(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-08
(45)【発行日】2024-08-19
(54)【発明の名称】ファイバレーザ装置
(51)【国際特許分類】
H01S 3/067 20060101AFI20240809BHJP
G02B 6/02 20060101ALI20240809BHJP
H01S 3/10 20060101ALI20240809BHJP
【FI】
H01S3/067
G02B6/02 411
G02B6/02 386
H01S3/10 D
(21)【出願番号】P 2022527511
(86)(22)【出願日】2021-02-16
(86)【国際出願番号】 JP2021005658
(87)【国際公開番号】W WO2021240910
(87)【国際公開日】2021-12-02
【審査請求日】2022-05-13
(31)【優先権主張番号】P 2020093230
(32)【優先日】2020-05-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005186
【氏名又は名称】株式会社フジクラ
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100206081
【氏名又は名称】片岡 央
(74)【代理人】
【識別番号】100188891
【氏名又は名称】丹野 拓人
(72)【発明者】
【氏名】島 研介
(72)【発明者】
【氏名】北原 倫太郎
【審査官】百瀬 正之
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-204834(JP,A)
【文献】特開2000-031571(JP,A)
【文献】特開平06-090055(JP,A)
【文献】特開2007-194501(JP,A)
【文献】特開2020-072153(JP,A)
【文献】特開平05-249328(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0261969(US,A1)
【文献】特開2019-175886(JP,A)
【文献】特開2010-003895(JP,A)
【文献】特表2019-508892(JP,A)
【文献】特開2019-220541(JP,A)
【文献】特開2010-003896(JP,A)
【文献】特開2017-037928(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 3/00-3/30
G02B 6/02ー6/10
G02B 6/26-6/27
G02B 6/30-6/34
G02B 6/42-6/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
励起光を出力する励起光源と、
前記励起光により活性される活性元素がコアに添加された複数の増幅用ファイバが接続されて構成された光ファイバ接続体と、
前記励起光源から出力される励起光を前記光ファイバ接続体に結合させるコンバイナと、
前記光ファイバ接続体で増幅された光を外部に出力する出力端と、
を備え、
前記複数の増幅用ファイバは、マルチモードファイバであり、
前記複数の増幅用ファイバは、励起光の入射端から離れるに従って、単位長さ当たりの励起光の吸収量が大きくなるように接続されており、
前記複数の増幅用ファイバの前記コアを伝播するレーザ光のモードフィールド径は同一であり、
前記光ファイバ接続体の両端には、FBGが形成された共振器用ファイバが接続されており、
前記コンバイナは、前記励起光源から出力される励起光を、前記共振器用ファイバのうちの何れか一方を介して前記光ファイバ接続体に結合させる、
ファイバレーザ装置。
【請求項2】
前記複数の増幅用ファイバは、前記コアの周囲を囲むクラッドを備えており、前記コアと前記クラッドとを合計した素線の単位体積当たりの活性元素の量が、励起光の入射端から離れるに従って、順次多くなるように接続されている、請求項1記載のファイバレーザ装置。
【請求項3】
前記複数の増幅用ファイバは、励起光の入射端から離れるに従って、前記コア中の活性元素の濃度が順に高くなるように接続されている、請求項1又は請求項2記載のファイバレーザ装置。
【請求項4】
前記複数の増幅用ファイバは、励起光の入射端から離れるに従って、前記コア中の活性元素の添加面積が順次大きくなるように接続されている、請求項1から請求項3の何れか一項に記載のファイバレーザ装置。
【請求項5】
前記複数の増幅用ファイバの前記コアは、同径である、請求項1から請求項4の何れか一項に記載のファイバレーザ装置。
【請求項6】
前記複数の増幅用ファイバは、第1増幅用ファイバと第2増幅用ファイバとを有し、
前記第1増幅用ファイバの一端に励起光が入射され、
前記第1増幅用ファイバの単位長さ当たりの励起光の吸収量が、第1吸収量に設定され、
前記第2増幅用ファイバの一端が前記第1増幅用ファイバの他端に接続され、
前記第2増幅用ファイバの単位長さ当たりの励起光の吸収量が、前記第1吸収量よりも大きな第2吸収量に設定されている
請求項1から請求項5の何れか一項に記載のファイバレーザ装置。
【請求項7】
前記複数の増幅用ファイバは、第3増幅用ファイバを更に備え、
前記第3増幅用ファイバの一端が前記第2増幅用ファイバの他端に接続され、
前記第3増幅用ファイバの単位長さ当たりの励起光の吸収量が、前記第2吸収量よりも大きな第3吸収量に設定されている
請求項6記載のファイバレーザ装置。
【請求項8】
励起光を出力する第1励起光源と、
励起光を出力する第2励起光源と、
前記励起光により活性される活性元素がコアに添加された複数の増幅用ファイバが接続されて構成された光ファイバ接続体と、
前記光ファイバ接続体の両端に接続された、FBGが形成された共振器用ファイバと、
前記第1励起光源から出力される励起光を、前記共振器用ファイバのうちの何れか一方を介して前記光ファイバ接続体に結合させる第1コンバイナと、
前記第2励起光源から出力される励起光を、前記共振器用ファイバのうちの何れか他方を介して前記光ファイバ接続体に結合させる第2コンバイナと、
