度帯域に制御することで、雌の親魚201は、産卵を行う温度環境の中で生息することになる。このため、光照射制御部5での光照射の制御と併せて、産卵する産卵期間を生じさせることに繋がる。
【0084】
産卵期間が生じさせられることで、雌の親魚201は、産卵する。雄の親魚202の射精と併せて、目的とする受精卵が得られる。また、受精卵は、
図1の第2段階の孵化育成に用いられる。この孵化育成による稚魚までの育成が、この受精卵をスタートとして実行される。
【0085】
また、休養温度帯域は、雌の親魚201が産卵をせずに休養できるための温度環境である。休養温度帯域とされることで、雌の親魚201は、産卵するべき時期ではないと反応する。光照射制御部5による光照射の制御と併せて、休養温度帯域となると、雌の親魚201は、産卵をせずに非産卵期間となる。
【0086】
産卵しない非産卵期間が設けられることで、雌の親魚201は、休息する時間を得ることができる。産卵することは、大きなエネルギーを消費して雌の親魚201への負担となる。この負担が軽減される非産卵期間が生じることで、雌の親魚201の寿命をあるべき長さに近づけることができる。
【0087】
また、非産卵期間が設定されることで、雌の親魚201が身体を休めることができる。身体を休める期間があることで、上記のように寿命を全うしやすくなることに加えて、健康状態を維持できる。さらには、産卵期間での産卵を十分に行わせることもできるし、産卵される卵の生体的な質を上げることができる。
【0088】
このように、温度制御部3は、温度帯域および温度変化の少なくとも一つを制御する。温度帯域だけでなく、温度変化によって、産卵期間と非産卵期間の切り替えにつなげることも可能である。期間制御部9は、温度変化および光照射に基づいて、産卵期間と非産卵期間とを制御してもよい。
【0089】
温度帯域は、
図4に示されるように、産卵温度帯域および休養温度帯域の少なくとも一つを含む。
図4は、本発明の実施の形態1における温度帯域の相関関係図である。産卵温度帯域は、雌の親魚201が産卵可能な温度帯域である産卵可能温度帯域よりも狭い温度帯域である。狭い温度帯域であることで、収容容器2において、雌の親魚201が確実に産卵できるようになる。また、産卵可能温度帯域よりも狭い産卵温度帯域に制御されることで、産卵に要する体力を節減できるので、雌の親魚の健康状態を維持しながら、必要となる産卵を行わせることができる。
【0090】
また、休養温度帯域は、産卵温度帯域の下限より低い温度帯域である。すなわち、
図4に示されるように、産卵温度帯域の下限温度よりも下のところの帯域において、休養温度帯域が設定される。休養温度帯域が産卵温度帯域の下限温度よりも下の帯域に設けられる温度帯域であることで、雌の親魚201は、産卵をしないでよい期間であることを、温度面から確実に把握できる。この把握によって、雌の親魚201は、産卵せずに体力を温存しつつ休息状態となることができる。
【0091】
また、温度制御部3は、育成水20の温度帯域を、雄の親魚202が射精可能な射精温度帯域に制御してもよい。あるいは、産卵された卵が受精可能な受精温度帯域に制御してもよい。
図4には、射精温度帯域および受精温度帯域が示されている。
図4では、射精温度帯域は、産卵可能温度帯域よりも狭く、受精温度帯域は、射精温度帯域よりも狭い。このような帯域に制御されることで、雌の親魚201が産卵するだけでなく、雄の親魚202による受精卵が確実に得られるようになる。
【0092】
なお、
図4での、射精温度帯域と受精温度帯域との相関関係、射精温度帯域と産卵温度帯域との相関関係、受精温度帯域と産卵温度帯域との相関関係は、一例であり、
図4に示す温度に厳密に限られるものではない。上限温度、下限温度の値、相対関係、温度帯域の幅などは、魚種、外部環境、季節や時期、場所などに応じて、適宜設定されればよい。
【0093】
温度制御部3は、上述のような温度帯域で制御する。このとき、温度帯域は自動的にプログラミングされて設定されていてもよいし、作業者による操作で設定されることでもよい。
【0094】
(光照射制御部)
光照射制御部5は、収容容器2への光の照射を制御する。
図2では、光照射制御部5が、収容容器2に光を照射している状態を示している。光照射を制御するとは、自然光を照射する時間やその量を制御したり、自然光と人工光をミックスして照射する時間やその量を制御したり、人工光を照射する時間やその量を制御したり、自然光や人工光の照射を遮蔽や減衰させたりすることである。
