IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国際航業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-監視システム 図1
  • 特許-監視システム 図2
  • 特許-監視システム 図3
  • 特許-監視システム 図4
  • 特許-監視システム 図5
  • 特許-監視システム 図6
  • 特許-監視システム 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-08
(45)【発行日】2024-08-19
(54)【発明の名称】監視システム
(51)【国際特許分類】
   G06T 5/50 20060101AFI20240809BHJP
   G06T 5/70 20240101ALI20240809BHJP
   G06T 7/00 20170101ALI20240809BHJP
   G06T 7/215 20170101ALI20240809BHJP
   G06T 7/254 20170101ALI20240809BHJP
   G06T 7/70 20170101ALI20240809BHJP
   H04N 7/18 20060101ALI20240809BHJP
【FI】
G06T5/50
G06T5/70
G06T7/00 300F
G06T7/215
G06T7/254 Z
G06T7/70 B
H04N7/18 D
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2023015232
(22)【出願日】2023-02-03
【審査請求日】2023-08-02
(73)【特許権者】
【識別番号】390023249
【氏名又は名称】国際航業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001335
【氏名又は名称】弁理士法人 武政国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 匠
(72)【発明者】
【氏名】久保 毅
【審査官】中田 剛史
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-201275(JP,A)
【文献】特開2008-093172(JP,A)
【文献】特開2021-043089(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06T 5/50
G06T 7/70
G06T 7/00
G06T 7/215
G06T 7/254
G06T 5/70
H04N 7/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1地点に設置され、対象物の画像を定期的又は断続的に取得する定点カメラと、
前記定点カメラが取得した画像の輝度と、あらかじめ定めた輝度閾値と、を照らし合わせ、画像のうち輝度が該輝度閾値を上回る部分をマスク範囲として設定するとともに、画像のうち該マスク範囲を除く部分を使用範囲として設定するマスク処理手段と、
あらかじめ定めた撮影期間に前記定点カメラが取得した複数の画像をまとめた期間画像に基づいて期間代表画像を生成する代表画像生成手段と、
2時期に係る前記期間代表画像の間でパターンマッチングを行い、該期間代表画像どうしで共通する部分を共通領域として抽出するマッチング処理手段と、
前記期間代表画像における前記共通領域の位置が2時期で相違し、該共通領域どうしの移動量があらかじめ定めた移動量閾値を超えるとき、該共通領域を変化領域として抽出する変化領域抽出手段と、を備え、
前記マスク処理手段は、画像のうち輝度が前記輝度閾値を上回る画素をマスク画素として設定するとともに、集合した該マスク画素の数があらかじめ定めたクラスタ閾値を超える集合部分を前記マスク範囲として設定し、
前記代表画像生成手段は、前記期間画像のうち前記使用範囲を用いて、同一の画素に係る輝度の平均である平均輝度値を求めるとともに、該平均輝度値を各画素に付与することによって前記期間代表画像として生成する、
ことを特徴とする監視システム。
【請求項2】
2時期に係る前記共通領域の移動方向があらかじめ定めた方向閾値の範囲内にある該共通領域を、方向ノイズとして抽出する方向ノイズ抽出手段を、さらに備え、
前記方向閾値は、鉛直上向きから所定幅で設定された範囲であり、
