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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-08
(45)【発行日】2024-08-19
(54)【発明の名称】機械撹拌制御システム及び機械撹拌工法
(51)【国際特許分類】
   E02D 3/12 20060101AFI20240809BHJP
   E02F 9/20 20060101ALI20240809BHJP
   E02F 9/22 20060101ALI20240809BHJP
【FI】
E02D3/12 102
E02F9/20 C
E02F9/20 Q
E02F9/22 P
E02F9/22 Q
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020175329
(22)【出願日】2020-10-19
(65)【公開番号】P2022066792
(43)【公開日】2022-05-02
【審査請求日】2023-08-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000230788
【氏名又は名称】日本基礎技術株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】弁理士法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】新町 修一
(72)【発明者】
【氏名】木下 尊義
【審査官】松本 泰典
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-225001(JP,A)
【文献】特開平10-068124(JP,A)
【文献】特開2010-209848(JP,A)
【文献】特開2015-137485(JP,A)
【文献】特開2007-277955(JP,A)
【文献】特開2012-72636(JP,A)
【文献】特開2005-225410(JP,A)
【文献】特開2002-174202(JP,A)
【文献】特開2013-227796(JP,A)
【文献】特開2015-112895(JP,A)
【文献】特開平9-183599(JP,A)
【文献】特開2010-53969(JP,A)
【文献】特開2003-166639(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 3/12
E02F 9/20
E02F 9/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重機の本体部から延びる、複数の油圧シリンダにより曲げ角度が調整される複数の関節を有する作業機の先端に、地盤に貫入される撹拌装置を取り付けて、地盤を撹拌する機械撹拌の制御システムであって、
前記複数の関節で分割される前記作業機の部位の各々の傾斜角度を計測する複数の傾斜角度計測手段と、
前記複数の油圧シリンダの各々の伸縮長さを調整する複数のシリンダ調整手段と、
前記複数の傾斜角度計測手段の計測結果に基づき、前記複数のシリンダ調整手段を制御する主制御手段と、を含み、
前記複数のシリンダ調整手段の各々が電磁比例弁であり、
前記主制御手段は、地盤に対する前記撹拌装置の貫入及び/又は引き抜き時に、前記電磁比例弁によりインチングを行う制御ロジックを備えることを特徴とする機械撹拌制御システム。
【請求項2】
前記主制御手段は、前記撹拌装置が地盤に貫入される際に、前記本体部の旋回中心位置から前記撹拌装置の撹拌中心位置までの距離が一定に保持されるように、前記複数のシリンダ調整手段を制御することを特徴とする請求項1記載の機械撹拌制御システム。
【請求項3】
前記主制御手段は、地盤に対する前記撹拌装置の貫入速度及び/又は引き抜き速度が一定になるように、前記複数のシリンダ調整手段を制御することを特徴とする請求項1又は2記載の機械撹拌制御システム。
【請求項4】
前記撹拌装置が、供給装置から供給される改良材を吐出しながら地盤を撹拌するものであり、
前記主制御手段は、前記撹拌装置の貫入速度に応じて前記改良材の供給量が調整されるように、前記供給装置を制御することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項記載の機械撹拌制御システム。
【請求項5】
前記作業機が、前記本体部に接続されたブームと、第1アームと、第2アームと、前記撹拌装置が取り付けられた先端部との、4つの部位を有し、
