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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-08
(45)【発行日】2024-08-19
(54)【発明の名称】官能性フルオロポリマー
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/62 20060101AFI20240809BHJP
   C08F 214/22 20060101ALI20240809BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20240809BHJP
   H01M 4/131 20100101ALI20240809BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
C08F214/22
H01M4/13
H01M4/131
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2020555440
(86)(22)【出願日】2019-04-09
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-08-26
(86)【国際出願番号】 US2019026490
(87)【国際公開番号】W WO2019199752
(87)【国際公開日】2019-10-17
【審査請求日】2022-03-25
(31)【優先権主張番号】62/655,453
(32)【優先日】2018-04-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】500307340
【氏名又は名称】アーケマ・インコーポレイテッド
【住所又は居所原語表記】900 First Avenue,King of Prussia,Pennsylvania 19406 U.S.A.
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ジェームズ・ティー・ゴールドバッハ
(72)【発明者】
【氏名】ウエンシェン・ホー
(72)【発明者】
【氏名】アンドリュー・ピー・カーン
【審査官】中川 裕文
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第104725544(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第104725545(CN,A)
【文献】特許第6269890(JP,B1)
【文献】特開2002-249522(JP,A)
【文献】特開2000-200623(JP,A)
【文献】特表2016-514753(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0046746(US,A1)
【文献】特開昭55-054311(JP,A)
【文献】米国特許第04294675(US,A)
【文献】特開昭55-144003(JP,A)
【文献】特表2014-517129(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 6/00-246/00
C08K 3/00- 13/08
C08L 1/00-101/14
H01M 4/00- 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バインダーを含む電極であって、前記バインダーが、次式のハロゲン化モノマー単位(1)を含むフッ化ビニリデンコポリマーを含む、電極。
【化1】
(ここで、
1、R2及びR3は水素又はハロゲン(F、Cl、Br、I)であり、少なくとも1つはハロゲンであり;
4は水素、ヘキサフルオロプロピレンオキシドのフッ素化オリゴマー、アルカリ金属(リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム)、アンモニウム、アルキルアンモニウム又はアルキルアリールアンモニウムイオンである。)
【請求項2】
モノマー(1)を10.0重量%まで含む、請求項1に記載の電極。
【請求項3】
1がフッ素である、請求項1に記載の電極。
【請求項4】
1及びR2がフッ素である、請求項1に記載の電極。
【請求項5】
1、R2及びR3がフッ素である、請求項1に記載の電極。
【請求項6】
4が水素又はアルカリ金属、アンモニウム若しくはアルキルアンモニウムである、請求項3に記載の電極。
【請求項7】
1及びR2がフッ素であり且つR4が水素又はアルカリ金属、アンモニウム若しくはアルキルアンモニウムである、請求項1に記載の電極。
【請求項8】
1、R2及びR3がフッ素であり且つR4が水素又はアルカリ金属、アンモニウム若しくはアルキルアンモニウムである、請求項1に記載の電極。
【請求項9】
請求項1~のいずれかに記載の電極を製造するための配合物であって、
前記配合物が水又は溶剤中にある、配合物。
【請求項10】
前記溶剤がN-メチルピロリドン(NMP)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、トリエチルホスファイト(TEP)、アセトン、テトラヒドロフラン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MiBK)、酢酸エチル(EA)、酢酸ブチル(BA)、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)及びエチルメチルカーボネート(EMC)から選択される、請求項に記載の配合物。