前記変化領域抽出手段は、前記共通領域から前記方向ノイズを除いて前記変化領域を抽出する、
ことを特徴とする請求項1記載の監視システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、対象物の動態観察に関する技術であり、より具体的には、定点カメラで取得した写真によって対象物の変化領域を抽出する監視システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
我が国の国土は、その2/3が山地であるといわれており、したがって斜面を背後とする土地に住居を構えることも多く、道路や線路などは必ずといっていいほど斜面脇を通過する区間がある。そして斜面は、崩壊や地すべりといった災害の可能性を備えており、これまでもたびたび斜面崩壊等によって甚大な被害を被ってきた。
【0003】
崩壊のおそれがある斜面(自然斜面や、人工的なのり面を含む)、あるいは地すべりの兆候のある斜面では、その動きを監視するために計測が行われることがある。例えば、地すべり兆候のある斜面では、伸縮計や抜き板を利用した計測、孔内傾斜計による計測、地表面変位計測などが実施されていた。しかしながら、伸縮計や抜き板による計測では、地すべり境界(特に頭部)に亘って設置しなければ効果がなく、孔内伸縮計も地すべり深度を正確に推定しなければ効果がない上に、多数箇所設けるとコストがかかるという問題がある。
【0004】
地表面変位計測は、斜面上に設置した多数の観測点の座標を求め、経時的な変位を検出することで斜面の動きを監視することから、直接的に異常を把握することができるうえ、伸縮計や孔内傾斜計のようにその効果が計器設置場所に依存することがないという長所がある。しかしながら、観測点の設置に人が斜面に立ち入ることから危険が伴い、さらにトータルステーションなどを用いて人が観測点を測位しなければならないため大きな手間とコストを余儀なくされていた。
【0005】
そこで、トータルステーション等による直接計測に代わる種々の監視技術が、これまで提案されている。例えば特許文献1では、斜面を撮影した画像を利用して当該斜面の動きを監視する技術について提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2019-201275号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示される発明は、定点カメラから得られる画像(単写真)を利用し、あらかじめ予想し得るノイズを除去したうえで対象物を監視することができるものである。この発明によれば、対象物のリアルタイム監視と常時監視が実現でき、しかも従来技術に比べて機器にかかる費用や設置にかかる費用が抑えられる。他方、2時期に撮影された単写真どうしを比較するため、ある程度はノイズが生ずることは避けられない。また、雲がかかるなど画像中に一部でも使用できない領域がある場合、その単写真は利用することができなかった。
【0008】
本願発明の課題は、従来の問題を解決することであり、すなわち複数の写真に基づいて評価用の画像を生成し、しかも画像のうち部分的に使用できない領域があってもその他の領域を利用して評価用の画像を生成したうえで、対象物を監視することができる監視システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明は、ある期間内に撮影された画像に基づいて評価用の画像を生成したうえで2時期の状況を比較する、という点に着目したものであり、従来にはなかった発想に基づいてなされた発明である。
【0010】
本願発明の監視システムは、1地点に設置される定点カメラと、マスク処理手段、代表画像生成手段、マッチング処理手段、変化領域抽出手段を備えたものである。このうち定点カメラは、対象物の画像を定期的(あるいは断続的)に取得するものである。またマスク処理手段は、定点カメラが取得した画像の輝度と、あらかじめ定めた輝度閾値とを照らし合わせ、画像のうち輝度が輝度閾値を上回る部分をマスク範囲として設定するとともに、画像のうちマスク範囲を除く部分を使用範囲として設定する手段である。代表画像生成手段は、あらかじめ定めた撮影期間に定点カメラが取得した複数の画像をまとめた期間画像に基づいて期間代表画像を生成する手段であり、マッチング処理手段は、2時期に係る期間代表画像の間でパターンマッチングを行い期間代表画像どうしで共通する部分を共通領域として抽出する手段である。変化領域抽出手段は、期間代表画像における共通領域の位置が2時期で相違し、共通領域どうしの移動量があらかじめ定めた移動量閾値を超えるとき、共通領域を変化領域として抽出する手段である。なお代表画像生成手段は、期間画像のうち使用範囲を用いて、同一の画素に係る輝度の平均である平均輝度値を求めるとともに、平均輝度値を各画素に付与することによって期間代表画像として生成する。
