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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-08
(45)【発行日】2024-08-19
(54)【発明の名称】ポリエステル系樹脂およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 63/672 20060101AFI20240809BHJP
   G02B 1/04 20060101ALI20240809BHJP
   G02B 3/00 20060101ALI20240809BHJP
【FI】
C08G63/672
G02B1/04
G02B3/00 Z
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020036926
(22)【出願日】2020-03-04
(65)【公開番号】P2021138826
(43)【公開日】2021-09-16
【審査請求日】2023-01-16
(73)【特許権者】
【識別番号】591147694
【氏名又は名称】大阪ガスケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100142594
【弁理士】
【氏名又は名称】阪中 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100090686
【弁理士】
【氏名又は名称】鍬田 充生
(72)【発明者】
【氏名】大田 善也
(72)【発明者】
【氏名】増田 永善
【審査官】内田 靖恵
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-297317(JP,A)
【文献】Journal of Applied Polymer Science,2004年,Vol.92, No.4,p.2486-2493,ISSN 0021-8995
【文献】Journal of Chemical Industry and Engineering(China),2008年,Vol.59, No.6,p.1556-1564,ISSN 0438-1157
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 63/672
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)
【化1】
(式中、Zはアレーン環を示し、
Adはアダマンタン環を示し、Rは置換基を示し、kは0~15の整数を示し、mは1または2を示し、
1aおよびA1bはそれぞれ独立して直鎖状または分岐鎖状アルキレン基を示し、n1およびn2はそれぞれ独立して0以上の整数を示し、
は置換基を示し、pは0以上の整数を示す。)
で表される第1のジオール単位(A1)を有し、
さらに、下記式(3)
【化2】
(式中、A 3a およびA 3b はそれぞれ独立して直鎖状または分岐鎖状アルキレン基を示し、
は置換基を示し、rは0~8の整数を示す。)
で表されるジカルボン酸単位(B1)、および/または脂環族ジカルボン酸成分に由来するジカルボン酸単位(B2)を有し、
アッベ数が28~55であるポリエステル系樹脂。
【請求項2】
前記式(1)において、ZがC6-12アレーン環であり、mが2であり、A1aおよびA1bが直鎖状または分岐鎖状C2-6アルキレン基であり、n1およびn2が0~10の整数である請求項1記載のポリエステル系樹脂。
【請求項3】
さらに、下記式(2)
【化3】
(式中、Aは直鎖状または分岐鎖状アルキレン基を示し、qは1以上の整数を示す。)で表される第2のジオール単位(A2)を有する請求項1または2記載のポリエステル系樹脂。
【請求項4】
前記第1のジオール単位(A1)と前記第2のジオール単位(A2)との割合が、A1/A2(モル比)=40/60~80/20である請求項3記載のポリエステル系樹脂。
【請求項5】
記ジカルボン酸単位(B1)と前記ジカルボン酸単位(B2)とを、B1/B2(モル比)=10/90~60/40の割合で有する請求項1~4のいずれか一項に記載のポリエステル系樹脂。
【請求項6】
下記式(1A)
【化4】
(式中、Z、Ad、R、k、m、A1aおよびA1b、n1およびn2、R、ならびにpは前記式(1)に同じ。)
で表される第1のジオール成分(A1)を含む重合成分を重合して、請求項1~のいずれか一項に記載のポリエステル系樹脂を製造する方法。
【請求項7】
請求項1~のいずれか一項に記載のポリエステル系樹脂を含む成形体。
【請求項8】
光学フィルムである請求項記載の成形体。
【請求項9】
光学レンズである請求項記載の成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アダマンタン骨格を有するポリエステル系樹脂およびその製造方法、ならびに前記ポリエステル系樹脂を含む成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話やスマートフォン端末の薄型化や、多機能化に伴って、部品や素子を搭載するためのスペース確保のために、撮像装置に搭載される撮像レンズの小型化が求められている。また、小型化とともに、電荷結合素子を用いたセンサー(CCDセンサー)、相補型金属酸化物半導体センサー(CMOSセンサー)などの撮像素子の高画素化に伴い、撮像レンズの高解像度化も要求されている。このような撮像レンズは、コス卜の制約の中で、小型かつ高い結像性能と諸収差の補正に対応するため、光学設計を駆使して、レンズ構成、形状および材料の選択に種々の工夫がなされている。撮像レンズユニッ卜の光学設計は、計算ソフ卜にレンズ材料の複数の波長における屈折率のデータを入力して、アルゴリズ厶に従って自動計算させながら調整を繰り返して行われる。しかし、光学レンズに使用できる樹脂(または材料)は限られているため、設計の自由度が制限され、有効性の高いまたは多様な撮像レンズユニットを設計することには限界がある。
【0003】
詳しくは、撮像レンズユニッ卜は、アッベ数および屈折率の異なる複数のレンズで構成されており、一般的には、アッベ数が大きく、かつ屈折率が中程度のレンズを1または複数枚、例えば、アッベ数が56~57程度、屈折率が1.51~1.54程度の環状オレフィン系樹脂などで形成されたレンズ2~4枚程度と;アッベ数が小さく、かつ屈折率が大きいレンズを1または複数枚、例えば、アッベ数が22~27程度、屈折率が1.61~1.64程度のフルオレン系樹脂などで形成されたレンズ1~2枚程度とを組み合わせて構成されている。このように、撮像レンズユニッ卜は高アッベ数のレンズおよび低アッベ数のレンズを組み合わせて構成することが多いが、その中間領域のアッベ数、すなわち、28~55程度のアッベ数を示す材料があれば、設計の自由度を向上でき、撮像レンズユニットの最適化が期待される。
【0004】
このように中間領域のアッベ数を示す材料としては、ガラスや熱硬化性樹脂などはあるものの、ガラスはコストが高く、熱硬化性樹脂はレンズの生産性が低いため、携帯電話やスマートフォンなどの光学レンズに使用されていない。
【0005】
一方、高アッベ数および低アッベ数の中間領域の熱可塑性樹脂として、国際公開第2016/147847号(特許文献1)には、環状オレフィン系樹脂と、9,9-ビスアリールフルオレン骨格を有する特定の化合物とを含む樹脂組成物が、中間領域のアッベ数に調整でき、光学レンズなどの用途に有用なことが開示されており、実施例では、アッベ数が30~53の樹脂組成物が調製されている。
【0006】
また、特開2009-161746号公報(特許文献2)には、イソソルビド骨格を有する特定のポリカーボネート樹脂が、熱安定性が高く、屈折率が低く、アッベ数が大きく、光学的異方性が小さく、機械的強度に優れ、CCDやCMOS用レンズ材料の用途に適していることが開示されている。この文献ではアッベ数を大きくする点に着目しており、中間領域のアッベ数に調整することについては記載されていないものの、実施例26、31および32では、アッベ数31~42のポリカーボネート樹脂が調製されている。
【0007】
なお、国際公開第2010/084802号(特許文献3)および特開2008-184503号公報(特許文献4)には、アダマンタン骨格を有する樹脂について開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】国際公開第2016/147847号
【文献】特開2009-161746号公報
【文献】国際公開第2010/084802号
【文献】特開2008-184503号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1では、アッベ数を中間領域の中でやや低めの範囲、例えば30程度に調整する場合、実施例6の結果からガラス転移温度Tgが低くなるおそれがあり、アッベ数とTgとのバランスを取ることが難しいことが予想される。また、アッベ数に応じて、低分子化合物(フルオレン化合物)を樹脂に添加する必要があるため、機械的特性などが低下するおそれもある。
【0010】
特許文献2では、アッベ数を中間領域に調整しつつ、Tgを十分に向上できないおそれがある。
【0011】
撮像レンズユニットの設計の自由度を向上する観点から、中間領域のアッベ数を示す新たな熱可塑性樹脂が求められている。
【0012】
なお、特許文献3には、アダマンタン骨格を有する特定のジ(メタ)アクリレート化合物、エポキシ化合物、オキセタン化合物などの硬化性樹脂について記載されるものの、熱可塑性樹脂やアッベ数を中間領域に調整することについては何ら記載されていない。
【0013】
特許文献4には、アダマンタン骨格を有する所定のポリエステル樹脂について記載されるものの、アッベ数を中間領域に調整できることのみならず、低複屈折とすることについても何ら記載されていない。
【0014】
従って、本発明の目的は、アッベ数を中間領域に調整可能なポリエステル系樹脂、およびその製造方法、ならびに前記ポリエステル系樹脂を含む成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、アダマンタン骨格を有する特定のジオール成分を含む重合成分を重合すると、得られるポリエステル系樹脂のアッベ数を中間領域に容易に調整できることを見いだし、本発明を完成した。
【0016】
すなわち、本発明のポリエステル系樹脂は、下記式(1)で表される第1のジオール単位(A1)を有している。
【0017】
【化1】
【0018】
(式中、Zはアレーン環を示し、
Adはアダマンタン環を示し、Rは置換基を示し、kは0~15の整数を示し、mは1または2を示し、
1aおよびA1bはそれぞれ独立して直鎖状または分岐鎖状アルキレン基を示し、n1およびn2はそれぞれ独立して0以上の整数を示し、
は置換基を示し、pは0以上の整数を示す)。
【0019】
前記式(1)において、ZがC6-12アレーン環であり、mが2であり、A1aおよびA1bが直鎖状または分岐鎖状C2-6アルキレン基であり、n1およびn2が0~10の整数であってもよい。
【0020】
前記ポリエステル系樹脂は、さらに、下記式(2)で表される第2のジオール単位(A2)を有していてもよい。
【0021】
【化2】
【0022】
(式中、Aは直鎖状または分岐鎖状アルキレン基を示し、qは1以上の整数を示す)。
【0023】
前記ポリエステル系樹脂は、第1のジオール単位(A1)と第2のジオール単位(A2)との割合が、A1/A2(モル比)=40/60~80/20程度であってもよい。
【0024】
前記ポリエステル系樹脂は、さらに、下記式(3)で表される第1のジカルボン酸単位(B1)を有していてもよい。
【0025】
【化3】
【0026】
(式中、A3aおよびA3bはそれぞれ独立して直鎖状または分岐鎖状アルキレン基を示し、
は置換基を示し、rは0~8の整数を示す)。
【0027】
前記ポリエステル系樹脂は、さらに、脂環族ジカルボン酸成分に由来する第2のジカルボン酸単位(B2)を有していてもよい。前記ポリエステル系樹脂は、第1のジカルボン酸単位(B1)と第2のジカルボン酸単位(B2)とを、B1/B2(モル比)=10/90~60/40の割合で有していてもよい。前記ポリエステル系樹脂は、アッベ数が28~55程度であってもよい。
