(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-08
(45)【発行日】2024-08-19
(54)【発明の名称】光学フィルターおよび撮像装置
(51)【国際特許分類】
G02B 5/22 20060101AFI20240809BHJP
【FI】
G02B5/22
(21)【出願番号】P 2023063593
(22)【出願日】2023-04-10
(62)【分割の表示】P 2019100284の分割
【原出願日】2019-05-29
【審査請求日】2023-05-09
(31)【優先権主張番号】P 2018107112
(32)【優先日】2018-06-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000113263
【氏名又は名称】HOYA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002538
【氏名又は名称】弁理士法人あしたば国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】今井 晴菜
(72)【発明者】
【氏名】小川 信一
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 武志
【審査官】藤岡 善行
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-040932(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2002/0123592(US,A1)
【文献】国際公開第2016/181987(WO,A1)
【文献】特開2006-070170(JP,A)
【文献】特開2001-048892(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸塩系ガラスまたはフツリン酸塩系ガラスからなる吸収ガラス基板に対し、
M-O-Si結合(ただし、Mが、Ti原子、Zr原子およびAl原子から選ばれる一種以上である)を含む単層構造を有する接合層
を介して樹脂膜が設けられてなることを特徴とする光学フィルター。
【請求項2】
前記接合層において、Si原子、Ti原子、Zr原子およびAl原子の総数に占める、Ti原子、Zr原子およびAl原子の合計原子数の割合が、0atomic%を超え33.3atomic%以下である請求項1に記載の光学フィルター。
【請求項3】
リン酸塩系ガラスまたはフツリン酸塩系ガラスからなる吸収ガラス基板に対し、下記一般式(I)
M(OSiR
1R
2R
3)
n (I)
(ただし、MはTi原子、Zr原子またはAl原子であり、R
1、R
2およびR
3は、酸素原子または窒素原子を含んでもよい炭素数1~10の直鎖状または分岐鎖状の炭化水素基であって、互いに同一であっても異なっていてもよく、nは、MがTi原子またはZr原子である場合は4でありMがAl原子である場合は3であり、複数の-OSiR
1R
2R
3基は互いに同一であってもよいし異なっていてもよい。)
で表される化合物および下記一般式(II)
(Ti
kO
k-1)(OSiR
4R
5R
6)
2k+2 (II)
(ただし、R
4、R
5およびR
6は、酸素原子または窒素原子を含んでもよい炭素数1~10の直鎖状または分岐鎖状の炭化水素基であって、互いに同一であっても異なっていてもよく、kは、2以上15以下の実数であり、複数の-OSiR
4R
5R
6基は互いに同一であってもよいし異なっていてもよい。)
で表される化合物から選ばれる一種以上のカップリング剤の加水分解、脱水縮合物を含む接合層を介して
樹脂膜が設けられてなる
請求項1または請求項2に記載の光学フィルター。
【請求項4】
リン酸塩系ガラスまたはフツリン酸塩系ガラスからなる吸収ガラス基板に対し、下記一般式(III)
M{OSi(OR
7) (OR
8) (OR
9)}
n (III)
(ただし、MはTi原子、Zr原子またはAl原子であり、R
7、R
8およびR
9は、炭素数1~10の直鎖状または分岐鎖状の炭化水素基であって、互いに同一であっても異なっていてもよく、nは、MがTi原子またはZr原子である場合は4でありMがAl原子である場合は3であり、複数の-OSi(OR
7) (OR
8) (OR
9)基は互いに同一であってもよいし異なっていてもよい。)
で表される化合物および下記一般式(IV)
(Ti
kO
k-1){OSi(OR
10) (OR
11) (OR
12)}
2k+2 (IV)
(ただし、R
10、R
11およびR
12は、炭素数1~10の直鎖状または分岐鎖状の炭化水素基であって、互いに同一であっても異なっていてもよく、kは、2以上15以下の実数であり、複数の-OSi(OR
10) (OR
11) (OR
12)基は互いに同一であってもよいし異なっていてもよい。)
で表される化合物から選ばれる一種以上のカップリング剤の加水分解、脱水縮合物を含む接合層を介して
樹脂膜が設けられてなる
請求項1~請求項3のいずれかに記載の光学フィルター。
【請求項5】
前記一般式(III)で表されるカップリング剤が、下記一般式(V)
Si(OR
7)(OR
8) (OR
9)OH (V)
(ただし、R
7、R
8およびR
9は、炭素数1~10の直鎖状または分岐鎖状の炭化水素基であって、互いに同一であっても異なっていてもよい。)
で表わされるケイ素化合物と、下記一般式(VI)
Ti(OR
13)(OR
14)(OR
15)(OR
16)
(VI)
(ただし、R
13、R
14、R
15およびR
16は、炭素数1~10の直鎖状または分岐鎖状の炭化水素基であって、互いに同一であっても異なっていてもよい。)、下記一般式(VII)
Zr(OR
17)(OR
18)(OR
19)(OR
20) (VII)
(ただし、R
17、R
18、R
19およびR
20は、炭素数1~10の直鎖状または分岐鎖状の炭化水素基であって、互いに同一であっても異なっていてもよい。)および下記一般式(VIII)
Al(OR
21)(OR
22)(OR
23) (VIII)
(ただし、R
21、R
22およびR
23は、炭素数1~10の直鎖状または分岐鎖状の炭化水素基であって、互いに同一であっても異なっていてもよい。)
で表される金属アルコキシドから選ばれる一種以上
との反応物からなる請求項4に記載の光学フィルター。
【請求項6】
前記接合層がさらにシラノールの脱水縮合物を含む請求項1~請求項5のいずれかに記載の光学フィルター、
【請求項7】
リン酸塩系ガラスまたはフツリン酸塩系ガラスからなる吸収ガラス基板に対し、下記一般式(V)
Si(OR
7)(OR
8) (OR
9)OH (V)
(ただし、R
7、R
8およびR
9は、炭素数1~10の直鎖状または分岐鎖状の炭化水素基であって、互いに同一であっても異なっていてもよい。)
で表わされるケイ素化合物50モル%以上100モル%未満と、下記一般式(VI)
Ti(OR
13)(OR
14)(OR
15)(OR
16)
(VI)
(ただし、R
13、R
14、R
15およびR
16は、炭素数1~10の直鎖状または分岐鎖状の炭化水素基であって、互いに同一であっても異なっていてもよい。)、下記一般式(VII)
Zr(OR
17)(OR
18)(OR
19)(OR
20) (VII)
(ただし、R
17、R
18、R
19およびR
20は、炭素数1~10の直鎖状または分岐鎖状の炭化水素基であって、互いに同一であっても異なっていてもよい。)および下記一般式(VIII)
Al(OR
21)(OR
22)(OR
23) (VIII)
(ただし、R
21、R
22およびR
23は、炭素数1~10の直鎖状または分岐鎖状の炭化水素基であって、互いに同一であっても異なっていてもよい。)
で表される金属アルコキシドから選ばれる一種以上0モル%超50モル%以下との反応物を含むカップリング剤組成物の加水分解、脱水縮合物を含む接合層を介して
樹脂膜が設けられてなる請求項1~請求項6のいずれかに記載の光学フィルター。
【請求項8】
前記カップリング剤組成物が、前記一般式(V)で表されるケイ素化合物80モル%超100モル%未満および前記一般式(VI)~一般式(VIII)から選ばれる一種以上の金属アルコキシド0モル%超20モル%未満との反応物からなる請求項7に記載の光学フィルター。
【請求項9】
前記カップリング剤組成物が、前記一般式(V)で表されるケイ素化合物85~94モル%および前記一般式(VI)~一般式(VIII)から選ばれる一種以上の金属アルコキシド6~15モル%との反応物からなる請求項7に記載の光学フィルター
。
【請求項10】
固体撮像素子と、撮像レンズと、請求項1~請求項
