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特許7535956データ提供条件設定支援方法及び装置、データ管理方法及び装置、データ提供条件設定支援プログラム及びデータ管理プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-08
(45)【発行日】2024-08-19
(54)【発明の名称】データ提供条件設定支援方法及び装置、データ管理方法及び装置、データ提供条件設定支援プログラム及びデータ管理プログラム
(51)【国際特許分類】
   G06Q 50/04 20120101AFI20240809BHJP
【FI】
G06Q50/04
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021007347
(22)【出願日】2021-01-20
(65)【公開番号】P2022111726
(43)【公開日】2022-08-01
【審査請求日】2023-07-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000149066
【氏名又は名称】オークマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078721
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 喜樹
(74)【代理人】
【識別番号】100121142
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 恭一
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 拓
【審査官】岩橋 龍太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-021214(JP,A)
【文献】特開2005-202291(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00-99/00
G05B 19/18-19/416
G05B 19/42-19/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被削物に対して工具を相対的に移動させることで加工を行う工作機械の稼働データを、データ提供者がデータ需要者に提供するに当たり、データ提供者による、提供する前記稼働データの条件である提供条件の設定をコンピュータにより支援する方法であって、
前記コンピュータは、
データ提供者による前記提供条件の設定を受け付ける提供条件設定ステップと、
前記提供条件と、データ需要者が予め設定するデータ要件と、を同時に満たす前記稼働データの量を利用可能データ量として算出する利用可能データ量算出ステップと、
前記利用可能データ量と、データ需要者が前記データ要件に対応付けて予め設定する前記利用可能データ量と前記稼働データの価値との対応関係と、に基づき、データ提供者が得られる対価を算出する対価算出ステップと、
データ提供者に対価を通知する対価通知ステップと、
を実行することを特徴とするデータ提供条件設定支援方法。
【請求項2】
前記提供条件設定ステップでは、少なくとも、連続して提供する時系列データにおける被削物に対して工具が相対的に移動する距離の上限である移動距離上限または前記移動距離上限を決定づけるパラメータの何れかの設定を前記提供条件として受け付け可能で、
前記データ要件には、データ需要者が利用可能なデータのデータ長の下限であるデータ長下限が含まれ、
前記利用可能データ量算出ステップでは、被削物に対する工具の相対的な位置または速度の情報に基づき、被削物に対して工具が相対的に移動する距離を算出し、被削物に対して工具が相対的に移動する距離が前記移動距離上限を超えないように分割する場合の各データ区間のデータ長を算出し、
各前記データ区間のデータ長と、前記データ長下限と、を用いて各前記データ区間に含まれる前記データ長下限のデータ長の数を、前記利用可能データ量として算出し、
前記対応関係は、前記利用可能データ量に対して前記稼働データの価値を算出する関数か、前記利用可能データ量に対して前記稼働データの価値が定義されるテーブルか、のいずれかであり、
前記対価算出ステップでは、全ての前記データ区間の前記利用可能データ量と、前記関数と前記テーブルとのいずれか一方と、を用いてデータ提供者が得られる対価を算出することを特徴とする請求項1に記載のデータ提供条件設定支援方法。
【請求項3】
前記提供条件設定ステップでは、前記移動距離上限または前記移動距離上限を決定づけるパラメータの何れかの設定を複数同時に受け付け可能で、
前記対価通知ステップでは、複数の前記移動距離上限または前記移動距離上限を決定づけるパラメータに対応する対価をまとめて通知することを特徴とする請求項2に記載のデータ提供条件設定支援方法。
【請求項4】
被削物に対して工具を相対的に移動させることで加工を行う工作機械の稼働データを、データ提供者がデータ需要者に提供するに当たり、コンピュータが管理する方法であって、
前記コンピュータは、
請求項1乃至3の何れかに記載のデータ提供条件設定支援方法で通知される対価に基づき、データ提供者による提供条件の確定を受け付ける提供条件確定ステップと、
確定された前記提供条件に基づきデータの抽出処理を実行するデータ抽出ステップと、
を実行することを特徴とするデータ管理方法。
【請求項5】
被削物に対して工具を相対的に移動させることで加工を行う工作機械の稼働データを、データ提供者がデータ需要者に提供するに当たり、データ提供者による、提供する前記稼働データの条件である提供条件の設定を支援する装置であって、
前記提供条件を設定する提供条件設定手段と、
前記提供条件と、データ需要者が予め設定するデータ要件と、を同時に満たす前記稼働データの量を利用可能データ量として算出する利用可能データ量算出手段と、