【0028】
本発明は、下記式(1A)で表される第1のジオール成分(A1)を含む重合成分を重合して、前記ポリエステル系樹脂を製造する方法も包含する。
【0029】
【化4】
【0030】
(式中、Z、Ad、R、k、m、A1aおよびA1b、n1およびn2、R、ならびにpは前記式(1)に同じ)。
【0031】
また、本発明は、前記ポリエステル系樹脂を含む成形体も包含する。前記成形体は、光学フィルムであってもよく、光学レンズであってもよい。
【0032】
本明細書および特許請求の範囲において、「中間領域」のアッベ数とは、温度20℃で測定した数値の小数点以下1桁目を四捨五入した際に、28~55の範囲にあるアッベ数を意味する。
【0033】
また、本明細書および特許請求の範囲において、「ジオール単位」または「ジオール成分由来の構成単位」は、対応するジオール成分の2つのヒドロキシル基から、水素原子を除いた単位(または2価の基)を意味し、「ジオール成分」(ジオール成分として例示される化合物を含む)は、対応する「ジオール単位」と同義に用いる場合がある。また、同様に「ジカルボン酸単位」または「ジカルボン酸成分由来の構成単位」は、対応するジカルボン酸の2つのカルボキシル基から、OH(ヒドロキシル基)を除いた単位(または2価の基)を意味し、「ジカルボン酸成分」(ジカルボン酸成分として例示される化合物を含む)は、対応する「ジカルボン酸単位」と同義に用いる場合がある。
【0034】
なお、本明細書および特許請求の範囲において、「ジカルボン酸成分」とは、ジカルボン酸に加えて、そのエステル形成性誘導体を含む意味に用いる。エステル形成性誘導体としては、例えば、アルキルエステル、酸ハライド、酸無水物などが挙げられる。前記アルキルエステルとしては、低級アルキルエステル、例えば、メチルエステル、エチルエステル、t-ブチルエステルなどのC1-4アルキルエステルなどが挙げられる。なお、エステル形成性誘導体は、モノエステル(ハーフエステル)またはジエステルであってもよい。
【0035】
また、本明細書および特許請求の範囲において、炭素原子の数をC、C、C10などで示すことがある。例えば、炭素数が1のアルキル基は「Cアルキル」で示し、炭素数が6~10のアリール基は「C6-10アリール」で示す。
【発明の効果】
【0036】
本発明では、ポリエステル系樹脂がアダマンタン骨格を有する特定のジオール単位(第1のジオール単位(A1))を含むため、中間領域のアッベ数に容易に調整できる。また、アッベ数を中間領域に調整しつつ、高い耐熱性と低い複屈折とをバランスよく充足することもできる。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本発明のポリエステル系樹脂は、少なくとも主鎖にエステル結合またはカーボネート結合(炭酸エステル結合)を有する熱可塑性樹脂であり、例えば、ポリエステル樹脂、ポリエステルカーボネート樹脂、ポリカーボネート樹脂などが挙げられる。これらのポリエステル系樹脂のうち、生産性などの観点から、ポリエステル樹脂、ポリエステルカーボネート樹脂が好ましく、ポリエステル樹脂がさらに好ましい。
【0038】
[ジオール単位(A)]
(第1のジオール単位(A1))
ポリエステル系樹脂は、少なくともジオール単位(A)を含んでおり、ジオール単位(A)は、少なくとも下記式(1)で表される第1のジオール単位(A1)を有している。第1のジオール単位(A1)を含むことにより、アッベ数を中間領域に容易に調整できる。また、低い複屈折を保持しつつ耐熱性(またはガラス転移温度Tg)を大きく向上できる。
【0039】
【化5】
【0040】
(式中、Zはアレーン環を示し、
Adはアダマンタン環を示し、Rは置換基を示し、kは0~15の整数を示し、mは1または2を示し、
1aおよびA1bはそれぞれ独立して直鎖状または分岐鎖状アルキレン基を示し、n1およびn2はそれぞれ独立して0以上の整数を示し、
は置換基を示し、pは0以上の整数を示す)。
【0041】
前記式(1)において、Zで表されるアレーン環(芳香族炭化水素環)としては、例えば、ベンゼン環などの単環式アレーン環、多環式アレーン環などが挙げられる。多環式アレーン環としては、縮合多環式アレーン環(縮合多環式芳香族炭化水素環)、環集合アレーン環(環集合多環式芳香族炭化水素環)などが挙げられる。
【0042】
縮合多環式アレーン環としては、例えば、縮合二環式アレーン環、縮合三環式アレーン環などの縮合二乃至四環式アレーン環などが挙げられる。縮合二環式アレーン環としては、例えば、ナフタレン環、インデン環などの縮合二環式C10-16アレーン環などが挙げられる。縮合三環式アレーン環としては、例えば、アントラセン環、フェナントレン環などの縮合三環式C14-20アレーン環などが挙げられる。好ましい縮合多環式アレーン環は、ナフタレン環などの縮合多環式C10-14アレーン環である。
【0043】
環集合アレーン環としては、例えば、ビフェニル環、フェニルナフタレン環、ビナフチル環などのビアレーン環;テルフェニル環などのテルアレーン環などが挙げられる。好ましい環集合アレーン環は、ビフェニル環などのC12-18ビアレーン環である。
【0044】
好ましい環Zとしては、C6-14アレーン環が挙げられ、より好ましくはベンゼン環、ナフタレン環、ビフェニル環などのC6-12アレーン環であり、さらに好ましくはベンゼン環、ナフタレン環などのC6-10アレーン環であり、アッベ数を中間領域に調整し易く、複屈折も低減し易い点から、特にベンゼン環が好ましい。
【0045】
アダマンタン環Adは置換基Rで置換されていてもよく、Rとしては、例えば、置換(または修飾)されていてもよい炭化水素基(または基R)、基-OR(式中、Rは前記炭化水素基を示す。)、アシル基[または基-C(=O)R(式中、Rは前記炭化水素基を示す。)]、ハロゲン原子、シアノ基または置換アミノ基などが挙げられる。
【0046】
前記炭化水素基(または基R)としては、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基が挙げられる。
【0047】
アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基などの直鎖状又は分岐鎖状C1-10アルキル基、好ましくは直鎖状または分岐鎖状C1-6アルキル基、さらに好ましくは直鎖状または分岐鎖状C1-4アルキル基などが挙げられる。
【0048】
シクロアルキル基としては、例えば、シクロペンチル基、シクロへキシル基などのC5-10シクロアルキル基、好ましくはC5-8シクロアルキル基、さらに好ましくはC5-6シクロアルキル基などが挙げられる。
【0049】
アリール基としては、例えば、フェニル基、ビフェニリル基、ナフチル基などのC6-12アリール基などが挙げられる。
【0050】
アラルキル基としては、例えば、ベンジル基、フェネチル基などのC6-10アリール-C1-4アルキル基などが挙げられる。
【0051】
また、これらの炭化水素基は置換(または修飾)されていてもよく、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などのハロゲン原子;オキソ基;メトキシ基、エトキシ基などのアルコキシ基;シアノ基;メチル基などのアルキル基などの置換基に置換されていてもよい。これらの炭化水素基に対する置換基は、単独でまたは2種以上組み合わせることもできる。また、炭化水素基に対する置換数も特に制限されない。置換された炭化水素基として具体的には、ブロモメチル基などのハロアルキル基;メチルフェニル基(トリル基)、ジメチルフェニル基(キシリル基)などのアルキルフェニル基などが挙げられる。
【0052】
基-OR(式中、Rは前記炭化水素基を示す。)としては、例えば、アルコキシ基、シクロアルキルオキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基などが挙げられ、具体的には、前記基Rとして例示した炭化水素基に対応した基などが挙げられる。
【0053】
アルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、n-ブトキシ基、イソブトキシ基、t-ブトキシ基などの直鎖状又は分岐鎖状C1-10アルコキシ基、好ましくはC1-6アルコキシ基、さらに好ましくはC1-4アルコキシ基などが挙げられる。
【0054】
シクロアルキルオキシ基としては、例えば、シクロへキシルオキシ基などのC5-10シクロアルキルオキシ基、好ましくはC5-8シクロアルキルオキシ基、さらに好ましくはC5-6シクロアルキルオキシ基などが挙げられる。
【0055】
アリールオキシ基としては、例えば、フェノキシ基などのC6-12アリールオキシ基などが挙げられる。
【0056】
アラルキルオキシ基としては、例えば、ベンジルオキシ基などのC6-10アリール-C1-4アルキルオキシ基などが挙げられる。
【0057】
アシル基[または基-C(=O)R(式中、Rは前記炭化水素基を示す。)]としては、例えば、前記基Rとして例示した炭化水素基に対応した基などが挙げられ、具体的には、アセチル基などのC1-6アシル基などが挙げられる。
【0058】
ハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などが挙げられる。
【0059】
置換アミノ基としては、例えば、モノまたはジアルキルアミノ基、モノまたはビス(アルキルカルボニル)アミノ基などが挙げられる。モノまたはジアルキルアミノ基としては、例えば、ジメチルアミノ基などのモノまたはジC1-4アルキルアミノ基などが挙げられる。モノまたはビス(アルキルカルボニル)アミノ基としては、例えば、ジアセチルアミノ基などのモノまたはビス(C1-4アルキル-カルボニル)アミノ基などが挙げられる。
【0060】
これらの置換基Rは、単独でまたは2種以上組み合わせてもよい。基Rを有する場合、通常、置換されていてもよい炭化水素基(または基R)、基-OR、アシル基[または基-C(=O)R]、ハロゲン原子、シアノ基または置換アミノ基であることが多く、好ましい置換基Rとしては、アルキル基、ハロゲン原子であり、さらに好ましくはアルキル基、ハロゲン原子であり、特に、メチル基、エチル基などの直鎖状または分岐鎖状C1-4アルキル基が好ましい。
【0061】
の置換数kは、例えば0~12程度の範囲から選択してもよく、好ましい範囲としては、以下段階的に、0~10の整数、0~8の整数、0~6の整数、0~4の整数、0~3の整数、0~2の整数であり、さらに好ましくは0または1であり、特に0が好ましい。また、kが2以上である場合、2以上のRの種類は、互いに同一または異なっていてもよい。なお、mが2であり、2つの異なるアダマンタン環Adにそれぞれ基Rが置換する場合、各アダマンタン環Adにおける基Rの種類は、互いに異なっていてもよく、通常、同一であることが多い。
【0062】
基[-Ad-(R]の置換数mは、1または2のいずれであってもよいが、モノマー成分の生産性に優れるのみならず、アッベ数を中間領域に調整し易く、耐熱性も向上し易い点から、2であるのが好ましい。
【0063】
アダマンタン環Adは、1位または2位の炭素原子で(1-アダマンチル基または2-アダマンチル基の形態で)環Zに対して結合(または置換)していればよく、生産性の点から、1-アダマンチル基の形態で結合しているのが好ましい。また、置換数mが2である場合、環Zと結合する2つのアダマンタン環Adの結合位置は、互いに異なっていてもよいが同一であることが多い。
【0064】
基[-Ad-(R]は、環Zのいずれの位置に置換してもよいが、環Zに置換する基[-O-(A1aO)n1-]および/または基[-O-(A1bO)n2-]に対して、オルト位(または環Zにおいて隣接する炭素原子)に置換することが多い。例えば、環Zがベンゼン環であり、基[-O-(A1aO)n1-]および基[-O-(A1bO)n2-]が前記ベンゼン環の1,3位に置換する場合、基[-Ad-(R]は前記ベンゼン環の4位、6位または4,6位に置換することが多い。また、環Zがナフタレン環であり、基[-O-(A1aO)n1-]および基[-O-(A1bO)n2-]が前記ナフタレン環の2,7位に置換する場合、基[-Ad-(R]は前記ナフタレン環の3位、6位または3,6位に置換することが多い。