【0011】
本願発明の監視システムは、複数のマスク画素が集合した領域をマスク範囲として設定するものとすることもできる。この場合、マスク処理手段は、画像のうち輝度が輝度閾値を上回る画素をマスク画素として設定するとともに、集合したマスク画素の数があらかじめ定めたクラスタ閾値を超える集合部分をマスク範囲として設定する。
【0012】
本願発明の監視システムは、方向ノイズ抽出手段をさらに備えたものとすることもできる。この方向ノイズ抽出手段は、共通領域の移動方向があらかじめ定めた方向閾値の範囲内にある変化領域候補を「方向ノイズ」として抽出する手段である。なお方向閾値は、鉛直上向きから所定幅で設定された範囲である。この場合、変化領域抽出手段は、方向ノイズを除いて変化領域を抽出する。
【発明の効果】
【0013】
本願発明の監視システムには、次のような効果がある。
(1)複数の期間画像に基づいて期間代表画像を生成したうえで変化領域を抽出することから、2時期の単写真を比較するケースに比べてノイズの発生を抑えることができる。その結果、従来技術より高い精度で変化領域を抽出することができる。
(2)画像のうち部分的に使用できない領域があってもその他の領域を利用して期間代表画像を生成することから、従来技術より効率よく変化領域を抽出することができる。
(3)「方向ノイズ」を除去することで、実際に有意な変化があった領域を的確に抽出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本願発明の監視システムの主な構成を示すブロック図。
図2】(a)はマスク画素とマスク範囲が抽出されたグレースケール画像を模式的に示すモデル図、(b)はグレースケール画像からマスク範囲が取り除かれた処理後画像を模式的に示すモデル図。
図3】撮影期間と期間画像、期間代表画像を模式的に示すモデル図。
図4】ターンマッチングを行って抽出された「7つの画素からなる凸状の共通領域」を示すモデル図。
図5】共通領域に係る移動ベクトルを模式的に示すモデル図。
図6】鉛直上向きから両側に所定幅で設定した変化方向閾値を示すモデル図。
図7】本願発明の監視システムの主な処理の流れを示すフロー図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本願発明の監視システムの実施形態の一例を、図に基づいて説明する。
【0016】
はじめに、本願発明の概要について説明する。本願発明は、1地点に設置されるカメラ(以下、「定点カメラ」という。)で撮影した写真を用いて対象とする物(以下、単に「対象物」という。)の変化を監視するものであり、より詳しくはあらかじめ定めた期間(以下、「撮影期間」という。)内に定点カメラで撮影した複数の単写真(以下、「期間画像」という。)を用いて代表的な画像(以下、「期間代表画像」という。)を生成するとともに、2時期の期間代表画像を照らし合わせることによって対象物の変化を監視する技術である。なお本願発明は、様々なものを対象物として実施することができるが、便宜上ここでは対象物が斜面(自然斜面やのり面など)の場合で説明する。
【0017】
図1は、本願発明の監視システム100の主な構成を示すブロック図である。この図に示すように本願発明の監視システム100は、定点カメラ101とマスク処理手段102、代表画像生成手段103、マッチング処理手段104、変化領域抽出手段105を含んで構成され、さらに方向ノイズ抽出手段106や画像記憶手段107を含んで構成することもできる。
【0018】
監視システム100を構成する各手段のうち、マスク処理手段102と代表画像生成手段103、マッチング処理手段104、変化領域抽出手段105を含んで構成され、さらに方向ノイズ抽出手段106に関しては、専用のものとして製造することもできるし、汎用的なコンピュータ装置を利用することもできる。すなわち、所定のプログラムによってコンピュータ装置に演算処理を実行させることで、それぞれの手段特有の処理を行うわけである。このコンピュータ装置は、パーソナルコンピュータ(PC)や、iPad(登録商標)といったタブレット型PC、スマートフォンを含む携帯端末、あるいはPDA(Personal Data Assistance)などによって構成することができる。コンピュータ装置は、CPU等のプロセッサ、ROMやRAMといったメモリを具備しており、さらにマウスやキーボード等の入力手段やディスプレイを含むものもある。
