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特許7536085LGR5及びEGFRに結合する抗体とトポイソメラーゼI阻害剤との組合せを用いる癌の治療
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-08
(45)【発行日】2024-08-19
(54)【発明の名称】LGR5及びEGFRに結合する抗体とトポイソメラーゼI阻害剤との組合せを用いる癌の治療
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/395 20060101AFI20240809BHJP
   A61K 31/4745 20060101ALI20240809BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240809BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240809BHJP
   C07K 16/46 20060101ALI20240809BHJP
   C07K 16/30 20060101ALI20240809BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20240809BHJP
【FI】
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61K31/4745
A61P35/00
A61P43/00 121
A61P43/00 111
C07K16/46 ZNA
C07K16/30
C12N15/13
【請求項の数】 22
(21)【出願番号】P 2022511055
(86)(22)【出願日】2020-08-19
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-10-27
(86)【国際出願番号】 NL2020050517
(87)【国際公開番号】W WO2021034194
(87)【国際公開日】2021-02-25
【審査請求日】2022-04-18
(31)【優先権主張番号】19192327.5
(32)【優先日】2019-08-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】510340757
【氏名又は名称】メルス ナムローゼ フェンノートシャップ
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】マーク・スロスビー
(72)【発明者】
【氏名】アーネスト・アイザック・ワッサーマン
【審査官】春日 淳一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/069628(WO,A1)
【文献】特表2003-533483(JP,A)
【文献】特表2013-538200(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/395
A61K 45/00
A61K 31/4745
A61P 35/00
A61P 43/00
C07K 16/46
C07K 16/30
C12N 15/13
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
EGFR及び/又はLGR5を発現する癌の治療に使用するための、
i)EGFRの細胞外部分に結合する、配列番号17を有するCDR1、配列番号19を有するCDR2、及び配列番号21を有するCDR3を含む可変ドメイン、並びにLGR5の細胞外部分に結合する、配列番号69を有するCDR1、配列番号71を有するCDR2、及び配列番号73を有するCDR3を含む可変ドメインを含む抗体又はその機能性部分であって、アミノ酸配列QSISSYを含むLCDR1、アミノ酸配列AASを含むLCDR2、及びアミノ酸配列QQSYSTPを含むLCDR3を含む軽鎖を含む抗体又はその機能性部分、並びに、
ii)トポテカン、イリノテカン、ギマテカン、カンプトテシン、9-ニトロ-カンプトテシン及びPNU-166148から選択されるヒトトポイソメラーゼI阻害剤
を含む組み合わせ物。
【請求項2】
前記癌が、結腸直腸癌、肺癌、胃腸癌又は卵巣癌である、請求項1に記載の組み合わせ物。
【請求項3】
前記癌が結腸直腸癌である、請求項1又は2に記載の組み合わせ物。
【請求項4】
前記抗体又はその機能性部分、及び、前記ヒトトポイソメラーゼI阻害剤が、対象に同時に投与される、請求項1~3のいずれか一項に記載の組み合わせ物。
【請求項5】
前記抗体又はその機能性部分が、前記ヒトトポイソメラーゼI阻害剤に先立って前記対象に投与される、請求項1~のいずれか一項に記載の組み合わせ物。
【請求項6】
EGFRに結合する前記可変ドメインのVH鎖が、図8に表されるVH鎖MF3755のアミノ酸配列、又は最大15個、好ましくは多くて10個、9個、8個、7個、6個、5個、4個、3個、2個、1個、好ましくは多くて5個、4個、3個、2個、1個の、前記VHに対する挿入、欠失、置換、又はこれらの組合せを含むアミノ酸修飾を有する、図8に表されるVH鎖MF3755のアミノ酸配列を含み、LGR5に結合する前記可変ドメインのVH鎖が、図8に表されるVH鎖MF5816のアミノ酸配列、又は最大15個、好ましくは多くて10個、9個、8個、7個、6個、5個、4個、3個、2個、1個、好ましくは多くて5個、4個、3個、2個、1個の、前記VHに対する挿入、欠失、置換、又はこれらの組合せを含むアミノ酸修飾を有する、図8に表されるVH鎖MF5816のアミノ酸配列を含み、アミノ酸の挿入、欠失、及び置換が、CDR1、CDR2、及びCDR3領域に存在しない、請求項1~5のいずれか一項に記載の組み合わせ物。
【請求項7】
前記EGFRに結合する可変ドメインのVH鎖が、図8に表されるMF3755のVH鎖のアミノ酸配列を含み、及び、LGR5に結合する可変ドメインのVH鎖が、図8に表されるMF5816のVH鎖のアミノ酸配列を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の組み合わせ物。
【請求項8】
前記ヒトトポイソメラーゼI阻害剤が、カンプトテシンである、請求項1~7のいずれか一項に記載の組み合わせ物。
【請求項9】
前記ヒトトポイソメラーゼI阻害剤が、イリノテカン又はトポテカンである、請求項1~7のいずれか一項に記載の組み合わせ物。
【請求項10】
前記抗体がADCC増強型である、請求項1~9のいずれか一項に記載の組み合わせ物。
【請求項11】
前記抗体がアフコシル化されている、請求項1~10のいずれか一項に記載の組み合わせ物。
【請求項12】
細胞培養系でEGFR及びLGR5を発現する前記細胞の増殖を阻害するための方法であって、前記方法が、トポテカン、イリノテカン、ギマテカン、カンプトテシン、9-ニトロ-カンプトテシン及びPNU-166148から選択されるヒトトポイソメラーゼI阻害剤、並びにEGFRの細胞外部分に結合する、配列番号17を有するCDR1、配列番号19を有するCDR2、及び配列番号21を有するCDR3を含む可変ドメイン、並びにLGR5の細胞外部分に結合する、配列番号69を有するCDR1、配列番号71を有するCDR2、及び配列番号73を有するCDR3を含む可変ドメインを含む抗体又はその機能性部分であって、アミノ酸配列QSISSYを含むLCDR1、アミノ酸配列AASを含むLCDR2、及びアミノ酸配列QQSYSTPを含むLCDR3を含む軽鎖を含む抗体又はその機能性部分を有する系を提供することを含む、方法。
【請求項13】
医薬組成物であって、EGFRの細胞外部分に結合する、配列番号17を有するCDR1、配列番号19を有するCDR2、及び配列番号21を有するCDR3を含む可変ドメイン、並びにLGR5の細胞外部分に結合する、配列番号69を有するCDR1、配列番号71を有するCDR2、及び配列番号73を有するCDR3を含む可変ドメインを含む抗体又はその機能性部分であって、アミノ酸配列QSISSYを含むLCDR1、アミノ酸配列AASを含むLCDR2、及びアミノ酸配列QQSYSTPを含むLCDR3を含む軽鎖を含む抗体又はその機能性部分、並びに、トポテカン、イリノテカン、ギマテカン、カンプトテシン、9-ニトロ-カンプトテシン及びPNU-166148から選択されるヒトトポイソメラーゼI阻害剤を含む、医薬組成物。
【請求項14】
EGFRの細胞外部分に結合する可変ドメイン及びLGR5の細胞外部分に結合する可変ドメインを含む前記抗体又はその機能性部分、並びに、ヒトトポイソメラーゼI阻害剤が、単剤で提供される、請求項13に記載の医薬組成物。
【請求項15】
EGFRの細胞外部分に結合する可変ドメイン及びLGR5の細胞外部分に結合する可変ドメインを含む前記抗体又はその機能性部分、並びに、ヒトトポイソメラーゼI阻害剤が、別個の製剤で提供される、請求項13に記載の医薬組成物。
【請求項16】
EGFRの細胞外部分に結合する、配列番号17を有するCDR1、配列番号19を有するCDR2、及び配列番号21を有するCDR3を含む可変ドメイン、並びにLGR5の細胞外部分に結合する、配列番号69を有するCDR1、配列番号71を有するCDR2、及び配列番号73を有するCDR3を含む可変ドメインを含む、抗体又はその機能性部分であって、アミノ酸配列QSISSYを含むLCDR1、アミノ酸配列AASを含むLCDR2、及びアミノ酸配列QQSYSTPを含むLCDR3を含む軽鎖を含む抗体又はその機能性部分、トポテカン、イリノテカン、ギマテカン、カンプトテシン、9-ニトロ-カンプトテシン及びPNU-166148から選択されるヒトトポイソメラーゼI阻害剤、並びにEGFR及び/又はLGR5を発現する癌の治療において前記抗体及び前記ヒトトポイソメラーゼI阻害剤を使用するための指示を含む、キット。
【請求項17】
対象における胃腸癌の治療に使用するための、EGFRの細胞外部分に結合する、配列番号17を有するCDR1、配列番号19を有するCDR2、及び配列番号21を有するCDR3を含む可変ドメイン、並びにLGR5の細胞外部分に結合する、配列番号69を有するCDR1、配列番号71を有するCDR2、及び配列番号73を有するCDR3を含む可変ドメインを含む抗体又はその機能性部分であって、アミノ酸配列QSISSYを含むLCDR1、アミノ酸配列AASを含むLCDR2、及びアミノ酸配列QQSYSTPを含むLCDR3を含む軽鎖を含む抗体又はその機能性部分を含む組成物であって、前記抗体が、トポテカン、イリノテカン、ギマテカン、カンプトテシン、9-ニトロ-カンプトテシン及びPNU-166148から選択されるヒトトポイソメラーゼI阻害剤と共に、同時に、別々に又は連続投与され、前記癌がEGFR及び/又はLGR5を発現する、組成物。
【請求項18】
対象における癌の治療のための薬剤の製造に使用するための、EGFRの細胞外部分に結合する、配列番号17を有するCDR1、配列番号19を有するCDR2、及び配列番号21を有するCDR3を含む可変ドメイン、並びにLGR5の細胞外部分に結合する、配列番号69を有するCDR1、配列番号71を有するCDR2、及び配列番号73を有するCDR3を含む可変ドメインを含む抗体又はその機能性部分であって、アミノ酸配列QSISSYを含むLCDR1、アミノ酸配列AASを含むLCDR2、及びアミノ酸配列QQSYSTPを含むLCDR3を含む軽鎖を含む抗体又はその機能性部分を含む組成物であって、前記癌がEGFR及び/又はLGR5を発現し、前記抗体が、トポテカン、イリノテカン、ギマテカン、カンプトテシン、9-ニトロ-カンプトテシン及びPNU-166148から選択されるヒトトポイソメラーゼI阻害剤と共に、同時に、別々に又は連続投与される、組成物。
【請求項19】
結腸直腸癌、肺癌、胃腸癌、又は卵巣癌の治療のための、請求項18に記載の組成物。
【請求項20】
結腸直腸癌の治療のための、請求項19に記載の組成物。
【請求項21】
トポテカン、イリノテカン、ギマテカン、カンプトテシン、9-ニトロ-カンプトテシン及びPNU-166148から選択されるヒトトポイソメラーゼI阻害剤と組み合わせて使用するための、癌を治療するための組成物であって、
EGFRの細胞外部分に結合する、配列番号17を有するCDR1、配列番号19を有するCDR2、及び配列番号21を有するCDR3を含む可変ドメイン、並びにLGR5の細胞外部分に結合する、配列番号69を有するCDR1、配列番号71を有するCDR2、及び配列番号73を有するCDR3を含む可変ドメインを含む抗体又はその機能性部分であって、アミノ酸配列QSISSYを含むLCDR1、アミノ酸配列AASを含むLCDR2、及びアミノ酸配列QQSYSTPを含むLCDR3を含む軽鎖を含む抗体又はその機能性部分を含み、前記癌がEGFR及び/又はLGR5を発現する、組成物。
【請求項22】
抗体またはその機能性部分を含む組成物が、ヒトトポイソメラーゼI阻害剤と同時に、別々に又は連続投与されるためのものである、請求項21に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、癌の治療に関する手段及び方法に関する。本発明は特に、LGR5及びEGFRに結合する抗体とトポイソメラーゼ阻害剤との組合せで、対象の癌を治療する方法に関する。本発明は更に、かかる方法で使用するための組合せ、及び胃腸癌の治療のための薬剤を製造するのに使用するための組合せに関する。
【背景技術】
【0002】
結腸直腸癌(CRC)は、世界で3番目に一般的な癌である。CRCに関していくつかの新規治療が進歩している一方、その多くは臨床試験に失敗しており、転移性CRCは依然としてほとんどが不治である。クリニックでの進行性CRC向けの現状での標準治療としては、癌細胞の本質的な機能を遮断し、分裂細胞を死滅させる化学療法レジメンが挙げられる。
【0003】
蓄積された証拠は、治療により誘発された寛解後の癌増大及び再生が、化学療法治療を回避する癌幹細胞の集団により引き起こされることを示唆している。理論に拘束されるものではないが、これらの幹細胞の維持はWNTシグナル伝達回路により調節されると考えられている。
【0004】
理論に拘束されるものではないが、癌細胞の増殖及びアポトーシス回避を増強させる原因であると考えられているCRCにおける第2の発癌性経路は、EGFR(上皮成長因子受容体)経路である。複数の抗EGFR薬は、転移性CRC(mCRC)の標的治療について、ある特定レベルの有効性を実証した。しかしながら、CRCの不均一性が要因となり、下流KRAS遺伝子における発癌性変異は抗EGFR治療に対する抵抗性を与え(全mCRC患者のうち約40%)、野生型KRASを有する患者の半数は、抗EGFR治療に対する生得的な抵抗性を有し、抗EGFR治療に対して感受性がある癌の患者の大半は、後に耐性癌を示す。
【0005】
Merus社のBiclonics(登録商標)抗体プログラムでは、WNTシグナル伝達経路における幹細胞マーカである、EGFR及びLGR5(ロイシンリッチリピート含有Gタンパク質共役受容体)を標的とする多重特異性抗体を開発した。このような多重特異性抗体の有効性は、患者由来CRCオルガノイドモデル及びマウスPDXモデルを使用し、インビトロ及びインビボでそれぞれ評価された。EGFR及びLGR5を標的とする多重特異性抗体は、腫瘍増大を阻害することが示された。このような阻害抗体の効力は、癌由来の細胞により、LGR5のRNA発現レベルと相関することが示された。
【0006】
本発明は、トポイソメラーゼI阻害剤と組み合わせられ、EGFR及びLGR5を標的とする多重特異性抗体の投与を含む併用療法が、多重特異性抗体又はトポイソメラーゼ抗体の効果を別々に比較した場合、驚くほど有効であることを示す。こうした併用療法は、CRC患者では治療により誘発された寛解後の腫瘍転移及び/又は腫瘍の再生を阻害し、より長期の寛解を達成することができる。
【発明の概要】
【0007】
本発明は、癌の治療に使用するための、EGFRの細胞外部分に結合する可変ドメイン及びLGR5の細胞外部分に結合する可変ドメインを含む抗体又はその機能性部分、誘導体及び/若しくはアナログを提供し、こうした抗体又はその機能性部分、誘導体及び/若しくはアナログは、トポイソメラーゼI阻害剤と共に投与される。癌は、好ましくは結腸直腸癌、肺癌、胃腸癌又は卵巣癌であり、好ましくは結腸直腸癌である。抗体又はその機能性部分、誘導体及び/若しくはアナログ並びにトポイソメラーゼI阻害剤は、好ましくは対象に同時に投与される。
【0008】
一態様では、抗体又はその機能性部分、誘導体及び/若しくはアナログは、トポイソメラーゼI阻害剤に先立って対象に投与される。
【0009】
EGFRの細胞外部分に結合する可変ドメインは、図8に表されるVH鎖MF3755のアミノ酸配列を含んでもよく、又は最大15個、好ましくは多くて10個、9個、8個、7個、6個、5個、4個、3個、2個、1個、好ましくは多くて5個、4個、3個、2個、1個のアミノ酸修飾を有する、図8に表されるVH鎖MF3755のアミノ酸配列を含んでもよい。このアミノ酸修飾は、当該VHに対する挿入、欠失、置換、又はこれらの組合せを含む。LGR5の細胞外部分に結合する可変ドメインは、図8に表されるVH鎖MF5816のアミノ酸配列を含んでもよく、又は最大15個、好ましくは多くて10個、9個、8個、7個、6個、5個、4個、3個、2個、1個、好ましくは多くて5個、4個、3個、2個、1個のアミノ酸修飾を有する、図8に表されるVH鎖MF5816のアミノ酸配列を含んでもよい。このアミノ酸修飾は、当該VHに対する挿入、欠失、置換、又はこれらの組合せを含む。抗体は好ましくは、両方の当該可変ドメインを含む。