前記光ファイバ接続体で増幅された光を外部に出力する出力端と、
を備え、
前記複数の増幅用ファイバは、マルチモードファイバであり、
前記複数の増幅用ファイバの前記コアを伝播するレーザ光のモードフィールド径は同一であり、
前記複数の増幅用ファイバは、第1増幅用ファイバ、第2増幅用ファイバ、及び第4増幅用ファイバを有し、
前記第1増幅用ファイバの一端に励起光が入射され、
前記第1増幅用ファイバの単位長さ当たりの励起光の吸収量が、第1吸収量に設定され、
前記第2増幅用ファイバの一端が前記第1増幅用ファイバの他端に接続され、
前記第2増幅用ファイバの単位長さ当たりの励起光の吸収量が、前記第1吸収量よりも大きな第2吸収量に設定されており、
前記第4増幅用ファイバの一端が前記第2増幅用ファイバの他端に接続され、
前記第4増幅用ファイバの単位長さ当たりの励起光の吸収量が、前記第2吸収量よりも小さな第4吸収量に設定され、
前記第4増幅用ファイバの他端に励起光が入射される
ファイバレーザ装置。
【請求項9】
前記第4吸収量が、前記第1吸収量よりも大きい
請求項8に記載のファイバレーザ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ファイバレーザ装置に関する。
本願は、2020年5月28日に日本に出願された特願2020-093230号について優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
近年、加工分野、自動車分野、医療分野等の様々な分野において、ファイバレーザ装置が注目されている。ファイバレーザ装置は、従来のレーザ装置(例えば、炭酸ガスレーザ装置)に比べて、ビーム品質及び集光性が優れているという特徴がある。また、ファイバレーザ装置は、空間光学部品が不要なため、アライメント等の問題がない、メンテナンスが不要である、等の利点もある。
【0003】
以下の特許文献1には、小型化を図りながらも増幅用ファイバの寿命を向上させ得る従来のファイバレーザ装置が開示されている。また、以下の特許文献1では、増幅用ファイバの一端から励起光が入射された場合に、その一端部分における発熱量が最も大きく増幅用ファイバの他端に近づくほど発熱量が小さい発熱量分布となることが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、ファイバレーザ装置の最高出力は、レーザ出力に対して非線形に発生する誘導ラマン散乱(SRS:Stimulated Raman Scattering)による制限を受ける。誘導ラマン散乱を抑えながらファイバレーザ装置の高出力化を図る方法の1つとして、光ファイバの全長を短くする方法が挙げられる。
【0006】
しかしながら、レーザ光の生成や増幅に用いられる光ファイバ(増幅用ファイバ)の長さによっては、励起光の一部が増幅用ファイバに吸収されずに増幅用ファイバを通り抜けてしまうことがあるため、ファイバレーザ装置の効率低下が生じてしまう。このような効率低下を防止するために、増幅用ファイバに多くの活性元素を添加して単位長さ当たりの励起光の吸収量を大きくすると、増幅用ファイバの発熱が大きくなる。すると、増幅用ファイバが損傷したり、TMI(Transverse Mode Instability:Thermal Modal Instability ともいう)現象が発生してレーザ光のビーム品質が悪化したりするという問題がある。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、増幅用ファイバの発熱を抑えつつ増幅用ファイバの長さを短くすることができるファイバレーザ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の一態様による光ファイバ接続体は、励起光により活性される活性元素がコアに添加された複数の増幅用ファイバが接続されて構成された光ファイバ接続体であって、前記複数の増幅用ファイバが、励起光の入射端から離れるに従って、単位長さ当たりの励起光の吸収量が大きくなるように接続されており、前記複数の増幅用ファイバの前記コアを伝播するレーザ光のモードフィールド径は同一である。
【0009】
本発明の一態様による光ファイバ接続体では、励起光の強度が高い部分には、単位長さ当たりの励起光の吸収量が相対的に小さい増幅用ファイバが配置され、励起光の強度が低い部分には、単位長さ当たりの励起光の吸収量が相対的に大きい増幅用ファイバが配置されている。これにより、励起光の強度が高い部分では発熱を抑えることができ、励起光の強度が低い部分では励起光の吸収量を大きくして残留励起光を減らすことができる。また、本発明の一態様による光ファイバ接続体では、複数の増幅用ファイバのコアを伝播するレーザ光のモードフィールド径が同一とされている。これにより、レーザ光のビーム品質の劣化や、信号光の損失(接続損失)が生ずるのを防止することができる。
【0010】
また、本発明の一態様による光ファイバ接続体は、前記複数の増幅用ファイバが、前記コアの周囲を囲むクラッドを備えており、前記コアと前記クラッドとを合計した素線の単位体積当たりの活性元素の量が、励起光の入射端から離れるに従って、順次多くなるように接続されていてもよい。
【0011】
また、本発明の一態様による光ファイバ接続体は、前記複数の増幅用ファイバは、励起光の入射端から離れるに従って、前記コア中の活性元素の濃度が順に高くなるように接続されていてもよい。
【0012】
本発明の一態様による光ファイバ接続体は、前記複数の増幅用ファイバが、励起光の入射端から離れるに従って、前記コア中の活性元素の添加面積が順次大きくなるように接続されていてもよい。
【0013】
また、本発明の一態様による光ファイバ接続体は、前記複数の増幅用ファイバの前記コアが、同径であってもよい。
【0014】
また、本発明の一態様による光ファイバ接続体は、第1増幅用ファイバと第2増幅用ファイバとを有し、前記第1増幅用ファイバの一端に励起光が入射され、前記第1増幅用ファイバの単位長さ当たりの励起光の吸収量が、第1吸収量に設定され、前記第2増幅用ファイバの一端が前記第1増幅用ファイバの他端に接続され、前記第2増幅用ファイバの単位長さ当たりの励起光の吸収量が、前記第1吸収量よりも大きな第2吸収量に設定されている。
