(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-08
(45)【発行日】2024-08-19
(54)【発明の名称】3’,5’-ジヒドロキシフェニル基を有するフラボノイドの製造方法
(51)【国際特許分類】
C12P 17/18 20060101AFI20240809BHJP
A23L 33/10 20160101ALI20240809BHJP
A23L 29/00 20160101ALI20240809BHJP
A23L 5/00 20160101ALI20240809BHJP
A61K 31/335 20060101ALI20240809BHJP
A61K 8/33 20060101ALI20240809BHJP
C07D 311/62 20060101ALI20240809BHJP
【FI】
C12P17/18 D
A23L33/10
A23L29/00
A23L5/00 K
A61K31/335
A61K8/33
C07D311/62
(21)【出願番号】P 2020143691
(22)【出願日】2020-08-27
【審査請求日】2023-06-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【氏名又は名称】水谷 馨也
(74)【代理人】
【識別番号】100175651
【氏名又は名称】迫田 恭子
(72)【発明者】
【氏名】山本 浩明
(72)【発明者】
【氏名】林 素子
(72)【発明者】
【氏名】大谷 彬
【審査官】藤井 美穂
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-003200(JP,A)
【文献】Biol. Pharm. Bull.,2015年,Vol.38, No. 2,p.325-330
【文献】Arch. Microbiol.,2014年,Vol.196,p.681-695
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 1/00 - 41/00
A23L 5/00 - 5/30
A23L 29/00 - 29/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
PubMed
Google Scholar
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
C環及び3',4',5'-トリヒドロキシフェニル基を有するフラボノイドからC環の開環を伴わずに3',5'-ジヒドロキシフェニル基を有するフラボノイドを産生する能力を有するアドレクレウチア
・カエシムリス(Adlercreutzia
caecimuris)
種に属する微生物、及び/又は、セネガリマッシリア(Senegalimassilia)属に属する微生物を用い、C環及び3',4',5'-トリヒドロキシフェニル基を有するフラボノイドを資化させ、C環の開環を伴わずに3',5'-ジヒドロキシフェニル基を有するフラボノイドを産生させる工程を含
み、
前記C環及び3',4',5'-トリヒドロキシフェニル基を有するフラボノイドが、下記式(I):
【化1】
(式中、R
1
は水素原子又は水酸基を表し、R
2
はメチレン基又はカルボニル基を表し、R
3
、R
4
、R
5
、及びR
6
は、それぞれ独立に、水素原子、水酸基、又はアルコキシ基を表す)で表される化合物である、3',5'-ジヒドロキシフェニル基を有するフラボノイドの製造方法。
【請求項2】
前記アドレクレウチア・カエシムリス種が、アドレクレウチア・カエシムリスDSM21839株である、請求項
1に記載の製造方法。
【請求項3】
セネガリマッシリア属に属する微生物がセネガリマッシリア・アナエロビア(Senegalimassilia anaerobia)種である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
前記セネガリマッシリア・アナエロビア種が、セネガリマッシリア・アナエロビアDSM25959株である、請求項
3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記C環及び3',4',5'-トリヒドロキシフェニル基を有するフラボノイドが、エピガロカテキン及び/又はアンペロプシンである、請求項1~
4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれかに記載の製造方法により3',5'-ジヒドロキシフェニル基を有するフラボノイドを製造する工程、及び前記3',5'-ジヒドロキシフェニル基を有するフラボノイドを飲食品の原料に配合する工程を含む、飲食品の製造方法。
【請求項7】
請求項1~
5のいずれかに記載の製造方法により3',5'-ジヒドロキシフェニル基を有するフラボノイドを製造する工程、及び前記3',5'-ジヒドロキシフェニル基を有するフラボノイドを食品添加物の原料に配合する工程を含む、食品添加物の製造方法。
【請求項8】
請求項1~
5のいずれかに記載の製造方法により3',5'-ジヒドロキシフェニル基を有するフラボノイドを製造する工程、及び前記3',5'-ジヒドロキシフェニル基を有するフラボノイドを化粧品の原料に配合する工程を含む、化粧品の製造方法。
【請求項9】
請求項1~
5のいずれかに記載の製造方法により3',5'-ジヒドロキシフェニル基を有するフラボノイドを製造する工程、及び前記3',5'-ジヒドロキシフェニル基を有するフラボノイドを医薬品の原料に配合する工程を含む、医薬品の製造方法。
【請求項10】
請求項1~
5のいずれかに記載の製造方法により3',5'-ジヒドロキシフェニル基を有するフラボノイドを製造する工程、及び前記3',5'-ジヒドロキシフェニル基を有するフラボノイドを医薬部外品の原料に配合する工程を含む、医薬部外品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、3’,5’-ジヒドロキシフェニル基を有するフラボノイドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カテキン等のフラボノイドは植物界に広く存在する化合物であり、その生理機能に注目が集まっている。様々な生理機能が期待されるフラボノイドは、近年の健康志向の高まりに伴い、機能性成分として内用又は外用を問わず様々な商品に取り入れられている。
