(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-08
(45)【発行日】2024-08-19
(54)【発明の名称】安定性が改善されたノロウイルス様粒子
(51)【国際特許分類】
C07K 14/08 20060101AFI20240809BHJP
C12N 15/40 20060101ALI20240809BHJP
A61P 31/14 20060101ALI20240809BHJP
A61K 39/12 20060101ALI20240809BHJP
A61K 38/02 20060101ALI20240809BHJP
C12N 15/63 20060101ALN20240809BHJP
【FI】
C07K14/08
C12N15/40 ZNA
A61P31/14
A61K39/12
A61K38/02
C12N15/63 Z
(21)【出願番号】P 2021552611
(86)(22)【出願日】2020-03-11
(86)【国際出願番号】 EP2020056461
(87)【国際公開番号】W WO2020182860
(87)【国際公開日】2020-09-17
【審査請求日】2022-06-22
(32)【優先日】2019-03-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】520307779
【氏名又は名称】アイコン ジェネティクス ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ヤルチョヴスキ, フランツィスカ
(72)【発明者】
【氏名】ディエスナー, アンドレ
(72)【発明者】
【氏名】ティーメ, フランク
【審査官】山内 達人
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/137489(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/069158(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/170603(WO,A1)
【文献】Journal of Virological Methods,2004年,116,p. 109-117
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
C07K
A61P
A61K
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノロウイルスジェノグループIのVP1カプシドタンパク質であって、前記タンパク質のアミノ酸配列が、配列番号3におけるArg472に対応する位置にArg残基を有し、かつ配列番号3のアミノ酸配列に対し少なくとも90%の配列同一性を有する、カプシドタンパク質。
【請求項2】
Pドメイン中のアミノ酸配列Ala-Ala-Leu-Leu/Val-His-TyrがAla-Ala-Leu-Leu/Val-Arg-Tyrに修飾されており、Leu/ValがLeuまたはValのいずれかを意味するアミノ酸配列を有する、ノロウイルスジェノグループIのVP1カプシドタンパク質。
【請求項3】
Pドメイン中のアミノ酸配列Ala-Ala-Leu-Leu/Val-His-Tyr-Val/Leu/Ile-AspがAla-Ala-Leu-Leu/Val-Arg-Tyr-Val/Leu/Ile-Aspに修飾されており、Val/Leu/IleがValまたはLeuまたはIleのいずれかを意味する、請求項2に記載のカプシドタンパク質。
【請求項4】
前記カプシドタンパク質が、ノロウイルスジェノグループIの以下のジェノタイプ:GI.1、GI.2、GI.3、GI.4、GI.5、GI.6、GI.7、GI.8またはGI.9のいずれかに属する、請求項1から3のいずれか一項に記載のカプシドタンパク質。
【請求項5】
請求項1から
4のいずれか一項に記載のカプシドタンパク質をコードする核酸分子。
【請求項6】
請求項1から
4のいずれか一項に記載のカプシドタンパク質からなるかまたはそれを含むウイルス様粒子(VLP)。
【請求項7】
請求項1から
4のいずれか一項に定義されるカプシドタンパク質または請求項
6に定義されるVLPを含む免疫原性組成物。
【請求項8】
薬学的に許容される担体をさらに含む、請求項
7に記載の免疫原性組成物。
【請求項9】
ノロウイルスジェノグループIIのVP1カプシドタンパク質をさらに含む、またはジェノグループIIのVP1カプシドタンパク質からなるかもしくはそれを含むVLPをさらに含む、請求項
7または8に記載の免疫原性組成物。
【請求項10】
請求項
7から9のいずれか一項に記載の免疫原性組成物を含む、または請求項1から
4のいずれか一項に定義されるカプシドタンパク質を含む、または請求項
6に定義されるVLPを含む、ノロウイルス感染に対するワクチン。
【請求項11】
ノロウイルスジェノグループIIのVP1カプシドタンパク質またはジェノグループIIのVP1カプシドタンパク質からなるかもしくはそれを含むVLPを含む、請求項
10に記載のワクチン。
【請求項12】
対象におけるノロウイルス感染の予防または治療における使用のための、請求項1から
4のいずれか一項に定義されるカプシドタンパク質、または請求項
6に定義されるVLP、または請求項
10または11に記載のワクチン。
【請求項13】
対象がヒト対象である、請求項
12に記載のカプシドタンパク質、VLP、またはワクチン。
【請求項14】
ジェノグループIのVP1カプシドタンパク質のPドメイン中の配列Ala-Ala-Leu-Leu/Val-His-TyrにおけるHis残基を、Argに置き換えることを含む、ノロウイルスジェノグループI VLPの安定性を高める方法。
【請求項15】
請求項1から
4のいずれか一項に定義されるカプシドタンパク質、または請求項
6に定義されるVLP、または請求項
10または11に記載のワクチンを含む、対象においてノロウイルス感染を予防または治療するための医薬であって、1回または複数回対象に投与される、医薬。
【請求項16】
前記対象がヒト対象である、請求項
15に記載の医薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、VLP(ウイルス様粒子)を形成することが可能なノロウイルス(NoV)ジェノグループIのVP1カプシドタンパク質を提供する。本発明はさらに、前記カプシドタンパク質を含有するVLP、ならびに前記カプシドタンパク質または前記VLPを含有する免疫原性組成物およびワクチンを提供する。本発明はさらに、前記カプシドタンパク質または前記VLPならびにジェノグループIIまたはジェノグループIVのカプシドタンパク質またはVLPを含有する免疫原性組成物およびワクチンを提供する。本発明はさらに対象、好ましくはヒトにおけるノロウイルス感染の予防または治療のための組成物およびワクチンの使用を提供する。前記組成物またはワクチンを対象に投与することを含む、対象(好ましくはヒト)におけるノロウイルス感染を予防または治療する方法をさらに提供する。ノロウイルスジェノグループIのVLPの安定性を高める方法もまた提供する。
【背景技術】
【0002】
ノロウイルスは、世界規模の胃腸炎の発生の主因である。それらは、5歳以下の小児における2億の症例を含む年間6億8500万の症例の原因となっている(www.cdc.gov/norovirus/worldwide.html)。現在に至るまで、上市されたノロウイルスワクチンはない。また、ノロウイルス培養のための確立されたプロトコールもなく、それがノロウイルスワクチン開発の進行を著しく遅らせている。さらに、循環ノロウイルスの急速な遺伝子変化が2~4年おきに新規なノロウイルス株の出現をもたらし、それが集団発生を引き起こしてこれらの曝露に対抗するために必要なワクチンおよび治療法の開発を複雑にしている(de Graaf、M、van Beek、J、& Koopmans、PG、2016、Nature Rev Microbiol、14:421~433)。ジェノグループGIおよびGIIの代表種が、GIIジェノグループのジェノタイプ4(GII.4)の蔓延を伴う過去20年間における発生の大半の主要因であったことは明らかである(Matthewsら、2012、Epidemiol.Infect、140:1161~1172)。例えば、2014年以後に、新規なGII.17株の出現ならびに古いGII.4株の再発生が東アジアにおいて記載されている(Chanら、2015、Nat Commun、doi:10.1038/ncomms10061;Choiら、2017、Food Environ Virol、doi:10.1007/s12560-017-9278-4)。この常に変化する状況は効果的なワクチン組成物を規定することをさらに複雑にしており、多価ワクチンを使用することが一般的に好まれる手法となっている。現行のノロウイルスワクチン開発は、主として動物細胞培養物、特にバキュロウイルス発現系を使用した昆虫細胞(Huhti、L.ら、2013、Arch.Virol.、158:933~942;Koho、T.ら、2012、J.Virol.Methods、181:6~11)において作製されたウイルス様粒子(VLP)ワクチンの使用に主に依存している(最近の総説としては:Tan、M.& Jiang、X.、2014、Hum.Vaccin Immunother、10:1449~1456;Debbink、K.、Lindesmith、L.& Baric、R.S.、2014、Clin Infect Dis、58:1746~1752;Ramani、S.、Estes、M.K.& Atmar、R.L.、2016、PLoS Pathog、12:e1005334を参照)。
【0003】
多種の抗体を含んだワクチン開発の主な課題は、遺伝的に相対的に近縁関係にあるノロウイルス分離株でさえも、明確に異なるVLP安定性プロファイルを示すことである(Pogan、Rら、2018、Curr Opin Virol、印刷中;Pogan、Rら、2018 J.Phys.:Condens.Matter、30:064006)。従って、異なる安定性プロファイルのために異なるバッファー条件を必要とする異なるVLPの混合物からなる多価ワクチンの調整は、製剤にとって大きな挑戦である。一部の症例においては、この問題は、ミョウバンを安定剤およびアジュバントとしてVLP混合物に加えることによって解決する(Leroux-Roels、G.ら、2018、The J.Infect.Diseases、217:597~607)。しかし、ミョウバンを含有するワクチンは一般的に良好な忍容性を示すという事実はあるものの、ミョウバンは体内における長期の生体内持続性、リンパ器官中に移動する能力および脳内に蓄積する能力を有し、そのことが特に小児の適用に対しての懸念を高めている(Petrovsky、N.& Aguilar、JC.、2004、Immunol.& Cell Biol.、82:488~496;Gherardi R.K.ら、2014、Front.Neurol、6:4;Gherardi R.K.ら、2016、Morphologie、100:85~94)。代替の手法は、より均一なVLPをもたらすクリティカルな残基のアミノ酸置換(Someya、Y.ら、2011、Journal of General Virology、92:2320~2323)であり、これも、より複雑な製剤のVLP混合物においてでさえ、VLPの安定性を改善し得る(Pogan、R.ら、2018、J.Phys.:Condens.Matter、30:064006)。
【発明の概要】
【0004】
先行技術から離れて、本発明の目的は、安定性が改善されたノロウイルスVLP、特にジェノグループIのVLPおよびこのようなVLPのためのカプシドタンパク質を提供することである。別の目的は、ミョウバンのような安定剤を必要とすることなくワクチン組成物の製剤を可能とするためにノロウイルスVLPの適合性および安定性の課題に対処した、二価または多価の免疫原性組成物およびワクチンを提供することである。従って、同等または類似の安定性を有する異なるジェノグループのNoV VLPを含む組成物を提供することもまた、目的となる。別の目的は、VLP、特にジェノグループIおよびIIのような異なるジェノグループからなるVLPの精製、調製および製剤のためのプロトコールを提供することである。
【0005】
これらの目的は、以下によって解決する。
1.ノロウイルスジェノグループIのVP1カプシドタンパク質であって、前記タンパク質のアミノ酸配列が、配列番号3におけるArg472に対応する位置にArg残基またはLys残基を有する、カプシドタンパク質。
2.アミノ酸配列ストレッチAla-Ala-Leu-Leu/Val-His-Tyr(配列番号57)がAla-Ala-Leu-Leu/Val-Arg/Lys-Tyr(配列番号58)に修飾されていて、Leu/ValがLeuまたはValのいずれかを意味し、Arg/LysがArgまたはLysのいずれかを意味するアミノ酸配列を有する、ノロウイルスジェノグループIのVP1カプシドタンパク質。
3.アミノ酸配列ストレッチAla-Ala-Leu-Leu/Val-His-Tyr-Val/Leu/Ile-Asp(配列番号59)がAla-Ala-Leu-Leu/Val-Arg/Lys-Tyr-Val/Leu/Ile-Asp(配列番号60)に修飾されていて、Val/Leu/IleがValまたはLeuまたはIleのいずれかを意味する、項目2に記載のカプシドタンパク質。
4.前記カプシドタンパク質が、以下のジェノグループIのジェノタイプ:GI.1、GI.2、GI.3、GI.4、GI.5、GI.6、GI.7、GI.8またはGI.9のいずれかに属する、項目1から3のいずれか一項に記載のカプシドタンパク質。
5.前記カプシドタンパク質が、会合してノロウイルス様粒子(ノロウイルスのウイルス様粒子)を形成することが可能である、項目1から4のいずれか一項に記載のカプシドタンパク質。
6.前記カプシドタンパク質が、配列番号3におけるArg472に対応する位置のアミノ酸残基がArgまたはLysであることを除いては、配列番号6~21のいずれか1つに定義されるアミノ酸配列を有する、または前記タンパク質が配列番号3~5のいずれか1つに定義されるアミノ酸配列を有する、項目1から5のいずれか一項に記載のカプシドタンパク質。
7.