【0015】
また、本発明の一態様による光ファイバ接続体は、前記複数の増幅用ファイバは、第3増幅用ファイバを更に備え、前記第3増幅用ファイバの一端が前記第2増幅用ファイバの他端に接続され、前記第3増幅用ファイバの単位長さ当たりの励起光の吸収量が、前記第2吸収量よりも大きな第3吸収量に設定されていてもよい。
【0016】
本発明の他の態様による光ファイバ接続体は、前記複数の増幅用ファイバは、第4増幅用ファイバを更に備えていてもよい。前記第4増幅用ファイバの一端が前記第2増幅用ファイバの他端に接続され、前記第4増幅用ファイバの単位長さ当たりの励起光の吸収量が、前記第2吸収量よりも小さな第4吸収量に設定され、前記第4増幅用ファイバの他端に励起光が入射されていてもよい。
【0017】
本発明の他の態様による光ファイバ接続体は、前記第4吸収量が、前記第1吸収量よりも大きくてもよい。
【0018】
本発明の一態様によるファイバレーザ装置は、励起光を出力する励起光源と、上記の何れかに記載の一態様による光ファイバ接続体と、前記励起光源から出力される励起光を前記光ファイバ接続体に結合させるコンバイナと、前記光ファイバ接続体で増幅された光を外部に出力する出力端と、を備える。
【0019】
また、本発明の一態様によるファイバレーザ装置は、前記光ファイバ接続体の両端には、FBGが形成された共振器用ファイバが接続されており、前記コンバイナが、前記励起光源から出力される励起光を、前記共振器用ファイバのうちの何れか一方を介して前記光ファイバ接続体に結合させてもよい。
【0020】
本発明の他の態様によるファイバレーザ装置は、励起光を出力する第1励起光源と、励起光を出力する第2励起光源と、上記に記載の他の態様による光ファイバ接続体と、前記光ファイバ接続体の両端に接続された、FBGが形成された共振器用ファイバと、前記第1励起光源から出力される励起光を、前記共振器用ファイバのうちの何れか一方を介して前記光ファイバ接続体に結合させる第1コンバイナと、前記第2励起光源から出力される励起光を、前記共振器用ファイバのうちの何れか他方を介して前記光ファイバ接続体に結合させる第2コンバイナと、前記光ファイバ接続体で増幅された光を外部に出力する出力端と、を備える。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、増幅用ファイバの発熱を抑えつつ増幅用ファイバの長さを短くすることができるという作用効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の第1実施形態によるファイバレーザ装置の要部構成を示す図である。
【
図2A】本発明の第1実施形態において増幅用ファイバの具体的構成例を示す横断面図である。
【
図2B】本発明の第1実施形態において増幅用ファイバの具体的構成例を示す横断面図である。
【
図3】本発明の第2実施形態によるファイバレーザ装置の要部構成を示す図である。
【
図4】本発明の第3実施形態によるファイバレーザ装置の要部構成を示す図である。
【
図5A】本発明の第1実施形態における光ファイバ接続体の解析結果を示す図である。
【
図5B】本発明の第1実施形態における光ファイバ接続体の解析結果を示す図である。
【
図6A】本発明の第2実施形態における光ファイバ接続体の解析結果を示す図である。
【
図6B】本発明の第2実施形態における光ファイバ接続体の解析結果を示す図である。
【
図7A】比較例1における光ファイバ接続体の解析結果を示す図である。
【
図7B】比較例1における光ファイバ接続体の解析結果を示す図である。
【
図8A】比較例2における光ファイバ接続体の解析結果を示す図である。
【
図8B】比較例2における光ファイバ接続体の解析結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照して本発明の実施形態による光ファイバ接続体及びファイバレーザ装置について詳細に説明する。尚、以下の説明で用いる図面は、特徴を分かりやすくするために、便宜上、特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率等が実際と同じであるとは限らない。また、本発明は以下の実施形態に限定されない。
【0024】
〔第1実施形態〕
図1は、本発明の第1実施形態によるファイバレーザ装置の要部構成を示す図である。
図1に示す通り、本実施形態のファイバレーザ装置1は、励起光源11、コンバイナ12、共振器用ファイバ13、光ファイバ接続体14、共振器用ファイバ15、デリバリファイバ16、及び出力端17を備える。このようなファイバレーザ装置1は、いわゆる前方励起型のファイバレーザ装置である。
【0025】
ここで、共振器用ファイバ13、光ファイバ接続体14、及び共振器用ファイバ15は、共振器Rを構成している。共振器Rは、励起光源11が出力する励起光によってレーザ光である信号光を生成する。本明細書では、光ファイバ接続体14から見て、励起光源11側を「前方」と称し、出力端17側を「後方」と称する場合がある。
【0026】
また、
図1では、各種ファイバの融着接続部を×印で示している。この融着接続部は、実際には、補強部(図示省略)の内部に配置されて保護される。補強部は、例えば、光ファイバを収容可能な溝が形成されたファイバ収容体と、融着接続部がファイバ収容体の溝に収容された状態で各種ファイバをファイバ収容体に固定する樹脂とを備える。
図1以外の図においても、各種ファイバの融着接続部を×印で示している。
【0027】
励起光源11は、励起光(前方励起光)を出力する。励起光源11の数は、ファイバレーザ装置1の出力端17から出力されるレーザ光のパワーに応じて任意であってよい。励起光源11としては、例えば、レーザダイオードを用いることができる。コンバイナ12は、励起光源11の各々が出力した励起光を、共振器Rの前方の端部(共振器用ファイバ13の前方の端部)に結合させる。
