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特許7536021変性ポリオレフィン樹脂及び分散体組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-08
(45)【発行日】2024-08-19
(54)【発明の名称】変性ポリオレフィン樹脂及び分散体組成物
(51)【国際特許分類】
   C08F 8/46 20060101AFI20240809BHJP
   C09D 123/26 20060101ALI20240809BHJP
   C09J 123/26 20060101ALI20240809BHJP
   C09D 11/108 20140101ALI20240809BHJP
【FI】
C08F8/46
C09D123/26
C09J123/26
C09D11/108
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021542897
(86)(22)【出願日】2020-08-24
(86)【国際出願番号】 JP2020031862
(87)【国際公開番号】W WO2021039729
(87)【国際公開日】2021-03-04
【審査請求日】2023-06-07
(31)【優先権主張番号】P 2019157406
(32)【優先日】2019-08-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小池 諒
(72)【発明者】
【氏名】榊原 史泰
(72)【発明者】
【氏名】関口 俊司
(72)【発明者】
【氏名】土井 竜二
【審査官】中川 裕文
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/079919(WO,A1)
【文献】特開2007-270122(JP,A)
【文献】特開2015-174884(JP,A)
【文献】特開2008-137273(JP,A)
【文献】特開2015-105294(JP,A)
【文献】「世界のウェブアーカイブ|国立国会図書館インターネット資料収集保存事業」,2013年12月06日,[令和6年2月6日検索],インターネット<URL:https://web.archive.org/web/20220702141953/https://jp.mitsuichemicals.com/sites/default/files/media/document/brand003.pdf>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 6/00-283/00
283/02-289/00
291/00-297/08
301/00
C08L 1/00-101/14
C09D 1/00- 13/00
101/00-201/10
C09J 1/00- 5/10
9/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成分(A):ポリオレフィン樹脂を、成分(B):α,β-不飽和カルボン酸又はその誘導体でグラフト変性したグラフト変性物を含有し、
引張弾性率が250MPa以上であり、
重量平均分子量が70,000以上200,000未満であり、
引張弾性率は、変性ポリオレフィン樹脂の水分散体組成物を乾燥し、得られた乾燥物を有機溶剤に加熱溶解し、得られた溶液を剥離紙に膜厚20μmとなるように塗工した後、100℃に設定した送風乾燥機で5分間乾燥を行い、23℃、相対湿度50%の恒温恒湿条件下で24時間保管し、続いて、幅15mm、長さ150mmにカットし、剥離紙を剥離することで試験フィルムを得て、得られた試験フィルムに対し、引張試験機を用いて引張速度10mm/min、チャック間距離100mmの条件で測定された引張弾性率である、変性ポリオレフィン樹脂。
【請求項2】
示差走査型熱量計による融点が、85℃以上110℃未満である、請求項1に記載の変性ポリオレフィン樹脂。
【請求項3】
前記成分(A)が、エチレン-プロピレン共重合体、プロピレン-1-ブテン共重合体、及びエチレン-プロピレン-1-ブテン共重合体からなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1又は2に記載の変性ポリオレフィン樹脂。
【請求項4】
前記グラフト変性物中の前記成分(B)のグラフト重量が、0.1~10重量%である、請求項1~3のいずれか1項に記載の変性ポリオレフィン樹脂。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の変性ポリオレフィン樹脂を含む、分散体組成物。
【請求項6】
示差走査型熱量計による融点が、90℃以上110℃未満である、請求項5に記載の分散体組成物。
【請求項7】
プライマーである、請求項5又は6に記載の分散体組成物。
【請求項8】
塗料である、請求項5又は6に記載の分散体組成物。
【請求項9】
インキである、請求項5又は6に記載の分散体組成物。
【請求項10】
接着剤である、請求項5又は6に記載の分散体組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変性ポリオレフィン樹脂及び分散体組成物に関する。より詳細には、高温条件下での耐水付着性に優れる変性ポリオレフィン樹脂及び分散体組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィンは、一般的に、安価で成形性、耐薬品性、耐水性、電気特性など多くの優れた性質を有する。そのため、ポリオレフィンは、シート、フィルム、成形物等の材料として近年広く採用されている。しかしながら、ポリオレフィン基材は、ポリウレタン系樹脂、ポリアミド系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂等の極性基材とは異なり、非極性かつ結晶性の基材である。そのため、ポリオレフィン基材への塗装や接着は困難である。
