(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-08
(45)【発行日】2024-08-19
(54)【発明の名称】可溶性細胞外マトリックス組成物および血管内送達のための方法
(51)【国際特許分類】
A61K 38/39 20060101AFI20240809BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20240809BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240809BHJP
【FI】
A61K38/39
A61P9/00
A61P43/00 105
(21)【出願番号】P 2021521511
(86)(22)【出願日】2019-10-25
(86)【国際出願番号】 US2019058052
(87)【国際公開番号】W WO2020086955
(87)【国際公開日】2020-04-30
【審査請求日】2022-08-08
(32)【優先日】2018-10-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】508228061
【氏名又は名称】ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ カリフォルニア
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】クリストマン,カレン
(72)【発明者】
【氏名】スパング,マーティン
(72)【発明者】
【氏名】グローバー,グレゴリー
【審査官】大島 彰公
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/161034(WO,A1)
【文献】韓国登録特許第10-1628821(KR,B1)
【文献】特表2013-536246(JP,A)
【文献】SINGELYN J. M. et al.,Journal of American College of Cardiology,2012年,Vol.59 No.8,pp.751-763
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K、A61P
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
可溶性細胞外マトリックス(ECM)組成物を調製する方法であって、
当該方法が下記a~dの工程:
a.脱細胞化ECM材料を酸性プロテアーゼで消化することと、
b.前記消化されたECM材料を液体中でpH7.0~8.0に中和することと、
c.可溶性および不溶性画分を生成するためにプレゲル液体ECMを遠心分離により処理することと、ここで、前記可溶性画分は、前記遠心分離から得られた上清を含み、
d.可溶性ECM組成物を得るために、前記可溶性画分の少なくとも一部を濾過すること、ここで、前記濾過は、250nm以下のサイズの除外フィルタを用いて行われ、
を含み、可溶性ECM組成物が、血管内注入のための組成物である、方法。
【請求項2】
前記可溶性画分を透析することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記可溶性ECM組成物は、さらに凍結乾燥および再水和される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
固体ECM材料の少なくとも一部が除去された、脱細胞化、消化および中和された組織を含む可溶性ECM組成物
の有効量の注入液を含む、組織修復を促進するために対象を治療するための医薬組成物であって、前記可溶性ECM組成物は、250nmサイズの除外フィルタを通過し、前記組成物は、
血管内注入のための組成物であり、前記組成物は、室温で液体であり、インビボでの注入または注射後に損傷した血管の裏打ちをコーティングする
ためのものであり、且つ、前記組成物は、室温で液体であり、インビボでの注入または注射後に内皮細胞間の細孔を充填する、
医薬組成物。
【請求項5】
前記組成物は、室温で液体であり、インビボでの注入または注射後にゲルを形成する、請求項4に記載の
医薬組成物。
【請求項6】
ヒト、動物、胚、または胎児の組織に由来する、請求項4に記載の
医薬組成物。
【請求項7】
心臓、脳、膀胱、小腸、または骨格筋組織、腎臓、肝臓、肺、および血管に由来する、請求項4に記載の
医薬組成物。
【請求項8】
前記注入液は、カテーテルを介して、静脈内に、または血管内に送達される、請求項
4に記載の医薬組成物。
【請求項9】
インビボで送達される場合、前記可溶性ECM組成物は組織内でゲルを形成する、請求項
4に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記可溶性ECM組成物は、投与前に、グルタルアルデヒド、ホルムアルデヒド、ビス-NHS分子、または他の架橋剤で架橋される、請求項
4に記載の医薬組成物。
【請求項11】
前記可溶性ECM組成物は、投与前に、細胞、ペプチド、タンパク質、DNA、薬物、ナノ粒子、栄養素、生存促進添加剤、プロテオグリカン、および/またはグリコサミノグリカンと組み合わされる、請求項
4に記載の医薬組成物。
【請求項12】
前記可溶性ECM組成物は、投与前に、合成ポリマーまたは生物学的に誘導された材料と組み合わされるおよび/または架橋される、請求項
4に記載の医薬組成物。
【請求項13】
前記可溶性ECM組成物は、前記対象において、内因性の細胞内殖、血管新生、および再生を引き起こす、請求項
4に記載の医薬組成物。
【請求項14】
前記可溶性ECM組成物は、前記対象において、細胞の生存を促進し、炎症を軽減する、請求項
4に記載の医薬組成物。
【請求項15】
急性心筋梗塞を治療するための医薬組成物であって、固形ECM材料の少なくとも一部が除去された、脱細胞化、消化および中和された組織を含む有効量の可溶性ECM組成物を含み、前記可溶性ECM組成物は、250nmサイズの除外フィルタを通過し、当該医薬組成物が、必要とする対象に注射または注入され、前記医薬組成物は、室温で液体であり、
前記医薬組成物は、必要とする対象における注入または注射後に損傷した血管の裏打ちをコーティングするように、血管内
に注入
するためのものである、医薬組成物。
【請求項16】
前記組成物は、血管内に送達される、請求項
15に記載の医薬組成物。
【請求項17】
前記組成物は、バルーン付き注入用カテーテルを用いて送達される、請求項
15に記載の医薬組成物。
【請求項18】
前記組成物は、送達後に組織内でゲル形態に移行する、請求項
15に記載の医薬組成物。
【請求項19】
前記組成物は、室温で液体であり、送達後に梗塞血管を裏打ちするコーティングを形成する、請求項
15に記載の医薬組成物。
【請求項20】
前記組成物は、室温で液体であり、送達後に梗塞内皮細胞間の細孔を充填する、請求項
15に記載の医薬組成物。
【請求項21】
前記組成物は、注射または注入後1~14日以内に分解する、請求項
16に記載の医薬組成物。
【請求項22】
前記組成物の注射または注入は、前記対象によって持続される心筋への損傷を修復する、請求項
15に記載の医薬組成物。
【請求項23】
前記組成物の注射または注入は、前記対象の虚血によって引き起こされた損傷を修復する、請求項
15に記載の医薬組成物。
【請求項24】
前記有効量は、血流を増加させる、生存可能な組織量を増加させる、または前記対象の前記注射もしくは注入の領域に新しい血管形成を誘発する量である、請求項
15に記載の医薬組成物。
【請求項25】
