(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-08
(45)【発行日】2024-08-19
(54)【発明の名称】流量制御装置、流量制御方法及び流量制御プログラム
(51)【国際特許分類】
G05D 7/06 20060101AFI20240809BHJP
F16K 31/124 20060101ALI20240809BHJP
F16K 31/06 20060101ALI20240809BHJP
F16K 37/00 20060101ALI20240809BHJP
【FI】
G05D7/06 Z
F16K31/124
F16K31/06 340
F16K37/00 D
(21)【出願番号】P 2020065178
(22)【出願日】2020-03-31
【審査請求日】2023-03-01
(73)【特許権者】
【識別番号】503405689
【氏名又は名称】ナブテスコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】岡本 武史
【審査官】加藤 昌人
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-196607(JP,A)
【文献】特開2018-124183(JP,A)
【文献】特開2010-071414(JP,A)
【文献】特開2012-002235(JP,A)
【文献】特開2020-045989(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16K 37/00
G05D 7/00- 7/06
F16K 31/06-31/11
F16K 11/00-11/24
F15B 9/00- 9/17
F15B 13/02-13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パイロットバルブのスプールであるパイロットスプールの実位置を目標位置になるよう駆動制御することによりアクチュエータに供給される流体の流量を制御する流量制御装置であって、
前記パイロットスプールの実位置と、前記パイロットスプールが当該実位置に位置するときに前記アクチュエータに流れる前記流体の流量に関係する流量関係パラメータの値と、を取得する第1取得部と、
前記パイロットスプールの前記目標位置を示す位置指令を取得する第2取得部と、
前記実位置と前記流量関係パラメータの値とに基づいて、前記目標位置を補正する補正部と、
前記補正後の目標位置
と前記実位置との偏差に基づいて、前記パイロットスプール
の位置を
フィードバック制御する駆動制御部と、
を含む、流量制御装置。
【請求項2】
前記アクチュエータは、前記パイロットバルブから供給される前記流体によって移動するスプールであるメインスプールを有するメインバルブであり、
前記流量関係パラメータは、前記メインスプールの移動速度である、請求項1に記載の流量制御装置。
【請求項3】
前記アクチュエータは、前記パイロットバルブから供給される前記流体によって移動するスプールであるメインスプールを有するメインバルブであり、
前記流量関係パラメータは、前記メインバルブに供給される前記流体の流量である、請求項1に記載の流量制御装置。
【請求項4】
前記流量関係パラメータは、前記パイロットスプールを駆動するソレノイドに流れる駆動電流又は前記ソレノイドにかかる駆動電圧である、請求項1に記載の流量制御装置。
【請求項5】
前記パイロットスプールの複数の実位置と、前記複数の実位置のそれぞれについて取得された前記流量関係パラメータの値との相関関係を示す相関データを生成する相関データ生成部をさらに含む、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の流量制御装置。
【請求項6】
前記アクチュエータは、前記パイロットバルブから供給される前記流体によって移動するスプールであるメインスプールを有するメインバルブであり、
前記補正部は、
前記目標位置に基づいて前記目標位置に前記パイロットスプールが位置する場合に前記メインバルブに供給されると想定される前記流体の想定流量を算出し、
前記算出した想定流量に基づいて前記目標位置に前記パイロットスプールが位置する場合に想定される流量関係パラメータの値を算出し、
前記相関データにおいて、前記想定される流量関係パラメータの値と一致する流量関係パラメータの値に対応する前記実位置を前記補正後の目標位置として、前記目標位置を補正する、請求項5に記載の流量制御装置。
【請求項7】
前記補正部は、前記流体が前記メインバルブに加える圧力にさらに基づいて、前記想定流量を算出する請求項6に記載の流量制御装置。
【請求項8】
前記相関データ生成部は、前記流体を入力する第1ポートと前記第1ポートから入力された前記流体を前記アクチュエータに供給する第2ポートとが連通したときの前記パイロットスプールの第1位置と、前記アクチュエータへ供給した前記流体を排出する第3ポートと前記第2ポートとが連通したときの前記パイロットスプールの第2位置と、を特定し、
前記相関データ生成部は、前記第1位置及び前記第2位置に基づいて、前記相関データを取得する、請求項5乃至7のいずれか1項に記載の流量制御装置。
【請求項9】
前記相関データを記憶する記憶部と、
前記相関データが生成された後に取得された前記実位置及び前記実位置についての前記流量関係パラメータの値に基づいて、前記記憶部に記憶された前記相関データを更新する更新部と、
をさらに備え、
前記補正部は、前記更新された相関データに基づいて、前記取得した目標位置を補正する、請求項5乃至8のいずれか1項に記載の流量制御装置。
【請求項10】
前記相関データ生成部は、所定条件が満たされる場合に、前記相関データを生成する、請求項5から9のいずれか1項に記載の流量制御装置。
【請求項11】
前記所定条件は、前記パイロットスプールの固着防止動作が実行されることを含む、請求項10に記載の流量制御装置。
【請求項12】
前記所定条件は、前記パイロットスプールの位置に応じて燃料が供給されるエンジンが停止していることを含む、請求項10に記載の流量制御装置。
【請求項13】
前記アクチュエータは、前記パイロットバルブから供給される前記流体によって移動するスプールであるメインスプールを有するメインバルブであり、
前記所定条件は、前記エンジンに前記燃料が供給されない位置に、前記メインスプールが所定時間以上留まっていることを含む、請求項12に記載の流量制御装置。
【請求項14】
前記第1取得部は、前記補正後の目標位置にしたがって前記パイロットスプールが制御されたときの前記実位置と、前記パイロットスプールが当該実位置に位置するときの前記流量関係パラメータの値と、を取得する、請求項1乃至13のいずれか1項に記載の流量制御装置。
【請求項15】
前記実位置と該実位置における前記流量関係パラメータの値とに基づいて、前記流体を入力する第1ポートと前記第1ポートから入力された前記流体を前記アクチュエータに供給する第2ポートとが連通したときの前記パイロットスプールの位置である第1位置と、前記アクチュエータへ供給した前記流体を排出する第3ポートと前記第2ポートとが連通したときの前記パイロットスプールの位置である第2位置と、前記第1位置と前記第2位置との間の距離と、のうちの少なくとも1つの値を取得する第3取得部と、
前記少なくとも1つの値と基準値との比較に基づいて、前記パイロットスプールの状態を推定する推定部と、
をさらに含む、請求項1乃至14のいずれか1項に記載の流量制御装置。
【請求項16】
前記少なくとも1つの値は、前記距離であり、
前記距離が前記基準値以下である場合に、前記パイロットバルブの交換を推奨する旨を報知する報知部をさらに含む、請求項15に記載の流量制御装置。
【請求項17】
パイロットバルブのスプールであるパイロットスプールの位置を
目標位置になるよう駆動制御することによりアクチュエータに供給される流体の流量を制御する流量制御方法であって、
前記パイロットスプールの実位置と、前記パイロットスプールが当該実位置に位置するときに前記アクチュエータに流れる前記流体の流量に関係する流量関係パラメータの値と、を取得するステップと、
前記パイロットスプールの
前記目標位置を示す位置指令を取得するステップと、
前記実位置と前記流量関係パラメータの値
とに基づいて、前記目標位置を補正する補正部と、
前記補正後の目標位置
と前記実位置との偏差に基づいて、前記パイロットスプール
の位置を
フィードバック制御するステップと、
を含む、流量制御方法。
【請求項18】
パイロットバルブのスプールであるパイロットスプールの位置を
目標位置になるよう駆動制御することによりアクチュエータに供給される流体の流量を制御する流量制御装置のコンピュータを、
前記パイロットスプールの実位置と、前記パイロットスプールが当該実位置に位置するときに前記アクチュエータに流れる前記流体の流量に関係する流量関係パラメータの値と、を取得する第1取得部と、
前記パイロットスプールの
前記目標位置を示す位置指令を取得する第2取得部と、
前記実位置と前記流量関係パラメータの値
とに基づいて、前記目標位置を補正する補正部と、
前記補正後の目標位置
と前記実位置との偏差に基づいて、前記パイロットスプール
の位置を
フィードバック制御する駆動制御部と、