【0010】
LGR5に結合する可変ドメインは好ましくは、図1に表されるヒトLGR5配列のアミノ酸残基21~118内に位置しているエピトープに結合する。一実施形態では、ヒトLGR5の43位、44位、46位、67位、90位及び91位のアミノ酸残基は、LGR5への提供されたLGR5結合可変ドメインの結合に関与する。LGR5結合可変ドメインは好ましくは、43A、44A、46A、67A、90A及び91Aから選択されるアミノ酸残基変異のうち1つ以上を含むLGR5タンパク質に少量結合する。
【0011】
EGFRに結合する可変ドメインは好ましくは、図2に表されるヒトEGFR配列のアミノ酸残基420~480内に位置しているエピトープに結合する。一実施形態では、ヒトEGFRのI462位、G465位、K489位、I491位、N493位及びC499位のアミノ酸残基は、EGFRへの提供されたEGFR結合可変ドメインに関与する。EGFR結合可変ドメインは好ましくは、I462A、G465A、K489A、I491A、N493A及びC499Aから選択されるアミノ酸残基置換のうち1つ以上を含むEGFRタンパク質に少量結合する。
【0012】
本明細書に記載の、提供される抗体又はその機能性部分、誘導体及び/若しくはアナログは、好ましくは、本発明では上で説明されるようなエピトープ結合特性を有するLGR5結合可変ドメインと、本明細書上記のエピトープ結合特性を有するEGFR結合可変ドメインとの両方を含む。
【0013】
一実施形態では、トポイソメラーゼI阻害剤は、カンプトテシン又はその誘導体である。別の好ましい実施形態では、トポイソメラーゼI阻害剤はイリノテカン又はトポテカンである。
【0014】
抗体は、好ましくはADCC誘導抗体である。一実施形態では、抗体は、ADCC増強抗体である。一実施形態では、抗体はアフコシル化されている。
【0015】
本発明はまた、細胞の増殖を許容する系でEGFR及びLGR5を発現する細胞の増殖を阻害するための方法を提供する。この方法は、トポイソメラーゼI阻害剤、並びにEGFRの細胞外部分に結合する可変ドメイン及びLGR5の細胞外部分に結合する可変ドメインを含む、抗体又はその機能性部分、誘導体及び/若しくはアナログを有する系を提供することを含む。
【0016】
トポイソメラーゼI阻害剤、並びにEGFRの細胞外部分に結合する可変ドメイン及びLGR5の細胞外部分に結合する可変ドメインを含む抗体又はその機能性部分、誘導体及び/若しくはアナログを、その必要がある対象に同時に又は連続投与することを含む、対象における癌の治療方法が更に提供される。
【0017】
癌は、好ましくは結腸直腸癌、肺癌、胃腸癌又は卵巣癌である。好ましい実施形態では、癌は結腸直腸癌である。
【0018】
本発明はまた、EGFRの細胞外部分に結合する可変ドメイン、及びLGR5の細胞外部分に結合する可変ドメインを含む抗体又はその機能性部分、誘導体及び/若しくはアナログ、並びにトポイソメラーゼI阻害剤を含む医薬組成物を提供する。抗体又はその機能性部分、誘導体及び/若しくはアナログ、並びにトポイソメラーゼI阻害剤は、単剤で提供されることができる。抗体又はその機能性部分、誘導体及び/若しくはアナログ、並びにトポイソメラーゼI阻害剤はまた、別個の製剤で提供されることができる。別個の製剤で提供される場合、両方の薬剤は同時に又は連続投与されることができる。
【0019】
EGFRの細胞外部分に結合する可変ドメイン、及びLGR5の細胞外部分に結合する可変ドメインを含む、抗体又はその機能性部分、誘導体及び/若しくはアナログ;トポイソメラーゼI阻害剤、並びに本明細書に記載の治療で抗体及びトポイソメラーゼI阻害剤を使用するための指示を含むキットが更に提供される。
【0020】
対象における胃腸癌の治療に使用するための、EGFRの細胞外部分に結合する可変ドメイン、及びLGR5の細胞外部分に結合する可変ドメインを含む抗体又はその機能性部分、誘導体及び/若しくはアナログが更に提供される。抗体は、トポイソメラーゼI阻害剤と共に、同時に、別々に又は連続投与される。
【0021】
一態様では、本発明は、対象における癌の治療のための薬剤の製造に使用するための、EGFRの細胞外部分に結合する可変ドメイン及びLGR5の細胞外部分に結合する可変ドメインを含む抗体又はその機能性部分、誘導体及び/若しくはアナログを提供し、抗体は、トポイソメラーゼI阻害剤と共に、同時に、別々に又は連続投与される。治療は、好ましくは結腸直腸癌、肺癌、胃腸癌又は卵巣癌に対するものであり、好ましくは結腸直腸癌に対するものである。
【0022】
対象における胃腸癌の治療では、同時に、別々に、又は連続使用するための組み合わせられた製剤として、EGFRの細胞外部分に結合する可変ドメイン、及びLGR5の細胞外部分に結合する可変ドメインを含む抗体又はその機能性部分、誘導体及び/若しくはアナログ、並びにトポイソメラーゼI阻害剤を含む製品もまた、本明細書にて提供される。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本明細書をより容易に理解できるようにするために、特定の用語が最初に定義される。詳細な説明を通して、追加の定義が記載される。特に明記しない限り、本明細書で使用される全ての技術用語及び科学用語は、当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有し、免疫学、タンパク質化学、生化学、組換えDNA技術及び薬理学の従来の方法が採用される。
【0024】
本明細書で使用される場合、単数形「a」、「an」、及び「the」は、文脈がそうでない旨を明確に指示しない限り、複数の指示対象を含む。用語「含む(including)」、並びに「含む(include)」、「含む(includes)」、及び「含まれる(included)」などの他の形態の使用は、限定的ではない。
【0025】
本明細書で使用される場合、用語「抗体」は、抗原上のエピトープに結合する1つ以上のドメインを含有するタンパク質の免疫グロブリンクラスに属するタンパク質分子を意味し、このようなドメインは、抗体の可変領域に由来するか又は配列相同性を共有する。抗体は、典型的には、基本的な構造単位で構成されており、それぞれに2つの重鎖及び2つの軽鎖を有する。治療用の抗体は、好ましくは、可能な限り治療される対象の天然抗体(例えば、ヒト対象の場合のヒト抗体)に近いものである。本発明による抗体は、いかなる特定のフォーマット又はそれを調製する方法にも限定されない。
【0026】
「二重特異性抗体」は、抗体の1つのドメインが第1の抗原に結合する一方で、抗体の第2のドメインが第2の抗原に結合し、当該第1及び第2の抗原が同一ではない、本明細書に記載の抗体である。用語「二重特異性抗体」はまた、1つの重鎖可変領域/軽鎖可変領域(VH/VL)の組合せが抗原上の第1のエピトープに結合し、第2のVH/VLの組合せが第2のエピトープに結合する抗体を包含する。この用語は更に、VHが、第1の抗原を特異的に認識することができ、免疫グロブリン可変領域においてVHと対合しているVLが、第2の抗原を特異的に認識することができる抗体を含む。得られたVH/VL対は、抗原1又は抗原2のいずれかに結合する。このようないわゆる「ツーインワン抗体」は、例えば、国際公開第2008/027236号、同第2010/108127号、及びSchaefer et al(Cancer Cell 20,472-486、October 2011)に記載されている。本発明による二重特異性抗体は、いかなる特定の二重特異性フォーマット又はそれを生成する方法にも限定されない。
【0027】
本明細書で使用される「共通軽鎖」という用語は、二重特異性抗体における2つの軽鎖(又はそのVL部分)を指す。完全長抗体の結合特異性は影響を受けないが、2つの軽鎖(又はそのVL部分)は、同一であってもよく、いくつかのアミノ酸配列の違いを有してもよい。「再構成された」という用語の追加の有無にかかわらず、「共通軽鎖」、「共通VL」、「単一軽鎖」、「単一VL」という用語は、全て本明細書で互換的に使用される。「共通」とは、アミノ酸配列が同一ではない軽鎖の機能的等価物を指す。当該軽鎖の多くの変異体が存在し、機能的結合領域の形成に影響を与えない変異(欠失、置換、挿入及び/又は付加)が存在する。本発明の軽鎖はまた、0から10個、好ましくは、0から5個のアミノ酸挿入、欠失、置換、付加又はそれらの組合せを有する、本明細書で指定される軽鎖であり得る。例えば、保存的アミノ酸の変化、重鎖と対合するときに結合特異性に寄与しない又は部分的にのみ寄与する領域におけるアミノ酸の変化などを導入し試験することによって、同一ではないが依然として機能的に同等である軽鎖を調製又は見出すことは、本明細書に使用される共通軽鎖の定義の範囲内である。本発明による「完全長IgG」又は「完全長抗体」という用語は、本質的に完全なIgGを含むものとして定義されるが、必ずしも完全なIgGの全ての機能を有するわけではない。誤解を避けるために、完全長IgGは、2つの重鎖及び2つの軽鎖を含む。各鎖は、定常(C)領域及び可変(V)領域を含有し、これはCH1、CH2、CH3、VH及びCL、VLと表示されるドメインに分解することができる。IgG抗体は、Fab部分に含まれる可変領域ドメインを介して抗原に結合し、結合後、定常ドメイン、主にFc部分を介して免疫系の分子及び細胞と相互作用することができる。本発明による完全長抗体は、所望の特性を提供する変異が存在し得るIgG分子を包含する。完全長IgGは、領域のうちのいずれの実質的な部分の欠失も有さない必要がある。しかしながら、得られるIgG分子の結合特性を本質的に変えることなく、1つ又はいくつかのアミノ酸残基が欠失しているIgG分子は、用語「完全長IgG」に含まれる。例えば、かかるIgG分子は、好ましくは非CDR領域では、1~10アミノ酸残基の欠失を有することができ、欠失したアミノ酸は、IgGの抗原結合特異性にとっては必須ではない。
【0028】
本明細書において、核酸又はアミノ酸配列について言及する場合、「パーセント(%)同一性」は、最適な比較目的のために配列をアラインメントした後、選択された配列中の残基と同一である候補配列中の残基の百分率として定義される。核酸配列を比較するパーセント配列同一性は、デフォルト設定を使用してVector NTI Advance(登録商標) 11.5.2ソフトウェアのAlignXアプリケーションを使用して求められる。この設定には、変更されたClustalWアルゴリズム(Thompson,J.D.,Higgins,D.G.,and Gibson T.J.,(1994)Nuc.Acid Res.22(22):4673~4680)、swgapdnamtスコアマトリックス、15のギャップオープンペナルティ、及び6.66のギャップエクステンションペナルティを用いる。アミノ酸配列は、デフォルト設定を使用してVector NTI Advance(登録商標) 11.5.2ソフトウェアのAlignXアプリケーションにより整列される。この設定には、変更されたClustalWアルゴリズム(Thompson,J.D.,Higgins,D.G.,and Gibson T.J.,(1994)Nuc.Acid Res.22(22):4673~4680)、blosum62mt2スコアマトリックス、10のギャップオープンペナルティ、及び0.1のギャップエクステンションペナルティを用いる。
【0029】
抗体は、典型的には、抗原のエピトープを認識し、かかるエピトープは他の化合物にも存在し得るので、抗原、例えば、EGFR又はLGR5を「特異的に認識する」。本発明による抗体は、他の化合物が同じ種類のエピトープを含む場合、かかる他の化合物を同様に認識し得る。したがって、抗原及び抗体の相互作用に関して「特異的に認識する」という用語は、同じ種類のエピトープを含有する他の化合物への抗体の結合を除外するものではない。
【0030】
「エピトープ」又は「抗原決定基」という用語は、免疫グロブリン又は抗体が特異的に結合する抗原上の部位を指す。エピトープは、タンパク質の3次フォールディング(いわゆる直鎖及び立体配座的エピトープ)によって並置された連続アミノ酸又は非連続アミノ酸の両方から形成することができる。連続的な直鎖アミノ酸から形成されるエピトープは、典型的には、変性溶媒に曝露されて保持される一方で、3次フォールディングにより形成されるエピトープは、立体配座が、典型的には、変性溶媒による処理で失われる。エピトープは、典型的には、固有の空間的立体構造において3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14又は15個のアミノ酸を含んでもよい。エピトープの空間的立体配座を判定する方法は、当業者に知られており、当該技術分野の技術、例えば、エピトープの性質に応じて、X線結晶構造解析、HDX-MS及び2次元核磁気共鳴、ペプスキャン、並びにアラニンスキャンが挙げられる(例えば、Epitope Mapping Protocols in Methods in Molecular Biology、Vol.66、G.E.Morris、Ed.(1996)を参照されたい)。
【0031】
本明細書で使用される場合、「対象」及び「患者」という用語は、同義で用いられ、ヒト、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ、ネコ、イヌ、サル、ウシ、ウマ、ブタなどの哺乳動物(例えば、ヒトの患者など、癌を患っている患者)を指す。
【0032】
本明細書で使用される場合、用語「治療する(treat)」、「治療すること(treating)」、及び「治療(treatment)」という用語は、疾患に関連する症状、合併症、病状又は生化学的兆候の進行、発達、重症度又は再発を、逆転、緩和、回復、阻害、又は減速若しくは予防することを目的とする、実施される任意の種類の介入若しくは処理、又は活性剤若しくは活性剤の組合せを対象に投与することを指す。
【0033】
本明細書で使用される場合、「有効治療」又は「陽性治療反応」は、有益な効果、例えば、癌などの疾患又は障害の少なくとも1つの症状の回復をもたらす治療を指す。有益な効果により、本方法による療法の開始前に行われた測定又は観察を超える改善などの、基準を超える改善された状態を得ることができる。例えば、疾患の臨床的若しくは診断的症状の減少若しくは排除、又は癌のマーカの減少若しくは排除によって証明されるように、有益な効果により、任意の臨床段階での対象における癌の進行を減速、安定化、停止、又は逆転させる状態を得ることができる。有効治療により、例えば、腫瘍サイズを減少、循環腫瘍細胞の存在を減少、腫瘍の転移を低減若しくは防止、腫瘍成長を減速若しくは阻止、及び/又は腫瘍の再発若しくは再燃を防止若しくは遅延させることができる。
【0034】
用語「有効量」又は「治療有効量」は、所望の生物学的、治療的、及び/又は予防的結果を提供する薬剤又は薬剤の組合せの量を指す。その結果は、疾患の1つ以上の兆候、症状、又は原因の低減、回復、緩解、減少、遅延、及び/又は緩和、あるいは生態系における他の所望の変化であり得る。いくつかの実施形態では、有効量は、腫瘍の発生を遅延させるのに十分な量である。いくつかの実施形態では、有効量は、腫瘍再発を予防又は遅らせるのに十分な量である。有効量を1回以上の投与で投与することができる。本薬物又は本組成物の有効量は、(i)癌細胞の数を低減する;(ii)腫瘍のサイズを低減する;(iii)末梢器官への癌細胞浸潤を、ある程度阻害、阻止、減速し、停止させ得る;(iv)腫瘍転移を阻害する;(v)腫瘍成長を阻害する;(vi)腫瘍の発生及び/又は再発を防止又は遅延させる;及び/又は(vii)癌に関連する1つ以上の症状をある程度和らげることができる。一例では、「有効量」は、癌の減少(例えば、癌細胞の数の減少)をもたらし、癌の進行を遅らせる、又は癌の再生若しくは再発を予防するためのEGFR/LGR5抗体及びトポイソメラーゼI阻害剤を組み合わせた状態での量であり、該癌は胃腸癌であり、好ましくは結腸直腸癌である。
【0035】
本発明は、細胞の増大を許容する系でEGFRを発現し、かつLGR5を発現する細胞の増大を阻害するための方法を更に提供する。この方法は、本明細書に記載の抗体及びトポイソメラーゼI阻害剤を有する系を提供することを含む。この系は、好ましくは培養系である。この方法は好ましくは、当該系にて当該細胞を培養することを含む。もし本発明の抗体及び/又はトポイソメラーゼI阻害剤が存在しない以外は同じ条件の下で生じる細胞数又は腫瘍体積/腫瘍サイズと比較した場合、阻害は好ましくは、細胞数、腫瘍体積又は腫瘍サイズでは少なくとも10%の減少である。阻害は、好ましくは、細胞数、腫瘍体積、若しくは腫瘍サイズでは少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、又は少なくとも90%の減少及び/又は無増悪生存期間の増加である。もし本発明の抗体及び/又はトポイソメラーゼI阻害剤の存在しない以外は同じ条件の下で生じる管腔の数と比較した場合、阻害は、例えばオルガノイドあたりの管腔数など、腫瘍悪性度又は形成異常と関連する他のパラメータでは少なくとも10%の減少であり得る。阻害は、好ましくは、オルガノイドあたりの管腔数における少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、又は少なくとも90%の減少及び/又は無増悪生存期間の増加である。
