(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-08
(45)【発行日】2024-08-19
(54)【発明の名称】金属樹脂接合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 65/46 20060101AFI20240809BHJP
【FI】
B29C65/46
(21)【出願番号】P 2024522310
(86)(22)【出願日】2023-11-16
(86)【国際出願番号】 JP2023041368
【審査請求日】2024-04-12
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】305011787
【氏名又は名称】睦月電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003395
【氏名又は名称】弁理士法人蔦田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】斎 聖一
【審査官】久慈 純平
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-094622(JP,A)
【文献】特開2012-206503(JP,A)
【文献】特開2015-189146(JP,A)
【文献】特開2016-175389(JP,A)
【文献】特開2020-124885(JP,A)
【文献】国際公開第2020/183747(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 65/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属部材の金属接合面と、所定形状に成形された
熱可塑性樹脂を有する樹脂部材の樹脂接合面と、を接触させて、前記金属部材と前記樹脂部材とを接合した金属樹脂接合体を製造する方法において、
前記樹脂接合面を第1温度に加熱した前記金属接合面に接触させ、前記金属部材と前記樹脂部材とを第1圧力で加圧する第1工程と、
前記金属接合面が前記第1温度より低い第2温度において、前記第1圧力より高い第2圧力で前記金属部材と前記樹脂部材とを加圧する第2工程と、を備え、
前記第1温度は前記樹脂部材を構成する樹脂材料の融点以上の温度である、
金属樹脂接合体の製造方法。
【請求項2】
前記第1工程を実行すると、前記金属接合面の加熱を停止又は加熱量を低減するとともに、前記金属部材と前記樹脂部材とを加圧する圧力を前記第1圧力から前記第2圧力に変更して前記第2工程を実行する、
請求項1に記載の金属樹脂接合体の製造方法。
【請求項3】
前記第1工程を実行すると、前記金属接合面を前記第2温度まで降温した後に前記金属部材と前記樹脂部材とを加圧する圧力を前記第1圧力から前記第2圧力に変更して前記第2工程を実行する、
請求項1に記載の金属樹脂接合体の製造方法。
【請求項4】
前記第1温度は前記樹脂材料の融点以上であって前記樹脂材料の融点より20℃高い上限温度以下である、
請求項1に記載の金属樹脂接合体の製造方法。
【請求項5】
前記第2温度は前記樹脂材料の融点より10℃高い温度以下である、
請求項3に記載の金属樹脂接合体の製造方法。
【請求項6】
前記第1温度は前記樹脂材料の融点以上であって前記樹脂材料の融点より20℃高い上限温度以下であり、
前記第2温度は前記樹脂材料の融点より10℃高い温度以下であって前記樹脂材料の融点より20℃低い下限温度以上である、
請求項5に記載の金属樹脂接合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属樹脂接合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属からなる金属部材と合成樹脂からなる合成樹脂部材とを接合した金属樹脂接合体が知られている(例えば、下記特許文献1参照)。金属部材を合成樹脂部材と接合する場合、合成樹脂部材及び金属部材を加熱状態で加圧して両部材を接合する。
【0003】