として機能させることが可能な、流量制御プログラム。
【請求項19】
パイロットバルブのスプールであるパイロットスプールの実位置を目標位置になるよう駆動制御することにより、前記パイロットバルブから供給される流体によって移動するスプールであるメインスプールを有するメインバルブに供給される前記流体の流量を制御する流量制御装置であって、
前記パイロットスプールの実位置と、前記パイロットスプールが当該実位置に位置するときの前記メインスプールの移動速度と、を取得する第1取得部と、
前記パイロットスプールの複数の実位置と、前記複数の実位置のそれぞれについて取得された前記移動速度との相関関係を示す相関データを生成する相関データ生成部と、
前記パイロットスプールの前記目標位置を示す位置指令を取得する第2取得部と、
前記相関データに基づいて、前記目標位置を補正する補正部と、
前記補正後の目標位置にしたがって、前記パイロットスプールを駆動させる駆動制御部と、
前記実位置と該実位置における前記移動速度とに基づいて、前記流体を入力する第1ポートと前記第1ポートから入力された前記流体を前記メインバルブに供給する第2ポートとが連通したときの前記パイロットスプールの位置である第1位置と、前記メインバルブへ供給した前記流体を排出する第3ポートと前記第2ポートとが連通したときの前記パイロットスプールの位置である第2位置との間の距離を取得する第3取得部と、
前記距離と基準値との比較に基づいて、前記パイロットスプールの状態を推定する推定部と、
前記距離が前記基準値以下である場合に、前記パイロットバルブの交換を推奨する旨を報知する報知部と、
を含む流量制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流量制御装置、流量制御方法及び流量制御プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、フィードバックを用いたサーボ系を備えるサーボ制御システムが記載されている。このサーボ制御システムは、サーボ弁により制御される油圧シリンダと、この油圧シリンダにより操作される負荷と、油圧シリンダストローク変位と目標信号との偏差を解消するように制御入力を与えるコントローラとを備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らは、パイロットバルブのスプールの位置を制御することによりアクチュエータに供給される流体の流量を制御する流量制御装置について以下の認識を得た。エンジン制御装置などの上位コントローラからの位置指令にしたがってパイロットバルブのスプールの位置を制御しても、そのスプールの形状によってはアクチュエータに所望の流量の流体が流れないという問題がある。
【0005】
上記を鑑み、本発明の目的は、パイロットバルブのスプールの位置に応じて、アクチュエータの位置を所望の位置に安定的に制御可能な流量制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様の流量制御装置は、パイロットバルブのスプールであるパイロットスプールの実位置を目標位置になるよう駆動制御することによりアクチュエータに供給される流体の流量を制御する流量制御装置であって、前記パイロットスプールの実位置と、前記パイロットスプールが当該実位置に位置するときに前記アクチュエータに流れる前記流体の流量に関係する流量関係パラメータの値と、を取得する第1取得部と、前記パイロットスプールの前記目標位置を示す位置指令を取得する第2取得部と、前記実位置と前記流量関係パラメータの値とに基づいて、前記目標位置を補正する補正部と、前記補正後の目標位置にしたがって、前記パイロットスプールを駆動させる駆動制御部と、を含む。
【0007】
なお、本発明の構成要素や表現を方法、装置、プログラム、プログラムを記録した一時的な又は一時的でない記憶媒体、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、パイロットバルブのスプールの位置に応じて、アクチュエータの位置を所望の位置に安定的に制御可能な流量制御装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】油圧サーボバルブのバルブ制御装置の周辺の構成を概略的に示す図である。
【
図2】油圧サーボバルブの構成を概略的に示す図である。
【
図3】
図3(a)~(c)は、パイロットスプールの弁体の位置とポートの開閉状態を模式的に示す模式図である。
【
図4】バルブ制御装置を概略的に示す構成図である。
【
図5】
図5(a)~(c)は、中立位置におけるパイロットスプールの弁体及び第2ポートの状態を示す図である。
【
図6】
図6(a)~(c)は、それぞれ、
図5(a)~(c)の弁体の位置とメインバルブに供給される作動油の流量との相関関係を示す図である。
【
図7】
図7(a)~(c)は、それぞれ、パイロットスプールの弁体の幅が第2のポートの開口幅よりも小さい場合に、弁体12aの位置に対する作動油の流量の変化量が増大する原理を説明するための図である。
【
図8】バルブ制御装置の動作を示すフローチャートである。
【
図9】バルブ制御装置の更新動作を示すフローチャートである。
【
図10】バルブ制御装置の動作を示すフローチャートである。
【
図11】パイロットスプールの弁体の位置とメインスプールの移動速度との相関関係を示す図である。
【
図12】バルブ制御装置を概略的に示す構成図である。
【
図13】バルブ制御装置の推定動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施形態及び変形例では、同一又は同等の構成要素、部材には、同一の符号を付し、適宜重複した説明は省略する。また、各図面における部材の寸法は、理解を容易にするために適宜拡大、縮小して示される。また、各図面において実施形態を説明する上で重要ではない部材の一部は省略して表示する。
【0011】
[第1実施形態]
図1を参照する。バルブ制御装置100は、任意の制御弁を制御するために利用可能であるが、本実施形態では、船舶に搭載されたエンジン80に用いられる油圧サーボバルブ1を制御する。バルブ制御装置100は流量制御装置の一例である。
【0012】
船舶に搭載されたエンジン80は、複数の気筒81を備える。油圧サーボバルブ1は、複数の気筒81のそれぞれに対応して設けられ、それぞれの気筒81における燃料の噴射や排気などを制御する。
【0013】
エンジン制御装置90は、船舶の航行を制御するための図示しないコントロールパネルから入力されるエンジン出力Hs(
図4参照)に基づいて、後述する位置指令をバルブ制御装置100に送信する。エンジン制御装置90が実行する具体的な制御については後述する。
【0014】
バルブ制御装置100は、エンジン制御装置90からの位置指令に応じて、後述する各パイロットバルブのスプールの位置を制御する。バルブ制御装置100が実行する具体的な制御については後述する。
【0015】
図2を参照する。油圧サーボバルブ1は、作動油(流体)48を供給することによりアクチュエータの動作を制御するパイロットバルブ10と、アクチュエータの一例であるメインバルブ20と、を備える。パイロットバルブ10及びメインバルブ20は、入力信号に対して出力流体の圧力又は流量を比例的に制御する比例制御弁である。この場合、弁は制御量に比例して動作するので、安定したフィードバック制御を実現できる。
【0016】
パイロットバルブ10は、パイロットスプール12を有する。パイロットスプール12は、バルブ制御装置100の指令に基づいて移動しその位置が変化する。パイロットバルブ10は、パイロットスプール12の位置に応じてメインバルブ20に供給される作動油48の流量を変化させる。
【0017】
メインバルブ20は、メインスプール22を有する。メインスプール22は、パイロットバルブ10からの作動油48の送出状態に応じて移動しその位置が変化する。メインバルブ20は、メインスプール22の位置に応じてエンジン80に燃料を噴射する噴射弁やエンジン80内の空気を排気する排気弁などを駆動するために設けられた別のアクチュエータへ供給する作動油48の流量を変化させる。別の例では、メインバルブ20は、メインスプール22の移動により噴射弁や排気弁などを直接駆動してもよい。
【0018】
メインバルブ20の油圧系統は、作動油48を貯留するドレインタンク44と、ドレインタンク44の作動油48を加圧して送出する油圧ポンプ42とを含む。油圧ポンプ42から送出された作動油48は、メインバルブ20内のポンプ側配管部28pを通じて、メインバルブ20の内部とパイロットバルブ10とに供給される。パイロットバルブ10とメインバルブ20の内部から排出される作動油48は、メインバルブ20内のタンク側配管部28tを通じてドレインタンク44に戻される。
【0019】
パイロットバルブ10は、第1位置センサ14sと、スリーブ16と、スプール駆動部18とを含む。パイロットスプール12は、中空のスリーブ16内を移動可能な複数の弁体12p、12a、12tを有する。スプール駆動部18は、パイロットスプール12を第1方向(
