(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-08
(45)【発行日】2024-08-19
(54)【発明の名称】チタン合金及び高温合金加工用のコーティングされた切削ツール及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 14/06 20060101AFI20240809BHJP
B23B 27/14 20060101ALI20240809BHJP
【FI】
C23C14/06 L
C23C14/06 A
C23C14/06 J
B23B27/14 A
(21)【出願番号】P 2022522774
(86)(22)【出願日】2019-10-15
(86)【国際出願番号】 CN2019111204
(87)【国際公開番号】W WO2021072623
(87)【国際公開日】2021-04-22
【審査請求日】2022-05-31
(73)【特許権者】
【識別番号】522033221
【氏名又は名称】広東工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100103207
【氏名又は名称】尾崎 隆弘
(72)【発明者】
【氏名】王成勇
(72)【発明者】
【氏名】林海生
(72)【発明者】
【氏名】鄭李娟
(72)【発明者】
【氏名】匡同春
(72)【発明者】
【氏名】▲どん▼陽
(72)【発明者】
【氏名】王啓民
【審査官】山本 一郎
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第107151787(CN,A)
【文献】特開2005-022046(JP,A)
【文献】特開2005-022045(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/06
B23B 27/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コーティングがMe-B-Nコーティングであり、
前記のMe-B-NコーティングがMe1-B-N、Me1が遷移金属元素Hf、V、Nb、Ta、Moのいずれかまたは複数、各元素の原子パーセントがMe1 8~40%、B 15~60%、N 10~65%であり、前記のMe-B-NコーティングはMe1Nx相及びBN相を含むことを特徴とするチタン合金及び高温合金加工用のコーティングされた切削ツール
の製造方法であって、
下記のステップ、
Me-B-N系コーティング沈積のステップ:連続してチャンバーに高純度のN
2
及びArを注入すると同時に、チャンバーに内蔵されたヒーターの決まった温度を保ち、本体に負のバイアスを与え、マグネトロンスパッタリング技術またはアークプラズマ技術で決まった厚さのあるMe-B-N系コーティングが沈積するようにし、前記の高純度のN
2
のArに対する流量比が0.06~0.25であり、チャンバーの気圧が0.4~4Paに制御されると同時に、チャンバーに内蔵されたヒーターの温度が300~600℃であるようにし、ターゲット材はMe-Bターゲットであり、本体を設置するためのプラネットキャリアを電源の負極に接続し、プラネットキャリアの回転数が3r/min、負のバイアスが-50~-300V、前記のコーティング時間が60~300minである、
を含むことを特徴とするチタン合金及び高温合金加工用のコーティングされた切削ツールの製造方法。
【請求項2】
コーティングがMe-B-Nコーティングであり、
前記のMe-B-NコーティングがMe1-Me2-B-N、Me1が遷移金属元素Hf、V、Nb、Ta、Moのいずれかまたは複数、Me2が遷移金属元素Ti、Zr、Cr、Wのいずれかまたは複数、各元素の原子パーセントがMe1 4~36%、Me2 4~36%、B 15~60%、N 10~65%であり、前記のMe-B-NコーティングがMe1Nx相、Me2Nx相及びBN相を含むことを特徴とするチタン合金及び高温合金加工用のコーティングされた切削ツール
の製造方法であって、
下記のステップ、
Me-B-N系コーティング沈積のステップ:連続してチャンバーに高純度のN
2
及びArを注入すると同時に、チャンバーに内蔵されたヒーターの決まった温度を保ち、本体に負のバイアスを与え、マグネトロンスパッタリング技術またはアークプラズマ技術で決まった厚さのあるMe-B-N系コーティングが沈積するようにし、前記の高純度のN
2