【0028】
共振器用ファイバ13の前方の端部は、コンバイナ12に融着接続されており、共振器用ファイバ13の後方の端部は、光ファイバ接続体14の前方の端部(増幅用ファイバ14aの前方の端部)に融着接続されている。共振器用ファイバ13のコア内には、HR-FBG(High Reflectivity-Fiber Bragg Grating)13aが形成されている。HR-FBG13aは、励起状態にされた光ファイバ接続体14の活性元素が放出する光のうち、信号光の波長の光をほぼ100%の反射率で反射するように調整されている。HR-FBG13aは、その長手方向に沿って一定の周期で高屈折率の部分が繰り返される構造である。
【0029】
光ファイバ接続体14は、増幅用ファイバ14a(第1増幅用ファイバ)と、増幅用ファイバ14b(第2増幅用ファイバ)とが接続されて構成されている。増幅用ファイバ14a,14bは、1種類又は2種類以上の活性元素が添加されたコアと、コアを覆う第1クラッドと、第1クラッドを覆う第2クラッドと、第2クラッドを覆う保護被覆とを有する。つまり、増幅用ファイバ14a,14bは、ダブルクラッドファイバである。コアに添加される活性元素としては、例えばエルビウム(Er)、イッテルビウム(Yb)、或いはネオジム(Nd)等の希土類元素が使用される。これらの活性元素は、励起状態で光を放出する。
【0030】
コア及び第1クラッドとしてはシリカガラス等を用いることができる。第2クラッドとしては、ポリマー等の樹脂を用いることができる。保護被覆としては、アクリル樹脂やシリコーン樹脂等の樹脂材料を用いることができる。増幅用ファイバ14a,14bは、マルチモードファイバである。
【0031】
増幅用ファイバ14aのコアを伝播する信号光のモードフィールド径と増幅用ファイバ14bのコアを伝播する信号光のモードフィールド径とが同一になるように、増幅用ファイバ14aと増幅用ファイバ14bとが構成されている。ここで、モードフィールド径とは、一般的に、光ファイバのコアを伝播する信号光の、光ファイバの横断面方向における光電力分布の広がりを表す指標であり、信号光がコアからどの程度クラッド側に漏れ出して伝わっているかを表す。また、本明細書において、「モードフィールド径が同一」とは、コアを伝播する基本モードの二次モーメント(D4σ)幅が±10%以内であることを意味する。
【0032】
例えば、増幅用ファイバ14a,14bは、コアを伝播する信号光のモードフィールド径を同一にするために、同じ屈折率構造を有している。つまり、増幅用ファイバ14aのコアの径及び材料と増幅用ファイバ14bのコアの径及び材料とが同じであり、増幅用ファイバ14aの第1クラッドの径及び材料と、増幅用ファイバ14bの第1クラッドの径及び材料とが同じであり、増幅用ファイバ14aの第2クラッド径及び材料と、増幅用ファイバ14bの第2クラッド径及び材料とが同じである。コアを伝播する信号光のモードフィールド径が同一であれば、増幅用ファイバ14a,14bの屈折率構造は必ずしも同じである必要はなく、異なる屈折率構造であってもよい。
【0033】
また、増幅用ファイバ14a,14bは、単位長さ当たりの励起光の吸収量が異なるように構成されている。具体的に、増幅用ファイバ14bの単位長さ当たりの励起光の吸収量(第2吸収量)が、増幅用ファイバ14aの単位長さ当たりの励起光の吸収量(第1吸収量)よりも大きくなるように構成されている。つまり、増幅用ファイバ14a,14bは、励起光の入射端(増幅用ファイバ14aの前方の端部)から離れるに従って、単位長さ当たりの励起光の吸収量が大きくなるように接続されている。この構成により、光ファイバ接続体14(増幅用ファイバ14a,14b)の発熱を抑えつつ光ファイバ接続体14(増幅用ファイバ14a,14b)の長さを短くすることができる。
【0034】
ここで、単位長さ当たりの励起光の吸収量は、コアとクラッド(第1クラッド及び第2クラッド)とを合計した素線(コアとクラッドとを含む)の単位体積当たりの活性元素の量によって決まる。このため、増幅用ファイバ14bのコアとクラッドとを合計した素線の単位体積当たりの活性元素の量が、増幅用ファイバ14aのコアとクラッドとを合計した素線の単位体積当たりの活性元素の量よりも多くなるように構成されている。
【0035】
図2A、
図2Bは、本発明の第1実施形態において増幅用ファイバの具体的構成例を示す横断面図である。
図2A及び
図2Bに示す通り、増幅用ファイバ14a,14bは、ほぼ同様の構成であり、コア20、第1クラッド21、第2クラッド22、及び保護被覆23を備える。
図2A及び
図2Bにおいて、符号20aが付された領域は、コア20中の活性元素が添加されている領域(以下、「添加領域20a」という)を示している。
【0036】
図2Aに示す例では、増幅用ファイバ14a,14bの各々について、活性元素がコア20の全体に添加されている。つまり、増幅用ファイバ14a,14bの各々について、添加領域20aがコア20の全体を占めている。但し、増幅用ファイバ14bにおけるコア20中の活性元素の濃度(添加領域20a内の活性元素の濃度)は、増幅用ファイバ14aにおけるコア20中の活性元素の濃度よりも高い。このように、
図2Aに示す例では、コア20の全体に添加する活性元素の濃度を変えることで単位長さ当たりの励起光の吸収量を変えている。
【0037】
図2Bに示す例では、増幅用ファイバ14a,14bの各々について、コア20中の添加領域20a内における活性元素の質量パーセント濃度[wt%]は同じである。つまり、増幅用ファイバ14a,14bの各々について、添加領域20a内における活性元素の濃度は同じである。但し、増幅用ファイバ14bにおけるコア20中の活性元素の添加面積(添加領域20aの面積)が、増幅用ファイバ14aにおけるコア20中の活性元素の添加面積よりも大きい。
【0038】
このように、
図2Bに示す例では、コア20中の活性元素の添加面積を変えることで単位長さ当たりの励起光の吸収量を変えている。このため、増幅用ファイバ14a,14bのコア20の径が同じであり、同じ濃度の活性元素を添加する場合であっても、コア20中の活性元素の添加面積を変えることで単位長さ当たりの励起光の吸収量を変えることができる。
