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  • 特許-光学ガラス、プリフォーム及び光学素子 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-08
(45)【発行日】2024-08-19
(54)【発明の名称】光学ガラス、プリフォーム及び光学素子
(51)【国際特許分類】
   C03C 3/068 20060101AFI20240809BHJP
   G02B 1/00 20060101ALI20240809BHJP
【FI】
C03C3/068
G02B1/00
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020185756
(22)【出願日】2020-11-06
(65)【公開番号】P2022075155
(43)【公開日】2022-05-18
【審査請求日】2023-08-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000128784
【氏名又は名称】株式会社オハラ
(74)【代理人】
【識別番号】100137589
【弁理士】
【氏名又は名称】右田 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100160864
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 政治
(74)【代理人】
【識別番号】100158698
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 基樹
(72)【発明者】
【氏名】小栗 史裕
【審査官】三村 潤一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-063887(JP,A)
【文献】特開2018-108920(JP,A)
【文献】特開2013-126935(JP,A)
【文献】特開2014-214082(JP,A)
【文献】特開2013-107810(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 1/00 - 14/00
G02B 1/00 - 1/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カチオン%(モル%)表示で、
La3+、Gd3+、Y3+、Yb3+及びLu3+からなる群から選択される1種以上(Ln3+:カチオン%)を合計で25.0%以上45.0%以下(式中、LnはLa、Gd、Y、Yb及びLuからなる群より選択される1種以上である)、
Al3+を5.0~20.0%、
Si 4+ を5.0%~22.0%
含有し、
カチオン成分の含有率の和(Ti4++Nb5++W6++Bi3++Zr4+)が1.2%以下であり、
アニオン%(モル%)表示で、
-の含有率が10.0~35.0%
であり、
アッベ数(ν)が50.00以上62.00以下であり、
屈折率(n)及びアッベ数(ν)が、(-0.04×ν+3.76)≦n≦(-0.04×ν+4.00)の関係を満たす光学ガラス。
【請求項2】
3+ 25.0%~55.0%含有する、請求項1記載の光学ガラス。
【請求項3】
Li+、Na+及びK+からなる群から選択される1種以上(Rn+:カチオン%)の合計含有率が10.0%以下である、請求項1又は2のいずれか記載の光学ガラス(式中、RnはLi、Na及びKからなる群より選択される1種以上である)。
【請求項4】
Mg2+、Ca2+、Sr2+及びBa2+からなる群から選ばれる1種以上(R2+:カチオン%)の合計含有率が10.0%以下である、請求項1から3のいずれか記載の光学ガラス(式中、RはMg、Ca、Sr及びBaからなる群より選択される1種以上である)。
【請求項5】
粉末法による耐酸性が1~3級である、請求項1から4のいずれか記載の光学ガラス。
【請求項6】
請求項1から5いずれか記載の光学ガラスからなる研磨加工用及び/又は精密プレス成形用のプリフォーム。
【請求項7】
請求項1から5のいずれか記載の光学ガラスからなる光学素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学ガラス、プリフォーム及び光学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
光学ガラスからなるレンズは、光学特性の異なる複数のレンズを組み合わせることにより色収差を補正しつつ軽量化及び小型化を図ることを可能にし、デジタルカメラやビデオカメラ等の撮影機器や、プロジェクタやプロジェクションテレビ等の画像再生(投影)機器等の各種光学機器の分野で用いることができる。
【0003】
光学ガラスの光学特性には、一定の傾向がある。横軸にアッベ数ν(左方から右方へ行くにつれてアッベ数νが減少)、縦軸に屈折率n(下方から上方にいくにつれて屈折率nが増加)が記載された光学特性を示すグラフでは、左下から右上にむかって従来のガラスが分布しており、その分布から外れた左上(高屈折率低分散ガラス)または右下(低屈折率高分散ガラス)の光学特性を有するガラスを得ようとするとガラスの安定性が損なわれガラス化が容易ではなくなる。