前記利用可能データ量と、データ需要者が前記データ要件に対応付けて予め設定する前記利用可能データ量と前記稼働データの価値との対応関係と、に基づき、データ提供者が得られる対価を算出する対価算出手段と、
データ提供者に対価を通知する対価通知手段と、
を備えることを特徴とするデータ提供条件設定支援装置。
【請求項6】
前記提供条件設定手段は、少なくとも、連続して提供する時系列データにおける被削物に対して工具が相対的に移動する距離の上限である移動距離上限または前記移動距離上限を決定づけるパラメータの何れかを設定し、
前記データ要件には、データ需要者が利用可能なデータのデータ長の下限であるデータ長下限が含まれ、
前記利用可能データ量算出手段は、被削物に対する工具の相対的な位置または速度の情報に基づき、被削物に対して工具が相対的に移動する距離を算出し、被削物に対して工具が相対的に移動する距離が前記移動距離上限を超えないように分割する場合の各データ区間のデータ長を算出し、
各前記データ区間のデータ長と、前記データ長下限と、を用いて各前記データ区間に含まれる前記データ長下限のデータ長の数を、前記利用可能データ量として算出し、
前記対応関係は、前記利用可能データ量に対して前記稼働データの価値を算出する関数か、前記利用可能データ量に対して前記稼働データの価値が定義されるテーブルか、のいずれかであり、
前記対価算出手段は、全ての前記データ区間の前記利用可能データ量と、前記関数と前記テーブルとのいずれか一方と、を用いてデータ提供者が得られる対価を算出することを特徴とする請求項5に記載のデータ提供条件設定支援装置。
【請求項7】
前記提供条件設定手段は、前記移動距離上限または前記移動距離上限を決定づけるパラメータの何れかを複数同時に設定でき、
前記対価通知手段は、複数の前記移動距離上限または前記移動距離上限を決定づけるパラメータに対応する対価をまとめて通知することを特徴とする請求項6に記載のデータ提供条件設定支援装置。
【請求項8】
被削物に対して工具を相対的に移動させることで加工を行う工作機械の稼働データを、データ提供者がデータ需要者に提供するに当たり、管理する装置であって、
請求項5乃至7の何れかに記載のデータ提供条件設定支援装置で通知される対価に基づき、データ提供者が提供条件を確定する提供条件確定手段と、
確定された前記提供条件に基づきデータの抽出処理を実行するデータ抽出手段と、
を備えることを特徴とするデータ管理装置。
【請求項9】
被削物に対して工具を相対的に移動させることで加工を行う工作機械の稼働データを、データ提供者がデータ需要者に提供するに当たり、データ提供者による、提供する前記稼働データの条件である提供条件の設定を支援するプログラムであって、
前記提供条件と、データ需要者が予め設定するデータ要件と、が共に入力されたコンピュータに、請求項1乃至3の何れかに記載のデータ提供条件設定支援方法を実行させることを特徴とするデータ提供条件設定支援プログラム。
【請求項10】
被削物に対して工具を相対的に移動させることで加工を行う工作機械の稼働データを、データ提供者がデータ需要者に提供するに当たり、管理するプログラムであって、
データ提供者が提供する前記稼働データの条件である提供条件と、データ需要者が予め設定するデータ要件と、が入力されたコンピュータに、請求項4に記載のデータ管理方法を実行させることを特徴とするデータ管理プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被削物に対して工具を相対的に移動させることで加工を行う工作機械等の稼働データを、データ提供者がデータ需要者に提供するに当たり、データ提供者による、提供する稼働データの条件である提供条件の設定を支援する方法及び装置と、提供される稼働データの管理方法及び装置と、稼働データの提供条件設定支援プログラム及び当該データの管理プログラムとに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に深層学習などの人工知能を用いた技術開発のためには膨大なデータを収集する必要がある。技術の開発者だけでは収集できるデータ量が限られるため、例えば工作機械に搭載する技術を開発する場合には、工作機械を使用するユーザから主軸や送り軸の速度や負荷、機械座標といったデータを提供してもらうことがある。
しかしながら、例えば金型加工を行うユーザの場合、被削物に対する工具の移動経路がわかると製品形状が再現できてしまうなど、秘密を含むデータが漏洩する可能性への不安があることから、データの提供者を多く集めることは難しいといった課題がある。
秘密を含むデータが漏洩することを防ぐために、特許文献1では、送信条件やフィルタ条件を設定し、送信データの選別または置換をすることで、秘密性を低下させる技術が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2020-21214号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、データは一度漏洩すると回収が困難であるという不安から、第三者へのデータ提供において過剰なまでの拒否反応を示されることも少なくない。データを第三者に提供する場合に特許文献1のような技術を適用すると、提供するデータを制限しないことによるメリットがデータ提供者にないため、提供するデータが必要以上に制限されて、データ需要者に利用価値のあるデータが残らないおそれがあるといった課題がある。
また、特許文献1では、短時間の情報のみを抽出するという秘密性を低下させる方法も適用可能とあるが、提供するデータから製品形状をどの程度再現できるかをデータ提供者が想像しにくいという課題がある。
