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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-08
(45)【発行日】2024-08-19
(54)【発明の名称】ふっ素吸着剤
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/28 20230101AFI20240809BHJP
   B01J 20/08 20060101ALI20240809BHJP
   B01J 20/28 20060101ALI20240809BHJP
【FI】
C02F1/28 L
B01J20/08 C
B01J20/28 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2022106283
(22)【出願日】2022-06-30
(65)【公開番号】P2024005865
(43)【公開日】2024-01-17
【審査請求日】2023-11-30
(73)【特許権者】
【識別番号】722010585
【氏名又は名称】セトラスホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100139022
【弁理士】
【氏名又は名称】小野田 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100192463
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 剛規
(74)【代理人】
【識別番号】100169328
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 健治
(72)【発明者】
【氏名】横関 真知子
【審査官】目代 博茂
(56)【参考文献】
【文献】特開2024-005649(JP,A)
【文献】特開2023-171188(JP,A)
【文献】国際公開第2017/026379(WO,A1)
【文献】特開2011-025158(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103055803(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J20/00-20/34
C02F1/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の式(1)で表される複合金属酸化物からなる、ふっ素吸着剤であって、
平均二次粒子径が0.2μm~1.0μmの範囲内であり、
X線回折分析における半価幅<220>が1.55°~2.10°の範囲内である、ふっ素吸着剤。
(1-x)MgO・(x/2)Al ・・・(1)
[式(1)において、xは0.25≦x≦0.33を満たす数である。]
【請求項2】
BET比表面積が100m/g~250m/gの範囲内である、請求項1に記載のふっ素吸着剤。
【請求項3】
前記ふっ素吸着剤の単位質量当たりのふっ素吸着量が40mg/g以上であり、前記ふっ素吸着剤のふっ素溶出量が0.20mg/L以下である、請求項1に記載のふっ素吸着剤。
【請求項4】
ふっ素含有水に請求項1に記載のふっ素吸着剤を接触させることを含む、ふっ素含有水の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中などに含まれるふっ素を除去する、複合金属酸化物からなるふっ素吸着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ふっ素を含む化合物(例えば、ふっ酸等)は、ガラスや半導体のエッチング加工や液晶ディスプレイの基板表面の洗浄などの幅広い工業用途で汎用されている。しかしながら、ふっ素は、人体に対して有害な物質であるため、工場排水中又は地下水中に含まれるふっ素濃度を低減させる必要がある。例えば、工場排水においては、水質汚濁防止法により、ふっ素濃度として8mg/L以下の排水基準値が定められている。また、地下水においては、ふっ素は陰イオン(F)として挙動するため、地下水の流れによってふっ素汚染が広範に及びやすいという問題がある。そのため、地下水においては環境基本法により、ふっ素濃度として0.8mg/L以下の環境基準値が定められている。また、土壌においても環境基本法により、ふっ素濃度として0.8mg/L以下の環境基準値が定められている。したがって、工場排水や地下水などのふっ素含有水からふっ素を除去する方法が求められている。