【0004】
また、光学ガラスはデジタルカメラ、プロジェクタ、及び監視カメラに加え、自動運転技術が進む中で車載カメラに搭載する撮像レンズ等の光学素子としての用途が増えている。車載カメラの中でも例えば屋外で用いられる用途において、外気に触れる前玉レンズは耐酸性が優れていることが必要となり、耐酸性が良好となることでレンズ表面の腐食によるクモリが発生し難く、長期的に使用が可能となる。
特許文献1には、耐酸性が良好な光学ガラスについて記載されており、特許文献2には高屈折率低分散ガラスが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】WO2017/175552号公報
【文献】特開2016-155745号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載されたガラスは耐酸性の良いガラスを得るという点に着目しているものの、高屈折率高分散成分であるTi4+、Nb5+、W6+、Bi3+、Zr4+の含有率が多いため、アッベ数が小さい問題があった。また、特許文献2に記載されたガラスは高屈折率低分散ガラスではあるものの、耐酸性が良好であるとはいえなかった。
【0007】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、所望の屈折率及びアッベ数を有しながら、高い耐酸性と安定性に優れた光学ガラスと、これを用いたプリフォーム及び光学素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するために、鋭意試験研究を重ねた結果、La3+、Gd3+、Y3+、Yb3+及びLu3+からなる群から選択される1種以上と、Al3+、Fとを併用しながらも、カチオン成分の含有率の和(Ti4++Nb5++W6++Bi3++Zr4+)を調整することによって、ガラスにおいて高屈折率及び低分散化が図られながらも、耐酸性の高いガラスが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
具体的には、本発明は以下のようなものを提供する。
【0009】
(1) カチオン%(モル%)表示で、
La3+、Gd3+、Y3+、Yb3+及びLu3+からなる群から選択される1種以上(Ln3+:カチオン%)を合計で25.0%以上45.0%以下(式中、LnはLa、Gd、Y、Yb及びLuからなる群より選択される1種以上である)、
Al3+を5.0~20.0%、
含有し、
カチオン成分の含有率の和(Ti4++Nb5++W6++Bi3++Zr4+)が8.0%以下であり、
アニオン%(モル%)表示で、
の含有率が10.0~35.0%、
であり、
アッベ数(ν)が50.00以上62.00以下であり、
屈折率(n)及びアッベ数(ν)が、(-0.04×ν+3.76)≦n≦(-0.04×ν+4.00)の関係を満たす光学ガラス。
【0010】
(2) Si4+ 1.0%~22.0%、
3+ 25.0%~55.0%、
含有する、(1)記載の光学ガラス。
【0011】
(3) Li、Na及びKからなる群から選択される1種以上(Rn:カチオン%)の合計含有率が10.0%以下である、(1)又は(2)のいずれか記載の光学ガラス(式中、RnはLi、Na及びKからなる群より選択される1種以上である)。
【0012】
(4) Mg2+、Ca2+、Sr2+及びBa2+からなる群から選ばれる1種以上(R2+:カチオン%)の合計含有率が10.0%以下である、(1)から(3)のいずれか記載の光学ガラス(式中、RはMg、Ca、Sr及びBaからなる群より選択される1種以上である)
【0013】
(5) 粉末法による耐酸性が1~3級である、(1)から(4)のいずれか記載の光学ガラス。
【0014】
(6) (1)から(5)いずれか記載の光学ガラスからなる研磨加工用及び/又は精密プレス成形用のプリフォーム。
【0015】
(7) (1)から(5)のいずれか記載の光学ガラスからなる光学素子。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、所望の高屈折率低分散性を有しながら、高い耐酸性と安定性に優れた光学ガラスと、これを用いたプリフォーム及び光学素子を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本願の実施例のガラスについての屈折率(n)とアッベ数(ν)の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の光学ガラスは、カチオン%(モル%)表示で、La3+、Gd3+、Y3+、Yb3+及びLu3+からなる群から選択される1種以上(Ln3+:カチオン%)を合計で25.0%以上45.0%以下(式中、LnはLa、Gd、Y、Yb及びLuからなる群より選択される1種以上である)、Al3+を5.0~20.0%、含有し、カチオン成分の含有率の和(Ti4++Nb5++W6++Bi3++Zr4+)が8.0%以下であり、アニオン%(モル%)表示で、Fの含有率が10.0~35.0%、であり、アッベ数(ν)が50.00以上62.00以下であり、屈折率(n)及びアッベ数(ν)が、(-0.04×ν+3.76)≦n≦(-0.04×ν+4.00)の関係を満たす。