(i)前記タンパク質のアミノ酸配列が、配列番号3におけるArg472に対応する位置のアミノ酸残基がArgまたはLysであることを除いては、配列番号6~21のいずれか1つのアミノ酸配列の少なくとも480、好ましくは少なくとも500の近接するアミノ酸残基からなるかまたはそれを含むか、または
(ii)前記タンパク質のアミノ酸配列が、少なくとも480、好ましくは少なくとも500アミノ酸残基からなるかまたはそれを含み、この長さにわたって少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%の配列同一性を、配列番号6~21のいずれか1つのアミノ酸配列の、少なくとも500の近接するアミノ酸残基の配列セグメントに対して有するか、または
(iii)前記タンパク質のアミノ酸配列が、配列番号6~21のいずれか1つのアミノ酸配列の少なくとも480、好ましくは少なくとも500の近接するアミノ酸残基の配列セグメントと比較して、1~50、好ましくは1~40、より好ましくは1~30の欠失、置換、付加または挿入を有し、
項目(ii)または(iii)において、配列番号3におけるArg472に対応する位置のアミノ酸残基がArgまたはLysである、項目1から6のいずれか一項に記載のカプシドタンパク質。
8.前記タンパク質のアミノ酸配列が、少なくとも510、好ましくは少なくとも520、より好ましくは少なくとも530、および最も好ましくは少なくとも540アミノ酸残基を含む、項目7に記載のカプシドタンパク質。
9.
(i’)前記タンパク質のアミノ酸配列が、配列番号3、4または5の残基43~残基540までのアミノ酸配列からなるかまたはそれを含むか、または
(ii’)前記タンパク質のアミノ酸配列が、配列番号3、4または5の残基43~残基540までのアミノ酸配列に対して、少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%の配列同一性を有するか、または
(iii’)前記タンパク質のアミノ酸配列が、配列番号3、4または5の残基43~残基540までのアミノ酸配列と比較して、1~50、好ましくは1~40、より好ましくは1~30の欠失、置換、付加または挿入を有し、
項目(ii’)または(iii’)において、配列番号3におけるArg472に対応する位置のアミノ酸、または配列番号2におけるHis472に対応する位置のアミノ酸がArgまたはLysである、項目1から6のいずれか一項に記載のカプシドタンパク質。
10.
(i’’)前記タンパク質のアミノ酸配列が、配列番号3、4または5のアミノ酸配列からなるかまたはそれを含むか、または
(ii’’)前記タンパク質のアミノ酸配列が、配列番号3、4または5のアミノ酸配列に対して、少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%の配列同一性を有するか、または
(iii’’)前記タンパク質のアミノ酸配列が、配列番号3、4または5のアミノ酸配列と比較して、1~50、好ましくは1~40、より好ましくは1~30の欠失、置換、付加または挿入を有し、
項目(ii’’)または(iii’’)において、配列番号3におけるArg472に対応する位置のアミノ酸、または配列番号2におけるHis472に対応する位置のアミノ酸がArgまたはLysである、項目1から9のいずれか一項に記載のカプシドタンパク質。
11.前記タンパク質が、
(i’’’)配列番号3、4または5の残基43~残基540までのアミノ酸配列を含むアミノ酸配列のポリペプチドを含むか、または
(ii’’’)配列番号3、4または5の残基43~残基540までのアミノ酸配列に対して、少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列のポリペプチドを含むか、または
(iii’’’)配列番号3、4または5の残基43~残基540までのアミノ酸配列と比較して、1~50、好ましくは1~40、より好ましくは1~30の欠失、置換、付加または挿入を有するアミノ酸配列のポリペプチドを含み、
項目(ii’’’)または(iii’’’)において、
配列番号3中のArg472に対応する位置のアミノ酸、または配列番号2におけるHis472に対応する位置のアミノ酸がArgまたはLysである、項目1から6のいずれか一項に記載のカプシドタンパク質。
12.項目7の(i)~(iii)に定義の、項目9の(i’)~(iii’)に定義の、項目10の(i’’)~(iii’’)に定義の、または項目11の(i’’’)~(iii’’’)に定義のVP1カプシドタンパク質。
13.項目1から12のいずれか一項に記載のカプシドタンパク質をコードする核酸分子。
14.項目1から12のいずれか一項に記載のカプシドタンパク質からなるかまたはそれを含むウイルス様粒子(VLP)。
15.前記VLPが少なくとも60、好ましくは少なくとも90、より好ましくは約180分子の前記タンパク質を含む、項目14のVLP。
16.項目1から12のいずれか一項に定義のカプシドタンパク質または項目14もしくは15のVLPならびに任意選択で薬学的に許容される担体を含む免疫原性組成物。
17.ノロウイルスジェノグループIIのVP1カプシドタンパク質、またはジェノグループIIのVP1カプシドタンパク質からなるかまたはそれを含むVLPをさらに含む、項目16に記載の免疫原性組成物。
18.項目16または17の免疫原性組成物を含む、ノロウイルス感染に対するワクチン。
19.項目1から12のいずれか一項に定義のカプシドタンパク質または項目14または15のVLPを含む、ノロウイルス感染に対するワクチン。
20.ノロウイルスジェノグループIIのVP1カプシドタンパク質またはジェノグループIIのVP1カプシドタンパク質からなるかまたはそれを含むVLPを含む、項目18または19に記載のワクチン。
21.5:1~1:5、好ましくは3:1~1:3、より好ましくは2:1~1:2の質量比で、ジェノグループIのVP1カプシドタンパク質および前記ジェノグループIIのVP1カプシドタンパク質を含む、項目20に記載のワクチン。
22.アジュバントをさらに含む、項目18から21のいずれか一項に記載のワクチン。
23.対象におけるノロウイルス感染の予防または治療における使用のための、項目1から12のいずれか一項に定義のカプシドタンパク質、または項目14または15のVLP,または項目18から22のいずれか一項に記載のワクチン。
24.項目1から12のいずれか一項に定義のカプシドタンパク質、または項目14または15のVLP、または項目18から22のいずれか一項に記載のワクチンを、1回または複数回、対象に投与することを含む、対象においてノロウイルス感染を予防または治療する方法。
25.ジェノグループIのVP1カプシドタンパク質のPドメイン中の配列ストレッチAla-Ala-Leu-Leu/Val-His-Tyr(配列番号57)におけるHis残基を、ArgまたはLysに置き換えることを含む、ノロウイルスジェノグループIのVLPの安定性を高める方法。
26.項目1から12のいずれか一項に定義のカプシドタンパク質を、カプシドタンパク質をコードする核酸分子から発現させ、発現させたカプシドタンパク質が会合してVLPを形成することを可能にすることを含む、項目25の方法。
27.項目1から12のいずれか一項に定義のカプシドタンパク質を、カプシドタンパク質をコードする核酸分子から発現させ、発現させたカプシドタンパク質が会合してVLPを形成することを可能にすることを含む、ノロウイルスジェノグループIのVLPを作製する方法。
【0006】
本発明者らは、ノロウイルス(NoV)ジェノグループIのVLPの安定性が、ジェノグループIIのNoV VLPの安定性よりも低いことを見出した。これは、ジェノグループIのVLPを含有する安定なVLP組成物およびワクチンの提供にとって問題となる。本発明者らはさらに、ジェノグループIのVP1カプシドタンパク質のアミノ酸配列を修飾することによってNoVジェノグループIのVLPの安定性を高める手段を見出した。修飾されたVP1カプシドタンパク質が、本発明のカプシドタンパク質または抗原である。従って、本発明のVP1タンパク質から形成されたVLPの安定性は改善される。安定性の改善を、実施例3において、ならびに
図9および
図10中に報告した結果によって実証する。
図9に、本発明のVLPの均一性および純度の改善を、サイズ排除クロマトグラフィーにより示す。
図10に、元のカプシドタンパク質(A)と比較した、本発明のカプシドタンパク質(B)の安定性の傾向および純度の改善を示す。
【0007】
さらに、ジェノグループIならびにジェノグループIIまたはIVの両方のVLPを含有する免疫原性組成物またはワクチンを調製する場合には、ジェノグループIのVLPならびにジェノグループIIまたはIVのVLPの安定性をより類似させることができ、それにより両種類のVLPを含有する組成物もより安定となり、それにより保管期間が延び、本発明のワクチンを保管および運搬する間あまり厳しくない保管条件(例えば凍結温度の代わりに冷蔵温度)を使用することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1A】ジェノグループIノロウイルスの異なる株由来のノロウイルスカプシドタンパク質VP1のアライメントを示す図である。(S/A/T/V)TA(V/A/T/L)ATAモチーフおよびジェノグループI配列の保存されたヒスチジン残基をボックスで示す。
図1Aは、VP1タンパク質のN末端部分のノロウイルスGIのアライメントを示す図である。示された配列は、以下の「アミノ酸配列」の節および電子配列表において与えられる完全なVP1アミノ酸配列の部分配列である。
【
図1B】ジェノグループIノロウイルスの異なる株由来のノロウイルスカプシドタンパク質VP1のアライメントを示す図である。(S/A/T/V)TA(V/A/T/L)ATAモチーフおよびジェノグループI配列の保存されたヒスチジン残基をボックスで示す。
図1Bは、VP1タンパク質のC末端部分のノロウイルスGIのアライメントを示す図である。示された配列は、以下の「アミノ酸配列」の節および電子配列表において与えられる完全なVP1アミノ酸配列の部分配列である。
【
図2】ジェノグループI、IIおよびIVの異なる株由来のノロウイルスカプシドタンパク質VP1のN末端部分のアライメントを示す図である。異なるジェノグループの配列は、水平線によって分けられている。ジェノグループIの(S/A/T/V)TA(V/A/T/L)ATAモチーフおよびジェノグループIIおよびIV配列におけるその対応する領域をボックスで示す。示された配列は、以下の「アミノ酸配列」の節および電子配列表中で与えられる完全なVP1アミノ酸配列の部分配列である。
【
図3】パネルAは、GIノロウイルス様粒子の構造を貫くスラブ(slab)を示す(PDB:1IHM、白色:突起ドメイン;灰色:殻ドメイン;黒色:内部表面)。パネルBは、VLPの内部表面のみを示す(PDB:1IHM、アミノ酸残基29~45)。パネルCは、パネルBの一部分を表し、VLPの内部表面のジェノグループIの(S/A/T/V)TA(V/A/T/L)ATAモチーフの2つの保存されたスレオニン残基の配置を例示する。VLPの内部表面での2つのスレオニン残基のリジンおよびアスパラギン酸残基への置換が、安定性を高めるイオン性相互作用または塩橋の形成をもたらし得る。
【
図4】ジェノグループI、IIおよびIVの異なる株由来のノロウイルスカプシドタンパク質VP1のC末端部分のアライメントを示す図である。異なるジェノグループの配列は、水平線によって分けられている。ジェノグループIの保存されたヒスチジン残基ならびにジェノグループIIおよびIV配列における保存されたアルギニン残基をボックスで示す。示された配列は、以下の「アミノ酸配列」の節および電子配列表中で与えられる完全なVP1アミノ酸配列の部分配列である。
【
図5】ジェノグループI VP1の突起ドメイン(上部)および殻ドメイン(下部)の一部分の構造(PDB:1IHM)およびジェノグループII VP1の同じ領域の理論構造を示す図である。ジェノグループIにおける保存されたヒスチジン残基およびジェノグループIIにおける保存されたアルギニン残基を矢印によって示す。ジェノグループII VP1中のアルギニン残基は、突起および殻ドメイン間のイオン性相互作用または塩橋の形成に関与することができ、それによりジェノグループII VP1ベースのウイルス様粒子の会合および安定性をより良くする要因となり得る。
【
図6A】ノロウイルスGI.4 Chiba VP1の野生型、NCおよびNCHRのクローニング模式図を示す図である。ノロウイルスGI.4 Chiba VP1の配列モジュールは、タイプIIS酵素Bsalを使用して、TMVベースのウイルスバイナリー発現ベクター中にクローニングする。モジュールによってコードされるアミノ酸配列領域を示す。Bsal制限消化後の、モジュールに隣接するオーバーハングを示す。
【
図6B】NCHRKDおよびNCHRDKのクローニング模式図を示す図である。ノロウイルスGI.4 Chiba VP1の配列モジュールは、タイプIIS酵素Bsalを使用して、TMVベースのウイルスバイナリー発現ベクター中にクローニングする。モジュールによってコードされるアミノ酸配列領域を示す。Bsal制限消化後の、モジュールに隣接するオーバーハングを示す。
【