図2Bに示す例において、コア20中の添加領域20aの屈折率と、それ以外の領域(活性元素が添加されていない非添加領域)の屈折率とが同じであることが望ましい。
【0039】
共振器用ファイバ15の前方の端部は、光ファイバ接続体14の後方の端部(増幅用ファイバ14bの後方の端部)に融着接続されており、共振器用ファイバ15の後方の端部は、デリバリファイバ16の前方の端部に融着接続されている。共振器用ファイバ15のコア内には、OC-FBG(Output Coupler-Fiber Bragg Grating)15aが形成されている。OC-FBG15aは、HR-FBG13aとほぼ同様の構造を有しているが、HR-FBG13aよりも低い反射率で、光を反射するように調整されている。例えば、OC-FBG15aは、信号光の波長の光に対する反射率が10~20%程度となるように調整されている。
【0040】
光ファイバ接続体14(増幅用ファイバ14a,14b)内では、HR-FBG13a及びOC-FBG15aで反射した信号光が、光ファイバ接続体14(増幅用ファイバ14a,14b)の長手方向で往復する。信号光は、この往復に伴って増幅されてレーザ光となる。このように、共振器R内では、光が増幅されて信号光(レーザ光)が生成される。
【0041】
デリバリファイバ16は、共振器R内で生成されたレーザ光を伝送する。デリバリファイバ16は、コアと、コアを囲うクラッドと、クラッドを覆う被覆と備える。デリバリファイバ16としては、例えば、マルチモードファイバを用いることができる。
【0042】
出力端17は、デリバリファイバ16の後方の端部に接続されており、デリバリファイバ16によって伝送されてきたレーザ光を射出する。出力端17は、デリバリファイバ16によって伝送されたレーザ光を透過する柱状体(光透過柱状部材)を備える。この部材は、いわゆるエンドキャップと呼ばれる。
【0043】
次に、光ファイバ接続体14(増幅用ファイバ14a、増幅用ファイバ14b)の残留励起光量及び発熱量について検討する。光ファイバ接続体14に入射する励起光の波長をλp[nm]、パワーをPin[W]、光ファイバ接続体14の単位長さ当たりの励起光の吸収量をa[dB/m]とする。吸収量aは、増幅用ファイバ14aの単位長さ当たりの励起光の吸収量a1[dB/m]、又は、増幅用ファイバ14bの単位長さ当たりの励起光の吸収量a2[dB/m]を取り得る。
【0044】
光ファイバ接続体14の前方の端部(増幅用ファイバ14aの前方の端部)を原点としたときの、光ファイバ接続体14の長さ方向の位置をzとする。光ファイバ接続体14中の励起光のパワーPp(z)[W]は、以下の(1)式で表される。
【0045】
【0046】
光ファイバ接続体14の長さをLとすると、z=Lにおける残留励起光は、以下の(2)式で表される。以下の(2)式から、励起光は、光ファイバ接続体14の長さLが長くなるほど光ファイバ接続体14に吸収されるが、光ファイバ接続体14の長さLが短くなるほど光ファイバ接続体14に吸収されなくなることが分かる。
【0047】
【0048】
また、信号光の波長をλsとした場合に、光ファイバ接続体14の単位長さ当たりの発熱量Q[W/m]は、以下の(3)式で表される。
【0049】
【0050】
上記(3)式によれば、光ファイバ接続体14の発熱量Qは、光ファイバ接続体14の前方の端部(z=0)で最も大きく、その最大値Qmax[W/m]は、以下の(4)式で表される。
【0051】
【0052】
従って、光ファイバ接続体14のコア中における活性元素の量を増やして光ファイバ接続体14の単位長さ当たりの励起光の吸収量aを大きくすると、単位長さ当たりの発熱量Qが増えることが分かる。逆に、光ファイバ接続体14のコア中における活性元素の量を減らして光ファイバ接続体14の単位長さ当たりの励起光の吸収量aを小さくすると、単位長さ当たりの発熱量Qが減ることが分かる。
【0053】
本実施形態では、励起光の強度が高い部分には、単位長さ当たりの励起光の吸収量が相対的に小さい増幅用ファイバ14aを配置し、励起光の強度が低い部分には、単位長さ当たりの励起光の吸収量が相対的に大きい増幅用ファイバ14bを配置している。これにより、励起光の強度が高い光ファイバ接続体14の前方の端部側では発熱を抑えることができ、励起光の強度が低い光ファイバ接続体14の後方の端部側では励起光の吸収量を大きくして残留励起光を減らすことができる。
【0054】
以上の通り、本実施形態では、単位長さ当たりの励起光の吸収量が相対的に小さな増幅用ファイバ14aと、単位長さ当たりの励起光の吸収量が相対的に大きな増幅用ファイバ14bとによって、共振器Rの一部をなす光ファイバ接続体14を構成している。そして、単位長さ当たりの励起光の吸収量が相対的に小さな増幅用ファイバ14aの前方の端部から励起光を入射させている。
【0055】
これにより、励起光の強度が高い光ファイバ接続体14の前方の端部側(増幅用ファイバ14aが配置された側)では励起光の吸収量が小さいため発熱を抑えることができる。また、励起光の強度が低い光ファイバ接続体14の後方の端部側(増幅用ファイバ14bが配置された側)では励起光の吸収量を大きくして残留励起光を減らすことができる。その結果、光ファイバ接続体14(増幅用ファイバ14a,14b)の発熱を抑えつつ、光ファイバ接続体14(増幅用ファイバ14a,14b)の長さを短くすることができる。
【0056】
また、本実施形態において、増幅用ファイバ14aのコアを伝播する信号光のモードフィールド径と、増幅用ファイバ14bのコアを伝播する信号光のモードフィールド径とが、同一である。これにより、増幅用ファイバ14a,14bのコアを伝播する信号光のビーム品質の劣化や、信号光の損失(接続損失)が生ずるのを防止することができる。
【0057】
〔第2実施形態〕
図3は、本発明の第2実施形態によるファイバレーザ装置の要部構成を示す図である。
図3においては、
図1に示す構成と同様の構成については同一の符号を付してある。本実施形態のファイバレーザ装置2は、光ファイバ接続体14が、増幅用ファイバ14a,14bに加えて増幅用ファイバ14c(第3増幅用ファイバ)から構成されている点において、
