(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-08
(45)【発行日】2024-08-19
(54)【発明の名称】メタロ-リオサイロニン
(51)【国際特許分類】
C07C 229/36 20060101AFI20240809BHJP
A61K 47/52 20170101ALI20240809BHJP
A61K 31/198 20060101ALI20240809BHJP
A61P 5/14 20060101ALI20240809BHJP
C07F 3/06 20060101ALI20240809BHJP
【FI】
C07C229/36 CSP
A61K47/52
A61K31/198
A61P5/14
C07F3/06
(21)【出願番号】P 2021503706
(86)(22)【出願日】2019-04-04
(86)【国際出願番号】 US2019025725
(87)【国際公開番号】W WO2019195513
(87)【国際公開日】2019-10-10
【審査請求日】2022-04-04
(32)【優先日】2018-04-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】321006073
【氏名又は名称】シンソニクス,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】プライス,ジョン,ディー.
(72)【発明者】
【氏名】ピカリエッロ,トーマス
(72)【発明者】
【氏名】マルヘア,ミカエラ,イー.
【審査官】高森 ひとみ
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2007/099932(WO,A1)
【文献】特開2017-079181(JP,A)
【文献】特表2002-506049(JP,A)
【文献】特開2003-261683(JP,A)
【文献】国際公開第2015/167010(WO,A1)
【文献】特表2013-542961(JP,A)
【文献】特表2009-512728(JP,A)
【文献】MARINEZ, V. R. et al.,Azilsartan and its Zn(II) complex. Synthesis, anticancer mechanisms of action and binding to bovine serum albumin,Toxicology in Vitro,2018年03月06日,Vol.48,pp.205-220,DOI:10.1016/j.tiv.2018.01.009
【文献】CARRAHER. C. E. et al.,degradation of the polyamine derived from tetrachloroplatinate and methotrexate,POLYMERIC MATERIALS SCIENCE AND ENGINEERING,1987年,Vol.57,pp.173-176
【文献】ZHAO, A.and CARRAHER, C. E. Jr.,F MALDI MS for polymers from ciprofloxacin and organotin dihalides,PMSE PREPRINTS,2007年,Vol.96,pp.390-392
【文献】CHARRAHER, C. E. Jr. and ZHAO, A.,Modeling of moderate mass range F MALDI MS results of organotin poly(ester amines) derived frm ciprofloacin and dibutyltin dichloride,PMSE Preprints,2011年,Vol.106
【文献】RODRIGO R. DA CONCEICAO; ET AL,METAL COORDINATED POLY-ZINC-LIOTHYRONINE PROVIDES STABLE CIRCULATING TRIIODOTHYRONINE LEVELS IN HYPOTHYROID RATS,THYROID,2018年11月12日,VOL.28, ISSUE.11,PAGE(S):1425-1433,https://www.liebertpub.com/doi/10.1089/thy.2018.0205
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
A61K
A61P
C07F
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式I:
[M
xD
oA
pW
q]
nによる超分子金属配位錯体であって、式中、
Mは、亜鉛金属原子であり、
Dは、二価の金属に配位することができる少なくとも2つの官能基を含む生物学的に活性なトリヨードサイロニンであり、
Aは、第2の生物学的に活性なトリヨードサイロニンまたはアジュバントであり、
前記アジュバントが、芳香族ジカルボン酸、フェノール、およびカテコールからなる群から選択され、
Wは、H
2Oであり、
xは、1~10の整数であり、
oは、1~10の整数であり、
pは、ゼロまたは1~10の整数であり、
qは、1~20の整数であり、
nは、2以上の整数である、超分子金属配位錯体。
【請求項2】
水に不溶性である、請求項1に記載の錯体。
【請求項3】
高分子構造である、請求項1に記載の錯体。
【請求項4】
前記生物学的に活性なトリヨードサイロニンが、患者に投与されたときに前記錯体からの放出制御を示す、請求項1に記載の錯体。
【請求項5】
前記官能基が、金属配位結合を形成するヘテロ原子を含む、請求項1に記載の錯体。
【請求項6】
前記ヘテロ原子が、窒素、酸素、および硫黄から選択される、請求項5に記載の錯体。
【請求項7】
前記生物学的に活性なトリヨードサイロニンが、第1の官能基および第2の官能基を含む、請求項6に記載の錯体。
【請求項8】
前記生物学的に活性なトリヨードサイロニンが、第1の官能基、第2の官能基、および第3の官能基を含む、請求項6に記載の錯体。
【請求項9】
前記アジュバントが、チロシンである、請求項1に記載の錯体。
【請求項10】
xおよびoが、同じ値である、請求項1に記載の錯体。
【請求項11】
xおよびoが、異なる値である、請求項1に記載の錯体。
【請求項12】
[Zn
6(T3)(tyr)
5]
nによる超分子金属配位錯体であって、T3は
、生物学的に活性なトリヨードサイロニンである、超分子金属配位錯体。
【請求項13】
請求項1に記載の錯体および薬学的に許容される担体を含む、医薬組成物。
【請求項14】
前記組成物が、前記生物学的に活性なトリヨードサイロニンの放出制御を示す、請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
治療有効量の請求項1に記載の錯体を含む、疾患を有する患者を治療するための医薬組成物。
【請求項16】
前記疾患が、甲状腺機能低下症である、請求項15に記載の組成物。
【請求項17】
生物学的に活性なトリヨードサイロニンの粘膜付着特性を増加させる方法であって、式I:
[M
xD
oA
pW
q]
n(式中、
Mは、亜鉛金属原子であり、
Dは、二価の金属に配位することができる少なくとも2つの官能基を含む生物学的に活性なトリヨードサイロニンであり、
Aは、第2の生物学的に活性なトリヨードサイロニンまたはアジュバントであり、
前記アジュバントが、芳香族ジカルボン酸、フェノール、およびカテコールからなる群から選択され、
Wは、H
2Oであり、
xは、1~10の整数であり、
oは、1~10の整数であり、
pは、1~10の整数であり、
qは、ゼロまたは1~20の整数であり、
nは、2以上の整数である)による金属配位錯体を形成することを含む、方法。
【請求項18】
前記金属配位錯体が[Zn(T3)(H
2O)]
nであり、T3は、前記生物学的に活性なトリヨードサイロニンである、請求項17に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2018年4月4日に出願された米国仮特許出願第62/652,705号の利益を主張し、参照によりその全体が組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
本発明は、概して、超分子金属配位リオサイロニン組成物、そのような組成物を調製する方法、超分子金属配位リオサイロニンを精製および製剤化する方法、ならびにそのような組成物を使用して甲状腺機能低下症および他の病状を治療する方法に関する。
【0003】
背景情報
