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特許7535880薄板モールドプレス成形用フツリン酸光学ガラス、マルチプレス用フツリン酸光学ガラス、光学素子、プリフォーム及びレンズ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-08
(45)【発行日】2024-08-19
(54)【発明の名称】薄板モールドプレス成形用フツリン酸光学ガラス、マルチプレス用フツリン酸光学ガラス、光学素子、プリフォーム及びレンズ
(51)【国際特許分類】
   C03C 3/247 20060101AFI20240809BHJP
   G02B 1/00 20060101ALI20240809BHJP
【FI】
C03C3/247
G02B1/00
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020118897
(22)【出願日】2020-07-10
(65)【公開番号】P2021178769
(43)【公開日】2021-11-18
【審査請求日】2023-04-12
(31)【優先権主張番号】P 2020082983
(32)【優先日】2020-05-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000128784
【氏名又は名称】株式会社オハラ
(74)【代理人】
【識別番号】100137589
【弁理士】
【氏名又は名称】右田 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100160864
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 政治
(74)【代理人】
【識別番号】100158698
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 基樹
(72)【発明者】
【氏名】小栗 史裕
(72)【発明者】
【氏名】永島 莉那
【審査官】永田 史泰
(56)【参考文献】
【文献】特開昭60-81042(JP,A)
【文献】特開平10-1330(JP,A)
【文献】特表2012-521942(JP,A)
【文献】特開2015-209353(JP,A)
【文献】特開平2-149445(JP,A)
【文献】特開平5-208842(JP,A)
【文献】特開2009-286670(JP,A)
【文献】特開2013-163632(JP,A)
【文献】特開2012-1422(JP,A)
【文献】特開2007-55883(JP,A)
【文献】特開2014-28744(JP,A)
【文献】特開2014-28745(JP,A)
【文献】特開2014-231470(JP,A)
【文献】特開2013-100213(JP,A)
【文献】特開2006-306706(JP,A)
【文献】特開2009-256167(JP,A)
【文献】特開2009-256169(JP,A)
【文献】特開2008-137877(JP,A)
【文献】特開2009-256149(JP,A)
【文献】特開2003-40645(JP,A)
【文献】特開平10-139454(JP,A)
【文献】特開平6-157068(JP,A)
【文献】特開2003-160356(JP,A)
【文献】特開2007-76958(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C1/00-14/00
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カチオン%(モル%)表示で、
5+の含有率が23.0%以上36.0%以下、
La3+、Gd3+、Y3+、Yb3+及びLu3+からなる群から選択される1種以上の合計含有率Ln3+(カチオン%)が0%超13.0%以下、
Li+、Na+及びK+からなる群から選択される1種以上の合計含有率Rn+(カチオン%)が1.0%以下、
Al3+含有率(カチオン%)に対する、Mg2+、Ca2+、Sr2+及びBa2+からなる群から選ばれる1種以上の合計含有率R2+(カチオン%)の比(R2+/Al3+)が2.92以上3.30以下、
前記R2+(カチオン%)に対するCa2+含有率(カチオン%)の比(Ca2+/R2+)が0.18以上であり、
アニオン%(モル%)表示で、
-の含有率が30.0~60.0%であり、
屈折率(n)が1.50000以上1.58000以下、
アッベ数(ν)が68.00以上88.00以下の範囲であり、
部分分散比(θg,F)が0.5290以上、
部分分散比(θg,F)に対するF-の含有率(アニオン%)の比(F-/(θg,F))が105以下であり、
線膨張係数の最大値(αmax)が1300×10-7-1以下である、
薄板モールドプレス成形用フツリン酸光学ガラス。
【請求項2】
ガラス転移点(Tg)と屈伏点(At)の差が45℃以下である請求項1に記載の光学ガラス。
【請求項3】
カチオン%(モル%)表示で、
5+の含有率が23.0%以上36.0%以下、
La3+、Gd3+、Y3+、Yb3+及びLu3+からなる群から選択される1種以上の合計含有率Ln3+(カチオン%)が0%超13.0%以下、
Li+、Na+及びK+からなる群から選択される1種以上の合計含有率Rn+(カチオン%)が1.0%以下、
Al3+含有率(カチオン%)に対する、Mg2+、Ca2+、Sr2+及びBa2+からなる群から選ばれる1種以上の合計含有率R2+(カチオン%)の比(R2+/Al3+)が2.92以上3.30以下、
前記R2+(カチオン%)に対するCa2+含有率(カチオン%)の比(Ca2+/R2+)が0.18以上であり、
アニオン%(モル%)表示で、
-の含有率が30.0~60.0%であり、
屈折率(n)が1.50000以上1.58000以下、
アッベ数(ν)68.00以上88.00以下の範囲であり、
部分分散比(θg,F)が0.5290以上、
部分分散比(θg,F)に対するF-の含有率(アニオン%)の比(F-/(θg,F))が105以下であり、
線膨張係数の最大値(αmax)が1300×10-7-1以下である、
マルチプレス用フツリン酸光学ガラス。
【請求項4】
ガラス転移点(Tg)と屈伏点(At)の差が45℃以下である請求項3に記載の光学ガラス。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか記載の光学ガラスからなる光学素子。
【請求項6】
請求項1から4のいずれか記載の光学ガラスからなる研磨加工用及び/又は精密プレス成形用のプリフォーム。
【請求項7】
