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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-08
(45)【発行日】2024-08-19
(54)【発明の名称】鋳造材の製造方法および製造装置
(51)【国際特許分類】
   B22D 11/06 20060101AFI20240809BHJP
   B22D 11/103 20060101ALI20240809BHJP
   B22D 11/18 20060101ALI20240809BHJP
   B22D 37/00 20060101ALI20240809BHJP
【FI】
B22D11/06 320Z
B22D11/103 B
B22D11/18 F
B22D37/00 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020144907
(22)【出願日】2020-08-28
(65)【公開番号】P2022039742
(43)【公開日】2022-03-10
【審査請求日】2023-05-29
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和元年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業「高性能・高強度・軽量・安価なアルミワイヤーハーネスを実現する素用線キャスターの開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】503420833
【氏名又は名称】学校法人常翔学園
(74)【代理人】
【識別番号】100128923
【弁理士】
【氏名又は名称】納谷 洋弘
(74)【代理人】
【識別番号】100180297
【弁理士】
【氏名又は名称】平田 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100128912
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 徹
(72)【発明者】
【氏名】羽賀 俊雄
【審査官】祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開昭55-057360(JP,A)
【文献】特開2019-136743(JP,A)
【文献】特開2018-001174(JP,A)
【文献】特開2006-095578(JP,A)
【文献】特開平03-174952(JP,A)
【文献】特開平03-124348(JP,A)
【文献】特開平05-104211(JP,A)
【文献】特開昭54-121231(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 11/06
B22D 11/103
B22D 11/18
B22D 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製線材の加工に供される鋳造材の製造方法であって、
外周面に溝を有する第1冷却ロールが回転している状態で前記溝に溶湯状態及び半凝固状態の少なくともいずれかの状態の金属を注湯するとともに前記第1冷却ロールによって前記金属を冷却する第1冷却工程と、
前記第1冷却ロールに対して前記金属の注湯位置よりも当該第1冷却ロールの回転方向の下流側において外周が接触しながら回転する第2冷却ロールによって、溶湯状態及び半凝固状態の少なくともいずれかの状態の前記金属を冷却する第2冷却工程と、を備え、
前記第1冷却工程においては、前記第1冷却ロールにおける前記金属の注湯位置では前記金属が前記溝の断面の一部を満たし、且つ、前記第2冷却ロールの前記第1冷却ロールへの接触位置では前記金属が前記溝の断面の全部を満たすように、前記溝への前記金属の注湯量が調整され、前記溝へ前記金属が注湯されることを特徴とする、鋳造材の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の鋳造材の製造方法であって、
前記溝の断面積が、前記第1冷却ロールに前記金属を注湯する注湯部における前記金属の注湯口の開口面積よりも大きくなるように設定されており、
前記第1冷却工程においては、前記注湯口を通過する前記金属の通過速度が、前記第1冷却ロールの外周部の周速よりも速くなるように調整されることで、前記溝への前記金属の注湯量が調整されることを特徴とする、鋳造材の製造方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の鋳造材の製造方法であって、
前記第1冷却工程においては、前記注湯位置において前記金属が前記溝の断面の一部を満たし、且つ、前記接触位置に対して前記第1冷却ロールの回転方向の上流側の領域であって前記第1冷却ロールの外周と前記第2冷却ロールの外周との間の領域で前記金属が前記溝の縁部よりも盛り上がった状態で前記接触位置において前記金属が前記溝の断面の全部を満たすように、前記溝への前記金属の注湯量が調整され、前記溝へ前記金属が注湯されることを特徴とする、鋳造材の製造方法。
【請求項4】
金属製線材の加工に供される鋳造材の製造装置であって、
外周面に溝を有し、回転している状態で前記溝に溶湯状態及び半凝固状態の少なくともいずれかの状態の金属が注湯されて前記金属を冷却する第1冷却ロールと、
前記第1冷却ロールに対して前記金属の注湯位置よりも当該第1冷却ロールの回転方向の下流側において外周が接触しながら回転し、溶湯状態及び半凝固状態の少なくともいずれかの状態の前記金属を冷却する第2冷却ロールと、
前記第1冷却ロールの前記溝に前記金属を注湯する注湯部と、を備え、
前記注湯部は、前記第1冷却ロールにおける前記金属の注湯位置では前記金属が前記溝の断面の一部を満たし、且つ、前記第2冷却ロールの前記第1冷却ロールへの接触位置では前記金属が前記溝の断面の全部を満たすように、前記溝への前記金属の注湯量を調整した状態で、前記溝へ前記金属を注湯することを特徴とする、鋳造材の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属製線材の加工に供される鋳造材の製造方法および製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
金属製線材は、一般的に、鋳造された棒状の鋳造材を、多段圧延して細線化して製造される。このような金属製線材の製造方法として、従来より、プロペルチ法等を用いた鋳造装置で鋳造材を製造し、この鋳造材を多段の圧延装置で順次圧延して線材を得る方法が実施されている。特許文献1にはプロペルチ法を用いた鋳造装置の一例が開示されている。
【0003】
プロペルチ法を用いた鋳造装置は、例えば特許文献1に記載されているように、溝を外周に設けた鋳造輪と、鋼製の無端ベルトとして設けられた鋼ベルトとを備えて構成されている。そして、この鋳造装置は、鋳造輪を鋼ベルトとともに回転させ、鋼ベルトと溝とにより形成される鋳型の一端に流動性を有する金属を注湯し、注湯した金属を上方から鋼ベルトで蓋をし、鋳造輪の溝と鋼ベルトの外側とから冷却し内部で凝固させて鋳造材を取り出すように構成されている。このようなプロペルチ法を用いた鋳造装置は、外周の中央部が凹んだ溝を有する直径約2000mmの鋳造輪および張力輪と、鋳造輪と張力輪との間に掛け回される鋼ベルトとを備えた巨大な装置として構成される。
【0004】
一方、特許文献2、非特許文献1、及び非特許文献2においては、プロペルチ法を用いずに小型の鋳造材を製造することができる製造装置及び製造方法が開示されている。
【0005】