【0065】
で表される置換基としては、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、これらの基を2以上組み合わせた基などの炭化水素基などが挙げられる。具体的なアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基としては、前記基Rの項において炭化水素基Rとして具体的に例示した基と同様の基などが挙げられる。また、2以上組み合わせた基としては、例えば、メチルフェニル基(トリル基)、ジメチルフェニル基(キシリル基)などのアルキルフェニル基などが挙げられる。
【0066】
基Rを有する場合、好ましい基Rとしては、アルキル基であり、より好ましくはメチル基、t-ブチル基、ヘキシル基などの直鎖状または分岐鎖状C1-8アルキル基であり、さらに好ましくは以下段階的に、直鎖状または分岐鎖状C1-6アルキル基、直鎖状または分岐鎖状C1-4アルキル基、直鎖状または分岐鎖状C1-3アルキル基であり、特にメチル基などのC1-2アルキル基が好ましい。
【0067】
の置換数pは、環Zの種類などに応じて、例えば0~5程度の整数であってもよく、好ましい範囲としては、以下段階的に、0~4の整数、0~3の整数、0~2の整数であり、さらに好ましくは0または1であり、特に0が好ましい。pが2以上の場合、2以上のRの種類は互いに同一または異なっていてもよい。また、pが1以上の場合、Rの置換位置は、環Zにおける基[-O-(A1aO)n1-]、基[-O-(A1bO)n2-]および基[-Ad-(R]の置換位置以外の位置に置換していればよい。
【0068】
1aおよびA1bで表される直鎖状または分岐鎖状アルキレン基としては、例えば、エチレン基、プロピレン基(1,2-プロパンジイル基)、トリメチレン基、1,2-ブタンジイル基、テトラメチレン基などの直鎖状または分岐鎖状C2-6アルキレン基などが挙げられる。繰り返し数n1、n2が1以上である場合、A1a、A1bとして好ましくは直鎖状または分岐鎖状C2-4アルキレン基、さらに好ましくはエチレン基、プロピレン基などの直鎖状または分岐鎖状C2-3アルキレン基であり、特にエチレン基が好ましい。
【0069】
オキシアルキレン基(-OA1a-)および(-OA1b-)の繰り返し数(付加モル数)n1、n2は、それぞれ0以上であればよく、例えば0~15程度の整数の範囲から選択でき、好ましい範囲としては、以下段階的に、0~10、0~8、0~6、0~4、0~2、0~1である。また、繰り返し数n1、n2は、重合反応性を向上できる点から、通常、1以上であることが多く、例えば1~15程度の整数の範囲から選択でき、好ましい範囲としては、以下段階的に、1~10、1~8、1~6、1~4、1~3、1~2であり、特に1であるのが好ましい。なお、本明細書および特許請求の範囲において、「繰り返し数(付加モル数)」は、平均値(算術平均値、相加平均値)または平均付加モル数であってもよく、好ましい態様は、上記好ましい範囲(上記整数の範囲)と同様である。繰り返し数n1、n2が大きすぎると、アッベ数が大きくなり過ぎるおそれや、耐熱性が低下するおそれがある。
【0070】
また、2つの繰り返し数n1、n2は、互いに同一または異なっていてもよい。n1またはn2が2以上である場合、2以上のオキシアルキレン基(-OA1a-)または(-OA1b-)の種類は、互いに同一または異なっていてもよい。また、n1およびn2が1以上である場合、異なるオキシアルキレン基(-OA3a-)および(-OA3b-)の種類は、互いに異なっていてもよいが、同一であることが多い。
【0071】
基[-O-(A1aO)n1-]および[-O-(A1bO)n2-]は、環Zの種類に応じて適当な位置にそれぞれ置換していればよく、好ましい置換位置としては、環Zがベンゼン環である場合、ベンゼン環の1,3位に置換しているのが好ましく、環Zがナフタレン環である場合、ナフタレン環の2,7位に置換しているのが好ましい。
【0072】
前記式(1)で表される第1のジオール単位(A1)に対応する第1のジオール成分(A1)は下記式(1A)で表され、ポリエステル系樹脂は、この第1のジオール成分(A1)を含む重合成分を用いて、例えば、後述する方法などにより重合することで調製できる。
【0073】
【化6】
【0074】
(式中、Z、Ad、R、k、m、A1aおよびA1b、n1およびn2、R、ならびにpは前記式(1)に同じ)。
【0075】
第1のジオール成分(A1)としては、例えば、mが1である単位に対応するアダマンチル-ジヒドロキシアレーンまたはそのアルキレンオキシド(アルキレンカーボネートまたはハロアルカノール)付加体、mが2である単位に対応するジアダマンチル-ジヒドロキシアレーンまたはそのアルキレンオキシド(アルキレンカーボネートまたはハロアルカノール)付加体などが挙げられる。
【0076】
なお、本明細書および特許請求の範囲において、アルキレンオキシド(アルキレンカーボネートまたはハロアルカノール)付加体を、単に「AO付加体」という場合がある。
【0077】
mが1である単位に対応するアダマンチル-ジヒドロキシアレーンとしては、例えば、Zがベンゼン環である単位に対応するアダマンチル-ジヒドロキシベンゼン、Zがナフタレン環である単位に対応するアダマンチル-ジヒドロキシナフタレンなどが挙げられる。
【0078】
mが1、Zがベンゼン環である単位に対応するアダマンチル-ジヒドロキシベンゼンとしては、例えば、アダマンチル-1,3-ジヒドロキシベンゼンなどが挙げられ、好ましくは4-アダマンチル-1,3-ジヒドロキシベンゼン、4-アダマンチル-6-アルキル-1,3-ジヒドロキシベンゼンなどの4-アダマンチル-1,3-ジヒドロキシベンゼン類が挙げられる。
【0079】
4-アダマンチル-1,3-ジヒドロキシベンゼンとしては、例えば、4-(1-アダマンチル)-1,3-ジヒドロキシベンゼン、4-(2-アダマンチル)-1,3-ジヒドロキシベンゼンなどが挙げられる。
【0080】
4-アダマンチル-6-アルキル-1,3-ジヒドロキシベンゼンとしては、例えば、4-(1-アダマンチル)-6-メチル-1,3-ジヒドロキシベンゼン、4-(1-アダマンチル)-6-t-ブチル-1,3-ジヒドロキシベンゼン、4-(1-アダマンチル)-6-ヘキシル-1,3-ジヒドロキシベンゼン、4-(2-アダマンチル)-6-メチル-1,3-ジヒドロキシベンゼン、4-(2-アダマンチル)-6-t-ブチル-1,3-ジヒドロキシベンゼン、4-(2-アダマンチル)-6-ヘキシル-1,3-ジヒドロキシベンゼンなどの4-アダマンチル-6-直鎖状または分岐鎖状C1-10アルキル-1,3-ジヒドロキシベンゼンなどが挙げられる。
【0081】
mが1、Zがナフタレン環である単位に対応するアダマンチル-ジヒドロキシナフタレンとしては、例えば、アダマンチル-2,7-ジヒドロキシナフタレンなどが挙げられ、好ましくは3-アダマンチル-2,7-ジヒドロキシナフタレン、3-アダマンチル-6-アルキル-2,7-ジヒドロキシナフタレンなどの3-アダマンチル-2,7-ジヒドロキシナフタレン類が挙げられる。
【0082】
3-アダマンチル-2,7-ジヒドロキシナフタレンとしては、例えば、3-(1-アダマンチル)-2,7-ジヒドロキシナフタレン、3-(2-アダマンチル)-2,7-ジヒドロキシナフタレンなどが挙げられる。
【0083】
3-アダマンチル-6-アルキル-2,7-ジヒドロキシナフタレンとしては、例えば、3-(1-アダマンチル)-6-メチル-2,7-ジヒドロキシナフタレン、3-(1-アダマンチル)-6-t-ブチル-2,7-ジヒドロキシナフタレン、3-(1-アダマンチル)-6-ヘキシル-2,7-ジヒドロキシナフタレン、3-(2-アダマンチル)-6-メチル-2,7-ジヒドロキシナフタレン、3-(2-アダマンチル)-6-t-ブチル-2,7-ジヒドロキシナフタレン、3-(2-アダマンチル)-6-ヘキシル-2,7-ジヒドロキシナフタレンなどの3-アダマンチル-6-直鎖状または分岐鎖状C1-10アルキル-2,7-ジヒドロキシナフタレンなどが挙げられる。
【0084】
mが1である単位に対応するアダマンチル-ジヒドロキシアレーンのAO付加体としては、例えば、上述のアダマンチル-ジヒドロキシアレーンとして具体的に例示したジオール成分(好ましい態様も含む)に対応して、Zに置換する「ジヒドロキシ」基を、「ビス(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシ)」基に置き換えたジオール成分などが挙げられ、好ましくは「ビス(ヒドロキシ(モノないしデカ)C2-4アルコキシ)」基に、より好ましくは「ビス(ヒドロキシ(モノないしペンタ)C2-3アルコキシ)」基に、さらに好ましくは「ビス(ヒドロキシC2-3アルコキシ)」基に置き換えたジオール成分が挙げられる。
【0085】
mが2である単位に対応するジアダマンチル-ジヒドロキシアレーンとしては、例えば、Zがベンゼン環である単位に対応するジアダマンチル-ジヒドロキシベンゼン、Zがナフタレン環である単位に対応するジアダマンチル-ジヒドロキシナフタレンなどが挙げられる。
【0086】
mが2、Zがベンゼン環である単位に対応するジアダマンチル-ジヒドロキシベンゼンとしては、例えば、ジアダマンチル-1,3-ジヒドロキシベンゼンなどが挙げられ、好ましくは4,6-ジアダマンチル-1,3-ジヒドロキシベンゼン、4,6-ジアダマンチル-2-アルキル-1,3-ジヒドロキシベンゼン、4,6-ジアダマンチル-5-アルキル-1,3-ジヒドロキシベンゼン、4,6-ジアダマンチル-2,5-ジアルキル-1,3-ジヒドロキシベンゼンなどの4,6-ジアダマンチル-1,3-ジヒドロキシベンゼン類が挙げられる。
【0087】
4,6-ジアダマンチル-1,3-ジヒドロキシベンゼンとしては、例えば、4,6-ジ(1-アダマンチル)-1,3-ジヒドロキシベンゼン、4,6-ジ(2-アダマンチル)-1,3-ジヒドロキシベンゼンなどが挙げられる。
【0088】
4,6-ジアダマンチル-2-アルキル-1,3-ジヒドロキシベンゼンとしては、例えば、4,6-ジ(1-アダマンチル)-2-メチル-1,3-ジヒドロキシベンゼン、4,6-ジ(1-アダマンチル)-2-t-ブチル-1,3-ジヒドロキシベンゼン、4,6-ジ(1-アダマンチル)-2-ヘキシル-1,3-ジヒドロキシベンゼン、4,6-ジ(2-アダマンチル)-2-メチル-1,3-ジヒドロキシベンゼン、4,6-ジ(2-アダマンチル)-2-t-ブチル-1,3-ジヒドロキシベンゼン、4,6-ジ(2-アダマンチル)-2-ヘキシル-1,3-ジヒドロキシベンゼンなどの4,6-ジアダマンチル-2-直鎖状または分岐鎖状C1-10アルキル-1,3-ジヒドロキシベンゼンなどが挙げられ、好ましくは以下段階的に、4,6-ジアダマンチル-2-直鎖状または分岐鎖状C1-6アルキル-1,3-ジヒドロキシベンゼン、4,6-ジアダマンチル-2-直鎖状または分岐鎖状C1-4アルキル-1,3-ジヒドロキシベンゼン、4,6-ジアダマンチル-2-直鎖状または分岐鎖状C1-3アルキル-1,3-ジヒドロキシベンゼン、4,6-ジアダマンチル-2-C1-2アルキル-1,3-ジヒドロキシベンゼンである。
【0089】
4,6-ジアダマンチル-5-アルキル-1,3-ジヒドロキシベンゼンとしては、例えば、4,6-ジ(1-アダマンチル)-5-メチル-1,3-ジヒドロキシベンゼン、4,6-ジ(1-アダマンチル)-5-t-ブチル-1,3-ジヒドロキシベンゼン、4,6-ジ(1-アダマンチル)-5-ヘキシル-1,3-ジヒドロキシベンゼン、4,6-ジ(2-アダマンチル)-5-メチル-1,3-ジヒドロキシベンゼン、4,6-ジ(2-アダマンチル)-5-t-ブチル-1,3-ジヒドロキシベンゼン、4,6-ジ(2-アダマンチル)-5-ヘキシル-1,3-ジヒドロキシベンゼンなどの4,6-ジアダマンチル-5-直鎖状または分岐鎖状C1-10アルキル-1,3-ジヒドロキシベンゼンなどが挙げられ、好ましくは以下段階的に、4,6-ジアダマンチル-5-直鎖状または分岐鎖状C1-6アルキル-1,3-ジヒドロキシベンゼン、4,6-ジアダマンチル-5-直鎖状または分岐鎖状C1-4アルキル-1,3-ジヒドロキシベンゼン、4,6-ジアダマンチル-5-直鎖状または分岐鎖状C1-3アルキル-1,3-ジヒドロキシベンゼン、4,6-ジアダマンチル-5-C1-2アルキル-1,3-ジヒドロキシベンゼンである。