請求項5に記載の光学素子からなるレンズ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄板モールドプレス成形用フツリン酸光学ガラス、マルチプレス用フツリン酸光学ガラス、光学素子、プリフォーム及びレンズに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光学系を使用する機器のデジタル化や高精細化が急速に進んでおり、デジタルカメラやビデオカメラ、カメラ付き携帯電話等の撮影機器や、プロジェクタやプロジェクションテレビ等の画像再生(投影)機器等の各種光学機器の分野では、光学系で用いられるレンズやプリズム等の光学素子の枚数を削減し、光学系全体を軽量化及び小型化する要求が強まっている。
【0003】
特に、研削や研磨法で非球面レンズを作製することは高コスト、低能率であるために、非球面レンズの製造方法としては、ゴブ或いはガラスブロックを切断・研磨したプリフォーム材を加熱軟化させ、これを高精度な面を持つ成形型で加圧成形させる精密モールド成型によって、研削・研磨工程を省略し、低コスト・大量生産が実現している。
さらに近年では、光学ガラスの薄板などに対して複数のレンズ形状を転写できる金型を使用し、複数の光学素子を一括して製造するマルチプレス技術を使用して光学素子を作成することもあり、材料として使用される光学ガラスにはプレス時の温度変化、圧力、金型との相性など従来にない性能が要求されるようになってきている。
【0004】
また、光学系を構成する光学素子の材料として、1.48000以上1.58000以下の屈折率(n)と68.00以上88.00以下のアッベ数(ν)を有するいわゆる高屈折率低分散ガラスの需要は依然として高い。このようなガラスとしては、P5+を主成分とし、Fを多量に含有するフツリン酸ガラスが挙げられ、例えば特許文献1に代表されるようなガラス組成物が知られている。このような、光学設計上有用な低分散ガラスが上記のような精密モールド成形やマルチプレス成形に適用できれば、光学設計上の要求を満たしつつ光学系全体の軽量化及び小型化を実現することができる。
【0005】
また、光学系を構成する光学素子の材料として、軽量でありガラスに比べて転移点が低く、加工性に優れているため、硬化性樹脂からなるレンズの需要が非常に高まっている。このような材料としては、例えば特許文献2に代表されるような樹脂組成物が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平5―208842号公報
【文献】特再公表WO2014-119424
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1に記載されるようなフツリン酸塩系のガラスは、レンズ加工後ガラスをマルチプレスする際に、Fの含有量が多いことによりガラス表面にくもりを生じたり、金型とガラスの熱膨張の差から割れやクラックを生じる懸念があった。
【0008】
また、特許文献2に記載されるような硬化性樹脂は、依然としてガラスに比べて光学定数の範囲が狭く、特に1.48000以上1.58000以下の屈折率(n)と68.00以上88.00以下のアッベ数(ν)を有することは難しい。
【0009】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、所望の光学特性を有しながら、マルチプレス成形時におけるガラスの割れやクラックを低減でき、且つ、安定して得ることが可能な薄板モールドプレス成形用フツリン酸光学ガラス、マルチプレス用フツリン酸光学ガラス、光学素子、プリフォーム及びレンズを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために、鋭意試験研究を重ねた結果、カチオン成分、アニオン成分として、P5+、Fをガラスに含有させ、且つ各成分の含有量を調整することによって、所望の屈折率及びアッベ数を有しながら、ガラスが薄板であってもマルチプレス成形時におけるガラスの割れやクラックを低減でき、且つ、安定して得られることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は以下のようなものを提供する。
【0011】
(1)カチオン%(モル%)表示で、
5+を17.0%以上42.0%以下、
La3+、Gd3+、Y3+、Yb3+及びLu3+からなる群から選択される1種以上の合計含有率Ln3+(カチオン%)が13.0%以下、
Al3+含有率(カチオン%)に対する、Mg2+、Ca2+、Sr2+及びBa2+からなる群から選ばれる1種以上の合計含有率R2+(カチオン%)の比(R2+/Al3+)が1.50以上4.00以下であり、
アニオン%(モル%)表示で、
の含有率が30.0~60.0%であり、
屈折率(n)が1.48000以上1.58000以下、
アッベ数(ν)が68.00以上88.00以下の範囲であり、
部分分散比(θg,F)が0.5290以上、
部分分散比(θg,F)に対するFの含有率(アニオン%)の比(F/(θg,F))が105以下であり、
線膨張係数の最大値(αmax)が1300×10-7-1以下である、
薄板モールドプレス成形用フツリン酸光学ガラス。
【0012】
(2)R2+(カチオン%)に対するCa2+含有率(カチオン%)の比(Ca2+/R2+)が0.18以上である(1)に記載の光学ガラス。
【0013】
(3)ガラス転移点(Tg)と屈伏点(At)の差が45℃以下である(1)又は(2)記載の光学ガラス。
【0014】
(4)カチオン%(モル%)表示で、
5+を17.0%以上42.0%以下、
La3+、Gd3+、Y3+、Yb3+及びLu3+からなる群から選択される1種以上の合計含有率Ln3+(カチオン%)が13.0%以下、
Al3+含有率(カチオン%)に対する、Mg2+、Ca2+、Sr2+及びBa2+からなる群から選ばれる1種以上の合計含有率R2+(カチオン%)の比(R2+/Al3+)が1.50以上4.00以下であり、
アニオン%(モル%)表示で、
の含有率が30.0~60.0%であり、
屈折率(n)が1.48000以上1.58000以下、
アッベ数(ν)68.00以上88.00以下の範囲であり、
部分分散比(θg,F)が0.5290以上、
部分分散比(θg,F)に対するFの含有率(アニオン%)の比(F/(θg,F))が105以下であり、
線膨張係数の最大値(αmax)が1300×10-7-1以下である、
マルチプレス用フツリン酸光学ガラス。
【0015】
(5)R2+(カチオン%)に対するCa2+含有率(カチオン%)の比(Ca2+/R2+)が0.18以上である(4)に記載のフツリン酸光学ガラス。
【0016】
(6)ガラス転移点(Tg)と屈伏点(At)の差が45℃以下である(4)又は(5)記載のフツリン酸光学ガラス。
【0017】
(7)(1)から(6)のいずれか記載のガラスからなる光学素子。
【0018】
(8)(1)から(6)のいずれか記載のガラスからなる研磨加工用及び/又は精密プレス成形用のプリフォーム。
【0019】