特許文献2においては、外周面に金属が注湯される冷却ロールと、冷却ロールの両側方で回転自在に設けられた第1及び第2の側方部材と、を備えて構成された製造装置とその製造装置を用いた製造方法とが開示されている。第1及び第2の側方部材は、断熱性を有する層が設けられ、冷却ロールに注湯された金属を堰き止めるサイドダムを形成するように構成されている。
【0006】
非特許文献1においては、外周面に溝を有するとともに溝に金属が注湯される下ロール、及び、下ロールに対して外周面同士が対向するように配置された上ロール、を備えた製造装置と、その製造装置を用いた製造方法とが開示されている。そして、非特許文献1に開示された製造装置及び製造方法においては、上ロールは、下ロールに対して、外周面同士がギャップを介して対向して配置され、又は、上ロールの外周面が下ロールの溝の内側に食い込んだ状態で配置される。
【0007】
非特許文献2においては、外周面に溝を有するとともに溝に金属が注湯される下ロール、及び、下ロールに対して外周面同士がギャップを介して対向するように配置された上ロール、を備えた製造装置と、その製造装置を用いた製造方法とが開示されている。そして、非特許文献2に開示された製造装置及び製造方法においては、下ロールの溝に注湯されて半凝固状態となった金属の表面が上ロールと接触して冷却される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開昭55-57360号公報
【文献】特開2019-136743号公報
【非特許文献】
【0009】
【文献】羽賀俊雄,外1名,“線材鋳造に関する研究”,一般社団法人日本機械学会,日本機械学会講演論文集NO.154-1(関西支部第90期定時総会講演会),2015年3月
【文献】羽賀俊雄,“線材用鋳造輪キャスターの開発”,文部科学省平成29年度私立大学研究ブランディング事業,大阪工業大学,令和2年2月,p59-62
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1に開示されたプロペルチ法を用いた鋳造装置は、大量生産向けの装置であり、この装置で鋳造される鋳造材の直径は一般的に10数cm程度と太い。このため、この鋳造材を圧延して線材とするには、例えば15段程度の三方ロール圧延を行って細線化する工程が必要であり、巨大な圧延設備を含む大掛かりな装置が必要になる。その一方で、金属製線材に対するニーズの多様化や在庫削減の観点から、近年は小ロット多品種生産の需要がある。しかし、プロペルチ法を用いた鋳造装置は、小ロット生産の場合は設備にかかるコストが見合わないため、多品種、少量生産には不向きである。また、プロペルチ法を用いた鋳造装置では、鋳造時の冷却速度が50℃/sec程度と遅く、材料組織の緻密化を図ることが困難なため、高伝導性及び高強度のような高機能を有する線材を得るための鋳造材を製造することができない。
【0011】
一方、特許文献2、非特許文献1、非特許文献2に開示された製造装置及び製造方法によると、プロペルチ法を用いる必要がなく、大掛かりな装置を必要とせずに小型の鋳造材を製造することができる。このため、線材を得るための工程を削減でき、小ロット生産に適した製造装置及び製造方法を得ることができる。しかし、本願発明者が、鋭意研究したところ、上記の製造装置及び製造方法には、以下の問題があることが判明した。
【0012】
特許文献2に開示された装置によると、鋳造時の冷却速度として300℃/sec程度の冷却速度を達成でき、プロペルチ法よりは高い冷却速度を得ることができる。しかし、特許文献2に開示された製造装置及び製造方法は、断熱性を有する回転式の側方部材によって冷却ロールからの金属の流れを堰き止めるため、より高い冷却速度を達成することが困難であった。
【0013】
非特許文献1に開示された製造装置及び製造方法によると、外周面同士が対向して配置される上ロールと下ロールとの間で効率よく金属を冷却することができる。しかし、非特許文献1に開示された製造装置及び製造方法においては、上ロールと下ロールとがギャップを介して対向して配置される場合は、鋳造時の金属における上下ロールの間の部分において、不要な突起部分としてのバリが発生するという問題があった。また、上ロールの外周面が下ロールの溝の内側に食い込んだ状態で配置される場合は、注湯される金属の温度及び冷却ロールの温度が変化すると、鋳造材の断面積が変動してしまうという問題があった。
【0014】
非特許文献2に開示された製造装置及び製造方法によると、外周面同士が対向して配置される上ロールと下ロールとの間で効率よく金属を冷却することができる。しかし、非特許文献2に開示された製造装置及び製造方法においては、下ロールの溝に注湯されて半凝固状態となった金属の表面が上ロールと接触して冷却されるため、注湯される金属の温度及び冷却ロールの温度が変化すると、鋳造材の断面積が変動してしまうという問題があった。また、非特許文献2に開示された製造装置及び製造方法においては、上ロールと下ロールとがギャップを介して対向して配置されるため、冷却ロールの周速を上げるとバリが発生し易くなってしまうという問題もあった。
【0015】
そこで、本発明は、大掛かりな装置を必要とせず、線材を得るための工程を削減でき、小ロット生産に適し、鋳造時に効率よく冷却できて高機能な線材を得るための鋳造材を製造できるとともにバリの発生を抑制でき、注湯される金属の温度及び冷却ロールの温度が変化しても鋳造材の断面積を一定にすることが容易な、鋳造材の製造方法及び製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
(1)上記課題を解決するために、この発明のある局面に係わる鋳造材の製造方法は、金属製線材の加工に供される鋳造材の製造方法であって、外周面に溝を有する第1冷却ロールが回転している状態で前記溝に溶湯状態及び半凝固状態の少なくともいずれかの状態の金属を注湯するとともに前記第1冷却ロールによって前記金属を冷却する第1冷却工程と、前記第1冷却ロールに対して前記金属の注湯位置よりも当該第1冷却ロールの回転方向の下流側において外周が接触しながら回転する第2冷却ロールによって、溶湯状態及び半凝固状態の少なくともいずれかの状態の前記金属を冷却する第2冷却工程と、を備え、前記第1冷却工程においては、前記第1冷却ロールにおける前記金属の注湯位置では前記金属が前記溝の断面の一部を満たし、且つ、前記第2冷却ロールの前記第1冷却ロールへの接触位置では前記金属が前記溝の断面の全部を満たすように、前記溝への前記金属の注湯量が調整され、前記溝へ前記金属が注湯されることを特徴とする。尚、金属としては、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金、マグネシウム合金、銅、例えば真鍮のような銅合金、等を挙げることができる。
【0017】
上記の構成によると、回転する第1冷却ロールの外周面の溝に金属が注湯され、溝の底面部及び両側壁部によって金属が冷却される。更に、溝の内側で溝とともに回転方向の下流側に移動する金属は、第1冷却ロールの回転方向の下流側において、第1冷却ロールに対して外周が接触しながら回転する第2冷却ロールの外周面によっても冷却される。これにより、第1冷却ロールの溝に注湯された金属は、第1冷却ロールと第2冷却ロールとによって冷却されて鋳造され、溝の断面積に対応した小型の鋳造材が製造される。よって、上記の構成によると、プロペルチ法を用いる必要がなく、大掛かりな装置を必要とせずに小型の鋳造材を製造することができる。このため、線材を得るための工程を削減でき、小ロット生産に適した製造方法を得ることができる。
【0018】