甲状腺ホルモン補充療法による甲状腺機能低下症の医学的処置は、1950年代にSynthroid(登録商標)(レボサイロキシン(T4))が導入されて以来、ほとんど変わらない長い歴史を持つ。甲状腺によって合成および分泌される2つの主要なホルモン(トリヨードサイロニン(T3)およびT4)は、体内のほぼすべての臓器の代謝活性を調節する。甲状腺の恒常性は、進化して、視床下部および下垂体のフィードバックループが関与する、複雑に込み入っているが、完全には理解されていない系を作り出した。しかしながら、過去60年間に学んだことのいくつかは、今日、甲状腺ホルモン補充療法を微調整するために適用することができる。
【0004】
T3は、1956年以来、医薬品(Cytomel(登録商標)、リオサイロニン)として市販されているが、現代のレジメンではほとんど使用されていない。(a)内因性酵素がT4をT3に変換し、(b)現在のT3製品の薬物動態が健康上のリスクをもたらす可能性があるため、ほとんどの内分泌学者および他の医師はT3を避け、T4のみを処方する。
【0005】
しかしながら、T4単独の投与は、通常、血中を循環するT3の15~20%を占めるのに十分なT3を放出する健康な甲状腺の甲状腺ホルモン産生を模倣しない。さらに、多くの患者は、自然に分泌されるT3の不足を補うために十分なT4をT3に変換することができるが、一部の患者はそうではない。これらの患者はしばしば、甲状腺機能低下の症状が残り、体重増加、うつ、無気力の発生率が高いと報告している。
【0006】
その結果、T4を単独で服用した後も甲状腺機能低下の症状が残っている患者に対して、T4とともにT3を提供することの利点を研究することに大きな関心が集まっている。T3をいつどのように利用するかについては議論が続いているが、ほとんどの専門家は、今日、現在入手可能なT3化合物を1日2回以上投与する必要があることに同意している。健康な固体では、T3血漿濃度は比較的安定している。しかしながら、医薬品として経口投与すると、T3は急速に吸収され、最初は高いピーク濃度になり、その後に低いトラフレベルになる。複数の低用量は、自然のT3血中レベルをより厳密にシミュレートするが、重大なコンプライアンス問題を引き起こす。徐放性製剤は、1日1回の投与で通常の24時間レベルを提供するT3製品の満たされていない医療ニーズを満たす可能性が高い。
【0007】
薬局で配合された徐放(SR)調製物が利用可能であるが、それらのバイオアベイラビリティおよび臨床効果は、製剤の制限により異なる。FDA承認のクラス最高SR T3製品は、甲状腺機能低下患者のかなりの割合に対する効果的な療法として、最終的に医学界に受け入れられるべきである。さらに、T3は他の条件を管理するためにますます使用されている。
【0008】
甲状腺機能正常患者における甲状腺ホルモンの使用は、無症候性および症候性甲状腺機能亢進症を引き起こす可能性があると広く知られている警告を認識しているが、T3の医学的役割は将来拡大する可能性がある。甲状腺ホルモンの年間売上高は10億ドルを超えると推定されている。T4製品のユーザーの推定20%が最適に治療されていないため、T3製品は大きな影響を与える可能性がある。
【0009】
甲状腺ホルモン補充療法および他の療法で使用するためのリオサイロニンの「甲状腺機能正常模倣」剤形は、既存のレジメンよりも勝っているだろう。
【発明の概要】
【0010】
本明細書に記載の錯体および方法は、甲状腺機能低下症に対して現在利用可能な経口治療の臨床欠如に対処する。甲状腺機能低下症に苦しむ人の約15%は、レボサイロキシン(T4、Synthroid(登録商標))単独では症状の改善が不十分であると報告している。これは、T4を甲状腺ホルモンの活性型であるT3に変換する酵素の遺伝的変異に関連していると考えられている。リオサイロニン(T3、Cytomel(登録商標))は、吸収が速く寿命が短すぎるため、T4を効果的に補完するものとして機能することができないと考えられている。これらの患者のためにT3とT4とを組み合わせることの価値を実現させるためには、正常(ユートロイド(euthroid))と同様のT3血漿濃度をもたらす放出制御製品が必要である。ユートロイド血漿レベルは、すべての組織において正常な甲状腺ホルモン濃度を達成するために重要である。この製品の幅広い長期的目標は、1日1回の経口投与でユートロイド様T3レベルをもたらすことができる新しい甲状腺ホルモン医薬品を患者に提供することである。メタロ-T3錯体は、T3分子が金属錯体から徐々に遊離して血流に入る消化管を通過する時間を延長するように設計されている。これは、送達速度を調節し、それによって吸収速度を調節する。
【0011】
本明細書に記載の一実施形態は、式I:
[MxDoApWq]nによる超分子金属配位錯体であり、式中、
Mは、金属原子であり、
Dは、二価の金属に配位することができる少なくとも2つの官能基を含む生物学的に活性な部分であり、
Aは、第2の生物学的に活性な部分またはアジュバントであり、
Wは、H2Oであり、
xは、1~10の整数であり、
oは、1~10の整数であり、
p:xの比率は、1/1000~1000/1であり、
qは、ゼロまたは1~20の整数であり、
nは、2以上の整数である。
【0012】
別の実施形態では、式Iの錯体は、水に不溶性である。別の実施形態では、式Iの錯体は、高分子構造の形態である。別の実施形態では、生物学的に活性な部分(D)は、患者に投与されたときに錯体からの放出制御を示す。一態様では、生物学的に活性な部分(D)の官能基は、金属配位結合を形成するヘテロ原子を含む。別の態様では、金属配位結合を形成するそのヘテロ原子は、窒素、酸素、および硫黄から選択される。
【0013】
別の実施形態では、式Iの金属原子(M)は、sブロック元素、遷移金属、pブロック金属、ランタニド、およびアクチニドから選択される。一態様では、金属原子は、亜鉛、銅、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、ナトリウム、ニッケル、およびビスマスから選択される。
【0014】
別の実施形態では、生物学的に活性な部分(D)は、第1の官能基および第2の官能基を含む。別の実施形態では、生物学的に活性な部分(D)は、第1の官能基、第2の官能基、および第3の官能基を含む。
【0015】
別の実施形態では、アジュバント(A)は、芳香族ジカルボン酸、フェノール、およびカテコールから選択される。一態様では、アジュバントは、チロシンである。
【0016】
別の実施形態では、式Iのxおよびoは、同じ値である。別の実施形態では、式Iのxおよびoは、異なる値である。
【0017】
別の実施形態では、生物学的に活性な部分(D)は、トリヨードサイロニン(T3)、アモキシシリン、セフォテタン、フロセミド、メトトレキサート、バルサルタン、クロルテトラサイクリン、デメクロサイクリン、ドキシサイクリン、メクロサイクリン、オキシテトラサイクリン、テトラサイクリン、シプロフロキサシン、ダノフロキサシン、ジフロキサシン、エノキサシン、エンロフロキサシン、フレロキサシン、ロメフロキサシン、マルボフロキサシン、ノルフロキサシン、ペルフロキサシン、ピペミド酸、オフロキサシン、およびサラフロキサシン、ならびにそれらの組み合わせから選択される。一態様では、生物学的に活性な部分(D)は、トリヨードサイロニン(T3)である。別の態様では、式Iによる錯体は、[Zn(T3)(H2O)]n、[Zn6(T3)(tyr)5]n、[Cu(T3)(H2O)]n、[Mg(T3)-2H2O]n、[Ca(T3)-2H2O]n、および[Sr(T3)-4H2O]nから選択される。
【0018】
別の実施形態は、式Iの錯体および薬学的に許容される担体を含む医薬組成物である。一態様では、組成物は、生物学的に活性な部分の放出制御を示す。
【0019】
別の実施形態は、疾患を有する患者を治療する方法であり、治療有効量の式Iによる錯体を、それを必要とする患者に投与することを含む。一態様では、疾患は、甲状腺機能低下症である。
【0020】
別の実施形態は、生物学的に活性な部分の粘膜付着特性を増加させる方法であり、式Iによる金属配位錯体を形成することを含む。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】上部消化管の内因性配位子が加水分解速度にどのように影響を及ぼすかの図である。これらには、HCl(胃)、胆汁酸、および炭酸緩衝液(上部腸)が含まれる。
【
図2】実験的に決定されたpKa値(Sirius)を有するトリヨードサイロニンイオン化可能官能基を示す図である。種は、H
3T3
+、H
2T3、HT3
-、T3
-2と記される。
【
