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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-08
(45)【発行日】2024-08-19
(54)【発明の名称】化粧料
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/73 20060101AFI20240809BHJP
   A61K 8/04 20060101ALI20240809BHJP
   A61K 8/20 20060101ALI20240809BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20240809BHJP
【FI】
A61K8/73
A61K8/04
A61K8/20
A61Q19/00
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021540968
(86)(22)【出願日】2020-08-19
(86)【国際出願番号】 JP2020031318
(87)【国際公開番号】W WO2021033725
(87)【国際公開日】2021-02-25
【審査請求日】2023-06-19
(31)【優先権主張番号】P 2019151229
(32)【優先日】2019-08-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001959
【氏名又は名称】株式会社 資生堂
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100202418
【弁理士】
【氏名又は名称】河原 肇
(72)【発明者】
【氏名】岡 隆史
(72)【発明者】
【氏名】清水 広子
(72)【発明者】
【氏名】吉村 美佳
【審査官】池田 周士郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-076971(JP,A)
【文献】特表2012-506900(JP,A)
【文献】特開2017-066046(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0080333(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2008/0160096(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第105125522(CN,A)
【文献】国際公開第2018/182003(WO,A1)
【文献】特表2009-537604(JP,A)
【文献】国際公開第2015/158815(WO,A2)
【文献】特表2013-518926(JP,A)
【文献】ZHU, Ye et al.,Self-assembly and emulsification of dopamine-modified hyaluronan,Carbohydrate Polymers,2015年,Vol.123,page.72-79
【文献】HAN, Song-Yi et al.,Mineralized hyaluronic acid nanoparticles as a robust drug carrier,Journal of Materials Chemistry,2011年,Vol.21,page.7996-8001
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00-90/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性媒体、及び前記水性媒体中に分散しているヒアルロン酸粒子(但し、ドーパミン修飾ヒアルロン酸粒子を除く。)を含有し、かつ、前記ヒアルロン酸粒子の平均粒子径が、200nm以下であ
前記ヒアルロン酸粒子は、前記ヒアルロン酸成分以外の他のポリマー成分が、ヒアルロン酸粒子に含有される全ポリマー量に対し、10質量%以下である、
化粧料。
【請求項2】
前記ヒアルロン酸の重量平均分子量が、10,000,000以下である、請求項1に記載の化粧料。
【請求項3】
無機塩及び有機酸塩から選択される少なくとも一種の塩を含む、請求項1又は2に記載の化粧料。
【請求項4】
前記無機塩が、硝酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、塩化ナトリウム、硝酸カリウム、硫酸カリウム、塩化カリウム、硝酸カルシウム、硫酸カルシウム、塩化カルシウム、硝酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、及び塩化アルミニウムから選択される少なくとも一種であり、前記有機酸塩が、有機酸と、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、又はアルミニウムイオンとが結合した塩である、請求項3に記載の化粧料。
