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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-08
(45)【発行日】2024-08-19
(54)【発明の名称】医療用穿刺針
(51)【国際特許分類】
   A61M 5/32 20060101AFI20240809BHJP
【FI】
A61M5/32 520
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022509552
(86)(22)【出願日】2021-03-10
(86)【国際出願番号】 JP2021009411
(87)【国際公開番号】W WO2021193041
(87)【国際公開日】2021-09-30
【審査請求日】2023-11-15
(31)【優先権主張番号】P 2020052001
(32)【優先日】2020-03-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077665
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 剛宏
(74)【代理人】
【識別番号】100116676
【弁理士】
【氏名又は名称】宮寺 利幸
(74)【代理人】
【識別番号】100191134
【弁理士】
【氏名又は名称】千馬 隆之
(74)【代理人】
【識別番号】100136548
【弁理士】
【氏名又は名称】仲宗根 康晴
(74)【代理人】
【識別番号】100136641
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 志郎
(74)【代理人】
【識別番号】100180448
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 亨祐
(72)【発明者】
【氏名】岩瀬 陽一郎
(72)【発明者】
【氏名】前川 みなみ
(72)【発明者】
【氏名】吉田 泰之
【審査官】佐藤 智弥
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-513036(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102006032534(DE,A1)
【文献】国際公開第2010/007664(WO,A1)
【文献】特表2015-535464(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 5/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体内の組織に薬剤を投与するように構成された医療用穿刺針であって、
内部に貫通孔が形成された筒状の本体部と、
前記本体部の先端部に向けて前記本体部の肉厚が減少するようにテーパー状に切り欠いてなる環状の刃面と、
前記刃面の先端に形成され、前記本体部の中心軸に直交する平面に沿った環状の刃先と、を備え、
前記刃先の近傍の前記貫通孔の内周面に形成され、前記貫通孔が前記組織によって閉塞された際に、薬液を前記刃先に導く薬液浸透部を有し、
前記薬液浸透部は、軸方向に延びる溝状の凹部よりなる薬液通過溝、又は、前記組織と前記内周面との間に間隙を生じさせる突起を含み、
前記薬液通過溝は、前記組織が入り込まない幅及び深さを有し、
前記薬液通過溝の基端位置は、前記組織が入り込まない位置まで延びる、医療用穿刺針。
【請求項2】
請求項記載の医療用穿刺針であって、前記薬液通過溝は、前記貫通孔の前記内周面に複数本設けられている、医療用穿刺針。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の医療用穿刺針であって、前記刃面は前記本体部の外周側に設けられている、医療用穿刺針。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の医療用穿刺針であって、前記刃面は前記本体部の内周側及び外周側の両側に形成されている、医療用穿刺針。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の医療用穿刺針であって、前記刃面は、前記本体部の内周側にのみ形成されている、医療用穿刺針。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体内に薬剤を投与するための医療用穿刺針に関する。
【背景技術】
【0002】