のArに対する流量比が0.06~0.25であり、チャンバーの気圧が0.4~4Paに制御されると同時に、チャンバーに内蔵されたヒーターの温度が300~600℃であるようにし、ターゲット材はMe-Bターゲットであり、本体を設置するためのプラネットキャリアを電源の負極に接続し、プラネットキャリアの回転数が3r/min、負のバイアスが-50~-300V、前記のコーティング時間が60~300minである、
を含むことを特徴とするチタン合金及び高温合金加工用のコーティングされた切削ツールの製造方法。
【請求項3】
前記のMe-B-N系コーティング沈積のステップまでに下記のステップ、
本体の前処理のステップ:無水エタノールで切削ツールに対する超音波洗浄を行い、熱風で切削ツールを乾燥させてからプラネットキャリアに締め付け、チャンバーに入れる、
チャンバーの真空を作るステップ:機械ポンプ及び分子ポンプで真空を作ってから赤外線加熱管で加熱を行って充分にチャンバー及び本体の表面にある揮発しやすい異物を除去する、
イオンエッチングのステップ:連続してチャンバーに高純度のArを注入すると同時に、チャンバーに内蔵されたヒーターの決まった温度を保ち、本体に負のバイアスを与え、本体に対するイオンエッチングを行って切削ツールの表面にある酸化皮膜及び緩い層を除去する、
を含むことを特徴とする請求項
1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
本体の前処理のステップで、前記の超音波洗浄が無水エタノールで切削ツール本体に対する10~20minにわたる超音波洗浄を行うことであることを特徴とする請求項
3に記載の製造方法。
【請求項5】
チャンバーの真空を作るステップで、機械ポンプ及び分子ポンプで4×10
-5mbar以下の真空を作り、赤外線加熱管の温度を600℃に設定してから30minにわたって加熱を行い、チャンバーの真空度が4×10
-5mbar以下となってから赤外線加熱管の温度を550℃に設定して30minにわたって加熱を行い、最後にチャンバーの真空が4×10
-5mbar以下となるようにして充分にチャンバー及び本体の表面にある揮発しやすい異物を除去することを特徴とする請求項
3に記載の製造方法。
【請求項6】
イオンエッチングのステップで、前記の赤外線加熱管による加熱温度が300~600℃、チャンバーの気圧が1.0Pa、陰極が、円形のCrターゲットを備え、純度が99%以上、ターゲット電流が70~100Aであることを特徴とする請求項
3に記載の製造方法。
【請求項7】
イオンエッチングのステップで、本体を設置するためのプラネットキャリアをパルス電源に接続し、プラネットキャリアの回転数が3r/min、負のバイアスが-300V、正のバイアスが+20V、周波数が20kHz、デューティサイクルが80%であり、前記のイオンエッチング時間が20~40minであることを特徴とする請求項
3に記載の製造方法。
【請求項8】
前記のMe-B-N系コーティング沈積のステップを行ってから下記のステップ、
サンプリング冷却のステップ:コーティングが完了してからストーブ循環冷却システムをONにし、チャンバーが真空状態で冷却してからチャンバーを開けてワークを取り出す、
を行うことを特徴とする請求項
3に記載の製造方法。
【請求項9】
サンプリング冷却のステップで、前記の冷却システムの冷却水の温度を15~20℃に設定し、チャンバーが真空状態で70℃以下に冷却してからワークを取り出すことを特徴とする請求項
8に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は加工し難い材料切削用切削ツール保護コーティングの技術分野、特にチタン合金及び高温合金加工用のコーティングされた切削ツール及びその製造方法に関わる。
【背景技術】
【0002】
切削加工分野で、チタン合金及び高温合金はともに代表的な加工し難い材料である。
【0003】
チタン合金は切削加工に次の特徴がある。
【0004】
1)加工中に切削ツールに粘結しやすいので、切削ツールが粘結により重大に摩耗し、耐用期間が短くなる。
【0005】
2)熱伝導性が弱く、加工中に生じた局部高温により酸素及び窒素を吸収しやすくなり、ワークの硬化及び切削ツールの刃欠けを引き起こす。
【0006】
3)弾性係数が小さく、切削加工の変形の際に当たり弾性反発が大きいので、切削ツール振動につながる。
【0007】
高温合金は切削加工に次の特徴がある。
【0008】
1)熱伝導係数が低く、局部の切削温度が高く、ワーク材料と切削ツール材料との間に常に大きな親和性があるので、切削ツールの重大な粘結、摩耗につながる。