【0003】
ふっ素含有水からふっ素を除去する方法としては、凝集沈殿法や吸着法などが知られている。例えば、特許文献1には、特定の化学組成式で表される複合金属水酸化物又は複合金属酸化物からなる、水中のふっ素除去用の水処理剤が開示されている。また、特許文献2には、特定のハイドロタルサイト類化合物を用いてふっ素等を吸着固定化する、汚染土壌の改質方法が開示されている。さらに、非特許文献1には、ふっ素を除去する方法ではないものの、ハイドロタルサイト又はマグネシウム-アルミニウム酸化物を用いて水中のリンや塩化物イオンを除去する、水の浄化方法が開示されている。
【0004】
これらの文献に開示されている従来の吸着剤は、ふっ素含有水などからふっ素を吸着することにより除去することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2004-041889号公報
【文献】特開2004-321887号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】亀田知人、吉岡敏明、梅津良昭、奥脇昭嗣著、「ハイドロタルサイトの水環境保全・浄化への応用」 The Chemical Times 2005 No.1 (通巻195号)、第10頁~第16頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の吸着剤では、吸着剤を構成する複合金属水酸化物や複合金属酸化物などの化合物(以下、単に「吸着剤構成材料」と称する。)に含まれている微量のふっ素が、吸着剤から溶出してしまうことがあり、環境基本法で定められた環境基準を十分に満たすことができない恐れがあった。
【0008】
なお、吸着剤構成材料に含まれるふっ素は、土壌中や海水中、淡水中などの自然界に広く存在する微量のふっ素が、吸着剤の製造時に、吸着剤構成材料へ取り込まれたものと考えられる。
【0009】
そこで、本発明は、吸着剤構成材料に由来するふっ素の溶出が少なく、かつ、ふっ素吸着量が大きいふっ素吸着剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成するべく鋭意検討を行った結果、後述の式(1)で表される特定構造の複合金属酸化物をふっ素吸着剤として用いることで、吸着剤構成材料に由来するふっ素の溶出が少なくなり、かつ、ふっ素吸着量が大きくなることを見出した。
本開示は、かかる知見に基づいて完成されたものであり、以下の各態様を含むものである。
【0011】
(第1の開示)
本第1の開示は、下記の式(1)で表される複合金属酸化物からなる、ふっ素吸着剤である。上記ふっ素吸着剤は、平均二次粒子径が0.2μm~1.0μmの範囲内である。上記ふっ素吸着剤は、X線回折分析における半価幅<220>が1.55°~2.10°の範囲内である。
(1-x)MgO・(x/2)Al ・・・(1)
[式(1)において、xは0.25≦x≦0.33を満たす数である。]
【0012】
(第2の開示)
本第2の開示は、第1の開示において、BET比表面積が100m/g~250m/gの範囲内である。
【0013】
(第3の開示)
本第3の開示は、第1の開示又は第2の開示において、上記ふっ素吸着剤の単位質量当たりのふっ素吸着量が40mg/g以上である。上記ふっ素吸着剤は、ふっ素溶出量が0.20mg/L以下である。
【0014】
(第4の開示)
本第4の開示は、ふっ素含有水に第1の開示から第3の開示いずれかにおいて、のふっ素吸着剤を接触させることを含む、ふっ素含有水の処理方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、吸着剤構成材料に由来するふっ素の溶出が少なく、かつ、ふっ素吸着量が大きいふっ素吸着剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、既製品の層状複水酸化物の焼成体を使用したカラム試験の結果を示すグラフである。
