(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-08
(45)【発行日】2024-08-19
(54)【発明の名称】ニッケル含有水酸化物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01G 53/00 20060101AFI20240809BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20240809BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20240809BHJP
【FI】
C01G53/00 A
H01M4/525
H01M4/505
(21)【出願番号】P 2020057291
(22)【出願日】2020-03-27
【審査請求日】2023-01-24
(73)【特許権者】
【識別番号】592197418
【氏名又は名称】株式会社田中化学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(74)【代理人】
【識別番号】100143959
【氏名又は名称】住吉 秀一
(72)【発明者】
【氏名】小林 亮太
(72)【発明者】
【氏名】前田 裕介
【審査官】青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/051089(WO,A1)
【文献】特開平10-025117(JP,A)
【文献】特表2010-536697(JP,A)
【文献】特開2017-039624(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 53/00
H01M
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケルを含む金属含有水溶液と、錯化剤を含む水溶液と、アルカリ性水溶液とを、反応槽に連続的に供給して晶析反応させて、ニッケル含有水酸化物を得る反応工程と、
前記反応槽から前記ニッケル含有水酸化物を含むスラリーを連続的に抜き出すスラリー抜き出し工程と、
前記ニッケル含有水酸化物を含むスラリーを分級装置に連続的に供給して、第1粒子部と該第1粒子部よりも平均粒子径の小さい第2粒子部に分級する分級工程と、
前記第2粒子部を前記反応槽に連続的に戻す第2粒子部還流工程と、を含み、
前記反応槽の前記ニッケル含有水酸化物を含むスラリー濃度を、
90g/L以上
220g/L以下の範囲に調整
し、
前記分級工程における前記第1粒子部を構成するニッケル含有水酸化物の質量(固形分)と前記第2粒子部を構成するニッケル含有水酸化物の質量(固形分)の合計に対する前記第1粒子部を構成するニッケル含有水酸化物の質量(固形分)の割合Aと、前記分級装置に供給される前記ニッケル含有水酸化物を含むスラリーの流量B(L/min)と、前記反応槽の容積C(m
3
)が、下記式
1.00≦(A×B)/C≦2.50
の関係を満たす、ニッケル含有水酸化物の製造方法。
【請求項2】
前記分級工程における前記第1粒子部を構成するニッケル含有水酸化物の質量(固形分)と前記第2粒子部を構成するニッケル含有水酸化物の質量(固形分)の合計に対する前記第1粒子部を構成するニッケル含有水酸化物の質量(固形分)の割合Aが、
0.12以上
0.28以下である請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記分級装置が、遠心力を利用した湿式分級装置である請求項1
または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記ニッケル含有水酸化物が、Ni
1-x-yCo
xM
yO
z(OH)
2-α(0≦x≦0.45、0≦y≦0.45、0≦z≦3.00、-0.50≦α<2.00、Mは、Zr、Al、Ti、Mn、Ga、In及びWからなる群から選択された1種以上の添加金属元素を示す。)で表される化合物である請求項1乃至
3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記ニッケル含有水酸化物が、二次電池の正極活物質の前駆体である請求項1乃至
