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特許7536008表面修飾ナノダイヤモンド及び表面修飾ナノダイヤモンドの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-08
(45)【発行日】2024-08-19
(54)【発明の名称】表面修飾ナノダイヤモンド及び表面修飾ナノダイヤモンドの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/28 20170101AFI20240809BHJP
   B82Y 30/00 20110101ALI20240809BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20240809BHJP
【FI】
C01B32/28
B82Y30/00
B82Y40/00
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021524877
(86)(22)【出願日】2020-06-03
(86)【国際出願番号】 JP2020021924
(87)【国際公開番号】W WO2020246500
(87)【国際公開日】2020-12-10
【審査請求日】2023-04-25
(31)【優先権主張番号】P 2019105065
(32)【優先日】2019-06-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】110002239
【氏名又は名称】弁理士法人G-chemical
(72)【発明者】
【氏名】城 大輔
(72)【発明者】
【氏名】久米 篤史
【審査官】末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】HSIEH Feng-Jen et al.,Bioorthogonal Fluorescent Nanodiamonds for Continuous Long-Term Imaging and Tracking of Membrane Proteins,ACS Applied Materials & Interfaces,2019年,Vol. 11,pp. 19774-19781
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00-32/991
B82Y 30/00
B82Y 40/00
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノダイヤモンド粒子と、前記ナノダイヤモンド粒子を表面修飾する、ポリグリセリン鎖を有し且つ前記ポリグリセリン鎖における少なくとも一部のヒドロキシル基の水素原子が一価の有機基に置換されている表面修飾基とを含み、
前記一価の有機基が下記式(1)で表される基である、表面修飾ナノダイヤモンド。
-X-R (1)
[式(1)中、Xは、-C(=O)-又は-C(=O)-NH-を示す。Rは一価の有機基を示し、Xと結合する原子が炭素原子である。]
【請求項2】
前記表面修飾基が下記式(2)で表されるポリグリセリン鎖含有表面修飾基である、請求項1に記載の表面修飾ナノダイヤモンド。
-Y-(C)p-(C)q-OR (2)
[式(2)中、p及びqは、それぞれ、括弧内の繰り返し単位の平均重合度を示し、pは0以上の値、qは0以上の値、p+qは1以上の値である。Rは、一価の有機基を示す。[-OR]は、ポリグリセリン鎖の末端を示し、Rは水素原子又は一価の有機基を示す。但し、Rが水素原子である場合、qは0を超える値を示す。Yは、単結合又は二価の基を示し、Yから左に伸びる結合手はナノダイヤモンド粒子に結合する。]
【請求項3】
前記式(1)中、Rはアルキル基を示す、請求項1又は2に記載の表面修飾ナノダイヤモンド。
【請求項4】
前記式(1)中、Rは炭素数1~18のアルキル基を示す、請求項1又は2に記載の表面修飾ナノダイヤモンド。
【請求項5】
前記式(1)中、Rはエチル基、ブチル基、又はヘキシル基を示す、請求項1又は2に記載の表面修飾ナノダイヤモンド。
【請求項6】
FT-IRスペクトルにおいて、1510~1540cm-1付近と1700~1730cm-1付近とにそれぞれ吸収ピークを有する、請求項1~のいずれか1項に記載の表面修飾ナノダイヤモンド。
【請求項7】
FT-IRスペクトルにおいて、1730~1750cm-1付近に吸収ピークを有する、請求項1~のいずれか1項に記載の表面修飾ナノダイヤモンド。
【請求項8】
13C-NMRスペクトルにおいて、5~45ppm付近と60~85ppm付近と140~200ppm付近とにそれぞれピークを有する、請求項1~のいずれか1項に記載の表面修飾ナノダイヤモンド。
【請求項9】
表面修飾ナノダイヤモンドを、含有割合が0.1質量%となるようにヒルデブラントの溶解度パラメーター(δ)が10(cal/cm1/2以下である少なくとも1つの有機分散媒に分散させた際のメディアン径が5~100nmである、請求項1~のいずれか1項に記載の表面修飾ナノダイヤモンド。
【請求項10】
ナノダイヤモンド粒子と、前記ナノダイヤモンド粒子を表面修飾する、ヒドロキシル基を有するポリグリセリン鎖を含む表面修飾基とを有する表面修飾ナノダイヤモンド(A)と、アルコール(B1)、イソシアン酸エステル(B2)、及びカルボン酸塩化物(B3)からなる群より選択される1以上の化合物と、を反応させて請求項1~のいずれか1項に記載の表面修飾ナノダイヤモンドを得る、表面修飾ナノダイヤモンドの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、表面修飾ナノダイヤモンド及び表面修飾ナノダイヤモンドの製造方法に関する。本願は、2019年6月5日に日本に出願した特願2019-105065号の優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
ナノサイズの微細な物質は、バルク状態では発現し得ない新しい特性を有することが知られている。例えば、ナノダイヤモンド粒子(=ナノサイズのダイヤモンド粒子)は、機械的強度、高屈折率、熱伝導性、絶縁性、酸化防止性、樹脂等の結晶化を促進する作用等を有する。しかし、ナノダイヤモンド粒子は、一般に、表面原子の割合が大きいので、隣接粒子の表面原子間で作用し得るファンデルワールス力の総和が大きく、凝集(aggregation)しやすい。これに加えて、ナノダイヤモンド粒子の場合、隣接結晶子の結晶面間クーロン相互作用が寄与して非常に強固に集成する凝着(agglutination)という現象が生じ得る。そのため、ナノダイヤモンド粒子を一次粒子の状態で有機溶媒や樹脂中に分散させることは非常に困難であった。そこで、ナノダイヤモンド粒子の表面を修飾することによりナノダイヤモンド粒子に分散性を付与し、凝集を抑制することが行われている。
【0003】
例えば、ナノダイヤモンド粒子の表面にポリグリセリン鎖を導入した表面修飾ナノダイヤモンドは、水や極性有機溶媒への溶解性或いは分散性に優れることが知られている(特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2010-248023号公報
【文献】特開2012-82103号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ポリグリセリン鎖を導入した表面修飾ナノダイヤモンドは、一般的に極性が極端に高いため、使用可能な分散媒が高極性溶媒に限定されていた。
【0006】
従って、本開示の目的は、低極性溶媒に対する分散性に優れるポリグリセリン鎖含有表面修飾ナノダイヤモンド及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、ポリグリセリン鎖含有表面修飾ナノダイヤモンドにおけるポリグリセリン鎖末端をアルコール、イソシアン酸エステル、又はカルボン酸塩化物で封止することにより、ヒドロキシル基末端が封止されていないポリグリセリン鎖を含む表面修飾基を有するナノダイヤモンド粒子と比較して、低極性溶媒に対する分散性に優れるポリグリセリン鎖含有表面修飾ナノダイヤモンドが得られることを見出した。本開示はこれらの知見に基づいて完成させたものに関するである。
【0008】
すなわち、本開示は、ナノダイヤモンド粒子と、上記ナノダイヤモンド粒子を表面修飾する、ポリグリセリン鎖を有し且つ上記ポリグリセリン鎖における少なくとも一部のヒドロキシル基の水素原子が一価の有機基に置換されている表面修飾基とを含む、表面修飾ナノダイヤモンドを提供する。
【0009】
上記一価の有機基は、下記式(1)で表される基であることが好ましい。
-X-R (1)
[上記式(1)中、Xは、単結合、-C(=O)-、又は-C(=O)-NH-を示す。Rは一価の有機基を示し、Xと結合する原子が炭素原子である。]
【0010】
上記表面修飾基は下記式(2)で表されるポリグリセリン鎖含有表面修飾基であることが好ましい。
-Y-(C362)p-(C3521)q-OR2 (1)
[式(1)中、p及びqは、それぞれ、括弧内の繰り返し単位の平均重合度を示し、pは0以上の値、qは0以上の値、p+qは1以上の値である。R1は、一価の有機基を示す。[-OR2]は、ポリグリセリン鎖の末端を示し、R2は水素原子又は一価の有機基を示す。但し、R2が水素原子である場合、qは0を超える値を示す。Yは、単結合又は二価の基を示し、Yから左に伸びる結合手はナノダイヤモンド粒子に結合する。]
【0011】
上記式(1)中、Rはアルキル基を示すことが好ましい。
【0012】
上記式(1)中、Rは炭素数1~18のアルキル基を示すことが好ましい。
【0013】
上記式(1)中、Rはエチル基、ブチル基、又はヘキシル基を示すことが好ましい。
【0014】
上記表面修飾ナノダイヤモンドは、FT-IRスペクトルにおいて、1510~1540cm-1付近と1700~1730cm-1付近とにそれぞれ吸収ピークを有するものであってもよい。
【0015】
上記表面修飾ナノダイヤモンドは、FT-IRスペクトルにおいて、1730~1750cm-1付近に吸収ピークを有するものであってもよい。
【0016】
上記表面修飾ナノダイヤモンドは、13C-NMRスペクトルにおいて、5~45ppm付近と60~85ppm付近と140~200ppm付近とにそれぞれピークを有するものであってもよい。
【0017】