図2図2は、実施例1及び比較例3の吸着等温線を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明のふっ素吸着剤の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、本明細書においては、各種数値範囲は、特に断りがない限り、その上下限値を含む範囲を意味する。
【0018】
[ふっ素吸着剤]
本発明の一実施形態では、ふっ素吸着剤は、下記の式(1)で表される複合金属酸化物からなる。すなわち、下記の式(1)で表される複合金属酸化物は、本実施形態のふっ素吸着剤の吸着剤構成材料となる。
(1-x)MgO・(x/2)Al ・・・(1)
[式(1)において、xは0.25≦x≦0.33を満たす数である。]
【0019】
上記の複合金属酸化物は、例えば、水熱処理等によって結晶成長させたハイドロタルサイト類化合物を、所定の条件下で焼成することにより得ることができる。具体的には、上記ハイドロタルサイト類化合物を所定の条件下で焼成すると、下記の式(2)に示すように、ハイドロタルサイト類化合物の層間に存在する炭酸イオンと、結晶水及び金属イオンと結合している水酸基とが離脱し、上記の複合金属酸化物が生成される。
MgAl(OH)16CO・4HO → MgAl+CO↑+12HO↑ ・・・(2)
【0020】
複合金属酸化物の原料となるハイドロタルサイト類化合物は、例えば、次のようにして合成することができる。まず、マグネシウム塩及びアルミニウム塩の混合水溶液と、アルカリ物質とを反応させてスラリーを得る。得られたスラリーは、結晶成長をさせるために水熱処理をしてもよい。その後、スラリーを固液分離し、水洗、乾燥及び粉砕の各工程を経て、ハイドロタルサイト類化合物の粉体を得ることができる。
【0021】
ハイドロタルサイト類化合物の合成に使用されるマグネシウム塩としては、特に限定されないが、例えば、塩化マグネシウム、硝酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、水酸化マグネシウムなどが挙げられる。なかでも、マグネシウム塩は、硫酸マグネシウム及び塩化マグネシウムのうちの少なくとも1種を用いることが好ましい。これらのマグネシウム塩は、材料コストを抑制することができ、入手も容易であるという利点がある。
【0022】
ハイドロタルサイト類化合物の合成に使用されるアルミニウム塩としては、特に限定されないが、例えば、塩化アルミニウム、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、アルミン酸ソーダなどが挙げられる。なお、マグネシウム塩及びアルミニウム塩の混合水溶液におけるマグネシウムとアルミニウムのモル比(Mg/Al)は、2~3の範囲が好ましい。
【0023】
ハイドロタルサイト類化合物の合成に使用されるアルカリ物質としては、特に限定されないが、例えば、苛性ソーダ、アンモニア、水酸化カリウム、炭酸ソーダなどの水溶液が挙げられる。
【0024】
このようなハイドロタルサイト類化合物から得られる複合金属酸化物は、雰囲気中のイオンや水分を取り込み、容易にハイドロタルサイト様構造を再構築することができる。さらに、この複合酸化物は、プラスに帯電しており、ふっ化物イオン等の陰イオンを吸着しやすくなっている。そのため、この複合金属酸化物は、下記の式(3)に示すように、雰囲気中の水分を取り込んで水酸化物に変化する際に、ふっ化物イオンをその層間に取り込むことができる。
MgAl+2F → MgAl(OH)16・4HO ・・・(3)
【0025】
また、本実施形態のふっ素吸着剤は、平均二次粒子径が0.2μm~1.0μmの範囲内である。本明細書において、平均二次粒子径とは、レーザー回折散乱法にて測定される平均二次粒子径である。この平均二次粒子径の具体的な測定方法については後述する。
【0026】
なお、ふっ素吸着剤の平均二次粒子径は、0.3μm~0.8μmの範囲内が好ましく、0.4μm~0.6μmの範囲内が更に好ましい。
【0027】
そして、本実施形態のふっ素吸着剤は、X線回折分析における半価幅<220>が1.55°~2.10°の範囲内である。本明細書において、半価幅<220>とは、X線回折分析において、(220)面から得られた回折線のピーク高さの1/2の位置の幅を意味する。この半価幅<220>の具体的な測定方法については後述する。
【0028】
なお、ふっ素吸着剤の半価幅<220>は、1.70°~2.10°の範囲内が好ましく、1.80°~2.08°の範囲内が更に好ましい。