図3】分離単核T3錯体の配位モードである。金属中心の八面体構造を示す。研究された金属のいくつかの正方形の平面構造も例示される。
【
図4】T3の分離(上)対超分子(下)亜鉛錯体の例である。
【
図5】多核錯体におけるヘッド-テール/T3-T3配向、およびヨウ素とSrとの間の第二配位結合相互作用を強調する配位モードの図である。これは、多核錯体の理論上の反復単位である。線形システムに関して示されるが、2次元および3次元のモチーフが可能である。また、SrとT3のI3との間の金属-ハロゲン結合の例も示される。
【
図6】ZnとT3
2-の配位子供与原子との間の強い結合相互作用(配位共有結合)を黒で示した図である。ヨウ素とT3
2-のX結合アクセプター原子との間の弱い結合相互作用(ハロゲン結合)は、赤の破線で示される。両方の結合モードは、高分子の形成および安定化に寄与する。金属有機フレームワークを含む2-および3-D構造が可能である。
【
図7】d-T3 Znビス((HT3-d
3)
2)、d-T3 Znポリ([Zn(T3-d
3)
n]、およびd-T3 Na(Na(HT3-d
3))を雄のスプラーグドーリーラットに経口投与した後の経時的なT3の濃度を示すグラフである。
【
図8】配位高分子の反復単位につながるアモキシシリンと二価の金属カチオンとの間の配位モチーフを示す理論上の構造である。アモキシシリンの電荷は-2であり、2つの酸性基の脱プロトン化によって得られる。カルボン酸のpK
aは6.71であり、フェノールのpK
aは9.41である。キレート効果により、pK
a値が2ログ単位シフトする場合がある。これは、脱プロトン化中に初期の負電荷を安定化させる金属カチオンによって生じる。
【
図9】配位高分子の反復単位につながるセフォテタンのジアニオンと二価の金属カチオンとの間の配位モチーフを示す理論上の構造である。セフォテタンの電荷は-2であり、2つのカルボン酸基の脱プロトン化によって得られる。カルボン酸のpK
aは、2~3と推定される。
【
図10】配位高分子の反復単位につながるフロセミドのジアニオンと二価の金属カチオンとの間の配位モチーフを示す理論上の構造である。カルボン酸のpK
aは3.8であり、スルホンアミドのpK
aは7.5である。
【
図11】配位高分子の反復単位につながるメトトレキサートのジアニオンと二価の金属カチオンとの間の配位モチーフを示す理論上の構造である。カルボン酸のpK
aは、4.8および5.6である。
【
図12】配位高分子の反復単位につながるテトラサイクリンのジアニオンと二価の金属カチオンとの間の配位モチーフを示す理論上の構造である。環AのエノールのpK
aは7.8であり、フェノールのpK
aは9.6である。
【
図13】配位高分子の反復単位につながるバルサルタンのジアニオンと二価の金属カチオンとの間の配位モチーフを示す理論上の構造である。カルボン酸のpK
aは3.9であり、テトラゾールのpK
aは9.6である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下の段落は、本明細書に記載の本発明の実施形態をより詳細に明らかにする。本明細書に記載の本発明の範囲、実施形態、または特定の態様から逸脱することなく、適切な修正および適合がなされ得ることが当業者には容易に明らかであるので、以下の実施形態は、本発明を限定することまたはその範囲を狭めることを意味しない。本明細書に引用されるすべての特許および刊行物は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0023】
本明細書を解釈する目的で、以下の用語および定義が適用され、適切な場合はいつでも、単数形で使用される用語は複数形も含み、逆もまた同様である。以下に記載の定義が参照により本明細書に組み込まれている文書と矛盾する場合、以下に記載の定義が優先するものとする。
【0024】
「患者」という用語は、哺乳動物およびヒトを含む任意の対象を指す。患者は、疾患を有しているか、または疾患を有している疑いがあり、そのため薬物で治療されている。場合によっては、患者は、イヌ、ニワトリ、ネコ、ウマ、または霊長類などの哺乳動物である。いくつかの例では、本明細書で使用される「患者」という用語は、ヒト(例えば、男性、女性、または子供)を指す。場合によっては、本明細書で使用される「患者」という用語は、動物モデル調査の実験動物を指す。患者または対象は、任意の年齢、性別、またはそれらの組み合わせであり得る。
【0025】
本明細書で使用される「有効成分」、「医薬品有効成分」、「生物活性剤」、「生物学的に活性な部分」、または「治療薬」という用語は、薬理効果、多くの場合、有益な効果をもたらす医薬品、有効成分、化合物、物質もしくは薬物、組成物、またはそれらの混合物を指す。有効成分は、任意の薬学的に許容される塩、水和物、結晶形態またはその多形であってもよい。
【0026】
本明細書で使用される「製剤」または「組成物」という用語は、薬学的に許容される賦形剤と組み合わせた有効成分または薬物を指す。
【0027】
本明細書で使用される「投与量」または「用量」という用語は、単回投与で治療効果を生み出すのに十分な量を含む有効成分製剤の任意の形態を表す。
【0028】
本明細書で使用される「配位子交換」または「配位子交換反応」という用語は、交換配位子が水である加水分解を含む、すべての形態の配位子交換反応を包含することを意図している。
【0029】
本明細書で使用される「放出制御」という用語は、生理学的条件下またはインビトロ試験において、即時放出製剤よりも遅い速度で有効成分を放出する組成物を指す。
【0030】
本明細書で使用される「即時放出」という用語は、投与後に有効成分の大部分(例えば、有効成分の50%超)を放出する組成物を指す。
【0031】
本明細書で使用される「徐放」という用語は、すべての有効成分よりも少ないものが最初に放出されるように、有効成分を長期間、例えば、数分、数時間、または数日にわたって放出する組成物を指す。徐放速度は、例えば、生理学的条件下またはインビトロ試験において、一定期間にわたって、剤形から特定の量の薬物または有効成分の放出をもたらすことができる。
【0032】
「治療する」という用語は、ある障害に関連する状態、症状、またはパラメータを改善するのに有効な量、様式、またはモードで療法を施すことを指す。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の化合物は、疾患を有する、その治療を必要とする患者を治療するために使用される。
【0033】
本明細書で使用される場合、「a」または「an」は、別段の指定がない限り、1つ以上を意味する。
【0034】
いくつかの実施形態では、式I:
[MxDoApWq]n,による超分子金属配位錯体であり、
式中、
Mは、金属原子であり、
Dは、二価の金属に配位することができる少なくとも2つの官能基を含む生物学的に活性な部分であり、
Aは、第2の生物学的に活性な部分またはアジュバントであり、
Wは、H2Oであり、
xは、1~10の整数であり、
oは、1~10の整数であり、
pとxとの比率は、約1/1000~約1000/1であり、
qは、ゼロまたは1~20の整数であり、
nは、2以上の整数である。
【0035】
一実施形態では、Aは、本明細書でさらに説明される任意の適切に活性な生物学的に活性な部分である、第2の生物学的に活性な部分である。別の実施形態では、Aは、本明細書でさらに説明される適切なアジュバントである。
【0036】
別の実施形態では、xは1である。別の実施形態では、xは2である。別の実施形態では、xは3である。別の実施形態では、xは4である。別の実施形態では、xは5である。別の実施形態では、xは6である。別の実施形態では、xは7である。別の実施形態では、xは8である。別の実施形態では、xは9である。別の実施形態では、xは10である。
【0037】
別の実施形態では、oは1である。別の実施形態では、oは2である。別の実施形態では、oは3である。別の実施形態では、oは4である。別の実施形態では、oは5である。別の実施形態では、oは6である。別の実施形態では、oは7である。別の実施形態では、oは8である。別の実施形態では、oは9である。別の実施形態では、oは10である。
【0038】
別の実施形態では、pは0である。別の実施形態では、pは、1以上の整数である。別の実施形態では、pは1である。別の実施形態では、pは2である。別の実施形態では、pは3である。別の実施形態では、pは4である。別の実施形態では、pは5である。別の実施形態では、pは6である。別の実施形態では、pは7である。別の実施形態では、pは8である。別の実施形態では、pは9である。別の実施形態では、pは10である。
