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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-08
(45)【発行日】2024-08-19
(54)【発明の名称】流体動圧軸受装置
(51)【国際特許分類】
   F16C 17/02 20060101AFI20240809BHJP
【FI】
F16C17/02 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020050522
(22)【出願日】2020-03-23
(65)【公開番号】P2020165533
(43)【公開日】2020-10-08
【審査請求日】2022-09-16
(31)【優先権主張番号】P 2019059055
(32)【優先日】2019-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(72)【発明者】
【氏名】加藤 大智
【審査官】鈴木 貴晴
(56)【参考文献】
【文献】実開昭63-096321(JP,U)
【文献】特開2004-257510(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2002/0009243(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 17/00
-17/26
F16C 33/00
-33/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸部材と、内周に前記軸部材が挿入された軸受部材と、軸部材の外周面と前記軸受部材の内周面との間のラジアル軸受隙間に生じる流体膜の圧力でもって軸部材を相対回転自在に非接触で支持するラジアル動圧発生部とを備えた流体動圧軸受装置であって、
前記ラジアル動圧発生部は、前記軸受部材の内周面および前記軸部材の外周面のいずれか一方にパターン配置された多数の多角形丘部と、各多角形丘部を囲繞するように形成された多角形溝部と、軸方向に隣接した前記多角形溝部を連結する、軸方向に沿う連結溝部とを備え、
前記連結溝部は前記各多角形丘部を横切っていないことを特徴とする流体動圧軸受装置。
【請求項2】
前記ラジアル動圧発生部は、前記多角形丘部における表面開孔率よりも、前記多角形溝部における表面開孔率を大きくした請求項1に記載の流体動圧軸受装置。
【請求項3】
前記ラジアル動圧発生部は、前記多角形丘部の中心に、潤滑油を供給するための溝部が形成されている請求項1又は2に記載の流体動圧軸受装置。
【請求項4】
前記ラジアル動圧発生部は、前記多角形溝部からの潤滑油の流出を阻止する丘部が形成されている請求項1~3のいずれか一項に記載の流体動圧軸受装置。
【請求項5】
前記連結溝部の周方向に垂直な平面での断面積を前記多角形溝部の断面積よりも大きくした請求項1~4のいずれか一項に記載の流体動圧軸受装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体動圧軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
流体動圧軸受装置は、軸部材の外周面と軸受スリーブの内周面との間のラジアル軸受隙間の流体膜(例えば、油膜)に生じる圧力により、軸部材を相対回転自在に非接触で支持するものである。
【0003】
流体動圧軸受装置は、高回転精度および静粛性から、例えば、HDD等の磁気ディスク駆動装置のスピンドルモータ、レーザビームプリンタ(LBP)のポリゴンスキャナモータ、プロジェクタのカラーホイールモータ、電気機器のファンモータなどに組み込まれて使用される。
【0004】
例えば、特許文献1で開示された流体動圧軸受装置は、軸部材と、内周に軸部材が挿入された軸受スリーブと、軸部材の外周面と軸受スリーブの内周面との間のラジアル軸受隙間に生じる油膜の圧力でもって軸部材を相対回転自在に非接触で支持するラジアル動圧発生部とを備えている。
【0005】
特許文献1の流体動圧軸受装置を構成する軸受スリーブ1を図16に示す。軸受スリーブ1の内周面2には、図16に示すように、軸方向に離隔した二箇所にラジアル軸受面3が形成されている。ラジアル軸受面3にはラジアル動圧発生部が形成されている。図中の白抜き矢印は、潤滑油の流れを示す。
【0006】