【0090】
4,6-ジアダマンチル-2,5-ジアルキル-1,3-ジヒドロキシベンゼンとしては、例えば、4,6-ジ(1-アダマンチル)-2,5-ジメチル-1,3-ジヒドロキシベンゼン、4,6-ジ(1-アダマンチル)-2,5-ジt-ブチル-1,3-ジヒドロキシベンゼン、4,6-ジ(1-アダマンチル)-2,5-ジヘキシル-1,3-ジヒドロキシベンゼン、4,6-ジ(2-アダマンチル)-2,5-ジメチル-1,3-ジヒドロキシベンゼン、4,6-ジ(2-アダマンチル)-2,5-ジt-ブチル-1,3-ジヒドロキシベンゼン、4,6-ジ(2-アダマンチル)-2,5-ジヘキシル-1,3-ジヒドロキシベンゼンなどの4,6-ジアダマンチル-2,5-ジ直鎖状または分岐鎖状C1-10アルキル-1,3-ジヒドロキシベンゼンなどが挙げられ、好ましくは以下段階的に、4,6-ジアダマンチル-2,5-ジ直鎖状または分岐鎖状C1-6アルキル-1,3-ジヒドロキシベンゼン、4,6-ジアダマンチル-2,5-ジ直鎖状または分岐鎖状C1-4アルキル-1,3-ジヒドロキシベンゼン、4,6-ジアダマンチル-2,5-ジ直鎖状または分岐鎖状C1-3アルキル-1,3-ジヒドロキシベンゼン、4,6-ジアダマンチル-2,5-ジC1-2アルキル-1,3-ジヒドロキシベンゼンである。
【0091】
mが2、Zがナフタレン環である単位に対応するジアダマンチル-ジヒドロキシナフタレンとしては、例えば、ジアダマンチル-2,7-ジヒドロキシナフタレンなどが挙げられ、好ましくは3,6-ジアダマンチル-2,7-ジヒドロキシナフタレンなどの3,6-ジアダマンチル-2,7-ジヒドロキシナフタレン類が挙げられる。
【0092】
3,6-ジアダマンチル-2,7-ジヒドロキシナフタレンとしては、例えば、3,6-(1-アダマンチル)-2,7-ジヒドロキシナフタレン、3,6-ジ(2-アダマンチル)-2,7-ジヒドロキシナフタレンなどが挙げられる。
【0093】
mが2である単位に対応するジアダマンチル-ジヒドロキシアレーンのAO付加体としては、例えば、上述のジアダマンチル-ジヒドロキシアレーンとして具体的に例示したジオール成分(好ましい態様も含む)に対応して、Zに置換する「ジヒドロキシ」基を、「ビス(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシ)」基に置き換えたジオール成分などが挙げられ、好ましくは「ビス(ヒドロキシ(モノないしデカ)C2-4アルコキシ)」基に、より好ましくは「ビス(ヒドロキシ(モノないしペンタ)C2-3アルコキシ)」基に、さらに好ましくは「ビス(ヒドロキシC2-3アルコキシ)」基に置き換えたジオール成分が挙げられる。
【0094】
前記式(1)で表される第1のジオール単位(A1)は、これらの第1のジオール成分(A1)に由来する構成単位を単独でまたは2種以上組み合わせて含んでいてもよい。好ましい第1のジオール単位(A1)に対応する成分としては、mが2である単位に対応するジアダマンチル-ジヒドロキシアレーンまたはそのAO付加体であり、より好ましくは、以下段階的にZがベンゼン環である単位に対応するジアダマンチル-ジヒドロキシベンゼンまたはそのAO付加体、ジアダマンチル-1,3-ジヒドロキシベンゼンまたはそのAO付加体、4,6-ジアダマンチル-1,3-ジヒドロキシベンゼン類またはそのAO付加体、4,6-ジアダマンチル-1,3-ジヒドロキシベンゼンまたはそのAO付加体であり、さらに好ましくは4,6-ジアダマンチル-1,3-ビス(ヒドロキシ(モノないしペンタ)C2-4アルコキシ)ベンゼンなどの4,6-ジアダマンチル-1,3-ビス(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシ)ベンゼンであり、なかでも4,6-ジアダマンチル-1,3-ビス(ヒドロキシ(モノないしトリ)C2-3アルコキシ)ベンゼンであり、特に4,6-ジアダマンチル-1,3-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)ベンゼンなどの4,6-ジアダマンチル-1,3-ビス(ヒドロキシC2-3アルコキシ)ベンゼンが好ましい。
【0095】
(第2のジオール単位(A2))
ジオール単位(A)は、必要に応じて、さらに、下記式(2)で表される第2のジオール単位(A2)を含んでいてもよい。この構成単位に対応する第2のジオール成分(A2)を重合成分として含んでいると、重合反応性を高めて分子量の大きなポリエステル系樹脂を調製でき、成形性(生産性)や機械的特性を向上できる。また、第2のジオール単位(A2)を前記第1のジオール単位(A1)と組み合わせて含むことにより、アッベ数を中間領域内で低めに調整でき、ガラス転移温度Tgを調整して生産性(または成形性)を向上することもできる。
【0096】
【化7】
【0097】
(式中、Aは直鎖状または分岐鎖状アルキレン基を示し、qは1以上の整数を示す)。
【0098】
前記式(2)において、Aで表されるアルキレン基としては、例えば、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基、1,2-ブタンジイル基、1,3-ブタンジイル基、テトラメチレン基、1,5-ペンタンジイル基、1,6-ヘキサンジイル基、1,8-オクタンジイル基、1,10-デカンジイル基などの直鎖状または分岐鎖状C2-12アルキレン基などが挙げられる。好ましいアルキレン基Aとしては、以下段階的に、直鎖状または分岐鎖状C2-10アルキレン基、直鎖状または分岐鎖状C2-8アルキレン基、直鎖状または分岐鎖状C2-6アルキレン基、直鎖状または分岐鎖状C2-4アルキレン基であり、さらに好ましくはエチレン基、プロピレン基などの直鎖状または分岐鎖状C2-3アルキレン基であり、特にエチレン基が好ましい。
【0099】
繰り返し数qは、例えば、1~10程度の範囲から選択でき、好ましい範囲としては、以下段階的に、1~8、1~6、1~4、1~3、1~2であり、特に1が好ましい。なお、繰り返し数qは、平均値(算術平均値または相加平均値)であってもよく、好ましい態様は前記整数の範囲と同様である。qが2以上である場合、2以上のオキシアルキレン基(-AO-)の種類は、互いに異なっていてもよいが、通常、同一であることが多い。
【0100】
第2のジオール単位(A2)に対応する第2のジオール成分(A2)としては、例えば、アルカンジオール(またはアルキレングリコール)、ポリアルカンジオール(またはポリアルキレングリコール)などが挙げられる。
【0101】
アルキレングリコールとしては、例えば、前記式(2)においてqが1、Aが前記例示のアルキレン基に対応するジオール成分、具体的には、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、テトラメチレングリコール(または1,4-ブタンジオール)、1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサンジオール、1,8-オクタンジオール、1,10-デカンジオールなどの直鎖状または分岐鎖状C2-12アルキレングリコールなどが挙げられ、好ましい態様は前記アルキレン基Aに対応して同様である。
【0102】
ポリアルキレングリコールとしては、前記式(2)においてqが2以上、例えば、2~10程度、Aが前記例示のアルキレン基に対応するジオール成分、具体的には、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコールなどのジないしデカ直鎖状または分岐鎖状C2-12アルキレングリコールなどが挙げられ、好ましくはジないしヘキサ直鎖状または分岐鎖状C2-6アルキレングリコール、さらに好ましくはジないしテトラ直鎖状または分岐鎖状C2-4アルキレングリコールが挙げられる。
【0103】
これらの第2のジオール単位(A2)は、単独でまたは2種以上組み合わせて含まれていてもよい。好ましい第2のジオール単位(A2)としては、生産性(成形性)と耐熱性とを両立できる点から、アルキレングリコールに由来する構成単位が好ましく、より好ましくは直鎖状または分岐鎖状C2-6アルキレングリコール、さらに好ましくはエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオールなどの直鎖状または分岐鎖状C2-4アルキレングリコール、なかでも、エチレングリコール、プロピレングリコールなどの直鎖状または分岐鎖状C2-3アルキレングリコール、特にエチレングリコールに由来する構成単位が好ましい。
【0104】
(第3のジオール単位(A3))
なお、ジオール単位(A)は、第1のジオール単位(A1)および第2のジオール単位(A2)とは異なるジオール単位(第3のジオール単位(A3))を必要に応じて含んでいてもよいが、含んでいなくてもよい。
【0105】
第3のジオール単位(A3)としては、例えば、脂環族ジオール、芳香族ジオール、およびこれらのジオール成分のAO付加体に由来する構成単位などが挙げられる。
【0106】
脂環族ジオールとしては、例えば、シクロヘキサンジオールなどのシクロアルカンジオール;シクロヘキサンジメタノールなどのビス(ヒドロキシアルキル)シクロアルカン;ビスフェノールAの水添物などの後に例示する芳香族ジオールの水添物などが挙げられる。
【0107】
芳香族ジオールとしては、例えば、ヒドロキノン、レゾルシノールなどのジヒドロキシアレーン;ベンゼンジメタノールなどの芳香脂肪族ジオール;ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールAD、ビスフェノールC、ビスフェノールG、ビスフェノールSなどのビスフェノール類;p,p’-ビフェノールなどのビフェノール類などが挙げられる。
【0108】
これらのジオール成分のAO付加体としては、例えば、直鎖状または分岐鎖状C2-4アルキレンオキシド付加体、好ましくはエチレンオキシド付加体、プロピレンオキシド付加体などの直鎖状または分岐鎖状C2-3アルキレンオキシド付加体が挙げられ、付加モル数は特に制限されない。具体的には、ビスフェノールAなどのジオール1モルに対して、2~10モル程度のエチレンオキシドが付加した付加体などが挙げられる。
【0109】
ジオール単位(A)は、これらの第3のジオール単位(A3)を、単独でまたは2種以上組み合わせて含んでいてもよい。
【0110】
第1のジオール単位(A1)および第2のジオール単位(A2)の総量の割合は、ジオール単位(A)全体に対して、例えば1モル%以上、具体的には10~100モル%程度の範囲から選択でき、好ましい範囲としては、以下段階的に、30モル%以上、50モル%以上、60モル%以上、70モル%以上、80モル%以上、90モル%以上、95モル%以上であり、特に100モル%、実質的に第3のジオール単位(A3)を含まないのが好ましい。
【0111】
第1のジオール単位(A1)の割合は、ジオール単位(A)全体に対して、例えば1~100モル%程度、具体的には10~100モル%程度であってもよく、好ましい範囲としては、以下段階的に、20~95モル%、30~90モル%、35~85モル%、40~80モル%、45~75モル%、50~70モル%、55~65モル%である。第1のジオール単位(A1)の割合が少なすぎると、アッベ数を中間領域に調整できないおそれや、耐熱性を大きく向上できないおそれがある。逆に多すぎると、重合反応性が低下したり、ガラス転移温度Tgが高くなりすぎて生産性(成形性)が低下するおそれがあるとともに、複屈折の絶対値を低減できないおそれがある。
【0112】