図1のパイロットスプール12の長手方向)に沿って進退させるソレノイド(不図示)を含む。スプール駆動部18は、バルブ制御装置100からの指令に基づいてパイロットスプール12を移動させて弁体12p、12a、12tの位置を制御する。この例では、3つの弁体12p、12a、12tは、後述する3つの第1ポート16p、第2ポート16a及び第3ポート16tをそれぞれ開閉可能な位置に配置される。3つの弁体12p、12a、12tは、その位置に応じて3つのポート16p、16a及び16tの連通状態を変化させる。本実施形態の弁体12aの第1方向の幅(以下、幅という)は、その摩耗による形状の経時変化を想定して、第2ポート16aの幅よりも大きく設計される。
【0020】
スリーブ16は、第1方向に延びてパイロットスプール12を収容する。スリーブ16は、第1ポート16pと、第2ポート16aと、第3ポート16tとを含む。第1ポート16pは、メインバルブ20のポンプ側配管部28pに接続され、油圧ポンプ42から加圧された作動油48の供給を受ける。第1ポート16pは、油圧ポンプ42から作動油48を入力する。第2ポート16aは、メインバルブ20の作動油受入部28aに接続される。第2ポート16aは、第1ポート16pから入力された作動油48をメインバルブ20に供給する。第3ポート16tは、タンク側配管部28tに接続され、パイロットバルブ10に流れた作動油48をタンク側配管部28tを通じてドレインタンク44に排出する。第3ポート16tは、メインバルブ20へ供給した作動油48を排出する。
【0021】
第1位置センサ14sは、パイロットスプール12の位置を検知し、その検知結果(以下、「実位置PVx」という)をバルブ制御装置100に出力する。
【0022】
メインバルブ20は、メインスプール22と、メインスプール22の位置を取得する第2位置センサ24sとを含む。メインスプール22は、パイロットバルブ10から作動油受入部28aに供給された作動油48の圧力に基づいて移動し、エンジン80への燃料供給量を変化させる。つまり、エンジンへの燃料供給量は、メインスプール22の位置に応じて変化する。
【0023】
第2位置センサ24sは、メインスプール22の位置を検知し、その検知結果(以下、「実位置MVx」という)をエンジン制御装置90及びバルブ制御装置100に出力する。
【0024】
図3(a)~(c)を用いて、パイロットバルブ10の各弁体の位置と当該位置に対するポートの開閉状態とを説明する。
図3(a)は、弁体12a、12pが第2ポート16aと第1ポート16pとを連通させる第1領域内に位置する状態を示す。この状態では、第2ポート16aは、第1ポート16pからの作動油48を作動油受入部28aに供給する(以下、「供給モード」という)。供給モードでは、メインバルブ20の作動油受入部28aには油圧ポンプ42から第1ポート16pを介して作動油48が供給される。この動作により、例えば、メインバルブ20のメインスプール22が、エンジン80への燃料供給量を増やす方向(
図1では第1方向とは反対方向)に移動する。
【0025】
図3(b)は、弁体12aが第2ポート16aを遮断して第1ポート16p及び第3ポート16tをそれぞれ第2ポート16aと連通させない中立領域内に位置する状態を示す(以下、中立領域内の位置を「中立位置」ともいう)。中立位置は、パイロットスプール12がその進退方向に移動するときの原点となる位置である。この状態では、第2ポート16aは遮断され、作動油受入部28aに対して作動油48の供給も回収もしない(以下、「中立モード」という)。中立モードでは、メインバルブ20の作動油受入部28aの油圧は、弁体12aが中立領域に位置する直前の状態で維持される。この動作により、例えば、メインバルブ20のメインスプール22が直前の位置で停止し、エンジン80への燃料供給量が直前の状態に保たれる。
【0026】
図3(c)は、弁体12a、12tが第2ポート16aと第3ポート16tとを連通させる第2領域内に位置する状態を示す。この状態では、第2ポート16aは、作動油受入部28aから作動油48を回収してタンク側配管部28tに戻す(以下、「回収モード」という)。回収モードでは、メインバルブ20の作動油受入部28aの作動油48が第2ポート16a、第3ポート16tおよびタンク側配管部28tを通じてドレインタンク44に回収される。この動作により、例えば、メインバルブ20のメインスプール22が、エンジン80への燃料供給量を減らす方向(
図1では第1方向)に移動する。
【0027】
バルブ制御装置100を説明する。
図4に示す各機能ブロックは、ハードウェア的には、コンピュータのCPUをはじめとする電子素子や機械部品などで実現でき、ソフトウェア的にはコンピュータプログラムなどによって実現される。しかし、ここでは、それらの連携によって実現される機能ブロックが描かれる。したがって、これらの機能ブロックはハードウェア、ソフトウェアの組合せによっていろいろなかたちで実現できることは、当業者には理解される。
【0028】
図4に示すように、バルブ制御装置100は、複数の機能ブロックを集約した情報処理部30と、記憶部50とを含む。情報処理部30は、第1取得部31と、第2取得部32と、判定部33と、相関データ生成部34と、更新部35と、補正部36と、駆動制御部37と、を含む。記憶部50は、後述する相関データ51及び補正用データ52を記憶する。本実施形態では、情報処理部30と記憶部50とは一体的なモジュールとして構成されている。
【0029】
第1取得部31は、パイロットバルブ10に設けられた第1位置センサ14sから、パイロットスプール12の実位置PVxを取得する。第1取得部31は、メインバルブ20に設けられた第2位置センサ24sから、メインスプール22の実位置MVxを取得する。
【0030】
第1取得部31は、実位置PVx毎に、メインバルブ20に流れる作動油48の流量に関係する流量関係パラメータの値を取得する。本実施形態の流量関係パラメータは、第1方向についてのメインスプール22の移動速度(以下、移動速度という)である。移動速度は、メインバルブ20に流れる作動油48の流量に比例して変化するため、メインバルブ20に流れる作動油48の流量に関係する。本実施形態の第1取得部31は、実位置PVx毎に、第1取得部31で取得されたメインスプール22の実位置MVxの変位に基づいて移動速度を取得する。具体的には、第1取得部31は、パイロットスプール12が実位置PVxに位置するときに第2ポート16aから流れる作動油48によって移動するメインスプール22の移動速度を取得する。
【0031】
第2取得部32は、エンジン制御装置90からパイロットスプール12の目標位置PVsを示す位置指令を取得する。第2取得部32は、目標位置PVsを記憶部50に記憶する。
【0032】
判定部33は、後述する更新条件等が満たされているか否かを判定する。
【0033】
相関データ生成部34は、更新用相関データを生成する。更新用相関データは、パイロットスプール12をその進退方向に移動させたときに第1取得部31で取得された各実位置PVxと各実位置PVxについて取得されたパラメータの値との相関関係を示す。記憶部50に記憶された相関データ51も同様に、この相関関係を示す。
【0034】
更新部35は、相関データが生成された後に取得されたパイロットスプール12の実位置PVx及び該実位置PVxについての流量関係パラメータの値に基づいて、記憶部50に記憶された相関データ51を更新する。更新部35は、相関データ生成部34によって生成された更新用相関データを用いて相関データ51を更新する。また、更新部35は、相関データ51に基づいて、記憶部50に記憶された補正用データ52を更新する。本実施形態の補正用データ52は、パイロットスプール12の目標位置PVs1毎に、対応するパイロットスプール12の補正後の目標位置PVs2を示す。本実施形態の補正用データ52の更新方法については後述する。
【0035】
補正部36は、パイロットスプール12の実位置PVxとこの実位置PVxでの流量関係パラメータの値に基づいて、第2取得部32によって取得されたパイロットスプール12の目標位置PVs1を補正する。具体的には、補正部36は、相関データ51に基づいて生成された補正用データ52を用いて目標位置PVs1を補正する。これにより、補正部36は、補正後のパイロットスプール12の目標位置PVs2を生成して駆動制御部37に出力する。
【0036】
駆動制御部37は、パイロットスプール12の動作を制御する。具体的には、駆動制御部37は、補正後のパイロットスプール12の目標位置PVs2と、第1取得部31で取得された実位置PVxとの偏差に基づいて所定の演算処理を行い、パイロットスプール12の駆動信号を生成する。スプール駆動部18は、駆動制御部37から駆動信号を取得し、駆動信号に基づいてパイロットスプール12を駆動する。本実施形態における駆動制御部37は、演算結果に基づいてPID制御を含むフィードバック制御を行う。
【0037】
ところで、パイロットスプール12は、中空のスリーブ16内でその進退方向に移動を繰り返すように駆動される。そのため、パイロットバルブ10が長時間使用されると、パイロットスプール12と中空のスリーブ16の内壁との摩擦力により、パイロットスプール12に摩耗が生じる。このパイロットスプールの摩耗は、後述する
図5(b)、
図5(a)、