4のいずれか1項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニッケル含有水酸化物の製造方法であり、特に、ニッケル含有水酸化物を二次電池の正極活物質の前駆体として使用した場合に、正極活物質の粒子割れを防止でき、正極活物質を高密度に搭載することが可能なニッケル含有水酸化物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、環境負荷の低減の点から、携帯機器や動力源として電気を使用または併用する車両等、広汎な分野で二次電池が使用されている。二次電池としては、例えば、リチウムイオン二次電池等の非水電解質を用いた二次電池がある。リチウムイオン二次電池等の非水電解質を用いた二次電池は、小型化、軽量化に適し、高いサイクル特性及び高い放電レート特性といった優れた特性を有している。
【0003】
また、サイクル特性及び放電レート特性をさらに向上させるために、正極に搭載する正極活物質の充填密度の向上が要求されている。そこで、リチウム原料、マンガン原料、マグネシウム原料、アルミニウム原料及びホウ素化合物を含有する原料を混合する原料混合工程と、混合した原料を湿式粉砕した後、スプレードライヤーで造粒し、760℃~870℃、0.5時間~30時間で焼成する工程と、焼成後に粉砕して平均粒径1μm~75μmの範囲に分級する工程と、得られた粉体を磁石と接触させて磁着物を取り除く磁力選別工程と、を含むリチウム電池用正極活物質材料の製造方法が提案されている(特許文献1)。
【0004】
特許文献1では、原料である微粒子の焼結が促進されて、緻密な正極活物質材料となることで、正極活物質を正極に搭載する際の充填密度を向上させるものである。しかし、特許文献1では、原料の粉砕、造粒、焼成後の粉砕、分級と、製造工程が煩雑であるという問題があった。
【0005】
一方で、高いサイクル特性と高い放電レート特性を得るには、正極活物質の充填密度を向上させるだけではなく、正極活物質の粒子割れを防止することも必要である。粉砕した原料を造粒することで正極活物質を製造する特許文献1では、正極活物質の粒子割れ防止に改善の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記事情に鑑み、本発明は、充填密度を向上させることができるだけではなく、粒子割れが防止されたニッケル含有水酸化物を簡易に製造する方法を提供することを目的とする。充填密度が向上し、粒子割れも防止されたニッケル含有水酸化物を正極活物質の前駆体として使用することにより、充填密度が向上し、粒子割れも防止された正極活物質を得ることができる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明では、晶析反応を行う反応槽から取り出したニッケル含有水酸化物を、製品として使用する第1粒子部と第1粒子部よりも平均粒子径の小さい第2粒子部に分級する。分級した第2粒子部については反応槽に戻して反応槽のニッケル含有水酸化物を含むスラリー濃度を所定の範囲に調整する。反応槽のニッケル含有水酸化物を含むスラリー濃度を所定の範囲に調整することで、充填密度が向上し、粒子割れも防止されたニッケル含有水酸化物を製造する。
【0009】
本発明の構成の要旨は、以下の通りである。
[1]ニッケルを含む金属含有水溶液と、錯化剤を含む水溶液と、アルカリ性水溶液とを、反応槽に連続的に供給して晶析反応させて、ニッケル含有水酸化物を得る反応工程と、
前記反応槽から前記ニッケル含有水酸化物を含むスラリーを連続的に抜き出すスラリー抜き出し工程と、
前記ニッケル含有水酸化物を含むスラリーを分級装置に連続的に供給して、第1粒子部と該第1粒子部よりも平均粒子径の小さい第2粒子部に分級する分級工程と、
前記第2粒子部を前記反応槽に連続的に戻す第2粒子部還流工程と、を含み、
前記反応槽の前記ニッケル含有水酸化物を含むスラリー濃度を、50g/L以上280g/L以下の範囲に調整する、ニッケル含有水酸化物の製造方法。
[2]前記分級工程における前記第1粒子部を構成するニッケル含有水酸化物の質量(固形分)と前記第2粒子部を構成するニッケル含有水酸化物の質量(固形分)の合計に対する前記第1粒子部を構成するニッケル含有水酸化物の質量(固形分)の割合Aが、0.10以上0.33以下である[1]に記載の製造方法。
[3]前記割合Aと、前記分級装置に供給される前記ニッケル含有水酸化物を含むスラリーの流量B(L/min)と、前記反応槽の容積C(m3)が、下記式
0.70≦(A×B)/C≦3.50
の関係を満たす[2]に記載の製造方法。
[4]前記分級装置が、遠心力を利用した湿式分級装置である[1]乃至[3]のいずれか1つに記載の製造方法。
[5]前記ニッケル含有水酸化物が、Ni1-x-yCoxMyOz(OH)2-α(0≦x≦0.45、0≦y≦0.45、0≦z≦3.00、-0.50≦α<2.00、Mは、Zr、Al、Ti、Mn、Ga、In及びWからなる群から選択された1種以上の添加金属元素を示す。)で表される化合物である[1]乃至[4]のいずれか1つに記載の製造方法。
