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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-08
(45)【発行日】2024-08-19
(54)【発明の名称】励磁突入電流抑制方法
(51)【国際特許分類】
   H02H 7/045 20060101AFI20240809BHJP
【FI】
H02H7/045
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2024082986
(22)【出願日】2024-05-22
【審査請求日】2024-05-31
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】595011722
【氏名又は名称】株式会社興電舎
(74)【代理人】
【識別番号】100116296
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 幹生
(72)【発明者】
【氏名】大野 浩一
(72)【発明者】
【氏名】亀澤 朋将
(72)【発明者】
【氏名】山村 俊一郎
(72)【発明者】
【氏名】西村 冬尉
(72)【発明者】
【氏名】寺師 康平
【審査官】新田 亮
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-130849(JP,A)
【文献】特開2013-267613(JP,A)
【文献】特開2013-120666(JP,A)
【文献】特開平07-183125(JP,A)
【文献】特開平09-223628(JP,A)
【文献】特開2011-216630(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02H7/045
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
三相変圧器と系統電源との間に接続された遮断器を制御する励磁突入電流抑制方法であって、前記系統電源から切り離された前記三相変圧器に対して励磁電流を流すことができる磁束発生部を接続して、前記三相変圧器に前記磁束発生部から電源を投入することによって磁束を発生させ、前記磁束発生部が切り離された際に、前記三相変圧器に残留磁束を残留させ、前記三相変圧器を前記系統電源に接続する際に、励磁突入電流が抑制されるタイミングで、前記遮断器の投入を制御する投入指令出力部により励磁突入電流を抑制する励磁突入電流抑制方法であり、
前記磁束発生部は、前記三相変圧器へ定格電圧を印加する際と等価の励磁電流を流すことができ、前記三相変圧器へ定格電圧・定格周波数を印加する場合と励磁電流が等価となるように、電圧・周波数を出力することを特徴とする励磁突入電流抑制方法。
【請求項2】
前記磁束発生部は、前記三相変圧器へ定格電圧・定格周波数を印加する場合と励磁電流が等価となる電圧・周波数を出力・停止することにより、前記三相変圧器停止時の残留磁束の縮小率(k)を求め、前記三相変圧器へ定格電圧・定格周波数を印加する場合の励磁電流を1/k倍し、その1/k倍された励磁電流となるように再度、電圧・周波数を出力することを特徴とする請求項記載の励磁突入電流抑制方法。
【請求項3】
前記磁束発生部は、前記磁束発生部により出力された電源を前記三相変圧器から切り離す際の電圧波形を制御する第一の遮断位相角制御部を備え、励磁突入電流が最も抑制される2相飽和となる条件で遮断位相角を制御することを特徴とする請求項記載の励磁突入電流抑制方法。
【請求項4】
前記磁束発生部は、前記磁束発生部により出力された電源を前記三相変圧器から切り離す際の電圧波形を制御する第二の遮断位相角制御部を備え、電圧波形の遮断位相角を制御した際の実効残留磁束から算出した投入位相角を投入位相角記憶部で記憶することにより、任意の残留磁束を残留させ、都度残留磁束の演算を行わずに投入位相角を算出することを特徴とする請求項記載の励磁突入電流抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、実系統において変圧器が解列された際の電圧情報から残留磁束を算出できない場合においても、励磁突入電流を抑制することが可能な励磁突入電流抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
変圧器再課電に伴う励磁突入電流による障害を排除するための装置として、励磁突入電流抑制装置が知られている。三相用変圧器についての励磁突入電流抑制装置に関する発明が、特許文献1において開示されている。これは、三相変圧器及び系統電源間に接続された遮断器を制御する仕組みを有する励磁突入電流抑制装置であり、「電圧計測部」と「実効遮断タイミング算出部」と「鉄心磁束算出部」と「実効残留磁束算出部」と「投入位相角算出部」と「投入位相角制御部」を備え、必要に応じて「遮断時間算出部」と「見かけ残留磁束算出部」と「投入動作時間算出部」と「投入位相角実績値算出部」と「瞬時電圧低下量算出部」を備えた構造となっている。この発明は、残留磁束の測定方法に大きな特徴があり、その残留磁束から算出された投入位相角を用いて励磁突入電流の抑制を行っている点において大きな効果がある。
【0003】
この装置は、実系統において変圧器が解列された際の残留磁束を算出する機能を有しており、その残留磁束に基づいて投入位相角制御が三相一括遮断器にて実施され突入電流を抑制しているが、初回導入時や装置不動時のように、実系統において変圧器が解列された際の電圧情報から残留磁束を算出できない場合は、最適な投入位相角を算出できないため、励磁突入電流を抑制することができないという問題点がある。
