(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-08
(45)【発行日】2024-08-19
(54)【発明の名称】生コンスラッジ水の利用方法
(51)【国際特許分類】
B28C 7/12 20060101AFI20240809BHJP
【FI】
B28C7/12
(21)【出願番号】P 2020076631
(22)【出願日】2020-04-23
【審査請求日】2023-03-30
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構戦略的省エネルギー技術革新プログラム、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000154901
【氏名又は名称】株式会社北川鉄工所
(72)【発明者】
【氏名】勝部 英一
【審査官】小川 武
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-197125(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0128032(US,A1)
【文献】特開昭52-065511(JP,A)
【文献】特開昭53-118418(JP,A)
【文献】特開2002-018828(JP,A)
【文献】特開平07-227831(JP,A)
【文献】入江一次、砂田栄治、伊藤司、山之内康一郎,スラッジ水の高度利用に関する研究・夏期コンクリートにおけるスラッジ水安定剤の性能,土木学会第71回年次学術講演会,2016年,V-257,X -P154,p.513-514
【文献】山口 哲矢,勝部 英一 ら,安定化スラッジ水の自動管理に関する研究,月間コンクリートテクノ,全国生コンクリート工業組合連合会,2013年,32巻,P.36-41
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 7/00-28/36
B28C 1/00-9/04
G01N 33/38
G06Q 50/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
グルコン酸を含有する凝結遅延剤が添加された生コンスラッジ水を、練り水として利用できるようにその品質を自動的に安定化させる生コンスラッジ水の自動安定化管理方法であって、
生コンスラッジ水に含まれる固形分の濃度、並びに、生コンスラッジ水の液相部の硫酸イオン及びグルコン酸の濃度を測定する測定工程と、
測定工程での測定結果に基づき、
判定を行う判定工程と
を経ることによって行われ、
判定工程が、
凝結遅延剤の累積使用量が予め設定された上限値以下であるかを判定するステップS1と、
ステップS1で「YES」と判定された場合に実行され、硫酸イオンの濃度が予め設定された下限値以上であるかを判定するステップS3と、
ステップS3で「YES」と判定された場合に実行され、グルコン酸の濃度が0ではないか否かを判定するステップS5と、
ステップS5で「YES」と判定された場合に実行され、セメント量に対するグルコン酸の濃度が上限値以下であるかを判定するステップS6と、
ステップS6で「YES」と判定された場合に実行され、セメント量に対する凝結遅延剤の累計使用量の割合が上限値以下であるかを判定するステップS8と、
ステップS8で「YES」と判定された場合に実行され、生コンスラッジ水の固形分率が許容固形分率以下であるかを判定するステップS9と
を備え、
ステップS9で「YES」と判定された場合には、「生コンスラッジ水を練り水として利用できる」との判定を行う一方、
ステップS1で「NO」と判定された場合には、「生コンスラッジ水を練り水として利用しない」との判定を行うとともに、
ステップS3又はS5で「NO」と判定された場合には、生コンスラッジ水の固形分による外割配合演算する処理を行うことによって、当該判定が「YES」となるように生コンスラッジ水を調整し、
ステップS6又はS8で「NO」と判定された場合には、生コンクリートを製造する配合水の設定値を生コンスラッジ水と清水とに
分割する演算処理を行うことによって、当該判定が「YES」となるように生コンスラッジ水を調整し、
ステップS9で「NO」と判定された場合には、新たに生コンクリートを製造する際の配合材料の一部である水及びセメントの量と、練り水として利用する生コンスラッジ水の量を演算する処理を行うことによって、当該判定が「YES」となるように生コンスラッジ水を調整する