上記表面修飾ナノダイヤモンドは、表面修飾ナノダイヤモンドを、含有割合が0.1質量%となるようにヒルデブラントの溶解度パラメーター(δ)が10(cal/cm31/2以下である少なくとも1つの有機分散媒に分散させた際のメディアン径が5~100nmであることが好ましい。
【0018】
また、本開示は、ナノダイヤモンド粒子と、上記ナノダイヤモンド粒子を表面修飾する、ヒドロキシル基を有するポリグリセリン鎖を含む表面修飾基とを有する表面修飾ナノダイヤモンド(A)と、アルコール(B1)、イソシアン酸エステル(B2)、及びカルボン酸塩化物(B3)からなる群より選択される1以上の化合物と、を反応させて上記表面修飾ナノダイヤモンドを得る、表面修飾ナノダイヤモンドの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0019】
本開示の表面修飾ナノダイヤモンドは、ヒドロキシル基末端が封止されていないポリグリセリン鎖を含む表面修飾基を有するナノダイヤモンド粒子と比較して、低極性溶媒に対する分散性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本開示の一実施形態に係る表面修飾ナノダイヤモンドの一例を示す拡大模式図であり、表面修飾ND[1]は、ND粒子(部分)[2]の表面に、ポリグリセリン鎖[4]を備えた表面修飾基[3]を有する。
図2】実施例1で得られた表面修飾ナノダイヤモンドのFT-IRスペクトルを示す図である。
図3】実施例2で得られた表面修飾ナノダイヤモンドのFT-IRスペクトルを示す図である。
図4】実施例3で得られた表面修飾ナノダイヤモンドのFT-IRスペクトルを示す図である。
図5】実施例4で得られた表面修飾ナノダイヤモンドのFT-IRスペクトルを示す図である。
図6】実施例5で得られた表面修飾ナノダイヤモンドのFT-IRスペクトルを示す図である。
図7】比較例1で得られたナノダイヤモンドのFT-IRスペクトルを示す図である。
図8】実施例2で得られた表面修飾ナノダイヤモンドの13C-NMRスペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
[表面修飾ナノダイヤモンド]
本開示の一実施形態に係る表面修飾ナノダイヤモンド(以後、ナノダイヤモンドを「ND」と称する場合がある)は、ナノダイヤモンド粒子と、上記ナノダイヤモンド粒子を表面修飾する、ポリグリセリン鎖を有し且つ上記ポリグリセリン鎖における少なくとも一部のヒドロキシル基の水素原子が一価の有機基に置換されている表面修飾基とを含む。なお、本明細書において、上記ポリグリセリン鎖を有し且つ上記ポリグリセリン鎖における少なくとも一部のヒドロキシル基の水素原子が一価の有機基に置換されている表面修飾基を「表面修飾基(X)」と称する場合がある。上記表面修飾NDは、表面修飾基(X)を一種のみ有していてもよいし、二種以上を有していてもよい。
【0022】
図1は本開示の一実施形態に係る表面修飾NDの一例を示す拡大模式図であり、表面修飾ND[1]は、ND粒子[2]の表面に、少なくとも一部のヒドロキシル基の水素原子が一価の有機基に置換されているポリグリセリン鎖[4]を備えた表面修飾基(表面修飾基(X))[3]を有する。なお、図1中Yは、後述の式(2)におけるYと同じである。
【0023】
表面修飾NDを構成するND粒子は、ナノダイヤモンドの一次粒子を含むことが好ましい。その他、上記一次粒子が数個~数十個程度凝集(凝着)した二次粒子を含んでいてもよい。また、表面修飾NDの表面には、表面修飾基(X)以外にも、その他の表面官能基(例えば、アミノ基、ヒドロキシル基、カルボキシル基など)を一種又は二種以上有していてもよい。
【0024】
表面修飾基(X)は、ポリグリンセリン鎖を有し且つ上記ポリグリセリン鎖における少なくとも一部のヒドロキシル基の水素原子が一価の有機基に置換されている基である。すなわち、上記一価の有機基は、ポリグリセリン鎖末端ヒドロキシル基に由来する酸素原子に結合している。表面修飾基(X)において、ポリグリセリン鎖は、ND粒子に、直接結合していてもよいし、二価の基を介して結合していてもよい。上記二価の基としては、後述の式(2)におけるYとして例示された二価の基が挙げられる。
【0025】
上記一価の有機基としては、例えば、置換又は無置換の炭化水素基(一価の炭化水素基)、置換又は無置換の複素環式基(一価の複素環式基)、これらが2以上結合した基、これらと接合基が結合した基などが挙げられる。上記結合した基は、直接結合していてもよいし、連結基を介して結合していてもよい。上記連結基としては、例えば、アミノ基、エーテル結合、エステル結合、ホスフィン酸基、スルフィド結合、カルボニル基、有機基置換アミド基、有機基置換ウレタン結合、有機基置換イミド結合、チオカルボニル基、シロキサン結合、これらの2以上が結合した基などが挙げられる。また、上記接合基は、ポリグリセリン鎖末端ヒドロキシル基に由来する酸素原子に接合する基であり、例えば、上記酸素原子と結合して、エステル基を形成する基、ウレタン結合(カルバモイル基など)を形成する基などが挙げられる。
【0026】
上記一価の有機基における炭化水素基としては、例えば、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基、これらが2以上結合した基などが挙げられる。
【0027】
上記脂肪族炭化水素基としては、例えば、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基などが挙げられる。アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、イソオクチル基、デシル基、ドデシル基等のC1-20アルキル基(好ましくはC1-10アルキル基、より好ましくはC1-4アルキル基)などが挙げられる。アルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、メタリル基、1-プロペニル基、イソプロペニル基、1-ブテニル基、2-ブテニル基、3-ブテニル基、1-ペンテニル基、2-ペンテニル基、3-ペンテニル基、4-ペンテニル基、5-ヘキセニル基等のC2-20アルケニル基(好ましくはC2-10アルケニル基、より好ましくはC2-4アルケニル基)などが挙げられる。アルキニル基としては、例えば、エチニル基、プロピニル基等のC2-20アルキニル基(好ましくはC2-10アルキニル基、より好ましくはC2-4アルキニル基)などが挙げられる。
【0028】
上記脂環式炭化水素基としては、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロドデシル基等のC3-12シクロアルキル基;シクロヘキセニル基等のC3-12シクロアルケニル基;ビシクロヘプタニル基、ビシクロヘプテニル基等のC4-15架橋環式炭化水素基などが挙げられる。
【0029】
上記芳香族炭化水素基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基等のC6-14アリール基(特に、C6-10アリール基)などが挙げられる。
【0030】
上記複素環式基を形成する複素環としては、芳香族性複素環、非芳香族性複素環が挙げられる。このような複素環としては、環を構成する原子に炭素原子と少なくとも一種のヘテロ原子(例えば、酸素原子、硫黄原子、窒素原子等)を有する3~10員環(好ましくは4~6員環)、これらの縮合環が挙げられる。具体的には、ヘテロ原子として酸素原子を含む複素環(例えば、オキシラン環等の3員環;オキセタン環等の4員環;フラン環、テトラヒドロフラン環、オキサゾール環、イソオキサゾール環、γ-ブチロラクトン環等の5員環;4-オキソ-4H-ピラン環、テトラヒドロピラン環、モルホリン環等の6員環;ベンゾフラン環、イソベンゾフラン環、4-オキソ-4H-クロメン環、クロマン環、イソクロマン環等の縮合環;3-オキサトリシクロ[4.3.1.14,8]ウンデカン-2-オン環、3-オキサトリシクロ[4.2.1.04,8]ノナン-2-オン環等の橋かけ環)、ヘテロ原子として硫黄原子を含む複素環(例えば、チオフェン環、チアゾール環、イソチアゾール環、チアジアゾール環等の5員環;4-オキソ-4H-チオピラン環等の6員環;ベンゾチオフェン環等の縮合環等)、ヘテロ原子として窒素原子を含む複素環(例えば、ピロール環、ピロリジン環、ピラゾール環、イミダゾール環、トリアゾール環等の5員環;イソシアヌル環、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環、ピペリジン環、ピペラジン環等の6員環;インドール環、インドリン環、キノリン環、アクリジン環、ナフチリジン環、キナゾリン環、プリン環等の縮合環等)などが挙げられる。
【0031】
脂肪族炭化水素基と脂環式炭化水素基とが結合した基としては、例えば、シクロへキシルメチル基、メチルシクロヘキシル基などが挙げられる。脂肪族炭化水素基と芳香族炭化水素基とが結合した基としては、例えば、ベンジル基、フェネチル基等のC7-18アラルキル基(特に、C7-10アラルキル基)、シンナミル基等のC6-10アリール-C2-6アルケニル基、トリル基等のC1-4アルキル置換アリール基、スチリル基等のC2-4アルケニル置換アリール基などが挙げられる。
【0032】
上記一価の炭化水素基及び/又は上記一価の複素環式基が連結基を介して2以上結合した基としては、例えば、上記一価の炭化水素基及び/又は上記一価の複素環式基と、アルコキシ基、アルケニルオキシ基、アルキニルオキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アシルオキシ基、アルキルチオ基、アルケニルチオ基、アリールチオ基、アラルキルチオ基、アシル基、アルケニルカルボニル基、アリールカルボニル基、アラルキルカルボニル基、アルコキシカルボニル基、アルケニルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基、ジアルキルアミノ基、アシルアミノ基、オキセタニル基含有基、カルバモイル基、又はこれらの2以上が結合した基とが結合した基などが挙げられる。
【0033】
上記一価の有機基は置換基を有していてもよい。上記置換基としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子;ヒドロキシル基;メルカプト基;カルボキシ基;アミノ基;オキソ基などが挙げられる。
【0034】
上記一価の有機基としては、中でも、下記式(1)で表される基であることが好ましい。
-X-R (1)