【0003】
フラボノイドはジフェニルプロパンの基本構造を有する化合物群であり、4,000以上もの多種多様な化合物が存在すると言われている。これらのフラボノイドは、食餌として摂取された後、腸内で腸内細菌などによる代謝を受け、元々有している機能性の向上、新たな機能性の獲得、水への溶解度、生体利用性、及び/又は安定性の向上など伴う代謝物に変換されることが報告されている(非特許文献1)。
【0004】
例えば、特許文献1では、茶葉由来のエピガロカテキンが、Adlercreutzia equolifaciens MT4s-5、又はEggerthella lenta JCM9979により資化され、B環の水酸基の脱水酸化及びC環が開環した誘導体を生成することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Biotechnol. Adv., 43, 107576 (2020)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
フラボノイドには、エピガロカテキン等に代表されるように3’,4’,5’-トリヒドロキシフェニル基を有する化合物がある。このような化合物は、3’,4’,5’-トリヒドロキシフェニル基の互変異性により下記式に示すようにレダクトン構造をとるため、高い還元力(つまり高い抗酸化活性)を有する一方で、レダクトン構造の高い反応性から、特に空気中では酸化分解されやすいという問題、並びに、他の化合物との反応及び/又は着色の原因になるという問題がある。
【0008】
【0009】
従って、3’,4’,5’-トリヒドロキシフェニル基を有するフラボノイドにおいて4’-水酸基を脱水酸化(以下において、「4’-脱水酸化」とも記載する。)しておけば、化学的に安定となり、機能性成分としての有用性が格段に高まる。尚、フラボノイドの3’,4’,5’-トリヒドロキシフェニル基において3’-水酸基又は5’-水酸基を脱水酸化した場合には、それぞれ、4’,5’-ジヒドロキシフェニル基又は3’,4’-ジヒドロキシフェニル基が生成する。しかしながらこれらのカテコール構造は、3’,4’,5’-トリヒドロキシフェニル基ほどではないものの反応性が高く不安定であり、酸化されやすい問題、及び他の化合物と反応しやすい問題がある。従って、フラボノイドを安定化されるためには、4’-水酸基のみを選択的に脱水酸化することが重要である。
【0010】
尚、フラボノイドを資化する微生物には、特許文献1で報告されているAdlercreutzia equolifaciens MT4s-5、及びEggerthella lenta JCM9979等があるが、これらの微生物は、4’-脱水酸化だけではなく、3’-又は5’-脱水酸化並びにC環の開環も同時に起こるため、フラボノイドの基本構造を残しながら4’-脱水酸化物を製造することはできない。
【0011】
本開示は、3’,4’,5’-トリヒドロキシフェニル基を有するフラボノイドから、C環の開環を伴わずに選択的4’-脱水酸化により3’,5’-ジヒドロキシフェニル基を有するフラボノイドを微生物学的に製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、3’,4’,5’-トリヒドロキシフェニル基を有するフラボノイドを4’-脱水酸化するいくつかの微生物をスクリーニングにより見出した。しかしながら、見出された微生物のほとんどが4’-脱水酸化だけでなく、3’-脱水酸化、5’-脱水酸化、又は/及びC環の開環も伴い、3’,5’-ジヒドロキシフェニル基を有するフラボノイドを選択的に生成しなかった。一方で、所定のアドレクレウチア(Adlercreutzia)属に属する微生物と、セネガリマッシリア(Senegalimassilia)属に属する微生物は、C環の開環、及び3’-又は5’-脱水酸化を実質的に伴わずに4’-脱水酸化させることができることを見出した。本開示はこの知見に基づいてさらに検討を重ねることにより完成したものである。
【0013】
即ち、本開示は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. C環及び3’,4’,5’-トリヒドロキシフェニル基を有するフラボノイドからC環の開環を伴わずに3’,5’-ジヒドロキシフェニル基を有するフラボノイドを産生する能力を有するアドレクレウチア(Adlercreutzia)属に属する微生物、及び/又は、セネガリマッシリア(Senegalimassilia)属に属する微生物を用い、C環及び3’,4’,5’-トリヒドロキシフェニル基を有するフラボノイドを資化させ、C環の開環を伴わずに3’,5’-ジヒドロキシフェニル基を有するフラボノイドを産生させる工程を含む、3’,5’-ジヒドロキシフェニル基を有するフラボノイドの製造方法。
項2. アドレクレウチア属に属する微生物が、アドレクレウチア・カエシムリス(Adlercreutzia caecimuris)種である、項1に記載の製造方法。
項3. 前記アドレクレウチア・カエシムリス種が、アドレクレウチア・カエシムリスDSM21839株である、項2に記載の製造方法。
項4. セネガリマッシリア属に属する微生物がセネガリマッシリア・アナエロビア(Senegalimassilia anaerobia)種である、項1に記載の製造方法。
項5. 前記セネガリマッシリア・アナエロビア種が、セネガリマッシリア・アナエロビアDSM25959株である、項4に記載の製造方法。
項6. 前記C環及び3’,4’,5’-トリヒドロキシフェニル基を有するフラボノイドが下記式(I):
【化2】
(式中、R
1は水素原子又は水酸基を表し、R
2はメチレン基又はカルボニル基を表し、R
3、R
4、R
5、及びR
6は、それぞれ独立に、水素原子、水酸基又はアルコキシ基を表す。)で表される化合物である、項1~5のいずれかに記載の製造方法。
項7. 前記C環及び3’,4’,5’-トリヒドロキシフェニル基を有するフラボノイドが、エピガロカテキン及び/又はアンペロプシンである、項1~6のいずれかに記載の製造方法。