【0004】
残留磁束を低減させる方法の一例が、特許文献2において開示されている。この技術は、変流器(CT)に限定して残留磁束を低減させるものであり、励磁突入電流に関する記載はない。また、消磁を目的としており、そもそも単相に特化しているため、三相平衡での磁束制御を行っていない。
【0005】
また、特許文献3には、低電圧・小容量の消磁用電源で残留磁束の減少が可能な安価な消磁装置を用いて、残留磁束の消磁を行うことにより、電気的な悪影響や励磁突流を抑制することを目的とした電磁誘導機器が記載されている。しかし、この技術は消磁を目的としており、三相平衡での磁束制御を行っていない。また、残留磁束0への対応であるため、投入制御を行わずに、突入電流のピーク値を下げるのみの対策に留まっている。
【0006】
さらに、特許文献4には、単相の変圧器に対して直流電圧を印加することにより、磁束を制御して、残留磁束を消磁することを目的とした電磁誘導機器が記載されている。しかしこの技術は、単相変圧器に対するものであって、磁束の制御には直流電源を用いており、三相変圧器に対して三相平衡での磁束制御を行うことはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第5343118号公報
【文献】特開平7-183125号公報
【文献】特開平9-223628号公報
【文献】特許第5594726号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このように、上述した従来技術においては、励磁突入電流を抑制することを目的として、残留磁束を消磁し励磁突入電流のピーク値を低減する手法は開示されているが、各相個別遮断器を用いた投入位相角制御方式でのみ有効であり、広く普及している三相一括制御方式の遮断器へ適用することができない。
【0009】
また、投入位相角制御を用いる方法を用いると、残留磁束が演算できていない場合は制御を行うことが出来ないため、特に抑制装置を導入した直後(初回課電)においては励磁突入電流を抑制することができない。この事情は、装置不動時の場合も同様である。さらに、三相一括制御方式の投入位相角制御を行う場合には、残留磁束が収束する関係で、初期励磁磁束との間に必ず磁束差が生じるため、励磁突入電流を0にすることはできない。
【0010】
本発明は、このような事情を考慮してなされたもので、初回導入時や装置不動時のように、実系統において変圧器が解列された際の電圧情報から残留磁束を算出できない場合においても、励磁突入電流を抑制することができ、広く普及している三相一括制御方式の遮断器へ適用することができる励磁突入電流抑制方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
以上の課題を解決するために、本発明の励磁突入電流抑制方法は、三相変圧器と系統電源との間に接続された遮断器を制御する励磁突入電流抑制方法であって、前記系統電源から切り離された前記三相変圧器に対して励磁電流を流すことができる磁束発生部を接続して、前記三相変圧器に前記磁束発生部から電源を投入することによって磁束を発生させ、前記磁束発生部が切り離された際に、前記三相変圧器に残留磁束を残留させ、前記三相変圧器を前記系統電源に接続する際に、励磁突入電流が抑制されるタイミングで、前記遮断器の投入を制御する投入指令出力部により励磁突入電流を抑制することを特徴とする。
【0012】
これにより、初回導入時や装置不動時のように、実系統において変圧器が解列された際の電圧情報から残留磁束を算出できない場合においても、励磁突入電流を抑制することができ、広く普及している三相一括制御方式の遮断器へ適用することも可能である。
【0013】
本発明の励磁突入電流抑制方法においては、前記磁束発生部は、前記三相変圧器へ定格電圧を印加する際と等価の励磁電流を流すことができ、前記三相変圧器へ定格電圧・定格周波数を印加する場合と励磁電流が等価となるように、電圧・周波数を出力することができる。
【0014】
定格電圧・定格周波数印加による初回課電時のように、系統電源を三相変圧器へ印加する際の無対策での励磁突入電流が大きく発生するリスクを負うことなく、等価となる電圧・周波数を印加することで、三相変圧器へ大きな励磁突入電流を流すことなく、制御に必要な三相平衡状態の実効残留磁束を残留させることが可能となる。
また、三相平衡状態の実効残留磁束を残留させることにより、実効残留磁束と初期励磁磁束のスカラー差が小さくなるため、高い精度で励磁突入電流を効果的に抑制することができる。
【0015】
本発明の励磁突入電流抑制方法においては、前記磁束発生部は、前記三相変圧器へ定格電圧・定格周波数を印加する場合と励磁電流が等価となる電圧・周波数を出力・停止することにより、前記三相変圧器停止時の残留磁束の縮小率(k)を求め、前記三相変圧器へ定格電圧・定格周波数を印加する場合の励磁電流を1/k倍し、その1/k倍された励磁電流となるように再度、電圧・周波数を出力することができる。
【0016】
これにより、実効残留磁束と初期励磁磁束のスカラー差を小さくすることができるため、より高い精度で励磁突入電流を効果的に抑制することができる。
【0017】
本発明の励磁突入電流抑制方法においては、前記磁束発生部は、前記磁束発生部により出力された電源を前記三相変圧器から切り離す際の電圧波形を制御する第一の遮断位相角制御部を備え、励磁突入電流が最も抑制される2相飽和となる条件で遮断位相角を制御することができる。
