(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-08
(45)【発行日】2024-08-19
(54)【発明の名称】系統連系インバータシステムの制御方法
(51)【国際特許分類】
H02M 7/48 20070101AFI20240809BHJP
【FI】
H02M7/48 E
H02M7/48 R
(21)【出願番号】P 2020180180
(22)【出願日】2020-10-28
【審査請求日】2023-07-26
(73)【特許権者】
【識別番号】503027931
【氏名又は名称】学校法人同志社
(74)【代理人】
【識別番号】110000475
【氏名又は名称】弁理士法人みのり特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 利次
(72)【発明者】
【氏名】井上 馨
(72)【発明者】
【氏名】大上 皓
【審査官】安池 一貴
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-193494(JP,A)
【文献】国際公開第2013/051429(WO,A1)
【文献】特開2019-030199(JP,A)
【文献】特開2011-223761(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィードバック制御系、フィードフォワード制御系およびドループ制御系を含む制御系を用いて、三相の系統連系インバータシステムを構成するインバータをαβ座標系で制御する方法であって、
(1)前記制御系を設計する制御系設計工程と、
(2)前記制御系設計工程で設計した前記制御系を用いて前記インバータを制御するインバータ制御工程と
を備え、
前記制御系設計工程は、
(1A)前記フィードバック制御系を構成する正弦波補償器を設計する第1工程と、
(1B)前記第1工程で設計したフィードバック制御系だけを含む前記制御系で制御した場合の前記インバータの出力インピーダンスの周波数特性を求める第2工程と、
(1C)前記第2工程で求めた周波数特性に基づき、前記インバータが受動的となるような前記フィードフォワード制御系の伝達関数を設計する第3工程と、
(1D)前記インバータの応答特性に留意しながら、前記ドループ制御系を設計する第4工程とを含み、
前記インバータ制御工程は、
(2A)三相の電流i
u,i
v,i
wおよび電圧v
u,v
v,v
wの瞬時値を取得する第5工程と、
(2B)前記第5工程で取得した電流i
u,i
v,i
wおよび電圧v
u,v
v,v
wの瞬時値に基づき、αβ座標系の電流i
αβおよび電圧v
αβをαβ変換により求める第6工程と、
(2C)前記第6工程で求めた電流i
αβおよび電圧v
αβに基づき、前記ドループ制御系により前記フィードバック制御系に対するαβ座標系の電圧指令値v
rαβを求める第7工程と、
(2D)前記第6工程で求めた電流i
αβおよび電圧v
αβ、並びに前記第7工
程で求めた電圧指令値v
rαβに基づき、αβ座標系の制御入力u
αβを求める第8工程と、
(2E)前記第8工程で求めた制御入力u
αβに基づき、三相の制御入力u
u,u
v,u
wを逆αβ変換により求める第9工程とを含む
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記第1工程において、前記正弦波補償器を最適制御法により設計する
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第3工程において、前記伝達関数を2次以下の主特性部H^と該主特性部H^により伝達される信号の帯域を制限する2次以下のフィルタ特性部Fとの積で構成する
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記第3工程において、前記主特性部H^および前記フィルタ特性部Fをあてはめにより設計する
ことを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
フィードバック制御系、フィードフォワード制御系およびドループ制御系を含む制御系を用いて、三相の系統連系インバータシステムを構成するインバータをαβ座標系で制御する方法であって、
(A)三相の電流i
u
,i
v
,i
w
および電圧v
u
,v
v
,v
w
の瞬時値を取得する第1工程と、
