(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-08
(45)【発行日】2024-08-19
(54)【発明の名称】当該プレコート鋼板から製造された溶接鋼部品の溶接金属ゾーンの機械的強度を高めるための追加コーティングを備えるプレコート鋼板
(51)【国際特許分類】
B23K 26/322 20140101AFI20240809BHJP
B23K 26/21 20140101ALI20240809BHJP
C23C 2/12 20060101ALI20240809BHJP
C23C 2/26 20060101ALI20240809BHJP
C22C 38/00 20060101ALN20240809BHJP
C22C 38/60 20060101ALN20240809BHJP
C22C 21/02 20060101ALN20240809BHJP
【FI】
B23K26/322
B23K26/21 F
C23C2/12
C23C2/26
C22C38/00 301T
C22C38/60
C22C21/02
(21)【出願番号】P 2022538957
(86)(22)【出願日】2020-12-15
(86)【国際出願番号】 IB2020061928
(87)【国際公開番号】W WO2021130602
(87)【国際公開日】2021-07-01
【審査請求日】2022-08-19
(31)【優先権主張番号】PCT/IB2019/061333
(32)【優先日】2019-12-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IB
(73)【特許権者】
【識別番号】515214729
【氏名又は名称】アルセロールミタル
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ジョウ,ユンホン
(72)【発明者】
【氏名】サハ,ドゥラル・チャンドラ
(72)【発明者】
【氏名】バイロ,エリオット
(72)【発明者】
【氏名】マックワン,アンドリュー
(72)【発明者】
【氏名】ゲルリヒ,エイドリアン・ピョートル
(72)【発明者】
【氏名】カーン,シェーヤー
【審査官】岩見 勤
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-518136(JP,A)
【文献】特表2017-514694(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/322
B23K 26/21
C23C 2/12
C23C 2/26
C22C 38/00
C22C 38/60
C22C 21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼基材(3)と、前記鋼基材(3)の表面と接触している金属プレコーティング(2)とを備えるプレコート鋼板の製造方法であって、前記方法が、少なくとも、前記プレコート鋼板(1、1’)の対向面(6a、6b)のうちの少なくとも一方(6a;6b)の周囲(7)の少なくとも一領域に追加コーティング(8、8’)をスピンコーティング、若しくはスプレー塗装、又はペイントブラシの使用によって金属合金コーティング(2)の上に適用する工程を含み、前記追加コーティング(8、8’)が、前記金属合金コーティング(2)より高い蒸発温度を有し、レーザ突合せ溶接法中にプレコーティング(2)と前記追加コーティング(8、8’)との間の蒸気圧をプレコーティング(2)が溶接部(14)から放出される臨界圧力まで増加させるために選択さ
れ、当該追加コーティングはニッケルを含み、その厚さは15~40μmである、方法。
【請求項2】
鋼基材(3)と、前記鋼基材(3)の表面と接触している金属プレコーティング(2)とを備えるプレコート鋼板の製造方法であって、前記方法が、少なくとも、前記プレコート鋼板(1、1’)の対向面(6a、6b)のうちの少なくとも一方(6a;6b)の周囲(7)の少なくとも一領域に追加コーティング(8、8’)をスピンコーティング、若しくはスプレー塗装、又はペイントブラシの使用によって金属合金コーティング(2)の上に適用する工程を含み、前記追加コーティング(8、8’)が、前記金属合金コーティング(2)より高い蒸発温度を有し、レーザ突合せ溶接法中にプレコーティング(2)と前記追加コーティング(8、8’)との間の蒸気圧をプレコーティング(2)が溶接部(14)から放出される臨界圧力まで増加させるために選択され、当該追加コーティングは炭素を含み、その厚さは30~85μmである、方法。