La3+、Gd3+、Y3+、Yb3+及びLu3+からなる群から選択される1種以上と、Al3+、Fとを併用しながらも、カチオン成分の含有率の和(Ti4++Nb5++W6++Bi3++Zr4+)を調整するとともに、各成分の含有量を調整することによって、高屈折率低分散性が図られながらも、耐酸性が高められた光学ガラスと、これを用いたプリフォーム及び光学素子を提供できる。
【0019】
以下、本発明の光学ガラスの実施形態について詳細に説明する。本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内で適宜変更を加えて実施することができる。なお、説明が重複する箇所について適宜説明を省略する場合があるが、発明の趣旨を限定するものではない。
【0020】
[ガラス成分]
本明細書中において、各成分の含有率は特に断りがない場合は、全てモル比に基づくカチオン%又はアニオン%で表示されるものとする。ここで、「カチオン%」及び「アニオン%」(以下、「カチオン%(モル%)」及び「アニオン%(モル%)」と表記することがある)は、本発明の光学ガラスのガラス構成成分をカチオン成分及びアニオン成分に分離し、それぞれにおいて合計割合を100モル%として、ガラス中に含有される各成分の含有率を表記した組成である。
なお、各成分のイオン価は便宜的に代表値を用いているに過ぎないため、他のイオン価のものと区別するものではない。光学ガラス中に存在する各成分のイオン価は、代表値以外である可能性がある。例えば、Bは、通常イオン価が3価の状態でガラス中に存在するので、本明細書中では「B3+」と表しているが、他のイオン価の状態で存在する可能性がある。このように、厳密には他のイオン価の状態で存在するものであっても、本明細書では、各成分が代表値のイオン価でガラス中に存在するものとして扱う。
【0021】
[カチオン成分について]
Si4+は、1.0%以上含有することで、ガラスの着色を低減でき、且つ耐失透性を高められる成分である。従って、Si4+の含有量は、好ましくは1.0%以上、より好ましくは2.0%以上、さらに好ましくは3.0%以上、さらに好ましくは4.0%以上、さらに好ましくは5.0%以上とする。
他方で、Si4+の含有量を22.0%以下にすることで、Si4+を熔融ガラス中に熔解し易くし、高温での熔解を回避することができる。Si4+の含有量は、好ましくは22.0%以下、より好ましくは20.0%以下、さらに好ましくは18.0%以下、さらに好ましくは16.0%以下、さらに好ましくは14.0%以下、最も好ましくは12.0%以下とする。
【0022】
3+は、25.0%以上含有することで、ガラス内部で網目構造を形成し、安定なガラス形成を促して耐失透性を高められ、且つアッベ数を大きくできる成分である。従って、B3+の含有量は、好ましくは25.0%以上、より好ましくは28.0%以上、さらに好ましくは32.0%以上、さらに好ましくは34.0%以上を下限とする。
他方で、B3+の含有量を55.0%以下にすることで、屈折率の低下を抑えられ、且つ耐酸性の悪化を抑えられる。従って、B3+の含有量は、好ましくは55.0%以下、より好ましくは52.0%以下、さらに好ましくは49.0%以下、さらに好ましくは47.0%以下を上限とする。
【0023】
La3+は、13.0%以上含有することで、ガラスの屈折率及びアッベ数を高め、耐酸性が向上し、且つ可視光についての透過率を高められる成分である。従って、La3+の含有量は、好ましくは13.0%以上、より好ましくは16.0%以上、さらに好ましくは18.0%以上、さらに好ましくは20.0%以上、さらに好ましくは21.0%以上とする。
他方で、La3+の含有量を38.0%以下にすることで、ガラスを失透し難くでき、且つガラスの比重の増加を抑えられる。従って、La3+の含有量は、好ましくは38.0%以下、より好ましくは35.0%以下、さらに好ましくは32.0%以下、さらに好ましくは29.0%以下とする。
【0024】
Gd3+は、0%超含有する場合に、ガラスの屈折率及びアッベ数を高められる任意成分である。従って、Gd3+の含有量は、好ましくは0%超、より好ましくは0.3%以上、さらに好ましくは0.5%以上、さらに好ましくは0.8%以上としてもよい。
他方で、Gd3+の含有量を10.0%以下にすることで、ガラスの比重の上昇を抑え、且つ、失透を抑えられる。従って、Gd3+の含有量は好ましくは10.0%以下、より好ましくは8.0%以下、より好ましくは6.0%以下、さらに好ましくは4.0%以下とする。
【0025】
3+は、1.0%以上含有することで、ガラスの屈折率及びアッベ数を高められ、且つ、ガラスの比重を小さくできる成分である。従って、Y3+の含有量は、好ましくは1.0%以上、より好ましくは3.0%以上、さらに好ましくは5.0%以上、さらに好ましくは7.0%以上とする。