生体内の薄い組織に薬剤を投与する、例えば、胃腸粘膜、後眼部、及び鼻の粘膜等の薄い組織に薬剤を投与する場合に、それらの組織は、厚さが1mm以下と著しく薄いため、一般的な注射針では、傾斜した刃面が組織を突き抜けてしまい、組織外に薬液が漏れたり、注射針が薄い組織を貫通したりする事象が発生する。そのため、目的とする組織に、十分な量の薬液を、確実に投与できないという問題がある。
【0003】
このような不具合を解消するため、米国特許第8562589号明細書は、マイクロニードルの先端に薬剤を塗布した穿刺針を用いて胃腸粘膜に薬剤を投与する手法を開示する。
【発明の概要】
【0004】
しかしながら、米国特許第8562589号明細書の技術では、穿刺針に塗布された薬剤の量が微量であり、十分な量の薬剤を効率よく投与できないという問題がある。
【0005】
そこで、一実施形態は、薄い組織に対して十分な量の薬液を確実に投与できる医療用穿刺針を提供することを目的とする。
【0006】
本発明の一観点は、内部に貫通孔が形成された筒状の本体部と、前記本体部の先端部に向けて前記本体部の肉厚が減少するようにテーパー状に切り欠いてなる環状の刃面と、前記刃面の先端に形成され、前記本体部の中心軸に直交する平面に沿った環状の刃先と、を備えた、医療用穿刺針にある。
【0007】
上記観点の医療用穿刺針によれば、薄い組織に対して多量の薬液を効率よく投与することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1Aは、第1実施形態に係る医療用穿刺針の斜視図であり、図1B図1Aの医療用穿刺針の断面図である。
図2】第1実施形態に係る医療用穿刺針の作用を示す説明図である。
図3図3Aは、比較例の医療用穿刺針の作用を示す説明図(その1)であり、図3Bは比較例の医療用穿刺針の作用を示す説明図(その2)である。
図4図4Aは、図1Aの医療用穿刺針の製造工程を示す断面図(その1)であり、図4Bは医療用穿刺針の製造工程を示す断面図(その2)である。
図5図5Aは、図1Aの医療用穿刺針の製造工程を示す断面図(その3)であり、図5Bは、図1Aの医療用穿刺針の製造工程を示す断面図(その4)である。
図6図6Aは、第2実施形態に係る医療用穿刺針の斜視図であり、図6B図6Aの医療用穿刺針の断面図である。
図7図7Aは、第3実施形態に係る医療用穿刺針の斜視図であり、図7B図7Aの医療用穿刺針の断面図である。
図8図8Aは、第4実施形態に係る医療用穿刺針の斜視図であり、図8B図8Aの医療用穿刺針の断面図である。
図9図9Aは、第5実施形態に係る医療用穿刺針の斜視図であり、図9B図9Aの医療用穿刺針の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の好適な実施形態を挙げ、添付の図面を参照して詳細に説明する。
【0010】
(第1実施形態)
本実施形態に係る医療用穿刺針10は、図1Aに示すように、内部に貫通孔12が形成された円筒状の本体部14と、本体部14の針先14aに設けられた刃面16と、刃面16の先端に形成された円状の刃先18と、を備えている。
【0011】
本体部14は、長尺な円筒状に形成されており、例えば、ステンレス鋼等の金属材よりなる。本体部14の直径(外径)は、例えば36G(約0.1mm)程度にできる。
【0012】
貫通孔12は、本体部14の中心軸Cに沿って軸方向に延在している。貫通孔12は、断面が円形の空洞として形成されており、本体部14の基端部14bから針先14aまでを貫通して形成されている。本体部14の直径を例えば36G(約0.1mm)とした場合には、貫通孔12の内径は、例えば、0.05mm程度とできる。貫通孔12の先端の開口部12aは、円状の刃先18の内側に設けられている。すなわち、貫通孔12の開口部12aは、医療用穿刺針10の中心軸Cに対して垂直な平面に沿って形成されている。
【0013】
貫通孔12の針先14aの近くの内周面14cには、薬液浸透部15が形成されている。本実施形態の薬液浸透部15は、中心軸Cの方向に延びる薬液通過溝20を有している。薬液通過溝20は、医療用穿刺針10を組織80(図2参照)に穿刺することで、貫通孔12が組織80のコアリングによって閉塞された際に、薬液を針先14aまで導く流路となる。薬液通過溝20は、内周面14cに対して外方に凹んだ溝状の凹部として形成されており、中心軸Cの方向に直線状に延びている。薬液通過溝20の先端部20aは、貫通孔12の先端の近傍に位置している。
【0014】
また、薬液通過溝20の幅及び深さは、コアリングした際に、組織80が入り込むことができない幅及び深さに形成されている。本体部14の直径(外径)を例えば36G(約0.10mm)~38G(約0.05mm)とした場合には、薬液通過溝20の幅(周方向の寸法)は例えば0.025~0.070mm程度、薬液通過溝20の深さ(径方向の寸法)は、0.005~0.015mm程度とできる。
【0015】