【0009】
2)切削変形係数が大きいので、ワークが硬化する傾向が顕著である。
【0010】
3)切削力が大きく、浮き量が大きいので、切削ツール振動につながる。
【0011】
4)形成した強い、連続的な切り屑及びばりが切削ツールの重大な摩耗につながる。
【0012】
上記のとおりに、チタン合金及び高温合金の切削加工においては、コーティングされた切削ツールに対して、強い抗粘性、良好な耐摩耗性及び強いじん性などが求められている。
【0013】
硬質合金切削ツールは低いコスト及び良好な加工性能などの長所によりチタン合金及び高温合金の加工の望ましい切削ツールとなっている。硬質合金のコーティングされた切削ツールは常用のコーティング材料が主にTiAlN、TiSiCN、AlCrSiNのような遷移金属の窒化物または炭化物コーティングである。関係の研究によると、コーティング無し硬質合金切削ツールに対して、コーティングされた切削ツールはチタン合金及び高温合金の切削加工で有効に切削ツールの摩耗を抑制できるそうであるが、コーティングされた切削ツールの切削効果が顕著にコーティング無し切削ツール以下であると指摘されている。また、Al2O3、Cr2O3などの酸化物コーティングも試してチタン合金及び高温合金の切削加工に用いられたことがあるが、そんなコーティングは導電性が普遍的に弱いので、PVD方法で品質の高い酸化物コーティングを沈積させるプロセスは解決しなければいけない課題がたくさんある。
【0014】
今まで、TiB2、VB2、TiBNのようなTM-B系、TM-B-N系コーティングも報道されたことがある。TM-B系コーティングは硬度が高く、摩擦係数が低いが、それによるTM-Bコーティングに大きな応力があり、結合力が弱いので、切削加工における応用が重大に制約されている上、チタン合金及び高温合金の切削で良好な耐粘結、摩耗性能を示していない。TM-B-N系コーティングに関する研究は主にTiBNコーティングに集中していて、HfBN、VBN、NbBN、TaBN、MoBNなどのコーティングに関する研究が少なく、今までの報道によると、PVD方法による関係のTMBNコーティングはアモルファスBN相ラッピングナノ結晶ホウ化物の構成を示し、切削ツールにおけるHfBN、VBN、NbBN、TaBN、MoBNなどのコーティングの応用関係の報道は見られない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題(1)】
【0015】
従来の技術の短所を避けるチタン合金及び高温合金加工用のコーティングされた切削ツールを提供することを目的にする。この切削ツールコーティングは強く粘結に耐え、内応力も摩擦係数も低く、切削ツールの本体と強く結合し、有効にチタン合金及び高温合金の切削中の粘結、摩耗及び切削ツールの損壊を抑制したり、顕著に切削ツールの耐用期間及びワークの加工品質を向上させたりすることができる。
【課題を解決するための手段(1)】
【0016】
発明が解決しようとする課題(1)は下記の技術策により解決される。
【0017】
チタン合金及び高温合金加工用のコーティングされた切削ツールを提供する。前記のコーティングされた切削ツールのコーティングはMe-B-Nコーティングである。
【0018】
さらに、前記のMe-B-NコーティングはMe1-B-Nである。その中、Me1は遷移金属元素Hf、V、Nb、Ta、Moのいずれかまたは複数、各元素の原子パーセントがMe18~40%、B15~60%、N10~65%である。前記のMe-B-NコーティングはMe1Nx相及びBN相を含む。
【0019】
さらに、前記のMe-B-NコーティングはMe1-Me2-B-Nである。その中、Me1は遷移金属元素Hf、V、Nb、Ta、Moのいずれかまたは複数、Me2は遷移金属元素Ti、Zr、Cr、Wのいずれかまたは複数、各元素の原子のパーセントはMe14~36%、Me24~36%、B15~60%、N10~65%である。前記のMe-B-NコーティングはMe1Nx相、Me2Nx相及びBN相を含む。
【0020】
さらに、前記のMe-B-Nコーティングは厚さが0.3~5μmである。
【発明の効果(1)】
【0021】
当該切削ツールコーティングはMe-B-N系コーティングであるので、硬度が高く、内応力も摩擦係数も低く、切削ツールの本体と強く結合し、チタン合金及び高温合金の切削加工中に顕著な耐粘結性能を示す上、有効にチタン合金及び高温合金の切削中の切削ツールの粘結、摩耗及び損壊を抑制できる。