【0005】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みなされたものであって、データ提供者がデータを提供する前に、提供するデータに含まれるワーク形状などの秘密情報を制限するような設定をする際に、データ需要者にとって利用価値のあるデータが残るような設定をすることをデータ提供者に促すことが可能なデータ提供条件設定支援方法及び装置、データ管理方法及び装置、データ提供条件設定支援プログラム及びデータ管理プログラムを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明のうち、第1の発明は、被削物に対して工具を相対的に移動させることで加工を行う工作機械の稼働データを、データ提供者がデータ需要者に提供するに当たり、データ提供者による、提供する前記稼働データの条件である提供条件の設定をコンピュータにより支援する方法であって、
前記コンピュータは、
データ提供者による前記提供条件の設定を受け付ける提供条件設定ステップと、
前記提供条件と、データ需要者が予め設定するデータ要件と、を同時に満たす前記稼働データの量を利用可能データ量として算出する利用可能データ量算出ステップと、
前記利用可能データ量と、データ需要者が前記データ要件に対応付けて予め設定する前記利用可能データ量と前記稼働データの価値との対応関係と、に基づき、データ提供者が得られる対価を算出する対価算出ステップと、
データ提供者に対価を通知する対価通知ステップと、を実行することを特徴とする。
第1の発明の別の態様は、上記構成において、前記提供条件設定ステップでは、少なくとも、連続して提供する時系列データにおける被削物に対して工具が相対的に移動する距離の上限である移動距離上限または前記移動距離上限を決定づけるパラメータの何れかの設定を前記提供条件として受け付け可能で、
前記データ要件には、データ需要者が利用可能なデータのデータ長の下限であるデータ長下限が含まれ、
前記利用可能データ量算出ステップでは、被削物に対する工具の相対的な位置または速度の情報に基づき、被削物に対して工具が相対的に移動する距離を算出し、被削物に対して工具が相対的に移動する距離が前記移動距離上限を超えないように分割する場合の各データ区間のデータ長を算出し、
各前記データ区間のデータ長と、前記データ長下限と、を用いて各前記データ区間に含まれる前記データ長下限のデータ長の数を、前記利用可能データ量として算出し、
前記対応関係は、前記利用可能データ量に対して前記稼働データの価値を算出する関数か、前記利用可能データ量に対して前記稼働データの価値が定義されるテーブルか、のいずれかであり、
前記対価算出ステップでは、全ての前記データ区間の前記利用可能データ量と、前記関数と前記テーブルとのいずれか一方と、を用いてデータ提供者が得られる対価を算出することを特徴とする。
第1の発明の別の態様は、上記構成において、前記提供条件設定ステップでは、前記移動距離上限または前記移動距離上限を決定づけるパラメータの何れかの設定を複数同時に受け付け可能で、
前記対価通知ステップでは、複数の前記移動距離上限または前記移動距離上限を決定づけるパラメータに対応する対価をまとめて通知することを特徴とする。
上記目的を達成するために、本発明のうち、第2の発明は、被削物に対して工具を相対的に移動させることで加工を行う工作機械の稼働データを、データ提供者がデータ需要者に提供するに当たり、コンピュータが管理する方法であって、
前記コンピュータは、
第1の発明の何れかのデータ提供条件設定支援方法で通知される対価に基づき、データ提供者による提供条件の確定を受け付ける提供条件確定ステップと、
確定された前記提供条件に基づきデータの抽出処理を実行するデータ抽出ステップと、を実行することを特徴とする。
上記目的を達成するために、本発明のうち、第3の発明は、被削物に対して工具を相対的に移動させることで加工を行う工作機械の稼働データを、データ提供者がデータ需要者に提供するに当たり、データ提供者による、提供する前記稼働データの条件である提供条件の設定を支援する装置であって、
前記提供条件を設定する提供条件設定手段と、
前記提供条件と、データ需要者が予め設定するデータ要件と、を同時に満たす前記稼働データの量を利用可能データ量として算出する利用可能データ量算出手段と、
前記利用可能データ量と、データ需要者が前記データ要件に対応付けて予め設定する前記利用可能データ量と前記稼働データの価値との対応関係と、に基づき、データ提供者が得られる対価を算出する対価算出手段と、
データ提供者に対価を通知する対価通知手段と、を備えることを特徴とする。
第3の発明の別の態様は、上記構成において、前記提供条件設定手段は、少なくとも、連続して提供する時系列データにおける被削物に対して工具が相対的に移動する距離の上限である移動距離上限または前記移動距離上限を決定づけるパラメータの何れかを設定し、
前記データ要件には、データ需要者が利用可能なデータのデータ長の下限であるデータ長下限が含まれ、
前記利用可能データ量算出手段は、被削物に対する工具の相対的な位置または速度の情報に基づき、被削物に対して工具が相対的に移動する距離を算出し、被削物に対して工具が相対的に移動する距離が前記移動距離上限を超えないように分割する場合の各データ区間のデータ長を算出し、
各前記データ区間のデータ長と、前記データ長下限と、を用いて各前記データ区間に含まれる前記データ長下限のデータ長の数を、前記利用可能データ量として算出し、
前記対応関係は、前記利用可能データ量に対して前記稼働データの価値を算出する関数か、前記利用可能データ量に対して前記稼働データの価値が定義されるテーブルか、のいずれかであり、
前記対価算出手段は、全ての前記データ区間の前記利用可能データ量と、前記関数と前記テーブルとのいずれか一方と、を用いてデータ提供者が得られる対価を算出することを特徴とする。
第3の発明の別の態様は、上記構成において、前記提供条件設定手段は、前記移動距離上限または前記移動距離上限を決定づけるパラメータの何れかを複数同時に設定でき、