[上記式(1)中、Xは、単結合、-C(=O)-、又は-C(=O)-NH-を示す。Rは一価の有機基を示し、Xと結合する原子が炭素原子である。]
【0035】
上記Rにおける一価の有機基としては、例えば、置換又は無置換の炭化水素基(一価の炭化水素基)、置換又は無置換の複素環式基(一価の複素環式基)、これらが2以上結合した基などが挙げられる。上記結合した基は、直接結合していてもよいし、連結基を介して結合していてもよい。上記連結基としては、例えば、アミノ基、エーテル結合、エステル結合、ホスフィン酸基、スルフィド結合、カルボニル基、有機基置換アミド基、有機基置換ウレタン結合、有機基置換イミド結合、チオカルボニル基、シロキサン結合、これらの2以上が結合した基などが挙げられる。上記一価の炭化水素基、一価の複素環式基、及びこれらが2以上結合した基としては、それぞれ、上述の表面修飾基(X)における一価の有機基(ポリグリセリン鎖末端ヒドロキシル基に由来する酸素原子に結合した一価の有機基)として例示及び説明されたものが挙げられる。
【0036】
上記Rとしては、中でも、置換又は無置換の炭化水素基が好ましく、より好ましくはアルキル基、さらに好ましくは炭素数1~18のアルキル基、さらに好ましくは炭素数1~6のアルキル基、特に好ましくはエチル基、ブチル基、又はヘキシル基である。表面修飾基(X)に含まれる上記式(1)で表される基が複数存在する場合、複数の上記式(1)で表される基におけるRは、互いに、同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0037】
表面修飾基(X)は、下記式(2)で表されるポリグリセリン鎖含有表面修飾基であることが好ましい。
-Y-(C362)p-(C3521)q-OR2 (2)
[式(2)中、p及びqは、それぞれ、括弧内の繰り返し単位の平均重合度を示し、pは0以上の値、qは0以上の値、p+qは1以上の値である。R1は、一価の有機基を示す。[-OR2]は、ポリグリセリン鎖の末端を示し、R2は水素原子又は一価の有機基を示す。但し、R2が水素原子である場合、qは0を超える値を示す。Yは、単結合又は二価の基を示し、Yから左に伸びる結合手はND粒子に結合する。]
【0038】
上記式(2)中のpが付された[C362]は、下記式(3)~(5)で示される構造の1以上を有する。
-OCH2-CHOH-CH2- (3)
-OCH(CH2OH)-CH2- (4)
-OCH2-CH(CH2OH)- (5)
【0039】
上記式(2)中のqが付された[C3521]は、下記式(6)~(8)で示される構造の1以上を有する。
-OCH2-CH(OR1)-CH2- (6)
-OCH(CH2OR1)-CH2- (7)
-OCH2-CH(CH2OR1)- (8)
【0040】
上記式(2)中、p及びqは、それぞれ、括弧内の繰り返し単位の平均重合度(数平均重合度)を示す。pは0以上の値、qは1以上の値、p+qは1以上の値を示す。但し、R2が水素原子である場合、qは0を超える値を示す。p+qは、好ましくは1~100、より好ましくは2~40、さらに好ましくは3~30である。p+qが1以上であると、表面修飾基同士の立体障害が充分となり分散媒中で分散しやすい。p+qが100以下であると、表面修飾基同士が絡まり合うのを抑制し、分散媒中で分散しやすい。また、ナノダイヤモンド材料としての特性を損ないにくい。なお、[q/(p+q)]は、0.6以上(例えば0.8~1.0)が好ましい。
【0041】
なお、上記平均重合度は、原料ナノダイヤモンドの表面官能基1に対し結合したポリグリセリン鎖を構成するグリシドール単位の数で定義され、該原料ナノダイヤモンドの表面官能基数は原料ナノダイヤモンドの元素分析値測定、酸価の測定、又はこれら両方を組み合わせて測定することにより求めることができる。
【0042】
上記式(2)中、R1は一価の有機基を示し、好ましくは上記式(1)で表される基を示す。R1における一価の有機基としては、例えば、上述の表面修飾基(X)における一価の有機基(ポリグリセリン鎖末端ヒドロキシル基に由来する酸素原子に結合した一価の有機基)として例示及び説明されたものが挙げられる。
【0043】
上記式(2)中、[-OR2]は、ポリグリセリン鎖の末端を示し、R2は水素原子又は一価の有機基を示し、好ましくは上記式(1)で表される基を示す。R2が一価の有機基である場合、上記式(2)における複数のR2は、同一であることが好ましい。R2における一価の有機基としては、例えば、上述の表面修飾基(X)における一価の有機基(ポリグリセリン鎖末端ヒドロキシル基に由来する酸素原子に結合した一価の有機基)として例示及び説明されたものが挙げられる。
【0044】
式(2)中、Yは、単結合又は二価の基を示し、Yから左に伸びる結合手はND粒子に結合する。上記二価の基としては、アミノ基(-NH-)、エーテル結合(-O-)、エステル結合(-C(=O)O-)、ホスフィン酸基(-PH(=O)O-)、スルフィド結合(-S-)、カルボニル基(-C(=O)-)、アミド基(-C(=O)-NH-)、ウレタン結合(-NH-C(=O)-O-)、イミド結合(-C(=O)-NH-C(=O)-)、チオカルボニル基(-C(=S)-)、シロキサン結合(-Si-O-)、二価の炭化水素基、これらの2以上が結合した基などが挙げられる。上記二価の炭化水素基としては、上記一価の炭化水素基から水素原子を1個除去した残基が挙げられる。また、上記二価の基は、置換基を有していてもよい。上記置換基としては、上記一価の有機基が有していてもよい置換基として例示及び説明されたものが挙げられる。
【0045】
上記Yとしては、中でも、単結合、-NH-、-O-、-C(=O)O-、-PH(=O)O-、-S-が好ましく、より好ましくは単結合である。
【0046】
上記式(2)において、pが付された構成単位とqが付された構成単位の結合順序は特に限定されない。すなわち、式(2)中のYと結合する酸素原子は、pが付された構成単位における酸素原子であってもよく、qが付された構成単位における酸素原子であってもよい。同様に、式(2)中のOR2と結合する式(2)中の炭素原子は、pが付された構成単位における炭素原子であってもよく、qが付された構成単位における炭素原子であってもよい。また、p及びqのうち一方が1以上の値であり他方が2以上の値である場合、pが付された構成単位とqが付された構成単位の結合方法は、ランダム、交互、ブロックのいずれであってもよい。qが付された構成単位を複数有する場合、複数のR1はそれぞれ同一であってもよく異なっていてもよい。複数のR1が異なる場合、qが付された構成単位の結合形態は、ランダム、交互、ブロックのいずれであってもよい。
【0047】
上記表面修飾NDにおける、表面修飾基(X)に対するNDの質量比[ND/表面修飾基(X)]は、特に限定されないが、0.5~1.0が好ましく、より好ましくは0.6~0.8である。上記質量比が0.5以上(特に、0.6以上)であると、ナノダイヤモンド材料としての特性を損ないにくい。上記質量比が1.0以下(特に、0.8以下)であると、表面修飾基(X)の修飾度が充分となり、低極性溶媒における分散性により優れる。上記質量比は、熱重量分析により測定される重量減少率に基づき、減少した重量をポリグリセリン鎖含有表面修飾基の質量として求められる。
【0048】
第1の態様において、上記表面修飾NDは、FT-IRスペクトルにおいて、1510~1540cm-1付近と1700~1730cm-1付近とにそれぞれ吸収ピークを有することが好ましい。このような吸収ピークを有する上記表面修飾NDは、上記式(1)におけるXが-C(=O)-NH-である表面修飾NDに該当すると推定される。1510~1540cm-1付近の吸収ピークはN-H伸縮振動に由来するピークであり、1700~1730cm-1付近の吸収ピークはC=O伸縮振動に由来するピークであると推測される。上記吸収ピークは、上記式(1)におけるRなどによって多少変動することがある。
【0049】
また、第2の態様において、上記表面修飾NDは、FT-IRスペクトルにおいて、1730~1750cm-1付近に吸収ピークを有することが好ましい。このような吸収ピークを有する上記表面修飾NDは、上記式(1)におけるXが-C(=O)-である表面修飾NDに該当すると推定される。1730~1750cm-1付近の強いシャープな吸収ピークはC=O伸縮振動に由来するピークであると推測される。上記吸収ピークは、上記式(1)におけるRなどによって多少変動することがある。
【0050】
上記表面修飾NDは、13C-NMRスペクトルにおいて、140~200ppm付近にピークを有することが好ましい。このようなピークを有する上記表面修飾NDは、上記式(1)におけるXが-C(=O)-や-C(=O)-NH-などのカルボニル炭素を含む表面修飾NDに該当すると推定される。また、上記表面修飾NDは、13C-NMRスペクトルにおいて、60~85ppm付近にピークを有することが好ましい。上記ピークは、ポリグリセリンに由来するピークであると推測される。また、上記表面修飾NDは、13C-NMRスペクトルにおいて、5~45ppm付近にピークを有することが好ましい。このようなピークを有する上記表面修飾NDは、上記式(1)におけるRが一価の脂肪族炭化水素基を含む表面修飾NDに該当すると推定される。上記ピークは、上記式(1)におけるRなどによって多少変動することがある。
【0051】
上記表面修飾NDは、表面修飾NDを、含有割合が0.1質量%となるようにSP値が10(cal/cm31/2以下である少なくとも1つの有機分散媒に分散させた際のメディアン径(D50)が5~100nmであることが好ましい。すなわち、上記SP値を満たす有機分散媒のうちの少なくとも1つの有機分散媒に対して、分散媒中の上記表面修飾NDのメディアン径が上記範囲内であることが好ましい。上記メディアン径は、より好ましくは5~80nm、さらに好ましくは5~50nmである。なお、上記SP値は、25℃におけるヒルデブラントの溶解度パラメーター(δ)をいうものとする。上記メディアン径が上記範囲内であると、ヒドロキシル基末端が封止されていないポリグリセリン鎖を含む表面修飾基を有するナノダイヤモンド粒子と比較して、低極性溶媒に対する分散性により優れることとなる。
【0052】
上記メディアン径は、具体的には、表面修飾ND含有割合が0.1質量%になるように上記有機分散媒を加え、超音波洗浄器で5分間撹拌し、1日静置後、20000×gで10分間遠心分離した上澄みの表面修飾ND粒子について測定して求めることができる。
【0053】