項8. 項1~7のいずれかに記載の製造方法により3’,5’-ジヒドロキシフェニル基を有するフラボノイドを製造する工程、及び前記3’,5’-ジヒドロキシフェニル基を有するフラボノイドを飲食品の原料に配合する工程を含む、飲食品の製造方法。
項9. 項1~7のいずれかに記載の製造方法により3’,5’-ジヒドロキシフェニル基を有するフラボノイドを製造する工程、及び前記3’,5’-ジヒドロキシフェニル基を有するフラボノイドを食品添加物の原料に配合する工程を含む、食品添加物の製造方法。
項10. 項1~7のいずれかに記載の製造方法により3’,5’-ジヒドロキシフェニル基を有するフラボノイドを製造する工程、及び前記3’,5’-ジヒドロキシフェニル基を有するフラボノイドを化粧品の原料に配合する工程を含む、化粧品の製造方法。
項11. 項1~7のいずれかに記載の製造方法により3’,5’-ジヒドロキシフェニル基を有するフラボノイドを製造する工程、及び前記3’,5’-ジヒドロキシフェニル基を有するフラボノイドを医薬品の原料に配合する工程を含む、医薬品の製造方法。
項12. 項1~7のいずれかに記載の製造方法により3’,5’-ジヒドロキシフェニル基を有するフラボノイドを製造する工程、及び前記3’,5’-ジヒドロキシフェニル基を有するフラボノイドを医薬部外品の原料に配合する工程を含む、医薬部外品の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本開示によれば、C環及び3’,4’,5’-トリヒドロキシフェニル基を有するフラボノイドから、C環の開環を伴わずに選択的4’-脱水酸化により3’,5’-ジヒドロキシフェニル基を有するフラボノイドを微生物学的に製造する方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0015】
1. 3’,5’-ジヒドロキシフェニル基を有するフラボノイドの製造方法
本開示は、所定の微生物を用いて、所定のフラボノイドを資化させ、C環の開環を伴わずに3’,5’-ジヒドロキシフェニル基を有するフラボノイドを産生させる工程を含む、3’,5’-ジヒドロキシフェニル基を有するフラボノイドの製造方法である。以下、本開示の製造方法の実施形態について詳述する。
【0016】
所定の微生物
本開示の製造方法で用いられる所定の微生物は、C環及び3’,4’,5’-トリヒドロキシフェニル基を有するフラボノイドからC環の開環を伴わずに3’,5’-ジヒドロキシフェニル基を有するフラボノイドを産生する能力を有するアドレクレウチア(Adlercreutzia)属に属する微生物、及び、セネガリマッシリア(Senegalimassilia)属に属する微生物である。
【0017】
C環及び3’,4’,5’-トリヒドロキシフェニル基を有するフラボノイドからC環の開環を伴わずに3’,5’-ジヒドロキシフェニル基を有するフラボノイドを産生する能力を有するアドレクレウチア属に属する微生物としては、当該能力を有していれば特に限定されない。このようなアドレクレウチア属に属する微生物の具体例としては、例えば、アドレクレウチア・カエシムリス(Adlercreutzia caecimuris)種等が挙げられる。また、アドレクレウチア・カエシムリス種の具体例としては、例えば、アドレクレウチア・カエシムリスDSM21839株、及びそれと同等の菌株等が挙げられる。
【0018】
セネガリマッシリア属に属する微生物の具体例としては、例えば、セネガリマッシリア・アナエロビア(Senegalimassilia anaerobia)種が挙げられる。また、セネガリマッシリア・アナエロビア種の具体例としては、例えば、セネガリマッシリア・アナエロビアDSM25959株、及びそれと同等の菌株が挙げられる。
【0019】
上記同等の菌株とは、その16S rRNA遺伝子の塩基配列が、アドレクレウチア・カエシムリスDSM21839株又はセネガリマッシリア・アナエロビアDSM25959株の16S rRNA遺伝子の塩基配列と、97.5%以上、好ましくは98%以上、より好ましくは99%以上の相同性を有する微生物株をいう。「相同性」とは、BLAST PACKAGE[sgi32 bitedition,Version 2.0.12;available from the National Center for Biotechnology Information(NCBI)]のbl2seq program(Tatiana A. Tatsusova,Thomas L.Madden,FEMS Microbiol.Lett.,Vol.174,247-250,1999)により得られる同一性の値を示す。パラメーターは、Gap insertion Cost value:11、Gap extension Cost value:1に設定すればよい。これら同等の菌株の取得方法としては特に限定されず、例えば、変異処理、遺伝子組み換え、自然変異株の選択などが挙げられる。
【0020】
これらの微生物は、1種を単独で用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0021】
所定のフラボノイド
上記の微生物に資化させる所定のフラボノイドとしては、1,3-ジフェニルプロパン構造を有し、B環が3’,4’,5’-トリヒドロキシフェニル基をなし、且つ、C環が閉環しているものであれば特に限定されない。
【0022】
本発明の製造方法で好ましく用いられるフラボノイドとしては下記式(I)で表される化合物が挙げられる。
【0023】
【0024】
式(I)中、R1は水素原子又は水酸基を表し、好ましくは水酸基を表す。R2はメチレン基又はカルボニル基を表す。R3、R4、R5、及びR6は、それぞれ独立に、水素原子、水酸基、又はアルコキシ基を表し、好ましくは、R3及びR5が水酸基、R4及びR6が水素原子を表す。前記のアルコキシ基としては、炭素数1~5、好ましくは炭素数1~3、より好ましくは炭素数1又は2、さらに好ましくは炭素数1のアルコキシ基が挙げられる。
【0025】
本発明の製造方法で好ましく用いられるフラボノイドのより好ましい例としては、下記式(II)で表されるエピガロカテキン、及び下記式(III)で表されるアンペロプシンが挙げられる。
【0026】
【0027】
【0028】
培養条件
上記所定の微生物を用いて上記所定のフラボノイドを資化させる方法としては、所定のフラボノイドを含む培地中で所定の微生物を培養すればよい。