【請求項5】
前記塩のイオン強度が、0.01以上である、請求項3又は4に記載の化粧料。
【請求項6】
前記ヒアルロン酸粒子の含有量が、0.005質量%以上である、請求項1~5のいずれか一項に記載の化粧料。
【請求項7】
前記化粧料が、イオン性化合物、グリコール類、エタノール、及び尿素からなる群から選択される少なくとも一種を含み、かつ、前記イオン性化合物、グリコール類、エタノール、及び尿素の含有量が、それぞれ15質量%以下である、請求項1~6のいずれか一項に記載の化粧料。
【請求項8】
皮膚に対して適用される、請求項1~7のいずれか一項に記載の化粧料。
【請求項9】
水又は緩衝液に塩を配合した後に、ヒアルロン酸をさらに配合してヒアルロン酸粒子を調製する、請求項1~8のいずれか一項に記載の化粧料の製造方法。
【請求項10】
ヒアルロン酸を水又は緩衝液に配合してヒアルロン酸を溶解させた後に、塩をさらに配合してヒアルロン酸粒子を調製する、請求項1~8のいずれか一項に記載の化粧料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、保湿用の化粧料に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚を保湿するために、保湿機能を有するヒアルロン酸が、化粧料等の分野において利用されている。
【0003】
特許文献1には、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、及び乳酸・グリコール酸共重合体のいずれかで形成されたナノ粒子の内部または表面の少なくとも一方にヒアルロン酸を担持したヒアルロン酸担持ナノ粒子を含む、化粧料が開示されている。
【0004】
特許文献2には、(A)ヒアルロン酸と、(B)両イオン性化合物と、を含み、粒径が100nm以下である、複合ナノ粒子を含む、皮膚外用剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2010-150151号公報
【文献】国際公開第2018/182003号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
皮膚の最外層に位置する角層は、外界からの異物の侵入を防ぐバリア機能を有するため、皮膚に適用した有効成分を皮膚内部に到達させにくい性質を有している。このため、ヒアルロン酸を皮膚に単に塗布しただけでは、ヒアルロン酸の保湿効果は皮膚表面に留まりやすく、短期的な保湿効果しか発揮できなかった。その結果、皮膚のしわなどを改善させる場合には、ヒアルロン酸を頻繁に長期的に塗布し続ける必要があった。
【0007】
例えば、注射を用いてヒアルロン酸を皮膚内部に注入すれば、塗布する場合に比べ、保湿効果の持続性は向上するが、この方法は、注射の侵襲による痛みを伴うという問題を有している。
【0008】
特許文献1及び2に記載されるような、ヒアルロン酸を含むナノメーターオーダーの粒子は、角層よりも皮膚の内部に侵入することができる。しかしながら、特許文献1記載の粒子中のヒアルロン酸の含有割合は約3質量%程度と低く、また、特許文献2記載の粒子中のヒアルロン酸の含有割合も50質量%以下にとどまるため、十分な保湿性を確保できない場合があった。
【0009】
したがって、本開示の主題は、非侵襲的に優れた保湿性を長期にわたって維持することができる、ヒアルロン酸粒子を含有する化粧料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
〈態様1〉
水性媒体、及び前記水性媒体中に分散しているヒアルロン酸粒子を含有し、かつ、前記ヒアルロン酸粒子の平均粒子径が、200nm以下である、化粧料。
〈態様2〉
前記ヒアルロン酸の重量平均分子量が、10,000,000以下である、態様1に記載の化粧料。
〈態様3〉
無機塩及び有機酸塩から選択される少なくとも一種の塩を含む、態様1又は2に記載の化粧料。
〈態様4〉
前記塩のイオン強度が、0.01以上である、態様3に記載の化粧料。
〈態様5〉
前記ヒアルロン酸粒子の含有量が、0.005質量%以上である、態様1~4のいずれかに記載の化粧料。
〈態様6〉
イオン性化合物、グリコール類、エタノール、及び尿素の含有量が、それぞれ15質量%以下である、態様1~5のいずれかに記載の化粧料。
〈態様7〉
皮膚に対して適用される、態様1~6のいずれかに記載の化粧料。
〈態様8〉
水又は緩衝液に塩を配合した後に、ヒアルロン酸をさらに配合してヒアルロン酸粒子を調製する、態様1~7のいずれかに記載の化粧料の製造方法。
〈態様9〉
ヒアルロン酸を水又は緩衝液に配合してヒアルロン酸を溶解させた後に、塩をさらに配合してヒアルロン酸粒子を調製する、態様1~7のいずれかに記載の化粧料の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、非侵襲的に優れた保湿性を長期にわたって維持することができる、ヒアルロン酸粒子を含有する化粧料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】塩化ナトリウムを用いて調製したヒアルロン酸粒子のZ平均粒子径とイオン強度に関するグラフである。