【0019】
以下、本願発明の監視システム100を構成する主な要素ごとに詳しく説明する。
【0020】
(定点カメラと画像記憶手段)
監視システム100を構成する定点カメラ101は、従来利用されているカメラを用いることができ、例えば野生動物撮影用のトレイルカメラなどを利用することができる。この定点カメラ101は、人が操作することなく自動的に撮影するものが望ましく、例えば1時間や30分間隔で定期的(あるいは不定期的、断続的)に撮影するように設定するとよい。また定点カメラ101は、対象物である斜面を俯瞰して撮影できる位置(1地点)に設置され、同じ位置から同じ方向を撮影するため、基本的には斜面のうち同じ範囲の画像が取得される。なお、比較的長期(数か月~1年程度)にわたって自動撮影する場合は、相当のバッテリが用意される。
【0021】
定点カメラ101が長期にわたってしかも定期的に撮影することから、取得する画像は膨大な数となる。この画像を記憶するのが画像記憶手段107である。画像記憶手段107は、例えばデータベースサーバに構築することができ、定点カメラ101の周辺に配置してローカルなネットワーク(LAN:Local Area Network)で定点カメラ101と接続(画像データ通信)することもできるし、インターネット経由(この場合は無線通信)で保存するクラウドサーバとすることもできる。
【0022】
(マスク処理手段)
マスク処理手段102は、それぞれの画素が有する輝度に基づいて、定点カメラ101が取得した画像(以下、「原画像」という。)を「マスク範囲」と「使用範囲」に分ける手段である。そのため原画像は、画素ごとに輝度が付与された画像(以下、「グレースケール画像」という。)に変換される。すなわち、原画像の画素が有する画素値(例えばRGBなど)に応じて、相応の輝度をその画素に付与することによってグレースケール画像に変換する。もちろん、原画像がグレースケールとして取得されている場合は、その原画像をグレースケール画像に変換する必要はない。なお、グレースケール画像に変換するにあたっては、従来用いられている種々の技術を利用することができる。
【0023】
以下、マスク処理手段102が「マスク範囲」と「使用範囲」に分ける手順について説明する。まずマスク処理手段102は、グレースケール画像の画素ごとに輝度とあらかじめ定めた閾値(以下、「輝度閾値」という。)を照らし合わせ、その輝度が輝度閾値を上回る(あるいは、以上となる)とき、その画素を「マスク画素」として抽出する。相当程度に輝度が高い画素は、霞や雲がかかった部分と推測することができ、後述するように対象物の一部をマッチングする際には有益ではなく、むしろノイズとして作用することから、画像から取り除く候補としてマスク画素を抽出するわけである。例えば図2(a)では、9×6画素で構成される原画像を示しており、そのうち網掛された9の「マスク画素」が抽出されている。
【0024】
マスク画素が抽出されると、そのマスク画素をそのまま、つまりマスク画素ごとに「マスク範囲」として抽出することができる。あるいは、マスク画素が互いに隣接することで集合した領域(以下、単に「マスク集合領域」という。)を構成するマスク画素の数(以下、「集合画素数」という。)が、あらかじめ定めた閾値(以下、「クラスタ閾値」という。)を超えるとき、そのマスク集合領域を「マスク範囲」として抽出することもできる。例えば図2(a)のケースでは、集合画素数が5のマスク集合領域(画像のうち左上部)と、集合画素数が2のマスク集合領域(画像のうち右下部)、集合画素数が1のマスク集合領域(2個所)が形成されており、そしてクラスタ閾値が3で設定されている。したがってこの場合、集合画素数が5のマスク集合領域のみがマスク範囲として抽出されることとなる。
【0025】
またマスク処理手段102は、グレースケール画像のうちマスク範囲を除く部分を「使用範囲」として設定するとともに、グレースケール画像からマスク範囲が取り除かれた画像、換言すれば使用範囲のみによって構成される画像(以下、「処理後画像」という。)を生成する。例えば図2の場合、集合画素数5のマスク集合領域がマスク範囲として抽出されているため、図2(b)に示すようにグレースケール画像からこのマスク範囲が取り除かれた処理後画像が生成されている。
【0026】
(代表画像生成手段)