他方で、Y3+の含有量を23.0%以下にすることで、失透を抑え、ガラスの安定性を高められる。従って、Y3+の含有量は、好ましくは23.0%以下、より好ましくは20.0%以下、さらに好ましくは17.0%以下、さらに好ましくは15.0%以下とする。
【0026】
Yb3+及びLu3+は、一方又は両方を0%超含有する場合に、ガラスの屈折率及びアッベ数を高められる任意成分である。
他方で、Yb3+又はLu3+の含有量を10.0%以下にすることで、ガラスの安定性を高められる。特に、Yb3+の含有量を10.0%以下にすることで、ガラスの長波長側(波長1000nmの近傍)に吸収が生じ難くなるため、ガラスの赤外線に対する耐性を高められる。従って、Yb3+及びLu3+の各々の含有量は、好ましくは10.0%以下、より好ましくは5.0%以下、さらに好ましくは3.0%以下、さらに好ましくは1.0%未満とする。
【0027】
Al3+は、5.0%以上含有することで、安定なガラスを形成し易くしながら耐酸性を高められる成分である。従って、Al3+の含有量は、好ましくは5.0%以上、より好ましくは8.0%以上、さらに好ましくは10.0%以上とする。
他方で、Al3+の含有量を20.0%以下にすることで、屈折率の低下を抑制できる。従って、Al3+の含有量は、好ましくは20.0%以下、より好ましくは19.0%以下、さらに好ましくは17.0%以下とする。
【0028】
Ti4+、Nb5+、W6+及びBi3+は、少なくともいずれかを0%超含有する場合に、ガラスの屈折率及び分散を高められる任意成分である。
特に、Ti4+及びNb5+は、比重を小さくできる成分でもある。また、Bi3+は、ガラス転移点を低くできる成分でもある。
他方で、Ti4+、Nb5+、W6+又はBi3+の含有量を低減することで、アッベ数の低下を抑えられ、且つ可視短波長(500nm以下)の光線透過率の悪化を抑えられる。
従って、Ti4+、Nb5+、W6+及びBi3+の各々の含有量は、好ましくは5.0%以下、より好ましくは3.0%以下、さらに好ましくは1.0%以下、さらに好ましくは0.8%以下、最も好ましくは0.5%以下とする。
【0029】
Zr4+は、0%超含有する場合に、ガラスの屈折率を高める任意成分である。
他方で、Zr4+の含有量を5.0%以下にすることで、アッベ数の低下及び耐失透性の悪化を抑えられる。また、ガラス原料の高温での熔解を回避できるため、ガラスの製造コストを低減できる。従って、Zr4+の含有量は、好ましくは5.0%以下、より好ましくは3.0%以下、さらに好ましくは2.0%以下、さらに好ましくは1.0%未満、さらに好ましくは0.5%以下とする。
【0030】
Mg2+、Ca2+及びSr2+は、少なくともいずれかを0%超含有する場合に、ガラスの熔融性を改善して耐失透性を高める任意成分である。
他方で、Mg2+、Ca2+又はSr2+の含有量を低減することで、ガラスの屈折率の低下を抑え、耐酸性の悪化を抑制し、且つ失透を低減できる。
従って、Mg2+、Ca2+及びSr2+の各々の含有量は、好ましくは10.0%以下、より好ましくは5.0%未満、さらに好ましくは3.0%未満、さらに好ましくは1.0%未満とする。
【0031】
Ba2+は、0%超含有する場合に、ガラスの屈折率や耐失透性を高められ、且つ、ガラス原料の熔融性を高められる任意成分である。
他方で、Ba2+の含有量を10.0%以下にすることで、ガラスの屈折率を低下し難くし、耐酸性の悪化を抑制し、且つガラスの失透を低減することができる。従って、Ba2+の含有量は、好ましくは10.0%以下、より好ましくは5.0%未満、さらに好ましくは3.0%未満、さらに好ましくは2.5%未満とする。
【0032】
Zn2+は、0%超含有する場合に、ガラスの熔融性を改善でき、ガラス転移点を低くでき、且つ失透を低減できる任意成分である。
他方で、Zn2+の含有量を10.0%以下にすることで、屈折率の低下や失透を低減できる。また、耐酸性の悪化を抑制することができる。従って、Zn2+の含有量は、好ましくは10.0%以下、より好ましくは5.0%以下、さらに好ましくは3.0%以下、さらに好ましくは1.0%未満、さらに好ましくは0.5%以下とする。
【0033】
Li、Na及びKは、少なくともいずれかを0%超含有する場合に、ガラスの熔融性を改善できる任意成分である。特に、Kは、ガラスの部分分散比をより一層高める成分でもある。
他方で、Li、Na又はKの含有量を低減することで、耐酸性の悪化を抑えられ、且つ失透を低減できる。従って、Li、Na及びKのうち少なくともいずれかの含有量は、好ましくは10.0%以下、より好ましくは5.0%以下、さらに好ましくは3.0%以下、さらに好ましくは1.0%未満、さらに好ましくは0.5%以下とする。
【0034】
Ta5+は、0%超含有する場合に、ガラスの屈折率及び耐失透性を高める任意成分である。
他方で、Ta5+の含有量を7.0%以下にすることで、ガラスの部分分散比の低下を抑えられる。また、高価なTa5+の低減によるガラスの材料コストの上昇を抑えられ、且つ、高温での熔解を回避することでガラスの製造コストを低減できる。従って、Ta5+の含有量は、好ましくは7.0%、より好ましくは5.0%未満、さらに好ましくは3.0%未満、さらに好ましくは1.0%未満、さらに好ましくは0.5%以下、最も好ましくは含有しない。