また、金属樹脂接合体では、金属部材と合成樹脂部材との接合強度を高めるため、合成樹脂部材を接合する金属部材の表面(金属接合面)にレーザ照射や化学エッチングによって粗面化部(アンカ部)を形成することがある。このような金属樹脂接合体を製造する場合、金属接合面に形成した粗面化部の内部へ樹脂を充填するために、合成樹脂部材を構成する樹脂材料を加熱溶融させつつ、合成樹脂部材及び金属部材を加圧して金属部材の金属接合面に溶融した樹脂材料を接触させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、合成樹脂部材及び金属部材を加熱状態で加圧して接合する従来の製造方法では、予め所定の形状に成形されている合成樹脂部材を金属部材に接合する場合、合成樹脂部材の形状を保持しつつ、金属部材と合成樹脂部材と強固に接合することが困難である。
【0006】
本発明は、以上の点に鑑みてなされたものであり、予め所定の形状に成形されている合成樹脂部材の形状を保持しつつ、金属材料からなる金属部材に合成樹脂部材を強固に接合することができる金属樹脂接合体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本実施形態によれば、下記[1]~[7]の態様が提供される。
【0008】
[1] 金属部材の金属接合面と、所定形状に成形された樹脂部材の樹脂接合面と、を接触させて、前記金属部材と前記樹脂部材とを接合した金属樹脂接合体を製造する方法において、前記樹脂接合面を第1温度に加熱した前記金属接合面に接触させ、前記金属部材と前記樹脂部材とを第1圧力で加圧する第1工程と、前記金属接合面が前記第1温度より低い第2温度において、前記第1圧力より高い第2圧力で前記金属部材と前記樹脂部材とを加圧する第2工程と、を備える、金属樹脂接合体の製造方法。
【0009】
[2]前記第1工程を実行すると、前記金属接合面の加熱を停止又は加熱量を低減量するとともに前記金属部材と前記樹脂部材とを加圧する圧力を前記第1圧力から前記第2圧力に変更して前記第2工程を実行する、上記[1]に記載の金属樹脂接合体の製造方法。
【0010】
[3]前記第1工程を実行すると、前記金属接合面を前記第2温度まで降温した後に
前記金属部材と前記樹脂部材とを加圧する圧力を前記第1圧力から前記第2圧力に変更して前記第2工程を実行する、上記[1]に記載の金属樹脂接合体の製造方法。
【0011】
[4]前記第1温度は前記樹脂部材を構成する樹脂材料の融点以上の温度である、上記[1]~[3]のいずれか1つに記載の金属樹脂接合体の製造方法。
【0012】
[5]前記第1温度は前記樹脂材料の融点以上であって前記樹脂材料の融点より20℃高い上限温度以下である、上記[4]に記載の金属樹脂接合体の製造方法。
【0013】
[6]前記第2温度は前記樹脂部材を構成する樹脂材料の融点より10℃高い温度以下である、上記[3]に記載の金属樹脂接合体の製造方法。
【0014】
[7]前記第1温度は前記樹脂材料の融点以上であって前記樹脂材料の融点より20℃高い上限温度以下であり、前記第2温度は前記樹脂材料の融点より10℃高い温度以下であって前記樹脂材料の融点より20℃低い下限温度以上である、上記[6]に記載の金属樹脂接合体の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
上記の金属樹脂接合体の製造方法によれば、予め所定の形状に成形されている合成樹脂部材の形状を保持しつつ、金属部材と合成樹脂部材との接合強度を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施形態に係る金属樹脂接合体の製造方法によって製造される金属樹脂接合体の断面図
【
図2】本発明の一実施形態に係る金属樹脂接合体の製造方法の第1工程を示す図
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。図面では、説明のために部材の大きさなどが誇張されて書かれている場合がある。本発明は下記実施形態に限定されない。下記実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。
【0018】
(1)金属樹脂接合体30
まず、本実施形態の製造方法によって製造される金属樹脂接合体30について説明する。
図1に示すように、金属樹脂接合体30は、熱可塑性の合成樹脂からなる合成樹脂部材10と、金属からなる金属部材20とを備える。
【0019】