前記対価通知手段は、複数の前記移動距離上限または前記移動距離上限を決定づけるパラメータに対応する対価をまとめて通知することを特徴とする。
上記目的を達成するために、本発明のうち、第4の発明は、被削物に対して工具を相対的に移動させることで加工を行う工作機械の稼働データを、データ提供者がデータ需要者に提供するに当たり、管理する装置であって、
第3の発明の何れかのデータ提供条件設定支援装置で通知される対価に基づき、データ提供者が提供条件を確定する提供条件確定手段と、
確定された前記提供条件に基づきデータの抽出処理を実行するデータ抽出手段と、を備えることを特徴とする。
上記目的を達成するために、本発明のうち、第5の発明は、被削物に対して工具を相対的に移動させることで加工を行う工作機械の稼働データを、データ提供者がデータ需要者に提供するに当たり、データ提供者による、提供する前記稼働データの条件である提供条件の設定を支援するプログラムであって、
前記提供条件と、データ需要者が予め設定するデータ要件と、が共に入力されたコンピュータに、第1の発明の何れかのデータ提供条件設定支援方法を実行させることを特徴とする。
上記目的を達成するために、本発明のうち、第6の発明は、被削物に対して工具を相対的に移動させることで加工を行う工作機械の稼働データを、データ提供者がデータ需要者に提供するに当たり、管理するプログラムであって、
データ提供者が提供する前記稼働データの条件である提供条件と、データ需要者が予め設定するデータ要件と、が入力されたコンピュータに、第2の発明のデータ管理方法を実行させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、データ提供者がデータを提供する前に、提供するデータにワーク形状等の秘密情報が含まれる度合いと、得られる対価と、を勘案して妥当なデータ提供条件の設定をすることが可能となる。よって、データ需要者にとって利用価値のあるデータを残すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】データ管理装置の機能ブロック図である。
図2】データ提供条件設定支援方法及びデータ管理方法のフローチャートである。
図3】データ提供条件設定支援装置の提供条件設定画面である。
図4】データ提供条件設定支援装置の対価通知画面である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、データ管理装置200の構成を示した機能ブロック図で、この図に基づいて具体的に説明する。なお、データ管理装置200は、データ提供条件設定支援装置100を包含し、例えばパーソナルコンピュータで形成される。
工作機械等の稼働データは、工作機械と一体のメモリ、工作機械とネットワークで接続されたサーバのメモリ、工作機械と一体のメモリから人がリムーバブルメディア等を介してデータをコピーして保存したパーソナルコンピュータと一体のメモリなど、公知のメモリである稼働データ記憶部1に保存される。稼働データを提供し対価を得る者をデータ提供者、対価を払いデータ提供者が提供する稼働データを得る者をデータ需要者と呼称する。
工作機械の稼働データとしては、X軸座標、Y軸座標、Z軸座標、X軸送り速度、Y軸送り速度、Z軸送り速度、送り速度(被削物に対して工具が移動する速さ、工作機械ではこの値の大きさを指令することがよく行われる)、X軸モータ負荷、Y軸モータ負荷、Z軸モータ負荷、主軸速度、主軸モータ負荷、主軸軸受近傍温度、工具近傍振動加速度、使用している工具の工具番号、など公知の様々な情報が想定される。座標や速度などについては、制御装置に指令した値、実際の値、指令した値に対する実際の値のずれ量など、開発予定の技術に適した形式のデータを必要な種類だけ取得することが可能である。振動センサや温度センサは、取付け位置や取付け個数を任意に変更することができるし、圧力センサ、流量センサなど開発予定の技術に適したセンサを任意に追加することも可能である。また、カメラで撮影した画像を人工知能で分析し切粉が排出されているか否かを判断した結果、言い換えると、ある時刻に加工を行っていたか否かといった情報も稼働データの一部として取り扱うことも可能である。
【0010】
入力部2と通知部4とは、公知のタッチパネルによって一体のものとして実現することができる。提供条件設定手段としての入力部2が機能する際には、図3に示すような、後述する移動距離上限または移動距離上限を決定づけるパラメータの何れかを入力および表示する領域と、移動距離上限または移動距離上限を決定づけるパラメータの何れとして解釈すべきかを設定するラジオボタンと、設定を確定するボタン(図3では「対価計算開始」と表示されたボタン)をタッチパネルの画面に表示し、移動距離上限または移動距離上限を決定づけるパラメータの何れかを入力する領域が触れられた際には、タッチパネルの画面に、図示しないテンキーがさらにポップアップ表示することで数字を入力できるようにしておけばよく、設定を確定するボタンが押下された際に、移動距離上限または移動距離上限を決定づけるパラメータの何れかの入力値、いずれのラジオボタンが選択されているか、をそれぞれ記憶部5に記憶する。
【0011】
取扱説明書等で別途通知されていれば、ラジオボタンのそれぞれの意味は、図3に示すように単位だけがかかれているだけであっても、データ提供者は設定内容を理解することができる。単位ではなく、判別に都合の良い、アイコン、記号、文字列などでもよい。ここでは、「mm」という表示があるラジオボタンは移動距離上限を直接設定することを、「%」という表示があるラジオボタンは移動距離上限を決定づけるパラメータを被削物の代表長さに対する比率として設定することを、それぞれ意味している。
ここで、移動距離上限とは、連続して提供する時系列データにおける被削物に対して工具が相対的に移動する距離の上限である。連続して提供する時系列データにおける被削物に対して工具が相対的に移動する距離は、製品形状を再現できる度合い、と強い相関がある。図面や実加工ワークを把握しているデータ提供者にとって、移動距離上限を設定することで、どの程度製品形状を再現されるおそれがあるかは予測可能である。