【請求項11】
導電性炭素添加剤及びカソード活性物質粒子をさらに含、請求項9又は10に記載の配合物。
【請求項12】
導電性炭素添加剤及びアノード活性物質粒子をさらに含み、前記アノード活性物質粒子がグラファイト、ハードカーボン、ソフトカーボン、グラフェン、ケイ素、一酸化ケイ素(SiO)、スズ及びチタン酸リチウム(LTO)より成る群から選択される、請求項に記載の配合物。
【請求項13】
水性反応媒体中で請求項1に記載のバインダーを製造するための方法であって、
a)少なくとも1種の開始剤、安定剤、フッ化ビニリデン及びハロゲン化モノマー(1)を含む水性エマルションを形成させ;
b)前記フッ化ビニリデンと前記ハロゲン化モノマー(1)との共重合を撹拌しながら熱及び超大気圧下で開始させる:
ことを含み、
前記方法ではフルオロ界面活性剤が使用されず、重合は35~130℃の温度および2750~6900kPaの重合圧力で行われる、前記方法。
【請求項14】
前記水性反応媒体が追加的に少なくとも1種の緩衝剤を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記開始剤が過硫酸塩である、請求項13又は14に記載の方法。
【請求項16】
請求項1~のいずれかに記載の電極を含むバッテリー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素化ビニル系モノマーとハロゲン官能基を有する親水性(メタ)アクリル系コモノマーとを共重合させることによって得られた新規の直鎖状半結晶質官能性フルオロポリマーに関する。このコポリマー中には、最大10.0重量%の前記(メタ)アクリル系コモノマー単位が、2種のフルオロモノマー単位の中の単一モノマー単位として存在する。本発明はまた、前記フルオロモノマー/(メタ)アクリル系コポリマーを生成させるための方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
フルオロポリマーは従来から、低い表面エネルギー、化学的攻撃に対する高い耐性、耐エージング性、電気化学的安定性等の特別な特性を必要とする用途に用いられている。しかしながら、これらの有利な特性はまた、フルオロポリマーの取扱いを困難にし、それらの利用を制限する。例えば、フルオロポリマー上には官能基がないため、基材に付着したり、架橋を促進したり、後に化学的に変性するための部位を提供したり、水によって湿潤したり、親水性特徴を加えたりするのが難しい。それらの特性を増強させることができる改変された特性(官能基等)を有するフッ素化ポリマーに対する要望が存在する。
【0003】
しかしながら、重合しているポリマーの主鎖中に特にランダム態様で官能性モノマー単位を直接加えるのは、フッ素含有フリーラジカルの攻撃的な性質のせいで、困難である。官能基は、いくつかの手段によって、例えば官能性モノマーとフルオロモノマーとの直接共重合、及び後重合グラフトメカニズム等によって、加えられてきた。例えば、米国特許第7241817号明細書に記載されたように、ポリフッ化ビニリデンホモポリマー又はコポリマー上に無水マレイン酸をグラフトさせることによって、Arkema社(米国ペンシルベニア州)から入手可能なKYNAR(登録商標)ADX樹脂が製造される。さらに、国際公開WO2013/110740号及び米国特許第7351498号明細書には、モノマーグラフト又は共重合によるフルオロポリマーの官能化が記載されている。
【0004】
米国特許第5415958号明細書には、PVDFの主鎖にカルボニル基を導入することによって様々な基材に対するその付着性を改善するための、フッ化ビニリデンと不飽和二塩基酸モノエステル極性モノマーとの共重合が記載されている。
【0005】
米国特許第8337725号明細書には、フッ化ビニリデン次式の少なくとも1種の親水性(メタ)アクリル系モノマーとの共重合が開示されている。
【化1】
ここで、R1、R2、R3は同一であっても異なっていてもよく、独立して水素原子又はC1~C3炭化水素基であり、ROHは水素又は少なくとも1個のヒドロキシル基を含むC1~C5炭化水素部分である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】米国特許第7241817号明細書
【文献】国際公開WO2013/110740号
【文献】米国特許第7351498号明細書
【文献】米国特許第5415958号明細書
【文献】米国特許第8337725号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
フッ素化ポリマーの付着性能をさらに改善することへの要望が存在する。
【0008】
フッ素化ビニル系モノマーとハロゲン官能基を有する親水性(メタ)アクリル系コモノマーとを共重合させることによって、良好な機械的特性及び熱的特性を維持しながら、非官能性フルオロポリマーと比較して基材への付着性を改善することができる官能性フルオロポリマーが得られるという知見は、この技術分野には存在しなかった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、フッ素化ビニル系モノマーとハロゲン化モノマー(1)とを含むフッ素化コポリマーに関する。