【0003】
接着性に関する上記の問題を改善する方法として、基材表面にポリオレフィン系樹脂と接着可能なプライマーを下塗りし、この下塗り層上にウレタン樹脂系塗料等を塗布する方法が提案されている。かかるプライマーとして、極性基(カルボキシ基、酸無水基等)を付加した変性ポリオレフィン系樹脂が使用されており、極性基を付加することでポリオレフィン系樹脂基材だけでなくウレタン樹脂系塗料等との親和性を高め、接着性を向上させている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-105294号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
変性ポリオレフィン系樹脂は、自動車バンパー等の樹脂基材向けのプライマーとして広く使用されている。ところで、自動車メーカーは、近年、車体軽量化を目的にボディの鋼板基材を樹脂基材へと置き換える方針にある。これに伴い、鋼板塗装と同等の塗膜性能を有するボディ向け樹脂基材用プライマーが必要となってきている。
【0006】
ボディ塗膜における、特にウインドガラスとボディとを直接接着するダイレクトグレージング工法用の接着剤や、車両における側窓ガラスと窓枠との接着剤においては、長期にわたって接着強度が要求されるとともに、高温にさらされても劣化が小さいことが要求される。よって、バンパー向けプライマーにおける耐水付着性と比較して、高温条件下での試験となる。
より詳細には、ダイレクトグレージング工法用などの接着剤のための高温条件下での耐水付着性では、まず、樹脂基材に塗装した塗膜上にウレタン系接着剤を塗布し、試験板を作製する。続けて、作製した試験板を60℃に設定した恒温水槽中に10日間浸漬した後、接着剤層の剥離試験を行って評価する。一方、バンパー塗膜の耐温水試験では、樹脂基材に塗装して得られた試験片を40℃の恒温水槽中に10日間浸漬した後に、塗膜の剥離試験を行って評価する。
そのため、従来のバンパー向けプライマーに用いられる変性ポリオレフィン系樹脂では、試験温度が高いダイレクトグレージング工法用などの接着剤において、塗膜に十分な強度や付着力を付与することができず、塗膜が凝集破壊を起こしてしまう場合がある。
従って、従来のポリオレフィン系樹脂を使用したプライマーでは、耐水付着性の点で、十分な塗膜物性を発現することが困難である。
【0007】
本発明の課題は、高温条件下での耐水付着性に優れる塗膜を作製し得る変性ポリオレフィン樹脂を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討した結果、引張弾性率、重量平均分子量が所定の範囲になるよう、ポリオレフィン樹脂をα,β-不飽和カルボン酸又はその誘導体でグラフト変性したグラフト変性物、及びこれを含む分散体組成物が、上記の課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明者らは、下記の〔1〕~〔10〕を提供する。
〔1〕成分(A):ポリオレフィン樹脂を、成分(B):α,β-不飽和カルボン酸又はその誘導体でグラフト変性したグラフト変性物を含有し、示差走査型熱量計による融点が85℃以上110℃未満であり、引張弾性率が250MPa以上であり、重量平均分子量が70,000以上200,000未満である、変性ポリオレフィン樹脂。
〔2〕示差走査型熱量計による融点が、85℃以上110℃未満である、上記〔1〕に記載の変性ポリオレフィン樹脂。
〔3〕前記成分(A)が、エチレン-プロピレン共重合体、プロピレン-1-ブテン共重合体、及びエチレン-プロピレン-1-ブテン共重合体からなる群から選択される少なくとも1種を含む、上記〔1〕又は〔2〕に記載の変性ポリオレフィン樹脂。
〔4〕前記グラフト変性物中の前記成分(B)のグラフト重量が、0.1~10重量%である、上記〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の変性ポリオレフィン樹脂。
〔5〕上記〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の変性ポリオレフィン樹脂を含む、分散体組成物。
〔6〕示差走査型熱量計による融点が、90℃以上110℃未満である、上記〔5〕に記載の分散体組成物。
〔7〕プライマーである、上記〔5〕又は〔6〕に記載の分散体組成物。
〔8〕塗料である、上記〔5〕又は〔6〕に記載の分散体組成物。
〔9〕インキである、上記〔5〕又は〔6〕に記載の分散体組成物。
〔10〕接着剤である、上記〔5〕又は〔6〕に記載の分散体組成物。
【発明の効果】
【0009】
本発明の変性ポリオレフィン樹脂によれば、高温条件下での耐水付着性に優れる塗膜を作製し得る。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
本明細書中、「AA~BB」という表記は、AA以上BB以下を意味する。
【0011】
[1.変性ポリオレフィン樹脂]
本発明の変性ポリオレフィン樹脂は、成分(A):ポリオレフィン樹脂(以下、「成分(A)」とも記載する)を、成分(B):α,β-不飽和カルボン酸又はその誘導体(以下、「成分(B)」とも記載する)でグラフト変性したグラフト変性物を含有する。変性ポリオレフィン樹脂は、引張弾性率が250MPa以上であり、重量平均分子量(以下、「Mw」ともいう)が70,000以上200,000未満である。また、変性ポリオレフィン樹脂の示差走査型熱量計(以下、「DSC」ともいう)による融点(以下、「Tm」ともいう)は、85℃以上110℃未満が好ましい。
【0012】
本発明の変性ポリオレフィン樹脂が高温条件下での耐水付着性に優れる塗膜を作製し得る理由は次のように推測される。