また、上記の構成によると、回転する第1冷却ロールの溝に注湯された金属は、第1冷却ロールの溝の底面部及び両側壁部によって急冷される。また、第1冷却ロールの溝に注湯される金属は、第1冷却ロールへの注湯位置において金属が溝の断面の一部を満たすように溝に対して注湯される。このため、注湯された金属は、溝の両側壁部から効率よく抜熱されて急冷されることになる。更に、第1冷却ロールの溝に注湯された金属は、溝の底面部及び両側壁部によって効率よく急冷されることに加え、第1冷却ロールに外周が接触しながら回転する第2冷却ロールの外周面によっても効率よく急冷される。このため、上記の構成によると、500℃/sec程度の速い冷却速度を容易に実現でき、材料組織の緻密化を図ることができるため、高伝導性及び高強度のような高機能を有する線材を得るための鋳造材を容易に製造することができる。
【0019】
また、上記の構成によると、第1冷却ロールへの金属の注湯位置では金属が溝の断面の一部を満たし、且つ、第2冷却ロールの第1冷却ロールへの接触位置では金属が溝の断面の全部を満たすように、溝への金属の注湯量が調整される。このため、注湯される金属の温度及び冷却ロールの温度が変化した場合であっても、第1冷却ロールと第2冷却ロールとの接触位置を通過して鋳造された金属の断面形状は、溝の断面形状に対応した形状となる。これにより、注湯される金属の温度及び冷却ロールの温度が変化しても鋳造材の断面積を容易に一定にすることができる。また、第1冷却ロールに注湯された金属は、第1冷却ロールの溝と第2冷却ロールの外周面とで区画された断面を満たす状態で鋳造されて成形されるため、バリの発生が抑制される。
【0020】
したがって、上記の構成によると、大掛かりな装置を必要とせず、線材を得るための工程を削減でき、小ロット生産に適し、鋳造時に効率よく冷却できて高機能な線材を得るための鋳造材を製造できるとともにバリの発生を抑制でき、注湯される金属の温度及び冷却ロールの温度が変化しても鋳造材の断面積を一定にすることが容易な、鋳造材の製造方法を提供することができる。
【0021】
(2)前記溝の断面積が、前記第1冷却ロールに前記金属を注湯する注湯部における前記金属の注湯口の開口面積よりも大きくなるように設定されており、前記第1冷却工程においては、前記注湯口を通過する前記金属の通過速度が、前記第1冷却ロールの外周部の周速よりも速くなるように調整されることで、前記溝への前記金属の注湯量が調整されてもよい。
【0022】
上記の構成によると、溝の断面積が注湯部における金属の注湯口の開口面積よりも大きく設定される。そして、金属の注湯口の通過速度が第1冷却ロールの外周部の周速よりも相対的に速くなるように第1冷却ロールの周速を調整するだけで、溝への金属の注湯量を容易に調整することができる。即ち、上記の構成によると、注湯位置では金属が溝の断面の一部を満たし、接触位置では金属が溝の断面の全部を満たすように溝への金属の注湯量を調整することを、金属の注湯口の通過速度に対して第1冷却ロールの周速を相対的に調整するだけで容易に行うことができる。
【0028】
)また、上述したいずれかの鋳造材の製造方法において、前記第1冷却工程においては、前記注湯位置において前記金属が前記溝の断面の一部を満たし、且つ、前記接触位置に対して前記第1冷却ロールの回転方向の上流側の領域であって前記第1冷却ロールの外周と前記第2冷却ロールの外周との間の領域で前記金属が前記溝の縁部よりも盛り上がった状態で前記接触位置において前記金属が前記溝の断面の全部を満たすように、前記溝への前記金属の注湯量が調整され、前記溝へ前記金属が注湯されてもよい。
【0029】
上記の構成によると、接触位置の上流側で第1冷却ロールと第2冷却ロールとの間に金属が溝の縁部よりも盛り上がった部分を形成することで、接触位置への金属の流入状態を視覚的に確認しながら、溝への金属の注湯量を容易に調整することができる。即ち、上記の構成によると、注湯位置では金属が溝の断面の一部を満たし、接触位置では金属が溝の断面の全部を満たすように溝への金属の注湯量を調整することを、接触位置の上流側の第1及び第2冷却ロール間で金属が溝の縁部よりも盛り上がった部分を形成するように金属を注湯することで、容易に行うことができる。
【0035】
)上記課題を解決するために、この発明のある局面に係わる鋳造材の製造装置は、金属製線材の加工に供される鋳造材の製造装置であって、外周面に溝を有し、回転している状態で前記溝に溶湯状態及び半凝固状態の少なくともいずれかの状態の金属が注湯されて前記金属を冷却する第1冷却ロールと、前記第1冷却ロールに対して前記金属の注湯位置よりも当該第1冷却ロールの回転方向の下流側において外周が接触しながら回転し、溶湯状態及び半凝固状態の少なくともいずれかの状態の前記金属を冷却する第2冷却ロールと、前記第1冷却ロールの前記溝に前記金属を注湯する注湯部と、を備え、前記注湯部は、前記第1冷却ロールにおける前記金属の注湯位置では前記金属が前記溝の断面の一部を満たし、且つ、前記第2冷却ロールの前記第1冷却ロールへの接触位置では前記金属が前記溝の断面の全部を満たすように、前記溝への前記金属の注湯量を調整した状態で、前記溝へ前記金属を注湯することを特徴とする。尚、金属としては、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金、マグネシウム合金、銅、例えば真鍮のような銅合金、等を挙げることができる。
【0036】
上記の構成によると、回転する第1冷却ロールの外周面の溝に金属が注湯され、溝の底面部及び両側壁部によって金属が冷却される。更に、溝の内側で溝とともに回転方向の下流側に移動する金属は、第1冷却ロールの回転方向の下流側において、第1冷却ロールに対して外周が接触しながら回転する第2冷却ロールの外周面によっても冷却される。これにより、第1冷却ロールの溝に注湯された金属は、第1冷却ロールと第2冷却ロールとによって冷却されて鋳造され、溝の断面積に対応した小型の鋳造材が製造される。よって、上記の構成によると、プロペルチ法を用いる必要がなく、大掛かりな装置を必要とせずに小型の鋳造材を製造することができる。このため、線材を得るための工程を削減でき、小ロット生産に適した製造装置を得ることができる。
【0037】
また、上記の構成によると、回転する第1冷却ロールの溝に注湯された金属は、第1冷却ロールの溝の底面部及び両側壁部によって急冷される。また、第1冷却ロールの溝に注湯される金属は、第1冷却ロールへの注湯位置において金属が溝の断面の一部を満たすように溝に対して注湯される。このため、注湯された金属は、溝の両側壁部から効率よく抜熱されて急冷されることになる。更に、第1冷却ロールの溝に注湯された金属は、溝の底面部及び両側壁部によって効率よく急冷されることに加え、第1冷却ロールに外周が接触しながら回転する第2冷却ロールの外周面によっても効率よく急冷される。このため、上記の構成によると、500℃/sec程度の速い冷却速度を容易に実現でき、材料組織の緻密化を図ることができるため、高伝導性及び高強度のような高機能を有する線材を得るための鋳造材を容易に製造することができる。
【0038】
また、上記の構成によると、第1冷却ロールへの金属の注湯位置では金属が溝の断面の一部を満たし、且つ、第2冷却ロールの第1冷却ロールへの接触位置では金属が溝の断面の全部を満たすように、溝への金属の注湯量が調整される。このため、注湯される金属の温度及び冷却ロールの温度が変化した場合であっても、第1冷却ロールと第2冷却ロールとの接触位置を通過して鋳造された金属の断面形状は、溝の断面形状に対応した形状となる。これにより、注湯される金属の温度及び冷却ロールの温度が変化しても鋳造材の断面積を容易に一定にすることができる。また、第1冷却ロールに注湯された金属は、第1冷却ロールの溝と第2冷却ロールの外周面とで区画された断面を満たす状態で鋳造されて成形されるため、バリの発生が抑制される。
【0039】
