(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-08
(45)【発行日】2024-08-19
(54)【発明の名称】Ce添加型RE-T-B-M系焼結磁性体
(51)【国際特許分類】
H01F 1/057 20060101AFI20240809BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20240809BHJP
B22F 3/00 20210101ALN20240809BHJP
C22C 33/02 20060101ALN20240809BHJP
【FI】
H01F1/057 170
C22C38/00 303D
B22F3/00 F
C22C33/02 J
(21)【出願番号】P 2023079808
(22)【出願日】2023-05-15
【審査請求日】2023-05-15
(31)【優先権主張番号】202211047034.7
(32)【優先日】2022-08-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】310005618
【氏名又は名称】煙台東星磁性材料株式有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100139033
【氏名又は名称】日高 賢治
(72)【発明者】
【氏名】陳秀雷
(72)【発明者】
【氏名】彭衆傑
(72)【発明者】
【氏名】董占吉
(72)【発明者】
【氏名】丁開鴻
(72)【発明者】
【氏名】徐先東
【審査官】右田 勝則
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/181592(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/181580(WO,A1)
【文献】特開2020-027933(JP,A)
【文献】国際公開第2021/193334(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/181581(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/057
C22C 38/00
B22F 3/00
C22C 33/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ce添加型RE-T-B-M系焼結磁性体であって、
層間粒界相を有し、
前記層間粒界相は、REリッチ相、Feリッチ相及びREFe
2相の3層構造を含み、
前記層間粒界相は、RE
2Fe
14B主相側から見て、第1層が前記REリッチ相、第2層が前記Feリッチ相、第3層が前記REFe
2相であり、
REはCe、Nd及び/又はPr、TはFe及びCo、Bはホウ素、MはAl、Cu、Ga、Tiであり、
磁性体全体に占めるCeの質量比は、3.0~15.0wt%である、
ことを特徴とするCe添加型RE-T-B-M系焼結磁性体。
【請求項2】
前記REリッチ相において、REが占める原子百分率は50.2~62.3at%、Tは32.2~39.7at%、Mは2.2~10.1at%である、
ことを特徴とする請求項1に記載のCe添加型RE-T-B-M系焼結磁性体。
【請求項3】
前記Feリッチ相において、REが占める原子百分率は12.4~26.0at%、Tは68.1~81.4at%、Mは1.3~6.2at%である、
ことを特徴とする請求項1に記載のCe添加型RE-T-B-M系焼結磁性体。
【請求項4】
前記REFe
2相において、REが占める原子百分率は28.1~33.8at%、Tは61.4~69.8at%、Mは0.6~4.8at%である、
ことを特徴とする請求項1に記載のCe添加型RE-T-B-M系焼結磁性体。
【請求項5】
前記層間粒界相における前記REリッチ相の厚さは1~21nm、前記Feリッチ相の厚さは1~15nm、前記REFe
2相の厚さは8~550nmである、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のCe添加型RE-T-B-M系焼結磁性体。
【請求項6】
磁性体全体に占める各元素の質量比は、
REが30.10~33.50wt%、ホウ素が0.85~1.05wt%、Alが0.05~0.60wt%、Coが0.50~2.00wt%、Cuが0.10~0.50wt%、Gaが0.10~0.50wt%、Tiが0.10~0.40wt% 、残部はFe及び不純物である、