内皮細胞損傷および/または機能不全を治療するための医薬組成物であって、前記医薬組成物が、固形ECM材料の少なくとも一部が除去された、脱細胞化、消化および中和された組織を含む有効量の可溶性ECM組成物を含み、前記可溶性ECM組成物は、250nmサイズの除外フィルタを通過し、前記医薬組成物が、室温で液体であり、必要とする対象における注入または注射後に損傷した血管の裏打ちをコーティングするように、必要とする対象に注射または注入される、医薬組成物。
【請求項26】
前記有効量は、内皮細胞の生存、増殖、もしくは血管作用を促進し、かつ/または炎症、アポトーシス、活性酸素種の損傷、もしくは漏出性血管系を減少させる、請求項
25に記載の医薬組成物。
【請求項27】
可溶性ECM組成物が透明なECMコロイドを含み、任意に、可溶性ECM組成物が、直径100nm未満の可溶性マトリックス粒子を含む、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2018年10月25日に提出された米国仮出願第62/750,303号の優先権の利益を主張し、その出願は参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
政府の支援
本発明は、国立衛生研究所(NIH)によって授与された助成金番号HL113468の下で政府の支援を受けてなされた。政府は本発明に特定の権利を有する。
【0003】
本発明は、虚血性または損傷した心臓、脳、骨格筋、血管、および内皮細胞を含む組織/器官/細胞への低侵襲性送達のための注入可能な可溶性細胞外マトリックス組成物および治療に関する。
【背景技術】
【0004】
細胞外マトリックス治療は、組織再生のための足場を提供する天然の組織成分を含む。現在の脱細胞化細胞外マトリックス治療は、パッチまたは直接注射に限定されている。目的の組織への血管内/注入送達が可能な細胞外マトリックス療法は存在しない。脱細胞化組織および消化組織から作製されたECMヒドロゲルが作成されているが、それらは完全に溶解性または透明なコロイドではない。それらは、可溶性成分と不溶性成分との両方を含有する半透明の懸濁液であり(Freytes et al,2008,Singelyn et al,2009))、材料が血流から漏出性血管系(急性心筋梗塞、脳卒中、癌などの虚血組織で発生する)(Nguyen et al,2015,Dvorak et al,1988,Yuan et al,1995))を通過して組織内に挿入し、漏出性血管系を裏打ちするか、または漏出性血管系の細孔を充填するのを防止する。
【0005】
心筋梗塞(MI)は、経時的に進行する心筋の虚血性壊死を特徴とし、負の左心室(LV)リモデリングおよび最終的な心不全を引き起こす。現在の標準治療は、この虚血性損傷に対応していない。低侵襲性の組織工学治療は、MI後の心臓を修復することができる。多くの幹細胞および成長因子治療が臨床試験まで至っている;しかしながら、これらの治療法は、おそらくはカプセル化されていない治療薬の保持が不十分であるために、不十分な有効性を示している。
【0006】
細胞外マトリックス(ECM)ヒドロゲルは、心臓組織工学の分野で大きな将来性を示している。特に、心筋マトリックス(MM)と称される、脱細胞化されたブタ心筋に由来する組織特異的ヒドロゲルは、MIモデルにおいて心筋の増加、梗塞領域の血管新生、ならびに局所的および全体的な心機能の改善を示している[2~4]。さらに、MMを注射したラット心臓の梗塞領域から単離されたRNAの全トランスクリプトーム分析を通じて修復のメカニズムを調査したところ、心臓修復(例えば、血管新生および心臓発達)に関連するアップレギュレートされた経路、および負のLVリモデリング(例えば、肥大、アポトーシス、および線維症)に関連するダウンレギュレートされた経路が示された[6]。この材料は、MI後60日~3年の経心内膜注射を使用したMI後の患者を対象とした第I相試験で評価された(ClinicalTrials.gov識別子:NCT02305602)。しかしながら、心筋細胞死および負のLVリモデリングは、MI後数分以内~数日以内に始まるプロセスである[26、27]。MMの現在の送達は、漏出性冠状血管系を通過して梗塞内に入るには大きすぎるサブミクロン粒子を含有するため、冠状動脈内注入に適さないことから、経心内膜カテーテル注射に限定されている。さらに、経心内膜注射は、MI後の最初の1週間以内に心室破裂および不整脈のいくつかの安全上の懸念を伴う特殊な医療技術である[7、8]。これにより、急性MI後の重要な治療域内でのMMの送達が防止される。
【0007】
冠動脈内注入は、経心内膜注射の代替アプローチである。冠動脈内送達は、典型的には患者が病院に入院した直後に行われるバルーン血管形成術を伴う場合があるため、急性MIで実行可能である。このような技術は、インターベンショナル心臓病学の標準であり、専門的なトレーニングを必要としない。冠動脈内注入は、急性MI後の漏出性血管系を利用して、生体材料が冠状血管系を通過して梗塞領域に入ることを可能にする[5]。生体材料の冠動脈内送達は、ブタMIモデル[9]におけるアルギン酸ヒドロゲルの実現可能性を示し、第II相臨床試験へと進行した(ClinicalTrials.gov識別子:NCT01226563)。しかしながら、おそらくはアルギン酸塩の限られた生物活性のために、この材料は心機能の有意な改善を示さなかった[10]。
【発明の概要】
【0008】
実施形態において、本発明は、可溶性細胞外マトリックス(ECM)組成物を調製する方法であって、ペプシンなどの酸性プロテアーゼでECM材料を酵素消化することと、消化されたECM材料を液体中でpH7.0~8.0に中和することと、可溶性および不溶性画分を生成するために液体ECMを処理することと、可溶性ECM組成物を得るために可溶性画分の少なくとも一部を不溶性画分から分離することと、を含む、方法を提供する。
【0009】
実施形態において、本発明は、可溶性および不溶性画分を生成するための液体ECMの処理が遠心分離によって達成されることを提供する。実施形態において、本発明は、可溶性ECM組成物が、不溶性材料を除去するために透析および/または濾過されることを提供する。実施形態において、本発明は、可溶性ECM組成物が、貯蔵のためにさらに凍結乾燥され、使用のために再水和されることを提供する。
【0010】
実施形態において、可溶性ECM組成物は、液体ECM中のECM固体から実質的に単離されている。実施形態において、可溶性ECM組成物は、消化された分離されていないECM材料よりも透明である。実施形態において、可溶性ECM組成物は、0.25μmフィルタを通過することができる透明なECMコロイドを含む。
【0011】
実施形態において、本発明は、組織修復または細胞動員を促進するために、有効量の可溶性ECM組成物を対象に投与することを含む、それを必要とする対象を治療する方法を提供する。実施形態において、注入は、カテーテルを介して、静脈内に、または血管内に行われる。実施形態において、本発明は、インビボで送達される場合、可溶性画分が組織内でゲルを形成することを提供する。実施形態において、可溶性画分は血管の内層をコーティングする。実施形態において、可溶性画分は、細孔、開窓、内皮破壊、開いた細胞間接合部、または漏出性もしくは損傷した血管系の間隙を充填する。
【0012】
実施形態において、本発明は、ECMの可溶性画分が、グルタルアルデヒド、ホルムアルデヒド、ビス-NHS分子、または他の架橋剤でさらに架橋されることを提供する。実施形態において、本発明は、ECMの可溶性画分が、合成ポリマーまたは生物学的に誘導された材料と組み合わされるおよび/または架橋されることを提供する。実施形態において、本発明は、ECMの可溶性画分が、細胞、ペプチド、タンパク質、DNA、薬物、ナノ粒子、抗生物質、成長因子、栄養素、生存促進添加剤、プロテオグリカン、および/またはグリコサミノグリカンと組み合わされることを提供する。
【0013】