ことを特徴とする生コンスラッジ水の自動安定化管理方法。
【請求項2】
請求項1に記載の生コンスラッジ水の自動安定化管理方法であって、
前記セメント量に対するグルコン酸濃度が上限値を超えた場合、所定値となるように生コンスラッジ水の練り水としての使用量を減算処理し、該減算処理した量を別途水で補うことで生コンスラッジ水を練り水として使用可能に希釈する、方法。
【請求項3】
請求項1に記載の生コンスラッジ水の自動安定化管理方法であって、
前記累積使用量の測定結果が上限値を超えると練り水として使用しない判定を行う、方法。
【請求項4】
請求項1に記載の生コンスラッジ水の自動安定化管理方法であって、
前記固形分の濃度における測定結果に基づいて得られた固形分量が許容量を超えた場合、前記固形分量が許容量となるように、新たに生コンクリートを製造する際の配合材料の一部である水及びセメントの量と、練り水として利用する生コンスラッジ水の量を演算する、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凝結遅延成分を含有する凝結遅延剤が添加され、練り水として利用される生コンスラッジ水の利用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、生コンクリート製造工場では、使用されずに戻ってくる生コンクリート(戻りコン)や、設備の洗浄工程からセメントを含んだ生コンスラッジ水が大量に発生しているが、その殆どは利用されずに廃棄されている。
特許文献1には、プラントミキサ、運搬車等を洗浄した直後の生コンスラッジ水に凝結遅延剤を早期に添加することにより、生コンスラッジ水に含まれるセメント分の水和反応を抑制し、生コンクリートまたはモルタルを構成する材料セメントの一部を代替する方法が開示されている。
【0003】
また、特許文献2には、生コンクリートが付着した装置を洗浄するにあたり、0.01~0.3%の凝結遅延剤を含む洗浄水で洗浄して得られたスラッジ水を、骨材分離槽に導いて骨材を分離して生コンスラッジとし、次いで生コンスラッジ貯留槽に導く工程において、生コンスラッジの固形分濃度を20.2重量%以下に調整し、この生コンスラッジ水を翌日以降のセメントの練混ぜ水として利用する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開昭59-73461号公報
【文献】特開平3-265550号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、生コンスラッジ水を練り水に使用する直前には以下の課題がある。
(1)生コンスラッジ水中のセメント水和反応の進行状態の不透明さ。
(2)生コンスラッジ水中に残存する凝結遅延剤の遅延成分濃度の不透明さ。
(1)の場合、それを練り水に使用した場合、製造される生コンクリートの流動性や硬化後のコンクリート強度などに影響するおそれがある。
(2)の残存成分濃度が高い生コンスラッジ水を練り水に使用した場合、製造されるコンクリートの硬化が遅れるなどのおそれもある。
すなわち、製造するコンクリートの品質を確保する上で、練り水に使用する直前の生コンスラッジ水の状態を考慮することは極めて重要である。
【0006】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、練り水に使用する生コンスラッジ水の品質状態を定期的に測定し、それによって、練り水としての利用可否を判定する生コンスラッジ水の利用方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、凝結遅延成分を含有する凝結遅延剤が添加され、練り水として利用される生コンスラッジ水の利用方法であって、それを構成するのは、少なくとも以下の工程である:
測定工程:ここで、生コンスラッジ水を定期的に測定するのは、少なくとも、硫酸イオン及び凝結遅延成分の濃度であり、
判定工程:ここで、生コンスラッジ水の利用判定は、測定結果に基づく、方法が提供される。
【0008】
本発明に係る生コンスラッジ水の利用方法では、練り水に使用する生コンスラッジ水の硫酸イオン及び凝結遅延成分の濃度を定期的に測定し、その結果に基づいて生コンスラッジ水の利用判定が実施されることで、品質の良い生コンスラッジ水を練り水に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施形態における全体構成を示した模式図である。
【
図2】生コンスラッジ水液相部における経過時間と硫酸イオン濃度との関係を模式的に示したグラフである。