【請求項3】
追加コーティングがガンマ生成元素を含む、請求項
1又は2に記載の方法。
【請求項4】
追加コーティング(8、8’)が、炭素
及びニッケルを含む、請求項
1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
各々が鋼基材(3)と、前記鋼基材(3)の表面と接触している金属プレコーティング(2)とを備える少なくとも第1(1)及び第2(1’)のプレコート鋼板をレーザ突合せ溶接する工程を少なくとも含む鋼部品の製造方法であって、前記第1(1)及び第2(1’)のプレコート鋼板の対向面(6a、6b)のうちの少なくとも一方(6a;6b)の周囲(7)の少なくとも一領域が、スピンコーティング、若しくはスプレー塗装、又はペイントブラシの使用によって、金属合金コーティング(2)の上に適用される追加コーティング(8、8’)で事前にコーティングされており、前記追加コーティング(8、8’)が、前記金属合金コーティング(2)より高い蒸発温度を有し、レーザ突合せ溶接法中にプレコーティング(2)と前記追加コーティング(8、8’)との間の蒸気圧をプレコーティング(2)が溶接部(14)から放出される臨界圧力まで増加させるために選択さ
れ、当該追加コーティングはニッケルを含み、その厚さは15~40μmである、方法。
【請求項6】
各々が鋼基材(3)と、前記鋼基材(3)の表面と接触している金属プレコーティング(2)とを備える少なくとも第1(1)及び第2(1’)のプレコート鋼板をレーザ突合せ溶接する工程を少なくとも含む鋼部品の製造方法であって、前記第1(1)及び第2(1’)のプレコート鋼板の対向面(6a、6b)のうちの少なくとも一方(6a;6b)の周囲(7)の少なくとも一領域が、スピンコーティング、若しくはスプレー塗装、又はペイントブラシの使用によって、金属合金コーティング(2)の上に適用される追加コーティング(8、8’)で事前にコーティングされており、前記追加コーティング(8、8’)が、前記金属合金コーティング(2)より高い蒸発温度を有し、レーザ突合せ溶接法中にプレコーティング(2)と前記追加コーティング(8、8’)との間の蒸気圧をプレコーティング(2)が溶接部(14)から放出される臨界圧力まで増加させるために選択され、当該追加コーティングは炭素を含み、その厚さは30~85μmである、方法。
【請求項7】
前記第1(1)及び第2(1’)のプレコート鋼板の対向面(6a、6b)のうちの一方(6a)の周囲(7)の少なくとも一領域での追加コーティング(8、8’)の適用と、前記第1(1)及び第2(1’)のプレコート鋼板のレーザ突合せ溶接とが同時に行われる、請求項
5又は6に記載の方法。
【請求項8】
追加コーティング(8、8’)がガンマ生成元素を含む、請求項
5~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
追加コーティング(8、8’)が、炭素
及びニッケルを含む、請求項
5~
8のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に、当該プレコート鋼板から製造された溶接鋼部品の溶接金属ゾーンの機械的強度を高めるための追加コーティングを備えるプレコート鋼板に関する。
【0002】
本発明はまた、前記プレコート鋼板の製造方法に関する。
【0003】
本発明はさらに、溶接鋼部品の溶接金属ゾーンの機械的強度を高めるための追加コーティングを備える、少なくとも第1及び第2のプレコート鋼板のレーザ溶接により得られた鋼部品に関する。
【0004】
最後に、本発明は、前記鋼部品の製造方法に関する。
【0005】
従来技術は、互いに連続的に突合せ溶接される異なる組成及び/又は厚さの鋼ブランクから溶接鋼部品を製造する方法を開示している。第1の既知の製造モードでは、これらの溶接ブランクは冷間成形される。第2の既知の製造モードでは、これらの溶接ブランクは、鋼のオーステナイト化を可能にする温度に加熱され、次いで熱間成形され、成形型において急速に冷却される。本発明は、この第2の製造モードに関する。
【0006】
鋼の組成は、その後の加熱及び成形作業を可能にするため、及び溶接鋼部品に高い機械的強度、高い衝撃強度及び良好な耐食性を与えるための両方で選択することができる。
