(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-08
(45)【発行日】2024-08-19
(54)【発明の名称】洗浄剤
(51)【国際特許分類】
C11D 7/44 20060101AFI20240809BHJP
C11D 17/06 20060101ALI20240809BHJP
C11D 9/38 20060101ALI20240809BHJP
C11D 1/04 20060101ALI20240809BHJP
A61K 8/9789 20170101ALI20240809BHJP
【FI】
C11D7/44
C11D17/06
C11D9/38
C11D1/04
A61K8/9789
(21)【出願番号】P 2020029987
(22)【出願日】2020-02-26
【審査請求日】2022-12-06
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】599083411
【氏名又は名称】株式会社 MTG
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】弁理士法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松下 剛
【審査官】柴田 啓二
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第105176719(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第104673546(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第103451032(CN,A)
【文献】特開昭56-100900(JP,A)
【文献】特開2019-077790(JP,A)
【文献】特開2000-159628(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C11D
A61K 8/00
A61Q
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Camellia japonicaまたはその亜種であるツバキ科ツバキ属の不溶性物質を含み、
前記不溶性物質の配合量は、洗浄剤全体を100質量%とした場合に、0.05質量%以上5質量%以下である洗浄剤。
【請求項2】
前記不溶性物質が果皮である
請求項1に記載の洗浄剤。
【請求項3】
前記不溶性物質が繊維状である
請求項1又は請求項2に記載の洗浄剤。
【請求項4】
前記不溶性物質の平均繊維長が100μm以上1000μm以下である請求項1から
請求項3のいずれか1項に記載の洗浄剤。
【請求項5】
固形石けんである請求項1から
請求項4のいずれか1項に記載の洗浄剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、洗浄剤に関する。
【背景技術】
【0002】
椿の種子はオレイン酸を構成成分とする油分を含み、この種子から得られるツバキ油は、古来、髪油、食用油等に用いられてきた。その他にも、毛髪洗浄料の原料としてツバキ油を用いることが知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
洗浄剤には、泡のきめ細かさ及び泡立ち性が求められる。また、近年、皮膚の古い角質を取り除き、ツヤのあるなめらかな肌を実現するためにスクラブ感のある洗浄剤が好まれている。
【0005】
本開示は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、泡のきめ細かさ及び泡立ち性が良好であり、スクラブ感のある洗浄剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