(9)(7)の光学素子からなるレンズ。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、高屈折率及び低分散の光学特性を有し、ガラスが薄板であってもマルチプレス成形時におけるガラスの割れやクラックを低減でき、且つ、安定して薄板モールドプレス成形用フツリン酸光学ガラス、マルチプレス用フツリン酸光学ガラスと、これを用いた光学素子、プリフォーム及びレンズを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本願の実施例2のガラスの表面を株式会社ニコン製のECLIPSE-LV100を使用し、倍率50倍で撮影した写真である。
【0022】
図2】本願の比較例3のガラスの表面を株式会社ニコン製のECLIPSE-LV100を使用し、倍率50倍で撮影した写真である。
図3】本願の実施例のガラスについての部分分散比(θg,F)とアッベ数(ν )の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の薄板モールドプレス成形用フツリン酸光学ガラス及びマルチプレス用フツリン酸光学ガラスは、カチオン%(モル%)表示で、P5+を17.0%以上42.0%以下、La3+、Gd3+、Y3+、Yb3+及びLu3+からなる群から選択される1種以上の合計含有率Ln3+(カチオン%)が13.0%以下、Al3+含有率(カチオン%)に対する、Mg2+、Ca2+、Sr2+及びBa2+からなる群から選ばれる1種以上の合計含有率R2+(カチオン%)の比(R2+/Al3+)が1.50以上4.00以下であり、アニオン%(モル%)表示で、Fの含有率が30.0~60.0%であり、屈折率(n)が1.48000以上1.58000以下、アッベ数(ν)が68.00以上88.00以下の範囲であり、部分分散比(θg,F)が0.5290以上、(θg,F)に対する部分分散比Fの含有率(アニオン%)の比(F/(θg,F))が105以下であり、線膨張係数の最大値(αmax)が1300×10-7-1以下である。カチオン成分、アニオン成分として、P5+、Fをガラスに含有させ、且つ各成分の含有量を調整することによって、高屈折率及び低分散の光学特性を有し、ガラスが薄板であってもマルチプレス成形時におけるガラスの割れやクラックを低減でき、且つ、安定して薄板モールドプレス成形用フツリン酸光学ガラス、マルチプレス用フツリン酸光学ガラスと、これを用いた光学素子、プリフォーム及びレンズを得ることができる。
【0024】
以下、本発明の光学ガラスの実施形態について詳細に説明する。本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。なお、説明が重複する箇所について、適宜説明を省略する場合があるが、発明の趣旨を限定するものではない。
【0025】
<ガラス成分>
本発明の光学ガラスを構成する各成分について説明する。
本明細書中において、各成分の含有率は特に断りがない場合は、全てモル比に基づくカチオン%又はアニオン%で表示されるものとする。ここで、「カチオン%」及び「アニオン%」(以下、「カチオン%(モル%)」及び「アニオン%(モル%)」と表記することがある)は、本発明の光学ガラスのガラス構成成分をカチオン成分及びアニオン成分に分離し、それぞれにおいて合計割合を100モル%として、ガラス中に含有される各成分の含有率を表記したものである。
なお、各成分のイオン価は便宜的に代表値を用いているに過ぎないため、他のイオン価のものと区別するものではない。光学ガラス中に存在する各成分のイオン価は、代表値以外である可能性がある。例えば、Pは、通常イオン価が5価の状態でガラス中に存在するので、本明細書中では「P5+」と表しているが、他のイオン価の状態で存在する可能性がある。このように、厳密には他のイオン価の状態で存在するものであっても、本明細書では、各成分が代表値のイオン価でガラス中に存在するものとして扱う。
【0026】
[カチオン成分について]
5+は、ガラス形成成分であり、ガラスの失透を低減し、屈折率を高める性質を有する。そのため、P5+の含有率は、好ましくは17.0%以上、より好ましくは20.0%以上、さらに好ましくは23.0%以上、さらに好ましくは26.0%以上、最も好ましくは28.0%以上とする。
他方で、P5+の含有率を42.0%以下の範囲内に低減することで、ガラスの線膨張係数及び線膨張係数の最大値を下げながら、アッベ数を高めることができる。そのため、P5+の含有率は、好ましくは42.0%を上限とし、より好ましくは39.0%以下、さらに好ましくは36.0%以下、さらに好ましくは33.0%以下とする。
【0027】
Al3+は、ガラスの失透を低減し、線膨張係数を小さくしアッベ数を高める性質を有する。そのため、Al3+の含有率は、好ましくは7.0%以上、より好ましくは9.0%以上、さらに好ましくは11.0%以上、さらに好ましくは13.0%以上、さらに好ましくは15.0%以上とする。
他方で、Al3+の含有率を30.0%以下の範囲内に低減することで、屈折率を高めながら、ガラスの線膨張係数の最大値を下げることができる。そのため、Al3+の含有率は、好ましくは30.0%を上限とし、より好ましくは27.0%以下、さらに好ましくは25.0%以下、さらに好ましくは23.0%以下、さらに好ましくは21.0%以下とする。
【0028】
Mg2+は、ガラスの失透を低減し、線膨張係数及び線膨張係数の最大値を小さくする性質を有する。そのため、Mg2+の含有率の下限は、好ましくは0%超、より好ましくは1.0%以上、さらに好ましくは3.0%以上、さらに好ましくは5.0%以上、さらに好ましくは5.5%以上とする。
他方で、Mg2+の含有率を22.0%以下の範囲内に低減することで、部分分散比(θg,F)が小さくなるのを抑えつつ、過剰な含有による失透を低減し、所望の高い屈折率を得易くすることができる。そのため、Mg2+の含有率は、好ましくは22.0%を上限とし、より好ましくは20.0%以下、さらに好ましくは17.0%以下、さらに好ましくは15.0%以下、さらに好ましくは13.0%以下とする。
【0029】
Ca2+は、失透を低減し、屈折率の低下を抑制する性質を有する。そのため、Ca2+の含有率の下限を、好ましくは0%超、より好ましくは1.0%以上、さらに好ましくは3.0%以上、さらに好ましくは5.0%以上、最も好ましくは8.0%以上とする。
他方で、Ca2+の含有率を25.0%以下の範囲内に低減することで、部分分散比(θg,F)が小さくなるのを抑えつつ、過剰な含有による失透を低減し、所望の高い屈折率を得易くすることができる。そのため、Ca2+の含有率は、好ましくは25.0%を上限とし、より好ましくは22.0%以下、さらに好ましくは20.0%以下、さらに好ましくは17.0%以下、最も好ましくは15.0%以下とする。
【0030】
Sr2+は、0%超含有する場合に、ガラスの失透を低減し、屈折率の低下を抑制しながら、線膨張係数の最大値を小さくする性質を有する。そのため、Sr2+の含有率は、好ましくは0%超、より好ましくは1.0%以上、さらに好ましくは3.0%以上、さらに好ましくは5.0%以上とする。