【0029】
これら特定の平均二次粒子径及び半価幅<220>は、複合金属酸化物を製造する際の熱履歴やサンプル量などを適宜調整して、複合金属酸化物の結晶成長を制御することにより、得ることができる。なお、熱履歴の具体的な例としては、ハイドロタルサイト類化合物を製造する際の結晶成長させるための水熱処理する際の処理温度や処理時間等の条件、ハイドロタルサイト類化合物を焼成する際の昇温時間や保持温度、保持時間、降温時間等の焼成条件などが挙げられる。
【0030】
ハイドロタルサイト類化合物を製造する際の水熱処理条件は、ハイドロタルサイト類化合物の結晶成長を促進し得る条件であれば、特に制限されない。そのような水熱処理条件として、例えば、水熱処理温度は、100℃~200℃が好ましく、120℃~180℃が更に好ましい。同様に、水熱処理時間は、3時間~30時間が好ましく、5時間~20時間が更に好ましい。
【0031】
ハイドロタルサイト類化合物から上記複合金属酸化物を製造する際の焼成条件は、複合金属酸化物への熱分解が完了し得るものであれば、特に制限されない。そのような焼成条件として、例えば、焼成温度(昇温後の保持温度)は、200℃~900℃が好ましく、400℃~800℃が更に好ましい。同様に、焼成時間(焼成温度の保持時間)は、0.5時間~5時間が好ましく、1時間~3時間が更に好ましい。さらに、常温から焼成温度までの昇温時間は、焼成温度や保持時間にもよるが、0.5時間~5時間が好ましく、1時間~3時間が更に好ましい。また、焼成温度から常温までの降温時間は、焼成温度や保持時間にもよるが、1時間~12時間が好ましく、2時間~10時間が更に好ましい。
【0032】
吸着剤構成材料である複合金属酸化物は、製造時に、反応系内に含まれるふっ化物イオン等を不純物として吸着する。この不純物は、結晶の成長とともに排出されるが、一部は内部に取り込まれたままとなる。本実施形態では、複合金属酸化物の製造時に、原料となるHTの結晶成長レベルを、平均二次粒子径及び半価幅<220>がそれぞれ上記特定の範囲内となるように制御することで、ふっ化物イオンの溶出を抑制することができる。
【0033】
以上のとおり、本実施形態のふっ素吸着剤は、上記式(1)で表される複合金属酸化物からなり、かつ、上記特定の平均二次粒子径及び半価幅を有していることで、吸着剤構成材料に由来するふっ素の溶出が少なく、ふっ素吸着量が大きいものとなっている。これにより、本実施形態のふっ素吸着剤は、工場排水や地下水などのふっ素含有水からふっ素を十分に除去することができる。その結果、本実施形態のふっ素吸着剤は、水や土壌等の浄化に寄与することができ、国連サミットで採択されたSDGs(持続可能な開発目標)の達成に貢献することができるという利点もある。
【0034】
本実施形態のふっ素吸着剤は、BET比表面積が100m/g~250m/gの範囲内であることが好ましい。ふっ素吸着剤のBET比表面積がこのような範囲内にあると、高いふっ素吸着量を維持しながら、ふっ素の溶出をより確実に抑制することができる。
【0035】
本明細書において、BET比表面積とは、ふっ素吸着剤を構成する粒子状の複合金属酸化物の、BET法による比表面積を意味する。BET比表面積の具体的な測定方法については後述する。
【0036】
なお、ふっ素吸着剤のBET比表面積は、120m/g~200m/gの範囲内が好ましく、130m/g~180m/gの範囲内が更に好ましい。
【0037】
本実施形態のふっ素吸着剤は、ふっ素吸着剤の単位質量当たりのふっ素吸着量が40mg/g以上であり、ふっ素吸着剤のふっ素溶出量が0.20mg/L以下であることが好ましい。ふっ素吸着剤のふっ素吸着量及びふっ素溶出量がそれぞれこのような範囲内にあると、工場排水や地下水などのふっ素含有水からふっ素をより確実に除去することができるので、水や土壌等の浄化に大きく寄与することができる。
【0038】
なお、ふっ素吸着剤のふっ素吸着量及びふっ素溶出量の具体的な測定方法については後述する。
【0039】
(処理方法)
上述のとおり、本実施形態のふっ素吸着剤は、工場排水や地下水などのふっ素含有水からふっ素を十分に除去することができるため、例えば、ふっ素含有水の処理方法に好適に用いることができる。なお、ふっ素含有水の処理方法の一例としては、ふっ素含有水に本実施形態のふっ素吸着剤を接触させることを含む処理方法が挙げられる。