【0035】
5+は、0%超含有する場合に、ガラスの液相温度を下げて耐失透性を向上できる任意成分である。
他方で、P5+の含有量を10.0%以下にすることで、ガラスの化学的耐久性、特に耐水性の低下を抑えられる。従って、P5+の含有量は、好ましくは10.0%以下、より好ましくは5.0%未満、さらに好ましくは3.0%未満、さらに好ましくは1.0%未満とする。
【0036】
Ge4+は、0%超含有する場合に、ガラスの屈折率を高め、耐失透性を向上できる任意成分である。
他方で、Ge4+は原料価格が高いことから、その量が多いと材料コストが高くなるため、得られるガラスが実用的でなくなる。従って、Ge4+の含有量は、好ましくは10.0%以下、より好ましくは5.0%未満、さらに好ましくは3.0%未満、さらに好ましくは1.0%未満とする。
【0037】
Te4+は、0%超含有する場合に、屈折率を高め、ガラス転移点(Tg)を下げることが可能な任意成分である。
他方で、Te4+は白金製の坩堝や、熔融ガラスと接する部分が白金で形成されている熔融槽でガラス原料を熔融する際、白金と合金化しうる問題がある。従って、Te4+の含有量は、好ましくは10.0%以下、より好ましくは5.0%未満、さらに好ましくは3.0%未満とする。
【0038】
Sn4+は、0%超含有する場合に、熔融ガラスの酸化を低減して熔融ガラスを清澄でき、且つガラスの光線透過率を悪化し難くできる任意成分である。
他方で、Sn4+の含有量を5.0%以下にすることで、熔融ガラスの還元によるガラスの着色や、ガラスの失透を生じ難くできる。また、Sn4+と熔解設備(特にPt等の貴金属)との合金化が低減されるため、熔解設備の長寿命化を図れる。従って、Sn4+の含有量は、好ましくは5.0%以下、より好ましくは3.0%未満、さらに好ましくは1.0%未満、さらに好ましくは0.5%未満とする。
【0039】
Sb3+は、0%超含有する場合に、熔融ガラスを脱泡できる任意成分である。
他方で、Sb3+の含有量を1.0%以下にすることで、過度の発泡を生じ難くでき、且つ、熔解設備(特にPt等の貴金属)との合金化を低減できる。従って、Sb3+の含有量は、好ましくは1.0%以下、より好ましくは0.5%未満、さらに好ましくは0.3%未満、さらに好ましくは0.1%未満とする。
【0040】
なお、ガラスを清澄し脱泡する成分は、上記のSb3+に限定されるものではなく、ガラス製造の分野における公知の清澄剤、脱泡剤或いはそれらの組み合わせを用いることができる。
【0041】
[アニオン成分について]
は、ガラスの熔融性及び耐失透性を高められ、ガラスの脱泡を促進する性質を有する。特に、本発明は耐酸性を向上させるために希土類を多量に含有することを特徴とするが、一方で希土類は含有率が多いとガラスの熔融性悪化と耐失透性が悪化するため、Fの含有率を調整することによって耐酸性を向上させながら熔融性、耐失透性を維持することができる。そのため、Fの含有率は、好ましくは10.0%以上、より好ましくは14.0%以上、さらに好ましくは16.0%以上、さらに好ましくは18.0%以上とする。
他方で、Fは、含有率が多いと、ガラスのアッベ数を過剰に高め、屈折率を低下させる。また、ガラスへの脈理の発生や比重を大きくする性質を有する。そのため、Fの含有率は、好ましくは35.0%以下、より好ましくは33.0%以下、さらに好ましくは28.0%以下、さらに好ましくは25.0%以下とする。
【0042】
2-は、ガラスの失透を抑制し、磨耗度の大きさを抑制する性質を有する。そのため、O2-の含有率は、好ましくは65.0%以上、より好ましくは68.0%以上、さらに好ましくは72.0%以上、さらに好ましくは75.0%以上とする。
他方で、他のアニオン成分による効果を得易くするため、O2-の含有率は、好ましくは89.0%以下、より好ましくは86.0%以下、さらに好ましくは84.0%以下、さらに好ましくは80.0%以下とする。
【0043】
また、ガラスの失透を抑制する観点から、O2-の含有率とFの含有率の合計は、好ましくは98.0%、より好ましくは99.0%を下限とし、さらに好ましくは100%とする。すなわち、O2-とF以外のアニオン成分、例えばClやBr、Iからなる群から選択される1種以上の含有量の合計は、好ましくは2.0%、より好ましくは1.0%を上限とし、最も好ましくは実質的に含有しない。
【0044】
[各成分の含有量の関係について]
Li、Na及びKからなる群から選択される1種以上(Rn:カチオン%)の合計含有量は、10.0%以下であることが好ましい。これにより、ガラスの屈折率の低下を抑え、且つガラスの安定性を高めて失透を低減できる。従って、Rnの合計含有量は、好ましくは10.0%以下、より好ましくは7.5%以下、さらに好ましくは5.0%以下、さらに好ましくは3.0%以下、さらに好ましくは1.0%未満とする。
【0045】