[6]前記ニッケル含有水酸化物が、二次電池の正極活物質の前駆体である[1]乃至[5]のいずれか1つに記載の製造方法。
【0010】
上記[1]の態様では、ニッケル含有水酸化物を連続して製造する方法である。また、反応槽から取り出したニッケル含有水酸化物のうち、大粒径部である第1粒子部は製品として使用され、小粒径部である第2粒子部は製品としては利用されずに反応槽に戻されて、晶析反応に利用される。
【0011】
上記[3]の態様におけるA×Bは第1粒子部の製造量の程度を示すので、(A×B)/Cは、反応槽の単位容積あたりに製造される第1粒子部の量を示す指標である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の態様によれば、ニッケル含有水酸化物を含むスラリーを第1粒子部と該第1粒子部よりも平均粒子径の小さい第2粒子部に分級し、第2粒子部を反応槽に戻しつつ反応槽のニッケル含有水酸化物を含むスラリー濃度を、50g/L以上280g/L以下に調整することにより、充填密度を向上させることができるだけではなく、粒子割れが防止されたニッケル含有水酸化物を製造することができる。また、本発明の態様によれば、第2粒子部を反応槽に戻しつつ反応槽のニッケル含有水酸化物を含むスラリー濃度を50g/L以上280g/L以下に調整すればよいので、製造工程が簡易である。
【0013】
本発明の態様によれば、第1粒子部のニッケル含有水酸化物の質量と第2粒子部のニッケル含有水酸化物の質量の合計に対する第1粒子部のニッケル含有水酸化物の質量の割合Aが、0.10以上0.33以下であることにより、反応槽のニッケル含有水酸化物を含むスラリー濃度を50g/L以上280g/L以下に容易に調整できるので、充填密度が向上し、粒子割れも防止されたニッケル含有水酸化物を確実に製造することができる。
【0014】
本発明の態様によれば、前記割合Aと、分級装置に供給されるニッケル含有水酸化物を含むスラリーの流量B(L/min)と、反応槽の容積C(m3)が、0.70≦(A×B)/C≦3.50の関係を満たすことにより、反応槽のニッケル含有水酸化物を含むスラリー濃度を50g/L以上280g/L以下に容易に調整できるので、充填密度が向上し、粒子割れも防止されたニッケル含有水酸化物を確実に製造することができる。
【0015】
本発明の態様によれば、分級装置が遠心力を利用した湿式分級装置であることにより、反応槽から取り出したニッケル含有水酸化物を含むスラリーを、ニッケル含有水酸化物の粒子形状が変形することを防止しつつ円滑に第1粒子部と第2粒子部に分級することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の製造方法の概要を説明するフロー図である。
【
図2】本発明の製造方法で使用する分級装置を例示した説明図である。
【
図3】実施例と比較例で得られたニッケル含有水酸化物の走査型顕微鏡(SEM)写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明のニッケル含有水酸化物の製造方法を説明する。なお、
図1は、本発明の製造方法の概要を説明するフロー図である。
図1に示すように、本発明のニッケル含有水酸化物の製造方法は、ニッケルを含む金属含有水溶液と、錯化剤を含む水溶液と、アルカリ性水溶液とを、反応槽に連続的に供給して中和晶析反応させて、ニッケル含有水酸化物を得る反応工程と、反応槽からニッケル含有水酸化物を含むスラリーを連続的に抜き出すスラリー抜き出し工程と、前記ニッケル含有水酸化物を含むスラリーを分級装置に連続的に供給して、第1粒子部と該第1粒子部よりも平均粒子径の小さい第2粒子部に分級する分級工程と、分級工程で得られた第2粒子部を反応槽に連続的に戻す第2粒子部還流工程と、を含む。第1粒子部を構成するニッケル含有水酸化物は、本発明の製造方法の目的物であるニッケル含有水酸化物である。
【0018】
(反応工程)
ニッケル含有水酸化物を得る反応工程について説明する。ニッケル含有水酸化物を得る反応工程は、
図1に示すように、まず、共沈法により、ニッケルを含む金属含有水溶液、例えば、ニッケル塩(例えば、硫酸塩)、必要に応じてコバルト塩(例えば、硫酸塩)及び添加金属(M)の塩(例えば、硫酸塩)を含む水溶液と、錯化剤を含む水溶液と、pH調整剤であるアルカリ性水溶液とを、適宜、反応槽に添加して、反応槽内にて中和晶析反応をさせることで、ニッケル含有水酸化物の粒子を成長させて、ニッケル含有水酸化物を調製する。ニッケル含有水酸化物の粒子形状は、例えば、略球状を挙げることができる。反応槽内では、ニッケル含有水酸化物は水を分散媒としたスラリー状となっている。