【0040】
本実施形態のふっ素吸着剤をふっ素含有水の処理に用いる場合、ふっ素吸着剤は、粉末や造粒物、成型物などの粒子状の形態で用いられてもよいし、他の成分と混合して混合物の形態で用いられてもよい。さらに、混合物の形態で用いられる場合、混合物に水等の液体を加えてペースト状の形態で用いられてもよいし、これを所定形状に乾燥固化して成形物の形態で用いられてもよい。
【0041】
なお、本実施形態のふっ素吸着剤の適用例としては、ふっ素含有水に含まれるふっ素を除去するためのカラムやフィルター、汚染地下水の下流側に構築される透水性の地中壁、排水路等の上下水道の配管、貯水槽、浄化施設等に用いられる濾床などが挙げられる。
【0042】
なお、本発明は、上述の実施形態や後述する実施例等に制限されることなく、本発明の目的、趣旨を逸脱しない範囲内において、適宜組み合わせや代替、変更等が可能である。
【実施例
【0043】
以下、実施例、比較例及び参考例を例示して本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0044】
なお、実施例等に関する各種測定方法は、以下のとおりである。
【0045】
(モル比)
試料約500mgを酸で溶解し、0.01moL/Lのエチレンジアミン四酢酸(EDTA)溶液を用いてキレート滴定を行い、溶液中のMg及びAlのモル比(Mg/Al)を算出した。
【0046】
(平均二次粒子径)
まず、試料を0.2W/V%ヘキサメタリン酸ナトリウム溶液に加えて、振幅数15μmの超音波で3分間分散処理した。その後、マイクロトラック・ベル株式会社製「MT3300EXII」を用い、溶媒の屈折率を1.33、物質の屈折率を1.57と設定してレーザー回折散乱法にて測定した。
【0047】
(X線回折定性分析)
試料を粉末試料成形機(PX-700)の試料ホルダーに充填し、X線回折装置(RIGAKU UltimaIV)を用いて分析した。以下の条件にて測定した回折パターンから複合金属酸化物への熱分解が完了しているかどうかを確認した。
測定角度:5.0-70.0°
サンプリング幅:0.0100
スキャンスピード:10.0°/分
管電圧:40kV
管電流:20mA
【0048】
(半価幅<220>)
以下の条件にて測定したX線回折パターンを、X線回折装置(RIGAKU UltimaIV)の解析ソフトにて処理し、MgO(220)面の半価幅を求めた。
測定角度:55.0-70.0°
サンプリング幅:0.0060
スキャンスピード:0.5°/分
管電圧:35kV
管電流:15mA
【0049】
(BET比表面積)
マイクロトラック・ベル株式会社製「Belsorp-MR6」を用いて、混合ガス(N30%+He70%)を使用して1点法にて測定した。
【0050】
(ふっ素吸着量)
50mL容積の遠沈管に所定量の試料を秤量し、50mg/LのNaF溶液30mLを注加した。この遠沈管を22時間水平振盪(160回/分、振幅4cm、25℃)し、遠心分離(10000rpm、10分)にて固液分離した後、孔径0.2μmのメンブレンフィルターでろ過した。次いで、ろ液に含まれるふっ化物イオン量(mg/L)をアルフッソン法により定量し、その値からふっ素吸着量(mg/g)を算出した。
【0051】
(ふっ素溶出量)
ふっ素吸着剤からのふっ素溶出量の測定は、土壌汚染対策法の環告18号準拠の溶出量試験(JIS K 0102:2016の34.1に準拠)に従って行った。
【0052】
(既製品のふっ素溶出量)
まず、参考として、既製品の層状複水酸化物及びその焼成物(層状複水酸化物A~C、層状複水酸化物Aの焼成物及び層状複水酸化物A’の焼成物)に対して、ふっ素溶出量を測定した。
【0053】
なお、既製品の層状複水酸化物A~Cは、いずれも次のようにして得られたものである。マグネシウム塩溶液とアルミニウム塩溶液とを混合し、炭酸塩を添加し、pHがアルカリ性となるように調整した後、層状複水酸化物を湿式析出させた。次いで、析出した層状複水酸化物を沈殿させて、固液分離した後、スラリーを乾燥することにより、既製品の層状複水酸化物を得た。さらに、その焼成物は、得られた層状複水酸化物の乾燥物を焼成処理した後、粉砕処理して得られたものである。
【0054】
層状複水酸化物A~C、層状複水酸化物Aの焼成物及び層状複水酸化物A’の焼成物のふっ素溶出量の測定結果を下記の表1に示す。