この特許文献1の軸受スリーブ1では、ラジアル動圧発生部として、へリングボーン形状の動圧溝4が形成されている。動圧溝4は、丘部5(図中散点で示す領域)と、その丘部5間に位置する溝部6とで構成されている。つまり、丘部5は、溝部6から径方向内側へ隆起した構造をなす。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2011-196544号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、特許文献1に記載の流体動圧軸受装置では、軸部材の回転方向(図16の実線矢印参照)が一方向に限定されている。そのため、軸受スリーブ1を組み込む際に、軸部材の回転方向と適合した向きに軸受スリーブ1を組み込まなければならず、組み込み作業が煩雑になり、作業性が低下する。
【0009】
また、軸受スリーブ1の内周面2に形成された動圧溝4がヘリングボーン形状であることから、軸受面積(動圧溝4の丘部5)が小さくなっている。そのため、軸受スリーブ1のラジアル軸受面3にかかる面圧が高くなり、耐摩耗性が低下する。
【0010】
さらに、軸部材の回転速度が低い領域では、十分な動圧効果を得ることが困難となり、軸部材を非接触で支持することが困難となって、軸部材が軸受スリーブ1のラジアル軸受面3と接触するおそれがある。
【0011】
そこで、本発明は前述の課題に鑑みて提案されたもので、その目的とするところは、軸部材の回転方向が正逆方向のいずれにも対応でき、軸受面積の増大を図り、回転速度が低い領域でも十分な動圧効果が得られる流体動圧軸受装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る流体動圧軸受装置は、軸部材と、内周に軸部材が挿入された軸受部材と、軸部材の外周面と軸受部材の内周面との間のラジアル軸受隙間に生じる流体膜の圧力でもって軸部材を相対回転自在に非接触で支持するラジアル動圧発生部とを具備する。
【0013】
前述の目的を達成するための技術的手段として、本発明におけるラジアル動圧発生部は、軸受部材の内周面および軸部材の外周面のいずれか一方にパターン配置された多数の多角形丘部と、その多角形丘部を囲繞するように形成された多角形溝部とで構成されていることを特徴とする。
【0014】
本発明では、ラジアル動圧発生部として、多角形丘部および多角形溝部からなる動圧溝を形成したことにより、軸部材の回転方向が正逆方向のいずれであっても対応することができる。また、軸受部材の軸受面積(動圧溝の多角形丘部)を増大させることができる。さらに、軸部材の回転速度が低い領域でも、十分な動圧効果を得ることができる。
【0015】
本発明におけるラジアル動圧発生部は、多角形丘部における表面開孔率よりも、多角形溝部における表面開孔率を大きくした構造が望ましい。
【0016】
このような構造を採用すれば、軸受部材のラジアル軸受面に潤滑油を効率よく供給することができる点で有効である。
【0017】
本発明におけるラジアル動圧発生部は、多角形丘部の中心に、潤滑油を供給するための溝部が形成されている構造が望ましい。
【0018】
このような構造を採用すれば、軸受部材のラジアル軸受面に潤滑油が良好に供給されるので、潤滑効率の向上が図れる点で有効である。
【0019】
本発明におけるラジアル動圧発生部は、多角形溝部からの潤滑油の流出を阻止する丘部が形成されている構造が望ましい。
【0020】
このような構造を採用すれば、多角形溝部からの潤滑油の流出を阻止することができるので、潤滑効率の向上が図れる点で有効である。
【0021】
本発明におけるラジアル動圧発生部は、隣接する多角形溝部を連結する連結溝部を有し、連結溝部の断面積を多角形溝部の断面積よりも大きくした構造が望ましい。
【0022】
このような構造を採用すれば、多角形溝部を流れる潤滑油量よりも、連結溝部を流れる潤滑油量が多くなり、ラジアル軸受隙間に潤滑油を連続して供給することができる。
【0023】
本発明における連結溝部は、軸方向で上下に位置する多角形溝部を連結する第一の連結溝部と、多角形溝部を周方向で連結する第二の連結溝部とからなり、第一の連結溝部の断面積を第二の連結溝部の断面積よりも大きくした構造が望ましい。
【0024】