【0039】
別の実施形態では、qは0である。別の実施形態では、qは、1以上の整数である。別の実施形態では、qは1である。別の実施形態では、qは2である。別の実施形態では、qは3である。別の実施形態では、qは4である。別の実施形態では、qは5である。別の実施形態では、qは6である。別の実施形態では、qは7である。別の実施形態では、qは8である。別の実施形態では、qは9である。別の実施形態では、qは10である。別の実施形態では、qは11である。別の実施形態では、qは12である。別の実施形態では、qは13である。別の実施形態では、qは14である。別の実施形態では、qは15である。別の実施形態では、qは16である。別の実施形態では、qは17である。別の実施形態では、qは18である。別の実施形態では、qは19である。別の実施形態では、qは20である。
【0040】
別の実施形態では、nは、1以上の整数である。別の実施形態では、nは、2以上の整数である。別の実施形態では、nは、5以上の整数である。別の実施形態では、nは、10以上の整数である。別の実施形態では、nは、50以上の整数である。別の実施形態では、nは、100以上の整数である。別の実施形態では、nは、100以上の整数である。別の実施形態では、nは、500以上の整数である。別の実施形態では、nは、1000以上の整数である。
【0041】
別の実施形態では、pとxとの比率は、約1:750~約750:1である。別の実施形態では、pとxとの比率は、約1:500~約500:1である。別の実施形態では、pとxとの比率は、約1:100~約100:1である。別の実施形態では、pとxとの比率は、約1:10~約10:1である。別の実施形態では、pとxとの比率は、約1:5~約5:1である。別の実施形態では、pとxとの比率は、約1:1である。
【0042】
本明細書に記載の別の実施形態は、式Iによる金属配位トリヨードサイロニン(T3)錯体である。これらの錯体は、1日1回の投与で正常(ユートロイド)状態と同様のT3血漿濃度をもたらす。メタロ-T3錯体は、T3分子が配位子交換反応によって金属錯体から徐々に放出され、血流に吸収される消化管を通過する時間を延長するように設計されている。配位子交換プロセスは、送達速度を調節し、それによって吸収速度を調節する。
【0043】
この調節された吸収は、T3の多座ジアニオンを有する2価および3価の金属イオンで構成される高分子錯体を形成することによって達成される。アミノ酸は、単座、二座、または三座配位子としてカチオンに結合することができるが、アミノ酸基の3つの配位子原子のみが関与する場合、三座配位モードは立体的に好ましくない。対照的に、天然アミノ酸の中で、TyrおよびT3は、フェノール基の追加の関与を介して三座配位子として機能することができる。フェノール基は、潜在的な金属結合部位であり、したがって、カチオンの配位に関与し得る。フェノール基が脱プロトン化されると、配位モードに影響を与えるだけでなく、分離構造に対して超分子構造の形成にも有利に働く。前者の安定性、したがって加水分解速度論は、以下に説明するように、金属の選択および有意なT3間相互作用の現象によって制御される。
【0044】
T3のフェノール(pKa 8.94)は脱プロトン化され、ジアニオン配位子を生成する。したがって、別の配位子原子がカチオンの配位に利用可能である。その結果として、これらのT3
-2ジアニオンは二価であり、両端に負の電荷を有し、これは、単位を鎖ならびに高次の2次元および3次元種に接続することを可能にする。T3
-2ジアニオンは、分子の先頭のα炭素の官能基および末尾のフェノラート酸素を介して架橋配位子として機能する(
図4および5を参照されたい)。この配位モチーフは、さまざまな金属を有するアミノ酸チロシンで観察されている。
【0045】
単座および二座のアミノ酸配位子を有するs2-ブロック金属の生成定数は低く、水性媒体中でそれらを加水分解しやすくする。遷移金属とT3の一価種との配位錯体は、M2+(HT3-1)2分離サブユニット間の分子間結合を介して高分子構造をもたらすことができる。しかしながら、これらの場合の超分子結合機構は、比較的弱い水素結合などの非共有相互作用を伴う。それらは、s-ブロック錯体よりも水性媒体中での加水分解に対してより耐性があるが、時折、インビボでT3の徐放を十分にもたらさない。
【0046】
一価のHT3-1アプローチを拒否することなく、金属イオンと結合することができるT3の三座形態を生成することによって、T3のインビボ放出制御に適切なT3の高分子錯体を調製するための新規アプローチが開発された。2つのイオン化可能な官能基(アミノ酸およびフェノール)を介して生成されたT3のこの三座形態(T32-)は、金属と2つの配位共有結合を形成し、1-、2-、および3-D超分子種をもたらすことができる。高分子が共有結合した配位単量体で構成されるこの種類の錯体は、制御された薬物動態学的な方法で経口送達されたT3を送達するために分離錯体間の非共有相互作用を介して組み立てられた超分子化合物よりも優れている。
【0047】
したがって、形態[M(T3)]nの新しいクラスの錯体が作製されることは、本発明の実施形態であり、式中、M=s1-およびs2-ブロック元素;遷移金属;Sn、Pb、およびBiを含むがこれらに限定されないp-ブロック元素;アクチニドおよびランタニド;金属クラスター、ならびに他のカチオン種であり、T3は、トリヨードサイロニン(T32-)のジアニオンである。形態[M(T3)]nのこれらの超分子錯体が優れた粘膜付着特性を有することは、本発明のさらなる実施形態である。[M(T3)]n錯体に固有の粘膜付着および配位子交換特性が甲状腺機能低下患者において甲状腺機能正常状態をもたらすことができるT3のSR製剤に変換されることは、本発明のさらなる実施形態である。
【0048】
粘膜付着および粘膜付着性薬物送達系の基礎。
粘膜付着は、一方が粘液または粘膜であり、もう一方が薬物または薬物送達系の表面である2つの表面が、界面力によって長期間一緒に保持される現象である。
【0049】
過去数十年にわたって、粘膜付着性薬物送達は、これらの剤形が粘膜表面に付着する能力により開発され、これは、薬物の適用部位での長期保持を可能にし、改善された治療結果のための制御された薬物放出速度を提供する。(1)付着が起こるために、分子はしばしば粘液-付着界面を越えて結合し、最も強い結合は、イオン結合、共有結合、および水素結合から生じる。(2)粘膜付着は、腸内の通過時間を遅くし、消化管での持続的な吸収期間をもたらす。
【0050】
粘膜付着剤は、一般に、負に帯電した粘膜表面と相互作用することができる多数の水素結合形成基を含む巨大分子である。(Smart,2005)粘膜表面は、糖タンパク質およびオリゴ糖、電子供与機能を持つ配位子が豊富である。これらには、シアル酸、シアロ糖タンパク質、ウロン酸塩、ならびにヒスチジン(イミダゾール)およびシステイン(チオレート)などのアミノ酸が含まれる。
【0051】
金属配位錯体を介した薬物の放出制御。
単一のアプローチに拘束されることなく、一般に放出制御を行い、薬物配位子の金属配位を介して経口送達される薬物製品は、粘膜付着および配位化学の既知の原理を利用する。(Lawrance、2010)単に例示を目的として、金属配位医薬品(Metal Coordinated Pharmaceutical)(MCP)をプロドラッグと見なす。次に、変更された薬物の放出および吸収のプロセスは、3つの異なるプロセスを伴うことがわかる:A)消化管の領域への粘膜付着、B)MCPからの薬物の制御された配位子交換、続いてC)放出された参照薬物の吸収。
【0052】
I.金属配位T3錯体の粘膜付着。
粘膜付着剤は、一般に、負に帯電した粘膜表面と相互作用することができる多数の水素結合形成基を含む巨大分子である。粘膜表面は、糖タンパク質およびオリゴ糖、電子供与機能を持つ配位子が豊富である。これらには、シアル酸、シアロ糖タンパク質、ウロン酸塩、ならびにヒスチジン(イミダゾール)およびシステイン(チオレート)などのアミノ酸が含まれる。
【0053】
金属配位医薬品は、(1)高分子であるか、もしくはクラスターを形成する、または(2)粘膜と相互作用する場合、粘膜付着性を有する。
【0054】