【0055】
【表1】
【0056】
表1に示すように、層状複水酸化物Bのふっ素溶出量は、1.7mg/Lであり、土壌環境基準値である0.8mg/Lを超過することが懸念される溶出量であった。また、層状複水酸化物Aの焼成物と層状複水酸化物A’の焼成物とは、製造ロットが異なっているだけの違いであるが、ふっ素溶出量を管理する観点での製造管理がなされていないため、製造ロット間でふっ素溶出量のばらつきが大きいことがわかった。
【0057】
(既製品の層状複水酸化物の焼成体を使用したカラム試験)
さらに、ふっ素吸着剤の参考として、既製品の層状複水酸化物の焼成体を使用したカラム試験を実施した。
【0058】
カラム試験は、次のようにして実施した。まず、直径4cm×長さ30cmの円筒形ガラスカラムに、ふっ素吸着剤と砂を混合した浄化剤を充填したものを作製した。そして、カラム下端から上端に向けてふっ素濃度1.5mg/L濃度の溶液を通水し、カラム出口におけるふっ素濃度を経時的に測定した。その結果を図1に示す。
【0059】
なお、図1において、横軸は、間隙置換回数(PV=Pore Volume)である。間隙置換回数とは、カラム内に充填された浄化剤の間隙体積が入れ替わった回数をいい、累積通水量を間隙体積で除して算出される。一方、縦軸は、カラム出口のふっ素濃度(カラム出口F濃度;mg/L)である。また、図1中に引いた破線は、環境基本法で定められた環境基準値である0.8mg/Lのふっ素濃度を示している。
【0060】
図1に示すように、既製品のふっ素吸着剤は、PV=3くらいまでの初期段階で、カラム出口におけるふっ素濃度の低下が不十分であり、浄化剤由来のふっ素による濃度嵩上げの影響が出ていた。通水を継続すると濃度は低下していくものの、一般的に地下水の流動は緩慢であるため、初期の一定期間性能を発揮することができず、地下水環境基準値などを達成できない期間が生じる恐れがあることがわかった。
【0061】
次に、本発明の実施例及び比較例について説明する。
【0062】
(実施例1)
1.5moL/Lの塩化マグネシウム水溶液、1.0moL/Lの硫酸アルミニウム水溶液、1.0moL/Lの炭酸ソーダ水溶液及び4.0moL/Lの苛性ソーダ水溶液を原料として用意した。
【0063】
まず、塩化マグネシウム水溶液、硫酸アルミニウム水溶液及び炭酸ソーダ水溶液を、モル比がMg:Al:CO=3.0:1:0.5となる流量で連続反応させ、Mg-Al-CO型のハイドロタルサイト様共沈物を得た。なお、苛性ソーダ水溶液については、反応pH10.3となるように流量制御した。
【0064】
次いで、得られたハイドロタルサイト様共沈物を結晶成長させるため、170℃で15時間の水熱処理を行った。その後、ヌッチェにより固液分離し、得られた固形物をイオン交換水で水洗し、105℃で24時間乾燥した。
【0065】
このようにして得られた乾燥物をハンマーミルで粉砕した後、目開き150ミクロンのフィルターで篩過し、焼成用原料となるハイドロタルサイト類化合物の粉末を得た。
【0066】
さらに、得られたハイドロタルサイト類化合物を、実験室焼成炉で以下の焼成条件にて焼成し、実施例1のサンプルを得た。
【0067】
(焼成条件)
磁性るつぼにハイドロタルサイト類化合物60gを投入し、常温から2時間かけて昇温し、温度が600℃になった時点で2時間保持した。その後、自然冷却し、実施例1のサンプルを得た。
【0068】
(比較例1)
水熱処理を行わなかったこと以外は、実施例1と同様にして比較例1のサンプルを得た。
【0069】
(実施例2)
1.5moL/Lの塩化マグネシウム水溶液、1.0moL/Lの硫酸アルミニウム水溶液、1.0moL/Lの炭酸ソーダ水溶液及び4.0moL/Lの苛性ソーダ水溶液を原料として用意した。
【0070】
まず、塩化マグネシウム水溶液、硫酸アルミニウム水溶液及び炭酸ソーダ水溶液を、モル比がMg:Al:CO=2.15:1:0.5となる流量で連続反応させ、Mg-Al-CO型のハイドロタルサイト様共沈物を得た。なお、苛性ソーダ水溶液については、反応pH9.4となるように流量制御した。
【0071】
次いで、得られたハイドロタルサイト様共沈物を結晶成長させるため、170℃で15時間の水熱処理を行った。その後、ヌッチェにより固液分離し、得られた固形物をイオン交換水で水洗し、105℃で24時間乾燥した。
【0072】