椿の果皮は椿油を得る際に、廃棄されるか、廃棄されない場合であっても肥料として用いる程度の限定的な利用のみが行われ有効利用が図られてこなかった。特に、椿の果皮を洗浄剤の原料として用いることについてはなんら検討されていないのが実情である。本発明者は、ツバキ科ツバキ属の不溶性物質、特に果皮が、洗浄剤の泡のきめ細かさ及び泡立ち性を向上すること、洗浄剤にスクラブ感を付与することを新たに見出し、本発明の洗浄剤を開発するに至った。本発明の洗浄剤は、ツバキ科ツバキ属の不溶性物質、特に果皮を含む。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、泡のきめ細かさ及び泡立ち性が良好であり、スクラブ感のある洗浄剤を提供することができる。また、更にスクラブ感を得ると共に肌を傷めずに角質を除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】ツバキ科ツバキ属の果皮の走査電子顕微鏡写真である。
【
図2】
図1とは別の視野における、ツバキ科ツバキ属の果皮の走査電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に本発明を実施するための具体的に説明する。
本実施形態の洗浄剤は、ツバキ科ツバキ属の不溶性物質を含んでいる。本実施形態の洗浄剤に使用されるツバキ科ツバキ属(Camellia)は、具体的にはヤブツバキ、ヒメサザンカ、ユキツバキ、サザンカ、チャノキ、ユカリツバキ、シマサザンカ、タイワンヤマチャ、シラハトツバキ、グランサムツバキ、ホンコンツバキ、ヒマラヤツバキ、テマリツバキ、ユチャ、カイナンチャ、キンカチャ、ピタールツバキ、トウツバキ、ヤナギバサザンカ、サルウィンツバキ、タイワンヒメサザンカ、テリバヒメサザンカ及びウラクなどである。この中でも好ましくはヤブツバキ(Camellia japonica)又はユキツバキ等に代表されるヤブツバキ(Camellia japonica)の亜種であり、更に好ましくはヤブツバキ(Camellia japonica)である。本実施形態の洗浄剤に使用されるツバキ科ツバキ属は、日本国内に自生する自生種又は園芸品種のいずれをも使用することができる。ここで、自生種とは、栽培に依らず、自然の状態で生活し続ける植物をいい、自然の状態で作物の品種問、種間交雑等が行われるものをいう。また、園芸品種とは、交配、選抜等を行なって、人為的に作り出した植物の品種をいう。形質が固定された場合には、その形質は次の世代に引き継がれるが、雑種第1代(F1)の場合には、その形質は1代限りとなり、次の世代には引き継がれない。本実施形態の洗浄剤に使用されるツバキ科ツバキ属(Camellia)は、長崎県五島列島に自生するヤブツバキ(Camellia japonica)であることが特に好ましい。
【0010】
ヤブツバキ(Camellia japonica)は常緑高木であり、日本の照葉樹林を代表する樹種で、本州(青森県以南)、四国、九州の丘陵帯に分布する。椿の用途として、椿油は、種子(実)を絞った油で、古くから利用され、用途の広さは和製オリーブオイルとも言える。高級食用油、整髪料として使われるほか、古くは灯りなどの燃料油としてもよく使われた。椿の果皮は、椿の種子を採取する際に得られる副産物である。椿葉は、化粧品原料として利用され、抗酸化作用、女性ホルモン様作用、細胞賦活作用、コラーゲン産生作用などの効果があることが報告されている。また、椿は常緑樹のため、年中利用が可能な化粧品原料として利用価値が高い。
洗浄剤に用いられるツバキ科ツバキ属の不溶性物質は本発明の効果を奏すれば、特に限定されない。本発明の作用を最も効果的に発揮できるツバキ科ツバキ属の部位は果皮である。
【0011】
洗浄剤に用いられるツバキ科ツバキ属の不溶性物質の形状は特に限定されない。洗浄剤に用いられるツバキ科ツバキ属の不溶性物質は繊維状であることが好ましい。結実したツバキ科ツバキ属の果皮は繊維質の組織を有しており、この組織を解繊することによって、簡便に繊維状の果皮原料を得ることができる。ツバキ科ツバキ属の果皮は、同種皮に比して柔軟であり、また、アーモンド等の種子を粉砕して得られる粒子よりも肌あたりがマイルドである。
図1に示す走査型電子顕微鏡(SEM)像にて観察されるように、洗浄剤に用いられるツバキ科ツバキ属の果皮は、表面に鱗状の微細凹凸形状を有していてもよい。洗浄剤に用いられるツバキ科ツバキ属の果皮は、繊維の長さ方向における端部に向かうにつれて先細る形状を有していてもよい。
【0012】