図2】塩化ナトリウムを用いて調製した各ヒアルロン酸濃度の組成物におけるヒアルロン酸粒子のZ平均粒子径とイオン強度に関するグラフである。
図3】塩化ナトリウムを用いて調製したヒアルロン酸濃度0.4質量%及び0.5質量%の組成物におけるヒアルロン酸粒子のZ平均粒子径とイオン強度に関するグラフである。
図4】ヒアルロン酸粒子のZ平均粒子径と保湿性能に関するグラフである。
図5】クエン酸緩衝液を用いて調製したヒアルロン酸粒子のZ平均粒子径とイオン強度に関するグラフである。
図6】尿素の添加に伴うヒアルロン酸粒子のZ平均粒子径に関するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本開示の実施の形態について詳述する。本開示は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、発明の本旨の範囲内で種々変形して実施できる。
【0014】
本開示の化粧料は、水性媒体、及びこの水性媒体中に分散しているヒアルロン酸粒子を含有し、かつ、ヒアルロン酸粒子の平均粒子径が、200nm以下である。
【0015】
原理によって限定されるものではないが、本開示のヒアルロン酸粒子を含有する化粧料が、非侵襲的に優れた保湿性を長期にわたって維持することができる作用原理、及びヒアルロン酸成分を高度に含む平均粒子径200nm以下のヒアルロン酸粒子を調製し得る作用原理は以下のとおりであると考える。
【0016】
200nm以下、特に100nm以下のヒアルロン酸粒子は、皮膚の角層又は毛穴などを通じて皮膚の内部に非侵襲的に侵入しやすくなるが、このような大きさの粒子は、皮膚内部にいくらでも侵入できるわけではなく、粒子の侵入量はある程度制限されると考えられる。
【0017】
例えば、特許文献2に記載される複合ナノ粒子は、粒子中のヒアルロン酸の含有量が、50質量%以下であるのに対し、本開示のヒアルロン酸粒子は50質量%を超える割合で粒子中にヒアルロン酸が含まれている。その結果、例えば、特許文献2に記載される複合ナノ粒子の粒子径と、本開示のヒアルロン酸粒子の粒子径が同じであり、かつ、皮膚内部に侵入する粒子の数が同量である場合には、本開示のヒアルロン酸粒子の方が、粒子中のヒアルロン酸の含有割合が大きいため、皮膚内部における保湿効果及びその持続性を向上させ得ると考えられる。
【0018】
また一般に、乾燥にさらされた皮膚は、知らず知らずのうちに水分が奪われ、肌表面の水分量が保てない状態になる。肌表面の水分が足りなくなると、肌自らがつくりだす保湿成分(天然保湿因子:Nature Moisturizing Factor (NMF))がうまくつくりだせなくなる。その結果、肌表面におけるバリア機能と保湿機能が低下し、肌はダメージを受けやすくなるため、うるおいを失ってしわ、肌あれ等を引き起こすと考えられている。本開示の化粧料は、皮膚の内部に、保湿剤として機能するヒアルロン酸成分を高度に侵入させ、肌内部の表面付近の水分量を長期間保持することができるため、しわ等の肌トラブルを改善することもできると考えられる。
【0019】
ヒアルロン酸は、一般に、カルボキシル基の存在により、マイナスの電荷を有している。このマイナス電荷に基づく静電反発のため、ヒアルロン酸の分子は糸状に広がりやすく、粒子化しづらい傾向にあった。このため、ヒアルロン酸分子を粒子化、特に200nm以下の粒子に調製するには、特許文献1及び2のように、ヒアルロン酸分子を担持し得るナノメーターオーダーの支持材料が必要であったため、粒子中のヒアルロン酸の含有割合には制限が課せられていた。
【0020】
本発明者は、ヒアルロン酸分子を糸状に広げる作用を奏するこの静電反発と、誘引作用を奏するヒアルロン酸中の水酸基等に基づく水素結合に着目し、塩化ナトリウム等の電解質による静電遮蔽効果を利用して、ヒアルロン酸のマイナス電荷を見掛け上中和させ、水素結合を優位にすることで、ヒアルロン酸分子の広がりを抑制し、ヒアルロン酸分子単独であってもナノメーターオーダーに微粒子化できることを見出した。その結果、本開示のヒアルロン酸粒子は、上述したような支持材料を用いることなく調製することができるため、粒子中のヒアルロン酸の含有割合を、理論上、100質量%にすることが可能となった。
【0021】
なお、ヒアルロン酸水溶液中に塩化ナトリウム等の電解質が存在する場合であっても、後述する、尿素、イオン性界面活性剤等のマイナス電荷の見掛け上の中和又は水素結合に悪影響を及ぼす成分などが含まれていると、ヒアルロン酸分子の広がりを抑制する効果、及び/又はヒアルロン酸分子を誘引する効果が得にくいことがある。
【0022】
また、本開示のヒアルロン酸粒子は、架橋剤を用いなくても化粧料中で粒子の形態を保持することができる。これは、ヒアルロン酸分子の分子内及び/又は分子間の誘引作用を奏する水素結合による結果だと考えられる。