また、本体部14の直径(外径)を例えば22G(約0.70mm)~34G(約0.18mm)とした場合には、薬液通過溝20の幅(周方向の寸法)は例えば0.060~0.535mm程度、薬液通過溝20の深さ(径方向の寸法)は、0.005~0.145mm程度とできる。コアリングをしやすい投与部位や粘度の高い薬液を投与する際には、本体部14の直径(外径)は大きく、薬液通過溝20の幅は広く、薬液通過溝20の深さは浅いことが好ましい。
【0016】
さらに、図1Bに示す薬液通過溝20の基端部20bの位置は、生体の組織80(図2参照)が入り込めない位置まで延びていることが好ましい。薬液通過溝20の基端部20bの位置は、例えば、例えば開口部12aから基端側に2.5mm以上離れた位置とすることが好ましい。
【0017】
薬液通過溝20は、貫通孔12の内周面14cの周方向に複数本設けられていてもよい。薬液通過溝20を2本設ける場合には、薬液通過溝20は周方向に180°の角度をあけて配置される。また薬液通過溝20は、3本又は4本若しくはそれ以上設けられていてもよい。複数の薬液通過溝20を設ける場合には、周方向に偏りなく配置することが好ましく、周方向に互いに等しい間隔をあけて複数本配置できる。
【0018】
図1Aに示すように、刃面16は、円筒状の本体部14の針先14aを外周側から中央に向けて斜めに切り欠いた傾斜した曲面として形成されている。図1Bに示すように、刃面16が形成された部分の本体部14の断面は、先端に向かうにつれて徐々に肉薄になるようにテーパー状に形成されている。刃面16と本体部14の中心軸C(図1A参照)との角度(傾斜角)は、例えば、8°~75°程度とできる。
【0019】
刃先18は、刃面16と貫通孔12の内周面14cとが接する部分に鋭利に形成されており、生体の組織80に穿刺可能となっている。刃先18は、本体部14の中心軸Cに対して垂直な平面に沿って円環状に形成されている。このような刃先18は、穿刺時において、その全域に荷重が分散されるため、組織80を貫通しにくくなっており、組織80に浅く穿刺することが容易になっている。
【0020】
以上の医療用穿刺針10は、図2に示すように、本体部14を薄い層状の組織80に垂直な方向(組織80の厚さ方向)から穿刺して使用される。薄い層状の組織80としては、腸粘膜や後眼部、及び嗅粘膜等があり、これらの組織80の厚さは1mm以下である。このように穿刺すると、刃先18の全域が薄い組織80の層方向に揃うため、貫通孔12の開口部12aの全域が組織80内に留まる。刃先18が組織80内に穿刺されることに伴って、コアリングにより組織80の一部が貫通孔12の内部に入り込む。そのため、貫通孔12の大部分は組織80によって閉塞される。ただし、薬液通過溝20は、微細な溝状に形成されているため、組織80が入り込めない。そのため、薬液通過溝20は、薬液が通過可能な流路を構成する。
【0021】
薬液は、薬液通過溝20を介して医療用穿刺針10の針先14a付近に導かれ、刃先18付近から組織80内に注入される。これにより、医療用穿刺針10は、ごく薄い組織80に対して、効率よく、多量の薬液を投与できる。
【0022】
図3Aに示すように、比較例の医療用穿刺針90は、刃面96が軸方向に対して傾斜した平面で構成されており、針管94の貫通孔92の開口部92aが軸方向に傾斜した平面に露出している。貫通孔92の開口部92aは、医療用穿刺針90の軸方向に沿って細長く形成されている。そのため、医療用穿刺針90を穿刺すると、貫通孔92の開口部92aは、その基端側の一部が薄い組織80からはみ出してしまい、液漏れを生じてしまう。
【0023】
また、図3Bに示すように比較例の医療用穿刺針90を深く穿刺すると、貫通孔92の開口部92aが組織80を突き抜けてしまい、液漏れを生じる。このため、比較例の医療用穿刺針90は、薄い組織80に対して効率よく薬液を投与できない。
【0024】
これに対し、本実施形態の医療用穿刺針10は、貫通孔12の開口部12aが医療用穿刺針10の軸方向に垂直な刃先18の内側に形成されているため、軸方向の長さが短い。そのため、ごく薄い組織80に穿刺した場合であっても、開口部12aが組織80から突き抜けることがなく、液漏れを起こすことなく組織80に薬液を注入できる。
【0025】
以上の医療用穿刺針10は、図4A図5Bに示すように、本体部14を構成する金属管22を用意し、この本体部14の針先14aの外周部をテーパー状に電解研磨して刃面16及び刃先18を形成することで、医療用穿刺針10を作製できる。また、薬液通過溝20は、本体部14の内周壁に対して各種加工、例えば機械加工(切削加工又はプレス加工)を施すことにより、形成できる。
【0026】
医療用穿刺針10の薬液通過溝20は、めっきを用いて形成されてもよい。以下、医療用穿刺針10の薬液通過溝20をめっきで形成する場合について説明する。