合成樹脂部材10の一表面は、金属部材20と接合する樹脂接合面12となっている。金属部材20の一表面は、合成樹脂部材10の樹脂接合面12と接合する金属接合面22となっている。金属樹脂接合体30は、合成樹脂部材10の樹脂接合面12と金属部材20の金属接合面22とを接合したものである。
【0020】
(2)合成樹脂部材10
合成樹脂部材10は、射出成形や押出成形や圧縮成形等の公知の方法によって、熱可塑性樹脂をブロック状、板状、又は線状等の所定形状に成形した部材である。
【0021】
合成樹脂部材10を構成する熱可塑性の合成樹脂として、具体例を挙げると、ポリプロピレン樹脂(PP樹脂)、ポリオキシメチレン樹脂(POM樹脂)、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS樹脂)、ポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK)、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン樹脂(ABS樹脂)、ポリエチレン樹脂(PE樹脂)、ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT樹脂)、ナイロン66等(PA66)のポリアミド樹脂(PA樹脂)、エポキシ樹脂、液晶ポリマー(LCP樹脂)、変性ポリフェニレンエーテル樹脂(変性PPE)、リアクター型軟質ポリプロピレン系樹脂(メタロセン系リアクター型TPO樹脂)、ペルフルオロアルコキシアルカン樹脂(PFA樹脂)、ポリアクリルアミド樹脂(PAM樹脂)、アクリル樹脂(PMMA樹脂)、ポリカーボネート樹脂(PC樹脂)、ポリフッ化ビニリデン樹脂(PVDF樹脂)、ポリ塩化ビニリデン樹脂(PVCD樹脂)、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS樹脂)、ポリ塩化ビニル樹脂(PVC樹脂)、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET樹脂)、ポリフッ化ビニル樹脂(PVF樹脂)、ポリスチレン樹脂(PS樹脂)、ポリビニルアルコール樹脂(PVA樹脂)、パラフィン樹脂、ポリテトラフルオロエチレン樹脂(PTFE樹脂)、ヘキサフルオロプロピレン樹脂(HFP樹脂)などである。
【0022】
また、合成樹脂部材10は、上記のような熱可塑性樹脂に炭素繊維が配合された炭素繊維強化熱可塑性樹脂(CFRTP)や、上記のような熱可塑性樹脂にガラス繊維、タルクなどの補強材や難燃化材や劣化防止剤やエラストマー成分などが配合されたものでもよい。
【0023】
(3)金属部材20
金属部材20は、金属をブロック状、板状、又は線状等の所定形状に成形した部材である。金属部材20を構成する金属としては、特に限定されず種々の金属を用いることができる。
【0024】
例えば、金属部材20を構成する金属として銅(Cu)、鉄(Fe)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)ニッケル(Ni)、クロム(Cr)等を用いることができる。また、金属部材20は、銅合金、鉄合金(鉄鋼材)、アルミニウム合金、ステンレス、チタン合金、ニッケル合金、クロム合金等の2種以上の金属からなる合金から構成されてもよい。
【0025】
金属部材20の形状は、用途等に応じて所望の形状とすることができる。金属部材20の成形方法は、任意の方法を適用することができ、所望の形状の型に溶融した金属等を流し込む鋳造や、工作機械等による切削加工や、プレス機械等による打ち抜き加工等を用いてもよい。
【0026】
金属部材20は、後述する第1工程及び第2工程を行う前に、金属接合面22に凹凸形状の粗面化部を設ける粗面化処理を行ってもよい。粗面化処理は、種々の方法を採用することができる。例えば、レーザ光の照射や、化学エッチングや、プレス加工により金属接合面22に粗面化部を形成してもよい。
【0027】
(4)金属樹脂接合体30の製造方法
金属樹脂接合体30は、上記(2)に記載した合成樹脂部材10と、上記(3)に記載した金属部材20に対して、第1工程と第2工程とを行うことで得られる。本実施形態では、
図2に示すような接合装置50を用いて第1工程及び第2工程を行い、金属樹脂接合体30を製造する。
【0028】