【発明が解決しようとする課題(2)】
【0022】
従来の技術の短所を避けてプロセスが簡単であり、便利にMe-B-Nコーティングを製造できるチタン合金及び高温合金加工用のMe-B-Nコーティングされた切削ツールの製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段(2)】
【0023】
発明が解決しようとする課題(2)は下記の技術策により解決される。
【0024】
下記のステップを含むことを特徴とするチタン合金及び高温合金加工用のMe-B-Nコーティングされた切削ツールの製造方法。
【0025】
Me-B-N系コーティング沈積のステップ:連続してチャンバーに高純度のN2及びArを注入すると同時に、チャンバーに内蔵されたヒーターの決まった温度を保ち、本体に負のバイアスを与え、マグネトロンスパッタリング技術で決まった厚さのあるMe-B-N系コーティングが沈積するようにする。
【0026】
前記の高純度のN2
はArに対する流量比が0.06~0.25であり、チャンバーの気圧が0.4~4Paに制御されると同時に、チャンバーに内蔵されたヒーターの温度が300~600℃であるようにする。
【0027】
ターゲット材はMe-Bターゲットであり、本体を設置するためのプラネットキャリアを電源の負極に接続し、プラネットキャリアの回転数が3r/min、負のバイアスが-50~-300V、前記のコーティング時間が60~300minである。
【0028】
さらに、前記のMe-B-N系コーティング沈積のステップまでに下記のステップを含む。
【0029】
本体の前処理のステップ:無水エタノールで切削ツールに対する超音波洗浄を行い、熱風で切削ツールを乾燥させてからプラネットキャリアに締め付け、チャンバーに入れる。
【0030】
チャンバーの真空を作るステップ:機械ポンプ及び分子ポンプで真空を作ってから赤外線加熱管で加熱を行って充分にチャンバー及び本体の表面にある揮発しやすい異物を除去する。
【0031】
イオンエッチングのステップ:連続してチャンバーに高純度のArを注入すると同時に、チャンバーに内蔵されたヒーターの決まった温度を保ち、本体に負のバイアスを与え、本体に対するイオンエッチングを行って切削ツールの表面にある酸化皮膜及び緩い層を除去する。
【0032】
さらに、本体の前処理のステップで、前記の超音波洗浄は無水エタノールで切削ツール本体に対する10~20minにわたる超音波洗浄を行うことである。
【0033】
さら歩に、チャンバーの真空を作るステップで、機械ポンプ及び分子ポンプで4×10-5mbar以下の真空を作り、赤外線加熱管の温度を600℃に設定してから30minにわたって加熱を行い、チャンバーの真空度が4×10-5mbar以下となってから赤外線加熱管の温度を550℃に設定して30minにわたって加熱を行い、最後にチャンバーの真空が4×10-5mbar以下となるようにして充分にチャンバー及び本体の表面にある揮発しやすい異物を除去する。
【0034】
さらに、イオンエッチングのステップで、前記の赤外線加熱管による加熱温度は300~600℃、チャンバーの気圧は1.0Pa、陰極が、円形のCrターゲットを備え、純度が99%以上、ターゲット電流が70~100Aである。
【0035】
さらに、イオンエッチングのステップで、本体を設置するためのプラネットキャリアをパルス電源に接続し、プラネットキャリアの回転数が3r/min、負のバイアスが-300V、正のバイアスが+20V、周波数が20kHz、デューティサイクルが80%であり、前記のイオンエッチング時間が20~40minである。
【0036】
さらに、前記のMe-B-N系コーティング沈積のステップを行ってから下記のステップを行う。
【0037】
サンプリング冷却のステップ:コーティングが完了してからストーブ循環冷却システムをONにし、チャンバーが真空状態で冷却してからチャンバーを開けてワークを取り出す。
【0038】
さらに、サンプリング冷却のステップで、前記の冷却システムの冷却水の温度を15~20℃に設定し、チャンバーが真空状態で70℃以下に冷却してからワークを取り出す。
【発明の効果(2)】
【0039】
コーティングのプロセスで平面Me-BターゲットマグネトロンスパッタリングでMe-B-Nコーティングが沈積するようにし、精確に純N2
のArに対する流量比を制御し、スパッタリングターゲットは平均出力密度が5.5~16.5W/cm2