上記SP値が10(cal/cm31/2以下である有機分散媒としては、例えば、ヘキサン(SP:7.0)、アルキルベンゼン(SP:7.6)、メチルイソブチルケトン(MIBK、SP:8.4)、トルエン(SP:8.8)、テトラヒドロフラン(SP:9.1)、酢酸エチル(SP:9.1)、メチルエチルケトン(MEK、SP:9.3)、クロロホルム(SP:9.3)、ポリオールエステル(SP:9.6)、塩化メチレン(SP:9.7)、ジオキサン(SP:9.8)、二塩化エチレン(SP:9.8)アセトン(SP:10.0)、ポリα-オレフィン(SP:6.0~8.0程度)、鉱油(SP:6.0~8.0程度)などが挙げられる。上記SP値は、7~10.0(cal/cm31/2が好ましく、より好ましくは7.3~9.9(cal/cm31/2である。
【0054】
上記表面修飾NDは、低極性溶媒に対する分散性に優れ、また、ポリグリセリン鎖の分岐構造若しくはポリグリセリン鎖の長さの調整などによりND粒子の極性をコントロールすることで、様々な分散媒に対する分散性と樹脂に対する親和性が実現される。このため、CMP向け研磨剤やドレッサー用材料、燃料電池向け耐腐食性電極メッキ材料、切削工具等の高硬度表面コーティング層形成材料、高耐熱・高熱伝導材料など、工学応用分野で使用できる。
【0055】
上記表面修飾NDの粒子径(D50)は、例えば400nm以下であり、好ましくは300nm以下、より好ましくは100nm以下、さらに好ましくは50nm以下である。表面修飾NDの粒子径(D50)の下限は、例えば5nmである。また、粒子径(D90)は、例えば500nm以下であり、好ましくは180nm以下、より好ましくは170nm以下である。表面修飾NDの粒子径(D90)の下限は、例えば50nmである。表面修飾NDの粒子径が小さいほど、後述の複合材料において高い透明性が得られる点で好ましい。なお、表面修飾NDの(平均)粒子径は、動的光散乱法によって測定することができる。
【0056】
[ナノダイヤモンド分散組成物]
上記表面修飾NDを分散媒に分散させることにより、分散媒と、上記分散媒中に分散している上記表面修飾NDとを含む、ナノダイヤモンド分散組成物(ND分散組成物)が得られる。
【0057】
上記分散媒は、上記表面修飾NDを分散させるための媒体であり、水、有機溶媒、イオン液体などが挙げられる。上記分散媒は、一種のみを用いてもよいし、二種以上を用いてもよい。
【0058】
上記有機溶媒としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の脂肪族炭化水素(特に、直鎖状飽和脂肪族炭化水素);ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素;ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド等の非プロトン性極性溶媒;メタノール等のアルコール;クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタン、四塩化炭素、クロロベンゼン、トリフルオロメチルベンゼン等のハロゲン化炭化水素;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン等の鎖状又は環状エーテル;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル;メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン等の鎖状ケトン;アセトニトリル等のニトリルなどが挙げられる。中でも、環状エーテル又は鎖状ケトンが、上記表面修飾NDの分散性に特に優れる点で好ましく、特に好ましくは鎖状ケトンである。
【0059】
上記ND分散組成物中のND粒子の含有割合は、特に限定されないが、例えば0.1質量ppm~10質量%である。
【0060】
上記ND粒子の含有割合は、350nmにおける吸光度より算出することができる。なお、表面修飾NDの含有割合が低濃度(例えば2000質量ppm以下)である場合、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP発光分光分析法)によりND粒子を表面修飾している化合物を検出し、その検出量に基づき求めることもできる。
【0061】
上記ND分散組成物中の分散媒の含有割合は、例えば90~99.9999質量%である。なお、上限は100質量%である。
【0062】
上記ND分散組成物は、上記表面修飾ND及び分散媒のみからなるものであってもよく、その他の成分を含有していてもよい。その他の成分としては、例えば、界面活性剤、増粘剤、カップリング剤、分散剤、防錆剤、腐食防止剤、凝固点降下剤、消泡剤、耐摩耗添加剤、防腐剤、着色料などが挙げられる。上記その他の成分の含有割合は、上記ND分散組成物総量に対して、例えば30質量%以下、好ましくは20質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは5質量%以下、特に好ましくは1質量%以下である。従って、上記表面修飾ND及び分散媒の合計の含有割合は、上記ND分散組成物総量に対して、例えば70質量%以上、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上、特に好ましくは99質量%以上である。
【0063】
上記ND分散組成物は、上記表面修飾NDを高分散状態で含有する。上記ND分散組成物中におけるND粒子の平均分散粒子径(D50)は、例えば100nm以下であり、好ましくは60nm以下、より好ましくは50nm以下、さらに好ましくは30nm以下である。上記ND粒子の平均分散粒子径の下限は、例えば5nmである。
【0064】
上記ND分散組成物は、ヘイズ値が5以下であることが好ましく、より好ましくは3以下、さらに好ましくは1以下である。上記ND分散組成物は上記表面修飾NDの分散性に優れるため、上記ヘイズ値のND分散組成物を得ることができる。上記ヘイズ値は、JIS K 7136に基づいて測定することができる。
【0065】
上記ND分散組成物は、例えば、微細なND粒子が有する特性(例えば、機械的強度、高屈折率、熱伝導性、絶縁性、酸化防止性、結晶化促進作用、デンドライト抑制作用等)を樹脂など(例えば、熱若しくは光硬化性樹脂や熱可塑性樹脂等)に付与する、複合材料の添加剤として好ましく使用することができる。そして、上記ND分散組成物を樹脂に添加して得られる組成物は、例えば、機能性ハイブリッド材料、熱的機能(耐熱、蓄熱、熱電導、断熱等)材料、フォトニクス(有機EL素子、LED、液晶ディスプレイ、光ディスク等)材料、バイオ・生体適合性材料、コーティング材料、フィルム(タッチパネルや各種ディスプレイ等のハードコートフィルム、遮熱フィルム等)材料、シート材料、スクリーン(透過型透明スクリーン等)材料、フィラー(放熱用フィラー、機械特性向上用フィラー等)材料、耐熱性プラスチック基板(フレキシブルディスプレイ用基板等)材料、リチウムイオン電池等材料として好ましく使用することができる。また、上記ND分散組成物は、その他、医療用途や、機械部品(例えば、自動車や航空機等)の摺動部などに適用する減摩剤又は潤滑剤としても使用できる。
【0066】
[表面修飾ナノダイヤモンド、ナノダイヤモンド分散組成物の製造方法]
上記表面修飾NDは、ND粒子と、上記ND粒子を表面修飾する、ヒドロキシル基を有するポリグリセリン鎖を含む表面修飾基とを有する表面修飾ND(A)とアルコール(B1)、イソシアン酸エステル(B2)、及びカルボン酸塩化物(B3)からなる群より選択される1以上の化合物とを反応させて製造することができる。
【0067】
上記ポリグリセリン鎖を含む表面修飾基(ポリグリセリン鎖含有表面修飾基)は、ポリグリセリン鎖上にヒドロキシル基を有する。上記ポリグリセリン鎖含有表面修飾基を有する表面修飾ND(「表面修飾ND(A)」と称する場合がある)は、ND粒子に直接グリシドールを開環重合させることにより得ることができる。ND粒子は本来的に製造過程で生じるカルボキシル基やヒドロキシル基を有しており、これらの官能基とグリシドールを反応させることにより、NDの表面をポリグリセリン鎖によって修飾できる。
【0068】
ND粒子とグリシドールとの反応(開環重合)は、例えば、不活性ガス雰囲気下でND粒子にグリシドール及び触媒を添加し、50~100℃に加熱することによって行うことができる。触媒としては、酸性触媒でも塩基性触媒でも用いることができる。酸性触媒としては、トリフルオロホウ素エーテラート、酢酸、リン酸などが挙げられる。塩基性触媒としては、トリエチルアミン、ピリジン、ジメチルアミノピリジン、トリフェニルホスフィンなどが挙げられる。
【0069】
グリシドールの開環重合条件に関しては、S. R. SandlerらのJ. Polym. Sci., Polym. Chem. Ed., Vol. 4, 1253(1966)や、E. J. VanderbergのJ. Polym. Sci., Polym. Chem. Ed., vol. 23, 915(1985)、またG. R. NewcomeらのDendritic Macromolecules: Concepts , Syntheses, Perspectives, VCH, Weinheim(1996)などを適宜参照できる。
【0070】
表面修飾ND(A)は、また、表面に活性水素を含む官能基を導入したND粒子に、グリシドールを開環重合させることにより得ることもできる。活性水素を含む官能基としては、特に限定されないが、例えば、アミノ基、水酸基、カルボキシル基、メルカプト基(チオール基)、ホスフィン酸基などが挙げられる。ND粒子に上記活性水素を含む官能基を導入する方法としては、特開2012-82103号公報、特開2010-248023号公報などを参照することができる。上記表面に活性水素を含む官能基を導入したND粒子へのグリシドールの開環重合は、上述のND粒子へのグリシドールの開環重合と同様にして行うことができる。
【0071】
そして、アルコール(B1)を用いる場合、上記表面修飾NDは、上記表面修飾ND(A)とアルコール(B1)との反応により脱水縮合してエーテル結合を形成して得られる。イソシアン酸エステル(B2)を用いる場合、上記表面修飾NDは、上記表面修飾ND(A)とイソシアン酸エステル(B2)との反応により、イソシアン酸エステルにおけるイソシアネート基と上記ヒドロキシル基とが付加してウレタン結合(カルバモイル基)を形成して得られる。また、カルボン酸塩化物(B3)を用いる場合、上記表面修飾NDは、上記表面修飾ND(A)とカルボン酸塩化物(B3)との反応によりエステル結合を形成して得られる。