【0018】
3相飽和状態の実効残留磁束と初期励磁磁束のスカラー差の最大値と比較すると、2相飽和状態の実効残留磁束と初期励磁磁束のスカラー差の最大値が小さくなるため、より高い精度で励磁突入電流を効果的に抑制することができる。
【0019】
本発明の励磁突入電流抑制方法においては、前記磁束発生部は、前記磁束発生部により出力された電源を前記三相変圧器から切り離す際の電圧波形を制御する第二の遮断位相角制御部を備え、電圧波形の遮断位相角を制御した際の実効残留磁束から算出した投入位相角を投入位相角記憶部で記憶することにより、任意の残留磁束を残留させ、都度残留磁束の演算を行わずに投入位相角を算出することができる。
【0020】
三相変圧器へ磁束発生部より出力された電源を切り離す際に一定の残留磁束となるように制御する遮断位相角を固定の上、遮断タイミングを出力し、電圧波形の遮断位相角を制御した際の実効残留磁束から算出した投入位相角を記憶することにより、都度残留磁束の演算を行わずとも投入位相角を算出できることから、ハード・ソフト面の処理を軽減することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によると、初回導入時や装置不動時のように、実系統において変圧器が解列された際の電圧情報から残留磁束を算出できない場合においても、励磁突入電流を抑制することができ、広く普及している三相一括制御方式の遮断器へ適用することが可能な励磁突入電流抑制方法を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の第一実施形態に係る励磁突入電流抑制方法を実現するための装置構成ブロック図である。
図2】本発明の第一実施形態に係る励磁突入電流抑制方法の処理フローを示す図である。
図3】本発明の第二実施形態における励磁電流計算部と磁束発生部の構成を示す図である。
図4】本発明の第二実施形態に係る励磁突入電流抑制方法の処理フローを示す図である。
図5】三相変圧器へ定格電圧・定格周波数を印加する場合と励磁電流が等価となるように、任意の電圧・周波数を印加・停止した際の励磁電流のグラフ波形である。
図6】三相変圧器へ定格電圧・定格周波数を印加する場合と励磁電流が等価となるように、任意の電圧・周波数を印加・停止した際の電圧のグラフ波形である。
図7】三相変圧器へ定格電圧・定格周波数を印加する場合と励磁電流が等価となるように、任意の電圧・周波数を印加・停止した際の磁束のグラフ波形である。
図8】三相変圧器へ定格電圧・定格周波数を印加・停止した際の励磁電流のグラフ波形である。
図9】三相変圧器へ定格電圧・定格周波数を印加・停止した際の電圧のグラフ波形である。
図10】三相変圧器へ定格電圧・定格周波数を印加・停止した際の磁束のグラフ波形である。
図11】(a)は、三相平衡状態の実効残留磁束に対して三相変圧器へ系統電源を印加する際の初期励磁磁束が実効残留磁束と同期が合うタイミングを示す図であり、(b)は、三相不平衡状態の実効残留磁束に対して三相変圧器へ系統電源を印加する際の初期励磁磁束が実効残留磁束と各相の極性が合うタイミングを示した図である。
図12】本発明の第三実施形態における励磁電流計算部と磁束発生部の構成を示す図である。
図13】本発明の第三実施形態に係る励磁突入電流抑制方法の処理フローを示す図である。
図14】三相変圧器へ定格電圧・定格周波数を印加する場合と励磁電流が等価となる電圧・周波数を出力・停止した時の縮小率(k)を求め、励磁電流を1/k倍し、その1/k 倍された励磁電流となるように再度、電圧・周波数を三相変圧器へ印加・停止した際の励磁電流波形を示す図である。
図15】三相変圧器へ定格電圧・定格周波数を印加する場合と励磁電流が等価となる電圧・周波数を出力・停止した時の縮小率(k)を求め、励磁電流を1/k倍し、その1/k 倍された励磁電流となるように再度、電圧・周波数を三相変圧器へ印加・停止した際の電圧波形を示す図である。
図16】三相変圧器へ定格電圧・定格周波数を印加する場合と励磁電流が等価となる電圧・周波数を出力・停止した時の縮小率(k)を求め、励磁電流を1/k倍し、その1/k 倍された励磁電流となるように再度、電圧・周波数を三相変圧器へ印加・停止した際の磁束波形を示す図である。
図17】三相変圧器停止時の縮小率(k)を求め、1/k 倍された励磁電流となるように再度、電圧・周波数を三相変圧器へ印加・停止した際の、図16に示す実効残留磁束に対して、三相変圧器へ系統電源を印加する際の初期励磁磁束が実効残留磁束と同期が合うタイミングを示す図である。
図18】本発明の第四実施形態における磁束発生部の構成を示す図である。
図19】本発明の第四実施形態に係る励磁突入電流抑制方法の処理フローを示す図である。
図20】三相変圧器へ定格電圧・定格周波数を印加する場合と励磁電流が等価となるように任意の電圧・周波数を印加し、励磁突入電流が最も抑制される2相飽和となる条件で任意の電圧・周波数を停止した際の励磁電流波形を示す図である。
図21】三相変圧器へ定格電圧・定格周波数を印加する場合と励磁電流が等価となるように任意の電圧・周波数を印加し、励磁突入電流が最も抑制される2相飽和となる条件で任意の電圧・周波数を停止した際の電圧波形を示す図である。
図22】三相変圧器へ定格電圧・定格周波数を印加する場合と励磁電流が等価となるように任意の電圧・周波数を印加し、励磁突入電流が最も抑制される2相飽和となる条件で任意の電圧・周波数を停止した際の磁束波形を示す図である。