【化2】
ここで、
1、R2及びR3は水素又はハロゲン(F、Cl、Br、I)であり、少なくとも1つはハロゲンであり;
4は水素、C1~C16直鎖状、分岐鎖状、アリール若しくは環状アルキル基、C1~C16フッ素化直鎖状、分岐鎖状、アリール若しくは環状アルキル基、ヘキサフルオロプロピレンオキシドのフッ素化オリゴマー又はアルカリ金属(リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム)、アンモニウム、アルキルアンモニウム若しくはアルキルアリールアンモニウムイオンである。
【0010】
本発明はさらに、溶剤中にフッ素化コポリマーを含む配合物に関し、導電性炭素添加剤及び活性物質粒子をさらに含んでいてもよい。リチウムイオンバッテリーカソード配合物用の活性物質には、限定されるわけではないが、以下のものが含まれる:リン酸鉄リチウム(LFP)、リチウムニッケルマンガンコバルト酸化物(NMC)、リチウム-マンガン-コバルト-酸化物(LCO)、リチウム-ニッケル-コバルト-アルミニウム酸化物(NCA)、リチウム-マンガン酸化物(LMO)、リチウム-ニッケル-マンガン酸化物(LNMO)、およびリン酸マンガン鉄リチウム(LMFP)。アノード配合物用の活性物質には、限定されるわけではないが、グラファイト、ハードカーボン、ソフトカーボン、グラフェン、ケイ素、一酸化ケイ素(SiO)、スズ又はチタン酸リチウム(LTO)が含まれる。
【0011】
本発明はさらに、水性反応媒体中でフッ素化コポリマーを製造するための方法であって、
a)少なくとも1種の開始剤、安定剤、少なくとも1種のフルオロモノマー及び前記のハロゲン化モノマー(1)を含む水性エマルションを形成させ;
b)前記少なくとも1種のフルオロモノマーと前記ハロゲン化モノマー(1)との共重合を撹拌しながら熱及び超大気圧下で開始させる:
ことを含む前記方法をも意図する。
【0012】
本発明はさらに、前記フッ素化コポリマーから形成させた物品であって、前記官能性コポリマーの特別な特性から利益を得るものに関する。これらの物品は、バッテリー又はコンデンサー(蓄電器)用の電極又はセパレーター;親水性多孔質膜又は中空繊維膜;少なくとも1つの面を前記官能性フルオロポリマーでコーティングされた物品、織及び不織繊維の含浸、並びにフルオロポリマー層と該フルオロポリマー層に対して不相溶性のポリマー層との間に前記官能性フルオロポリマーがタイ層を形成した多層構築物等の用途に有用である。
【0013】
「コポリマー」は、2種以上の異なるモノマー単位を有するポリマーを意味するために用いられる。「ポリマー」は、ホモポリマー及びコポリマーの両方を意味するために用いられる。ポリマーは、直鎖状、分岐鎖状、星形、櫛形、ブロック又は他の任意の構造であることができる。ポリマーは、コモノマー単位が均質、不均質又は勾配分布していてよい。引用するすべての文献は、参考用に本明細書に取り入れられる。本明細書で用いた時、別段の定めがない限り、百分率は重量%を意味する。別段の定めがない限り、分子量は、標準物質としてポリメチルメタクリレートを用いてGPCによって測定した重量平均分子量である。ポリマーが多少の架橋を含有していて不溶性ポリマー画分のせいでGPCを適用することができない場合には、可溶性画分/ゲル画分又はゲルから抽出した後の可溶性画分の分子量を用いる。結晶度及び融解温度は、ASTM法D3418に記載されたDSCによって10℃/分の加熱速度で測定される。溶融粘度は、ASTM法D3835に従って230℃で測定され、キロポアズ@100秒-1で表される。
【発明を実施するための形態】
【0014】
フルオロポリマー、特にポリ(フッ化ビニリデン)(PVDF)及びそのコポリマーは、リチウムイオンバッテリーに用いられる電極物品中のバインダーとしての用途を見出す。より高いエネルギー密度及びバッテリー性能に対する要求が高まるにつれて、電極中のバインダー含有量を減らす必要性が増してきている。バインダー含有量を減らすためには、バインダー材料の性能を向上させることが最も重要である。1つの鍵となるバインダー性能マトリックスは、付着性試験によって決定される。この試験によれば、配合された電極が剥離試験に付される。バインディング性能が改善されれば、全体的なバインダーの装填量を減らせる可能性が増し、活性物質の装填量を増やし、バッテリー容量及びエネルギー密度を高められる可能性が増す。フッ素化ビニル系モノマーと酸官能性コモノマーとのコポリマーは付着性能の向上をもたらすことが示されている。これらのアプローチには、反応生産性が低く、急速に成長している市場に十分な量の材料を供給するのが難しいという問題もある。ここで、本発明者らは、生産性が非常に改善された新規のコポリマー及び方法を提示する。
【0015】
官能性フルオロポリマーは、フルオロポリマーと比較して強化された特性、例えば高められた付着性及び親水性特徴を提供する。本発明のフルオロポリマーは、電極形成用組成物及びセパレーター組成物中のバインダーとしての用途を含めて、官能性フルオロポリマーから利益を得る用途又は親水性膜及び中空繊維の形成の用途に、用いることができる。
【0016】
本発明は、フッ素化ビニル系モノマー及びモノマー(1)を含むフッ素化コポリマーを提供することによって、上記の問題を解決する。
【化3】
ここで、
1、R2及びR3は水素又はハロゲン(F、Cl、Br、I)であり、少なくとも1つはハロゲンであり;