9のいずれかに記載の光学フィルターとを有することを特徴とする撮像装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学フィルターおよび撮像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
コンパクトデジタルカメラやデジタル一眼レフカメラ等のデジタルスチルカメラ(DS
C:Digital Still Camera)に搭載されるCCDやCMOSイメージ
センサ等の固体撮像素子を用いた撮像装置では、色調を良好に再現し、かつ鮮明な画像を得るために、可視光を透過し、紫外光および近赤外光を遮蔽する赤外カットフィルター(IRCF(InfraRed Cut Filter))と称されるものが使用されてい
る(例えば、特許文献1(特開2014-148567号公報)参照)。
【0003】
図1は、DSCを構成するカメラモジュールの概略説明図であり、
図1(a)がスマートフォン等に搭載されるコンパクトデジタルカメラに係るカメラモジュールの概略説明図、
図1(b)がデジタル一眼レフカメラに係るカメラモジュールの概略説明図である。
図1(a)に示すカメラモジュールにおいては、レンズLを透過した光のうち、赤外カットフィルター(IRCF)1により紫外光および近赤外光を選択的に反射して人間の視感度特性に合わせた可視光領域の光のみを選択的にモジュール内に導入し、イメージセンサIC内に取り込んでいる。また、
図1(b)に示すカメラモジュールにおいても同様に、レンズLを透過した光のうち、赤外カットフィルター(IRCF)1により紫外光および近赤外光を選択的に反射した上で、カバーグラスCGによりα線を除去しつつゴミの侵入を抑制し、人間の視感度特性に合わせた可視光領域の光のみを選択的にモジュール内に導入し、イメージセンサIC内に取り込んでいる。
【0004】
そして、上記赤外カットフィルター(IRCF)としては、ガラス基板の上面側(光入射面側)に反射膜(UVIR膜)が設けられるとともに、ガラス基板の下面側(光出射面側)に反射防止膜(AR膜)が設けられたものが主流であった。
図2(a)は、従来の赤外カットフィルター(IRCF)1の構造を示す概略説明図であり、
図2(a)に示す赤外カットフィルター(IRCF)1においては、ガラス基板3の上面側(光入射面側)に反射膜(UVIR膜)2が設けられるとともに、ガラス基板3の下面側(光出射面側)に反射防止膜(AR膜)4が設けられ、上部から入射した光のうち紫外光および近赤外光を反射膜2により選択的に反射して、人間の視感度特性に合わせた可視光領域の光のみをガラス基板3および反射防止膜(AR膜)4内を透過させ、反射防止膜(AR膜)4の下部から出射させている。
【0005】
しかしながら、デジタルスチルカメラは、その薄型化の要求に伴って各種構成部品も小型化、低背化しており、イメージセンサーに対してもより斜めの光が入射するように光学設計がされている。一方、上記反射型の赤外カットフィルター(IRCF)は光の波長依存性が高いことから、光の入射角が大きくなるとカットオフ周波数が短波長側にズレる位相のズレを生じ、レンズの中心付近を通過した光と周辺部分を通過した光では赤外カットフィルター(IRCF)へ入射する光線の入射角が異なることから干渉ズレによる色再現性の低下を生じ易くなる。
【0006】
このため、赤外カットフィルター(IRCF)として、反射膜(UVIR膜)だけでなく、吸収樹脂膜を別途設けたり、ガラス基板として光吸収性を帯びたもの(吸収ガラス基板)を併用することにより、反射膜(UVIR膜)の負担を軽減し、入射光中の紫外光および近赤外光をより効果的に低減しつつ優れた斜入射特性を発揮し得るハイブリッドタイプの赤外カットフィルター(IRCF)が検討されるようになっている。
【0007】
図2(b)は、上記ハイブリッドタイプの赤外カットフィルター(IRCF)1の構造例を示す概略説明図であり、
図2(b)に示す赤外カットフィルター(IRCF)1においては、紫外光および近赤外光の少なくともいずれか一方を吸収する吸収ガラス基板3’の上面側(光入射面側)に反射膜(UVIR膜)2が設けられるとともに、上記吸収ガラス基板3’の下面側(光出射面側)にさらに紫外光または近赤外光を吸収する吸収樹脂膜5および反射防止膜(AR膜)4が順次設けられており、上記反射膜(UVIR膜)2、吸収ガラス基板3’および吸収樹脂膜5を併用することで、入射光中の紫外光および近赤外光をより効果的に低減しつつ高い斜入射特性の下で可視光領域の光のみを下部方向に透過させ、出射し得る構造となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、本発明者等が検討したところ、上記紫外光または近赤外光を吸収する吸収ガラス基板の構成材料としては、通常、リン酸塩ガラスまたはフツリン酸塩ガラス等のリン酸塩系ガラスが使用されており、一方で上記吸収樹脂膜の構成材料としては各種重合体からなる有機材料が使用されているが、両者の密着性が必ずしも十分でなく、特に水分共存下における密着性が不足し易いことが判明した。
【0010】
このような状況下、本発明は、リン酸塩系ガラスまたはフツリン酸塩系ガラスからなる吸収ガラス基板に対し高い密着性を有する樹脂膜を設けた光学フィルターを提供するとともに、係る光学フィルターを有する撮像装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために本発明者が鋭意検討したところ、リン酸塩系ガラスまたはフツリン酸塩系ガラスからなる吸収ガラス基板に対し、Si原子と、Ti原子、Zr原子およびAl原子から選ばれる一種以上とを含む接合成分を用いて樹脂膜が設けられてなる光学フィルターにより、上記技術課題を解決し得ることを見出し、本知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、
(1)リン酸塩系ガラスまたはフツリン酸塩系ガラスからなる吸収ガラス基板に対し、Si原子とともに、Ti原子、Zr原子およびAl原子から選ばれる一種以上を含む単層構造を有する接合層を介して樹脂膜が設けられてなることを特徴とする光学フィルター(以下、適宜、本発明の光学フィルター1と称する)、
(2)前記接合層において、Si原子、Ti原子、Zr原子およびAl原子の総数に占める、Ti原子、Zr原子およびAl原子の合計原子数の割合が、0atomic%を超え33.3atomic%以下である上記(1)に記載の光学フィルター、
(3)リン酸塩系ガラスまたはフツリン酸塩系ガラスからなる吸収ガラス基板に対し、下記一般式(I)
M(OSiR1R2R3)n (I)
(ただし、MはTi原子、Zr原子またはAl原子であり、R1、R2およびR3は、酸素原子または窒素原子を含んでもよい炭素数1~10の直鎖状または分岐鎖状の炭化水素基であって、互いに同一であっても異なっていてもよく、nは、MがTi原子またはZr原子である場合は4でありMがAl原子である場合は3であり、複数の-OSiR1R2R3基は互いに同一であってもよいし異なっていてもよい。)
で表される化合物および下記一般式(II)
(TikOk-1)(OSiR4R5R6)2k+2 (II)
(ただし、R4、R5およびR6は、酸素原子または窒素原子を含んでもよい炭素数1~10の直鎖状または分岐鎖状の炭化水素基であって、互いに同一であっても異なっていてもよく、kは、2以上15以下の実数であり、複数の-OSiR4R5R6基は互いに同一であってもよいし異なっていてもよい。)
で表される化合物から選ばれる一種以上のカップリング剤の加水分解、脱水縮合物を含む接合層を介して
樹脂膜が設けられてなる
上記(1)または(2)に記載の光学フィルター(以下、適宜、本発明の光学フィルター1-1と称する)、
(4)リン酸塩系ガラスまたはフツリン酸塩系ガラスからなる吸収ガラス基板に対し、下記一般式(III)
M{OSi(OR7) (OR8) (OR9)}n (III)
(ただし、MはTi原子、Zr原子またはAl原子であり、R7、R8およびR9は、炭素数1~10の直鎖状または分岐鎖状の炭化水素基であって、互いに同一であっても異なっていてもよく、nは、MがTi原子またはZr原子である場合は4でありMがAl原子である場合は3であり、複数の-OSi(OR7) (OR8) (OR9)基は互いに同一であってもよいし異なっていてもよい。)
で表される化合物および下記一般式(IV)
(TikOk-1){OSi(OR10) (OR11) (OR12)}2k+2 (IV)
(ただし、R10、R11およびR12は、炭素数1~10の直鎖状または分岐鎖状の炭化水素基であって、互いに同一であっても異なっていてもよく、kは、2以上15以下の実数であり、複数の-OSi(OR10) (OR11) (OR12) 基は互いに同一であっ
てもよいし異なっていてもよい。)
で表される化合物から選ばれる一種以上のカップリング剤の加水分解、脱水縮合物を含む接合層を介して
樹脂膜が設けられてなる