図23図22の実効残留磁束に対して、三相変圧器へ系統電源を印加する際の初期励磁磁束が実効残留磁束と同期が合うタイミングを示す図である。
図24】本発明の第五実施形態における磁束発生部と投入位相角算出部の構成を示す図である。
図25】本発明の第五実施形態に係る励磁突入電流抑制方法の処理フローを示す図である。
図26】三相変圧器へ磁束発生部より出力された電源を切り離す際に一定の残留磁束となるように制御する遮断位相角を固定の上、遮断タイミングを出力し、電圧波形の遮断位相角を制御した際の励磁電流波形(ケース1)を示す図である。
図27】三相変圧器へ磁束発生部より出力された電源を切り離す際に一定の残留磁束となるように制御する遮断位相角を固定の上、遮断タイミングを出力し、電圧波形の遮断位相角を制御した際の電圧波形(ケース1)を示す図である。
図28】三相変圧器へ磁束発生部より出力された電源を切り離す際に一定の残留磁束となるように制御する遮断位相角を固定の上、遮断タイミングを出力し、電圧波形の遮断位相角を制御した際の磁束波形(ケース1)を示す図である。
図29】三相変圧器へ磁束発生部より出力された電源を切り離す際に一定の残留磁束となるように制御する遮断位相角を固定の上、遮断タイミングを出力し、電圧波形の遮断位相角を制御した際の励磁電流波形(ケース2)を示す図である。
図30】三相変圧器へ磁束発生部より出力された電源を切り離す際に一定の残留磁束となるように制御する遮断位相角を固定の上、遮断タイミングを出力し、電圧波形の遮断位相角を制御した際の電圧波形(ケース2)を示す図である。
図31】三相変圧器へ磁束発生部より出力された電源を切り離す際に一定の残留磁束となるように制御する遮断位相角を固定の上、遮断タイミングを出力し、電圧波形の遮断位相角を制御した際の磁束波形(ケース2)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、本発明の励磁突入電流抑制方法を、その実施形態に基づいて説明する。
図1に、本発明の第一実施形態に係る励磁突入電流抑制方法を実現するための装置構成ブロック図を示す。このブロック図は、本発明の励磁突入電流抑制方法を実現するための基本構成を示しており、第二実施形態から第五実施形態においても用いられるものである。
【0024】
本発明は、三相変圧器9と系統電源12との間に接続された遮断器を制御する励磁突入電流抑制方法であり、この励磁突入電流抑制方法を実現するための励磁突入電流抑制装置30は、励磁電流計算部1と、磁束発生部2と、定常磁束算出部3と、実効遮断タイミング算出部4と、実効残留磁束算出部5と、投入位相角算出部6と、現在位相角算出部7と、投入指令出力部8とを備えている。
【0025】
系統電源12は、電力会社が供給している三相電源を引き込んだシステム、もしくは、設備内における三相電源系統から三相電源を引き込んだシステムである。三相変圧器9は系統電源12側を1次側とし、その逆側を2次側とする。三相変圧器9は系統電源12から供給される三相電圧を電圧値変換して二次側に出力する。
【0026】
遮断器10は、系統電源12と三相変圧器9との間に設けられている。系統電源12が充電されている場合、遮断器10が投入されることにより、三相変圧器9は、系統電源12によって電源投入される。遮断器10が開放されることにより、三相変圧器9は、系統電源12から遮断される。
【0027】
電圧検出器11は、系統電源12側の電圧を計測するための計測用機器であり、例えば、計器用変圧器(VT)などがある。電圧検出器11は線間電圧を計測し、検出値を検出信号として、励磁突入電流抑制装置30に出力する。
【0028】
励磁突入電流抑制装置30は、電圧検出器11で受信した検出信号から得られた情報によって、遮断器10の主接点に対して投入指令を出力する。これにより、遮断器10は投入される。
【0029】
図2に、本発明の第一実施形態に係る励磁突入電流抑制方法の処理フローを示す。
【0030】
(ステップ1)
励磁電流計算部1は、三相変圧器9に電源を投入した際の励磁電流を計算し、その情報を磁束発生部2に出力する。
【0031】
(ステップ2)
磁束発生部2は、励磁電流計算部1より出力された情報を基に、計算された励磁電流の値となるように三相変圧器9に電源を投入し、磁束を発生させる。
【0032】
(ステップ3、4)
定常磁束算出部3は、磁束発生部2から出力した電源が遮断されると遮断前後のデータを計測し、そのデータを基に三相変圧器9の鉄心の磁束を算出する。
【0033】
(ステップ5)
実効遮断タイミング算出部4は、定常磁束算出部3により算出された磁束が一定値に収束するタイミングを、実効遮断タイミング(t)として算出する。
【0034】
(ステップ6)
実効残留磁束算出部5は、定常磁束算出部3により算出した磁束(Φ(t))のうち、実効遮断タイミング算出部4により算出した実効遮断タイミング(t)における磁束(Φ(t))を、実効残留磁束(Φr)として算出する。
【0035】
(ステップ7)
投入位相角算出部6は、実効残留磁束算出部5により算出された実効残留磁束(Φr)を基に、遮断器10投入時の励磁突入電流が抑制されるように、投入位相角(θclose)を算出する。
上記の処理を実施することにより、制御に必要な投入位相角を割り出すことができ、これまで未解決であった初回課電時の励磁突入電流を抑制することができる。
【0036】
(ステップ8,9)
現在位相角算出部7は、遮断器10の系統電源12側の系統電圧(V(t))を電圧検出器11から得られる信号により瞬時値、極性および波形を計測し、遮断器10の「入」信号を検出すると、検出瞬時の系統電圧(V(t))の現在位相角(θ)を算出する。