このような構造を採用すれば、回転する軸部材の重心位置が設計点からずれたとしても、軸部材を支持する動圧力は平滑化された範囲で一定となり、ロバスト性(堅牢性)を有することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、ラジアル動圧発生部として、多角形丘部および多角形溝部からなる動圧溝を形成したことにより、軸部材の回転方向が正逆方向のいずれであっても対応することができる。そのため、軸受部材の組み込み作業が簡易化され、作業性の向上が図れる。
【0026】
また、軸受部材の軸受面積(動圧溝の多角形丘部)を増大させることができる。そのため、軸受部材のラジアル軸受面にかかる面圧が小さくなり、耐摩耗性の向上が図れる。
【0027】
さらに、軸部材の回転速度が低い領域でも、十分な動圧効果を得ることができる。そのため、軸部材を確実に非接触で支持することができるので、軸部材が軸受部材のラジアル軸受面と接触することを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】ファンモータの概略構成を示す断面図である。
図2】ファンモータに組み込まれる流体動圧軸受装置を示す断面図である。
図3】流体動圧軸受装置の軸受スリーブの一例を示す断面図である。
図4図3の軸受スリーブで、(A)は正回転時の潤滑油の流れを示す断面図、(B)は逆回転時の潤滑油の流れを示す断面図である。
図5】軸受スリーブの他例を示す断面図である。
図6】軸受スリーブの他例を示す断面図である。
図7】軸受スリーブの他例を示す断面図である。
図8】軸受スリーブの他例を示す断面図である。
図9】連結溝部の断面積を説明するための表である。
図10】動圧溝の丘部の表面積を説明するための表である。
図11】軸部材の一例を示す断面図である。
図12】軸部材の他例を示す断面図である。
図13】軸部材の他例を示す断面図である。
図14】軸部材の他例を示す断面図である。
図15】軸部材の他例を示す断面図である。
図16】従来の流体動圧軸受装置の軸受スリーブを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明に係る流体動圧軸受装置の実施形態を図面に基づいて以下に詳述する。なお、流体動圧軸受装置を説明する前に、流体動圧軸受装置が組み込まれるファンモータについて説明する。
【0030】
図1は、情報機器、例えば携帯電話やタブレット型端末などのモバイル機器に組み込まれる冷却用のファンモータの概略構成を示す。
【0031】
ファンモータの主要部は、図1に示すように、実施形態の流体動圧軸受装置11と、その流体動圧軸受装置11のハウジング12が固定されたモータベース13と、流体動圧軸受装置11の軸部材14が固定されたロータ15とを備えている。
【0032】
モータベース13には、ステータコイル16が取り付けられている。また、ロータ15には、ステータコイル16と径方向のギャップを介して対向するロータマグネット17が取り付けられている。
【0033】
ステータコイル16に通電すると、ステータコイル16とロータマグネット17との間に生じる電磁力でロータ15および軸部材14が一体に回転し、ロータ15に設けられた羽根(図示せず)により軸方向あるいは径方向の気流が発生する。
【0034】
次に、前述のファンモータに組み込まれた流体動圧軸受装置11、つまり、実施形態の流体動圧軸受装置11を以下に詳述する。
【0035】
実施形態の流体動圧軸受装置11は、図2に示すように、軸部材14と、軸受部材である軸受スリーブ18と、有底筒状のハウジング12と、シール部材19とで構成されている。ハウジング12の内部空間には、所定量の潤滑油(図示せず)が充填されている。
【0036】
軸部材14には、ロータ15が取り付けられている(図1参照)。軸受スリーブ18の内周に軸部材14が挿入されている。ハウジング12は軸方向端部に開口部を有し、内周で軸受スリーブ18を保持している。シール部材19は、ハウジング12の軸方向端部に取り付けられてハウジング12の開口部を閉塞する。
【0037】
軸部材14は、例えばステンレス鋼などの金属製で円柱状をなす。軸部材14の外径は、軸受スリーブ18およびシール部材19の内径よりも小さく設定されている。軸部材14の下端には、凸部20が設けられている。軸部材14の上端には、ロータ15が固定されている(図1参照)。
【0038】
ハウジング12は、円筒状の側部21と底部22とを一体的に形成した金属製または樹脂製の部材である。ハウジング12の底部22に樹脂製の受け部材23が配置されている。受け部材23の上面が、軸部材14の凸部20を接触支持するスラスト軸受面として機能する。なお、受け部材23は省略してもよい。その場合、ハウジング12の底面がスラスト軸受面として機能する。