接合装置50は、金属部材20が載置されるステージ51と、ステージ51に載置された金属部材20を誘導加熱する加熱装置52と、合成樹脂部材10を金属部材20に加圧接合するプレス装置53と、加熱装置52及びプレス装置53を制御する制御装置60とを備える。
【0029】
加熱装置52は、電源装置(不図示)に接続された誘導加熱コイルを備え、制御装置60からの指令を受けて電源装置から駆動電源が入力されると、誘導加熱コイルから磁界を発生させてステージ51に載置された金属部材20の金属接合面22を誘導加熱する。
【0030】
加熱装置52は、ステージ51に載置された金属部材20の金属接合面22の温度を測定する温度センサ56を備える。温度センサ56が検出した金属接合面22の温度は制御装置60に入力される。制御装置60は、温度センサ56から入力される検出温度に基づいて、金属接合面22の温度が所定温度になるように加熱装置52の出力を制御する。
【0031】
なお、本実施形態では、温度センサ56は、非接触式の放射温度計からなり、加熱装置52の誘導加熱コイルにおける合成樹脂部材10に近接する部分の温度を測定する。この温度センサ56は、樹脂接合面12と金属接合面22との間に設けた熱電対と測定温度の相関関係が予め調べられている。つまり、樹脂接合面12と金属接合面22との間に熱電対を設けた状態で加熱装置52によって金属接合面22を加熱しながら温度センサ56及び熱電対において温度測定を行い、温度センサ56及び熱電対の測定温度の相関関係が調べられている。温度センサ56はその測定結果から前記熱電対との相関関係に基づいて推測される熱電対の温度を金属接合面22の温度とする。
【0032】
プレス装置53は、セラミックス等の絶縁体で形成されたロッド54と、ロッド54を移動させて合成樹脂部材10を金属部材20に押し当てる加圧部55と、ロッド54が合成樹脂部材10を金属部材20に押し付けたときに合成樹脂部材10に作用する圧力を検出する圧力センサ57とを備える。
【0033】
ロッド54は、
図2に示すように、加熱装置52が有する誘導加熱コイルの中空部分に挿入され、合成樹脂部材10と対向するように配置されていてもよい。
【0034】
加圧部55は、加圧力を変動制御できるサーボモーターや、電空レギュレータにより制御された空圧式シリンダや、スプリング式加圧器などを備える。加圧部55は、制御装置60からの指令を受けて、ロッド54とともに合成樹脂部材10を移動させる速度や位置と、合成樹脂部材10を金属部材20に押し当てる時の圧力を制御することができる。
【0035】
圧力センサ57は、合成樹脂部材10が金属部材20に当接して金属部材20を加圧したときに合成樹脂部材10に作用する圧力を検出し、検出した圧力を制御装置60に入力する。制御装置60は、圧力センサ57から入力される検出圧力に基づいて、合成樹脂部材10に作用する圧力が所定圧力になるようにプレス装置53の加圧部55の出力を制御する。
【0036】
制御装置60は、コンピュータを備え、加熱装置52、プレス装置53、温度センサ56及び圧力センサ57に接続されている。
【0037】
制御装置60は、温度センサ56及び圧力センサ57の検出結果や予め定められたプログラムに従って、加熱装置52とプレス装置53の動作を制御することで、ステージ51に載置された金属接合面22に樹脂接合面12を接合して金属部材20と合成樹脂部材10とを一体化する。
【0038】
具体的には、接合装置50を用いて金属樹脂接合体30を製造するには、金属接合面22がこの後にセッティングする合成樹脂部材10と対向するように、ステージ51の上に金属部材20を載置する。
【0039】
なお、粗面化処理によって金属部材20の金属接合面22を粗面化する場合や加熱酸化処理等によって金属接合面22に酸化膜を形成する場合、ステージ51に金属部材20を載置する前に粗面化処理や加熱酸化処理を行い、処理した表面がこの後にセッティングする合成樹脂部材10と対向するように金属部材20を配置してもよい。
【0040】
次いで、ステージ51に載置した金属部材20の金属接合面22に樹脂接合面12を対向配置する。
図2に示すように、本実施形態では、樹脂接合面12が金属接合面22に接触するように合成樹脂部材10を配置する。
【0041】
次いで、合成樹脂部材10を挟んで金属部材20の金属接合面22に対向するように加熱装置52を配置する。