実施形態において、本発明は、ECMの可溶性画分が、内因性の細胞内殖、血管新生、および再生のために上記の成分と組み合わせて使用されることを提供する。実施形態において、本発明は、ECMの可溶性画分が、組織の機械的特性を変化させるためのマトリックスとして上記の成分と組み合わせて使用されることを提供する。実施形態において、本発明は、ECMの可溶性画分が、損傷組織を再生もしくは修復するために、単独で、または上記の成分と組み合わせて、細胞とともに送達されることを提供する。
【0014】
実施形態において、本発明は、濃度の調整および/または滅菌濾過の後、ECMの可溶性画分を凍結乾燥し、少なくとも3ヶ月間凍結保存(例えば、20℃、-80℃)できることを提供する。次いで、可溶性ECM組成物または画分を、注射または注入の前に再懸濁および/または滅菌濾過することができる。
【0015】
実施形態において、本発明は、濃度の調整および/または滅菌濾過の後、ECMの可溶性画分を凍結乾燥し、冷蔵庫(例えば4℃)に少なくとも3ヶ月間保存できることを提供する。次いで、可溶性ECM画分は、注射または注入の前に再懸濁および/または滅菌濾過することができる。
【0016】
実施形態において、本発明は、濃度の調整および/または滅菌濾過の後、ECMの可溶性画分を凍結乾燥し、室温で少なくとも3ヶ月間保存できることを提供する。次いで、可溶性ECM画分は、注射または注入の前に再懸濁および/または滅菌濾過することができる。
【0017】
実施形態において、本発明は、液体細胞外マトリックス(プレゲル溶液)の可溶性および不溶性画分の少なくとも一部を分離する方法が、高速遠心分離、透析、濾過、またはpHもしくは塩分の調整によって行われ得ることを提供する。実施形態において、可溶性画分の分離は、ECM材料から固体の少なくとも一部を除去することによって行われる。実施形態において、可溶性画分の分離は、1μm、0.5μm、0.25μm、0.22μm、または0.2μm未満のサイズ限界を有するフィルタを用いて行われる。実施形態において、本発明は、脱細胞化組織に由来し、インビボでゲル化する前に可溶性画分を単離するために処理される可溶性ECM組成物を提供する。実施形態において、本発明は、可溶性ECMの組成物が血管内注入のために調製されることを提供する。
【0018】
実施形態において、本発明は、可溶性細胞外マトリックスの組成物が、ヒト、動物、胚、および/または胎児の組織源に由来することを提供する。実施形態において、本発明は、可溶性細胞外マトリックスの組成物が、心臓、脳、膀胱、小腸、骨格筋、腎臓、肝臓、肺、血管、および他の組織/器官組織源に由来することを提供する。
【0019】
実施形態において、本発明は、急性心筋梗塞を治療するための方法であって、筋組織に由来する可溶性の脱細胞化細胞外マトリックスを含む有効量の組成物を、心筋梗塞を有する必要とする対象に注射または注入することを含む、方法を提供する。
【0020】
実施形態において、本発明は、当該可溶性ECM組成物が注入によって血管内に送達されることを提供する。実施形態において、本発明は、当該可溶性ECM組成物がバルーン付き注入用カテーテルを用いた冠動脈内注入によって送達されることを提供する。実施形態において、本発明は、当該可溶性ECM組成物が送達後に組織内でゲル形態に移行することを提供する。実施形態において、本発明は、当該可溶性ECM組成物が送達後に損傷血管の内皮上にコーティングを形成するように移行することを提供する。実施形態において、本発明は、当該可溶性ECM組成物が注射または注入後1~14日以内に分解することを提供する。
【0021】
実施形態において、本発明は、当該組成物の注射または注入が、心筋梗塞などの、当該対象によって持続される心筋への損傷を修復することを提供する。実施形態において、本発明は、当該組成物の注射または注入が、当該対象における疾患、外傷、脳卒中および/または虚血によって引き起こされた筋肉または神経損傷を治療するために使用されることを提供する。実施形態において、本発明は、当該有効量が、血流を増加させる、生存可能な組織量を増加させる、または対象の注射もしくは注入の領域に新しい血管形成を誘発する量であることを提供する。実施形態において、本発明は、当該有効量が、対象において、細胞の生存を促進し、炎症を軽減し、注射または注入の領域で損傷した血管系を修復する量であることを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】可溶性心筋マトリックスの生成を示す。
図1Aは、単離された左心室心筋が細かく切断されることを示す。
図1Bは、1%ドデシル硫酸ナトリウム中で連続的に撹拌した後の脱細胞化を示す。
図1Cは、凍結乾燥して微粉末に粉砕したものを示す。
図1Dは、部分的に消化された心筋マトリックスを示す。(E)遠心分離後の分画された心筋マトリックス、(1)上清中のSolMM画分、および(2)不溶性ペレット。(F)皮下注射後のSolMMヒドロゲル。画像(A~D)は[3]から取得した。
【
図2】はしご(Full-Range RPN800E、レーン1)、コラーゲン(レーン2)、心筋マトリックス(レーン3)、可溶性心筋マトリックス(レーン4)のタンパク質分布を比較したPAGEを示す。
【
図3】虚血再灌流ラットモデルにおける、200μLの10mg/mL SolMMの冠動脈内注射の12時間後のSolMM(赤色グレースケール)の分布および保持を示す。(左)梗塞が心臓の下半分に広がっている、ヘマトキシリンおよびエオシンで染色された梗塞心臓の短軸像、スケールバー3mm。(右)梗塞した心筋全体にSolMMマイクロスケールゲルを表示する梗塞した心筋の挿入図、スケールバー200μm。
【
図4】ブタ虚血再灌流モデルにおける冠動脈内注入の1時間後のSolMM(赤色グレースケール)の分布および保持を示す。(左)梗塞したブタの心臓の肉眼的短軸組織像。梗塞が青色グレースケールで囲われている。(右)梗塞した心筋全体にSolMMミクロゲルを表示する梗塞した心筋。
【
図5】注入後24時間および5週間の虚血再灌流モデルにおけるSolMMの冠動脈内注入後の緩和された負の左心室リモデリング(保存されたEDVおよびESV)を示す。EDV-拡張末期容積、ESV-収縮末期容積、EF-駆出率、SolMM(青色グレースケールの四角)、生理食塩水(赤色グレースケールの円)。N=群当たり10~11。
【
図6】注入および虚血再灌流の5週間後のSolMM注入ラットにおける梗塞細動脈密度の増加を示す。細動脈は、α平滑筋アクチンおよびイソレクチンの共染色によって同定し、ImageJにおいて手動で追跡した。N=群当たり10~11。
【
図7】注入および虚血再灌流の3日後のSolMM注入ラットの梗塞境界ゾーンにおける心筋細胞アポトーシスの減少を示す。組織を心筋細胞についてα-アクチニンで染色し、アポトーシスについて切断されたカスパーゼ3で染色した。アポトーシス心筋細胞は、ImageJにおいて手動でカウントした。N=群当たり5~6。
【
図8】注入および虚血再灌流の1日後のSolMM注入ラットにおける相対的な遺伝子発現変化を示す。遺伝子発現は、LV自由壁から単離されたRNAを使用したRT-qPCRによって測定した。1日目の遺伝子発現は、血管新生経路および活性酸素種の代謝経路の増加を示唆している。N=群当たり5~6。
【
図9】注入および虚血再灌流後の3日後のSolMM注入ラットにおける相対的な遺伝子発現変化を示す。遺伝子発現は、LV自由壁から単離されたRNAを使用したRT-qPCRによって測定した。3日目の遺伝子発現は、アポトーシス/壊死および線維症経路の減少を示唆している。LRG1は血管新生経路で示唆されており、LRG1のダウンレギュレーションは線維症に関係している。N=群当たり5~6。
【
図10】虚血再灌流ラットモデルに可溶性マトリックスを注入した後の、内皮細胞の可溶性マトリックス(赤色グレースケール)およびイソレクチン(緑色グレースケール)の共焦点画像を示す。パネルは、zスタックからの連続画像である。可溶性マトリックスが小さな(直径約5um)毛細血管の内側をコーティングしているが、可溶性マトリックスは内腔を完全に閉塞していない。