【0039】
軸受スリーブ18は、円筒状をなし、ハウジング12の側部21の内周面に圧入など適宜の手段で固定される。軸受スリーブ18は、例えば銅および鉄を主成分とする銅鉄系の焼結金属からなる多孔質体である。軸受スリーブ18の内部空孔には、潤滑油が含浸されている。軸受スリーブ18の材質は、焼結金属以外に、例えば黄銅などの軟質金属や樹脂からなる多孔質体であってもよい。
【0040】
ラジアル軸受面となる軸受スリーブ18の内周面24にはラジアル動圧発生部が形成される。ラジアル動圧発生部は、軸部材14の外周面25と軸受スリーブ18の内周面24との間のラジアル軸受隙間に生じる流体膜(油膜)の圧力でもって軸部材14を相対回転自在に非接触で支持する。
【0041】
この実施形態では、ラジアル動圧発生部として、図3に示すように、多角形、例えば八角形の動圧溝26が形成されている。ここでは、八角形の動圧溝26を例示しているが、八角形以外の多角形の動圧溝であってもよい。
【0042】
動圧溝26は、軸受スリーブ18の内周面24にパターン配置された多数の八角形丘部27と、その八角形丘部27を囲繞するように形成された八角形溝部28とで構成されている。八角形丘部27は、八角形溝部28(図中の散点で示す領域)から径方向内側へ隆起した構造をなす。
【0043】
図3に示す八角形丘部27および八角形溝部28の数および大きさは、一つの例示であり、軸部材14の外周面25と軸受スリーブ18の内周面24との間のラジアル軸受隙間に油膜を形成する上で適宜に設定すればよい。
【0044】
動圧溝26は、軸受スリーブ18の軸中心に対して対称な形状をなしている。軸受スリーブ18の内周面24に多数の八角形丘部27および八角形溝部28をパターン配置することで、八角形溝部28の一部は、軸部材14の回転方向に対して傾斜した溝が軸中心に対して左右対称に配置されることになる。
【0045】
シール部材19は、例えば黄銅などの軟質金属や、その他の金属あるいは樹脂からなる環状部材である。シール部材19は、軸受スリーブ18の上端面から離隔させた状態でハウジング12の上端部に固定される(図2参照)。
【0046】
図2に示すように、シール部材19の内周面29は、軸部材14の外周面25に近接して非接触シール(ラビリンスシール)を構成する。このシール部材19の形状や構成は、図2に示す構造以外でもよく、任意である。
【0047】
以上で説明した流体動圧軸受装置11では、軸部材14が回転すると、軸受スリーブ18の内周面24と軸部材14の外周面25との間にラジアル軸受隙間が形成される。軸受スリーブ18の動圧溝26は、ラジアル軸受隙間の潤滑油に動圧作用を発生させる。
【0048】
軸部材14の高速回転時、軸受スリーブ18の内周面24と軸部材14の外周面25との間のラジアル軸受隙間に、動圧溝26の動圧作用によって圧力を高められた油膜が形成される。この油膜により軸部材14を非接触で支持するラジアル軸受部が形成される。軸部材14に負荷されるスラスト荷重は、スラスト軸受部である受け部材23の上面で接触支持される。
【0049】
つまり、動圧溝26の八角形溝部28に沿ってラジアル軸受隙間の潤滑油が八角形丘部27側に集められ、八角形丘部27と軸部材14の外周面25との間で圧力が最大となる。これにより、軸部材14を非接触で支持するラジアル軸受部が構成される。軸部材14の凸部20と受け部材23とが摺動することで、軸部材14を接触支持するスラスト軸受部が構成される。
【0050】
ここで、流体動圧軸受装置11は、動圧軸受と真円軸受に大別される。動圧軸受は、軸受スリーブ18の内周面24に、ラジアル軸受隙間の油膜に積極的に動圧を発生させる動圧溝26を設けたものである。真円軸受は、軸受スリーブ18の内周面24を円筒面とし、軸部材14の振れ回りにより動圧を発生させるものである。
【0051】
この流体動圧軸受装置11を有するファンモータでは、定常姿勢での使用時、動圧軸受としての動圧溝26による圧力向上効果により、軸部材14、ひいてはロータ15および羽根が高い回転精度で回転し、軸部材14と軸受スリーブ18との接触による異音の発生などが生じ難い。
【0052】
また、このファンモータを非定常状態(例えば、軸部材14の振れ回りによるスイング状態)で使用し、軸部材14が軸受スリーブ18に対して大きく偏心した場合でも、動圧溝26の八角形溝部28に対して八角形丘部27の割合が大きいことから、真円軸受に近い支持力を発揮することができる。