ことを特徴とする請求項1に記載のCe添加型RE-T-B-M系焼結磁性体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、RE-T-B-M系永久磁性体の技術分野に属し、特にCe添加型RE-T-B-M系焼結磁性体に関する。
【背景技術】
【0002】
CeやLa等豊富に存在する軽希土類元素は、他の希土類元素に比べて低価格であり、Nd-Fe-B系磁性体の添加元素として広く利用されるようになってきた。しかしながら、CeやLa等を用いた焼結磁性体は、その磁気特性パラメータが低下することから、多主相技術、又は表層結晶粒界拡散技術等を採用し、磁気特性の低下を防いでいるのが実情である。
【0003】
例えば、中国特許CN102800454B公報には、低コスト二重主相Ce永久磁性体とその製造方法として、Nd-Fe-B及び(Ce、RE)-Fe-BのHAが異なる二つの主相を形成することで、高い磁気特性を実現する発明が開示されている。しかしながら、この方法では(Ce、RE)-Fe-B主相のHAが大きく低下することから、磁気特性の上昇も限定的なものであった。
【0004】
また、WO2020/233316A1公報には、REFe2相を含む結晶粒界拡散Ce磁性体とその製造方法として、CeFe2相を含む磁性体素材に希土類元素を拡散し、CeFe2相を強化してREFe2相とすることで保磁力を高める発明が開示されている。しかしながらこの方法では、Ceの添加量が増えると、結晶粒界相でREFe2相が形成され易くなり、純粋なREFe2相の磁気分離効果と反磁界における反磁化の抑制効果が弱まり、磁性体の保磁力は低下してしまう。
【0005】
Ceは低価格希土類元素であることから、磁性体のコストを顕著に削減できるが、Ce2Fe14Bの磁気特性パラメータが低いことから、Ceの添加量が多い場合、Ce2Fe14Bが主相に占める比率が大きくなり、総合的な磁気特性が低下する。また、Ceを添加することで結晶粒界相に磁気分離効果の弱いREFe2相が形成され、この相が主相粒子間に分布することにより、反磁化が主相粒子間を伝播し易くなることで保磁力が低下する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】中国特許CN102800454B公報
【文献】WO2020/233316A1公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本願発明は、従来技術に存在する不備を解消し、Ce添加による希土類磁性体の磁性特性に与える負の影響を低減しつつ、最大限Ceを利用することが可能なCe添加型RE-T-B-M系焼結磁性体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記した目的を達成するため、本願発明のCe添加型RE-T-B-M系焼結磁性体は、層間粒界相を有し、前記層間粒界相は、REリッチ相、Feリッチ相及びREFe2相の3層構造を含み、前記層間粒界相は、RE2Fe14B主相側から見て、第1層が前記REリッチ相、第2層が前記Feリッチ相、第3層が前記REFe2相であり、REはCe、Nd及び/又はPr、TはFe及びCo、Bはホウ素、MはAl、Cu、Ga、Tiであり、磁性体全体に占めるCeの質量比は、3.0~15.0wt%である、ことを特徴とする。
【0009】
更に、REリッチ相において、REが占める原子百分率は50.2~62.3at%、Tは32.2~39.7at%、Mは2.2~10.1at%である、ことを特徴とする。
【0010】
更に、Feリッチ相において、REが占める原子百分率は12.4~26.0at%、Tは68.1~81.4at%、Mは1.3~6.2at%である、ことを特徴とする。
【0011】
更に、REFe2相において、REが占める原子百分率は28.1~33.8at%、Tは61.4~69.8at%、Mは0.6~4.8at%である、ことを特徴とする。
【0012】
更に、REリッチ相の厚さは1~21nm、Feリッチ相の厚さは1~15nm、REFe2相の厚さは8~550nmである、ことを特徴とする。
【0013】
更に、磁性体全体に占める各元素の質量比は、REが30.10~33.50wt%、ホウ素が0.85~1.05wt%、Alが0.05~0.60wt%、Coが0.50~2.00wt%、Cuが0.10~0.50wt%、Gaが0.10~0.50wt%、Tiが0.10~0.40wt% 、残部はFe及び不純物である、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、Ceの添加量を最適な範囲で可能な限り多くしても、RE2Fe14B主相側から見て、REリッチ相、Feリッチ相及びREFe2相の3層からなる層間粒界相を形成することにより、磁性体の保磁力の低下を抑制することができ、安価で磁気特性に優れた焼結磁性体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の層間粒界相を有する磁性体のマクロ構造、及び各結晶粒界層の測定方法を示す図。