【0036】
誤解を避けるため、本明細書で使用される場合、細胞の増大に対しての言及は、細胞数における変化を指す。増大の阻害は、本発明の抗体及び/又はトポイソメラーゼI阻害剤の存在しない以外は同じ条件の下で得られたであろう、細胞数における低下を指す。増大の増加は、そうでなければ得られたであろう細胞数の増加を指す。細胞の増大は典型的には、細胞の増殖を指す。この低下は、本発明の抗体及び/又はトポイソメラーゼI阻害剤が存在しない同一条件下の場合の同じ細胞の増大/増殖と比較される。
【0037】
本発明はまた、胃腸癌を有し、当該癌を有するリスクにある個体を治療するための方法を提供する。該方法は、本発明の抗体をその必要がある個体に投与することを含む。個体は、好ましくは癌を有する個体である。癌は、好ましくは胃腸癌である。好ましい実施形態では、癌は結腸直腸癌である。
【0038】
本発明はまた、癌、好ましくは胃腸癌を有する、又は当該癌を有するリスクがある個体に発生する転移又は腫瘍再発を予防するための方法を提供する。この方法は、EGFRの細胞外部分に結合する可変ドメイン、及びLGR5の細胞外部分に結合する可変ドメインを含む抗体又はその機能性部分、誘導体及び/若しくはアナログ、並びにトポイソメラーゼI阻害剤をその必要がある個体に投与することを含む。個体は好ましくは、癌を有する個体、又は腫瘍が再発した場合、再発のX線検査診断、若しくは改善期間や奏功期間後の癌の再発の兆候及び症状を有する個体である。癌は、好ましくは胃腸癌である。好ましい実施形態では、癌は結腸直腸癌である。
【0039】
転移の予防は、好ましい実施形態では、肺組織又は肝組織での転移といった、胃腸癌から非胃腸癌への転移の予防である。
【0040】
有効量の併用療法は、本明細書に記載の方法に従って、EGFR/LGR5抗体及びトポイソメラーゼI阻害剤の組合せを指す「有効レジメン」で投与される。この場合、投与の順番、投与される量及び投薬回数は治療を行うにあたって十分なものである。
【0041】
上記のように、CRCなどの癌の種類は、ホスファチジルイノシトール-4,5-ビスリン酸-3-キナーゼ触媒サブユニットα(PIK3CA)又はカーステンラット肉腫(KRAS)をコードする遺伝子中に存在するものなど、発癌性変異の存在に関連し得る。PIK3CA及びKRASの両方における変異は、結腸直腸癌などの癌種類と広く関与している。転移性CRCにおけるKRAS及びPIK3C変異の有病率はそれぞれ、異なる民族集団については20~50%及び最大で14.3%である。一方でPIK3CA C420R変異は、乳癌、結腸直腸癌、食道癌、低悪性度脳グリオーマ、肺扁平上皮癌、子宮体腫瘍、前立腺癌、胃線癌及び卵巣腫瘍を含む少なくとも9種の異なる種類の癌で検出されている(Prevalence of KRAS,BRAF,PI3K and EGFR mutations among Asian patients with metastatic colorectal cancer,Phua et al.,Oncology Letters,10:2519-2526 2014;the AACR Project GENIE Consortium.AACR Project GENIE:powering precision medicine through an international consortium.Cancer Discovery.2017;7(8):818-831.Dataset Version 4;https://www.cancer.gov/research/key-initiatives/ras/ras-central/blog/2017/pik3ca.pdf)。2019年7月までに、Sanger Institute(UK)により管理されているCatalogue Of Somatic Mutations In Cancer(COSMIC)は、変異PIK3C C420R(https://cancer.sanger.ac.uk/cosmic,mutation ID COSM757)を保有する18種類の様々な種類の組織を特徴付けた。PIK3CA C420Rにおける変異では、システインはタンパク質のアミノ酸残基の420位でアルギニンにより置換され、KRAS G12Dでは、12(G)位のグリシン残基は、KRASのアスパラギン酸(D)に変異している。
【0042】
本発明の利点の1つは、LGR5及びEGFRに結合する抗体とトポイソメラーゼI阻害剤との併用治療を受けたKRAS変異及び/又はPIK3CA変異を有する対象は、投与全体を通して有意な体重減少を示さなかった。特に、KRAS G12D及び/又はPIK3CA C420R変異を有する対象は、統計的に有意な体重減少を示さなかった。
【0043】
それゆえ、好ましい実施形態では、本発明は、KRASをコードする遺伝子の変異、好ましくはG12Dを引き起こす変異、及び/又はPIK3CAをコードする遺伝子の変異、好ましくはC420Rを引き起こす変異を有する対象における癌の治療方法に関する。
【0044】
本明細書に記載の治療で使用するための方法又は製品で治療される癌は、好ましくは、乳癌、結腸直腸癌、食道癌、脳グリオーマ、好ましくは低悪性度脳グリオーマ、肺扁平上皮癌、子宮体腫瘍、前立腺癌、胃線癌、又は卵巣腫瘍である。癌は好ましくは、結腸直腸癌、肺癌、胃腸癌(gastrointestional cancer)又は卵巣癌であり、好ましくは結腸直腸癌である。癌は好ましくは、KRASをコードする遺伝子、PIK3CAをコードする遺伝子、又はこれらの組合せの変異を有する。KRAS変異は好ましくは、G12Dアミノ酸置換を引き起こす変異である。PIK3CA変異は好ましくは、C420Rアミノ酸置換を引き起こす変異である。
【0045】
本発明の更なる利点は、KRAS及び/又はPIK3CA変異を有する対象では、具体的にはKRAS G12D及び/又はPIK3CA C420R変異を有する対象では、LGR5及びEGFRに結合する抗体とトポイソメラーゼI阻害剤との併用治療の毒性の兆候は明白に見られなかったと記録されたことである。
【0046】
本明細書で使用される場合、「シナジー」、「治療的相乗効果」、及び「相乗効果」という用語は、治療薬の組合せ(例えば、トポイソメラーゼI阻害剤と組み合わせられたEGFR/LGR5抗体)を用いた患者の治療が、組合せの各成分を単独で使用した場合に達成される結果よりも、治療的に優れた結果を呈する現象を指す(例えば、T.H.Corbettら、1982、Cancer Treatment Reports、66、1187を参照されたい)。これに関連して、治療的に優れた結果には、以下のうちの1つ以上が含まれる。(a)本組合せと同じ用量での、各薬剤単独の別々の効果のいずれか、又はその両方よりも大きく治療応答が増大すること;(b)治療有効性の減少を伴わないで、本組合せにおける1つ以上の薬剤の用量が低減されること;(c)本組合せと同じ用量での、各薬剤の単剤療法以上の治療効果を得つつ、有害事象の発生率が低下すること;(d)各薬剤の単剤療法よりも大きな治療効果を得つつ、用量制限毒性が低減されること;(e)薬物耐性の誘導が遅延又は最小化されること。異種移植モデルでは、その各構成要素が一般にその個々の最大耐量を超えない用量で存在する最大耐量で使用される組合せは、その組合せの投与によって達成される腫瘍成長の減少が、最良の構成要素が単独で投与された場合のその構成要素の腫瘍成長の減少の値よりも大きい場合に、治療的相乗効果が証明される。薬物の組合せの相乗作用は、例えば、Chou-Talalayの組合せ指数(CI)定理に従って決定することができる(Chouら、Adv.Enzyme Regul.1984;22:27-55;Chou,Cancer Res.2010;70(2):440-446)。
【0047】
「再発(relapse)」又は「再発(recurrence)」又は「再生(resurgence)」は、本明細書で互換的に使用され、再発のX線検査診断、又は改善期間や奏功期間後の癌の再発の兆候及び症状を指す。
【0048】
トポイソメラーゼ阻害剤は、トポイソメラーゼ(トポイソメラーゼI及びトポイソメラーゼII)の作用を遮断する化合物である。トポイソメラーゼは、正常な細胞周期中に、DNA鎖のホスホジエステル骨格の切断を触媒及び再結合することにより、DNA構造における変化を制御する種類の酵素である。
【0049】
ヒトトポイソメラーゼは、癌の化学療法治療のための標的となる。理論に拘束されるものではないが、トポイソメラーゼ阻害剤は、細胞のゲノムの安定性に影響する、細胞のゲノムにおける一本鎖及び二本鎖切断を生成すると考えられている。こうした切断の導入により、アポトーシス及び細胞死がもたらされ得る。
【0050】
本発明では、ヒトトポイソメラーゼ阻害剤は好ましくは、ヒトトポイソメラーゼIの阻害剤である。こうしたトポイソメラーゼ阻害剤の非限定的な例は、カンプトテシン(CPT)である。CPTは、抗癌特性を有することが以前から知られている。CPTは、相対的に低い溶解度を有する。より良好な活性が備わっているCPTの誘導体。CPT誘導体/アナログは承認されており、今日、癌の化学療法に使用されている。ヒトにおける好適なトポイソメラーゼI阻害剤の例は、カンプトテシン、トポテカン、ラメラリンD及びイリノテカンである。一実施形態では本明細書で使用される場合、「トポイソメラーゼI阻害剤」としては、トポテカン、イリノテカン、ギマテカン、カンプトテシン及びそのアナログ、9-ニトロ-カンプトテシン及び高分子カンプトテシンコンジュゲートであるPNU-166148(国際公開第99/17804号における化合物A1)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0051】
イリノテカン(CPT-11)はカンプトテシンの半合成誘導体であり、結腸直腸癌、肺癌、胃癌及び卵巣癌を含む様々な固形腫瘍に対して活性であるトポイソメラーゼI阻害剤である。イリノテカンはプロドラッグであり、肝カルボキシルエステラーゼにより加水分解され、活性代謝生成物SN-38を産生する。SN-38は、肝臓のUDPグルクロノシルトランスフェラーゼファミリー1のメンバーA1クラスタ(UGTA1)酵素に依存するグルクロン酸抱合により除去される。遺伝子型UGT1A128は、SN-38グルクロン酸抱合の減少と関連することが見出されている。北米地域のアメリカ人のおよそ10%は、UGT1A128対立遺伝子の2つのコピー(ホモ接合性、UGT1A128/28)を保有し、以下の好中球減少後のイリノテカン療法(Dean L.Irinotecan Therapy and UGT1A1 Genotype.2015[Updated 2018 Apr 4].In:Pratt V,McLeod H,Rubinstein W,et al.,editors.Medical Genetics Summaries[Internet].Bethesda(MD):National Center for Biotechnology Information(US);2012;https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK294473/から入手可能)。対象は、1つ以上のUGT1A128対立遺伝子の存在についてスクリーニングされ得る。好ましくは、イリノテカンを投与されている対象は、1つ以上のUGT1A128対立遺伝子を保有せず、より好ましくは、当該対象はUGT1A128対立遺伝子についてホモ接合性ではない。
【0052】
イリノテカン及び他のヒトトポイソメラーゼ阻害剤は、非常に長い間クリニックにて使用されており、当業者は適切な投与情報を入手可能である。例えば、イリノテカンは週に1度、隔週、3週間ごとに70~350mg/mで投与され得る。他のレジメンは、3週間ごとにその1日目と8日目に、120~150mg/mを提供する。更に他のスケジュールとしては、4週間で125mg/m、それに続いての2週間間隔が含まれる。3週間ごとにその1日目~5日目で50mg/m、及び1週間、2週間、4週間及び5週間の1日目~5日目で20mg/m。本明細書で示される投与は、指示された時点あたりの対象の体表面積(m)ごとの量(mg)を指す。
【0053】
本明細書に記載の抗体又はその機能性部分、誘導体及び/若しくはアナログは、上皮成長因子(EGF)受容体の細胞外部分に結合する可変ドメイン、及びLGR5に結合する可変ドメインを含む。EGFRは、好ましくはヒトEGFRである。LGR5は、好ましくはヒトLGR5である。本明細書に記載の抗体又はその機能性部分、誘導体及び/若しくはアナログは、ヒト上皮成長因子(EGF)受容体の細胞外部分に結合する可変ドメイン、及びヒトLGR5に結合する可変ドメインを含む。
【0054】
上皮成長因子(EGF)受容体(EGFR、ErbB1、又はHER1)は、Her-、又はcErbB-1、cErbB-2、cErbB-3と命名されている、4つの受容体チロシンキナーゼ(RTK)のファミリーのメンバーである。EGFRは、様々な同義語で知られており、その最も一般的なものがEGFRである。EGFRは、4つのサブドメインから構成される細胞外ドメイン(extracellular domain、ECD)を有し、これらのドメインのうちの2つは、リガンド結合に関与し、そのうちの2つは、ホモ二量体化及びヘテロ二量体化に関与する。EGFRは、多様な細胞内応答を得るために、様々なリガンドからの細胞外シグナルを統合する。EGFRにより活性化される主要シグナル伝達経路は、Rasマイトジェン活性化タンパク質キナーゼ(mitogen-activated protein kinase、MAPK)有糸分裂シグナル伝達カスケードから構成される。この経路の活性化は、Grb2のチロシンリン酸化EGFRへの動員によって開始される。これは、Grb2結合Rasグアニンヌクレオチド交換因子Son of Sevenless(SOS)を介してRasの活性化をもたらす。加えて、PI3-キナーゼ-Aktシグナル伝達経路はまた、EGFRによって活性化されるが、この活性化は、ErbB-3(HER3)の共発現が存在する場合にははるかに強力である。EGFRは、いくつかのヒト上皮悪性腫瘍、特に乳房、膀胱、非小細胞肺癌肺、結腸、卵巣、頭頸部、及び脳の癌に関与している。この遺伝子における活性化突然変異、並びに受容体及びそのリガンドの過剰発現が見出されており、自己分泌活性化ループが生じる。したがって、このRTKは、癌療法の標的として広く使用されている。細胞外リガンド結合ドメインに指向されたRTK及びモノクローナル抗体(monoclonal antibody、mAb)を標的とする小分子阻害剤の両方が開発されてきたが、これは、今までのところは、ほとんどが患者の選択群に関してだが、いくつかの臨床的成功を示している。ヒトEGFRタンパク質及びそれをコードする遺伝子についてのデータベース登録番号は、GenBank NM_005228.3である。この登録番号は、主に、EGFRタンパク質を標的として同定する更なる方法を提供するために与えられ、抗体によって結合されたEGFRタンパク質の実際の配列は、例えば、いくつかの癌などで生じるものなどのコード遺伝子における変異のために変化し得る。特段明記しない限り、用語癌及び腫瘍が本明細書にて使用され、典型的にはどちらも癌を指す。
【0055】
本明細書において、EGFRに言及される場合、特に明記しない限り、ヒトEGFRを指す。EGFRに結合する可変ドメイン抗原結合部位は、EGFR及びいくつかのEGFR陽性腫瘍で発現されたものなどの様々な変異体に結合する。
【0056】
用語「LGR」は、ロイシンリッチリピート含有Gタンパク質共役受容体として知られているタンパク質のファミリーを指す。ファミリーのうち複数のメンバーは、WNTシグナル伝達経路に関与することで知られており、著名なものとしてはLGR4;LGR5及びLGR6である。
【0057】
LGR5は、ロイシンリッチリピート含有Gタンパク質共役受容体5である。この遺伝子又はタンパク質の代替名は、ロイシンリッチリピート含有Gタンパク質共役受容体5;ロイシンリッチリピート含有Gタンパク質共役受容体5;Gタンパク質共役受容体HG38;Gタンパク質共役受容体49;Gタンパク質共役受容体67;GPR67;GPR49;オーファンGタンパク質共役受容体HG38、Gタンパク質共役受容体49;GPR49;HG38、及びFEXである。LGR5に結合する本発明のタンパク質又は抗体は、ヒトLGR5に結合する。本発明のLGR5結合タンパク質又は抗体は、ヒトと他の哺乳類のオルソログとの間の配列及び3次構造類似性に起因して、このようなオルソログにも結合するが、必ずしもそうではなくてもよい。ヒトLGR5タンパク質及びそれをコードする遺伝子に対するデータベース受託番号は、(NC_000012.12;NT_029419.13;NC_018923.2;NP_001264155.1;NP_001264156.1;NP_003658.1)である。この登録番号は、主に、LGR5を標的として同定する更なる方法を提供するために与えられ、結合されたLGR5タンパク質の実際の配列は、例えば、いくつかの癌などで生じるものなどのコード遺伝子における変異のために変化し得る。LGR5抗原結合部位は、LGR5及びいくつかのLGR5陽性腫瘍細胞によって発現されるものなどの様々なその変異体に結合する。