(B)前記第1工程で取得した電流i
u
,i
v
,i
w
および電圧v
u
,v
v
,v
w
の瞬時値に基づき、αβ座標系の電流i
αβ
および電圧v
αβ
をαβ変換により求める第2工程と、
(C)前記第2工程で求めた電流i
αβ
および電圧v
αβ
に基づき、前記ドループ制御系により前記フィードバック制御系に対するαβ座標系の電圧指令値v
rαβ
を求める第3工程と、
(D)前記第2工程で求めた電流i
αβ
および電圧v
αβ
、並びに前記第3工程で求めた電圧指令値v
rαβ
に基づき、αβ座標系の制御入力u
αβ
を求める第4工程と、
(E)前記第4工程で求めた制御入力u
αβ
に基づき、三相の制御入力u
u
,u
v
,u
w
を逆αβ変換により求める第5工程と
を備えたことを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、系統連系インバータシステムの制御方法に関し、特に、フィードバック制御系、フィードフォワード制御系およびドループ制御系を含んだ制御系を用いて該システムを構成するインバータを制御する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の太陽光、風力等の持続可能エネルギーの需要増加に伴い、系統連系インバータシステム(以下、単に「システム」ともいう)が注目されている。系統連系インバータシステムは、系統と該系統に対する電力供給源として動作するインバータと該インバータを制御する制御系とを備えている。本発明者らは、これまでに、系統連系インバータシステムの制御系としてフィードバック制御系およびフィードフォワード制御系を含んだものを提案してきた(例えば、特許文献1参照)。この制御系によれば、システム全体の安定性を確保することができる。
【0003】
また、系統連系インバータシステムにおける、インバータ出力電圧と系統電圧との同期の問題を解決するために、ドループ制御を含んだ制御系を用いることも検討されている。この場合、制御系は、サンプリングした電流値および/または電圧値をdq変換して処理するのが一般的である(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【文献】MICROGRID DYNAMICS and CONTROL, John Wiley & Sons, Inc., 2017, pp. 233-243
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、dq変換とドループ制御とを組み合わせた従来の制御は、複雑であり、それ故に使いづらいという問題があった。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、従来よりも簡潔な制御系を用いた系統連系インバータシステムの制御方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明に係る制御方法は、フィードバック制御系、フィードフォワード制御系およびドループ制御系を含む制御系を用いて、三相の系統連系インバータシステムを構成するインバータをαβ座標系で制御する方法であって、(1)制御系を設計する制御系設計工程と、(2)制御系設計工程で設計した制御系を用いてインバータを制御するインバータ制御工程とを備え、制御系設計工程は、(1A)フィードバック制御系を構成する正弦波補償器を設計する第1工程と、(1B)第1工程で設計したフィードバック制御系だけを含む制御系で制御した場合のインバータの出力インピーダンスの周波数特性を求める第2工程と、(1C)第2工程で求めた周波数特性に基づき、インバータが受動的となるようなフィードフォワード制御系の伝達関数を設計する第3工程と、(1D)インバータの応答特性に留意しながら、ドループ制御系を設計する第4工程とを含み、インバータ制御工程は、(2A)三相の電流iu,iv,iwおよび電圧vu,vv,vwの瞬時値を取得する第5工程と、(2B)第5工程で取得した電流iu,iv,iwおよび電圧vu,vv,vwの瞬時値に基づき、αβ座標系の電流iαβおよび電圧vαβをαβ変換により求める第6工程と、(2C)第6工程で求めた電流iαβおよび電圧vαβに基づき、ドループ制御系によりフィードバック制御系に対するαβ座標系の電圧指令値vrαβを求める第7工程と、(2D)第6工程で求めた電流iαβおよび電圧vαβ、並びに第7工程で求めた電圧指令値vrαβに基づき、αβ座標系の制御入力uαβを求める第8工程と、(2E)第8工程で求めた制御入力uαβに基づき、三相の制御入力uu,uv,uwを逆αβ変換により求める第9工程とを含む、ことを特徴とする。