図1に示すファイバレーザ装置1と異なる。
【0058】
増幅用ファイバ14cは、増幅用ファイバ14a,14bと同様である。増幅用ファイバ14cは、1種類又は2種類以上の活性元素が添加されたコアと、コアを覆う第1クラッドと、第1クラッドを覆う第2クラッドと、第2クラッドを覆う保護被覆とを有するダブルクラッドファイバである。コアに添加される活性元素としては、例えばエルビウム(Er)、イッテルビウム(Yb)、或いはネオジム(Nd)等の希土類元素が使用される。
【0059】
また、増幅用ファイバ14cのコア、第1クラッド、第2クラッド、及び保護被覆の材料は、増幅用ファイバ14a,14bと同様である。増幅用ファイバ14cは、増幅用ファイバ14a,14bと同様に、マルチモードファイバである。
【0060】
増幅用ファイバ14a,14bと同様に、増幅用ファイバ14a,14bのコアを伝播する信号光のモードフィールド径と、増幅用ファイバ14cのコアを伝播する信号光のモードフィールド径とが同一になるように、増幅用ファイバ14cが構成されている。また、増幅用ファイバ14cの単位長さ当たりの励起光の吸収量(第3吸収量)は、増幅用ファイバ14bの単位長さ当たりの励起光の吸収量(第2吸収量)よりも大きくなるように設定されている。つまり、増幅用ファイバ14a,14b,14cは、励起光の入射端(増幅用ファイバ14aの前方の端部)から離れるに従って、単位長さ当たりの励起光の吸収量が大きくなるように接続されている。
【0061】
増幅用ファイバ14cのコアに活性元素を添加する方法は、
図2Aに示す方法、
図2Bに示す方法の何れであってもよい。
図2Aに示す通り、コア20の全体に活性元素を添加する方法では、増幅用ファイバ14cのコア中の活性元素の濃度が、増幅用ファイバ14bのコア中の活性元素の濃度よりも高くなるように構成されていればよい。
図2Bに示す通り、添加領域20a内における活性元素の濃度を同じにする方法では、増幅用ファイバ14cのコア20の添加面積が、増幅用ファイバ14bのコア20の添加面積よりも大きくなるように構成されていればよい。
【0062】
以上の通り、本実施形態では、増幅用ファイバ14aと、単位長さ当たりの励起光の吸収量が増幅用ファイバ14aよりも大きな増幅用ファイバ14bと、単位長さ当たりの励起光の吸収量が増幅用ファイバ14bよりも大きな増幅用ファイバ14cとによって、共振器Rの一部をなす光ファイバ接続体14を構成している。そして、増幅用ファイバ14aの前方の端部から励起光を入射させている。これにより、第1実施形態と同様に、光ファイバ接続体14(増幅用ファイバ14a,14b,14c)の発熱を抑えつつ、光ファイバ接続体14(増幅用ファイバ14a,14b,14c)の長さを短くすることができる。
【0063】
また、本実施形態において、増幅用ファイバ14aのコアを伝播する信号光のモードフィールド径と、増幅用ファイバ14bのコアを伝播する信号光のモードフィールド径と、増幅用ファイバ14cのコアを伝播する信号光のモードフィールド径とが同一になるように、増幅用ファイバ14aと増幅用ファイバ14bと増幅用ファイバ14cとが構成されている。これにより、本実施形態においても、第1実施形態と同様に、増幅用ファイバ14a,14b,14cのコアを伝播する信号光のビーム品質の劣化や、信号光の損失(接続損失)が生ずるのを防止することができる。
【0064】
〔第3実施形態〕
図4は、本発明の第3実施形態によるファイバレーザ装置の要部構成を示す図である。
図4においては、
図1に示す構成と同様の構成については同一の符号を付してある。励起光源18(第2励起光源)及びコンバイナ19(第2コンバイナ)を備える点、及び、光ファイバ接続体14が、増幅用ファイバ14a,14bに加えて増幅用ファイバ14d(第4増幅用ファイバ)から構成されている点において、本実施形態のファイバレーザ装置3は、
図1に示すファイバレーザ装置1と異なる。このようなファイバレーザ装置3は、いわゆる双方向励起型のファイバレーザ装置である。
【0065】
励起光源18は、励起光(後方励起光)を出力する。励起光源18の数は、ファイバレーザ装置3の出力端17から出力されるレーザ光のパワーに応じて任意である。励起光源18としては、励起光源11(第1励起光源)と同様に、例えば、レーザダイオードを用いることができる。コンバイナ19は、励起光源18の各々が出力した励起光を、共振器Rの後方の端部(共振器用ファイバ15の後方の端部)に結合させる。このコンバイナ19の構成は、コンバイナ12(第1コンバイナ)と同様である。
【0066】
増幅用ファイバ14dは、増幅用ファイバ14a,14bと同様である。増幅用ファイバ14dは、1種類又は2種類以上の活性元素が添加されたコアと、コアを覆う第1クラッドと、第1クラッドを覆う第2クラッドと、第2クラッドを覆う保護被覆とを有する、ダブルクラッドファイバである。コアに添加される活性元素としては、例えばエルビウム(Er)、イッテルビウム(Yb)、或いはネオジム(Nd)等の希土類元素が使用される。
【0067】
また、増幅用ファイバ14dのコア、第1クラッド、第2クラッド、及び保護被覆の材料は、増幅用ファイバ14a,14bと同様である。増幅用ファイバ14dは、増幅用ファイバ14a,14bと同様に、マルチモードファイバである。
【0068】
増幅用ファイバ14a,14bのコアを伝播する信号光のモードフィールド径と、増幅用ファイバ14dのコアを伝播する信号光のモードフィールド径とが同一になるように構成されている。また、増幅用ファイバ14dは、増幅用ファイバ14dの単位長さ当たりの励起光の吸収量(第4吸収量)が増幅用ファイバ14bの単位長さ当たりの励起光の吸収量(第2吸収量)よりも小さくなるように設定されている。
【0069】