【0029】
培地としては特に限定されず、微生物の栄養生理的性質を考慮して適宜設定すればよい。培地に含まれる成分としては、例えば、炭素源、窒素源、硫黄源、金属源、脂肪酸、油脂、ビタミン、還元剤、活性酸素種を分解する酵素、界面活性剤等から適宜選択することができる。
【0030】
炭素源としては、単糖又は多糖(例えば、グルコース、アラビノース、ソルビトール、フラクトース、マンノース、スクロース、トレハロース、キシロース、糖蜜、でんぷん、デキストリン、ムチン、多糖類の加水分解(例えば酸処理)物(例えば、可溶性でんぷん等)等);有機酸(例えば、吉草酸、酪酸、プロピオン酸、酢酸、ギ酸、フマル酸、コハク酸等)等が挙げられる。これらの炭素源は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0031】
窒素源としては、アンモニウム塩(硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム、リン酸水素アンモニウム等)、硝酸塩(硝酸カリウム、硝酸ナトリウム等)等の無機窒素化合物;アミノ酸(例えば、トリプトファン、システイン、グルタミン酸、リジン、アルギニン、シトルリン、オルニチン)及びその塩;タンパク質エキス(例えば、酵母エキス、麦芽エキス、肉エキス、肝臓エキス等);消化血清末;ペプトン(例えば、乳ペプトン、大豆ペプトン、プロテオーゼペプトン等)等の有機窒素化合物が挙げられる。これらの窒素源は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0032】
硫黄源としては、硫酸塩(例えば、硫酸マグネシウム、硫酸マンガン、硫酸亜鉛、硫酸銅、ミョウバン等)、亜硫酸塩、硫化物塩、次亜硫酸塩、チオ硫酸塩等の無機硫黄化合物;チオグリコール酸塩等の有機硫黄化合物が挙げられる。これらの硫黄源は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0033】
金属源としては、鉄化合物(例えば、ヘミン、ヘム鉄等)、ナトリウム化合物(例えば、塩化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、酢酸ナトリウム、カリウム化合物(例えば、リン酸カリウム、リン酸二水素カリウム等)、カルシウム化合物(例えば、塩化カルシウム等)、マグネシウム化合物(例えば、硫酸マグネシウム、硫酸マグネシウム等)、微量元素化合物(例えば、マンガン化合物[例えば、硫酸マンガン等]、コバルト化合物[例えば、塩化コバルト等]、ニッケル化合物[例えば、塩化ニッケル等]、モリブデン化合物[例えば、モリブデン酸ナトリウム等]、タングステン化合物[例えば、タングステン酸ナトリウム等]、セレン化合物[例えば、セレン酸ナトリウム等]等)金属酵母、金属乳酸菌等が挙げられる。また、これらの金属源が塩である場合は、当該塩については、水和物であってもよいし、無水和物であってもよい。これらの金属源は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0034】
脂肪酸としては、オレイン酸等の炭素数6以上の飽和/不飽和脂肪酸、好ましくは炭素数13以上の飽和/不飽和長鎖脂肪酸が挙げられ、油脂としては、当該脂肪酸のトリグリセリドが挙げられる。これらの脂肪酸及び油脂は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、これらの脂肪酸及び油脂の形態としては、Tween20,Tween80などの乳化剤により培地中に乳化した形態が挙げられる。
【0035】
ビタミンとしては、ビタミンK、ビオチン、葉酸、ピリドキシン、チアミン、リボフラビン、ニコチン酸、ニコチンアミド、パントテン酸、ビタミンB12、チオオクト酸、p-アミノ安息香酸等が挙げられる。これらのビタミンは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0036】
還元剤としては、システイン、シスチン、硫化ナトリウム、亜硫酸塩、アスコルビン酸、アスコルビン酸塩、グルタチオン、チオグリコール酸、チオグリコール酸塩、ルチン、水素等が挙げられる。活性酸素種を分解する酵素としては、カタラーゼ、スーパーオキシドムターゼ等が挙げられる。これらの還元剤及び酵素は、嫌気培養を行う場合に好ましく用いられる。
【0037】
界面活性剤としては、Tween等の非イオン性界面活性剤等が挙げられる。これらの界面活性剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0038】
これらの培地成分の中でも、好ましくは、炭素源、窒素源、硫黄源、金属源、ビタミン、還元剤が挙げられ;より好ましくは、単糖、多糖類の加水分解物、有機窒素化合物、有機硫黄化合物、鉄化合物、ナトリウム塩、カリウム塩、ビタミン、還元剤が挙げられ;さらに好ましくは、グルコース、溶性でんぷん、トリプトファン、システイン又はその塩、アルギニン、酵母エキス、肉エキス、肝臓エキス、消化血清末、ペプトン、大豆ペプトン、プロテオーゼペプトン、チオグリコール酸塩、ヘミン、塩化ナトリウム、リン酸二水素カリウム、ビタミンKが挙げられる。
【0039】
培地のより具体的な例としては、例えば、Oxoid社製のANAEROBE BASAL BROTH(ABB培地);Oxoid社製のWilkins-Chalgren Anaerobe Broth(CM0643);日水製薬株式会社製のGAM培地、変法GAM培地;BD社等のブレインハートインヒュージョン培地(BHI培地)等が挙げられる。
【0040】
さらに、培地には、脱水酸化を補助する水素源又は水素産生促進因子を加えることができる。水素源としては、水素ガス、水素前駆体(例えば、ピルビン酸、ギ酸等)、水素を産生する微生物等が挙げられ、水素産生促進因子としては、オリゴ糖等が挙げられる。これらの水素源、水素産生促進因子は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0041】
培地の性状としては特に限定されず、ゲル状及び液体状のいずれであってもよいが、水素源、特に水素ガスを用いる場合等においては、当該水素源と反応系との接触頻度を向上させる観点等から、液体状であることが好ましい。