【0009】
上記制御方法は、第1工程において、正弦波補償器を最適制御法により設計するようになっていてもよい。
【0010】
上記制御方法は、第3工程において、伝達関数を2次以下の主特性部H^と該主特性部H^により伝達される信号の帯域を制限する2次以下のフィルタ特性部Fとの積で構成するようになっていてもよい。
【0011】
また、上記制御方法は、第3工程において、主特性部H^およびフィルタ特性部Fをあてはめにより設計するようになっていてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、従来よりも簡潔な制御系を用いた系統連系インバータシステムの制御方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明に係る制御方法が適用される系統連系インバータシステムの回路図である。
【
図3】本発明に係る制御方法によって設計された制御系のブロック図である。
【
図6】本発明に係る制御方法の第7工程および第8工程を示す図である。
【
図7】第2工程で求めた出力インピーダンスの周波数特性を示す波形図である。
【
図8】第3工程を実行した後の出力インピーダンスの周波数特性を示す波形図である。
【
図9】本発明による第1制御例の結果を示す波形図である。
【
図10】本発明による第2制御例の結果を示す波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照しながら、本発明に係る制御方法の基になっている要素技術や考え方について説明し、その後、本発明に係る制御方法の全体像および詳細について説明する。
【0015】
(系統連系インバータシステムの構成)
図1に、本発明に係る制御方法が適用される系統連系インバータシステム10を示す。同図に示すように、システム10は、太陽光発電装置等が出力する直流電圧E(以下、「入力電圧」という)を交流化する三相のインバータ20と、三相の系統30と、これらの間に設けられたフィルタ40とを備えている。
【0016】
インバータ20は、u相レグ21と、v相レグ22と、w相レグ23とを含んでいる。また、フィルタ40は、u相用のLCフィルタを構成するフィルタインダクタLfuおよびフィルタキャパシタCfuと、v相用のLCフィルタを構成するフィルタインダクタLfvおよびフィルタキャパシタCfvと、w相用のLCフィルタを構成するフィルタインダクタLfwおよびフィルタキャパシタCfwとを含んでいる。各インダクタLfu,Lfv,LfwのインダクタンスはLfであり、各キャパシタCfu,Cfv,CfwのキャパシタンスはCfである。
【0017】
なお、フィルタ40と系統30との間に存在するZsu,Zsv,Zswは、配線等に起因するインピーダンス成分を表しており、これにはグリッドインダクタンスLsが含まれている。また、本明細書では、iou,iov,iowを「インバータの出力電流」または単に「出力電流」と呼ぶ。
【0018】
(三相状態変数の複素表記)
電圧、電流および制御変数等の任意の三相の変数ベクトルaは、転置記号Tを用いて次式のように定義することができる。
【数1】
この三相の変数ベクトルaは、次式によりαβ変換することができる。
【数2】
また、αβ座標系での複素ベクトルa
αβは、次式の複素記法により表記することができる。
【数3】
【0019】
インピーダンスZ(s)のα,β成分がそれぞれZ
αα(s),Z
αβ(s)であり、かつ電流i
αβのα,β成分がそれぞれi
α,i
βであるとき、インピーダンスZ(s)に電流i
αβを流すと、インピーダンスZ(s)の両端電圧v
αβは次式の通りとなる。
【数4】
【0020】
両端電圧v
αβのα,β成分であるv
α,v
βは、次式のような行列形式で表すことができる。
【数5】
ただし、式(5)は、α,β成分が対称であることを前提としている。実際には、後述するドループ制御を制御系に含めるとα,β成分は非対称になるので、式(5)ではなくより一般的な式(6)または式(7)を用いることになる。
【数6】
【数7】
ただし、
【数8】
ここで、Z
m
αβ(s)はインピーダンス行列であり、その固有値は、Z
αα(s)+jZ
αβ(s),Z
αα(s)-jZ