【0019】
錯化剤としては、水溶液中で、ニッケルを含む金属元素のイオン、例えば、ニッケルイオン、必要に応じてコバルトイオン及び添加金属(M)のイオンと錯体を形成可能なものであれば、特に限定されず、例えば、アンモニウムイオン供給体が挙げられる。アンモニウムイオン供給体としては、例えば、アンモニア水、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、炭酸アンモニウム、弗化アンモニウム等が挙げられる。また、中和晶析反応に際しては、反応槽内の水溶液のpH値を調整するため、アルカリ金属水酸化物(例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム)等のアルカリ性水溶液をpH調整剤として、適宜、反応槽内へ添加する。
【0020】
ニッケルを含む金属含有水溶液と錯化剤を含む水溶液とアルカリ性水溶液とを反応槽に、適宜、連続して供給し、反応槽内の物質を、適宜撹拌すると、ニッケルを含む金属含有水溶液の金属が中和晶析反応により共沈して、ニッケル含有水酸化物が生成する。中和晶析反応に際しては、反応槽の温度を、例えば、10℃以上90℃以下、好ましくは20℃以上80℃以下の範囲内で制御する。錯化剤を含む水溶液とアルカリ性水溶液を反応槽に供給して中和晶析反応をさせる際に、反応槽内の混合液の錯化剤濃度を、例えば、1.0g/L以上8.0g/L以下、好ましくは、2.0g/L以上7.0g/L以下、特に好ましくは3.0g/L以上6.0g/L以下に制御し、混合液中の液温40℃基準のpHを、例えば、9.0以上13.0以下、好ましくは10.0以上12.0以下に制御する。
【0021】
また、反応槽に設置された撹拌装置の撹拌条件と反応槽における平均滞留時間は、所定範囲に適宜調整すればよい。撹拌装置の撹拌条件と反応槽における滞留時間を調整することにより、ニッケル含有水酸化物の比表面積や粒子形状などの物性を制御することができる。例えば、平均滞留時間は3時間以上12時間以下が好ましく、攪拌速度は、反応槽の容積にもよるが300rpm以上2000rpm以下とすることが好ましい。
【0022】
反応槽としては、例えば、オーバーフローさせる連続式が挙げられる。また、反応槽の容積としては、特に限定されないが、例えば、0.1m3以上30m3以下が挙げられる。
【0023】
ニッケル含有水酸化物の組成としては、例えば、Ni1-x-yCoxMyOz(OH)2-α(0≦x≦0.45、0≦y≦0.45、0≦z≦3.00、-0.50≦α<2.00、Mは添加金属を示す。)で表される化合物が挙げられる。任意成分である添加金属(M)としては、ジルコニウム(Zr)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、マンガン(Mn)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)及びタングステン(W)からなる群から選択された1種以上の金属元素が挙げられる。なお、ニッケル(Ni)は必須成分であるが、コバルト(Co)も任意成分である。
【0024】
(スラリー抜き出し工程)
ニッケル含有水酸化物を含むスラリーを反応槽から抜き出す。反応槽から抜き出されたニッケル含有水酸化物を含むスラリーは、貯留槽に貯められ、分級装置に供給される。ニッケル含有水酸化物を含むスラリーは、流量Bにて分級装置に供給される。
【0025】
(分級工程)
図1に示すように、ニッケル含有水酸化物を含むスラリーは、連続的に反応槽から抜き出されてスラリー貯留槽に貯められ、分級装置によって大粒径部である第1粒子部と第1粒子部よりも平均粒子径の小さい小粒径部である第2粒子部に分級される。第1粒子部を構成するニッケル含有水酸化物は、所定の粒径に達したニッケル含有水酸化物であり、本発明の製造方法の目的物であるニッケル含有水酸化物である。第1粒子部は、最終的には、製品として、分級装置から本発明の製造方法の系外へ搬出される。
【0026】
一方で、第2粒子部を構成するニッケル含有水酸化物は、所定の粒径に達していない、本発明の製造方法の目的物とはならないニッケル含有水酸化物である。第2粒子部は、後述するように、分級装置から製品として本発明の製造方法の系外へは搬出されずに、再度、反応槽に連続的に戻される。
【0027】
分級装置としては、例えば、遠心力を利用した湿式分級装置が挙げられる。
【0028】
湿式分級装置としては、