1.配位高分子、高分子ネットワーク、およびクラスターは、少なくとも2つの供与部位を有する中性またはアニオン性配位子(すなわち、マルチトピック配位子)から作られている。これらの配位子は、少なくとも2つのアクセプター部位を有する金属イオンまたは凝集体に配位するため、少なくとも1次元配置が可能である。リンカー内の供与原子の数およびそれらの配向、ならびにノードの配位数に応じて、異なる1(1D)、2(2D)、および3(3D)次元の構築物を合成することができる。配位高分子は、配位子が複数の金属中心間のブリッジとして機能する複数の配位部位を有するときにも形成され得る。例えば、チロシンは金属配位結合を形成することができる3つの官能基を有し、2つの配位部位が可能であり(アミノ酸およびフェノラート)、チロシンの配位高分子が知られている。T3はこの要件を満たすだけでなく、同一の配位モチーフ(アミノ酸およびフェノール)を有する。T3は、チロシンとは異なり、金属-ハロゲン結合を形成して、超分子構造に寄与し得る別の結合モードを導入することもできる。
【0055】
ある特定の条件下で、および/またはある特定の金属を用いて、T3の不溶性高分子金属配位錯体が生成されることは、本発明の実施形態である。このようなメタロ-T3錯体の不溶性の性質は、金属配位T3(MC-T3)を消化管に経口送達する手段を提供し、そこで配位子交換を介して吸着および放出される。さらに、超分子材料によって付与される結合部位の多様性により、超分子MC-T3は、非常に強い粘膜付着特性を示し得る。したがって、本教示によるいくつかの実施形態では、MC-T3錯体は、高分子または超分子構造を有する。
【0056】
2.粘膜付着は、ルイス酸として機能する金属と粘膜のアニオン成分との相互作用による多くの金属錯体の特性である。粘膜付着は、金属、錯体の構造、ならびに薬物粒子のサイズおよび電荷に依存する。粘膜付着は、消化管における薬物の滞留時間を延長する。MC-T3は、配位共有結合、水素結合、ハロゲン結合、金属-ハロゲン結合、静電相互作用、および粒子サイズを含むが、これらに限定されないさまざまな追加機構によって粘膜と相互作用する。
【0057】
2a.配位共有結合:正に帯電した金属中心は、粘膜表面にある配位子と共有配位結合を形成することにより、粘膜に結合することができる。これは、2つの表面間の粘膜付着の追加の十分に活用されていない機構である。例えば、ビスマス-レボドパ配位高分子であるビスマスサブドペート(bismuth subdopate)(BSD)は、さまざまな動物モデルでレボドパの付着および徐放を示した。T3(アミノ酸およびフェノール)は、レボドパ(アミノ酸およびカテコール)と同様の配位モードを有し、T3の配位錯体も同様に挙動する。T3とビスマスとの間に高分子錯体を形成することは困難であったが(おそらくビスマスとT3のヨウ素-3との間の立体障害のため)、広範囲のより小さな金属との錯体が本発明の実施形態である。(ビスマスは周期表で最大の非放射性金属である。)これらの金属は、ムチン配位子とも相互作用する。
【0058】
2b.水素結合。粘膜糖タンパク質層を含む一般的な糖タンパク質は、T3の水素結合アクセプター(O、N、I)と結合することができる水素結合供与体を有する。甲状腺ホルモンの固体結晶充填は、一般に結晶のアミン基、4’-OH基、カルボン酸基、およびH2Oを伴う広範囲のH結合を示す。これらのT3部分は、本発明の実施形態のように粘膜と相互作用する。
【0059】
2c.ハロゲン結合。粘膜層は、T3のヨウ素とハロゲン結合を形成することができる多くのハロゲン結合アクセプター(O、N、S)で構成されている。(Mugesh,2016)これらの相互作用は、1つのアクセプターの負の電位が、ハロゲン原子の正に帯電したσ-ホールと相互作用するため、ハロゲン結合と呼ばれる。甲状腺ホルモンの結晶充填の興味深い特徴は、ハロゲンがハロゲン結合アクセプターおよび供与体の両方として機能し得るI…I非共有相互作用である。相互作用に関与するハロゲン原子の角度接触に応じて、2つの異なる種類のX…X相互作用が提案されている。タイプIIの接触は、一般に、2つのC-X結合の垂直配置、すなわち、
【数1】
によって認識される。これらの相互作用は、一方のハロゲンの横方向の負の電位が、もう一方のハロゲン原子の正に帯電したσ-ホールと相互作用するため、ハロゲン結合と呼ばれる。タイプIの相互作用の場合、|θ1-θ2|は、0°~15°の間にある必要があるが、タイプIIの相互作用の場合、|θ1-θ2|は、30°より大きい必要がある。
【0060】
2d.金属-ハロゲン結合:金属-ハロゲン結合は、非共有結合の弱い結合(水素結合と類似する)を表す。結合は、ハロゲン上の誘導された負電荷と相互作用する金属上の正電荷の間に形成される。ハロゲン上の正電荷は、シグマホールとして知られる領域に高度に局在する。ハロゲンの電気陰性度により、原子の残りの部分は正味の負電荷を有する。金属-ハロゲン結合は、金属が溶媒分子、すなわち、配位錯体によって遮蔽されていない分子ネットワークにおいて最も強いと予想される。塩では、水分子は金属の内部配位圏にあり、金属-ハロゲン結合の強度を最小限に抑える。
【0061】
2e.静電相互作用:粘膜付着は、粘膜上の粘液層と粘膜付着性高分子との間の相互作用の結果である。それは、粘液およびそれらの電荷を含む高分子構造に大きく依存する。腸粘膜表面を覆うグリコサミノグリカン層は、非常に負に帯電していることも知られている。
【0062】
したがって、高分子分散体のゼータ電位を測定することにより、粘膜付着中の静電相互作用への洞察を得ることができる。例えば、ビスマスとレボドパとの間で調製された配位高分子のゼータ電位
【数2】
は正であると決定されました
【数3】
。
BSDをウシの結腸組織に手動で適用した場合、模擬腸液で洗浄した後、材料が組織に付着した。非配位レボドパは保持されなかった。この実験は、本発明の実施形態である超分子金属配位錯体における固有の粘膜付着特性を実証する。
【0063】
2f.粒子サイズ:一般に、粒子が小さいほど、その質量に比べて粒子の表面積が大きくなり、したがって、粘膜付着が大きくなる。
【0064】
記載の結合タイプのすべてが、金属配位によってもたらされるT3分子のクラスター化によって強化されることは、本発明の実施形態である。これらの同じ相互作用の多くは、MC-T3分子間で生じる場合、高次構造の形成に関与する。これらの結合の強度の増加が溶解度を最小限に抑えることは、本発明のさらなる実施形態である。高分子金属T3錯体とグルコサ糖タンパク質層との間の強化された付着点と組み合わされた低い溶解度が、高分子金属T3錯体に独特かつ予想外の粘膜付着特性を付与することは、本発明のさらなる実施形態である。MC-T3分子と生物学的粘膜との間の非共有結合の相互作用は、これらの材料の粘膜付着特性に関与している。分子と粘膜内層との間の結合部位が多いほど、粘膜付着が大きくなる。したがって、本発明で例示されるものなどの高分子構造は、それらの分離単核同族体よりも強い粘膜付着特性を有する。粘膜付着およびより大きな構造の形成が、MC-T3化合物が腸に送達されるときのT3吸収および吸収速度に主要な影響を与えることは、本発明の実施形態である。
【0065】
II.金属配位T3錯体からの薬物放出制御。
MCPを介した薬物放出制御への一般的なアプローチは、配位化学の既知の原理を利用して、配位マトリックスからの薬物配位子の加水分解(放出)速度を変更することである。加水分解は、以下を含む多くの要因に依存する:
1.錯体の熱力学的安定性
2.pH
3.内因性配位子
【0066】
1.T3配位錯体の熱力学的安定性。
T3はアミノ酸である。アミノ酸は、各分子が配位子供与原子として機能することができる少なくとも3つの高度に電気陰性の原子(カルボキシレート基の酸素原子2個とアミノ基の窒素原子1個)を有するため、配位子として十分な柔軟性を示す。これにより、異なる化学特性(電荷またはイオン半径など)を有するカチオンの配位が可能になる。金属とのいくつかの配位モードが知られている。アミノ酸は、単座、二座、三座、および架橋配位子として機能することができる。架橋配位子として、1つの架橋原子(O、Oと表記)または2つの異なる架橋原子(O、N、またはO、OOと表記)を介して結合することができる。
【0067】
アミノ酸は一般に、(O、N)供与原子セットを利用して二座配位化合物を形成する。二座T32-配位子と超分子配位錯体を形成するために使用される金属が、s1-およびs2-ブロック元素;遷移金属、SnおよびBiを含むp-ブロック金属;ならびにランタニドおよびアクチニドを含むことは、本発明の実施形態である。
【0068】
金属カチオンの配位多面体内の異なる結合性の範囲は、相当なものである。分離単位は多く、例えば、単核、二核、三核錯体などである。さらに、金属と周囲の配位子の配位多面体は、より高次の構造が生じる化学ビルディングブロックを形成することができる。これらの単位は、1次元鎖、2次元層、または3次元フレームワークなど、無限の配位共有結合構造に組み立てることができる分離配位錯体で構成される。
【0069】