図7】magnICON(登録商標)を使用した、ベンサミアナタバコ(Nicotiana benthamiana)中での、GI.4 Chiba 407 VP1の野生型および突然変異体バージョンの発現を示す図である。Laemmli総タンパク質抽出物を、12%ポリアクリルアミドゲル上で分離し、その後クーマシーで染色した(M:サイズマーカー、0:非浸潤植物組織、1:GI.4 Chiba 407 VP1野生型、2:単一の開始メチオニン残基を伴いかつ2つのC末端アルギニン残基の欠失を伴う、GI.4 Chiba 407 VP1、3:単一の開始メチオニン残基およびH472Rを伴いかつ2つのC末端アルギニン残基の欠失を伴うGI.4 Chiba 407 VP1、4:単一の開始メチオニン残基、T39K、T43DおよびH472Rを伴いかつ2つのC末端アルギニン残基の欠失を伴う、GI.4 Chiba 407 VP1、5:単一の開始メチオニン残基、T39D、T43KおよびH472Rを伴いかつ2つのC末端アルギニン残基の欠失を伴う、GI.4 Chiba 407 VP1)。アステリスクは、GI.4 Chiba 407 VP1に対応するシグナルを示す。
【
図8】GI.4 Chiba 407 VP1の野生型、NCまたはNCHRバージョンを使用して各々調製された、2つの独立したVLPバッチの透過型電子顕微鏡写真を示す図である。GI.4 Chiba 407 VP1のA)野生型、B)NCバージョンおよびC)NCHRバージョンから調製された、UranyLessで染色されたVLP試料の透過型電子顕微鏡。画像の右下におけるバーは、500nmを表す。
【
図9】GI.4 Chiba 407 VP1のNCバージョンおよびNCHRバージョン由来のVLPのSE-HPLCを示す図である。GI.4 Chiba 407 VP1のA)NCバージョンおよびB)NCHRバージョンから調製された試料におけるVLPの形成を分析するためのサイズ排除高速液体クロマトグラフィー。黒色の矢印は、GI.4 Chiba 407 VP1のNC試料における、第2のより小さなVLP種を示す。
【
図10】GI.4 Chiba 407のNCバージョンおよびNCHRバージョンの安定性を示す図である。%でのVLP含有量(SE-HPLCを使用して測定される)および%でのVP1純度(キャピラリーゲル電気泳動を使用して測定される)によって示される、GI.4 Chiba 407のA)NCバージョンおよびB)NCHRバージョンの安定性の傾向。
【
図11】GI.4 Chiba 407 NCバージョンおよびNCHRバージョンの免疫原性の比較を示す図である。A)相同なノロウイルスVP1抗原特異的血清IgGの滴定を示す図である。免疫化マウスの、個々の、連続希釈した血清試料を、ELISAにおいて、5週目の抗体レベルに対して分析した。10μgのGI.4 ChibaのNCまたはGI.4 ChibaのNCHRのVLP投与後の、GI.4 Chibaに対して誘導された抗体の、平均の終点滴定曲線を示す。B)ブタ胃ムチンベースのブロッキングアッセイを使用して、群ごとにプールして2倍に滴定した血清試料を、相同なGI.4 Chiba変異体VLPに対するジェノタイプ特異的ブロッキング(中和)活性に対して試験した。ブロッキング指数(%)は、100%-[(VLPおよび血清を含むウェルのOD/血清を含まないウェルのOD、「最大結合」)×100%]として計算した。
【発明を実施するための形態】
【0009】
ノロウイルスは、非エンベロープ一本鎖プラス鎖RNAウイルスである。それらは、カリシウイルス(Calciviridae)科に属する。ノロウイルスゲノムは、3つの読み枠(ORF)からなる。ORF1がウイルスの複製に必須の非構造タンパク質をコードする一方、ORF2およびORF3は、主要なカプシドタンパク質VP1およびマイナーな構造タンパク質VP2をそれぞれコードする。VP1は、天然のビリオンに形態的かつ抗原的に類似するウイルス様粒子(VLP)へと自己会合する。NoVは、細胞培養物中で培養することが可能ではないため、ヒトNoVの生物学的理解のほとんどは、VLPを使用した研究によってもたらされてきた。
【0010】
ノロウイルスには5つの異なるジェノグループ(GI、GII、GIII、GIVおよびGV)があり、それらをさらにジェノタイプに分けることができる。ジェノタイプは分類されてアラビア数字で呼ばれ、しばしばジェノグループのローマ数字での表示の後に続く。ノロウイルスの例にはNorwalkウイルス(GenBank:AF093797.1)、GI.1株Aichi/124-89/JP(GenBank:BAA834130)、GI.2株Funabashi258/96/JP(GenBank:BAC05516)、Marylandウイルス(MV、AY032605)、GI.3株Shimizu/KK2866/JP(GenBank:AII73765)、GI.4株Chiba407/87/JP(GenBank:BAA82106)、GI.7株TCH-060/USA/2003(GenBank:AEQ77282)、GII.3株Kashiwa336/00/JP(GenBank:AAZ66774)、GII.4株NL/2014/GII.4/Groningen01(GeneBank:CRL46961)、GII.4株Sydney/NSW0514/2012/AU(GenBank:AFV08795)、GII.4株Aomori2/2006/JP(GenBank:BAG70446)、GII.17株JP/2002/Saitama/T87(GenBank:AII73747)、Jenaウイルス(JV、AJ01099)、GII.17株JP/2013//Saitama5203(GenBank:BAR63715)、Setoウイルス(GenBank:AB031013)、GII.17株C142/1978/GUF(GenBank:AGI17592)、GIV.1株Ahrenshoop246/DEU/2012(GenBank:AFN61315)がある。他に多くのノロウイルス株があり、その完全ゲノムは、公的に利用可能なデータベース(www.viprbrc.org)中で注釈がつけられている。
【0011】
ノロウイルス粒子の基本的な構造成分は、VP1カプシドタンパク質である。もう1つのカプシドタンパク質はVP2であるが、これはウイルス粒子またはVLPの会合に必要ではない。NoV粒子のサイズは、直径23~40nmの間で変動する。サイズに応じて、ウイルス粒子あたりのVP1分子の数は、一般的には60または180分子のいずれかである(http://viralzone.expasy.org/194)。
【0012】
VP1カプシドタンパク質は、ウイルスの遺伝物質の非存在下で、サイズおよび形状においてはウイルス粒子に似ているがNoVゲノムを含有しないウイルス様粒子(VLP)へと会合することができる。VP1のみ(VP2の非存在下)でも、VLPを形成するのには十分である。従って、ここここでは、VLPはVP1タンパク質分子を含み、さらにVP2タンパク質分子を含み得る。好ましい実施形態では、本発明のVLPは、VP1カプシドタンパク質分子を含むがVP2タンパク質分子は含まない。
【0013】
NoVカプシドタンパク質VP1は2つのドメイン、Norwalkウイルスカプシドタンパク質(配列番号10)の場合はアミノ酸残基1~225によって形成される殻(S)ドメインと残基225~530から形成される突起(P)ドメイン(Choiら、PNAS 105(2008)9175~9180)を有する。
図3も参照。SドメインがNoVカプシドの正二十面体殻の形成に関与する一方、Pドメインは、VP1タンパク質のダイマー接触に関与する。Pドメインのダイマーは、正二十面体殻から突き出ている。Pドメインは、P1およびP2サブドメインにさらに細分される。NorwalkウイルスのVP1カプシドタンパク質のアミノ酸残基225~278および406~519はP1サブドメインを形成し、残基279~405は末端のP2サブドメインを形成する(Choiら、同書)。配列番号3のChibaのタンパク質の場合には、残基1~224はSドメインを構成し、残基224~540はPドメインを構成し、残基224~277および414~531はP1ドメインを構成し、残基278~413はP2ドメインを構成する。配列番号6~21のものなどの他のジェノグループIのVP1タンパク質のS、P、P1およびP2ドメインは、言及したドメインを形成する主要な対応配列セグメントを見出すための配列アライメントによって決定することができる。
【0014】
本発明のノロウイルスジェノグループIのVP1カプシドタンパク質
本発明者らは、安定性が改善されたVLPへと会合することができるNoVジェノグループIのVP1タンパク質の変異体を見出した。本発明は、従って、NoVジェノグループIのVP1タンパク質を提供する。これらのVP1タンパク質はより安定なVLPへと会合することまたは会合させることができる。一実施形態では、本発明のジェノグループIのVP1タンパク質は、ジェノグループIのVP1タンパク質間で高度に保存されたヒスチジン残基の位置に、ArgまたはLys残基、好ましくはArg残基を有する。この位置は、配列番号1においては474の位置または配列番号2もしくは3においては472の位置である。他のジェノグループIのVP1タンパク質における対応する位置は、少なくとも500アミノ酸からなるアミノ酸配列を配列番号3に対してアライメントすることによって確認することができる。従って、本発明は、NoVジェノグループIのVP1カプシドタンパク質であって、前記タンパク質のアミノ酸配列が、配列番号2のHis472に対応する位置、または配列番号3、4もしくは5におけるArg472に対応する位置に、ArgまたはLys残基、好ましくはArg残基を有するカプシドタンパク質を提供する。ここここでは、配列番号3において示されるアミノ酸配列が、本発明のカプシドタンパク質がVP1配列中でArgまたはLys残基を有する位置を確認するための好ましい参照配列である。
【0015】
NoVジェノグループIのVP1タンパク質中の、配列番号1における474の位置または配列番号2における472の位置に対応するHisアミノ酸は、配列ストレッチAla-Ala-Leu-Leu/Val-His-(配列番号61)、好ましくはAla-Ala-Leu-Leu/Val-His-Tyr(配列番号57)の一部である。この配列ストレッチは、VP1タンパク質のPドメイン、好ましくはVP1タンパク質のP1サブドメイン中に存在する。従って、本発明のNoVジェノグループIのVP1カプシドタンパク質は、以下のように定義することができる。本発明のNoVジェノグループIのVP1カプシドタンパク質は、Pドメイン中、好ましくはP1ドメイン中のアミノ酸配列ストレッチAla-Ala-Leu-Leu/Val-His-Tyr(配列番号57)が、Ala-Ala-Leu-Leu/Val-Arg/Lys-Tyr(配列番号58)に修飾されていて、Leu/ValがLeuまたはValのいずれかを意味し、Arg-/LysがArgまたはLysを意味するアミノ酸配列を有する。好ましくは、Pドメイン中のアミノ酸配列ストレッチAla-Ala-Leu-Leu/Val-His-Tyr-Val/Leu/Ile-Asp(配列番号59)が、Ala-Ala-Leu-Leu/Val-Arg/Lys-Tyr-Val/Leu/Ile-Asp(配列番号60)に修飾されていて、Val/Leu/IleがValまたはLeuまたはIleのいずれかを意味する。好ましくは、前記タンパク質のアミノ酸配列が、少なくとも510、好ましくは少なくとも520、より好ましくは少なくとも530アミノ酸残基を含む。
【0016】
本発明のVP1カプシドタンパク質は、NoVジェノグループIのタンパク質である。ノロウイルスの分類は、VP1タンパク質に基づく(Hansmanら、Journal of General Virology(2006)、87、909~919)。従って、所与のNoV VP1カプシドタンパク質がジェノグループIのカプシドタンパク質であるかどうかを決定するために、NoVの確立された分類法を使用することができる。
【0017】
本発明のVP1カプシドタンパク質の実施形態は、以下の通りである。
(i)前記タンパク質のアミノ酸配列が、配列番号3におけるArg472に対応する位置のアミノ酸残基がArgまたはLysであることを除いては、配列番号6~21のいずれか1つのアミノ酸配列の少なくとも500の近接するアミノ酸残基からなるかまたはそれを含むか、または
(ii)前記タンパク質のアミノ酸配列が、少なくとも500アミノ酸残基からなるかまたはそれを含み、かつこの長さにわたって少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、さらにより好ましくは少なくとも95%の配列同一性を、配列番号6~21のいずれか1つのアミノ酸配列の、少なくとも500の近接するアミノ酸残基の配列セグメントに対して有するか、または
(iii)前記タンパク質のアミノ酸配列が、配列番号6~21のいずれか1つのアミノ酸配列の、少なくとも500の近接するアミノ酸残基の配列セグメントと比較して、1~50、好ましくは1~40、より好ましくは1~30、さらにより好ましくは1~20の欠失、置換、付加または挿入を有し、
項目(ii)または(iii)において、配列番号3におけるArg472に対応する位置のアミノ酸残基(または配列番号6の残基469)が、ArgまたはLys、好ましくはArgである。これらの実施形態では、近接するアミノ酸残基の最小の数は、好ましくは510、より好ましくは520、さらにより好ましくは530、最も好ましくは540アミノ酸残基である。