【背景技術】
【0007】
近年、ホウ素含有プレス硬化鋼(PHS)が、プレス硬化条件における優れた極限引張強度(1500~2000MPa)のために、自動車メーカーの間で注目を集めている。プレス硬化鋼の高い比強度及び部品設計におけるそれらの高い柔軟性のために、それらは、Bピラー、Aピラー及びドアリングなどの自動車用の耐衝撃性部品に広く使用されている。典型的には、プレス硬化鋼は、受け取ったままの状態のフェライト-パーライト組織からなり、その後、高温でオーステナイト化し、それに続いて約30℃/秒の臨界冷却速度で水冷金型を用いたプレス硬化中に周囲温度まで冷却すると、完全なマルテンサイト組織に変態する。プレス硬化鋼は、Al-Si、Zn及びZn-Niなどの種々の形態の耐食性合金コーティングとともに自動車産業でますます採用されており、それらの中でもAl-Siコーティングは、より良好な耐食性能及び高温耐酸化性能を有する。
【0008】
溶接鋼部品を製造するための既知の方法は、欧州特許出願公開第971044号明細書に記載されているように少なくとも2枚の鋼板を調達し、これらの2枚の鋼板を突合せ溶接して溶接ブランクを得、任意選択的にこの溶接ブランクを切断し、次いで、熱間成形作業を行う前に溶接ブランクを加熱して、その適用に必要な形状を鋼部品に付与することからなる。
【0009】
1つの既知の溶接技術は、レーザビーム溶接である。この技術は、シーム溶接又はアーク溶接などの他の溶接技術と比較して、柔軟性、品質及び生産性の点で利点を有する。
【0010】
しかしながら、溶接作業中、金属合金の層で覆われた鋼基材と接触している金属間化合物合金層からなるアルミニウム系プレコーティングは、溶接作業中に溶融状態にあるゾーンであり、この溶接作業後に凝固する溶接金属ゾーン内の鋼基材で希釈され、2枚のシート間に結合を形成する。
【0011】
プレコーティングのアルミニウム含有量の範囲において、マトリックス中の固溶体中のアルファ生成(alphagene)元素であるアルミニウムは、スタンピングに先行する工程中に起こるオーステナイトへの変態を防ぐ。その結果、熱間成形後の冷却中にマルテンサイトを得ることはもはや不可能であり、溶接シームはフェライトを含有する。次いで、溶接金属ゾーンは、2枚の隣接するシートの硬度及び機械的強度よりも低い硬度及び機械的強度を示し、溶接ゾーンにおける最終部品の重大な破壊につながる可能性がある。
【0012】
第3世代Zn系プレコート冷間プレス鋼のレーザ溶接によってもたらされる問題のあるレーザ溶接作業と、ホットスタンプ鋼のAl系コーティングの上記の有害な相互作用との間に類似点を見いだすことができる。非常に高い強度及び高い成形性を示し、冷間プレスによって複雑な構造部品を製造するために使用されるこのような第3世代鋼は、レーザ溶接中に液体金属脆化を受ける。これは、プレコーティングの液化亜鉛と基材の残留オーステナイトとの間の相互作用によるものである。
【0013】
上述の有害な相互作用を防ぐために、いくつかの解決策が開発されている。例えば、欧州特許出願公開第2007545号明細書には、溶接作業を受けるように定められたシートの周囲のレベルで、金属合金の表層を除去し、金属間化合物合金の層のみを残すことからなる解決策が記載されている。除去は、ブラッシング又はレーザビームによって行うことができる。金属間化合物合金層は、耐食性を保証し、成形作業に先行する熱処理中の脱炭及び酸化の現象を防ぐために保存される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】欧州特許出願公開第971044号明細書
【文献】欧州特許出願公開第2007545号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の目的は、レーザ溶接中の母材/プレコーティング相互作用に対する新規な解決策を提供することである。本発明は、製造が容易であり、前記プレコート鋼板から製造された溶接鋼部品の溶接金属ゾーンの機械的強度を高めるプレコート鋼板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
この目的のために、本発明の第1の主題は、プレコート鋼板の製造方法からなり、前記プレコート鋼板の対向面のうちの少なくとも一方の周囲の少なくとも一領域に少なくとも追加コーティングを適用する工程を含み、前記追加コーティングは、レーザ溶接法中にプレコーティングと前記追加コーティングとの間の蒸気圧をプレコーティングが溶接部から放出される臨界圧力まで増加させるために選択される。