【
図3】生コンスラッジ水液相部における硫酸イオン濃度と強熱減量との関係を模式的に示したグラフである
【
図4】経過時間と硫酸イオン及びグルコン酸の濃度と凝結遅延剤使用量との関係を模式的に示したグラフである。
【
図5】本発明の一実施形態における生コンスラッジ水の利用方法を説明したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を用いて本発明の実施形態について説明に説明する。以下に示す実施形態中で示した各種特徴事項は、限定されるものではなく、互いに組み合わせ可能である。
【0011】
1.全体構成
第1節では、本実施形態に係る生コンスラッジ水利用設備10とバッチャープラント20を含む全体構成について説明する。
図1は、本発明の一実施形態における全体構成を示した模式図である。
図1に示すように、本実施形態に係る全体構成は、生コンスラッジ水利用設備10とバッチャープラント20とを備える。なお、
図1において、実線は構成同士を接続する接続線、破線矢印はデータを送受信する出力線を示している。
【0012】
1.1 生コンスラッジ水利用設備10
生コンスラッジ水利用設備10は、バッチャープラント20で生コンクリートを製造する際の練り水として生コンスラッジ水を利用できるか否かを所定サイクルで定期的に判定し、その判定に応じて使用条件を変更して利用するものである。
【0013】
なお、ここで言う、“生コンスラッジ水”とは、例えば、検査に不合格となった、或いは出荷現場で使用されずに戻ってきた生コンクリート(戻りコン)から砂や砂利を回収した際、或いはアジテータ車またはミキサ等の設備を洗浄した際、に発生するセメント(以下、固形分という場合もある)を含んだ排水である。
【0014】
本出願人は、この生コンスラッジ水を生コンクリートを製造する際の練り水として利用し、且つ、利用時(好ましくは、直前)の生コンスラッジ水の状態を把握できないか鋭意検討した。なお、ここで言う、“練り水”とは、生コンコンクリートを製造する上で必要な配合材料である、水及びセメントの配合量の一部を生コンスラッジ水で代用することをいう。
【0015】
生コンスラッジ水利用設備10は、主に、スラッジ水槽11、濃度測定装置12、スラッジ濃度計13、制御装置14、凝結遅延剤添加装置15、清水槽16、濾過装置17、及びサンプリング水槽18等で構成される。
【0016】
〈スラッジ水槽11〉
スラッジ水槽11は、生コンスラッジ水を所定量溜めておくものである。材質及び容量は使用状況に応じて適宜変更可能である。スラッジ水槽11は、濾過装置17、スラッジ濃度計13、濃度測定装置12、凝結遅延剤添加装置15、及び計量器23と配管を介して接続されている。
【0017】
〈濾過装置17〉
濾過装置17は、一方がスラッジ水槽11と配管を介して接続され、他方がサンプリング水槽18と配管を介して接続されており、スラッジ水槽11から流れてきた生コンスラッジ水の液相部を回収するものである。
【0018】
〈サンプリング水槽18〉
サンプリング水槽18は、一方が濾過装置17と配管を介して接続され、他方が濃度測定装置12と配管を介して接続されており、濾過装置17で回収された生コンスラッジ水の液相部を一時的に溜めるところである。
【0019】
〈濃度測定装置12〉
濃度測定装置12は、一方がサンプリング水槽と配管を介して接続され、他方がスラッジ水槽11と配管を介して接続されており、サンプリング水槽18に溜まっている生コンスラッジ水の液相部の一部を用いて、硫酸イオンとグルコン酸(凝結遅延成分の一例)の濃度を定期的に測定し、その情報データRGを制御装置14に出力するものである。
ここでいう“定期的”は作業者が任意に設定した時間間隔であり、適宜変更できる。
【0020】
濃度測定装置12は、本実施形態では、硫酸イオン及びグルコン酸の2成分の濃度を測定できるイオンクロマトグラフ(イオンの電気伝導度の検出で分析を行う液体クロマトグラフ)を用いた。
【0021】
〈スラッジ濃度計13〉
スラッジ濃度計13は、スラッジ水槽11と濾過装置17とが接続される配管上に接続されており、配管内を流れる生コンスラッジ水の固形分(セメント)の濃度(以下、スラッジ濃度という場合もある)を定期的に測定するものである。また、スラッジ濃度計13は、制御装置14と有線で接続されており、測定した情報データRGを制御装置14に出力している。
【0022】
スラッジ濃度計13は、本実施形態では、ラジオアイソトープ式を用いた。これによって、短時間で生コンスラッジ水の固形分の濃度が測定できる。