Mg2+、Ca2+、Sr2+及びBa2+からなる群から選ばれる1種以上(R2+:カチオン%)の合計含有量は、10.0%以下であることが好ましい。これにより、R2+の過剰な含有による失透を低減でき、且つ屈折率の低下を抑えられる。従って、R2+の合計含有量は、好ましくは10.0%以下、より好ましくは5.0%以下、さらに好ましくは3.0%以下、さらに好ましくは2.0%以下とする。
【0046】
La3+、Gd3+、Y3+、Yb3+及びLu3+からなる群から選択される1種以上(Ln3+:カチオン%)の合計含有量は、25.0%以上45.0%以下であることが好ましい。
特に、この質量和を25.0%以上にすることで、ガラスの屈折率を高められるため、耐酸性を高めることができる。従って、Ln3+の合計含有量は、好ましくは25.0%以上、より好ましくは27.0%以上、さらに好ましくは30.0%以上、さらに好ましくは32.0%以上を下限とする。
他方で、この質量和を45.0%以下にすることで、耐失透性を高められる。従って、Ln3+の合計含有量は、好ましくは45.0%以下、より好ましくは42.0%以下、さらに好ましくは40.0%以下とする。
【0047】
カチオン成分の含有率の和(Ti4++Nb5++W6++Bi3++Zr4+)は、8.0%以下が好ましい。Ti4+、Nb5+、W6+、Bi3+、Zr4+成分は、屈折率を高めるがアッベ数を低下させてしまう成分でもあるが、カチオン成分の含有率の和(Ti4++Nb5++W6++Bi3++Zr4+)を8.0%以下にすることによって、所望の低分散を有する光学ガラスを得ることができる。従って、カチオン成分の含有率の和(Ti4++Nb5++W6++Bi3++Zr4+)は、好ましくは8.0%以下、より好ましくは6.0%以下、さらに好ましくは4.0%以下、さらに好ましくは2.5%以下、さらに好ましくは2.0%以下、さらに好ましくは1.2%以下、さらに好ましくは1.0%以下、さらに好ましくは0.6%以下、さらに好ましくは0.3%以下とする。
【0048】
カチオン成分の含有率の比Al3+/(Si4++B3+)は、0.10以上0.60以下であることが好ましい。これにより、ガラスの安定性を高めながら耐酸性を高めることができる。従って、カチオン成分の含有率の比Al3+/(Si4++B3+)は、好ましくは0.10以上、より好ましくは0.12以上、さらに好ましくは0.15以上、さらに好ましくは0.18以上、さらに好ましくは0.20以上とする。
他方で、カチオン成分の含有率の比Al3+/(Si4++B3+)は、好ましくは0.60以下、より好ましくは0.55以下、さらに好ましくは0.50以下、さらに好ましくは0.45以下、さらに好ましくは0.40以下とする。
【0049】
<その他の成分について>
本発明の光学ガラスには、他の成分を本願発明のガラスの特性を損なわない範囲で必要に応じ、添加できる。
【0050】
<含有すべきでない成分について>
次に、本発明の光学ガラスに含有すべきでない成分、及び含有することが好ましくない成分について説明する。
【0051】
また、Ti、Zr、Nb、W、La、Gd、Y、Yb、Luを除く各遷移金属成分、例えばHf、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Ag、Mo、Ce、Nd等のカチオンは、それぞれを単独又は複合して少量含有した場合でもガラスが着色し、可視域の特定の波長に吸収を生じる性質があるため、特に可視領域の波長を使用する光学ガラスにおいては、実質的に含まないことが好ましい。
【0052】
Pb、As、Th、Cd、Tl、Os、Be、及びSeのカチオンは、近年有害な化学物質として使用を控える傾向にあり、ガラスの製造工程のみならず、加工工程、及び製品化後の処分に至るまで環境対策上の措置が必要とされる。また、S(硫黄)のカチオンも、有害な化学物質(SO等)を生成しうる。従って、環境上の影響を重視する場合には、これらのうち1種以上のカチオンの含有量を、好ましくは1.0%未満、より好ましくは0.5%未満とし、最も好ましくは、これらのうち1種以上を実質的に含有しない。
【0053】
なお、本明細書における「実質的に含有しない」とは、好ましくは含有量を0.1%未満にすることであり、より好ましくは不可避不純物として含まれるものを除いて含有しないことである。ここで、不可避不純物として含まれる当該カチオンの含有量は、例えば0.1%未満や0.01%未満とすることができる。
【0054】
[製造方法]
本発明の光学ガラスは、例えば以下のように作製される。すなわち、上記原料を各成分が所定の含有量の範囲内になるように均一に混合し、作製した混合物を白金坩堝、石英坩堝又はアルミナ坩堝に投入して粗熔融した後、金坩堝、白金坩堝、白金合金坩堝又はイリジウム坩堝に入れて900~1400℃の温度範囲で1~5時間熔融し、攪拌均質化して泡切れ等を行った後、1200℃以下の温度に下げてから仕上げ攪拌を行うことで脈理を除去し、成形型に鋳込んで徐冷することにより作製される。ここで、成形型を用いて成形されたガラスを得る手段としては、熔融ガラスを成形型の一端に流下するのと同時に、成形型の他端側から成形されたガラスを引き出す手段や、熔融ガラスを金型に鋳込んで徐冷する手段が挙げられる。