上記の果皮の平均繊維長は、本発明の効果を奏すれば特に限定されない。例えば、古い角質を除去するという観点から、20μm以上が好ましく、50μm以上がより好ましく、100μm以上がさらに好ましい。上記の果皮の平均繊維長は、やさしい肌あたり感を得るという観点から、5000μm以下が好ましく、2000μm以下がより好ましく、1000μm以下がさらに好ましい。また、果皮の平均繊維長が上記の上限以下であれば、固形石けんとした場合に成形性がよい。ツバキ科ツバキ属の果皮の平均繊維径は、通常、10μm以上100μm以下である。果皮の平均繊維長及び平均繊維径は、走査電子顕微鏡等を用いて得られた像を解析することによって算出する。
図1及び
図2は、果皮原料のSEM像である。果皮の平均繊維長は、果皮原料を観察して、50個の繊維状の果皮の像について最大径を測定して、その算術平均値として求めることができる。果皮の平均繊維径は、果皮原料を観察して、50個の繊維状の果皮の像について長さ方向の中間点における幅を測定して、その算術平均値として求めることができる。なお、果皮の平均繊維長は、果皮を粉砕する際の強度及び粉砕時間、粉砕して得られた果皮原料の篩分け等により調整できる。篩の選定は、発明の効果を奏すれば特に限定されない。具体的には、果皮原料の上限を限定するために、目開きが700μm以下、好ましくは500μm以下、更に好ましくは300μm以下の篩を使用することができる。また、果皮の下限を限定するために、目開きが40μm以上、好ましくは70μm以上、更に好ましくは100μm以上である篩を使用することができる。また、これらの目開きの篩を上限及び下限を各々用いることも可能である。
【0013】
洗浄剤におけるツバキ科ツバキ属の果皮の配合量は特に限定されない。ツバキ科ツバキ属の果皮の配合量は、泡のきめ細かさ及び泡立ち性、スクラブ感を向上するという観点から、洗浄剤全体を100質量%とした場合に、0.01質量%以上であることが好ましく、0.05質量%以上であることがより好ましく、0.1質量%以上であることがさらに好ましい。また、ツバキ科ツバキ属の果皮の配合量が上記の下限以上であれば、茶系の色味を呈する果皮が洗浄剤中に分散して、洗浄剤が自然の風合いの色味になる。ツバキ科ツバキ属の果皮の配合量は、洗浄剤の見栄えと、固形石けんとした場合における成形性という観点から、洗浄剤全体を100質量%とした場合に、5質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることがより好ましく、0.5質量%以下であることがさらに好ましい。
【0014】
本発明の洗浄剤は、他のツバキ科ツバキ属由来の成分を含めることもできる。
ツバキ科ツバキ属の葉、種子、茎、枝、及び花からなる群より選ばれる1種以上から抽出された抽出物を含むことができる。これらの中でも、ツバキ科ツバキ属の葉及び種子から抽出された抽出物を更に含むことがより好ましい。ツバキ科ツバキ属の葉、種子、茎、及び花には、非イオン性界面活性剤であるサポニンが含まれている。サポニンは、ツバキ科ツバキ属の葉に多く含まれることが確認されており、洗浄剤はツバキ科ツバキ属の葉から抽出された抽出物を含むことが特に好ましい。
【0015】
ツバキ科ツバキ属の葉から抽出された抽出物を用いることもできる。この抽出物は、光照射下で乾燥させたツバキ科ツバキ属の葉から抽出された抽出物であることが好ましい。また、ツバキ科ツバキ属の葉を脂溶性溶媒で抽出したクチクラ層抽出物を用いることができる。
【0016】
また、長崎県五島列島に生息するヤブツバキの花弁又は雌蕊に由来する酵母から抽出された酵母エキスを含むこともできる。
【0017】
また、本発明の洗浄剤の剤型は任意であり、固形状、粉末状、顆粒状、液状、ゲル状、気泡状、乳液状、クリーム状、軟膏状、シート状等とすることができる。洗浄剤の用途は特に限定されない。洗浄剤の用途は、泡のきめ細かさ及び泡立ち性、スクラブ感という観点から、好ましくは皮膚洗浄剤及び頭髪洗浄剤であり、より好ましくは皮膚洗浄剤である。皮膚洗浄剤としては、顔用、体用、及び手用等が挙げられ、刺激を受けやすい顔用に好適である。
【0018】
本発明の洗浄剤は、石けん成分とツバキ科ツバキ属の果皮成分と任意のその他の成分とを含む混合物を加圧成形することによって製造することができる。石けん成分は、特に限定されず、公知の石けん素地を用いることができる。例えば、ナトリウム石けん、カリ石けん等の脂肪酸誘導体(脂肪酸石けん)を用いることができる。
【0019】