【0042】
培養系が供される雰囲気(気相)としては、酸素を含む(好気培養雰囲気)及び含まない(嫌気培養雰囲気)のいずれであってもよいが、酸素を含まないことが好ましい。当該雰囲気の構成気体としては、例えば、窒素、二酸化炭素、水素が挙げられる。これらのうち、水素は、上記の培地中に加える水素源として働くことができる。これらの気体は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよいが、好ましくは、少なくとも水素を含むことが好ましく、より具体的には、窒素、二酸化炭素、及び水素を組み合わせて用いることが好ましい。
【0043】
培養系が供される雰囲気が水素を含む場合、当該雰囲気中に占める水素の量としては、好ましくは0.1体積%以上、より好ましくは1体積%以上、さらに好ましくは5体積%以上が挙げられる。水素の量の範囲の上限としては特に限定されないが、当該雰囲気中に占める水素の量として、好ましくは100体積%以下、より好ましくは20体積%以下、さらに好ましくは10体積%以下が挙げられる。
【0044】
培養系が供される雰囲気が二酸化炭素を含む場合、当該雰囲気中に占める二酸化炭素の量としては、好ましくは0.1体積%以上、より好ましくは1体積%以上、さらに好ましくは5体積%以上が挙げられる。二酸化炭素の量の範囲の上限としては特に限定されないが、当該雰囲気中に占める二酸化炭素の量として、好ましくは100体積%以下、より好ましくは20体積%以下、さらに好ましくは10体積%以下が挙げられる。
【0045】
培養系に供される雰囲気が窒素を含む場合、窒素は、培養系が供される気体組成を100体積%にバランスするために用いることができる。
【0046】
これらの気体は、培地に接触していればよい。これらの気体を培地に接触させる方法としては特に制限されないが、例えば、培養前に前記気体で培養系の雰囲気を置換する方法、培養中に培養系の雰囲気に前記気体を液中からのバブリング又は気相通気等の通気方法により供給する方法、及びそれらの両方を組み合わせる方法等が挙げられる。バブリングの形式としては特に限定されないが、ナノバブル又はマイクロバブルとして供給する形式が挙げられる。培地への通気量としては特に限定されないが、例えば0.001~2vvm、好ましくは0.01~0.5vvmが挙げられる。
【0047】
培養温度としては特に限定されないが、好ましくは25℃~50℃、より好ましくは30℃~45℃、さらに好ましくは35~40℃が挙げられる。
【0048】
培養系雰囲気の気圧としては、微生物が生育できる条件であれば特に限定されないが、好ましくは0~1MPa、より好ましくは0.01~0.5MPa、更に好ましくは0.02~0.2MPaが挙げられる。
【0049】
培養時間としては特に限定されないが、好ましくは8~240時間、より好ましくは16~120時間、さらに好ましくは24~96時間が挙げられる。
【0050】
培養の間、培地は撹拌してもよいし、撹拌せずに静置してもよい。上記の水素源を用いる場合であって、水素ガスを用いる場合、水素ガスと反応系との接触頻度を向上させる観点等から撹拌することが好ましい。さらに、上記の水素源を用いる場合であって、水素産生微生物を用いる場合は、水素ガスを用いる場合に比べて撹拌数を小さくすることが好ましい。
【0051】
目的産生物
本開示では、上記所定の微生物により上記所定のフラボノイドを資化させることにより、C環の開環を伴わずに4’-脱水酸化のみが起こり、C環が閉環した状態の3’,5’-ジヒドロキシフェニル基を有するフラボノイドを産生させる。
【0052】
例えば、上記式(I)で表される化合物を資化して得られる産生物は、下記式(i)で表される。
【0053】
【0054】
式(i)中、R1、R2、R3、R4、R5、及びR6については、上記式(I)で述べた通りである。
【0055】
また、上記式(II)で表されるエピガロカテキン及び上記式(III)で表されるアンペロプシンを資化して得られる産生物は、それぞれ、下記式(ii)で表される4’-デヒドロキシエピガロカテキン及び下記式(iii)で表される4’-デヒドロキシアンペロプシンである。
【0056】
【0057】
【0058】
目的産生物は、培養終了後の培地から適宜精製を行うことができる。目的生産物の精製に当たっては、目的生産物が培養液中で不溶性の場合には、有機溶媒(例えば、メタノール、エタノール、アセトン、DMSO等)、包接化合物(例えば、α,β,γ-シクロデキストリン及び/又はその誘導体)、及び/又は乳化剤(カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤)等の添加による可溶化;エステル系溶媒(例えば酢酸エチル等)、芳香族系溶媒(例えばトルエン等)、エーテル系溶媒、炭化水素類(例えばヘキサン等)等の有機溶媒による抽出;遠心分離又は膜分離を利用した不溶成分と可溶成分との分離・濃縮;塩析;結晶化;クロマトグラフィー(例えば、ゲルろ過、疎水性クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等)を適宜組み合わせることができる。
【0059】
このようにして精製された目的産生物は、必要に応じて、凍結乾燥、真空乾燥、スプレードライ等により粉末化することができる。
【0060】
2.飲食品の製造方法及び食品添加物の製造方法
本開示は、上記の製造方法により3’,5’-ジヒドロキシフェニル基を有するフラボノイドを製造する工程、及び前記3’,5’-ジヒドロキシフェニル基を有するフラボノイドを飲食品の原料に配合する工程を含む、飲食品又は食品添加物の製造方法も提供する。
【0061】
3’,5’-ジヒドロキシフェニル基を有するフラボノイド(以下において、「機能性成分」とも記載する)を製造する工程については、上記「3’,5’-ジヒドロキシフェニル基を有するフラボノイドの製造方法」で述べた通りである。
【0062】
飲食品又は食品添加物の原料としては、通常の飲食品又は食品添加物の原料として用いられる材料を特に限定されることなく用いることができる。例えば、当該原料としては、水、タンパク質、炭水化物、脂質、ビタミン類、ミネラル類、果汁、添加物等が挙げられる。
【0063】