4は水素、C1~C16直鎖状、分岐鎖状、アリール若しくは環状アルキル基、C1~C16フッ素化直鎖状、分岐鎖状、アリール若しくは環状アルキル基、ヘキサフルオロプロピレンオキシドのフッ素化オリゴマー、アルカリ金属(リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム)、アンモニウム、アルキルアンモニウム又はアルキルアリールアンモニウムイオンである。
【0017】
フッ素化ビニル系モノマーは、以下のものを含む群から選択される:フッ化ビニリデン(VDF)、テトラフルオロエチレン(TFE)、トリフルオロエチレン(TrFE)、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、ヘキサフルオロプロペン(HFP)、フッ化ビニル(VF)、ヘキサフルオロイソブチレン(HFIB)、ペルフルオロブチルエチレン(PFBE)、ペンタフルオロプロペン、3,3,3-トリフルオロ-1-プロペン、2-トリフルオロメチル-3,3,3-トリフルオロプロペン、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン、フッ素化ビニルエーテル、例えばペルフルオロメチルエーテル(PMVE)、ペルフルオロエチルビニルエーテル(PEVE)、ペルフルオロプロピルビニルエーテル(PPVE)、ペルフルオロブチルビニルエーテル(PBVE)、長鎖アルキルペルフッ素化ビニルエーテル、フッ素化ジオキソール, C4及びそれ以上の部分又はペルフッ素化α-オレフィン、C3及びそれ以上の部分又はペルフッ素化環状アルケン、並びにそれらの組合せ。
【0018】
本発明に従う官能性コポリマーは、次の実施形態によってさらに特徴付けられる。
【0019】
1つの実施形態に従えば、前記フッ素化コポリマーは、モノマー(1)を10重量%まで、好ましくは0.001~10.0重量%含み、好ましくは0.01~10.0重量%のモノマー(1)及び90.0~99.99重量%のフッ素化ビニル系モノマーを含む。
【0020】
1つの実施形態に従えば、前記フッ素化コポリマーは、フッ化ビニリデンとモノマー(1)とを含む。
【0021】
1つの実施形態に従えば、前記フッ素化コポリマーは、フッ化ビニリデンと、R1がフッ素であるモノマー(1)とを含む。
【0022】
1つの実施形態に従えば、前記フッ素化コポリマーは、フッ化ビニリデンと、R1がフッ素であり且つR4がC1~C16直鎖状、分岐鎖状又は環状アルキル基であるモノマー(1)とを含む。
【0023】
1つの実施形態に従えば、前記フッ素化コポリマーは、フッ化ビニリデンと、R1及びR2がフッ素であり且つR4がC1~C16直鎖状、分岐鎖状又は環状アルキル基であるモノマー(1)とを含む。
【0024】
1つの実施形態に従えば、前記フッ素化コポリマーは、フッ化ビニリデンと、R1、R2及びR3がフッ素であり且つR4がC1~C16直鎖状、分岐鎖状又は環状アルキル基であるモノマー(1)とを含む。
【0025】
1つの実施形態に従えば、前記フッ素化コポリマーは、フッ化ビニリデンと、R1がフッ素であり且つR4が水素又はアルカリ金属、アンモニウム若しくはアルキルアンモニウムであるモノマー(1)とを含む。
【0026】
1つの実施形態に従えば、前記フッ素化コポリマーは、フッ化ビニリデンと、R1及びR2がフッ素であり且つR4が水素又はアルカリ金属、アンモニウム若しくはアルキルアンモニウムであるモノマー(1)とを含む。
【0027】
1つの実施形態に従えば、前記フッ素化コポリマーは、フッ化ビニリデンと、R1、R2及びR3がフッ素であり且つR4が水素又はアルカリ金属、アンモニウム若しくはアルキルアンモニウムであるモノマー(1)とを含む。
【0028】
1つの実施形態に従えば、モノマー(1)は、モノマー(1)の核磁気共鳴(19F-NMR及び1H-NMR)によって測定して、ランダム共重合されたものである。
【0029】
本発明はさらに、溶剤中にフッ素化コポリマーを含む配合物に関する。溶剤は、好ましくは以下のものから選択される:N-メチルピロリドン(NMP)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、トリエチルホスファイト(TEP)、アセトン、テトラヒドロフラン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MiBK)、酢酸エチル(EA)、酢酸ブチル(BA)、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)又はエチルメチルカーボネート(EMC)。
【0030】
1つの実施形態に従えば、前記配合物はさらに、導電性炭素添加剤及び活性物質粒子を前記溶剤中の懸濁液中に含む。かかる配合物は、バッテリー電極フィルム、特にリチウムイオンバッテリー用の正極(陽極)又は負極(陰極)を形成させるのに特に有用である。リチウムイオンバッテリーカソード配合物用の活性物質は、限定されるわけではないが、リン酸鉄リチウム(LFP)、リチウムニッケルマンガンコバルト酸化物(NMC)、リチウム-マンガン-コバルトー酸化物(LCO)、リチウム-ニッケル-コバルト-アルミニウムオキシド(NCA)、リチウム-マンガンオキシド(LMO)、リチウム-ニッケル-マンガン-オキシド(LNMO)及びリン酸マンガン鉄リチウム(LMFP)から選択することができる。アノード配合物用の活性物質は、グラファイト、ハードカーボン、ソフトカーボン、グラフェン、ケイ素、一酸化ケイ素(SiO)、スズ又はリチウムチタネート(LTO)から選択することができる。本発明は、本明細書に記載されたフッ素化コポリマーを含むバッテリーを包含する。