【
図2】実施例1に係る磁性体の結晶粒界位置におけるHAADF-STEM及びEDS画像。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本願発明に係る実施例について詳細に説明する。下記実施例は、本発明の解釈のみに用いるものであり、本願発明に係る構成を限定するものではない。
【0017】
本願発明の実施例1~4に係るCe添加型RE-T-B-M系焼結磁性体は、基本的に下記のとおり同じ方法によって作成され、その違いは下記表1に示すとおり、使用する各元素の含有量である。また、実施例1~4と対比する比較例1、2も、実施例1~4と同じ方法で作成され、各実施例との違いは、同じく表1に示すとおり、使用する各元素の含有量である。
【0018】
(ステップ1:合金薄片の作成)
表1に示す各元素をもとに材料を配合し、ストリップキャスト法にてストリップキャスト合金薄片を作成した。
【0019】
(ステップ2:粉砕処理工程)
作成したストリップキャスト合金薄片を、脱水素プロセスとジェットミル微粉砕プロセスという二つのプロセスを用いて粉砕した。具体的には、合金薄片を0.2Mpaの水素ガス圧で2時間水素吸着させ、次いで550℃で6時間脱水素し、水素処理後の合金薄片をジェットミルによって平均粒子径4.0μmの磁性体粉末へと粉砕した。
【0020】
(ステップ3:成型及び磁場配向処理工程)
磁性体粉末を金型に入れ、2.0Tの磁界で押圧成型し、磁性体粉末を適切な密度とした後、磁化容易軸に沿って磁場配向した。
【0021】
(ステップ4:冷間等方圧加圧処理工程)
プレス機で形成した磁性体素材を液体(水又は油)に投入し、200Mpaで加圧し、磁性体素材が受ける力を各方向に均等化し、磁性体素材内の気孔率を減少させ、緻密化及び均等化した磁性体素材とした。
【0022】
(ステップ5:焼結処理工程)
焼結温度を1010℃、焼結時間を6時間とした。なお、焼結温度は1000~1050℃、焼結時間は4~12時間の範囲であれば良い。焼結温度が高すぎると、主相結晶粒界相とREFe2相との湿潤性が高まり、REリッチ相が主相の周囲に拡散してしまい、第1結晶粒界層を形成し難くなるためである。
【0023】
(ステップ6:時効処理工程)
第1次時効処理温度は650℃、室温まで冷却する冷却速度は10℃/分以下とし、第2次時効処理温度は850℃、室温まで冷却する冷却速度は10℃/分以下とした。さらに、第3次時効処理温度は480℃、室温まで冷却する冷却速度は10℃/分以下とした。
【0024】
時効処理の条件は磁性体の成分等と密接に関連しており、合理的な時効処理工程によって連続且つ明瞭な結晶粒界相が得られ、磁性体の保磁力向上に重要な作用を奏する。第1次時効処理の適切な温度範囲は630~730℃であり、当該温度はREリッチ相の共晶点温度近傍であり、この温度範囲での熱処理は、REリッチ相を主相結晶粒界の周囲へと拡散させることができ、且つREリッチ相の主相に対する湿潤性が良好なことから、主相結晶粒界を覆い易くなり、第1層結晶粒界相を形成することができる。また、第2次時効処理の適切な温度範囲は820~930℃であり、当該温度はREFe2相の共晶点温度近傍であり、熱処理工程でREFe2相に希土類元素が析出し、析出した希土類元素が主相結晶粒界表面のREリッチ相に拡散・浸入し、希土類元素が析出したREFe2相はFeリッチ相となり、第2層結晶粒界相を形成し、且つREリッチ相の希土類元素の含有量がより増加する。主相から遠いREFe2相はその形態を維持したまま第3層結晶粒界相となる。本発明は、この三つ層からなるサンドイッチ構造の層間粒界相を形成する。
最後に、結晶粒界の分布を改善するために、第3次時効処理を実施するが、その適切な温度範囲は450~540℃である。なお、各時効処理の冷却工程において、冷却速度の向上は、形成された結晶粒界構造の維持に有効である。
【0025】
ステップ1~6で得られた実施例1~4、比較例1、2に係るCe添加型磁性体を、直径10mm、高さ10mmの円柱状に加工し、磁気特性を測定した。その測定結果を表1に示す。
【0026】
表1:実施例及び比較例のサンプルの成分及び磁気特性
【0027】
Ce添加型磁性体の微細構造を、透過型電子顕微鏡(TEM)及びエネルギー分散型X線分光法(EDS)を用いて分析した。具体的な測定方法は以下の通りである。
【0028】