また、各増幅用ファイバ14a,14b,14dの局所的な発熱量が、温度上昇の許容範囲内である場合、かつ、増幅用ファイバ14a,14b,14dの全長が誘導ラマン散乱発生に対して許容範囲内である場合、ファイバ14aの前方端、ファイバ14bの前方端、ファイバ14bの後方端、ファイバ14d後方端で同一にする必要はない。例えば、TMIは、単位長さ当たりの発熱量が同一であれば、コアを導波するレーザ光強度が強いほうが生じにくいことから、レーザ共振器中で後方端に近いほど許容発熱量が大きくなる。したがって、例えば
図4において前方励起光源11と後方励起光源18との出力が実質的に同じである場合、増幅用ファイバ14dの単位長さ当たりの励起光吸収量(第4吸収量)は増幅用ファイバ14aの単位長さ当たりの励起光吸収量(第1吸収量)よりも大きくてもよい。
【0070】
つまり、本実施形態において、増幅用ファイバ14a,14bを1つの単位とし、増幅用ファイバ14b,14dをもう1つの単位として見た場合に、各々の単位の増幅用ファイバは、励起光の入射端から離れるに従って、単位長さ当たりの励起光の吸収量が大きくなるように接続されている。つまり、増幅用ファイバ14a,14bは、励起光の入射端(増幅用ファイバ14aの前方の端部)から離れるに従って、単位長さ当たりの励起光の吸収量が大きくなるように接続されている。また、増幅用ファイバ14b,14dは、励起光の入射端(増幅用ファイバ14dの後方の端部)から離れるに従って、単位長さ当たりの励起光の吸収量が大きくなるように接続されている。
【0071】
増幅用ファイバ14dのコアに活性元素を添加する方法は、
図2Aに示す方法、
図2Bに示す方法の何れであってもよい。
図2Aに示す通り、コア20の全体に活性元素を添加する方法では、増幅用ファイバ14dのコア中の活性元素の濃度が、増幅用ファイバ14bのコア中の活性元素の濃度よりも薄くなるようにされていればよい。
図2Bに示す通り、添加領域20a内における活性元素の濃度を同じにする方法では、増幅用ファイバ14dのコア20の添加面積が、増幅用ファイバ14bのコア20の添加面積よりも小さくなるようにされていればよい。
【0072】
以上の通り、本実施形態では、増幅用ファイバ14aと、単位長さ当たりの励起光の吸収量が増幅用ファイバ14aよりも大きな増幅用ファイバ14bと、単位長さ当たりの励起光の吸収量が増幅用ファイバ14bよりも小さな増幅用ファイバ14dとによって、共振器Rの一部をなす光ファイバ接続体14を構成している。そして、増幅用ファイバ14aの前方の端部と、増幅用ファイバ14dの後方の端部とから励起光を入射させている。これにより、第1実施形態と同様に、光ファイバ接続体14(増幅用ファイバ14a,14b,14d)の発熱を抑えつつ、光ファイバ接続体14(増幅用ファイバ14a,14b,14d)の長さを短くすることができる。
【0073】
また、本実施形態において、増幅用ファイバ14a,14b,14dは、コアを伝播する信号光のモードフィールド径が同一になるようにされている。これにより、本実施形態においても、第1実施形態と同様に、増幅用ファイバ14a,14b,14dのコアを伝播する信号光のビーム品質の劣化や、信号光の損失(接続損失)が生ずるのを防止することができる。
また、第4吸収量は、第1吸収量よりも大きいため、増幅用ファイバ14aよりも吸収量が大きい増幅用ファイバ14dを用いることにより、短いファイバ長で励起光を吸収することが可能になるため、TMIを抑制しつつ誘導ラマン散乱の抑制が可能である。
【0074】
〔解析結果〕
本出願の発明者は、上記第1実施形態のファイバレーザ装置1、上記第2実施形態のファイバレーザ装置2が備える光ファイバ接続体14の残留励起光量及び発熱量について解析を行った。解析を行うに当たり、励起光の波長を976[nm]とし、信号光の波長を1070[mn]とした。また、共振器用ファイバ13におけるHR-FBG13aの信号光に対する反射率を99%とし、共振器用ファイバ15におけるOC-FBG15aの信号光に対する反射率を10%とした。
【0075】
上記第1実施形態のファイバレーザ装置1が備える光ファイバ接続体14の増幅用ファイバ14a,14bのコアにイッテルビウムが添加されている。増幅用ファイバ14aの単位長さ当たりの励起光の吸収量を0.85[dB/m]とし、長さを5[m]とした。また、増幅用ファイバ14bの単位長さ当たりの励起光の吸収量を2.25[dB/m]とし、長さを7[m]とした。このような光ファイバ接続体14の励起光の吸収量は、0.85[dB/m]×5[m]+2.25[dB/m]×7[m]=20[dB](つまり、99%)である。
【0076】
上記第2実施形態のファイバレーザ装置2が備える光ファイバ接続体14の増幅用ファイバ14a,14b,14cのコアにイッテルビウムが添加されている。増幅用ファイバ14aの単位長さ当たりの励起光の吸収量を0.85[dB/m]とし、長さを3[m]とした。また、増幅用ファイバ14bの単位長さ当たりの励起光の吸収量を1.5[dB/m]とし、長さを3[m]とした。また、増幅用ファイバ14cの単位長さ当たりの励起光の吸収量を4.3[dB/m]とし、長さを3[m]とした。このような光ファイバ接続体14の励起光の吸収量は、(0.85[dB/m]+1.5[dB/m]+4.3[dB/m])×3[m]=19.95[dB](つまり、ほぼ99%)である。
【0077】
また、ファイバレーザ装置1,2が備える光ファイバ接続体14を、1本の増幅用ファイバに代え、比較例1,2として用意した。比較例1における増幅用ファイバは、単位長さ当たりの励起光の吸収量が1.0[dB/m]であり、長さが20[m]である。比較例2における増幅用ファイバは、単位長さ当たりの励起光の吸収量が1.667[dB/m]であり、長さが12[m]である。つまり、比較例2は、誘導ラマン散乱を抑えるために、比較例1よりも増幅用ファイバの長さを短くし、単位長さ当たりの励起光の吸収量を大きくした。
【0078】
第2比較例における増幅用ファイバの単位長さ当たりの励起光の吸収量は、第1比較例における増幅用ファイバの単位長さ当たりの励起光の吸収量の5/3倍である。比較例1における増幅用ファイバの励起光の吸収量は、1.0[dB/m]×20[m]=20[dB](つまり、99%)である。比較例2における増幅用ファイバの励起光の吸収量は、1.66[dB/m]×12[m]=19.92[dB](つまり、ほぼ99%)である。