【0031】
本発明はさらに、水性反応媒体中でフッ素化コポリマーを調製するための方法をも意図するものであり、この方法は、
a)少なくとも1種の開始剤、安定剤、少なくとも1種のフッ素化ビニル系モノマー及び前記のハロゲン化モノマー(1)を含む水性エマルションを形成させ、
b)前記少なくとも1種のフッ素化ビニル系モノマーと前記ハロゲン化モノマー(1)との共重合を撹拌しながら熱及び超大気圧下で開始させる
ことを含む。
【0032】
本発明に従う重合反応は、反応器に水(好ましくは脱イオン水)、少なくとも1種のフッ素化ビニル系モノマー、少なくとも1種の前記ハロゲン化モノマー(1)並びに随意としての1種以上の界面活性剤、連鎖移動剤及び/又は防汚剤を装填することによって行うことができる。フルオロモノマーの導入前に反応器から空気をパージしておいてもよい。水は、反応器を所望の開始温度にする前に加えられるが、その他の物質は、反応器をその温度にする前に加えてもいいし、その後に加えてもよい。重合反応を開始させて維持するために、少なくとも1種のラジカル開始剤を加える。消費されたモノマーを補充するために、追加のビニル系フルオロモノマー及び/又は追加の官能性モノマー(モノマー1)を随意に加えてもよく、反応を維持して最終生成物の特性を調節するために、重合が進行する間にその他の物質を随意に加えてもよい。一般的な実施形態においては、反応圧を維持するためにすべてのモノマー成分を(互いに対して)調節された比で供給する。
【0033】
モノマー(1)
モノマー(1)の構造は、上に詳しく記載した。
【0034】
コモノマーのモノマー(1)は、全モノマーを基準として例えば約0.001~約15重量%、好ましくは約0.01~約15重量%の量で、反応器中に用いることができる。好ましくは、モノマー(1)は、全モノマーを基準として約0.001~約10重量%、好ましくは0.01~約10重量%の量で用いられる。様々な実施形態において、親水性モノマーの総量は、全モノマーを基準として少なくとも0.001、少なくとも0.01、少なくとも0.05、少なくとも0.1、少なくとも1.0又は少なくとも2.0重量%である。別の実施形態において、親水性モノマーの総量は、全モノマーを基準として13.0、10.0、9.0、7.0、6.0、5.0重量%を越えない。前記親水性(メタ)アクリル系コモノマー(モノマー(1))は、取扱いの便宜のために、水性溶液等の溶液状で用いることができる。
【0035】
1つの実施形態において、2種以上の異なる官能性アクリレートが高められた付着性を提供することが見出された。何らかの特定の理論に縛られるものではないが、異なる官能基、例えばアルコール官能基及び酸官能基が反応し又は架橋してエステル基を形成するものと思われる。2種以上の異なる官能基は、同じターポリマー中に存在させるのが好ましいが、2種以上の異なるコポリマーのブレンドであることもできる。
【0036】
界面活性剤
重合に用いる界面活性剤は、PVDF乳化重合において有用であることが当技術分野において周知の任意の界面活性剤であることができ、ペルフッ素化界面活性剤、部分フッ素化界面活性剤及び非フッ素化界面活性剤が含まれる。好ましい実施形態において、本開示のPVDFエマルションは、フルオロ界面活性剤を含まないものであることができ、重合のいずれの部分においてもフルオロ界面活性剤は何ら用いられない。PVDF重合において有用な非フッ素化界面活性剤は、イオン性及び非イオン性の両方であることができ、限定されるわけではないが、3-アリルオキシ-2-ヒドロキシ-1-プロパンスルホン酸塩、ポリビニルホスホン酸、ポリアクリル酸、ポリビニルスルホン酸及びそれらの塩、ポリエチレングリコール及び/又はポリプロピレングリコール並びにそれらのブロックコポリマー、アルキルホスホネート並びにシロキサン系界面活性剤が含まれる。
【0037】
界面活性剤はまた、ポリマーエマルションにさらなる安定性を提供するために、親水性(メタ)アクリル系コモノマーと組み合わせて用いることができる。好ましい界面活性剤は、非フッ素化炭化水素界面活性剤、シロキサン系界面活性剤又はそれらの組合せである。例えば、親水性(メタ)アクリル系コモノマーを、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(SDDBS)、オクチルスルホン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸アンモニウム又はラウレス硫酸ナトリウム他と組み合わせて用いることができる。本発明のある実施形態においては、水性エマルション中にフルオロ界面活性剤を何ら存在させず且つ/又はフッ素化ビニル系モノマーと親水性(メタ)アクリル系コモノマーとの共重合の際にフルオロ界面活性剤を何ら導入しない。1つの実施形態において、安定剤は高分子電解質である。別の実施形態において、ポリマーエマルションの安定剤は、官能化セルロースである。
【0038】
開始剤
用語「開始剤」並びに「ラジカル開始剤」及び「フリーラジカル開始剤」という表現は、自発的に又は熱若しくは光への曝露によって誘導されるフリーラジカル源を提供することができる化学物質を指す。好適な開始剤の例には、ペルオキシド、ペルオキシジカーボネート及びアゾ化合物がある。「開始剤」にはまた、フリーラジカル源を提供するのに有用なレドックス系も含まれる。用語「ラジカル」及び「フリーラジカル」という表現は、不対電子を少なくとも1個含有する化学種を指す。