【0023】
〈凝結遅延剤添加装置15〉
凝結遅延剤添加装置15は、スラッジ水槽11と配管を介して接続されている。また、制御装置14とも有線で接続されており、制御装置14からの指令によって、スラッジ水槽11に凝結遅延剤を添加するものである。
ここで、本発明で使用する凝結遅延剤(安定剤ともいう)の成分は、グルコン酸を含むものであるが、これに限定されず、凝結遅延成分としてクエン酸、リンゴ酸などのヒドロキシカルボン酸類、及びスクロースやラフィノースなどの糖類を含むものでも良い。
【0024】
〈制御装置14〉
制御装置14は、濃度測定装置12、スラッジ濃度計13、凝結遅延剤添加装置15、及び制御装置21と夫々有線で接続されており、主に、濃度測定装置12及びスラッジ濃度計13から送信された情報データを受信し、そのデータを基に分析または演算し、生コンスラッジ水利用設備10を自動制御するとともに、その情報をバッチャープラント20内の制御装置21に送信するものである。
【0025】
具体的には、濃度測定装置12によって得られた生コンスラッジ水のグルコン酸濃度が管理設定値より低い場合は、凝結遅延剤添加装置15を駆動させて、スラッジ濃度などの情報を用いて不足分を補うように凝結遅延剤を添加すると同時に、その使用量を記憶するようになっている。
【0026】
一方、生コンスラッジ水のグルコン酸濃度が管理設定値より高い場合は、凝結遅延剤添加装置15を駆動せず、すなわち凝結遅延剤の添加をせず、常に管理設定値に近づけるように制御している。
【0027】
また、生コンスラッジ水のグルコン酸の濃度確認は定期的に行われており、その都度、使用した凝結遅延剤の使用量、及び累積使用量が記憶されている。
そして、制御装置14は、これら情報データSD、RG、凝結遅延剤の使用量、及び累積使用量を定期的に自動で制御装置21に送信する。
【0028】
このように、生コンスラッジ水利用設備10は、測定用にスラッジ水槽11内から送り出した生コンスラッジ水をスラッジ濃度計13、濾過装置17、サンプリング水槽18を経由してスラッジ水槽11内に回収する、所謂、循環させる構成となっており、サンプリング水槽18に溜まった生コンスラッジ水の液相部の一部(微少量)は濃度測定装置12に供給され、硫酸イオン及びグルコン酸の濃度が測定される。また、スラッジ水槽内の生コンスラッジ水の凝結遅延成分濃度が低い場合は、凝結遅延剤を添加する構成となっている。また、それらのデータをバッチャープラント20側に出力する構成となっている。
【0029】
また、この生コンスラッジ水利用設備10を自動で運転することで凝結遅延剤添加によって生コンスラッジ水中のセメント水和反応を長期間停止させることが容易となる他、凝結遅延剤の累積使用量の把握も可能となる。
【0030】
〈参考例1〉
撹拌機付きの70L容器2つに、夫々普通ポルトランドセメントを水に懸濁させ、スラッジ(セメント)濃度13%の模擬生コンスラッジ水30Lを作製した。2つの内、一方の模擬生コンスラッジ水については、セメントと水が接してから4時間後に、セメント重量に対してグルコン酸を凝結遅延成分とする凝結遅延剤(商品名:リカバー)を1%添加した。
【0031】
この模擬生コンスラッジ水について、夫々一定時間毎に一部を採取し、濾紙(ワットマンNo.1)をセットしたブフナロートで吸引濾過し、得られた液相部について硫酸バリウム比濁法を用いて硫酸イオン濃度を測定した。また、その測定と同時に、濾紙上に残った固形分について、アセトンで洗浄し直ちに乾燥させた後、電気炉で恒量状態になるまで950℃±25℃で加熱し、その強熱減量を測定した。
【0032】
なお、セメントの水和反応は、セメントを構成するクリンカ鉱物が水分子を結晶水として取り込み硬化して行くもので、その進行状態は、熱分解により取り込まれた水分子が分離した際の強熱減量で表すことができる。水和反応が進行(セメントとしての性能が低下)するほど強熱減量の値が大きくなる。
【0033】
図2は、生コンスラッジ水液相部における経過時間と硫酸イオン濃度との関係を模式的に示し、
図3は、生コンスラッジ水液相部における硫酸イオン濃度と強熱減量との関係を模式的に示したグラフである。
【0034】
図2に示すように、凝結遅延剤を添加していない生コンスラッジ水の硫酸イオン濃度(◇マーカ線)は1,200mg/L前後で維持された後、セメントと水が接して8時間後位から急速に低下して24時間でゼロになっている。一方、凝結遅延剤を添加した生コンスラッジ水の硫酸イオン濃度(○マーカ線)は、グルコン酸の凝結遅延効果によってセメントと水が接して28時間位の間、1,200mg/L前後で維持され、その後急速に低下した。