上記(1)~(3)のいずれかに記載の光学フィルター(以下、適宜、本発明の光学フィルター1-2と称する)、
(5)前記一般式(III)で表されるカップリング剤が、下記一般式(V)
Si(OR7)(OR8) (OR9)OH (V)
(ただし、R7、R8およびR9は、炭素数1~10の直鎖状または分岐鎖状の炭化水素基であって、互いに同一であっても異なっていてもよい。)
で表わされるケイ素化合物と、下記一般式(VI)
Ti(OR13)(OR14)(OR15)(OR16) (VI)
(ただし、R13、R14、R15およびR16は、炭素数1~10の直鎖状または分岐鎖状の炭化水素基であって、互いに同一であっても異なっていてもよい。)、下記一般式(VII)
Zr(OR17)(OR18)(OR19)(OR20) (VII)
(ただし、R17、R18、R19およびR20は、炭素数1~10の直鎖状または分岐鎖状の炭化水素基であって、互いに同一であっても異なっていてもよい。)および下記一般式(VIII)
Al(OR21)(OR22)(OR23) (VIII)
(ただし、R21、R22およびR23は、炭素数1~10の直鎖状または分岐鎖状の炭化水素基であって、互いに同一であっても異なっていてもよい。)
で表される金属アルコキシドから選ばれる一種以上
との反応物からなる上記(4)に記載の光学フィルター、
(6)前記接合層がさらにシラノールの脱水縮合物を含む上記(1)~(5)のいずれかに記載の光学フィルター、
(7)リン酸塩系ガラスまたはフツリン酸塩系ガラスからなる吸収ガラス基板に対し、下記一般式(V)
Si(OR7)(OR8) (OR9)OH (V)
(ただし、R7、R8およびR9は、炭素数1~10の直鎖状または分岐鎖状の炭化水素基であって、互いに同一であっても異なっていてもよい。)
で表わされるケイ素化合物50モル%以上100モル%未満と、下記一般式(VI)
Ti(OR13)(OR14)(OR15)(OR16) (VI)
(ただし、R13、R14、R15およびR16は、炭素数1~10の直鎖状または分岐鎖状の炭化水素基であって、互いに同一であっても異なっていてもよい。)、下記一般式(VII)
Zr(OR17)(OR18)(OR19)(OR20) (VII)
(ただし、R17、R18、R19およびR20は、炭素数1~10の直鎖状または分岐鎖状の炭化水素基であって、互いに同一であっても異なっていてもよい。)および下記一般式(VIII)
Al(OR21)(OR22)(OR23) (VIII)
(ただし、R21、R22およびR23は、炭素数1~10の直鎖状または分岐鎖状の炭化水素基であって、互いに同一であっても異なっていてもよい。)
で表される金属アルコキシドから選ばれる一種以上0モル%超50モル%以下との反応物を含むカップリング剤組成物の加水分解、脱水縮合物を含む接合層を介して
樹脂膜が設けられてなる上記(1)~(6)のいずれかに記載の光学フィルター、
(8)前記カップリング剤組成物が、前記一般式(V)で表されるケイ素化合物80モル%超100モル%未満および前記一般式(VI)~一般式(VIII)から選ばれる一種以上の金属アルコキシド0モル%超20モル%未満との反応物からなる上記(7)に記載の光学フィルター、
(9)前記カップリング剤組成物が、前記一般式(V)で表されるケイ素化合物85~94モル%および前記一般式(VI)~一般式(VIII)から選ばれる一種以上の金属アルコキシド6~15モル%との反応物からなる上記(7)に記載の光学フィルター、
(10)リン酸塩系ガラスまたはフツリン酸塩系ガラスからなる吸収ガラス基板に対し、Si原子とともに、Ti原子、Zr原子およびAl原子から選ばれる一種以上とを含む樹脂膜が設けられてなることを特徴とする光学フィルター(以下、適宜、本発明の光学フィルター2と称する)、
(11)前記樹脂膜において、Si原子、Ti原子、Zr原子およびAl原子の総数に占める、Ti原子、Zr原子およびAl原子の合計原子数の割合が、0atomic%を超え33.3atomic%以下である上記(10)に記載の光学フィルター、
(12)リン酸塩系ガラスまたはフツリン酸塩系ガラスからなる吸収ガラス基板に対し、下記一般式(I)
M(OSiR1R2R3)n (I)
(ただし、MはTi原子、Zr原子またはAl原子であり、R1、R2およびR3は、酸素原子または窒素原子を含んでもよい炭素数1~10の直鎖状または分岐鎖状の炭化水素基であって、互いに同一であっても異なっていてもよく、nは、MがTi原子またはZr原子である場合は4でありMがAl原子である場合は3であり、複数の-OSiR1R2R3基は互いに同一であってもよいし異なっていてもよい。)
で表される化合物および下記一般式(II)
(TikOk-1)(OSiR4R5R6)2k+2 (II)
(ただし、R4、R5およびR6は、酸素原子または窒素原子を含んでもよい炭素数1~10の直鎖状または分岐鎖状の炭化水素基であって、互いに同一であっても異なっていてもよく、kは、2以上15以下の実数であり、複数の-OSiR4R5R6基は互いに同一であってもよいし異なっていてもよい。)
で表される化合物から選ばれる一種以上のカップリング剤の加水分解、脱水縮合物を含む樹脂膜が設けられてなる
上記(10)または(11)に記載の光学フィルター(以下、適宜、本発明の光学フィルター2-1と称する)、
(13)リン酸塩系ガラスまたはフツリン酸塩系ガラスからなる吸収ガラス基板に対し、下記一般式(III)
M{OSi(OR7) (OR8) (OR9)}n (III)
(ただし、MはTi原子、Zr原子またはAl原子であり、R7、R8およびR9は、炭素数1~10の直鎖状または分岐鎖状の炭化水素基であって、互いに同一であっても異なっていてもよく、nは、MがTi原子またはZr原子である場合は4でありMがAl原子である場合は3であり、複数の-OSi(OR7) (OR8) (OR9)基は互いに同一であってもよいし異なっていてもよい。)
で表される化合物および下記一般式(IV)
(TikOk-1){OSi(OR10)(OR11) (OR12) }2k+2 (IV
)
(ただし、R10、R11およびR12は、炭素数1~10の直鎖状または分岐鎖状の炭化水素基であって、互いに同一であっても異なっていてもよく、kは、2以上15以下の実数であり、複数の-OSi(OR10)(OR11) (OR12) 基は互いに同一であってもよいし異なっていてもよい。)
で表される化合物から選ばれる一種以上のカップリング剤の加水分解、脱水縮合物を含む樹脂膜が設けられてなる
上記(10)~(12)のいずれかに記載の光学フィルター(以下、適宜、本発明の光学フィルター2-2と称する)、
(14)前記一般式(III)で表されるカップリング剤が、下記一般式(V)
Si(OR7)(OR8) (OR9)OH (V)
(ただし、R7、R8およびR9は、炭素数1~10の直鎖状または分岐鎖状の炭化水素基であって、互いに同一であっても異なっていてもよい。)
で表わされるケイ素化合物と、下記一般式(VI)
Ti(OR13)(OR14)(OR15)(OR16) (VI)
(ただし、R13、R14、R15およびR16は、炭素数1~10の直鎖状または分岐鎖状の炭化水素基であって、互いに同一であっても異なっていてもよい。)、下記一般式(VII)
Zr(OR17)(OR18)(OR19)(OR20) (VII)
(ただし、R17、R18、R19およびR20は、炭素数1~10の直鎖状または分岐鎖状の炭化水素基であって、互いに同一であっても異なっていてもよい。)および下記一般式(VIII)
Al(OR21)(OR22)(OR23) (VIII)
(ただし、R21、R22およびR23は、炭素数1~10の直鎖状または分岐鎖状の炭化水素基であって、互いに同一であっても異なっていてもよい。)
で表される金属アルコキシドから選ばれる一種以上
との反応物からなる上記(13)に記載の光学フィルター、
(15)前記樹脂膜がさらにシラノールの脱水縮合物を含む上記(10)~(14)のいずれかに記載の光学フィルター、
(16)リン酸塩系ガラスまたはフツリン酸塩系ガラスからなる吸収ガラス基板に対し、下記一般式(V)
Si(OR7)(OR8) (OR9)OH (V)
(ただし、R7、R8およびR9は、炭素数1~10の直鎖状または分岐鎖状の炭化水素基であって、互いに同一であっても異なっていてもよい。)
で表わされるケイ素化合物50モル%以上100モル%未満と、下記一般式(VI)
Ti(OR13)(OR14)(OR15)(OR16) (VI)
(ただし、R13、R14、R15およびR16は、炭素数1~10の直鎖状または分岐鎖状の炭化水素基であって、互いに同一であっても異なっていてもよい。)、下記一般式
(VII)
Zr(OR17)(OR18)(OR19)(OR20) (VII)