【0017】
本発明による方法はまた、個別に又は組み合わせて考慮される、以下に列挙される任意の特徴を有してもよい。
【0018】
-追加コーティングの蒸発温度は、プレコーティングの蒸発温度より高い。
【0019】
-追加コーティングはガンマ生成元素を含む。
【0020】
-追加コーティングは、炭素及び/又はニッケルを含む。
【0021】
最後に、本発明はまた、少なくとも第1及び第2のプレコート鋼板をレーザ溶接する工程を少なくとも含む鋼部品の製造方法からなり、前記第1及び第2のプレコート鋼板の対向面のうちの少なくとも一方の周囲の少なくとも一領域は、レーザ溶接法中にプレコーティングと前記追加コーティングとの間の蒸気圧をプレコーティングが溶接部から放出される臨界圧力まで増加させるために選択された追加コーティングで事前にコーティングされている。
【0022】
本発明による方法はまた、個別に又は組み合わせて考慮される、以下に列挙される任意の特徴を有してもよい。
【0023】
-レーザ溶接は突合せレーザ溶接である。
【0024】
-前記第1及び第2のプレコート鋼板の対向面のうちの一方の周囲の少なくとも一領域での追加コーティングの適用と、前記第1及び第2のプレコート鋼板の溶接とが同時に行われる。
【0025】
-追加コーティングの蒸発温度は、プレコーティングの蒸発温度より高い。
【0026】
-追加コーティングはガンマ生成元素を含む。
【0027】
-追加コーティングは、炭素及び/又はニッケルを含む。
【0028】
本発明の他の特徴及び利点は、以下の説明においてさらに詳細に説明される。
【0029】
本発明は、単に説明の目的で提供されており、決して限定的であることを意図するものではない以下の説明を、以下の図を参照して読むことによってよりよく理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】本発明の一実施形態によるプレコート鋼板の斜視概略図である。
【
図2】本発明の一実施形態による方法の突合せレーザ溶接作業の斜視概略図である。
【
図3】Zn系プレコーティングを有し、追加コーティングなしの2枚のプレコート鋼板の突合せレーザ溶接作業の写真である。
【
図4】Zn系プレコーティングを有し、前記鋼板の周囲が本発明による追加コーティングでコーティングされている2枚のプレコート鋼板の突合せレーザ溶接作業の写真である。
【
図5】追加コーティングなしの場合を含む、炭素を含む追加コーティングの厚さの関数としての溶接ゾーンにおける総フェライト面積率を示すグラフである。
【
図6】追加コーティングなしの場合を含む、炭素を含む追加コーティングの厚さの関数としての溶接ゾーンにおけるアルミニウム重量百分率を示すグラフである。
【
図7】追加コーティングなしの場合を含む、炭素を含む追加コーティングの厚さの関数としての溶接ゾーンにおける炭素重量百分率を示すグラフである。
【
図8】追加コーティングなしの場合を含む、対応する追加コーティングの厚さの関数として、前記プレコート鋼板の周囲が炭素を含む追加コーティング及びニッケルを含む追加コーティングでコーティングされた2枚のプレコート鋼板の突合せレーザ溶接作業から生じた溶接ゾーンの極限引張強度の比較プロファイルを示す。
【
図9】Al系プレコーティングを有し、追加コーティングなしの2枚のプレコート鋼板の突合せレーザ溶接作業の写真である。
【
図10】Al系プレコーティングを有し、前記鋼板の周囲が本発明による追加コーティングでコーティングされている2枚のプレコート鋼板の突合せレーザ溶接作業の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明のプレコート鋼板は、一般に鋼基材を腐食から保護するように設計された金属コーティングでコーティングされる。プレコーティングの金属コーティングは、例えば、プレス硬化鋼の場合に一般的に使用されるAl系とすることができる。プレコーティングの金属コーティングは、例えば、冷間プレス鋼の場合に一般的に使用されるZn系とすることができる。Al系とは、コーティングが重量で少なくとも50%のAlを含有することを意味する。Zn系とは、コーティングが重量で少なくとも50%のZnを含有することを意味する。
【0032】