被削物ごとに製品形状を再現されてよい度合いが大きく異なる場合には、加工を定義するNCプログラムの名前等によって被削物を区別し、NCプログラムの名前等ごとに移動距離上限を設定することができるようにすることが可能であるが、相似形状の被削物の加工を行っている場合には、移動距離上限を被削物の代表長さに対する比率として設定することで、全ての被削物の移動距離上限を簡単に設定することが可能になる。完全に相似形状でないとしても、製品形状を再現されてよい度合いが何らかの代表長さに比例する傾向がある場合には、代表長さに対する比率として設定できるようにすることは簡便な設定を可能とする。
【0012】
被削物の代表長さの決定方法の一例としては、あるNCプログラムの実行された開始時刻から終了時刻において、X軸座標、Y軸座標、Z軸座標、加工を行っていたか否か、といった情報を用いることで、加工中に移動した領域を把握できるため、その領域に基づき決定すればよい。例えば、X軸、Y軸、Z軸のうち移動した範囲の最も小さいものを被削物の代表長さとしてもよいし、移動した領域の体積の立方根を被削物の代表長さとしてもよいし、その他公知の方法により代表長さを決定可能である。
また、被削物の代表長さ以外の代表長さとしては、工作機械の機種・仕様に依存する、被削物を取り付けるテーブルの大きさや稼働領域に基づく値(X軸、Y軸、Z軸のうち最小値・平均値、対角線の長さ、など)も採用可能である。被削物の大きさに合わせて最適な工作機械を使用している場合には、被削物の大きさは、被削物を取り付けるテーブルの大きさや稼働領域と強い相関があるため、実質的に被削物の代表長さを指定しているのと同等の効果が得られるが、被削物の代表長さを決定するための計算を省略できる点で優れる。この方法は、機種・仕様が混在する複数の工作機械の稼働データを共通の稼働データ記憶部1で集中管理している場合のデータ提供条件設定において有効と考えられる。
このように、移動距離上限を決定づけるパラメータは様々な値が想定されるため、設定の選択肢の数に合わせてラジオボタンの数を変更すればよい。
【0013】
また、移動距離上限または移動距離上限を決定づけるパラメータの何れかを設定するか、データ提供者が選択できる実施例を示しているが、データ提供者にその選択をさせる手段を設けずに、常に移動距離上限または移動距離上限を決定づけるパラメータの何れかとして予めデータ需要者が決定しておき、取扱説明書等において何れであるかをデータ提供者に通知するだけでもよい。
対価通知手段としての通知部4が機能する際には、図4に示すような、データ提供者が設定した各値に対応する対価をタッチパネルの画面に表示すればよい。さらに、データ管理装置200の場合には、何れの設定を採用するかを選択するラジオボタン、設定を確定するボタン(図4では「データ抽出開始」と表示されたボタン)をタッチパネルの画面に表示し、提供条件設定手段として入力部2が同時に機能するようにする。
なお、入力部2と通知部4とは同一のタッチパネルによって実現する実施例としているが、入力部2を、マイクによる音声入力手段、人工知能により音声データをデータ提供条件として解釈するデータ提供条件解釈手段、の組み合わせにより、通知部4を、人工知能により対価を通知するための合成音声を作成する合成音声作成手段、スピーカーによる音声出力手段、の組み合わせにより、それぞれ実現するなど、公知技術を利用した同様な働きをする代替手段に置換えることが可能である。
【0014】
記憶部5は、入力部2より入力された設定、通知部4に通知する値、データ需要者が予め設定するデータ要件、データ需要者がデータ要件に対応付けて予め設定する利用可能データ量と当該データの価値との対応関係を記憶する。
演算部3は、稼働データ記憶部1に記憶された稼働データ、記憶部5に記憶された提供条件、記憶部5に記憶されたデータ需要者が予め設定するデータ要件、を読込み、提供条件と、データ需要者が予め設定するデータ要件と、を同時に満たす稼働データの量を利用可能データ量として算出する。また、利用可能データ量と、記憶部5に記憶されたデータ需要者がデータ要件に対応付けて予め設定する利用可能データ量と当該データの価値との対応関係と、に基づき、データ提供者が得られる対価を算出する。
さらに、データ管理装置200の場合には、稼働データ記憶部1に記憶された稼働データに対して、記憶部5に記憶された提供条件に基づき、データの抽出処理を実行しデータ出力部6に出力(保存)する。
すなわち、演算部3は、利用可能データ量算出手段、対価算出手段、データ抽出手段として機能する。
【0015】
なお、稼働データ記憶部1、記憶部5、データ出力部6は一体の記憶装置の異なる記憶領域であっても差し支えない。
また、データ管理装置200は、1つのパーソナルコンピュータ等に搭載される必要はなく、通信ネットワーク等を介してデータを互いに送受信可能な複数のコンピュータで構成してもよい。この場合、例えばデータ出力部6を外部サーバに設けて、抽出されたデータをデータ需要者に提供できるようにしてもよい。また、データ需要者が、データ管理装置200に、データ要件及び利用可能データ量と当該データの価値との対応関係等を送信できるようにしてもよい。
【0016】
データ要件は、データ需要者が予め定めておくものであり、複数の機能開発の予定がある場合には、それぞれの機能に対応したデータ要件を個別に定義することになる。
例えば、機能Aのための人工知能を開発する場合に、「X軸速度のデータ1024点」と「X軸モータ負荷のデータ1024点」がひとまとまりのデータとして最低限必要となる場合であれば、機能Aのためのデータ要件として「データ長下限=1024」が定められていることになる。さらに、移動距離上限、または、移動距離上限を決定づけるパラメータ、の何れか以外の提供条件も設定できるデータ管理方法またはデータ提供条件設定支援方法の場合であれば、「主軸速度のデータを提供する=YES/NO」(主軸速度のデータは提供されてもされなくてもよい)、「X軸速度のデータを提供する=YES」(X軸速度のデータは提供されなければならない)、「X軸モータ負荷のデータを提供する=YES」(X軸モータ負荷のデータは提供されなければならない)、といったデータ要件も定められている必要がある。