【0058】
本発明に関連して、細胞がLGR5をコードする検出可能なRNAを含む場合には、LGR5を発現すると言われている。発現は多くの場合、LGR5に結合する抗体で細胞をインキュベートすることでも検出され得る。ただし、いくつかの細胞は、かかるLGR5抗体試験について十分高いタンパク質を発現することがない。こうした場合には、mRNA又は他の形態の核酸配列検出が好ましい。
【0059】
本明細書にて受託番号又はタンパク質/遺伝子の代替名が与えられる場合、これらは主に、標的として言及されたタンパク質を同定する更なる方法を提供するために与えられるものであり、本発明の抗体に結合した標的タンパク質の実際の配列は、例えば、いくつかの癌などでは生じるものなど、コード遺伝子での変異及び/又は代替的なスプライシングを理由として変動し得る。標的タンパク質は、エピトープがタンパク質中に存在し、エピトープが抗体にアクセス可能である限り、抗体により結合される。
【0060】
本明細書に記載の抗体又はその機能性部分、誘導体、及び/若しくはアナログは、好ましくはEGFRのリガンドのEGFRへの結合を妨害する。本明細書で使用される場合、用語「結合を妨害する」は、抗体又はその機能性部分、誘導体及び/若しくはアナログのEGFRへの結合が、EGF受容体に結合させるためのリガンドと競合することを意味する。抗体又はその機能性部分、誘導体、及び/若しくはアナログは、リガンド結合を減少させ、EGF受容体に既に結合されている場合にはリガンドを置換し、又はこれは例えば立体障害により、リガンドがEGF受容体に結合し得るのを少なくとも部分的に妨害し得る。
【0061】
本発明のEGFR抗体は好ましくは、BxPC3細胞(ATCC CRL-1687)若しくはBxPC3-luc2細胞(Perkin Elmer 125058)のリガンド誘発性増殖として計測されるEGFRリガンド誘発性シグナル伝達、又はA431細胞(ATCC CRL-1555)のリガンド誘発性細胞死をそれぞれ阻害する。言及されたEGFR抗体は、当該技術分野にて公知のアッセイにて測定されるような中性物質又は負の対照が存在する場合のリガンド誘発効果と比較すると、少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、好ましくは40%、45%、50%、55%、60%、より好ましくは70%、80%、85%、最も好ましくは90%、95%、99%、又は100%、リガンド誘発性シグナル伝達を減少させ得る。EGFRは、多数のリガンドと結合し、言及されたBxPC3細胞又はBxPC3-luc2細胞の増大を刺激することができる。EGFRリガンドが存在する場合、BxPC3細胞又はBxPC3-luc2細胞の増大は刺激される。BxPC3細胞のEGFRリガンド誘発性増殖は、リガンドが存在する場合及び存在しない場合における細胞の増大を比較することにより測定され得る。BxPC3細胞又はBxPC3-luc2細胞のEGFRリガンド誘発性増殖を測定するための好ましいEGFRリガンドは、EGFである。リガンド誘発性増殖は好ましくは、飽和量のリガンドを使用して測定される。好ましい実施形態では、EGFは、100ng/mLの量の培地で使用される。EGFは好ましくは、R&D systemsのカタログ番号396-HB及び236-EGのEGFである(国際公開第2017/069628号もまた参照されたい。これは、参照により本明細書に組み込まれる)。
【0062】
本発明のEGFR抗体は好ましくは、BxPC3細胞(ATCC CRL-1687)又はBxPC3-luc2細胞(Perkin Elmer 125058)のEGFRリガンド誘発性増殖を阻害する。言及されたEGFR抗体は、当該技術分野にて公知のアッセイにて測定されるような中性物質又は負の対照により誘発されるリガンド誘発性増殖と比較すると、少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、好ましくは40%、45%、50%、55%、60%、より好ましくは70%、80%、85%、最も好ましくは90%、95%、99%、又は100%、リガンド誘発性増殖シグナル伝達を減少させ得る。EGFRは、多数のリガンドと結合し、言及されたBxPC3細胞又はBxPC3-luc2細胞の増大を刺激することができる。リガンドが存在する場合、BxPC3細胞又はBxPC3-luc2細胞の増大は刺激される。BxPC3細胞のEGFRリガンド誘発性増殖は、リガンドが存在する場合及び存在しない場合における細胞の増大を比較することにより測定され得る。BxPC3細胞又はBxPC3-luc2細胞のEGFRリガンド誘発性増殖を測定するための好ましいEGFRリガンドは、EGFである。リガンド誘発性増殖は好ましくは、飽和量のリガンドを使用して測定される。好ましい実施形態では、EGFは、100ng/mLの量の培地で使用される。EGFは好ましくは、R&D systemsのEGF(カタログ番号396-HB及び236-EG)である(国際公開第2017/069628号もまた参照されたい。これは、参照により本明細書に組み込まれる)。
【0063】
本発明の抗体が多重特異性フォーマットでシグナル伝達又は増大を阻害するかどうかは、好ましくは、抗体の単一特異性一価バージョン又は単一特異性二価バージョンを使用する本明細書上記の方法により決定される。こうした抗体は好ましくは、シグナル伝達を決定しようとする受容体の結合部位を有する。単一特異性一価抗体は、破傷風トキソイド特異性など、無関係の結合特異性を有する可変ドメインを有し得る。好ましい抗体は二価の単一特異性抗体であり、抗原結合可変ドメインは、EGF受容体ファミリーのメンバーに結合する可変ドメインからなる。
【0064】
本明細書に記載の抗体又はその機能性部分、誘導体及び/若しくはアナログは、LGR5の細胞外部分に結合する可変ドメインを含む。
【0065】
LGR5の細胞外部分に結合する可変ドメインは、好ましくは、アミノ酸残基D43、G44、M46、F67、R90、及びF91がエピトープへの抗体の結合に関与する図1の配列のアミノ酸残基21~118内部に位置しているエピトープに結合する。
【0066】
LGR5可変ドメインは、好ましくは、D43A、G44A、M46A、F67A、R90A、及びF91AといったLGR5中のアミノ酸残基置換のうち1つ以上が、LGR5への可変ドメインの結合を低減する、可変ドメインである。
【0067】
LGR5の細胞外部分上のエピトープは、好ましくは図1の配列のアミノ酸残基21~118内部に位置する。これは好ましくは、LGR5中の以下のアミノ酸残基置換D43A、G44A、M46A、F67A、R90A、及びF91Aのうち1つ以上がLGR5へのLGR5可変ドメインの結合を低減する、エピトープである。
【0068】
本発明は、EGFRの細胞外部分に結合する可変ドメイン及びLGR5の細胞外部分に結合する可変ドメインを有する抗体を更に提供する。LGR5可変ドメインは、図1の配列のアミノ酸残基21~118内部に位置するLGR5上のエピトープに結合する。
【0069】
LGR5上のエピトープは、好ましくは立体配座エピトープである。このエピトープは、好ましくは図1の配列のアミノ酸残基40~95内部に位置する。抗体のLGR5への結合は、好ましくは、以下のアミノ酸残基置換D43A、G44A、M46A、F67A、R90A、及びF91Aのうち1つ以上を用いて低減される。
【0070】
理論に拘束されるものではないが、図1に表されるLGR5のM46、F67、R90、及びF91は、本明細書上にて示される可変ドメインの接触残基、すなわち、LGR5エピトープに結合する可変ドメインの抗原結合部位であると考えられている。アミノ酸残基置換D43A及びG44Aは、抗体の結合を低減するが、これはこれらの置換が接触残基でもあるという事実が要因であり得る。ただし、これらのアミノ酸残基置換は、1つ以上の他の接触残基(すなわち、46位、67位、90位又は91位にて)を有するLGR5の部分の立体配座の(わずかな)修飾を誘発させ、立体配座の変更が抗体結合を低減させるほど大きい可能性もまた存在する。エピトープは言及されたアミノ酸置換により特徴付けられる。抗体が同じエピトープに結合するかどうかは、様々な方法で決定され得る。実施例では好ましい方法が記載される。この方法はCHO細胞を利用する。CHO細胞は、細胞膜上、又は好ましくは、置換M46A、F67A、R90A、又はF91Aのうち1つ以上を含む変異体である、アラニン置換変異体上でLGR5を発現する。試験抗体をCHO細胞と接触させ、細胞への抗体の結合を比較する。試験抗体は、LGR5に結合し、M46A、F67A、R90A、又はF91A置換を有するLGR5への結合程度が低い場合には、エピトープに結合する。それぞれ1個のアラニン残基置換を含む変異体のパネルを用いて結合を比較するのが好ましい。これらの結合に関する研究は当該技術分野では周知である。多くの場合、パネルは基本的に全てのアミノ酸残基を網羅する単独のアラニン置換変異体を含む。LGR5については、パネルは、細胞が使用される場合、タンパク質の細胞外部分及び当然ながら細胞が使用される場合には細胞膜との会合を保証する部分を覆う必要のみが存在する。特定の変異体の発現は損なわれ得るが、これは異なる1箇所以上の領域に結合する1つ以上のLGR5抗体により容易に検出される。これらの対照抗体について発現もまた低減される場合には、この特定の変異体について、膜上におけるタンパク質レベル又はそのフォールディングは損なわれる。パネルへの試験抗体の結合特性は、この試験抗体がM46A、F67A、R90A又はF91A置換を有する変異体に対する結合の低減を呈示するかどうか、それゆえに試験抗体は本発明の抗体であるかどうかを容易に同定する。M46A、F67A、R90A又はF91A置換を有する変異体に対する結合の低減はまた、図1の配列のアミノ酸残基21~118内部に位置させるためのエピトープを同定する。好ましい実施形態では、パネルはD43A置換変異体、G44A置換変異体の両方を含む。MF5816のVHのVH配列を有する抗体は、これらの置換変異体への結合の低減を呈示する。
【0071】
いかなる理論にも拘束されるものではないが、図2に表されるようにアミノ酸残基I462;G465;K489;I491;N493;及びC499は、本明細書上にて指示される可変ドメインを含む抗体による、エピトープの結合に関与すると考えられている。結合への関与は、I462A;G465A;K489A;I491A;N493A;及びC499Aから選択されるアミノ酸残基置換のうち1つ以上を有するEGFRへの可変ドメインの結合の低減を観察することにより、好ましくは決定される。
【0072】
一態様では、ヒトEGFRの細胞外部分上でエピトープに結合する可変ドメインは、図2に表される配列のアミノ酸残基420~480内に位置するエピトープに結合する可変ドメインである。好ましくは、可変ドメインのEGFRへの結合は、EGFRにおける以下のアミノ酸残基置換I462A;G465A;K489A;I491A;N493A;及びC499Aのうち1つ以上により低減される。抗体のヒトEGFRへの結合は好ましくは、EGFの受容体への結合を妨害する。EGFR上のエピトープは、好ましくは立体配座エピトープである。一態様では、エピトープは、図2に表される配列のアミノ酸残基420~480内部、好ましくは図2に表される配列の430~480;好ましくは図2に表される配列の438~469内部に位置する。
【0073】
理論に拘束されるものではないが、エピトープの接触残基、すなわち可変ドメインがヒトEGFRに接触する箇所は、I462;K489;I491;及びN493であり得ると考えられている。アミノ酸残基G465及びC499は、抗体のEGFRへの結合にほぼ間接的に関与する。これは恐らく、アラニンへの置換による変異が、エピトープの(わずかな)立体配座変性を誘発することから、エピトープへの結合の低減が生じる。
【0074】
ヒトEGFRに結合する可変ドメインは好ましくは、図8に表されるMF3755のVHの少なくともCDR3配列、又は図8に表されるMF3755のVHのCDR3配列から、最大3個、好ましくは最大2個、好ましくは1個のアミノ酸のみが異なるCDR3配列を含む重鎖可変領域を有する可変ドメインである。
【0075】
ヒトEGFRに結合する可変ドメインは、好ましくは、図8に表されるMF3755のVHの少なくともCDR1、CDR2、及びCDR3配列;又は最大3個、好ましくは最大2個、好ましくは最大1個のアミノ酸置換を有する、図8に表されるMF3755のVHのCDR1、CDR2、及びCDR3配列を含む重鎖可変領域を有する可変ドメインである。
【0076】
ヒトEGFRに結合する可変ドメインは、好ましくは、図8に表されるMF3755のVH鎖の配列;又はMF3755のVH鎖に対して、最大15個、好ましくは1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、又は10個、好ましくは1個、2個、3個、4個又は5個のそのアミノ酸挿入、欠失、置換又はこれらの組合せを有する、図8に表されるVH鎖MF3755のアミノ酸配列を含む、重鎖可変領域を有する可変ドメインである。
【0077】
一実施形態では、本発明は、EGFRの細胞外部分に結合する可変ドメイン及びLGR5の細胞外部分に結合する可変ドメインを含む抗体を提供し、
当該可変ドメインの重鎖可変領域は、図8に表されるMF3370MF3755;MF4280若しくはMF4289からなる群から選択されるEGFR特異重鎖可変領域の少なくともCDR3配列を含み、又は当該可変ドメインの重鎖可変領域は、図8に表されるMF3370;MF3755;MF4280若しくはMF4289からなる群から選択されるVHのCDR3配列と、最大3個、好ましくは最大2個、好ましくは1個のアミノ酸が異なる重鎖CDR3配列を含む。当該可変ドメインは、好ましくは、MF3370;MF3755;MF4280若しくはMF4289の少なくともCDR3配列を含む、重鎖可変領域を含む。
【0078】
当該可変ドメインは、好ましくは、図8に表されるMF3370;MF3755;MF4280若しくはMF4289からなる群から選択されるEGFR特異重鎖可変領域の少なくともCDR1、CDR2及びCDR3配列を含む重鎖可変領域、又はMF3370;MF3755;MF4280若しくはMF4289からなる群から選択されるEGFR特異重鎖可変領域のCDR1、CDR2及びCDR3配列と、最大3個、好ましくは最大2個、好ましくは最大1個のアミノ酸が異なる、少なくともCDR1、CDR2及びCDR3配列を含む重鎖可変領域を含む。当該可変ドメインは、好ましくは、図8に表されるMF3370;MF3755;MF4280若しくはMF4289の少なくともCDR1、CDR2及びCDR3配列を含む重鎖可変領域を含む。好ましい重鎖可変領域は、MF3755である。別の好ましい重鎖可変領域は、MF4280である。
【0079】
抗体はEGFRの細胞外部分に結合する可変ドメイン及びLGR5の細胞外部分に結合する可変ドメインを含み、EGFR結合可変ドメインはCDR3を有し、CDR1、CDR2、及びCDR3並びに/又は本明細書上にて指示されるVH配列は好ましくは、図8に表されるMF5790;MF5803;MF5805;MF5808;MF5809;MF5814;MF5816;MF5817;若しくはMF5818からなる群から選択されるLGR5特異重鎖可変領域の少なくともCDR3配列を含むLGR5に結合する可変ドメイン、又は図8に表されるMF5790;MF5803;MF5805;MF5808;MF5809;MF5814;MF5816;MF5817;若しくはMF5818からなる群から選択されるVHのCDR3配列と、最大3個、好ましくは最大2個、好ましくは1個のみのアミノ酸が異なる重鎖CDR3配列を有する。当該可変ドメインは、好ましくは、図8に表されるMF5790;MF5803;MF5805;MF5808;MF5809;MF5814;MF5816;MF5817;又はMF5818の少なくともCDR3配列を含む、重鎖可変領域を含む。
【0080】
LGR5可変ドメインは、好ましくは、図8に表されるMF5790;MF5803;MF5805;MF5808;MF5809;MF5814;MF5816;MF5817;若しくはMF5818からなる群から選択されるLGR5特異重鎖可変領域の少なくともCDR1、CDR2及びCDR3配列を含む、重鎖可変領域、又は図8に表されるMF5790;MF5803;MF5805;MF5808;MF5809;MF5814;MF5816;MF5817;又はMF5818からなる群から選択されるLGR5特異重鎖可変領域のCDR1、CDR2及びCDR3配列と、最大3個、好ましくは最大2個、好ましくは最大1個のアミノ酸が異なる、重鎖CDR1、CDR2及びCDR3配列を含む。当該可変ドメインは、好ましくは、図8に表されるMF5790;MF5803;MF5805;MF5808;MF5809;MF5814;MF5816;MF5817;又はMF5818の少なくともCDR1、CDR2及びCDR3配列を含む、重鎖可変領域を含む。好ましい重鎖可変領域は、MF5790;MF5803;MF5814;MF5816;MF5817;又はMF5818である。特に好ましい重鎖可変領域は、MF5790;MF5814;MF5816;及びMF5818であり、好ましくは、MF5814、MF5818及びMF5816、重鎖可変領域MF5816が特に好ましい。別の好ましい重鎖可変領域は、MF5818である。