【0037】
(ステップ10,11)
投入指令出力部8は、現在位相角算出部7により算出された現在位相角(θ)と投入位相角算出部6により算出された投入位相角(θclose)により、遮断器10に投入指令を出力し、遮断器10の投入制御が完了となる。
【0038】
上述した装置構成と、処理フローにより、系統電源12から切り離された三相変圧器9に対して励磁電流を流すことができる磁束発生部2を接続し、三相変圧器9に磁束発生部2から電源を投入することによって磁束を発生させ、磁束発生部2が切り離された際に、三相変圧器9に残留磁束を残留させ、三相変圧器9を系統電源12に接続する際に、励磁突入電流が抑制されるタイミングで、遮断器10の投入を制御する投入指令出力部8により励磁突入電流を抑制するという処理を実現することができる。
【0039】
次に、図3図4を用いて、本発明の第二実施形態に係る励磁突入電流抑制方法について説明する。なお、以下の各実施形態においては、各実施形態に特徴的な部分について主に説明し、その他の共通部分は、第一実施形態と同様であるため、省略することがある。本発明の第二実施形態は、第一実施形態にさらに処理フローを付加して、より高い精度で励磁突入電流を効果的に抑制することを目的とするものである。
【0040】
図3に、本発明の第二実施形態における励磁電流計算部と磁束発生部の構成を示す。
励磁電流計算部1は、励磁電流等価計算部1aを備え、磁束発生部2は、等価電圧・周波数発生部2aを備えている。これにより、励磁電流計算部1と磁束発生部2は、三相変圧器9へ定格電圧・定格周波数を印加する場合と励磁電流が等価となるように、電圧・周波数を出力することができる。
【0041】
図4に、本発明の第二実施形態に係る励磁突入電流抑制方法の処理フローを示す。破線で囲まれた部分が、第二実施形態において特徴的な処理ステップである。
【0042】
(ステップ1)
励磁電流計算部1は、三相変圧器9に定格電圧・定格周波数を印加した際の励磁電流を計算し、その情報を磁束発生部2に出力する。
【0043】
励磁電流Iは、
I =V÷{2πf(L1+Lp)} 式(1)
であり、 V:定格電圧、 L1:インダクタンス、 Lp:漏洩インダクタンスである。
式(1)は、三相変圧器9へ定格電圧(V)と定格周波数(f)を印加した際の等価回路に置き換えた場合の励磁電流を求める計算式である。
【0044】
(ステップ2)
磁束発生部2は、励磁電流計算部1により出力された情報を基に、式(1)により計算された励磁電流の値と等価となるように、三相変圧器9に任意の電圧・周波数、例えば、低電圧・低周波を印加し、磁束を発生させる。また、ここでの等価とは、例えば定格66kV、60Hz を三相変圧器9に印加した場合の励磁電流に対して、60 分の1 の低電圧(1.1kV)・低周波(1Hz)を三相変圧器9に印加した場合の励磁電流は、同じ値(等価)であることを意味する。
【0045】
(ステップ3,4)
定常磁束算出部3は、磁束発生部2から出力した任意の電圧・周波数が遮断されると、遮断前後のデータを計測し、そのデータを基に三相変圧器9の鉄心の三相平衡状態の磁束を算出する。
【0046】
(ステップ5)
実効遮断タイミング算出部4は、定常磁束算出部3により算出された磁束が一定値に収束するタイミングを実効遮断タイミング(t)として算出する。
【0047】
(ステップ6)
実効残留磁束算出部5は、定常磁束算出部3により算出した磁束(Φ(t))のうち、実効遮断タイミング算出部4により算出した実効遮断タイミング(t)における磁束(Φ(t))を、実効残留磁束(Φr)として算出する。
【0048】
図5図6図7は、三相変圧器9へ定格電圧・定格周波数を印加する場合と励磁電流が等価となるように、任意の電圧・周波数を印加・停止した際の励磁電流・電圧・磁束のグラフ波形であり、図8図9図10は、三相変圧器9へ定格電圧・定格周波数を印加・停止した際の励磁電流・電圧・磁束のグラフ波形である。
【0049】
図11(a)は、三相平衡状態の実効残留磁束に対して三相変圧器9へ系統電源12を印加する際の初期励磁磁束が実効残留磁束と同期が合うタイミングを示す図であり、図11(b)は、三相不平衡状態の実効残留磁束に対して三相変圧器9へ系統電源12を印加する際の初期励磁磁束が実効残留磁束と各相の極性が合うタイミングを示した図である。
【0050】
図5の励磁電流と図8の励磁電流が同程度の値を示していることから、等価であること、また、図7の実効残留磁束と図10の実効残留磁束が同程度の値であることがわかる。
【0051】
(ステップ7)
投入位相角算出部6は、三相平衡状態の実効残留磁束を基に、遮断器10投入時の励磁突入電流が抑制されるように、投入位相角(θclose)を算出する。具体的には、図11(a)に示すように、三相平衡状態の実効残留磁束に対して、三相変圧器9へ系統電源12を印加する際の初期励磁磁束が、実効残留磁束と同期が合うタイミングを投入位相角として算出する。
【0052】
本実施形態により、定格電圧・定格周波数印加による初回課電時のように、系統電源12を三相変圧器9へ印加する際の無対策での励磁突入電流が大きく発生するリスクを負うことなく、等価となる電圧・周波数を印加することで、三相変圧器9へ大きな励磁突入電流を流すことなく、制御に必要な三相平衡状態の実効残留磁束を残留させることが可能となる。
【0053】
また、第1実施形態では、図11(b)のように、三相不平衡状態の実効残留磁束も含まれるが、図11(a)では、実効残留磁束と初期励磁磁束のスカラー差が小さくなるため、本実施形態を採用することにより、高い精度で励磁突入電流を効果的に抑制することができる。