本発明のプレコート鋼板は、欧州特許出願公開第971044号明細書に記載されているような連続的な「ディップコーティング」と呼ばれる方法に従って、溶融アルミニウムの浴中に浸漬することによってコーティングされる。シートという用語は、ストリップ、コイル又はシートから切断することにより得られたあらゆるストリップ又は物体として広い意味で使用される。浸漬操作の対象であるアルミニウム浴はまた、8~11%のケイ素及び2~4%の鉄を含むことができる。したがって、プレコート鋼板のプレコーティングは、重量パーセントで、8~11%のケイ素及び2~4%の鉄を含む金属合金コーティングである。
【0033】
シートの鋼基材を構成する鋼は、重量パーセントで表される以下の組成:
0.10%≦C≦0.5%
0.5%≦Mn≦3%
0.1%≦Si≦1%
0.01%≦Cr≦1%
Ti≦0.2%
Al≦0.1%
S≦0.05%
P≦0.1%
0.0002%≦B≦0.010%
を示し、
残部は鉄及び加工による不可避の不純物である。
【0034】
互いに溶接されるシートは、同一の又は異なる組成であり得る。
【0035】
図1を参照すると、本発明のプレコート鋼板1は、鋼基材3と接触する金属合金コーティング2を備える。金属合金コーティング2は、鋼基材3の表面に接触するAlSiFeタイプの第1の金属間化合物合金層4を有する。この金属間化合物合金層4は、鋼基材3とアルミニウム浴との反応に起因する。この金属間化合物合金層4は、プレコーティング2の表面層を形成する金属合金層5で覆われている。プレコーティング2は、シート4の2つの対向面6a、6b上に存在する。
【0036】
本発明によれば、プレコート鋼板1の上面6aの周囲7の少なくとも一領域は、追加コーティング8でコーティングされる。本発明の一実施形態を示す
図1を参照すると、追加コーティング8は、シート1の自由縁9に沿って延在する。追加コーティング8の特性をさらに詳述する。
【0037】
本発明によれば、追加コーティング8は、スピンコーティング、若しくはスプレー塗装、又はペイントブラシの使用などの適用手段を用いた前記追加コーティング8の適用によって、上面6a上又は両面6a、6b上に適用することができ、前記適用手段は当業者に周知である。追加コーティング8は、
図2の表示に従って、レーザ溶接作業の前に行われる別個のステップか、又はレーザ溶接作業と同じ加工ステップのいずれかで適用される。
【0038】
図2を参照すると、第1のシート1及び第2のシート1’は、それらのそれぞれの自由縁9、9’間の接触又はほぼ接触による従来のレーザ溶接技術による突合せ継手又は突合せ溶接構成として知られている端と端とを接して配置される。
【0039】
図2は、各シート1、1’の周囲に追加コーティング8、8’の適用を確実にする少なくとも1つの適用手段12を備え、レーザビーム13をさらに備える溶接ヘッド11を備えるレーザ溶接機10の一部を示す。レーザ溶接作業中、レーザ溶接機10と溶接されるシートとの間の相対移動が確保され、溶接機10の相対移動は矢印Fで示す溶接方向に従う。追加コーティング8、8’は、レーザビーム13の上流に位置する適用手段12によってプレコート鋼板1、1’のそれぞれの周囲に適用される。同時に、レーザビーム13は、周囲が追加コーティング8、8’で既にコーティングされている鋼板1、1’間の接合部に沿って溶接を行い、次いで2枚の鋼板1、1’を互いに接続する溶接金属ゾーン14を形成する。代替的に、レーザビームは、
図2に示されていないフィラーワイヤと組み合わされてもよい。得られた鋼部品100は、溶接金属ゾーン14によって接合された母材101、101’と呼ばれる基本的に2つのプレートを含む。
【0040】
溶接方法は、当業者に周知の条件下及び装置を用いて実現される。
【0041】
追加コーティング8は、まず、プレコーティング2とともに考慮されるそれ自体の能力に基づいて、レーザ溶接中に前記プレコーティング2と前記追加コーティング8との間の蒸気圧をプレコーティング2が溶接部から放出される臨界圧力まで増加させるために選択される。プレコーティング2がAlSiFeタイプである場合、溶接ゾーンからのその放出は、さらに詳述するように、溶接金属ゾーンにおけるアルミニウム含有量を省くか、又は少なくとも制限することにつながる。
【0042】