したがって、上記の構成によると、大掛かりな装置を必要とせず、線材を得るための工程を削減でき、小ロット生産に適し、鋳造時に効率よく冷却できて高機能な線材を得るための鋳造材を製造できるとともにバリの発生を抑制でき、注湯される金属の温度及び冷却ロールの温度が変化しても鋳造材の断面積を一定にすることが容易な、鋳造材の製造装置を提供することができる。
【発明の効果】
【0040】
本発明によれば、大掛かりな装置を必要とせず、線材を得るための工程を削減でき、小ロット生産に適し、鋳造時に効率よく冷却できて高機能な線材を得るための鋳造材を製造できるとともにバリの発生を抑制でき、注湯される金属の温度及び冷却ロールの温度が変化しても鋳造材の断面積を一定にすることが容易な、鋳造材の製造方法及び製造装置を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
図1】金属製線材の加工に供される鋳造材の製造装置の一例を示す模式図である。
図2図1に示される鋳造材の製造装置を上方から見た模式図である。
図3】鋳造材の製造装置における第1冷却ロールの一部を示す模式図であって、第1冷却ロールの径方向と平行な方向から見た図である。
図4図1に示される鋳造材の製造装置の一部を拡大して模式的に示す断面図である。
図5図4に示される鋳造材の製造装置の一部の断面を模式的に示す断面図であって、(A)は図4のA-A線矢視位置での断面図であり、(B)は図4のB-B線矢視位置での断面図であり、(C)は図4のC-C線矢視位置での断面図であり、(D)は図4のD-D線矢視位置での断面図である。
図6】金属製線材の加工に供される鋳造材の製造方法の一例を示すフローチャートである。
図7図1に示される鋳造材の製造装置によって製造した鋳造材の断面図である。
図8図1に示される鋳造材の製造装置によって製造した鋳造材の一部の平面図である。
図9図1に示される鋳造材の製造装置によって製造した鋳造材の一部の底面図である。
図10図1に示される鋳造材の製造装置によって製造した鋳造材を一巻きのコイル状に巻いた状態で示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照しつつ説明する。
【0043】
[1.鋳造材の製造装置]
図1は、金属製線材の加工に供される鋳造材の製造装置1の一例を示す模式図であって、本発明の実施形態に係る鋳造材の製造装置1(以下、「鋳造材の製造装置1」について、単に「製造装置1」とも称する)の模式図である。図2は、図1に示される製造装置1を上方から見た模式図である。図3は、製造装置1における第1冷却ロール10の一部を示す模式図であって、第1冷却ロール10の径方向と平行な方向から見た図である。図4は、図1に示される製造装置1の一部を拡大して模式的に示す断面図である。図5は、図4に示される製造装置1の一部の断面を模式的に示す断面図であって、(A)は図4のA-A線矢視位置での断面図であり、(B)は図4のB-B線矢視位置での断面図であり、(C)は図4のC-C線矢視位置での断面図であり、(D)は図4のD-D線矢視位置での断面図である。尚、図1,2,4,5は、製造装置1によって金属100が鋳造されて鋳造材110が製造されている状態を示している。
【0044】
図1及び図2に示されるように、金属製線材の加工に供される鋳造材の製造装置1は、第1冷却ロール10と、第2冷却ロール11と、注湯部12と、を少なくとも備えて構成されている。そして、製造装置1においては、第1冷却ロール10の外周面に注湯部12から注湯された金属100が第1冷却ロール10によって冷却されて凝固しつつ第1冷却ロール10の回転方向に沿って詰まることなくスムーズに移動し、更に第2冷却ロール11によっても冷却され、金属製線材の加工に供される鋳造材110が製造される。
【0045】
[1-1.第1冷却ロール]
第1冷却ロール10は、外周面に溝20を有し、回転している状態で溝20に溶湯状態及び半凝固状態の少なくともいずれかの状態の金属100が注湯されて金属100を冷却するロールとして構成されている。第1冷却ロール10の回転軸は、水平方向に沿って延びるように設置されている。即ち、第1冷却ロール10は、水平軸回りに回転するように設けられている。また、第1冷却ロール10の回転軸は、回転速度(回転数)を所定の速度範囲内で任意に設定可能な電動モータによって回転駆動されるように構成されている。
【0046】
第1冷却ロール10は、従来のプロペルチ法で用いられる冷却ロールのような大型ロール(ロール直径寸法約2000mm、ロール幅寸法約100mm)ではなく、例えば、ロール直径寸法が約600mm、ロール幅寸法(即ち、回転軸と平行な方向である幅方向の寸法)が40mm以下、好ましくはロール幅寸法が20mm以下、より好ましくはロール幅寸法が10mm以下の小型ロールである。また、第1冷却ロール10は、注湯された溶湯状態或いは半凝固状態の金属100の冷却に適した素材によって構成されており、例えば、銅または銅合金、軟鋼、等によって構成されている。尚、第1冷却ロール10は、溶湯状態又は半凝固状態の金属100の冷却効率を高めるために、銅製が好ましく、また、例えば、水冷式等の冷却装置によって更に効率的に冷却されるように構成されてもよい。
【0047】
第1冷却ロール10の外周面には、溝20が設けられている。溝20は、第1冷却ロール10の外周の全周に亘って周方向に延びるように形成されている。溝20の断面形状は、台形形状に形成されている。即ち、第1冷却ロール10の外周面と第1冷却ロール10の回転軸を含む平面とが交わる線は、台形の上底及び下底の一方となる線分と台形の一対の脚となる線分とを含んで構成される。尚、本実施形態では、溝20の断面形状は、等脚台形の形状に形成されている。図3を参照して、溝20の表面は、台形の断面形状における上底及び下底の一方を区画する底面部20aと、台形の断面形状における一対の脚のそれぞれを区画する側壁部20bと、によって区画されている。また、第1冷却ロール10の外周面において、溝20に対する幅方向の両側には、溝20の縁部20cがそれぞれ設けられている。第1冷却ロール10の外周面は、底面部20aの表面、側壁部20bの表面、及び縁部20cの表面によって構成されている。
【0048】
第1冷却ロール10に対しては、溝20において、後述の注湯部12から溶湯状態及び半凝固状態の少なくともいずれかの状態の金属100が、注湯される。第1冷却ロール10における金属100が注湯される位置である注湯位置P1は、水平軸回りで回転する第1冷却ロール10の外周における最も高さが高い位置である頂点位置P0に対して、第1冷却ロール10の回転方向X1における上流側に設定される。尚、図1及び図3では、第1冷却ロール10の回転方向X1が矢印X1で示されている。また、図1では、第1冷却ロール10における注湯位置P1は、第1冷却ロール10の頂点位置P0に対して、第1冷却ロール10の回転方向X1の上流側に向かって周方向に沿って距離L1だけ離れた位置に設定されている。頂点位置P0から注湯位置P1までの第1冷却ロール10の外周に沿った距離L1は、第1冷却ロール10のロール直径寸法が600mmでロール幅寸法が10mmの場合であれば、例えば、60mmに設定される。
【0049】
[1-2.第2冷却ロール]
第2冷却ロール11は、第1冷却ロール10に対して金属の注湯位置P1よりも第1冷却ロール10の回転方向X1の下流側において外周が接触しながら回転し、溶湯状態及び半凝固状態の少なくともいずれかの状態の金属100を冷却するロールとして構成されている。第2冷却ロール11の回転軸は、第1冷却ロール10よりも上方に設置され、水平方向に沿って延びるように設置されている。即ち、第2冷却ロール11は、第1冷却ロール10の上方で水平軸回りに回転するように設けられている。また、第2冷却ロール11の回転軸は、回転速度(回転数)を所定の速度範囲内で任意に設定可能な電動モータによって回転駆動されるように構成されている。