図2に示す場合では、加熱装置52を合成樹脂部材10の上方に配置し、加熱装置52と金属部材20との間に合成樹脂部材10を配置する。
【0042】
次いで、加熱装置52によって金属接合面22を第1温度T1に加熱することで、金属接合面22に接触する樹脂接合面12を第1温度T1に加熱するとともに、第1温度T1に加熱した状態で金属部材20と合成樹脂部材10とを第1圧力P1で加圧する第1工程を行う。
【0043】
具体的には、制御装置60が加熱装置52に駆動電源を供給して、加熱装置52に設けられた誘導加熱コイルから磁界を発生させて金属部材20の金属接合面22を加熱する。その際、温度センサ56によって検出される金属接合面22の温度が第1温度T1になるように、加熱装置52に供給する駆動電源や加熱装置52に設けられた誘導加熱コイルの位置等を調整する。
【0044】
上記のような金属部材20の加熱とともに、プレス装置53が、ロッド54を移動させて合成樹脂部材10を金属部材20に押し付け、圧力センサ57の検出圧力が第1圧力P1となるように合成樹脂部材10及び金属部材20を加圧する。これによりプレス装置53は、第1温度T1に加熱された金属接合面22に樹脂接合面12を接触させ、合成樹脂部材10及び金属部材20を第1圧力P1で加圧する。
【0045】
例えば、プレス装置53は、所定時間Sp1(例えば、0.1秒以上10秒以下)合成樹脂部材10及び金属部材20を第1圧力P1で加圧する。プレス装置53が合成樹脂部材10及び金属部材20を第1圧力P1で加圧している間、加熱装置52は金属接合面22の温度が第1温度T1を維持するように金属部材20を加熱し続けていることが好ましい。
【0046】
なお、加熱装置52が金属接合面22を第1温度T1へ昇温している間、プレス装置53は合成樹脂部材10及び金属部材20を第1圧力P1で加圧してもよい。例えば、金属接合面22の温度が室温から第1温度T1に達するまで第1圧力P1で加圧しながら昇温する。金属接合面22の昇温時に合成樹脂部材10及び金属部材20を第1圧力P1で加圧することで、金属接合面22から樹脂接合面12へ熱が伝達されやすくなり、樹脂接合面12を速やかに第1温度T1に昇温することができる。
【0047】
また、金属接合面22の温度が第1温度T1に達するまで、プレス装置53が合成樹脂部材10及び金属部材20は加圧せず、第1温度T1に達してからプレス装置53が合成樹脂部材10及び金属部材20を第1圧力P1で加圧してもよい。
【0048】
そして、プレス装置53が合成樹脂部材10及び金属部材20を第1圧力P1で所定時間Sp1加圧すると、第1工程を終了して第2工程へ移行する。
【0049】
第2工程に移行すると、加熱装置52は金属部材20の加熱を停止又は加熱量を低減する。また、プレス装置53は、圧力センサ57の検出圧力が第1圧力P1より高い第2圧力P2となるように合成樹脂部材10及び金属部材20を加圧する。
【0050】
第2工程において、加熱装置52が金属部材20の加熱を停止又は加熱量を低減すると、金属接合面22において第1温度T1を維持することができなくなり第1温度T1から温度が低下する。金属接合面22の温度が低下している間、プレス装置53は、合成樹脂部材10及び金属部材20を第2圧力P2で加圧する。
【0051】
プレス装置53は、樹脂接合面12及び金属接合面22の温度が少なくとも第2温度T2に降温するまで、合成樹脂部材10及び金属部材20を第2圧力P2で加圧する。ここで、第2温度T2とは第1温度T1よりも低い温度である。プレス装置53は、合成樹脂部材10及び金属部材20の温度が第2温度T2より低い第3温度T3に降温するまで、合成樹脂部材10及び金属部材20を加圧し続けることが好ましい。
【0052】
そして、合成樹脂部材10及び金属部材20の温度が所定温度になるまで降温すると、金属部材20に合成樹脂部材10が接合された金属樹脂接合体30を接合装置50から取り出す。
【0053】
ここで、第1温度T1は、合成樹脂部材10を構成する熱可塑性樹脂の融点Tm以上であって、熱可塑性樹脂の分解温度以下(つまり、熱可塑性樹脂が気化し始める温度以下)とすることができる。好ましくは、熱可塑性樹脂の分解温度より20℃低い温度以下に第1温度T1を設定することができる。より好ましくは、合成樹脂部材10を構成する熱可塑性樹脂の融点Tm以上であって熱可塑性樹脂の融点Tmより20℃高い温度(第1上限温度)以下(Tm≦T1≦Tm+20℃)に第1温度T1を設定することができる。