【0072】
アルコール(B1)、イソシアン酸エステル(B2)、及びカルボン酸塩化物(B3)は、得られる上記表面修飾NDに応じて適宜選択することができる。アルコール(B1)におけるヒドロキシル基に結合した有機基、イソシアン酸エステル(B2)における窒素原子上の有機基、及びカルボン酸塩化物(B3)におけるカルボニル基に結合した有機基は、それぞれ、上記式(1)におけるRに相当し、例えば、上述のRとして例示及び説明された一価の有機基が挙げられる。アルコール(B1)、イソシアン酸エステル(B2)、及びカルボン酸塩化物(B3)は、それぞれ、一種のみを用いてもよいし、二種以上を用いてもよい。
【0073】
アルコール(B1)は、中でも、C1-18アルコールが好ましく、より好ましくはエタノール、n-ブタノール、n-ヘキサノールである。
【0074】
イソシアン酸エステル(B2)は、中でも、イソシアン酸アルキルが好ましく、より好ましくはイソシアン酸C1-18アルキル、さらに好ましくはイソシアン酸エチル、イソシアン酸n-ブチル、イソシアン酸n-ヘキシルである。
【0075】
カルボン酸塩化物(B3)は、中でも、アシルクロライドが好ましく、アシル基における炭素数は、好ましくはC1-19アルキル、より好ましくはバレリルクロライドである。
【0076】
上記アルコール、上記イソシアン酸エステル、或いは上記カルボン酸塩化物との反応は、溶媒中で行ってもよい。上記溶媒としては上述の有機溶媒が挙げられる。上記反応は、例えば、不活性ガス雰囲気下でND粒子に触媒を添加し、室温において撹拌して行うことができる。触媒としては、塩基性触媒が好ましい。上記塩基性触媒としては、トリエチルアミン、ピリジン、ジメチルアミノピリジン、トリフェニルホスフィンなどの第三級アミンが挙げられる。なお、塩基性触媒が液体である場合、塩基性触媒を反応溶媒として用いてもよい。
【0077】
反応に供する表面修飾ND(A)とアルコール(B1)、イソシアン酸エステル(B2)、及び/又はカルボン酸塩化物(B3)との比率(前者:後者、質量比)は、例えば2:1~1:80である。また、溶媒中における表面修飾ND(A)の濃度は、例えば0.5~10質量%であり、溶媒中におけるアルコール(B1)、イソシアン酸エステル(B2)、及び/又はカルボン酸塩化物(B3)の濃度は、例えば5~60質量%である。
【0078】
表面修飾ND(A)とアルコール(B1)、イソシアン酸エステル(B2)、及び/又はカルボン酸塩化物(B3)との反応時間は、例えば4~24時間である。
【0079】
以上のようにして、上記表面修飾ND、及び分散媒中に上記表面修飾NDが分散している上記ND分散組成物が得られる。なお、反応終了後にND凝着体が残存する場合には、反応終了後の液を静置した後にその上清液を採取し、これをND分散組成物とすることが好ましい。また、表面修飾ND(A)とアルコール(B1)、イソシアン酸エステル(B2)、及び/又はカルボン酸塩化物(B3)との反応において当該反応に有利な溶媒を用いた場合、一旦上記表面修飾ND粒子の分散液を得た後で、エバポレーターなどで分散液中の分散媒を留去した後、新たな分散媒を混合して撹拌する、すなわち溶媒の交換によっても上記ND分散組成物を製造することができる。
【0080】
なお、表面修飾前のND粒子としては、例えば、爆轟法ND(すなわち、爆轟法によって生成したND)や、高温高圧法ND(すなわち、高温高圧法によって生成したND)を使用することができる。中でも、分散媒中の分散性がより優れる点で、すなわち一次粒子の粒子径が一桁ナノメートルである点で、爆轟法NDが好ましい。
【0081】
上記爆轟法NDには、空冷式爆轟法ND(すなわち、空冷式爆轟法によって生成したND)と水冷式爆轟法ND(すなわち、水冷式爆轟法によって生成したND)が含まれる。中でも、空冷式爆轟法NDが水冷式爆轟法NDよりも一次粒子が小さい点で好ましい。
【0082】
爆轟は大気雰囲気下で行ってもよく、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気、二酸化炭素雰囲気などの不活性ガス雰囲気下で行ってもよい。
【0083】
上記製造方法で使用するND粒子の製造方法の一例を以下に説明するが、使用するND粒子は以下の製造方法によって得られるものに限定されない。
【0084】
(生成工程)
成形された爆薬に電気雷管が装着されたものを爆轟用の耐圧性容器の内部に設置し、容器内において大気組成の常圧の気体と使用爆薬とが共存する状態で、容器を密閉する。容器は例えば鉄製で、容器の容積は例えば0.5~40m3である。爆薬としては、トリニトロトルエン(TNT)とシクロトリメチレントリニトロアミンすなわちヘキソーゲン(RDX)との混合物を使用することができる。TNTとRDXの質量比(TNT/RDX)は、例えば40/60~60/40の範囲である。
【0085】
生成工程では、次に、電気雷管を起爆させ、容器内で爆薬を爆轟させる。爆轟とは、化学反応に伴う爆発のうち反応の生じる火炎面が音速を超えた高速で移動するものをいう。爆轟の際、使用爆薬が部分的に不完全燃焼を起こして遊離した炭素を原料として、爆発で生じた衝撃波の圧力とエネルギーの作用によってND粒子が生成する。生成したND粒子は、隣接する一次粒子或いは結晶子の間がファンデルワールス力の作用に加えて結晶面間クーロン相互作用が寄与して非常に強固に集成し、凝着体を形成する。
【0086】
生成工程では、次に、室温において24時間程度放置することにより放冷し、容器及びその内部を降温させる。この放冷の後、容器の内壁に付着しているND粒子粗生成物(上述のようにして生成したND粒子の凝着体及び煤を含む)をヘラで掻き取る作業を行い、ND粒子粗生成物を回収する。以上のような方法によって、ND粒子の粗生成物(ND粒子粗生成物)を得ることができる。また、以上のようなナノダイヤモンド生成工程を必要回数行うことによって、所望量のND粒子粗生成物を取得することが可能である。
【0087】
(酸処理工程)
酸処理工程では、原料であるND粒子粗生成物に例えば水溶媒中で強酸を作用させて金属酸化物を除去する。爆轟法で得られるND粒子粗生成物には金属酸化物が含まれやすく、この金属酸化物は、爆轟法に使用される容器などに由来するFe、Co、Niなどの酸化物である。例えば水溶媒中で強酸を作用させることにより、ND粒子粗生成物から金属酸化物を溶解・除去することができる(酸処理)。この酸処理に用いられる強酸としては、鉱酸が好ましく、例えば、塩酸、フッ化水素酸、硫酸、硝酸、王水が挙げられる。上記強酸は、一種を用いてもよいし、二種以上を用いてもよい。酸処理で使用される強酸の濃度は例えば1~50質量%である。酸処理温度は例えば70~150℃である。酸処理時間は例えば0.1~24時間である。また、酸処理は、減圧下、常圧下、又は加圧下で行うことが可能である。このような酸処理の後、例えばデカンテーションにより、固形分(ナノダイヤモンド凝着体を含む)の水洗を行う。沈殿液のpHが例えば2~3に至るまで、デカンテーションによる当該固形分の水洗を反復して行うのが好ましい。爆轟法で得られるND粒子粗生成物における金属酸化物の含有量が少ない場合には、以上のような酸処理を省略してもよい。
【0088】
(酸化処理工程)
酸化処理工程は、酸化剤を用いてND粒子粗生成物からグラファイトを除去する工程である。爆轟法で得られるND粒子粗生成物にはグラファイト(黒鉛)が含まれるが、このグラファイトは、使用爆薬が部分的に不完全燃焼を起こして遊離した炭素のうちND粒子結晶を形成しなかった炭素に由来する。ND粒子粗生成物に、水溶媒中で酸化剤を作用させることにより、ND粒子粗生成物からグラファイトを除去することができる。また、酸化剤を作用させることにより、ND粒子表面にカルボキシル基やヒドロキシル基などの酸素含有基を導入することができる。
【0089】
この酸化処理に用いられる酸化剤としては、例えば、クロム酸、無水クロム酸、二クロム酸、過マンガン酸、過塩素酸、硝酸、これらの混合物や、これらから選択される少なくとも1種の酸と他の酸(例えば硫酸など)との混酸、これらの塩が挙げられる。中でも、混酸(特に、硫酸と硝酸との混酸)を使用することが、環境に優しく、且つグラファイトを酸化・除去する作用に優れる点で好ましい。
【0090】
上記混酸における硫酸と硝酸との混合割合(前者/後者;質量比)は、例えば60/40~95/5であることが、常圧付近の圧力(例えば、0.5~2atm)の下でも、例えば130℃以上(特に好ましくは150℃以上。なお、上限は、例えば200℃)の温度で、効率よくグラファイトを酸化して除去することができる点で好ましい。下限は、好ましくは65/35、より好ましくは70/30である。また、上限は、好ましくは90/10、より好ましくは85/15、さらに好ましくは80/20である。上記混合割合が60/40以上であると、高沸点を有する硫酸の含有量が高いため、常圧付近の圧力下では、反応温度が例えば120℃以上となり、グラファイトの除去効率が向上する傾向がある。上記混合割合が95/5以下であると、グラファイトの酸化に大きく貢献する硝酸の含有量が多くなるため、グラファイトの除去効率が向上する傾向がある。
【0091】
酸化剤(特に、上記混酸)の使用量は、ND粒子粗生成物1質量部に対して例えば10~50質量部、好ましくは15~40質量部、より好ましくは20~40質量部である。また、上記混酸中の硫酸の使用量は、ND粒子粗生成物1質量部に対して例えば5~48質量部、好ましくは10~35質量部、より好ましくは15~30質量部である。また、上記混酸中の硝酸の使用量は、ND粒子粗生成物1質量部に対して例えば2~20質量部、好ましくは4~10質量部、より好ましくは5~8質量部である。
【0092】
また、酸化剤として上記混酸を使用する場合、混酸と共に触媒を使用してもよい。触媒を使用することにより、グラファイトの除去効率を一層向上させることができる。上記触媒としては、例えば、炭酸銅(II)などが挙げられる。触媒の使用量は、ND粒子粗生成物100質量部に対して例えば0.01~10質量部程度である。
【0093】
酸化処理温度は例えば100~200℃である。酸化処理時間は例えば1~24時間である。酸化処理は、減圧下、常圧下、又は加圧下で行うことが可能である。
【0094】
(アルカリ過水処理工程)