前記傾斜角度計測手段は、前記作業機の前記4つの部位の各々に取り付けられることを特徴とする請求項1からのいずれか1項記載の機械撹拌制御システム。
【請求項6】
重機の本体部から延びる、複数の油圧シリンダにより曲げ角度が調整される複数の関節を有する作業機の先端に、地盤に貫入される撹拌装置を取り付けて、地盤を撹拌する機械撹拌工法であって、
前記複数の関節で分割される前記作業機の部位の各々に、各部位の傾斜角度を計測する傾斜角度計測手段を取り付け、
複数のシリンダ調整手段によって前記複数の油圧シリンダの伸縮長さを調整し、
前記複数の傾斜角度計測手段の計測結果に基づいて、前記複数のシリンダ調整手段を制御し、
前記複数のシリンダ調整手段の各々として電磁比例弁を用い、地盤に対する前記撹拌装置の貫入及び/又は引き抜き時に、前記電磁比例弁によりインチングを行うことを特徴とする機械撹拌工法。
【請求項7】
前記撹拌装置を地盤に貫入する際に、前記本体部の旋回中心位置から前記撹拌装置の撹拌中心位置までの距離を一定に保持するように、前記複数のシリンダ調整手段を制御することを特徴とする請求項記載の機械撹拌工法。
【請求項8】
地盤に対する前記撹拌装置の貫入速度及び/又は引き抜き速度を一定にするように、前記複数のシリンダ調整手段を制御することを特徴とする請求項又は記載の機械撹拌工法。
【請求項9】
前記撹拌装置が、供給装置から供給される改良材を吐出しながら地盤を撹拌するものであり、
前記撹拌装置の貫入速度に応じて前記改良材の供給量を調整するように、前記供給装置を制御することを特徴とする請求項からのいずれか1項記載の機械撹拌工法。
【請求項10】
前記作業機が、前記本体部に接続されたブームと、第1アームと、第2アームと、前記撹拌装置が取り付けられた先端部との、4つの部位を有し、
前記傾斜角度計測手段を、前記作業機の前記4つの部位の各々に取り付けることを特徴とする請求項からのいずれか1項記載の機械撹拌工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重機の作業機に撹拌装置を取り付けて地盤を撹拌する機械撹拌の制御システム及び機械撹拌工法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
様々な建築物を構築するにあたり、現地の地盤が軟弱な場合には地盤改良が行なわれる。地盤改良には種々の工法が存在し、その中の1つである機械撹拌工法は、回転する撹拌翼により地盤形成土と改良材とを混合撹拌し、地中に改良体を造成する工法である。そのような撹拌翼を備えた撹拌装置は、通常、重機に装着して使用される(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2007-277955号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、撹拌装置を鉛直方向に貫入して地盤を改良する場合について検討する。この場合、撹拌装置を取り付ける重機として、リーダを備えた大口径削孔機などを用いれば、比較的容易に撹拌装置の鉛直性が確保される。しかしながら、施工現場の制約などにより、そのような削孔機が利用できないときは、撹拌装置をバックホウなどの作業機に取り付けて施工する。このような場合は、バックホウなどを操縦するオペレータにより、撹拌装置が鉛直方向に貫入されるように、作業機を操作することになるため、施工精度がオペレータの能力や経験に左右されていた。
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、撹拌装置の貫入時の鉛直性を高め、施工精度を向上することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
(発明の態様)
以下の発明の態様は、本発明の構成を例示するものであり、本発明の多様な構成の理解を容易にするために、項別けして説明するものである。各項は、本発明の技術的範囲を限定するものではなく、発明を実施するための最良の形態を参酌しつつ、各項の構成要素の一部を置換し、削除し、又は、更に他の構成要素を付加したものについても、本発明の技術的範囲に含まれ得るものである。
【0006】
(1)重機の本体部から延びる、複数の油圧シリンダにより曲げ角度が調整される複数の関節を有する作業機の先端に、地盤に貫入される撹拌装置を取り付けて、地盤を撹拌する機械撹拌の制御システムであって、前記複数の関節で分割される前記作業機の部位の各々の傾斜角度を計測する複数の傾斜角度計測手段と、前記複数の油圧シリンダの各々の伸縮長さを調整する複数のシリンダ調整手段と、前記複数の傾斜角度計測手段の計測結果に基づき、前記複数のシリンダ調整手段を制御する主制御手段と、を含む機械撹拌制御システム。