ツバキ科ツバキ属の果皮成分は、原料となるツバキ科ツバキ属の果皮を乾燥し、乾燥したツバキ科ツバキ属の果皮を粉砕(解繊)して得ることができる。ツバキ科ツバキ属の果皮の粉砕は、自動乳鉢、石臼型の粉砕機、ハンマーミル、ピンミル、ボールミル、ジェットミル等の粉砕機によって行うことができる。粉砕されたツバキ科ツバキ属の果皮は、所定の目開き(メッシュ)の振動篩等を用いて分級される。
【0020】
その他の成分とは、本発明では、石けん成分と、ツバキ科ツバキ属の果皮成分以外のものをいう。その他の成分としては、上述したツバキ科ツバキ属の果皮以外の組織から抽出された抽出物及び酵母エキス以外にも公知の洗浄剤に含有されている成分を挙げることができる。例えば、石けん以外の界面活性剤、保湿剤、糖、着色剤、香料、洗浄補助剤、キレート剤、増粘剤、スクラブ剤、各種植物エキス、消炎剤等が挙げられる。
【実施例】
【0021】
以下、本発明を実施例により説明するが、本実施例によって本発明が限定されるものではない。
【0022】
実施例2~5及び参考例1、2として、表1の組成及び配合量である固形石けんのサンプルを作成した。表1中、ツバキ果皮末は、ツバキ科ツバキ属の果皮を繊維状に粉砕した、平均繊維長が約500μmの果皮原料を使用した。
なお、当該果皮原料は以下のように製造した。
採取した果皮70kgを70℃で乾燥した後、ハンマーミルで粉砕・租分粒を行った後、振動篩機で80メッシュ(目開き180μm)通過分40kgを得た。
【0023】
比較例として、ツバキ果皮末を添加しないサンプルを表1の処方を用いて作成した。
【0024】
【0025】
泡の評価試験
泡の評価試験は、市販の泡だて用容器でサンプルを所定回数泡立て、容量20mLの容器に泡を入れ、表面を摺り切り、その質量を測定した。各サンプルにつき、8回の泡の評価試験を行った。8回の測定によって得られた泡の重さの平均値を求め、これを100mL当たりの泡の重さ(g)に換算して、各サンプルの泡密度を求めた。その結果を、表1の「泡密度(g/100mL)」の欄に示す。この結果から、実施例は比較例よりも優位に泡の密度が向上することが示された。
【0026】
色味に関する評価及び成形性に関する評価
実施例2~5のサンプル、参考例1、2のサンプル、及び比較例のサンプルについて色味に関する評価と、成形性に関する評価を行った。色味に関する評価は、サンプルの外観を試験員が目視にて観察して、色味が濃過ぎる(「濃過ぎ」)、色味が濃い(「濃い」)、色味が少し濃い(「少し濃い」)、問題ない、の4段階で判定した。その結果を表1の「色味」の欄に表す。成形性に関する評価は、試験員が各サンプルを検査し、成形性が悪いか、問題がないかを判定した。その結果を表1の「成形性」の欄に表す。
【0027】
泡の評価試験の結果から、ツバキ科ツバキ属の果皮を0.3%含む実施例4は、ツバキ科ツバキ属の果皮を含まない比較例に比して、泡のきめ細かさの指標である泡の密度が約40%高いことが分かった。また、ツバキ科ツバキ属の果皮を含む洗浄剤は、ツバキ科ツバキ属の果皮を含まない洗浄剤よりも同じ回数泡立てた場合における泡の密度が高いことが分かった。このため、ツバキ科ツバキ属の果皮を添加することで、洗浄剤の泡立ち性が向上することが示唆された。
【0028】
ツバキ科ツバキ属の果皮を含む洗浄剤において、泡のきめ細かさ及び泡立ち性が向上する理由は定かではないが次のように推測される。ツバキ科ツバキ属の果皮の繊維状の形態により、空気を取り込みやすくなり、きめ細かい泡の形成に関与していると推測される。
【0029】
実施例4及び比較例のサンプルについて、使用感に関する官能評価を行った。官能評価は、上述の泡だて用容器で泡立てた泡を用いて、顔を洗顔してその使用感を評価した。実施例4のサンプルは、比較例のサンプルよりもスクラブ感が感じられ、洗いあがりの肌がなめらかになる実感があった。ツバキ科ツバキ属の果皮を含む洗浄剤は次のような作用を奏すると推測される。洗浄剤の使用時に、石けん成分がはがれにくくなっている古い角質層のタンパク質を分解して、古い角質がはがれやすくなる。そして、ツバキ科ツバキ属の果皮の柔らかい繊維が浮き上がった角質の隙間に入り込んで、古い角質をやさしくはがし取る。ツバキ科ツバキ属の果皮は表面がうろこ状になっており、皮膚の細かい汚れを優しくかき取る効果が期待できる。これらの結果、皮膚表面のザラザラ(古い角質等)が除去されて、なめらかな肌になると考えられる。