【0054】
上述した装置構成と、処理フローにより、磁束発生部2により、三相変圧器9へ定格電圧を印加する際と等価の励磁電流を流し、三相変圧器9へ定格電圧・定格周波数を印加する場合と励磁電流が等価となるように、電圧・周波数を出力するという処理を実現することができる。
【0055】
次に、図12図13を用いて、本発明の第三実施形態に係る励磁突入電流抑制方法について説明する。本発明の第三実施形態は、第一実施形態にさらに処理フローを付加して、より高い精度で励磁突入電流を効果的に抑制することを目的とするものである。
【0056】
図12に、本発明の第三実施形態における励磁電流計算部と磁束発生部の構成を示す。 励磁電流計算部1は、縮小率(k)計算部1bと、この縮小率を考慮した励磁電流計算部A1cを備えている。また、磁束発生部2は、電圧・周波数発生部2bを備えている。
【0057】
励磁電流計算部1と磁束発生部2は、三相変圧器9へ定格電圧・定格周波数を印加する場合と励磁電流が等価となる電圧・周波数を出力・停止することで、三相変圧器9停止時の残留磁束の縮小率(k) を求め、三相変圧器9へ定格電圧・定格周波数を印加する場合の励磁電流を1/k倍し、その1/k倍された励磁電流となるように再度、電圧・周波数を出力する。
【0058】
図13に、本発明の第三実施形態に係る励磁突入電流抑制方法の処理フローを示す。
破線で囲まれた部分が、第三実施形態において特徴的な処理ステップである。
【0059】
(ステップ7)
励磁電流計算部1の縮小率(k)計算部1bは、実効残留磁束算出部5で算出された、三相変圧器9へ定格電圧・定格周波数を印加する場合と励磁電流が等価となるように、任意の電圧・周波数を印加・停止した際の実効残留磁束を基に、実効残留磁束の縮小率(k)を求める。
【0060】
縮小率kは、
k=√2×√((φra2+φrb2+φrc2)/3)) 式(2)
ここで、φra:残留磁束(a 相)、φrb:残留磁束(b 相)、φrc:残留磁束(c 相)である。
【0061】
(ステップ8)
励磁電流計算部1の励磁電流計算部A1cは、縮小率(k)計算部1bより出力された情報を基に、三相変圧器9に定格電圧・定格周波数を印加した際の励磁電流に対して、1/k 倍された励磁電流を計算し、その情報を磁束発生部2に出力する。
【0062】
励磁電流I´は、
I´ = (1/k) × V/[2πf(L1 + Lp)] 式(3)
ここで、k:縮小率、 V:定格電圧、 L:インダクタンス、 Lp:漏洩インダクタンスである。
【0063】
(ステップ9)
磁束発生部2の電圧・周波数発生部2b は、励磁電流計算部A1c により出力された情報を基に、計算された励磁電流の値となるように、三相変圧器9に任意の電圧・周波数を印加し、磁束を発生させる。
【0064】
(ステップ10、11)
定常磁束算出部3は、磁束発生部2から出力した任意の電圧・周波数が遮断されると、遮断前後のデータを計測し、そのデータを基に、三相変圧器9の鉄心の三相平衡状態の磁束を算出する。
【0065】
(ステップ12)
実効遮断タイミング算出部4は、定常磁束算出部3により算出された磁束が一定値に収束するタイミングを、実効遮断タイミング(t)として算出する。
【0066】
(ステップ13)
実効残留磁束算出部5は、定常磁束算出部3により算出した磁束(Φ(t))のうち、実効遮断タイミング算出部4により算出した実効遮断タイミング(t)における磁束(Φ(t))を、実効残留磁束(Φr)として算出する。
【0067】
図14図15図16は、三相変圧器9へ定格電圧・定格周波数を印加する場合と励磁電流が等価となる電圧・周波数を出力・停止した時の縮小率(k)を求め、式(3)により励磁電流を1/k倍し、その1/k 倍された励磁電流となるように再度、電圧・周波数を三相変圧器9へ印加・停止した際の励磁電流・電圧・磁束波形を図示したものである。ここでは1/k倍としているが、任意の倍数としてもよい。
【0068】
図17は、三相変圧器9停止時の縮小率(k)を求め、1/k 倍された励磁電流となるように再度、電圧・周波数を三相変圧器9へ印加・停止した際の、図16に示す実効残留磁束に対して、三相変圧器9へ系統電源12を印加する際の初期励磁磁束が実効残留磁束と同期が合うタイミングを示す図である。
【0069】
図14に示す励磁電流は、図5に示す励磁電流より大きい値を示していることがわかる。また、図16の実効残留磁束(0.6pu)は、図7の実効残留磁束(0.5pu)より大きい値を示していることがわかる。
【0070】
図11(a)のように、定格電圧・定格周波数と等価の状態での実効残留磁束を制御する時と比較して、図17では、実効残留磁束が図11(a)よりも大きく残留していることから、実効残留磁束と初期励磁磁束のスカラー差が小さくなる。そのため、本実施形態を採用することにより、より高い精度で励磁突入電流を効果的に抑制することができる。
【0071】
上述した装置構成と、処理フローにより、磁束発生部2は、三相変圧器9へ定格電圧・定格周波数を印加する場合と励磁電流が等価となる電圧・周波数を出力・停止し、三相変圧器9停止時の残留磁束の収束率(k)を求め、三相変圧器9へ定格電圧・定格周波数を印加する場合の励磁電流を1/k倍し、その1/k倍された励磁電流となるように再度、電圧・周波数を出力するという処理を実現することができる。
【0072】
次に、図18図19を用いて、本発明の第四実施形態に係る励磁突入電流抑制方法について説明する。本発明の第四実施形態は、第一実施形態にさらに処理フローを付加して、より高い精度で励磁突入電流を効果的に抑制することを目的とするものである。