他方で、Sr2+の含有率を30.0%以下の範囲内に低減することで、過剰な含有による失透を低減し、所望の高い屈折率を得易くすることができる。そのため、Sr2+の含有率は、好ましくは30.0%を上限とし、より好ましくは25.0%以下、さらに好ましくは21.0%以下、さらに好ましくは18.0%以下とする。
【0031】
Ba2+は、ガラスの耐失透性を高めながらも、部分分散比(θg,F)を大きくし、線膨張係数の最大値を小さくでき、低い分散性を維持し、屈折率を高める性質を有する。そのため、Ba2+の含有率は、好ましくは0%超、より好ましくは1.0%以上、さらに好ましくは3.0%以上、さらに好ましくは5.0%以上、さらに好ましくは8.0%以上とする。
他方で、Ba2+の含有率を35.0%以下の範囲内に低減することで、ガラスの耐失透性を高め、線膨張係数及び比重を小さくすることができる。そのため、Ba2+の含有率は、好ましくは35.0%を上限とし、より好ましくは32.0%以下、さらに好ましくは30.0%以下、さらに好ましくは27.0%以下、さらに好ましくは25.0%以下とする。
【0032】
La3+、Gd3+、Y3+、Yb3+及びLu3+は、少なくともいずれかを0%超含有する場合に、低い分散性(高いアッベ数)を維持し、屈折率を高め、さらに耐失透性を高める性質を有する任意成分である。特に、Gd3+及びY3+の一方又は両方の含有率は、好ましくは0%超、より好ましくは0.3%以上、さらに好ましくは0.5%以上としてもよい。
他方で、La3+、Yb3+及びLu3+のうち少なくともいずれかの含有率を10.0%以下の範囲内に低減し、またはGd3+及びY3+の一方又は両方の含有率を12.0%以下の範囲内に低減することで、これらの成分の過剰な含有による失透を低減することができ、ガラス転移点や屈伏点の上昇を抑えることができる。そのため、La3+、Yb3+及びLu3+の含有率は、それぞれ好ましくは10.0%を上限とし、より好ましくは5.0%以下、さらに好ましくは3.0%以下とする。また、Gd3+及びY3+の一方又は両方の含有率は、好ましくは12.0%を上限とし、より好ましくは10.0%以下、さらに好ましくは7.0%以下、さらに好ましくは4.0%以下、さらに好ましくは3.0%以下、さらに好ましくは2.5%以下とする。
【0033】
Zn2+は、0%超含有する場合に、ガラスの線膨張係数及び線膨張係数の最大値を小さくし、ガラス転移点を低くし、ガラスの耐失透性や耐酸性を高める性質を有する。そのため、Zn2+の含有率は、好ましくは0%超、より好ましくは0.2%以上、さらに好ましくは0.5%以上とする。
他方で、Zn2+の含有率を13.0%以下の範囲内に低減することで、所望の低いアッベ数を得易くすることができる。そのため、Zn2+の含有率は、好ましくは13.0%を上限とし、より好ましくは12.0%以下、さらに好ましくは10.0%以下、さらに好ましくは8.0%以下、最も好ましくは5.0%以下とする。
【0034】
Li、Na及びKは、少なくともいずれかを0%超含有する場合に、ガラス形成時の耐失透性を維持しつつ、ガラス転移点(Tg)を下げる性質を有する任意成分である。
他方で、Li、Na及びKのうち、少なくともいずれかの含有率を10.0%以下の範囲内に低減することで、化学的耐久性を高めることができる。特にLiは部分分散比(θg,F)を小さくしてしまう作用がある。そのため、Li、Na及びKの含有率は、各々、好ましくは10.0%を上限とし、より好ましくは5.0%未満、さらに好ましくは3.0%未満、さらに好ましくは2.0%未満、さらに好ましくは1.0%未満、さらに好ましくは0.3%以下とする。また、Li、Na及びKのうち、少なくともいずれかを含有しなくてもよい。
【0035】
Si4+は、0%超含有する場合に、ガラスの耐失透性を高め、屈折率を高め、磨耗度を低下させる性質を有する任意成分である。
他方で、Si4+の含有率を10.0%以下の範囲内に低減することで、Si4+の過剰含有によるガラスの失透を低減することができる。そのため、Si4+の含有率は、好ましくは10.0%を上限とし、より好ましくは5.0%未満、さらに好ましくは3.0%未満、さらに好ましくは1.0%未満とし、最も好ましくは含有しない。
【0036】
3+は、0%超含有する場合に、ガラスの耐失透性を高め、屈折率を高め、磨耗度を低下させる性質を有する任意成分である。
他方で、B3+の含有率を10.0%以下の範囲内に低減することで、ガラスの化学的耐久性を高めることができる。そのため、B3+の含有率は、好ましくは10.0%を上限とし、より好ましくは5.0%未満、さらに好ましくは3.0%未満、さらに好ましくは1.0%未満とし、最も好ましくは含有しない。
【0037】
Ti4+、Nb5+及びW6+は、少なくともいずれかを0%超含有する場合に、ガラスの屈折率を高める性質を有する任意成分である。加えて、Nb5+は化学的耐久性を高める性質を有し、W6+はガラス転移点を低くする性質を有する成分でもある。
他方で、Ti4+、Nb5+及びW6+の少なくともいずれかの含有率を10.0%以下の範囲内に低減することで、所望の高いアッベ数を得易くすることができる。加えて、Ti4+及びW6+の含有率をこれらの範囲内に低減させることで、ガラスの着色を低減することができる。従って、Ti4+、Nb5+及びW6+の含有率は、各々、好ましくは10.0%を上限とし、より好ましくは5.0%未満、さらに好ましくは3.0%未満、さらに好ましくは1.0%未満とする。
【0038】
Zr4+は、0%超含有する場合に、ガラスの屈折率を高める性質を有する任意成分である。
他方で、Zr4+の含有率を10.0%以下の範囲内に低減することで、ガラス中の成分の揮発による脈理を低減することができる。そのため、Zr4+の含有率は、好ましくは10.0%を上限とし、より好ましくは5.0%未満、さらに好ましくは3.0%未満、さらに好ましくは1.0%未満とする。
【0039】
Ta5+は、0%超含有する場合に、ガラスの屈折率を高める性質を有する任意成分である。
他方で、Ta5+の含有率を10.0%以下の範囲内に低減することで、ガラスの失透を低減することができる。そのため、Ta5+の含有率は、好ましくは10.0%を上限とし、より好ましくは5.0%未満、さらに好ましくは3.0%未満、さらに好ましくは1.0%未満とする。
【0040】
Ge4+は、0%超含有する場合に、ガラスの屈折率を高め、耐失透性を高める性質を有する任意成分である。
他方で、Ge4+の含有率を10.0%以下の範囲内に低減することで、ガラスの材料コストを低減することができる。そのため、Ge4+の含有率は、好ましくは10.0%を上限とし、より好ましくは5.0%未満、さらに好ましくは3.0%未満、さらに好ましくは1.0%未満とする。
【0041】
Bi3+及びTe4+は、0%超含有する場合に、ガラスの屈折率を高め、ガラス転移点を低くする性質を有する任意成分である。