上記酸処理工程を経た後であっても、ND粒子に除去しきれなかった金属酸化物が残存する場合は、一次粒子間が非常に強く相互作用して集成している凝着体(二次粒子)の形態をとる。このような場合には、ND粒子に対して水溶媒中でアルカリ及び過酸化水素を作用させてもよい。これにより、ND粒子に残存する金属酸化物を除去することができ、凝着体から一次粒子の分離を促進することができる。この処理に用いられるアルカリとしては、例えば、水酸化ナトリウム、アンモニア、水酸化カリウムなどが挙げられる。アルカリ過水処理において、アルカリの濃度は例えば0.1~10質量%であり、過酸化水素の濃度は例えば1~15質量%であり、処理温度は例えば40~100℃であり、処理時間は例えば0.5~5時間である。また、アルカリ過水処理は、減圧下、常圧下、又は加圧下で行うことが可能である。
【0095】
上記酸化処理工程あるいは上記アルカリ過水処理工程の後、例えばデカンテーションにより上澄みを除去することが好ましい。また、デカンテーションの際には、固形分の水洗を行うことが好ましい。水洗当初の上澄み液は着色しているが、上澄み液が目視で透明になるまで、当該固形分の水洗を反復して行うことが好ましい。
【0096】
(解砕処理工程)
ND粒子には、必要に応じて、解砕処理を施してもよい。解砕処理には、例えば、高剪断ミキサー、ハイシアーミキサー、ホモミキサー、ボールミル、ビーズミル、高圧ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、コロイドミルなどを使用することができる。なお、解砕処理は湿式(例えば、水等に懸濁した状態での解砕処理)で行ってもよいし、乾式で行ってもよい。乾式で行う場合は、解砕処理前に乾燥工程を設けることが好ましい。また、解砕処理工程は、酸化処理又は水素化処理を行う場合はこれらの後に行ってもよい。
【0097】
(乾燥工程)
上記アルカリ過水処理工程の後、乾燥工程を設けることが好ましい。例えば、上記アルカリ過水処理工程を経て得られたND粒子含有溶液から噴霧乾燥装置やエバポレーターなどを使用して液分を蒸発させた後、これによって生じる残留固形分を乾燥用オーブン内での加熱乾燥によって乾燥させる。加熱乾燥温度は、例えば40~150℃である。このような乾燥工程を経ることにより、ND粒子が得られる。
【0098】
また、ND粒子には、必要に応じて、気相にて酸化処理(例えば酸素酸化)や還元処理(例えば水素化処理)を施してもよい。気相にて酸化処理を施すことにより、表面にC=O基を多く有するND粒子が得られる。また、気相にて還元処理を施すことにより、表面にC-H基を多く有するND粒子が得られる。
【0099】
本明細書に開示された各々の態様は、本明細書に開示された他のいかなる特徴とも組み合わせることができる。各実施形態における各構成およびそれらの組み合わせ等は、一例であって、本開示の趣旨から逸脱しない範囲内で、適宜、構成の付加、省略、置換、およびその他の変更が可能である。また、本開示に係る各発明は、実施形態や以下の実施例によって限定されることはなく、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【実施例
【0100】
以下に、実施例に基づいて本開示の一実施形態をより詳細に説明する。
【0101】
実施例1
下記工程を経て、表面修飾ND粒子及び分散組成物を製造した。
【0102】
(表面修飾ND粒子の作製)
まず、爆轟法によるNDの生成工程を行った。本工程では、まず、成形された爆薬に電気雷管が装着されたものを爆轟用の耐圧性容器の内部に設置して容器を密閉した。容器は鉄製で、容器の容積は15m3である。爆薬としては、TNTとRDXとの混合物0.50kgを使用した。この爆薬におけるTNTとRDXの質量比(TNT/RDX)は、50/50である。次に、電気雷管を起爆させ、容器内で爆薬を爆轟させた(爆轟法によるNDの生成)。次に、室温での24時間の放置により、容器及びその内部を降温させた。この放冷の後、容器の内壁に付着しているND粗生成物(上記爆轟法で生成したND粒子の凝着体と煤を含む)をヘラで掻き取る作業を行い、ND粗生成物を回収した。
【0103】
上述のような生成工程を複数回行うことによって取得されたND粗生成物に対し、次に、酸処理工程を行った。具体的には、当該ND粗生成物200gに6Lの10質量%塩酸を加えて得られたスラリーに対し、常圧条件での還流下で1時間の加熱処理を行った。この酸処理における加熱温度は85~100℃である。次に、冷却後、デカンテーションにより、固形分(ND凝着体と煤を含む)の水洗を行った。沈殿液のpHが低pH側から2に至るまで、デカンテーションによる当該固形分の水洗を反復して行った。
【0104】
次に、酸化処理工程を行った。具体的には、酸処理後のデカンテーションを経て得た沈殿液(ND凝着体を含む)に、6Lの98質量%硫酸と1Lの69質量%硝酸とを加えてスラリーとした後、このスラリーに対し、常圧条件での還流下で48時間の加熱処理を行った。この酸化処理における加熱温度は140~160℃である。次に、冷却後、デカンテーションにより、固形分(ND凝着体を含む)の水洗を行った。水洗当初の上澄み液は着色しているところ、上澄み液が目視で透明になるまで、デカンテーションによる当該固形分の水洗を反復して行った。
【0105】
次に、上述の水洗処理を経て得られた沈殿液(ND凝着体を含有する液)について、乾燥工程を行って乾燥粉体(ND凝着体)を得た。乾燥工程における乾燥処理の手法としては、エバポレーターを使用して行う蒸発乾固を採用した。
【0106】
次に、上述の乾燥工程を経て得られた乾燥粉体(ND凝着体)4.5gについて、ガス雰囲気炉(商品名「ガス雰囲気チューブ炉 KTF045N1」、光洋サーモシステム株式会社製)の炉心管内に静置し、炉心管に窒素ガスを流速1L/分で30分間通流させ続けた後、通流ガスを窒素から酸素と窒素との混合ガスへと切り替えて当該混合ガスを流速1L/分で炉心管に通流させ続けた。混合ガス中の酸素濃度は4体積%である。混合ガスへの切り替えの後、炉内を加熱設定温度である400℃まで昇温させた。昇温速度については、加熱設定温度より20℃低い380℃までは10℃/分とし、その後の380℃から400℃までは1℃/分とした。そして、炉内の温度条件を400℃に維持しつつ、炉内のND粉体について酸素酸化処理を行った。処理時間は3時間とした。
【0107】
次に、上述のガス雰囲気炉を引き続き使用して水素化工程を行った。具体的には、酸素酸化工程を経たND粉体が内部に配されているガス雰囲気炉に対して窒素ガスを流速1L/分で30分間通流させ続けた後、通流ガスを窒素から水素と窒素との混合ガスへと切り替えて当該混合ガスを流速1L/分で炉心管に通流させ続けた。混合ガス中の水素濃度は2体積%である。混合ガスへの切り替えの後、炉内を加熱設定温度600℃まで昇温させた。昇温速度は10℃/分とした。そして、炉内の温度条件を600℃に維持しつつ、炉内のND粉体について水素化処理を行った。処理時間は5時間とした。以上のようにして、水素化処理を経たND粉体を得た。
【0108】
次に、解砕工程を行った。具体的には、まず、上述の水素化工程を経たND粉体0.9gと純水29.1mlとを50mlのサンプル瓶に加えて混合し、スラリー約30mlを得た。1規定の塩酸を用いてpHを4に調整した後に、当該スラリーについて超音波処理を施した。超音波処理においては、超音波照射器(商品名「超音波洗浄機 AS-3」,アズワン(AS ONE)社製)を使用して、当該スラリーに対して2時間の超音波照射を行った。この後、ビーズミリング装置(商品名「並列四筒式サンドグラインダー LSG-4U-2L型」、アイメックス株式会社製)を使用してビーズミリングを行った。具体的には、100mlのミル容器であるベッセル(アイメックス株式会社製)に対して超音波照射後のスラリー30mlと直径30μmのジルコニアビーズとを投入して封入し、装置を駆動させてビーズミリングを実行した。このビーズミリングにおいて、ジルコニアビーズの投入量はミル容器の容積に対して例えば33体積%であり、ミル容器の回転速度は2570rpmであり、ミリング時間は2時間である。
【0109】
次に、上述のような解砕工程を経たスラリーについて、遠心分離装置を使用して遠心分離処理を行った(分級操作)。この遠心分離処理における遠心力は20000×gとし、遠心時間は10分間とした。次に、当該遠心分離処理を経たND含有溶液の上清10mlを回収した。このようにして、ナノダイヤモンドが純水に分散するND分散液を得た。このナノダイヤモンド分散液について、固形分濃度は2.1質量%であり、pHは5.40であった。上述のようにして得られたND分散液のメディアン径(粒径D50)は35.8nmであった。
【0110】
次に、上述の解砕工程を経て得られたND粒子水分散液を、エバポレーターを使用して乾燥させ、黒色の乾燥粉体を得た。得られた乾燥粉体(100mg)を、ガラス製反応器に入れた12mLのグリシドール中に添加し、超音波洗浄器(商品名「BRANSON2510」、マーシャルサイエンティフィック社製)にて、室温で2時間、超音波処理して溶解させた。これを窒素雰囲気下で撹拌しつつ、140℃で20時間反応させた。反応混合液を冷却後、120mLのメタノールを加え、超音波処理した後、50400×gで2時間遠心分離し、沈殿物を得た。この沈殿物に対して、120mLのメタノールを加え、同様に洗浄-遠心分離工程を5回繰り返し、最後に沈殿物に対して透析膜(Spectra/Prodialysis membrane, MWCO: 12-14 kDa)を用いて純水透析を行い、残留メタノールを水に置換して凍結乾燥し、ポリグリセリンで修飾された親水性ND粒子(PG-ND粒子)の灰色粉体を得た。TG-DTA熱分析により、ND粒子と表面修飾基の比率を測定した結果、ND粒子:表面修飾基=1:1.39であった。
【0111】
PG-ND灰色粉体にピリジンを加え、ND粒子の質量を基準として、4g/Lになるように濃度調整してPG-ND粒子ピリジン分散液を得た。得られたPG-ND粒子ピリジン分散液20mlに対してイソシアン酸エチル4gを加えて室温で30分間撹拌した。続いて40mlのヘキサンを加えた後、20000×gで10分間遠心分離し、沈殿物を得た。この洗浄作業を3回繰り返し、ピリジンを取り除いた後に真空乾燥機内で50℃24時間静置することで乾燥固形分を得た。以上のようにして、ポリグリセリン鎖の少なくとも一部のヒドロキシル基末端がイソシアン酸エチルに封止された表面修飾ナノダイヤモンドを得た。得られた表面修飾ナノダイヤモンド粒子の熱重量分析により求められる質量比[ND/ポリグリセリン鎖含有表面修飾基]は0.60であった。