【0081】
重鎖可変領域MF3755、又はそれらの1つ以上のCDRを有する1つ以上の可変ドメインを含む抗体は、EGFRリガンドに応答する癌又は細胞の増大を阻害するために使用される場合、良好な有効性を有することが示される。二重特異性抗体又は多重特異性抗体に関連して、重鎖可変領域MF3755又は1つ以上のそのCDRを有する可変ドメインを含む抗体の腕は、重鎖可変領域MF5818又は1つ以上のそのCDRを有する可変ドメインを含む腕と良好に結合する。
【0082】
EGFR又はLGR5に結合する可変ドメインのVH鎖は、図8に表される配列に対する1つ以上のアミノ酸置換を有し得る。VH鎖は好ましくは、最大15個、好ましくは1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個又は10個を有し、好ましくは図8のVH鎖配列に対する、1個、2個、3個、4個又は5個のそのアミノ酸挿入、欠失、置換、又はこれらの組合せを有する、図8のEGFR VH又はLGR5 VHのアミノ酸配列を有する。
【0083】
CDR配列は、図のCDR配列に対する1つ以上のアミノ酸残基置換を有し得る。こうした1つ以上の置換は例えば、最適化する目的のため、好ましくは抗体の結合強度又は安定性を向上させるために作製される。最適化は例えば、好ましくは、得られた抗体の安定性及び/又は結合親和性が試験された後に、並びに向上したEGFR特異CDR配列又はLGR5特異CDR配列が好ましくは選択された後に変異誘発手順により実施される。当業者であれば、本発明の少なくとも1つの改変(altered)CDR配列を含む抗体バリアントを生成することが十分可能である。例えば、保存的アミノ酸置換が適用されてもよい。保存的アミノ酸置換の例としては、イソロイシン、バリン、ロイシン、又はメチオニンなどの1つの疎水性残基の、別の疎水性残基への置換、並びに1つの極性残基の、別の極性残基への置換、例えば、アルギニンのリジンへの置換、グルタミン酸のアスパラギン酸への置換、又はグルタミンのアスパラギンへの置換などがある。
【0084】
好ましくは、本明細書に明記されるVH又はVLの、言及された最大15個、好ましくは1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個又は10個、好ましくは1個、2個、3個、4個、又は5個のアミノ酸置換は好ましくは、保存的アミノ酸置換である。本明細書に明記されるVH又はVLのアミノ酸挿入、欠失及び置換は好ましくは、CDR3領域に存在しない。言及されたアミノ酸挿入、欠失及び置換は好ましくは、CDR1及びCDR2領域にもまた存在しない。言及されたアミノ酸挿入、欠失及び置換は好ましくは、FR4領域にもまた存在しない。
【0085】
言及された最大15個の、好ましくは1、2、3、4、5、6、7、8、9、又は10個の、好ましくは1、2、3、4、又は5個のアミノ酸置換は、好ましくは保存的アミノ酸置換であり、挿入、欠失、置換、又はこれらの組合せは、好ましくは、VH鎖のCDR3領域には存在しないことが好ましく、VH鎖のCDR1、CDR2、若しくはCDR3領域には存在しないことが好ましく、又はFR4領域には存在しないことが好ましい。
【0086】
EGFRの細胞外部分に結合する可変ドメイン及びLGR5の細胞外部分に結合する可変ドメインを含む抗体は、好ましくは、
図8に表されるVH鎖MF3755のアミノ酸配列;又は
-当該VHに対して、最大15個、好ましくは1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、又は10個、好ましくは1個、2個、3個、4個又は5個のアミノ酸挿入、欠失、置換又はこれらの組合せを有する、図8に表されるVH鎖MF3755のアミノ酸配列;を含み、
LGR5に結合する可変ドメインのVH鎖は、
図8に表されるVH鎖MF5790のアミノ酸配列;又は
-当該VHに対して、最大15個、好ましくは1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、又は10個、好ましくは1個、2個、3個、4個又は5個のアミノ酸挿入、欠失、置換又はこれらの組合せを有する、図8に表されるVH鎖MF5790のアミノ酸配列を含む。
【0087】
EGFRの細胞外部分に結合する可変ドメイン及びLGR5の細胞外部分に結合する可変ドメインを含む抗体は、好ましくは、
図8に表されるVH鎖MF3755のアミノ酸配列;又は
-当該VHに対して、最大15個、好ましくは1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、又は10個、好ましくは1個、2個、3個、4個又は5個のアミノ酸挿入、欠失、置換又はこれらの組合せを有する、図8に表されるVH鎖MF3755のアミノ酸配列;を含み、
LGR5に結合する可変ドメインのVH鎖は、
図8に表されるVH鎖MF5803のアミノ酸配列;又は
-当該VHに対して、最大15個、好ましくは1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、又は10個、好ましくは1個、2個、3個、4個又は5個のアミノ酸挿入、欠失、置換又はこれらの組合せを有する、図8に表されるVH鎖MF5803のアミノ酸配列を含む。
【0088】
EGFRの細胞外部分に結合する可変ドメイン及びLGR5の細胞外部分に結合する可変ドメインを含む抗体は、好ましくは、
図8に表されるVH鎖MF3755のアミノ酸配列;又は
-当該VHに対して、最大15個、好ましくは1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、又は10個、好ましくは1個、2個、3個、4個又は5個のアミノ酸挿入、欠失、置換又はこれらの組合せを有する、図8に表されるVH鎖MF3755のアミノ酸配列;を含み、
LGR5に結合する可変ドメインのVH鎖は、
図8に表されるVH鎖MF5814のアミノ酸配列;又は
-当該VHに対して、最大15個、好ましくは1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、又は10個、好ましくは1個、2個、3個、4個又は5個のアミノ酸挿入、欠失、置換又はこれらの組合せを有する、図8に表されるVH鎖MF5814のアミノ酸配列を含む。
【0089】
EGFRの細胞外部分に結合する可変ドメイン及びLGR5の細胞外部分に結合する可変ドメインを含む抗体は、好ましくは、
図8に表されるVH鎖MF3755のアミノ酸配列;又は
-当該VHに対して、最大15個、好ましくは1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、又は10個、好ましくは1個、2個、3個、4個又は5個のアミノ酸挿入、欠失、置換又はこれらの組合せを有する、図8に表されるVH鎖MF3755のアミノ酸配列;を含み、
LGR5に結合する可変ドメインのVH鎖は、
図8に表されるVH鎖MF5816のアミノ酸配列;又は
-当該VHに対して、最大15個、好ましくは1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、又は10個、好ましくは1個、2個、3個、4個又は5個のアミノ酸挿入、欠失、置換又はこれらの組合せを有する、図8に表されるVH鎖MF5816のアミノ酸配列を含む。
【0090】
EGFRの細胞外部分に結合する可変ドメイン及びLGR5の細胞外部分に結合する可変ドメインを含む抗体は、好ましくは、
図8に表されるVH鎖MF3755のアミノ酸配列;又は
-当該VHに対して、最大15個、好ましくは1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、又は10個、好ましくは1個、2個、3個、4個又は5個のアミノ酸挿入、欠失、置換又はこれらの組合せを有する、図8に表されるVH鎖MF3755のアミノ酸配列;を含み、
LGR5に結合する可変ドメインのVH鎖は、
図8に表されるVH鎖MF5817のアミノ酸配列;又は
-当該VHに対して、最大15個、好ましくは1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、又は10個、好ましくは1個、2個、3個、4個又は5個のアミノ酸挿入、欠失、置換又はこれらの組合せを有する、図8に表されるVH鎖MF5817のアミノ酸配列を含む。
【0091】
EGFRの細胞外部分に結合する可変ドメイン及びLGR5の細胞外部分に結合する可変ドメインを含む抗体は、好ましくは、
図8に表されるVH鎖MF3755のアミノ酸配列;又は
-当該VHに対して、最大15個、好ましくは1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、又は10個、好ましくは1個、2個、3個、4個又は5個のアミノ酸挿入、欠失、置換又はこれらの組合せを有する、図8に表されるVH鎖MF3755のアミノ酸配列;を含み、
LGR5に結合する可変ドメインのVH鎖は、
図8に表されるVH鎖MF5818のアミノ酸配列;又は
-当該VHに対して、最大15個、好ましくは1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、又は10個、好ましくは1個、2個、3個、4個又は5個のアミノ酸挿入、欠失、置換又はこれらの組合せを有する、図8に表されるVH鎖MF5818のアミノ酸配列を含む。
【0092】
EGFR又はLGR5の結合を保持する開示されたアミノ酸配列の更なる変異体は、例えば、再構成されたヒトIGKVl-39/IGKJl VL領域(De Kruif et al.Biotechnol Bioeng.2010(106)741-50)及び、前述のように本明細書に開示されるように(例えば、国際公開第2017/069628号)、EGFR又はLGR5VH領域のアミノ酸配列にアミノ酸置換を組み込んだVH領域の集合を含むファージディスプレイライブラリから得ることができる。EGFR又はLGR5に結合するFab領域をコードするファージを選択し、フローサイトメトリーによって分析し、配列決定することで、アミノ酸置換、挿入、欠失又は付加を伴う抗原結合を保持する変異体を同定することができる。
【0093】
EGFR/LGR5抗体のVH/VL EGFR及びLGR5可変ドメインの軽鎖可変領域は、同じ又は異なっていてもよい。
【0094】
いくつかの実施形態では、EGFR/LGR5抗体のVH/VL EGFR可変ドメインのVL領域は、VH/VL LGR5可変ドメインのVL領域に類似している。特定の実施形態では、第1及び第2のVH/VL可変ドメインにおけるVL領域は同一である。
【0095】
特定の実施形態では、EGFR/LGR5抗体の一方又は両方のVH/VL可変ドメインの軽鎖可変領域は、共通軽鎖可変領域を含む。いくつかの実施形態では、一方又は両方のVH/VL可変ドメインの共通軽鎖可変領域は、生殖細胞系列IgVκ1-39可変領域Vセグメントを含む。特定の実施形態では、一方又は両方のVH/VL可変ドメインの軽鎖可変領域は、カッパ軽鎖VセグメントIgVκ1-3901を含む。IgVκ1-39は、免疫グロブリン可変カッパ1-39遺伝子についての短縮形である。この遺伝子はまた、免疫グロブリンカッパ可変1-39、IGKV139;IGKV1-39;この遺伝子についての外部Idsは、HGNC:5740、Entrez Gene:28930;Ensembl:ENSG00000242371である。好適なV領域のアミノ酸配列が図9に提供される。V領域は、5つのJ領域のうちの1つと組み合わせることができる。好ましいJ領域はjk1及びjk5であり、接合された配列はIGKV1-39/jk1及びIGKV1-39/jk5として示される。代替名は、IgVκ1-3901/IGJκ101又はIgVκ1-3901/IGJκ501である(ワールドワイドウェブのimgt.orgにあるIMGTデータベースによる命名法)。特定の実施形態では、VH/VL可変ドメインの一方又は両方の軽鎖可変領域は、カッパ軽鎖IgVκ1-3901/IGJκ101又はIgVκk1-3901/IGJκ105(図9に記載)を含む。
【0096】
いくつかの実施形態では、EGFR/LGR5二重特異性抗体の一方又は両方のVH/VL可変ドメインの軽鎖可変領域は、アミノ酸配列QSISSY(図9に記載)を含むLCDR1、アミノ酸配列AAS(図9に記載)を含むLCDR2、及びアミノ酸配列QQSYSTP(図9に記載)を含むLCDR3(すなわち、IMGTによるIGKV1-39のCDR)を含む。いくつかの実施形態では、EGFR/LGR5抗体の一方又は両方のVH/VL可変ドメインの軽鎖可変領域は、アミノ酸配列QSISSY(図9に記載)を含むLCDR1、アミノ酸配列AASLQS(図9に記載)を含むLCDR2、及びアミノ酸配列QQSYSTP(図9に記載)を含むLCDR3を含む。
【0097】
いくつかの実施形態では、EGFR/LGR5抗体のVH/VL可変ドメインの一方又は両方は、図9に説明されるアミノ酸配列に対して、少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%、より好ましくは少なくとも97%、より好ましくは少なくとも98%、より好ましくは少なくとも99%同一又は100%同一であるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む。いくつかの実施形態では、EGFR/LGR5抗体のVH/VL可変ドメインの一方又は両方は、図9に説明されるアミノ酸配列に対して、少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%、より好ましくは少なくとも97%、より好ましくは少なくとも98%、より好ましくは少なくとも99%同一又は100%同一であるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む。
【0098】
例えば、いくつかの実施形態では、EGFR/LGR5抗体のVH/VL可変ドメイン一方又は両方の可変軽鎖は、図9の配列に対して、0~10、好ましくは0~5のアミノ酸挿入、欠失、置換、付加又はこれらの組合せを有し得る。いくつかの実施形態では、EGFR/LGR5抗体のVH/VL可変ドメインの一方又は両方の軽鎖可変領域は、示されたアミノ酸配列に対する、0~9個、0~8個、0~7個、0~6個、0~5個、0~4個、好ましくは0~3個、好ましくは0~2個、好ましくは0~1個、好ましくは0個のアミノ酸挿入、欠失、置換、付加、又はこれらの組合せを含む。
【0099】
他の実施形態では、EGFR/LGR5抗体の一方又は両方のVH/VL可変ドメインの軽鎖可変領域は、図9に表される配列のアミノ酸配列を含む。特定の実施形態では、EGFR/LGR5抗体のVH/VL可変ドメインの両方は、同一のVL領域を含む。一実施形態では、EGFR/LGR5二重特異性抗体のVH/VL可変ドメインの両方のVLは、図9に示されるアミノ酸配列を含む。一実施形態では、EGFR/LGR5二重特異性抗体のVH/VL可変ドメインの両方のVLは、図9に示されるアミノ酸配列を含む。
【0100】
本明細書に記載のEGFR/LGR5抗体は好ましくは、2つの可変ドメインを有し、本明細書に記載されるように、一方がEGFRに結合し、他方がLGR5に結合する二重特異性抗体である。
【0101】
本明細書に開示される方法で使用するためのEGFR/LGR5二重特異性抗体は、多数のフォーマットで提供することができる。二重特異性抗体の多くの異なるフォーマットが当該技術分野で公知であり、Kontermann(Drug Discov Today、2015 Jul;20(7):838-47;MAb、;2012 Mar-Apr;4(2):182~97)及びSpiessら(Alternative molecular formats and therapeutic applications for bispecific antibodies.Mol.Immunol.(2015) http://dx.doi.org/10.1016/j.molimm.2015.01.003)によって概説されており、これらはそれぞれ参照により本明細書に組み込まれる。例えば、2つのVH/VLの組合せを有する従来の抗体ではない二重特異性抗体フォーマットは、少なくとも、重鎖可変領域及び軽鎖可変領域を含む可変ドメインを有する。この可変ドメインは、一本鎖Fvフラグメント、モノボディ、VH、及び2番目の結合活性を提供するFabフラグメントに連結されている場合がある。
【0102】
いくつかの実施形態では、本明細書で提供される方法で使用されるEGFR/LGR5二重特異性抗体は、概して、ヒトIgGサブクラス(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4)のものである。特定の実施形態では、抗体は、ヒトIgG1サブクラスのものである。半減期が有利で免疫原性が低いため、全長IgG抗体が好ましい。したがって、特定の実施形態では、EGFR/LGR5二重特異性抗体は、全長IgG分子である。一実施形態では、EGFR/LGR5二重特異性抗体は、全長IgG1分子である。
【0103】