【0018】
他の本発明のVP1カプシドタンパク質の実施形態は、以下の通りである。
(i’)前記タンパク質のアミノ酸配列が、配列番号3、4または5の残基43~残基540までのアミノ酸配列からなるかまたはそれを含むか、または
(ii’)前記タンパク質のアミノ酸配列が、配列番号3、4または5の残基43~残基540までのアミノ酸配列に対して、少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、最も好ましくは少なくとも95%の配列同一性を有するか、または
(iii’)前記タンパク質のアミノ酸配列が、配列番号3、4または5の残基43~残基540までのアミノ酸配列と比較して、1~50、好ましくは1~40、より好ましくは1~30、さらにより好ましくは1~20の欠失、置換、付加または挿入を有し、
項目(ii’)または(iii’)において、配列番号3、4または5におけるArg472に対応する位置のアミノ酸がそれぞれ、ArgまたはLys、好ましくはArgである。
【0019】
VP1カプシドタンパク質のアミノ酸配列のより好ましい実施形態は、以下の通りである。
(i’’)前記タンパク質のアミノ酸配列が、配列番号3、4または5のアミノ酸配列からなるかまたはそれを含む、
(ii’’)前記タンパク質のアミノ酸配列が、配列番号3、4または5のアミノ酸配列に対して、少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、最も好ましくは少なくとも95%の配列同一性を有する、
(iii’’)前記タンパク質のアミノ酸配列が、配列番号3、4または5のアミノ酸配列と比較して、1~50、好ましくは1~40、より好ましくは1~30、さらにより好ましくは1~20の欠失、置換、付加または挿入を有し、
項目(ii’’)または(iii’’)において、配列番号3、4または5におけるArg472に対応する位置のアミノ酸がそれぞれ、ArgまたはLys、好ましくはArgである。
【0020】
他の実施形態では、カプシドタンパク質は、
(i’’’)配列番号3、4または5の残基43~残基540までのアミノ酸配列を含むアミノ酸配列からなるポリペプチド分子を含むこと、または
(ii’’’)配列番号3、4または5の残基43~残基540までのアミノ酸配列に対して、少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、最も好ましくは少なくとも95%の配列同一性を有するアミノ酸配列からなるポリペプチド分子を含むこと、または
(iii’’’)配列番号3、4または5の残基43~残基540までのアミノ酸配列と比較して、1~50、好ましくは1~40、より好ましくは1~30、さらにより好ましくは1~20の欠失、置換、付加または挿入を有するアミノ酸配列からなるポリペプチド分子を含むこと、
によって規定され、
項目(ii’’’)または(iii’’’)において、配列番号3、4または5におけるArg472に対応する位置のアミノ酸がそれぞれ、ArgまたはLys、好ましくはArgである。
【0021】
本発明によるジェノグループIのVP1タンパク質、例えば上記で規定されたものなどは、以下のジェノタイプ:I.1、I.2、I.3、I.4、I.5、I.6、I.7、I.8、またはI.9のいずれか1つまたは複数のものであってもよい。ジェノタイプI.1およびI.4が好ましい。
【0022】
配列番号1~21は、ここここでは「参照配列」とも呼ばれる。アミノ酸配列の「セグメント」または「一部」は、参照されるアミノ酸配列の任意の所与の数のアミノ酸残基からなる近接するアミノ酸残基の部分配列(または断片)である。アミノ酸配列の長さは、それが構成する末端残基を含めたアミノ酸残基の数によって測定される。アミノ酸配列の同一性は、インターネットから自由にアクセス可能なタンパク質配列検索およびアライメントプログラム、例えばPROTEIN BLAST(https://blast.ncbi.nlm.nih.gov/Blast.cgi?PAGE=Proteins)およびExPASy(http://web.expasy.org/sim/)によって確認してもよい。配列アライメントツールの包括的なリストは、http://molbiol-tools.ca/Alignments.htmにおいて見出すことができる。
【0023】
本発明のNoVのVP1タンパク質は、上記で規定されているように、NoVのジェノグループIの任意のジェノタイプのVP1タンパク質、このようなタンパク質の断片、該タンパク質または該断片の誘導体、またはジェノグループI NoVのVP1タンパク質もしくは誘導体のアミノ酸配列を含むタンパク質であってもよい。
【0024】
VP1タンパク質は、上記で示されているように、参照配列と比較してアミノ酸の欠失、置換、付加または挿入を有してもよい。これらの中では、欠失、置換および付加が好ましい。上記で示したこのような修飾の数は、すべての欠失、置換、付加および挿入の合計を指す。用語「挿入」は、参照配列のアミノ酸配列内部の挿入に関し、すなわちCまたはN末端の先端での付加は除かれる。用語「付加」は、参照配列のアミノ酸配列のCおよび/またはN末端の先端での付加を意味する。欠失は、参照配列の末端または内部のアミノ酸残基の欠失であってもよい。
【0025】
本発明のVP1タンパク質は、天然のジェノグループIのVP1タンパク質の長さを有していてもよく、またはその断片もしくはその誘導体であってもよい。しかし、本発明のVP1タンパク質は、会合してVLPを形成することが可能でなければならない。ここここでは、本発明のVP1タンパク質は、上記で示されているように、好ましくは500アミノ酸残基の最小限の長さを有し、これもまた上記で示したように、天然のジェノグループIのVP1タンパク質に対して最小限の同一性または類似性を有する。VLPが形成されているかどうかは、電子顕微鏡(Laue M & Bannert N.、2010、J Applied Microbiol.、109:1159~1168;Harris JR、1999、Methods Mol Biol.、117:13~30;Pogan Rら、2018、J Phys.:Condens.Matter、30:064006)またはサイズ排除クロマトグラフィー(Effio CLら、2016、Vaccine、34:1259~1267)などの確立された方法によって決定することができる。
【0026】
本発明はまた、本発明のカプシドタンパク質をコードする核酸分子も提供する。核酸分子は、宿主細胞または宿主生物において本発明のタンパク質を発現するために使用するベクターであってもよい。核酸分子は、本発明のタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含有する核酸コンストラクトを含有していてもよく、核酸分子はさらにヌクレオチド配列を発現するための遺伝要素を含有していてもよい。核酸分子およびコンストラクトについてのさらなる情報は、以下の本発明のタンパク質の産生についての節の中で与えられる。
【0027】
本発明のウイルス様粒子(VLP)
本発明はまた、本発明のVP1カプシドタンパク質からなるかまたはそれを含むVLPも提供する。VLPはウイルスの構造タンパク質からなる粒子であるが、ウイルスの核酸は含有しない。好ましくは、VLPはウイルスの構造タンパク質からなる粒子であるが、前記VLPのVP1あるいはVP1およびVP2をコードするノロウイルスの核酸は含有しない。ノロウイルスの場合は、VLPは、構造タンパク質VP1あるいはVP1およびVP2タンパク質(あるいはここここに記載の任意の断片または誘導体)からなる。本発明のVLPは、本発明のVP1カプシドタンパク質、例えば上記の項目(i)~(iii)、項目(i’)~(iii’)、項目(i’’)~(iii’’)、または項目(i’’’)~(iii’’’)のいずれか一項に定義のものを含むかまたはそれからなる。これらのタンパク質は、好ましくはVLPを形成することが可能である。
【0028】
好ましくは、本発明のVLPは少なくとも60、好ましくは少なくとも90、より好ましくは約180のVP1タンパク質分子を含む。本発明のVLPのすべてのVP1タンパク質分子が、本発明によるジェノグループIのVP1カプシドタンパク質分子である必要はない。VLPが他のVP1タンパク質分子、好ましくはジェノグループIのVP1タンパク質分子も含有する可能性がある。しかし、本発明のVP1タンパク質の高い安定化効果をVLPに対してもたらすためには、VLPのVP1タンパク質分子数の少なくとも50%、好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも90%が本発明によるVP1カプシドタンパク質分子でなければならない。好ましい実施形態では、VLPのすべてのVP1タンパク質分子が、本発明によるVP1カプシドタンパク質分子である。従って、一実施形態では、本発明のVLPは、少なくとも60、好ましくは少なくとも90、より好ましくは約180の本発明によるVP1カプシドタンパク質分子を含む。VLPはさらに、1つまたは複数のVP2タンパク質分子、好ましくはジェノグループIのVP2タンパク質分子を含んでもよい。
【0029】
本発明のVP1カプシドタンパク質は、本発明のVLPへと自発的に会合することができる。本発明のVP1タンパク質の発現および産生ならびにVLPの作製については、さらに以下で説明する。
【0030】
本発明はまた、ジェノグループIのVP1カプシドタンパク質のPドメイン中の配列ストレッチAla-Ala-Leu-Leu/Val-His-Tyr(配列番号57)におけるHis残基を、ArgまたはLysに置き換えることを含むNoVジェノグループI VLPの安定性を高める方法を提供する。置き換えは、ジェノグループIのVP1タンパク質をコードする核酸における適切な変更およびその修飾VP1をコードする核酸を適した発現宿主中で発現させることによって一般的に行われる(以下でさらに記載する)。発現させたVP1タンパク質は、好ましくは、ジェノグループIのジェノタイプが同じかまたは異なるさらなるジェノグループIのVP1タンパク質の存在下または非存在下で、本発明のVLPになるように会合させる。
【0031】
本発明の免疫原性組成物
本発明はさらに、少なくとも1つのNoV抗原が本発明のジェノグループIのVP1カプシドタンパク質である1つまたは複数のNoV抗原を含む免疫原性組成物を提供する。従って、本発明のVP1カプシドタンパク質は、ここでは「本発明の抗原」とも呼ばれる。免疫原性組成物は、哺乳動物において、組成物中の1つまたは複数のNoV抗原に対して免疫応答を生じさせることが可能である。免疫原性組成物は、NoV抗原として本発明のVP1カプシドタンパク質、または、好ましくは、本発明のVLPを含む。免疫原性組成物はさらに、薬学的に許容される担体および/またはワクチンアジュバントを含んでもよい。
【0032】
対象において同時に複数のNoV抗原、例えば2つ、3つまたは4つの異なるNoV抗原に対して免疫応答を生じさせるために、免疫原性組成物は2つ以上の異なるNoV抗原、例えば2つ以上のVP1タンパク質を含んでも良い。本発明の免疫原性組成物中で使用されるNoV抗原は、本発明のワクチンを使用して対象における免疫化を達成すべき1つまたは複数のNoVによって決まる。哺乳動物中で感染を引き起こすノロウイルス(NoV)は進化するため、免疫原性組成物中で使用される抗原は、特定の時期または特定の季節に健康上のリスクとみなされるNoVに対して哺乳動物中に免疫応答を引き起こすように変化または適応させてもよい。本発明の免疫原性組成物は、少なくとも本発明のVP1カプシドまたはVLPを含有する。従って、それは、少なくともNoVジェノグループI抗原を含有する。免疫原性組成物は、第2の、すなわちさらなる本発明のジェノグループIのVP1抗原であってもなくてもよいNoVのジェノグループの抗原を含有してもよく、好ましくは、さらなるNoVジェノグループI抗原も本発明のジェノグループIのVP1抗原である。従って、一実施形態では、免疫原性組成物は2つ以上のジェノグループIのVP1抗原、好ましくは異なるジェノタイプの2つ以上のジェノグループIのVP1抗原を含み、その2つ以上のジェノグループIのVP1抗原は、本発明のジェノグループIのVP1抗原である。
【0033】
免疫原性組成物はさらに、NoVジェノグループGIIおよび/またはGIV由来のNoV抗原を含有してもよい。好ましくは、免疫原性組成物は加えて、NoVジェノグループII(GII)由来のNoV抗原を含有する。ジェノグループGIIおよび/またはGIVのNoV抗原は、好ましくはVP1カプシドタンパク質である。
【0034】
免疫原性組成物中に含有してもよいジェノグループGIIおよび/またはGIVのVP1カプシドタンパク質は以下の通りであってもよい。
(a)前記タンパク質のアミノ酸配列が、配列番号22~53のいずれか1つのアミノ酸配列からなる少なくとも500の近接するアミノ酸残基からなるかまたはそれを含む、または
(b)前記タンパク質のアミノ酸配列が、少なくとも500アミノ酸残基からなるかまたはそれを含み、この長さにわたって少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%の配列同一性を、配列番号22~53のいずれか1つのアミノ酸配列からなる少なくとも500の近接するアミノ酸残基の配列セグメントに対して有する、または