そのような放出を提供するために、追加コーティング8は、プレコーティング2と前記追加コーティング8との間の蒸気圧がレーザ溶接中に十分に増加することを可能にする状態に維持する必要がある。この目的のために、好ましくは、追加コーティング8の蒸発温度は、プレコーティング2の蒸発温度よりも高く、その結果、プレコーティング2と追加コーティング8との間の溶接ゾーンにおける温度上昇によるプレコーティング2の蒸発は、蒸気圧を、追加コーティング8がプレコーティング2の一部に沿って放出される臨界圧力まで増加させることができる。AlSiFeタイプのプレコーティング2の蒸発温度がアルミニウムの約2520℃の蒸発温度に相当することを考慮すると、少なくとも2720℃を超える蒸発温度を有する追加コーティング8を有することが好ましい。
【0043】
追加コーティング8は、好ましくは、溶接ゾーンにガンマ生成元素をもたらすように選択されてもよい。例えば、追加コーティング8は、有利には、炭素及び/又はニッケルを含む。炭素は約3500℃の蒸発温度を有し、ニッケルは約2913℃の蒸発温度を有するので、それらは両方とも、上で説明したようにプレコーティング2と追加コーティング8との間の蒸気圧の十分な増加を可能にする可能性のある候補である。追加コーティング8が炭素系である場合、PELCO(R)Conductive Graphite Isopropanol basedを有利に使用することができる。
【0044】
図3、4及び9、10を参照すると、追加コーティングを含む本発明のプレコート鋼板のレーザ溶接は、追加コーティングを含まないプレコート鋼板のレーザ溶接(
図3及び9)と比較して、スパークの形態で材料(アルミニウム)放出を伴う(
図4及び10)ことが観察できる。
【0045】
本発明によれば、追加コーティング8は、プレコート鋼板1の一方の面上、又は両法の対向面上に周囲に沿って適用することができる。
【0046】
追加コーティング8がプレコート鋼板1の一方の面上に適用される場合、及び追加コーティング8が純ニッケルを含む場合、前記追加コーティング8の厚さは、15~40μm、好ましくは20~30μm、最も好ましくは約25μmであってもよい。
【0047】
追加コーティング8がプレコート鋼板1の一方の面上に適用される場合、及び追加コーティング8が炭素(PELCO(R)Conductive Graphite Isopropanol based)を含む場合、前記追加コーティング8の厚さは、30~85μm、好ましくは35~50μm、最も好ましくは約40μmであってもよい。
【0048】
追加コーティング8の幅は、少なくとも溶接ゾーンを覆うように調整される。この目的のために、追加コーティング8の幅は、2mm~5mmであってもよい。
【実施例】
【0049】
[実施例1]
この実施例では、追加コーティング8を、互いに溶接されるように意図された各プレコート鋼板1、1’の一方の面(上面)上にのみ適用する。
【0050】
各プレコート鋼板1、1’は、Al-Siコートプレス硬化鋼(PHS)(USIBOR(R)1500)である。
【0051】
使用したプレス硬化鋼の化学組成を以下の表1に示す。
【0052】
【0053】
Al-Siのプレコーティング2は、90重量%のアルミニウム及び8重量%のケイ素及び2%の鉄を含む。プレコーティング2の厚さは約15マイクロメートルである。
【0054】
図5、6及び7を参照すると、追加コーティング8は、商品名PELCO(R)Conductive Graphite Isopropanol basedで市販されているイソプロパノール系グラファイト抵抗性ドライフィルム潤滑剤コーティングである。この実施例では、最初に、ビードオンプレートタイプの構成を使用して突合せ溶接作業をシミュレートした。この構成では、溶接されるように並んで配置された2つの別個のプレコート鋼板(突合せ溶接構成)を使用する代わりに、追加コーティングの事前適用の有無にかかわらず、シートの表面にレーザビームを照射することによってレーザ溶接作業がシミュレートされる単一のシートを使用して実験が行われる。それは突合せ溶接加工と同じタイプのレーザ及び同じ材料を使用するので、ビードオンプレート構成は、レーザビームによってもたらされるエネルギーの効果、並びに基材、プレコーティング及び追加コーティングの間の相互作用に関連する物理現象をシミュレートするための便利な方法である。それは溶接される2枚のシートを並べて設置する必要がないため、突合せ溶接よりも実施が簡単であり、したがって、実験を行うのに便利である。
【0055】