【0007】
本項に記載の機械撹拌制御システムは、複数の関節を有する作業機を備えた重機を利用して、作業機の先端に取り付けた撹拌装置により地盤を撹拌する、機械撹拌を制御するものであり、複数の傾斜角度計測手段、複数のシリンダ調整手段、及び主制御手段を含んでいる。複数の傾斜角度計測手段は、複数の関節で分割される作業機の各部位の傾斜角度を計測するものであり、それらの各部位に取り付けられる。複数のシリンダ調整手段は、作業機が備える複数の油圧シリンダの各々の伸縮長さを調整するものであり、それら複数の油圧シリンダは、作業機の各関節の曲げ角度を調整するものである。
【0008】
そして、主制御手段は、複数の傾斜角度計測手段により計測される作業機の各部位の傾斜角度に基づいて、複数のシリンダ調整手段を制御するものである。すなわち、作業機の各部位及び作業機に取り付けられた撹拌装置の、重機の本体部からの相対位置や姿勢は、作業機の関節の曲げ角度によってのみ制御される。このため、主制御手段は、作業機の各部位の傾斜角度から、作業機の各部位及び撹拌装置の位置や姿勢を把握し、それに基づいて、複数のシリンダ調整手段を制御して作業機の油圧シリンダを調整する。そしてこれによって、施工内容に応じて設定された設定値に従い、作業機及び撹拌装置が次にとるべき位置や姿勢になるように、作業機の各関節の曲げ角度を調整する。
【0009】
従って、地盤への貫入時に撹拌装置が鉛直姿勢を保つように設定しておくことで、主制御手段により、複数のシリンダ調整手段が制御されて、作業機の先端に取り付けられた撹拌装置が鉛直姿勢で地盤へと貫入される。このため、重機を操縦するオペレータの能力や経験に依存することなく、撹拌装置の貫入時の鉛直性が高められ、施工精度が向上するものである。しかも、撹拌装置の姿勢だけでなく、撹拌装置の貫入深度も設定内容に応じて制御され、更には、主制御手段によるシリンダ調整手段の制御を介して油圧シリンダの伸縮速度が調整されることで、撹拌装置の貫入速度や引き抜き速度も調整されるものである。これにより、施工仕様に応じた任意の設定値に従いながら、施工精度がより一層向上するものとなる。
【0010】
(2)上記(1)項において、前記複数のシリンダ調整手段の各々が電磁比例弁であり、前記主制御手段は、地盤に対する前記撹拌装置の貫入及び/又は引き抜き時に、前記電磁比例弁によりインチングを行う制御ロジックを備える機械撹拌制御システム(請求項)。
本項に記載の機械撹拌制御システムは、複数のシリンダ調整手段の各々が電磁比例弁であることで、作業機の各油圧シリンダの伸縮長さを細かく調整し、作業機及び撹拌装置の位置や姿勢などを柔軟に制御するものである。そして、主制御手段は、地盤に対する撹拌装置の貫入及び/又は引き抜き時に、電磁比例弁によりインチングを行う制御ロジックを備えており、電磁比例弁により細かいON/OFF切り替え(インチング)を行ってバランスよく制御することで、撹拌装置の貫入速度や引き抜き速度を安定させ、撹拌装置の円滑な貫入及び引き抜きを実現するものである。
【0011】
(3)上記(2)項において、前記主制御手段は、前記撹拌装置が地盤に貫入される際に、前記本体部の旋回中心位置から前記撹拌装置の撹拌中心位置までの距離が一定に保持されるように、前記複数のシリンダ調整手段を制御する機械撹拌制御システム(請求項2)。
本項に記載の機械撹拌制御システムは、撹拌装置が地盤に貫入される際に、重機の本体部の旋回中心位置から撹拌装置の撹拌中心位置までの距離が一定に保持されるように、主制御手段により複数のシリンダ調整手段を制御するものである。すなわち、主制御手段は、設計貫入位置の上方に撹拌装置が配置された状態で、傾斜角度計測手段の計測結果や予め設定される設定値などに基づいて、撹拌装置を貫入する貫入位置と本体部の旋回中心位置との間の距離を算出する。そして、撹拌装置の貫入のために作業機の各関節の曲げ角度を変化させながら、傾斜角度計測手段の計測結果を利用して本体部の旋回中心位置から撹拌装置の撹拌中心位置までの距離を把握し、その距離が算出した距離に常に保たれるように、複数のシリンダ調整手段を制御する。これにより、旋回中心位置から一定の距離に位置する設計位置へ、精度よく撹拌装置が貫入されることになるため、施工精度がより向上されるものである。
【0012】
(4)上記(2)(3)項において、前記主制御手段は、地盤に対する前記撹拌装置の貫入速度及び/又は引き抜き速度が一定になるように、前記複数のシリンダ調整手段を制御する機械撹拌制御システム(請求項3)。
本項に記載の機械撹拌制御システムは、地盤に対する撹拌装置の貫入速度及び/又は引き抜き速度が一定になるように、主制御手段により複数のシリンダ調整手段を制御することで、撹拌装置の貫入工程や引き抜き工程を安定して実行し、施工効率の向上を図るものである。