実施例1~4からサンプルをそれぞれ一つ取り、各サンプルから五つの主相結晶粒子を選択し、各主相結晶粒子外周に層間粒界相を有する最長の結晶粒界相をその長さに基づいて4等分し、更に最長の結晶粒界相を5等分し、結晶粒界相に垂直に垂線を引き、4等分した線に対応する層間粒界相中の各結晶粒界相の厚さを測定した。サンプル毎に20組の層間粒界相の厚さに関するデータを取得し、最大値、最小値及び平均値を算出した。
【0029】
図1は、実施例1~4に係る層間粒界相を有する磁性体のマクロ構造と各結晶粒界層の測定方法を示す概念図であり、図中の1は主相、主相1側から見た第1層はREリッチ結晶粒界相2、2aはREリッチ結晶粒界相の中心点、第2層はFeリッチ結晶粒界相3、3aはFeリッチ結晶粒界相の中心点、第3層はREFe
2結晶粒界相4、5は層間粒界相の厚さ測定位置をそれぞれ示している。層間粒界相中の各結晶粒界相の厚さの測定結果を表2として示す。
【0030】
【0031】
また
図2は、実施例1に係る磁性体の結晶粒界位置におけるHAADF-STEM及びEDS画像である。
【0032】
層間粒界相を有する結晶粒界相の成分の測定方法は以下の通りである。
上記等分線上に各結晶粒界相の中心点を取り、EDSで元素の含有量(原子百分率)を分析し、サンプル毎に20組の成分データを取得し、平均値を算出した。
【0033】
層間粒界相中のREリッチ相における各元素の含有量を表3、層間粒界相中のFeリッチ相における各元素の含有量を表4、層間粒界相中のREFe2相における各元素の含有量を表5として、それぞれ整理した。
【0034】
表3:層間粒界相中のREリッチ相における各元素の含有量
【0035】
表4:層間粒界相中のFeリッチ相における各元素の含有量
【0036】
表5:層間粒界相中のREFe
2相における各元素の含有量
【0037】
実施例1のCe添加量は6.0wt%、残留磁気は16.77kGs、保磁力は12.51kOeであり、実施例4のCe添加量は15.0wt%、の保磁力は10.40kOeであった。微細構造の分析から実施例1~4のサンプルは、REリッチ相、Feリッチ相及びREFe2相からなる層間粒界相構造が形成されることが分かる。この構造の存在によって、Ceの添加量を所定の範囲内で可能な限り多く用いた場合であっても、保磁力の低下を抑制することができる。
【0038】
比較例1はCeの添加量がわずか2.0wt%であり、そのサンプルのCeの濃度は低く、REFe2相及び層間粒界相構造は検出されなかった。一方、比較例2はCeを18.0wt%と多く添加した結果、サンプル中に大量のREFe2相が形成された。REFe2相が増え、主相結晶粒子間に広く分布し、REFe2相中の希土類元素は拡散空間を有していないため、隣接するREリッチ相に拡散して希土類含有量がより高いREリッチ相を形成することができなかった。このため、層間粒界相構造が形成されず、保磁力が大幅に低下した。
【0039】
Ce含有量が少ない比較例1では、主相におけるCe濃度が低く、熱処理工程におけるREFe2相の析出は容易ではない。逆にCe含有量が多い比較例2では、結晶粒界相におけるCe含有量も多いことから結晶粒界相で大量のREFe2相が形成され、分布範囲が広いことから希土類元素の含有量が多いREリッチ相空間は形成されず、層間粒界相を形成することができなかった。
【0040】
以上のとおり、本発明においてCeの含有量は上記所定の範囲内であることが必須であり、本発明によって奏される有益な効果の鍵を握る要素である。上記所定の範囲内のCeを添加することにより、Ceが主相から析出してREFe2相の形成が容易になる。このCe添加型磁性体には、RE2Fe14B主相、REFe2相、REリッチ相が存在し、REリッチ相は、主相結晶粒界に対して優れた湿潤性を備え、REリッチ相の共晶点付近で熱処理を行うと、結晶粒界中のREリッチ相が主相結晶粒界の外周に集中し、第1層結晶粒界層を形成する。第1層結晶粒界層と隣り合うREFe2相の希土類元素は、その共晶点付近で熱処理によって析出してREリッチ相へと拡散し、原REリッチ相の希土類元素の含有量が高まると共に、希土類元素が析出した後のREFe2相がFeリッチ相へと変化し、第2層結晶粒界層を形成する。主相結晶粒界からやや離れたREFe2相は、状態を維持したまま第3層結晶粒界層を形成し、この三つの相によるサンドイッチ構造の層間粒界相を形成する。
【0041】
上記各実施例は、いずれも本発明の好ましい実施例に過ぎず、本発明を制限するものではなく、本発明の技術思想の範囲内で行われる修正、改良等は、全て本発明の保護範囲内に属する。
【符号の説明】
【0042】
1 主相
2 REリッチ結晶粒界相
2a REリッチ結晶粒界相の中心点
3 Feリッチ結晶粒界相
3a Feリッチ結晶粒界相の中心点
4 REFe2結晶粒界相
5 層間粒界相の厚さ測定位置