【0053】
以上で説明した実施形態の流体動圧軸受装置11では、ラジアル動圧発生部として、八角形丘部27および八角形溝部28からなる動圧溝26を形成したことにより、図4(A)(B)に示すように、軸部材14の回転方向が正方向および逆方向(図中の実線矢印参照)のいずれであっても対応することができる。
【0054】
つまり、軸部材14の回転方向が正方向の場合、潤滑油の流れは、図4(A)の白抜き矢印で示す向きとなる。また、軸部材14の回転方向が逆方向の場合、潤滑油の流れは、図4(B)の白抜き矢印で示す向きとなる。
【0055】
これにより、軸受スリーブ18を組み込む際に、軸部材14の回転方向について制約がないので、軸受スリーブ18の組み込み方向を限定されることなく組み込むことができる。また、軸部材14の回転方向が変化する用途でも使用可能である。その結果、軸受スリーブ18の組み込み作業が簡易化され、作業性の向上が図れる。
【0056】
また、軸受スリーブ18の軸受面積(動圧溝26の八角形丘部27)を増大させることができる。そのため、軸受スリーブ18のラジアル軸受面にかかる面圧が小さくなり、耐摩耗性の向上が図れる。その結果、流体動圧軸受装置11の長寿命化が図れる。
【0057】
さらに、軸部材14の回転速度が低い領域でも、十分な動圧効果を得ることができる。特に、起動停止および低速回転時、八角形溝部28が油溜まりとして機能する。これにより、軸部材14を確実に非接触で支持することができるので、軸部材14が軸受スリーブ18のラジアル軸受面と接触することを抑制できる。
【0058】
この実施形態の軸受スリーブ18は多孔質体であり、八角形丘部27における表面開孔率を20%以下、好ましくは2~10%に設定する。そして、八角形丘部27における表面開孔率よりも、八角形溝部28における表面開孔率を大きく設定する。
【0059】
このような構造を採用することにより、軸受スリーブ18のラジアル軸受面に潤滑油を効率よく供給することができる。
【0060】
軸受スリーブ18の内周面24において、図5に示すように、八角形丘部27の中心に、潤滑油を供給するための溝部30(ポケット)を形成するようにしてもよい。図5の白抜き矢印は、溝部30からの潤滑油の流れを示す。
【0061】
このような構造を採用することにより、図5の白抜き矢印で示すように、軸受スリーブ18のラジアル軸受面に潤滑油が良好に供給されるので、潤滑効率の向上が図れる。
【0062】
軸受スリーブ18の内周面24において、図6に示すように、軸受スリーブ18の内周面24の軸方向両端に、八角形溝部28からの潤滑油の流出を阻止する丘部31を形成するようにしてもよい。
【0063】
このような構造を採用することにより、八角形溝部28から軸受スリーブ18の外部へ潤滑油が流出することを阻止できるので、潤滑効率の向上が図れる。
【0064】
図3図5および図6に示す実施形態の軸受スリーブ18の内周面24において、隣接する八角形溝部28を連結する連結溝部32が形成されている。動圧溝26において、連結溝部32の断面積を八角形溝部28の断面積よりも大きくする。前提条件として、連結溝部32の断面積を八角形溝部28の断面積の2倍よりも大きくする。
【0065】
例えば、図9の溝本数3本で内径φ2の形態を例示すると、八角形溝部28の深さを0.003mm、その幅W1を0.1607mmとした場合、八角形溝部28の断面積は、0.003mm×0.1607mm=0.0004821mmとなる。これに対して、連結溝部32の深さを0.003mm、その幅W2を0.9517mmとし、連結溝部32の断面積を、0.003mm×0.9517mm=0.0028551mmとする。
【0066】
ここで、連結溝部32の断面積が大きくなり過ぎると、動圧が低下してしまうため、連結溝部32の断面積は、0.0028551mm2以下とすることが望ましい。そのため、八角形溝部28の断面積を決めた上で、連結溝部32の断面積を設定することが好ましい。また、八角形溝部28および連結溝部32の深さは、ラジアル軸受隙間と同じ寸法にすることが望ましい。
【0067】
以上のように、連結溝部32の断面積を八角形溝部28の断面積よりも大きくすることにより、八角形溝部28を流れる潤滑油量よりも、連結溝部32を流れる潤滑油量が多くなり、ラジアル軸受隙間に潤滑油を連続して供給することができる。その結果、動圧溝26において、ラジアル軸受隙間の潤滑油に動圧作用を効果的に発生させることができる。