【0079】
図5A,
図5Bは、本発明の第1実施形態における光ファイバ接続体の解析結果を示す図である。
図6A,
図6Bは、本発明の第2実施形態における光ファイバ接続体の解析結果を示す図である。
図7A,
図7Bは、比較例1における光ファイバ接続体の解析結果を示す図である。
図8A,
図8Bは、比較例2における光ファイバ接続体の解析結果を示す図である。尚、
図5A,
図6A,
図7A,
図8Aは、光ファイバ接続体(増幅用ファイバ)の長手方向における残留励起光を示す図であり、
図5B,
図6B,
図7B,
図8Bは、光ファイバ接続体(増幅用ファイバ)の長手方向における発熱量を示す図である。
【0080】
解析に当たっては、第1,第2実施形態における光ファイバ接続体14の前方の端部に入射する励起光のパワーを3000[W]とした。比較例1,2における増幅用ファイバの前方の端部に入射する励起光のパワーも3000[W]とした。
【0081】
まず、比較例1について検討する。
図7Aを参照すると、増幅用ファイバ中の残留励起光は、励起光入射端からの位置が遠くなるにつれて徐々に減っていき、増幅用ファイバの他端の位置(20[m])では1%以下になっているのが分かる。また、
図7Bを参照すると、比較例1における増幅用ファイバの単位長さ当たりの発熱量の最大値は、61[W/m]程度である。ここで、誘導ラマン散乱を抑えるために、増幅用ファイバの長さを12[m]にした場合を考える。この場合における増幅用ファイバ中の残留励起光は、
図7Aを参照すると、189[W]であることから、励起光の利用率は94%に留まることが分かる。
【0082】
次に、比較例2について検討する。
図8Aを参照すると、増幅用ファイバ中の残留励起光は、励起光入射端からの位置が遠くなるにつれて徐々に減っていき、増幅用ファイバの他端の位置(12[m])では1%以下になっているのが分かる。但し、
図8Bを参照すると、比較例2における増幅用ファイバの単位長さ当たりの発熱量の最大値は、100[W/m]程度まで上昇してしまう。
【0083】
次いで、第1実施形態について検討する。
図5Aを参照すると、光ファイバ接続体14中の残留励起光は、増幅用ファイバの他端の位置(12[m])では1%以下になっているのが分かる。また、
図5Bを参照すると、第1実施形態における光ファイバ接続体14の単位長さ当たりの発熱量の最大値は、50[W/m]程度に抑えられているのが分かる。
【0084】
続いて、第2実施形態について検討する。
図6Aを参照すると、光ファイバ接続体14中の残留励起光は、増幅用ファイバの他端の位置(9[m])では1%以下になっているのが分かる。つまり、第1実施形態の光ファイバ接続体14の長さ(12[m])よりも短い長さ(9[m])で励起光が99%吸収されているのが分かる。また、
図6Bを参照すると、第2実施形態における光ファイバ接続体14の単位長さ当たりの発熱量の最大値は、第1実施形態と同様に、50[W/m]程度に抑えられているのが分かる。
【0085】
以上から、本発明の第1,第2実施形態では、光ファイバ接続体14の長さを、比較例1における増幅用ファイバの長さ20[m]よりも短い12[m]又は9[m]にすることができるため、誘導ラマン散乱を抑えることができる。また、本発明の第1,第2実施形態では、光ファイバ接続体14の長さが短くても、励起光を十分に吸収することができるため、ファイバレーザ装置1,2の効率低下が生ずることはない。また、本発明の第1,第2実施形態では、光ファイバ接続体14の単位長さ当たりの発熱量の最大値を、50[W/m]程度に抑えることができる。このように、本発明の第1,第2実施形態では、増幅用ファイバの発熱を抑えつつ増幅用ファイバの長さを短くすることができる。
【0086】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に制限されることなく、本発明の範囲内で自由に変更が可能である。例えば、上述した第1~第3実施形態では、
図2Bに示す方法で増幅用ファイバ14a~14dの単位長さ当たりの励起光の吸収量を変える場合には、添加領域20a内における活性元素の濃度を同じにしてコア20中の活性元素の添加面積を変えていた。しかしながら、コア20中の活性元素の添加面積を変えるとともに、添加領域20a内における活性元素の濃度を変えて、増幅用ファイバ14a~14dの単位長さ当たりの励起光の吸収量を変えるようにしてもよい。
【0087】
また、上述した実施形態のファイバレーザ装置1~3は、1つの出力端17を有しているが、出力端17の先にさらに光ファイバ等を接続してもよい。また、出力端17の先にビームコンバイナを接続し、複数のレーザ装置からのレーザ光を束ねるように構成されていてもよい。
【0088】
また、上述した第1,第2実施形態のファイバレーザ装置は、いわゆる前方励起型のファイバレーザ装置であり、上述した第3実施形態のファイバレーザ装置は、いわゆる双方向励起型のファイバレーザ装置であった。しかしながら、ファイバレーザ装置は、第3実施形態のファイバレーザ装置3(
図4参照)が備える励起光源11及びコンバイナ12が省略された、いわゆる後方励起型のファイバレーザ装置であってもよい。
【0089】
また、上述した実施形態のファイバレーザ装置1~3に設けられた光ファイバ接続体14を、MOPA(Master Oscillator Power Amplifier)方式のファイバレーザ装置に採用してもよい。例えば、主発振器(Master Oscillator)から出力されたレーザ光を、プリアンプ及びメインアンプで増幅するファイバレーザ装置である場合には、プリアンプ及びメインアンプで用いられる増幅用ファイバとして、上述した光ファイバ接続体14を用いることができる。
【符号の説明】
【0090】
1~3…ファイバレーザ装置、11…励起光源、12…コンバイナ、13…共振器用ファイバ、13a…HR-FBG、14…光ファイバ接続体、14a~14d…増幅用ファイバ、15…共振器用ファイバ、15a…OC-FBG、17…出力端、18…励起光源、19…コンバイナ、20…コア