これらの金属配位アミノ酸ビルディングブロックの高分子錯体を含む高次構造への組み立ては、主に、分離錯体間の非共有結合相互作用によって制御される。これらには、水素およびハロゲン結合、金属-ハロゲン結合、芳香族π-π相互作用、および金属-芳香族環相互作用がある。
【0070】
トリヨードサイロニンは、L-チロシンと同様のコーディフォア(coordiphore)を有する。L-チロシネートについては、いくつかの錯体が報告されており、それらはすべて、2つの一価のTyr-1アニオンと組み合わせた二価のカチオンを含む。ほとんどの種は、ニッケルおよびパラジウム錯体にあるような孤立した単位を含むが、ビス-(L-チロシナト)-銅は、鎖構造を有する。
【0071】
ビルディングブロックとしての分離配位錯体に基づく1次元配位高分子構造の実例は、{[Zn(tyr)2(H2O)]H2O}nおよび[Cu(tyr)2]nに存在する。したがって、チロシンは架橋配位子として機能する。Znの例の場合、配位高分子は、カルボキシレート基のトランス配位を有する鎖形成されていない(unstranded)鎖として作られる。Zn錯体の鎖形成されていない1D高分子構造とは対照的に、[Cu(tyr)2]nは、左巻きのらせん配置を有する。Zn-Tyrの鎖形成されていない構造の形成およびCu-Tyrのらせん構造の最も重要な理由は、Zn2+およびCu2+イオンの配位圏における架橋カルボキシレート基の異なる立体形状である。トランス配位は鎖形成されていない鎖をもたらすが、シス配位はらせん構造を容易にする。
【0072】
金属イオンとのL-チロシネートアニオン相互作用の研究は、錯体形成、ならびに固体および溶媒中でのその錯体の安定性の理解につながる。錯体の形成は、pKa値(COOHの場合は2.2、NH3
+基の場合は9.1)に関連する溶液の酸性度によって制御される。L-チロシンの最も典型的な配位モードは、カルボキシレート基のNアミノおよびO原子のうちの1つを介するものであり、これは、カルボキシレート基のμ架橋モードによって達成され得る。これらの基の結合モードの多様性は、単量体、二量体、および金属-有機フレームワーク(MOF)を生成する。興味深いことに、フェノキシ基の脱プロトン化のために、pH 9~10のソルボサーマル条件下で合成を適用することにより、フェノラート酸素原子も金属イオンへの配位に関与している。
【0073】
本発明に記載の化合物は、金属有機材料(MOM)および/または金属有機フレームワーク(MOF)を構成し得る。これらのMOMおよび/またはMOFに固有の、チロシンなどの構造的に類似した分子とのT3の多くの混合配位子錯体を作製することができることは、本発明のさらなる実施形態である。混合配位子、または三元錯体は、金属イオンがその配位圏に2種類以上の配位子を有する錯体である。T3とチロシン(x/y)との混合物で構成される金属有機材料からのこれらの混合配位子化合物T3は、T3(x=1)と配位子(y=1~∞)との比率によってさらに遅延および制御される放出を有する。
【0074】
アミノ酸金属錯体の既知の化学的性質、および多数の合成されたMCPのインビトロ溶解研究は、配位子の加水分解が一般にpHに関して二相性であることを示す。胃のより低いpH範囲では、加水分解は急速である。摂食/絶食状態に応じてpHが大きく変動するため(pH=1~5)、放出動態も変動する。しかしながら、十二指腸では、pHが高く(>5.5)、摂食/絶食状態での変動は最小限である。薬物放出はより遅く、あまり変動しない。胃(ゲルキャップ)または十二指腸(Eudragit(登録商標)コーティングカプセル)への送達により、薬物放出部位のpHを制御することができる。高pH(>10)では、加水分解も起こる。
【0075】
3.内因性配位子:
配位について競合する内因性配位子の存在も、加水分解速度に影響を及ぼす。消化管で競合する配位子には、HCl(胃)、胆汁酸、および炭酸緩衝液(上部腸)が含まれる。図(1)の理論上の概略図は、これらの要因の多くを示す。
【0076】
二価の金属(すなわち二座)に配位することができる2つの官能基を有する薬物が、この文書に記載されるように超分子構造を形成することができることは、本発明のさらなる実施形態である。二座であり、したがって二価または多価の金属と超分子錯体を形成することができる薬物の追加のおよび非限定的な例は、アモキシシリン、セフォテタン、フロセミド、メトトレキサート、テトラサイクリン、およびバルサルタンである(
図8~13を参照されたい)。
【0077】
バルサルタンならびに酸(pKa=4.73)およびカルボキシル(pKa=3.9)基を含み、化合物を中性pH範囲で可溶性にする他のテトラゾール誘導体などの薬物は、本明細書に記載の超分子金属配位錯体の候補である。化合物のこれらのpKa値のため、バルサルタンは、非解離酸、モノアニオン、およびジアニオンとして生理学的pH値で溶液として存在する。pHを4から6に上げると、バルサルタンの溶解度は約1000倍に増加するが、アニオン型を好み、親油性が低下するため、バルサルタンの吸収速度は(消化)管に沿った腸のpHの影響を受ける。インビトロ溶解は、pH5.0以上で完全かつ迅速である。バルサルタンはpHに依存する溶解度を有するため、バイオ医薬品および吸収特性に関して薬物を分類する、提案されている一般的な分類システムの特殊なケースに属する。バイオ医薬品分類システムでは、バルサルタンは、透過性が低く、代謝が乏しく、溶解性が高いクラスIIIの薬剤として分類されている。バルサルタンのpKaは、ACN:水混合物中のアセトニトリルの割合によって異なり、60%ACNでは、カルボキシル基のpKaは5.321であり、テトラゾールのpKaは6.189であり、55%ACNでは、カルボキシル基のpKaは5.143であり、テトラゾール基は6.163のpKaを有する。50%ACNの影響下では、カルボキシル基のpKaは4.982であり、テトラゾールのpKaは6.6130である。バルサルタンは、その酸性の性質のため、約25%の生物学的利用能を有する。本質的に酸性であるため、GITの酸性環境では溶解しにくく、本質的に酸性であるGITの上部から吸収され、バルサルタンは25℃の水に0.18g/L溶解する。緩衝液では、ジアニオン塩はその溶解度が増加するため形成される。リン酸緩衝液(pH8.0)では、バルサルタンは25℃で16.8g/L溶解する。
【0078】
キノロンは、本明細書に記載の超分子金属配位錯体を形成するために使用され得る別の例示的なクラスの化合物を表す。例えば、ピペラジニウム基は、pKa1で脱プロトン化され、中性アミンが残る。ジアニオンではないが、これらの化合物は、それでも中性アミンNおよびカルボキシレートOと遷移金属との結合によって配位高分子を形成することができる。上記の例に限定されないが、以下の薬物も二座であり、二価または多価の金属と超分子構造を形成することができ、したがって、下の表1に提供される本発明の別の実施形態でもある。
【表1】
【実施例】
【0079】
実施例1.
Zn(HT3)2の調製。ビス-T3亜鉛。Na(HT3)(250mg、0.371mmol)を、50mLの丸底フラスコに添加し、メタノール(35mL)に溶解した。メタノール中のZnCl2の溶液(25.2mg、0.185mmol、注記1)を、滴下して添加した(8分にわたって200μL)。すぐに沈殿物が形成された。反応物を室温で19時間撹拌した。沈殿物を真空なしで濾過し、メタノール(2x10mL)で洗浄し、真空下(室温、0.5トル)で乾燥させて、無色の固体を得た。収量189.1mg(推定Zn(HT3)2に基づいて0.139mmol、1365.4g/mol);37%。
【0080】
注記1:メタノールZnCl2溶液は、ZnCl2のTHF溶液(0.7M、265μL、0.185mmol)を2ドラムバイアル中で濃縮し、メタノール(5mL)を添加することによって調製した。
【0081】
注記2:H2T3およびNaHT3はAldrichから入手し、さらに精製することなく使用される。H2T3アッセイ:H2T3(HPLC)のアッセイは92.2%である(Zn(HT3)2-MeOHの理論値は93.1%である)。C、H、N、Zn分析:ガルブレイス、ジャスパーを使用した最良適合。Zn(HT3)2-MeOHに対する観測値(理論)C 26.06(26.65);H 1.83(1.88);N 1.96(2.00);Zn 4.51(4.68)。1H NMR:(d6-DMSO)化合物は可溶性である(5mg/mL)。δ 7.84(s;2H),7.03(d;J=4.0 Hz;1H),6.81(d;J=8.0 Hz;1H),6.62(dd;J=4.0 Hz,8.0 Hz;1H),3.51(br s;1H),3.23(br m;1H),2.66(br m;1H
【0082】
実施例2.