他方で、Bi3+及びTeの少なくとも一方の含有率を10.0%以下の範囲内に低減することで、ガラスの着色や失透を低減することができる。そのため、Bi3+及びTeの含有率は、各々、好ましくは10.0%を上限とし、より好ましくは5.0%未満、さらに好ましくは3.0%未満、さらに好ましくは1.0%未満とする。
【0042】
[アニオン成分について]
は、ガラスの異常分散性及びアッベ数を高め、ガラス転移点を低くし、ガラスを失透し難くする性質を有する。そのため、Fの含有率は、好ましくは30.0%以上、より好ましくは33.0%以上、さらに好ましくは37.0%以上、さらに好ましくは40.0%以上とする。
他方で、Fは、含有率が多いと、ガラスのアッベ数を過剰に高め、屈折率を低下させる性質を有する。特に、本発明において、Fの含有量が多いとマルチ成形を行った際に、Fの揮発に起因したくもりを招いてしまう。そのため、Fの含有率は、好ましくは60.0%以下、より好ましくは57.0%以下、さらに好ましくは55.0%以下、さらに好ましくは53.0%以下とする。
【0043】
2-は、ガラスの失透を抑制し、磨耗度の上昇を抑制する性質を有する。そのため、O2-の含有率は、好ましくは40.0%以上、より好ましくは43.0%以上、さらに好ましくは45.0%以上、さらに好ましくは47.0%以上とする。
他方で、他のアニオン成分による効果を得易くするが、部分分散比(θg,F)を小さくしてしまうため、O2-の含有率は、好ましくは70.0%以下、より好ましくは67.0%以下、さらに好ましくは63.0%以下、さらに好ましくは60.0%以下とする。
【0044】
また、ガラスの失透を抑制する観点から、O2-の含有率とFの含有率の合計は、好ましくは98.0%、より好ましくは99.0%を下限とし、さらに好ましくは100%とする。すなわち、O2-とF以外のアニオン成分、例えばClやBr、Iからなる群から選択される1種以上の含有量の合計は、好ましくは2.0%、より好ましくは1.0%を上限とし、最も好ましくは0%とする。
【0045】
2+は、Mg2+、Ca2+、Sr2+及びBa2+からなる群から選ばれる1種以上である。また、R2+の合計含有率は、Mg2+、Ca2+、Sr2+及びBa2+からなる群から選ばれる1種以上の合計である。
ここで、R2+の合計含有率を34.0~63.0%の範囲内にすることで、より耐失透性の高いガラスを得ることができる。
そのため、R2+の合計含有率の下限は、好ましくは34.0%以上、より好ましくは37.0%以上、さらに好ましくは40.0%以上、さらに好ましくは43.0%以上、最も好ましくは46.0%以上とする。また、R2+の合計含有率の上限は、好ましくは63.0%以下、より好ましくは60.0%以下、さらに好ましくは57.0%以下、さらに好ましくは54.0%以下とする。
【0046】
本発明の光学ガラスは、R2+の合計含有率(カチオン%)に対するCa2+含有率(カチオン%)の比(Ca2+/R2+)が0.18以上であることが好ましい。
2+の中では、Ca2+が特に線膨張係数の最大値を小さくすることができるため、この比(Ca2+/R2+)を0.18以上にすることによって、より線膨張係数の最大値を小さくすることができる。そのため、この比(Ca2+/R2+)の下限は好ましくは0.18以上、より好ましくは0.19以上、さらに好ましくは0.20以上とする。
他方で、R2+の中では、Ca2+が部分分散比(θg,F)を小さくする性質があるため、この比(Ca2+/R2+)は好ましくは0.50以下、より好ましくは0.45以下、より好ましくは0.40以下、さらに好ましくは0.35以下、さらに好ましくは0.33以下とする。
【0047】
本発明の光学ガラスは、Al3+含有率(カチオン%)に対するR2+の合計含有率(カチオン%)の比(R2+/Al3+)が1.50以上4.00以下であることが好ましい。
特に、この比(R2+/Al3+)を1.50以上にすることで、線膨張係数の最大値を小さくしながら、ガラスの屈折率を高めることできる。そのため、この(R2+/Al3+)比は、好ましくは1.50以上、より好ましくは1.80以上、さらに好ましくは2.10以上、さらに好ましくは2.40以上を下限とする。
他方で、この比(R2+/Al3+)を4.00以下にすることで、線膨張係数を小さくしながら、必要以上の屈折率の上昇を抑えるとともに、アッベ数を大きくすることができる。そのため、この(R2+/Al3+)比は、好ましくは4.00以下、より好ましくは3.80以下、さらに好ましくは3.70以下、さらに好ましくは3.50以下、さらに好ましくは3.30以下を上限とする。
【0048】
また、本発明の光学ガラスは、Al3+含有率(カチオン%)に対するBa2+含有率(カチオン%)の比(Ba2+/Al3+)が2.50以下であることが好ましい。この比(Ba2+/Al3+)を小さくすることで、耐失透性の低下、屈折率の必要以上の上昇を抑えることができる。そのため、この(Ba2+/Al3+)比は、好ましくは2.50以下、より好ましくは2.00以下、さらに好ましくは1.80以下、さらに好ましくは1.50以下、さらに好ましくは1.30以下を上限とする。
他方で、(Ba2+/Al3+)比の下限は、好ましくは0超、より好ましくは0.20超、さらに好ましくは0.40超としてもよい。
【0049】
また、本発明の光学ガラスは、Mg2+含有率(カチオン%)に対するBa2+含有率(カチオン%)の比(Ba2+/Mg2+)が5.00以下であることが好ましい。これにより、耐失透性の高いガラスを得ることができる。そのため、この(Ba2+/Mg2+)比は、好ましくは5.00以下、より好ましくは4.50以下、さらに好ましくは4.00以下、さらに好ましくは3.80以下、さらに好ましくは3.50以下、さらに好ましくは3.20以下、さらに好ましくは3.00以下を上限とする。
なお、(Ba2+/Mg2+)比の下限は、好ましくは0超、より好ましくは0.50以上、さらに好ましくは0.70以上、さらに好ましくは0.90以上としてもよい。
【0050】
Ln3+は、La3+、Gd3+、Y3+、Yb3+及びLu3+からなる群から選択される1種以上である。また、Ln3+の合計含有率は、La3+、Gd3+、Y3+、Yb3+及びLu3+からなる群から選択される1種以上の合計である。
ここで、Ln3+の合計含有率を13.0%以下の範囲内に低減することで、ガラスを失透し難くすることができる。そのため、Ln3+の合計含有率は、好ましくは13.0%を上限とし、より好ましくは10.0%以下、さらに好ましくは7.0%以下、さらに好ましくは4.0%以下、さらに好ましくは3.0%以下とする。
他方で、Ln3+の合計含有率の下限は、屈折率及びアッベ数をより高める観点から、好ましくは0%超、より好ましくは0.3%以上、さらに好ましくは0.5%以上としてもよい。
【0051】
Rnは、Li、Na及びKからなる群から選択される1種以上である。また、Rnの合計含有率は、Li、Na及びKからなる群から選択される1種以上の合計である。