また、機能Bのための人工知能を開発する場合に、「主軸速度のデータ512点」と「X軸速度のデータ512点」と「X軸モータ負荷のデータ512点」がひとまとまりのデータとして最低限必要となる場合であれば、機能Bのためのデータ要件として「データ長下限=512」が定められていることになる。さらに、移動距離上限、または、移動距離上限を決定づけるパラメータ、の何れか以外の提供条件も設定できるデータ管理方法またはデータ提供条件設定支援方法の場合であれば、「主軸速度のデータを提供する=YES」(主軸速度のデータは提供されなければならない)、「X軸速度のデータを提供する=YES」(X軸速度のデータは提供されなければならない)、「X軸モータ負荷のデータを提供する=YES」(X軸モータ負荷のデータは提供されなければならない)、といったデータ要件も定められている必要がある。
【0017】
また、稼働データの種類によってサンプリング周波数が異なるなど最低限必要となるデータ長が異なる場合には、データ長下限の設定をそれぞれ行うようにすればよい。例えば、主軸速度のサンプリング周期が他の稼働データの2分の1のときに同一の時間帯のデータを使うには「主軸速度のデータ長下限=1024」、「X軸速度のデータ長下限=512」、「X軸モータ負荷のデータ長下限=512」といったようにすればよい。データ長下限は時間の長さ(データ時間下限)などで間接的に定義されていてもよい。データ時間下限で間接的に定義されている場合には、データ時間下限をサンプリング周期で除算することでデータ長に換算できる。稼働データの種類によってサンプリング周期が異なる場合、同一の時間帯のデータを使うには稼働データの種類によってデータ長下限をそれぞれ定義する必要があるが、データ時間下限で間接的に定義すると1つのパラメータで定義できることになる。
【0018】
利用可能データ量と当該データの価値との対応関係は、データ需要者がデータ要件に対応付けて予め定めておくものであり、複数の機能開発の予定がある場合には、それぞれの機能に対応したデータ要件に対しそれぞれ定義する。
最も単純な利用可能データ量と当該データの価値との対応関係は比例関係である。つまり、データ需要者が機能Aの開発のために必要としているデータの量がNで、機能Aの販売により得られると予想される利益Pの10%をデータ提供者に還元することを想定すると、機能Aの利用可能データ量Qとデータの価値Vの関係として以下の数1のような関数が採用できる。
【0019】
【数1】
【0020】
同じデータ提供者だけから大量のデータを提供されても、データのバリエーションが増えず、人工知能の性能向上が見込めない場合には、データの価値Vを算出する利用可能データ量Qの関数V(Q)として、上に凸な単調増加の関数を用いることができる。
一方、データの価値Vを算出する利用可能データ量Qの関数V(Q)以外に、利用可能データ量と当該データの価値との対応関係を定義する方法として、テーブルがある。
0≦Q<100ならV=$0、100≦Q<1000なら$100、1000≦Q<10000なら$1000、10000≦Qなら$2000、のように利用可能データ量Qに対して、データの価値Vがそれぞれ定義されていれば、利用可能データ量Qに対して、データの価値Vを算出することができる。
関数やテーブルは更新可能としてもよい。例えば、機能のリリース予定時期が近付いているにもかかわらず、人工知能開発のために必要なデータが十分に集まっていない場合には、従来よりデータの価値Vが増加するような関数やテーブルへ変更することで、よりデータ提供を促すといったことも可能である。逆に、既に機能開発が終了した場合には、関数V(Q)=0とするなど、従来よりデータの価値Vが減少するような関数やテーブルへ変更することで、不必要なデータ提供に対して対価の支払いを抑制することができる。
また、機能開発を新たに始めたり終えたりする可能性がある場合には、データ要件およびデータ要件に対応する利用可能データ量と当該データの価値との対応関係は追加/削除できるようになっているとよい。
【0021】
図2は、データ管理方法(S1~S6)のフローチャートを示したものであり、このフローチャートに基づいて具体的に説明する。
なお、データ管理方法は、データ提供条件設定支援方法(S1~S4)を包含している。
まず、データ提供者が、移動距離上限、または、移動距離上限を決定づけるパラメータ、の何れかを含む提供条件を設定して入力する(S1;提供条件設定ステップ)。
また、移動距離上限、または、移動距離上限を決定づけるパラメータ、の何れか以外の提供条件として、「主軸速度のデータを提供する=YES」「X軸速度のデータを提供する=NO」「X軸モータ負荷のデータを提供する=YES」といったような稼働データを提供する(YES)か否か(NO)を個別に定義する設定、「当該工具を使用している区間のデータ提供を行わない工具番号=1000、1001、2000」といった特に秘匿したい加工を行う特定の工具の番号(1000および1001、2000)を指定してその工具が使用されている区間のデータ提供を一切提供しないようにする設定、なども加えることができる。また、工具番号に対してそれぞれ移動距離上限、または、移動距離上限を決定づけるパラメータ、の何れかを定義する設定形態なども可能である。
【0022】
被削物に対する工具の相対的な移動距離としては、「直線距離」(二点間距離)と、「道程」(移動経路の長さ)の2通りが考えられる。いずれの移動距離であっても、ある移動距離となるデータを連続的に提供した場合に、ワーク形状がどの程度把握されてしまうおそれがあるのか、データ提供者は容易に把握できる。データ提供者が移動距離上限を「直線距離の上限」と「道程の上限」のいずれとして設定するかを選択できるようにしてもよいし、予め一方に定めておき、いずれであるかを取扱説明書等でデータ提供者に通知してもよい。