(c)前記タンパク質のアミノ酸配列が、配列番号22~53のいずれか1つのアミノ酸配列からなる少なくとも500の近接するアミノ酸残基の配列セグメントと比較して、1~50、好ましくは1~40、より好ましくは1~30の欠失、置換、付加または挿入を有する。
【0035】
ジェノグループIIまたはIVの抗原のVP1カプシドタンパク質の他の実施形態は、以下の通りである。
(a’)前記タンパク質のアミノ酸配列が、配列番号22~53のいずれか1つのアミノ酸配列からなるかまたはそれを含むか、または
(b’)前記タンパク質のアミノ酸配列が、配列番号22~53のいずれか1つのアミノ酸配列に対して、少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、最も好ましくは少なくとも95%の配列同一性を有するか、または
(c’)前記タンパク質のアミノ酸配列が、配列番号22~53のいずれか1つのアミノ酸配列と比較して、1~50、好ましくは1~40、より好ましくは1~30、さらにより好ましくは1~20の欠失、置換、付加または挿入を有する。
【0036】
これらのGIIまたはGIIカプシドタンパク質のジェノタイプは、アミノ酸配列についての節中で示される。
【0037】
本発明の免疫原性組成物中で使用されるNoV抗原のジェノタイプに関しては、特に制限はない。好ましいジェノグループIのジェノタイプは、上記で挙げられたジェノグループIのジェノタイプのいずれかであり、好ましくはジェノタイプI.1およびI.4、最も好ましくはジェノタイプI.4である。ジェノグループIIの抗原は、以下のジェノタイプ:II.1、II.2、II.3、II.4、II.5、II.6、II.7、II.8、II.12、II.13、II.14、II.17、II.21、II.22、II.24またはII.25、好ましくはII.4およびII.17、より好ましくはII.4のいずれか1つまたは複数の抗原であってもよい。ジェノグループIVの抗原は、以下のジェノタイプ:IV.1またはIV.3のいずれか1つまたは複数の抗原であってもよい。ジェノグループI抗原に関するのと同様に、他のジェノグループの抗原も好ましくはVP1タンパク質である。
【0038】
NoVのジェノグループI由来の抗原をNoVジェノグループII由来の抗原と組み合わせる実施形態に関しては、以下の免疫原性組成物の例が言及され得る。
ジェノタイプI.1の抗原およびジェノタイプII.1の抗原を含むもの、
ジェノタイプI.1の抗原およびジェノタイプII.4の抗原を含むもの、
ジェノタイプI.1の抗原およびジェノタイプII.6の抗原を含むもの、
ジェノタイプI.4の抗原およびジェノタイプII.1の抗原を含むもの、
ジェノタイプI.4の抗原およびジェノタイプII.4の抗原を含むもの、
ジェノタイプI.4の抗原およびジェノタイプII.17の抗原を含むもの、
ジェノタイプI.4の抗原およびジェノタイプII.2の抗原を含むもの、
ジェノタイプI.1の抗原およびジェノタイプII.17の抗原を含むもの、
ジェノタイプI.1の抗原およびジェノタイプII.2の抗原を含むもの、
および
ジェノタイプI.4の抗原およびジェノタイプII.6の抗原を含むもの、
これらのすべての免疫原性組成物の実施形態では、組成物は、少なくとも本発明のVP1カプシドタンパク質をジェノグループI抗原として含有し、好ましくは、ジェノグループI抗原は、本発明のVP1カプシドタンパク質である。ジェノグループIおよびIIの抗原は、配列番号を参照に上記で規定されたものであってもよい。免疫原性組成物がジェノタイプI.1またはI.4(GI.4)の抗原、およびジェノタイプII.4(GII.4)またはGII.17(GII.17)の抗原を含有する実施形態が好ましい。免疫原性組成物がジェノタイプI.1またはI.4の抗原、およびジェノタイプII.4の抗原を含有する実施形態がより好ましい。これらのすべての実施形態では、免疫原性組成物はさらに、以下でさらに説明するような薬学的に許容される担体またはワクチンアジュバントを含有してもよい。
【0039】
さらなる実施形態では、免疫原性組成物は,1つのNoVジェノグループ、好ましくはジェノグループII由来の2つ以上の抗原を含んでもよい。免疫原性組成物は、本発明のジェノタイプIVP1カプシドタンパク質に加えて、ジェノグループIIノロウイルスの2つの異なる抗原、例えばジェノグループIIノロウイルスの第1のジェノタイプの抗原とジェノグループIIノロウイルスの第2のジェノタイプの抗原を含んでもよい。例えば、組成物は、ジェノタイプII.1 NoVの抗原(例えばVP1タンパク質)およびジェノタイプII.4 NoVの抗原(例えばVP1タンパク質)を含んでもよい。あるいは、組成物はジェノタイプII.1 NoVの抗原(例えばVP1タンパク質)およびジェノタイプII.17 NoVの抗原(例えばVP1タンパク質)を含んでもよい。あるいは、組成物はジェノタイプII.4 NoVの抗原(例えばVP1タンパク質)およびジェノタイプII.17 NoVの抗原(例えばVP1タンパク質)を含んでもよい。これらのジェノグループII抗原は、配列番号を参照に上記で規定されたものであってもよい。
【0040】
上記で規定された抗原の誘導体は、天然の抗原が属するジェノグループおよび/またはジェノタイプの抗原とみなされる。VP1タンパク質などの抗原が、この規則を利用すると、2つの異なるジェノグループまたはジェノタイプに属し得る場合、該抗原または誘導体は、配列番号1~56のいずれか1つなどの天然のVP1タンパク質のアミノ酸配列の完全長に対するアミノ酸配列同一性の観点から最も類似するジェノグループまたはジェノタイプに属する。
【0041】
本発明の免疫原性組成物は、好ましくは、NoV VLPの形態の抗原を含有する。従って、この実施形態の免疫原性組成物は、上記で規定された本発明のVLPを含有し得る。免疫原性組成物は、好ましくは本発明のVLP、ならびにジェノグループIIおよび/またはジェノグループIVの抗原のNoV VLP、好ましくはジェノグループII抗原のNoV VLPを含有する。ジェノグループIIおよび/またはジェノグループIVの抗原のVLPは、好ましくは、上記で言及されたVP1タンパク質および上記で言及されたジェノタイプのVP1タンパク質である。
【0042】
本発明の免疫原性組成物は、ジェノグループI(本発明のVP1カプシドタンパク質を含有する)のNoV抗原を含むかまたはそれからなるVLPおよび第2のジェノグループ(例えばジェノグループII)のNoV抗原を含むかまたはそれからなるVLPを含有してもよい。以下の免疫原性組成物が例として言及され得る:
ジェノタイプI.1の抗原からなるかまたはそれを含むVLPならびにジェノタイプII.1の抗原からなるかまたはそれを含むVLPを含む組成物、
ジェノタイプI.1の抗原からなるかまたはそれを含むVLPならびにジェノタイプII.4の抗原からなるかまたはそれを含むVLPを含む組成物、
ジェノタイプI.1の抗原からなるかまたはそれを含むVLPならびにジェノタイプII.6の抗原からなるかまたはそれを含むVLPを含む組成物、
ジェノタイプI.1の抗原からなるかまたはそれを含むVLPならびにジェノタイプII.2の抗原からなるかまたはそれを含むVLPを含む組成物、
ジェノタイプI.1の抗原からなるかまたはそれを含むVLPならびにジェノタイプII.17の抗原からなるかまたはそれを含むVLPを含む組成物、
ジェノタイプI.4の抗原からなるかまたはそれを含むVLPならびにジェノタイプII.1の抗原からなるかまたはそれを含むVLPを含む組成物、
ジェノタイプI.4の抗原からなるかまたはそれを含むVLPならびにジェノタイプII.4の抗原からなるかまたはそれを含むVLPを含む組成物、および
ジェノタイプI.4の抗原からなるかまたはそれを含むVLPならびにジェノタイプII.6の抗原からなるかまたはそれを含むVLPを含む組成物。
ジェノタイプI.4の抗原からなるかまたはそれを含むVLPならびにジェノタイプII.2の抗原からなるかまたはそれを含むVLPを含む組成物、
ジェノタイプI.4の抗原からなるかまたはそれを含むVLPならびにジェノタイプII.17の抗原からなるかまたはそれを含むVLPを含む組成物。
これらのすべての実施形態では、ジェノタイプIの抗原からなるかまたはそれを含むVLPは本発明のVLPであり、ここで、前記VLPのVP1タンパク質分子の100%が本発明のVP1カプシドタンパク質であってもよい。
【0043】
本発明の免疫原性組成物は、ジェノグループIのノロウイルス抗原(好ましくはVP1タンパク質)およびジェノグループIIのノロウイルス抗原(同様に好ましくはVP1タンパク質)を、1:1~1:6、好ましくは1:1.5~1:5、より好ましくは1:2~1:4の範囲の質量比で含んでも良い。他の実施形態では、本発明の免疫原性組成物は、ジェノグループIノロウイルス抗原およびジェノグループIIノロウイルス抗原を、5:1~1:5、好ましくは3:1~1:3、より好ましくは2:1~1:2、さらにより好ましくは1.5:1~1:1.5の範囲の質量比で含む。
【0044】
好ましい実施形態では、本発明の免疫原性組成物は、本発明のジェノグループIのVP1カプシドタンパク質およびジェノグループIIのノロウイルス抗原(好ましくはVP1タンパク質)を、5:1~1:5、好ましくは3:1~1:3、より好ましくは2:1~1:2、さらにより好ましくは1.5:1~1:1.5の範囲の質量比で含む。
【0045】
さらなる好ましい実施形態では、本発明の免疫原性組成物は、本発明のVLPおよびNoVジェノグループIIのVLPを、5:1~1:5、好ましくは3:1~1:3、より好ましくは2:1~1:2、さらにより好ましくは1.5:1~1:1.5の範囲の質量比で含む。本発明のVLPは、上記で規定された通りである。質量比は、例えば、VLPをSDS-PAGEにかけ、染色し、その染色強度を市販の読み取り装置で読み取ることによって測定してもよい。該測定はVLPを混合する前に行ってもよく、その後に所望のVLPを所望の比率で混合してもよい。あるいは、MALDI-TOFなどの質量分析を使用してVLPを定量化してもよい。
【0046】
免疫原性組成物は、さらに、適した担体を所望の量および混合比で含有してもよい。水性液体組成物の場合、適した担体は水、または適切なpH、例えば6~8、好ましくは6.7~7.5であるべき水溶液であってもよい。水溶液は、水の他に、必要に応じて、バッファー、等張化剤および/または防腐剤を含有してもよい。固体組成物の場合は、液体組成物を乾燥または凍結乾燥させてもよい。
【0047】
バッファーの例は、リン酸バッファー、トリスバッファー、アセテートバッファーおよびシトレートバッファーである。可能性のある等張化剤の例は、塩化ナトリウム、ショ糖、グリセロールおよびトレハロースである。可能性のある防腐剤の例は、チメロサールである。しかし、免疫原性組成物は、防腐剤を添加せず滅菌して提供されてもよい。
【0048】
組成物は、液体または固体であってもよい。液体である場合は、それは水溶液または水性バッファーであり得る。固体である場合は、それはNoVのジェノグループIのカプシドタンパク質を含有する混合物、好ましくは本発明のNoV VLPを含有する混合物であり得る。好ましい固体の形態は、凍結乾燥形態である。
【0049】
免疫原性組成物は、ヒトなどの対象に投与した場合に、その中に含まれる抗原に対する免疫応答を生じさせるという点において、免疫原性である。対象における免疫応答を助けるために、組成物はワクチンアジュバントを含有してもよい。アジュバントの例は、一般的に知られるワクチン用のアジュバントである水酸化アルミニウム(ミョウバン)または他のアルミニウム塩である。しかし、一実施形態では、免疫原性組成物(およびワクチン)は、アジュバントを含有しない。好ましい実施形態では、組成物(およびワクチン)は、アジュバントとしてミョウバンも別のアルミニウム塩も含有しない。
【0050】
本発明の免疫原性組成物を調製する場合、1つまたは複数の抗原、好ましくはVLPの形態の抗原を、好ましくは適した担体または媒体中に、またはそれらと共に、混合してもよい。担体または媒体は、水または溶液などの水性媒体であってもよい。水性媒体は、pHを調節するためのバッファーを含有してもよく、生理食塩水および/または他の添加剤を含有してもよい。可能性のある添加剤は、ショ糖、グリセロール、トレハロースであり得るが、これらに限定されない。NoV抗原は、本発明の免疫原性組成物またはワクチンを作製するまで、水性媒体中で保管してもよい。保管期間が長い場合には、それを凍結させるかまたは凍結乾燥させてもよい。免疫原性組成物の作製後は、それを例えば滅菌ろ過によって滅菌し、保管してもよい。液体形態において、または凍結して保管してもよい。それはまた、凍結乾燥後に乾燥粉末として保管してもよい。
【0051】
免疫原性組成物およびワクチンの凍結乾燥は、当技術分野において周知である。典型的には、凍結乾燥のプロセスの間に本発明の抗原および/またはアジュバントを保護するために、ならびに望ましい特性を有する粉末を得るために、組成物は薬剤の存在下で凍結乾燥する。ショ糖、マンニトール、トレハロースまたはラクトースなどの糖類(10~200mg/mLの初期濃度で存在する)が、タンパク質抗原の凍結保護および凍結乾燥保護のため、ならびに望ましい特性を有する凍結乾燥ケーク(cake)または粉末を得るために通常は使用される。凍結乾燥した組成物は、より安定であり得る。噴霧乾燥または噴霧凍結乾燥などの他の乾燥技術も使用してもよい。