ジオール単位(A)が、第1のジオール単位(A1)および第2のジオール単位(A2)の双方を含む場合の割合(A1/A2)は、例えば、A1/A2(モル比)=1/99~99/1程度の範囲から選択してもよく、好ましい範囲としては、以下段階的に、10/90~98/2、20/80~95/5、30/70~90/10、35/65~85/15、40/60~80/20、45/55~75/25、50/50~70/30、55/45~65/35である。第1のジオール単位(A1)の割合が少なすぎると、アッベ数を中間領域に調整できないおそれや、耐熱性を大きく向上できないおそれがある。第2のジオール単位(A2)の割合が少なすぎると、重合反応が進行し難く、成形性(または生産性)などが低下するおそれがある。
【0113】
[ジカルボン酸単位(B)]
ポリエステル系樹脂は、少なくともジオール単位(A)を含んでいればよいが、必要に応じてジカルボン酸単位(B)を含んでいてもよく、ジオール単位(A)とジカルボン酸単位(B)とで主鎖としてのエステル結合を形成してもよい。
【0114】
(第1のジカルボン酸単位(B1))
ジカルボン酸単位(B)は、さらに、下記式(3)で表される第1のジカルボン酸単位(B1)を有していてもよい。第1のジカルボン酸単位(B1)を含んでいると、高い耐熱性を保持しつつ、複屈折を有効に低減できる。また、アッベ数を中間領域内で低めに調整することもできる。
【0115】
【化8】
【0116】
(式中、A3aおよびA3bはそれぞれ独立して直鎖状または分岐鎖状アルキレン基を示し、
は置換基を示し、rは0~8の整数を示す)。
【0117】
前記式(3)において、基A3aおよびA3bで表される直鎖状または分岐鎖状アルキレン基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基、1,2-ブタンジイル基、2-メチルプロパン-1,3-ジイル基などの直鎖状または分岐鎖状C1-8アルキレン基が挙げられる。好ましいアルキレン基A3aおよびA3bとしては、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基、2-メチルプロパン-1,3-ジイル基などの直鎖状または分岐鎖状C1-6アルキレン基が挙げられ、より好ましくは直鎖状または分岐鎖状C1-4アルキレン基であり、さらに好ましくは直鎖状または分岐鎖状C2-4アルキレン基であり、なかでも、エチレン基、プロピレン基などの直鎖状または分岐鎖状C2-3アルキレン基が好ましく、特にエチレン基が好ましい。なお、基A3aおよびA3bの種類は互いに異なっていてもよいが、通常、同一であることが多い。
【0118】
基Rとしては、重合反応に不活性な非重合性基または非反応性置換基であってもよく、例えば、シアノ基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子などのハロゲン原子;アルキル基、アリール基などの炭化水素基などが挙げられる。前記アリール基としては、フェニル基などのC6-10アリール基などが挙げられる。好ましい基Rとしては、シアノ基、ハロゲン原子、またはアルキル基であり、特にアルキル基が好ましい。
【0119】
前記アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、t-ブチル基などのC1-12アルキル基、好ましくはC1-8アルキル基、特にメチル基などのC1-4アルキル基が挙げられる。
【0120】
なお、基Rの置換数rが複数(2以上)である場合、フルオレン環を構成する2つのベンゼン環のうち、同一ベンゼン環に置換する2以上の基Rの種類は同一または異なっていてもよく、異なるベンゼン環に置換する2以上の基Rの種類は同一または異なっていてもよい。また、基Rの結合位置(置換位置)は、特に限定されず、例えば、フルオレン環の2位、7位、2,7位などが挙げられる。
【0121】
好ましい置換数rは、例えば0~6程度の整数であってもよく、好ましい範囲としては、以下段階的に、0~4、0~3、0~2の整数であり、好ましくは0または1、特に0である。なお、フルオレン環を構成する2つのベンゼン環において、基Rのそれぞれの置換数は、互いに異なっていてもよいが、通常、同一である。
【0122】
前記式(3)で表される代表的な第1のジカルボン酸単位(B1)としては、A3aおよびA3bが直鎖状または分岐鎖状C2-6アルキレン基である構成単位、例えば、9,9-ビス(2-カルボキシエチル)フルオレン、9,9-ビス(2-カルボキシプロピル)フルオレンなどの9,9-ビス(カルボキシC2-6アルキル)フルオレンに由来する構成単位などが挙げられる。これらの第1のジカルボン酸単位(B1)は、単独でまたは2種以上組み合わせて含まれていてもよい。これらの第1のジカルボン酸単位(B1)のうち、好ましくは9,9-ビス(カルボキシC2-5アルキル)フルオレンに由来する構成単位であり、さらに好ましくは9,9-ビス(カルボキシC2-4アルキル)フルオレン、なかでも、9,9-ビス(2-カルボキシエチル)フルオレン、9,9-ビス(2-カルボキシプロピル)フルオレンなどの9,9-ビス(カルボキシC2-3アルキル)フルオレン、特に9,9-ビス(2-カルボキシエチル)フルオレンに由来する構成単位を含むのが好ましい。
【0123】
(第2のジカルボン酸単位(B2))
ジカルボン酸単位(B)は、必要に応じて、さらに、脂環族ジカルボン酸成分に由来する第2のジカルボン酸単位(B2)を含んでいてもよい。第2のジカルボン酸単位(B2)を含んでいると、複屈折を過度に上昇させることなく耐熱性を向上できる。また、アッベ数を中間領域の範囲内で高めるように調整することもできる。
【0124】
前記脂環族ジカルボン酸成分は、化学構造中に少なくとも1つの脂肪族炭化水素環を含むジカルボン酸成分であり、複屈折の上昇やアッベ数の低下を抑える観点から、化学構造中にアレーン環(またはアリール基)などの芳香族環を含まないジカルボン酸成分であるのが好ましい。
【0125】
前記脂肪族炭化水素環は、単環式(非架橋環式)または架橋環式であってもよく、また、飽和または不飽和であってもよい。飽和脂肪族炭化水素環としては、単環式飽和脂肪族炭化水素環(またはシクロアルカン環)、架橋環式飽和脂肪族炭化水素環などが挙げられ、不飽和脂肪族炭化水素環としては、単環式不飽和脂肪族炭化水素環、架橋環式不飽和脂肪族炭化水素環などが挙げられる。
【0126】
単環式飽和脂肪族炭化水素環(またはシクロアルカン環)としては、例えば、シクロペンタン環、シクロヘキサン環、シクロヘプタン環、シクロオクタン環などのC3-12シクロアルカン環などが挙げられ、好ましくはC4-10シクロアルカン環、さらに好ましくはC5-8シクロアルカン環である。
【0127】
架橋環式飽和脂肪族炭化水素環としては、例えば、ビシクロペンタン環、ノルボルナン環、デカリン環、アダマンタン環、テトラヒドロジシクロペンタジエン環などのビシクロまたはトリシクロC4-13アルカン環などが挙げられ、好ましくはビシクロまたはトリシクロC5-12アルカン環、さらに好ましくはビシクロまたはトリシクロC6-10アルカン環である。
【0128】
単環式不飽和脂肪族炭化水素環としては、前記単環式飽和脂肪族炭化水素環(またはシクロアルカン環)として例示した環に対応して、少なくとも1つの不飽和結合を有する環などが挙げられ、例えば、シクロヘキセン環などのシクロアルケン環、シクロヘキサジエン環などのシクロアルカジエン環などが挙げられ、好ましくはC3-12不飽和脂肪族炭化水素環、より好ましくはC4-10不飽和脂肪族炭化水素環、さらに好ましくはC5-8不飽和脂肪族炭化水素環である。
【0129】
架橋環式不飽和脂肪族炭化水素環としては、前記架橋環式飽和脂肪族炭化水素環として例示した環に対応して、少なくとも1つの不飽和結合を有する環などが挙げられ、例えば、ノルボルネン環、ジヒドロジシクロペンタジエン環、ジシクロペンタジエン環などのビシクロまたはトリシクロC4-13不飽和脂肪族炭化水素環などが挙げられ、好ましくはビシクロまたはトリシクロC5-12不飽和脂肪族炭化水素環、さらに好ましくはビシクロまたはトリシクロC6-10不飽和脂肪族炭化水素環である。
【0130】
前記脂環族ジカルボン酸成分は、これらの脂肪族炭化水素環を単独でまたは2種以上組み合わせて化学構造中に含んでいてもよい。2以上の脂肪族炭化水素環を含む場合、2以上の前記環は、互いに直接結合および/または連結基、例えば、メチレン基などのアルキレン基などを介して結合していてもよい。
【0131】
これらの脂肪族炭化水素環のうち、飽和脂肪族炭化水素環が好ましく、単環式飽和脂肪族炭化水素環(またはシクロアルカン環)がより好ましく、C4-10シクロアルカン環がさらに好ましく、特にシクロヘキサン環などのC5-8シクロアルカン環が好ましい。
【0132】
脂環族ジカルボン酸成分に由来する代表的な第2のジカルボン酸単位(B2)としては、下記式(4)で表されるジカルボン酸単位などが挙げられる。
【0133】
【化9】
【0134】
(式中、Zは脂肪族炭化水素環を示し、
4aおよびA4bはそれぞれ独立して直鎖状または分岐鎖状アルキレン基を示し、s1およびs2は0または1を示し、
は置換基を示し、tは0以上の整数を示す)。
【0135】
前記式(4)において、Zで表される脂肪族炭化水素環としては、前述した脂肪族炭化水素環と好ましい態様も含めて同様の環が挙げられる。
【0136】
4aおよびA4bで表される直鎖状または分岐鎖状アルキレン基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基、1,2-ブタンジイル基、2-メチルプロパン-1,3-ジイル基などの直鎖状または分岐鎖状C1-8アルキレン基が挙げられる。好ましいアルキレン基A4aおよびA4bとしては、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基、2-メチルプロパン-1,3-ジイル基などの直鎖状または分岐鎖状C1-6アルキレン基が挙げられ、より好ましくは直鎖状または分岐鎖状C1-4アルキレン基であり、さらに好ましくは直鎖状または分岐鎖状C1-3アルキレン基であり、なかでも、直鎖状または分岐鎖状C1-2アルキレン基が好ましく、特にメチレン基が好ましい。なお、基A4aおよびA4bの種類は互いに異なっていてもよいが、通常、同一であることが多い。
【0137】
アルキレン基A4aおよびA4bの置換数s1、s2は、0または1のいずれであってもよいが、0であるのが好ましい。また、s1およびs2は互いに異なっていてもよいが、通常、同一であることが多い。
【0138】
で表される置換基としては、例えば、前記式(1)においてRで表される置換基として例示した基と同様の基などが挙げられる。これらの基Rのうち、代表的には、ハロゲン原子、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基などの炭化水素基、アルコキシ基、アシル基、シアノ基、置換アミノ基などが挙げられる。tが1以上である場合、好ましい基Rとしては、アルキル基、具体的には、メチル基などの直鎖状または分岐鎖状C1-6アルキル基;アルコキシ基、具体的には、メトキシ基などの直鎖状または分岐鎖状C1-4アルコキシ基が挙げられ、なかでも、直鎖状または分岐鎖状C1-4アルキル基が好ましく、特にメチル基などの直鎖状または分岐鎖状C1-3アルキル基が好ましい。
【0139】
基Rの置換数tは、環Zの種類に応じて選択でき、例えば0~6程度の整数、好ましくは以下段階的に、0~4の整数、0~2の整数、さらに好ましくは0または1、特に0である。tが2以上である場合、2以上の基Rの種類は、互いに同一または異なっていてもよい。また、基Rの置換位置は特に制限されず、基[-(A4as1-C(=O)-]および[-(A4bs2-C(=O)-]と環Zとの結合位置以外の位置に置換していればよい。
【0140】
基[-(A4as1-C(=O)-]および[-(A4bs2-C(=O)-]と環Zとの結合位置(置換位置)は、例えば、環Zがシクロヘキサン環である場合、1,2位、1,3位または1,4位のいずれの位置関係で置換していてもよく、好ましくは1,3位または1,4位、さらに好ましくは1,4位の位置関係である。
【0141】