【0095】
時間の量とは、照射時間帯を変化させたり、照射の時間量を変化させたりすることである。
【0096】
光照射制御部5は、収容容器2へ光を照射したり照射を遮断したりできる。すなわち、光照射制御部5は、光の照射時間や照射強度、照射タイミングを制御できる。例えば、1日当たりの光照射時間を制御したり、光照射の時刻を制御したりできる。また、光照射の時間間隔を制御することもできる。例えば、何分おきあるいは何時間おきに光を照射する、あるいは、特定の時間に光を照射するなどを制御できる。
【0097】
図5のように、光照射制御部5は、収容容器2に光を遮断することも制御の一つとして行ってもよい。例えば、照射される光として自然光(太陽光)が用いられ、光照射制御部5は、この自然光の照射時間を制御する。自然光が照射されており、照射されたくない時間において、この自然光を遮断するなどである。
【0098】
人工光の場合でも、遮蔽を行うことで、その照射量を制御することもできる。勿論、人工光の場合であって、光源を光照射制御部5が備える場合には、光源の照射量そのものを制御することで、遮蔽による照射量の制限を行ってもよい。
【0099】
図5は、本発明の実施の形態1における産卵管理装置のブロック図である。遮蔽は、遮蔽板などの遮蔽機構によって実現されればよい。あるいは、遮蔽のみでなく、照射量を減衰させることでもよい。なお、遮蔽機構は、
図5のように光照射制御部5と収容容器2との間に備わってもよいし、光照射制御部5内部に備わっていてもよい。
【0100】
光照射制御部5は、人工光を用いる場合には、疑似的な人工的に作られた自然光や太陽光を照射することでもよい。例えば、LEDなどにより特定範囲の波長に調整された人工光が照射されてもよい。太陽光などの自然光は気象によって左右される。このため、人工光であれば、必要な光照射を確実に与えることができる。
【0101】
LEDなどが用いられる場合には、親魚200が生息しやすい波長や照射レベルに合わせることも容易となるのでメリットがある。また、産卵された卵の健康状態の維持に適した波長などが用いられるメリットもある。
【0102】
また、自然光と人工光を組み合わせて、光照射制御部5は、光を照射することでもよい。自然光で十分な場合には、光照射制御部5は、自然光を収容容器2に付与させる。一方で、自然光で不十分な場合には、光照射制御部5は、人工光を収容容器2に照射する。このとき、自然光のレベルが不十分な場合には、光照射制御部5は、自然光に追加して人工光を照射する。あるいは、自然光が照射できない時間帯において(天候により自然光が無い、夜間などの自然光がない時間帯など)、人工光を照射する。
【0103】
このように、光照射制御部5は、収容容器2に必要となる時間量や時間帯などをコントロールしながら、光を照射できる。この光照射にも基づいて、期間制御部9は、産卵期間と非産卵期間とを切り替えることができる。親魚200は、照射される光の時間量や照射レベルなどに基づいて、自分の生理現象を変化させたり決定したりするからである。
【0104】
なお、光照射制御部5は、太陽光もしくは疑似太陽光を光として照射することでもよい。
【0105】
(期間制御部による期間制御)
上述したように、期間制御部9は、温度制御部3での温度制御および光照射制御部5での光照射の制御の少なくとも一つに基づいて、産卵期間および非産卵期間を切り替える。すなわち、産卵期間と非産卵期間とを生じさせる。このとき、温度制御部3での温度制御および光照射制御部5での光照射の制御の両方に基づいて、産卵期間と非産卵期間を切り替えることでもよい。
【0106】
また、温度制御部3は、温度帯域および温度変化の少なくとも一方を制御する。このため、期間制御部9は、温度帯域および温度変化の少なくとも一方を用いて、産卵期間および非産卵期間を切り替える。
【0107】
図6は、本発明の実施の形態1における期間制御部による制御を示す模式図である。産卵期間および非産卵期間を切り替える条件との関係を示している。期間制御部9は、
図6のような条件になるように温度制御部3と光照射制御部5を制御することで、産卵期間と非産卵期間とを切り替えることができる。
【0108】