【
図11】虚血再灌流ラットモデルに可溶性マトリックスを注入した後の、内皮細胞の可溶性マトリックス(赤色グレースケール)およびイソレクチン(緑色グレースケール)の共焦点画像を示す。可溶性マトリックスは内皮細胞と重複しており、血管の内腔を閉塞していない。
【
図12】注入および虚血再灌流の24時間後の可溶性マトリックス注入心臓における可溶性マトリックスの保持を示す。左から右に、1)生理食塩水、2)Vivo Tag750と結合した10mg/ml可溶性マトリックス、3)Vivo Tag750と結合した10mg/mlトリリジン、4)Vivo Tag750と結合した10mg/ml可溶性マトリックスを心臓に注入した。トリリジンは小さなペプチド対照として使用され、最小限の心臓保持を示した。
【
図13】可溶性マトリックスヒドロゲルの走査型電子顕微鏡画像を示す。スケールバー左画像20μm、スケールバー右画像5μm。
【
図14】1:50希釈(それぞれ1.0mg/mlおよび0.6mg/ml)での可溶性マトリックス(SolMM)および完全マトリックス(MM)の動的光散乱データを示しており、可溶性マトリックス粒子が直径100nm未満であるのに対し、完全なマトリックスはより大きな粒子を有することを示している。
【
図15】1:10および1:100希釈(それぞれ1.0mg/mlおよび0.1mg/ml)での可溶性マトリックス(SolMM)の動的光散乱データを示しており、直径100nm未満の粒子を示している。
【
図16】生理食塩水、可溶性マトリックス(SolMM)、完全マトリックス(MM)の吸光度(左)および透過率(右)を示す。
【
図17】可溶性マトリックス(SolMM)および完全マトリックス(MM)の相対吸光度(左)および透過率(右)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本明細書で言及されるすべての刊行物、特許、および特許出願は、個々の刊行物、特許、または特許出願が各々参照により組み込まれることが具体的かつ個別に示されているかの如く同程度に、参照により本明細書に組み込まれる。
【0024】
別段の定義がない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語および科学用語、ならびに任意の頭字語は、本発明の分野の当業者により一般的に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書に記載のものと類似または同等の任意の方法および材料が本発明の実施に使用され得るが、例示的な方法、装置、および材料が本明細書に記載される。
【0025】
本発明の実施は、特に明記しない限り、分子生物学(組換え技法を含む)、微生物学、細胞生物学、生化学、および免疫学の従来の技法を使用し、これらは当業者の技量の範囲内である。そのような技法は、Molecular Cloning:A Laboratory Manual,2nd ed.(Sambrook et al.,1989)、Oligonucleotide Synthesis(M.J.Gait,ed.,1984)、Animal Cell Culture(R.I.Freshney,ed.,1987)、Methods in Enzymology(Academic Press,Inc.)、Current Protocols in Molecular Biology(F.M.Ausubel et al.,eds.,1987,and periodic updates)、PCR:The Polymerase Chain Reaction(Mullis et al.,eds.,1994)、Remington,The Science and Practice of Pharmacy,20th ed.,(Lippincott,Williams&Wilkins 2003)、およびRemington,The Science and Practice of Pharmacy,22th ed.,(Pharmaceutical Press and Philadelphia College of Pharmacy at University of the Sciences 2012)などの文献で完全に説明されている。
【0026】
実施形態において、本発明は、治療的送達のために細胞外マトリックス(ECM)の1つ以上の生物学的に活性な可溶性画分を調製する方法であって、
a.ペプシンなどの酸性プロテアーゼで、組織から調製された脱細胞化ECMを部分的または完全に消化することと、
b.消化されたECM材料をpH7.0~8.0に中和することと、
c.可溶性および不溶性画分を生成するために液体ECM(プレゲル溶液)を処理することと、
d.可溶性ECM組成物を得るために、不溶性画分の少なくとも一部を可溶性画分から分離することと、を含む、方法を提供する。
【0027】
実施形態において、本発明は、可溶性ECM組成物がさらに凍結乾燥され、透析され、および/または濾過されることを提供する。実施形態において、本発明は、可溶性ECM組成物が凍結乾燥後に再水和されることを提供する。
【0028】
実施形態において、本発明は、臓器、組織、もしくは細胞の修復または細胞動員を促進するために、有効量の可溶性ECM組成物の血管内注入を対象に投与することを含む、それを必要とする対象を治療する方法を提供する。実施形態において、注入は、カテーテルを介して、静脈内に、または血管内に行われる。実施形態において、本発明は、インビボで送達される場合、可溶性ECM組成物が、組織の微小血管系内および/またはその周囲にゲルを形成することを提供する。
【0029】
実施形態において、本発明は、急性心筋梗塞を治療するための方法であって、筋組織に由来する可溶性の脱細胞化細胞外マトリックスを含む有効量の組成物を、心筋梗塞を有する必要とする対象に注射または注入することを含む、方法を提供する。
【0030】
実施形態において、本発明は、当該組成物が血管内に送達されることを提供する。実施形態において、本発明は、当該組成物がバルーン付き注入用カテーテルによって送達されることを提供する。実施形態において、本発明は、当該組成物が送達後に組織内でゲル形態に移行することを提供する。実施形態において、本発明は、当該組成物が注射または注入後1~14日以内に分解することを提供する。実施形態において、本発明は、当該組成物の注射または注入が、当該対象によって持続される心筋への損傷を修復することを提供する。実施形態において、本発明は、当該組成物の注射または注入が、当該対象の外傷または虚血によって引き起こされる非心臓組織の損傷を修復することを提供する。
【0031】
実施形態において、本発明は、有効量が、血流を増加させる、生存可能な組織量を増加させる、または対象の注射もしくは注入の領域に新しい血管形成を誘発する量であることを提供する。
【0032】
ヒトの治療には、細胞外マトリックスの多くの供給源種が存在する:例えば、ヒト、ブタ、ウシ、ヤギ、マウス、ラット、ウサギ、ニワトリ、および他の動物の供給源。さらに、多くの組織源が存在する:例えば、心臓、脳、膀胱、小腸、骨格筋、腎臓、肝臓、肺、血管、ならびに他の組織および器官。
【0033】
実施形態において、組織は最初に脱細胞化され、例えば、参照によりその全体が組み込まれる米国特許公開第US2013/0251687号に開示されているような細胞外マトリックスのみを残す。次いで、マトリックスは凍結乾燥されるか、粉砕されるか、または微粉化され、ペプシンまたは他の酵素で可溶化され、その後、以前に報告されたように中和および緩衝される。中和後、消化(プレゲル溶液)を分画して、可溶性画分と不溶性画分とを分離する。可溶性画分と不溶性画分との分離の処理は、遠心分離、透析、濾過、またはpHもしくは塩分の調整によって達成され得る。可溶性画分は、透析して塩を除去し、凍結乾燥し、再懸濁してECM濃度を調整することができる。ECMは、滅菌濾過、凍結乾燥、および滅菌容器に保存することができる。ECMは、注入のために適切な/生理学的濃度に再懸濁することができる。