【0035】
また、
図3は、凝結遅延剤を添加していない生コンスラッジ水を□マーカ実線とし、凝結遅延剤を添加した生コンスラッジ水を○マーカ破線としている。
図3に示すように、凝結遅延剤の添加の有無に関わらず、生コンスラッジ水液相中の硫酸イオン濃度と強熱減量(セメント水和反応の進行状態)は非常に高い負の相関関係にあり、硫酸イオン濃度を測定することでセメント水和反応の進行状態を把握できることが分かる。
【0036】
図2及び
図3より、硫酸イオン濃度を維持させるためには、凝結遅延剤を添加することが好ましいのが分かる。また、セメント水和反応を把握するには、硫酸イオン濃度を測定することが好ましいのが分かる。
すなわち、参考例1によって、凝結遅延剤添加の必要性の根拠、及び硫酸イオン濃度測定の必要性の根拠が分かる。
【0037】
〈実験例1〉
上述の生コンスラッジ水利用設備10は、実験用として容積2.5m3のスラッジ水槽11、凝結遅延剤を30L添加可能な凝結遅延剤添加装置15、濾過装置17、サンプリング水槽18、凝結遅延剤濃度管理操操作盤(制御装置14の一例)、生コンスラッジ水のスラッジ濃度を測定可能なラジオアイソトープ式からなるスラッジ濃度計13、硫酸イオン及びグルコン酸の2成分の濃度を測定可能なイオンクロマトグラフ(イオンの電気伝導度の検出で分析を行う液体クロマトグラフ)からなる濃度測定装置12で構成した。
【0038】
普通ポルトランドセメントを用いて、スラッジ濃度が約16%、水量が約2m3からなる模擬生コンスラッジ水を作製し、約8日間、生コンスラッジ水の自動安定化管理を行った。
【0039】
図4は、経過時間と硫酸イオン及びグルコン酸の濃度と凝結遅延剤使用量との関係を模式的に示した図である。この実験では、セメントが接水して2時間後に凝結遅延剤1.5L(配合セメント量の約0.47%)を添加し、その後、グルコン酸濃度の管理設定値を60mg/Lとして自動運転で安定化管理を行った。自動運転による生コンスラッジ水の安定化管理では、濃度測定装置12による測定で得られたグルコン酸濃度(〇マーカ参照)が管理設定値60mg/Lより高いところでは凝結遅延剤の添加を行わず、管理設定値60mg/Lより低いところでは不足分に応じた量の凝結遅延剤を添加した。定期的にこの操作を繰り返すことでグルコン酸について設定した濃度範囲のスラッジ水を得ることが可能となっている。
【0040】
また、この間、硫酸イオン濃度(◇マーカ参照)は、1,200mg/L以上で推移しており、この約8日間においては、生コンスラッジ水のセメントの水和反応が抑制されていることが分かる。すなわち、セメントの活性があることになる。
【0041】
このように、生コンスラッジ水利用設備10を用いることで凝結遅延剤の累積使用量の把握が容易で、更に、直近の硫酸イオン及びグルコン酸の濃度が常に測定できていることから、いつでも安定した生コンスラッジ水を生コンクリート製造時の配合セメントの一部を置換できる練り水として使用することができる。
【0042】
1.2 バッチャープラント20
バッチャープラント20は、生コンクリートを製造するところであり、例えば、生コンクリートを製造する配合材料を設定し、設定した値となるように計量し、それをミキサ23に排出した後、ミキサ23が混練することで生コンクリートが製造される。
本実施形態に係るバッチャープラント20は、主に、制御装置21、モニタ22、計量器23、及びミキサ24などで構成される。
【0043】
〈制御装置21〉
制御装置21は、制御装置14、モニタ22、及び計量器23と夫々有線で接続されており、生コンスラッジ水利用設備10内の制御装置14から送信された各種データを受信する。そして、その受信データの一部を例えば、モニタ22に対して出力し、また、計量器23に対して計量値を指示するところである。
【0044】
〈モニタ22〉
モニタ22は、制御装置21から出力されたデータ、例えば、生コンスラッジ水の硫酸イオン及びグルコン酸の2成分の濃度や生コンスラッジ水の固形分の濃度を表示可能となっている。また、セメント100kgあたりの凝結遅延剤の累計使用量なども表示可能となっている。
【0045】
〈計量器23〉
計量器23は、生コンクリートを製造するセメント、水などの配合材料、を計量するものであって、本実施形態では、例えば、スラッジ水槽11と清水槽16とに夫々接続されており、制御装置21によって、指令された計量値となるようにスラッジ水槽11の生コンスラッジ水と清水槽16の水を計量するようになっている。