期間制御部9は、温度制御部3において育成水20を休養温度帯域に制御させる。併せて、光照射制御部5において、1日当たりの光照射時間を第1時間とさせる。すなわち、休養温度帯域および第1時間以下の光照射時間とすることで、期間制御部9は、非産卵期間を生じさせる。
図6の左端の状態である。雌の親魚201がいる育成水20の温度が休養温度帯域とされて、光照射の時間が第1時間以下となることで、雌の親魚201は、生理的に産卵に適した時期ではないと判断する(生態的本能による)。
【0109】
この生理的な判断によって、この条件が整っていると、雌の親魚201は、産卵を行わない。この結果、非産卵期間が生じる。収容容器2全体が、この温度と光照射によって制御されるので、収容容器2内部の雌の親魚201は、非産卵状態となる。この結果、産卵管理装置1では、非産卵期間が生じる。
【0110】
産卵期間は、詳細に言えば、
図6に示されるように産卵開始から産卵停止までの期間である。この期間が、雌の親魚201が産卵を実際に行っている産卵期間である。
【0111】
期間制御部9は、温度制御部3において育成水20を産卵温度帯域に制御させる。併せて、光照射制御部5において、1日当たりの光照射時間を第2時間以上とさせる。すなわち、産卵温度帯域および第2時間以上の光照射時間とすることで、期間制御部9は、産卵期間を生じさせる。
図6の真ん中エリアの状態である。
【0112】
雌の親魚201は、この温度および光照射の制御によって、産卵を行うようになる。雌の親魚201がいる育成水20の温度が産卵温度帯域とされて、光照射の時間が第2時間以上となることで、雌の親魚201は、生理的に産卵に適した時期であると判断する(生態的本能による)。
【0113】
この生理的な判断によって、このような条件が整っていると、雌の親魚201は産卵を行う。この結果、産卵期間が生じる。収容容器2全体が、この温度と光照射によって制御されるので、収容容器2内部の雌の親魚201は、産卵状態となる。この結果、産卵管理装置1では、産卵期間が生じる。
【0114】
(非産卵期間~産卵期間)
産卵期間は、非産卵期間から産卵開始に変化することで開始される。また、産卵期間において産卵停止となっていくことで、産卵期間から非産卵期間へ変化する。
【0115】
期間制御部9は、温度制御部3により育成水20を産卵温度帯域とさせ、光照射制御部5により光照射時間を第2時間以上とさせることで、非産卵期間から産卵開始に変化させることができる。この変化により、非産卵期間から産卵期間に変化する。産卵開始となって、温度帯域と光照射の制御状態が維持されることで、産卵期間が維持される。
【0116】
このように、休養温度帯域から産卵温度帯域への変化および第1時間以下から第2温度以上の状態への変化に基づいて、産卵開始が生じる。こうして、産卵停止による非産卵期間への移行までが、産卵期間として制御される。
【0117】
産卵期間において、期間制御部9は、温度制御部3により育成水20を休養温度帯域とさせ、光照射制御部5により光照射時間を第1時間以下とさせることで、産卵停止状態に移行させる。この移行に伴って、産卵期間から非産卵期間へ変化する。
【0118】
産卵期間は、産卵開始から産卵停止までにより生じさせられる。産卵停止による産卵停止から次の産卵開始までが、非産卵期間とされる。このような切り替えによって、収容容器2において、産卵期間と非産卵期間とが切り替えられながら、親魚200の健康を維持しながら、全体として長期間にわたっての産卵を実現させることができる。
【0119】
(産卵停止)
期間制御部9は、温度制御部3により育成水20を産卵温度帯域から徐々に低下させる温度変化を生じさせる。併せて、光照射制御部5による光照射時間を第1時間以下とさせる。このような温度変化と光照射時間の切り替えによって、期間制御部9は、産卵期間を停止させる産卵停止の状態変化を生じさせる。
【0120】
ここで、温度制御部3は、産卵温度帯域から徐々に温度を低下させていく制御を行うことで、確実な切り替わりによる産卵停止を生じさせることができる。このような制御が行われることで、産卵期間から非産卵期間へ、確実に変化させることができる。また、産卵期間から非産卵期間への変化において、雌の親魚201に身体的負担をかけにくいスムーズな変化とすることができる。
【0121】
特に徐々に温度が低下していくことで、雌の親魚201は、生理的に産卵すべきではない環境になっていることを把握できる(生態的本能による判断)。この把握に基づいて、雌の親魚201は、産卵を止めて非産卵期間に移行する。