(ただし、R17、R18、R19およびR20は、炭素数1~10の直鎖状または分岐鎖状の炭化水素基であって、互いに同一であっても異なっていてもよい。)および下記一般式(VIII)
Al(OR21)(OR22)(OR23) (VIII)
(ただし、R21、R22およびR23は、炭素数1~10の直鎖状または分岐鎖状の炭化水素基であって、互いに同一であっても異なっていてもよい。)
で表される金属アルコキシドから選ばれる一種以上0モル%超え50モル%以下との反応物を含むカップリング剤組成物の加水分解、脱水縮合物を含有する
樹脂膜が設けられてなる上記(10)~(15)のいずれかに記載の光学フィルター、(17)前記カップリング剤組成物が、前記一般式(V)で表されるケイ素化合物80モル%超100モル%未満および前記一般式(VI)~一般式(VIII)で表される一種以上の金属アルコキシド0モル%超20モル%未満との反応物からなる上記(16)に記載の光学フィルター、
(18)前記カップリング剤組成物が、前記一般式(V)で表されるケイ素化合物85~94モル%および前記一般式(VI)~一般式(VIII)で表される一種以上の金属アルコキシド6~15モル%との反応物からなる上記(16)に記載の光学フィルター、および
(19)固体撮像素子と、撮像レンズと、上記(1)~(18)の何れかに記載の光学フィルターとを有することを特徴とする撮像装置、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、リン酸塩系ガラスまたはフツリン酸塩ガラスからなる吸収ガラス基板に対し高い密着性を有する樹脂膜を設けた光学フィルターを提供することができるとともに、係る光学フィルターを有する撮像装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】カメラモジュールの概略説明図であり、
図1(a)がコンパクトデジタルカメラに係るカメラモジュールの概略説明図、
図1(b)がデジタル一眼レフカメラに係るカメラモジュールの概略説明図である。
【
図2】赤外カットフィルター(IRCF)1の構造を示す概略説明図であり、
図2(a)は、反射膜(UVIR膜)により紫外光および近赤外光を反射する反射タイプのIRCFの概略説明図であり、
図2(b)は、反射膜(UVIR膜)とともに紫外光または近赤外光を吸収する吸収ガラス基板および紫外光または近赤外光を吸収する吸収樹脂膜を有するハイブリッドタイプのIRCFの概略説明図である。
【
図3】本発明に係る光学フィルターの一例における、走査型透過電子顕微鏡-エネルギー分散型X線分光分析器(STEM-EDX)による断面画像(像コントラスト)である。
【
図4】本発明に係る光学フィルターの一例における、STEM-EDXライン(光学フィルターを構成する各元素の深さ方向におけるEDX線(K線)検出強度ライン)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の光学フィルター1は、リン酸塩系ガラスまたはフツリン酸塩系ガラスからなる吸収ガラス基板に対し、Si原子とともに、Ti原子、Zr原子およびAl原子から選ばれる一種以上を含む単層構造を有する接合層を介して樹脂膜が設けられてなることを特徴とするものであり、その具体的態様としては、後述する本発明の光学フィルター1-1または本発明の光学フィルター1-2を挙げることができる。
また、本発明の光学フィルター2は、リン酸塩系ガラスまたはフツリン酸塩系ガラスか
らなる吸収ガラス基板に対し、Si原子とともに、Ti原子、Zr原子およびAl原子から選ばれる一種以上とを含む樹脂膜が設けられてなることを特徴とするものであり、その具体的態様としては、後述する本発明の光学フィルター2-1または本発明の光学フィルター2-2を挙げることができる。
【0016】
本発明の光学フィルター1と本発明の光学フィルター2とは、吸収ガラス基板に対し、Si原子とともに、Ti原子、Zr原子およびAl原子から選ばれる一種以上を含む単層構造を有する接合層を介して樹脂膜が設けられてなるものであるか、またはSi原子とともに、Ti原子、Zr原子およびAl原子から選ばれる一種以上とを含む樹脂膜が設けられてなるものであるかという点において相違し、その他の点において共通する。
このため、以下に記載する本発明の光学フィルターの説明は、特に断らない限り、本発明の光学フィルター1および本発明の光学フィルター2に共通するものとする。
【0017】
[ガラス基板]
本発明に係る光学フィルターは、ガラス基板として、リン酸塩系ガラスまたはフツリン酸塩系ガラスからなる吸収ガラス基板を有している。
【0018】
本発明に係る光学フィルターにおいて、吸収ガラス基板としては、厚さが、0.01~1.50mmのものが好ましく、0.01~0.70mmのものがより好ましく、0.01~0.30mmのものがさらに好ましい。
吸収ガラス基板の厚みが上記範囲内にあることにより、光学フィルターの薄型化を容易に達成することができる。
【0019】
本発明に係る光学フィルターにおいて、吸収ガラス基板はリン酸塩系ガラスまたはフツリン酸塩系ガラスからなる。
【0020】
本願発明におけるリン酸塩系ガラスとは、必須成分としてのP、Oと、他の任意成分とを含むガラスであり、CuOを含むものが特に好ましい。リン酸塩系ガラスがCuOを含むことにより、近赤外光をより効果的に吸収することができる。リン酸塩系ガラスの他の任意成分としては例えば、Ca、Mg、Sr、Ba、Li、Na、K、Csなどが挙げられる。
【0021】
本願発明におけるフツリン酸塩系ガラスとは、必須成分としてのP、O、Fと、他の任意成分とを含むガラスであり、CuOを含むものが特に好ましい。フツリン酸塩系ガラスがCuOを含むことにより、近赤外光をより効果的に吸収することができる。フツリン酸塩系ガラスの他の任意成分としては例えば、Ca、Mg、Sr、Ba、Li、Na、K、Csなどが挙げられる。
【0022】
上記リン酸塩系ガラスとしては、
P2O5 0質量%を超え70質量%以下、
Al2O3 0~40質量%、
BaO 0~40質量%、
CuO 0~40質量%
を含むものが好ましい。
【0023】
上記リン酸塩系ガラスとしては、
P2O5 20~60質量%、
Al2O3 0~10質量%、
BaO 0~10 質量%、
CuO 0~10質量%
を含むものがより好ましい。
【0024】
上記リン酸塩系ガラスとしては、
P2O5 20~60質量%、
Al2O3 1~10質量%、
BaO 1~10質量%、
CuO 1~10質量%
を含むものがさらに好ましい。
【0025】
上記フツリン酸塩系ガラスとしては、
P2O5 0質量%を超え70質量%以下、
Al2O3 0~40質量%、
BaO 0~40質量%、
CuO 0~40質量%
を含み、さらにフッ化物を0質量%を超え40質量%以下含む
ものが好ましい。
【0026】
上記フツリン酸塩系ガラスとしては、
P2O5 20~60質量%、
Al2O3 0~10質量%、
BaO 0~10質量%、
CuO 0~10質量%
を含み、さらにフッ化物を1~30質量%含む
ものがより好ましい。
【0027】
上記フツリン酸塩系ガラスとしては、
P2O5 20~60質量%、
Al2O3 1~10質量%、
BaO 1~10質量%、
CuO 1~10質量%
を含み、さらにフッ化物を2~30質量%含む
ものがさらに好ましい。
【0028】
上記フッ化物としては、MgF2、CaF2、SrF2等から選ばれる一種以上が挙げられる。
【0029】
本発明の光学フィルター1は、上記ガラス基板に対し、Si原子とともに、Ti原子、Zr原子およびAl原子から選ばれる一種以上を含む単層構造を有する接合層を介して樹脂膜が設けられてなることを特徴とするものである。
【0030】
本発明の光学フィルター1において、接合層としては、後述するカップリング剤の加水分解、脱水縮合物を含むものを挙げることができる。
【0031】
本発明の光学フィルター1において、接合層は、Si原子とともに、Ti原子、Zr原子およびAl原子から選ばれる一種以上を含む単層構造を有するものである。
本出願書類において、単層構造とは、下記条件により、走査型透過電子顕微鏡-エネルギー分散型X線分光分析器(STEM-EDX)により測定したときに、得られる測定画像(像コントラスト)または元素分析結果から、同一組成を有する形成材料からなることが特定される層構造を意味する。
<測定条件>
走査型透過電子顕微鏡:日本電子(株)製 ARM200F
エネルギー分散型X線分光分析器:日本電子(株)製 JED-2300T
試料調製:集束イオンビーム加工(FIB)
加速電圧:200kV
元素分析:EDXマッピング(解像度:256×256)
【0032】
図3は、本発明に係る光学フィルターの一例において、上記測定条件により得られるSTEM-EDX画像(像コントラスト)であり、同図より、光学フィルターが、吸収ガラス基板Gに対し、接合層Bを介して樹脂膜Rが設けられてなり、接合層Bが単層構造からなることが分かる。