【0039】
ラジカル開始剤は、重合反応を所望の反応速度で開始させて維持するのに十分な量で、反応混合物中に加えられる。添加順序は、所望のプロセス及びラテックスエマルションの特徴に応じて変えることができる。
【0040】
ラジカル開始剤は、過硫酸塩、例えば過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム又は過硫酸アンモニウムを含むことができる。反応混合物に加えられる過硫酸塩の量は、(反応混合物に加えられるモノマーの総重量を基準として)例えば約0.002~約1.0重量%であることができる。
【0041】
ラジカル開始剤は、有機ペルオキシド、例えばアルキル、ジアルキル若しくはジアシルペルオキシド、ペルオキシジカーボネート及びペルオキシエステル又はそれらの混合物を含むことができる。好ましいジアルキルペルオキシドは、ジ-t-ブチルペルオキシド(DTBP)であり、これは全モノマーに対して約0.01~約5重量%の量で反応混合物に加えることができ、全モノマーに対して約0.05~約2.5重量%の量で加えるのが好ましい。好ましいペルオキシジカーボネート開始剤は、ジ-n-プロピルペルオキシジカーボネート及びジイソプロピルペルオキシジカーボネートであり、これらは全モノマーに対して約0.5~約2.5重量%の量で反応混合物に加えることができる。ペルオキシエステル開始剤には、t-アミルペルオキシピバレート、t-ブチルペルオキシピバレート及びコハク酸ペルオキシドがある。
【0042】
ラジカル開始剤は、アゾ開始剤、例えば2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩等を含むことができる。
【0043】
ラジカル開始剤は、レドックス系を含むことができる。「レドックス系」とは、酸化剤、還元剤及び随意に電子移動媒体としての促進剤を含む系を意味する。酸化剤には、例えば、過硫酸塩;過酸化水素等の過酸化物;t-ブチルヒドロペルオキシド及びクメンヒドロペルオキシド等のヒドロペルオキシド;並びに例えば硫酸第二鉄等の酸化性金属塩が含まれる。還元剤には、例えば、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、アスコルビン酸、重亜硫酸塩、メタ重亜硫酸塩及び還元された金属塩が含まれる。促進剤は、レドックス系の成分であり、様々な酸化状態において、酸化剤及び還元剤の両方と反応することによって全体としての反応を促進することができるものである。促進剤には、例えば硫酸第一鉄等の遷移金属塩が含まれる。レドックス系において、酸化剤及び還元剤は、全モノマーに対して約0.01~約0.5重量%の量で用いることができる。随意としての促進剤は、全モノマーに対して約0.005~約0.025重量%の量で用いることができる。レドックス系は、G.S. Misra and U.D.N. Bajpai, Prog. Polym. Sci., 1982, 8(1-2), pp. 61-131に記載されている。
【0044】
連鎖移動剤
連鎖移動剤は、生成物の分子量を調節するために重合に加えられる。これらは、反応の初めに単一の場所で重合に加えることもでき、反応の間を通じて漸進的に又は連続的に重合に加えてもよい。連鎖移動剤の添加量及び添加方法は、用いる連鎖移動剤の活性及びポリマー生成物に望まれる分子量に依存する。重合反応に加えられる連鎖移動剤の量は、反応混合物に加えられるモノマーの総重量を基準として、好ましくは約0.05~約5重量%、より一層好ましくは約0.1~約2重量%である。
【0045】
アルコール類、カーボネート類、ケトン類、エステル類及びエーテル類等の酸素含有化合物は、連鎖移動剤としての働きをすることができる。連鎖移動剤として有用な酸素含有化合物の例には、米国特許第4360652号明細書に記載されたようなイソプロピルアルコールが含まれる。ハロゲン含有モノマーの重合において連鎖移動剤としての働きをすることができる別の類の化合物には、例えばクロロカーボン等のハロカーボン及びヒドロハロカーボンが含まれる。また、エタン及びプロパン等のアルカンも、連鎖移動剤として働くことができる。
【0046】
緩衝剤
重合反応混合物には、重合反応の間を通じて調節されたpHを維持するために、緩衝剤を随意に含有させることができる。生成物中における望ましくない発色を最小限に抑えるためには、pHを好ましくは約4~約8の範囲内に調節する。
【0047】
緩衝剤は、有機酸若しくは無機酸又はそれらのアルカリ金属塩、或は塩基又はかかる有機酸若しくは無機酸の塩であって、約4~約10、好ましくは約4.5~約9.5の範囲の少なくとも1つのpKa値及び/又はpKb値を有するものを含むことができる。本発明の実施に当たって好ましい緩衝剤には、例えば、リン酸塩緩衝剤及び酢酸塩緩衝剤が含まれる。「リン酸塩緩衝剤」は、リン酸の塩又は塩の混合物である。「酢酸塩緩衝剤」は、酢酸の塩である。
【0048】
ラジカル開始剤として過硫酸カリウムを用いた場合には、緩衝剤を用いるのが好ましい。過硫酸塩ラジカル開始剤と共に用いるための好ましい緩衝剤は、酢酸ナトリウムである。酢酸ナトリウム緩衝剤の好ましい量は、反応に加えられる過硫酸塩開始剤の重量を基準として約50重量%~約150重量%である。1つの好ましい実施形態において、開始剤供給物は、水溶液中に過硫酸カリウム及び酢酸ナトリウムをほぼ等しい重量で含む。