【0112】
上記で得られた乾燥固形分に対してND含有割合が0.1質量%になるようにテトラヒドロフランを加え、超音波洗浄器で5分間撹拌し、1日静置後の外観を観察したところ、良好な分散状態を維持していることが確認できた。20000×gで10分間遠心分離した上澄みの表面修飾ナノダイヤモンド粒子のメディアン径(粒径D50)は34nmであった。テトラヒドロフランの代わりにメタノールを使用した場合についての同様の操作を行ったところ、良好な分散状態を維持していることが確認できた。一方、テトラヒドロフランの代わりに超純水を使用した場合についての同様の操作を行ったところ、ナノダイヤモンドが凝集し沈殿することを確認した。
【0113】
実施例2
イソシアン酸エチル4gの代わりにイソシアン酸n-ブチル5.6gを用いたこと以外は実施例1と同様にして、乾燥固形分(ポリグリセリン鎖の少なくとも一部のヒドロキシル基末端がイソシアン酸n-ブチルに封止された表面修飾ナノダイヤモンド)を得た。得られた表面修飾ナノダイヤモンド粒子の熱重量分析により求められる質量比[ND/ポリグリセリン鎖含有表面修飾基]は0.74であった。
【0114】
上記で得られた乾燥固形分に対してND含有割合が0.1質量%になるようにテトラヒドロフランを加え、超音波洗浄器で5分間撹拌し、1日静置後の外観を観察したところ、良好な分散状態を維持していることが確認できた。20000×gで10分間遠心分離した上澄みの表面修飾ナノダイヤモンド粒子のメディアン径(粒径D50)は38nmであった。テトラヒドロフランの代わりにメタノールを使用した場合についての同様の操作を行ったところ、良好な分散状態を維持していることが確認できた。一方、テトラヒドロフランの代わりに超純水を使用した場合についての同様の操作を行ったところ、ナノダイヤモンドが凝集し沈殿することを確認した。
【0115】
実施例3
イソシアン酸エチルの代わりにイソシアン酸n-ヘキシル7.16gを用いたこと以外は実施例1と同様にして、乾燥固形分(ポリグリセリン鎖の少なくとも一部のヒドロキシル基末端がイソシアン酸n-ヘキシルに封止された表面修飾ナノダイヤモンド)を得た。得られた表面修飾ナノダイヤモンド粒子の熱重量分析により求められる質量比[ND/ポリグリセリン鎖含有表面修飾基]は0.62であった。
【0116】
上記で得られた乾燥固形分に対してND含有割合が0.1質量%になるようにテトラヒドロフランを加え、超音波洗浄器で5分間撹拌し、1日静置後の外観を観察したところ、良好な分散状態を維持していることが確認できた。20000×gで10分間遠心分離した上澄みの表面修飾ナノダイヤモンド粒子のメディアン径(粒径D50)は42nmであった。テトラヒドロフランの代わりにトルエンを使用した場合についての同様の操作を行ったところ、良好な分散状態を維持していることが確認できた。一方、テトラヒドロフランの代わりにメタノールを使用した場合についての同様の操作を行ったところ、ナノダイヤモンドが凝集し沈殿することを確認した。また、テトラヒドロフランの代わりに超純水を使用した場合についての同様の操作を行ったところ、ナノダイヤモンドが凝集し沈殿することを確認した。
【0117】
実施例4
実施例1で得られたPG-ND灰色粉体にピリジンを加え、ND粒子の質量を基準として、2g/Lになるように濃度調整してPG-ND粒子ピリジン分散液を得た。得られたPG-ND粒子ピリジン分散液40mlに対してバレリルクロリド4.8gを加えて60℃で24時間撹拌した。続いて、80mlの超純水を加えた後に6000×gで5分間遠心分離して上澄み液を除去した後、40mlのメタノールを加えて撹拌した後に20000×gで10分間遠心分離し、沈殿物を洗浄した。この洗浄作業を3回繰り返し、ピリジンを取り除いた後に真空乾燥機内で50℃24時間静置することで乾燥固形分を得た。以上のようにして、ポリグリセリン鎖の少なくとも一部のヒドロキシル基末端がカルボン酸エステルに封止された表面修飾ナノダイヤモンドを得ることができた。得られた表面修飾ナノダイヤモンド粒子の熱重量分析により求められる質量比[ND/ポリグリセリン鎖含有表面修飾基]は0.61であった。
【0118】
上記で得られた乾燥固形分に対してND含有割合が0.1質量%になるようにテトラヒドロフランを加え、超音波洗浄器で5分間撹拌し、1日静置後の外観を観察したところ、良好な分散状態を維持していることが確認できた。20000×gで10分間遠心分離した上澄みの表面修飾ナノダイヤモンド粒子のメディアン径(粒径D50)は38nmであった。テトラヒドロフランの代わりにトルエンを使用した場合についての同様の操作を行ったところ、良好な分散状態を維持していることが確認できた。一方、テトラヒドロフランの代わりにメタノールを使用した場合についての同様の操作を行ったところ、ナノダイヤモンドが凝集し沈殿することを確認した。また、テトラヒドロフランの代わりに超純水を使用した場合についての同様の操作を行ったところ、ナノダイヤモンドが凝集し沈殿することを確認した。
【0119】
実施例5
実施例1で得られたPG-ND灰色粉体にピリジンを加え、ND粒子の質量を基準として、2g/Lになるように濃度調整してPG-ND粒子ピリジン分散液を得た。得られたPG-ND粒子ピリジン分散液40mlに対してヘプタノイルクロリド5.5gを加えて60℃で24時間撹拌した。続いて、80mlのメタノールを加えた後に6000×gで5分間遠心分離して上澄み液を除去した後、40mlのメタノールを加えて撹拌した後に20000×gで10分間遠心分離し、沈殿物を洗浄した。この洗浄作業を3回繰り返し、ピリジンを取り除いた後に真空乾燥機内で50℃24時間静置することで乾燥固形分を得た。以上のようにして、ポリグリセリン鎖の少なくとも一部のヒドロキシル基末端がカルボン酸エステルに封止された表面修飾ナノダイヤモンドを得ることができた。得られた表面修飾ナノダイヤモンド粒子の熱重量分析により求められる質量比[ND/ポリグリセリン鎖含有表面修飾基]は0.68であった。
【0120】
上記で得られた乾燥固形分に対してND含有割合が0.1質量%になるようにテトラヒドロフランを加え、超音波洗浄器で5分間撹拌し、1日静置後の外観を観察したところ、良好な分散状態を維持していることが確認できた。20000×gで10分間遠心分離した上澄みの表面修飾ナノダイヤモンド粒子のメディアン径(粒径D50)は27.5nmであった。テトラヒドロフランの代わりにトルエンを使用した場合についての同様の操作を行ったところ、良好な分散状態を維持していることが確認できた。また、テトラヒドロフランの代わりにヘキサンを使用した場合についての同様の操作を行ったところ、良好な分散状態を維持していることが確認できた。一方、テトラヒドロフランの代わりにメタノールを使用した場合についての同様の操作を行ったところ、ナノダイヤモンドが凝集し沈殿することを確認した。また、テトラヒドロフランの代わりに超純水を使用した場合についての同様の操作を行ったところ、ナノダイヤモンドが凝集し沈殿することを確認した。
【0121】
比較例1
PG-ND灰色粉体に対してND固形分が0.1質量%になるようにテトラヒドロフランを添加した後に超音波洗浄器で5分間撹拌を行い、1日静置後の外観を観察したところ、ナノダイヤモンドが凝集し沈殿することを確認した。一方、テトラヒドロフランの代わりにメタノールを使用した場合についても同様の操作を行ったところ、ナノダイヤモンドが良好な分散状態を保っていた。また、テトラヒドロフランの代わりに超純水を使用した場合についても同様の操作を行ったところ、ナノダイヤモンドが良好な分散状態を保っていた。
【0122】
<粒径D50>
上述のようにして得られた実施例のND分散組成物におけるND粒子のメディアン径(粒径D50)は、動的光散乱法によって得られたナノダイヤモンドの粒度分布から測定した。上記粒度分布は、具体的には、Malvern社製の装置(商品名「ゼータサイザー ナノZS」)を使用して、ナノダイヤモンドの粒度分布を動的光散乱法(非接触後方散乱法)によって測定した。
【0123】
<熱重量分析>
TG/DTA(熱重量測定・示差熱分析)装置(商品名「EXSTAR6300」、エスアイアイナノテクノロジー社製)を用い、試料(約3mg)を、空気雰囲気下、昇温速度20℃/分にて加熱して重量減少を測定した。なお、基準物質には、アルミナを用いた。
【0124】
<FT-IR分析>
実施例1~5及び比較例1で得られた表面修飾ナノダイヤモンドについて、フーリエ変換赤外分光光度計「IRTracer」(株式会社島津製作所製)に、加熱真空撹拌反射「Heat Chamber Type-1000℃」(株式会社エス・ティ・ジャパン製)を取り付けた装置を用いてFT-IR測定を行った。なお、ND粒子の吸着水を除去するために、真空度2×10-3Pa下、150℃、10分間加熱を行った後に、FT-IR測定を実施した。
【0125】
実施例1で得られた表面修飾ナノダイヤモンドのFT-IRスペクトルを図2に、実施例2で得られた表面修飾ナノダイヤモンドのFT-IRスペクトルを図3に、実施例3で得られた表面修飾ナノダイヤモンドのFT-IRスペクトルを図4に、実施例4で得られた表面修飾ナノダイヤモンドのFT-IRスペクトルを図5に、実施例5で得られた表面修飾ナノダイヤモンドのFT-IRスペクトルを図6に、比較例1で得られた表面修飾ナノダイヤモンドのFT-IRスペクトルを図7にそれぞれに示す。実施例1~3では、1705~1717cm-1付近にウレタン結合由来のC=Oピークが、1521cm-1付近にウレタン結合由来のN-Hピークが観測された。このことから実施例1~3では、イソシアン酸エステル及びポリグリセリン鎖上のヒドロキシル基に由来するカルバモイル結合が形成されたナノダイヤモンドが得られたと推測される。これら実施例1~3で得られた表面修飾ナノダイヤモンドにおいて観測された特徴的なピークは、比較例1で得られたナノダイヤモンドでは観測されなかったピークである。また、実施例4では、1736cm-1付近にエステル結合由来の強いC=Oピークが観測され、実施例5では、1734cm-1付近にエステル結合由来の強いC=Oピークが観測された。実施例4及び5で観測された強いシャープな上記C=Oピークは、比較例1で得られたナノダイヤモンドでは観測されなかったピークである。
【0126】
13C-NMR分析>