【0046】
〈ミキサ24〉
ミキサ24は、配合材料を混練するものであり、計量器23によって計量された材料が供給される。
【0047】
2.生コンスラッジ水利用の判定フロー図
図5は、本発明の一実施形態における生コンスラッジ水の利用方法を説明したフローチャートである。生コンスラッジ水利用設備10を制御装置14で生コンスラッジ水の自動安定化管理(自動運転)している状態で、バッチャープラント20の作業者が生コンスラッジ水利用設備10の生コンスラッジ水を練り水として利用する判断をした場合、作業者の指示によって、制御装置21が生コンクリートを製造する配合材料の調整を制御して行われる。
【0048】
すなわち、凝結遅延成分を含有する凝結遅延剤が添加され、練り水として利用される生コンスラッジ水の利用方法は、それを構成するのは、少なくとも測定工程と判定工程であり、測定工程は、生コンスラッジ水の少なくとも、硫酸イオン及び凝結遅延成分の濃度を定期的に測定し、判定工程は、測定結果に基づいて生コンスラッジ水の利用判定が行われる。
【0049】
具体的には、
図5に示すフローチャートを参照しながら、生コンスラッジ水利用について説明する。
【0050】
生コンスラッジ水を練り水と使用すると判断した場合、開始され、凝結遅延剤累積使用量が予め設定された上限値以下であるかを判定する(ステップS1)。具体的にいうと、固形分当たりの凝結遅延剤累積使用量と凝結遅延剤管理上限値より、凝結遅延剤が管理化にあるかを判定する。
以下でなければ、練り水として利用しない判定となる(ステップS2)。一方、以下であれば、次の判定(ステップS3)にいく。
【0051】
ステップS3は、硫酸イオン濃度が予め設定された下限値以上であるかを判定する。具体的にいうと、硫酸イオン濃度でセメント活性度を判定する。
以上でなければ、セメント活性度が“なし”となり、生コンスラッジ水中固形分による外割配合演算となる(ステップS4)。一方、以上であれば、セメント活性度が“あり”となり、次の判定(ステップS5)にいく。
【0052】
ステップS5は、グルコン酸濃度が0ではないか否かを判定する。具体的にいうと、グルコン酸濃度で凝結遅延剤の測定結果の合否を判定する。
グルコン酸濃度が0の場合、生コンスラッジ水中固形分による外割配合演算となる(ステップS4)。一方、グルコン酸濃度が0以外であれば、合格となり、次の判定(ステップS6)にいく。
【0053】
ステップS6は、セメント量に対するグルコン酸濃度が上限値以下であるかを判定する。具体的にいうと、現在のセメント量に対するグルコン酸濃度(C×%)の演算し、それが予め設定されているグルコン酸濃度上限値(C×%)より高い値(高濃度)であれば、生コンクリートを製造する配合水の設定値を生コンスラッジ水と清水とに分割演算する(ステップS7)。一方、グルコン酸濃度(C×%)がグルコン酸濃度上限値(C×%)以下の低い値(正常濃度)であれば、生コンクリートを製造する配合水の設定値を全て生コンスラッジ水で担う判定となり、次の判定(ステップS8)にいく。
【0054】
ステップS8は、セメント量に対する凝結遅延剤累計使用量割合が上限値以下であるかを判定する。セメント量に対する凝結遅延剤累計使用量割合が上限値より大きい場合、生コンクリートを製造する配合水の設定値を生コンスラッジ水と清水とに分割演算する(ステップS7)。一方、セメント量に対する凝結遅延剤累計使用量割合が上限値以下の場合、生コンクリートを製造する配合水の設定値を全て生コンスラッジ水で担う判定となり、次の判定(ステップS9)にいく。
【0055】
ステップS9は、生コンスラッジ水が許容固形分率以下であるかを判定する。具体的には、許容固形分量と現在の固形分量とを演算し、それらを許容固形分率、固形分率におきかえて、判定する。固形分率が許容固形分率を超えた場合、固形分量が許容量となるように、生コンクリートを製造する際の配合水と配合セメントと練り水として使用する生コンスラッジ水の量を演算する。一方、固形分率が許容固形分率を超えない(以下)の場合、生コンクリートを製造する配合水の設定値を全て生コンスラッジ水で担う判定となり、終了となる。
【0056】
そして、この終了判定によって、制御装置21からセメント用、水用などの計量器23に指令が入り、計量された配合材料がミキサ24に排出される。
【0057】
このような判定によって、生コンスラッジ水を練り水として使用できるか判定することができる。また、使用できる判定となった場合の、生コンスラッジ水の練り水へ使用量、それによる、清水の使用量の演算や配合セメント量の減算をすることができ、生コンスラッジ水を使用したとしても、常に安定した品質のコンクリートを製造することができる。