したがって、特定の実施形態では、EGFR/LGR5二重特異性抗体は、結晶化可能な断片(Fc)を含む。EGFR/LGR5二重特異性抗体のFcは、好ましくは、ヒト定常領域から構成される。EGFR/LGR5二重特異性抗体の定常領域又はFcは、1個以上の、好ましくは多くて10個、好ましくは多くて5個の、天然に存在するヒト抗体の定常領域とは異なるアミノ酸を含有することができる。例えば、特定の実施形態では、二重特異性抗体の各Fab腕は、二重特異性抗体の形成を促進する修飾、安定性を促進する修飾、及び/又は本明細書に記載の他の特徴を含むFc領域を更に含み得る。
【0104】
二重特異性抗体は、典型的には、抗体をコードする核酸を発現する細胞によって産生される。したがって、いくつかの実施形態では、本明細書に開示される二重特異性EGFR/LGR5抗体は、二重特異性EGFR/LGR5抗体の重鎖及び軽鎖可変領域及び定常領域をコードする1つ以上の核酸を含む細胞を提供することによって産生される。細胞は、好ましくは動物細胞、より好ましくは哺乳動物細胞、より好ましくは霊長類細胞、最も好ましくはヒト細胞である。好適な細胞は、EGFR/LGR5二重特異性抗体を含むことができ、好ましくは産生することができる任意の細胞である。
【0105】
抗体産生に好適な細胞は、当該技術分野で知られており、ハイブリドーマ細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、NS0細胞、又はPER-C6細胞が含まれる。様々な機関及び企業は、例えば、臨床使用のために、抗体の大規模生産のための細胞株を開発してきた。かかる細胞株の非限定的な例は、CHO細胞、NS0細胞、又はPER-C6細胞である。特に好ましい実施形態では、該細胞は、ヒト細胞である。好ましくは、アデノウイルスE1領域又はその機能的均等物によって形質転換される細胞。このような細胞株の好ましい例は、PER.C6細胞株又はその均等物である。特に好ましい実施形態では、当該細胞は、CHO細胞又はその変異体である。好ましくは、抗体の発現のためにグルタミンシンテターゼ(GS)ベクター系を利用する変異体。好ましい一実施形態では、細胞は、CHO細胞である。
【0106】
いくつかの実施形態では、細胞は、EGFR/LGR5二重特異性抗体を構成する異なる軽鎖及び重鎖を発現する。特定の実施形態では、細胞は、2つの異なる重鎖及び少なくとも1つの軽鎖を発現する。好ましい一実施形態にでは、細胞は、異なる抗体種(異なる重鎖及び軽鎖の組合せ)の数を低減するために、本明細書に記載されるような「共通軽鎖」を発現する。例えば、それぞれのVH領域は、二重特異性IgG(国際公開第2013/157954号;参照により本明細書に組み込まれる)の産生のための当該技術分野で知られている方法を使用して、再構成ヒトIGKV139/IGKJ1(huVκ139)軽鎖と併せて、発現ベクターにクローン化される。huVκ139は、複数の重鎖と対合して、それによって多様な特異性を持つ抗体を生じさせ、二重特異性分子の生成を促進することが以前に示されていた(De Kruif et al.J.Mol.Biol.2009(387)548 58;国際公開第2009/157771号)。
【0107】
共通軽鎖及び等量の2つの重鎖を発現する抗体産生細胞は、典型的には、50%の二重特異性抗体と、各々25%の単一特異性抗体を産生する(すなわち、同一の重軽鎖の組合せを有する)。それぞれの単一特異性抗体の産生よりも、二重特異性抗体の産生に有利であるいくつかの方法が公開されている。このようなものは、典型的には、重鎖の定常領域を、これらがホモ二量体化よりもヘテロ二量体化(すなわち、他の重鎖/軽鎖の組合せの重鎖と二量体化)に有利になるように修飾することによって達成される。好ましい実施形態では、本発明の二重特異性抗体は、適合性ヘテロ二量体化ドメインを有する2つの異なる免疫グロブリン重鎖を含む。様々な適合性ヘテロ二量体化ドメインが、当該技術分野において記載されている。この適合性ヘテロ二量体化ドメインは、好ましくは、適合性免疫グロブリン重鎖CH3ヘテロ二量体化ドメインである。技術分野では、重鎖のこのようなヘテロ二量体化が達成され得る様々な方法が記載されている。
【0108】
EGFR/LGR5二重特異性抗体を産生するための好ましい方法の1つは、米国特許第9,248,181号及び同第9,358,286号に開示されている。具体的には、本質的に二重特異性全長IgG分子のみを産生するための好ましい変異は、第1のCH3ドメイン中のアミノ酸置換L351K及びT366K(EU番号付け)(「KK-変異体」重鎖)、及び第2のドメイン中のアミノ酸置換L351D及びL368E(「DE-変異体」重鎖)、又はその逆である。前述のように、DE-変異体及びKK-変異体は、優先的に対合して、ヘテロ二量体(いわゆる「DEKK」二重特異性分子)を形成する。DE-変異体重鎖のホモ二量体化(DEDEホモ二量体)又はKK-変異体重鎖のホモ二量体化(KKKKホモ二量体)は、同一の重鎖間のCH3-CH3界面における荷電残基間の強い反発力のために、ほとんど発生しない。
【0109】
したがって、一実施形態では、EGFRに結合する可変ドメインを含む重鎖/軽鎖の組合せは、重鎖のDE変異体を含む。この実施形態では、LGR5に結合する可変ドメインを含む重鎖/軽鎖の組合せは、重鎖のKK変異体を含む。
【0110】
候補EGFR/LGR5 IgG二重特異性抗体は、任意の好適なアッセイを使用して結合について試験することができる。例えば、CHO細胞上の膜発現EGFR又はLGR5への結合は、フローサイトメトリーによって(国際公開第2017/069628号に以前に記載されたFACS手順に従って)評価することができる。一実施形態では、CHO細胞上のLGR5への候補EGFR/LGR5二重特異性抗体の結合は、当該技術分野にて公知の標準的な手順に従って実施されるフローサイトメトリーによって実証される。CHO細胞への結合は、EGFR及び/又はLGR5の発現カセットでトランスフェクトされていないCHO細胞と比較される。EGFRへの候補二重特異性IgG1の結合は、EGFR発現コンストラクトでトランスフェクトされたCHO細胞を使用して判定される。LGR5単一特異性抗体及びEGFR単一特異性抗体、並びに無関係なIgG1アイソタイプ対照mAbは、対照としてアッセイに含まれる(例えば、LGR5及び破傷風毒素(TT)などの別の抗原に結合する抗体)。
【0111】
標的に対する候補EGFR/LGR5二重特異性抗体のLGR5及びEGFRの親和性は、BIAcore T100を使用した表面プラズモン共鳴(SPR)技術によって測定できる。簡単に説明すると、抗ヒトIgGマウスモノクローナル抗体(Becton and Dickinson,cat.Nr.555784)は、遊離アミン化学(NHS/EDC)を使用して、CM5センサーチップの表面に結合される。次に、bsAbがセンサー表面に捕捉される。続いて、組換え精製抗原ヒトEGFR(Sino Biological Inc,cat.Nr.11896-H07H)及びヒトLGR5タンパク質を、オン/オフレートを測定するための濃度範囲でセンサー表面上に流す。各サイクルの後、センサー表面をHClのパルスによって再生し、bsAbを再び捕捉する。得られたセンサーグラムから、オン/オフレート、並びにヒトLGR5及びEGFRに結合するための親和性値は、米国特許第2016/0368988号にてCD3について以前に記載されたように、BIAevaluationソフトウェアを使用して測定される。
【0112】
本発明の抗体は、典型的には、二重特異性完全長抗体、好ましくはヒトIgGサブクラスである。本発明の抗体は、好ましくはヒトIgG1サブクラスである。本発明のこうした抗体は、所望の場合には、当該技術分野にて公知の技術により増強され得る良好なADCC特性を有し、ヒトへのインビボ投与時に有利な半減期を有する。CH3遺伝子操作技術は、クローン細胞における共発現時にホモ二量体よりもヘテロ二量体を優先的に形成する、修飾された重鎖を提供することができる。
【0113】
抗体のADCC活性は、抗体自体が低いADCC活性を有する場合には、抗体の定常領域をわずかに修飾することにより向上させることができる。抗体のADCC活性を向上させる別の方法は、フコースの低下を生じるグリコシル化経路を酵素的に妨害することによる。ADCCの誘発における抗体又はエフェクタ細胞の有効性を決定するための、複数のインビトロ方法が存在する。これらはとりわけ、クロム-51[Cr51]放出アッセイ、ユーロピウム[Eu]放出アッセイ、及び硫黄-35[S35]放出アッセイである。通常、ある特定の表面曝露抗原を発現する標識された標的細胞株は、その抗原に特異的な抗体でインキュベートされる。洗浄後、Fc受容体であるCD16を発現するエフェクタ細胞は、抗体標識標的細胞で共にインキュベートされる。標的細胞の溶解は、シンチレーションカウンタ又は分光光度測定による細胞内標識の放出によって後で測定される。
【0114】
一実施形態では、本発明の二重特異性抗体はADCC増強型であり得る。一実施形態では、本発明の二重特異性抗体はアフコシル化され得る。本発明の二重特異性抗体は、好ましくは、正常なCHO細胞では産生された同じ抗体と比較した場合に、Fc領域におけるN-結合型炭水化物構造のフコシル化の量の減少を含む。
【0115】
EGFRの細胞外部分に結合する可変ドメイン及びLGR5の細胞外部分に結合する可変ドメインを含む抗体は、1つ以上の更なる標的に結合することができる、1つ以上の追加の可変ドメインを更に含んでもよい。更なる標的は、好ましくはタンパク質、好ましくは細胞外部分を含む膜タンパク質である。3つ以上の可変ドメインを有する抗体が、当該技術分野にて公知である。例えば、追加の可変ドメインを抗体の定常部分に結合させることが可能である。3つ以上の可変ドメインを有する抗体が、好ましくは本明細書に参照として組み込まれる、PCT/NL2019/050199号に説明される多価多量体抗体である。
【0116】
一実施形態では、抗体は、2つの可変ドメインを含む二重特異性抗体である。一方の可変ドメインはEGFRの細胞外部分に結合し、他方の可変ドメインはLGR5の細胞外部分に結合する。可変ドメインは、好ましくは本明細書に記載の可変ドメインである。
【0117】
誤解を避けるため、本明細書で使用される場合、細胞の増大に対しての言及は、細胞数における変化を指す。増大における阻害は、そうでなければ得られたであろう細胞数の減少を指す。増大の増加は、そうでなければ得られたであろう細胞数の増加を指す。細胞の増大は典型的には、細胞の増殖を指す。
【0118】
本明細書で使用される場合、膜タンパク質は、細胞の外膜中に存在するタンパク質であり、外界と細胞とを分離する膜である細胞膜タンパク質である。膜タンパク質は細胞外部分を有する。膜タンパク質は、それが細胞の細胞膜中に存在する膜貫通領域を含有する場合、少なくとも細胞上に存在する。
【0119】
EGFR/LGR5二重特異性抗体、トポイソメラーゼI阻害剤及び薬学的に許容される担体を含む医薬組成物もまた、提供される。本明細書で使用される場合、用語「薬学的に許容される」は、動物、特にヒトで使用するために、政府規制機関によって承認されるか、又は米国薬局方又は他の総合的に認められている薬局方に列挙されていることを意味し、生理学的に適合性がある任意の及び全ての溶媒、塩、分散媒体、コーティング、抗菌剤及び抗真菌剤、等張剤及び吸収遅延剤などが挙げられる。用語「担体」は、化合物が投与される希釈剤、アジュバント、賦形剤、又は溶媒を指す。このような医薬担体は、水及び油などの無菌液体であり得、石油、動物、植物又は合成由来のもの、例えば、ピーナッツ油、大豆油、鉱油、ゴマ油、グリセロールポリエチレングリコールリシノール酸などが含まれる。水又は生理食塩水、並びにデキストロース及びグリセロール水溶液を、特に注射可能な溶液の担体として使用することができる。非経口投与用の液体組成物は、注射又は連続注入による投与のために製剤化することができる。注射又は注入による投与経路としては、膀胱内、腫瘍内、静脈内、腹腔内、筋肉内、髄腔内、及び皮下が挙げられる。投与経路(例えば、静脈内、皮下、関節内など)に応じて、活性化合物を、化合物を不活性化する可能性のある酸及び他の天然条件の作用から保護するために、材料でコーティングすることができる。
【0120】
ヒト患者への投与に好適な医薬組成物は、典型的には、例えば液体担体中の非経口投与用に製剤化され、又は静脈内投与用の液体溶液若しくは懸濁液への再構成に好適である。組成物は、投与を容易にし、投与量を均一にするために、投与単位形態で製剤化することができる。
【0121】
また、使用直前に経口投与又は非経口投与用の液体調剤に変換することを目的とした固体調剤も含まれる。このような液体形態としては、液剤、懸濁剤、及び乳剤が挙げられる。
【0122】
本明細書で提供される組成物及び方法は、患者における癌、特に胃腸癌の治療に特に有用である。したがって、組成物及び方法は様々な悪性腫瘍の治療に使用されてもよい。
【0123】
本明細書で使用される場合、併用投与(同時投与)としては、同じ若しくは異なる投与形態でのEGFR/LGR5二重特異性抗体及びトポイソメラーゼI阻害剤の同時投与、別個の投与、又は連続投与が挙げられる。したがって、いくつかの実施形態では、EGFR/LGR5二重特異性抗体は、対象における癌を治療するための方法では使用することができ、EGFR/LGR5二重特異性抗体は、トポイソメラーゼI阻害剤と同時に、別々に、又は連続して投与される。他の実施形態では、EGFR/LGR5二重特異性抗体は、対象における癌の治療で使用することができ、EGFR/LGR5二重特異性抗体は、トポイソメラーゼI阻害剤と同時に、別々に、又は連続して投与されてもよい。
【0124】
他の実施形態では、EGFR/LGR5二重特異性抗体は、対象における癌の治療のための薬剤の製造で使用するためのものであってもよく、EGFR/LGR5二重特異性抗体は、トポイソメラーゼI阻害剤と同時に、別々に、又は連続して投与される。他の実施形態では、EGFR/LGR5二重特異性抗体は、対象における癌を治療するための薬剤の製造で使用するためのものであってもよく、EGFR/LGR5二重特異性抗体は、トポイソメラーゼI阻害剤と同時に、別々に、又は連続して投与されてもよい。EGFR/LGR5二重特異性抗体及びトポイソメラーゼI阻害剤を含む製品は、対象の癌を治療する際に同時に、別々に、又は連続使用するために組み合わせられた製剤であってもよい。
【0125】
EGFR/LGR5二重特異性抗体及びトポイソメラーゼI阻害剤は、好適な投与量、経路(例えば、静脈内、腹腔内、筋肉内、髄腔内又は皮下)に従って投与することができる。
【0126】
EGFR/LGR5二重特異性抗体及びトポイソメラーゼI阻害剤はまた、任意の好適なスケジュールに従って投与することができる。例えば、EGFR/LGR5二重特異性抗体及びトポイソメラーゼI阻害剤は、単剤で同時に投与することができる。代替的には、EGFR/LGR5二重特異性抗体及びトポイソメラーゼI阻害剤は、別個の投与のために製剤化することができ、同時に又は連続して投与される。
【0127】
例えば、いくつかの実施形態では、EGFR/LGR5二重特異性抗体は最初に投与され、続いてトポイソメラーゼI阻害剤が投与されることができ、又はその逆で投与されることができる。上記治療方法及び使用方法における投与レジメンは、最適の望ましい応答(例えば、治療応答)を提供するように調節される。
【0128】
例えば、単回ボーラスを投与してもよく、複数回に分けた投与量を経時的に投与してもよい。又は用量は、緊急性のある治療状況により指示されるように比例して減少若しくは増加されてもよい。一実施形態では、EGFR/LGR5二重特異性抗体は、トポイソメラーゼI阻害剤の投与前に投与される。例えば、EGFR/LGR5二重特異性抗体は最初に患者に投与され、トポイソメラーゼI阻害剤の投与がその後続く。一実施形態では、トポイソメラーゼI阻害剤はEGFR/LGR5二重特異性抗体の投与前に投与される。例えば、トポイソメラーゼI阻害剤は最初に患者に投与され、EGFR/LGR5二重特異性抗体の投与がその後続く(例えば、投与後1分以上、1時間以上、又は1日以上)。こうした同時投与又は連続投与により、EGFR/LGR5二重特異性抗体及びトポイソメラーゼI阻害剤の両方ともが治療される患者に同時に存在している状態が生じる。EGFR/LGR5二重特異性抗体及びトポイソメラーゼI阻害剤の両方が同時に存在することで、EGFR/LGR5二重特異性抗体が誘発する癌治療、及びEGFR/LGR5二重特異性抗体が介在する、EGFR/LGR5のシグナル伝達阻害を指示する。
【0129】
別の実施形態では、トポイソメラーゼI阻害剤及びEGFR/LGR5二重特異性抗体は、同時に投与される。
【0130】
一実施形態では、対象は、単回用量のトポイソメラーゼI阻害剤及び単回用量のEGFR/LGR5二重特異性抗体を投与される。いくつかの実施形態では、EGFR/LGR5二重特異性抗体及びトポイソメラーゼI阻害剤は、治療の過程にわたって繰り返し投与される。例えば、特定の実施形態では、複数回(例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10回以上)の用量のトポイソメラーゼI阻害剤、及び複数回(例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10回以上)の用量のEGFR/LGR5二重特異性抗体が、治療を必要とする対象に投与される。
【0131】