このようにして得られた乾燥物をハンマーミルで粉砕した後、目開き150ミクロンのフィルターで篩過し、焼成用原料となるハイドロタルサイト類化合物の粉末を得た。
【0073】
さらに、得られたハイドロタルサイト類化合物を、実施例1と同様にして焼成し、実施例2のサンプルを得た。
【0074】
(比較例2)
水熱処理を行わなかったこと以外は、実施例2と同様にして比較例2のサンプルを得た。
【0075】
(実施例3)
1.5moL/Lの硫酸マグネシウム水溶液、1.0moL/Lの硫酸アルミニウム水溶液、1.0moL/Lの炭酸ソーダ水溶液及び4.0moL/Lの苛性ソーダ水溶液を原料として用意した。
【0076】
まず、硫酸マグネシウム水溶液、硫酸アルミニウム水溶液及び炭酸ソーダ水溶液を、モル比がMg:Al:CO=2.25:1:0.5となる流量で連続反応させ、Mg-Al-CO型のハイドロタルサイト様共沈物を得た。なお、苛性ソーダ水溶液については、反応pH10.1となるように流量制御した。
【0077】
次いで、得られたハイドロタルサイト様共沈物を結晶成長させるため、170℃で6時間の水熱処理を行った。その後、ヌッチェにより固液分離し、得られた固形物をイオン交換水で水洗し、105℃で24時間乾燥した。
【0078】
このようにして得られた乾燥物をハンマーミルで粉砕した後、目開き150ミクロンのフィルターで篩過し、焼成用原料となるハイドロタルサイト類化合物の粉末を得た。
【0079】
さらに、得られたハイドロタルサイト類化合物を、実施例1と同様にして焼成し、実施例3のサンプルを得た。
【0080】
(比較例3)
水熱処理を行わなかったこと以外は、実施例3と同様にして比較例3のサンプルを得た。
【0081】
(実施例4)
1.5moL/Lの硫酸マグネシウム水溶液、1.0moL/Lの硫酸アルミニウム水溶液、1.0moL/Lの炭酸ソーダ水溶液及び4.0moL/Lの苛性ソーダ水溶液を原料として用意した。
【0082】
まず、硫酸マグネシウム水溶液、硫酸アルミニウム水溶液及び炭酸ソーダ水溶液を、モル比がMg:Al:CO=3:1:0.5となる流量で連続反応させ、Mg-Al-CO型のハイドロタルサイト様共沈物を得た。なお、苛性ソーダ水溶液については、反応pH10.1となるように流量制御した。
【0083】
次いで、得られたハイドロタルサイト様共沈物を結晶成長させるため、170℃で6時間の水熱処理を行った。その後、ヌッチェにより固液分離し、得られた固形物をイオン交換水で水洗し、105℃で24時間乾燥した。
【0084】
このようにして得られた乾燥物をハンマーミルで粉砕した後、目開き150ミクロンのフィルターで篩過し、焼成用原料となるハイドロタルサイト類化合物の粉末を得た。
【0085】
さらに、得られたハイドロタルサイト類化合物を、実施例1と同様にして焼成し、実施例4のサンプルを得た。
【0086】
(比較例4)
水熱処理を行わなかったこと以外は、実施例4と同様にして比較例4のサンプルを得た。
【0087】
(実施例5)
焼成条件において、磁性るつぼにハイドロタルサイト類化合物60gを投入し、常温から2時間かけて昇温し、温度が700℃になった時点で2時間保持したこと以外は、実施例1と同様にして実施例5のサンプルを得た。
【0088】
(比較例5)
焼成条件において、磁性るつぼにハイドロタルサイト類化合物60gを投入し、常温から2時間かけて昇温し、温度が400℃になった時点で2時間保持したこと以外は、実施例1と同様にして比較例5のサンプルを得た。
【0089】
(比較例6)
焼成条件において、磁性るつぼにハイドロタルサイト類化合物60gを投入し、常温から2時間かけて昇温し、温度が400℃になった時点で2時間保持したこと以外は、比較例3と同様にして比較例6のサンプルを得た。
【0090】
(比較例7)
焼成条件において、磁性るつぼにハイドロタルサイト類化合物60gを投入し、常温から2時間かけて昇温し、温度が500℃になった時点で2時間保持したこと以外は、比較例3と同様にして比較例7のサンプルを得た。
【0091】
(比較例8)
焼成条件において、磁性るつぼにハイドロタルサイト類化合物60gを投入し、常温から2時間かけて昇温し、温度が700℃になった時点で2時間保持したこと以外は、比較例3と同様にして比較例8のサンプルを得た。
【0092】