であり、デューティサイクルが2~5%であるので、Me-B-Nコーティングは強く粘結に耐え、良好な均一性があり、内応力も摩擦係数も低く、チタン合金及び高温合金の切削加工で有効に切削ツールの耐用期間及びワーク加工表面の品質を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
次に図及び実例と結び合わせて本発明についてさらに詳細に説明する。
【0041】
【
図1】本発明の実例1のV-B-Nコーティングの表面SEMのイメージ図。
【
図2】
本発明の実例2のHf-B-Nコーティングの硬質合金カッターの
、チタン合金及び高温合金の加工を行った後の、カッター表面摩耗
状況のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0042】
次の実例と結び合わせて本発明についてさらに説明する。
【実施例1】
【0043】
各元素の原子パーセントがV15%、B20%、N65%であり、VN相及びBN相を含むV-B-Nコーティングでコーティングされた、チタン合金及び高温合金加工用の切削ツール。
【0044】
望ましくは、前記のV-B-Nコーティングは厚さが0.3μmである。
【0045】
下記のステップを含むチタン合金及び高温合金加工用のV-B-Nコーティングされた切削ツールの製造方法。
【0046】
1)本体の前処理:無水エタノールで10minにわたって切削ツールに対する超音波洗浄を行い、熱風で切削ツールを乾燥させてからプラネットキャリアに締め付け、チャンバーに入れる。
【0047】
2)チャンバーの真空を作る:機械ポンプ及び分子ポンプで4×10-5mbar以下の真空を作り、赤外線加熱管の温度を600℃に設定してから30minにわたって加熱を行い、チャンバーの真空度が4×10-5mbar以下となってから赤外線加熱管の温度を550℃に設定して30minにわたって加熱を行い、最後にチャンバーの真空が4×10-5mbar以下となるようにして充分にチャンバー及び本体の表面にある揮発しやすい異物を除去する。
【0048】
3)イオンエッチング:薄膜沈積までにアーク増強グロー放電技術で硬質合金本体に対するイオンエッチングを行う。
【0049】
具体的な手順が次のとおりである。
【0050】
(1)陰極は、円形のCrターゲットを備え、純度が99%以上、ターゲット電流が70Aである。
【0051】
(2)本体を設置するためのプラネットキャリアをパルス電源に接続し、プラネットキャリアの回転数が3r/minであり、負のバイアスが-50Vから-300Vまで変化し、正電圧が+20V、周波数が20kHz、デューティサイクルが80%であるようにする。
【0052】
(3)連続して真空チャンバーに高純度のArを注入し、気圧が1.0Paとなるようにし、気圧で注入したArの流量を制御する。
【0053】
(4)赤外線加熱管の温度を300℃に設定する。
【0054】
(5)イオンエッチング時間は20minである。
【0055】
このステップで有効に本体の表面にある酸化皮膜及び緩い層を除去できる。
【0056】
4)V-B-N系コーティング沈積:連続してチャンバーに高純度のN2及びArを注入すると同時に、チャンバーに内蔵されたヒーターの決まった温度を保ち、本体に負のバイアスを与え、高出力のパルスマグネトロンスパッタリング技術で決まった厚さのあるV-B-N系コーティングを沈積するようにする。前記の高純度のN2は流量が10sccmである。高純度のN2
のArに対する流量比を0.06、チャンバーの気圧を0.8Paに制御すると同時に、チャンバーに内蔵された赤外線加熱管の温度を600℃に保ち、本体に負のバイアスを与え、マグネトロンスパッタリング技術でベースに対するコーティングを行う。具体的な手順が次のとおりである。
【0057】
(1)スパッタリングターゲット材は平面V-Bターゲットである。
【0058】
(2)本体を設置するためのプラネットキャリアを電源の負極に接続し、プラネットキャリアの回転数が3r/min、負のバイアスが-300Vである。
【0059】
(3)コーティング処理の時間は60minである。
【0060】
5)サンプリング冷却:コーティングが完了してからストーブ循環冷却システムをONにし、冷却水の温度を15℃に設定し、チャンバーが真空状態で70℃以下に冷却してからワークを取り出す。
【0061】
図1はV-B-Nコーティングの表面SEMのイメージであり、沈積したV-B-Nコーティングは表面が全体で滑らかで平らであり、滴や穴のような欠陥がない。
【実施例2】
【0062】