図5(c)の順に進行する。また、この摩耗が進行すると、作動油48にパイロットスプール12の金属粉等の異物が混入する場合がある。その結果、この作動油48中の異物がパイロットスプール12を削ってしまうなど、パイロットスプール12が変形することもある。さらに、パイロットスプール12は、その製造誤差を有する場合がある。
【0038】
以上のように、パイロットスプール12は、摩耗状態、変形やその製造誤差等に起因してその形状について個体差を有する。パイロットスプール12(特に、第2ポート16aを開閉する弁体12a)の形状は、後述するように、パイロットスプール12の位置に対するメインバルブ20に供給される作動油48の流量の相関関係に影響を与える。
【0039】
以下、この相関関係に影響を与える理由について、
図5(a)~(c)乃至
図7(a)~(c)を用いて説明する。
図5(a)~(c)では、第1方向について、弁体12aの中心が第2ポート16aの開口の中心と一致する位置にある。以下、このときの弁体12aの位置を「基準位置」という。また、
図6(a)~(c)中、横軸は弁体12aの中心の位置を示し、縦軸は第2ポート16aを介してメインスプール22に流れる作動油48の流量を示す。
図6(a)~(c)中の横軸の原点は、弁体12aが基準位置にあることを示す。
【0040】
図5(a)の例では、弁体12aの幅が第2ポート16aの開口幅と等しい。この場合、基準位置では弁体12aによって第2ポート16aが遮断され、第2ポート16aでは作動油48が流れない。一方で、弁体12aが基準位置から少しでも移動すると、第2ポート16aが他のポートと連通し、第2ポート16aに作動油48が流れるようになる。その結果、
図6(a)に示すように、メインバルブ20に供給される作動油48の流量は、弁体12aの位置に比例して変化する。
【0041】
一方で、
図5(b)の例では、弁体12aの幅が第2ポート16aの開口幅よりも大きい。この場合、弁体12aが基準位置から移動してもすぐには第2ポート16aが他のポートと連通しない。その結果、弁体12gによって第2ポート16aが遮断された状態が継続する。そのため、
図6(b)に示すように、基準位置を中心とした広い位置範囲でメインバルブ20に供給される作動油48の流量が0となる。弁体12aの移動により第2ポート16aが他のポートと連通すると、
図6(b)に示すように、メインバルブ20に供給される作動油48の流量は、弁体12aの位置に比例して変化するようになる。
【0042】
また、
図5(c)の例では、弁体12aの幅が第2ポート16aの開口幅よりも小さい。この場合、弁体12aが基準位置にある場合であっても、弁体12aと第2ポート16aとの間に隙間が生じて第2ポート16aが僅かに開口する。特に、
図5(c)のように第1方向について弁体12aの両側に隙間がある場合、片側に隙間がある場合と比べ第2ポート16aに流れる流体の流量は増大する。その結果、
図6(c)に示すように、弁体12aの両側に隙間が生じる基準位置付近では、弁体12aの位置に対する作動油48の流量の変化量が他と比べて増大する。
【0043】
作動油48の流量の変化量が増大する理由について、
図7(a)~(c)を用いて説明する。作動油48の流量は、弁体12aと第2ポート16aの間の隙間の断面積によって決まる。この隙間の断面積は、隙間の幅によって変動する。
図7(a)に示すように、弁体12aと第2ポート16aの両側に例えば幅1mmの隙間がある中立位置では、第1方向側の隙間から幅1mmの隙間に対応する流量の作動油48が第2ポート16aから排出される。一方で、反対側の隙間から幅1mmの隙間に対応する同じ流量の作動油48が第2ポート16aに供給される。そのため、第2ポート16aに流れる作動油48の流量は0となる。
【0044】
図7(a)の中立位置から第1方向に0.5mmだけ弁体12aが移動した場合について説明する(
図7(b))。この場合、第1方向側の隙間から幅0.5mmの隙間に対応する流量の作動油48が第2ポート16aからメインスプールに供給される。一方で、反対側の隙間から幅1.5mmの隙間に対応する同じ流量の作動油48がメインスプールから第2ポート16aを介してドレインタンクに排出される。そのため、移動前後で第2ポート16aに流れる作動油48の流量は幅1.0mmの隙間に対応する流量分だけ増加する。
【0045】
弁体12aについて第1方向とは反対側に隙間がある状態から第1方向に0.5mmだけ弁体12aが移動した場合について説明する(
図7(c))。この場合、移動前後でこの反対側の隙間から流れる作動油48の流量は、幅0.5mm分の隙間に対応する流量分だけ増加する。
【0046】
以上のように、弁体12aが0.5mm移動する前後で、
図7(c)の場合には流量が幅0.5mm分の隙間に対応する流量分だけ変化する。一方で、
図7(b)の場合には、流量が幅1.0mm分の隙間に対応する流量分だけ変化する。そのため、弁体12aが移動したときに両者では作動油48の流量の変化量が異なるようになる。
【0047】
ここで、比較のために、補正部36を用いない場合について説明する。
【0048】
上述したように、バルブ制御装置100は、エンジン制御装置90からの位置指令に応じてパイロットスプール12の位置を制御する。仮に補正部36を用いない場合、位置指令に含まれる目標位置PVs1と実位置PVxとの偏差に基づいて、フィードバック制御が行われることになる。
【0049】
しかし、パイロットスプール12の弁体12aの形状が変わると、パイロットスプール12の位置に対するメインバルブ20に供給される作動油48の流量の相関関係が変わる。例えば、上述したように、
図5(b)に示すように弁体12aの幅が第2ポート16aの開口幅よりも大きい状態の場合、
図6(b)に示すように中立位置付近ではメインバルブ20に作動油48が供給されない。そのため、メインスプール22は移動しない。一方で、
図5(c)に示すように弁体12aの幅が第2ポート16aの開口幅よりも小さい状態の場合、
図6(c)に示すように中立位置付近ではメインバルブ20に比較的大きい流量の作動油48が供給される。そのため、メインスプール22は大きく移動する。
【0050】
エンジン制御装置90で設定されたパイロットスプール12の目標位置PVs1をそのまま使用した場合、相関関係の変化の影響を考慮できない。例えば、エンジン制御装置90において
図5(b)のような状態を想定して目標位置が設定されている場合において、メインスプール22を小さく移動させるために比較的少量の作動油48をメインスプール22に供給する場合を考える。この場合、例えば
図6(b)において流量が0から立ち上がる付近の位置が目標位置として設定される。しかし、弁体12aの形状が
図5(c)の状態である場合、その目標位置では
図6(c)に示すように多量の作動油48がメインスプール22に供給されてしまう。その結果、メインスプール22が大きく移動してしまう。
【0051】
このように、目標位置PVs1をそのまま使用した場合、目的とする流量の作動油48がメインバルブ20に供給されず、メインスプール22が目標位置PVs1に移動しないことがある。その結果、目標位置PVs1からのずれを解消するためにフィードバック制御の応答時間が長くなり、制御の応答性が悪化するという問題があった。そのため、パイロットスプール12の状態に応じてフィードバック制御が行われることが望ましい。
【0052】
上述の説明を踏まえて、エンジン制御装置90及びバルブ制御装置100のフィードバック制御の制御ループを説明する。
【0053】
まず、エンジン制御装置90の動作について説明する。エンジン制御装置90は、目的のエンジン出力Hsに対応するメインスプール22の目標位置MVsを特定する。エンジン制御装置90は、特定したメインスプール22の目標位置MVsと、現在のメインスプール22の実位置MVxとの偏差に応じて、パイロットスプール12の目標位置PVs1を算出する。エンジン制御装置90は、算出したパイロットスプール12の目標位置PVs1を示す位置指令をバルブ制御装置100に送信する。このように、エンジン制御装置90は、メインスプール22の目標位置MVsと実位置MVxとの偏差に基づいて、パイロットスプール12の位置のフィードバック制御を行う。その結果、メインスプール22の実位置MVxが、目標位置MVsに追従するように制御される。
【0054】
次に、
図8のフローチャートを参照して、バルブ制御装置100の情報処理部30による動作S10を説明する。動作S10は一定の期間(例えば、10ミリ秒)毎に繰り返し実行される。
【0055】
第2取得部32は、エンジン制御装置90から目標位置PVs1を示す位置指令を取得したか否かを判定する(S11)。位置指令が取得されない場合(S11のN)、動作S10は終了する。位置指令が取得された場合(S11のY)、第2取得部32は位置指令が示す目標位置PVs1を補正部36に出力し、動作S10はS12に進む。また、本実施形態では、位置指令が取得された場合、その目標位置PVs1と油圧ポンプ42によって供給される作動油48の油圧(以下、供給油圧という)とが対応付けられて記憶部50に記憶される。本実施形態の供給油圧は、位置指令を取得したときに油圧ポンプ42から取得される。この供給油圧は、流体がアクチュエータに加える圧力に対応する。
【0056】