【0122】
徐々に温度を低下させることおよび休養温度帯域に変化させることが相まって、雌の親魚201は、健康的な状態を維持して非産卵期間に確実に移行できる。
【0123】
これらの結果、
図3に示されるように、産卵期間と非産卵期間を切り替えながら、期間制御部9は制御することができる。このとき、魚種、親魚200の寿命、親魚200の年齢、外部環境、産卵管理装置1の設置場所などに応じて、産卵期間の時間的長さ、非産卵期間の時間的長さ、産卵期間と非産卵期間の切り替え頻度などは、適宜定められればよい。
【0124】
また、休養温度帯域、産卵温度帯域、第1時間、第2時間のそれぞれも、上述のような状況に応じて、適宜定められれば良い。なお、第1時間は第2時間より短い時間である。
【0125】
このように、産卵期間および非産卵期間が変化しながら生じさせられることによって、同一の雌の親魚201が、複数の期間にわたって産卵可能である。特に、一度の産卵期間に集中して産卵して体力を消耗することが軽減できる。この軽減によって、生涯においてより長い期間およびより多くの産卵を可能とできる。また、産卵時期を分散させることで、
図1の第2段階の孵化育成での効率化を図ることもできる。勿論、雌の親魚201の健康的な寿命を延ばすこともできる。
【0126】
以上のように、実施の形態1における親魚の産卵管理装置1は、親魚200の健康寿命を延ばしながら、効率的な産卵量の確保を実現できる。
【0127】
(実施の形態2)
【0128】
次に、実施の形態2について説明する。
【0129】
(受精期間)
なお、期間制御部9は、受精卵を生成するための、受精期間を制御してもよい。
【0130】
図7は、本発明の実施の形態2における期間制御の結果を示す模式図である。期間制御部9は、温度制御部3において、育成水20を受精温度帯域に制御させる。特に、産卵期間においてこのように制御させる。この結果、雌の親魚201は産卵し、同時に雄の親魚202は射精して、卵と精子とが結びついて受精卵が生成される。この受精卵が、
図1の第2段階の孵化育成に移設される。
【0131】
このように、期間制御部9は、受精期間を生じさせることもできる。
【0132】
また、
図7では、受精温度帯域とされるのは、産卵期間に重複するように示されているが、非産卵期間の一部にも重複してもよい。産卵期間で産卵された卵に対して、非産卵期間に及んだ期間においても射精できることで、受精卵100を得ることができるからである。
【0133】
(水流制御部など)
図8は、本発明の実施の形態2における産卵管理装置のブロック図である。
図8での産卵管理装置1は、水流制御部6、給餌部7を備える。必要に応じて、産卵管理装置1は、水流制御部9および給餌部7の少なくとも一方を備えることも好適である。
【0134】
水流制御部6は、収容容器2内部の育成水20の水流を制御する。育成水20は、収容容器2に収容されている。このため、何らかの操作や制御がされないと容器に収容されているだけで、育成水20は、流れや動きのない状態となる。産卵管理装置1における親魚200の生息には、必要な水流があることが好ましい。
【0135】
水流制御部6は、このような育成水20の流れや動きである水流を制御する。水流が制御されれば、収容容器2中の親魚200の健康状態が良好に保たれる。
【0136】
また、水流制御部6は、水流を制御する中で、収容容器2内部の育成水20の入れ替え(換水)を制御することも好適である。換水することで、水流を生じさせると共に、育成水20の汚染を減らしたり一定レベル未満に維持したりできる。すなわち、育成水20の新鮮度などを、維持することができる。
【0137】
また、換水における育成水20の入れ替え動作により、収容容器2内部の育成水20に流れや動き(水流)を生じさせることもできる。すなわち、換水動作は、水流の発生にもつながる。また、換水されることで、親魚200の生息環境の衛生状態が維持される。維持によって、親魚200の産卵や射精も最適に行われる。勿論、健康寿命にとってもメリットがある。
【0138】
(換水機構)
水流制御部6は、
図8に示されるように、換水機構61を備えることも好適である。換水機構61は、収容容器2内部の育成水20を入れ替える。収容容器2に、給水部と排水部とが備えられ、この給水部と排水部とを制御することで、換水機構61は、収容容器2内部の育成水20を入れ替える。