【0055】
[物性]
本発明の光学ガラスは、高屈折率及び低分散(高アッベ数)を有する。
特に、本発明の光学ガラスの屈折率(n)は、好ましくは1.70000以上、より好ましくは1.70500以上、さらに好ましくは1.71000以上を下限とする。他方で、この屈折率(n)は、好ましくは1.78000以下、より好ましくは1.76000以下、さらに好ましくは1.75000以下を上限とする。また、本発明の光学ガラスのアッベ数(ν)は、好ましくは50.00以上、より好ましくは51.00以上、さらに好ましくは52.00以上、さらに好ましくは53.00以上を下限とする。他方で、このアッベ数(ν)は、好ましくは62.00以下、より好ましくは60.00以下、さらに好ましくは58.00以下、さらに好ましくは56.00以下を上限とする。
本発明の光学ガラスは、このような屈折率及びアッベ数を有するため、光学設計上有用であり、光学設計の自由度を広げることができる。
【0056】
本発明の光学ガラスは、屈折率(n)及びアッベ数(ν)が、(-0.04×ν+3.76)≦n≦(-0.04×ν+4.00)の関係を満たすことが好ましい。本発明で特定される組成のガラスでは、屈折率(n)及びアッベ数(ν)がこの関係を満たすものについて、安定的なガラスを得られる。従って、本発明の光学ガラスでは、屈折率(n)及びアッベ数(ν)が、(-0.04×ν+3.76)≦nの関係を満たすことが好ましく、(-0.04×ν+3.78)≦nの関係を満たすことがより好ましく、(-0.04×ν+3.80)≦nの関係を満たすことがさらに好ましい。
他方で、本発明の光学ガラスでは、屈折率(n)及びアッベ数(ν)が、n≦(-0.04×ν+4.00)の関係を満たすことが好ましく、n≦(-0.04×ν+3.98)の関係を満たすことがより好ましく、n≦(-0.04×ν+3.96)の関係を満たすことがさらに好ましい。
【0057】
本発明の光学ガラスは、高い耐酸性を有することが好ましい。特に、JOGIS06-2009に準じたガラスの粉末法による耐酸性は、1~3級であることが好ましい。
これにより、光学ガラスの加工性が改善するほか車載用途等で使用する際に、酸性雨等によるガラスの曇りが低減されるため、ガラスからの光学素子の作製をより行い易くできる。
【0058】
ここで「耐酸性」とは、酸によるガラスの侵食に対する耐久性であり、この耐酸性は、日本光学硝子工業会規格「光学ガラスの化学的耐久性の測定方法」JOGIS06-1999により測定することができる。また、「粉末法による化学的耐久性(耐酸性)が1~3級である」とは、JOGIS06-2009に準じて行った化学的耐久性(耐酸性)が、測定前後の試料の質量の減量率で、0.65質量%未満であることを意味する。
なお、化学的耐久性(耐酸性)の「1級」は、測定前後の試料の質量の減量率が0.20質量%未満であり、「2級」は、測定前後の試料の質量の減量率が0.20質量%以上0.35質量%未満であり、「3級」は、測定前後の試料の質量の減量率が0.35質量%以上0.65質量%未満であり、「4級」は、測定前後の試料の質量の減量率が0.65質量%以上1.20質量%未満であり、「5級」は、測定前後の試料の質量の減量率が1.20質量%以上2.20質量%未満であり、「6級」は、測定前後の試料の質量の減量率が2.20質量%以上である。
【0059】
本発明の光学ガラスは、耐失透性が高いこと、より具体的には低い液相温度を有することが好ましい。
すなわち、本発明の光学ガラスの液相温度は、好ましくは1150℃以下、より好ましくは1100℃以下、さらに好ましくは1050℃以下を上限とする。これにより、より低い温度で熔融ガラスを流出しても、作製されたガラスの結晶化が低減されるため、特に熔融状態からガラスを成形したときの失透を低減でき、ガラスを用いた光学素子の光学特性への影響を低減できる。また、ガラスの熔解温度を低くしてもガラスを成形できるため、ガラスの成形時に消費するエネルギーを抑えることで、ガラスの製造コストを低減できる。
【0060】
本発明の光学ガラスは、比重が小さいことが好ましい。特に、本発明の光学ガラスの比重は、好ましくは5.00以下、より好ましくは4.80以下、さらに好ましくは4.60以下を上限とする。
このような低比重の光学ガラスは光学設計上有用であり、特に光学系の軽量化を図ることができるため、光学設計の自由度を広げることができる。
【0061】
[プリフォーム及び光学素子]
作製された光学ガラスから、例えば研磨加工の手段、又は、リヒートプレス成形や精密プレス成形等のモールドプレス成形の手段を用いて、ガラス成形体を作製することができる。すなわち、光学ガラスに対して研削及び研磨等の機械加工を行ってガラス成形体を作製したり、光学ガラスから作製したプリフォームに対してリヒートプレス成形を行った後で研磨加工を行ってガラス成形体を作製したり、研磨加工を行って作製したプリフォームや、公知の浮上成形等により成形されたプリフォームに対して精密プレス成形を行ってガラス成形体を作製したりすることができる。なお、ガラス成形体を作製する手段は、これらの手段に限定されない。
【0062】