次に、補正部36は、相関データに基づいて作成された補正用データ52を用いて、取得した目標位置PVs1を補正することにより、補正後の目標位置PVs2を取得する(S12)。本実施形態の補正用データ52は、目標位置PVs1毎に補正後の目標位置PVs2が対応付けられたデータテーブルである。本実施形態の補正部36は、補正用データ52を用いて、取得した目標位置PVs1をキーとしてテーブル処理によって補正後の目標位置PVs2を取得する。具体的には、補正部36は、補正用データ52から、取得した目標位置PVs1に対応する補正後の目標位置PVs2を抽出する。補正部36は、この抽出した補正後の目標位置PVs2を取得する。
【0057】
第1取得部31は、パイロットスプール12の実位置PVxを取得し、取得した実位置PVxを駆動制御部37に出力する(S13)。駆動制御部37は、第1取得部31からの実位置PVxと補正後の目標位置PVs2との偏差を算出する(S14)。次に、駆動制御部37は、S13で算出した偏差に基づいて、スプール駆動部18に駆動信号を出力することにより、パイロットスプール12の位置のフィードバック制御を実行する(S15)。駆動制御部37は、駆動信号を出力した後、判定部33に第1判定指示を出力する。
【0058】
次に、判定部33は、駆動制御部37からの第1判定指示に応じて、更新条件を満たすか否かを判定する(S16)。本実施形態の判定部33は、S11で位置指令を取得するまでの所定期間内にエンジン制御装置90から取得した複数の位置指令の各々によって示されるパイロットスプール12の位置の時間推移が所定のパターンを示す場合を更新条件として判定を行う。この所定のパターンは、例えば、基準位置と基準位置から±0.5mmの位置との間でパイロットスプール12を10回繰り返し移動させるようなパターンである。更新条件が満たされない場合(S16のN)、動作S10は終了する。更新条件が満たされる場合(S16のY)、判定部33は取得指示を第1取得部31に出力し、動作S10はS17に進む。
【0059】
次に、第1取得部31は、判定部33からの取得指示に応じて、S15の制御後の実位置PVxと移動速度とを取得し、これらを対応付けて相関データ生成部34に出力する(S17)。このステップでは、第1取得部31は、第1位置センサ14sから実位置PVxを取得し、第2位置センサ24sから取得した実位置MVxに基づいて移動速度を取得する。
【0060】
次に、相関データ生成部34は、第1取得部31からの対応付けられた実位置PVx及び移動速度と記憶部50に記憶された相関データ51とに基づいて、更新用相関データを生成し、更新部35に出力する。(S18)。更新用相関データは、パイロットスプール12の位置毎の移動速度の相関関係を示す。具体的には、相関データ生成部34は、記憶部50に記憶された相関データ51において、第1取得部31からの実位置PVxに対応する位置における移動速度を、第1取得部31からの移動速度に置き換える。その結果、生成された更新用相関データでは、第1取得部31からの実位置PVx及び対応する移動速度が反映される。
【0061】
次に、更新部35は、相関データ生成部34からの更新用相関データを用いて、記憶部50に記憶された相関データ51を更新する(S19)。この更新された相関データ51では、S17で取得した実位置PVxに対応する位置について、実位置PVxに対応する移動速度によって移動速度が更新される。
【0062】
次に、更新部35は、更新された相関データ51に基づいて、補正用データ52を更新する(S20)。
図9のフローチャートを用いて、本実施形態の補正用データ52の更新動作について説明する。更新部35は、取得した目標位置PVs1にパイロットスプール12が位置する場合の第2ポート16aの開口面積を算出する(S201)。例えば、更新部35は、弁体12aの
図5中の奥行方向の寸法と、パイロットスプール12が目標位置PVs1に位置する場合の弁体12aと第2ポート16aとの間の隙間の第1方向の寸法との積を開口面積として算出する。本実施形態では、弁体12aについての
図5中の奥行方向の寸法として、スリーブ16の中空部分の奥行方向の寸法が用いられる。また、更新部35は、取得した目標位置PVs1に対応する供給油圧を記憶部50から取得する(S202)。次に、更新部35は、算出した開口面積及び取得した供給油圧に基づいて、目標位置PVs1での作動油48の想定流量を算出する(S203)。この想定流量は、目標位置PVs1においてメインバルブ20に供給されると想定される流量である。次に、更新部35は、算出した作動油48の想定流量をメインスプール22の断面積で除算して、目標位置PVs1におけるメインスプール22の想定移動速度を算出する(S204)。この想定移動速度は、目標位置PVs1に移動したときに想定されるメインスプール22の移動速度である。次に、更新部35は、相関データ51の中から、算出した想定移動速度と一致する移動速度のときのパイロットスプール12の位置を特定する(S205)。次に、更新部35は、特定したパイロットスプールの位置を目標位置PVs1に対応する補正後の目標位置PVs2として、記憶部50に記憶された補正用データ52を更新する(S206)。以上で、S19における更新動作が終了する。
【0063】
この補正用データ52を用いることにより、目標位置PVs1が目標とする作動油48の流量を補正後の目標位置PVs2によって実現することが可能となる。また、この方法によると、エンジン80が動作している状態であっても、そのときのパイロットスプール12の形状に応じて補正用データ52を更新できる。そのため、例えば船舶の航行中に、パイロットスプール12の形状を補正後の目標位置PVs2にリアルタイムで反映させることが可能となる。
【0064】
なお、油圧サーボバルブ1の出荷時においては、事前の実験又はシミュレーションにより作成された相関データ51及び補正用データ52が記憶部50に予め記憶される。以下の変形例で述べるような、流量関係パラメータの他の例としての流量及び駆動電流の場合も同様である。
【0065】
S20の後、動作S10が終了する。
【0066】
本実施形態では、補正部36は、複数の実位置PVxと複数の実位置PVxのそれぞれについて取得された流量関係パラメータの値との相関関係を示す相関データ51に基づいて、目標位置PVxを補正する。また、この流量関係パラメータは、アクチュエータに流れる作動油48の流量に関係するパラメータである。この流量関係パラメータは、パイロットスプール12の状態に応じて変化する。
【0067】
本実施形態によると、作動油48の流量に応じて目標位置PVxが補正される。これにより、パイロットスプール12の摩耗、変形、製造誤差等がある場合であっても、パイロットスプール12の状態に応じて制御された流量の作動油48がメインバルブ20に供給される。そのため、メインスプール22の位置を所望の位置に安定的に制御できる。
【0068】
特に、例えば、パイロットスプール12を長時間駆動させて、
図6(b)→
図6(a)→
図6(c)の順にパイロットスプール12の摩耗が進行した場合であっても、摩耗した形状に合わせて目標位置が補正される。そのため、メインスプール22に流れる流量が目的の流量から大きく離れてしまうことを抑制できるため、メインバルブ20を安定して制御できる。更に、エンジン80に噴射する燃料の供給量やエンジン80の排気量を安定化させることができる。
【0069】
また、本実施形態では、本実施形態の流量関係パラメータは、移動速度である。本構成によると、流量計等の追加のセンサを用いることなく相関データ51を取得できるため、製造コストの増加が抑制される。
【0070】
本実施形態では、油圧ポンプ42から供給される作動油48の油圧にさらに基づいて、作動油48の想定流量が算出される。例えば、パイロットスプール12の摩耗や変形により、例えば中立位置であってもパイロットスプール12と第2ポート16aとの間の隙間から作動油48が漏れる場合がある。本構成によると、このような漏れが生じる場合であっても、より精度よくメインスプール22の位置を所望の位置に制御できる。
【0071】
本実施形態では、第1取得部31は、
図8のS17のように、補正後の目標位置PVs2にしたがってパイロットスプール12が制御されたときの実位置PVxと、パイロットスプール12がこの実位置PVxに位置するときの移動速度を取得する。本構成によると、相関データ生成部34は、第1取得部31で取得されたフィードバック制御後の実位置PVx及び移動速度を用いて、更新用相関データを生成することができる。その結果、相関データ生成部34は、エンジン80の動作中に本実施形態でのフィードバック制御以外の特別な動作を要せずに更新用相関データを生成することが可能である。そのため、相関データ生成部34は、エンジン80が動作中であっても、エンジン80を安定的に動作させつつ、更新用相関データを生成することが可能となる。
【0072】
<変形例>
本実施形態では、補正後の目標位置PVs2を取得するために補正用データが用いられたが、これに限定されず、目標位置PVs1と補正後の目標位置PVs2との相関関係を示す補正式が用いられてもよい。また、サポートベクターマシン、ニューラルネットワーク(ディープラーニングを含む)、ランダムフォレスト等、公知の機械学習手法を用いて作成された補正モデルが用いられてもよい。
【0073】