【0013】
(5)上記(2)から(4)項において、前記撹拌装置が、供給装置から供給される改良材を吐出しながら地盤を撹拌するものであり、前記主制御手段は、前記撹拌装置の貫入速度に応じて前記改良材の供給量が調整されるように、前記供給装置を制御する機械撹拌制御システム(請求項4)。
本項に記載の機械撹拌制御システムは、供給装置から供給される改良材を吐出しながら地盤を撹拌する撹拌装置を用いるものであり、その撹拌装置の貫入速度に応じて改良材の供給量が調整されるように、主制御手段によって供給装置を制御する。すなわち、主制御手段は、撹拌装置の貫入速度を制御して把握するものであるため、その貫入速度に応じて供給装置から撹拌装置への改良材の供給量を調整する。そしてこれによって、地盤の単位深さあたりの改良材の供給量を一定に保持する、地盤の深さに応じて改良材の供給量を変化させるなど、撹拌装置から地盤内へ設計通りに改良材が吐出されて混合撹拌されるものとなる。従って、改良材のロスが抑制されるものとなり、それにより施工コストが削減されるものである。
【0014】
(6)上記()から(5)項において、前記作業機が、前記本体部に接続されたブームと、第1アームと、第2アームと、前記撹拌装置が取り付けられた先端部との、4つの部位を有し、前記傾斜角度計測手段は、前記作業機の前記4つの部位の各々に取り付けられる機械撹拌制御システム(請求項)。
本項に記載の機械撹拌制御システムは、重機の作業機が、本体部に接続されたブームと、第1アームと、第2アームと、撹拌装置が取り付けられた先端部との、4つの部位を有している。このため、油圧シリンダによって曲げ角度が調整される関節が、本体部とブームとの間、ブームと第1アームとの間、第1アームと第2アームとの間、及び第2アームと先端部との間の4箇所に設けられている。そして、作業機のそれら4つの部位の各々に、傾斜角度計測手段が取り付けられることで、各関節の曲げ角度の変化により傾斜角度が別個に変化する、作業機の全ての部分に、傾斜角度計測手段が取り付けられることになる。このため、重機として2ピース仕様のバックホウなどを用いながらも、作業機及び撹拌装置の位置や姿勢が精度よく把握されるものとなる。
【0015】
(7)重機の本体部から延びる、複数の油圧シリンダにより曲げ角度が調整される複数の関節を有する作業機の先端に、地盤に貫入される撹拌装置を取り付けて、地盤を撹拌する機械撹拌工法であって、前記複数の関節で分割される前記作業機の部位の各々に、各部位の傾斜角度を計測する傾斜角度計測手段を取り付け、複数のシリンダ調整手段によって前記複数の油圧シリンダの伸縮長さを調整し、前記複数の傾斜角度計測手段の計測結果に基づいて、前記複数のシリンダ調整手段を制御する機械撹拌工法。
【0016】
(8)上記(7)項において、前記複数のシリンダ調整手段の各々として電磁比例弁を用い、地盤に対する前記撹拌装置の貫入及び/又は引き抜き時に、前記電磁比例弁によりインチングを行う機械撹拌工法(請求項6)。
)上記()項において、前記撹拌装置を地盤に貫入する際に、前記本体部の旋回中心位置から前記撹拌装置の撹拌中心位置までの距離を一定に保持するように、前記複数のシリンダ調整手段を制御する機械撹拌工法(請求項)。
10)上記()()項において、地盤に対する前記撹拌装置の貫入速度及び/又は引き抜き速度を一定にするように、前記複数のシリンダ調整手段を制御する機械撹拌工法(請求項)。
【0017】
11)上記()から(10)項において、前記撹拌装置が、供給装置から供給される改良材を吐出しながら地盤を撹拌するものであり、前記撹拌装置の貫入速度に応じて前記改良材の供給量を調整するように、前記供給装置を制御する機械撹拌工法(請求項
【0018】
(12)上記()から(11)項において、前記作業機が、前記本体部に接続されたブームと、第1アームと、第2アームと、前記撹拌装置が取り付けられた先端部との、4つの部位を有し、前記傾斜角度計測手段を、前記作業機の前記4つの部位の各々に取り付ける機械撹拌工法(請求項10)。
そして、(7)から(12)項に記載の機械撹拌工法は、各々、上記(1)から(6)項の機械撹拌制御システムを用いて実行されることで、上記(1)から(6)項の機械撹拌制御システムに対応する同等の作用を奏するものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明は上記のような構成であるため、撹拌装置の貫入時の鉛直性を高め、施工精度を向上することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の実施の形態に係る機械撹拌制御システムの構成の一例を示すブロック図である。