前記式(4)で表される代表的なジカルボン酸単位としては、s1およびs2が0であるジカルボン酸単位;s1およびs2が1であるジカルボン酸単位などが挙げられる。
【0142】
s1およびs2が0であるジカルボン酸単位としては、例えば、Zが前述の脂肪族ジカルボン酸成分に含まれる脂肪族炭化水素環として具体的に例示した環である構成単位などが挙げられ、例えば、シクロアルカンジカルボン酸、具体的には、シクロヘキサンジカルボン酸などのC4-10シクロアルカン-ジカルボン酸;ビシクロまたはトリシクロアルカンジカルボン酸、具体的には、デカリンジカルボン酸、ノルボルナンジカルボン酸、アダマンタンジカルボン酸などのビシクロまたはトリシクロC5-12アルカン-ジカルボン酸;シクロアルケンジカルボン酸、具体的には、シクロヘキセンジカルボン酸などのC5-10シクロアルケン-ジカルボン酸;ビシクロまたはトリシクロアルカンジカルボン酸、具体的には、ノルボルネンジカルボン酸などのビシクロまたはトリシクロC5-12アルケン-ジカルボン酸に由来するジカルボン酸単位などが挙げられる。
【0143】
s1およびs2が1であるジカルボン酸単位としては、例えば、Zが前述の脂肪族ジカルボン酸成分に含まれる脂肪族炭化水素環として具体的に例示した環である構成単位などが挙げられ、例えば、ビス(カルボキシアルキル)シクロアルカン、具体的には、ビス(カルボキシメチル)シクロヘキサンなどのビス(カルボキシC1-3アルキル)C5-10シクロアルカン;ビス(カルボキシアルキル)ビシクロまたはトリシクロアルカン、具体的には、ビス(カルボキシメチル)アダマンタンなどのビス(カルボキシC1-3アルキル)ビシクロまたはトリシクロC5-12アルカンなどに由来するジカルボン酸単位が挙げられる。
【0144】
これらの前記式(4)で表されるジカルボン酸単位は、単独でまたは2種以上組み合わせて含んでいてもよい。これらの前記式(4)で表されるジカルボン酸単位のうち、シクロアルカンジカルボン酸に由来する構成単位が好ましく、さらに好ましくは1,4-シクロヘキサンジカルボン酸などのC5-8シクロアルカン-ジカルボン酸に由来する構成単位である。
【0145】
なお、前記式(4)で表されるジカルボン酸単位の割合を含む場合、その割合は、第2のジカルボン酸単位(B2)全体に対して、例えば1モル%以上、具体的には10~100モル%程度の範囲から選択でき、好ましい範囲としては、以下段階的に、30モル%以上、50モル%以上、60モル%以上、70モル%以上、80モル%以上、90モル%以上、95モル%以上であり、さらに好ましくは100モル%、すなわち、実質的に前記式(4)で表されるジカルボン酸単位で第2のジカルボン酸単位(B2)を構成するのが好ましい。
【0146】
(第3のジカルボン酸単位(B3))
なお、ジカルボン酸単位(B)は、第1のジカルボン酸単位(B1)および第2のジカルボン酸単位(B2)とは異なるジカルボン酸単位(第3のジカルボン酸単位(B3))を必要に応じて含んでいてもよいが、含んでいなくてもよい。
【0147】
第3のジカルボン酸単位(B3)としては、例えば、芳香族ジカルボン酸成分、脂肪族ジカルボン酸成分などに由来する構成単位が挙げられる。
【0148】
芳香族ジカルボン酸成分としては、例えば、単環式芳香族ジカルボン酸、多環式芳香族ジカルボン酸などが挙げられる。単環式芳香族ジカルボン酸としては、例えば、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸などのベンゼンジカルボン酸;アルキルベンゼンジカルボン酸、具体的には、4-メチルイソフタル酸などのC1-4アルキル-ベンゼンジカルボン酸などが挙げられる。
【0149】
多環式芳香族ジカルボン酸としては、例えば、縮合多環式芳香族ジカルボン酸、具体的には、1,2-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、1,8-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸などのナフタレンジカルボン酸、アントラセンジカルボン酸、フェナントレンジカルボン酸などの縮合多環式C10-24アレーン-ジカルボン酸、好ましくは縮合多環式C10-14アレーン-ジカルボン酸など;アリールアレーンジカルボン酸、具体的には、2,2’-ビフェニルジカルボン酸、4,4’-ビフェニルジカルボン酸などのC6-10アリール-C6-10アレーン-ジカルボン酸など;ジアリールアルカンジカルボン酸、具体的には、4,4’-ジフェニルメタンジカルボン酸などのジC6-10アリールC1-6アルカン-ジカルボン酸など;ジアリールケトンジカルボン酸、具体的には、4,4’-ジフェニルケトンジカルボン酸などのジ(C6-10アリール)ケトン-ジカルボン酸;およびこれらのエステル形成性誘導体などが挙げられる。
【0150】
脂肪族ジカルボン酸成分としては、例えば、アルカンジカルボン酸、具体的には、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸などのC2-12アルカン-ジカルボン酸など;不飽和脂肪族ジカルボン酸、具体的には、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などのC2-10アルケン-ジカルボン酸、およびこれらのエステル形成性誘導体などが挙げられる。
【0151】
これらのジカルボン酸単位(B3)は、単独でまたは2種以上組み合わせてもよい。
【0152】
第1のジカルボン酸単位(B1)および第2のジカルボン酸単位(B2)の総量の割合は、ジカルボン酸単位(B)全体に対して、例えば1モル%以上、具体的には10~100モル%程度の範囲から選択でき、好ましい範囲としては、以下段階的に、30モル%以上、50モル%以上、60モル%以上、70モル%以上、80モル%以上、90モル%以上、95モル%以上であり、特に100モル%、実質的に第3のジカルボン酸単位(A3)を含まないのが好ましい。
【0153】
ジカルボン酸単位(B)は、高い耐熱性を保持しつつ、複屈折を有効に低減できる観点から、少なくとも第1のジカルボン酸単位(B1)を含むのが好ましい。第1のジカルボン酸単位(B1)の割合は、ジカルボン酸単位(B)全体に対して、例えば0.1~100モル%、具体的には1~90モル%程度の範囲から選択でき、好ましい範囲としては、以下段階的に、5~80モル%、10~60モル%、12~50モル%、15~40モル%、17~35モル%であり、さらに好ましくは20~30モル%である。第1のジカルボン酸単位(B1)が少なすぎると、複屈折を低減できないおそれがあり、多すぎるとアッベ数が低下するおそれがある。
【0154】
ジカルボン酸単位(B)が第2のジカルボン酸単位(B2)を含む場合、その割合は、ジカルボン酸単位(B)全体に対して、例えば0.1~100モル%、具体的には10~99モル%程度の範囲から選択でき、好ましい範囲としては、以下段階的に、20~95モル%、40~90モル%、50~88モル%、60~85モル%、65~83モル%であり、さらに好ましくは70~80モル%である。第2のジカルボン酸単位(B2)が少なすぎると、耐熱性が低下するおそれや、アッベ数が低下して中間領域に調整し難くなるおそれがあり、多すぎると複屈折が上昇し過ぎるおそれがある。
【0155】
ジカルボン酸単位(B)は、中間領域のアッベ数と、高い耐熱性と、低い複屈折とをバランスよく充足できる点から、第1のジカルボン酸単位(B1)および第2のジカルボン酸単位(B2)の双方を含む場合、第1のジカルボン酸単位(B1)と第2のジカルボン酸単位(B2)との割合(B1/B2)は、例えば、B1/B2(モル比)=0.1/99.9~99/1程度の範囲から選択でき、好ましくは以下段階的に、1/99~90/10、5/95~80/20、10/90~60/40、12/88~50/50、15/85~40/60、17/83~35/65であり、さらに好ましくは20/80~30/70である。第1のジカルボン酸単位(B1)が多すぎると、アッベ数が低下するおそれや、耐熱性が低下するおそれがあり、第2のジカルボン酸単位(B2)が多すぎると、複屈折が上昇し過ぎるおそれがある。
【0156】
(他の構成単位(C))
なお、ポリエステル系樹脂は、ジオール単位(A)およびジカルボン酸単位(B)とは異なる他の構成単位(C)を必要に応じて含んでいてもよいが、含んでいなくてもよい。
【0157】
他の構成単位(C)としては、例えば、ヒドロキシアルカン酸や対応するラクトン、3以上のカルボキシル基および/またはヒドロキシル基を有する多官能性重合成分、カーボネート結合形成成分などに由来する構成単位などが挙げられる。
【0158】
前記ヒドロキシアルカン酸や対応するラクトンとしては、例えば、乳酸、3-ヒドロキシ酪酸、6-ヒドロキシヘキサン酸などのヒドロキシアルカン酸;ε-カプロラクトンなどのヒドロキシアルカン酸に対応するラクトンなどが挙げられる。
【0159】
前記多官能性重合成分としては、例えば、トリメリット酸、ピロメリット酸などの3価以上の多価カルボン酸や、グリセリン、ペンタエリスリトールなどの3価以上の多価アルコールなど、合計で3以上のカルボキシル基および/またはヒドロキシル基を有する多官能性重合成分などが挙げられる。
【0160】
カーボネート結合形成成分としては、2つのジオール成分との反応により、カーボネート結合を形成可能な化合物であればよい。すなわち、「カーボネート結合形成成分に由来する構成単位」とは、カルボニル基を意味し、このカルボニル基に隣接して結合する2つのジオール単位の末端酸素原子とともにカーボネート結合を形成する。代表的なカーボネート結合形成成分としては、例えば、ホスゲン、トリホスゲンなどのホスゲン類、ジフェニルカーボネートなどの炭酸ジエステル類などが挙げられる。
【0161】
このような他の構成単位(C)の割合は、構成単位全体(ジオール単位(A)、ジカルボン酸単位(B)および他の構成単位(C)の総量)に対して、例えば、50モル%以下、好ましい範囲としては、以下段階的に、40モル%以下、30モル%以下、20モル%以下、10モル%以下、5モル%以下であり、通常、他の構成単位(C)を実質的に含まない場合が多い。なお、前記割合は、0~10モル%程度、例えば0.01~1モル%程度であってもよい。
【0162】
[ポリエステル系樹脂の製造方法]
ポリエステル系樹脂の製造方法は、前記第1のジオール成分(A1)を含むジオール成分(A)を重合成分として用いること以外は特に制限されず、樹脂の種類または他の重合成分(共重合成分)などに応じて、慣用の方法が利用できる。例えば、ジオール単位(A)とジカルボン酸単位(B)とを含むポリエステル系樹脂である場合、前述の各構成単位に対応する成分を含む重合成分を反応(重合)させて製造すればよく、例えば、エステル交換法(エステル交換反応)、直接重合法などの溶融重合法、溶液重合法、界面重合法などの慣用の方法で調製でき、溶融重合法が好ましい。なお、反応は、重合方法に応じて、溶媒の存在下または非存在下で行ってもよい。
【0163】
ジオール単位(A)とジカルボン酸単位(B)とを含むポリエステル系樹脂を調製する場合、ジオール成分(A)とジカルボン酸成分(B)との使用割合(または仕込み割合)は、通常、前者/後者(モル比)=例えば、1/1.2~1/0.8、好ましくは1/1.1~1/0.9であるが、必ずしもこの範囲である必要はなく、重合成分に含まれる少なくとも1種の成分を、予定する導入割合に対して過剰に用いて反応させてもよい。例えば、反応系から留出可能なエチレングリコールなどの第2のジオール成分(A2)は、ポリエステル系樹脂中に導入される割合(または導入割合)よりも過剰に使用してもよい。
【0164】