本発明の変性ポリオレフィン樹脂は、Mwが所定の範囲内であり、かつ、引張弾性率が所定の値以上である。Mwが所定の範囲内であると、塗膜に凝集力や付着性を付与するとともに、溶剤溶解性を確保し得る。そのため、基材との付着性を確保し得る。引張弾性率が所定の値以上であると、塗膜に十分な強度を付与し得る。そのため、高温条件下でも塗膜強度を維持し、基材との付着性を確保し得る。従って、高温条件下での耐水付着性に優れる塗膜を作製し得るという優れた効果を発現できると推察される。
また、Tmが所定の範囲内であると、高温条件下での耐水性をさらに向上し得るとともに、塗膜焼付け時の良好な成膜性を確保し得る。
【0013】
本発明の変性ポリオレフィン樹脂のMwは、70,000以上200,000未満であり、80,000以上150,000未満が好ましい。Mwが70,000以上であると、乾燥後の塗膜が凝集力を発揮し、塗膜強度や付着性を付与し得る。一方、200,000未満であると、十分な溶剤溶解性を確保し得る。また、水分散体を調製した際、良好な安定性を確保し得る。
本明細書中、Mwはゲルパーミエーションクロマトグラフィー(標準物質:ポリスチレン)によって測定し、算出された値である。
【0014】
本発明の変性ポリオレフィン樹脂のTmは、85℃以上110℃未満が好ましく、90℃以上105℃未満がより好ましい。Tmが85℃以上であると、高温条件下での十分な耐水性をさらに向上し得る。一方、融点が110℃未満であると、塗膜焼付け時の良好な成膜性を確保し得る。
本明細書中、DSCによるTmは、以下の条件で測定した値である。JIS K7121-1987に準拠し、DSC測定装置(TA Instruments製)を用い、約5mgの試料を150℃で10分間加熱融解状態を保持する。次いで、10℃/分の速度で降温して、-50℃で安定保持する。その後、10℃/分で150℃まで昇温し、融解した時の融解ピーク温度をTmとして評価する。
【0015】
本発明の変性ポリオレフィン樹脂の引張弾性率は、250MPa以上であり、300MPa以上が好ましい。引張弾性率が250MPa以上であると、塗膜に十分な強度を付与し得る。また、その上限は特に限定されないが、通常、8000MPa以下であり、5000MPa以下、3000MPa以下、1000MPa以下が好ましく、800MPa以下がより好ましく、600MPa以下がさらに好ましく、500MPa以下がさらにより好ましい。
本明細書中、変性ポリオレフィン樹脂の引張弾性率は、以下の条件で測定した値である。まず、変性ポリオレフィン樹脂の水分散体組成物を乾燥し、乾燥物を得る。得られた乾燥物を有機溶剤に加熱溶解し、得られた溶液を剥離紙に膜厚約20μmとなるように塗工する。100℃に設定した送風乾燥機で5分間乾燥を行い、23℃、相対湿度50%の恒温恒湿条件下で24時間保管する。その後、幅15mm、長さ150mmにカットし、剥離紙を剥離することで試験フィルムを得る。得られた試験フィルムに対し、引張試験機を用いて引張速度10mm/min、チャック間距離100mmの条件で引張弾性率を測定する。
上記測定条件からわかるように、変性ポリオレフィン樹脂の引張弾性率は、変性ポリオレフィン樹脂からなり、幅15mm、長さ150mmの試験フィルムを用いて、引張速度10mm/min、チャック間距離100mmの条件で測定した値である。
【0016】
[1-1.成分(A):ポリオレフィン樹脂]
成分(A)は、特に限定されるものではなく、1種のオレフィンの単独重合体であってもよく、2種以上のオレフィンの共重合体であってもよい。また、共重合体である場合、ランダム共重合体であってもよく、ブロック共重合体であってもよい。オレフィンとしては、α-オレフィンが好適に用いられる。α-オレフィンとしては、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテンが挙げられる。
成分(A)としては、ポリプロピレン基材等の非極性樹脂基材に対して十分な付着性を発現させるという観点から、ポリプロピレン(プロピレン単独重合体)、エチレン-プロピレン共重合体、プロピレン-1-ブテン共重合体、エチレン-プロピレン-1-ブテン共重合体がより好適に用いられる。
【0017】
本明細書中、ポリプロピレンとは、基本単位がプロピレン由来の構成単位である重合体を表す。エチレン-プロピレン共重合体とは、基本単位がエチレン由来の構成単位及びプロピレン由来の構成単位である共重合体を表す。プロピレン-1-ブテン共重合体とは、基本単位がプロピレン由来の構成単位及び1-ブテン由来の構成単位である共重合体を表す。これらの重合体は、上記基本単位以外の他のオレフィン由来の構成単位を少量含有していてもよい。この含有量は、樹脂本来の性能を著しく損なわない量であればよい。このような他のオレフィン由来の構成単位は、例えば、変性ポリオレフィン樹脂の製造までの工程で混入することがある。
【0018】
成分(A)は、構成単位100モル%中、プロピレン由来の構成単位を60モル%以上含むことが好ましい。プロピレン由来の構成単位を上記範囲で含むと、非極性樹脂(例えば、プロピレン樹脂)等の基材又は成型品に対する付着性を確保し得る。
【0019】
成分(A)は、重合触媒としてメタロセン触媒を用いて得られるポリオレフィン樹脂は、下記の特徴を有するので好ましい。メタロセン触媒を用いて得られる成分(A)は、分子量分布が狭い。また、成分(A)が共重合体の場合は、ランダム共重合性に優れ、組成分布が狭く、さらには、共重合し得るコモノマーの範囲が広い。
メタロセン触媒としては、公知のものが使用できる。メタロセン触媒は、好ましくは、以下に述べる成分(1)及び(2)と、さらに必要に応じて(3)とを組み合わせて得られる。
・成分(1);共役五員環配位子を少なくとも一個有する周期律表4~6族の遷移金属化合物であるメタロセン錯体;
・成分(2);イオン交換性層状ケイ酸塩;
・成分(3);有機アルミニウム化合物。
【0020】
エチレン-プロピレン共重合体及びプロピレン-ブテン共重合体がランダム共重合体である場合、構成単位100モル%中、エチレン由来の構成単位又はブテン由来の構成単位を5~50モル%の割合で含み、プロピレン由来の構成単位を50~95モル%の割合で含むことが好ましい。
