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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-08
(45)【発行日】2024-08-19
(54)【発明の名称】睡眠障害を治療するための歯科用器具
(51)【国際特許分類】
   A61F 5/56 20060101AFI20240809BHJP
   A61M 16/06 20060101ALI20240809BHJP
【FI】
A61F5/56
A61M16/06 D
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2023555236
(86)(22)【出願日】2022-02-15
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-04
(86)【国際出願番号】 US2022016440
(87)【国際公開番号】W WO2022191960
(87)【国際公開日】2022-09-15
【審査請求日】2023-11-01
(31)【優先権主張番号】63/158,139
(32)【優先日】2021-03-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】523342573
【氏名又は名称】ワン ダエン ピーター
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ワン ダエン ピーター
【審査官】松江 雅人
(56)【参考文献】
【文献】韓国登録特許第10-1482727(KR,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 5/56
A61M 16/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
閉塞型睡眠時無呼吸又は低呼吸症を有する患者を治療するための歯科用器具を製造する方法であって、
(i)下顎歯列、上顎歯列、舌、気道、及び喉頭蓋を有する患者を特定するステップであって、前記下顎歯列は、中切歯及び前記中切歯の先端に位置する下顎中心点を有する、ステップ、
(iii)前記上顎歯列及び前記下顎歯列が最大咬合状態で噛み合うときの、前記下顎中心点の基準位置(0,0)を位置特定するステップ、
(iv)前記下顎歯列が、前記患者の前記気道及び前記喉頭蓋が開放するように移動する、前記下顎中心点の目標位置(Xtp,Ytp)を決定するステップ、
(v)下側アーチセクションと、上側アーチセクションと、前記下側アーチセクションと前記上側アーチセクションとを連結する接続セクションとを有する前記歯科用器具を構築するステップ、
(vi)前記下顎歯列が水平方向に最大まで前突する、前記下顎中心点の最大前突位置(Xmax)を決定するステップ、
(vii)前記下顎歯列が鉛直方向に最大まで開放する、前記下顎中心点の最大開口位置(Ymax)を決定するステップ、
(viii)前記目標位置(Xtp,Ytp)及び前記基準位置(0,0)を使用して式y=axを計算するステップであって、aはYtp/Xtpである、ステップ、及び
(ix)前記下顎中心の調整位置(Xadj,Yadj)を決定するステップ、を含み、
前記下側アーチセクションは、前記下顎歯列に適合し、
前記上側アーチセクションは、前記上顎歯列に適合し、
tpは、前記目標位置(Xtp,Ytp)と前記基準位置(0,0)との間の水平距離であり、
tpは、前記目標位置(Xtp,Ytp)と前記基準位置(0,0)との間の鉛直距離であり、
前記下側アーチセクションは、前記目標位置(Xtp,Ytp)に対応する位置にあり、
maxは、前記基準位置(0,0)と前記最大前突位置(Xmax)との間の水平距離であり、
maxは、前記基準位置(0,0)と前記最大開口位置(Ymax)との間の鉛直距離であり、
adj/Xmaxは、1%~80%であり、
adj/Ymaxは、1%~70%であり、
adj=aXadjであり、
前記下側アーチセクションは、前記調整位置(Xadj,Yadj)に移動する、
方法。
【請求項2】
前記気道及び前記喉頭蓋が開放しているか否かを判断するために内視鏡検査が使用される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記下側アーチセクション及び前記上側アーチセクションのそれぞれは、2つの後方セクション及び前方セクションを有し、前記歯科用器具は、その前方セクションにおいて、前記下側アーチセクションと前記上側アーチセクションとの間の開放部を有し、前記開放部は、前記舌の最大幅に対して20%~50%の幅を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記歯科用器具は、アクリルポリマー若しくはコポリマー、アクリレートポリマー若しくはコポリマー、又はそれらの組合せから作製される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
(x)前記下顎歯列及び前記上顎歯列をスキャンすることによってデジタルデータのセットを得るステップ、
(xi)前記デジタルデータのセットをコンピューターシステムに記録するステップ、を更に含み、
前記歯科用器具は、前記デジタルデータのセットを使用して構築される、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
ステップ(iii)の前に、前記患者を睡眠状態に鎮静させるステップ(ii)を更に含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
閉塞型睡眠時無呼吸又は低呼吸症を有する患者を治療するための歯科用器具を製造する方法であって、