【0034】
可溶性ECM組成物は、脱細胞化、凍結乾燥、粉砕、および消化され、固体成分の少なくとも一部が除去された細胞外マトリックス材料を指す。実施形態において、可溶性ECM組成物は、遠心分離上清から得られる。実施形態において、可溶性ECM組成物は、1μm、500nm、250nm、220nm、または200nm未満のフィルタサイズを通過することができる。天然に存在する固体ECM成分の少なくとも一部が除去された可溶性ECM組成物は、ECM固体を除去する前よりも透明な材料である。しかしながら、ECMコロイドなどのある程度の不溶性の小さな粒状物質は、依然として可溶性ECM組成物中に存在し得ることを理解されたい。可溶性ECM組成物は、天然に存在するECM固形物の少なくとも50体積%、60体積%、70体積%、80体積%、90体積%、95体積%、98体積%、または99体積%が除去された場合、実質的に単離されている。
【0035】
濃度の調整および/または滅菌濾過の後、可溶性ECM組成物を凍結乾燥し、少なくとも3ヶ月間凍結乾燥および保存(例えば、-20℃、-80℃)することができる。次いで、可溶性ECM組成物を、注射または注入の前に滅菌水で再水和することができる。
【0036】
可溶性ECM組成物は、カテーテルを介して注入するか、静脈内に送達するか、またはバルーンの有無にかかわらず血管内注入によって注入することができる。可溶性ECM組成物は、急性心筋梗塞、脳卒中、他の虚血組織、腫瘍などに見られるような損傷した漏出性血管系を通過することができる。一旦組織に入ると、可溶性ECM組成物はゲルを形成する。
【0037】
可溶性ECM組成物は、カテーテルを介して注入するか、静脈内に送達するか、またはバルーンの有無にかかわらず血管内注入によって注入することができる。可溶性ECM組成物は、急性心筋梗塞、脳卒中、他の虚血組織、腫瘍、外傷を患っている組織などに見られるような漏出性血管系の裏打ちのコーティングを構築するように集合するか、またはその細孔を充填することができる。
【0038】
可溶性ECM組成物ゲルは、グルタルアルデヒド、ホルムアルデヒド、ビス-NHS分子、または他の架橋剤で架橋することができる。可溶性ECM組成物は、細胞、ペプチド、タンパク質、DNA、薬物、栄養素、生存促進添加剤、プロテオグリカン、および/またはグリコサミノリカンと組み合わせることができる。可溶性ECM組成物は、合成ポリマーと組み合わせるおよび/または架橋することができる。可溶性ECM組成物は、単独で、または内因性の細胞内殖、血管新生、および再生のために上記の成分と組み合わせて使用することができる。可溶性ECM組成物は、組織の機械的特性を変化させるためのマトリックスとして、単独で、または上記の成分と組み合わせて使用することができる。可溶性ECM組成物は、損傷組織を再生するために、単独で、または上記の成分と組み合わせて、細胞とともに送達することができる。
【0039】
可溶性ECM組成物は、心筋梗塞、脳卒中、外傷性脳損傷、末梢動脈疾患、肝キラル症、癌性腫瘍、または腎損傷などによる組織損傷後の組織修復のために使用することができる。可溶性ECM組成物は、単独で使用することができるか、または治療薬送達ビヒクルとして作用することもできる。
【0040】
本発明は、内皮細胞の損傷または機能不全、漏出性血管系、内皮細胞接合部の破壊、血管拡張の阻害、および炎症を伴う状態を治療するための可溶性ECM組成物および方法を提供する。
【0041】
本発明は、心筋梗塞、脳卒中、および末梢動脈ならびに血管疾患を含む潜在的な再灌流傷害を伴う状態を治療するための可溶性ECM組成物および方法を提供する。可溶性ECM組成物は、再灌流傷害を減少させ、アポトーシスを減少させ、組織修復を促進するための組織工学足場としての役割を果たし得る。
【0042】
本発明は、内皮細胞の活性化および炎症をもたらす過剰または持続性の活性酸素種(ROS)の産生/シグナル伝達を治療するための可溶性ECM組成物および方法を提供する。可溶性ECM組成物は、物理的シールドおよび/またはROS隔離を通じて、ROS損傷および炎症から細胞および組織を保護することができる。
【0043】
本発明は、心臓病、虚血、および灌流を治療するための可溶性ECM組成物および方法を提供する。可溶性ECM組成物は、血管新生を促進し、組織灌流を増加させることができる。
【0044】
本発明は、糖尿病、インスリン抵抗性を治療するための可溶性ECM組成物および方法を提供する。可溶性ECM組成物は、内皮細胞を治療し、内皮依存性血管拡張を回復させることができる。
【0045】
本発明は、腫瘍増殖、転移を含む、癌を治療するための可溶性ECM組成物および方法を提供する。可溶性ECM組成物は、癌に存在する漏出性血管および内皮機能不全を治療することができる。ECM分解産物は、腫瘍の成長および形成を阻害することが示されている。
【0046】
本発明は、慢性閉塞性肺疾患、喘息、肺動脈高血圧症などの肺疾患を治療するための可溶性ECM組成物および方法を提供する。可溶性ECM組成物は、肺の損傷組織および/または内皮細胞を治療するために注入することができる。
【0047】
本発明は、慢性腎不全を治療するための可溶性ECM組成物および方法を提供する。可溶性ECM組成物は、血管を治療して血管拡張および収縮を回復させることができる。
【0048】
本発明は、静脈血栓症の治療のための可溶性ECM組成物および方法を提供する。可溶性ECM組成物の注入は、血栓症および血小板凝集を防止するために血管をコーティングすることができる。
【0049】
本発明は、重度の感染症、特に、デング出血熱およびハンタウイルス肺症候群を含む出血熱ウイルスなどの内皮バリアが破壊された疾患を治療するための可溶性ECM組成物および方法を提供する。可溶性マトリックスの注入は、内皮バリアを治療して回復させることができる。
【0050】
本発明は、アテローム性動脈硬化症を治療するための可溶性ECM組成物および方法を提供する。可溶性ECM組成物の注入は、動脈硬化性プラークをコーティングして安定化することによってプラークの破裂を防止することができるか、または内皮細胞に付着して炎症を軽減することができる。
【0051】
本発明は、肝硬変、急性肝不全を治療するための可溶性ECM組成物および方法を提供する。可溶性ECM組成物は、肝硬変における内皮機能障害を治療することができる。可溶性ECM組成物は、炎症および酸化ストレスを軽減することができる。
【0052】
本発明は、組織出血および浮腫を治療するための可溶性ECM組成物および方法を提供する。可溶性マトリックスは、内皮細胞をコーティングし、内皮細胞層の間隙を充填し、血管刺激効果によって組織灌流を増加させるか、または組織に入る流体を減少させることができる。
【0053】
本発明は、外傷性脳および他の神経学的損傷を治療するための可溶性ECM組成物および方法を提供する。可溶性マトリックスは、内皮細胞を治療して、漏出性血管を修復し、内皮依存性の拡張および一酸化窒素産生を回復し、炎症および酸化ストレスを軽減することができる。
【0054】
冠動脈内注入は、経心内膜注射の代替アプローチである。冠動脈内送達は、心筋梗塞(MI)の典型的な治療過程の間にバルーン血管形成術を伴う場合がある。冠動脈内注入は、急性MI後の漏出性血管系を利用するため、生体材料が梗塞領域に入ることを可能にする[5]。従来技術の配合物では、マトリックス材料(MM)は、可溶性画分および不溶性サブミクロン粒子(>800nm)から構成されるが、これらは大きすぎて漏出性血管系を通過すること、またはそこに付着することができない。結果として、可溶性MM(SolMM)と称される可溶性画分を少なくとも部分的に単離するための方法が提供されたが、これは漏出性血管系を通過および/またはコーティングし、依然としてインビボでヒドロゲルを形成することができる。SolMMはMMに由来するため、SolMMは、心筋細胞のアポトーシスの減少、血管新生、および負のLVリモデリングの減少を含む同様の治療効果を有する。