ここで、Rnの合計含有率を10.0%以下の範囲内に低減することで、ガラスの磨耗度を低減し、化学的耐久性を高めることができる。そのため、Rnの合計含有率は、好ましくは10.0%を上限とし、より好ましくは5.0%以下、さらに好ましくは3.0%以下、さらに好ましくは1.0%以下、さらに好ましくは0.3%以下とする。
【0052】
本発明の光学ガラスは、P5+、Si4+及びB3+の含有率の合計(カチオン%)が17.0%以上42.0%以下であることが好ましい。
ここで、P5+、Si4+及びB3+の含有率の合計を17.0%以上にすることで、ガラスの屈折率を高めることができる。そのため、これらの含有率の和(P5++Si4++B3+)は、好ましくは17.0%以上、より好ましくは20.0%以上、さらに好ましくは23.0%以上、さらに好ましくは26.0%以上を下限とする。
また、P5+、Si4+及びB3+の含有率の合計を42.0%以下にすることで、ガラスのアッベ数を高めることができる。そのため、これらの含有率の和(P5++Si4++B3+)は、好ましくは42.0%以下、より好ましくは40.0%以下、さらに好ましくは37.0%以下、さらに好ましくは33.0%以下を上限とする。
【0053】
本発明の光学ガラスは、P5+含有率(カチオン%)に対するF含有率(アニオン%)の比(F/P5+)が、0.80以上であることが好ましい。この比(F/P5+)を大きくすることで、ガラスのアッベ数を高めることができる。そのため、この(F/P5+)比は、好ましくは0.80以上、より好ましくは0.90以上、さらに好ましくは1.00以上を下限としてもよい。
他方で、(F/P5+)比の上限は、線膨張係数を小さくし、ガラスの失透を低減する観点から、好ましくは3.00以下、より好ましくは2.50以下、さらに好ましくは2.20以下、さらに好ましくは2.05以下、さらに好ましくは1.95以下としてもよい。
【0054】
本発明の光学ガラスは、Ba2+の含有率(カチオン%)とFの含有率(アニオン%)の合計(Ba2++F)が、87.0%以下であることが好ましい。これにより、ガラスの失透を低減させながら、部分分散比(θg,F)を大きくし線膨張係数の最大値を小さくすることができる。そのため、Ba2+の含有率とFの含有率の和(Ba2++F)は、好ましくは87.0%以下、より好ましくは85.0%以下、さらに好ましくは82.0%以下、さらに好ましくは80.0%以下、さらに好ましくは77.7%以下を上限とする。
なお、Ba2+の含有率とFの含有率の和(Ba2++F)の下限は、好ましくは37.0%以上、より好ましくは40.0%以上、さらに好ましくは45.0%以上、さらに好ましくは47.0%以上、さらに好ましくは50.0%以上としてもよい。
【0055】
本発明の光学ガラスは、部分分散比(θg,F)に対するFの含有率(アニオン%)の比(F/(θg,F))が、105以下であることが好ましい。部分分散比(θg,F)を大きくするには、Fの含有率を上げることが有効であるが、Fの含有率が増えると、薄板状態のガラスをマルチプレス成形する際に、Fの揮発によって表面に微細な穴ができ、くもりが発生したような状態となる。そのため、この比(F/(θg,F))は、好ましくは105以下、より好ましくは100以下、さらに好ましくは98以下、最も好ましくは95以下を上限とする。
【0056】
[その他の成分について]
本発明の光学ガラスには、他の成分を本願発明のガラスの特性を損なわない範囲で必要に応じ、添加できる。
【0057】
[含有すべきでない成分について]
次に、本発明の光学ガラスに含有すべきでない成分、及び含有することが好ましくない成分について説明する。
【0058】
Ti、Zr、Nb、W、La、Gd、Y、Yb、Luを除く、Cu、Nd、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Ag及びMo等の遷移金属のカチオンは、それぞれを単独又は複合して少量含有した場合でもガラスが着色し、可視域の特定の波長に吸収を生じる性質があるため、特に可視領域の波長を使用する光学ガラスにおいては、実質的に含まないことが好ましい。
【0059】
Pb、As、Th、Cd、Tl、Os、Be、及びSeのカチオンは、近年有害な化学物質として使用を控える傾向にあり、ガラスの製造工程のみならず、加工工程、及び製品化後の処分に至るまで環境対策上の措置が必要とされる。また、S(硫黄)のカチオンも、有害な化学物質(SO等)を生成しうる。従って、環境上の影響を重視する場合には、これらのうち1種以上の含有量を、好ましくは1.0%未満、より好ましくは0.5%未満とし、最も好ましくは、これらのうち1種以上を実質的に含有しない。
【0060】
なお、本明細書における「実質的に含有しない」とは、好ましくは含有量を0.1%未満にすることであり、より好ましくは不可避不純物として含まれるものを除いて含有しないことである。
【0061】
SbやCeのカチオンは、脱泡剤として有用ではあるが、環境に不利益を及ぼす成分として、近年光学ガラスに含めないようにする傾向がある。そのため、本発明の光学ガラスでは、このような点からSbやCeも実質的に含有しないことが好ましい。
【0062】
[光学ガラスの製造方法]
本発明の光学ガラスの製造方法は特に限定されない。例えば、上記原料を各成分が所定の含有率の範囲内になるように均一に混合し、作製した混合物を石英坩堝又はアルミナ坩堝又は白金坩堝に投入して粗熔融した後、白金坩堝、白金合金坩堝又はイリジウム坩堝に入れて900~1200℃の温度範囲で2~10時間熔融し、攪拌均質化して泡切れ等を行った後、850℃以下の温度に下げてから仕上げ攪拌を行って脈理を除去し、金型に鋳込んで徐冷することにより製造することができる。
【0063】
[物性]
本発明の光学ガラスは、高い屈折率(n)を有するとともに、低い分散性(高いアッベ数)を有する。
本発明の光学ガラスは、屈折率(n)が1.48000以上1.58000以下であることが好ましい。より具体的には、本発明の光学ガラスは、屈折率の下限が、好ましくは1.48000以上、より好ましくは1.50000以上、さらに好ましくは1.52000以上である。他方で、本発明の光学ガラスは、屈折率(n)の上限が、好ましくは1.58000以下、より好ましくは1.56000以下、さらに好ましくは1.54000以下である。
本発明の光学ガラスは、アッベ数(ν)が68.00以上88.00以下であることが好ましい。より具体的には、本発明の光学ガラスは、アッベ数(ν)の下限が、好ましくは68.00以上、より好ましくは70.00以上、さらに好ましくは75.00以上である。他方で、本発明の光学ガラスは、アッベ数(ν)の上限が、好ましくは88.00以下、より好ましくは85.00以下、さらに好ましくは82.00以下、さらに好ましくは79.00以下である。
このような高屈折率を有することで、光学素子の薄型化を図っても大きな光の屈折量を得ることができる。また、このような低分散を有することで、単レンズとして用いたときに光の波長による焦点のずれ(色収差)を小さくできる。そのため、例えば高分散(低いアッベ数)を有する光学素子と組み合わせて光学系を構成した場合に、その光学系の全体として収差を低減させて高い結像特性等を図ることができる。