【0139】
すなわち、収容容器2への給水と、収容容器2からの排水とを制御することで、換水機構61は、収容容器2内部の育成水20を換水する。例えば、給水部と排水部とを並行して機能させることで、収容容器2内部の育成水20を入れ替える。換水機構61は、給水と排水のそれぞれの速度を制御することで、換水スパンや換水される時間量を変化させることができる。
【0140】
これにより、1日当たりの換水率(収容容器2の収容する育成水20のどれだけの割合を入れ替えるか)などを、換水機構61は、制御できる。この制御によって、例えば、1日で収容容器2の育成水20を一回分入れ替えるなどの制御が行える。
【0141】
また、換水機構61は、入れ替える育成水20の量や割合を制御するだけでなく、入れ替えスピードを変化させることもできる。あるいは、換水機構61は、入れ替える時間帯と入れ替えない時間帯を切り替えたり変化させたりすることもできる。
【0142】
このような換水でのきめ細かな制御ができることは、収容容器2内部での親魚200の健康状態の維持が効率的に図られる。
【0143】
このように、換水機構61は、収容容器2内部の育成水20の入れ替えをしつつ、水流も生じさせたり水流レベルを制御したりできる。既述した温度制御や光照射制御と併せて、親魚200の健康状態を維持しつつ、最適に産卵期間と非産卵期間の切り替えができる。
【0144】
(エアレーション機構)
図8においては、水流制御部6が、エアレーション機構62を更に備えている。エアレーション機構は、育成水20に気泡を付与する。気泡を供給することで、育成水20に水流が生まれる。また、気泡による渦などが生じて、対流などが発生して、育成水20に流れや動きが生じる。育成水20に流れや動きが生じると、親魚200の生息にプラスメリットが生じる。適度な運動を促したり、餌の攪拌が生じたりするからである。
【0145】
またエアレーション機構62によるエアレーションと換水機構61による換水とが同時に起こると、育成水20の流れや動きが適当に生じつつ入れ替えも効果的となる。換水による育成水20の水流と、エアレーションによる水流とが組み合わさって、より適度な育成水20の流れや動きが生じるからである。また、エアレーションによって供給される気泡が、収容容器2内部で広く広がっていくことにもつながるからである。
【0146】
また、エアレーションによって、育成水20内部の溶存酸素も一定量を維持することができる。溶存酸素の量を維持できることで、親魚200の育成が適切に行われる。
【0147】
エアレーション機構62により育成水20の溶存酸素、鮮度、水流などが制御できる。これらの結果、親魚200の健康が維持されつつ、産卵や受精での効率を向上させることができる。
【0148】
(給餌部)
収容容器2内部に餌を供給する給餌部7を更に備える。給餌部7は、親魚200に必要となる餌を供給する。親魚200の種類や体調などに対応する種類や量の餌を、給餌部7は供給する。この最適な対応関係の餌の供給によって、親魚200の健康状態の維持が図られる。
【0149】
このような給餌部7の機能も併せ持って、親魚200の健康状態の維持が図られる。
【0150】
(近海魚)
【0151】
実施の形態1、2で説明した産卵管理装置1は、近海魚の親魚から受精卵を得る。ここで、近海魚としては、次のような種類がその例である。キス類(シロギスなど)、アジ類、イワシ類、イカ類(アオリイカなど)、ベラ類(キュウセンなど)、ハタ類(キジハタなど)、メバル、アナゴ、ハゼ、カワハギ類、オコゼ、舌平目、カニ類の少なくとも一つである。
【0152】
これらは一例であり、他の種類の近海魚も含むことを除外するものではない。
【0153】
このような種類の近海魚を対象とすることで、水産資源として減少や枯渇などの危機にある近海魚を、確実に養殖や蓄養して増加させて需要に応えることができるようになる。
【0154】
なお、実施の形態1~2で説明された親魚の産卵管理装置1は、本発明の趣旨を説明する一例であり、本発明の趣旨を逸脱しない範囲での変形や改造を含む。
【符号の説明】
【0155】
1 産卵管理装置
2 収容容器
20 育成水
3 温度制御部
5 光照射制御部
6 水流制御部
61 換水機構
62 エアレーション機構
7 給餌部
9 期間制御部
100 受精卵
200 親魚
201 雌の親魚
202 雄の親魚