(a)上顎歯列、下顎歯列、舌、気道、及び喉頭蓋を有する患者を特定するステップであって、前記下顎歯列は、中切歯及び前記中切歯の先端に位置する下顎中心点を有する、ステップ、
(b)前記上顎歯列及び前記下顎歯列が最大咬合状態で噛み合うときの、前記下顎中心点の基準位置(0,0)を位置特定するステップ、
(c)前記下顎歯列が水平方向に前突する、前記下顎中心点の最大前突位置(Xmax)を決定するステップ、
(d)前記下顎歯列が鉛直方向に最大まで開放する、前記下顎中心点の最大開口位置(Ymax)を決定するステップ、
(e)前記下顎中心点の目標位置(Xtp,Ytp)を決定するステップであって、Ytp=bXtp、Ytp=mYmax、及びXtp=nXmaxであり、bは、1~10であり、mは、5%~70%であり、nは、5%~80%である、ステップ、及び
(f)下側アーチセクションと、上側アーチセクションと、前記下側アーチセクションと前記上側アーチセクションとを連結する接続セクションとを有する前記歯科用器具を構築するステップ、
を含み、
前記下側アーチセクションは、前記下顎歯列に適合し、
前記上側アーチセクションは、前記上顎歯列に適合し、
maxは、前記基準位置(0,0)と前記最大前突位置(Xmax)との間の水平距離であり、
maxは、前記基準位置(0,0)と前記最大開口位置(Ymax)との間の鉛直距離であり、
tpは、前記目標位置(Xtp,Ytp)と前記基準位置(0,0)との間の水平距離であり、
tpは、前記目標位置(Xtp,Ytp)と前記基準位置(0,0)との間の鉛直距離であり、
前記下側アーチセクションは、前記目標位置(Xtp,Ytp)に対応する位置にある、方法。
【請求項8】
前記下側アーチセクション及び前記上側アーチセクションのそれぞれは、2つの後方セクション及び前方セクションを有し、前記歯科用器具は、その前方セクションにおいて、前記下側アーチセクションと前記上側アーチセクションとの間の開放部を有し、前記開放部は、前記舌の最大幅に対して20%~50%の幅を有する、請求項に記載の方法。
【請求項9】
前記歯科用器具は、アクリルポリマー若しくはコポリマー、アクリレートポリマー若しくはコポリマー、又はそれらの組合せから作製される、請求項に記載の方法。
【請求項10】
(h)前記下顎歯列及び前記上顎歯列をスキャンすることによってデジタルデータのセットを得るステップ、
(i)前記デジタルデータのセットをコンピューターシステムに記録するステップ、を更に含み、
前記歯科用器具は、前記デジタルデータのセットを使用して構築される、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
(g)前記下顎中心の調整位置(Xadj,Yadj)を決定することを更に含み、
adj/Xmaxは、5%~80%であり、
adj/Ymaxは、5%~70%であり、
前記下側アーチセクションは、前記調整位置(Xadj,Yadj)に移動する、
請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本願は、2021年3月8日に出願された米国仮特許出願第63/158,139号に基づく優先権の利益を主張し、その開示内容全体は、引用することにより本明細書の一部をなす。
【背景技術】
【0002】
閉塞型睡眠時無呼吸低呼吸症候群(OSAHS)は、咽頭狭窄による上気道虚脱に起因する、睡眠中の気流減少(低呼吸)又は停止(無呼吸)の反復的エピソードを特徴とする。
【0003】
閉塞型睡眠時無呼吸症患者は、睡眠中に、喉の筋肉が断続的に弛緩して、気道が完全に閉塞されるため、呼吸が繰り返し停止する。低呼吸症患者は、気道が著しく縮小するが、完全に閉塞はしない。
【0004】
OSAHSは、成人の9%~38%が罹患し、年齢及び肥満に伴って増加する。Liu et al., Sci. Rep. 10, 3394 (2020)を参照されたい。National Healthy Sleep Awareness Projectによれば、米国内の成人のうちの少なくとも2500万人がOSAHSを有する。AASM Press Releases, September 29, 2014を参照されたい。OSAHSの症状には、過度の大きないびき、日中の眠気、慢性疲労、朝方の頭痛、抑うつ、いらつき、及び高血圧が挙げられる。治療しないと、OSAHSは、生活の質を低下させ、うつ病、2型糖尿病、脳卒中、更には血中酸素レベルの度重なる低下による心疾患患者の突然死のリスクが増大する等のより深刻な状況につながるおそれもある。
【0005】
経鼻的持続陽圧呼吸療法(CPAP)は、最も一般的な治療であり、この方法では、OSAHS患者は、睡眠中に陽圧をもたらして気道を強制的に開放する機械に接続されたマスクを装着する。多くの患者は、鼻腔の乾燥、マスクの刺激、覚醒、機械の騒音、閉所恐怖症、及び胃の膨満を含む理由からCPAPを拒否している。したがって、CPAPは、OSAHS患者の間で広く受け入れられているわけではない。
【0006】
CPAP療法の代替として歯科用器具が使用されている。Petelle et al., American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine 165, 1150-53 (2002)、Dort et al., European Respiratory Journal 27, 1003-09 (2006)を参照されたい。これらの歯科用器具は、睡眠中の患者が装着すると、喉の筋肉の前方移動によって直接、又は下顎を前進させることによって間接的に、気道を開放状態に保つように意図されている。歯科用器具は、CPAPよりも侵襲性が低いため、患者にとってより受け入れやすい。しかしながら、その有効性は高くなく、CPAPの45%程度しかない。Basyuni et al., J. Thorac Dis 2018, 10 (Suppl. 1), S48-56を参照されたい。デザイン特徴を中心にした最近の改善は、依然として満足の行くものではない。米国特許出願公開第2013/0112210号及び同第2015/0272772号を参照されたい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