図2に示すように、液体サイクロン式分級装置を挙げることができる。液体サイクロン式分級装置へニッケル含有水酸化物を含むスラリーを供給(圧入)すると、分級装置に生じている遠心力の作用により、ニッケル含有水酸化物の粒子のうち、比重、粒子径の大きい粒子ほど、液体サイクロン式分級装置の周壁部方向へ移動し、比重、粒子径の小さい粒子ほど、液体サイクロン式分級装置の中央部方向へ移動する。液体サイクロン式分級装置の周壁部には、重力方向下方へ向かうに従って幅狭となるテーパが形成されている。液体サイクロン式分級装置の周壁部では、このペーパに沿って重力方向下方への流れが発生している。一方で、液体サイクロン式分級装置の中央部には、重力方向上方への流れが発生している。上記から、比重、粒子径の大きいニッケル含有水酸化物の粒子(すなわち、第1粒子部)は、サイクロン式分級装置の周壁部に沿って重力方向下方に流れていき、重力方向下方に形成された下側排出口から排出される。一方で、比重、粒子径の小さいニッケル含有水酸化物の粒子(すなわち、第2粒子部)は、サイクロン式分級装置の中央部を重力方向上方に流れていき、重力方向上方に形成された上側排出口から排出される。
【0029】
液体サイクロン式分級装置は、反応槽から抜き出されたニッケル含有水酸化物を含むスラリーを、遠心力の作用により、連続的に、第1粒子部を含むスラリーと第2粒子部を含むスラリーに分級する。
【0030】
(第2粒子部還流工程)
図1に示すように、分級装置で分級された第2粒子部を含むスラリーは、還流装置によって、連続的に反応槽に戻される。反応槽に戻された第2粒子部は、再び、反応槽で中和晶析反応により粒子成長した後、反応槽から分級装置へ供給される。分級装置へ供給されたニッケル含有水酸化物の粒子が所定の粒径に達すれば、本発明の製造方法の目的物であるニッケル含有水酸化物(すなわち、第1粒子部)として、分級装置から本発明の製造方法の系外へ搬出される。上記操作を繰り返すことにより、反応槽で生成し、成長した第1粒子部を選択的に反応槽外に搬出しつつ、第2粒子部は目的とする粒径に達して第1粒子部となるまで反応槽にて粒子成長を繰り返す。
【0031】
本発明の製造方法では、第2粒子部還流工程にて第2粒子部が戻された反応槽では、ニッケル含有水酸化物を含むスラリー濃度が、50g/L以上280g/L以下の範囲に調整されている。なお、「反応槽におけるニッケル含有水酸化物を含むスラリー濃度」とは、第2粒子部還流工程にて反応槽に戻された第2粒子部のニッケル含有水酸化物と反応槽内にて新たに生成したニッケル含有水酸化物の粒子とを合計した濃度を意味する。反応槽におけるニッケル含有水酸化物を含むスラリー濃度が50g/L以上280g/L以下の範囲に調整されていることにより、充填密度を向上させることができるだけではなく、粒子割れが防止されたニッケル含有水酸化物を製造することができる。すなわち、本発明の製造方法で得られる第1粒子部を構成するニッケル含有水酸化物は、粒子割れが防止されており、高い充填密度を得ることができる。また、本発明の製造方法では、第2粒子部を反応槽に戻しつつ反応槽のニッケル含有水酸化物を含むスラリー濃度を50g/L以上280g/L以下に調整すればよいので、追加の設備を設ける必要がなく、製造工程が簡易である。
【0032】
反応槽におけるニッケル含有水酸化物を含むスラリー濃度は50g/L以上280g/L以下であれば、特に限定されないが、その下限値は、充填密度をより確実に向上させる点から、70g/Lが好ましく、90g/Lが特に好ましい。一方で、反応槽におけるニッケル含有水酸化物を含むスラリー濃度の上限値は、粒子割れをより確実に防止する点から、250g/Lが好ましく、220g/Lが特に好ましい。なお、上記した上限値、下限値は、任意で組み合わせることができる。
【0033】
上記から、本発明の製造方法では、必要に応じて、第2粒子部のスラリー濃度を調整する濃度調整工程をさらに含んでもよい。すなわち、必要に応じて、
図1に示すように、第2粒子部還流工程が、第2粒子部を反応槽に連続的に戻す前に第2粒子部のスラリーを濃縮する濃縮工程をさらに含んでもよい。第2粒子部のスラリーを濃縮する濃縮工程をさらに含むことにより、第2粒子部を構成するニッケル含有水酸化物の含有量が低下しても、すなわち、第2粒子部のスラリー濃度が低くなっても、濃縮工程によって第2粒子部のスラリー濃度を所望の値まで上昇させることができるので、反応槽におけるニッケル含有水酸化物を含むスラリー濃度を50g/L以上280g/L以下に確実に調整することができる。また、必要に応じて、図示しないが、第2粒子部のスラリーを濃縮する濃縮工程に代えて、第2粒子部還流工程が、第2粒子部を反応槽に連続的に戻す前に第2粒子部のスラリーを希釈する希釈工程をさらに含んでもよい。第2粒子部のスラリーを希釈する希釈工程をさらに含むことにより、第2粒子部を構成するニッケル含有水酸化物の含有量が過剰になっても、すなわち、第2粒子部のスラリー濃度が高くなっても、希釈工程によって第2粒子部のスラリー濃度を所望の値まで低下させることができるので、反応槽におけるニッケル含有水酸化物を含むスラリー濃度を50g/L以上280g/L以下に確実に調整することができる。