【0023】
《ヒアルロン酸粒子含有化粧料》
本開示の化粧料は、水性媒体と、この水性媒体中に分散しているヒアルロン酸粒子とを含有している。
【0024】
〈ヒアルロン酸粒子〉
ヒアルロン酸粒子の皮膚への侵入は、個人差があり、角層の状態、毛穴の数若しくは大きさなどによって変化し得るが、平均粒子径で200nm以下の粒子であれば、大部分の皮膚に対して粒子を侵入させることができることが知られている。皮膚への侵入性、粒子の調製のしやすさ等の観点から、ヒアルロン酸粒子の平均粒子径としては、例えば、150nm以下、120nm以下、又は100nm以下にすることができ、また、10nm以上、30nm以上、又は50nm以上にすることができる。ここで、平均粒子径とは、ヒアルロン酸粒子の粒子形状を球状と仮定したときに動的光散乱法により光学的に測定されたヒアルロン酸粒子のZ平均粒子径を意図する。かかる平均粒子径は、例えば、ゼータサイザー(マルバーン・パナリティカル社製)、あるいはダイナミック光散乱光度計DLS-8000(大塚電子社製)を用いて測定することができる。これらの測定装置は、各ヒアルロン酸のオーバーラップコンセントレーションに基づいて適宜選定することができる。例えば、オーバーラップコンセントレーション未満であれば、ダイナミック光散乱光度計DLS-8000を使用することができ、オーバーラップコンセントレーション以上であれば、ゼータサイザーを使用することができる。オーバーラップコンセントレーションは、例えば、共焦点褪色後蛍光回復法(Confocal-FRAP)により算出することができる。
【0025】
本開示のヒアルロン酸粒子は、ヒアルロン酸の分子が絡まり合って凝集した糸まり状の形態を呈していると考えている。かかる粒子は、上述した支持材料を用いることなく調製することができるため、粒子中のヒアルロン酸の含有割合を、理論上、100質量%にすることができる。すなわち、本開示のヒアルロン酸粒子は、ポリマー成分として、ヒアルロン酸分子単独で構成することができる。
【0026】
ただし、本開示のヒアルロン酸粒子は、平均粒子径、保湿性能等に対して不具合を生じさせない範囲で、ヒアルロン酸以外の他のポリマー成分が含まれていてもよい。他のポリマー成分の含有割合としては、ヒアルロン酸粒子に含有される全ポリマー量に対し、例えば、20質量%以下、10質量%以下、5質量%以下、3質量%以下、又は1質量%以下とすることができる。すなわち、本開示において「ヒアルロン酸粒子」とは、このようにヒアルロン酸成分を高度に含む粒子を意図し、特許文献1及び2に記載されるような、ヒアルロン酸成分の割合が50質量%以下の粒子は包含されない。ここで、ヒアルロン酸粒子中のヒアルロン酸の含有割合については、例えば、紫外可視分光光度計(V-530、日本分光株式会社製、測定波長270nm)を用いて測定することができる。
【0027】
化粧料中のヒアルロン酸粒子の含有量としては、例えば、保湿性、コスト等の観点から、化粧料の全量に対し、0.005質量%以上、0.01質量%以上、0.05質量%以上、0.10質量%以上、0.15質量%以上、0.20質量%以上、又は0.25質量%以上にすることができ、また、1.0質量%以下、0.80質量%以下、0.60質量%以下、0.50質量%以下、又は0.45質量%以下にすることができる。本開示の化粧料は、上述したように、ヒアルロン酸の含有割合が高く、かつ、皮膚に対して非侵襲的に侵入しやすい平均粒子径が200nm以下のヒアルロン酸粒子を含んでいるため、化粧料中のヒアルロン酸粒子の含有量が比較的低量であっても十分な保湿効果を呈することができる。
【0028】
(ヒアルロン酸)
ヒアルロン酸粒子を構成し得るヒアルロン酸としては特に制限はない。一般には、ヒアルロン酸は、N-アセチル-D-グルコサミン残基と、D-グルクロン酸残基が交互に結合した直鎖状高分子を意味し、かかるヒアルロン酸は、例えば、鶏冠若しくは他の動物組織からの単離抽出、又はストレプト・コッカス属などの微生物を用いた発酵法により得ることができる。
【0029】
ヒアルロン酸は、その誘導体であってもよく、例えば、ヒアルロン酸の誘導体として、ヒアルロン酸ナトリウム塩、ヒアルロン酸カリウム塩、ヒアルロン酸マグネシウム塩、ヒアルロン酸カルシウム塩、ヒアルロン酸アルミニウム塩等のヒアルロン酸金属塩、ヒアルロン酸のヒドロキシル基、カルボキシル基等をエーテル化、エステル化、アミド化、アセチル化、アセタール化、ケタール化させて得られるヒアルロン酸誘導体等を使用することができる。ここで、本開示における「ヒアルロン酸」には、ヒアルロン酸及びその誘導体の概念が包含され得る。
【0030】