αβ(s)である。前者は正相インピーダンスに対応し、後者は逆相インピーダンスに対応している。
【0021】
(系統連系インバータシステムの離散化状態方程式)
各相のフィルタインダクタL
fj(ただし、j=u,v,w。以下同様)に流れる電流(以下、「インダクタ電流」という)をi
Lj、各相のフィルタキャパシタC
fjの両端電圧(以下、「キャパシタ電圧」という)をv
Cj、各相の制御入力をu
j、各相の出力電流をi
ojとすると、i
Lj,C
fjに関する時刻tにおける三相の連続系状態方程式は、次式の通りである。
【数9】
ただし、y
jは制御出力である。また、状態変数x
j、連続系システム係数行列A
c、連続系入力係数ベクトルb
c、連続系外乱係数ベクトルh
cおよび連続系出力係数ベクトルc
cは、次式の通りである。
【数10】
【0022】
また、αβ座標系における連続系状態方程式は、次式で表すことができる。
【数11】
ただし、αβ座標系における状態変数x
αβは、次式の通りである。
【数12】
【0023】
図2(A)は、式(9)に対応した系統連系インバータシステム10の等価回路図であり、同図(B)は、式(11)に対応した系統連系インバータシステム10の等価回路図である。
【0024】
式(11)で表されるαβ座標系における連続系状態方程式をサンプリング周期Tで離散化すると、αβ座標系における離散系状態方程式である式(13)が得られる。ただし、時刻t=iTである。
【数13】
ただし、離散系システム係数行列A、離散系入力係数ベクトルb、離散系外乱係数ベクトルhおよび離散系出力係数ベクトルcは、次式の通りである。
【数14】
【0025】
(制御系の概要)
図3に、系統連系インバータシステム10を制御するための制御系を示す。同図に示すように、制御系は、主回路部およびディジタル制御部で構成されている。そして、このディジタル制御部によって、フィードバック制御、フィードフォワード制御およびドループ制御が実現されている。なお、同図中のG
s[z]およびk
fαβは、それぞれフィードバック制御系を構成する正弦波補償器の伝達関数および状態フィードバックゲイン(「制御ゲイン」ともいう)である。また、H[z]は、フィードフォワード制御の伝達関数である。
【0026】
(フィードバック制御系の設計)
前述した通り、本発明では、フィードバック制御系を正弦波補償器で構成する。正弦波補償器の制御ゲイン、基本角周波数およびダンピング係数をそれぞれk
rαβ、ω
0(=2πf
0、f
0は50/60[Hz])およびk
0とし、基準正弦波形(「電圧指令値」ともいう)をv
Crαβ[i]とすると、正弦波補償器の補助変数w
αβ[i]、および制御入力u
αβ[i]は、次式の通りである。
【数15】
【数16】
【0027】
このとき、状態変数x
αβ[i]および補助変数w
αβ[i]を含めた、αβ座標系における離散系拡大状態方程式は、次式の通りである。
【数17】
ただし、拡大状態変数x^
αβ[i]は、次式の通りである。
【数18】
また、離散系システム係数行列A^、離散系入力係数ベクトルb^、離散系外乱係数ベクトルh^および基準値係数ベクトルg^は、次式の通りである。
【数19】
【0028】
正弦波補償器の2つの制御ゲイン(「複素ゲイン」ともいう)k
fαβ,k
rαβは、式(20)で表される評価関数を最小化する最適制御法により決定することができる。
【数20】
ただし、Qは拡大状態変数x^
αβ[i]の評価荷重であり、rは制御入力u
αβ[i]の評価荷重である。また、*は共役転置記号である。
【0029】
上記のように設計したフィードバック制御系を含む制御系を用いることにより、各相のキャパシタ電圧vCu,vCv,vCwを正弦波に追従させることが可能となる。
【0030】
(システムの安定性)
図4に示すように、周波数領域において、系統連系インバータシステム10のインバータ20側は、等価電圧源V
v
Cαβ(s)と出力インピーダンスZ
m
oαβ(s)によるテブナンの回路で表すことができ、系統30側は、系統電圧V
v
sαβ(s)と系統インピーダンスZ
m
sαβ(s)とで表すことができる。このとき、出力電流I
v
oαβ(s)は、次式で表すことができる。
【数21】
ただし、1は単位行列である。また、系統アドミタンスY
m
sαβ(s)は、
【数22】
【0031】
式(21)の右辺初項にナイキストの安定判別法を適用することにより、「系統アドミタンスY
m
sαβ(s)は受動的なので、出力インピーダンスZ