図2図1の機械撹拌制御システムが適用される重機の一例を示す側面図である。
図3】本発明の実施の形態に係る機械撹拌制御システムを利用した機械撹拌工法における、撹拌装置の貫入工程を示すイメージ図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための形態を、添付図面に基づいて説明する。ここで、従来技術と同一部分、若しくは相当する部分については、詳しい説明を省略することとし、又、図面の全体にわたって、同一部分又は対応する部分は、同一符号で示している。
図1は、機械撹拌を制御する本発明の実施の形態に係る機械撹拌制御システム10の構成を模式的に示し、図2は、機械撹拌に用いられる重機30の構成を示している。まず、図2を参照して、本実施形態の機械撹拌制御システム10が適用される重機30の構成について説明する。
【0022】
図2に示すように、重機30は、本実施形態では2ピース仕様のバックホウであり、オペレータ室や走行体を備えて前後移動や旋回動作が可能な本体部32と、本体部32から延びる多関節の作業機36とを含んでいる。作業機36は、ブーム38、第1アーム40、第2アーム42、及び先端部44の4つの部位で大略構成され、先端部44に後述するように撹拌装置70(図3参照)が取り付けられる。作業機36の上述した4つの部位38、40、42、44間の3箇所は、曲げ動作可能に関節50を介して接続されている。更に、図2での図示は省略しているが、本体部32とブーム38との間も、本体部32に対するブーム38の曲げ動作が可能に、関節50を介して接続されている。
【0023】
又、重機30の作業機36は、関節50の各々の曲げ角度を調整するための複数の油圧シリンダ60、62、64、66を有している。すなわち、油圧シリンダ60は、その伸縮動作によって本体部32とブーム38との間の関節50の曲げ角度を調整し、油圧シリンダ62は、その伸縮動作によってブーム38と第1アーム40との間の関節50の曲げ角度を調整する。更に、油圧シリンダ64は、その伸縮動作によって第1アーム40と第2アーム42との間の関節50の曲げ角度を調整し、油圧シリンダ66は、その伸縮動作によって第2アーム42と先端部44との間の関節50の曲げ角度を調整する。なお、図2には、油圧シリンダ60、62、66が最長まで伸びた状態、油圧シリンダ64が最短まで縮んだ状態が示されている。
【0024】
図1に戻り、本発明の実施の形態に係る機械撹拌制御システム10は、複数の傾斜角度計測手段14、複数のシリンダ調整手段18、及び主制御手段22を含んでいる。複数の傾斜角度計測手段14は、本実施形態では4つであり、図2に示すように、重機30の作業機36を構成する4つの部位である、ブーム38、第1アーム40、第2アーム42、及び先端部44の夫々に取り付けられる。傾斜角度計測手段14は、取り付け先の傾斜角度を計測するものであり、そのような計測が可能な任意の傾斜計などが用いられる。傾斜角度計測手段14によって計測された作業機36の各部位38、40、42、44の傾斜角度は、主制御手段22へと送信される。このため、複数の傾斜角度計測手段14と主制御手段22との間は、少なくとも作業時は、傾斜角度計測手段14から主制御手段22へとデータを常時送信し、かつ、主制御手段22がそのデータを常時受信するような接続環境にあり、その接続手段は有線或いは無線であってもよい。
【0025】
複数のシリンダ調整手段18は、作業機36が備える複数の油圧シリンダ60、62、64、66の伸縮長さを調整するものであり、本実施形態ではそれらを調整するための4つのシリンダ調整手段18を含んでいる。このため、それら4つのシリンダ調整手段18は、重機30の油圧系統に含まれ、油圧シリンダ60、62、64、66の各々に油圧を供給する経路上に設置される。本実施形態のシリンダ調整手段18の各々は、電磁比例弁で構成されており、後述するように主制御手段22によって制御される。なお、図2では、複数のシリンダ調整手段18の図示を省略している。
【0026】
主制御手段22は、機械撹拌制御システム10全体の制御を担うものであり、特に、複数のシリンダ調整手段18の制御を行う。複数のシリンダ調整手段18の制御に際し、主制御手段22は、上述したように、複数の傾斜角度計測手段14から作業機36の各部位38、40、42、44の傾斜角度を取得する。又、主制御手段22には、作業機36の各部位38、40、42、44の大きさを含む重機30の要部の大きさ、各関節50において可能な曲げ角度の範囲、各関節50の曲げ角度と油圧シリンダ60、62、64、66の伸縮長さとの関係、作業機36の先端部44に取り付けられる撹拌装置70の大きさ、施工仕様に応じた各種の設計値などが予め設定されている。