タンパク質としては、例えば、全脂粉乳、脱脂粉乳、部分脱脂粉乳、カゼイン、大豆タンパク質、鶏卵タンパク質、肉タンパク質等の動植物性タンパク質、及びこれらの加水分解物等が挙げられる。炭水化物としては、穀物、穀物粉、食物繊維等が挙げられる。脂質としては、例えば、ラード、バター等の動物性油脂、サフラワー油、コーン油、ナタネ油、ヤシ油、及びこれらの分別油、水素添加油、エステル交換油等の植物性油脂等が挙げられる。ビタミン類としては、例えば、ビタミンA、カロチン類、ビタミンB群、ビタミンC、ビタミンD群、ビタミンE、ビタミンK群、ビタミンP、ビタミンQ、ナイアシン、ニコチン酸、パントテン酸、ビオチン、イノシトール、コリン、葉酸等が挙げられる。ミネラル類としては、例えば、カルシウム、カリウム、マグネシウム、ナトリウム、銅、鉄、マンガン、亜鉛、セレン、乳清ミネラル等が挙げられる。添加物としては、食品衛生学的に許容されうるものであれば特に限定されず、例えば、ブドウ糖、ショ糖、果糖、異性化液糖、アスパルテーム、ステビア等の甘味料;クエン酸、リンゴ酸、乳酸、酒石酸等の酸味料;パニリン等の矯味剤;澱粉、加工澱粉(例えば、デキストリン、可溶性澱粉、ブリティッシュスターチ、酸化澱粉、澱粉エステル、澱粉エーテル等)等の賦形剤;結合剤、香料、着色料、緩衝剤、増粘剤、ゲル化剤、安定剤、保存剤、酸化防止剤、乳化剤、分散剤、懸濁化剤、防腐剤等が挙げられる。これらの材料は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0064】
3’,5’-ジヒドロキシフェニル基を有するフラボノイド(機能性成分)を飲食品の原料を配合するにあたっては、通常の飲食品又は食品添加物を製造する任意の工程において、当該機能性成分を配合すればよい。
【0065】
また、飲食品の全量に対する当該機能性成分の含有量は、特に制限されないが、当該飲食品を摂取した場合に当該機能性成分による所望の効果を得ることできる含有量であることが好ましい。食品全量に対する当該機能性成分の含有量の具体例としては、当該機能性成分の種類及び所望する効果にもよるが、好ましくは0.001~80重量%、より好ましくは0.01~50重量%、更に好ましくは0.1~25重量%が挙げられる。
【0066】
食品添加物の全量に対する当該機能性成分の含有量は、特に制限されないが、飲食品に添加された場合に、その飲食が当該機能性成分による所望の効果を得ることできる含有量であることが好ましい。食品添加物の全量に対する当該機能性成分の含有量の具体例としては、当該機能性成分の種類及び所望する効果にもよるが、好ましくは例えば0.01~95重量%、より好ましくは0.1~80重量%、更に好ましくは1~50重量%が挙げられる。
【0067】
飲食品の形態としては、調理飲食品、錠剤、丸剤、粉末剤、顆粒剤、ハードカプセル、ソフトカプセル、ゼリー剤、各種飲料(清涼飲料、炭酸飲料、美容ドリンク、栄養飲料、果実飲料、乳飲料など)並びに当該飲料の濃縮原液及び用時調整用粉末、油脂及び油脂加工食品、調味料等が挙げられる。食品添加物の形態としては、液剤、粉剤、顆粒剤、ゼリー剤等が挙げられる。
【0068】
飲食品の用途としては、特別用途食品、特定保健用食品、栄養機能食品、機能性食品、栄養補助食品、健康補助食品、栄養強化食品、栄養調整食品、サプリメント等が挙げられる。食品添加物の用途としては、前記用途の飲食品に添加する機能性素材が挙げられる。
【0069】
製造された飲食品又は食品添加物は、適宜、瓶、袋、缶、箱、プラスチックバッグ等の容器に封入されることができる。
【0070】
3.化粧品の製造方法
本開示は、上記の製造方法により3’,5’-ジヒドロキシフェニル基を有するフラボノイドを製造する工程、及び前記3’,5’-ジヒドロキシフェニル基を有するフラボノイドを化粧品の原料に配合する工程を含む、化粧品の製造方法も提供する。
【0071】
3’,5’-ジヒドロキシフェニル基を有するフラボノイド(以下において、「機能性成分」とも記載する)を製造する工程については、上記「3’,5’-ジヒドロキシフェニル基を有するフラボノイドの製造方法」で述べた通りである。
【0072】
化粧品の原料としては、通常の化粧品に用いられる美容成分、所望の製剤形態にするための添加剤等が挙げられる。
【0073】
美容成分としては、皮膚保護剤(コロジオン、ヒマシ油等)、血行促進剤(ノニル酸ワニリルアミド、ニコチン酸ベンジルエステル、カプサイシン、トウガラシエキス等)、清涼化剤(メントール、カンフル等)、ビタミン類(ビタミンA、B、D等)、ムコ多糖類(コンドロイチン硫酸ナトリウム、グルコサミン、ヒアルロン酸及びその塩等)、湿潤剤(dl-ピロリドンカルボン酸ナトリウム液、D-ソルビトール液、マクロゴール等)、植物抽出物等が挙げられる。添加剤としては、水性基剤、油性基剤、賦形剤、増粘剤、粘着剤、崩壊剤、分散剤、滑沢剤、等張化剤、pH調節剤、界面活性剤、清涼化剤、紫外線吸収剤、キレート剤、緩衝剤、溶解補助剤、可溶化剤、着香剤、着色剤、防腐剤、安定化剤、酸化防止剤、保存剤等が挙げられる。
【0074】
化粧品の全量に対する当該機能性成分の含有量は、特に制限されないが、当該化粧品を外用した場合に当該機能性成分による所望の効果を得ることできる含有量であることが好ましい。化粧品全量に対する当該機能性成分の含有量の具体例としては、当該機能性成分の種類及び所望する効果にもよるが、例えば0.001~80重量%、好ましくは0.01~10重量%、より好ましくは0.1~5重量%が挙げられる。
【0075】
化粧品の製剤形態としては、固体状、ゲル状、液状、エアゾール等が挙げられる。また、化粧品の製剤形態は乳化製剤及び非乳化製剤のいずれであってもよい。
【0076】
化粧品の用途としては、クリーム剤、ローション剤、ジェル剤、乳液剤、液剤、貼付剤、エアゾール剤、軟膏剤、パック剤等の整肌料;石鹸、ボディーシャンプー、洗顔料等の皮膚洗浄料;ヘアシャンプー、リンス、コンディショナー等の毛髪化粧料が挙げられる。
【0077】
製造された化粧品は、適宜、瓶、袋、缶、プラスチック容器、ラミネートチューブ等の容器に封入されることができる。
【0078】
4.医薬品又は医薬部外品の製造方法
本開示は、上記の製造方法により3’,5’-ジヒドロキシフェニル基を有するフラボノイドを製造する工程、及び前記3’,5’-ジヒドロキシフェニル基を有するフラボノイドを医薬品又は医薬部外品の原料に配合する工程を含む、医薬品又は医薬部外品の製造方法も提供する。