【0050】
第2冷却ロール11は、第1冷却ロール10よりもロール直径寸法が小さいロールとして設けられ、例えば、ロール直径寸法が約300mmのロールとして構成されている。そして、第2冷却ロール11は、例えば、ロール幅寸法が第1冷却ロール10のロール幅寸法と同じ寸法となるように設定されている。また、第2冷却ロール11は、溶湯状態或いは半凝固状態の金属100の冷却に適した素材によって構成されており、例えば、銅または銅合金、軟鋼、等によって構成されている。尚、第2冷却ロール11は、溶湯状態又は半凝固状態の金属100の冷却効率を高めるために、銅製が好ましく、また、例えば、水冷式等の冷却装置によって更に効率的に冷却されるように構成されてもよい。
【0051】
また、第2冷却ロール11の外周は、高さの低い円柱の外周の形状に形成されている。第2冷却ロール11の外周面21は、高さの低い円柱の表面として形成され、溝が無く円周方向に平坦に延びる面である。このため、第2冷却ロール11の外周面21と第2冷却ロール11の回転軸を含む平面とが交わる線は、直線となる。また、第2冷却ロール11は、第1冷却ロール10に対して外周が接触しながら回転するように設置されている。より具体的には、第2冷却ロール11は、その外周面21が、第1冷却ロール10の外周面の縁部20cと当接して接触した状態で、回転するように設置されている。このため、第2冷却ロール11の回転軸と第1冷却ロール10の回転軸とは、互いに平行に延びるように設置されているとともに、互いの距離が、第2冷却ロール11のロール半径寸法と第1冷却ロール10のロール半径寸法との和と一致した状態で、設置されている。また、第2冷却ロール11と第1冷却ロール10とは、外周同士が接触した状態で回転するとともに、ロール幅寸法が同じに設定される。このため、第2冷却ロール11は、第1冷却ロール10に対して、上下方向に沿って広がる同一平面に沿って配置される。尚、本実施形態では、第2冷却ロール11のロール幅寸法が、第1冷却ロール10のロール幅寸法と同じに設定された形態を例示したが、この通りでなくてもよい。第2冷却ロール11のロール幅寸法は、第1冷却ロール10のロール幅寸法よりも大きく設定されてもよい。或いは、第2冷却ロール11のロール幅寸法は、第1冷却ロール10のロール幅寸法よりも小さく設定される場合であっても、第1冷却ロール10の溝20の幅よりも大きくて溝20の縁部20cと当接するように設定される形態であればよい。
【0052】
また、第2冷却ロール11は、第1冷却ロール10に対して、注湯位置P1よりも第1冷却ロール10の回転方向X1の下流側の位置において、外周面21が接触する。そして、第2冷却ロール11が第1冷却ロール10に対して接触する位置である接触位置P2は、第1冷却ロール10の頂点位置P0に対して、第1冷却ロール10の回転方向X1の下流側に設定される。また、図1では、第2冷却ロール11の第1冷却ロール10への接触位置P2は、第1冷却ロール10の頂点位置P0に対して、第1冷却ロール10の回転方向X1の下流側に向かって周方向に沿って距離L2だけ離れた位置に設定されている。頂点位置P0から接触位置P2までの第1冷却ロール10の外周に沿った距離L2は、例えば、距離L1と同じに設定され、第1冷却ロール10のロール直径寸法が600mmでロール幅寸法が10mmの場合であれば、例えば、60mmに設定される。
【0053】
第2冷却ロール11は、第1冷却ロール10に対して、接触位置P2で接触した状態で、回転方向X2に回転する。尚、図1及び図3では、第2冷却ロール11の回転方向X2が矢印X2で示されている。第2冷却ロール11の回転方向X2は、第1冷却ロール10の回転方向X1とは逆方向に設定される。第1冷却ロール10の回転軸及び第2冷却ロール11の回転軸と平行な方向から見た状態で、例えば、第1冷却ロール10の回転方向X1が反時計回り方向であれば、第2冷却ロール11の回転方向X2は時計回り方向に設定される。第2冷却ロール11の第1冷却ロール10への接触位置P2では、溝20に注湯されて第1冷却ロール10によって冷却されながら第1冷却ロール10の回転とともに移動してきた金属100は、第2冷却ロール11の外周面21とも接触する。金属100は、第2冷却ロール11に接触して第2冷却ロール11によっても冷却されることで、鋳造が完了し、鋳造材110として成形される。成形された鋳造材110は、互いに逆方向に回転する第1冷却ロール10と第2冷却ロール11とによって回転方向(X1,X2)の下流側に送られる。そして、接触位置P2から第1冷却ロール10及び第2冷却ロール11の回転方向(X1,X2)の下流側に送られた鋳造材110は、第1冷却ロール10の溝20から離間(離型)する。
【0054】
[1-3.注湯部]
注湯部12は、第1冷却ロール10の溝20に対して金属100を注湯する機構として構成されている。注湯部12は、溶解炉(図示省略)で溶解された溶湯状態の金属100を貯留するタンディッシュ22a、及び、タンディッシュ22aの下部に設けられてタンディッシュ22aの内部と連通するノズル22b、を少なくとも備えて構成されている。
【0055】
注湯部12においては、溶湯状態でタンディッシュ22aに貯留された金属100が、ノズル22bから出湯され、第1冷却ロール10の溝20へと注湯される。尚、本実施形態では、ノズル22bと第1冷却ロール10との間には、ノズル22bから出湯した金属100が流動する樋13が設置されている。本実施形態では、注湯部12は、ノズル22bから金属100を出湯し、樋13を介して、第1冷却ロール10の溝20に注湯するように構成されている。尚、樋13は、ノズル22bの下方において、第1冷却ロール10の溝20に向かって斜め下方に延びるように設けられている。そして、樋13は、ノズル22bから出湯して樋13に沿って斜め下方に金属100が流動する方向を横切る断面がV字状であり、樋13の下端の出口付近では、流動する金属100の幅が第1冷却ロール10の溝20の幅よりも小さい。尚、本実施形態では、ノズル22bと第1冷却ロール10との間に樋13が設置され、注湯部12が、ノズル22bから出湯した金属100を樋13を介して第1冷却ロール10の溝20に注湯するように構成された形態を例示したが、この例に限られなくてもよい。例えば、樋13が設置されておらず、ノズル22bが第1冷却ロール10の溝20により近接して配置された形態が実施されてもよい。この形態の場合、ノズル22bと第1冷却ロール10との間には樋13が無く、注湯部12は、ノズル22bから出湯した金属100をノズル22bから直接に第1冷却ロール10の溝20に注湯するように構成される。
【0056】
ノズル22bには、タンディッシュ22aの内部と連通するとともに外部に開口して金属100を出湯する注湯口22cが設けられている(図2を参照)。注湯口22cの開口面積は、粘性を有する溶湯状態の金属100がスムーズに押し出されるために必要な面積以上に設定され、例えば、6mm以上に設定される。また、本実施形態では、ノズル22bの注湯口22cの開口面積が設定されると、注湯口22cから出湯した金属100が注湯される第1冷却ロール10の溝20の断面積の方が注湯口22cの開口面積よりも大きくなるように、溝20の断面積が設定される。
【0057】
また、注湯部12においては、注湯部12による注湯時におけるノズル22bの注湯口22cから第1冷却ロール10へ注湯する金属100の注湯量(単位時間あたりの金属100の注湯量)は、一定の注湯量となるように調整される。より具体的には、タンディッシュ22aの内部における溶湯状態の金属100の液面レベル(即ち、タンディッシュ22aの内部における溶湯状態の金属100のノズル22bの位置からの液面高さ)が一定となるように制御される。これにより、タンディッシュ22a内に貯留された金属100からノズル22bに作用する圧力が一定となり、ノズル22bの注湯口22cから注湯される金属100の注湯量が一定に調整される。