【0027】
このため、主制御手段22は、複数の傾斜角度計測手段14からの取得結果と、予め設定された内容とを用いて、作業機36の4つの部位(ブーム38、第1アーム40、第2アーム42、先端部44)の位置及び姿勢や、先端部44に取り付けられる撹拌装置70の位置及び姿勢も算出する。そして、主制御手段22は、作業機36の4つの部位38、40、42、44及び撹拌装置70が、現在行っている動作に適した位置及び姿勢へと変化するように、複数のシリンダ調整手段18を制御して、油圧シリンダ60、62、64、66の伸縮長さ、すなわち、作業機36の各関節50の曲げ角度を調整する。このとき、油圧シリンダ60、62、64、66の伸縮速度を調整することで、作業機36の各部位38、40、42、44及び撹拌装置70の、移動や姿勢変化の速度を調整する。なお、主制御手段22は、複数のシリンダ調整手段18に加えて、重機30の油圧系統に含まれる他の油圧制御機器の制御を行ってもよい。
【0028】
又、本実施形態の主制御手段22は、撹拌装置70の制御を行う。ここで、撹拌装置70は、図3に示されるように、先端に回転駆動する一対の撹拌翼72が設けられた長尺状のものであり、作業機36の先端部44に取り付けられた状態で地盤Gに貫入されて、地盤Gを撹拌する。更に、ここでの詳細な説明は控えるが、撹拌装置70には、回転駆動する撹拌翼72に加えて、撹拌翼72の近傍に地盤改良のための改良材を供給する配管や吐出口、改良材の供給により増大する地盤Gの内圧を地表へ向けて逃がすためのスパイラル管、撹拌装置70の中途部分で屈折させるための屈折機構、撹拌装置70を軸回転させる軸回転機構、地盤Gのサンプルを採取するためのサンプリング装置などが備えられてもよい。そして、それらの少なくとも一部の動作を、主制御手段22によって制御するものである。
【0029】
更に、本実施形態の主制御手段22は、供給装置90の制御も行う。この供給装置90は、撹拌装置70の地盤Gへの貫入時に、上述したような配管や吐出口を介して、撹拌装置70の撹拌翼72の近傍に改良材を供給するためのものであり、吐出口とは反対側の配管の端部に接続されるポンプなどで構成される。特に主制御手段22は、撹拌装置70の地盤Gへの貫入速度に応じて、改良材の供給量を調整するように、供給装置90を制御する。すなわち、主制御手段22は、作業機36に接続された撹拌装置70の移動速度を制御して把握しており、その地盤Gでの貫入速度に応じて改良材の供給量を調整するものである。このような主制御手段22は、例えば重機30のオペレータ室に設置される任意のコンピュータで構成される。なお、図2では、主制御手段22や供給装置90の図示を省略している。
【0030】
続いて、図3を参照して、本発明の実施の形態に係る機械撹拌制御システム10を用いた機械撹拌工法の一部である、撹拌装置70の貫入工程について説明する。なお、機械撹拌制御システム10の構成や重機30の詳細な構成については、適宜、図1及び図2を参照されたい。
まず、図3(a)に示すように、オペレータにより重機30を操縦して、撹拌装置70を貫入する位置の近傍まで重機30を移動させ、更に作業機36の姿勢を調整して、貫入するべき位置の上方で撹拌装置70を鉛直方向に沿って配置する。このとき、主制御手段22を利用して、撹拌装置70の位置や姿勢を調整してもよい。そして、主制御手段22により、複数の傾斜角度計測手段14の計測結果を利用して、重機30の本体部32の旋回中心位置Tと、撹拌装置70の撹拌中心位置Sとの間の距離Dを算出する。ここで、撹拌中心位置Sとは、例えば、撹拌装置70の軸中心位置や、一対の撹拌翼72のセンター位置などである。又、距離Dは、旋回中心位置Tと撹拌中心位置Sとの間の距離を実質的に表すものであれば、水平距離であってもよく、水平距離でなくてもよい。
【0031】
次に、主制御手段22により、作業機36の各関節50の曲げ角度を変化させて、撹拌装置70を地盤Gへ向けて徐々に下ろしていく。このとき、算出した距離Dが一定に保たれ、かつ、撹拌装置70の姿勢が保たれたまま鉛直方向下方に移動するように、複数のシリンダ調整手段18を制御する。そして、図3(b)に示すように、撹拌装置70の先端の撹拌翼72を回転させながら、地盤Gへ撹拌装置70を貫入する。この撹拌装置70の貫入中に、主制御手段22は、地盤Gの貫入抵抗などを加味しながら、本実施形態では撹拌装置70が一定の速度で貫入されるように、複数のシリンダ調整手段18を制御する。更に、主制御手段22は、撹拌装置70の撹拌翼72の近傍から、撹拌装置70の貫入速度に応じた量の改良材が吐出されるように、改良材の供給装置90を制御する。