【0079】
3’,5’-ジヒドロキシフェニル基を有するフラボノイド(以下において、「機能性成分」とも記載する)を製造する工程については、上記「3’,5’-ジヒドロキシフェニル基を有するフラボノイドの製造方法」で述べた通りである。
【0080】
医薬品又は医薬部外品の原料としては、通常の医薬品又は医薬部外品に用いられる薬理成分、所望の製剤形態にするための添加剤等が挙げられる。
【0081】
薬理成分としては、抗ヒスタミン剤、局所麻酔剤、抗炎症剤、殺菌剤、皮膚保護剤、血行促進剤、清涼化剤、ビタミン類、ムコ多糖類、湿潤剤、植物抽出物等が挙げられる。添加剤としては、水性基剤、油性基剤、賦形剤、増粘剤、粘着剤、崩壊剤、分散剤、滑沢剤、等張化剤、pH調節剤、界面活性剤、清涼化剤、紫外線吸収剤、キレート剤、緩衝剤、溶解補助剤、可溶化剤、着香剤、着色剤、防腐剤、安定化剤、酸化防止剤、保存剤等が挙げられる。
【0082】
医薬品又は医薬部外品の全量に対する当該機能性成分の含有量は、特に制限されないが、当該医薬品又は医薬部外品を外用又は内用した場合に当該機能性成分による所望の効果を得ることできる含有量であることが好ましい。医薬品又は医薬部外品全量に対する当該機能性成分の含有量の具体例としては、当該機能性成分の種類及び所望する効果にもよるが、例えば0.001~80重量%、好ましくは0.01~10重量%、より好ましくは0.1~5重量%が挙げられる。
【0083】
医薬品又は医薬部外品の製剤形態としては、固体状、ゲル状、液状、エアゾール等が挙げられる。また、化粧品の製剤形態は乳化製剤及び非乳化製剤のいずれであってもよい。
【0084】
医薬品又は医薬部外品の用途としては、外用の場合、クリーム剤、ローション剤、ジェル剤、乳液剤、液剤、貼付剤、エアゾール剤、軟膏剤、パック剤等が挙げられ、内用の場合、錠剤、丸剤、粉末剤、顆粒剤、ハードカプセル、ソフトカプセル、ゼリー剤、飲料剤等が挙げられる。
【0085】
製造された医薬品又は医薬部外品は、適宜、瓶、袋、缶、プラスチック容器、ラミネートチューブ等の容器に封入されることができる。
【0086】
本明細書に開示された各々の態様は、本明細書に開示された他のいかなる特徴とも組み合わせることができる。
【実施例】
【0087】
以下に実施例を示して本発明をより具体的に説明するが、各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は、一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲内で、適宜、構成の付加、省略、置換、及びその他の変更が可能である。本開示は、実施形態によって限定されることはなく、クレームの範囲によってのみ限定される。
【0088】
[試験例1]
[1]エピガロカテキンの調製
エピガロカテキンガレート(太陽化学製サンフェノン90LB-OP)10g/L、タンナーゼ(天野エンザイム製)0.36g/L、及び20mMリン酸カリウム緩衝液(pH6.0)を含む反応液を40℃、一晩反応させ、エピガロカテキンを収率95%で得た。
【0089】
[2]スクリーニング
エピガロカテキン1.5g/Lを含む変法GAMブイヨン培地(液体、1L中:ペプトン5.0g、ダイズペプトン3.0g、プロテオーゼペプトン5.0g、消化血清末10.0g、酵母エキス2.5g、肉エキス2.2g、肝臓エキス1.2g、ブドウ糖0.5g、溶性デンプン5.0g、L-トリプトファン0.2g、L-システイン塩酸塩0.3g、チオグリコール酸ナトリウム0.3g、L-アルギニン1.0g、ビタミンK1 5mg、ヘミン10mg、リン酸二水素カリウム2.5g、塩化ナトリウム3.0g;日水製薬株式会社)5.0mLを含むブチルゴム栓付き試験管に微生物を植菌し、混合ガス(H2/CO2/N2=10/10/80(体積比))で気相を置換した後、37℃、200spmで、6-7日間振盪培養した。なお、気相の圧力制御は行わなかった。培養終了後、培養液をメタノールで20倍希釈し、以下の条件でHPLC分析した。
【0090】
(HPLC条件)
カラム: CAPCELLPACK C18 MG(4.6mmx25cm,5μm)
溶離液A:H2O/アセトニトリル/酢酸(100/2.5/0.1(体積比))
溶離液B:H2O/アセトニトリル/メタノール/酢酸(50/2.5/50/0.1(体積比))
勾配条件:0-2分(0%溶離液B)→25分(100%溶離液B)リニアグラジエント
カラム温度:40℃
流速:1.0mL/分
検出:UV(270nm)
【0091】
HPLCにおける保持時間18.1分である化合物(ii)及び保持時間17.8分である化合物(ii')の少なくともいずれかを生成した微生物、培養日数、並びに、化合物(ii)及び/又は化合物(ii')のHPLCでのピーク面積(産生量)を以下に示す。
【0092】
【0093】
表1から明らかなとおり、アドレクレウチア・エクオールファシエンス(Adlercreutzia equolifaciens)、エガセラ・レンタ(Eggerthella lenta)、エガセラ・シネンシス(Eggerthella sinensis)、エガセラ(Eggerthella)・spについては、化合物(ii)を産生せず、化合物(ii')のみを産生したか、又は、わずかな化合物(ii)を産生したのみで、産生物のほとんどが化合物(ii')であったが、アドレクレウチア・カエシムリス(Adlercreutzia caecimuris)及びセネガリマッシリア・アナエロビア(Senegalimassilia anaerobia)については、化合物(ii')を産生せず、化合物(ii)のみを産生した。
【0094】
[3]化合物(ii)の同定
セネガリマッシリア・アナエロビア(Senegalimassilia anaerobia)DSM25959株を用い、培養液量50mL×2本中で、培養時間を5日間としたことを除いて上記[2]と同じ培養条件で培養を行った。培養終了液100mLから化合物(ii)を酢酸エチル100mLで抽出し、蒸発乾固した後、メタノール5mLで溶解し、分取用カラム(内径10mmx15cm)で化合物(ii)に相当するピークを分取した。分取画分をエバポレータにより濃縮後、酢酸エチルで希釈し、以下の条件でLC-MS分析を行った。