代表画像生成手段103は、定点カメラ101が撮影期間に撮影した複数の単写真(つまり、期間画像)に基づいて期間代表画像を生成する手段である。図3は、撮影期間と期間画像、期間代表画像を模式的に示すモデル図である。ただし、期間代表画像を生成するために用いられる期間画像は、図3に示すようにマスク範囲が取り除かれた処理後画像が対象とされる。以下、代表画像生成手段103が期間代表画像を生成する手順について説明する。
【0027】
まず、同一の期間画像に含まれる複数の期間画像(処理後画像)を読み出し、期間画像(つまり、使用範囲)を構成する画素の輝度を読み出す。そして、複数の期間画像において同一の位置にある画素の輝度を用いてその平均値(以下、「平均輝度値」という。)を算出する。例えば、左上隅にある画素を期間画像の数だけ抽出し、それぞれの画素の輝度を総和するとともに、その総和を期間画像の数で除すことによって左上隅の画素に係る平均輝度値を算出する。ただし、ここで利用される期間画像はいずれもマスク範囲が取り除かれた処理後画像であるため、画素の位置によっては期間画像に対応する画素がないこともある。すなわち図2(b)に示す処理後画像の形状は、同じ撮影期間に含まれる期間画像であっても相違し、平均輝度値の算出に用いられる画素数もその位置ごとに異なるわけである。したがって、全ての期間画像に係る輝度が平均輝度値の算出に用いられるわけではない。
【0028】
そして、原画像を構成する全ての画素(図2の場合は9×6画素)について平均輝度値が得られると、それぞれの画素に平均輝度値を付与することによって期間代表画像を生成する。もちろん期間代表画像は、撮影期間ごとに生成される。なお、図3に示すように前後に重複することなく撮影期間を設定したうえで期間代表画像を生成する仕様とすることもできるし、前後で一部が重複するように撮影期間を設定したうえで期間代表画像を生成する仕様とすることもできる。
【0029】
(マッチング処理手段)
マッチング処理手段104は、2時期に係る期間代表画像の間でパターンマッチングを行い、期間代表画像どうしで共通する部分(以下、「共通領域」という。)を抽出する手段である。具体的には、異なる時期の撮影期間に基づいて生成された2つの期間代表画像を照らし合わせ、パターンマッチングを行うことで共通領域を抽出する。たとえば図4では、第1時期に係る期間代表画像(上図)と第2時期に係る期間代表画像(下図)を用いてパターンマッチングを行った結果、7つの画素からなる凸状の共通領域が抽出されている。
【0030】
(変化領域抽出手段)
変化領域抽出手段105は、その共通領域に係る移動ベクトルを求めるとともに、共通領域から「変化領域」を抽出する手段である。図4を見ると、第1時期に係る期間代表画像における共通領域の位置と、第2時期に係る期間代表画像における共通領域の位置が相違しており、つまり共通領域が移動したことが推認される。そして、共通領域が相当程度に移動した場合、それは監視すべき「変化領域」として抽出することとした。そこで変化領域抽出手段105は、図5に示すように、それぞれの共通領域の位置に基づいて、つまり共通領域の同じ位置を結ぶことによって、その離隔(以下、「移動量」という。)と、その方向(以下、「移動方向」という。)からなる移動ベクトルを求める。この場合、早い時期(図5では第1時期)に係る共通領域を起点とし、遅い時期(図5では第2時期)に係る共通領域を終点としたうえで、移動ベクトルを求めるとよい。
【0031】
移動ベクトルが得られると、変化領域抽出手段105は移動量に基づいて変化領域を抽出する。具体的には、移動量とあらかじめ定めた閾値(以下、「移動量閾値」という。)を照らし合わせ、その移動量が移動量閾値を超える(あるいは、以上となる)とき、その移動量に係る共通領域を変化領域として抽出する。
【0032】
(方向ノイズ抽出手段)
方向ノイズ抽出手段106は、2時期に係る共通領域の移動方向があらかじめ定めた閾値(以下、「方向閾値」という。)の範囲内にある共通領域を、ノイズ(以下、「方向ノイズ」という。)として抽出する手段である。移動量が移動量閾値を超える共通領域であっても、斜面の変動としてはおよそ考えられない移動ベクトルが生じていることもある。例えば、浅層崩壊や深層崩壊、地すべり、土石流など、異常のある斜面の一部は重力方向(つまり下向き)に変動するはずであり、対象物である斜面を監視するにあたっては少なくとも重力に逆らう方向(鉛直上向き)に移動した共通領域(いわば変化領域の候補)は除外することが望ましい。
【0033】