以上のようにして得られた、実施例1~5及び比較例1~8の各サンプルについて、平均二次粒子径、半価幅<220>、BET比表面積、ふっ素吸着量及びふっ素溶出量を測定した。これらの測定結果を水熱処理や焼成条件等とともに下記の表2に示す。なお、実施例1~5及び比較例1~8のサンプルは、X線回折定性分析により、いずれも複合金属酸化物への熱分解が完了していたことが確認された。
【0093】
【表2】
【0094】
表2に示すように、実施例1のサンプルは、比較例1のサンプルと半価幅が同じであるが、平均二次粒子径が制御されているため、ふっ素吸着量とふっ素溶出量の両方において優れた結果を示している。さらに、実施例2と比較例2、実施例3と比較例3、実施例4と比較例4の各サンプルの対比においても、同様の結果を示している。
【0095】
また、実施例1のサンプルは、比較例5のサンプルと平均二次粒子径が同じであるが、半価幅が制御されているため、ふっ素吸着量とふっ素溶出量の両方において優れた結果を示している。実施例5のサンプルについても同様のことがいえる。
【0096】
(ふっ素吸着性能の評価)
さらに、表2に示す実施例1と比較例3について、別途、吸着等温線を作成した。ここで、図2は、実施例1及び比較例3の吸着等温線を示すグラフである。図2において、横軸は液相濃度(mg/L)であり、縦軸はふっ素吸着量(mg/g)である。また、図2において、円形のプロット(〇)は実施例1の測定値であり、正方形のプロット(□)は比較例3の測定値である。
【0097】
横軸の液相濃度を環境基準値の0.8mg/Lとした場合(すなわち、図2の近似式中のxに0.8を代入して計算した場合)の吸着量は、実施例1で16.8mg/g、比較例3で4.1mg/gであった。したがって、実施例1のサンプルは、比較例3のサンプルのおよそ4倍のふっ素吸着性能を有していることがわかった。
【0098】
以下、実施例1及び下記の参考例を用いて、焼成条件の厳密な管理によって複合金属酸化物の半価幅を制御し得ることについて説明する。
【0099】
(参考例1)
焼成条件において、磁性るつぼにハイドロタルサイト類化合物600gを投入し、常温から0.5時間かけて昇温し、温度が600℃になった時点で0時間保持したこと以外は、実施例1と同様にして参考例1のサンプルを得た。
【0100】
(参考例2)
焼成条件において、磁性るつぼにハイドロタルサイト類化合物600gを投入し、常温から0.5時間かけて昇温し、温度が600℃になった時点で2時間保持したこと以外は、参考例1と同様にして参考例2のサンプルを得た。
【0101】
(参考例3)
焼成条件において、磁性るつぼにハイドロタルサイト類化合物600gを投入し、常温から12時間かけて昇温し、温度が600℃になった時点で0時間保持したこと以外は、参考例1と同様にして参考例3のサンプルを得た。
【0102】
(参考例4)
焼成条件において、磁性るつぼにハイドロタルサイト類化合物25gを投入し、常温から0.5時間かけて昇温し、温度が600℃になった時点で0時間保持したこと以外は、参考例1と同様にして参考例4のサンプルを得た。
【0103】
(参考例5)
焼成条件において、磁性るつぼにハイドロタルサイト類化合物60gを投入し、常温から0.5時間かけて昇温し、温度が600℃になった時点で0時間保持したこと以外は、参考例1と同様にして参考例5のサンプルを得た。
【0104】
(参考例6)
焼成条件において、磁性るつぼにハイドロタルサイト類化合物60gを投入し、常温から0.5時間かけて昇温し、温度が450℃になった時点で12時間保持したこと以外は、参考例1と同様にして参考例6のサンプルを得た。
【0105】
以上のようにして得られた参考例1~6の各サンプルについて、半価幅<220>を測定した。この測定結果を、実施例1のサンプルの測定結果及び焼成条件とともに、下記の表3に示す。
【0106】
【表3】
【0107】
表3に示すとおり、半価幅は、厳密な焼成条件の管理によって制御できることがわかる。特に、サンプル量、昇温時間、保持時間などの焼成条件が半価幅の有効な制御条件となり得ることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明のふっ素吸着剤は、例えば、ふっ素除去用のカラムやフィルター、汚染地下水の下流側に構築される透水性の地中壁、排水路等の上下水道の配管、貯水槽、浄化施設等に用いられる濾床などの幅広い分野の製品に、好適に利用することができる。
図1
図2