【0055】
本発明の理解を容易にするため、本明細書で使用されるいくつかの用語および略語を以下のように定義する。
【0056】
本発明またはその好ましい実施形態(複数可)の要素を紹介するとき、冠詞「a」、「an」、「the」、および「said」は、要素のうちの1つ以上が存在することを意味することが意図される。「含む(comprising)」、「含む(including)」、および「有する」という用語は、包括的であることを意図し、列挙される要素以外の追加の要素が存在する可能性があることを意味する。
【0057】
2つ以上の項目の列挙において「および/または」という用語が使用される場合、列挙された項目のいずれか1つを単独で使用しても、または列挙された項目のいずれか1つ以上と組み合わせて使用してもよいことを意味する。例えば、「Aおよび/またはB」という表現は、AおよびBの一方または両方、すなわち、Aのみ、Bのみ、またはAとBとの組み合わせを意味することが意図される。「A、Bおよび/またはC」という表現は、Aのみ、Bのみ、Cのみ、AとBとの組み合わせ、AとCとの組み合わせ、BとCとの組み合わせ、またはAとBとCとの組み合わせを意味することが意図される。
【0058】
本明細書に記載の本発明の態様および実施形態は、態様および実施形態「~からなる」および/または「本質的に~からなる」を含むことが理解される。
【0059】
範囲形式での説明は、便宜上かつ簡潔さのためにすぎず、本発明の範囲に対する柔軟性のない制限として解釈されるべきではないことを理解されたい。したがって、範囲の説明は、考えられるすべての部分範囲とその範囲内の個々の数値が具体的に開示されているとみなされるべきである。例えば、1~6などの範囲の説明は、1~3、1~4、1~5、2~4、2~6、3~6などの部分範囲、ならびにその範囲内の個々の数字、例えば、1、2、3、4、5、および6が具体的に開示されているとみなされるべきである。このことは、範囲の幅に関係なく適用される。また、本明細書では、値または範囲は、「約」、「約」1つの特定の値から、および/または「約」別の特定の値まで、として表され得る。そのような値または範囲が表される場合、開示される他の実施形態は、1つの特定の値から、および/または他の特定の値まで、列挙された特定の値を含む。同様に、先行詞「約」を使用することにより値が近似値として表される場合、特定の値が別の実施形態を形成することが理解されよう。本明細書で開示される値がいくつかあり、各値が、本明細書では、値自体に加えて、「約」その特定の値としても開示されることがさらに理解されよう。実施形態において、「約」は、例えば、列挙された値の10%以内、列挙された値の5%以内、または列挙された値の2%以内を意味するために使用され得る。
【0060】
本明細書で使用される場合、「医薬組成物」という用語は、薬学的に許容される組成物を指し、組成物は、薬学的に活性な薬剤を含み、いくつかの実施形態において、薬学的に許容される担体をさらに含む。いくつかの実施形態において、医薬組成物は、薬学的に活性な薬剤と担体との組み合わせであってもよい。
【0061】
「組み合わせ」という用語は、1つの投薬単位形態における固定された組み合わせ、または組み合わせ投与のためのパーツキットのいずれかを指し、1つ以上の活性化合物と組み合わせパートナー(例えば、「療法剤」または「補助薬剤」とも称される、以下で説明される別の薬物)とが同時に独立して、または時間間隔内に別々に投与され得る。いくつかの状況では、組み合わせパートナーは協同的効果、例えば、相乗効果を示す。本明細書で使用される「併用投与(co-administration)」または「組み合わせ投与(combined administration)」などの用語は、選択された組み合わせパートナーを、それを必要とする単一の対象(例えば、患者)に投与することが包含されることを意味し、薬剤が必ずしも同じ投与経路または同じ時間で投与されるわけではない治療レジメンが含まれることを意図する。本明細書で使用される「医薬の組み合わせ」という用語は、2つ以上の活性成分の混合または組み合わせにより得られ、活性成分の組み合わせが固定されているものも固定されていないものも含まれる生成物を意味する。「固定された組み合わせ」という用語は、活性成分、例えば、化合物および組み合わせパートナーの両方が単一の実体または用量の形態で同時に患者に投与されることを意味する。「固定されていない組み合わせ」という用語は、活性成分、例えば、化合物および組み合わせパートナーの両方が、特定の時間的制約を設けることなく別々の実体として同時に(simultaneously)、同時に(concurrently)、または連続して患者に投与されることを意味し、ここで、そのような投与により、2つの化合物が療法上有効な濃度で患者の体内で提供される。後者は、カクテル療法、例えば、3つ以上の活性成分の投与にも適用される。
【0062】
本明細書で使用される場合、「薬学的に許容される」という用語は、動物、より具体的にはヒトおよび/または非ヒト哺乳動物での使用に安全な他の製剤に加えて、連邦政府もしくは州政府の規制当局により承認されていること、または米国薬局方、一般に認められている他の薬局方に列挙されていることを意味する。
【0063】
本明細書で使用される場合、「薬学的に許容される担体」という用語は、脱メチレン化化合物(複数可)とともに投与される、賦形剤、希釈剤、保存剤、可溶化剤、乳化剤、アジュバント、および/またはビヒクルを指す。そのような担体は、水および油などの無菌液体であってよく、油としては、石油、動物、植物、または合成に由来する油、例えば、落花生油、大豆油、鉱油、ゴマ油など、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、または他の合成溶媒が挙げられる。ベンジルアルコールまたはメチルパラベンなどの抗菌剤;アスコルビン酸または重亜硫酸ナトリウムなどの抗酸化剤;エチレンジアミン四酢酸などのキレート剤;および塩化ナトリウムまたはデキストロースなどの張度を調整するための薬剤もまた、担体であり得る。担体と組み合わせて組成物を作成する方法は、当業者に既知である。いくつかの実施形態において、「薬学的に許容される担体」という用語は、医薬投与に適合する、ありとあらゆる溶媒、分散媒、コーティング、等張剤、および吸収遅延剤などを含むことを意図する。薬学的に活性な物質のためのそのような媒体および薬剤の使用は、当技術分野で周知である。例えば、Remington,The Science and Practice of Pharmacy,20th ed.,(Lippincott,Williams&Wilkins 2003)を参照されたい。従来の媒体または薬剤が活性化合物と適合しない場合を除き、本組成物におけるそのような使用が企図される。
【0064】
本明細書で使用される場合、「治療的に有効な」は、疾患および病態に関連する症状を治療もしくは改善する、または何らかの様式で軽減するのに十分な薬学的に活性な化合物(複数可)の量を指す。方法に関して使用される場合、その方法は、疾患または状態に関連する症状を治療もしくは改善する、または何らかの様式で軽減するのに十分有効である。例えば、加齢性眼疾患に関して有効量とは、その発病を阻止もしくは予防するか、あるいは疾患病状が始まっている場合は、その疾患の進行を緩和、改善、安定化、回復、もしくは遅延させるか、またはその疾患の病理学的結果を低減させるのに十分である量である。いずれの場合も、有効量は単回投与で与えても、または分割投与で与えてもよい。