ヒアルロン酸の重量平均分子量としては特に制限はなく、例えば、10,000,000以下にすることができる。一般に、重量平均分子量500未満の比較的低分子量のヒアルロン酸は、微粒子化しなくても皮膚に侵入しやすいと考えられている。しかしながら、このような低分子量のヒアルロン酸は、皮膚内部に留まりにくく、水分の保持性能が高分子量のヒアルロン酸に比べて劣るため、皮膚内部における保湿効果を長期にわたって持続させることが難しい場合がある。一方、本開示のヒアルロン酸粒子は、高分子量のヒアルロン酸を用いて調製することができ、また、かかるヒアルロン酸を高度に粒子中に含有させることができるため、得られるヒアルロン酸粒子は、皮膚内部に留まりやすく、皮膚内部における保湿効果を長期にわたって持続させることができる。このような皮膚内部での水分の保持性能の観点、粒子の調製のしやすさ等の観点から、ヒアルロン酸の重量平均分子量としては、例えば、500以上、1,000以上、5,000以上、10,000以上、50,000以上、100,000以上、300,000以上、500,000以上、800,000以上、又は1,000,000以上とすることができ、また、10,000,000以下、8,000,000以下、5,000,000以下、3,000,000以下、2,000,000以下、又は1,500,000以下とすることができる。ここで、重量平均分子量とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフ測定における、ポリスチレン換算の重量平均分子量を意図する。
【0031】
ヒアルロン酸は、ヒアルロン酸及びその誘導体を、単独で又は二種以上組み合わせて使用することができる。また、使用するヒアルロン酸及びその誘導体の分子量は、同一であってもよく或いは異なっていてもよい。
【0032】
ヒアルロン酸は市販品を用いてもよい。市販のヒアルロン酸としては、例えば、ヒアルロン酸HA-LQ(キューピー株式会社製)、ヒアルロン酸FCH(キッコーマンバイオケミファ株式会社製)、バイオヒアルロン酸ナトリウムHA12N(株式会社資生堂製)等が挙げられる。
【0033】
〈水性媒体〉
水性媒体としては特に制限はなく、化粧料、医薬部外品等に使用される水性媒体を使用することができる。例えば、イオン交換水、蒸留水、超純水、水道水、緩衝液等を使用することができる。
【0034】
緩衝液としては、クエン酸緩衝液、乳酸緩衝液、リン酸緩衝液、酢酸緩衝液、酒石酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、トリス緩衝液等が挙げられる。緩衝能が高いという観点で、クエン酸緩衝液、乳酸緩衝液及びリン酸緩衝液が好ましく、クエン酸緩衝液がより好ましい。
【0035】
緩衝液のpHとしては、7.0以下、6.8以下、又は6.5以下にすることができる。緩衝液のpHの下限値は特に制限されないが、例えば、皮膚への刺激性の観点等から、4.5以上、5.5以上、又は6.0以上であることが好ましい。
【0036】
〈塩〉
本開示の化粧料は、ヒアルロン酸粒子の調製時に塩が使用されるため、化粧料中に塩を含み得る。化粧料に含み得る塩としては、ヒアルロン酸のマイナス電荷を見掛け上中和できる塩であれば特に制限はない。このような塩としては、例えば、無機塩及び有機酸塩から選択される少なくとも一種の塩を挙げることができる。化粧料としての使用を考慮した場合、無機塩及び有機酸塩の中でも、皮膚に対して悪影響を及ぼしにくい塩であることが好ましい。ここで、「無機塩」とは、無機成分のみから構成される塩を意味し、無機酸と無機塩基より生じるイオンから構成される塩と言い換えることもできる。また、「有機酸塩」とは、有機酸と金属イオンが結合してできた塩を意味する。なお、塩は、化粧料中では、一般に、塩由来のイオンの形態で存在している。したがって、本開示において、例えば「塩を含む化粧料」とは、このようなイオンの形態で塩が含まれていることを意図する。また、イオン性界面活性剤は、本開示の「塩」には包含されない。
【0037】
無機塩としては、例えば、硝酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、塩化ナトリウム、硝酸カリウム、硫酸カリウム、塩化カリウム、硝酸カルシウム、硫酸カルシウム、塩化カルシウム、硝酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、塩化アルミニウムなどを挙げることができる。これらの塩は単独で又は二種以上組み合わせて使用することができる。
【0038】
有機酸塩としては、例えば、クエン酸塩、酢酸塩、乳酸塩、酒石酸塩、コハク酸塩、リンゴ酸塩、グリコール酸塩、サリチル酸塩、ピロリドンカルボン酸塩などを挙げることができる。具体的には、クエン酸、酢酸、乳酸、酒石酸、コハク酸、リンゴ酸、グリコール酸、サリチル酸、ピロリドンカルボン酸などの有機酸と、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、アルミニウムイオンなどの金属イオンとが結合した塩を挙げることができる。これらの塩は単独で又は二種以上組み合わせて使用することができる。
【0039】