【0058】
また、注湯部12においては、ノズル22bの注湯口22cを通過する金属100の通過速度が、第1冷却ロール10の外周部の周速よりも速くなるように調整されることで、溝20への金属の注湯量が調整される。この調整においては、金属100の注湯口22cの通過速度が第1冷却ロール10の外周部の周速よりも相対的に速くなればよい。このため、金属100の注湯口22cの通過速度を設定した上でその通過速度よりも第1冷却ロール10の外周部の周速を遅く設定してもよいし、第1冷却ロール10の外周部の周速を設定した上でその周速よりも金属100の注湯口22cの通過速度を速く設定してもよい。尚、第1冷却ロール10の外周部は、第1冷却ロール10の外周面を区画している部分であって、第1冷却ロール10における溝20を形成している部分として構成される。ノズル22bの注湯口22cを通過する金属100の通過速度との関係で規定される第1冷却ロール10の外周部の周速としては、第1冷却ロール10の外周面のうちのいずれかの部分の周速を用いることができる。例えば、第1冷却ロール10の外周面のうちの底面部20aの周速が用いられてもよい。或いは、第1冷却ロール10の外周面のうちの縁部20cの周速が用いられてもよい。また或いは、第1冷却ロール10の外周面のうちの側壁部20bにおける所定の位置の周速が用いられてもよい。
【0059】
製造装置1においては、上述のように、第1冷却ロール10の溝20の断面積が、注湯部12のノズル22bの注湯口22cの開口面積よりも大きく設定され、注湯口22cを通過する金属100の通過速度が、第1冷却ロール10の外周部の周速よりも速くなるように、金属100の注湯量が調整される。このため、注湯部12の注湯口22cから第1冷却ロール10の溝20へ注湯されて溝20の内側で溝20とともに第1冷却ロール10の回転方向X1の下流側に移動する金属100における移動方向に垂直な断面の面積は、徐々に大きくなる。即ち、溝20の内側で溝20とともに第1冷却ロール10の回転方向X1の下流側に移動する金属100は、回転方向X1の下流側に移動するにしたがって、溝20の断面において占める面積の割合が大きくなる。よって、溝20の断面において金属100が占める面積の割合は、注湯位置P1から接触位置P2へと金属100が近づくと、図5(A)~(C)に示すように、徐々に大きくなる。このため、注湯口22cを通過する金属100の通過速度と第1冷却ロール10の外周部の周速との関係を調整することで、接触位置P2において溝20の断面の全部が満たされた状態となるように、注湯部12からの金属100の注湯量を容易に調整することができる。そして、注湯部12においては、図5(A)に示すように、注湯位置P1では金属100が溝20の断面の一部を満たし、且つ、図5(D)に示すように、接触位置P2では金属100が溝20の断面の全部を満たすように、溝20への金属100の注湯量を調整した状態で、溝20への金属100の注湯が行われる。
【0060】
溝20への金属100の注湯量の調整は、注湯位置P1及び接触位置P2における金属100の流動状態を目視で確認しながら、注湯口22cでの金属100の通過速度及び第1冷却ロール10の外周部の周速における一方を他方に対して調整することで、容易に行うことができる。これにより、金属100が注湯位置P1では溝20の断面の一部を満たして接触位置P2では溝20の断面の全部を満たすように溝20への金属100の注湯量が調整される。尚、注湯口22cでの金属100の通過速度は、タンディッシュ22aにおける金属100の液面レベルを変更することで、調整される。また、第1冷却ロール10の外周部の周速は、第1冷却ロール10を駆動する電動モータの回転数を変更することで、調整される。
【0061】
また、溝20への金属100の注湯量の調整は、上述のように注湯位置P1及び接触位置P2における金属100の流動状態を目視で確認しながら行う調整方法によらず、他の調整方法によって行うこともできる。他の調整方法としては、注湯口22cを通過する金属100の通過体積速度と接触位置P2を通過する金属100の通過体積速度とを一致させるように、金属100の注湯口22cの通過速度と第1冷却ロール10の外周部の周速とを予め設定する調整方法を選択することができる。
【0062】
上記の他の調整方法の場合、具体的には、注湯口22cの開口面積と注湯口22cを通過する金属100の通過速度との積と、接触位置P2における溝20と第2冷却ロール11の外周とで囲まれた領域の断面積と第1冷却ロール10の外周部の周速との積とが、同じになるように、金属100の注湯口22cの通過速度と第1冷却ロール10の外周部の周速とが設定される。これにより、金属100の注湯口22c及び接触位置P2での通過体積速度が一致するように溝20への金属100の注湯量が調整される。尚、接触位置P2における溝20と第2冷却ロール11の外周とで囲まれた領域は、接触位置P2において、溝20の底面部20a及び両側壁部20bと第2冷却ロール11の外周面21とで囲まれた領域となる。
【0063】
[2.鋳造材の製造方法]
次に、本実施形態の製造装置1を用いて行われる本実施形態の鋳造材の製造方法について説明する。図6は、金属製線材の加工に供される鋳造材の製造方法の一例を示すフローチャートであって、本発明の実施形態に係る鋳造材の製造方法(以下、「鋳造材の製造方法」について、単に「製造方法」とも称する)のフローチャートである。尚、以下の説明においては、フローチャートとともにフローチャート以外の図も適宜参照しながら説明する。
【0064】
本実施形態の製造方法において鋳造材の製造に用いられる金属としては、例えば、Al(アルミニウム)系金属、Mg(マグネシウム)系金属、Cu(銅)系金属、Zn(亜鉛)系金属等が挙げられるが、本実施形態の製造方法の適用は、特定の金属に限定されるものではない。例えばAl系金属を溶解炉で溶解して鋳造材を製造する場合、約700℃で溶解したアルミニウム系の金属100を注湯部12のタンディッシュ22aに貯留する。そして、タンディッシュ22aにおいて溶湯状態の金属100の貯留を継続しながら、本実施形態の製造方法によって連続的に鋳造を行って鋳造材110を製造する。
【0065】
鋳造材110の製造においては、まず、注湯部12から回転している第1冷却ロール10へ金属が注湯される(ステップS101)。このとき、注湯部12においてタンディッシュ22aに連通したノズル22bの注湯口22cから溶湯状態の金属100が出湯される。そして、注湯口22cから出湯された金属100は、樋13上を流動した後、第1冷却ロール10の溝20に対して注湯位置P1において注湯される。また、第1冷却ロール10の溝20に注湯された金属100は、溝20の内側で溝20とともに第1冷却ロール10の回転方向X1の下流側に移動しながら、第1冷却ロール10によって冷却される(ステップS102)。より具体的には、溝20に注湯された金属100は、第1冷却ロール10の溝20の底面部20a及び両側壁部20bによって冷却される。
【0066】
尚、第1冷却ロール10へ金属100を注湯するステップS101の処理と、第1冷却ロール10によって金属100を冷却するステップS102の処理とは、本実施形態の製造方法における第1冷却工程を構成している。即ち、本実施形態の第1冷却工程は、外周面に溝20を有する第1冷却ロール10が回転している状態で溝20に溶湯状態及び半凝固状態の少なくともいずれかの状態の金属100を注湯するとともに第1冷却ロール10によって金属100を冷却するように構成されている。
【0067】