【0065】
本明細書で使用される場合、「治療する」、「治療」、または「治療すること」という用語は、患者における疾患に関連する症状を少なくとも改善することを包含し、その場合、改善は、広い意味で使用され、例えば、治療されている疾患または状態に関連する症状などのパラメータの低度が少なくとも低減することを指す。したがって、「治療」には、疾患、障害、または病的状態、または少なくともそれらに関連する症状が、完全に阻害される(例えば、発生が予防される)かまたは停止され(stopped)(例えば、停止(terminated))、患者がそれ以上その状態、または少なくともその状態を特徴付ける症状に苦しむことがないようにする状況が含まれる。
【0066】
本明細書で使用される場合、特に指定しない限り、「予防する」、「予防すること」、および「予防」という用語は、疾患もしくは障害、またはそれらの1つ以上の症状の発病、再発、または蔓延の予防を指す。ある特定の実施形態において、これらの用語は、症状の発病前に、特に本明細書に提供される疾患または障害のリスクのある対象への、1つ以上の他の追加の活性剤(複数可)を伴うかまたは伴わない、本明細書に提供される化合物または剤形による治療またはそれらの投与を指す。これらの用語は、特定の疾患の症状の阻害または低減を包含する。ある特定の実施形態において、疾患の家族歴を有する対象は、予防レジメンの潜在的な候補である。ある特定の実施形態において、再発する症状の病歴を有する対象もまた、予防の潜在的な候補である。この点に関して、「予防」という用語は、「予防的治療」という用語と互換的に使用され得る。
【0067】
本明細書で使用される場合、特に指定しない限り、化合物の「予防的有効量」は、疾患もしくは障害を予防するか、またはその再発を予防するのに十分な量である。予防的有効量の化合物は、単独で、または1つ以上の他の薬剤(複数可)と組み合わせて、疾患の予防において予防的利益を提供する療法剤の量を意味する。「予防的有効量」という用語は、全体的な予防を改善するか、または別の予防剤の予防有効性を向上させる量を包含し得る。
【0068】
本明細書で使用される場合、特に指定しない限り、「対象」という用語は、霊長類(例えば、ヒト)、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、イヌ、ネコ、ウサギ、ラット、マウスなどを含むがこれらに限定されない哺乳動物などの動物を含むように本明細書で定義される。特定の実施形態において、対象は、ヒトである。「対象」および「患者」という用語は、本明細書では、例えば、ヒトなどの哺乳動物対象に関して互換的に使用される。
【実施例】
【0069】
実験1-SolMMの産生および特性評価
心筋マトリックス(MM)の配合物は、以前に記載されたプロトコルに基づいて生成することができる(
図1)[3]。端的に述べると、ブタ(約30~45kg)から新鮮な心臓を採取し、LV心筋を単離する。主要な血管および結合組織を除去し、残りの組織を5mm
3未満の小片に切断する(
図1A)。組織が完全に白くなるまで4~5日間、1%(w/v)ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)中で組織を脱細胞化し、その後さらに1日水ですすいで残留SDSを除去する(
図1B)。材料を凍結乾燥し、微粉末に粉砕し(
図1C)、続いて48時間部分的に酵素消化する。次いで、材料を中和し、インビボ条件に一致するように緩衝し、熱的に誘発されるゲル化が可能なMM(
図1D)を得る。
【0070】
次いで、MMを15,000RCF、4°Cで遠心分離して、可溶性画分と不溶性画分とを分離する(
図1E)。不溶性ペレットから上清を単離し、この上清を可溶性MM画分(SolMM)と称する。次いで、SolMMを透析および凍結乾燥して塩の濃度および比率を調整し、SolMMの生理学的条件を維持する。次いで、SolMMを高濃度(16mg/mL)で再懸濁し、0.22μmフィルタを通過させて滅菌容器に入れ、凍結乾燥し、秤量し、必要になるまで-80℃で保存する。次いで、注射の約30分前に、適切な濃度になるまでSolMMを滅菌水中に再懸濁する。次いで、この懸濁液をラットに皮下注射すると5分以内にゲル化し得る(
図1F、10mg/mL、500μL)。材料の一貫性は、タンパク質分布のポリアクリルアミドゲル電気泳動、DNA含有量のPicoGreenアッセイ、硫酸化グリコサミノグリカン(sGAG)含有量のジメチルメチレンブルーアッセイ、およびSDS含有量のメチレンブルーアッセイによって評価することができる。MMおよび結果として得られるSolMMを生成するための消化プロセスに起因して、質量分析から正確なデータを取得することはできない。しかしながら、PAGEは、SolMMの高分子量タンパク質を除いて、MMとSolMMとの間にタンパク質の重複分布を示す(
図2、レーン4)。
【0071】
実験2-SolMMとヒト血液との血液適合性
SolMMとヒト血液試料(n=4)との間の相互作用を、ヒト全血または多血小板血漿に対して異なる希釈(1:1、1:2、1:10)のSolMMで評価する。1:1は、血液とSolMMとの間の可能な限り高い比率を表し、1:10は、冠状血管系の体積流量および意図される注入速度(1mL/分)に基づく生理学的に適切な希釈を表す。血液適合性は、MMについて以前に記載されたように評価する[4]。赤血球の凝集は、自己血漿でヘマトクリット値を45%に調整した後、Myrenne凝集計(Myrenne GmbH)でサンプリングしてから4時間以内に行う。凝集は、うっ滞(M0)または低せん断速度(3Hz;M1)の後に評価し、吸光度(800nm)は5秒間測定する。同様に、血小板凝集は、ルミ凝集計(Chrono-log)で単離された多血小板血漿を用いて測定する。多血小板血漿に対する試料に上記と同じ希釈率を使用して、高濃度の凝固カスケードアゴニスト(アデノシン二リン酸、エピネフリン、およびコラーゲン)を添加し(1:200~1:1000希釈)、血小板凝集を吸光度により測定する(600~620nm)。
【0072】
1:1および1:10希釈(材料対ヒト血液)の結果は、全ての値が正常な生理学的範囲内にあるため、SolMMが血液適合性であることを示唆している(表1)。
【表1】
【0073】
実験3-小動物の虚血再灌流モデルにおける分布、保持、および有効性
MIのSprague Dawleyラット(225~250g)の心筋虚血再灌流モデルを使用して、左冠状動脈を45分間閉塞させた後、再灌流する。再灌流後5分以内に、大動脈を約15秒間クランプして冠動脈内注入をシミュレートし、200μlのSolMMを6、10、または14mg/mLの濃度でLV内腔に注入する。これにより、材料が冠状動脈内に強制的に押し込まれ、梗塞した心筋に分布される[12]。1時間以内に非ゲル化材料が心臓から除去されるため、注射の60分後に心臓(濃度当たりn=2)を単離し、材料が最初に分布され、次いで心臓に保持されるかどうかを判断する[5]。SolMMは、Alexa Fluor(商標)568 N-ヒドロキシスクシンイミジルエステル(Invitrogen)と結合して蛍光の検出および分析を可能にする。注入後6、12、および24時間、2、3、4、および5日、ならびに1週間の時点(時点当たりn=2~3)で、最適な濃度での材料の保持を調べて分解を評価する。対照としての役割を果たすように、生理食塩水(時点当たりn=3)を非結合Alexa Fluor(商標)568と混合する。OCT Tissue-Tekコンパウンド中で心臓を新鮮凍結し、等間隔の16の領域(領域間が約300μm)になるよう短軸方向に薄片化し、領域当たり4つのスライドを2通り作り、切片当たり10μmとした。梗塞を確認するためのH&Eに領域当たり1つのスライドを使用し、SolMMの蛍光分析に領域当たり1つのスライドを使用する。