OSAHSを治療する効果の高い歯科用器具を開発する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願は、OSAHSを有する患者の治療に驚くほど効果的な歯科用器具を製造する方法を提供する。
【0009】
したがって、本発明の1つの態様は、閉塞型睡眠時無呼吸又は低呼吸症を有する患者を治療するための歯科用器具を製造する第1の方法に関する。本方法は、
(i)下顎歯列、上顎歯列、舌、気道、及び喉頭蓋を有する患者を特定するステップであって、下顎歯列は、中切歯及び中切歯の先端に位置する下顎中心点を有する、ステップ、
(ii)任意選択で、患者を睡眠状態に鎮静させるステップ、
(iii)上顎歯列及び下顎歯列が最大咬合状態で噛み合うときの、下顎中心点の基準位置(0,0)を位置特定するステップ、
(iv)下顎歯列が、患者の気道及び喉頭蓋が開放するように移動する、下顎中心点の目標位置(Xtp,Ytp)を決定するステップ、
(v)下側アーチセクションと、上側アーチセクションと、下側アーチセクションと上側アーチセクションとを連結する接続セクションとを有する歯科用器具を構築するステップ、
を含み、
下側アーチセクションは、下顎歯列に適合し、
上側アーチセクションは、上顎歯列に適合し、
tpは、目標位置(Xtp,Ytp)と基準位置(0,0)との間の水平距離であり、
tpは、目標位置(Xtp,Ytp)と基準位置(0,0)との間の鉛直距離であり、
下側アーチセクションは、目標位置(Xtp,Ytp)に対応する位置にある。
【0010】
典型的に、Xtp及びYtpは、ミリメートル(mm)単位で測定される。
【0011】
上記の第1の方法は、任意選択で、以下の4つのステップ、すなわち、
(vi)下顎歯列が最大に最大まで前突する、下顎中心点の最大前突位置(Xmax)を決定するステップ、
(vii)下顎歯列が鉛直方向に最大まで開放する、下顎中心点の最大開口位置(Ymax)を決定するステップ、
(viii)目標位置(Xtp,Ytp)及び基準位置(0,0)を使用して式y=axを計算するステップであって、aはYtp/Xtpである、ステップ、及び
(ix)下顎中心点の調整位置(Xadj,Yadj)を決定するステップ、
を更に含み、
maxは、基準位置(0,0)と最大前突位置(Xmax)との間の水平距離であり、
maxは、基準位置(0,0)と最大開口位置(Ymax)との間の鉛直距離であり、
adj/Xmaxは、1%~80%、好ましくは2%~75%、より好ましくは3%~75%であり、
adj/Ymaxは、1%~70%、好ましくは1%~65%、より好ましくは2%~60%であり、
adj=aXadjであり、
下側アーチセクションは、調整位置(Xadj,Yadj)に移動する。
【0012】
aの値は、Ytp/Xtpによって計算され、したがって、患者に固有である。ほとんどの患者の場合、aの値は、0.2~15の範囲内に入る。
【0013】
第1の方法はまた、
(x)下顎歯列及び上顎歯列をスキャンすることによってデジタルデータのセットを得るステップ、
(xi)デジタルデータのセットをコンピューターシステムに記録するステップ、
を含むことができ、
歯科用器具は、デジタルデータのセットを使用して構築される。
【0014】
内視鏡検査は、患者が好ましくは鎮静下で眠っている間に、気道及び喉頭蓋が開放しているか否かを判断するために最も多く使用される。
【0015】
本発明の別の態様は、OSAHSを有する患者を治療するための歯科用器具を製造する第2の方法に関する。第2の方法は、
(a)上顎歯列、下顎歯列、舌、気道、及び喉頭蓋を有する患者を特定するステップであって、下顎歯列は、中切歯及び中切歯の先端に位置する下顎中心点を有する、ステップ、
(b)上顎歯列及び下顎歯列が最大咬合状態で噛み合うときの、下顎中心点の基準位置(0,0)を位置特定するステップ、
(c)下顎歯列が最大に最大まで前突する、下顎中心点の最大前突位置(Xmax)を決定するステップ、
(d)下顎歯列が鉛直方向に最大まで開放する、下顎中心点の最大開口位置(Ymax)を決定するステップ、
(e)下顎中心点の目標位置(Xtp,Ytp)を決定するステップであって、Ytp=bXtp、Ytp=mYmax、及びXtp=nXmaxであり、bは、1~10(好ましくは1.2~8、より好ましくは1.5~6.5)であり、mは、5%~70%(好ましくは8%~60%、より好ましくは12%~50%)であり、nは、5%~80%(好ましくは12%~70%、より好ましくは20%~60%)である、ステップ、
(f)下側アーチセクションと、上側アーチセクションと、下側アーチセクションと上側アーチセクションとを連結する接続セクションとを有する歯科用器具を構築するステップと、
を含み、
下側アーチセクションは、下顎歯列に適合し、
上側アーチセクションは、上顎歯列に適合し、
maxは、基準位置(0,0)と最大前突位置(Xmax)との間の水平距離であり、
maxは、基準位置(0,0)と最大開口位置(Ymax)との間の鉛直距離であり、
tpは、目標位置(Xtp,Ytp)と基準位置(0,0)との間の水平距離であり、
tpは、目標位置(Xtp,Ytp)と基準位置(0,0)との間の鉛直距離であり、
下側アーチセクションは、目標位置(Xtp,Ytp)に対応する位置にある。
【0016】
第2の方法は、(g)下顎中心位置の調整位置(Xadj,Yadj)を決定するステップを任意選択で含む。ここで、Xadj/Xmaxは、5%~80%(好ましくは6%~75%、より好ましくは7%~70%)であり、Yadj/Ymaxは、5%~70%(好ましくは6%~60%、より好ましくは7%~50%)であり、下側アーチセクションは、調整位置(Xadj,Yadj)に移動する。