【0034】
なお、上記濃縮工程は、第2粒子部還流工程にて、第2粒子部を反応槽へ連続的に戻す前、すなわち、第2粒子部還流工程に含めるだけではなく、必要に応じて、反応槽又は貯留槽で上記濃縮工程をさらに含んでもよい。また、上記濃縮工程は、第2粒子部還流工程に含めることに代えて、反応槽又は貯留槽に含めてもよい。
【0035】
また、本発明の製造方法では、分級工程にて、第1粒子部を含むスラリーと第2粒子部を含むスラリーに分級するにあたり、第1粒子部を構成するニッケル含有水酸化物の質量(固形分)と第2粒子部を構成するニッケル含有水酸化物の質量(固形分)の合計に対する第1粒子部を構成するニッケル含有水酸化物の質量(固形分)の割合A(以下、単に、「割合A」ということがある。)は、特に限定されないが、所定の範囲に調整することが好ましい。上記割合Aは、本発明の製造方法における乾燥粒子で換算した第1粒子部の収率を意味する。上記割合Aの下限値は、高い充填密度を損なうことなく、粒子割れを確実に防止する点から、0.10が好ましく、粒子割れをさらに確実に防止する点から、0.11がより好ましく、0.12が特に好ましい。一方で、上記割合Aの上限値は、粒子割れをさらに確実に防止しつつ、充填密度を確実に向上させる点から、0.33が好ましく、充填密度をさらに確実に向上させる点から、0.30がより好ましく、0.28が特に好ましい。なお、上記した上限値、下限値は、任意で組み合わせることができる。
【0036】
上記割合Aを0.10以上0.33以下の範囲に制御することにより、第1粒子部を構成するニッケル含有水酸化物の質量(固形分)と第2粒子部を構成するニッケル含有水酸化物の質量(固形分)の合計に対する第2粒子部を構成するニッケル含有水酸化物の質量(固形分)の割合が0.67以上0.90以下の範囲に制御されることとなる。反応槽に戻される第2粒子部の量が上記割合の範囲に制御されることで、反応槽におけるニッケル含有水酸化物を含むスラリー濃度の50g/L以上280g/L以下への調整が容易化できる。
【0037】
また、本発明の製造方法では、上記割合Aと、分級装置に供給されるニッケル含有水酸化物を含むスラリーの流量B(単位:L/min)(以下、単に、「流量B」ということがある。)と、反応槽の容積C(単位:m3)(以下、単に、「容積C」ということがある。)の関係は、特に限定されないが、(割合A×流量B)/容積Cの値を所定の範囲に調整することが好ましい。上記割合A×上記流量Bは第1粒子部の製造量の程度を示すので、(割合A×流量B)/容積Cは、反応槽の単位容積あたりの第1粒子部の生産量を示す指標である。すなわち、(割合A×流量B)/容積Cは、反応槽の単位容積あたりの、製品である第1粒子部が反応槽外に搬出される程度を示す指標である。
【0038】
(割合A×流量B)/容積Cの値の下限値は、高い充填密度を損なうことなく、粒子割れを確実に防止する点から、0.70が好ましく、粒子割れをさらに確実に防止する点から、0.85がより好ましく、1.00が特に好ましい。一方で、(割合A×流量B)/容積Cの値の上限値は、粒子割れをさらに確実に防止しつつ、充填密度を確実に向上させる点から、3.50が好ましく、充填密度をさらに確実に向上させる点から、3.00がより好ましく、2.50が特に好ましい。すなわち、本発明の製造方法では、0.70≦(割合A×流量B)/容積C≦3.50の関係を満たすことが好ましい。なお、上記した上限値、下限値は、任意で組み合わせることができる。
【0039】
反応槽の単位容積あたりに製造される第1粒子部の量を調整する、すなわち、0.70≦(割合A×流量B)/容積C≦3.50の関係を満たすように調整することで、反応槽のニッケル含有水酸化物を含むスラリー濃度の50g/L以上280g/L以下への調整が容易化できる。
【0040】
本発明の製造方法で生産されるニッケル含有水酸化物は、粒子割れが防止されており、さらに高いバルク密度を得ることができる。本発明の製造方法で得られるニッケル含有水酸化物は、例えば、1.40g/ml以上のバルク密度を得ることができる。また、本発明の製造方法で得られるニッケル含有水酸化物は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて2000倍で任意の10視野を観察した場合、10視野中のニッケル含有水酸化物から確認できる粒子割れの最大の幅が200nm以下に低減されている。