【0073】
図18に、本発明の第四実施形態における磁束発生部の構成を示す。
磁束発生部2は、遮断位相角制御部A2cを備えている。
【0074】
図19に、本発明の第四実施形態に係る励磁突入電流抑制方法の処理フローを示す。
破線で囲まれた部分が、第四実施形態において特徴的な処理ステップである。
【0075】
(ステップ3)
磁束発生部2の遮断位相角制御部A2cは、三相変圧器9へ磁束発生部2より出力された電源を切り離す際に、2相飽和条件が成り立つタイミングで遮断位相角を制御する。
【0076】
(ステップ4、5)
定常磁束算出部3は、磁束発生部2から出力した任意の電圧・周波数が遮断されると、遮断前後のデータを計測し、その計測結果を基に、三相変圧器9の鉄心の三相平衡状態の磁束を算出する。
【0077】
(ステップ6)
実効遮断タイミング算出部4は、定常磁束算出部3により算出された磁束が一定値に収束するタイミングを、実効遮断タイミング(t)として算出する。
【0078】
(ステップ7)
実効残留磁束算出部5は、定常磁束算出部3により算出した磁束(Φ(t))のうち、実効遮断タイミング算出部4により算出した実効遮断タイミング(t)における磁束(Φ(t))を、実効残留磁束(Φr)として算出する。
【0079】
図20図21図22は、三相変圧器9へ定格電圧・定格周波数を印加する場合と励磁電流が等価となるように任意の電圧・周波数を印加し、励磁突入電流が最も抑制される2相飽和となる条件で任意の電圧・周波数を停止した際の励磁電流・電圧・磁束のグラフ波形である。また、図23は、図22の実効残留磁束に対して、三相変圧器9へ系統電源12を印加する際の初期励磁磁束が実効残留磁束と同期が合うタイミングを示す図である。
【0080】
ここで図11(a)、図23のように、残留磁束の大きさが0.5pu(50%)時の実効残留磁束と初期励磁磁束の各相についてのスカラー差は、以下の式で表すことができる。
a相:|sin(θ)-0.5 × sin(θ)|
b相:|sin(θ-120°)-0.5 × sin(θ-120°)|
c相:|sin(θ-240°)-0.5 × sin(θ-240°)| 式(4)
【0081】
図11(a)の3相飽和条件時において、式(4)に、θ=270°を代入した際の実効残留磁束と初期励磁磁束のスカラー差の最大値は、a相の0.5puとなる。
【0082】
図23の2相飽和条件時において、式(4)に、θ=0°を代入した際の実効残留磁束と初期励磁磁束のスカラー差の最大値は、b相、c相の0.433pu となる。
【0083】
図11(a)の3相飽和状態の実効残留磁束と初期励磁磁束のスカラー差の最大値と比較すると、図23の2相飽和状態の実効残留磁束と初期励磁磁束のスカラー差の最大値が小さくなるため、本実施形態を採用することにより、第一実施形態から第三実施形態と比較して、より高い精度で励磁突入電流を効果的に抑制することができる。
【0084】
上述した装置構成と、処理フローにより、磁束発生部2は、磁束発生部2により出力された電源を三相変圧器9から切り離す際の電圧波形を制御する遮断位相角制御部A2cを備え、励磁突入電流が最も抑制される2相飽和となる条件で遮断位相角を制御するという処理を実現することができる。
【0085】
次に、図24図25を用いて、本発明の第五実施形態に係る励磁突入電流抑制方法について説明する。本発明の第五実施形態は、第一実施形態にさらに処理フローを付加して、ハード・ソフト面の処理を軽減することを目的とするものである。
図24に、本発明の第五実施形態における磁束発生部と投入位相角算出部の構成を示す。
【0086】
本実施形態において、磁束発生部2は、三相変圧器9へ磁束発生部2より出力された電源を切り離す際の電圧波形を制御する遮断位相角制御部B2d を備えており、任意の残留磁束を残留させることができ、投入位相角算出部6は、都度残留磁束の演算を行わずとも投入位相角を算出することができる投入位相角記憶部6a を備えている。
【0087】
図25に、本発明の第五実施形態に係る励磁突入電流抑制方法の処理フローを示す。
破線で囲まれた部分が、第五実施形態において特徴的な処理ステップである。
【0088】
(ステップ3、4)
磁束発生部2の遮断位相角制御部B2dは、三相変圧器9へ磁束発生部2より出力された電源を切り離す際に一定の残留磁束となるように制御する遮断位相角を固定の上、遮断タイミングを出力し、電圧波形の遮断位相角を制御する。
【0089】
(ステップ5)
磁束発生部2から出力された情報においては、投入位相角記憶処理が未完了のため、定常磁束算出部3に情報が出力される。
【0090】
(ステップ6)
定常磁束算出部3は、磁束発生部2から出力した任意の電圧・周波数が遮断されると、遮断前後のデータを計測し、その情報を基に三相変圧器9の鉄心の三相平衡状態の磁束を算出する。
【0091】
(ステップ7)
実効遮断タイミング算出部4は、定常磁束算出部3により算出された磁束が一定値に収束するタイミングを実効遮断タイミング(t)として算出する。
【0092】
(ステップ8)
実効残留磁束算出部5は、定常磁束算出部3により算出した磁束(Φ(t))のうち、実効遮断タイミング算出部4により算出した実効遮断タイミング(t)における磁束(Φ(t))を実効残留磁束(Φr)として算出する。
【0093】
(ステップ9)
投入位相角算出部6は、ステップ8で算出された三相平衡状態の実効残留磁束を基に、遮断器10投入時の励磁突入電流が抑制されるように投入位相角(θclose)を算出する。