【0052】
本発明のワクチン
本発明のワクチンは、対象への投与に適した形態、または投与前に対象への投与に適した形態へと容易に導くことができる形態の本発明の免疫原性組成物を含む。好ましくは、ワクチンは、好ましくは単回投与で対象に投与する量の抗原を含有する単回または単位用量の投与形態として適した投与形態の免疫原性組成物を含有する。
【0053】
投与に適した形態は、投与様式に関係する。例えば、ワクチンは、予め決められた量の水あるいは水溶液、懸濁液または乳濁液を添加することよって投与前に元に戻すことができる固体製剤であってもよい。この方法では、例えば注射などによる投与のための溶液を、投与前にすぐに作ることができる。あるいは、ワクチンは、対象への鼻腔内投与のための固体製剤であってもよい。さらに、ワクチンは、注射による投与のための液体調製物、好ましくは水性液体製剤であってもよい。後者の場合は、ワクチンは単位投与形態としての水溶液であってもよい。
【0054】
ワクチンは、免疫原性組成物の他に、1つまたは複数の医薬品添加物または担体を含んでもよい。添加物は、液体または固体であってもよい。液体添加物としては、水、アルコール、食塩水、およびバッファー溶液が挙げられるが、これらに限定されない。他の可能性のある添加物としては、防腐剤と、抗菌剤、抗酸化剤、キレート剤、バッファー物質などの他の添加剤が挙げられるがこれらに限定されない。本発明の免疫原性組成物は、それ自体が本発明の意味においてのワクチンであってもよい。
【0055】
ワクチンは、抗NoVワクチンである。それは同時に薬学的組成物でもある。ワクチンは、一般的に、対象においてNoV感染を予防もしくは治療するため、またはNoV感染の重症度を抑えるために使用される。本発明はまた、本発明の免疫原性組成物またはワクチンを対象に投与することを一般的に含む、ノロウイルス感染を予防もしくは治療するまたはNoV感染の重症度を抑えるための方法も提供する。NoVが予防され得るもしくは治療され得る、またはNoV感染の重症度が抑えられ得る対象は、哺乳動物、好ましくはヒトである。ヒトの中では小児および成人の両方が、NoV感染を予防または治療するための対象であってもよい。ヒトの中では小児が、人生の早期に免疫化を実現するため好ましい。ヒト対象は、16歳までが小児とみなされる。好ましくは、NoVワクチンは1~16歳、好ましくは2~14歳、より好ましくは3~12歳の間の年齢の小児において使用される。
【0056】
ワクチンの投与経路に関しては、本発明は限定されない。本発明のワクチンは、好ましくは対象に非経口的に、例えば注射によって投与される。注射による投与の場合、ワクチンは液体として、または液体の形態に戻すための固体として製剤化されてもよい。注射による非経口投与は、静脈内、皮内、筋肉内または皮下投与であってもよい。皮内、筋肉内または皮下投与が好ましく、皮内および筋肉内投与がより好ましい。一実施形態では、ワクチンは皮内に投与される。別の実施形態では、ワクチンは筋肉内に投与される。ワクチンはまた、鼻腔内に投与されてもよい。この場合、組成物またはワクチンは液体、好ましくは水溶液であってもよい。あるいは、鼻腔内投与用の組成物またはワクチンは凍結乾燥形態などの固体形態であってもよい。
【0057】
ワクチンをヒト対象に投与する場合、または本発明の方法では、NoV抗原は、10~1000μg、好ましくは30~300μg、より好ましくは55~150μgの量のNoV抗原において投与される。ワクチンが、1つより多くのNoV抗原を含有する場合、これらの量は、個々のNoV抗原の量の合計に関する。ワクチンがジェノグループIの抗原およびジェノグループIIの抗原を含有する場合、ジェノグループII抗原の量は、ジェノグループI抗原と同じかまたはそれより高くてもよい。ジェノグループII抗原の量は、質量を単位としてジェノグループI抗原の量の1.5~6倍、好ましくは2.0~5倍、より好ましくは2.5~4.5倍、さらにより好ましくは3.0~4.0倍であってもよい。
【0058】
ワクチンは、投与に適した所望の量のワクチンを含有する容器中に、単回用量または複数回用量の形態で包装されていてもよい。単回用量の形態が好ましく、単回用量には、上記のような投与量のNoV抗原が含有される。単回用量の形態は、10~1000μg、好ましくは30~300μg、より好ましくは55~150μgのNoV抗原を含んでもよい。ワクチンがジェノグループIの抗原およびジェノグループIIの抗原を含有する場合は、これらの抗原の比率は、前の段落に定義の通りであってもよい。
【0059】
ワクチンは、NoV感染に対する免疫を高めるために、1回または2回、対象に投与してもよい。ワクチンを2回投与する場合、第2の投与は、ワクチンの第1の投与後2~8週間以内、好ましくは3~5週間以内に行われ得る。
【0060】
NoVに対してだけではなく他のウイルスに対しても免疫防御を生じさせるために、本発明のワクチンが他の感染性疾患に対する抗原も含有してもよい。例えば、NoVおよびロタウイルスに対する防御を生じさせるために、ワクチンがロタウイルス抗原を含んでもよい。
【0061】
本発明はまた、発現宿主中で本発明のVP1カプシドタンパク質を発現させること、発現させたVP1カプシドタンパク質を会合させてVLPを形成すること、および対象への投与用にVLPを製剤化することを含む、NoV感染に対する免疫原性組成物またはワクチンを作製する方法を提供する。
【0062】
NoV抗原の産生
上述のNoV抗原は、哺乳動物細胞、昆虫細胞、および植物または植物細胞を包含する異なる産生宿主中で発現しかつそれらから精製することができる(総説として:Herbst-Kralovetz、M.、Mason、H.S.& Chen、Q.2010、Exp.Rev.Vaccines、9:299~307)。NoV抗原およびNoV VLPの信頼できる精製プロトコールおよびその改良版が、バキュロウイルス発現系を使用する昆虫細胞に対して記載されている(Jiang、X.ら、1992、J.Virol.、66:6527~6532;Prasad BVV、Hardy D、Estes M.2000、J.Infect.Dis.、181:S317~S321;Huhti、L.ら、2010、Arch.Virol.、155:1855~1858;Koho、T.ら、2012、J.Virol.Methods、181:6~11;Huhti、L.ら、2013、Arch.Virol.、158:933~942;WO2013192604)、および植物に対して(Santi L.ら、2008、Vaccine、26:1846~1854;Lai、H.& Chen、Q.2012、Plant Cell Rep.、31:573~584)。EP2601970もまた、NoV VLPの作製に関するものとみなすことができる。
【0063】
昆虫細胞および植物細胞から単離されたVLPの構造および免疫原性の特性には差が見られないが、好ましいVLP産生系は植物ベースのものであり、それは植物組織から単離された抗原またはVLPにおいてはバキュロウイルスの不純物を避けることが可能であるからである。さらに、植物ベースの一過性発現系は、バキュロウイルスのものとは異なり、容易に拡張可能である。ベンサミアナタバコ(Nicotiana benthamiana)植物中で容易にウイルスのVLPを発現する(Zahin、M.ら、2016、PLoS One、11(8):e0160995)ことを可能にするmagnICON(登録商標)と呼ばれる植物ウイルスベースの発現系(Glebaら、2005、Vaccine、23:17~18;Marillonnetら、2005、Nat.Biotechnol.、23:718~723;Glebaら、Curr.Opin.Biotechnol.、2007、18:134~141;Klimyuk、V.ら、2014、Curr.Top.Microbiol.Immunol.、375:127~154)を使用して、NoV抗原遺伝子を植物中で正常に発現させることができる。
【0064】
より詳細には、免疫原性組成物またはワクチンに含まれるべき本発明のカプシドタンパク質および他の抗原は、標準的な発現系におけるタンパク質発現の既知の方法によって産生してもよい。カプシドタンパク質または抗原を産生する場合は、それをコードするヌクレオチド配列を、適した宿主生物中で発現してもよい。目的のタンパク質を産生および精製するために使用可能な方法が、先行技術において記載されており、そのような方法はいずれも使用することができる。真核生物の発現系を使用する場合、1つまたは複数のイントロンを抗原のコード配列中に挿入することができる。
【0065】
特に効果的な発現方法は、同様に先行技術において既知である植物発現系である。本発明による抗原をコードする目的のヌクレオチド配列の発現を植物において実現する可能性のある方法は、抗原をコードするヌクレオチド配列を含有する自己複製する(ウイルスの)レプリコンを使用することである。植物ウイルス発現系は、多くの公表文献、例えばWO2012019660、WO2008028661、WO2006003018、WO2005071090、WO2005049839、WO2006012906、WO02101006、WO2007137788またはWO02068664などにおいて記載されており、より多くの公表文献がこれらの文書中で引用されている。一過性発現のために植物または植物の一部にDNA分子などの核酸分子を導入するための種々の方法が知られている。アグロバクテリウムを、例えばアグロインフィルトレーションによって、またはアグロバクテリウムの懸濁液で噴霧することによって、植物を核酸分子(ベクター)または核酸コンストラクトでトランスフェクトするために使用してもよい。WO2012019660、WO2014187571またはWO2013149726を参照。
【0066】
抗原の強力な発現が望まれる実施形態では、カプシドタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含有する核酸コンストラクトは、植物細胞中で複製してウイルスベクターのレプリコンを形成することができるウイルスベクターをコードしていてもよい。複製するために、ウイルスベクターおよびレプリコンは、植物細胞中に存在する核酸ポリメラーゼ、例えばレプリコンから発現するウイルスのポリメラーゼによって認識され得る複製開始点を含有していてもよい。RNAウイルスベクター(「RNAレプリコン」と呼ばれる)の場合、レプリコンは、植物細胞中で活性のあるプロモーターの制御下にある転写によって、DNAコンストラクトから、後者を植物細胞の核に導入した後に形成され得る。DNAレプリコンの場合、例えばWO00/17365およびWO99/22003に記載されているように、レプリコンは、DNAコンストラクト中のウイルスのレプリコンをコードする配列に隣接する2つの組換え部位間の組換えによって形成され得る。レプリコンがDNAコンストラクトによってコードされている場合、RNAレプリコンが好ましい。DNAおよびRNAウイルスベクター(DNAまたはRNAレプリコン)の使用については、長年にわたり、文献において広範に記載されている。一部の例は、以下の特許公開である:WO2008028661、WO2007137788、WO2006003018、WO2005071090、WO2005049839、WO02097080、WO02088369、WO02068664。DNAウイルスベクターの例には、ジェミニウイルスベースのものがある。本発明の場合は、植物RNAウイルスベースのウイルスベクターまたはレプリコン、特に一本鎖プラス鎖RNAウイルスベースのものが、好ましくは使用され得る。従って、ウイルスのレプリコンは、一本鎖プラス鎖RNAレプリコンであり得る。そのようなウイルスベクターの例には、タバコモザイクウイルス(TMV)およびポルテクスウイルスX(PVX)ベースものがある。「ベースの」とは、ウイルスベクターが、これらのウイルスの複製に関与するレプリカーゼおよび/または他のタンパク質などの複製系を使用することを意味する。ポルテクスウイルスベースのウイルスベクターおよび発現系は、EP2061890またはWO2008/028661に記載されている。
【0067】
カプシドタンパク質は、多細胞植物またはその一部分において、特に高等植物またはその一部分において発現させてもよい。単子葉および双子葉(作物)植物の両方を使用することができる。タンパク質を発現するのに使用可能な一般的な植物としては、タバコ(Nicotiana tabacum)およびベンサミアナタバコ(Nicotiana benthamiana)が挙げられる。しかし、他の多くのものも同様に使用することができる。
【0068】
一般的に、カプシドタンパク質は、植物または植物の一部の細胞のサイトゾル中で発現させることができる。この場合、特定の区画に目的のタンパク質を導くシグナルペプチドは、酵素に付加しない。あるいは、カプシドタンパク質または抗原は、植物の葉緑体中で発現させるかまたはそれを標的にさせることができ、あるいは細胞外空間に分泌させることができる。これらの場合には、色素体移行ペプチド(plastid transit peptide)または細胞外空間を標的にするシグナル配列などのN末端プレ配列を、目的タンパク質としてのカプシドタンパク質のN末端またはC末端の先端、好ましくはC末端の先端に付加する。
【0069】