【0017】
さらに、第2の方法は、(h)下顎歯列及び上顎歯列をスキャンすることによってデジタルデータのセットを得るステップと、(i)デジタルデータのセットをコンピューターシステムに記録するステップとを含むことができ、歯科用器具は、デジタルデータのセットを使用して構築される。
【0018】
また、上述した方法のうちの任意のものによって製造される歯科用器具も本発明の範囲内にある。
【0019】
歯科用器具に関しては、それぞれが下側アーチセクション及び上側アーチセクションを有し、下側アーチセクション及び上側アーチセクションのそれぞれは、2つの後方セクション及び前方セクションを有する。各歯科用器具は、その前方セクションにおいて、下側アーチセクションと上側アーチセクションとの間の開放部を有し、開放部は、舌の最大幅に対して20%~50%の幅を有する。
【0020】
本発明の歯科用器具を作製するのに好適な材料として、当該技術分野において既知の耐久性のある歯科矯正材料、例えば、アクリルポリマー又はコポリマー、アクリレートポリマー又はコポリマー、ポリプロピレン由来材料、ポリ塩化ビニル由来材料、ポリウレタン由来材料、及びそれらの任意の組合せが挙げられる。
【0021】
本発明の1つ以上の実施形態の詳細が以下の説明及び図面に示されている。本発明の他の特徴、目的、及び利点は、本明細書及び特許請求の範囲から明らかであろう。
項1
閉塞型睡眠時無呼吸又は低呼吸症を有する患者を治療するための歯科用器具を製造する方法であって、
(i)下顎歯列、上顎歯列、舌、気道、及び喉頭蓋を有する患者を特定するステップであって、前記下顎歯列は、中切歯及び前記中切歯の先端に位置する下顎中心点を有する、ステップ、
(ii)任意選択で、前記患者を睡眠状態に鎮静させるステップ、
(iii)前記上顎歯列及び前記下顎歯列が最大咬合状態で噛み合うときの、前記下顎中心点の基準位置(0,0)を位置特定するステップ、
(iv)前記下顎歯列が、前記患者の前記気道及び前記喉頭蓋が開放するように移動する、前記下顎中心点の目標位置(X tp ,Y tp )を決定するステップ、
(v)下側アーチセクションと、上側アーチセクションと、前記下側アーチセクションと前記上側アーチセクションとを連結する接続セクションとを有する前記歯科用器具を構築するステップ、
を含み、
前記下側アーチセクションは、前記下顎歯列に適合し、
前記上側アーチセクションは、前記上顎歯列に適合し、
tp は、前記目標位置(X tp ,Y tp )と前記基準位置(0,0)との間の水平距離であり、
tp は、前記目標位置(X tp ,Y tp )と前記基準位置(0,0)との間の鉛直距離であり、
前記下側アーチセクションは、前記目標位置(X tp ,Y tp )に対応する位置にある、方法。
項2
(vi)前記下顎歯列が最大に最大まで前突する、前記下顎中心点の最大前突位置(X max )を決定するステップ、
(vii)前記下顎歯列が鉛直方向に最大まで開放する、前記下顎中心点の最大開口位置(Y max )を決定するステップ、
(viii)前記目標位置(X tp ,Y tp )及び前記基準位置(0,0)を使用して式y=axを計算するステップであって、aはY tp /X tp である、ステップ、及び
(ix)前記下顎中心位置の調整位置(X adj ,Y adj )を決定するステップ、
を更に含み、
max は、前記基準位置(0,0)と前記最大前突位置(X max )との間の水平距離であり、
max は、前記基準位置(0,0)と前記最大開口位置(Y max )との間の鉛直距離であり、
adj /X max は、1%~80%であり、
adj /Y max は、1%~70%であり、
adj =aX adj であり、
前記下側アーチセクションは、前記調整位置(X adj ,Y adj )に移動する、項1に記載の方法。
項3
(x)前記下顎歯列及び前記上顎歯列をスキャンすることによってデジタルデータのセットを得るステップ、
(xi)前記デジタルデータのセットをコンピューターシステムに記録するステップ、
を更に含み、
前記歯科用器具は、前記デジタルデータのセットを使用して構築される、項2に記載の方法。
項4
前記気道及び前記喉頭蓋が開放しているか否かを判断するために内視鏡検査が使用される、項3に記載の方法。
項5
前記下側アーチセクション及び前記上側アーチセクションのそれぞれは、2つの後方セクション及び前方セクションを有し、前記歯科用器具は、その前方セクションにおいて、前記下側アーチセクションと前記上側アーチセクションとの間の開放部を有し、前記開放部は、前記舌の最大幅に対して20%~50%の幅を有する、項4に記載の方法。
項6
前記歯科用器具は、アクリルポリマー若しくはコポリマー、アクリレートポリマー若しくはコポリマー、又はそれらの組合せから作製される、項5に記載の方法。
項7
(x)前記下顎歯列及び前記上顎歯列をスキャンすることによってデジタルデータのセットを得るステップ、
(xi)前記デジタルデータのセットをコンピューターシステムに記録するステップ、
を更に含み、
前記歯科用器具は、前記デジタルデータのセットを使用して構築される、項1に記載の方法。
項8
前記患者の前記気道及び前記喉頭蓋が開放しているか否かを判断するために内視鏡検査が使用される、項1に記載の方法。
項9
前記下側アーチセクション及び前記上側アーチセクションのそれぞれは、2つの後方セクション及び前方セクションを有し、前記歯科用器具は、その前方セクションにおいて、前記下側アーチセクションと前記上側アーチセクションとの間の開放部を有し、前記開放部は、前記舌の最大幅に対して20%~50%の幅を有する、項1に記載の方法。
項10
前記歯科用器具は、アクリルポリマー若しくはコポリマー、アクリレートポリマー若しくはコポリマー、又はそれらの組合せから作製される、項1に記載の方法。