いくつかの実施形態では、トポイソメラーゼI阻害剤及びEGFR/LGR5二重特異性抗体の投与は、1週間、2週間、又は1ヶ月に1回行われてもよく、そのレジメンでは、同じ日に(例えば、同時に)、又は逐次(例えば、1分以上、数時間、又は数日前後)投与されてもよい。別個に投与される場合、EGFR/LGR5二重特異性抗体及びトポイソメラーゼI阻害剤は、同じ投与(すなわち、用量)プロトコルに従って投与されてもよいが、必ずしもそのプロトコルに従って投与されるというわけではない。例えば、1サイクルの治療は、EGFR/LGR5二重特異性抗体を1回又は複数回投与することを含んでもよい。一方、治療有効投与量のトポイソメラーゼI阻害剤は、高頻度又は低頻度のいずれかでEGFR/LGR5二重特異性抗体を投与してもよい。特定の実施形態では、各用量のトポイソメラーゼI阻害剤及びEGFR/LGR5二重特異性抗体は、同じ日に投与されてもよく、代替的にはトポイソメラーゼI阻害剤は、EGFR/LGR5抗体の前又は後に1日又は複数日投与されてもよい。
【0132】
いくつかの実施形態では、EGFR/LGR5二重特異性抗体及び/又はトポイソメラーゼI阻害剤の用量は、経時的に変化する。例えば、EGFR/LGR5二重特異性抗体及び/又はトポイソメラーゼI阻害剤は、最初に高用量で投与されてもよく、経時的に下げられてもよい。別の実施形態では、EGFR/LGR5二重特異性抗体及び/又はトポイソメラーゼI阻害剤は、最初に低用量で投与され、経時的に増加する。
【0133】
別の実施形態では、投与されるEGFR/LGR5二重特異性抗体及び/又はトポイソメラーゼI阻害剤の量は、各用量については一定である。別の実施形態では、EGFR/LGR5二重特異性抗体及び/又はトポイソメラーゼI阻害剤の量は、各用量によって変化する。例えば、それぞれの維持(又は後続の)用量は、最初に投与される負荷用量よりも高い、又はこれと同じであり得る。別の実施形態では、それぞれの維持用量は、負荷用量より低い、又はこれと同じであり得る。臨床医は、治療される患者の状態による当然の結果として、好ましい投与量を利用してもよい。用量は、疾患の段階などを含む多数の要因に応じて変化してもよい。こうした要因のうち1つ以上の存在に基づいて投与されるべき特定の用量は、当業者の技術範囲内である。一般的には、治療は、最適用量未満の更に少ない投与量で開始される。この後、投与量を、その状況下で最適な効果に達するまで、少量ずつ増加する。便宜上、必要に応じて、1日の合計投与量を分割し、1日の間に分割して投与することができる。断続的な治療(例えば、3週間のうち1週間又は4週間のうち3週間)も使用することができる。
【0134】
特定の実施形態では、EGFR/LGR5二重特異性抗体は、0.1、0.3、1、2、3、4、5、6、7、8、9、又は10mg/kg体重の用量で投与される。別の実施形態では、EGFR/LGR5二重特異性抗体は、0.5、1、2、3、4、5、6、7、8、9、又は10mg/kg体重の用量で投与される。
【0135】
本明細書に記載の治療方法は、典型的には、患者のケアを監督する臨床医が、治療方法が有効である、すなわち、患者が治療に応答しているとみなす限り継続される。治療方法が有効であることを示す非限定的なパラメータとしては、以下のうちの1つ以上を挙げることができる:腫瘍細胞の減少;腫瘍細胞増殖の阻害;腫瘍細胞の排除;無増悪生存期間;好適な腫瘍マーカによる適切な反応(該当する場合)。
【0136】
EGFR/LGR5二重特異性抗体を投与する頻度に関して、当業者は適切な頻度を決定することができるであろう。例えば、臨床医は、EGFR/LGR5二重特異性抗体を比較的低い頻度で(例えば、2週間に1回)投与し、患者が許容するように投与期間を徐々に短縮することを決定することができる。トポイソメラーゼI阻害剤を投与する頻度に関して、これらの薬剤の頻度は、同様の方法で決定することができる。特許請求の方法による治療の過程に関連する例示的な時間の長さとしては、以下のものが挙げられる:約1週間、2週間、約3週間、約4週間、約5週間、約6週間、約7週間、約8週間、約9週間、約10週間、約11週間、約12週間、約13週間、約14週間、約15週間、約16週間、約17週間、約18週間、約19週間、約20週間、約21週間、約22週間、約23週間、約24週間、約7ヶ月、約8ヶ月、約9ヶ月、約10ヶ月、約11ヶ月、約12ヶ月、約13ヶ月、約14ヶ月、約15ヶ月、約16ヶ月、約17ヶ月、約18ヶ月、約19ヶ月、約20ヶ月、約21ヶ月、約22ヶ月、約23ヶ月、約24ヶ月、約30ヶ月、約3年、約4年、約5年、無期限(例:継続的な維持療法)。前述の期間は、1回又は複数回の治療ラウンド/サイクルに関連し得る。
【0137】
本明細書で提供される治療方法の有効性は、任意の好適な手段を用いて評価することができる。一実施形態では、併用治療の臨床的有効性は、客観的応答基準として癌細胞の数の減少を用いて分析される。本明細書に開示される方法に従って治療される患者、例えばヒトは、好ましくは、癌の少なくとも1つの兆候の改善を経験する。いくつかの実施形態では、以下のうちの1つ以上が起こり得る:癌細胞の数を低減することができる;癌の再発を予防又は遅延する;癌に関連する1つ以上の症状をある程度和らげることができる。更に、T細胞介在型標的細胞溶解を決定するためのインビトロアッセイ。
【0138】
別の実施形態では、治療の方法は、EGFR/LGR5二重特異性抗体又はトポイソメラーゼI阻害剤(例えば、イリノテカン)単独により達成されるものより良好である、同等の臨床的有効率(CBR=CR(完全奏功)、PR(部分奏功)又はSD(安定)≧6ヶ月)を生む。
【0139】
いくつかの実施形態において、腫瘍細胞は、本明細書に記載される治療の後、もはや検出できない。いくつかの実施形態では、対象は、部分的に又は完全に寛解している。特定の実施形態では、対象は、増加した全生存期間、生存率中央値、及び/又は無増悪生存期間を有する。
【0140】
本発明の組合せ(例えば、トポイソメラーゼI阻害剤と組み合わせられるEGFR/LGR5二重特異性抗体)はまた、治療されている癌に対するそれらの特定の有用性のために選択される他の周知の治療と併せて使用されてもよい。あるいは、本発明の組合せは、適切な場合、既知の薬学的に許容される薬剤と共に連続して使用され得る。
【0141】
化学療法剤の安全かつ有効な投与のための方法は、当業者に知られている。更に、それらの投与は、標準的な文献に記載されている。例えば、化学療法剤の多くの投与は、Physicians’Desk Reference(PDR)、例えば1996年版(Medical Economics Company,Montvale,N.J.07645-1742,USA)に記載されており、その開示は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0142】
化学療法剤の投与及び/又は放射線療法は、治療されている疾患、並びにその疾患に対する化学療法剤及び/又は放射線療法の既知の効果に応じて変化し得ることが当業者には明らかであろう。また、当業者の知識に従って、患者に対する投与された治療剤の観察された効果を考慮し、そして投与された治療剤への疾患の観察された応答を考慮して、治療プロトコル(例えば、投与量及び投与時間)を変えることができる。
【0143】
EGFR/LGR5二重特異性抗体及びトポイソメラーゼI阻害剤、及び薬学的に許容される担体を前述の方法で使用するために適合された治療有効量で含有する医薬組成物を含むキット又は製品もまた、本明細書にて提供される。いくつかの実施形態では、キット又は製品は任意選択的にはまた、例えば、施術者(例えば、医師、看護師、又は患者)が、癌を有する患者に中に含有されている組成物を投与可能とするための、例えば投与スケジュールを含む指示を含むことができる。
【0144】
いくつかの実施形態では、キット又は製品は、上で提供される方法に従い、単回投与のための有効量のEGFR/LGR5二重特異性抗体及びトポイソメラーゼI阻害剤をそれぞれ含有する単回用量の医薬組成物の複数のパッケージを含む。1つ以上の医薬組成物を投与するために必要となる器具又はデバイスはまた、キット又は製品中に含まれてもよい。例えば、キット又は製品は、同じ容器内に、又は別個かつ別々の組成物として投与される別個の容器内に、EGFR/LGR5二重特異性抗体及びトポイソメラーゼI阻害剤の単位投与量を含有する1つ以上の充填済シリンジを提供してもよい。
【0145】
特定の実施形態では、EGFR/LGR5二重特異性抗体及びトポイソメラーゼI阻害剤の一方又は両方は、添付の指示に従い再構成及び後での投与に好適な固体形態で提供される。
【0146】
本明細書に記載の抗体の機能性部分は、少なくとも本明細書に記載のEGFRの細胞外部分に結合する可変ドメイン及びLGR5の細胞外部分に結合する可変ドメインを含む。それゆえ、これは本明細書に記載の抗体の抗原結合部分を含み、典型的には抗体の可変ドメインを含有する。機能性部分の可変ドメインは、一本鎖Fv断片又はいわゆる単一のドメイン抗体断片であり得る。単一ドメイン抗体断片(single-domain antibody fragment、sdAb)は、単一の単量体可変抗体ドメインを有する抗体断片である。抗体全体と同様に、これは特定の抗原に選択的に結合することができる。わずか12~15kDaの分子量しか有さない場合、単一ドメイン抗体断片は、2つの重鎖タンパク質及び2つの軽鎖で構成される一般的な抗体(150~160kDa)よりもはるかに小さく、更にはFab断片(約50kDa、1つの軽鎖と半分の重鎖)及び単鎖可変断片(約25kDa、2つの可変ドメイン、1つは軽鎖から、1つは重鎖から)よりも小さい。単一ドメイン抗体自体は、正常な抗体よりもはるかに小さいことはない(典型的には、90~100kDaである)。単一ドメイン抗体断片は、大部分が、ラクダに見られる重鎖抗体から遺伝子操作され、これらはVHH断片(ナノボディ(登録商標))と呼ばれる。一部の魚類もまた、VNAR断片と呼ばれる単一ドメイン抗体断片を得ることができる重鎖のみの抗体(IgNAR、「免疫グロブリン新抗原受容体」)を有する。代替のアプローチは、ヒト又はマウスからの共通免疫グロブリンG(IgG)からの二量体可変ドメインを単量体に分割することである。単一ドメイン抗体へのほとんどの研究は、現在、重鎖可変ドメインに基づくが、軽鎖に由来するナノボディも、標的エピトープに特異的に結合することが示されている。抗体部分のこうした可変ドメインの非限定的な例は、VHH、ヒトドメイン抗体(dAbs)及びユニボディである。好ましい抗体部分又は誘導体は、抗体又はその等価物の少なくとも2つの可変ドメインを有する。このような可変ドメイン又はその等価物の非限定的な例は、F(ab)断片及び一本鎖Fv断片である。二重特異性抗体の機能性部分は、二重特異性抗体の抗原結合部分、又は誘導体及び/又は結合部分のアナログを含む。本明細書で上述されるように、抗体の結合部分は可変ドメインに包含される。
【0147】
なお更なる実施形態では、組成物又は組合せ又はキット又は製品は、1つ以上の追加の活性剤を含む。
【0148】
本明細書に記載されているGenbankエントリ、特許及び公開された特許出願、並びにウェブサイトを含む全ての文書及び参考文献は、本文書に全て又は一部が記載されている場合と同程度に、参照により本明細書に明示的に組み込まれる。
【0149】
明確さ及び簡潔な説明のために、特徴は本明細書では同じ又は別個の実施形態の一部として記載されているが、本発明の範囲は、記載される特徴の全て又は一部の組合せを有する実施形態を含んでもよいことが理解されよう。
【0150】
ここで、本発明は、以下の実施例を参照することによって説明されるが、これは例示的なものにすぎず、本発明を限定することを意図するものではない。本発明を詳細に説明し、その特定の実施形態を参照して説明したが、その趣旨及び範囲から逸脱することなく、様々な変更及び修正を行うことができることは、当業者には明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0151】
図1】ヒトLGR5配列。
図2】ヒトEGFR配列。
図3】CRCのM005同所性PDXモデルにおける腫瘍体積への治療効果。Aは治療期間中の注射頻度、注射の投与及び注射部位;Bは経時的な腫瘍体積の倍数変化;Cは6週目時点におけるマウスあたりの倍数変化を示すドットプロット。
図4】AはマウスモデルM005における治療終了前後の腫瘍体積。治療を9週間後に停止させ、更に3週間にわたり同じマウスにおける腫瘍体積をモニタリングした。各群下の数は、12週目時点で全てのマウスが含まれなかった理由を示す。Bは経時的な各群における体重(モデルM005)。
図5】Aは巨視的に検出、又はH&E染色により評価される、屠殺時に転移していたマウスの数;Bは12週目時点での残存疾患。
図6】AはマウスモデルM001:治療期間中の注射頻度、投与量及び注射部位;Bは経時的な平均腫瘍体積の変化;Cは6週目時点でのマウスあたりの腫瘍体積を示すドットプロット。
図7】Aは経時的な各群の体重(モデルM001)、併用治療は有毒ではなかった;Bは二重特異性MF5816xMF3755単独、又は二重特異性MF5816xMF3755+イリノテカンを用いた治療は転移を阻止した。巨視的にかつH&Eを用いた染色により、転移を組織では評価した。
図8-1】a)はヒトカッパ軽鎖IgVκ1(3901/IGJκ101)の可変領域といった共通軽鎖可変領域と共に、MF5816xMF3755の重鎖可変領域のアミノ酸配列は、LGR5又はEGFRに結合する可変ドメインを形成する。
図8-2】b)はCDR及びフレームワーク領域を示す。
図8-3】c)はDNA配列を示す。トポイソメラーゼI阻害剤と組み合わせられ、二重特異性抗体の生成に好適であるEGFR及びLGR5に結合する追加の重鎖可変領域が更にこの図にて開示される。
図8-4】c)はDNA配列を示す。トポイソメラーゼI阻害剤と組み合わせられ、二重特異性抗体の生成に好適であるEGFR及びLGR5に結合する追加の重鎖可変領域が更にこの図にて開示される。
図8-5】c)はDNA配列を示す。トポイソメラーゼI阻害剤と組み合わせられ、二重特異性抗体の生成に好適であるEGFR及びLGR5に結合する追加の重鎖可変領域が更にこの図にて開示される。
図9-1】a)は共通軽鎖アミノ酸配列のアミノ酸配列。b)は共通軽鎖可変領域DNA配列及び翻訳(IGKV1-39/jk1)。c)は共通軽鎖定常領域DNA配列及び翻訳。d)はIGKV1-39/jk5共通軽鎖可変領域翻訳。e)はV-領域IGKV1-39A。
図9-2】f)は共通軽鎖のCDR1、CDR2及びCDR3。
図10-1】二重特異性分子の生成のためのIgG重鎖。a)はCH1領域。b)はヒンジ領域。c)はCH2領域。
図10-2】二重特異性分子の生成のためのIgG重鎖。d)はバリエーションL351K及びT366K(KK)を含有するCH3ドメイン。e)はバリエーションL351D及びL368E(DE)を含有するCH3ドメイン。
【実施例
【0152】
本明細書で使用される場合、「MFXXXX」(式中、Xは独立して、0~9の数字である)は、可変ドメインを含むFabを指し、ここでVHは、図8で表される4桁で同定されたアミノ酸配列を有する。別途記載のない限り、可変ドメインの軽鎖可変領域は、典型的には、図9b)の配列を有する。実施例における軽鎖は、図9a)に表される配列を有する。「MFXXXX VH」は、4桁で同定されたVHのアミノ酸配列を指す。MFは、軽鎖の定常領域と、軽鎖の定常領域と通常相互作用する重鎖の定常領域とを更に含む。重鎖のVH/可変領域は、異なる、典型的にはCH3領域であって、重鎖のうちの1つは、そのCH3ドメインのKK突然変異を有し、他方は、図10d)及び図10e)の、そのCH3ドメインの相補的なDE突然変異を有する(参考文献PCT/NL2013/050294号(国際公開第2013/157954号として公開)を参照されたい)。実施例における二重特異性抗体は、図10に示されているKK/DE CH3ヘテロ二量体形成ドメイン、CH2ドメイン及びCH1ドメインを有するFc尾部、図9a)に示される共通軽鎖、並びにMF数により明記されるVHを有する。例えば、MF3755xMF5816により示される二重特異性抗体は、上記の一般的な配列、並びにMF3755の配列を有するVHを有する可変ドメイン及びMF5816の配列を有するVHを有する可変ドメインを有する。
【0153】
実施例1
細胞株:
フリースタイル293F細胞(カタログ番号p/n51-0029)をInvitrogenから入手し、293フリースタイル培地中で日常的に維持した。HEK293T(ATCC-CRL-11268)、及びCHO-K1(DSMZ ACC110)細胞株をATCCから購入し、L-グルタミン(Gibco)及びFBS(Lonza)を補充したDMEM/F12(Gibco)中で日常的に維持した。
【0154】
様々な重鎖可変領域(VH)のアミノ酸配列及び核酸配列を図8に示す。図9a)に示される他のLGR5及びEGFRの組合せの中でも、重鎖可変領域MF3755及びMF5816及び共通軽鎖を含み、アフコシル化により増強されたADCCの修飾を含む、二重特異性抗体EGFR/LGR5、MF3755xMF5814は、国際公開第2017/069628号(ページ138)にて有効であると示されている。
【0155】
二重特異性抗体の作製