【0049】
防汚剤
パラフィンワックス又は炭化水素オイルは、反応に加えられると、防汚剤としての働きをして、反応器の部品にポリマーが付着するのを最小限に抑え又は防止する。任意の長鎖飽和炭化水素ワックス又はオイルがこの働きをすることができる。反応器に加えられるオイル又はワックスの量は、反応器の部品上にポリマー付着物が形成するのを最小限に抑える働きをする量である。この量は一般的に反応器の内部表面積に比例し、反応器内部表面積1cm2当たり約1~約40mgで変えることができる。パラフィンワックス又は炭化水素オイルの量は、反応器表面積1cm2当たり約5mgであるのが好ましい。
【0050】
共重合条件
重合のために採用される温度は、選択した開始剤系に依存して、例えば20~130℃で変えることができる。この重合温度は、好ましくは35~130℃、特に好ましくは70~125℃である。
【0051】
重合のために採用される圧力は、反応装置の容量、選択した開始剤系及びモノマーの選択に依存して、280~20000kPaで変えることができる。この重合圧力は、好ましくは2000~11000kPa、特に好ましくは2750~6900kPaである。
【0052】
重合は、かき混ぜ他の撹拌下で行われる。かき混ぜ/撹拌は一定であってもいいし、重合が進行する過程でプロセス条件を最適化するために変化させることもできる。1つの実施形態においては、反応を制御するために、複数の撹拌速度設定及び複数の温度設定の両方が採用される。
【0053】
本発明の方法の1つの実施形態に従えば、撹拌機及び熱制御手段を備えた加圧式重合反応器に、水、好ましくは脱イオン水、1種以上のハロゲン化モノマー(1)及び少なくとも1種のフッ素化ビニル系モノマーを装填する。この混合物には、1種以上の界面活性剤、緩衝剤、防汚剤又はポリマー生成物の分子量調節用の連鎖移動剤を随意に含有させてもよい。
【0054】
モノマー(群)を導入する前に、重合反応のための酸素不在環境を得るために、反応器から空気を取り除くのが好ましい。
【0055】
重合成分を添加する順序は変えることもできるが、一般的には、フッ素化ビニル系モノマーの重合を開始させる前に、水性反応媒体中にモノマー(1)の少なくとも一部を存在させるのが好ましい。反応の間に追加分のモノマー(1)を反応器に供給することができる。
【0056】
1つの実施形態においては、水、開始剤、モノマー(1)並びに随意としての界面活性剤、防汚剤、連鎖移動剤及び/又は緩衝剤を反応器に装填し、この反応器を所望の反応温度に加熱する。次いでこの反応器にフッ素化ビニル系モノマーを、好ましくは本質的に一定の圧力をもたらす速度で、供給する。
【0057】
別法として、フッ素化ビニル系モノマー、モノマー(1)及び開始剤を1種以上の随意成分とともに反応器に供給することができる。当技術分野において知られているようなフルオロポリマー共重合法についてのその他の変法も検討される。
【0058】
所望の重量のモノマーが反応器に供給されたら、モノマーの供給を停止する。随意に追加のラジカル開始剤を加え、適当な時間の間反応を放置して反応を完了させる。反応器内のモノマーが消費されるにつれて、圧力が低下する。
【0059】
共重合反応が完了したら、反応器を周囲温度にし、残留未反応モノマーを排気して大気圧にする。次いで、コポリマーを含有する水性反応媒体を、反応器からラテックスとして回収する。このラテックスは、反応成分の安定な混合物、即ち水、モノマー(1)、開始剤(及び/又は開始剤の分解生成物)並びにコポリマー固形分から成る。
【0060】
一般的に、前記ラテックスは約10~約50重量%のコポリマー固形分を含有する。ラテックス中のポリマーは、約30nm~約800nmの範囲のサイズを有する小粒子の形にあることができる。
【0061】
生成物の取扱い
共重合の生成物はラテックスであり、これは、通常は重合プロセスからの固体状副生成物を濾過した後に、その形で用いることができ、又は凝固させて固形分を単離させ、これを次いで洗浄して乾燥させることもできる。ラテックスの形での使用のためには、界面活性剤を加えることによってラテックスを安定化させることができ、この界面活性剤は、(用いた場合の)重合の際に存在させる界面活性剤と同一であっても異なっていてもよい。この後から加えられる界面活性剤は、例えばイオン性又は非イオン性界面活性剤であることができる。本発明の1つの実施形態において、ラテックス中にフルオロ界面活性剤は何ら加えられない。固体状生成物については、ラテックスを機械的に又は塩若しくは酸を加えることによって凝固させ、次いで濾過等のよく知られた手段によって単離することができる。ひとたび単離したら、固体状生成物を洗浄又は他の技術によって精製することができ、粉体として用いるために乾燥させることができ、これをさらに加工して顆粒やペレットにすることもできる。
【0062】
1つの実施形態において、本発明に従う官能性コポリマーは、水中のラテックスとして又は溶剤溶液として基材に適用され、溶剤は上に挙げたものから選択される。随意に、官能性コポリマーの層の前にプライマー層を基材に適用することもできる。
【0063】
1つの実施形態において、前記基材は多孔質のものであり、例えば多孔質膜である。
【実施例
【0064】
カソード配合及び製造
【0065】