被削物に対する工具の相対的な移動距離を算出するために使用する稼働データのサンプリング周期をΔT、ある時刻T、ある時刻Tにおける被削物に対する工具の相対的なX軸座標X(T)、ある時刻Tにおける被削物に対する工具の相対的なY軸座標Y(T)、ある時刻Tにおける被削物に対する工具の相対的なZ軸座標Z(T)とする。
被削物に対する工具の相対的な移動距離に「直線距離」(二点間距離)が採用されている場合には、ある時刻Tから、ある時刻Tのデータを含めデータ長がNとなる、N-1サンプリング後までにおける被削物に対する工具の相対的な移動距離D(T,N)は、以下の数2によって算出可能である(Nは自然数)。
【0023】
【数2】
【0024】
このため、ある時刻Tから始まるデータにおいて、移動距離上限Dmaxを超えないデータ長Nmaxを決定するためには、数2を用いてD(T,N)を算出し、Dmaxと大小比較をするという処理を、自然数Nを1から順次1ずつ大きくしながら行うことで、初めてD(T,N)>DmaxとなるNを求め、そのNより一つ小さいN-1をNmaxとして決定すればよい。このとき、データ長がNmaxである時刻Tから時刻T+ΔT×(Nmax-1)において、被削物に対する工具の相対的な移動距離は、移動距離上限Dmaxを超えない。
【0025】
被削物に対する工具の相対的な移動距離に「道程」(移動経路の長さ)が採用されている場合には、ある時刻Tから、ある時刻Tのデータを含めデータ長がNとなる、N-1サンプリング後までにおける被削物に対する工具の相対的な移動距離D(T,N)は、N=1のときに以下の数3となり、数4の漸化式を用いて近似的に算出可能である。
【0026】
【数3】
【数4】
【0027】
ただし、数4の表現を簡略化するために用いた時刻TN-1と時刻Tは、以下の数5と数6によって求めるものとする。
【0028】
【数5】
【数6】
【0029】
被削物に対する工具の相対的な速度に基づく方法としては、X軸送り速度U(T)、Y軸送り速度V(T)、Z軸送り速度W(T)を用いて、数4の代わりに以下の数7を用いることも可能である。また、送り速度F(T)を用いて、数4の代わりに以下の数8を用いることも可能である。
【0030】
【数7】
【数8】
【0031】
数4、数7、数8の数式の近似精度で支障がある場合には、被削物に対する工具の相対的な位置または速度の情報に基づき、被削物に対する工具の相対的な移動距離D(T,N)を算出するような、その他の公知の計算方法を用いることも可能である。数2を用いる場合と同様に、D(T,N)を算出し、Dmaxと大小比較をするという処理を、自然数Nを1から順次1ずつ大きくしながら行うことで、初めてD(T,N)>DmaxとなるNを求め、そのNより一つ小さいN-1をNmaxとして決定すればよい。
【0032】
なお、被削物に対する工具の相対的な移動距離D(T,N)を算出するために用いる情報(被削物に対する工具の相対的な位置または速度)とサンプリング周期が異なる情報(この情報のサンプリング周期をΔT’、移動距離上限Dmaxを超えないデータ長をN’maxと置く)に関しては、被削物に対する工具の相対的な移動距離D(T,N)を算出するために用いる情報のデータ長がNmaxである時刻Tから時刻T+ΔT×(Nmax-1)と同じ時間帯のデータとなるように、それぞれ移動距離上限Dmaxを超えないデータ長Nmaxを決定すればよい。例えば、サンプリング周期の比をNmaxに乗算することで、以下の数9のように算出することが可能である(数9の右辺が整数とならないような場合には適宜丸め処理を行えばよい)。
【0033】
【数9】
【0034】
稼働データの最初の時刻から最後の時刻まで、重複する区間が無いように順次移動距離上限Dmaxを超えないデータ長を決定することで、被削物に対して工具が相対的に移動する距離が移動距離上限を超えないように分割する場合の各データ区間のデータ長をそれぞれ計算することが可能である。
移動距離上限Dmaxを超えないK番目のデータ区間の最初の時刻をT(K)、データ長をNmax(K)、と表すとすると、重複する区間が無いようにというのは、少なくとも以下の数10の関係が成立するように次のデータ区間の最初の時刻T(K+1)を決定することを意味するが、分割された各区間がそれぞれ1サンプリング分以上の間隔があくように、以下の数11の関係が成立するようにT(K+1)を決定してもよい。Cの決定方法は、データ提供者が決めてもよいし、データ区間ごとに乱数で決定してもよいし、T(K)からT(K+1)の区間における被削物に対する工具の相対的な移動距離が所定の値以内となるようにしてもよい。
【0035】
【数10】
【数11】
【0036】
移動距離上限、または、移動距離上限を決定づけるパラメータ、の何れか以外の提供条件と、データ長下限以外のデータ要件と、の少なくとも一方が設定されている場合には、それらの条件を全て満たす区間に対して、重複する区間が無いように順次移動距離上限Dmaxを超えないデータ長を決定することで、被削物に対して工具が相対的に移動する距離が移動距離上限を超えないように分割する場合の各データ区間のデータ長をそれぞれ計算すればよい。例えば、提供条件として「X軸モータ負荷のデータを提供する=NO」という条件が含まれ、データ要件として「X軸モータ負荷のデータを提供する=YES」という条件が含まれていた場合、それらの条件を同時に満たす区間は存在しないため、移動距離上限Dmaxを超えない区間がそもそも一つもない場合もある。
なお、移動距離上限を決定づけるパラメータが代表長さに対する比率の場合には、代表長さに移動距離上限を決定づけるパラメータを乗算して移動距離上限を算出してから上記の処理を行えばよい。
【0037】