m
oαβ(s)の位相が-90[°]~+90[°]の範囲内に収まっていればよい」という、システム10の安定化条件を導き出すことができる。すなわち、出力インピーダンスZ
m
oαβ(s)の固有値eig[Z
m
oαβ(s)]の実部を正にすることができれば、受動性を有するインバータ20を実現することができ、これにより、システム10全体を安定化することができる。このとき、次式が成立する。
【数23】
【0032】
ここで、出力インピーダンスZ
m
oαβ(s)は、次式で求めることができる。
【数24】
前述した通り、Hはフィードフォワード制御の伝達関数である。
なお、式(24)は、摂動記号
~を用いた周波数領域における状態方程式(式(25))から式(26)を導出し、さらにこの式(26)において等価電圧源V
~v
Cαβ[z]=0と近似することにより導出したものである。
【数25】
【数26】
【0033】
後で詳細に説明するが、本発明では、上記の手法による追従性に優れたフィードバック制御系の設計が終了した段階で、式(24)で求めた出力インピーダンスZm
oαβ(s)の周波数特性を周波数シミュレーションにより求め、システム10が安定か否かを判定する(式(23)参照)。そして、安定ではない場合に、後述する手法によりフィードフォワード制御系(特に、伝達関数H[z])を設計する。
【0034】
(フィードフォワード制御系の設計)
本発明では、フィードフォワード制御系の伝達関数H[z]を、式(27)に示すように、主特性部H^[z]と該主特性部H^[z]により伝達される信号の帯域を制限するフィルタ特性部F[z]との積で構成する。
【数27】
【0035】
演算を容易にするために、主特性部H^[z]は、2次以下であることが好ましく、例えば、次式のような形式を有している。ただし、a
0,a
1,a
2,b
1,b
2は、あてはめにより決定する係数である。
【数28】
当然ながら、主特性部H^[z]は、次式のような1次の形式を有していてもよい。
【数29】
【0036】
同様の理由で、フィルタ特性F[z]は、2次以下であることが好ましく、例えば、次式のような形式の1次ローパスフィルタまたは1次ハイパスフィルタである。ただし、c
0,c
1,d
1は、あてはめにより決定する係数である。
【数30】
当然ながら、フィルタ特性部F[z]は、1次ローパスフィルタF
L[z]と1次ハイパスフィルタF
H[z]との積で表される2次バンドパスフィルタF
L[z]・F
H[z]であってもよい。
【0037】
(ドループ制御系の設計)
時刻t=iTにおける複素電力s[i]は、有効電力p[i]、無効電力q[i]および複素共役記号*を用いて、次式で表すことができる。
【数31】
これに、遮断角周波数がω
cであるローパスフィルタを適用すると、複素測定電力s
m[i]を求めることができる。すなわち、次式により複素測定電力s
m[i]が求められる。なお、G
lは、ローパスフィルタの伝達特性である。
【数32】
【0038】
ドループ制御では、この複素測定電力s
m[i]を電力指令値S
r(=有効電力指令値P
r+j無効電力指令値Q
r)に一致させるために、次式により角周波数ω
αβを制御する。
【数33】
ただし、ω
0は基本角周波数であり、これを初期値とする。また、m
pはドループ制御の電力制御ゲインである。
【0039】
このとき、ドループ制御による複素位相角θ
αβ[i]および複素電圧指令値v
Crαβ[i]は、それぞれ次式の通りである。
【数34】
【数35】
ただし、v
C0は初期基準電圧であり、系統電圧の振幅を用い
る。
【0040】
ここで、ドループ制御に伴う共役演算は、次式から理解されるように、α,β成分が非対称である。
【数36】
また、より正確には次式のように表される電力制御ゲインm
m
pも、一般的にはm
pα≠m
pβであるため、α,β成分が非対称である。
【数37】
このため、ドループ制御を制御系に含めると、システム10の制御は、α,β成分において非対称になる。
【0041】
(本発明に係る制御方法)
図5に示すように、本発明に係る制御方法は、フィードバック制御系、フィードフォワード制御系およびドループ制御系を含んだ制御系を設計する制御系設計工程と、設計した制御系を用いてインバータ20を制御するインバータ制御工程とを備えている。制御系設計工程は、順次実行される工程S1,S2,S3,S4を含み、インバータ制御工程は、順次実行される工程S5,S6,S7,S8,S9,S10を含んでいる。インバータ制御工程は、インバータ20を作動させている間、所定のスイッチ周期で繰り返し実行される。