本実施形態の更新条件は、所定期間内に取得した位置指令群による信号が所定のパターンを示す場合としたが、これに限定されない。パイロットスプール12の位置に応じて燃料が供給される対象のエンジン80が停止している場合が更新条件とされてもよい。例えば、メインスプール22の実位置MVxに基づいて、メインスプール22がエンジン80に燃料を供給できない所定の範囲内の位置に所定時間以上留まっていると判定された場合、エンジン80が停止していると判定される。エンジン80が動作している状態で検知データ(PVx、MVx)を取得すると、エンジン制御の応答遅れなど動作状況によっては検知データの誤差が大きくなる。エンジンが停止している状態を更新条件とすることにより、検知データの誤差を抑制でき、精度の高い相関データ51及び補正用データ52の作成が可能となる。
【0074】
また、メインバルブ20又はパイロットバルブ10の固着防止動作が実行される場合が更新条件とされてもよい。固着防止動作は、メインバルブ20又はパイロットバルブ10における流体の固化によるスプールの固着を防止するために行われる。固着防止動作では、例えば、バルブが開閉を繰り返すように、スプールが周期的に往復運動する。固着防止動作は、ディザ動作と称されることがある。これにより、固着防止動作によって固着を防止しつつ、検知データ(PVx、MVx)を取得できる。このように、固着防止動作を利用することにより、データ取得のための動作を兼用できることから、別の動作を行う場合と比較して省エネルギー化を図ることができる。
【0075】
本実施形態では、供給油圧を油圧ポンプ42の油圧の出力値から取得したが、この供給油圧を測定する圧力計が用いられてもよい。また、中立位置においてパイロットスプール12と第2ポート16aとの間に隙間が生じない場合など、供給油圧が一定である場合がある。この場合、位置指令を取得したときの油圧ポンプ42の油圧の出力値を用いずに、油圧ポンプ42の設定値などの定数が用いられてもよい。
【0076】
本実施形態の流量関係パラメータは、移動速度としたが、これに限定されない。流量関係パラメータは、メインバルブ20に供給される作動油48の流量であってもよい。この場合、例えば、メインバルブ20に供給される作動油48の流量を測定する流量計が用いられてもよい。また、求めた移動速度とそのときの弁体12aと第2ポート16aとの位置関係によって決まる第2ポート16aの開口面積から流量が算出されてもよい。この構成によると、パイロットスプール12の位置とその位置のときにメインバルブ20に実際に供給される作動油48の流量との相関関係に基づいて目標位置が補正される。そのため、パイロットスプール12の形状に応じてメインバルブ20をより正確に制御できる。
【0077】
流量関係パラメータは、パイロットスプール12を駆動する駆動電流としてもよい。この場合、パイロットバルブ10に、スプール駆動部18のソレノイドのコイルに流れる駆動電流の値を検知して検知結果を情報処理部30に送信する電流センサが設けられればよい。
【0078】
本実施形態では、補正用データ52に基づいて目標位置PVs1が補正されたが、これに限定されない。補正部36は、相関データ51において、目標位置PVs1でのメインスプール22の想定移動速度に一致する移動速度に対応する位置を補正後の目標位置PVs2として目標位置PVs1を補正してもよい。この場合、補正部36は、
図9のS201~S205の動作と同様の動作を実行することにより目標位置PVs1でのメインスプール22の想定移動速度と一致する移動速度のときのパイロットスプール12の位置を特定する。次に、補正部36は、特定したパイロットスプール12の位置を補正後の目標位置PVs2として目標位置PVs1を補正すればよい。
【0079】
本実施形態では、相関データ生成部34が生成した相関データに基づいて補正用データ52を作成することにより補正後の目標位置PVs2が取得されたが、これに限定されない。例えば、相関データを用いずに、パイロットスプール12の実位置と対応する流量関係パラメータに基づいて補正用データ52を作成することにより補正後の目標位置PVs2が取得されてもよい。
【0080】
本実施形態では、情報処理部30と記憶部50とが一体的に構成される例を示したが、これらは別々に構成されてもよい。
【0081】
本実施形態の更新用相関データは、補正後の目標位置PVs2にしたがってパイロットスプール12が制御されたときの実位置PVxを用いて生成されたが、これに限定されない。例えばエンジン80が停止中であれば、目標位置PVs1にしたがってパイロットスプール12が制御されたときの実位置PVxを用いて、更新用相関データが生成されてもよい。
【0082】
次に、本発明の第2~第7実施形態を説明する。
【0083】
[第2実施形態]
第2実施形態のバルブ制御装置100を説明する。第2実施形態では、第1実施形態と同一又は同等の構成要素、部材には、同一の符号を付する。第1実施形態と重複する説明を適宜省略し、第1実施形態と相違する構成について重点的に説明する。
【0084】
第1実施形態では、
図8のS10において、目標位置PVs1を取得する毎に補正用データ52を更新したが、本発明はこれに限定されない。第2実施形態では、所定期間中に取得された複数の目標位置PVs1の各々について、補正後の目標位置PVs2を取得することにより補正用データ52を更新する点で第1実施形態と異なる。
図10のフローチャートを用いて説明する。
【0085】
図10に示すように、上述したS11~S14と同様であるS31~S34を経た後、駆動制御部37は、
図8のS15と同様にしてフィードバック制御を実行する(S35)。駆動制御部37は、駆動信号を出力した後、第1取得部31に取得指示を出力する。
【0086】
第1取得部31は、駆動制御部37からの取得指示に応じて、S35の制御後の実位置PVxと移動速度とを取得し、これらを対応付けて記憶部50に記憶する(S36)。また、第1取得部31は、この記憶後に判定部33に第2判定指示を出力する。
【0087】
次に、判定部33は、第1取得部31からの第2判定指示に応じて、更新条件を満たすか否かを判定する(S37)。この場合、前回の更新から所定期間(一日、一週間等)経過したことが更新条件とされてもよい。更新条件が満たされない場合(S37のN)、動作S30は終了する。更新条件が満たされる場合(S37のY)、判定部33は生成指示を相関データ生成部34に出力し、動作S30はS38に進む。
【0088】
相関データ生成部34は、判定部33からの生成指示に応じて、更新用相関データを生成する(S38)。このステップでは、相関データ生成部34は、記憶部50に対応付けられて記憶された実位置PVx及び移動速度の各組に基づいて、更新用相関データを生成する。本実施形態では、前回の動作S30において上記更新条件を満たしたときから今回の動作S30において上記更新条件を満たしたときまでの期間中に取得された各目標位置PVs1について、これに対応する移動速度が反映された相関データが得られる。
【0089】
次に、更新部35は、更新用相関データを用いて、記憶部50に記憶された相関データ51を更新する(S39)。このS39は、
図8のS19と同様であるため、説明を省略する。
【0090】
次に、更新部35は、更新された相関データ51に基づいて、補正用データ52を更新する(S40)。本実施形態では、更新部35は、前回の動作S30において上記更新条件を満たしたときから今回の動作S30において上記更新条件を満たしたときまでに取得された各目標位置PVs1について、メインスプール22の想定移動速度を算出する。更新部35は、算出した想定移動速度の各々について、各々と一致する移動速度のときのパイロットスプール12の位置を特定する。更新部35は、各目標位置PVs1について、それぞれ特定した位置を補正後の目標位置PVs2として、記憶部50に記憶された補正用データ52を更新する。
【0091】
第2実施形態の構成によれば、前回の更新から今回の更新までに得られた全データが更新の際に利用されるため、精度が高い相関データ51及び補正用データ52を作成可能となる。
【0092】
[第3実施形態]
第3実施形態のバルブ制御装置100を説明する。第3実施形態では、第2実施形態と同一又は同等の構成要素、部材には、同一の符号を付する。第2実施形態と重複する説明を適宜省略し、第2実施形態と相違する構成について重点的に説明する。
【0093】
第2実施形態では、
図10のS38において、所定期間中に取得された各目標位置PVs1に対応する各位置について相関データが生成されたが、本発明はこれに限定されない。第3実施形態では、後述する第1位置及び第2位置に基づいて相関データが生成される点で第1実施形態と異なる。
【0094】
図10のS38において、相関データ生成部34は、パイロットスプール12の第1位置及び第2位置を取得する。例えば、相関データ生成部34は、流量関係パラメータの値が所定の低値域内の値になったときのパイロットスプール12の実位置PVxを第1位置として特定する。また、相関データ生成部34は、流量関係パラメータの値が所定の低値域内の値ではなくなったときのパイロットスプール12の実位置PVxを第2位置として特定する。ここでの第1位置は、第1ポート16pと第2ポート16aとが連通したときのパイロットスプール12の位置である。また、第2位置は、第2ポート16aと第3ポート16tとが連通したときのパイロットスプール12の位置である。