化粧料中の塩の配合量は、塩のイオン強度として定義することができる。塩のイオン強度としては、例えば、0.01以上、0.03以上、又は0.05以上とすることができる。イオン強度の上限値については特に制限はないが、例えば、4.0以下、3.0以下、2.0以下、又は1.0以下とすることができる。ここで、例えば、緩衝液に塩を添加して化粧料を調製する場合には、イオン強度は、緩衝液自体に含まれている塩成分と、緩衝液に別途添加した塩成分とを含む全ての塩成分に基づいて算出する。
【0040】
〈任意成分〉
本開示の化粧料は、本発明の効果に影響を及ぼさない範囲で、各種成分を適宜配合することができる。このような成分としては、例えば、皮膚栄養剤、ビタミン、医薬品、医薬部外品、化粧品等に適用可能な水溶性薬剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、防腐剤、酸化防止助剤、増粘剤、顔料、染料、色素、香料等を挙げることができる。これらの任意成分は、単独で又は二種以上組み合わせて使用することができる。
【0041】
本開示のヒアルロン酸粒子は、上述したように、ヒアルロン酸のマイナス電荷を見掛け上中和させ、ヒアルロン酸の分子内又は分子間の水素結合を優位に作用させることによって調製される。したがって、例えば、ヒアルロン酸のマイナス電荷の見掛け上の中和及び/若しくは水素結合を阻害して、ヒアルロン酸粒子の平均粒子径を200nm超にするような添加剤、又は、ヒアルロン酸のマイナス電荷と結合する及び/若しくはヒアルロン酸と水素結合して、ヒアルロン酸粒子の平均粒子径を200nm超にするような添加剤は、化粧料の全量に対し、各々、15質量%以下、10質量%以下、5質量%以下、1質量%以下、0.5質量%以下、又は0.1質量%以下の範囲であれば含まれてもよいが、これらの添加剤は含まれないことが好ましい。
【0042】
このような添加剤として、例えば、イオン性界面活性剤等のイオン性化合物、1,3-ブチレングリコール、ジプロピレングリコール、イソプレングリコールなどのグリコール類、エタノール、尿素などを挙げることができる。特に、カチオン性を呈する界面活性剤又は化合物は、マイナス電荷を有するヒアルロン酸と静電的に結合して粒子径を大きくするおそれがあり、グリコール類、エタノールも、ヒアルロン酸と水素結合して粒子径を大きくするおそれがある。また、尿素は、粒子化にとって重要な水素結合を切断する作用を呈するため、粒子径を大きくするおそれがある。
【0043】
《化粧料の調製方法》
本開示の化粧料は、例えば以下の方法を用いて調製することができる。
【0044】
水又は緩衝液に塩を配合して溶液を調製し、この溶液にヒアルロン酸を配合し、攪拌混合しながらヒアルロン酸を溶解させ、ヒアルロン酸粒子を形成して、化粧料を調製することができる。
【0045】
または、ヒアルロン酸を水又は緩衝液に配合し、攪拌混合してヒアルロン酸を溶解させた後に、塩をさらに配合してヒアルロン酸粒子を形成し、化粧料を調製することができる。
【0046】
なお、緩衝液自体が、緩衝液中に含まれている塩の作用によって上述した所定のイオン強度を呈する場合には、塩の添加を省略することができる。
【0047】
また、化粧料の調製方法で使用し得る、ヒアルロン酸、水、緩衝液、任意成分等の各種材料については、上述した化粧料の項目における各種材料を使用することができる。ここで、任意成分を配合する場合には、かかる任意成分は、ヒアルロン酸粒子となる前に配合してもよいが、粒子化に影響を及ぼさないように、ヒアルロン酸粒子を調製した後に配合することが好ましい。
【0048】
ヒアルロン酸の配合量としては、化粧料の全量に対し、0.005質量%以上、0.01質量%以上、0.05質量%以上、0.10質量%以上、0.15質量%以上、0.20質量%以上、又は0.25質量%以上にすることができ、また、1.0質量%以下、0.80質量%以下、0.60質量%以下、0.50質量%以下、又は0.45質量%以下にすることができる。
【0049】
《化粧料の適用部位》
本開示の化粧料は、体のあらゆる部分における皮膚の表面上であれば、いかなる箇所に適用して使用することができる。例えば、顔(唇、目元、瞼、頬、額、眉間、鼻など)、耳、手、腕、首、脚、足、胸、腹、背中等の皮膚表面に対して適宜適用することができる。ここで、皮膚には、皮膚の表皮の角質が変化して硬化した爪なども含まれる。
【0050】
《ヒアルロン酸粒子の他の用途》
本開示のヒアルロン酸粒子は、化粧料以外に、例えば、皮膚外用剤、医薬品、医薬部外品などの用途に使用することもできる。
【実施例
【0051】
以下に試験例及び実施例を挙げて、本発明についてさらに詳しく説明を行うが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0052】
《試験例1~6》
〈組成物の評価〉
下記の製造方法により得た組成物に対し、以下に示す各種評価を実施し、その結果を、表1~6及び図1~6にまとめる。なお、表及び図面中の「HA」は、ヒアルロン酸を意図する。
【0053】
(平均粒子径の評価)