【0033】
本発明の光学フィルター1において、接合層の厚みは、1000nm以下であることが好ましく、10~500nmであることがより好ましく、30~300nmであることがさらに好ましい。
接合層の厚みが1000nm以下であることにより、接合層形成時(焼成時)におけるムラの発生を抑制し易くなり、接合層の膜面を容易に均一化することができる。
また、接合層の厚みが10nm以上である場合、接合層が十分な接合強度を発揮し易くなって、光学フィルターの機械的強度を容易に向上することができる。
【0034】
なお、本出願書類において、接合層の厚みは、上記STEM-EDXを用いて測定したときに得られる光学フィルター断面の測定画像(像コントラスト)において、
接合層の厚みを50点測定したときの算術平均値を意味する。
【0035】
本発明の光学フィルター1において、接合層は、Si原子とともに、Ti原子、Zr原子およびAl原子から選ばれる一種以上を含む。Si原子とともに接合層中に含有される、Ti原子、Zr原子およびAl原子から選ばれる一種以上としては、Ti原子であることが好ましい。
【0036】
図4は、上述した条件により測定した、本発明に係る光学フィルター1のSTEM-EDXライン(光学フィルターを構成する各元素の深さ方向におけるEDX線(K線)検出強度ライン)を例示するものである。
図4に示す例においては、表面からの距離0~980nmの領域にC原子およびO原子を主成分として含む(後述する)樹脂膜が設けられ、表面からの距離980~1150nmの領域にSi原子、Ti原子およびO原子を主性分として含む接合層が設けられ、表面からの距離が1150nmより大きい領域にP原子、F原子およびO原子を主成分として含む吸収ガラス基板が設けられていることが分かり、係るSTEM-EDXラインによって各領域の構成元素を確認することができ、また、接合層等の厚みを確認することもできる。
図4に示す例においては、光学フィルター1の接合層が、Si原子とともにTi原子を含むものであることが分かる。
【0037】
本発明の光学フィルター1を構成する接合層において、Si原子、Ti原子、Zr原子およびAl原子の総数(総原子数)に占める、Ti原子、Zr原子およびAl原子の合計原子数の割合α(atomic%)は、0atomic%を超え33.3atomic%以下であることが好ましく、9~33.3atomic%であることがより好ましく、12~33.3atomic%であることがさらに好ましい。
【0038】
本出願書類において、上記接合層を構成するSi原子、Ti原子、Zr原子およびAl原子の総数(総原子数)に占める、Ti原子、Zr原子およびAl原子の合計原子数の割合α(atomic%)は、以下の方法により算出される値を意味する。
(1)上述した測定条件により光学フィルターのSTEM-EDX測定を行って、
図4に
例示するようなSTEM-EDXライン(光学フィルターを構成する各元素の深さ方向におけるEDX線(K線)検出強度ライン)を得る。
(2)接合層を構成する領域における、Si原子のEDX線積算強度X
Si、Ti原子のEDX線積算強度X
Ti、Zr原子のEDX線積算強度X
ZrおよびAl原子のEDX線積算強度X
Alをそれぞれ求める。
(3)(2)で求めた各EDX線積算強度にkファクター(加速電圧や検出効率に依存する、原子番号ごとに異なる補正係数。以下便宜的に、Si原子のkファクターをK
Si、Ti原子のkファクターをK
Ti、Zr原子のkファクターをK
Zr、Al原子のkファクターをK
Alとする。)を掛けた値が、各構成元素の重量比に対応するとみなし得る。このため、例えば接合層を構成するTi原子の重量割合A
Ti(重量%)は下記式により算出することができる。
【数1】
(4)さらに、上記各原子のEDX線積算強度Xにkファクターを掛けた値を、各々の原子量Mで除した値が、各構成元素の原子数の比に対応するとみなし得る。このため、Si原子の原子量をM
Si、Ti原子の原子量をM
Ti、Zr原子の原子量をM
Zr、Al原子の原子量をM
Alとした場合、例えば接合層を構成するTi原子の原子数の割合α
Ti(atomic%)は下記式により算出することができる。
【数2】
また、接合層を構成するTi原子、Zr原子およびAl原子の合計原子数の割合α(atomic%)は、下記式により算出することができる。
【数3】
例えば、
図4に示す例においては、接合層中にSi原子およびTi原子が含まれるが、Zr原子およびAl原子は含まれないため、接合層を構成するTi原子、Zr原子およびAl原子の合計原子数の割合α(atomic%)は、下記式により算出することができる。
【数4】
なお、本出願書類において、K
Si=1.000、K
Ti=1.033、K
Zr=5.696、K
Al=1.050とした。
【0039】
本発明の光学フィルター1の実施形態としては、本発明の光学フィルター1-1および本発明の光学フィルター1-2を挙げることができる。
【0040】
本発明の光学フィルター1-1は、上記吸収ガラス基板に対し、下記一般式(I)
M(OSiR1R2R3)n (I)
(ただし、MはTi原子、Zr原子またはAl原子であり、R1、R2およびR3は、酸素原子または窒素原子を含んでもよい炭素数1~10の直鎖状または分岐鎖状の炭化水素基であって、互いに同一であっても異なっていてもよく、nは、MがTi原子またはZr原子である場合は4でありMがAl原子である場合は3であり、複数の-OSiR1R2
R3基は互いに同一であってもよいし異なっていてもよい。)
で表される化合物および下記一般式(II)
(TikOk-1)(OSiR4R5R6)2k+2 (II)
(ただし、R4、R5およびR6は、酸素原子または窒素原子を含んでもよい炭素数1~10の直鎖状または分岐鎖状の炭化水素基であって、互いに同一であっても異なっていてもよく、kは、2以上15以下の実数であり、複数の-OSiR4R5R6基は互いに同一であってもよいし異なっていてもよい。)
で表される化合物から選ばれる一種以上のカップリング剤の加水分解、脱水縮合物を含む接合層を介して
樹脂膜が設けられてなる
ものである。
また、本発明の光学フィルター1-2は、リン酸塩系ガラスまたはフツリン酸塩系ガラスからなる吸収ガラス基板に対し、下記一般式(III)
M{OSi(OR7) (OR8) (OR9)}n (III)
(ただし、MはTi原子、Zr原子またはAl原子であり、R7、R8およびR9は、炭素数1~10の直鎖状または分岐鎖状の炭化水素基であって、互いに同一であっても異なっていてもよく、nは、MがTi原子またはZr原子である場合は4でありMがAl原子である場合は3であり、複数の-OSi(OR7) (OR8) (OR9)基は互いに同一であってもよいし異なっていてもよい。)
で表される化合物および下記一般式(IV)
(TikOk-1){OSi(OR10) (OR11) (OR12) }2k+2 (IV)(ただし、R10、R11およびR12は、炭素数1~10の直鎖状または分岐鎖状の炭化水素基であって、互いに同一であっても異なっていてもよく、kは、2以上15以下の実数であり、複数の-OSi(OR10) (OR11) (OR12) 基は互いに同一であっ
てもよいし異なっていてもよい。)
で表される化合物から選ばれる一種以上のカップリング剤の加水分解、脱水縮合物を含む接合層を介して
樹脂膜が設けられてなる
ものである。
【0041】
上記接合層の構成成分である一般式(III)で表される化合物は上記一般式(I)で表
される化合物をより限定したものとなっており、また、上記接合層の構成成分である一般式(IV)で表される化合物は上記一般式(II)で表される化合物をより限定したものとなっている。
このため、以下、本発明の光学フィルター1の接合層に係る説明として、接合層の構成成分である一般式(I)で表される化合物および一般式(III)で表される化合物と、上
記一般式(II)および一般式(IV)で表される化合物について順次説明しつつ、接合層の形成方法について説明するものとする。
【0042】
本発明の光学フィルター1において、下記一般式(I)
M(OSiR1R2R3)n (I)
で表される化合物を構成するMは、Ti原子、Zr原子またはAl原子であり、Ti原子であることが好ましい。
【0043】
上記一般式(I)で表される化合物において、R1、R2およびR3は、酸素原子または窒素原子を含んでもよい炭素数1~10の直鎖状または分岐鎖状の炭化水素基であり、酸素原子または窒素原子を含んでもよい炭素数1~4の直鎖状または分岐鎖状の炭化水素基であることが好ましく、酸素原子または窒素原子を含んでもよい炭素数1~3の直鎖状または分岐鎖状の炭化水素基であることがより好ましい。
【0044】