【0095】
(HPLC条件)
カラム:CAPCELLPACK C18 MG(4.6mmx25cm,5μm)
溶離液A:H2O/アセトニトリル/酢酸(100/2.5/0.1(体積比))
溶離液B:H2O/アセトニトリル/メタノール/酢酸(50/2.5/50/0.1(体積比))
勾配条件:0-2分(0%溶離液B)→25分(100%溶離液B)リニアグラジエント
カラム温度:40℃
流速:1.0mL/min
検出:UV(230nm)
(MS条件)
装置:Waters(LC-QTOF/MS XevoG2-XS)
流速:0.4mL/分
モード:Resolution
・ES-positive
キャピラリー電極:3.0kV
コーン温度:100℃
・ES-negative
キャピラリー電極:2.5kV
コーン温度:100℃
【0096】
LC-MS解析の結果、化合物(ii)に該当する保持時間18.4分の画分が、Negativeモードでm/z289.0707[M-H]-にピークを示したことから、分子量290であることを確認した。
【0097】
さらに、化合物(ii)について、重メタノール(CD3OD)を溶媒に用い、核磁気共鳴装置(400MHz、Bruker社製)を用いた1H-NMRスペクトルを測定した。以下に、1H-NMR測定結果を示す。
δ6.451(d, J = 2.4 Hz, 1H), δ6.450(d, J = 2.0 Hz, 1H), δ6.193(t, J = 2.4 Hz, 1H), δ5.933(d, J = 2.4 Hz, 1H), δ5.919(d, J = 2.4 Hz, 1H), δ4.566(s, 1H), δ4.211(m, 1H), δ2.859(dd, J = 16.8, 4.8 Hz, 1H), δ2.730(dd, J = 16.8, 2.8 Hz, 1H)
【0098】
以上の分析結果より、化合物(ii)は、C環の開環を伴わずに4’-脱水酸化された、4’-デヒドロキシエピガロカテキン(下記式)であると決定した。
【0099】
【0100】
[4]化合物(ii’)の同定
アドレクレウチア・エクオールファシエンス(Adlercreutzia equolifaciens)DSM19450株を用い、上記[2]の条件で、培養液量5mLで5日間培養した。培養終了液をメタノールで20倍希釈し、化合物(ii’)に該当する画分について上記[3]の条件にてLC-MS分析を行った。
【0101】
LC-MS解析の結果、化合物(ii’)は、Negativeモードでm/z291.0862[M-H]-にピークを示したことから分子量292であることを確認した。
【0102】
また、上記[3]と同様にして1H-NMRスペクトルを測定した結果、フェノール性水酸基のプロトンとメチレン基のプロトンとがさらに出現したことを確認した。
【0103】
以上の分析結果より、化合物(ii’)は、C環の開環を伴って4’-脱水酸化された、3-(3’,5’ジヒドロキシフェニル)-2-ヒドロキシー1-(2,4,6-トリフェニル)-プロパン(下記式)であると決定した。
【0104】
【0105】
以上の結果から、腸内細菌によるエピガロカテキンの代謝経路の1つが以下であり、アドレクレウチア・カエシムリス(Adlercreutzia caecimuris)及びセネガリマッシリア・アナエロビア(Senegalimassilia anaerobia)が、特異的に、C環の開環を伴わずに選択的に4’-脱水酸化された、4’-デヒドロキシエピガロカテキン(化合物(ii))を産生することが分かった。
【0106】
【0107】
[試験例2]
アンペロプシン0.1g/Lを含む変法GAM培地に、アドレクレウチア・カエシムリス(Adlercreutzia caecimuris)DSM21839株又はセネガリマッシリア・アナエロビア(Senegalimassilia anaerobia)DSM25959株を植菌し、培養時間を24時間としたことを除いて試験例1と同じ培養条件で培養を行った。培養終了後、培養液に2倍容のメタノールを添加し、ろ過した上清を以下の条件でLC-MS分析した。
【0108】
(HPLC条件)
カラム:CAPCELLPACK C18 MG(4.6mmx25cm,5μm)
溶離液A:H2O/アセトニトリル/メタノール/酢酸(90/2.5/10/0.5(体積比))
溶離液B:H2O/アセトニトリル/メタノール/酢酸(40/2.5/60/0.5(体積比))
勾配条件:0-2分(0%溶離液B)→20分(100%溶離液B)リニアグラジエント
カラム温度:40℃
流速:1.0mL/min
検出:UV(230nm)
(MS条件)
装置:Waters(LC-QTOF/MS XevoG2-XS)
流速:0.4mL/分
モード:Resolution
・ES-positive
キャピラリー電極:3.0kV
コーン温度:100℃
・ES-negative
キャピラリー電極:2.5kV
コーン温度:100℃
【0109】
いずれの微生物を用いた培養液からも、保持時間15.3分の代謝物が生成した。LC-MS解析の結果、この代謝物が、Negativeモードでm/z303.0500[M-H]-にピークを示したことから、分子量304であることを確認した。
【0110】
さらに、同条件にて培養を行った培養終了液250mLより代謝物を酢酸エチル250mLで抽出し、蒸発乾固した後、メタノール5mLで溶解し、分取用カラム(内径10mmx15cm)で当該代謝物に該当するピークを分取した。分取した代謝物について、重DMSO((CD3)2SO))を溶媒に用い、核磁気共鳴装置(400MHz、Bruker社製)を用いた1H-NMRスペクトルを測定した。以下に、1H-NMR測定結果を示す。
δ11.879(br-s, 1H),δ6.327(d, J = 2.0 Hz, 2H), δ6.199(t, J = 2.0 Hz, 1H), δ5.871(d, J = 2.0 Hz, 1H), δ5.842(d, J = 2.0 Hz, 1H), δ4.959(d, J = 10.8 Hz, 1H), δ4.407(d, J=10.8 Hz, 1H)
【0111】
分析の結果、代謝物は、C環の開環を伴わずに選択的に4’-脱水酸化された、4’-デヒドロキシアンペロプシン(下記式)であると決定した。
【0112】