組成物中のヒアルロン酸粒子の平均粒子径については、ゼータサイザー(マルバーン・パナリティカル社製)、あるいはダイナミック光散乱光度計DLS-8000(大塚電子社製)を用い、動的光散乱法によるZ平均粒子径に基づいて評価した。
【0054】
(水分量比の評価)
被験者の上腕内側部を石鹸にて洗浄後、温度21±1℃、相対湿度45±5%の恒温恒湿室にて20分間過ごしてもらい、被験者の環境調整を行った。次いで、洗浄した上腕内側部の皮膚表面における組成物適用前の水分量、並びに組成物を皮膚表面に対して1滴(2×2cm)塗布してから20分後、30分後、60分後及び120分後の水分量を、コルネオメーター(商標)CM825(Courage and Khazaka社製)を用いて測定した。得られた各水分量から以下の式1によって水分量比を算出した:
水分量比=組成物適用後の水分量/組成物適用前の水分量 …式1
【0055】
〈試験例1:イオン強度の影響〉
試験例1では、ヒアルロン酸粒子の粒子径に及ぼすイオン強度の影響について検討した。その結果を表1及び図1に示す。
【0056】
(組成物の調製方法)
ヒアルロン酸(株式会社資生堂製、バイオヒアロ12:重量平均分子量120万)をイオン交換水中に0.1質量%の含有量となるように添加し、ボルテックスミキサーで攪拌混合して組成物Aを調製した。ヒアルロン酸を溶解させた後、塩のイオン強度が、0.001、0.003、0.01、0.02、0.03、及び0.10となるように、分取した各組成物Aに対し、塩化ナトリウムを、0.01M(mol/l)、0.003M、0.01M、0.02M、0.03M、及び0.10Mの濃度で添加し、ボルテックスミキサーで攪拌混合してヒアルロン酸粒子含有組成物を各々調製した。ここで、1価の陽イオンと1価の陰イオンから構成される塩化ナトリウムの場合には、塩化ナトリウムの濃度とイオン強度の値は一致する。
【0057】
【表1】
【0058】
(結果)
表1及び図1の結果から明らかなように、塩を添加することによってナノメーターオーダーのヒアルロン酸粒子が得られることが確認できた。また、塩の添加量の増加、即ち、イオン強度の増加に伴い、ヒアルロン酸粒子の粒子径は減少する傾向を示し、特に、イオン強度が0.03以上において、100nm以下のヒアルロン酸粒子が得られることが確認できた。
【0059】
〈試験例2:ヒアルロン酸の濃度及びイオン強度の影響〉
試験例2では、ヒアルロン酸粒子の粒子径に及ぼす組成物調製時のヒアルロン酸の濃度とイオン強度の影響について検討した。その結果を表2及び図2に示す。
【0060】
(組成物の調製方法)
組成物調製時のヒアルロン酸の濃度を0.01質量%、0.1質量%、0.2質量%、0.3質量%、0.4質量%、0.5質量%とし、イオン強度が表2に記載される割合となるように塩化ナトリウムを配合したこと以外は、試験例1と同様にしてヒアルロン酸粒子含有組成物を各々調製した。
【0061】
【表2】
【0062】
(結果)
表2及び図2の結果から明らかなように、ヒアルロン酸の濃度が上がっても、塩を添加することによってナノメーターオーダーのヒアルロン酸粒子が得られることが確認できた。
【0063】
〈試験例3:ヒアルロン酸の濃度が0.4~0.5質量%のときのイオン強度の影響〉
試験例3では、組成物調製時のヒアルロン酸の濃度が0.4~0.5質量%のときの、ヒアルロン酸粒子に及ぼすイオン強度の影響について検討した。その結果を表3及び図3に示す。
【0064】
(組成物の調製方法)
ヒアルロン酸の濃度を0.4質量%、0.5質量%とし、イオン強度が表3に記載される割合となるように塩化ナトリウムを配合したこと以外は、試験例1と同様にしてヒアルロン酸粒子含有組成物を各々調製した。
【0065】
【表3】
【0066】
(結果)
表3及び図3の結果から明らかなように、ヒアルロン酸の濃度が0.4質量%及び0.5質量%のいずれの場合も、イオン強度が0.05以上であれば、200nm以下のヒアルロン酸粒子が得られることが確認できた。特に、ヒアルロン酸の濃度が0.4質量%の場合には、イオン強度が0.20~1.0の範囲において、100nm以下のヒアルロン酸粒子が得られることが確認できた。
【0067】
〈試験例4:保湿性に及ぼすヒアルロン酸粒子の粒子径の影響〉
試験例4では、保湿性に及ぼすヒアルロン酸粒子の粒子径の影響について検討した。その結果を表4及び図4に示す。ここで、水分量比は、1よりも大きくなればなるほど、組成物適用前の状態に比べて保湿性能が向上しているといえる。水分量比は、1.25以上であることが好ましく、1.30以上であることがより好ましく、1.35以上であることが特に好ましい。
【0068】
(組成物の調製方法)
ヒアルロン酸の濃度を0.4質量%とし、イオン強度が表4に記載される割合となるように塩化ナトリウムを配合したこと以外は、試験例1と同様にしてヒアルロン酸粒子含有組成物を各々調製した。ここで、塩化ナトリウムを添加していないイオン強度0の組成物中のヒアルロン酸分子は、糸状に広がり、粒子の形態をとっていないと考えられるため、表及び図中には「非粒子」と表記している。