二重特異性抗体を、二重特異性抗体の効率的なヘテロ二量体化及び形成を確実に行うために、独自のCH3遺伝子操作技術を用いて、異なるVHドメインを有するIgGをコードする2つのプラスミドを一過性共トランスフェクションすることによって生成した。共通軽鎖もまた、同じプラスミド又は別のプラスミド上のいずれかで同じ細胞に共トランスフェクションされる。本出願人らによる出願(例えば、国際公開第2013/157954号及び国際公開第2013/157953号、参照により本明細書に組み込まれる)では、単一の細胞から二重特異性抗体を産生するための方法及び手段を開示しており、これにより、単一特異性抗体の形成よりも二重特異性抗体の形成を有利にする手段が提供される。本発明では、これらの方法を好適に採用することができる。具体的には、二重特異性完全長IgG分子のみを基本的に生成するのに好ましい変異は、第1のCH3ドメイン中の351及び366位でのアミノ酸置換、例えばL351K及びT366K(EU番号付けに従っての番号付け)(「KK-変異体」重鎖)、及び第2のCH3ドメイン中の351及び368位でのアミノ酸置換、例えばL351D及びL368E(「DE-変異体」重鎖)、又はその逆である(図10d)及び図10e)を参照されたい)。これは、負に帯電したDE-変異体重鎖及び正に帯電したKK-変異体重鎖が優先的に対をなし、ヘテロ二量体を形成する(いわゆる「DEKK」二重特異性分子)ことが、言及した出願により以前に実証されている。DE-変異体重鎖のホモ二量体化(DE-DEホモ二量体)又はKK-変異体重鎖のホモ二量体化(KK-KKホモ二量体)は、同一の重鎖間のCH3-CH3界面における荷電残基間の強い反発力のために、ほとんど発生しない。
【0156】
上記LGR5に結合する可変ドメインのVH遺伝子を、正に帯電したCH3ドメインをコードするベクターにクローニングした。国際公開第2015/130172号に開示されるものなどの、EGFRに結合する可変ドメインのVH遺伝子を、負に帯電したCH3ドメインをコードするベクターにクローニングした。増大に適合した293Fフリースタイル細胞懸濁液を、3.0×10e6個細胞/mLの密度になるまで振盪プラトー上のT125フラスコ内で培養した。細胞を、0.3~0.5×10e6生存細胞/mLの密度で24ディープウェルプレートの各ウェルに播種した。細胞を、異なる抗体をコード化する2つのプラスミドの混合物で一過性にトランスフェクトし、独自のベクター系にクローニングした。トランスフェクションから7日後に、細胞上清を採取し、0.22μMのフィルタ(Sartorius)を通して濾過した。無菌上清を、抗体の精製まで4℃で保存した。
【0157】
IgG精製
濾過を使用して、フィルタプレート中で、滅菌条件下で精製を行った。まず、培地のpHをpH8.0に調整し、続いて、IgG含有上清を、タンパク質AセファロースCL-4Bビーズ(50%v/v)(Pierce)と共に、振盪プラットフォーム上、600rpmで25℃にて2時間インキュベートした。次に、濾過によりビーズを採取した。ビーズをPBS pH7.4で2回洗浄した。次いで、結合したIgGを、0.1Mクエン酸緩衝液で、pH3.0にて溶出させ、溶出液を、トリスpH8.0を用いて直ちに中和した。マルチスクリーンUltracel 10マルチプレート(Millipore)を使用して、遠心分離により緩衝液交換を行った。試料を最後に、PBS pH7.4中で採取した。IgG濃度をOctetを用いて測定した。タンパク質試料を4℃で保存した。
【0158】
Octetを使用したIgG定量化
精製したIgGの量を決定するために、全ヒトIgG(Sigma Aldrich、カタログ番号I4506)を標準として使用して、タンパク質Aバイオセンサ(Forte-Bio、供給元の推奨に従って)を用いてOctet分析により抗体の濃度を決定した。
【0159】
生着のためのマウス及び細胞の調製
注射用の単一細胞懸濁液へと脱凝集させる前に、大型の癌スフェロイド構造(Tumoroids)を7日間成長させた。全てのマウス試験について、6~8週齢のメスのNOD.CB17/AlhnRj-Prkdcscid/Rjマウス(Janvier Labs)を使用した。
【0160】
培養条件及び単一細胞を作製する方法
結腸直腸癌試料から派生したオルガノイドを、2mMのGlutaMax(Invitrogen)、10mMのHEPES(Invitrogen)、1倍のB27レチノイン酸フリーサプリメント(Invitrogen)、50ng/mLのEGF(Peprotech)、0.1μg/mLのNoggin(Peprotech)、Rock阻害剤Y-27632(Sigma-Aldrich)、10nMのPGE2(Sigma-Aldrich)、3μmのSB202190(Sigma-Aldrich)、10nMのガストリン(Tocris)、1μg/mLのR-SPO1(自家製)、10mMのニコチノアミド(Sigma-Aldrich)、1.25mMのN-アセチル-システイン(Sigma-Aldrich)、0.5μMのA83-01(Tocris)を追加した進行DMEM/F12(Invitrogen)から構成される培地を用いて、100%の基底膜抽出物(BME、Amsbio)中、37℃、5%CO2で培養した。分析前日に、オルガノイドを単一細胞に脱凝集した。この目的のために、オルガノイドを、培地を除去することによってBMEから最初に遊離させ、細胞回収溶液(BD Biosciences)にBMEを再懸濁し、氷上で1時間インキュベートした。その後、オルガノイドを遠心分離した(全ての遠心分離工程は5分間、4℃で200g)。ペレットを1mLの50%トリプシン/EDTA溶液(TE)、50%PBSに再懸濁させ、上下にピペット操作し、単一細胞懸濁液を得るまで定期的に視覚的に評価した。TEを10mLのPBS中で希釈し、遠心分離した。細胞を10mLのPBS中で2回洗浄した後にBMEに再懸濁し、これを50μLに分割して予熱したプレート(37℃)に滴下した。BME液滴を15分間放置した後、1滴あたり500μLの培地を添加した。12時間後、細胞回収溶液を使用して、細胞をBMEから単離した。氷上で1時間後、細胞を遠心分離し、0.5%BSA及び0.5mMのEDTA(染色緩衝液)を含有する10mLのPBS中で1回洗浄した。次いで、ペレットを染色緩衝液に再懸濁し、カウントした。
【0161】
VHIOの幹細胞及び癌群は、外科的に切除された原発性腫瘍(結腸及び直腸)並びに肝臓転移に由来するCRCPDXモデルの収集物を発生させた。PDXモデルは臨床的かつ分子的に注釈が付けられており、mCRCの臨床的疫学を忠実に表す。これらのモデルを、免疫不全マウスの盲腸壁に皮下又は同所的に注射することができる。同所性モデルは、リンパ節、肝臓、肺、及び癌腫症では局所的及び遠隔転移を生成し、CRC患者での進行性疾患を再現する。重要な分子形質を有するPDXモデルのセットを選択し、本発明の抗-LGR5/EGFR二重特異性抗体の有効性を評価した(表1を参照されたい)。初期PDXセットでは、複数の変異体モデル及び野生型モデルを選択した。開発されたEGFR/LGR5抗体に対する応答もまた決定可能であるEGFR又はLGR5の相対的な発現など他の決定因子を、これらのPDXモデルにて計測した(表1)。
3つの進行性CRC患者の肝臓転移に由来するPDXモデル(表1)を選択した。2つのモデルは、KRAS変異体(それぞれM005及びM001についてのG13D及びG12D)であり、そのM005もまた、APC及びPIK3CA112_112del変異体である。
【0162】
モデルM005:120 NOD-SCIDマウスに、M005 PDXモデルに由来する1×10個の腫瘍細胞の盲腸壁同所注射を施した。この場合、モデルは、本出願にその全体が組み込まれる、Puig et al.,A Personalized Preclinical Model to Evaluate the Metastatic Potential of Patient-Derived Colon Cancer Initiating Cells,Clin Cancer Res;19(24),6787-6801(2013)に記載されるように基本的に生成された。これらのヒト腫瘍細胞はCRC肝臓転移に由来したものであり、KRAS遺伝子(KRAS G13D)中及びPIK3CA遺伝子(PIK3CA 112_112del)中に変異を含有する。変異PIK3C C420R(https://cancer.sanger.ac.uk/cosmic、変異ID COSM757)を保有する18種類の組織型を備える、Sanger Institute(UK)を参照されたい。注射後15日目から、毎週CT撮像を使用してマウスをモニタリングし、盲腸中の原発性腫瘍を検出した。少なくとも80%の動物が盲腸で原発性腫瘍の増大を有した後、治療を開始した。以下の18匹のマウスを除外した。すなわち、外科手術後に死亡したもの(#5)、原発性腫瘍を有しないもの(#7)、腫瘍が小さすぎるもの又は大きすぎるもの(それぞれ#2及び#1)、低体重(#2)、病気の一般的兆候(#1)といったものである。
図3Aに従い、残りの102匹を治療し、マイクロCTを用いて毎週撮像した。肝臓及び肺の組織学的評価(ヘマトキシリン及びエオシン染色(H&E)染色)により、転移性病変の頻度及びサイズもまた決定した。剖検時に巨視的に大腸癌腹膜播種を検出し、後に組織学によりこれを確認した。
モデルM001:M001 PDXモデルは、本出願にその全体が組み込まれる、Puig et al.,A Personalized Preclinical Model to Evaluate the Metastatic Potential of Patient-Derived Colon Cancer Initiating Cells,Clin Cancer Res;19(24),6787-6801(2013)に記載されるように基本的に生成された。変異PIK3C C420R(https://cancer.sanger.ac.uk/cosmic、変異ID COSM757)を保有する18種類の組織型を備える、Sanger Institute(UK)を参照されたい。第2の同所性モデルでは、注射されたヒト腫瘍細胞は、KRAS G12D及びPIK3CA-C420Rといった変異を伴うCRC肝臓転移に元々は由来していた。腫瘍細胞の注射を上記と同様に行った。以下の18匹のマウスを除外した。すなわち、外科手術後に死亡したもの(#11)、原発性腫瘍を有しないもの(#2)、大きすぎる腫瘍を有するマウス(#2)、低体重(#1)、病気の一般的兆候(#2)といったものである。投与及び治療管理体制は図6Aに従った。
【0163】
6週目に、溶媒又はMF3755及びMF5816のみを含む二重特異性EGFR/LGR5で治療した全てのマウスを屠殺し、イリノテカン又はMF3755及びMF5816+イリノテカンを含む二重特異性EGFR/LGR5で治療したマウスのおよそ半分もまた屠殺した。
【0164】
結果:
分析モデル M005
MF3755及びMF5816のみを含む二重特異性EGFR/LGR5で治療されたマウスにおける平均腫瘍体積は、溶媒を与えられたマウスよりも低いものであった。ただし、イリノテカンのみで治療されたマウスの平均腫瘍体積ほど低いものではなかった。驚くべきことに、MF3755及びMF5816+イリノテカン併用治療を含む、二重特異性EGFR/LGR5を受けるマウスは、他の群の全てのマウスと比較すると低い腫瘍体積を有した(図3B図3C)。興味深いごとに、治療終了後、MF3755及びMF5816を含む二重特異性EGFR/LGR5は、腫瘍体積における倍率変化で確認されるようなイリノテカンの腫瘍増大遮断効果を延長させた(図4A)。
【0165】
全てのマウスからの原発性腫瘍を屠殺時に採取し、転移性病変の頻度及びサイズを分析した。図5Aは、屠殺時に転移性病変を有すると見出されたマウスの数を示す。これはMF3755及びMF5816又はイリノテカンを単独又は組合せのいずれかで含む二重特異性EGFR/LGR5で治療されたマウスが、治療されていないマウスよりも転移が少なかったことを実証している。
【0166】
治療終了(9週間)及び3週間の無治療期間後、屠殺に供されたマウスでは、組織も分析した。より小さい腫瘍は、壊死細胞又は少数の腫瘍細胞のみを含有することが見出されたが、より大きい腫瘍の大半は大量の腫瘍細胞を有した(図5B)。この分析は、腫瘍体積及び盲腸重量は、治療終了後3週間の治療されたマウスと正の相関をすると示した(ピアゾン相関係数についてはP<0.0001)。
【0167】
分析モデル M001:
MF3755及びMF5816のみを含む二重特異性EGFR/LGR5で治療されたマウスにおける平均腫瘍体積は、イリノテカンのみで治療されたマウスの平均腫瘍体積と非常に類似していた。ただし、MF3755及びMF5816+イリノテカン併用治療を含む、二重特異性EGFR/LGR5を受けるマウスは、他の群の全てのマウスのいずれかよりも低い腫瘍体積を有した(図6B図6C)。MF3755及びMF5816+イリノテカンを含む、二重特異性EGFR/LGR5の組合せを受けるマウスでは、毒性は観察されなかった(図7A)。
屠殺時の転移性病変を決定するための組織学的分析は、MF3755及びMF5816又はイリノテカンを単独又は組合せのいずれかで含む二重特異性EGFR/LGR5で治療されたマウスが、治療されていないマウスよりも転移が少なかったことを実証していた(図7B)。
【0168】
腫瘍増大及び転移潜在性を阻害するそれらの可能性について、MF3755及びMF5816、並びに化学療法薬物であるイリノテカンを含む二重特異性抗体EGFR/LGR5を単独及び組み合わせて用い、2つの同所性モデルであるM005及びM001を試験した。M005では、MF3755及びMF5816、並びにイリノテカンを単独で含む二重特異性抗体EGFR/LGR5は、原発性腫瘍増大を遅延させることができた。ただし、この2つの組合せは、MF3755及びMF5816並びにイリノテカンを含む二重特異性抗体EGFR/LGR5が優れた奏功を促進させると実証した。治療終了後、併用治療は5匹の生存マウスのうち5匹では、原発性腫瘍を完全に排除した。イリノテカン単独療法について、これは14匹のマウスのうちたった1匹のみに当てはまった。また、これは、MF3755及びMF5816を含む二重特異性抗体EGFR/LGR5が化学療法により誘発された完全な腫瘍退縮を強めることを示す。転移潜在性に関しては、MF3755及びMF5816を含む二重特異性抗体EGFR/LGR5は、イリノテカンと同様に遠隔転移の形成を阻止した。イリノテカンとMF3755及びMF5816を含む二重特異性抗体EGFR/LGR5との併用を用いて治療されたマウスでは、転移は認められなかった。
【0169】
モデルM005からの結果は、モデルM001モデルで確認された。gMF3755及びMF5816及びイリノテカン単独で含む二重特異性抗体EGFR/LGR5は、M001では原発性腫瘍増大の遅延に等しく有効であった。ただし、共に投与した場合には、併用治療は単独で与えられるいずれかの薬剤よりも更に有効であると考えられる。
【0170】
図6Cに示されるデータのうち、6週目の腫瘍体積における統計分析(ANCOVA)は、治療がイリノテカンとMF3755及びMF5816を含む二重特異性抗体との間を除く全ての群の間で、腫瘍体積を有意に低減させたことを示した。(溶媒対MF3755及びMF5816、p<0.0001;溶媒対イリノテカン、p<0.0001;溶媒対イリノテカン+MF3755及びMF5816、p<0.0001;MF3755及びMF5816対イリノテカン、p<0.6429;MF3755及びMF5816対イリノテカン+MF3755及びMF5816、p<0.0001;イリノテカン+MF3755及びMF5816対イリノテカン、p<0.0001。)
【0171】
M001では、併用治療はイリノテカン単独よりも毒性は高くなかった。転移潜在性に関しては、EGFR/LGR5、MF3755及びMF5816は、イリノテカンと同様に遠隔転移の形成を阻止した。イリノテカンとMF3755及びMF5816を含む二重特異性抗体EGFR/LGR5との併用を用いて治療されたマウスでは、転移は認められなかった。
【0172】
結論として、2つの同所性CRC腫瘍モデルを使用し、MF3755及びMF5816及びイリノテカンを含む二重特異性抗体EGFR/LGR5の併用治療は、これらの薬物が単独で投与される場合と比較すると、より大きな程度で腫瘍退縮をもたらす。加えて、転移は、MF3755及びMF5816及びイリノテカンの単独治療又は併用治療を含む二重特異性抗体EGFR/LGR5で阻止されることが見出された。
【0173】
【表1】
表1|CRC患者の肝臓転移に由来するPDXモデルの特徴。免疫蛍光検査定量化により、LGR5、EGFR、及び核β-カテニンを決定した。ゲノム分析により、Wntシグナル伝達タンパク質(APC、RSPO、RNF43、ZNRF3)及び発癌性タンパク質(KRAS、PIK3CA、TP53)の変異ステータスを決定した。WNT阻害剤に対するPDXモデル(皮下成長)の感受性を暗細胞について示した。更なる実験では、PDXモデルT108を使用しなかった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8-1】
図8-2】
図8-3】
図8-4】
図8-5】
図9-1】
図9-2】
図10-1】
図10-2】
【配列表】
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