そこで、上記のような共通領域は、方向ノイズとして変化領域から除外することとした。具体的には、移動ベクトルの移動方向が概ね上向きであればその共通領域は方向ノイズとして判定し、変化領域としては抽出しない。なお、変位ベクトルの変位方向が概ね上向きであると判断するにあたっては、あらかじめ基準となる方向閾値を定めておき、変位ベクトルの変位方向がこの方向閾値の範囲内にあるときに概ね上向きであると判断するとよい。この方向閾値は、例えば図6に示すように、鉛直上向きから両側に所定幅で設定した範囲とすることができる。
【0034】
(処理の流れ)
以下、図7を参照しながら本願発明の監視システム100の主な処理について詳しく説明する。図7は、本願発明の監視システムの主な処理の流れの一例を示すフロー図であり、中央の列に実施する処理を示し、左列にはその処理に必要な入力情報を、右列にはその処理から生まれる出力情報を示している。
【0035】
定点カメラ101が例えば1時間や30分間隔で定期的(あるいは不定期的、断続的)に原画像を取得すると(図7のStep210)、その画像は画像記憶手段107に記憶されていく。そしてマスク処理手段102が、画像記憶手段107に記憶された原画像に基づいてグレースケール画像を作成するとともに、そのグレースケール画像を「マスク範囲」と「使用範囲」に分類する(図7のStep220)。ただし原画像がグレースケールとして取得されている場合は、その原画像をグレースケール画像に変換する必要がないのは既述したとおりである。
【0036】
グレースケール画像がマスク範囲と使用範囲に分類されると、マスク処理手段102が「マスク範囲」を抽出する。このとき、マスク画素をそのままマスク範囲として抽出することもできるし、マスク集合領域を構成する集合画素数がクラスタ閾値を超えるときにそのマスク集合領域をマスク範囲として抽出することもできる。そしてマスク範囲が抽出されると、マスク処理手段102がグレースケール画像からマスク範囲を取り除くことで「処理後画像」を生成する(図7のStep230)。
【0037】
処理後画像が生成されると、代表画像生成手段103が撮影期間に撮影された複数の期間画像に基づいて「期間代表画像」を生成する(図7のStep240)。期間代表画像が生成されると、マッチング処理手段104が2時期に係る期間代表画像の間でパターンマッチングを行うことで「共通領域」を抽出する(図7のStep250)。次いで変化領域抽出手段105が、その共通領域に係る移動ベクトルを求める。
【0038】
共通領域に係る移動ベクトルが得られると、方向ノイズ抽出手段106がその移動方向が方向閾値の範囲内にある共通領域を「方向ノイズ」として抽出する(図7のStep260)。そして変化領域抽出手段105が、方向ノイズとされた共通領域を除外したうえで、その移動量が移動量閾値を超える共通領域を「変化領域」として抽出する(図7のStep270)。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本願発明の監視システムは、自然斜面や、切土のり面、盛土のり面のほか、コンクリートダムなどのコンクリート構造物、埋立地や軟弱地盤地の変動を判断する際にも利用することができる。
【符号の説明】
【0040】
100 監視システム
101 (監視システムの)定点カメラ
102 (監視システムの)マスク処理手段
103 (監視システムの)代表画像生成手段
104 (監視システムの)マッチング処理手段
105 (監視システムの)変化領域抽出手段
106 (監視システムの)方向ノイズ抽出手段
107 (監視システムの)画像記憶手段
【要約】
【課題】本願発明の課題は、従来の問題を解決することであり、すなわち複数の写真に基づいて評価用の画像を生成し、しかも画像のうち部分的に使用できない領域があってもその他の領域を利用して評価用の画像を生成したうえで、対象物を監視することができる監視システムを提供することである。
【解決手段】本願発明の監視システムは、1地点に設置される定点カメラと、マスク処理手段、代表画像生成手段、マッチング処理手段、変化領域抽出手段を備えたものである。代表画像生成手段は撮影期間に定点カメラが取得した複数の画像をまとめた期間画像に基づいて期間代表画像を生成する手段であり、変化領域抽出手段は期間代表画像における共通領域の位置が2時期で相違し、共通領域どうしの移動量があらかじめ定めた移動量閾値を超えるとき、共通領域を変化領域として抽出する手段である。
【選択図】図2
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7