【0041】
第1粒子部を構成するニッケル含有水酸化物の累積体積百分率が50体積%の粒子径(以下、単に「D50」ということがある。)は、製品として使用されるニッケル含有水酸化物の使用条件、ニッケル含有水酸化物の組成等により、適宜、選択可能であり、例えば、3μm以上20μm以下が好ましい。前記第1粒子部のD50の下限値は、5μmがより好ましく、7μmが特に好ましい。前記第1粒子部のD50の上限値は、19μmがより好ましく、18μmが特に好ましい。また、第2粒子部を構成するニッケル含有水酸化物のD50は、ニッケル含有水酸化物の製造条件等により、適宜、選択可能であり、例えば、1μm以上15μm以下が挙げられる。
【0042】
本発明の製造方法で生産されるニッケル含有水酸化物は、リチウムイオン二次電池等の非水電解質二次電池の正極活物質の前駆体として使用することができる。例えば、第1粒子部を構成するニッケル含有水酸化物のスラリーをろ過後、アルカリ水溶液で洗浄、続いて水洗することにより、第1粒子部に含まれる不純物を除去し、その後、第1粒子部を構成するニッケル含有水酸化物を加熱処理して乾燥させることで、正極活物質の前駆体として使用することができるニッケル含有水酸化物を得ることができる。
【0043】
次に、本発明の製造方法で得られたニッケル含有水酸化物を前駆体としたリチウムイオン二次電池の正極活物質の製造方法について説明する。例えば、まず、ニッケル含有水酸化物にリチウム化合物を添加してニッケル含有水酸化物とリチウム化合物の混合物を調製する。リチウム化合物としては、リチウムを有する化合物あれば、特に限定されず、例えば、炭酸リチウム、水酸化リチウム等を挙げることができる。
【0044】
次に、上記のようにして得られた混合物を焼成することで、正極活物質を製造することができる。焼成条件としては、例えば、焼成温度700℃以上1000℃以下、昇温速度50℃/h以上300℃/h以下、焼成時間5時間以上20時間以下が挙げられる。焼成の雰囲気については、特に限定されないが、例えば、大気、酸素などが挙げられる。また、焼成に用いる焼成炉としては、特に限定されないが、例えば、静置式のボックス炉やローラーハース式連続炉などが挙げられる。
【実施例】
【0045】
次に、本発明のニッケル含有水酸化物の製造方法の実施例を説明するが、本発明はその趣旨を超えない限り、これらの例に限定されるものではない。
【0046】
実施例1のニッケル含有水酸化物の製造方法
硫酸ニッケルと硫酸コバルトとを所定割合(ニッケルのモル数:コバルトのモル数=93:7)にて溶解した水溶液と、硫酸アンモニウム水溶液(アンモニウムイオン供給体)と、水酸化ナトリウム水溶液を反応槽(容積Cは0.5m3)に滴下して、反応槽内の混合液のpHを液温40℃基準で11.23、アンモニア濃度を5g/Lに維持しながら、攪拌機により連続的に攪拌した。また、反応槽内の混合液の液温は50.0℃に維持した。中和晶析反応により生成したニッケル含有水酸化物の粒子は、反応槽のオーバーフロー管からオーバーフローさせて、ニッケル含有水酸化物のスラリーとして連続的に抜き出した。
【0047】
抜き出したニッケル含有水酸化物のスラリーを、液体サイクロン式分級装置(村田工業株式会社製、型式「T10-1」)へスラリーの流量4.0L/min(流量B)にて圧入し、第1粒子部のニッケル含有水酸化物の質量と第2粒子部のニッケル含有水酸化物の質量の合計に対する第1粒子部のニッケル含有水酸化物の質量の割合0.26(割合A)にて、D50が12.7μmである第1粒子部とD50が10.2μmである第2粒子部に連続的に分級した。第2粒子部のスラリーは第2粒子部還流経路にて反応槽へ連続的に戻した。このとき、反応槽のニッケル含有水酸化物のスラリー濃度(g/L)が所定の範囲になるように、反応槽で新たに生成するニッケル含有水酸化物の量と反応槽へ連続的に戻される第2粒子部の量を制御した。
【0048】
一方で、第1粒子部のスラリーは、ろ過後、アルカリ水溶液で洗浄して、固液分離した。その後、分離した固相に対して水洗し、さらに、脱水、乾燥の各処理を施して、サンプルであるニッケル含有水酸化物を得た。
【0049】
実施例2のニッケル含有水酸化物の製造方法
反応工程で、反応槽内の混合液のpHを液温40℃基準で11.20、分級工程で、流量Bが2.8L/min、割合Aが0.24、D50が17.2μmである第1粒子部とD50が13.0μmである第2粒子部に連続的に分級した以外は実施例1と同様にして、サンプルであるニッケル含有水酸化物を得た。