このように、本発明の光学ガラスは、光学設計上有用であり、特に光学系を構成したときに、高い結像特性等を図りながらも、光学系の小型化を図ることができ、光学設計の自由度を広げることができる。
【0064】
本発明の光学ガラスは、高い部分分散比(θg,F)を有する。
より具体的には、本発明の光学ガラスの部分分散比(θg,F)は、上限は特に限定されないが、好ましくは0.5650以下、より好ましくは0.5645以下であってもよい。他方で、本発明の光学ガラスの部分分散比(θg,F)は、好ましくは0.5290以上、より好ましくは0.5295以上、さらに好ましくは0.5300以上を下限とする。また、本発明の光学ガラスの部分分散比(θg,F)は、アッベ数(ν)との関係において、好ましくは(-0.0069×ν+0.980)≦(θg,F)≦(-0.0069×ν+1.105)の関係を満たす。
このように、本発明の光学ガラスでは、従来公知のフツリン酸ガラスよりも高い部分分散比(θg,F)を有する。そのため、この光学ガラスから形成される光学素子を、色収差の補正に好ましく用いることができる。
【0065】
ここで、本発明の光学ガラスのアッベ数(ν)との関係における部分分散比(θg,F)は、下限は特に限定されないが、好ましくは(-0.0069×ν+0.980)以上、より好ましくは(-0.0069×ν+0.990)以上、さらに好ましくは(-0.0069×ν+1.000)以上であってもよい。他方で、本発明の光学ガラスのアッベ数(ν)との関係における部分分散比(θg,F)の上限は、好ましくは(-0.0069×ν+1.105)以下、より好ましくは(-0.0069×ν+1.095)以下、さらに好ましくは(-0.0069×ν+1.085)以下とする。
【0066】
本発明の光学ガラスでは、ガラス転移点(Tg)と屈伏点(At)との間の温度範囲における線膨張係数の最大値(αmax)は、1300×10-7-1以下であることが好ましい。これにより、薄型の光学素子を作製する場合であっても、ガラス転移点より高い温度に加熱してプレス成形を行ったときにガラスが割れ難くなるため、光学素子の生産性を高めることができる。このようにガラスが割れ難くなる理由として、例えば、ガラスを加熱して軟化させる際や、軟化したガラスをプレス成形して冷却する際に、ガラス内部の温度差によって、ガラス内部に線膨張係数の大きいガラス転移点以上の高温部と、線膨張係数の小さいガラス転移点以下の低温部に分かれたときに、高温部の熱膨張や熱収縮が小さくなることで、高温部の熱膨張や熱収縮によって低温部に掛かる力が小さくなることが挙げられる。
従って、本発明の光学ガラスでは、ガラス転移点(Tg)と屈伏点(At)との間の温度範囲における線膨張係数の最大値(αmax)の上限は、好ましくは1300×10-7-1以下、より好ましくは1250×10-7-1以下、より好ましくは1200×10-7-1以下、さらに好ましくは1150×10-7
-1以下、さらに好ましくは1100×10-7 -1以下、さらに好ましくは1000×10-7-1以下、最も好ましくは950×10-7-1以下とする。
なお、本明細書では、ガラス転移点(Tg)と屈伏点(At)との間の温度範囲における線膨張係数の最大値を、単に「線膨張係数の最大値」と記載することがある。
【0067】
本発明の光学ガラスは、平均線膨張係数(α)が小さいことが好ましい。特に、本発明の光学ガラスは、日本光学硝子工業会規格JOGIS08-2003に規定される100~300℃における平均線膨張係数αが、好ましくは160×10-7-1以下、より好ましくは155×10-7-1以下、さらに好ましくは150×10-7-1以下を上限とする。これにより、プレス成形を行っても、温度変化等による不良が低減されるため、安定してレンズ等の光学素子を作製することができる。
なお、本発明の光学ガラスの平均線膨張係数(α)の下限は特に限定されないが、本発明の光学ガラスの平均線膨張係数(α)は、例えば90×10-7-1以上、100×10-7-1以上又は110×10-7-1以上を下限としてもよい。
【0068】
本発明の光学ガラスは、線膨張係数(α)に対する線膨張係数の最大値(αmax
の比((αmax)/(α))が5.80~8.00の範囲であることが好ましい。線膨張係数の最大値を小さくするためには、Fの含有率を上げることが有効であるが、Fの含有率が増えると線膨張係数が大きくなってしまうだけではなく、薄板状態のガラスをマルチプレス成形する際に、Fの揮発によって表面に微細な穴ができ、くもりが発生したような状態となる。そのため、この比((αmax)/(α))は、好ましくは8.00以下、より好ましくは7.60以下、さらに好ましくは7.55以下、最も好ましくは7.50以下を上限とする。
他方で、この比((αmax)/(α))は、好ましくは5.80以上、より好ましくは5.85以上、さらに好ましくは5.90以上、最も好ましくは5.95以上を下限とする。
【0069】
本発明の光学ガラスは、550℃以下のガラス転移点(Tg)を有することが好ましい。これにより、ガラスがより低い温度で軟化するため、より低い温度でガラスをプレス成形できる。また、プレス成形に用いる金型の酸化を低減して金型の長寿命化を図ることもできる。従って、本発明の光学ガラスのガラス転移点は、好ましくは550℃以下、より好ましくは530℃以下、さらに好ましくは510℃以下を上限とする。なお、本発明の光学ガラスのガラス転移点の下限は特に限定されないが、本発明の光学ガラスのガラス転移点は、好ましくは100℃以上、より好ましくは200℃以上、さらに好ましくは300℃以上を下限としてもよい。
【0070】
本発明の光学ガラスは、595℃以下の屈伏点(At)を有することが好ましい。屈伏点は、ガラス転移点と同様にガラスの軟化性を示す指標の一つであり、プレス成形温度に近い温度を示す指標である。そのため、屈伏点が595℃以下のガラスを用いることにより、より低い温度でのプレス成形が可能になるため、より容易にプレス成形を行うことができる。従って、本発明の光学ガラスの屈伏点は、好ましくは595℃以下、より好ましくは575℃以下
、さらに好ましくは555℃以下、最も好ましくは530℃以下を上限とする。なお、本発明の光学ガラスの屈伏点は、好ましくは150℃以上、より好ましくは250℃以上、さらに好ましくは350℃
以上を下限としてもよい。
【0071】
本発明の光学ガラスは、ガラス転移点(Tg)と屈伏点(At)の差が45℃以下であることが好ましい。ガラス転移点と屈伏点の差が小さいと、プレス成型し冷却する際にガラスが早く固化しやすくなるため、ガラスのプレス金型への融着を減らすことができる。従って、本発明のガラス転移点(Tg)と屈伏点(At)の差は、好ましくは45℃以下、より好ましくは43℃以下、より好ましくは40℃以下、さらに好ましくは38℃以下とする。
【0072】
[薄板加工]