反応は、触媒の存在下で行ってもよい。触媒としては、慣用のエステル化触媒、例えば、金属触媒などが利用できる。金属触媒としては、例えば、ナトリウムなどのアルカリ金属;マグネシウム、カルシウム、バリウムなどのアルカリ土類金属;チタン、マンガン、コバルトなどの遷移金属;亜鉛、カドミウムなどの周期表第12族金属;アルミニウムなどの周期表第13族金属;ゲルマニウム、鉛などの周期表第14族金属;アンチモンなどの周期表第15族金属などを含む金属化合物が用いられる。金属化合物としては、例えば、アルコキシド;酢酸塩、プロピオン酸塩などの有機酸塩;ホウ酸塩、炭酸塩などの無機酸塩;酸化物などであってもよく、これらの水和物であってもよい。代表的な金属化合物としては、例えば、二酸化ゲルマニウム、水酸化ゲルマニウム、シュウ酸ゲルマニウム、ゲルマニウムテトラエトキシド、ゲルマニウム-n-ブトキシドなどのゲルマニウム化合物;三酸化アンチモン、酢酸アンチモン、アンチモンエチレングリコレートなどのアンチモン化合物;テトラ-n-プロピルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラ-n-ブチルチタネート(チタン(IV)テトラブトキシド)、シュウ酸チタン、シュウ酸チタンカリウムなどのチタン化合物;酢酸マンガン・4水和物などのマンガン化合物;酢酸カルシウム・1水和物などのカルシウム化合物などが例示できる。
【0165】
これらの触媒は単独でまたは2種以上組み合わせて使用できる。複数の触媒を用いる場合、反応の進行に応じて、各触媒を添加することもできる。これらの触媒のうち、酢酸マンガン・4水和物、酢酸カルシウム・1水和物、二酸化ゲルマニウム、チタン(IV)テトラブトキシドなどが好ましい。触媒の使用量は、例えば、ジカルボン酸成分(B)1モルに対して、0.01×10-4~100×10-4モル、好ましくは0.1×10-4~40×10-4モルである。
【0166】
また、反応は、必要に応じて、熱安定剤や酸化防止剤などの安定剤の存在下で行ってもよい。通常、熱安定剤がよく利用され、例えば、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、ジブチルホスフェート(リン酸ジブチルまたはジブチルリン酸)、亜リン酸、トリメチルホスファイト、トリエチルホスファイトなどのリン化合物などが挙げられる。これらのうち、リン酸ジブチルがよく利用される。熱安定剤の使用量は、例えば、ジカルボン酸成分(B)1モルに対して、0.01×10-4~100×10-4モル、好ましくは0.1×10-4~40×10-4モルである。
【0167】
反応は、通常、不活性ガス、例えば、窒素ガス;ヘリウム、アルゴンなどの希ガスなどの雰囲気中で行われる。また、反応は、減圧下、例えば、1×10~1×10Pa程度で行うこともできる。通常、エステル交換反応は、窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気下で行うことが多く、重縮合反応は、減圧下で行うことが多い。反応温度は、重合方法に応じて選択でき、例えば、溶融重合法における反応温度は150~320℃、好ましくは180~310℃、さらに好ましくは200~300℃である。
【0168】
[樹脂の特性および成形体]
(特性)
ポリエステル系樹脂は、前記第1のジオール単位(A1)を含むため、アッベ数を中間領域に容易に調整できる。高い屈折率および高い耐熱性を有している。また、中間領域のアッベ数と、高い耐熱性と、低い複屈折の絶対値とを高度にバランスよく充足することもできる。
【0169】
ポリエステル系樹脂のアッベ数は、温度20℃において、例えば28~55、好ましい範囲としては、以下段階的に、30~50、35~45、37~43、38~42であり、さらに好ましくは39~41である。
【0170】
ポリエステル系樹脂の屈折率nDは、温度20℃、波長589nmにおいて、例えば1.5~1.6程度の範囲から選択でき、好ましくは以下段階的に、1.51~1.59、1.52~1.58、1.53~1.57、1.54~1.56であり、さらに好ましくは1.55~1.555である。一般的に、高屈折率になるとアッベ数が低下し、低屈折率になるとアッベ数が上昇する傾向にあるため、屈折率が前記範囲から大きく外れると、アッベ数を中間領域に調整できないおそれがある。
【0171】
ポリエステル系樹脂のガラス転移温度Tgは、例えば90~200℃程度の範囲であってもよく、好ましい範囲としては、以下段階的に、100~190℃、110~180℃、120~170℃、130~160℃、135~150℃であり、さらに好ましくは140~145℃である。ガラス転移温度Tgが低過ぎると、耐熱性が低下して、成形および/または使用に際して劣化または変色(または着色)し易くなるおそれや、所定形状に成形後、高温環境下で変形し易くなるおそれがあり、高い耐熱性(または熱安定性)が要求される用途などで利用できなくなるおそれがある。
【0172】
ポリエステル系樹脂の複屈折は、樹脂単独で形成したフィルムを、延伸温度:ガラス転移温度Tg+10℃、延伸速度:25mm/分、延伸倍率:3倍で一軸延伸した延伸フィルムの複屈折(3倍複屈折)により評価してもよい。前記延伸フィルムの3倍複屈折の絶対値は、測定温度20℃、波長600nmにおいて、例えば30×10-4以下の範囲から選択でき、好ましい範囲としては、以下段階的に、25×10-4以下、20×10-4以下、15×10-4以下、10×10-4以下、8×10-4以下、5×10-4以下、3×10-4以下である。通常、0~25×10-4程度、例えば0.1×10-4~20×10-4である。
【0173】
ポリエステル系樹脂の重量平均分子量Mwは、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)などにより測定でき、ポリスチレン換算で、例えば、10000~1000000程度の範囲から選択でき、好ましい範囲としては、以下段階的に、20000~200000、40000~100000、45000~90000、50000~85000、55000~80000、60000~75000、65000~70000である。重量平均分子量Mwが低すぎると、耐熱性や成形性(生産性)が低下し易くなるおそれがある。
【0174】
なお、本明細書および特許請求の範囲において、アッベ数、屈折率nD、ガラス転移温度Tg、3倍複屈折、重量平均分子量Mwは、後述する実施例に記載の方法により測定できる。
【0175】
(成形体)
本発明の成形体は、少なくとも前記ポリエステル系樹脂を含み、優れた光学的特性などを示すため、光学フィルム(または光学シート)、光学レンズなどの光学部材として利用でき、中間領域のアッベ数や低い複屈折などの光学的特性に優れる点から、光学レンズとして有効に利用できる。
【0176】
このような成形体は、慣用の添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、例えば、炭素材などの充填剤または補強剤、染顔料などの着色剤、導電剤、難燃剤、可塑剤、滑剤、離型剤、帯電防止剤、分散剤、流動調整剤、レベリング剤、消泡剤、表面改質剤、加水分解抑制剤、安定剤、低応力化剤などを含んでいてもよい。安定剤としては、例えば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、熱安定剤などが挙げられる。低応力化剤としては、例えば、シリコーンオイル、シリコーンゴム、各種プラスチック粉末、各種エンジニアリングプラスチック粉末などが挙げられる。これらの添加剤は、単独でまたは2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0177】
成形体は、例えば、射出成形法、射出圧縮成形法、押出成形法、トランスファー成形法、ブロー成形法、加圧成形法、キャスティング成形法などを利用して製造することができる。
【0178】
なお、成形体の形状は、特に限定されず、例えば、線状、繊維状(またはファイバー状)、糸状などの一次元的構造、フィルム状、シート状、板状などの二次元的構造、凹または凸レンズ状、棒状、中空状(管状)などの三次元的構造などが挙げられる。
【0179】
ポリエステル系樹脂を用いて、光学フィルムを形成してもよい。このようなフィルムの平均厚みは、1~1000μm程度の範囲から用途に応じて選択でき、例えば1~200μm、好ましくは5~150μm、さらに好ましくは10~120μmである。
【0180】
このようなフィルム(光学フィルム)は、前記樹脂を、慣用の成膜方法、例えば、キャスティング法(溶剤キャスト法)、溶融押出法、カレンダー法などを用いて成膜(または成形)することにより製造できる。
【0181】
フィルムは、延伸フィルムしても低い複屈折を維持できるため、延伸フィルムであってもよい。なお、このような延伸フィルムは、一軸延伸フィルムまたは二軸延伸フィルムのいずれであってもよい。
【0182】
延伸倍率は、一軸延伸または二軸延伸において各方向にそれぞれ、例えば1.1~10倍、好ましくは1.2~6倍であり、さらに好ましくは1.5~3倍である。なお、二軸延伸の場合、等延伸、例えば、縦横両方向に1.5~5倍程度の延伸であってもよく、偏延伸、例えば、縦方向に1.1~4倍程度、横方向に2~6倍程度の延伸であってもよい。また、一軸延伸の場合、縦延伸、例えば、縦方向に2.5~8倍程度の延伸であってもよく、横延伸、例えば、横方向に1.2~5倍程度の延伸であってもよい。
【0183】
延伸フィルムの平均厚みは、例えば1~150μm、好ましくは3~120μm、さらに好ましくは5~100μmである。
【0184】
なお、このような延伸フィルムは、成膜後のフィルム(または未延伸フィルム)に、延伸処理を施すことにより得ることができる。延伸方法は特に制限されず、一軸延伸の場合、湿式延伸法または乾式延伸法のいずれであってもよく、二軸延伸の場合、テンター法(フラット法)であってもチューブ法であってもよいが、延伸厚みの均一性に優れるテンター法が好ましい。
【0185】
また、成形体は他の基材と接合または接着されていてもよく、基材の種類や材質は特に制限されず、例えば、樹脂材料、セラミック材料、金属材料などで形成された一次元的形状、二次元的形状または三次元的形状の基材であってもよい。例えば、成形体がフィルム状である場合、フィルム状などの二次元的形状の基材と組み合わせて積層体または積層フィルムを形成してもよい。
【0186】
前記二次元的形状の基材として代表的には、ガラス基板などのセラミック基板、樹脂フィルムなどが挙げられ、通常、透明基材であることが多い。前記樹脂フィルムを形成する樹脂としては、例えば、鎖状オレフィン系樹脂、環状オレフィン系樹脂(またはシクロオレフィン系樹脂)などのポリオレフィン系樹脂;(メタ)アクリル系樹脂;スチレン系樹脂;ポリアルキレンアリレート樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリカーボネート樹脂などのポリエステル系樹脂;ポリアミド系樹脂などが挙げられ、なかでも、シクロオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂などで形成された樹脂フィルムと貼り合わせて使用してもよい。
【実施例
【0187】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。評価方法および原料を以下に示す。
【0188】
[評価方法]
(ガラス転移温度(Tg))
示差走査熱量計(セイコーインスツル(株)製、DSC 6220)を用い、アルミパンに試料を入れ、窒素ガス雰囲気下、10℃/分の昇温速度の条件下30~220℃の範囲でTgを測定した。
【0189】
(分子量(Mw))
試料をクロロホルムに溶解し、ゲル浸透クロマトグラフィー(東ソー(株)製「HLC-8120GPC」)を用いて、ポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)を求めた。
【0190】
(屈折率およびアッベ数)
多波長アッベ屈折計((株)アタゴ製「DR-M2/1550」)を用いて、接触液に1-ブロモナフタレンを使用して、測定温度20℃、測定波長486nm(F線)、589nm(D線)、656nm(C線)における屈折率nF、nD、nCをそれぞれ測定した。なお、アッベ数は以下の式によって算出した。
【0191】
アッベ数=(nD-1)/(nF-nC)。
【0192】
なお、屈折率およびアッベ数の測定試験片は、試料を200~280℃で熱プレスすることによって、厚みが10~100μmのフィルムを成形し、このフィルムを縦10mm×横10~20mm程度の短冊状に切り出すことで作製した。