【0021】
塗膜に十分な強度を付与するという観点から、成分(A)の引張弾性率は、150MPa以上が好ましく、250MPa以上がより好ましい。その上限は、通常、8000MPa以下であり、5000MPa以下、3000MPa以下、1000MPa以下が好ましく、800MPa以下がより好ましく、600MPa以下がさらに好ましい。
成分(A)の引張弾性率の測定は、変性ポリオレフィン樹脂の引張弾性率の測定と同様に行うことができる。
【0022】
成分(A)の融点は、80℃以上110℃未満が好ましく、85℃以上105℃がより好ましい。これにより融点が上記範囲である変性ポリオレフィン樹脂を容易に得ることができる。成分(A)の重量平均分子量は、70,000以上500,000未満であり、80,000以上400,000未満が好ましい。
【0023】
成分(A)は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。2種以上を組み合わせて用いる場合、その割合は特に限定されない。
【0024】
[1-2.成分(B):α,β-不飽和カルボン酸又はその誘導体]
成分(B)は、α,β-不飽和カルボン酸又はその誘導体である。α,β-不飽和カルボン酸及びその誘導体としては、例えば、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、無水シトラコン酸、メサコン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、アコニット酸、無水アコニット酸、無水ハイミック酸、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステルが挙げられる。中でも、無水マレイン酸が好ましい。
成分(B)は、α,β-不飽和カルボン酸及びその誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物であればよく、1種以上のα,β-不飽和カルボン酸と1種以上のα,β-不飽和カルボン酸の誘導体の組み合わせ、2種以上のα,β-不飽和カルボン酸の組み合わせ、2種以上のα,β-不飽和カルボン酸の誘導体の組み合わせであってもよい。
【0025】
グラフト変性物中の成分(B)のグラフト重量は、グラフト変性物を100重量%とした場合に、0.1~10重量%が好ましく、0.5~5重量%がより好ましい。グラフト重量が0.1重量%以上であると、得られる変性ポリオレフィン樹脂の上塗り塗料に対する付着性を確保し得る。また、水分散体を調製した際の良好な安定性を確保し得る。グラフト重量が10重量%以下であると、グラフト未反応物の発生を防止することができ、樹脂基材に対する十分な付着性を確保し得る。
成分(B)のグラフト重量は、アルカリ滴定法によって求めた値である。
【0026】
[1-3.グラフト変性物]
グラフト変性物は、成分(A)に成分(B)をグラフト変性(グラフト重合)することで調製し得る。グラフト変性は、公知の方法で行うことが可能であり、成分(C):ラジカル発生剤(以下、「成分(C)」ともいう)を用いてもよい。グラフト変性は、例えば、成分(A)及び成分(B)の混合物を、トルエン等の有機溶剤に加熱溶解し、成分(C)を添加する溶液法、或いは、バンバリーミキサー、ニーダー、押出機等の混練機を使用して、成分(A)、成分(B)及び成分(C)を添加し、加熱下で溶融混練反応によりグラフト変性物を得る方法が挙げられる。成分(A)、成分(B)及び成分(C)は、一括添加しても、逐次添加してもよい。
【0027】
成分(C)は、公知のラジカル発生剤の中より適宜選択することができ、有機過酸化物系化合物が好ましい。有機過酸化物系化合物としては、例えば、ジ-t-ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t-ブチルクミルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ジラウリルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド、1,4-ビス[(t-ブチルパーオキシ)イソプロピル]ベンゼン、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-3,5,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-シクロヘキサン、シクロヘキサノンパーオキサイド、t-ブチルパーオキシベンゾエート、t-ブチルパーオキシイソブチレート、t-ブチルパーオキシ-3,5,5-トリメチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、クミルパーオキシオクトエートが挙げられる。中でも、ジ-t-ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド及びジラウリルパーオキサイドが好ましい。
成分(C)は、単独のラジカル発生剤でもよいし、複数種のラジカル発生剤の組み合わせであってもよい。
【0028】
グラフト重合反応における成分(C)の添加量は、成分(B)の添加量(重量)に対し、1~100重量%が好ましく、10~50重量%がより好ましい。1重量%以上であると、十分なグラフト効率を確保し得る。100重量%以下であると、グラフト変性物の重量平均分子量の低下を防止し得る。
【0029】
変性ポリオレフィン樹脂は、グラフト変性物を少なくとも1種含めばよく、2種以上のグラフト変性物(例えば、成分(A)及び/又は(B)の種類、組成が異なる2種以上のグラフト変性物)の組み合わせを含んでもよい。グラフト変性物は、グラフト変性物以外の成分、例えば、グラフト変性の際に生じるグラフト変性物以外の成分(例えば、未反応の成分(A)、(B)、成分(B)どうしのポリマー)をさらに含んでもよい。
【0030】