【0054】
第2温度T2は、第1温度T1より低い温度であればよいが、合成樹脂部材10を構成する熱可塑性樹脂の融点Tmより10℃高い温度(第2上限温度)以下(T2≦Tm+10℃)であることが好ましく、合成樹脂部材10を構成する熱可塑性樹脂の融点Tmより20℃低い温度(下限温度)以上に第2温度T2を設定することが好ましい。つまり、下限温度以上であって第2上限温度以下(Tm-20℃≦T2<Tm+10℃)に第2温度T2を設定することが好ましい。
【0055】
第3温度T3は、得られた金属樹脂接合体30をハンドリングしやすい温度であればよいが、例えば、合成樹脂部材10を構成する熱可塑性樹脂のガラス転移点、及び、50℃のいずれか低い温度以下とすることができる。 また、第1工程において、合成樹脂部材10及び金属部材20を加圧する第1圧力P1は、加熱された金属部材20の熱が熱伝導によって合成樹脂部材10を金属部材と同じ温度にするための接触が十分に得られる圧力で有れば良く、熱可塑性樹脂の圧縮降伏応力以下の圧力であることが好ましい。この第1圧力P1は、合成樹脂部材10を構成する熱可塑性樹脂により変わるため、一概に規定することが困難であるが、10MPa以下であることが好ましい。
【0056】
第2工程において合成樹脂部材10及び金属部材20を加圧する第2圧力P2は、第1圧力P1より高い圧力であればよいが、例えば、10MPa以上100MPa以下であることが好ましい。
【0057】
なお、第1工程から第2工程へ移行する際に、加熱装置52及びプレス装置53のいずれか一方の設定を先に変更してから他方の設定を変更してもよく、また、両方の設定を同時に変更してもよい。
【0058】
つまり、第1工程から第2工程へ移行する際に、加熱装置52による加熱の停止又は加熱量の低減を行った後にプレス装置53による加圧力を第1圧力P1から第2圧力P2に変更してもよく、加熱装置52による加熱の停止又は加熱量の低減とプレス装置53による加圧力の変更とを同時に行ってもよい。また、プレス装置53による加圧力を変更した直後に加熱装置52による加熱の停止又は加熱量の低減を行ってもよい。
【0059】
また、本実施形態では、プレス装置53が金属部材20へ向けて合成樹脂部材10を移動する場合について説明したが、金属部材20を合成樹脂部材10へ向けて移動させてもよい。
【0060】
また、合成樹脂部材10と金属部材20とを局所的に接合してもよく、合成樹脂部材10と金属部材20とを広い範囲にわたって接合してもよい。また、接合箇所の平面形状も点状、線状、面状など任意の形状であってもよい。
【0061】
(5)効果
高い第1温度T1に加熱した金属接合面22と樹脂接合面12とを接触させる場合、高い圧力で合成樹脂部材10及び金属部材20を加圧すると、金属部材20からの熱を受けて加熱された合成樹脂部材10が大きく変形しやすい。しかし、合成樹脂部材10を金属部材20に接合する場合、合成樹脂部材10及び金属部材20を加圧しながら加熱することで、金属部材20からの熱で合成樹脂部材10の樹脂接合面12を均一に加熱することが好ましい。
【0062】
本実施形態では、第1工程において、合成樹脂部材10及び金属部材20を第2圧力P2よりも弱い第1圧力P1で加圧することで、合成樹脂部材10の変形を抑えつつ金属部材20の熱が金属接合面22から樹脂接合面12に均一に伝達されやすくなる。その結果、樹脂接合面12を構成する熱可塑性樹脂が金属接合面22に均一に広がって密着しやすくなる。また、金属接合面22に粗面化部が形成されている場合であっても、弱い第1圧力P1で加圧することで粗面化部の内部へ樹脂接合面12を構成する熱可塑性樹脂が充填されやすくなる。
【0063】
また、合成樹脂部材10を構成する熱可塑性樹脂は温度が高くなると樹脂密度が低下するため、金属部材20と合成樹脂部材10との接合時に金属部材20から熱を受けた合成樹脂部材10は、樹脂接合面12付近の樹脂密度が低下しやすい。
【0064】
本実施形態では、第1工程の後に行う第2工程において、第1温度T1より低い第2温度T2において第1圧力P1より高い第2圧力P2で合成樹脂部材10及び金属部材20を加圧するため、所定形状に成形した合成樹脂部材10の不所望な変形を抑えつつ、樹脂接合面12付近の樹脂密度を高めることができる。