【0032】
そして、図3(c)に示すように、主制御手段22の制御により、予め設定された設計深度まで撹拌装置70を貫入させる。以降は、引き続き主制御手段22の制御によって、撹拌装置70を地盤Gから引き抜いていき、このときも、撹拌装置70の引き抜き速度が一定であり、距離Dが一定に保たれ、撹拌装置70が鉛直方向に沿って引き抜かれるように、複数のシリンダ調整手段18を制御する。このため、例えば、「スタート」、「中断」、「停止」などのスイッチで、オペレータ室から主制御手段22へ指令を送ることで、撹拌装置70の貫入から引き抜きまでの一連の動作を行わせるようにしてもよい。更に、複数の傾斜角度計測手段14の計測結果、撹拌装置70の貫入/引き抜き速度、重機30の旋回中心位置Tから撹拌装置70の撹拌中心位置Sまでの距離D、改良材の供給量といった、主制御手段22により把握、算出、制御する各種のデータを、重機30のオペレータ室に設置したモニタなどに表示させてもよい。なお、図3(b)、(c)では、回転している撹拌翼72の様子を簡略的に円形で図示している。
【0033】
ここで、本発明の実施の形態に係る機械撹拌制御システム10は、上述したような構成に限定されるものではなく、他の構成をとり得るものである。例えば、機械撹拌制御システム10が適用される重機30の作業機36は、図2の例よりも関節50の数が多くても少なくてもよく、それに応じて傾斜角度計測手段14やシリンダ調整手段18の数量が増減してもよい。又、シリンダ調整手段18は、電磁比例弁以外の油圧制御機器で構成されてもよい。更に、主制御手段22は、複数のシリンダ調整手段18の制御を介して、重機30の作業機36の動作のみを制御するものであってもよい。
【0034】
さて、上記構成をなす本発明の実施の形態によれば、次のような作用効果を得ることが可能である。すなわち、本発明の実施の形態に係る機械撹拌制御システム10は、図3に示すように、複数の関節50を有する作業機36を備えた重機30を利用して、作業機36の先端に取り付けた撹拌装置70により地盤Gを撹拌する、機械撹拌を制御するものであり、図1及び図2に示すように、複数の傾斜角度計測手段14、複数のシリンダ調整手段18、及び主制御手段22を含んでいる。複数の傾斜角度計測手段14は、複数の関節50で分割される作業機36の各部位38、40、42、44の傾斜角度を計測するものであり、それらの各部位38、40、42、44に取り付けられる。複数のシリンダ調整手段18は、作業機36が備える複数の油圧シリンダ60、62、64、66の各々の伸縮長さを調整するものであり、それら複数の油圧シリンダ60、62、64、66は、作業機36の各関節50の曲げ角度を調整するものである。
【0035】
そして、主制御手段22は、複数の傾斜角度計測手段14により計測される作業機36の各部位38、40、42、44の傾斜角度に基づいて、複数のシリンダ調整手段18を制御するものである。すなわち、作業機36の各部位38、40、42、44及び作業機36に取り付けられた撹拌装置70の、重機30の本体部32からの相対位置や姿勢は、作業機36の関節50の曲げ角度によってのみ制御される。このため、主制御手段22は、作業機36の各部位38、40、42、44の傾斜角度から、各部位38、40、42、44及び撹拌装置70の位置や姿勢を把握し、それに基づいて、複数のシリンダ調整手段18を制御して作業機36の油圧シリンダ60、62、64、66を調整する。そしてこれによって、施工内容に応じて設定された設定値に従い、作業機36及び撹拌装置70が次にとるべき位置や姿勢になるように、作業機36の各関節50の曲げ角度を調整する。
【0036】
従って、図3に示すように、地盤Gへの貫入時に撹拌装置70が鉛直姿勢を保つように設定しておくことで、主制御手段22により、複数のシリンダ調整手段18が制御されて、作業機36の先端に取り付けられた撹拌装置70が鉛直姿勢で地盤Gへと貫入される。このため、重機30を操縦するオペレータの能力や経験に依存することなく、撹拌装置70の貫入時の鉛直性を高めることができ、施工精度を向上することができる。しかも、撹拌装置70の姿勢だけでなく、撹拌装置70の貫入深度も設定内容に応じて制御することができ、更には、主制御手段22によるシリンダ調整手段18の制御を介して油圧シリンダ60、62、64、66の伸縮速度が調整されることで、撹拌装置70の貫入速度や引き抜き速度も調整することができる。これにより、施工仕様に応じた任意の設定値に従いながら、施工精度をより一層向上することが可能となる。