【0069】
【表4】
【0070】
(結果)
表4及び図4の結果から明らかなように、粒子化していないヒアルロン酸を含む組成物、及び平均粒子径が294nm以上のヒアルロン酸粒子を含有する組成物の場合には、組成物を皮膚に適用した直後は、保湿性能が一時的に上昇しているが、その保湿性能はわずか30分程度で低下しており、組成物を適用していない状態とほぼ同程度の保湿性能しか示さなかった。これは、これらの組成物中のヒアルロン酸が皮膚内部まで侵入していないためであると考えられる。
【0071】
一方、平均粒子径が84nmのヒアルロン酸粒子を含有する組成物の場合には、組成物を皮膚に適用するとすぐに優れた保湿性能が発揮され、その保湿性能は長期にわたって維持し得ることが確認できた。この保湿性能の即効性と持続性に関する作用効果は、ヒアルロン酸粒子が、皮膚の内部まで侵入しやすい200nm以下の超微細な粒子形態であることと、粒子中のヒアルロン酸の含有比率が高いことが起因していると考えられる。
【0072】
〈試験例5:クエン酸ナトリウムによるヒアルロン酸粒子の粒子径の影響〉
試験例5では、クエン酸ナトリウムによるヒアルロン酸粒子の粒子径の影響について検討した。その結果を表5及び図5に示す。
【0073】
(組成物の調製方法)
ヒアルロン酸(株式会社資生堂製、バイオヒアロ12:重量平均分子量120万)をクエン酸緩衝液(富士フイルム和光純薬株式会社製:pH6.5、イオン強度0.006)中に0.1質量%の含有量となるように添加し、ボルテックスミキサーで攪拌混合して組成物Bを調製した。ヒアルロン酸を溶解させた後、塩のイオン強度が、0.03、0.06、及び0.30となるように、分取した各組成物Bに対し、クエン酸ナトリウムを添加し、ボルテックスミキサーで攪拌混合してヒアルロン酸粒子含有組成物を各々調製した。ここで、イオン強度が0.03のときのクエン酸ナトリウムの濃度は、0.005Mであり、イオン強度が0.06のときのクエン酸ナトリウムの濃度は、0.010Mであり、イオン強度が0.30のときのクエン酸ナトリウムの濃度は、0.050Mであった。
【0074】
【表5】
【0075】
(結果)
表5及び図5の結果から明らかなように、塩化ナトリウム以外の塩であっても、200nm以下のヒアルロン酸粒子が得られることが確認できた。
【0076】
〈試験例6:水素結合を阻害する添加剤の使用に伴うヒアルロン酸粒子の粒子径の影響〉
試験例6から、水素結合を阻害する添加剤である尿素の使用に伴うヒアルロン酸粒子の粒子径の影響について検討した。その結果を表6及び図6に示す。
【0077】
(実施例1)
ヒアルロン酸(資生堂株式会社製、バイオヒアロ12:重量平均分子量120万)をイオン交換水中に0.1質量%の含有量となるように添加し、ボルテックスミキサーで攪拌混合して組成物Cを調製した。ヒアルロン酸を溶解させた後、塩のイオン強度が0.10となるように、組成物Cに対し、塩化ナトリウムを0.10Mの濃度で添加し、ボルテックスミキサーで攪拌混合してヒアルロン酸粒子含有組成物を調製した。
【0078】
(実施例2)
ヒアルロン酸(資生堂株式会社製、バイオヒアロ12:重量平均分子量120万)を等張のリン酸緩衝液(タカラバイオ株式会社製:pH7.4、イオン強度0.154)中に0.1質量%の含有量となるように添加し、ボルテックスミキサーで攪拌混合してヒアルロン酸粒子含有組成物を調製した。
【0079】
(比較例1)
実施例1のヒアルロン酸粒子含有組成物の全量に対し、尿素を10質量%配合して比較例1の組成物を調製した。
【0080】
(比較例2)
実施例2のヒアルロン酸粒子含有組成物の全量に対し、尿素を10質量%配合して比較例2の組成物を調製した。
【0081】
【表6】
【0082】
(結果)
表6及び図6の結果より、水素結合を切断する作用を奏する尿素を組成物中に添加すると、ヒアルロン酸粒子の粒子径が大幅に上昇することが確認できた。この結果からも明らかなように、本開示の方法で調製したヒアルロン酸粒子は、水素結合を切断する尿素の配合によって粒子径が変動していることから、尿素の影響を受けない架橋結合によって得られるような粒子ではなく、水素結合によって粒子化した粒子であると考えられる。
【0083】
《化粧料の処方例》
以下に、本開示の方法で調製したヒアルロン酸粒子を化粧料として使用した場合の処方例を挙げるが、この例示に限定されるものではない。なお、以下の処方例に記載した化粧料を皮膚に適用すると、長期にわたって優れた保湿性能を呈することができた。
【0084】
〈処方例1 化粧料〉
(成分) (質量%)
イオン交換水 残部
ヒアルロン酸 0.1
塩化ナトリウム 0.1
香料 適量
【0085】
(化粧料の製造方法)
イオン交換水中にヒアルロン酸を添加し、ボルテックスミキサーで攪拌混合してヒアルロン酸を溶解させた。次いで、調製したヒアルロン酸水溶液に対して塩化ナトリウムを添加し、ボルテックスミキサーで攪拌混合してヒアルロン酸粒子を調製した後、香料を添加して化粧料を調製した。
図1
図2
図3
図4
図5
図6