【0095】
図11を用いて、本実施形態の第1及び第2位置の特定方法について説明する。
図11に示すように、所定の低値域は、移動速度が0m/sを含む所定の低速度範囲である。相関データ生成部34は、相関データ51において、移動速度が所定の低値域内の速度であるパイロットスプール12の位置のうち、最小値を第1位置として、最大値を第2位置として特定する。所定の低値域は、移動速度を算出するための実位置MVxの検知誤差を考慮して、0m/sを基準に適宜定められる。
【0096】
相関データ生成部34は、特定した第1及び第2位置に基づいて、更新用相関データを生成する。ここで、本実施形態の更新用相関データの生成方法を説明する。この場合の相関データは、第1位置と第2位置との間の位置については、移動速度を0m/sとし、それ以外の位置については、パイロットスプール12の各位置に対して所定の傾きとなるように移動速度を設定する。この所定の傾きは、例えば、油圧サーボバルブ1の出荷時に設定された相関データにおける第1及び第2位置の間以外の位置における移動速度の傾きが用いられる。
【0097】
第1位置と第2位置との間の距離は、パイロットスプール12の位置の摩耗が進行するにつれて小さくなる。一方で、第1位置と第2位置との間以外のパイロットスプール12の位置では、移動速度はパイロットスプール12の位置に比例して変化する。そのため、上記の距離が小さくなったとしても、その位置変化に対する移動速度の変化量は一定である。本実施形態では、相関データ生成部34は、これらの関係を利用して、第1及び第2位置から更新用相関データを生成する。
【0098】
本実施形態によると、所定期間中に目標位置として取得されなかったパイロットスプール12の位置についても、第1及び第2位置に基づいて相関データが更新される。そのため、この位置についても、パイロットスプール12の形状に応じて制御された流量の作動油48がメインバルブ20に供給される。その結果、より精度良くメインスプール22の位置を所望の位置に制御できる。
【0099】
なお、本実施形態では、第1及び第2位置に基づいて相関データを更新したが、これに限定されない。例えば、記憶部50に第1及び第2位置の組み合わせ毎に異なる補正用データ52を予め記憶させておく。更新部35は、第1及び第2位置の組み合わせを検索キーとして、記憶部50に記憶された複数の補正用データ52のうち、この組み合わせに対応する補正用データ52を読み出す。更新部35は、この読み出された補正用データを用いて補正用データ52を更新してもよい。
【0100】
[第4実施形態]
第4実施形態のバルブ制御装置100を説明する。第4実施形態では、第3実施形態と同一又は同等の構成要素、部材には、同一の符号を付する。第3実施形態と重複する説明を適宜省略し、第3実施形態と相違する構成について重点的に説明する。
【0101】
本実施形態では、
図10のS37での更新条件は、S37で位置指令を取得するまでの所定期間内にエンジン制御装置90から取得した複数の位置指令の各々によって示されるパイロットスプール12の位置の時間推移が所定のパターンを示す場合である。この所定のパターンは、例えば、パイロットスプール12の移動可能範囲が基準位置から±1mmであるのに対し、基準位置と基準位置から±50μmの位置との間でパイロットスプール12を10回繰り返し移動させるようなパターンである。すなわち、パイロットスプール12は、パイロットスプール12の移動可能範囲に対し、微小な区間を繰り返し移動することになる。そのため、この更新条件が満たされる場合、
図10のS36では、第1取得部31は、この微小な区間の各実位置PVxについての移動速度を取得し、取得した実位置PVx及び移動速度を対応付けて記憶部50に記憶する。なお、パイロットスプール12を移動させる範囲は、基準位置から±50μmに限定されず、第1位置と第2位置と含むような範囲であればよい。
【0102】
本実施形態の第1位置及び第2位置の特定方法について説明する。本実施形態では、相関データ生成部34は、
図10のS36で記憶部50に対応付けられて記憶された実位置PVx及び移動速度に基づいて、各位置での移動速度の傾きを算出する。ここでは、相関データ生成部34は、その傾きを算出する対象の位置の前後の複数点(例えば100点)の位置における移動速度の平均値を各位置について算出する。相関データ生成部34は、隣接する各位置についての平均値の傾きを算出する。相関データ生成部34は、算出した傾きと所定の傾きとの差分が閾値よりも小さい位置であって、第1方向側及びその反対側について最も基準位置に近い位置をそれぞれ特定する。この所定の傾きは第3実施形態で用いられた所定の傾きと同様に設定される。相関データ生成部34は、第1方向側(
図6(c)中のx軸のマイナス方向)で特定した位置を第1位置とし、その反対側(
図6(c)中のx軸の+方向)で特定した位置を第2位置とする。
【0103】
次に、本実施形態における更新用相関データの生成方法の一例について説明する。第1位置と第2位置との間の距離は、
図5(b)の状態から弁体12aの摩耗が進行するにつれて小さくなり、その後、
図5(a)に示すように0になる。その後、弁体12aの摩耗がさらに進行して弁体12aの幅が第2ポート1aの開口幅よりも小さくなると、第1位置と第2位置との間の距離は再度大きくなる。そこで、第1位置と第2位置との間の距離が0になった後に、再度大きくなった場合、第1位置と第2位置の間以外の位置については、パイロットスプール12の各位置に対して所定の傾きとなるように移動速度を設定し、第1位置と第2位置との間の位置については、所定の傾きの2倍になるように移動速度を設定する。これにより、更新用相関データが生成される。なお、この方法では、上記の生成方法の一例では、第1及び第2位置に対する移動速度の各点がグラフ上で原点に関して点対称の位置にある必要がある。点対称の位置にない場合、第1及び第2位置に対する移動速度の各点がグラフ上で結ばれるような相関データが得られないためである。
【0104】
次に、本実施形態における更新用相関データの生成方法の他の例について説明する。本実施形態では、特定した第1位置と第2位置との間の位置における流量は、本実施形態のS36で所定のパターンに従ってパイロットスプール12を駆動したことにより記憶部50に記憶されている。そのため、記憶部50に記憶された位置毎の移動速度を用いる。第1位置と第2位置との間以外の位置については、パイロットスプール12の各位置に対して所定の傾きとなるように移動速度を設定する。この生成方法によると、パイロットスプール12の偏摩耗や移動速度の検出誤差等により第1及び第2位置に対する移動速度の各点が原点に関して点対称の位置にない場合であっても、これら各点がグラフ上で結ばれるような相関データが得られる。
【0105】
以上のようにして、本実施形態の相関データ生成部34は、更新用相関データを生成する。
【0106】
第3実施形態では、流量関係パラメータの値が所定の低値域に基づいて特定された。しかし、
図5(c)に示すように弁体12aの幅が第2ポート1aの開口幅よりも小さい場合では、
図6(c)に示すように、流量関係パラメータの値が中立位置付近で大きく増大する。そのため、流量関係パラメータの値が中立位置付近ですぐに所定の低値域を超えて増大することから、第1位置及び第2位置を正確に特定できない。本実施形態によると、弁体12aの幅が第2ポート1aの開口幅よりも小さい場合であっても、第1位置及び第2位置を特定できる。また、パイロットスプール12の移動可能範囲に対し、微小な区間を繰り返し移動させるだけで第1距離及び第2距離を特定できる。そのため、パイロットスプール12の移動可能範囲にわたってパイロットスプール12を移動させる場合と比較して、省エネルギー化を図ることができる。
【0107】
[第5実施形態]
第5実施形態のバルブ制御装置100を説明する。第5実施形態では、第1実施形態と同一又は同等の構成要素、部材には、同一の符号を付する。第1実施形態と重複する説明を適宜省略し、第1実施形態と相違する構成について重点的に説明する。
【0108】
図12に示すように、情報処理部30は、第3取得部61と、推定部62と、出力部63と、無線通信部64と、をさらに含む。
【0109】
本実施形態では、第3取得部61は、第3実施形態と同様に相関データ51に基づいて第1位置及び第2位置を特定する。また、第3取得部61は、第1位置と第2位置との間の第1距離を算出することにより、第1距離を取得する。
【0110】
推定部62は、第3取得部61により算出された第1距離と基準値との比較に基づいて、パイロットスプール12の状態を推定する。本実施形態の基準値は、パイロットスプール12について最初に算出された第1距離(例えば出荷時等の第1距離)である。本実施形態のパイロットスプール12の状態は、パイロットスプール12の摩耗度合いである。
【0111】
出力部63は、推定部62の推定結果を出力する。また、出力部63は、第1距離が基準値以下である場合、パイロットバルブ10の交換を推奨する旨を報知する。
【0112】
無線通信部64は、外部と無線通信を行う。例えば、無線通信部64は、バルブ制御装置100を外部から遠隔操作するためのリモートコントローラ40と無線通信を行う。
【0113】