【0050】
実施例3のニッケル含有水酸化物の製造方法
反応工程で、反応槽内の混合液のpHを液温40℃基準で10.88、分級工程で、流量Bが4.7L/min、割合Aが0.12、D50が16.0μmである第1粒子部とD50が12.5μmである第2粒子部に連続的に分級した以外は実施例1と同様にして、サンプルであるニッケル含有水酸化物を得た。
【0051】
比較例1のニッケル含有水酸化物の製造方法
反応工程で、反応槽内の混合液のpHを液温40℃基準で11.70、分級工程で、流量Bが5.4L/min、割合Aが0.34、D50が9.8μmである第1粒子部とD50が7.4μmである第2粒子部に連続的に分級した以外は実施例1と同様にして、サンプルであるニッケル含有水酸化物を得た。
【0052】
比較例2のニッケル含有水酸化物の製造方法
反応工程で、反応槽内の混合液のpHを液温40℃基準で11.55、分級工程で、流量Bが3.7L/min、割合Aが0.09、D50が17.8μmである第1粒子部とD50が15.5μmである第2粒子部に連続的に分級した以外は実施例1と同様にして、サンプルであるニッケル含有水酸化物を得た。
【0053】
ニッケル含有水酸化物の組成、反応槽のニッケル含有水酸化物のスラリー濃度(g/L)、割合A、液体サイクロン式分級装置に供給されるニッケル含有水酸化物のスラリーの流量B(L/min)、反応槽の容積C(m3)、(割合A×流量B)/容積Cの値を、下記表1に示す。
【0054】
なお、ニッケル含有水酸化物の組成は、ICP発光分析装置(パーキンエルマー社製 Optima(登録商標)8300)を用いて分析した。また、反応槽のニッケル含有水酸化物を含むスラリー濃度は、反応槽から1L採取したスラリーを乾燥して、乾燥後の重量を測定することで求めた。
【0055】
【0056】
サンプルとして得られたニッケル含有水酸化物について、以下の評価を行った。
(1)バルク密度(BD:単位g/mL)
サンプルとして得られたニッケル含有水酸化物を自然落下させて容器に充填し、容器の容積と試料の質量からバルク密度を測定した。具体的には、20cm3の測定用容器に、サンプルをふるいに通しながら落下充填させ、前記容器がサンプルで満たされた状態とし、そのときのサンプル重量を測定して算出した。
【0057】
(2)粒子割れ
走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて2000倍で任意の10視野を観察し、10視野中のニッケル含有水酸化物から確認できる粒子割れの最大の幅を算出し、以下のように評価した。
○:ニッケル含有水酸化物の粒子の粒子割れの最大幅が200nm以下、
×:ニッケル含有水酸化物の粒子の粒子割れの最大幅が200nm超
【0058】
上記評価結果を下記表2に、また、実施例と比較例で得られたニッケル含有水酸化物の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を
図3に示す。
【0059】
【0060】
上記表1、2から、反応槽のニッケル含有水酸化物を含むスラリー濃度が50g/L以上280g/L以下の範囲に調整された実施例1~3では、バルク密度が1.51g/ml以上に向上した。また、上記表1、2と
図3から、実施例1~3では、粒子割れの発生も防止できた。また、実施例1~3では、割合Aが0.10以上0.33以下の範囲に調整され、(割合A×流量B)/容積Cの値が0.70以上3.50以下の範囲に調整されていた。
【0061】
一方で、反応槽のニッケル含有水酸化物を含むスラリー濃度が40.0g/Lである比較例1では、上記表2と
図3から、粒子割れの発生は防止できたが、上記表2から、バルク密度が1.20g/mLと充填密度が低下してしまった。また、反応槽のニッケル含有水酸化物を含むスラリー濃度が293.8g/Lである比較例2では、上記表2から、バルク密度が1.76g/mLと充填密度が向上したが、上記表2と
図3から、粒子割れが発生した。また、上記表1から、比較例1では、割合Aが0.34、(割合A×流量B)/容積Cの値が3.64であり、比較例2では、割合Aが0.09、(割合A×流量B)/容積Cの値が0.69であった。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明のニッケル含有水酸化物の製造方法では、充填密度を向上させることができ、粒子割れが防止されたニッケル含有水酸化物を簡易に製造することができるので、高いサイクル特性と高い放電レート特性を要求される二次電池の正極活物質の分野で利用価値が高い。