本発明の変性ポリオレフィン樹脂は、そのまま(例えば、ペレット等の固形状)利用してもよいが、分散媒(溶媒)に添加して分散体として使用されることが好ましい。
【0031】
[2.分散体組成物]
本発明の分散体組成物は、変性ポリオレフィン樹脂を含む。本発明の分散体組成物は、必要に応じて他の成分を含んでもよい。分散体組成物は、プライマー、塗料、インキ、接着剤等の被膜形成用組成物として好適に用いられる。
【0032】
分散体組成物は、通常、変性ポリオレフィン樹脂及び分散媒を含み、さらに他の樹脂成分を含んでもよい。他の樹脂成分としては、例えば、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、フェノール樹脂、アルキド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、シリコーン樹脂、硝化綿等の樹脂、これらの2種以上の組み合わせが挙げられる。これらの樹脂は、水性化物(例えば、水性アクリル樹脂、水性ポリウレタン樹脂)として変性ポリオレフィン又はその分散体に配合してもよい。変性ポリオレフィン樹脂と他の樹脂の配合量(他の樹脂が2以上の場合、合計量)の比率は、固形物換算で、通常は変性ポリオレフィン樹脂:他の樹脂=1~99:99~1、好ましくは10~90:90~10、より好ましくは20~80:80~20、更に好ましくは30~70:70~30である。
【0033】
また、分散体組成物には、品質安定等の目的で、例えば、水性アクリル樹脂、水性ウレタン樹脂、低級アルコール類、低級ケトン類、低級エステル類、防腐剤、レベリング剤、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、染料、顔料、金属塩、酸類等の添加剤成分を配合してもよい。
【0034】
分散媒は、非水系であってもよく、水系(以下、水系分散媒を含む分散体組成物を「水分散体組成物」ともいう)であってもよい。非水系分散媒としては、例えば、キシレン、トルエン、ベンゼン等の有機溶媒が挙げられる。水系分散媒は、通常は水であるが、アルコール系溶剤、グリコール系溶剤、ケトン系溶剤、エステル系溶剤を併用してもよい。
分散体組成物が水分散体組成物である場合は、他の成分として、架橋剤を含んでもよい。「架橋剤」とは、変性ポリオレフィン樹脂、界面活性剤、中和剤等の成分に存在する水酸基、カルボキシ基、アミノ基等の基と反応し、架橋構造を形成する化合物をいう。架橋剤としては、例えば、ブロックイソシアネート化合物、脂肪族又は芳香族のエポキシ化合物、アミン系化合物、アミノ樹脂が挙げられる。架橋剤の添加方法は特に限定されない。例えば、水性化工程途中に添加しても、水性化後に添加してもよい。
【0035】
界面活性剤としては、ノニオン界面活性剤、アニオン界面活性剤のいずれも使用できる。ノニオン界面活性剤は、得られる水分散体組成物の耐水性がより良好になるため、好適に用いられる。
【0036】
ノニオン界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン誘導体、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン多価アルコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンプロピレンポリオール、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ひまし油、ポリオキシアルキレン多環フェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、アルキルアルカノールアミド、ポリアルキレングリコール(メタ)アクリレートが挙げられる。これらの中でも、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミンが好ましい。
【0037】
アニオン界面活性剤としては、アルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、α-オレフィンスルホン酸塩、メチルタウリル酸塩、スルホコハク酸塩、エーテルスルホン酸塩、エーテルカルボン酸塩、脂肪酸塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、アルキルアミン塩、第四級アンモニウム塩、アルキルベタイン、アルキルアミンオキシドが挙げられる。これらの中でも、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、スルホコハク酸塩が好ましい。
【0038】
水分散体組成物を調製する際に界面活性剤を使用する場合、界面活性剤は、可能な限り少ない添加量とする、或いは添加しないことが好ましい。この理由は、界面活性剤を添加することにより、被膜を作製する際の被膜性能が低下する場合がある、或いは乾燥被膜とした際に可塑効果、ブリード現象を引き起こし、ブロッキングが発生する場合があるからである。
【0039】
水分散体組成物は、中和剤を更に含んでもよい。これにより、水系分散媒への樹脂の分散性をより高めることができる。中和剤としては、例えば、アンモニア、メチルアミン、エチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、プロピルアミン、イソプロピルアミン、ジプロピルアミン、イソブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、エタノールアミン、プロパノールアミン、ジエタノールアミン、N-メチルジエタノールアミン、N,N-ジメチルエタノールアミン、N,N-ジエチルエタノールアミン、N,N-ジブチルエタノールアミン、2-ジメチルアミノ-2-メチル-1-プロパノール、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール、2-アミノエタノール、2-ジメチルアミノエタノール、2-ジエチルアミノエタノール、3-エトキシプロピルアミン、3-ジエチルアミノプロピルアミン、sec-ブチルアミン、n-ブチルアミン、2-メトキシエチルアミン、3-メトキシプロピルアミン、2,2-ジメトキシエチルアミン、モルホリン、N-メチルモルホリン、N-エチルモルホリン、ピペラジン類、ピロール、ピリジン、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム等の金属水酸化物が挙げられる。