次の工程では、抗原を発現した植物から発現させたカプシドタンパク質を含有する植物材料を回収する。植物材料は、例えば葉、根、塊茎もしくは種子であってもよく、または押し砕かれた、製粉機でひかれた、もしくは粉末にされた葉、根、塊茎もしくは種子の生成物であってもよい。カプシドタンパク質は、次いで、水性バッファーを使用して植物材料から抽出してもよい。これには植物材料をホモジナイズすることが含まれていてもよく、不溶性物質は遠心分離またはろ過によって除去してもよい。カプシドタンパク質の水性バッファー溶液を作製するために、カプシドタンパク質を含む可溶型成分を水性バッファー中に抽出することになる。水性バッファーは、無機もしくは有機酸またはそれらの塩を含有していてもよく、本発明の組成物としての水溶液に対して以下で規定されるpHを有していてもよい。さらに水性バッファーは、塩および/またはスルフヒドリル化合物を含有していてもよい。次いで、取得した抗原調製物中のカプシドタンパク質を、クロマトグラフィー法などのタンパク質精製の標準的な方法を使用してさらに精製してもよい。
【0070】
NoV VP1タンパク質または誘導体であるカプシドタンパク質は、VLPを形成することができる。これらのVLPは通常、抽出および精製において使用される水性バッファー中で自発的に形成される。VLPの形成は、例えば電子顕微鏡を使用して確認することができる。
【0071】
本発明の免疫原性組成物またはワクチンが、2つ以上のNoV抗原を含有する場合、2つ以上の抗原を別々に発現および精製し、次いで、組成物またはワクチンを調製する際に所望の比率で混合してもよい。同じ植物細胞または植物中で2つ以上のカプシドタンパク質または抗原を共発現し、混合物として一緒に精製することも可能である。
【0072】
VP1抗原を含む抗原の発現用のコンストラクトの設計(construct engineering)、抗原の発現および精製については、実施例1および実施例2において記載されている。
図6に、GI.4抗原のコード配列を含有する発現ベクターの作製について示す。タイプIIS制限酵素を使用する類似の手法を、任意の目的の配列を発現ベクターにクローニングするために使用することができる。
図7に、野生型および突然変異体のGI.4 VP1タンパク質発現を、クーマシーで染色されたゲル上で示す。
【実施例】
【0073】
実施例1
ノロウイルスVP1野生型および突然変異体バージョンに対する発現ベクターの構築および機能試験
ノロウイルスGI.4 Chiba 407のVP1カプシドタンパク質(Japan、1987)(GenBank accession no.:BAB18267、544アミノ酸残基、配列番号1、
図1)に相当する配列を、遺伝子合成を用いて作製し、隣接するタイプIIS制限酵素BsaI部位をクローニングのために付加した。各モジュールに対して異なるカスタマイズされたオーバーハングを作製することによりこれらの制限酵素認識部位の除去による最終コンストラクトのアセンブルが可能になるタイプIIS制限酵素BsaIを使用して、ノロウイルスGI.4 Chiba 407のモジュールをTMVベースのウイルスの発現ベクター(magnICON(登録商標)システム、以下を参照)中にクローニングした(Engler、C.、Kandzia、R.& Marillonnet、S.2008、PLoS One、3:e3647)。
【0074】
GI.4 Chiba 407のVP1タンパク質の分析により、野生型のタンパク質の配列はN末端の2つのメチオニン残基とC末端の2つのアルギニン残基を欠いており、それによって理論タンパク質質量と測定タンパク質質量に差が生じていることが明らかになった。従って、理論質量と測定質量について整合がとれる変異体を得るために、GI.4 Chiba 407 VP1のN末端の2つのメチオニンとC末端の2つのアルギニン残基を欠くNおよびC末端切断型NC変異体(配列番号2)を作製した。それぞれのノロウイルスGI.4 Chiba 407 VP1モジュールを、隣接するタイプIIS制限酵素BsaI部位と共にPCRを用いて作製し、これらのBsaI部位を使用してTMVベースのmagnICON(登録商標)ウイルス発現ベクター中にクローニングした。配列番号2のNCバージョン(野生型配列と比較して:N末端でΔMM、C末端でΔRR)を、さらなる突然変異の導入のための基盤として使用した。
【0075】
GI.4 VLPは、GII.4 VLPと比較してより低い均一性を示し、より低い安定性も示した。さらに、GI.4 Chiba407野生型およびNCバージョンのVP1の場合は、抗原に関連した高分子量の産生物が、再現可能なかたちでVLPと共精製かつ共製剤化された。この挙動は、GII.4株の場合には観察されなかったため、比較に基づく配列および構造分析を行った。殻と突起ドメイン間に塩橋の形成をもたらしてVP1の高次構造、多量体化および会合を改善し、結果として生じるVLPを安定化し得る単一のアルギニンアミノ酸残基を、ジェノグループIIおよびIV株のP1ドメインの、保存されているが構造的にフレキシブルな領域の内部に同定した。ジェノグループI株では、この位置のアミノ酸残基はヒスチジンである。従って、GI.4 Chiba 407のVP1配列中のこのヒスチジン残基を、アルギニンで置き換えた(野生型においてはH474R、NC変異体に対してはH472R)。それぞれのノロウイルスGI.4 Chiba 407 VP1NCバージョンのモジュールを、隣接するタイプIIS制限酵素BsaI部位と共にPCRを用いて作製し、これらのBsaI部位を使用してTMVベースのmagnICON(登録商標)ウイルス発現ベクター中にクローニングし、結果としてGI.4 Chiba 407 VP1のNCHRバージョン(配列番号3)を得た(野生型の配列と比較して:N末端でΔMM、H474R、C末端でΔRR)。
【0076】
さらにGI.4 Chiba 407 VLPの安定性および完全性を改善するために、殻を安定化する塩橋をVLPの内部表面にさらに形成することを可能にする残基置換により、内部の殻ドメインを修飾した、すなわち、N末端のSTALATAモチーフをSKALADAまたはSDALAKAに修飾した。それぞれのノロウイルスGI.4 Chiba 407 VP1のNCHRバージョンのモジュールを、隣接するタイプIIS制限酵素BsaI部位と共にPCRを用いて作製し、これらのBsaI部位を使用してTMVベースのmagnICON(登録商標)ウイルス発現ベクター中にクローニングし、結果としてGI.4 Chiba 407 VP1のNCHRKD(配列番号4)およびNCHRDK(配列番号5)バージョンを得た(野生型の配列と比較して:N末端でΔMM、T41K/D、T45D/K、H474R、C末端でΔRR)。
【0077】
magnICON(登録商標)技術(Gleba、Y.、Klimyuk、V.& Marillonnet、S.、2005、Vaccine、2005、23:2042~2048;Gleba、Y.、Klimyuk、V.& Marillonnet、S.2007、Curr.Opin.Biotechnol.、18:134~141)に基づき、トバモウイルス属(タバコモザイクウイルス、TMV)由来、すなわち2つの近縁関係にある植物ウイルス、TVCV(カブ葉脈透明化ウイルス(turnip vein clearing virus);Lartey、R.T.、Lane、L.C.& Melcher、U.1994、Arch.Virol.、138:287~298;Lartey、R.T.、Voss、T.C.& Melcher、U.1995、Gene、166:331~332)およびcrTMV(アブラナ感染性トバモウイルス(crucifer-infecting tobamovirus);Dorokhov、Y.L.、Ivanov、P.A.、Novikov、V.K.ら、1994、FEBS Lett.、350:5~8)由来のエレメントを使用して、ウイルスのバイナリー発現ベクターを開発した。結果として得られたベクターは、両親ウイルスがトバモウイルス属であり、周知のタバコモザイクウイルス(TMV)と関係しているため、「TMVベースの」と呼ばれる。3つのウイルス(TVCV、crTMVおよびTMV)のすべてが、プラス鎖RNAウイルスであり、同じ全体構造および複製様式を有する。基本的に、該ウイルスは、RNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRP)、移行タンパク質(MP)およびコートタンパク質(CP)をコードする。RdRPは、ウイルスの完全なRNA転写物(ゲノムRNA)ならびに他の2つのウイルスのタンパク質のMPおよびCPの発現に必要な2つのサブゲノムRNA(sgRNAs)を複製する。MPは、浸潤した葉の内部での、ウイルスのゲノムRNAの短距離細胞間移行に必要である。CPは、ウイルス粒子の形成および血管系を介した葉から葉への長距離の全身性移行に必要である。ウイルス粒子の形成は、細胞間移行に必要ではない。従って、CPをウイルスベクターから削除し、目的遺伝子で置き換えた。従って、ウイルスベクターはウイルス粒子を産生することができず、目的遺伝子をより高いレベルで発現させる。ウイルスタンパク質遺伝子および目的遺伝子に加えて、ウイルスベクターは、複製に必須である5’および3’非翻訳(5’ntrおよび3’ntr)ウイルス配列も含有する(Marillonnet、S.、Giritch、A.、Gils、M.ら、2004、Proc.Natl.Acad.Sci.USA.、101:6852~7)。
【0078】
植物細胞においてTMVベースのウイルスベクターを効果的に発現するために、ウイルスベクターのcDNAを、植物プロモーターと植物ターミネーター(Act2およびnos)の間にクローニングし(Marillonnet、S.、Giritch、A.、Gils、M.ら、2004、Proc.Natl.Acad.Sci.USA.、101:6852~6857)、植物イントロンをRdRPおよびMP配列の内部に付加した(Marillonnet、S.、Thoeringer、C.、Kandzia、R.ら、2005、Nat.Biotechnol.、23:718~723)。TMVベースのウイルスベクターを植物細胞に効率的に運搬するために、本発明者らはアグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)を使用した。従って、完全なウイルスベクター(植物プロモーター、目的遺伝子を有するTMVベースのウイルスベクター配列、植物ターミネーター)を、バイナリーベクターのT-DNAの左右境界領域の間にクローニングした。バイナリーベクターのエレメントは、アグロバクテリウム属におけるプラスミド複製のためのpVS1起点(Hajdukiewicz、P.、Svab、Z.& Maliga、P.、1994、Plant Mol Biol.、25:989~994)、大腸菌(Escherichia coli)におけるプラスミド複製のためのco/E1起点、nptIIIカナマイシン抗生物質耐性遺伝子(Frisch、D.A.、Harris-Haller、L.W.、Yokubaitis、N.T.ら、1995、Plant Mol.Biol.、27:405~409)および植物細胞にトランスファーされるDNAの末端の境界を定めるためのT-DNA左右境界領域(Frisch、D.A.、Harris-Haller、L.W.、Yokubaitis、N.T.ら、1995、Plant Mol.Biol.、27:405~409)である。青白選択を容易にするためにpUC19から増幅したlacZαカセットを、目的遺伝子のシームレスなインフレームでのクローニングを可能にする2つのBsaI制限酵素認識部位の間に挿入した。従って、ウイルスベクターの構築の最初の間に、目的遺伝子の容易かつ強固なクローニングを可能にするために、すべての天然に存在するBsaI認識部位を除去した。
【0079】
組換えタンパク質の発現の機能試験のために、トリプトンを大豆ペプトン(Duchefa Biochemie、Haarlem、The Netherlands)で置き換えて50mg/mLのリファンピシンおよび50mg/mLのカナマイシンを追加した液体LBS培地中で、TMVベースの発現ベクターを担持する選択されたアグロバクテリウム属の株を培養した。アグロバクテリウムの培養物を、OD600が2から4に達するまで28℃で生育した。浸潤溶液は、アグロバクテリウムの培養物を浸潤バッファー(10mM MES、pH5.5、10mM MgSO4)中で定められた細胞濃度(OD600が2.0の培養物を1000倍希釈することに相当する)にまで希釈することによって調製する。
【0080】
制御されかつ標準化された条件下で6~8週間生育させたベンサミアナタバコ植物の葉を、針のないシリンジを使用してアグロバクテリウムの浸潤溶液で浸潤し、次いで組換えタンパク質の発現および蓄積のために約7日間温室に置いた。次いで植物葉材料を回収し、液体窒素中ですりつぶして細かい粉末にし、Laemmliバッファーを使用してタンパク質を抽出した。SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動およびクーマシー染色によって可視化したタンパク質によって、タンパク質抽出物を分析した。
【0081】
実施例2
植物材料からのノロウイルスVLPの精製