実施例2で得られた表面修飾ナノダイヤモンドについて13C-NMR分析を行った。具体的には、実施例2で得られた表面修飾ナノダイヤモンドの乾燥粉体とポリグリセリンで修飾された親水性ND粒子(PG-ND)について、重DMSO(0.3%テトラメチルシラン)に超音波洗浄機を使って分散させた後に、Brucker AVANCE(600MHz)を用いて13C-NMRスペクトル測定を行った。なお、測定は25℃、積算回数200000回の条件で実施した。
【0127】
実施例2で得られた表面修飾ナノダイヤモンドの13C-NMRスペクトルを図8に示す。実施例2では、13~14ppm付近のピークaと19~20ppm及び31~32ppm付近のピークbとがそれぞれ観測された。これらのピークはポリグリセリン鎖上のヒドロキシル基がアルキル鎖で封止されたことに由来する。また、155~157ppm付近にポリグリセリン鎖上のヒドロキシル基がイソシアン酸アルキルで封止されたことによるC=O基由来のピークdが観測された。一方、ポリグリセリンで修飾された親水性ND粒子(PG-ND粒子)の13C-NMRスペクトルからはポリグリセリン鎖に由来する58~82ppm付近のピークとナノダイヤモンドに由来する24~38ppm付近のピークのみが観測された。
【0128】
以下、本開示に係る発明のバリエーションを記載する。
[付記1]ナノダイヤモンド粒子と、前記ナノダイヤモンド粒子を表面修飾する、ポリグリセリン鎖を有し且つ前記ポリグリセリン鎖における少なくとも一部のヒドロキシル基の水素原子が一価の有機基に置換されている表面修飾基とを含む、表面修飾ナノダイヤモンド。
[付記2]前記ポリグリセリン鎖は、単結合又は二価の基を介して前記ナノダイヤモンド粒子に結合している、付記1に記載の表面修飾ナノダイヤモンド。
[付記3]前記二価の基は、アミノ基(-NH-)、エーテル結合(-O-)、エステル結合(-C(=O)O-)、ホスフィン酸基(-PH(=O)O-)、スルフィド結合(-S-)、カルボニル基(-C(=O)-)、アミド基(-C(=O)-NH-)、ウレタン結合(-NH-C(=O)-O-)、イミド結合(-C(=O)-NH-C(=O)-)、チオカルボニル基(-C(=S)-)、シロキサン結合(-Si-O-)、二価の炭化水素基、又はこれらの2以上が結合した基(単結合、-NH-、-O-、-C(=O)O-、-PH(=O)O-、-S-が好ましく、より好ましくは単結合)である、付記2に記載の表面修飾ナノダイヤモンド。
[付記4]前記一価の有機基が下記式(1)で表される基である、付記1~3のいずれか1つに記載の表面修飾ナノダイヤモンド。
-X-R (1)
[式(1)中、Xは、単結合、-C(=O)-、又は-C(=O)-NH-を示す。Rは一価の有機基を示し、Xと結合する原子が炭素原子である。]
[付記5]前記Rは、置換又は無置換の炭化水素基(好ましくはアルキル基、より好ましくは炭素数1~18のアルキル基、さらに好ましくは炭素数1~6のアルキル基、特に好ましくはエチル基、ブチル基、又はヘキシル基)である。付記4に記載の表面修飾ナノダイヤモンド。
[付記6]前記表面修飾基が下記式(2)で表されるポリグリセリン鎖含有表面修飾基である、付記1~5のいずれか1つに記載の表面修飾ナノダイヤモンド。
-Y-(C362)p-(C3521)q-OR2 (2)
[式(2)中、p及びqは、それぞれ、括弧内の繰り返し単位の平均重合度を示し、pは0以上の値、qは0以上の値、p+qは1以上(好ましくは1~100、より好ましくは2~40、さらに好ましくは3~30)の値である。R1は、一価の有機基を示す。[-OR2]は、ポリグリセリン鎖の末端を示し、R2は水素原子又は一価の有機基を示す。但し、R2が水素原子である場合、qは0を超える値を示す。Yは、単結合又は二価の基(好ましくは、単結合、-NH-、-O-、-C(=O)O-、-PH(=O)O-、-S-、より好ましくは単結合)を示し、Yから左に伸びる結合手はナノダイヤモンド粒子に結合する。式(2)中のYと結合する酸素原子は、pが付された構成単位における酸素原子であってもよく、qが付された構成単位における酸素原子であってもよく、式(2)中のOR2と結合する式(2)中の炭素原子は、pが付された構成単位における炭素原子であってもよく、qが付された構成単位における炭素原子であってもよい。]
[付記7]前記式(2)における[q/(p+q)]は0.6以上(好ましくは0.8~1.0)である、付記6に記載の表面修飾ナノダイヤモンド。
[付記8]前記式(1)中、Rはアルキル基を示す、付記4又は5に記載の表面修飾ナノダイヤモンド。
[付記9]前記式(1)中、Rは炭素数1~18のアルキル基を示す、付記4又は5に記載の表面修飾ナノダイヤモンド。
[付記10]前記式(1)中、Rはエチル基、ブチル基、又はヘキシル基を示す、付記4又は5に記載の表面修飾ナノダイヤモンド。
【0129】
[付記11]前記表面修飾ナノダイヤモンドにおける、前記表面修飾基に対するナノダイヤモンド粒子の質量比[ナノダイヤモンド粒子/表面修飾基]が、0.5~1.0(好ましくは0.6~0.8)である、付記1~10のいずれか1つに記載の表面修飾ナノダイヤモンド。
[付記12]FT-IRスペクトルにおいて、1510~1540cm-1付近と1700~1730cm-1付近とにそれぞれ吸収ピークを有する、付記1~11のいずれか1つに記載の表面修飾ナノダイヤモンド。
[付記13]FT-IRスペクトルにおいて、1730~1750cm-1付近に吸収ピークを有する、付記1~11のいずれか1つに記載の表面修飾ナノダイヤモンド。
[付記14]13C-NMRスペクトルにおいて、60~85ppm付近にピークを有する、付記1~13のいずれか1つに記載の表面修飾ナノダイヤモンド。
[付記15]13C-NMRスペクトルにおいて、140~200ppm付近にピークを有する、付記1~14のいずれか1つに記載の表面修飾ナノダイヤモンド。
[付記16]13C-NMRスペクトルにおいて、5~45ppm付近にピークを有する、付記1~15のいずれか1つに記載の表面修飾ナノダイヤモンド。
[付記17]表面修飾ナノダイヤモンドを、含有割合が0.1質量%となるようにヒルデブラントの溶解度パラメーター(δ)が10(cal/cm31/2以下である少なくとも1つの有機分散媒に分散させた際のメディアン径が5~100nm(好ましくは5~80nm、より好ましくは5~50nm)である、付記1~16のいずれか1つに記載の表面修飾ナノダイヤモンド。
[付記18]前記表面修飾ナノダイヤモンドの粒子径(D50)は400nm以下(好ましくは300nm以下、より好ましくは100nm以下、さらに好ましくは50nm以下)である付記1~17のいずれか1つに記載の表面修飾ナノダイヤモンド。
[付記19]前記表面修飾ナノダイヤモンドの粒子径(D90)は500nm以下(好ましくは180nm以下、より好ましくは170nm以下)である付記1~18のいずれか1つに記載の表面修飾ナノダイヤモンド。
[付記20]前記ナノダイヤモンド粒子は爆轟法ナノダイヤモンド(好ましくは空冷式爆轟法ナノダイヤモンド)を含む付記1~19のいずれか1つに記載の表面修飾ナノダイヤモンド。
[付記21]分散媒と、前記分散媒中に分散している付記1~20のいずれか1つに記載の表面修飾ナノダイヤモンドとを含む、ナノダイヤモンド分散組成物。
【0130】
[付記22]前記分散媒は環状エーテル又は鎖状ケトン(好ましくは鎖状ケトン)を含む、付記21に記載のナノダイヤモンド分散組成物。
[付記23]前記ナノダイヤモンド分散組成物中のナノダイヤモンド粒子の含有割合が0.1質量ppm~10質量%である付記21又は22に記載のナノダイヤモンド分散組成物。
[付記24]前記ナノダイヤモンド分散組成物中の分散媒の含有割合が90~99.9999質量%である付記21~23のいずれか1つに記載のナノダイヤモンド分散組成物。
[付記25]前記表面修飾ナノダイヤモンド及び前記分散媒の合計の含有割合は、前記ナノダイヤモンド分散組成物総量に対して、70質量%以上(好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上、特に好ましくは99質量%以上)である、付記21~24のいずれか1つに記載のナノダイヤモンド分散組成物。
[付記26]前記ナノダイヤモンド分散組成物中におけるナノダイヤモンド粒子の平均分散粒子径(D50)は、100nm以下(好ましくは60nm以下、より好ましくは50nm以下、さらに好ましくは30nm以下)である、付記21~25のいずれか1つに記載のナノダイヤモンド分散組成物。
[付記27]前記ナノダイヤモンド分散組成物のヘイズ値は5以下(好ましくは3以下、より好ましくは1以下)である付記21~26のいずれか1つに記載のナノダイヤモンド分散組成物。
[付記28]ナノダイヤモンド粒子と、前記ナノダイヤモンド粒子を表面修飾する、ヒドロキシル基を有するポリグリセリン鎖を含む表面修飾基とを有する表面修飾ナノダイヤモンド(A)と、アルコール(B1)、イソシアン酸エステル(B2)、及びカルボン酸塩化物(B3)からなる群より選択される1以上の化合物と、を反応させて付記1~20のいずれか1つに記載の表面修飾ナノダイヤモンドを得る、表面修飾ナノダイヤモンドの製造方法。
[付記29]前記アルコール(B1)はC1-18アルコール(好ましくはエタノール、n-ブタノール、n-ヘキサノール)を含む付記28に記載の表面修飾ナノダイヤモンドの製造方法。
[付記30]前記イソシアン酸エステル(B2)はイソシアン酸アルキル(好ましくはイソシアン酸C1-18アルキル、より好ましくはイソシアン酸エチル、イソシアン酸n-ブチル、イソシアン酸n-ヘキシル)を含む付記28に記載の表面修飾ナノダイヤモンドの製造方法。
[付記31]前記カルボン酸塩化物(B3)はアシルクロライド(好ましくはアシル基における炭素数がC1-19アルキルであるアシルクロライド、より好ましくはバレリルクロライド)を含む付記28に記載の表面修飾ナノダイヤモンドの製造方法。
[付記32]反応に供する表面修飾ナノダイヤモンド(A)とアルコール(B1)、イソシアン酸エステル(B2)、及び/又はカルボン酸塩化物(B3)との比率(前者:後者、質量比)が2:1~1:80である付記28~31のいずれか1つに記載の表面修飾ナノダイヤモンドの製造方法。
[付記33]前記表面修飾ナノダイヤモンド(A)におけるナノダイヤモンドは爆轟法ナノダイヤモンド(好ましくは空冷式爆轟法ナノダイヤモンド)を含む付記28~32のいずれか1つに記載の表面修飾ナノダイヤモンドの製造方法。
【符号の説明】
【0131】
1 表面修飾ナノダイヤモンド
2 ナノダイヤモンド粒子
3 表面修飾基(X)
4 ポリグリセリン鎖
図1
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図8