【0074】
6、10、および14mg/mLの濃度(群当たりn=2)を使用すると、注射後1時間に、前標識したゲルの分布がより大きく、梗塞領域の強度(
図2に示す10mg/mL)が増加したことから示されるように、梗塞領域の分布は濃度とともに増加する;しかしながら、SolMM生成の収率に基づいて、10mg/mLが将来の実験に使用される。SolMMを16mg/mLで再懸濁し、続いて濾過すると、約10mg/mLの濃度が得られるため、実験1に記載されている濾過ステップに基づいて収率が特に制限される。16mg/mLを超える再懸濁濃度は、典型的に、フィルタを通過しない。
【0075】
経時的な組織学に基づいて、注入後約3日まで梗塞心臓で材料を観察した。
【0076】
ラットの虚血再灌流モデルにおいて、心筋梗塞をシミュレートするために左冠状動脈を35分間閉塞させた。次いで、心臓を再灌流し、大動脈クロスクランプモデルを使用して、冠状動脈を通して可溶性マトリックスを注入した。ラットは、注入の24時間後および5週間後に磁気共鳴画像法を使用して画像化した。左心室(LV)の容積および駆出率を
図5に示す。注入の24時間後、生理食塩水を注入した対照に、有意に保存されたLV容積(収縮末期および拡張末期)が観察された。駆出率は、生理食塩水対照を上回る増加傾向を示した。5週間後、マトリックスを注入したLV容積も、生理食塩水を注入した対照と比較して大幅に減少し、マトリックス注入が負の左心室リモデリングを軽減することが示された。
【0077】
実験4:心筋梗塞後の心臓を修復するためにバルーン付き注入用カテーテルを使用する注入可能な細胞外マトリックス。
心筋梗塞後、バルーン付き注入用カテーテルを使用した標的化送達のために、心臓の血管(例えば、左前下行枝または左主幹動脈)を通して細胞外マトリックスを注入した。
図4は、バルーン付き注入用カテーテルを使用したブタ虚血再灌流モデルにおける冠動脈内注入の1時間後の可溶性心筋マトリックス(SolMM)の分布および保持を示す。
図4左は、梗塞したブタの心臓の肉眼的短軸組織像を示す。梗塞が青色グレースケールで囲われている。
図4右は、梗塞した心筋全体にSolMMミクロゲルを表示する梗塞した心筋を赤色グレースケールチャネルで示している。
【0078】
付随する器官(脳、腎臓、肝臓、肺、脾臓)は盲検化された組織病理学者によって評価されたが、マトリックス注入の1時間後に虚血または炎症の異常な兆候は示されなかった(表2)。可溶性マトリックスゲルは、いずれの付随する器官でも観察されなかったことから、虚血組織に対する注入可能なマトリックスの標的化能力が示唆される。
【表2】
【0079】
実験5:注入可能なマトリックスは、虚血性組織または損傷組織の血管新生を促進するための足場として使用することができる。
図6は、心筋梗塞モデルにおけるマトリックス注入後の梗塞細動脈密度の増加を示す。ラット虚血再灌流モデルに注入した5週間後に梗塞を画像化した。細動脈は、α平滑筋アクチンとイソレクチンとの共染色によって同定し、ImageJにおいて手動で追跡した。血管新生経路のアップレギュレーションを
図6に示す。
【0080】
実験6:注入可能なマトリックスは、虚血性組織または損傷組織の細胞アポトーシスまたは壊死を減少させるための足場として使用することができる。
図7は、心筋梗塞モデルにおけるマトリックス注入後の心筋細胞アポトーシスの減少を示す。梗塞および梗塞境界ゾーンを、心筋細胞についてα-アクチニンで染色し、アポトーシスについて切断されたカスパーゼ3で染色した。アポトーシス心筋細胞は、ImageJにおいて手動でカウントした。アポトーシスの減少は、他の細胞タイプにまで及ぶ可能性があるが、内皮細胞、免疫細胞、線維芽細胞、ニューロン、および(心筋)筋細胞に限定されない。アポトーシス/壊死経路の減少を
図9に示す。アップレギュレートされた活性酸素種(ROS)代謝経路が
図8に示されるように、アポトーシスの減少はROS代謝の増加によって説明され得る。
【0081】
図8および
図9は、注入可能な細胞外マトリックス治療薬の修復経路が示唆される差次的遺伝子発現を示す。RNAは、マトリックス注入および虚血再灌流障害の1日後および3日後に左心室自由壁組織から単離した。1日目に、血管新生および活性酸素種の代謝経路がアップレギュレートされた。3日目に、アポトーシス/壊死の減少および線維性経路の減少が観察された。LRG1のダウンレギュレーションは心筋線維化に関係しており、反対方向に傾向が観察された。生理食塩水注入を対照として使用した。
【0082】
実験7:マトリックス注入は内皮細胞の損傷/機能障害を治療することができる。可溶性マトリックスは、内皮細胞をコーティングして活性酸素種の損傷を軽減し、内皮細胞の生存を増加させ、かつ/または虚血性損傷後の漏出性血管系の間隙を充填することができる。
虚血性損傷およびマトリックス注入に続いて、可溶性マトリックスが小血管(毛細血管/内皮細胞)の内腔をコーティングすることが観察された。
図10は、可溶性マトリックス(赤色グレースケール)でコーティングされた内皮細胞(緑色グレースケール)の内腔を示す。マトリックスが内腔を閉塞しないことに留意されたい。追加的に、
図11は、可溶性マトリックスが大血管の内皮細胞と重複しているが、内腔を閉塞していないことを示す。注入後24時間まで共焦点顕微鏡を使用して心臓を画像化し、心筋梗塞をシミュレートした。
【0083】
実験8:注入可能なマトリックスは、薬物、成長因子、マイクロRNA、または他の治療薬と同時送達することができる
可溶性細胞外マトリックス組成物は、成長因子、マイクロRNA、および他の潜在的な薬物または治療薬のための潜在的な結合ドメインを有する。注入可能なマトリックスは注入後に組織内でゲル化し得るため、治療薬の徐放に使用することができる。
【0084】
図12は、虚血再灌流モデルにおけるマトリックス注入の24時間後の梗塞組織における可溶性ECMの保持を示す。左から右に、生理食塩水、VivoTag750と結合したマトリックス、VivoTag750と結合したトリリジン、およびVivoTag750と結合したマトリックスを心臓に注入した。注入の24時間後、心臓を採取し、Licor Odysseyで画像化した。生理食塩水を注入した心臓およびトリリジンを注入した心臓とは対照的に、マトリックスを注入した心臓は、より大きな信号強度を示した。VivoTag750を含むトリリジンを小さなペプチド対照として使用したところ、感知できるほどの保持は見られなかった。
【0085】
図13は、可溶性マトリックスヒドロゲルのナノファイバー構造を示す。10mg/mlのプレゲル溶液をラットの背中に皮下注射し、次いでそれがゲルを形成したので、走査型電子顕微鏡イメージングのために採取した。ゲル構造は、天然の細胞外マトリックスを連想させる。
【0086】
実験9:動的光散乱分析によりMMとSolMMとの間の違いを示す。
図14は、1:50希釈(それぞれ1.0mg/mlおよび0.6mg/ml)での可溶性マトリックス(SolMM)および完全マトリックス(MM)の動的光散乱データを示しており、可溶性マトリックス粒子が直径100nm未満であるのに対し、完全なマトリックスはより大きな粒子を有することを示している。
【0087】
図15は、1:10および1:100希釈(それぞれ1.0mg/mlおよび0.1mg/ml)での可溶性マトリックス(SolMM)の動的光散乱データを示しており、直径100nm未満の粒子を示している。
【0088】
図16は、生理食塩水、可溶性マトリックス(SolMM)、完全マトリックス(MM)の吸光度(左)および透過率(右)を示す。
【0089】
図17は、可溶性マトリックス(SolMM)および完全マトリックス(MM)の相対吸光度(左)および透過率(右)を示す。
【0090】
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