中でも、乳化及び分散化の容易さという観点から、モルホリン、N,N-ジメチルエタノールアミン、N,N-ジエチルエタノールアミン、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノールが好ましい。
【0040】
中和剤の常圧時の沸点は、200℃以下が好ましい。沸点が200℃超であると、例えば、水分散体組成物を塗膜とする場合、水の除去工程の乾燥処理によって中和剤を除去することが困難となる場合がある。そのため、特に低温乾燥時の塗膜の耐水性及び耐湿性が悪化する場合、或いは非極性樹脂成型品等の基材との接着性が悪化する場合がある。
【0041】
中和剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上の組み合わせで用いてもよい。2種以上の組み合わせの場合、それぞれの化合物の配合比は特に限定されない。
【0042】
水分散体組成物において、中和剤の含有量は特に規定されないが、グラフト変性物中のカルボキシル基に対して3.0倍等量以下が好ましい。これにより、水分散体組成物のpHの過剰な上昇を抑制し得る。下限は0.5倍等量以上が好ましい。これにより、水分散体組成物のpHの過剰な低下を抑制し得る。
【0043】
分散体組成物が水分散体組成物である場合、水分散体組成物のpHは、5以上が好ましく、pH6~11がより好ましい。pH5未満であると、中和が不十分で、変性ポリオレフィン樹脂が水に分散しない場合がある。また、分散した場合であっても、経時的に沈殿、分離が生じ易く、貯蔵安定性に劣る場合がある。一方、pH11超であると、他成分との相溶性や作業上の安全性に問題を生じる場合がある。pHは、水分散体組成物を調製する際に添加する中和剤の量によって調整できる。
【0044】
分散体組成物が水分散体組成物である場合、水中に乳化、分散した樹脂の平均粒子径は、好ましくは300nm以下であり、より好ましくは200nm以下である。300nm超であると、水分散体組成物の貯蔵安定性や他樹脂との相溶性が悪化する場合がある。また、被膜を形成したときの基材への付着性、耐溶剤性、耐水性、耐ブロッキング性等の被膜物性が低下する場合がある。平均粒子径は、変性ポリオレフィン樹脂の組成、分散媒の量、乳化剤の添加量、種類、分散の際の撹拌力等の条件により調整できる。
本明細書中、平均粒子径は、光拡散法を用いた粒度分布測定により得られる値である。
【0045】
乳化剤の添加量を多くすると、粒子径を限りなく小さくし得る。しかしながら、乳化剤の添加量を多くすることで、基材への付着性、耐水性、耐ガスホール性等の被膜物性が低下する傾向がある。
【0046】
分散体組成物のTmは、85℃以上110℃未満又は90℃以上110℃未満が好ましく、90℃以上105℃未満がより好ましい。Tmが85℃以上であると、高温条件下での十分な耐水性をさらに向上し得る。一方、融点が110℃未満であると、塗膜焼付け時の良好な成膜性を確保し得る。
本明細書において、分散体組成物のTmは、分散体組成物を40℃、24時間乾燥して得られた乾燥物を、前述した変性ポリオレフィン樹脂のTmと同様にDSC(TA Instruments製)を用いて測定し得る。
【0047】
本発明の分散体組成物は、接着性が低く塗料等の塗工が困難な基材、例えば非極性樹脂成型品に対し、中間媒体として機能し得る。例えば、接着性の乏しいポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン系基材同士の接着剤としても有用であり、非極性樹脂成型品等の基材の表面のプラズマ処理、コロナ処理等の表面処理の有無を問わず用いることができる。
また、ポリオレフィン系基材等の非極性樹脂成型品の表面に本発明の分散体組成物をホットメルト方式で積層し、更にその上に塗料等を塗工することにより、塗料の付着安定性等を向上させることができる。
さらに、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリウレタン、ポリアミド等の極性基材に対しても適する。
【0048】
即ち、本発明の分散体組成物は、プライマー、塗料、インキ、接着剤等として好適に用いることができる。
【0049】
分散体組成物の製造方法は、特に限定されない。例えば、変性ポリオレフィン樹脂を分散媒に添加して分散させる分散工程を少なくとも含む方法が挙げられる。分散体組成物が水分散体組成物である場合、分散工程の前に、変性ポリオレフィン樹脂を有機溶媒に添加して溶解(好ましくは加熱条件)後に有機溶媒を留去する前工程を行ってもよい。中和剤を用いる場合、有機溶媒へ溶解した段階で中和剤を添加することが好ましい。分散体組成物が他の樹脂成分を含む場合、樹脂成分は上記分散工程の後に配合することが好ましい。例えば、分散工程後に、樹脂成分を配合し必要に応じて固形分を調整する(例えば、分散媒を添加して希釈する)、樹脂成分配合工程を行ってもよい。
【実施例
【0050】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。以下の実施例は、本発明を好適に説明するためのものであって、本発明を限定するものではない。物性値等の測定方法は、別途記載がない限り、上記に記載した測定方法である。また、「部」とは、特に断りがない限り、重量部である。
【0051】
[物性の測定方法]:
Mw、無水マレイン酸のグラフト重量は、変性ポリオレフィン樹脂を用いて測定した。Tm、引張弾性率、平均粒子径は、水分散体組成物を用いて測定した。測定方法の詳細を下記に示す。