R1、R2およびR3として、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、へプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基の直鎖状、分岐鎖状または環状の炭化水素基等や、-C3H6(COO)CHCH2、-CH2(CO
O)CHCH2、-C2H4(COO)CHCH2、-C4H8(COO)CHCH2、-C
5H10(COO)CHCH2、-C6H12(COO)CHCH2、-C7H14(COO)CHCH2、-C8H16(COO)CHCH2、-C9H18(COO)CHCH2、-
C10H20(COO)CHCH2等の、直鎖状、分岐鎖状または環状の炭化水素基等から選ばれるものを挙げることができる。
【0045】
本発明に係る光学フィルター1において、R1、R2およびR3の炭素数が上記範囲内にあることにより、ケイ素化合物と金属アルコキシドとの好適な反応速度を維持しやすくなり、より均質なカップリング剤を調製しやすくなる。
また、一般式(I)で表される化合物において、ケイ素原子に結合するR1、R2およびR3で表される官能基は、樹脂膜と接合層との接合性に影響を与え得る。そのため、接合層上に設ける樹脂膜に応じて、適切なR1、R2およびR3基を選択することにより、樹脂膜と接合層との接合性を調整することができる。
【0046】
上記R1、R2およびR3は、互いに同一であっても異なっていてもよい。
また、nは、MがTi原子またはZr原子である場合は4でありMがAl原子である場合は3であり、複数の-OSiR1R2R3基は互いに同一であってもよいし異なっていてもよい。
【0047】
本発明の光学フィルター1において、一般式(I)で表される化合物としては、下記一般式(III)
M{OSi(OR7) (OR8) (OR9)}n (III)
(ただし、MはTi原子、Zr原子またはAl原子であり、R7、R8およびR9は、炭素数1~10の直鎖状または分岐鎖状の炭化水素基であって、互いに同一であっても異なっていてもよく、nは、MがTi原子またはZr原子である場合は4でありMがAl原子である場合は3であり、複数の-OSi(OR7) (OR8) (OR9)基は互いに同一であってもよいし異なっていてもよい。。)
で表される化合物を挙げることができる。
【0048】
上記一般式(III)で表される化合物において、Mは、Ti原子、Zr原子またはAl
原子であり、Ti原子であることが好ましい。
【0049】
上記一般式(III)で表される化合物において、R7、R8およびR9は、炭素数1~
10の直鎖状または分岐鎖状の炭化水素基であり、炭素数1~4の直鎖状または分岐鎖状の炭化水素基であることが好ましく、炭素数1~3の直鎖状または分岐鎖状の炭化水素基であることがより好ましい。
【0050】
R7、R8およびR9として、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、へプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基の直鎖状または分岐鎖状、環状の炭化水素基等から選ばれるものを挙げることができる。
R7、R8およびR9は、互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0051】
本発明に係る光学フィルター1において、R7、R8およびR9の炭素数が上記範囲内にあることにより、ケイ素化合物と金属アルコキシドとの好適な反応速度を維持しやすくなり、より均質なカップリング剤を調製しやすくなる。
【0052】
上記R7、R8およびR9は、互いに同一であっても異なっていてもよい。
また、nは、MがTi原子またはZr原子である場合は4でありMがAl原子である場合は3であり、複数の-OSi(OR7) (OR8) (OR9)基は互いに同一であってもよいし異なっていてもよい。
【0053】
上記一般式(III)で表されるカップリング剤は、下記一般式(V)
Si(OR7)(OR8) (OR9)OH (V)
(ただし、R7、R8およびR9は、炭素数1~10の直鎖状または分岐鎖状の炭化水素基であって、互いに同一であっても異なっていてもよい。)
で表わされるケイ素化合物と、下記一般式(VI)
Ti(OR13)(OR14)(OR15)(OR16) (VI)
(ただし、R13、R14、R15およびR16は、炭素数1~10の直鎖状または分岐鎖状の炭化水素基であって、互いに同一であっても異なっていてもよい。)、下記一般式(VII)
Zr(OR17)(OR18)(OR19)(OR20) (VII)
(ただし、R17、R18、R19およびR20は、炭素数1~10の直鎖状または分岐鎖状の炭化水素基であって、互いに同一であっても異なっていてもよい。)および下記一般式(VIII)
Al(OR21)(OR22)(OR23) (VIII)
(ただし、R21、R22およびR23は、炭素数1~10の直鎖状または分岐鎖状の炭化水素基であって、互いに同一であっても異なっていてもよい。)
で表される金属アルコキシドから選ばれる一種以上
との反応物からなるものであることが好ましい。
【0054】
上記一般式(V)で表されるケイ素化合物において、上記R7、R8およびR9の炭素数や具体例は、上述したとおりであり、R7、R8およびR9は、互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0055】
上記一般式(V)で表されるケイ素化合物は、以下のとおり対応するシランアルコキシドを部分加水分解することにより容易に生成することができる。
Si(OR7)(OR8) (OR9) (ORa)+H2O → Si(OR7)(OR8)
(OR9)OH+RaOH
(ただし、R7、R8、R9およびRaは、炭素数1~10の直鎖状または分岐鎖状の炭化水素基であって、互いに同一であっても異なっていてもよい。)
上記炭化水素基R7、R8およびR9の好ましい態様は、上述したとおりであり、Raの好ましい態様も炭化水素基R7、R8およびR9の好ましい態様と同様である。
シランアルコキシドは、その全てが加水分解された場合には以下のとおり反応が進行してシラノールSi(OH)4を生成する。
Si(OR7)(OR8) (OR9) (ORa)+4H2O → Si(OH)4+R7OH+R8OH+R9OH+RaOH
一方、シランアルコキシドを加水分解する水分量を制御して部分加水分解することにより、上記のとおり一般式(V)で表されるケイ素化合物を得ることができる。
【0056】
上記一般式(VI)Ti(OR13)(OR14)(OR15)(OR16)で表されるチタン
アルコキシド、上記一般式(VII)Zr(OR17)(OR18)(OR19)(OR20)で
表されるジルコニウムアルコキシドおよび上記一般式(VIII)Al(OR21)(OR2
2)(OR23)で表されるアルミニウムアルコキシドにおいて、R13~R23(R13
、R14、R15、R16、R17、R18、R19、R20、R21、R22およびR23)は、炭素数1~10の直鎖状または分岐鎖状の炭化水素基であり、炭素数2~9の直鎖状または分岐鎖状の炭化水素基であることが好ましく、炭素数3~8の直鎖状または分岐鎖状の炭化水素基であることがより好ましい。
【0057】
R13、R14、R15、R16、R17、R18、R19、R20、R21、R22またはR23として、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、へプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基の直鎖状または分岐鎖状、環状の炭化水素基等から選ばれるものを挙げることができる。
R13、R14、R15、R16、R17、R18、R19、R20、R21、R22およびR23は、互いに同一であってもよいし異なっていてもよい。
【0058】
本発明に係る光学フィルター1において、R13、R14、R15、R16、R17、R18、R19、R20、R21、R22またはR23の炭素数が、2以上であることにより、金属アルコキシドの水分に対する安定性を効果的に向上させることができ、9以下であることにより、金属アルコキシドの粘性の増加を抑制し、ハンドリング性を効果的に高めることができる。
【0059】
上記一般式Si(OR7) (OR8) (OR9)OHで表されるケイ素化合物と上記一般式(VI)で表されるチタンアルコキシドTi(OR13)(OR14)(OR15)(OR16)
とを例にとって説明すると、両者の反応は以下のとおり進行すると考えられる。
4Si(OR7) (OR8) (OR9)OH+Ti(OR13)(OR14)(OR15)(OR
16)
→Ti{OSi(OR7) (OR8) (OR9) }4+R13OH+R14OH+R15O
H+R16OH