各元素の原子パーセントがHf55%、B15%、N30%であり、HfN相及びBN相を含むHf-B-Nコーティングでコーティングされた、チタン合金及び高温合金加工用の切削ツール。
【0063】
望ましくは、前記のHf-B-Nコーティングは厚さが5μmである。
【0064】
下記のステップを含むチタン合金及び高温合金加工用のHf-B-Nコーティングされた切削ツールの製造方法。
【0065】
1)本体の前処理:無水エタノールで20minにわたって切削ツールに対する超音波洗浄を行い、熱風で切削ツールを乾燥させてからプラネットキャリアに締め付け、チャンバーに入れる。
【0066】
2)チャンバーの真空を作る:機械ポンプ及び分子ポンプで4×10-5mbar以下の真空を作り、赤外線加熱管の温度を600℃に設定してから30minにわたって加熱を行い、チャンバーの真空度が4×10-5mbar以下となってから赤外線加熱管の温度を550℃に設定して30minにわたって加熱を行い、最後にチャンバーの真空が4×10-5mbar以下となるようにして充分にチャンバー及び本体の表面にある揮発しやすい異物を除去する。
【0067】
3)イオンエッチング:薄膜沈積までにアーク増強グロー放電技術で硬質合金本体に対するイオンエッチングを行う。
【0068】
具体的な手順が次のとおりである。
【0069】
(1)陰極は、円形のCrターゲットを備え、純度が99%以上、ターゲット電流が90Aである。
【0070】
(2)本体を設置するためのプラネットキャリアをパルス電源に接続し、プラネットキャリアの回転数が3r/minであり、負のバイアスが-50Vから-300Vまで変化し、正電圧が+20V、周波数が20kHz、デューティサイクルが80%である。
【0071】
(3)連続して真空チャンバーに高純度のArを注入する。気圧は1.0Paである。注入したAr流量を気圧で制御する。
【0072】
(4)赤外線加熱管の温度を600℃に設定する。
【0073】
(5)イオンエッチング時間は40minである。
【0074】
このステップで有効に本体の表面にある酸化皮膜及び緩い層を除去できる。
【0075】
4)Hf-B-N系コーティング沈積:連続してチャンバーに高純度のN2及びArを注入すると同時に、チャンバーに内蔵されたヒーターの決まった温度を保ち、本体に負のバイアスを与え、高出力のパルスマグネトロンスパッタリング技術で決まった厚さのあるHf-B-N系コーティングが沈積するようにする。前記の高純度のN2は流量が10sccmである。高純度のN2
のArに対する流量比を0.25に制御し、チャンバーの気圧を0.4Paに制御すると同時に、チャンバーに内蔵された赤外線加熱管の温度を300℃に保ち、本体に負のバイアスを与え、マグネトロンスパッタリング技術でベースに対するコーティングを行う。
【0076】
具体的な手順が次のとおりである。
【0077】
(1)スパッタリングターゲット材は平面Hf-Bターゲットであり、出力密度が16.5W/cm2
である。
【0078】
(2)本体を設置するためのプラネットキャリアを電源の負極に接続し、プラネットキャリアの回転数が3r/min、負のバイアスが-50Vである。
【0079】
(3)コーティング処理の時間は300minである。
【0080】
5)サンプリング冷却:コーティングが完了してからストーブ循環冷却システムをONにし、冷却水の温度を20℃に設定し、チャンバーが真空状態で70℃以下に冷却してからワークを取り出す。
【0081】
旋削試験のパラメータ:切削速度90m/min、切削深さ1.0mm、送り速度0.25mm/r。冷却方法は油水複合スプレー冷却である。旋削試験の成績によると、コーティング無し硬質合金カッターに対して、Hf-B-Nコーティングの硬質合金カッター
は更に
よく
旋削後
の表面の摩耗(
図2)を抑制できる上、耐チタン合金粘結の性能が強い。
【実施例3】
【0082】
各元素の原子パーセントがHf20%、Ti15%、B30%、N35%であり、HfN相、TiN相及びBN相を含むHf-Ti-B-Nコーティングでコーティングされた、チタン合金及び高温合金加工用の切削ツール。
【0083】
望ましくは、前記のHf-Ti-B-Nコーティングは厚さが2.75μmである。
【0084】
下記のステップを含むチタン合金及び高温合金加工用のHf-Ti-B-Nコーティングされた切削ツールの製造方法。
【0085】
1)本体の前処理:無水エタノールで15minにわたって切削ツールに対する超音波洗浄を行い、熱風で切削ツールを乾燥させてからプラネットキャリアに締め付け、チャンバーに入れる。