項11
項1に記載の方法によって製造される歯科用器具。
項12
閉塞型睡眠時無呼吸又は低呼吸症を有する患者を治療するための歯科用器具を製造する方法であって、
(a)上顎歯列、下顎歯列、舌、気道、及び喉頭蓋を有する患者を特定するステップであって、前記下顎歯列は、中切歯及び前記中切歯の先端に位置する下顎中心点を有する、ステップ、
(b)前記上顎歯列及び前記下顎歯列が最大咬合状態で噛み合うときの、前記下顎中心点の基準位置(0,0)を位置特定するステップ、
(c)前記下顎歯列が最大に最大まで前突する、前記下顎中心点の最大前突位置(X max )を決定するステップ、
(d)前記下顎歯列が鉛直方向に最大まで開放する、前記下顎中心点の最大開口位置(Y max )を決定するステップ、
(e)前記下顎中心点の目標位置(X tp ,Y tp )を決定するステップであって、Y tp =bX tp 、Y tp =mY max 、及びX tp =nX max であり、bは、1~10であり、mは、5%~70%であり、nは、5%~80%である、ステップ、及び
(f)下側アーチセクションと、上側アーチセクションと、前記下側アーチセクションと前記上側アーチセクションとを連結する接続セクションとを有する前記歯科用器具を構築するステップ、
を含み、
前記下側アーチセクションは、前記下顎歯列に適合し、
前記上側アーチセクションは、前記上顎歯列に適合し、
max は、前記基準位置(0,0)と前記最大前突位置(X max )との間の水平距離であり、
max は、前記基準位置(0,0)と前記最大開口位置(Y max )との間の鉛直距離であり、
tp は、前記目標位置(X tp ,Y tp )と前記基準位置(0,0)との間の水平距離であり、
tp は、前記目標位置(X tp ,Y tp )と前記基準位置(0,0)との間の鉛直距離であり、
前記下側アーチセクションは、前記目標位置(X tp ,Y tp )に対応する位置にある、方法。
項13
(g)前記下顎中心位置の調整位置(X adj ,Y adj )を決定することを更に含み、
adj /X max は、5%~80%であり、
adj /Y max は、5%~70%であり、
前記下側アーチセクションは、前記調整位置(X adj ,Y adj )に移動する、項12に記載の方法。
項14
(h)前記下顎歯列及び前記上顎歯列をスキャンすることによってデジタルデータのセットを得るステップ、
(i)前記デジタルデータのセットをコンピューターシステムに記録するステップ、
を更に含み、
前記歯科用器具は、前記デジタルデータのセットを使用して構築される、項13に記載の方法。
項15
前記下側アーチセクション及び前記上側アーチセクションのそれぞれは、2つの後方セクション及び前方セクションを有し、前記歯科用器具は、その前方セクションにおいて、前記下側アーチセクションと前記上側アーチセクションとの間の開放部を有し、前記開放部は、前記舌の最大幅に対して20%~50%の幅を有する、項14に記載の方法。
項16
前記歯科用器具は、アクリルポリマー若しくはコポリマー、アクリレートポリマー若しくはコポリマー、又はそれらの組合せから作製される、項15に記載の方法。
項17
(h)前記下顎歯列及び前記上顎歯列をスキャンすることによってデジタルデータのセットを得るステップ、
(i)前記デジタルデータのセットをコンピューターシステムに記録するステップ、
を更に含み、
前記歯科用器具は、前記デジタルデータのセットを使用して構築される、項12に記載の方法。
項18
前記下側アーチセクション及び前記上側アーチセクションのそれぞれは、2つの後方セクション及び前方セクションを有し、前記歯科用器具は、その前方セクションにおいて、前記下側アーチと前記上側アーチとの間の開放部を有し、前記開放部は、前記舌の最大幅に対して20%~50%の幅を有する、項12に記載の方法。
項19
前記歯科用器具は、アクリルポリマー若しくはコポリマー、アクリレートポリマー若しくはコポリマー、又はそれらの組合せから作製される、項12に記載の方法。
項20
項12に記載の方法によって製造される歯科用器具。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1A】下顎歯列が上顎歯列に最大咬合状態で噛み合う基準位置A(0,0)を有する咬頭嵌合位(ICP)を示す図である。基準位置Aから、下顎歯列は、2つの成分、すなわち、水平移動(X)及び鉛直移動(Y)を有する位置(X,Y)に移動することができる。
図1B】下顎歯列が前方に最大まで移動し、最大の水平移動Xmax及び短い鉛直移動Yに達した最大前突位置B(Xmax,Y)を示す図である。
図1C】下顎歯列が鉛直方向に最大まで開放し、最大の鉛直移動Ymax及び短い水平移動Xに達した最大開口位置C(X,Ymax)を示す図である。
図1D】基準位置A(0,0)、最大前突位置B(Xmax,Y)、及び最大開口位置C(X,Ymax)が、下顎中心点が移動することができる最大範囲を表す三角形を形成することを示す図である。
図2A】部分的に開放した喉頭蓋及び気道の写真である。
図2B】完全に開放した喉頭蓋及び気道の写真である。
図2C】気道開放位置を示す図である。
図2D】閉口位置を示す図である。
図3】下顎中心点の目標位置(点TP)及び調整位置(点adj)を示す図である。
図4A】本発明の歯科用器具を横から見た写真である。
図4B】本発明の歯科用器具を正面から見た写真である。
図4C】下顎歯列及び上顎歯列に取り付けられた歯科用器具のモデル図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の歯科用器具は、OSAHSを治療するために患者が装着する。この歯科用器具は、患者の気道及び喉頭蓋を睡眠中に開放状態に保つのに役立つ。これは、気道を開放すると同時に快適性をもたらす目標位置に下顎歯列を付勢することによって達成される。目標位置において、患者の下顎は、一般的に下顎前進と称するプロセスにおいて前進し、それにより、舌を前方に移動させ、舌が気管の入口を閉塞することを防止する。下顎前進はまた、喉の筋肉を動かすことによって気道を開放する。