【0068】
なお、連結溝部32の断面積が八角形溝部28の断面積よりも小さいと、八角形溝部28を流れる潤滑油量よりも、連結溝部32を流れる潤滑油量が少なくなり、八角形溝部28の入口付近で負圧が発生し、十分な動圧効果を得ることが困難となる。
【0069】
以上で説明した連結溝部32(以下、第一の連結溝部と称す)は、図7に示すように、軸受スリーブ18の軸方向で上下に位置して隣接する二つの八角形溝部28を連結している。また、上下に位置する八角形溝部28のそれぞれを周方向で連結する連結溝部33(以下、第二の連結溝部と称す)が形成されている。
【0070】
第一の連結溝部32は、八角形溝部28および第2の連結溝部33の潤滑油不足を抑制する油溜まり機能を有する。八角形溝部28は、動圧作用を発生させると共に、第二の連結溝部33で発生する圧力による逆流を抑制する機能を有する。
【0071】
第二の連結溝部33は、動圧の圧力ピークを平滑化し、軸部材14の重心位置がずれることによる偏心を抑制する機能を有する。つまり、軸部材14の重心位置が設計点からずれたとしても、軸部材14を支持する動圧力は平滑化された範囲で一定となり、ロバスト性(堅牢性)を有することができる。
【0072】
ここで、第一の連結溝部32の断面積は、潤滑油を溜めることから大きい方が好ましいが、第一の連結溝部32の断面積を大きくし過ぎると、八角形溝部28の流路長が短くなり、動圧を最大限発生させることが困難となる。
【0073】
なお、八角形溝部28の流路長を短くすることなく、第一の連結溝部32の断面積を大きくする構造としては、第一の連結溝部32の軸方向長さを変更できないことから、図8に示すように、第一の連結溝部32を周方向に拡げた窪み部34を形成することが有効である。
【0074】
一方、八角形溝部28の流路長を長くすることにより動圧の発生を高めることができるが、八角形溝部28の流路長を長くし過ぎると、第一の連結溝部32および第二の連結溝部33の断面積を小さくすることになり、第一の連結溝部32および第二の連結溝部33の機能を低下させることになる。
【0075】
また、第二の連結溝部33は、動圧の圧力ピークを平滑化し、軸部材14の重心位置がずれることによる偏心を抑制することから、大きな断面積を有することが好ましいが、第二の連結溝部33の断面積を大きくし過ぎると、第一の連結溝部32と同様、八角形溝部28の流路長が短くなり、動圧を最大限発生させることが困難となる。
【0076】
そこで、第一の連結溝部32、八角形溝部28および第二の連結溝部33の各断面積を以下のように規定する。第一の連結溝部32の断面積A、八角形溝部28の断面積B、第二の連結溝部33の断面積Cとすると、A>C≧2Bと規定する(図9参照)。
【0077】
第一の連結溝部32、八角形溝部28および第二の連結溝部33の深さが同一であることから、図9では、第一の連結溝部32、八角形溝部28および第二の連結溝部33の各断面積を各断面幅で表している。なお、図中の「本数」は、軸受スリーブ18の軸方向で上下に位置する二個の八角形丘部27を一本とし、軸受スリーブ18の周方向に配置した本数を意味する。
【0078】
図9に示すように、第一の連結溝部32と八角形溝部28の断面積比A/2Bは、2.96以上で、かつ、8.26以下が好ましい。この断面積比が2.96よりも小さいと、八角形溝部28および第二の連結溝部33での潤滑油不足が発生し、動圧が低下する。また、断面積比が8.26よりも大きいと、八角形溝部28の流路長を確保することが困難となり、動圧が低下する。
【0079】
また、第二の連結溝部33と八角形溝部28の断面積比C/2Bは、2.18以上で、かつ、6.07以下が好ましい。この断面積比が2.18よりも小さいと、第二の連結溝部33により動圧の最大ピークを平滑化することが困難となり、軸部材14の重心ずれによる偏心を抑制することが困難となる。また、断面積比が6.07よりも大きいと、八角形溝部28の流路長を確保することが困難となって動圧が低下すると共に、第一の連結溝部32への潤滑油の逆流を抑制することが困難となってトルクが高くなる。
【0080】