[Zn(T3)(H2O)]nの調製。推定上の多核錯体であるポリ-亜鉛-T3。H2T3(200mg、307μmol)を、50mLの丸底フラスコに量り入れ、メタノール(20mL)に懸濁した。1MのNaOH水溶液(615μL、615μmol)をピペットで滴下して添加し、すべてのT3が溶解するまで撹拌した(5分)。MeOH中のZnCl2(5.00mL、308μmol;注記1を参照されたい)を、撹拌しながら、Na2T3溶液に滴下して添加した(8分にわたる時間で200μL)。白色の沈殿物が形成され、反応物を室温で19時間撹拌した。沈殿物を真空なしで濾過し、メタノール(2x10mL)で洗浄し、真空オーブン(室温、0.5トル)中で乾燥させた。収量207mg(283μmol、[Zn(T3)(H2O)]nに基づいて92.2%、732.4g/mol)。
【0083】
注記1:ZnCl2(61.6mM)のメタノール溶液を、2ドラムバイアルに、THF中0.7MのZnCl2440μL(308μmol)を添加することにより調製し、窒素下で乾燥させ、次に、5mLのメタノールに再溶解した。注記2:化合物は、MeOH、DMSO、またはH2Oに目に見えて溶解しなかった。MeOHにおけるNa2T3の溶解度は、50.0mg/mLよりも大きい(71.9mM、695g/mol)。ZnCl2のメタノール溶解度は、8.40mg/mLよりも大きい(61.6mM、136.4g/mol)。H2T3アッセイ:H2T3(HPLC)のアッセイは87.3%である(Zn(T3)(H2O)の理論値は88.6%である)。C、H、N、Zn分析:ガルブレイス、ジャスパーを使用した最良適合。Zn(T3)(H2O)に対する観測値(理論):C 24.41(24.60);H 1.45(1.65);N 1.79(1.91);Zn 8.20(8.93)。
【0084】
実施例3.
[Zn6(T3)(tyr)5]nの調製。ポリ-(ヘキサジンク(Hexazinc)-T3-ペンタチロシン)。H2T3(250mg、384μmol)およびH2tyr(チロシン、348.4mg、1923μmol)を、200mLの丸底フラスコに量り入れ、メタノール(100mL)に懸濁した。配位子の総量(H2T3+H2tyr)は2307μmolであり、H2T3/H2tyrの比率は1/5であった。1MのメタノールKOH(4615μL、4615μmol)をピペットで滴下して添加し、すべての固体が溶解するまで撹拌した(30分)。MeOH中のZnCl2(注記1、20.0mL、2307μmol;注記1を参照されたい)を、添加漏斗によって15分にわたって滴下して添加した。白色の沈殿物が形成され、反応物を室温で19時間撹拌した。沈殿物を真空なしで濾過し、メタノール(2x20mL)で洗浄し、真空下(室温、0.5トル)で乾燥させた。収量476mg(283μmol、[Zn6(T3)(tyr)5]nに基づいて64.3%(1937.4g/mol)。
【0085】
注記:メタノールZnCl2溶液は、ZnCl2のTHF溶液(0.7M、3296μL、2307μmol)をバイアル中で濃縮し、メタノール(20.0mL)を添加することによって調製した。亜鉛含有量:ハック滴定法による亜鉛含有量は8.95%である(Zn(T3)(H2O)の理論値は8.93%である)。1H NMR:(d6-DMSO,D2O,CDCl3,CD3OD)化合物は不溶性である。
【0086】
実施例4.
[Cu(T3)(H2O)]n、ポリ-銅-T3の調製。H2T3(201mg、0.308mmol)を、50mLの丸底フラスコに量り入れ、メタノール(20mL)に懸濁した。1MのNaOH水溶液(615μL、615μmol)をピペットで滴下して添加し、すべてのT3が溶解するまで撹拌した(5分)。MeOH中のCu(ClO4)2-6H2O(371mg、0.308mmol、4mLのMeOH)を、撹拌しながら、Na2T3溶液に滴下して添加した(8分にわたる時間で200μL)。白色の沈殿物が形成され、反応物を室温で19時間撹拌した。沈殿物を真空なしで濾過し、メタノール(10mL)、次いでH2O(10mL)で洗浄し、真空下(室温、0.5トル)で乾燥させた。収量152mg(72%)。
【0087】
注記1:市販の塩(NaHT3)として、または上記のようなH2T3およびNaOHの反応によってその場で生成されるかのいずれかで、T3のNa塩を使用することが重要である。他のNa塩基は調査されていない(例えば、NaOCH3/MeOHなど)。K塩基は満足のいく結果をもたらさない。H2T3アッセイ:H2T3(HPLC)のアッセイは92.6%である(Cu(T3)、MW712.51g/molの理論値は91.1%である)。1H NMR:(d6-DMSO,D2O,CDCl3,CD3OD)化合物は不溶性である。
【0088】
実施例5.
[Mg(T3)-2H2O]nの調製。ポリ-マグネシウムT3。H2T3(200mg、307μmol)を、50mLの丸底フラスコに量り入れ、無水メタノール(10mL)に懸濁した。メタノールKOH水溶液(1.0M、615μL、615μmol)をピペットで滴下して添加し、すべてのT3が溶解するまで撹拌した(5分)。K2T3をさらに15分間撹拌した。MeOH中のMgCl2の溶液(29.17mg、307μmol、15mL)を、撹拌しながら、Na2T3溶液に滴下して添加した(5分にわたる時間で200μL)。白色の沈殿物がすぐに形成され、反応物を室温で18時間撹拌した。沈殿物を濾過し、メタノール(2x10mL)で洗浄し、真空オーブン(室温、0.5トル)中で乾燥させた。収量は、Mg(T3)-2(H2O)に基づいて180.6mg(255μmol、83%)(709.3g/mol)であった。化合物は、MeOH、DMSO、またはH2Oに目に見えて溶解しなかった。
【0089】
MeOH中のNa2T3の溶解度は、10.7mg/mLよりも大きい(15.4mM、695g/mol)。SrCl2-6H2Oのメタノール溶解度は、>5.4mg/mL(76.9 mM、266.5g/mol)である。マグネシウム含有量:ハック滴定法によるマグネシウム含有量は3.9%である(Mg(T3)-2(H2O)、709.3g/molの理論値は3.4%である)。C、H、N、Mg分析:ガルブレイス、ジャスパーを使用した最良適合。Mg(T3)-2H2O-0.35H2Oに対する観測値(理論)C 24.89(25.18);H 1.79(2.07);N 1.91(1.96);Mg 3.77(3.40)。
1H NMR:(d6-DMSO,D2O,CDCl3,CD3OD)化合物は不溶性である。
【0090】
実施例6.
[Ca(T3)-2H2O]n。ポリ-カルシウム-T3。H2T3(200mg、307μmol)を、50mLの丸底フラスコに量り入れ、無水メタノール(10mL)に懸濁した。メタノールKOH水溶液(1.0M、615μL、615μmol)をピペットで滴下して添加し、すべてのT3が溶解するまで撹拌した(5分)。K2T3をさらに15分間撹拌した。MeOH中のCaCl2-2H2Oの溶液(33.9mg、307μmol、5mL)を、撹拌しながら、K2T3溶液に滴下して添加した(5分間にわたる時間で200μL)。白色の沈殿物がすぐに形成され、反応物を室温で18時間撹拌した。沈殿物を濾過し、メタノール(2x10mL)で洗浄し、真空オーブン(室温、0.5トル)中で乾燥させた。収量は、Ca(T3)-2(H2O)に基づいて140.7mg(185μmol、60%)(761.1g/mol)であった。
【0091】
化合物は、MeOH、DMSO、またはH2Oに目に見えて溶解しなかった。MeOHにおけるK2T3の溶解度は、50mg/mLよりも大きい(68.9 mM、727g/mol)。CaCl2-2H2Oのメタノール溶解度は、>6.8mg/mL(61.4mM、147.0g/mol)である。
カルシウム含有量:ハック滴定法によるカルシウム含有量は5.3%である(Ca(T3)-4(H2O)、761.1g/molの理論値は5.3%である)。
H2T3アッセイ:H2T3(HPLC)のアッセイは84.0%である(Ca(T3)-4(H2O)、761.1g/molの理論値は85.3%である)。1H NMR:(d6-DMSO,D2O,CDCl3,CD3OD)化合物は不溶性である。
【0092】
実施例7.