【0042】
第1工程S1では、上記の手法により、フィードバック制御系を構成する正弦波補償器を設計する。より具体的には、第1工程S1では、最適制御法(式(20)参照)により正弦波補償器の2つの制御ゲインkfαβ,krαβを決定する。なお、ダンピング係数k0は、設計を開始する際にユーザが任意に決定することができる。
【0043】
第2工程S2では、第1工程S1で設計したフィードバック制御系だけを含む制御系で制御した場合の、インバータ20の出力インピーダンスZm
oαβ(s)の周波数特性を求める。出力インピーダンスZm
oαβ(s)の周波数特性は、式(24)と周波数シミュレーションとにより求めることができる。
【0044】
第3工程S3では、第2工程S2で求めた周波数特性に基づき、インバータ20が受動的となるようなフィードフォワード制御系の伝達関数H[z]を設計する。主特性部H^[z]およびフィルタ特性部F[z]をどのような形式(式(28),(29),(30)参照)とするかは、ユーザが予め決定しておけばよい。また、フィルタ特性部F[z]をローパスフィルタとするか、ハイパスフィルタとするか、バンドパスフィルタとするかは、第2工程S2で求めた周波数特性を見ながらユーザが決定すればよい。
【0045】
第4工程S4では、インバータ20の応答特性に留意しながらドループ制御系を設計する。例えば、第4工程S4では、電力指令値(Pr,Qr)を変化させたときのインバータ20が出力電力の変化を時間シミュレーションにより求めるとともに、これが理想的となるような電力制御ゲインmpα,mpβをユーザが決定する。
【0046】
第5工程S5では、三相の電流iu,iv,iwおよび電圧vu,vv,vwの瞬時値を取得する。より具体的には、第5工程S5では、電流iu,iv,iwとしてのインダクタ電流iLu,iLv,iLwおよび出力電流iou,iov,iowの瞬時値を取得するとともに、電圧vu,vv,vwとしてのキャパシタ電圧vCu,vCv,vCwの瞬時値を取得する。なお、三相の電流iu,iv,iwの瞬時値を取得することには、電流センサを用いて電流iu,iv,iwの全部を同時にサンプリングすることだけでなく、電流センサを用いて電流iu,iv,iwのうちの2つを同時にサンプリングするとともに残りの1つを計算により求めることも含まれる。電圧vu,vv,vwの取得についても同様である。
【0047】
第6工程S6では、第5工程S5で取得した三相の電流iu,iv,iwおよび電圧vu,vv,vwの瞬時値に基づき、αβ座標系の電流iαβおよび電圧vαβをαβ変換により求める。より具体的には、第6工程S6では、式(2)を用いて、インダクタ電流iLu,iLv,iLwを電流iLα,iLβに変換し、出力電流iou,iov,iowを電流ioα,ioβに変換し、キャパシタ電圧vCu,vCv,vCwを電圧vCα,vCβに変換する。式(4)から理解されるように、電流iLα,iLβ,ioα,ioβおよび電圧vCα,vCβが求まれば、電流iLαβ,ioαβおよび電圧vCαβも求まる。
【0048】
第7工程S7では、第6工程S6で求めた電流iαβおよび電圧vαβに基づき、ドループ制御によりフィードバック制御系に対するαβ座標系の電圧指令値vrαβを求める。より具体的には、第7工程S7では、式(31)~(34)に第6工程S6で求めた電流ioαβおよび電圧vCαβを適用することにより複素位相角θαβを求め、次いで式(35)により電圧指令値vCrαβを求める。
【0049】
第8工程S8では、第6工程S6で求めた電流iαβおよび電圧vαβ、並びに第7工程S7で求めた電圧指令値vrαβに基づき、αβ座標系の制御入力uαβを求める。より具体的には、第8工程S8では、式(16)に第6工程S6で求めた電流iLαβおよび電圧vCαβ、並びに第7工程S7で求めた電圧指令値vCrαβを適用することにより、αβ座標系の制御入力uαβを求める。
【0050】
第7工程S7および第8工程S8を整理すると、
図6のようになる。
【0051】
第9工程S9では、第8工程S8で求めた制御入力u
αβに基づき、三相の制御入力u
u,u
v,u
wを逆αβ変換により求める。逆αβ変換は、式(2)を変形した次式により行うことができる。
【数38】
【0052】