データの重複利用を行わない場合には、移動距離上限Dmaxを超えないK番目のデータ区間のデータ長Nmax(K)と、データ長下限Nminとを用いることで、データ要件ごとに以下の数12のように利用可能データ量NAVAILを算出する(S2;利用可能データ量算出ステップ)。
数12は、データ長Nmax(K)のデータ区間からデータ長下限Nminの重複するデータがないように取り出せる回数(数)を算出することを意味している。なお、floor()は床関数である。ただし、移動距離上限Dmaxを超えない区間がそもそも一つもない場合には、Kが一つも定義されておらず数12のようにKについての和をとることができないため、NAVAIL=0とする。
【0038】
【数12】
【0039】
movずつ利用するデータ区間をずらしていく場合利用可能データ量NAVAILは以下の数13のように算出できる。ただし、Nmov<Nminの場合は、データを重複利用することを意味し、Nmov>Nminの場合は、間を飛ばしながらデータを利用することを意味している。
【0040】
【数13】
【0041】
また、利用可能な全てのデータではなく、所定の確率でランダムに抽出したデータを利用する場合もある。例えば、利用可能なデータに対して比率αだけ利用する場合には、数12や数13で算出した値に対し比率αを乗算した値をあらためて利用可能データ量NAVAILとしてもよい。
なお、サンプリング周期が異なる複数の情報を用いる場合でも、同じ時間帯のデータを利用するようにサンプリング周期に反比例してデータ長下限Nminがそれぞれ定めてあれば、いずれの情報のデータ長Nmax(K)、データ長下限Nmin、データ区間をずらしていく点数Nmovの値の組を用いたとしても、利用可能データ量NAVAILは端数の丸めの誤差を除けば同一となる。
より厳密に計算する場合には、数12や数13の右辺において和をとられる値を、ある情報のデータ長Nmax(K)、データ長下限Nmin、データ区間をずらしていく点数Nmovの値の組を用いて算出した値から、全ての情報のデータ長Nmax(K)、データ長下限Nmin、データ区間をずらしていく点数Nmovの値の組ごとに算出した値の最小値に置換すればよい。
【0042】
次に、データ要件ごとの利用可能データ量と当該データの価値との対応関係(関数またはテーブル)を用いて、データ要件ごとの利用可能データ量NAVAILからデータ要件ごとの対価を算出し、全てのデータ要件についてデータ要件ごとの対価を合計することでデータ提供者が得られる対価を算出する(S3;対価算出ステップ)。
この場合、図4のように、提供条件ごとに対価を通知する(S4;対価通知ステップ)。図4のように複数の提供条件に対する対価が同時に画面に表示されると、データ提供者は、提供条件によって得られる対価がどのように変わるのか簡便に把握しやすいが、S1の際に提供条件を1通りしか設定できない場合であっても、提供条件と対価をメモ用紙等に記録しながら複数回S1~S4を実行することで、同様の効果は得られる。
【0043】
次に、データ提供者によって「データ抽出開始」と書かれたボタン(提供条件確定手段)が押下されると、提供条件が確定される(S5;提供条件確定ステップ)。よって、移動距離上限Dmaxを超えないK番目の区間(時刻T(K)から時刻T(K)+ΔT×(Nmax(K)-1))を順次抽出して、データ出力部6に保存される(S6;データ抽出ステップ)。S5で提供条件を確定しない場合は、図4の「設定に戻る」ボタンの押下によりS1へ戻って提供条件を再設定して以降の処理を実行してもよい。
データ抽出ステップでは、さらにワーク形状を再現しにくくするような処理を行ってもよい。例えば、区間ごとに時刻を0から始めるようにする、区間ごとに機械座標の値にランダムなオフセットを加えるもしくは平均値や初期値を差し引くということが可能である。こうすることで、分割されたデータを時刻や機械座標が近いデータをつなぎ合わせることで一連のデータに再現しようとする試みは一層困難となる。このようなワーク形状を再現しにくくするような処理を実行するか否かは提供条件で設定できてもよい。このとき、利用可能データ量を算出するためには、このようなワーク形状を再現しにくくするような処理が実行されていてもよいか否かが提供条件として設定されている必要がある。
【0044】
上記形態のデータ提供条件設定支援装置100及びデータ管理装置200によれば、提供条件が設定される提供条件設定ステップS1と、提供条件とデータ需要者が予め設定するデータ要件とを同時に満たす稼働データの量を利用可能データ量として算出する利用可能データ量算出ステップS2と、利用可能データ量とデータ需要者がデータ要件に対応付けて予め設定する利用可能データ量と当該データの価値との対応関係と、に基づき、データ提供者が得られる対価を算出する対価算出ステップS3と、データ提供者に対価を通知する対価通知ステップS4と、を実行する。
この構成により、データ提供者がデータを提供する前に、提供するデータにワーク形状等の秘密情報が含まれる度合いと、得られる対価と、を勘案して妥当なデータ提供条件の設定をすることが可能となる。よって、データ需要者にとって利用価値のあるデータを残すことができる。
【0045】
なお、上記形態では、被削物に対する工具の相対的な移動距離と、工具に対する被削物の相対的な移動距離と、は等しいため、説明の都合上前者に限定しているが、後者に置き換えたとしても同一である。
例示した対価の単位は$であったが、対価の単位は円などその他の通貨単位であってもよいし、データ需要者の所属するグループ会社の提供するサービス利用時や製品購入時の割引に使用するポイントであってもよい。データ提供者が価値を理解できる米や宝くじなども対価となるため、kgや枚といった単位となることもある。
【符号の説明】
【0046】
1・・稼働データ記憶部、2・・入力部、3・・演算部、4・・通知部、5・・記憶部、6・・データ出力部、100・・データ提供条件設定支援装置、200・・データ管理装置。
図1
図2
図3
図4