[Sr(T3)-4H2O]n。ポリ-ストロンチウム-T3。H2T3(200mg、307μmol)を、50mLの丸底フラスコに量り入れ、無水メタノール(10mL)に懸濁した。メタノールKOH水溶液(1.0M、615μL、615μmol)をピペットで滴下して添加し、すべてのT3が溶解するまで撹拌した(5分)。K2T3をさらに15分間撹拌した。MeOH中のSrCl2-6H2Oの溶液(81.7mg、307μmol、5mL)を、撹拌しながら、K2T3溶液に滴下して添加した(5分間にわたる時間で200μL)。白色の沈殿物がすぐに形成され、反応物を室温で18時間撹拌した。沈殿物を濾過し、メタノール(2x10mL)で洗浄し、真空オーブン(室温、0.5トル)中で乾燥させた。収量は、Sr(T3)-4(H2O)に基づいて217mg(268μmol、87%)(808.6g/mol)であった。
【0093】
化合物は、MeOH、DMSO、またはH2Oに目に見えて溶解しなかった。MeOHにおけるK2T3の溶解度は、50mg/mLよりも大きい(68.9 mM、727g/mol)。SrCl2-6H2Oのメタノール溶解度は、>16.3 mg/mL(61.2mM、266.5g/mol)である。
【0094】
ストロンチウム含有量:ハック滴定法によるストロンチウム含有量は10.8%である(Sr(T3)-4(H2O)、808.6g/molの理論値は10.8%である)。H2T3アッセイ:H2T3(HPLC)のアッセイは79.6%である(Sr(T3)-4(H2O)、808.6g/molの理論値は80.3%である)。C、H、N、Sr分析:ガルブレイス、ジャスパーを使用した最良適合。For Sr(T3)-1.3H2Oに対する観測値(理論)C 23.80(23.71);H 1.66(1.67);N 1.74(1.84);Sr 10.19(11.53)。Sr(T3)-4H2Oの場合:Sr 10.19(10.84)。1H NMR:(d6-DMSO,D2O,CDCl3,CD3OD)化合物は不溶性である。
【0095】
実施例8.
Na2(T3)の調製。二ナトリウム-T3。H2T3(200mg、307μmol)を、50mLの丸底フラスコに量り入れ、メタノール(20mL)に懸濁した。1MのNaOH水溶液(615μL、615μmol)をピペットで滴下して添加し、すべてのT3が溶解するまで撹拌した(5分)。撹拌をさらに30分間続け、溶媒を減圧下で除去して、白色の固体を得た。これを真空オーブン(室温、0.5トル)中で乾燥させた。
【0096】
実施例9.
K2(T3)の調製。二カリウムT3。H2T3(250mg、384μmol)1MのメタノールKOH(768μL、768μmol)をピペットで滴下して添加し、すべての固体が溶解するまで撹拌した(30分)。撹拌をさらに30分間続け、溶媒を減圧下で除去して、白色の固体を得た。これを真空オーブン(室温、0.5トル)中で乾燥させた。
【0097】
実施例10.
インビボ研究。血漿濃度対時間曲線(血漿プロファイル)は、経口投与後の雄のスプラーグドーリーラットにおいて重水素標識リオサイロニン化合物を使用して得た。標識されたリオサイロニンは、投与した薬物を内因性ホルモンと区別するために使用された。重水素化材料(H2T3-d3)を使用して、実施例1および2:Zn(HT3-d3)2および[Zn(T3-d3)n]にあるような金属配位T3-d3試料を調製した。Na(HT3-d3)は、金属配位リオサイロニン試験化合物との比較を可能にするために、模擬Cytomelとして調製された。
【0098】
試験品を、雄のスプラーグドーリーラットに経口投与(PO)した。頸静脈カテーテル(JVC)から血液試料を採取し、分析のために血漿試料を生成した。研究治療に対して有害反応を示した動物はいなかった。雄のスプラーグドーリーラットは、Hilltop Lab Animals,Scottdale,PA 15683から入手し、外科用カテーテルはASLPによって埋め込まれた。重水素化T3(H2T3-d3)は、Hashimotoの手順を変更して調製した。(Makoto Hashimoto,2013)
【0099】
投与カプセル(Torpac、サイズ9ラットカプセル)は、Synthonicsによって調製された。Cytomel(登録商標)をシミュレートするために、Na(HT3-d3)はコーティングされなかったが、錯体は、胃内の金属配位錯体の早期酸加水分解を回避し、十二指腸でそれらの内容物を放出するために、Eudragit L100-55でコーティングされた。
【0100】
ラットの体重は345~354gの範囲であった。研究開始前に、動物に水および市販のげっ歯類の食餌を自由に与えた。餌を戻す投与4時間後まで、研究の最低12時間前および研究中は動物に餌を与えなかった。水は自由に与えた。適切な日の時間0に動物にPO投与した。最終血液試料を採取した後、動物を二酸化炭素(CO2)で安楽死させた。
【0101】
血液試料(約400μL)をJVCにより収集し、抗凝固剤としてヘパリンナトリウムを含む冷却血液収集チューブに入れ、遠心分離まで氷上に保持した。血液試料を、2~8℃の温度で、3,000gで5分間遠心分離した。遠心分離後に血漿試料を収集した。血漿試料はドライアイス上ですぐに凍結され、分析のためにスポンサーに送られるまで-60℃~-80℃で保存された。血漿試料はドライアイス上で凍結されたままSynthonicsに送られ、そこで分析され、有効なLC-MS-MS方法を使用してd-T3濃度が決定された。研究設計を表2に示し、得られた薬物動態パラメータを表3に示す。
【表2】
【表3】
【0102】
図7のデータは、模擬Cytomelに関して金属配位リオサイロニンの明らかな利点を示す。[Zn(d-T3)]
nは、最大濃度までの遅延時間を示した(t
max=6時間対4時間)。[Zn(T3)]
nは、10時間でクロスオーバーが生じる鈍化したCmaxを示した。これらのデータは、亜鉛配位リオサイロニン化合物の薬物動態特性の有用な変更を示す。
【0103】
実施例11.
実施例10に記載されたものと同様の一連の実験において、血漿濃度対時間曲線(血漿プロファイル)が、経口投与後の雄のスプラーグドーリーラットにおけるNa(HT3)、Zn(HT3)2、および[Zn(T3)]nについて生成された。放出制御性能の評価に関連する薬物動態パラメータ、Cmax、FWHM、およびAUCが測定され、表4に示される。
【0104】
十二指腸の標的化(D)は、pH約5.5で十二指腸に溶解するように設計されたEudragit L100-55(Acryl-Eze、水溶媒)でキャップを手でコーティングすることによって達成される。胃の標的化(S)は、コーティングされていないゲルキャップを使用することによる。
【0105】
幅が時間軸に沿って測定され、半値が1/2 Cmaxである半値全幅(FWHM)は、薬物吸収の持続放出の程度を評価するために使用されるパラメータである。試験した両方の亜鉛配位リオサイロニン化合物は、模擬Cytomelよりも長い吸収相を示す。Zn(HT3)
2は、同等のAUCで模擬Cytomelに対して鈍化したCmaxを示す。
【表4】
【0106】
本明細書において本発明は、その記載の実施形態に関連して説明されてきたが、添付の特許請求の範囲で定義される本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく、具体的に説明されていない追加、修正、置換、および削除を行うことができることを当業者には理解されよう。したがって、前述の詳細な説明は、限定ではなく例示と見なされることを意図しており、本発明の趣旨および範囲を定義することを意図するのは、すべての等価物を含む、以下の特許請求の範囲であることを理解されたい。