【0027】
図4Aに示すように、まず、医療用穿刺針10の素材として、金属管22が形成される。次に、金属管22の内表面22aの一部に、例えば、樹脂材料よりなるマスク24が塗布により形成される。マスク24は、薬液通過溝20と同一の平面形状に形成される。なお、マスク24の形成に先立って、めっき膜の下地となるシード層が形成されてもよい。
【0028】
次に、図4Bに示すように、金属管22の内部に、電解めっき又は無電解めっき等の手法により、金属層26が形成される。金属層26は、マスク24で覆われていない部分の内表面22aを下地にして成長する。マスク24で覆われていない部分の内表面22aは、金属層26で覆われる。金属層26は、例えばNi/Cr合金、Cu/Cr合金、Ni及びNi基合金、Fe及びFe基合金、Co及びCo基合金、Ag及びAg基合金、Cu及びCu基合金、並びにAu及びAu基合金等の金属よりなる。
【0029】
その後、図5Aに示すように、マスク24が除去される。マスク24の除去は、溶媒等を用いて行うことができる。マスク24の除去により、金属管22に凹状の溝よりなる薬液通過溝20が形成される。次に、図5A中のA-A部分が切断される。これにより、金属管22の切断部分を先端とする2本の本体部14が得られる。
【0030】
次に、図5Bに示すように、本体部14の先端の外周に沿って斜めに電解研磨を施すことで、刃面16及び刃先18が形成される。以上の工程により、本実施形態の医療用穿刺針10が完成する。
【0031】
本実施形態の医療用穿刺針10は、以下の効果を奏する。
【0032】
本実施形態の医療用穿刺針10は、内部に貫通孔12が形成された円筒状の本体部14と、本体部14の針先14aに向けて本体部14の肉厚が減少するようにテーパー状に切り欠いてなる環状の刃面16と、刃面16の先端に形成され、本体部14の中心軸Cに直交する平面に沿った円状の刃先18と、を備える。
【0033】
上記の構成によれば、医療用穿刺針10を薄い組織80に垂直な方向に穿刺した際に、貫通孔12が組織80から突き抜けることがなく、液漏れを起こすことなく組織80に効率よく、多量の薬液を注入できる。
【0034】
上記の医療用穿刺針10において、さらに、刃先18の近傍の貫通孔12の内周面14cには、凹凸構造よりなる薬液浸透部15が形成されてもよい。
【0035】
医療用穿刺針10を組織80に垂直に穿刺すると、コアリングにより貫通孔12が組織80によって閉塞される場合があるが、このような場合であっても、薬液浸透部15を通じて、薬液を刃先18に向けて流すことができ、組織80に十分な量の薬液を注入できる。
【0036】
上記の医療用穿刺針10において、薬液浸透部15は、軸方向に延びる溝状の凹部よりなる薬液通過溝20を含んでもよい。これにより、コアリングによって貫通孔12が閉塞された場合であっても、薬液通過溝20を通じて薬液を刃先18に向けて流すことができる。
【0037】
上記の医療用穿刺針10において、薬液通過溝20は、貫通孔12の内周面14cに複数本設けられていてもよい。これにより、コアリングが発生しても、十分な量の薬液を組織80に注入できる。
【0038】
(第2実施形態)
図6Aに示すように、本実施形態の医療用穿刺針10Aは、円筒状の本体部14の針先14aに形成される刃面28の形状において、図1Aの医療用穿刺針10と異なっている。なお、医療用穿刺針10Aの構成において、図1Aの医療用穿刺針10と同様の構成については、同一の符号を付してその詳細な説明は省略する。
【0039】
図6Bに示すように、医療用穿刺針10Aにおいて、刃面28は、本体部14を外周側から斜めに切り欠いた外側刃面28aと、本体部14の内周側から斜めに切り欠いた内側刃面28bとを有している。外側刃面28a及び内側刃面28bは、環状の曲面で構成されており、外側刃面28a及び内側刃面28bの交わる先端部分に、鋭利な刃先30が形成されている。外側刃面28a及び内側刃面28bは、電解研磨して形成できる。
【0040】
図6Aに示すように、刃先30は、本体部14の中心軸Cに対して垂直な平面に沿う円環状に形成されている。本実施形態の刃先30は、本体部14の貫通孔12よりも広がって形成されており、図1Aの刃先18よりも大きな直径に形成されている。本実施形態の医療用穿刺針10Aによれば、組織80に穿刺した際の荷重がより広い範囲の刃先30に分散されるため、刃先30と組織80との隙間から薬液が流出しやすくなる。
【0041】
以上のように、本実施形態の医療用穿刺針10Aは、刃面28が本体部14の内周側及び外周側の両側に形成されている。これにより、コアリングが発生した場合であっても、組織80に穿刺した際の荷重がより広い範囲の刃先30に分散されるため、刃先30と組織80との隙間から薬液が流出しやすくなる。
【0042】
(第3実施形態)