【0024】
下顎前進は、2つの中切歯を有する下顎歯列の移動によって最もよく測定される。いずれの中切歯も、中切歯の先端の下顎中心点として規定される測定点を設定するために使用することができる。多くの場合は、右側の中切歯が、下顎中心点を規定するのに選択される。下顎歯列の全ての移動は、下顎中心点を使用して測定される。
【0025】
本願において、下顎前進の動きは、下顎歯列が上顎歯列に最大咬合状態で噛み合うときの下顎歯列の位置である咬頭嵌合位(ICP)から開始して定量化される。ICPは、習慣性咬合、習慣性位置、又は便宜上の咬合としても知られ、この位置は、患者が噛み合わせるように求められたときに慣れていることから、そう呼ばれる。ICPにおける下顎中心点は、水平移動及び鉛直移動がゼロである基準位置A(0,0)として割り当てられる。図1Aを参照されたい。
【0026】
ICPから、下顎中心点は、2つの成分、すなわち、水平移動(X)及び鉛直移動(Y)を有する位置(X,Y)に前進する。X及びYは、それぞれ、通常、ミリメートル(mm)単位での、下顎中心点が下顎前進においてICPから移動する水平距離及び鉛直距離である。下顎歯列とは異なり、上顎歯列は、下顎前進中に移動しない。
【0027】
下顎歯列が前方に最大まで移動すると、下顎歯列は、最大の水平移動Xmax及び短い鉛直移動Yを有する最大前突位置Bに達する。図1Bを参照されたい。一方、下顎歯列が鉛直方向に最大まで開放すると、下顎歯列は、最大の鉛直移動Ymax及び短い水平移動Xを有する最大開口位置Cに達する。図1Cを参照されたい。基準位置A(0,0)、最大前突位置B(Xmax,Y)、及び最大開口位置C(X,Ymax)は、下顎中心点が移動することができる最大範囲を表す三角形ABCを形成する。図1Dを参照されたい。
【0028】
予期せぬことに、下顎中心点が目標位置TP(Xtp,Ytp)に移動すると、気道が最大まで開放し、喉頭蓋も最大まで開放し、したがって、OSAHSに起因する睡眠中断が排除又は低減される。
【0029】
tp及びYtpは、患者によって異なる。これらの値は、個別の患者ごとに決定する必要がある。Xtpは、典型的に、0.2mm~10mm(例えば、0.3mm~8mm及び0.4mm~6mm)の範囲内に入る。一方、Ytpは、典型的に、0.5mm~50mm(例えば、0.8mm~40mm及び1mm~30mm)内に入る。
【0030】
maxは、2mm~25mm(例えば、3mm~20mm及び3.5mm~15mm)の範囲であり得る。Ymaxは、8mm~80mm(例えば、10mm~70mm及び12mm~60mm)の範囲であり得る。
【0031】
例示として、目標位置は2つの方法によって決定される。第1の方法において、目標位置は、OSAHSを有する患者に対する内視鏡検査又は連続コンピューター断層撮影(CT)によって正確に定められる。内視鏡検査又はCT操作の前又は後に、歯科用器具を構築するための情報を得るために、患者の歯列がスキャンされる。下顎中心点及び基準位置も特定及び記録される。
【0032】
スキャンは、X線、コンピューター支援断層撮影(CATスキャン)、共鳴画像法(MRI)、及び当該技術分野で既知の他の任意の方法を使用して実行することができる。下顎歯列、上顎歯列、及びそれらの相対位置を表す三次元デジタルデータセットを容易に得ることができる。スキャンデータセットは、従来技術によって、例えば、石膏模型を製造した後にレーザースキャンを行うことによって得ることもできる。
【0033】
スキャンデータセットは、通常、コンピューターシステムに記録され、歯列を視覚化し、コンピュータープログラムにおいて歯列の移動をシミュレートし、歯列に適合する歯科用器具を設計及び修正し、三次元(3D)プリンターにおいて歯科用器具を構築するために利用可能である。
【0034】
スキャンデータセットは、目標位置に関する情報と組み合わせて使用される。内視鏡及びCTは、患者の睡眠時、鎮静時、麻酔時、又は昏迷時に下顎中心点の目標位置を特定するのに便利な2つの技術である。患者の下顎歯列は、喉頭蓋及び気道が内視鏡又はCTによって監視されている間に前方又は鉛直に移動する。目標位置には、気道及び喉頭蓋が最大まで開放したときに達する。この位置は、(Xtp,Ytp)として規定され、ここで、Xtpは、下顎中心点がICPから移動する水平距離であり、Ytpは、下顎中心点がICPから移動する鉛直距離である。
【0035】
目標位置は、通常、訓練を受けた専門家(胸部内科医又は呼吸器科医)によって満足の行くように決定される。図2は、(A)部分的に開放した喉頭蓋及び気道、(B)完全に開放した喉頭蓋及び気道、(C)気道開放位置、及び(D)閉口位置を示している。最大気道開放を決定する際、気道の正面図を示す写真を撮影することができ、次いで、写真における気道の領域を測定し、最大面積に対応する開放を最大気道開放として決定する。
【0036】
内視鏡又はCT操作中、補足的なスキャンデータセットを得ることができる。これらのスキャンデータセットは、歯科用器具を修正することが望ましい場合に、下顎前進、筋肉の運動、気道開放、及び喉頭蓋位置をシミュレートするのに有用である。
【0037】
標準的な歯科用器具、すなわち、本発明の好ましい実施形態は、目標位置(Xtp,Ytp)をスキャンデータセットとともに使用して作製される。
【0038】
患者によっては、快適性又は他の理由から、標準的な歯科用器具よりも修正版の歯科用器具を好む。
【0039】
修正版の歯科用器具は、目標位置(Xtp,Ytp)の代わりに調整位置(Xadj,Yadj)が使用されることを除いて、標準的な歯科用器具と同様に構築される。
【0040】