【0094】
(ステップ10)
投入位相角記憶部6a は、投入位相角算出部6により算出された投入位相角(θclose)を記憶することで、ステップ6からステップ9までの処理を、次回のフローから省略することができる。
【0095】
図26図27図28及び図29図30図31は、三相変圧器9へ磁束発生部2より出力された電源を切り離す際に一定の残留磁束となるように制御する遮断位相角を固定の上、遮断タイミングを出力し、電圧波形の遮断位相角を制御した際の励磁電流・電圧・磁束のグラフ波形を2ケース分について図示したものである。
【0096】
図28に示す実効残留磁束値と図31に示す実効残留磁束値は、同程度の値を示していることがわかる。このことにより、図25の処理フローにおいて、初回のステップ処理により図28のような実効残留磁束を算出し、投入位相角を算出・記憶しておくことにより、次回以降の処理フローにおいては、図31のような実効残留磁束を算出する必要がなく、ステップ6~10を省略することができるため、初回の処理フローにて記憶した投入位相角によって次回以降は、投入制御が可能となる。
【0097】
このように、三相変圧器9へ磁束発生部2より出力された電源を切り離す際に一定の残留磁束となるように制御する遮断位相角を固定の上、遮断タイミングを出力し、電圧波形の遮断位相角を制御した際の実効残留磁束から算出した投入位相角を記憶することにより、都度残留磁束の演算を行わずとも投入位相角を算出できることから、ハード・ソフト面の処理を軽減することができる。
【0098】
上述した装置構成と、処理フローにより、磁束発生部2は、磁束発生部2により出力された電源を三相変圧器9から切り離す際の電圧波形を制御する遮断位相角制御部B2dを備え、電圧波形の遮断位相角を制御した際の実効残留磁束から算出した投入位相角を投入位相角記憶部6aで記憶することにより、任意の残留磁束を残留させ、都度残留磁束の演算を行わずに投入位相角を算出するという処理を実現することができる。
【0099】
以上説明したように、本発明は、解列された状態の三相変圧器に対して、低周波・低電圧を印加して励磁電流を流し、適当なタイミングで印加を停止し、停止されたタイミングからの磁束を低周波・低電圧に特化した計算手法で残留磁束を演算する、または、解列された状態の三相変圧器に対して、低周波・低電圧を印加して励磁電流を流し、任意のタイミングで印加を停止することで任意の残留磁束を残留させ、求められた(任意で残留させた)残留磁束より、特許第5343118号公報において開示された方法によって次回投入時の最適投入位相角を算出し、三相一括制御方式の遮断器を制御して、励磁突入電流を抑制することに大きな特徴がある。
さらに、印加する電圧もしくは周波数を等価より大きくすることにより、想定より大きな励磁電流を流し、残留磁束の収束を無視して最大限の残留磁束を残留させることで、投入時の初期励磁磁束との磁束差を最小限にし、励磁突入電流をより効果的に抑制することに大きな特徴がある。
【0100】
以上説明した本発明の実施形態は、第一実施形態を基本的な実施形態として、他の実施形態は、これに対して装置構成と処理フローを付加して構成されるものであり、第二実施形態から第五実施形態については、それぞれの実施形態を必要に応じて組み合わせて発明を構成することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明は、初回導入時や装置不動時のように、実系統において変圧器が解列された際の電圧情報から残留磁束を算出できない場合においても、励磁突入電流を抑制することができ、広く普及している三相一括制御方式の遮断器へ適用することが可能な励磁突入電流抑制方法として広く利用することができる。
【符号の説明】
【0102】
1 励磁電流計算部
1a 励磁電流等価計算部
1b 縮小率(k)計算部
1c 励磁電流計算部A
2 磁束発生部
2a 等価電圧・周波数発生部
2b 電圧・周波数発生部
2c 遮断位相角制御部A
2d 遮断位相角制御部B
3 定常磁束算出部
4 実効遮断タイミング算出部
5 実効残留磁束算出部
6 投入位相角算出部
6a 投入位相角記憶部
7 現在位相角算出部
8 投入指令出力部
9 三相変圧器
10 遮断器
11 電圧検出器
12 系統電源
30 励磁突入電流抑制装置
【要約】
【課題】初回導入時や装置不動時のように、実系統において変圧器が解列された際の電圧情報から残留磁束を算出できない場合においても、励磁突入電流を抑制することができ、広く普及している三相一括制御方式の遮断器へ適用することが可能な励磁突入電流抑制方法を提供する。
【解決手段】励磁突入電流抑制装置30は、励磁電流計算部1と、磁束発生部2と、定常磁束算出部3と、実効遮断タイミング算出部4と、実効残留磁束算出部5と、投入位相角算出部6と、現在位相角算出部7と、投入指令出力部8とを備えている。励磁突入電流抑制装置30は、電圧検出器11で受信した検出信号から得られた情報によって、遮断器10の主接点に対して投入指令を出力する。これにより、遮断器10は投入される。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
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図21
図22
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図26
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図30
図31