反応系内に一般式Ti(OR13)(OR14)(OR15)(OR16) で表されるチタンアルコキシド1モルに対して一般式Si(OR7) (OR8) (OR9)OHで表されるケイ素化合物が4モル以上存在するケイ素化合物の過剰存在下で反応させることにより、系内に存在するチタンアルコキシドは全て上式に従って反応すると考えられる。
【0060】
本発明に係る光学フィルター1としては、吸収ガラス基板に対し、下記一般式(III)
M{OSi(OR7) (OR8) (OR9)}n (III)
(ただし、MはTi原子、Zr原子またはAl原子であり、R7、R8およびR9は、炭素数1~10の直鎖状または分岐鎖状の炭化水素基であって、互いに同一であっても異なっていてもよく、nは、MがTi原子またはZr原子である場合は4でありMがAl原子である場合は3であり、複数の-OSi(OR7) (OR8) (OR9)基は互いに同一であってもよいし異なっていてもよい。)
で表される化合物を含むカップリング剤の加水分解、脱水縮合物を含む接合層を介して後述する樹脂膜が設けられてなるものを挙げることができる。
【0061】
上記一般式(III)で表される化合物からなるカップリング剤がTi{OSi(OR7) (OR8) (OR9)}4 である場合を例にとって説明すると、上記カップリング剤は、
以下の反応式に示すとおり系内に水を加えることにより加水分解反応が進行する。
Ti{OSi(OR7) (OR8) (OR9)}4+12H2O → Ti{OSi(OH)3}4+4R7OH+4R8OH+4R9OH
上記加水分解反応は、例えば、10~40℃の温度条件下、適宜HCl等の触媒を用いて、適量の水の存在下に行うことができる。
次いで、上記一般式(III)で表される化合物からなるカップリング剤の加水分解物を
含む塗布液を吸収ガラス基板に塗布して塗布膜を形成する。
上記塗布液中の一般式(III)で表される化合物からなるカップリング剤の含有濃度は
、0.1~10.0質量%であることが好ましい。また、上記塗布液の吸収ガラス基板への塗布量は0.01~0.10ml/cm2であることが好ましい。
上記カップリング剤の加水分解物を含有する塗布液を塗布する方法としては、浸漬コーティング法、キャストコーティング法、スプレーコーティング法、スピンコーティング法
等から選ばれる一種以上のコーティング法を挙げることができる。
その上で、上記塗布膜上に後述する樹脂膜形成用塗布液を塗布して吸収樹脂塗布膜を形成した後、適宜加熱することにより、カップリング剤の加水分解物の脱水縮合物として、[-Ti(OSiO3)3―]n(ただし、nは正の整数である。)で表される反応物を得ることができる。
【0062】
上記脱水縮合物は、カップリング剤同士とともに、カップリング剤と吸収ガラスないしは樹脂膜と強固に結合すると考えられ、このため、本発明によれば、リン酸塩系ガラスまたはフツリン酸塩ガラスからなる吸収ガラス基板に対し高い密着性を有する樹脂膜を設けた光学フィルター1を容易に提供することができる。
【0063】
本発明の光学フィルター1は、接合層がさらにシラノールの加水分解、脱水縮合物を含むものであってもよい。
【0064】
すなわち、シラノールSi(OH)4は、適宜加熱することにより、以下の反応式に示すとおり脱水縮合物(Si-O-Si)2を生じる。
Si(OH)4 →(Si-O-Si)2+2H2O
本発明者等の検討によれば、上記シラノールの脱水縮合物のみでは、特に水分共存下において吸収ガラス基板や樹脂膜に対する密着性が不足し易いが、上記一般式(I)または一般式(III)で表される化合物からなるカップリング剤の加水分解物を脱水縮合して得
られる脱水縮合物と併用することにより、相互に補完し合って上記密着性が向上すると考えられる。
【0065】
上記シラノールは、上記一般式(I)または一般式(III)で表される化合物からなる
カップリング剤の加水分解物を含む塗布液中に添加した上で、係る塗布液を吸収ガラス基板に塗布して塗布膜を形成し、次いで適宜上記加熱処理を加えることによって、カップリング剤の加水分解物の脱水縮合物[-Ti(OSiO3)3―]n(ただし、nは正の整数である。)とともにシラノールの脱水縮合物を生成することができる。
【0066】
本発明の光学フィルター1は、リン酸塩系ガラスまたはフツリン酸塩系ガラスからなる吸収ガラス基板に対し、下記一般式(V)
Si(OR7)(OR8) (OR9)OH (V)
(ただし、R7、R8およびR9は、炭素数1~10の直鎖状または分岐鎖状の炭化水素基であって、互いに同一であっても異なっていてもよい。)
で表わされるケイ素化合物50モル%以上100モル%未満と、下記一般式(VI)
Ti(OR13)(OR14)(OR15)(OR16) (VI)
(ただし、R13、R14、R15およびR16は、炭素数1~10の直鎖状または分岐鎖状の炭化水素基であって、互いに同一であっても異なっていてもよい。)、下記一般式(VII)
Zr(OR17)(OR18)(OR19)(OR20) (VII)
(ただし、R17、R18、R19およびR20は、炭素数1~10の直鎖状または分岐鎖状の炭化水素基であって、互いに同一であっても異なっていてもよい。)および下記一般式(VIII)
Al(OR21)(OR22)(OR23) (VIII)
(ただし、R21、R22およびR23は、炭素数1~10の直鎖状または分岐鎖状の炭化水素基であって、互いに同一であっても異なっていてもよい。)
で表される金属アルコキシドから選ばれる一種以上0モル%超50モル%以下との反応物を含むカップリング剤組成物の加水分解、脱水縮合物を含む接合層を介して樹脂膜が設けられてなるものであることが好ましい。
上記金属アルコキシドが50モル%以下であることにより、得られるカップリング剤の
塗布性を効果的に向上させることができる。
【0067】
本発明に係る光学フィルター1において、カップリング剤組成物は、上記一般式(V)で表されるケイ素化合物50モル%以上100モル%未満と上記一般式(VI)、一般式(VII)および一般式(VIII)で表される金属アルコキシドから選ばれる一種以上0モル%
超50モル%以下との反応組成物であることが好ましく、上記一般式(V)で表されるケイ素化合物80モル%超100モル%未満と上記一般式(VI)、一般式(VII)および一
般式(VIII)で表される金属アルコキシドから選ばれる一種以上0モル%超20モル%未満との反応組成物であることがより好ましく、上記一般式(V)で表されるケイ素化合物85~94モル%と一般式(VI)、一般式(VII)および一般式(VIII)で表される金属
アルコキシドから選ばれる一種以上6~15モル%との反応組成物であることがさらに好ましい。
上記一般式(V)で表されるケイ素化合物と上記一般式(VI)、一般式(VII)および
一般式(VIII)で表される金属アルコキシドから選ばれる一種以上との反応割合が上記範囲内にあることにより、均質であるとともに、滑らかで剥がれを生じ難い膜を容易に形成することができる。
【0068】
上記吸収ガラス基板や、一般式(V)で表されるケイ素化合物や、一般式(VI)、一般式(VII)および一般式(VIII)で表される金属アルコキシド等の詳細は、上述したとお
りである。
【0069】
本発明に係る光学フィルター1において、カップリング剤組成物が、一般式(V)で表されるケイ素化合物と一般式(VI)、一般式(VII)および一般式(VIII)で表される金
属アルコキシドとを上記割合で反応させた反応物であることにより、上記カップリング剤組成物を含む均一な塗布溶液を容易に調製することができ、均一な膜形成を容易に行うことができる。
【0070】
上述したように、上記一般式(V)Si(OR7)(OR8) (OR9)OHで表される
ケイ素化合物と上記一般式(VI)で表されるチタンアルコキシドTi(OR13)(OR
14)(OR15)(OR16) とを例にとると、両者の反応は以下のとおり進行する。
4Si(OR7)(OR8) (OR9)OH+Ti(OR13)(OR14)(OR15)(OR16)
→Ti{OSi(OR7) (OR8) (OR9) }4+R13OH+R14OH+R15O
H+R16OH
【0071】
上記チタンアルコキシド1モルに対してケイ素化合物が4モル以上存在するケイ素化合物の過剰存在下で反応させた場合、系内に存在する上記チタンアルコキシドは全て上式に従って反応すると考えられるのに対し、上記チタンアルコキシド1モルに対して上記ケイ素化合物が4モル未満になると、生成するチタン化合物中にアルコキシ基(OR13基、OR14基、OR15基、OR16基)が残存してしまい、このようなアルコキシ基が残存するチタン化合物が多数存在すると、塗布溶液中でチタン化合物が沈澱してしまい、均一な膜形成を行い難くなる。このため、理論量よりもケイ素化合物が過剰存在下で反応させたカップリング組成物を用いることが好ましい。
【0072】