図7Aに示すように、本実施形態の医療用穿刺針10Bは、円筒状の本体部14の針先14aに形成される刃面32の形状において、図1Aの医療用穿刺針10と異なっている。なお、医療用穿刺針10Bの構成において、図1Aの医療用穿刺針10と同様の構成については、同一の符号を付してその詳細な説明は省略する。
【0043】
図7Bに示すように、医療用穿刺針10Bにおいて、刃面32は、本体部14を内周側からテーパー状に切り欠いて形成されている。刃面32は、本体部14の周方向に沿って斜めに切り欠いた環状の曲面で構成されている。本体部14の外周面と刃面32とが交わる辺に鋭利な刃先34が形成されている。刃先34は、本実施形態の刃先34は、本体部14の貫通孔12よりも広がって形成されており、本体部14と同じ直径に形成されている。
【0044】
以上のように、本実施形態の医療用穿刺針10Bは、刃面32が本体部14の内周側にのみ形成されている。これにより、刃先34が本体部14の直径と略同じ直径に広がって形成されている。したがって、医療用穿刺針10Bを組織80に穿刺してコアリングが発生した場合であっても、組織80に穿刺した際の荷重がより広い範囲の刃先34に分散されるため、刃先34と組織80との隙間から薬液が流出しやすくなる。これにより、医療用穿刺針10Bは、多量の薬液を組織80に注入できる。
【0045】
(第4実施形態)
図8A及び図8Bに示すように、本実施形態の医療用穿刺針10Cは、本体部14の貫通孔12の内周面14cに形成される薬液浸透部15Aにおいて、図1Aの医療用穿刺針10と異なっている。なお、医療用穿刺針10Cの構成において、図1Aの医療用穿刺針10と同様の構成については、同一の符号を付してその詳細な説明は省略する。
【0046】
本実施形態の医療用穿刺針10Cは、貫通孔12の内周面14cに、凹凸構造よりなる薬液浸透部15Aが形成されている。薬液浸透部15Aは、格子状に配置された複数の薬液通過溝38によって形成されている。このような薬液通過溝38は、図4A図5Bを参照しつつ説明しためっきによる薬液通過溝20の形成工程において、マスク24のパターンを変えることで形成できる。
【0047】
本実施形態の医療用穿刺針10Cによれば、組織80に穿刺した際にコアリングが発生しても、薬液浸透部15Aを介して、薬液を本体部14の針先14aに向けて流すことができる。これにより、医療用穿刺針10Cは、組織80に多量の薬液を注入できる。
【0048】
なお、本実施形態の薬液浸透部15Aの構造は、格子状の薬液通過溝38に限定されるものではなく、コアリングが発生した際に、組織80と貫通孔12の内周面14cとの間に間隙を生じ得る突起等の各種凹凸構造に置き換えることができる。
【0049】
(第5実施形態)
図9A及び図9Bに示すように、本実施形態の医療用穿刺針10Dは、本体部14の貫通孔12の内周面14cに形成される薬液浸透部15Bにおいて、図1Aの医療用穿刺針10と異なっている。なお、医療用穿刺針10Dの構成において、図1Aの医療用穿刺針10と同様の構成については、同一の符号を付してその詳細な説明は省略する。
【0050】
本実施形態の医療用穿刺針10Dは、貫通孔12の内周面14cに、医療用穿刺針10Dの基端部14bまで延びる薬液通過溝20を有する薬液浸透部15Bが形成されている。本実施形態の医療用穿刺針10Dは、次のとおりに製造される。まず、貫通孔12及び薬液浸透部15Bの内周面14cの形状と同じ外周面の形状の芯材(不図示)を用意する。
【0051】
芯材には、薬液通過溝20に対応する部分に線状の突起が軸方向に延びて形成されている。次に、芯材をメッキ液(例えば、Ni/Cr、Cu/Cr、Ni、Fe、Co、Ag、Cu、Au等のイオンを含む)に浸漬し、その芯材の外周面に電鋳体(例えば、Ni/Cr、Cu/Cr、Ni、Fe、Co、Ag、Cu、Au等の電鋳体)をメッキにより形成する。メッキによる電鋳体の形成は、電解めっき法が好ましいが、プロセスの一部に無電解めっき法を組み合わせてもよい。その後、その電鋳体からその芯材を基端側から抜き取り、管状の電鋳体からなる本体部14を得る。本体部14の内周面14cには、薬液通過溝20が形成される。そして、本体部14の先端の外周に沿って斜めに電解研磨が施されて、刃面16及び刃先18が形成される。以上の工程により、本実施形態の医療用穿刺針10Dが完成する。
【0052】
なお、上記の第2実施形態及び第3実施形態も同様に製造することができる。
【0053】
上記において、本発明について好適な実施形態を挙げて説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、種々の改変が可能なことは言うまでもない。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9