プレコート鋼板を、IPG photonicsのイッテルビウムファイバーレーザシステム(モデル:YLS-6000-S2)を使用して、それぞれ出力4kW及び速度4m/分で、ビードオンプレート構成で溶接する。レーザ溶接システムの詳細な説明を以下の表2に示す。
【0056】
【0057】
溶接後、溶接されたシートを930℃の炉内で5分間オーステナイト化し、続いて平坦なダイ間で急冷する。
【0058】
フェライト含有量(
図5の参照符号15)、アルミニウム含有量(
図6の参照符号16)及び炭素含有量(
図7の参照符号17)を、炭素追加コーティング8の厚さの関数として、Clemex Vision Liteソフトウェアを使用する画像解析によって溶融部で測定する。
【0059】
図5を参照すると、溶接金属ゾーンのフェライト面積率15は、溶接シートが追加コーティングでコーティングされていない場合の溶接金属ゾーンのフェライト面積率と比較して、20μmの炭素コーティング厚さでは大幅に減少し、40μmの炭素コーティング厚さでは最も大幅に30%減少することが観察できる。
【0060】
このフェライト面積率の減少は、レーザ溶接中のAl-Siのプレコーティング2中に含有されるアルミニウムの放出によって説明することができる。この放出は
図6によって確認され、溶接金属ゾーンのアルミニウム重量百分率16は、溶接シートが追加コーティングでコーティングされていない場合の溶接金属ゾーンのアルミニウム重量百分率と比較して、20μmの炭素コーティング厚さでは大幅に減少し、40μmの炭素コーティング厚さでは最も大幅に30%減少することが観察できる。
【0061】
同時に、
図7に示すように、溶接金属ゾーンの炭素重量百分率は、炭素コーティング厚さの増加とともに増加する。
【0062】
図8は、本発明の2つのプレコート鋼板の突合せ継手構成におけるレーザ溶接作業から生じた溶接ゾーンの極限引張強度の比較プロファイルを示し、それらは両方とも、追加コーティング厚さの関数として、炭素(参照符号19)及びニッケル(参照符号18)の追加コーティングでそれぞれコーティングされている。参照符号20は、鋼基材の1543MPaの極限引張強度を示す。
【0063】
ニッケルを含む追加コーティング(参照符号19)の場合、極限引張強度は、25μmの追加コーティング厚さで1539MPaの極限引張強度に達し、その後、破壊は金属溶接ゾーンから母材に移行する。金属溶接ゾーンにおける系統的な破損を回避するため、参照曲線19の形状を参照すると、ニッケルコーティングの厚さは、15~40μm、好ましくは20~30μmであってもよい。
【0064】
炭素を含む追加コーティング(参照符号18)の場合、極限引張強度は、40μmの追加コーティング厚さで1555MPaの極限引張強度に達し、その後、破壊は金属溶接ゾーンから母材に移行する。金属溶接ゾーンにおける系統的な破損を回避するため、参照曲線18の形状を参照すると、炭素コーティングの厚さは、30~85μm、好ましくは35~50μmであってもよい。
【0065】
[実施例2]
この実施例では、プレコーティングは、冷間プレス鋼の場合に典型的に使用されるZn系プレコーティングである。実験は突合せ溶接構成を使用して行った。使用される追加コーティングはNi系コーティングである。
図9は、追加コーティングなしで行われた突合せ溶接作業の写真である。見てわかるように、プレコーティングの排出は起こらない。一方、
図10に見られるように、溶接される縁部に適用された追加コーティングを有するシートの場合、プレコーティングの排出はスパークの形態で発生する。
【0066】
要約すると、プレコート鋼板は、溶接前に各プレコート鋼板の周囲の領域の少なくとも1つの面上にコーティングされた炭素又はニッケルの追加コーティングを導入することにより、突合せ継手レーザ溶接によって首尾よく接合された。溶接金属ゾーンにおけるアルミニウム含有量は、軟質なデルタフェライト相を形成するのに必要な臨界値未満にまで減少させられ、したがって、溶融プールにおけるデルタフェライト相の形成が抑制/排除される。溶接金属ゾーンのミクロ組織は、フェライト-マルテンサイト二相組織から完全なマルテンサイト組織に変態し、これはプレス硬化状態の溶接されていない母材と比較して高い機械的特性(微小硬度及び引張特性の両方)を示す。溶接されていない母材と同等の極限引張強度が得られ、破壊経路は溶接金属ゾーンから母材に移行した。プレコート鋼部品のホットスタンプ後の溶接継手強度及び延性は、溶接されていない母材(base)のプレス硬化鋼のレベルまで向上する。