【0052】
[Mw(重量平均分子量)]:
製造例で製造した樹脂について、GPCにより下記条件に従い測定した。
装置:HLC-8320GPC(東ソー社製)
カラム:TSK-gel G-6000 H×L,G-5000 H×L,G-4000 H×L,G-3000 H×L,G-2000 H×L(東ソー社製)
溶離液:THF
流速:1mL/min
温度:ポンプオーブン、カラムオーブン40℃
注入量:100μL
標準物質:ポリスチレン EasiCal PS-1(Agilent Technology社製)
【0053】
[グラフト重量(重量%)]:
アルカリ滴定法にて求めた。
【0054】
[Tm(融点、℃)]:
JIS K7121-1987に準拠し、DSC測定装置(TA Instruments製)を用い、約5mgの試料を150℃で10分間加熱融解状態を保持した。次いで、10℃/分の速度で降温して、-50℃で安定保持した。その後、10℃/分で150℃まで昇温し、融解した時の融解ピーク温度をTmとした。
水分散体組成物のTmは、水分散体組成物を40℃、24時間乾燥して得られた乾燥物を、DSC(TA Instruments製)を用いて上記と同じ条件で測定した。
【0055】
[引張弾性率]:
水分散体組成物を40℃、24時間乾燥し、得られた乾燥物を有機溶剤に溶解して溶液を得た。得られた溶液を剥離紙に膜厚約20μmとなるように塗工し、100℃に設定した送風乾燥機で5分間乾燥を行い、23℃、相対湿度50%の恒温恒湿条件下で24時間保管して塗膜を作製した。塗膜を幅15mm、長さ150mmにカットし、剥離紙を剥離することで試験フィルムを得た。得られた試験フィルムに対し、引張試験機(テンシロン万能材料試験機:株式会社エー・アンド・デイ製)を用いて引張速度10mm/min、チャック間距離100mmの条件で引張弾性率を測定した。
【0056】
[平均粒子径(nm)]:
粒度分布測定装置(Malvern Instruments製)にて測定した。
【0057】
[実施例1]
攪拌機、冷却管、及び滴下漏斗を取り付けた四つ口フラスコ中で、プロピレン-1-ブテン共重合体(I)(プロピレン成分が80モル%、1-ブテン成分が20モル%、Mwが100,000、Tmが85℃、引張弾性率が160MPa)及びプロピレン-1-ブテン共重合体(II)(プロピレン成分が90モル%、1-ブテン成分が10モル%、Mwが100,000、Tmが100℃、引張弾性率が360MPa)を、重量比50:50で合計100部となるようにトルエン400g中に加熱溶解した。系内の温度を110℃に保持して撹拌しながら、無水マレイン酸4.5部、ジ-t-ブチルパーオキサイド3.0部をそれぞれ3時間かけて滴下した。滴下終了から1時間さらに反応を行った後、室温まで冷却した。反応物を大過剰のアセトン中に投入して精製し、Mwが100,000、Tmが90℃、無水マレイン酸のグラフト重量が3.0重量%の変性ポリオレフィン樹脂(1)を得た。
【0058】
続いて、撹拌機、冷却管、温度計、ロートを取り付けた4つ口フラスコ中に、得られた変性ポリオレフィン樹脂(1)を100g、トルエン20g、エチレングリコールモノブチルエーテル(分子量=118.2)60gを添加し、フラスコ内温95℃で30分攪拌した。次に、N,N-ジメチルエタノールアミン〔DMEA〕10gを添加し、フラスコ内温95℃で60分攪拌した。その後、90℃の脱イオン水400gを120分かけて添加し、フラスコ内温が30℃になるまで攪拌しながら冷却した。フラスコ内温が95℃になるまで攪拌しながら再度加熱し、トルエン及びエチレングリコールモノブチルエーテルの一部を減圧下にて留去した。その後、室温まで攪拌しながら冷却し、脱イオン水にて固形分を30wt%となるよう調整した。これにより、変性ポリオレフィン樹脂(1)を含む水分散体組成物(1)を得た。水分散体組成物(1)の乾燥物のTmは91℃であった。
【0059】
[実施例2]
プロピレン-1-ブテン共重合体(III)(プロピレン成分が90モル%、1-ブテン成分が10モル%、Mwが400,000、Tmが100℃、引張弾性率が360MPa)100部、無水マレイン酸3.0部、ジラウリルパーオキサイド2.0部を、200℃に設定した二軸押出機を用いて混練反応した。押出機内にて減圧脱気を行い、残留する未反応物を除去し、Mwが80,000、Tmが100℃、無水マレイン酸のグラフト重量が3.0重量%の変性ポリオレフィン樹脂(2)を得た。
また、得られた変性ポリオレフィン樹脂(2)を用い、実施例1のDMEAの添加量を7gとした以外は、実施例1と同様の方法で水分散体組成物(2)を調製した。水分散体組成物(2)の乾燥物のTmは94℃であった。
【0060】
[実施例3]
実施例2の二軸押出機による反応温度を180℃とした以外は、実施例2と同様の方法で変性し、変性ポリオレフィン樹脂(3)を得た。得られた変性ポリオレフィン樹脂(3)は、Mwが100,000、Tmが100℃、無水マレイン酸のグラフト重量が3.0重量%であった。
また、水分散体組成物についても実施例2と同様の方法で調製した。水分散体組成物(3)の乾燥物のTmは95℃であった。
【0061】
[比較例1]
実施例1のプロピレン-1-ブテン共重合体(I)及び(II)の代わりに、プロピレン-1-ブテン共重合体(I)100部を用い、無水マレイン酸の添加量を3.0部、ジ-t-ブチルパーオキサイドの添加量を2.0部とした以外は、実施例1と同様の方法で変性した。得られた変性ポリオレフィン樹脂(4)は、Mwが100,000、Tmが85℃、無水マレイン酸のグラフト重量が3.0重量%であった。
また、水分散体組成物については、実施例1のDMEAの添加量を7gとした以外は、実施例1と同様の方法で調製した。水分散体組成物(4)の乾燥物のTmは82℃であった。
【0062】
[比較例2]