【0037】
更に、本発明の実施の形態に係る機械撹拌制御システム10は、図2に示すように、重機30の作業機36が、本体部32に接続されたブーム38と、第1アーム40と、第2アーム42と、撹拌装置70が取り付けられた先端部44との、4つの部位を有している。このため、油圧シリンダ60、62、64、66によって曲げ角度が調整される関節50が、本体部32とブーム38との間、ブーム38と第1アーム40との間、第1アーム40と第2アーム42との間、及び第2アーム42と先端部44との間の4箇所に設けられている。そして、作業機36のそれら4つの部位38、40、42、44の各々に、傾斜角度計測手段14が取り付けられることで、各関節50の曲げ角度の変化により傾斜角度が別個に変化する、作業機36の全ての部分に、傾斜角度計測手段14が取り付けられることになる。このため、重機30として2ピース仕様のバックホウなどを用いながらも、作業機36及び撹拌装置70の位置や姿勢を精度よく把握することができる。
【0038】
又、本発明の実施の形態に係る機械撹拌制御システム10は、図3に示すように、撹拌装置70が地盤Gに貫入される際に、重機30の本体部32の旋回中心位置Tから撹拌装置70の撹拌中心位置Sまでの距離Dが一定に保持されるように、主制御手段22により複数のシリンダ調整手段18を制御するものである。すなわち、主制御手段22は、設計貫入位置の上方に撹拌装置70が配置された状態で、傾斜角度計測手段14の計測結果や予め設定される設定値などに基づいて、撹拌装置70を貫入する貫入位置と本体部32の旋回中心位置Tとの間の距離Dを算出する。
【0039】
そして、撹拌装置70の貫入のために作業機36の各関節50の曲げ角度を変化させながら、傾斜角度計測手段14の計測結果を利用して本体部32の旋回中心位置Tから撹拌装置70の撹拌中心位置Sまでの距離Dを把握し、その距離Dが算出した距離Dに常に保たれるように、複数のシリンダ調整手段18を制御する。これにより、旋回中心位置Tから一定の距離Dに位置する設計位置へ、精度よく撹拌装置70を貫入することができるため、施工精度をより向上することが可能となる。更に、地盤Gに対する撹拌装置70の貫入速度及び/又は引き抜き速度が一定になるように、主制御手段22により複数のシリンダ調整手段18を制御することとすれば、撹拌装置70の貫入工程や引き抜き工程を安定して実行することができ、施工効率の向上を図ることができる。
【0040】
又、本発明の実施の形態に係る機械撹拌制御システム10は、図1に示すように、供給装置90から供給される改良材を吐出しながら地盤Gを撹拌する撹拌装置70を用いるものであり、その撹拌装置70の貫入速度に応じて改良材の供給量が調整されるように、主制御手段22によって供給装置90を制御する。すなわち、主制御手段22は、撹拌装置70の貫入速度を制御して把握するものであるため、その貫入速度に応じて供給装置90から撹拌装置70への改良材の供給量を調整する。そしてこれによって、地盤Gの単位深さあたりの改良材の供給量を一定に保持する、地盤Gの深さに応じて改良材の供給量を変化させるなど、撹拌装置70から地盤G内へ設計通りに改良材を吐出して混合撹拌することができる。従って、改良材のロスを抑制することができ、それにより施工コストを削減することが可能となる。
【0041】
更に、本発明の実施の形態に係る機械撹拌制御システム10は、複数のシリンダ調整手段18の各々が電磁比例弁であることで、作業機36の各油圧シリンダ60、62、64、66の伸縮長さを細かく調整し、作業機36及び撹拌装置70の位置や姿勢などを柔軟に制御することができる。特に、複数の油圧シリンダ60、62、64、66を同時に制御する場合に、電磁比例弁により細かいON/OFF切り替え(インチング)を行ってバランスよく制御することで、撹拌装置70の貫入速度や引き抜き速度を安定させ、撹拌装置70の円滑な貫入及び引き抜きを実現することができる。
他方、本発明の実施の形態に係る機械撹拌工法は、上述したような本発明の実施の形態に係る機械撹拌制御システム10を用いて実行されることで、機械撹拌制御システム10に対応する同等の作用効果を奏することができる。
【符号の説明】
【0042】
10:機械撹拌制御システム、14:傾斜角度計測手段、18:シリンダ調整手段、22:主制御手段、30:重機、32:本体部、36:作業機、38:ブーム、40:第1アーム、42:第2アーム、44:先端部、50:関節、60、62、64、66:油圧シリンダ、70:撹拌装置、90:供給装置、D:旋回中心位置から撹拌中心位置までの距離、G:地盤、S:撹拌中心位置、T:旋回中心位置
図1
図2
図3