この流体動圧軸受装置11では、ラジアル動圧発生部として、八角形丘部27および八角形溝部28からなる動圧溝26を形成したことにより、軸受スリーブ18の軸受面積、つまり、丘部総和表面積を増大させることで真円軸受に近い支持力を発揮させることができる。また、動圧溝26の八角形丘部27の表面積を増大させることで、軸部材14の回転速度が低い領域でも、十分な動圧効果を得ることができ、真円軸受に近い支持力を発揮させることができる。さらに、八角形溝部28により発生する動圧効果は、軸部材14と軸受スリーブ18の隙間が円周上に偏りや傾きをもった際に、軸部材14と軸受スリーブ18間の隙間が小さい方が、軸部材14と軸受スリーブ18間の隙間が大きい方に比べ動圧が大きくなることで軸部材14の偏心を抑制する。
【0081】
図10に示すように、軸受スリーブ18の内周面24の全体表面積をD、その全体表面積Dに占める丘部表面積の総和(丘部総和表面積)をEとすると、全体表面積Dに対する丘部総和表面積Eの比E/Dを76~78%とする。このことから、動圧溝26の丘部総和表面積Eを増大させることが好ましい。
【0082】
なお、軸受スリーブ18の内周面24において軸方向に沿う溝部の本数によって変化するが、一個当たりの八角形丘部27の表面積をFとすると、軸受スリーブ18と一個当たりの八角形丘部27の表面積比F/Dを2~6%とする。
【0083】
この表面積比F/Dが2%より小さいと、一個当たりの八角形丘部27の動圧発生力が低下し、表面積比F/Dが6%より大きいと、第一の連結溝部32および第二の連結溝部33の寸法が小さくなることで動圧が低下する。
【0084】
また、この実施形態では、軸受スリーブ18の周方向に対する八角形溝部28の角度は15°~45°程度であればよい。図10に示す八角形溝部28の角度θは40°としている(図7参照)。
【0085】
この実施形態では、図7に示すように、軸方向中央に位置する八角形丘部27の軸方向寸法L1を軸方向上下に位置する八角形丘部27の軸方向寸法L2よりも長くしている(L1>L2)。
【0086】
これにより、第一の連結溝部32および第二の連結溝部33に潤滑油が流入する八角形溝部28の中心線と、第一の連結溝部32および第二の連結溝部33から潤滑油が流出する八角形溝部28の中心線とが同一直線状になく、その中心線を延伸した際に、軸方向中央に位置する八角形丘部27に当接するまで、両方の中心線が交わることはない(図7の一点鎖線参照)。
【0087】
このような構造とすることにより、第一の連結溝部32および第二の連結溝部33での潤滑油の滞留を防止することで動圧抜けを抑制することができ、八角形溝部28での圧力を安定化させることができる。
【0088】
以上の実施形態では、軸受スリーブ18の内周面24に動圧溝26を設けた場合を例示したが、図11図15に示すように、軸受スリーブ18の内周面24を平滑な円筒面とし、対向する軸部材14の外周面25に動圧溝26を形成してもよい。
【0089】
なお、図11に示す実施形態は、図3に示す実施形態と対応する。図12に示す実施形態は、図5に示す実施形態と対応する。図13に示す実施形態は、図6に示す実施形態と対応する。図14に示す実施形態は、図7に示す実施形態と対応する。図15に示す実施形態は、図8に示す実施形態と対応する。
【0090】
以上の実施形態では、スラスト軸受部の受け部材23が軸部材14の凸部20を接触支持するものを例示したが(図2参照)、スラスト軸受部は、実施形態のラジアル軸受部と同様に、油膜の圧力で軸部材14を非接触で支持するものであってもよい。
【0091】
また、実施形態では、軸受スリーブ18を固定し軸部材14を回転させる、いわゆる軸回転タイプの流体動圧軸受装置11を例示したが、これに限らず、軸部材14を固定し軸受スリーブ18を回転させる、いわゆる軸固定タイプの流体動圧軸受装置にも本発明を適用してもよい。
【0092】
本発明は前述した実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、さらに種々なる形態で実施し得ることは勿論のことであり、本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内のすべての変更を含む。
【符号の説明】
【0093】
14 軸部材
18 軸受部材(軸受スリーブ)
24 内周面
25 外周面
26 ラジアル動圧発生部(動圧溝)
27 多角形丘部(八角形丘部)
28 多角形溝部(八角形溝部)
30 溝部
31 丘部
32 連結溝部(第一の連結溝部)
33 連結溝部(第二の連結溝部)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
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図16