ノロウイルスVP1のVLPを、以下に記載の通りに精製した。ベンサミアナタバコ植物中でウイルスVLPを容易に発現することを可能にする(Zahin、M.ら、2016、PLoS One、11(8):e0160995)、アセンブルされたTMVベースのmagnICON(登録商標)ベクター(Glebaら、2005、Vaccine、23:17~18;Marillonnetら、2005、Nat.Biotechnol.、23:718~723;Glebaら、Curr.Opin.Biotechnol.、2007、18:134~141;Klimyuk、V.ら、2014、Curr.Top.Microbiol.Immunol.、375:127~154)を保有する希釈されたアグロバクテリウム・ツメファシエンス培養物で、5週齢のベンサミアナタバコ植物を減圧浸潤した(80~100mbarで3~4分間)。植物材料を、浸潤後6~14日で回収した。浸潤後7~8日の時点で回収することにより、最も高い発現レベルがもたらされる。
【0082】
グリーンバイオマス(green biomas)を、2体積の中性バッファーの存在下でホモジナイズした(すなわち、15gのバイオマスと30mLの100mM Tris、5mM Na2S2O5 pH7.5)。清澄化のために、植物ホモジネートを15.000×gで20分遠心分離した。結果として得られた抽出物を、Millipore(登録商標)のガラス繊維フィルター(AP25)を使用したろ過によってさらに清澄化した。
【0083】
高分子量成分を、超遠心分離(150.000×gで90分間)によって沈降させた。沈殿物を、1mLの20mM ヒスチジン、137mM NaCl pH6.0中に懸濁させ、15.000×gで20分間遠心分離することにより清澄化した。上清を含有するVLPは、30%ショ糖クッションの最上部(20mM ヒスチジン、137mM NaCl pH6.5中)に位置した。超遠心分離を、150.000×gで90分間実施した。結果として得られた沈殿物を、20mM ヒスチジン、137mM NaCl pH6.5中に再懸濁した。
【0084】
実施例3
精製したVP1 VLPの特徴づけ
透過型電子顕微鏡(TEM)
会合したVLPの存在を、透過型電子顕微鏡によってモニターした。TEM顕微鏡写真を、精製したVLPのサイズ、分散度および正二十面体の形態を可視化するために取得した。
【0085】
試料を、単一液滴ネガティブ染色(single droplet negative staining)法(J.Robbin Harris、Methods in Molecular Biology 117:Electron Microscopy Methods and Protocols chapter S.13~30)を使用することによって調製した。支持膜として予めコーティングされたグリッド(Formvar-Carbon、Cu 200 mesh、FCF200-Cu-25、Science Services GmbH社、Munich、Germany)およびコントラスト溶液としてUranyLess(E22409、Science Services GmbH社、Munich、Germany)を使用した。10μlの各試料をグリッドに加え、10分間インキュベートした。コーティングした面を超高純度水の液滴上に5秒間接触させることによってグリッド表面を洗浄した。余分な水をろ紙によって除去した。VLPを、即時使用可能なUranyLessを用いて、各回につき1分間、2回染色した。一晩乾燥させた後、グリッドを、80kVで動作するEM900透過型電子顕微鏡(Carl Zeiss Microscopy社、Oberkochen、Germany)を用いて観察した。顕微鏡写真を、Variospeed SSCCDカメラ SM-1k-120(Trondle社、Moorenweis、Germany)を用いて、iTEMイメージングソフトウェア(EMSIS GmbH社、Muenster、Germany)を使用して取得した。
[Ref.]J.Robbin Harris:Negative staining of thinly spread biological particulates、Methods in Molecular Biology 117:Electron Microscopy Methods and Protocols chapter S.13~30
【0086】
サイズ排除高速液体クロマトグラフィー(SE-HPLC)
VLPの形成、相対的な含有量およびサイズ(モル質量および半径)を、紫外線(UV)を用いたサイズ排除高速液体クロマトグラフィー(SE-HPLC)、光散乱(LS)および屈折率(RI)検出によって確認した。
【0087】
SE-HPLC分析を、Agilent 1200シリーズ HPLCシステム(Agilent Technologies Deutschland GmbH社、Waldbronn、Germany)上で実施した。G1312Aバイナリーポンプ、G1379Bマイクロ真空脱ガス装置(micro vacuum degasser)、G1329A自動液体サンプラー、G1330B自動液体サンプラーサーモスタット、G1316Aサーモスタット付き(thermostated)カラムコンパートメントおよびG1314C可変波長検出器で、HPLCは構成されていた。Wyatt Technology Europe GmbH社の機器である、準弾性光散乱動的光散乱モジュール(QELS-DLS検出器)を伴うminiDAWN TREOSレーザー光度計とOptilab rEX屈折計を、SE-HPLCシステムにインラインで連結した。
【0088】
試料の最大の注入量は100μlであり、注入する前は、試料をオートサンプラー内で23℃の一定温度に保った(thermostated)。ラン(run)は25℃で実施し3回繰り返して行った。固定相としてTSKGel G6000 PWxl分析カラム(300×7.8mm、13μm粒子サイズ、>1000Å孔径、Tosoh Bioscience社、Stuttgart、Germany)と共にTSKgel PWxlガードカラム(40×6mm、12μm粒子サイズ、混合細孔径(mixed pore size)、Tosoh社)、SE-HPLC溶出剤(移動相)として0.8ml/minの流速で25mMのリン酸水素二ナトリウム/125mMの塩化ナトリウム/1mMの塩化ナトリウム(pH7.4)を使用することにより、VLPを分離した。
【0089】
SE-HPLCシステムの制御およびVLPの含有量を決定するためのUVシグナルからのピーク積分を、ソフトウェアChemStation(バージョンB.04.03、Agilent社)を用いて行った。下流に接続したWyatt検出器群は、プログラムASTRA(バージョン5、Wyatt社)によって制御し、多角度光散乱(MALS)、動的光散乱(DLS)および屈折率(RI)検出を用いたサイズの測定によるVLPの特徴づけに使用した。データ解析およびVLPのモル質量および半径の計算も、ASTRAのプログラムツールおよびモデルを用いて行った。
【0090】
キャピラリーゲル電気泳動(CGE)
VP1の純度試験のために、Agilent 2100 バイオアナライザ(Agilent Technologies Deutschland GmbH社; Waldbronn、Germany)上で、Agilent Protein 230キット(サイジング範囲:14~230kDa)および2100エキスパートソフトウェア(Kuschel、M.ら 2002、J Biomol Tech 13(3):172~178)の組み合わせで、CGE-on-a-chip分析を実施した。すべての試薬およびチップは、メーカーの使用説明書に従って調製した。タンパク質分離のためのゲル色素混合物を、チップ上の指定されたリザーバーにピペットで移し、チッププライミングステーションを使用して微小流体のチャネルの中へ押し込んだ。
【0091】
4μlの各VLP試料および2μlの試料バッファーを混合し、95℃で5分間加熱した。還元条件用の試料バッファーは、ドデシル硫酸リチウム、2つの内標準および還元剤としての3.5%(v/v)の1M DTTを含有した。84μlの水を各試料-バッファー混合物に添加した後、6μlの各試料を、タンパク質ラダーと共にチップ上に乗せた。チップランの結果を、ゲル状の画像(gel-like image)として、エレクトロフェログラムとして、および表形式において表示させた。エレクトロフェログラムのピークのベースライン補正およびピークの積分は自動的に行わせ、必要であれば、ケースバイケースでピークのベースラインのマニュアル補正を行った。所望の産生物(完全なVP1コートタンパク質)および産生物に関連した物質(N末端が切断されたVP1)に対するタンパク質のピークを同定することができ、それらは秒における泳動時間またはkDaにおけるタンパク質サイズをそれぞれ比較することで産生物に関連またはプロセスに関連する不純物から明確に識別可能であった。
[Ref.] Kuschel、M.、T.Neumann,ら(2002).「Use of lab-on-a-chip technology for protein sizing and quantitation.」J Biomol Tech 13(3):172~178。
【0092】
結果
H472Rアミノ酸置換は顕著にVLPの会合を変化させ、VLPの均一性を改善する。単一の高度に均一な(homogenic)VLP産生物が、試験的なスケールで作製した試験バッチ中に検出された。
SE-HPLC:Chi_NCHRは、以前のChiおよびChi_NC調製物(75~85%)と比較して、はるかに高いVLPの含有量および純度(95.0%)を示した。
CGE、還元:Chi_NCHRのVP1の分解は、Chi_NC調製物と比較して同レベル(80~85%)のままであり改善はなかった。
TEM:顕著な変化はないが、おそらく、Chi_NCHRの突起ドメインはChi_NC-VLPまたはChi-VLPのものよりもはっきりとしている。
【0093】
実施例4
筋肉内(IM)送達経路を使用した、マウスにおける、精製されたGI.4 ChibaのNC(野生型)およびGI.4 ChibaのNCHR突然変異体バージョンのVP1 VLPの相対的な免疫原性。
0週目および3週目に、PBS(pH7.3)中で、組換えノロウイルスVLPをBALB/CマウスにIMで2回投与した。群を、10μgのVLP用量のGI.4 Chiba NC(I群)またはGI.4 Chiba NCHR(II群)のいずれかのGI.4 Chiba VLPで免疫化した。すべてのマウスを、試験の5週目で終了させた。液性(抗体)免疫応答をELISAベースのアッセイによって分析した。
【0094】
試験動物
BALB/c Ola/Hsd雌マウス(Envigo社、Netherlands)を、動物施設に常温で輸送した。動物は、免疫化の1週前に順化させ、7週齢時に免疫化した。健康状態のモニタリングデータの要約フォームがマウスの輸送に伴い提供された。動物の健康状態(病気の臨床徴候)および愛護は、動物施設の職員によって毎日モニターされた。すべての手順は認可され、すべての手順をフィンランド国立動物実験委員会の指針に従って実施した。
【0095】
免疫化手順
免疫化および関連する手順時に、マウスはイソフルランを吸入させて麻酔した。試験のはじめに動物の重さを量り、群の入れ墨および個別に耳に穴をあけることで印を付けた。被験物質(50μl量)を、0.5mLインスリンシリンジ(29G×1/2’’-0.33×12mm)を用いて、尾側の硬い筋肉にIMで投与した。
【0096】
終了手順および試料採取
動物の体重を終了時に記録した。マウスは、1mg/kgのメデトミジン(Dorbene(登録商標)1mg/mL、Laboratorios Syva社)および75mg/kgのケタミン(Ketalar(登録商標)50mg/mL、Pfizer)で麻酔し、腋窩(腋の下)領域から終末部全血を採取することによって終了させた。血清を、個別に採取した全血試料から分離し、使用するまで-20℃で保管した。
【0097】
液性免疫応答アッセイ
血清中の抗原特異的IgGの力価を、先に記載されているような酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)(Blazevicら、2011、Vaccine、29:81268133;Tamminenら、2012、Immunology、135:89~99)によって試験した。ブタ胃ムチン(PGM)ベースの相同なブロッキングアッセイ(Lindesmithら、2012、J.Virol.、86:873~883)を、先に記載されているように、推定上のNoV受容体であるヒトの組織血液型抗原(HBGA)に対するNoV VLPの結合をブロックする免疫血清の能力を決定するために使用した(Uusi-Kerttulaら、2014、Microbes Infect.、16:472~480)。
【0098】
10μgの用量を用いて、IM経路を介して非経口的に投与すると、双方のGI.4 Chiba VLPが、BALB/cマウス中に相当なジェノタイプ特異的な血清IgG応答を誘導した(
図11)。個々のマウス間で、または2つの実験群間で、顕著な差は観察されなかった(
図11)。さらに、10μgのGI.4 Chiba VLPで2回免疫化した両群からプールされた血清は、PGM HBGA受容体に対する相同なGI.4 Chiba VLP結合の同等に高いブロッキング活性を有した(
図11)。結論として、誘導された免疫応答を比較した場合に、GI.4 Chiba NC(I群)またはGI.4 Chiba NCHR(II群)のVLPの免疫原性において差は観察されなかった。
【配列表】