調整位置(Xadj,Yadj)は、基準位置(0,0)及び目標位置(Xtp,Ytp)の双方を通る線y=ax上に位置する。図3を参照されたい。この式において、aは、Ytp/Xtpとして計算される。調整位置において、気道は、最大気道開放と比較して、少なくとも20%(例えば、少なくとも30%、少なくとも40%、及び少なくとも50%)開放される。
【0041】
adjは、0.2mm~8mm(例えば、0.3mm~6mm及び0.4mm~5mm)の範囲であり、Yadjは、0.5mm~20mm(例えば、0.8mm~15mm及び1mm~10mm)の範囲であることが好ましい。
【0042】
次いで、修正版の歯科用器具は、調整位置(Xadj,Yadj)及びスキャンデータを使用して製造される。
【0043】
一連の修正版の歯科用器具は、上述した方法に沿って製造することができる。その後、修正版の歯科用器具及び標準的な歯科用器具を患者が一度に1つずつ着用し、当該技術分野で既知のプロトコルを使用して快適性及び臨床的有効性を評価する。臨床データ及び着用体験に基づいて評価することで、日々の使用に最も好適な歯科用器具を選択する。
【0044】
別の例示として、本発明の歯科用器具は、以下のように製造される。(i)コンピューターシステムによる支援の下で患者の口腔をスキャンし、少なくとも下顎歯列及び上顎歯列を含む歯列モデルを確立し、(ii)喉頭蓋及び気道が最大まで開放されるまで患者の下顎歯列を移動させながら、目標位置を特定するために患者の口腔を繰り返しスキャンし、(iii)コンピューターシステムに目標位置を記録し、(iv)歯列モデル及び下顎歯列の目標位置に従って歯科用器具を製造する。
【0045】
このように特定された目標位置は、従来の歯科用器具よりも前方変位が少なくて済み、したがって、患者が着用するのにより快適となる。
【0046】
加えて、歯科用器具は、特に、患者が目標位置を決定する際の調査に適していない場合に、本発明の方法2によって製造することができる。したがって、目標位置を決定する第2の方法は、以下の3つの式を使用した目標位置(Xtp,Ytp)の計算を伴う。
(i)Ytp=bXtp、bは、1~10、好ましくは1.2~8、より好ましくは1.5~6.5である。
(ii)Ytp=mYmax、mは、5%~70%、好ましくは8%~60%、より好ましくは12%~50%である。
(iii)Xtp=nXmax、nは、5%~80%、好ましくは12%~70%、より好ましくは20%~60%である。
【0047】
予期せぬことに、患者の下顎中心点がこの目標位置にある場合、気道及び喉頭蓋は睡眠中に開放し、したがって、OSAHSを効果的に治療することがわかった。したがって、本発明の標準的な歯科用器具は、目標位置(Xtp,Ytp)並びに下顎歯列及び上顎歯列について収集されたスキャンデータセットを使用して構築される。
【0048】
第2の方法において、歯科用器具は、Xadj及びYadjが上記3つの式を満たす限り、上述した手順に沿って調整することもできる。
【0049】
tp、Ytp、Xadj,Yadj、Xmax、及びYmaxは、上述した範囲を有することができる。
【0050】
本発明の歯科用器具は、三次元(3D)プリント、熱成形、直接製造、機械加工、又はそれらの任意の組合せ等の任意の既知の方法に沿って製造することができる。光造形法(SLA)は、光によってモノマー及びオリゴマーを互いに架橋させてポリマーを形成する光化学プロセスを使用した、積層方式での例示的な3Dプリント技術である。デジタルライトプロセッシング(DLP)は、デジタルプロジェクターを光源として使用してモノマー又はオリゴマーを架橋する別の例である。プリントヘッドからビルドトレイ上に液体のモノマー、オリゴマー、又は樹脂を吐出し、それを紫外光によって瞬時に硬化させる材料噴射(MJ)3Dプリンターも好適である。
【0051】
有用な3Dプリンターとして、Shining 3D Technology Inc.社(カリフォルニア州サンフランシスコ所在)からAccuFab-D1(商標)という商品名で、3D Systems社(サウスカロライナ州ロックヒル所在)からNextDent(商標)5100という商品名で、及びSprintRay社(カリフォルニア州ロサンゼルス所在)からPro 95という商品名で販売されているものが挙げられる。
【0052】
好適な材料として、NextDent(商標)社(オランダ所在)によるOrtho Clear(商標)という商品名のアクリル酸エステル、Detax GmbH & Co.社(ドイツ、エットリンゲン所在)によるFreeprint(商標)スプリントという商品名のアクリル/メタクリル樹脂、及びDreve Dentamid GmbH社(ドイツ、ウンナ所在)によるFotoDent(商標)Guide 405nmという商品名のメタクリル樹脂が挙げられる。
【0053】
目標位置又は調整位置情報は、デジタルスキャンデータとともに3Dプリンターに記録される。任意選択で、コンピューター支援設計ツール及び3Dプリントプログラムを使用して、本発明の歯科用器具が設計及び調整される。3D材料は、事前設定されたプログラムに従って歯科用器具を作製するためにプリントヘッドから放出される。プリント後又はプリント中、材料は、通常、完全な架橋を確実にするために紫外光硬化によって硬化される。
【0054】
代替的に、本発明の歯科用器具は、コンピューター数値制御(CNC)機械加工によって、材料のブロックから機械加工することによって作製することができる。本発明の歯科用器具の構築に使用することができる更なる材料として、ポリプロピレン由来材料、ポリ塩化ビニル由来材料、及びポリウレタン由来材料、並びに歯科用器具の構築に安全に使用することが可能な任意の材料が挙げられる。
【0055】