第10工程S10では、第9工程S9で求めた三相の制御入力uu,uv,uwに基づき、インバータ20の各相レグ21,22,23を制御する。より具体的には、この第10工程S10では、u相の制御入力uuに基づきu相レグ21を構成する上アームのONデューティ(=下アームのOFFデューティ)を制御する。v相レグ22およびw相レグ23についても同様である。
【0053】
このように、本発明に係る制御方法では、取得した三相の電流値および/または電圧値をαβ座標系の複素に変換して処理する。このため、本発明によれば、制御系を簡潔に記述することが可能となる。
【0054】
(制御系の設計例)
系統連系インバータシステム10の回路パラメータを表1に示した通りに設定し、かつフィードバック制御系(正弦波補償器)に関するパラメータを表2に示した通りに設定して第1工程S1を実行したところ、正弦波補償器の2つの制御ゲインk
fαβ,k
rαβは、表3に示す通りに決定された。
【表1】
【表2】
【表3】
【0055】
このフィードバック制御系だけを用いて制御した場合、インバータ20の出力インピーダンスZ
m
oαβ(以下、単に「Z
o」と表記する)の周波数特性は、
図7に示す通りとなった。すなわち、第2工程S2を実行すると、
図7に示す周波数特性が得られた。
図7(B)に示すように、出力インピーダンスZ
oの位相は、2[kHz]以上の帯域で-90[°]を下回っていた。つまり、この段階ではインバータ20は受動的ではなかった。
【0056】
そこで、第3工程S3を実行することにより、インバータ20が受動的となるようなフィードフォワード制御系を設計した。あてはめにより決定した伝達関数Hの主特性部H^(式(29)参照)およびフィルタ特性部F(式(30)参照)の係数は、表4に示す通りである。
【表4】
【0057】
フィードフォワード制御系の設計が完了した後に、改めて出力インピーダンスZ
oの周波数特性を確認したところ、
図8に示す結果が得られた。
図8(B)に示すように、出力インピーダンスZ
oの位相は、シミュレーションを行った全ての帯域で-90[°]~+90[°]の範囲内に収まっていた。このことは、インバータ20が受動的となったことを示している。
【0058】
続いて、ドループ制御系を設計する(第4工程S4)。ドループ制御で使用するローパスフィルタの遮断周波数f
cを5[Hz]に設定し、電力制御ゲインm
pα,m
pβを暫定的に0.0006に設定するとシステム10は不安定となったが、これらを0.0005に再設定するとシステム10は安定となった。このため、本制御例では、余裕を見て電力制御ゲインm
pα,m
pβを0.0001に設定した。ただし、これだけではインバータ20の出力電力が電力指令値(P
r,Q
r)に精度良く追従しなかったので、電力制御ゲインm
pβのみを調整し、最終的に、電力制御ゲインm
pα,m
pβを表5に示した通りに設定した。
【表5】
【0059】
(本発明による第1制御例)
上記のようにして設計した制御系を用いて、電力指令値P
r,Q
rを2000[W],0[VA]に設定してインバータ20を制御したところ、u相の出力電流i
ouおよびキャパシタ電圧v
Cuは、定常状態において
図9に示す通りとなった。
図9からは、キャパシタ電圧v
Cuが電圧指令値v
Crに追従できていること、および、インバータ20の出力電力が電力指令値P
r,Q
rに一致するように出力電流i
ouが制御できていることが読み取れる。
【0060】
(本発明による第2制御例)
上記のようにして設計した制御系を用いて、無効電力指令値Q
rを0[VA]としたまま有効電力指令値P
rを2000[W]→3000[W]→2000[W]→1000[W]→2000[W]のように変化させたところ、インバータ20の有効出力電力P
mおよび無効出力電力Q
mは、
図10に示す通りとなった。
図10からは、有効出力電力P
mに過大なオーバーシュートやリンギングは生じないこと、および、有効電力指令値P
rの変化に伴う無効出力電力Q
mの過渡的な変化が速やかに(約0.5[s]で)落ち着くことが読み取れる。
【0061】
以上、本発明に係る制御方法の一実施形態について説明してきたが、本発明の構成はこれに限定されるものではなく、種々の変形が可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0062】
10 系統連系インバータシステム
20 インバータ
21 u相レグ
22 v相レグ
23 w相レグ
30 系統
40 フィルタ