【0193】
(複屈折(または3倍複屈折))
試験片をTg+10℃の温度条件下、25mm/分で延伸倍率が3倍となるように一軸延伸し、位相差フィルム・光学材料検査装置(大塚電子(株)製「RETS-100」)を用いて、測定温度20℃、測定波長600nmの条件下、回転検光子法にてリタデーションを測定し、その絶対値を測定部位の厚みで除することで算出した。
【0194】
なお、前記試験片は、試料を200~280℃で熱プレスすることによって、厚みが100~300μmのフィルムを成形し、このフィルムを縦60mm×横30mmの短冊状に切り出すことで作製した。
【0195】
(ポリマー組成)
試料を、内部標準物質としてテトラメチルシランを含む重クロロホルムに溶解し、核磁気共鳴装置(BRUKER社製「AVANCE III HD」)を用いて、H-NMRスペクトルを測定した。得られたスペクトルについて、重合に用いた各々のモノマーに由来するピークの積分値を求め、ポリマー中に導入された各モノマー成分(構成単位)の割合を算出した。
【0196】
[原料]
BARE:4,6-ビス(1-アダマンチル)-1,3-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、後述する合成例1に従って合成したもの
EG:エチレングリコール
CHDA-m:1,4-シクロヘキサンジカルボン酸のジメチルエステル、トランス比率98モル%(trans/cis(モル比)=98/2)
FDP-m:9,9-ビス(2-メトキシカルボニルエチル)フルオレン[すなわち、フルオレン-9,9-プロピオン酸のジメチルエステル]、特開2005-89422号公報の実施例1のアクリル酸t-ブチルをアクリル酸メチル37.9g(0.44モル)に変更した以外は同様にして合成したもの。
【0197】
[合成例1]BAREの合成
還流冷却管、攪拌機、温度計および窒素導入管を備え付けた1Lの4つ口フラスコに、1-アダマンタノール54.8g(0.36mol)、p-トルエンスルホン酸一水和物31.0g(0.18mol)およびヘプタン600mLを仕込み、窒素置換した。そこにレゾルシノール19.8g(0.18mol)を加えた後、100℃のオイルバスに入れ、1時間加熱攪拌した。反応液を冷却後、ろ過して集めた固形分を減圧乾燥し、メタノール水溶液で再結晶して、4,6-ビス(1-アダマンチル)-1,3-ジヒドロキシベンゼン50.0gを得た。
【0198】
そして、還流冷却管、攪拌機、滴下装置、温度計および窒素導入管を備え付けた500mLの4つ口フラスコに、4,6-ビス(1-アダマンチル)-1,3-ジヒドロキシベンゼン50.0g(0.13mol)、ジメチルホルムアミド(DMF)200mLおよび炭酸カリウム(KCO)37.3g(0.27mol)を仕込み、110℃のオイルバスに入れ、DMF 90mLに溶解させた炭酸エチレン46.5g(0.53mol)を滴下投入し、4時間加熱攪拌した。反応液を冷却後、クロロホルムおよび水を加え、60℃に加温して水洗およびろ過を繰り返し、最後にろ過により集めた結晶を減圧乾燥することにより、下記式で表される4,6-ビス(1-アダマンチル)-1,3-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)ベンゼン(BARE)の淡黄色結晶43gを得た。
【0199】
【化10】
【0200】
[実施例1]
ジオール成分としてBARE 0.60molおよびEG 2.40mol、ジカルボン酸成分としてCHDA-m 0.75molおよびFDP-m 0.25mol、エステル交換触媒として酢酸マンガン・4水和物2×10-4molおよび酢酸カルシウム・1水和物8×10-4molを加え撹拌しながら徐々に加熱溶融し、230℃まで昇温した後、トリメチルホスフェート14×10-4mol、酸化ゲルマニウム20×10-4molを加え、270℃、0.13kPa以下に到達するまで徐々に昇温、減圧しながらEGを除去した。所定の撹拌トルクに到達後、内容物を反応器から取り出し、ポリエステル樹脂のペレットを得た。得られたペレットをNMRにより分析したところ、ポリエステル樹脂に導入されたジオール単位の60モル%がBARE由来、40モル%がEG由来であり、ポリエステル樹脂に導入されたジカルボン酸単位の75モル%がCHDA-m由来、25モル%がFDP-m由来であった。得られたポリエステル樹脂のガラス転移温度Tgは142℃、重量平均分子量Mwは66900、屈折率nDは1.5516、アッベ数は39.5、3倍複屈折は17×10-4であった。
【0201】
[実施例2]
ジオール成分としてBARE 0.60molおよびEG 2.40mol、ジカルボン酸成分としてCHDA-m 0.50molおよびFDP-m 0.50molを用いた以外は、実施例1と同様にしてポリエステル樹脂のペレットを得た。得られたペレットをNMRにより分析したところ、ポリエステル樹脂に導入されたジオール単位の60モル%がBARE由来、40モル%がEG由来であり、ポリエステル樹脂に導入されたジカルボン酸単位の50モル%がCHDA-m由来、50モル%がFDP-m由来であった。得られたポリエステル樹脂のガラス転移温度Tgは132℃、重量平均分子量Mwは61700、屈折率nDは1.5581、アッベ数は37.5、3倍複屈折は15×10-4であった。
【0202】
[実施例3]
ジオール成分としてBARE 0.60molおよびEG 2.40mol、ジカルボン酸成分としてFDP-m 1.00molを用いた以外は、実施例1と同様にしてポリエステル樹脂のペレットを得た。得られたペレットをNMRにより分析したところ、ポリエステル樹脂に導入されたジオール単位の60モル%がBARE由来、40モル%がEG由来であり、ポリエステル樹脂に導入されたジカルボン酸単位の100モル%がFDP-m由来であった。得られたポリエステル樹脂のガラス転移温度Tgは134℃、重量平均分子量Mwは72000、屈折率nDは1.5852、アッベ数は31.8、3倍複屈折は-7×10-4であった。
【0203】
[実施例4]
ジオール成分としてBARE 0.40molおよびEG 2.60mol、ジカルボン酸成分としてFDP-m 1.00molを用いた以外は、実施例1と同様にしてポリエステル樹脂のペレットを得た。得られたペレットをNMRにより分析したところ、ポリエステル樹脂に導入されたジオール単位の40モル%がBARE由来、60モル%がEG由来であり、ポリエステル樹脂に導入されたジカルボン酸単位の100モル%がFDP-m由来であった。得られたポリエステル樹脂のガラス転移温度Tgは113℃、重量平均分子量Mwは46900、屈折率nDは1.5882、アッベ数は31.0、3倍複屈折は-3×10-4であった。
【0204】
[実施例5]
ジオール成分としてBARE 0.20molおよびEG 2.80mol、ジカルボン酸成分としてFDP-m 1.00molを用いた以外は、実施例1と同様にしてポリエステル樹脂のペレットを得た。得られたペレットをNMRにより分析したところ、ポリエステル樹脂に導入されたジオール単位の20モル%がBARE由来、80モル%がEG由来であり、ポリエステル樹脂に導入されたジカルボン酸単位の100モル%がFDP-m由来であった。得られたポリエステル樹脂のガラス転移温度Tgは93.6℃、重量平均分子量Mwは80300、屈折率nDは1.5992、アッベ数は27.7、3倍複屈折は-9×10-4であった。
【0205】
結果を表1に示す。
【0206】
【表1】
【0207】
表1から明らかなように、実施例で得られたポリエステル樹脂は、中間領域のアッベ数を示した。
【0208】
BAREおよびEG由来の単位の割合を調整した実施例3~5では、BARE由来の単位が増えるにつれて、低い複屈折を保持しつつガラス転移温度が大きく向上するとともに、アッベ数が増加(屈折率が低下)する傾向が見られた。一般に、ベンゼン環骨格が化学構造中に導入されると屈折率が増加してアッベ数は低下する傾向にあるため、ベンゼン環骨格を含むBARE由来の単位を増やすとアッベ数が低下して中間領域から外れると予想されたが、意外にもBARE由来の単位が多い方がアッベ数を中間領域内で増加でき、予想とは全く逆の傾向を示すことが分かった。
【0209】
また、実施例1~3では、CHDA-mおよびFDP-m由来の単位の割合を調整することにより、高いガラス転移温度と低い複屈折とを保持しつつ、アッベ数を中間領域内において調整できた。すなわち、FDP-m由来の単位の割合が多い実施例3では、ガラス転移温度が若干低下するものの、複屈折の絶対値をより低くでき、アッベ数は中間領域内において低めに調整できた。また、FDP-m由来の単位の割合が少ない実施例1では、複屈折が若干高くなるものの、ガラス転移温度が大きく向上し、アッベ数を中間領域内においてより中央付近(40程度)に調整できた。
【0210】
これらの実施例のなかでも、実施例1~3、特に実施例1では、中間領域のアッベ数だけでなく、高い耐熱性および低い複屈折をバランス良く有していた。
【産業上の利用可能性】
【0211】
本発明のポリエステル系樹脂は、優れた光学的特性などを示すため、様々な用途、例えば、コーティング剤またはコーティング膜、具体的には、塗料、インキ、電子機器や液晶部材などの保護膜など;接着剤、粘着剤;樹脂充填剤;電気・電子材料または電気・電子部品(電気・電子機器)、具体的には、帯電防止剤、キャリア輸送剤、発光体、有機感光体、感熱記録材料、フォトクロミック材料、ホログラム記録材料、帯電トレイ、導電シート、光ディスク、インクジェットプリンタ、デジタルペーパ、カラーフィルタ、有機EL素子、有機半導体レーザ、色素増感型太陽電池、センサ、EMIシールドフィルムなど;機械材料または機械部品(機器)、具体的には、自動車用材料または部品、航空・宇宙関連材料または部品、摺動部材などに利用してもよい。
【0212】
本発明のポリエステル系樹脂は、光学部材として特に有効に利用できる。代表的な光学部材としては、液晶用フィルム、有機EL用フィルムなどの光学フィルム(光学シート);メガネ用レンズ、カメラ用レンズなどの光学レンズ;プリズム、ホログラム、光ファイバーなどが挙げられる。
【0213】
光学フィルムとしては、例えば、偏光フィルム、偏光フィルムを構成する偏光素子と偏光板保護フィルム、位相差フィルム、配向膜(配向フィルム)、視野角拡大(補償)フィルム、拡散板(フィルム)、プリズムシート、導光板、輝度向上フィルム、近赤外吸収フィルム、反射フィルム、反射防止(AR)フィルム、反射低減(LR)フィルム、アンチグレア(AG)フィルム、透明導電(ITO)フィルム、異方導電性フィルム(ACF)、電磁波遮蔽(EMI)フィルム、電極基板用フィルム、カラーフィルタ基板用フィルム、バリアフィルム、カラーフィルタ層、ブラックマトリクス層、光学フィルム同士の接着層もしくは離型層などが挙げられる。これらの光学フィルムは、液晶ディスプレイ(LCD)、有機ELディスプレイ(OLED)、プラズマディスプレイ(PDP)、フィールド・エミッション・ディスプレイ(FED)、電子ペーパなどのディスプレイ用の光学フィルムとして有効に利用でき、具体的な機器または装置としては、テレビジョン;デスクトップ型PC、ノート型PCまたはタブレット型PCなどのパーソナル・コンピュータ(PC);スマートフォン、携帯電話;カー・ナビゲーションシステム;タッチパネルなどフラットパネルディスプレイ(FPD)を備えた機器または装置などが挙げられる。
【0214】
光学レンズとしては、例えば、メガネ用レンズ、コンタクトレンズ、カメラ用レンズ、VTRズームレンズ、ピックアップレンズ、フレネルレンズ、太陽集光レンズ、対物レンズ、ロッドレンズアレイなどが挙げられ、なかでもカメラ用レンズなどの低アッベ数が要求されるレンズに好適に利用できる。このような光学レンズが搭載される機器または装置として、代表的には、スマートフォン、携帯電話、デジタルカメラなどのカメラ機能を有する小型機器またはモバイル機器;ドライブレコーダー、バックカメラ(リアカメラ)などの車載用カメラなどが挙げられる。本発明のポリエステル系樹脂は、中間領域のアッベ数を有するため、特に光学レンズとして好適に利用できる。