【0086】
2)チャンバーの真空を作る:機械ポンプ及び分子ポンプで4×10-5mbar以下の真空を作り、赤外線加熱管の温度を600℃に設定してから30minにわたって加熱を行い、チャンバーの真空度が4×10-5mbar以下となってから赤外線加熱管の温度を550℃に設定して30minにわたって加熱を行い、最後にチャンバーの真空が4×10-5mbar以下となるようにして充分にチャンバー及び本体の表面にある揮発しやすい異物を除去する。
【0087】
3)イオンエッチング:薄膜沈積までにアーク増強グロー放電技術で硬質合金本体に対するイオンエッチングを行う。具体的な手順が次のとおりである。
【0088】
(1)陰極は、円形のCrターゲットを備え、純度が99%以上、ターゲット電流が80Aである。
【0089】
(2)本体を設置するためのプラネットキャリアをパルス電源に接続し、プラネットキャリアの回転数が3r/minであり、負のバイアスが-50Vから-300Vまで変化し、正電圧が+20V、周波数が20kHz、デューティサイクルが80%である。
【0090】
(3)連続して真空チャンバーに高純度のArを注入する。気圧は1.0Paである。注入したAr流量を気圧で制御する。
【0091】
(4)赤外線加熱管の温度を450℃に設定する。
【0092】
(5)イオンエッチングの時間は30minである。
【0093】
このステップで有効に本体の表面にある酸化皮膜及び緩い層を除去できる。
【0094】
4)Hf-Ti-B-N系コーティング沈積:連続してチャンバーに高純度のN2及びArを注入すると同時に、チャンバーに内蔵されたヒーターの決まった温度を保ち、本体に負のバイアスを与え、RFマグネトロンスパッタリング技術で決まった厚さのあるHf-Ti-B-N系コーティングが沈積するようにする。前記の高純度のN2は流量が20sccm、高純度のN2
のArに対する流量比を0.14に制御し、チャンバーの気圧を0.6Paに制御すると同時に、チャンバーに内蔵された赤外線加熱管の温度を450℃に保ち、本体に負のバイアスを与え、マグネトロンスパッタリング技術でベースに対するコーティングを行う。
【0095】
具体的な手順が次のとおりである。
【0096】
(1)スパッタリングターゲット材は平面Hf-Bターゲット及びTi-Bターゲットである。
【0097】
(2)本体を設置するためのプラネットキャリアを電源の負極に接続し、プラネットキャリアの回転数が3r/min、負のバイアスが-175Vである。
【0098】
(3)コーティング処理の時間は180minである。
【0099】
5)サンプリング冷却:コーティングが完了してからストーブ循環冷却システムをONにし、冷却水の温度を18℃に設定し、チャンバーが真空状態で70℃以下に冷却してからワークを取り出す。
【0100】
フライス削り試験のパラメータ:切削速度100m/min、切削深さ3mm、切削幅0.5mm、送り速度0.2mm/z)。冷却条件:普通の冷却液。フライス削り試験の成績によると、他のコーティングされた切削ツールに対して、Hf-Ti-B-Nコーティングされた硬質合金切削ツールは粘結も摩耗も顕著なものではなく、耐用期間が少なくとも2倍となる。
【0101】
当該切削ツールコーティングはMe-B-N系コーティングであるので、硬度が高く、内応力も摩擦係数も低く、切削ツールの本体と強く結合し、チタン合金及び高温合金の切削加工中に顕著な耐粘結性能を示す上、有効にチタン合金及び高温合金の切削中の切削ツールの粘結、摩耗及び損壊も抑制できる。
【0102】
コーティングのプロセスで平面Me-BターゲットマグネトロンスパッタリングでMe-B-Nコーティングが沈積するようにし、精確に純N2
のArに対する流量比を制御し、スパッタリングターゲットの平均出力密度が5.5~16.5W/cm2、デューティサイクルが2~5%であるので、Me-B-Nコーティングは強く粘結に耐え、良好な均一性があり、内応力も摩擦係数も低く、チタン合金及び高温合金の切削加工で有効に切削ツールの耐用期間及びワーク加工表面の品質を向上させることができる。
【0103】
上記の実例は本発明の技術策について説明するためのものだけであり、本発明の範囲を制限するものではなく、望ましい実例を参照して本発明について詳細に説明したが、本分野の普通の技術者が理解すべきように、本発明の技術策の実質及び範囲を超えないで本発明の技術策に対する書き直しまたは同一の交換が可能である。