実施例1のプロピレン-1-ブテン共重合体(I)及び(II)の代わりに、プロピレン-1-ブテン共重合体(IV)(プロピレン成分が80モル%、1-ブテン成分が20モル%、Mwが60,000、Tmが85℃)及びプロピレン-1-ブテン共重合体(V)(プロピレン成分が90モル%、1-ブテン成分が10モル%、Mwが60,000、Tmが100℃)を用い、無水マレイン酸の添加量を3.0部、ジ-t-ブチルパーオキサイドの添加量を2.0部とした以外は、実施例1と同様の方法で変性した。得られた変性ポリオレフィン樹脂(5)は、Mwが60,000、Tmが90℃、無水マレイン酸のグラフト重量が3.0重量%であった。
また、水分散体組成物については、実施例1のDMEAの添加量を7gとした以外は、実施例1と同様の方法で調製した。水分散体組成物(5)の乾燥物のTmは89℃であった。
【0063】
【表1】
【0064】
実施例1~3及び比較例1~2で得た水分散体組成物を用いて、下記の試験を行った。試験結果の一覧を表2に示す。
【0065】
[高温条件下での耐水剥離(耐水付着性)試験]:
(塗料の調製)
実施例及び比較例で得られた水分散体組成物を固形分換算で40部、水性アクリル樹脂(バイヒドロールXP2427、住化バイエルウレタン社製)を固形分換算で40部、水性ポリウレタン樹脂(ユーコートUWS-145、三洋化成工業製)を固形分換算で20部、導電性カーボンのカーボンECP600JD(ライオン社製)20部、二酸化チタンのチタンR-960(DuPont社製)80部を、常法に従って配合し、固形分40%になるようにイオン交換水で希釈することで水性プライマー塗料を調製した。
【0066】
(試験板の作製)
ボディ用樹脂基材に対し、エアー式スプレーガンによって乾燥膜厚が約25μmとなるよう調整した水性プライマー塗料を塗装し、5分間静置した後、60℃で3分間プレヒートを行った。次に、水性メタリック色ベースコート塗料を乾燥膜厚が約20μmとなるよう塗装し、5分間静置した後、80℃で3分間プレヒートを行った。その後、アクリルウレタン系溶剤型クリヤー塗料を乾燥膜厚が約35μmとなるよう塗装し、7分間静置した後、120℃で20分間の焼付け処理を行い、被塗物を作製した。
次いで、作製した被塗物にウレタン系接着剤(商品名「3740」、サンスター株式会社製、自動車用ウインドシールド剤)を、塗布形状が幅20mm、厚さ3mm、長さ100mm以上となるように塗布し、離型紙を被せた後、平板で均一に押さえつけた。平板を取り除いた後、23℃、相対湿度50%の恒温恒湿条件下で72時間放置して硬化させた。その後、離型紙を剥がして、試験板を作製した。
【0067】
(試験手順)
作製した試験板を60℃に設定した恒温水槽中に10日間浸漬した後、23℃の水中に1時間浸漬して冷却し、以下の剥離試験を行った。
硬化した接着剤層を塗膜に対して90度以上の方向に手で引っ張りながら2~3mm間隔で、塗膜に対して約60度の角度で塗膜表面に達するところまでカッターナイフでカットを入れた。接着剤層を剥がした後の剥離状態を以下の「A」、「B」、「C」、「D」の基準により評価した。
A:接着剤層の剥れが認められず、塗膜の露出も認められない。
B:塗膜は破壊されず、接着剤層のみが凝集破壊を起こして剥れるが、塗膜と接着剤層の付着はほぼ保たれている。
C:塗膜が凝集破壊を起こして剥れる。
D:塗膜と接着剤層との界面で剥れが認められる。
【0068】
[碁盤目付着試験]:
(試験片の作製)
超高剛性ポリプロピレン板の表面をイソプロピルアルコールで脱脂し、乾燥膜厚が約15μmとなるよう水分散体組成物をスプレー塗装し、80℃で5分間プレヒートを行った。次に、ベース塗料をスプレー塗装し10分間静置した後、クリヤー塗料を塗装し、10分間静置した。その後、120℃で20分間の焼付け処理を行い、室温で72時間静置することで、試験片を作製した。
【0069】
(試験手順)
作製した試験片に対し、カッターナイフで塗膜上に2mm間隔で素地に達する100個の碁盤目状の切り込みを入れ、その上にセロハン粘着テープを密着させて180°の角度で10回剥離し、塗膜の残存を判定した。具体的には残マス数を数えた。
【0070】
[耐水付着性試験]:
碁盤目付着試験の場合と同様にして試験片を作製した。試験片を60℃の温水に10日間浸漬した後、塗膜表面の膨れ状態(ブリスター)を目視で観察した。カッターナイフで塗膜上に2mm間隔で素地に達する100個の碁盤目状に切り込みを入れ、その上にセロハン粘着テープを貼った後、180°の角度で剥離し、塗膜の残存する程度で判定した。また、該試験で全て剥離しなかったサンプルについては、同様の試験を連続で10回行い、10回剥離後の塗膜の残存を判定した。具体的には残マス数を数えた。
ブリスターは以下の基準で評価した。
径:(大)1~10(小)
頻度:無,(少)F,M,MD,D(多)
径とは、ブリスターの大きさであり、目視で確認可能な数値は8までである。また、頻度とは、ブリスターの数であり、F(Few)、M(Medium)、MD(Medium Dense)、D(Dense)の略である。
【0071】
【表2】
【0072】
(表2の脚注)
(2M:ブリスター径2、ブリスター頻度Mを表す)
【0073】
表2から、次のことがわかる。碁盤目付着試験の結果から、実施例及び比較例の水分散体組成物はいずれも、付着性そのものには問題がないことがわかる。また、耐水剥離試験の結果から、実施例1~3の水分散体組成物はいずれも、残マス数は100であり、ブリスターも無いことから、高温条件下での耐水付着性に優れている。一方、比較例1の水分散体組成物は、ブリスターが無いけれども、残マス数が69と実施例1~3の水分散体組成物に比して、高温条件下での耐水付着性に劣ることがわかる。比較例2の水分散体組成物は、ブリスターが2M(径の評価が2であり、頻度の評価がM)であり、残マス数が0であるので、高温条件下での耐水付着性がないことわかる。さらに、高温条件下での耐水付着性試験の結果から、実施例1~3の水分散体組成物はいずれも評価が「A」又は「B」であり、ダイレクトグレージング工法用途等に利用し得るものである。