【0065】
つまり、本実施形態では、第1工程によって合成樹脂部材10の変形を抑えつつ金属接合面22に接触する樹脂接合面12を均一に加熱して、樹脂接合面12を構成する熱可塑性樹脂を金属接合面22に均一に密着させる。そして、第2工程により加圧力を高めて金属接合面22に対する熱可塑性樹脂の密着性を更に向上させつつ、樹脂接合面12付近における合成樹脂部材10の樹脂密度を高めることで、高い接合強度の金属樹脂接合体30を得ることができる。
【0066】
本実施形態において、第1温度T1が合成樹脂部材10を構成する熱可塑性樹脂の融点Tm以上の温度であると、第1工程の際に樹脂接合面12近傍の熱可塑性樹脂の流動性が高まり、金属接合面22に対する樹脂接合面12の密着性を更に向上させることができる。また、合成樹脂部材10を構成する熱可塑性樹脂の融点Tmより20℃高い上限温度以下に第1温度T1を設定することで、合成樹脂部材10を構成する樹脂材料の熱分解や、第1工程において金属部材20と合成樹脂部材10とを第1圧力P1で加圧した際に生じる合成樹脂部材10の不所望な変形を抑えることができる。
【0067】
本実施形態において、第2温度T2が合成樹脂部材10を構成する熱可塑性樹脂の融点Tm未満の温度であると、第2工程の際に金属部材20とともに合成樹脂部材10を第2圧力P2で加圧しても合成樹脂部材10が不所望な形状に変形しにくくなる。また、合成樹脂部材10を構成する熱可塑性樹脂の融点Tmより20℃低い下限温度以上に第2温度T2を設定することで、第2工程において樹脂接合面12付近の樹脂密度を効果的に高めることができる。
【0068】
(6)変更例
上記の実施形態の変更例を説明する。上記した実施形態では、第1工程から第2工程へ移行する際に、金属接合面22の温度を考慮することなく、プレス装置53による加圧力を第1圧力P1から第2圧力P2に変更した。
【0069】
本変更例では、上記した実施形態と同様に第1工程を所定時間Sp1実行すると、まず、加熱装置52による加熱の停止又は加熱量の低減を行う。そして、樹脂接合面12及び金属接合面22の温度が第1温度T1より低い第2温度T2になるまで降温(冷却)する。樹脂接合面12及び金属接合面22の温度が第2温度T2になると、プレス装置53は合成樹脂部材10及び金属部材20の加圧力を第1圧力P1から第2圧力P2に変更して第2工程を開始する。
【0070】
そして、プレス装置53は、合成樹脂部材10及び金属部材20の温度が第2温度T2から第3温度T3に降温するまで、合成樹脂部材10及び金属部材20を加圧し続ける。
【0071】
そして、合成樹脂部材10及び金属部材20の温度が所定温度になるまで降温すると、金属部材20に合成樹脂部材10が接合された金属樹脂接合体30を接合装置50から取り出す。
【0072】
ここで、第1温度T1は、合成樹脂部材10を構成する熱可塑性樹脂の融点Tm以上であって、熱可塑性樹脂の分解温度以下(つまり、熱可塑性樹脂が気化し始める温度以下)とすることができる。好ましくは、合成樹脂部材10を構成する熱可塑性樹脂の融点Tm以上であって熱可塑性樹脂の融点Tmより20℃高い温度(上限温度)以下(つまり、Tm≦T1≦Tm+20℃)に第1温度T1を設定することができる。
【0073】
また、第2温度T2は、第1温度T1より低い温度であればよいが、合成樹脂部材10を構成する熱可塑性樹脂の融点Tmより低い温度であることが好ましく、合成樹脂部材10を構成する熱可塑性樹脂の融点Tmより20℃低い温度(下限温度)以上(つまり、Tm-20℃≦T2<Tm)に第2温度T2を設定することが好ましい。
【0074】
本変更例では、樹脂接合面12及び金属接合面22の温度が第2温度T2になるまで降温した後にプレス装置53による加圧力を第1圧力P1から第2圧力P2に変更するため、合成樹脂部材10が過度に変形することのない適切なタイミングでプレス装置53による加圧力を変更することができ、合成樹脂部材10の変形を抑えつつ、高い接合強度の金属樹脂接合体30を得ることができる。
【0075】
(7)実施例
上記した実施形態の効果を具体的に示すために、実施例1~2、比較例1~4の金属樹脂接合体(試験片)を作製した。なお、本発明は実施例1~2に限定されるものではない。
【0076】