このように、本発明の光学ガラスは、様々な光学素子及び光学設計に有用である。その中でも特に、本発明の光学ガラスからプリフォームを形成し、このプリフォームを用いてリヒートプレス成形や精密プレス成形等を行い、レンズやプリズム等の光学素子を作製することが好ましい。これにより、径の大きなプリフォームの形成が可能になるため、光学素子の大型化を図りながらも、光学機器に用いたときに高精細で高精度な結像特性及び投影特性を実現できる。
【0063】
本発明の光学ガラスからなるガラス成形体は、例えばレンズ、プリズム、ミラー等の光学素子の用途に用いることができ、また車載カメラなどの車載用光学機器等の、化学的耐久性が良好であることが求められる用途に用いることができる。
【実施例
【0064】
本発明の実施例(No.1~No.17)及び比較例(No.A、B)のガラスの組成、並びに、これらのガラスの屈折率(n)、アッベ数(ν)、耐酸性の等級、液相温度及び比重の値を表1、2に示す。ここで、表に記載のない成分や、表のガラス組成において空欄となっている成分については、該当する成分の原料をガラス原料に含めていないが、得られるガラスには、不可避不純物に由来して少量の当該成分が含まれる場合がある。なお、以下の実施例はあくまで例示の目的であり、これらの実施例のみ限定されるものではない。
【0065】
実施例及び比較例のガラスは、いずれも各成分の原料として各々相当する酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、弗化物、メタ燐酸化合物等の通常の光学ガラスに使用される高純度原料を選定し、秤量して均一に混合した後、白金坩堝に投入し、1200~1300℃の温度範囲の電気炉で3~4時間にわたって、ガラス原料の熔解と、熔解したガラス原料への攪拌による泡切れを行った後、950~1050℃に温度を下げてから金型に鋳込み、徐冷してガラスを作製した。
【0066】
実施例及び比較例のガラスの屈折率(n)、アッベ数(ν)は、JIS B 7071-2:2018に規定されるVブロック法に準じて測定した。ここで、屈折率(n)は、ヘリウムランプのd線(587.56nm)に対する測定値で示した。また、アッベ数(ν)は、ヘリウムランプのd線に対する屈折率(n)と、水素ランプのF線(486.13nm)に対する屈折率(n)、C線(656.27nm)に対する屈折率(n)の値を用いて、アッベ数(ν)=[(n-1)/(n-n)]の式から算出した。これらの屈折率(n)、アッベ数(ν)は、徐冷降温速度を-25℃/hrにして得られたガラスについて測定を行うことで求めた。
【0067】
実施例のガラスの液相温度は、50mlの容量の白金製坩堝に30ccのカレット状のガラス試料を白金坩堝に入れてアルミナ製のフタをして、1200℃で完全に熔融状態にし、所定の温度まで降温して3時間保持し、炉外に取り出して冷却した後直ちにガラス表面及びガラス中の結晶の有無を観察し、結晶が認められない一番低い温度を表す。ここで降温する際の所定の温度は、1100℃までの20℃刻みの温度である。
【0068】
実施例及び比較例のガラスの比重は、日本光学硝子工業会規格JOGIS05-1975「光学ガラスの比重の測定方法」に基づいて測定した。
【0069】
【表1】
【0070】
【表2】
【0071】
表に示されるように、本発明の実施例の光学ガラスは、いずれもアッベ数(ν)が50.00以上であるとともに、このアッベ数(ν)は62.00以下であり、所望の範囲内であり、屈折率(n)及びアッベ数(ν)が、(-0.04×ν+3.76)≦n≦(-0.04×ν+4.00)の関係を満たしていた。
このため、本発明の実施例の光学ガラスは安定性が高く、光学設計上有用なガラスであることが明らかになった。
【0072】
また、本発明の実施例の光学ガラスは、いずれも耐酸性が1~3級であったが、比較例の光学ガラスは耐酸性が4級であった。
このため、本発明の実施例の光学ガラスはレンズ表面の腐食によるクモリが発生し難く、長期的に使用可能なガラスであることが明らかになった。
【0073】
また、本発明の実施例の光学ガラスは、いずれも液相温度が1150℃以下であった。
このため、本発明の実施例の光学ガラスは耐失透性が高いガラスであることが明らかになった。
【0074】
また、本発明の実施例の光学ガラスは、いずれも比重が5.00以下であった。そのため、本発明の実施例の光学ガラスは、光学素子や光学機器の軽量化に寄与することができることが推察される。
【0075】
さらに、本発明の実施例で得られた光学ガラスを用いて、リヒートプレス成形を行った後で研削及び研磨を行い、レンズ及びプリズムの形状に加工した。また、本発明の実施例の光学ガラスを用いて、精密プレス成形用プリフォームを形成し、この精密プレス成形用プリフォームを精密プレス成形加工した。いずれの場合も、加熱軟化後のガラスには乳白化及び失透等の問題は生じず、安定に様々なレンズ及びプリズムの形状に加工することができた。
【0076】
以上、本発明を例示の目的で詳細に説明したが、本実施例はあくまで例示の目的のみであって、本発明の思想及び範囲を逸脱することなく多くの改変を当業者により成し得ることが理解されよう。
図1