図13を用いて、本実施形態のバルブ制御装置100の動作S50を説明する。判定部33は、推定条件が満たされたか否かを判定する(S51)。本実施形態の推定条件は、前回の推定から所定期間(一日、一週間等)経過したことである。ただし、推定条件は、これに限定されず、更新条件が満たされた場合であってもよい。
【0114】
推定条件が満たされない場合(S51のN)、動作S50は終了する。推定条件が満たされた場合(S51のY)、判定部33は算出指示を第3取得部61に出力し、動作S50はS52に進む。
【0115】
S52では、第3取得部61は、相関データ51に基づいて、第1位置と第2位置との間の第1距離を算出する。第1位置及び第2位置は、第3実施形態で説明した方法と同様の方法により特定される。第3取得部61は、算出した第1距離を推定部62に出力する。
【0116】
次に、推定部62は、第3取得部61によって算出された第1距離が基準値以下であるかどうかを判定する(S53)。
【0117】
算出された第1距離が基準値よりも大きい場合(S53のN)、動作S50はS54に進む。算出された第1距離が基準値以下である場合(S53のY)、動作S50はS55に進む。
【0118】
S54及びS55では、推定部62は、第1距離と基準値との比較に基づいて、パイロットスプール12の状態を推定する。具体的には、推定部62は、第1距離と基準値との差分に基づいて、パイロットスプール12の摩耗度合いを推定する。S54の後、推定部62は推定結果を出力部63に出力し、動作S50はS56に進む。S55の後、推定部62は推定結果及び報知指示を出力部63に出力し、動作S50はS57に進む。
【0119】
S56及びS57では、出力部63は、パイロットスプール12の状態の推定結果を出力する。具体的には、出力部63は、この推定結果を無線通信部64を介してリモートコントローラ40に出力する。その結果、リモートコントローラ40のディスプレイに推定結果が表示される。なお、出力部63は、パイロットバルブ10やバルブ制御装置100等に設けられた不図示のディスプレイに推定結果を表示してもよい。S56の後、動作S50は終了する。S57の後、動作S50はS58に進む。
【0120】
S58では、出力部63は、推定部62からの報知指示に基づいて、パイロットバルブ10の交換を推奨する旨を報知する。例えば、出力部63は、無線通信部64を介してリモートコントローラ40に報知信号を出力し、リモートコントローラ40のディスプレイにパイロットバルブ10の交換を推奨する旨を表示させる。出力部63は、リモートコントローラ40に上記推奨する旨の音声を発生させてもよい。S58の後、動作S50は終了する。
【0121】
ここで、油圧サーボバルブ1やエンジン80等の動作が不安定になった場合、その動作に関するデータ等から、パイロットスプール12の摩耗、変形等の異常や劣化が判断されやすい。一方で、バルブ制御装置100では、上述したように、パイロットスプール12の状態に応じて目標位置PVsが補正される。そのため、実際にはパイロットスプール12の摩耗が進行している状態であっても、油圧サーボバルブ1やエンジン80等は安定的に動作する。したがって、バルブ制御装置100では、パイロットスプール12の摩耗、変形等の異常や劣化が判断されにくい。その結果、油圧サーボバルブ1やエンジン80等がそれまで安定的に動作していたにもかかわらず、突然正常に動作しなくなる場合がある。
【0122】
また、本実施形態によると、第1距離が基準値以下である場合、パイロットバルブ10の交換を推奨する旨のアラームが発生される。そのため、適切な交換時期にパイロットバルブ10を交換することが可能となる。その結果、油圧サーボバルブ1やエンジン80等が突然正常に動作しなくなることが抑制される。
【0123】
本実施形態では、第1距離と比較される基準値は、パイロットスプール12において最初に取得された第1距離である。この構成によると、油圧サーボバルブ1の使用を開始したときからのパイロットスプール12の摩耗を正確に推定できる。
【0124】
なお、本実施形態の基準値は、パイロットスプール12について最初に算出された第1距離としたが、これに限定されない。基準値は、他の気筒81に対応する油圧サーボバルブ1のパイロットスプール12について同じタイミングで算出された第1距離に基づいて設定されてもよい。例えば、基準値は、他の気筒81に対応する油圧サーボバルブ1のパイロットバルブ10について同じタイミングで算出された第1距離の平均値であってもよい。この場合、対象のパイロットスプール12の幅について他の気筒81に対応する油圧サーボバルブ1のパイロットスプール12の幅に対する相対的な大きさを把握できる。その結果、対象のパイロットスプール12の状態を正確に推定できる。
【0125】
また、基準値は、第2ポート16aの開口幅と等しい値等、目的に応じて適宜設定されてもよい。
【0126】
本実施形態では、推定部62は、第1距離に基づいて、パイロットスプール12の状態を推定したが、これに限定されない。推定部62は、第1位置と、第2位置と、第1距離と、のうちの少なくとも1つの値に基づいて、パイロットスプール12の状態を推定してもよい。この場合、基準値は、第1位置と、第2位置と、第1距離との各々について定められる。例えば、推定部62は、第1位置と第1位置について定められた基準値との差分に基づいて、パイロットスプール12の状態を推定してもよい。この場合、基準値は、パイロットスプール12について最初に特定された第1位置であってもよい。第2位置も第1位置と同様にこの推定に用いられてもよい。また、第3取得部61は、第1位置と、第2位置と、第1距離と、のうちの少なくとも1つの値を取得すればよい。
[第6実施形態]
第6実施形態は、油圧サーボバルブの流量制御方法である。本発明の制御方法は、各種の油圧サーボバルブに使用できるが、本実施形態では、パイロットバルブ10のパイロットスプール12の実位置を目標位置になるように駆動制御することによりアクチュエータに供給される流体の流量を制御するための流量制御方法によって例示される。
【0127】
流量制御方法は、パイロットスプール12の実位置と、パイロットスプール12が当該実位置に位置するときにアクチュエータに流れる流体の流量に関係する流量関係パラメータの値と、を取得するステップと、パイロットスプール12の目標位置を示す位置指令を取得するステップと、流量関係パラメータの値に基づいて、目標位置を補正するステップと、補正後の目標位置にしたがって、パイロットスプール12を駆動させるステップと、を含む。この流体制御方法は、バルブ制御装置100によって実現できる。
【0128】
第6実施形態の構成によれば、第1実施形態と同様の作用及び効果を奏する。
【0129】
[第7実施形態]
第7実施形態は、油圧サーボバルブの流量制御プログラム(コンピュータプログラム)である。本発明の制御プログラムは、各種の油圧サーボバルブに使用できるが、本実施形態では、パイロットバルブ10のパイロットスプール12の実位置を目標位置になるように駆動制御することによりアクチュエータに供給される流体の流量を制御するためのコンピュータプログラムによって例示される。
【0130】
コンピュータプログラムは、流量制御装置のコンピュータを、パイロットスプール12の実位置と、パイロットスプール12が当該実位置に位置するときにアクチュエータに流れる流体の流量に関係する流量関係パラメータの値と、を取得する第1取得部31と、パイロットスプール12の目標位置を示す位置指令を取得する第2取得部32と、流量関係パラメータの値に基づいて、目標位置を補正する補正部36と、補正後の目標位置にしたがって、パイロットスプール12を駆動させる駆動制御部37と、として機能させることが可能である。
【0131】
コンピュータプログラムは、これらの機能はバルブ制御装置100の機能ブロックに対応する複数のモジュールが実装されたアプリケーションプログラムとしてバルブ制御装置100のストレージ(例えば記憶部50)にインストールされてもよい。コンピュータプログラムはバルブ制御装置100のプロセッサ(例えばCPU)のメインメモリに読み出しされて実行されてもよい。
【0132】
第7実施形態の構成によれば、第1実施形態と同様の作用及び効果を奏する。
【0133】
以上、本発明の実施形態の例について詳細に説明した。上述した実施形態は、いずれも本発明を実施するにあたっての具体例を示したものにすぎない。実施形態の内容は、本発明の技術的範囲を限定するものではなく、請求の範囲に規定された発明の思想を逸脱しない範囲において、構成要素の変更、追加、削除などの多くの設計変更が可能である。上述の実施形態では、このような設計変更が可能な内容に関して、「実施形態の」「実施形態では」等との表記を付して説明しているが、そのような表記のない内容に設計変更が許容されないわけではない。
【0134】
上述した各実施形態及び変形例の任意の組み合わせもまた本発明の実施形態として有用である。組み合わせによって生じる新たな実施形態は、組み合わされる実施形態及び変形例それぞれの効果をあわせもつ。
【符号の説明】
【0135】
情報処理部 30、 第1取得部 31、 第2取得部 32、 判定部 33、 相関データ生成部 34、 更新部 35、 補正部 36、 駆動制御部 37、 記憶部 50、 バルブ制御装置 100。