実験室規模のための1つの例示的なカソードスラリー調製手順をここに説明する。まず最初に、本発明のPVDFコポリマーをN-メチルピロリドン(NMP)溶媒中に、一般的には5~10重量%の濃度で、溶解させる。このバインダー溶液に、導電性炭素添加剤、例えばTimcal社から入手したSuperP-Liを加え、遠心遊星ミキサーThinky AR-310を用いて2000rpmにおいて120秒間混合する。この混合を3回繰り返し、その合間に1分間の空冷を行う。導電性炭素がバインダー溶液中に分散されたら、この混合物にCelcore(登録商標)NMC622(Umicore)等の活性物質及び少量のNMPを加え、一般的には2000rpmにおいて60秒間混合して濃厚な均質ペーストを形成させる。次いでこのペーストにNMPを少量加え且つ60秒/2000rpmで混合してスラリーの固形分を徐々に減らし(NMP溶液添加ごとに約1.5%)、粘度を低下させる。この希釈工程を、スラリーの粘度がコーティングに適したレベル(一般的には3000~15000cP@1/秒の剪断速度)に達するまで、複数回繰り返す。本発明の実験室用カソードのための一般的な配合は、乾燥時基準で活性物質/炭素/PVDF=97/1.5/1.5(wt/wt/wt)である。
【0066】
次いで前記カソードスラリーを、自動式フィルム塗布機(Elcometer 4340)の調整可能なドクターブレードを用いて、アルミニウム箔上にキャストする(厚さ15μm)。次いで湿った状態のキャスト物を対流式オーブンに移して120℃において30分間乾燥させる。乾燥後に、ロールミル(IRM、International Rolling Mills社)を用いて電極カレンダー仕上げして、3.2~3.6g/cm3の最終密度、一般値3.4g/cm3、にする。乾燥カソードの一般的な面質量荷重は、180~220g/m2である。
【0067】
ASTM法D903に3つの変更点を加えた180℃剥離試験によって、カソードについての剥離強度を得た。第1の変更点は、用いた引張速度が50mm/分(25mm/分の剥離速度)だったことである。電極は製造の1日後に試験され、電極は紙製両面テープ(3M社、401M型)を用いて位置合わせプレートに接着させた。剥離した可撓性アルミニウム箔集電体が試験機グリップに貼り付く。
【0068】
取込み%についてのNMR分析:DMSO-d6中1重量%濃度のサンプル溶液を調製して、90℃に一晩加熱した。50℃においてBruker AV III HD 500(11.7 T)分光計に5mmのTXOプローブを取り付けたものを用いて1H及び19F実験を実施した。デカップル19Fスペクトルの-160ppm周辺に現れたピーク(真正ポリ(メチル2-フルオロアクリレート)に対してシフトされ分割されたもの)が、取り込まれたコモノマーの指標として採用され、全PVDFシグナルに対して積分された。
【0069】
例1:2ガロンのオートクレーブに、3500gの脱イオン水、9.2gの低分子量ポリ(アクリル酸)(BASF CP-10S)及び0.5gの2-フルオロアクリル酸メチル(MFA)を加えた。このオートクレーブを撹拌し、100℃に加熱し、フッ化ビニリデンで650psiに加圧した。2.0重量%過硫酸カリウム供給を2.0mL/分で開始した。圧力が降下し始めたら、MFAの追加供給を0.25mL/分で開始し、追加のVDF供給によって圧力を維持した。この方式で供給を継続しつつ、瞬間的なVDF供給需要を緩和するためにMFA供給速度を上昇させて、500~1500g/時間の範囲を維持した。この方式でMFA供給を1.0mL/分まで増やした。合計1650gのVDFが反応器に供給されるまで、すべての供給を続けた。これは69.6gのMFAに相当する。モノマー供給を停止し、圧力を自然に降下させるために10分間放置し、その時点で反応器を排気して大気圧にし、室温まで冷ました。ラテックスを反応器から排出させ、対流オーブン中で一晩乾燥させた。固形分31重量%のラテックス4993gが回収された。
【0070】
例2:2ガロンのオートクレーブに、3500gの脱イオン水、9.2gの低分子量ポリ(アクリル酸)溶液(BASF CP-10S)及び脱イオン水中5.25重量%溶液としての25mLの2-フルオロアクリル酸ナトリウム(SFA)を加えた。このオートクレーブを撹拌し、100℃に加熱し、フッ化ビニリデンで650psiに加圧した。2.0重量%過硫酸カリウム供給を2.0mL/分で開始した。圧力が降下し始めたら、SFAの追加供給を2.0mL/分で開始し、追加のVDF供給によって圧力を維持した。この方式で供給を継続しつつ、瞬間的なVDF供給需要を緩和するためにSFA供給速度を上昇させて、500~1500g/時間の範囲を維持した。この方式でSFA供給を10.0mL/分まで増やした。合計1650gのVDFが反応器に供給されるまで、すべての供給を続けた。これは12.45gのSFA固体に相当する。モノマー供給を停止し、圧力を自然に降下させるために10分間放置し、その時点で反応器を排気して大気圧にし、室温まで冷ました。ラテックスを反応器から排出させ、対流オーブン中で一晩乾燥させた。固形分31.8重量%のラテックス6046gが回収された。
【0071】
例3:83℃の反応温度を採用し、全VDFに対して合計1.15%のMFAを供給したことを除いて、例1に概説したものと同一の手順を用いた。固形分33.5重量%の流体状ラテックスが回収された。
【0072】
例4:83℃の反応温度を採用し、全VDFに対して合計2.30%のMFAを供給したことを除いて、例1に概説したものと同一の手順を用いた。固形分30.5重量%の流体状ラテックスが回収された。
【0073】
【表1】