溝20に注湯された金属100は、溝20の内側で冷却されながら溝20とともに第1冷却ロール10の回転方向X1の下流側に移動し、接触位置P2に到達する。そして、金属100は、接触位置P2に到達すると、第1冷却ロール10に外周において接触しながら回転する第2冷却ロール11によって冷却される(ステップS103)。即ち、金属100は、接触位置P2に到達すると、第1冷却ロール10の溝20の表面からの冷却に加えて、第2冷却ロール11の外周面21からの冷却によっても急激に冷却される。
【0068】
尚、第2冷却ロール11によって金属100を冷却するステップS103の処理は、本実施形態の製造方法における第2冷却工程を構成している。即ち、本実施形態の第2冷却工程は、第1冷却ロール10に対して金属100の注湯位置よりも第1冷却ロール10の回転方向X1の下流側において外周が接触しながら回転する第2冷却ロール11によって、溶湯状態及び半凝固状態の少なくともいずれかの状態の金属100を冷却するように構成されている。
【0069】
金属100は、接触位置P2を通過すると、第2冷却ロール11によって冷却されるステップS103の処理が終了し、鋳造された鋳造材110として成形される。成形された鋳造材110は、互いに逆方向に回転する第1冷却ロール10と第2冷却ロール11とによって回転方向(X1,X2)の下流側に送られる。そして、接触位置P2から第1及び第2冷却ロール(10,11)の回転方向(X1,X2)の下流側に送られた鋳造材110は、第1冷却ロール10の溝20から離間(離型)する(ステップS104)。第1冷却ロール10の溝20から離型することで、鋳造材110の製造が完了する。尚、製造された鋳造材110は、金属製線材の加工に供されることになる。
【0070】
ここで、本実施形態の製造方法の第1冷却工程(ステップS101,S102)について更に説明する。第1冷却ロール10の溝20に金属100を注湯するとともに第1冷却ロール10によって金属100を冷却する第1冷却工程においては、図5(A)に示すように、注湯位置P1では金属100が溝20の断面の一部を満たし、且つ、図5(D)に示すように、接触位置P2では金属100が溝20の断面の全部を満たすように、溝20への金属100の注湯量が調整され、溝20へ金属100が注湯される。
【0071】
また、第1冷却工程においては、金属100が、注湯位置P1では溝20の断面の一部を満たして接触位置P2では溝20の断面の全部を満たすように、溝20への金属100の注湯量が調整され、溝20へ金属100が注湯されるため、図5(B)に示すように、注湯位置P1と接触位置P2との間において溝20の断面積よりも溝20の内側の金属100の断面積が小さくなる。よって、第1冷却工程においては、注湯位置P1と接触位置P2との間において溝20の断面積よりも溝20の内側の金属100の断面積が小さくなり、且つ、接触位置P2では金属100が溝20の断面の全部を満たすように、溝20への金属100の注湯量が調整されて溝20へ金属100が注湯されることになる。
【0072】
また、第1冷却工程では、接触位置P2において金属100が溝20の断面の全部を満たすため、接触位置P2へ流入する直前の状態の金属100には、図4及び図5(C)に示すように、表面張力によって溝20の縁部20cよりも盛り上がった部分としてのパドル120が形成される。即ち、接触位置P2に対して第1冷却ロール10の回転方向X1の上流側の領域であって第1冷却ロール10の外周と第2冷却ロール11の外周との間の領域において、金属100が溝20の縁部20cよりも盛り上がった部分であるパドル120が形成される。
【0073】
よって、第1冷却工程においては、注湯位置P1において金属100が溝20の断面の一部を満たし、且つ、接触位置P2に対して第1冷却ロール10の回転方向X1の上流側の領域であって第1冷却ロール10の外周と第2冷却ロール11の外周との間の領域で金属100が溝20の縁部20cよりも盛り上がった状態で接触位置P2において金属100が溝20の断面の全部を満たすように、溝20への金属100の注湯量が調整され、溝20へ金属100が注湯されることになる。
【0074】
第1冷却工程における溝20への金属100の注湯量の調整は、前述のように、注湯位置P1及び接触位置P2における金属100の流動状態を目視で確認しながら行う調整方法によって行うことができる。この場合、接触位置P2への金属100の流入状態を目視で確認してパドル120が形成されていることを視覚的に確認することで、接触位置P2において溝20の断面の全部が満たされていることを容易に確認することができる。
【0075】
また、第1冷却工程における溝20への金属100の注湯量の調整は、前述のように、金属100の注湯口22c及び接触位置P2での通過体積速度が一致するように溝20への金属100の注湯量を調整する調整方法によっても行うことができる。この調整方法の場合、第1冷却工程においては、注湯部12の注湯口22cの開口面積と注湯口22cを通過する金属100の通過速度との積と、接触位置P2における溝20と第2冷却ロール11の外周とで囲まれた領域の断面積と第1冷却ロール10の外周部の周速との積とが、同じになるように、溝20への金属100の注湯量が調整され、溝20へ金属100が注湯されることになる。尚、注湯口22cの開口面積をSpとし、注湯口22cを通過する金属100の通過速度をVpとし、接触位置P2での溝20と第2冷却ロール11の外周とで囲まれた領域の断面積をSrとし、第1冷却ロール10の外周部の周速をVrとすると、第1冷却工程においては、下記(1)式を満たすように、溝20への金属100の注湯量が調整される。
Sp×Vp=Sr×Vr・・・・(1)
即ち、第1冷却工程において、通過体積速度を一致させる調整方法を用いて溝20への金属100の注湯量を調整する場合は、上記(1)式を満たすように、注湯口22cの開口面積Sp、注湯口22cでの金属100の通過速度Vp、接触位置P2での溝20と第2冷却ロール11の外周とで囲まれた領域の断面積Sr、及び、第1冷却ロール10の外周部の周速Vrが、それぞれ設定される。
【0076】
[3.実施例]
本実施形態について、製造装置1を用いて鋳造材を製造する実施例により裏付けを行った。
【0077】
本実施例では、第1冷却ロール10としては、ロール幅寸法W1が10mmで(図3を参照)、ロール直径寸法が600mmの円板状の銅製のものを用いた。また、第1冷却ロール10の溝20の形状については、図3を参照して、溝20の両縁部20c,20c間の距離寸法W2が8mmで、溝20の底面部20aの幅方向寸法W3が4mmで、溝20のロール半径方向における深さ寸法Dpが5mmとなるように設定した。これにより、溝20の断面積を30mmに設定した。また、溝20の断面積を30mmに設定したことで、接触位置P2での溝20と第2冷却ロール11の外周とで囲まれた領域の断面積Srも30mmに設定した。尚、第1冷却ロール10に対しては、冷媒を用いた強制冷却は行わなかった。
【0078】
第2冷却ロール11としては、ロール幅寸法が10mmでロール直径寸法が300mmの円盤状の銅製のものを用いた。また、第2冷却ロール11の外周面21は、溝が無く円周方向に平坦に延びる面である。尚、第2冷却ロール11に対しては、冷媒を用いた強制冷却は行わなかった。
【0079】
注湯部12のノズル22bの注湯口22cの開口面積Spについては6mmに設定した。また、注湯部12から金属100を注湯する際における注湯口22cを通過する金属100の通過速度Vpについては5m/minに設定した。これにより、注湯部12から第1冷却ロール10に注湯する金属100の注湯量(単位時間あたりの金属100の注湯量)を2500mm/secに設定した。
【0080】