実施例1~2は、加熱装置52が金属接合面を第1温度T1に加熱した状態で、プレス装置53が合成樹脂部材及び金属部材を1秒間、第1圧力P1で加圧して第1工程を実行した。その後、加熱装置52による加熱を停止するとともに、プレス装置53による加圧力を第1圧力P1から第2圧力P2へ変更して第2工程を実行し、合成樹脂部材10及び金属部材20の温度が第3温度T3になるまでプレス装置53によって合成樹脂部材10及び金属部材20を第2圧力P2で加圧して実施例1~2の金属樹脂接合体を作製した。なお、第2工程において、加熱装置52の加熱の停止と、プレス装置53の加圧力の変更とを同時に行った。
【0077】
比較例1~4は、第1工程を実行した後、プレス装置53による加圧力を変更せず、加熱装置52による加熱を停止して金属樹脂接合体を作製した。
【0078】
具体的には、比較例1~4は、加熱装置52が金属接合面22を第1温度T1に加熱した状態で、プレス装置53が合成樹脂部材10及び金属部材20を1秒間、第1圧力P1で加圧して第1工程を実行した。その後、プレス装置53による合成樹脂部材10及び金属部材20の加圧力を第1圧力P1に維持したまま、加熱装置52による加熱を停止し、合成樹脂部材10及び金属部材20の温度が第3温度T3になるまでプレス装置53によって合成樹脂部材10及び金属部材20を第1圧力P1で加圧して変更例1~4の金属樹脂接合体を作製した。
【0079】
実施例1~2及び比較例1~4には、PPS樹脂から構成された合成樹脂部材、及び、SUS304からなり金属接合面にレーザ照射によって粗面化処理を施した金属部材を使用した。合成樹脂部材の詳細、金属部材の詳細、合成樹脂部材と金属部材との接合面積(オーバラップ面積)は、以下の通りである。
【0080】
実施例1~2及び比較例1~4の第1温度T1、第3温度T3、第1圧力P1、及び第2圧力P2は、表1の通りである。
【0081】
・合成樹脂部材
熱可塑性樹脂の種類:PPS樹脂(DIC株式会社製 FZ-2100、融点:280℃)
サイズ(縦×横×厚み):10mm×50mm×3mm
・金属部材
金属の種類:SUS304
サイズ(縦×横×厚み):18mm×40mm×1.5mm
・合成樹脂部材と金属部材との接合面積:5×10mm
評価方法は次の通りである。
【0082】
(a)接合強度
JIS K 6850に規定された試験方法のうち、合成樹脂部材の寸法、金属部材の寸法、合成樹脂部材と金属部材との接合面積を上記の通りに変更し、その他の条件を同規格に準じて、引張試験機(島津製作所、オートグラフ AGX-V)を用い、引張速度10mm/min、測定温度25℃で測定した。なお、実施例1~2及び比較例1~4の試験片をそれぞれ4個ずつ作製し、4個の測定値の平均値をそれぞれの接合強度とした。
【0083】
(b)圧縮変形量
得られた金属樹脂接合体の合成樹脂部材部分の厚みを測定し、接合前の合成樹脂部材の厚み(3mm)からの変化量を算出した。なお、実施例1~2及び比較例1~4の試験片をそれぞれ4個ずつ作製し、4個の変化量の平均値をそれぞれの圧縮変化量とした。
【0084】
【表1】
結果は、表1に示すとおりである。実施例1では、比較例1に比べて合成樹脂部材の圧縮変化を大幅に抑えつつ、高い接合強度が得られた。実施例2では、比較例1及び比較例2と同程度の接合強度を確保しつつ、比較例1及び比較例2に比べて合成樹脂部材の圧縮変化を大幅に抑えることができた。
【0085】
また、比較例3では、圧縮変形量を小さく抑えることができたが、実用的な接合強度が得られなかった。比較例4では、合成樹脂部材が金属部材に接合しなかった。
【符号の説明】
【0086】
10…合成樹脂部材、12…樹脂接合面、20…金属部材、22…金属接合面、30…金属樹脂接合体、50…接合装置、51…ステージ、52…加熱装置、53…プレス装置、54…ロッド、55…加圧部、56…温度センサ、57…圧力センサ、60…制御装置
【要約】
予め所定の形状に成形された合成樹脂部材の形状を保持しつつ、接合強度の高い金属樹脂接合体を得る。
金属部材20と合成樹脂部材10とを接合した金属樹脂接合体30を製造する方法において、第1温度T1に加熱した金属接合面22と樹脂接合面12とを接触させ、金属部材20と合成樹脂部材10とを第1圧力P1で加圧する第1工程と、第1温度T1より低い第2温度T2において第1圧力P1より高い第2圧力P2で金属部材20と合成樹脂部材10とを加圧する第2工程とを行う。