本発明の光学ガラスは薄板で精密モールド成形することも想定しているため、薄板に加工できることが好ましい。薄板の厚みは、0.2~10.0ミリメートルにすることによって、目的とするレンズの厚みを得られ、好適に用いることができる。薄板の厚みは、好ましくは0.2~10.0ミリメートル、より好ましくは0.4~6.0ミリメートル、最も好ましくは0.6~3.0ミリメートルとする。光学ガラスを薄板に加工する方法は特に限定されないが、例えばガラスの表面を研削・研磨しながら薄板にする方法や、公知のダウンフロー法などが挙げられる。
【0073】
[揮発性]
本発明の光学ガラスは薄板をマルチプレスする場合を想定している。したがって前記プレス成型時にFなどの揮発成分の揮発量が少ないほうが好ましい。具体的には450~650℃で加圧成形したときに、ガラス表面に揮発に起因するくもりを生じないことが好ましい。加圧成形の温度は、好ましくは450~650℃、より好ましくは480~630℃、さらに好ましくは520~610℃とする。
【0074】
[プリフォーム及び光学素子]
本発明に係るガラスを光学素子に成型する方法は特に限定されるものではないが、特に精密モールドプレスにより球面又は非球面レンズを作製するのに適している。
例えば、ゴブ或いはガラスブロックを切断・研磨したプリフォーム材を加熱軟化させ、これを高精度な面を持つ成形型で加圧成形するような方法にてプリフォームを作成し、当該プリフォームを精密モールドプレス成形することにより球面又は非球面レンズを作製することができる。
また、本発明の光学ガラスは線膨張係数の最大値が小さい特性を有することから、いったん表面が鏡面に仕上げられた薄板を作製し、当該薄板を複数の成形面を有する金型でプレスすることにより一度に複数の光学素子を作製することもできる。
【0075】
本発明の光学ガラスからなるガラス成形体は、例えばレンズ、プリズム、ミラー等の光学素子の用途に用いることができ、典型的には携帯電話用レンズやスマートフォン用のレンズ等の、薄く軽いレンズが求められる機器に用いることができる。
【実施例
【0076】
本発明の光学ガラスである実施例1~7及び比較例1~4のガラスの組成(カチオン%表示又はアニオン%表示のモル%で示す)、屈折率(n)、アッベ数(ν)、部分分散比(θg,F)、ガラス転移点(Tg)、ガラス屈伏点(At)、線膨張係数の最大値(αmax)の結果を表1、2に示す。なお、以下の実施例はあくまで例示の目的であり、これらの実施例にのみ限定されるものではない。
【0077】
各実施例及び比較例では、いずれも各成分の原料として各々相当する酸化物、炭酸塩、硝酸塩、弗化物、メタ燐酸化合物等の通常の弗燐酸塩ガラスに使用される高純度原料を選定し、表に示した各実施例の組成になるように秤量して均一に混合した後、白金坩堝に投入して坩堝に蓋をし、電気炉を用いて950~1100℃で2時間にわたり加熱して、原料を熔解するとともに攪拌均質化して泡切れ等を行い、その後、850℃以下に温度を下げてから金型に鋳込み、徐冷してガラスを作製した。
【0078】
実施例及び比較例のガラスの屈折率(n)、アッベ数(ν)及び部分分散比(θg,F)は、JIS B 7071-2:2018に規定されるVブロック法に準じて測定した。ここで、屈折率(n)は、ヘリウムランプのd線(587.56nm)に対する測定値で示した。また、アッベ数(ν)は、ヘリウムランプのd線に対する屈折率(n)と、水素ランプのF線(486.13nm)に対する屈折率(n)、C線(656.27nm)に対する屈折率(n)の値を用いて、アッベ数(ν)=[(n-1)/(n-n)]の式から算出した。また、部分分散比(θg,F)は、Hgランプのg線に対する屈折率(n)と、水素ランプのF線(486.13nm)に対する屈折率(n)、C線(656.27nm)に対する屈折率(n)の値を用いて、部分分散比(θg,F)=(n-n)/(n-n)の式から算出した。これらの屈折率(n)、アッベ数(ν)及び部分分散比(θg,F)は、徐冷降温速度を-25℃/hrにして得られたガラスについて測定を行うことで求めた。
【0079】
そして、測定により得られたアッベ数(ν)及び部分分散比(θg,F)の値から、関係式(θg,F)=-a×ν+bにおける、傾きaが0.0069のときの切片bを求めた。
【0080】
また、実施例及び比較例のガラスのガラス転移点(Tg)及び屈伏点(At)は、日本光学硝子工業会規格JOGIS08-2019「光学ガラスの熱膨張の測定方法」に従い、温度と試料の伸びとの関係を測定することで得られる熱膨張曲線より求めた。
【0081】
また、実施例及び比較例のガラスの線膨張係数の最大値(αmax)は、試料の長さを20±1.0mm以上、直径4±1.0mmの丸棒とし、日本光学硝子工業会規格JOGIS08-2019「光学ガラスの熱膨張の測定方法」に従って測定し、ガラス転移点(Tg)から屈伏点(At)までの間における5℃刻みの線膨張係数の最大値を求めた。線膨張係数の計算には、5の倍数の温度における試料の長さを用いた。
【0082】
【表1】

【0083】
【表2】

【0084】
表に表されるように、本発明の実施例の光学ガラスは、いずれも屈折率が1.48000以上、より詳細には1.52000以上であり、所望の範囲内であった。また、本発明の実施例の光学ガラスは、いずれもアッベ数が68.00以上であり、所望の範囲内であった。
【0085】
また、本発明の実施例の光学ガラスは、いずれも部分分散比(θg,F)が0.5290以上、部分分散比(θg,F)に対するFの含有率(アニオン%)の比(F/(θg,F))が105以下であった。図1図2の通り、実施例2のガラスは、ガラス表面にFの揮発によるくもりが発生せず、比較例3のガラスはFの揮発によるくもりが発生した。
【0086】
また、本発明の実施例の光学ガラスは、いずれもガラス転移点(Tg)と屈伏点(At)との間の温度範囲における線膨張係数の最大値(αmax)が1300×10-7-1以下であり、所望の範囲内であった。
【0087】
また、本発明の実施例の光学ガラスは、いずれもガラス転移点(Tg)が550℃以下であり、所望の範囲内であった。
【0088】
また、本発明の実施例の光学ガラスは、いずれもガラス屈伏点(At)が595℃以下であり、所望の範囲内であった。
【0089】
また、本発明の実施例の光学ガラスは、いずれもガラス転移点(Tg)とガラス屈伏点(At)の差が45℃以下であり、所望の範囲内であった。
【0090】
従って、本発明の実施例の光学ガラスは、屈折率及びアッベ数が所望の範囲内にあり、部分分散比(θg,F)が大きく、線膨張係数の最大値(αmax)及び平均線膨張係数(α)が小さいことが明らかになった。このことから、本発明の実施例の光学ガラスは、ガラスの割れやクラックが低減され、安定して得ることが可能であることが推察される。
【0091】
以上、本発明を例示の目的で詳細に説明したが、本実施例はあくまで例示の目的のみであって、本発明の思想及び範囲を逸脱することなく多くの改変を当業者により成し得ることが理解されよう。
図1
図2
図3