第1冷却ロール10の外周部の周速Vrについては、底面部20aの周速Vrとして設定し、1m/minに設定した。これにより、接触位置P2における溝20と第1冷却ロール10の外周面21とで囲まれた領域の断面積Srと、第1冷却ロール10の外周部の周速Vrとの積を、注湯部12から第1冷却ロール10に注湯する金属100の注湯量と同じ2500mm/secに設定した。
【0081】
また、注湯位置P1については、頂点位置P0から注湯位置P1までの第1冷却ロール10の外周に沿った距離L1が60mmとなる位置に設定した。接触位置P2については、頂点位置P0から接触位置P2までの第1冷却ロール10の外周に沿った距離L2が60mmとなる位置に設定した。
【0082】
実施例では、金属100としてアルミニウム系の金属AC7Aを用い、上述した条件に設定した製造装置1を用いて鋳造材を製造した。その結果、注湯部12から注湯した金属100を第1冷却ロール10及び第2冷却ロール11によって急冷でき、注湯部12から注湯して接触位置P2を通過するまでの間で500℃/sec以上の冷却速度を達成することができた。
【0083】
また、実施例では、製造装置1を用いて鋳造材を製造した結果、図7乃至図10に示す鋳造材を得られた。尚、図7乃至図10は、製造装置1によって製造した実施例に係る鋳造材を示す図である。図7は、実施例に係る鋳造材の断面図であり、図8は、実施例に係る鋳造材の一部の平面図であり、図9は、実施例に係る鋳造材の一部の底面図であり、図10は、実施例に係る鋳造材を一巻きのコイル状に巻いた状態で示す図である。
【0084】
実施例で得られた鋳造材は、図7乃至図10に示すように、バリの発生が無く、周方向に亘って一定の断面形状を有した小型の鋳造材であった。そして、実施例で得られた鋳造材は、溝20の断面形状に対応した形状の断面形状を有し、断面積が一定であった。尚、実施例では、製造装置1による鋳造材の製造中、注湯される金属100の温度と第1及び第2冷却ロール(10,11)の温度とが変化しても、特段、それらの温度の調整は実施しなかった。よって、実施例では、注湯される金属100の温度及び冷却ロール(10,11)の温度が変化した場合であっても、容易に鋳造材の断面積を一定にすることができることが確認された。
【0085】
[4.本実施形態の効果]
以上説明したように、本実施形態によると、回転する第1冷却ロール10の外周面の溝20に金属100が注湯され、溝20の底面部20a及び両側壁部20bによって金属100が冷却される。更に、溝20の内側で溝20とともに回転方向X1の下流側に移動する金属100は、第1冷却ロール10の回転方向X1の下流側において、第1冷却ロール10に対して外周が接触しながら回転する第2冷却ロール11の外周面21によっても冷却される。これにより、第1冷却ロール10の溝20に注湯された金属100は、第1冷却ロール10と第2冷却ロール11とによって冷却されて鋳造され、溝20の断面積に対応した小型の鋳造材110が製造される。よって、本実施形態によると、プロペルチ法を用いる必要がなく、大掛かりな装置を必要とせずに小型の鋳造材110を製造することができる。このため、線材を得るための工程を削減でき、小ロット生産に適した製造方法及び製造装置1を得ることができる。
【0086】
また、本実施形態によると、回転する第1冷却ロール10の溝20に注湯された金属100は、第1冷却ロール10の溝20の底面部20a及び両側壁部20bによって急冷される。また、第1冷却ロール10の溝20に注湯される金属100は、第1冷却ロール10への注湯位置P1において金属100が溝20の断面の一部を満たすように溝20に対して注湯される。このため、注湯された金属100は、溝20の両側壁部20bから効率よく抜熱されて急冷されることになる。更に、第1冷却ロール10の溝20に注湯された金属100は、溝20の底面部20a及び両側壁部20bによって効率よく急冷されることに加え、第1冷却ロール10に外周が接触しながら回転する第2冷却ロール11の外周面21によっても効率よく急冷される。このため、本実施形態によると、500℃/sec程度の速い冷却速度を容易に実現でき、材料組織の緻密化を図ることができるため、高伝導性及び高強度のような高機能を有する線材を得るための鋳造材110を容易に製造することができる。
【0087】
また、本実施形態によると、第1冷却ロール10への金属100の注湯位置P1では金属100が溝20の断面の一部を満たし、且つ、第2冷却ロール11の第1冷却ロール10への接触位置P2では金属100が溝20の断面の全部を満たすように、溝20への金属100の注湯量が調整される。このため、注湯される金属100の温度及び冷却ロール(10,11)の温度が変化した場合であっても、第1冷却ロール10と第2冷却ロール11との接触位置P2を通過して鋳造された金属100の断面形状は、溝20の断面形状に対応した形状となる。これにより、注湯される金属100の温度及び冷却ロール(10,11)の温度が変化しても鋳造材110の断面積を容易に一定にすることができる。また、第1冷却ロール10に注湯された金属は、第1冷却ロール10の溝20と第2冷却ロール11の外周面21とで区画された断面を満たす状態で鋳造されて成形されるため、バリの発生が抑制される。
【0088】
したがって、本実施形態によると、大掛かりな装置を必要とせず、線材を得るための工程を削減でき、小ロット生産に適し、鋳造時に効率よく冷却できて高機能な線材を得るための鋳造材110を製造できるとともにバリの発生を抑制でき、注湯される金属100の温度及び冷却ロール(10,11)の温度が変化しても鋳造材110の断面積を一定にすることが容易な、鋳造材の製造方法及び鋳造材の製造装置1を提供することができる。
【0089】
また、本実施形態によると、溝20の断面積が注湯部12における金属100の注湯口22cの開口面積よりも大きく設定される。そして、金属100の注湯口22cの通過速度が第1冷却ロール10の外周部の周速よりも相対的に速くなるように第1冷却ロール10の周速を調整するだけで、溝20への金属100の注湯量を容易に調整することができる。即ち、本実施形態によると、注湯位置P1では金属100が溝20の断面の一部を満たし、接触位置P2では金属100が溝20の断面の全部を満たすように溝20への金属100の注湯量を調整することを、金属100の注湯口22cの通過速度に対して第1冷却ロール10の周速を相対的に調整するだけで容易に行うことができる。
【0090】
また、本実施形態によると、接触位置P2の上流側で第1冷却ロール10と第2冷却ロール11との間に金属100が溝20の縁部20cよりも盛り上がった部分としてのパドル120を形成することで、接触位置P2への金属100の流入状態を視覚的に確認しながら、溝20への金属100の注湯量を容易に調整することができる。即ち、本実施形態によると、注湯位置P1では金属100が溝20の断面の一部を満たし、接触位置P2では金属100が溝20の断面の全部を満たすように溝20への金属100の注湯量を調整することを、接触位置P2の上流側の第1及び第2冷却ロール(10,11)間で金属100が溝20の縁部20cよりも盛り上がった部分であるパドル120を形成するように金属100を注湯することで、容易に行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明によれば、大掛かりな装置を必要とせずに、線材を得るための工程を削減できて高機能な線材を得ることができる鋳造材を製造することが可能となり、さらには、バリの発生が抑制されて断面積が一定な鋳造材を容易に製造することも可能となる。
【符号の説明】
【0092】
1 鋳造材の製造装置
10 第1冷却ロール
11 第2冷却ロール
12 注湯部
20 溝
100 金属
110 鋳造材
120 パドル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10