また、生コンスラッジ水中のセメント水和反応の進行速度は、外気温や水温の影響を受け易く、また、セメントの種類によっても異なるが、使用直前に現在の硫酸イオンの濃度が分かるため、性能に問題のあるセメントを使用直前に選別することができる。
また、グルコン酸の残存濃度が高い生コンスラッジ水を練り水に使用した場合、製造されるコンクリートの硬化が遅れるなどの問題が生じるが、使用直前に現在のグルコン酸の濃度が分かるため、安定したコンクリートの硬化をさせることができる。
【0058】
4.その他
前述の各実施形態を以下の態様によって実施することもできる。
(1)濃度測定装置12は、硫酸イオン及びグルコン酸の2成分の濃度を測定できるイオンクロマトグラフを用いたが、一方を硫酸イオンの濃度を測定できる装置、他方をグルコン酸の濃度を測定できる装置からなる2つの装置を用いて実現しても良い。
(2)硫酸イオンの濃度の測定装置として、硫酸バリウム比濁法による分析装置、液体クロマトグラフ分析計、元素分析計、近赤外分光分析計、蛍光X線分析装置などが挙げられ、水に溶解した硫酸イオンまたは硫酸イオンの構成元素である硫黄の濃度を測定できる分析手段であれば特に限定するものではない。
(3)凝結遅延剤の凝結遅延成分濃度の測定装置として、液体クロマトグラフ分析計、近赤外分光分析計などが挙げられる。
(4)スラッジ濃度計として、ラジオアイソトープ式に限定されず、例えば、超音波式、マイクロ波式などによって実現されてもよい。
(5)スラッジ濃度計13の配置は、スラッジ水槽11と濾過装置17とが接続される配管上に限定されず、例えば、スラッジ水槽11に検出部を直接投入するものであっても良い。
(6)制御は、生コンスラッジ水利用設備10用の制御装置14、バッチャープラント20用の制御装置21とで行っているが、これに限らず、どちらか一方の制御装置のみに集約して制御しても良い。
【0059】
7.結言
以上のように、生コンスラッジ水を練り水に利用するにあたって、生コンスラッジ水の利用状態を定期的に判定し、判定結果に応じて利用できる状態にする、あるいは配合材料を制御する技術が提供される。
【0060】
次に記載の各様態で提供されてもよい。
前記生コンスラッジ水の利用方法であって、前記測定工程は、さらに、前記凝結遅延剤の累積使用量であり、前記判定工程は、前記累積使用量の測定結果に基づく、方法。
前記生コンスラッジ水の利用方法であって、前記測定工程は、さらに、前記生コンスラッジ水中の固形分の濃度であり、前記判定工程は、前記固形分の濃度の測定結果に基づく、方法。
前記生コンスラッジ水の利用方法であって、前記凝結遅延成分は、グルコン酸からなる、方法。
前記生コンスラッジ水の利用方法であって、前記凝結遅延成分の濃度における測定結果に基づく判定は、セメント量に対する凝結遅延成分濃度に変換して判定する、方法。
前記生コンスラッジ水の利用方法であって、前記セメント量に対する凝結遅延成分濃度が所定値を超えた場合、所定値となるように生コンスラッジ水の練り水としての使用量を減算処理し、該減算分量を別途水で補うことで生コンスラッジ水を練り水として使用可能に希釈する、方法。
前記生コンスラッジ水の利用方法であって、前記累積使用量の測定結果が上限値を超えると練り水として使用しない判定を行う、方法。
前記生コンスラッジ水の利用方法であって、前記固形分の濃度における測定結果に基づいて得られた固形分量が許容量を超えた場合、前記固形分量が許容量となるように、新たに生コンクリートを製造する際の配合材料の一部である水及びセメントの量と、練り水として利用する生コンスラッジ水の量を演算する、方法。
もちろん、この限りではない。
【0061】
最後に、本発明に係る種々の実施形態を説明したが、これらは、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。当該新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。当該実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0062】
10 生コンスラッジ水利用設備
11 スラッジ水槽
12 濃度測定装置
13 スラッジ濃度計
14 制御装置
15 凝結遅延剤添加装置
16 清水槽
17 濾過装置
18 サンプリング水槽
20 バッチャープラント
21 制御装置
22 モニタ
23 計量器
24 ミキサ