このように製造された歯科用器具は、下側アーチセクションと、上側アーチセクションと、下側アーチセクションと上側アーチセクションとを連結する接続セクションと、任意選択で、下側アーチセクション、上側アーチセクション、及び接続セクションの間に形成される開放部とをそれぞれ有する。患者が着用すると、下側アーチセクションが患者の下顎歯列に適合し、上側アーチセクションが上顎歯列に適合する。下側アーチセクション及び上側アーチセクションは、(i)歯列における大臼歯及び小臼歯に対応する2つの後方セクションと、(ii)犬歯及び切歯に対応する前方セクションとをそれぞれ有する。本発明の歯科用器具の一例として、図4A図4B、及び図4Cを参照されたい。図4Aは、例示的な歯科用器具の側面図である。図4Bは、正面図である。図4Cは、下顎歯列及び上顎歯列に取り付けられた歯科用器具を示している。
【0056】
図4A図4Cに示されているように、下側アーチセクション及び上側アーチセクションの双方は、歯科用器具の中心を横切る正中面に沿って対称である。上側アーチセクションは、下側アーチセクションの上に位置決めされ、上顎歯列に結合される。下側アーチセクションは、下顎歯列に結合される。上側アーチセクション及び下側アーチセクションは、後方セクションにおいて接続されるが、前方セクションにおいては分離され、空気の通過と舌の前方移動とを可能にする開放部を残し、それにより、口の奥の気道を更に開放する。
【0057】
図4A図4Cを再び参照すると、下側アーチセクション及び上側アーチセクションのそれぞれは、外側部と、内側部と、咬合面とを有する。内側部は、歯列の舌側面に沿って移動し、器具と、歯列及び歯肉を含む上顎及び下顎の内面との間の接触点となる。内側部は、前歯、後方歯、及び歯肉において舌側面に合致する。前歯は、中切歯、側切歯、及び犬歯を含み、後方歯は、第一小臼歯及び第二小臼歯、並びに第一大臼歯、第二大臼歯、及び第三大臼歯を含む。上側アーチセクション及び下側アーチセクションの外側部は、歯列の頬側面に沿って移動し、歯及び歯肉の頬側面と接触する。咬合面は、歯の咀嚼面又は切端面に接触する。
【0058】
外側部及び内側部は、後方セクションにおいて咬合面によって結合され、歯科用器具を歯列に取り付ける支持構造を形成する。
【0059】
右上犬歯切端から左側犬歯切端にかけて開放部が形成される。開放部の幅は、舌の最大幅の約20%~50%(好ましくは33%)である。
【0060】
患者が着用すると、本発明の歯科用器具は、下顎歯列を0.7mm~6mm水平に移動させ、1mm~15mm鉛直に移動させる。この小さな水平方向の前進により、患者に最大の快適性がもたらされ、治療のコンプライアンスが保証される。この開放は、舌の前方移動を可能にすることにより、更なる快適性に寄与する。加えて、小さな鉛直距離により、患者が唇を閉じることが可能になり、これも、快適性に寄与する別の特徴である。
【0061】
歯科用器具は、下側アーチセクションの上側アーチセクションに対する鉛直又は水平の位置を変更することができるコネクタによって調整可能な設計が可能であるものの、一体型装置であることが好ましい。大抵の場合、歯科用器具は、OSAHSに罹患した患者に最も効果的かつ快適に機能する目標位置を使用して、患者の歯列に適合するようにカスタムメイドされる。
【0062】
歯科用器具の有効性は、任意の既知の方法を使用して評価することができる。OSAHSの症状は、従来の治療指標であり、限定はしないが、いびき、口呼吸、夜間の咳、仰臥位での不眠、浅い睡眠、睡眠の断片化、夜間頻尿、日中の眠気、あくび、頭痛、胸部圧迫感、声のかすれ、喉の刺激、粘液過多、嚥下困難、呼吸困難、胸焼け、胸痛、吐き気、高血圧、及び夜間低酸素血症が挙げられる。これらの症状は、無呼吸又は低呼吸の重症度及び治療の有効性を評価するためのアンケートにおいて自己申告され得る。無呼吸低呼吸指数(AHI)及び酸素飽和度低下レベルも、重症度を示すのに一般的に使用される。AHIは、睡眠時の1時間あたりに生じる無呼吸又は低呼吸の回数であり、1時間あたりの発生回数で表される。軽度の無呼吸又は低呼吸は、5以上15未満のAHIを有し、90%以上の酸素飽和度低下レベルを有する。中等度の無呼吸又は低呼吸は、15以上30未満のAHIを有し、80%~89%の酸素飽和度低下レベルを有する。重度の無呼吸又は低呼吸は、30以上のAHIを有し、80%未満の酸素飽和度低下レベルを有する。
【0063】
当業者であれば、更なる詳細なしに、本明細書の開示に基づいて、本開示を最大限に利用することができると考えられる。したがって、以下の具体的な例は、単に説明的なものであり、本開示の残りの部分をいかようにも限定しないものと解釈すべきである。本明細書に引用する全ての刊行物及び特許文献は、引用することによりその全体が本明細書の一部をなす。
【0064】
下記の表1における歯科用器具は、上述した方法1に沿って製造した。調整された歯科用器具、Xmax、Ymax、Xtp、Ytpは、全て上記に定義されている。
【0065】
下記の表2は、方法2に沿って製造された本発明の歯科用器具の例を示している。
【0066】
【表1】
【0067】
【表2】
【0068】
予期せぬことに、上記の表1及び表2における歯科用器具により、閉塞型睡眠時無呼吸又は低呼吸症が効果的に治癒又は軽減した。
【0069】
他の実施形態
本明細書に開示されるあらゆる特徴は、任意の組合せで組み合わせることができる。本明細書に開示されるそれぞれの特徴は、同じ目的、同等の目的又は同様の目的を担う代替的な特徴により置き換えることができる。特段の定めがない限り、開示されるそれぞれの特徴は、包括的な一連の同等の特徴又は同様の特徴の1つの例であるにすぎない。
【0070】
上記説明から、当業者は本発明の必須の特性を容易に把握することができ、その趣旨及び範囲から逸脱することなく、本発明に様々な変化及び変更を加えることで、本発明を様々な用途及び条件に適合させることができる。したがって、他の実施形態も添付の特許請求の範囲の範囲内である。
図1A
図1B
図1C
図1D
図2A
図2B
図2C
図2D
図3
図4A
図4B
図4C