上述したように、上記反応で生成したTi{OSi(OR7) (OR8) (OR9)}4は、適宜HCl等の無機酸からなる触媒の存在下に加水分解することにより、下記反応式による加水分解反応を生じる。
Ti{OSi(OR7) (OR8) (OR9)}4+12H2O → Ti{OSi(OH)3}4+4R7OH+4R8OH+4R9OH
また、このとき、系内に一般式(V)で表されるケイ素化合物が過剰量存在すると、下
記反応式に従って加水分解を生じてシラノールSi(OH)4を生成する。
Si(OR7)(OR8) (OR9)OH+3H2O→Si(OH)4+R7OH+R8OH
+R9OH
【0073】
上述したように、上記加水分解物Ti{OSi(OH)3}4は、適宜加熱処理を施すことにより、加水分解物の脱水縮合物として、[-Ti(OSiO3)3―]n(ただし、nは正の整数である。)で表される反応物を得ることができる。
また、上述したように、上記加水分解により生じたシラノールSi(OH)4も適宜加熱処理を施すことにより下記反応式に示す脱水縮合反応を生じて脱水縮合物(Si-O-Si)2を生じる。
Si(OH)4 →(Si-O-Si)2+2H2O
上記シラノールの脱水縮合物のみでは、特に水分共存下において吸収ガラス基板や樹脂膜に対する密着性が不足し易いが、上記カップリング剤の加水分解物Ti{OSi(OH)3}4の脱水縮合物と併用することにより、相互に補完し合って吸収ガラス基板等との密着性が向上すると考えられる。
【0074】
上記カップリング剤組成物は、上記一般式(V)で表されるケイ素化合物と上記一般式(VI)、一般式(VII)または一般式(VIII)で表される金属アルコキシドとの反応生成
物以外に、さらに、反応触媒、pH調整剤、レベリング剤、消泡剤等の任意成分を含有していてもよい。
【0075】
本発明の光学フィルター1において、下記一般式(II)
(TikOk-1)(OSiR4R5R6)2k+2 (II)
(ただし、R4、R5およびR6は、酸素原子または窒素原子を含んでもよい炭素数1~10の直鎖状または分岐鎖状の炭化水素基であって、互いに同一であっても異なっていてもよく、kは、2以上15以下の実数であり、複数の-OSiR4R5R6基は互いに同一であってもよいし異なっていてもよい。)
で表される化合物は、上述した一般式(I)で表されるとは異なり、Ti原子を2原子以上含む多量体構造(-Ti-O-Ti-)を分子内に有するものである。
【0076】
一般式(II)で表される化合物において、R4、R5およびR6は、酸素原子または窒素原子を含んでもよい炭素数1~10の直鎖状または分岐鎖状の炭化水素基であり、酸素原子または窒素原子を含んでもよい炭素数1~4の直鎖状または分岐鎖状の炭化水素基であることが好ましく、酸素原子または窒素原子を含んでもよい炭素数1~3の直鎖状または分岐鎖状の炭化水素基であることがより好ましい。
【0077】
R4、R5およびR6として、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、へプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基の直鎖状、分岐鎖状または環状の炭化水素基等や、-C3H6(COO)CHCH2、-CH2(CO
O)CHCH2、-C2H4(COO)CHCH2、-C4H8(COO)CHCH2、-C
5H10(COO)CHCH2、-C6H12(COO)CHCH2、-C7H14(COO)CHCH2、-C8H16(COO)CHCH2、-C9H18(COO)CHCH2、-
C10H20(COO)CHCH2等の、直鎖状、分岐鎖状または環状の炭化水素基等から選ばれるものを挙げることができる。
【0078】
一般式(II)で表される化合物において、R4、R5およびR6の炭素数が上記範囲内にあることにより、ケイ素化合物と金属アルコキシドとの好適な反応速度を維持しやすくなり、より均質なカップリング剤を調製しやすくなる。
また、一般式(II)で表される化合物において、ケイ素原子に結合するR4、R5およびR6で表される官能基は、樹脂膜と接合層との接合性に影響を与え得る。そのため、接
合層上に設ける樹脂膜に応じて、適切なR4、R5およびR6基を選択することにより、樹脂膜と接合層との接合性を調整することができる。
【0079】
一般式(II)で表される化合物において、kは、2以上15以下の実数であり、4以上10以下の実数であることがより好ましく、特に4、7または10であることが好ましい。
【0080】
一般式(II)で表される化合物において、kが上記範囲内にあることにより、リン酸塩系ガラスまたはフツリン酸塩ガラスからなる吸収ガラス基板に対し高い密着性を有する樹脂膜を容易に設けることができる。
【0081】
一般式(II)で表される化合物において、 R4、R5およびR6は、互いに同一であっても異なっていてもよい。
また、複数の-OSiR4R5R6基は互いに同一であってもよいし異なっていてもよい。
【0082】
本発明の光学フィルター1において、一般式(II)で表される化合物としては、下記一般式(IV)
(TikOk-1){OSi(OR10)(OR11) (OR12)}2k+2 (IV)(ただし、R10、R11およびR12は、炭素数1~10の直鎖状または分岐鎖状の炭化水素基であって、互いに同一であっても異なっていてもよく、kは、2以上15以下の実数であり、複数の-OSi(OR10)(OR11) (OR12)基は互いに同一であっ
てもよいし異なっていてもよい。)
で表される化合物を挙げることができる。
【0083】
一般式(IV)で表される化合物を構成するR10、R11およびR12は、炭素数1~10の直鎖状または分岐鎖状の炭化水素基であり、炭素数1~4の直鎖状または分岐鎖状の炭化水素基であることが好ましく、炭素数1~3の直鎖状または分岐鎖状の炭化水素基であることがより好ましい。
【0084】
R10、R11およびR12として、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、へプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基の直鎖状または分岐鎖状、環状の炭化水素基等から選ばれるものを挙げることができる。
R10、R11およびR12は、互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0085】
一般式(IV)で表される化合物において、R10、R11およびR12の炭素数が上記範囲内にあることにより、ケイ素化合物と金属アルコキシドとの好適な反応速度を維持しやすくなり、より均質なカップリング剤を調製しやすくなる。
【0086】
一般式(IV)で表される化合物において、kは、2以上15以下の実数であり、4以上10以下の実数であることがより好ましく、特に、4、7または10であることが好ましい。
また、複数の-OSi(OR10)(OR11) (OR12)基は互いに同一であっても
よいし異なっていてもよい。
【0087】
一般式(IV)で表される化合物において、kが上記範囲内にあることにより、リン酸塩系ガラスまたはフツリン酸塩ガラスからなる吸収ガラス基板に対し高い密着性を有する樹脂膜を容易に設けることができる。
【0088】
一般式(IV)で表される化合物において、kが2である場合は、下記構造式により表す
ことができる。
【0089】
【化1】
(ただし、複数のR
10、R
11およびR
12は、それぞれ同一であってもよいし異なっていてもよく、また、複数の-OSi(OR
10) (OR
11) (OR
12)基は互いに同一であってもよいし異なっていてもよい。)
【0090】
一般式(IV)で表される化合物において、kが3である場合は、下記構造式により表すことができる。
【0091】
【化2】
(ただし、複数のR
10、R
11およびR
12は、それぞれ同一であってもよいし異なっていてもよく、また、複数の-OSi(OR
10) (OR
11) (OR
12)基は互いに同一であってもよいし異なっていてもよい。)
【0092】
上記一般式(IV)で表されるカップリング剤は、下記一般式(IX)
Si(OR10)(OR11) (OR12)OH (IX)
(ただし、R10、R11およびR12は、炭素数1~10の直鎖状または分岐鎖状の炭化水素基であって、互いに同一であっても異なっていてもよい。)
で表わされるケイ素化合物と、下記式
Ti(OH)4
で表されるテトラヒドロキシチタンとの反応物からなるものであることが好ましい。
【0093】
上記一般式(IX)で表されるケイ素化合物において、上記R10、R11およびR12の炭素数や具体例は、上述したとおりであり、R10、R11およびR12は、互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0094】
上記一般式(IX)Si(OR10) (OR11) (OR12)OHで表されるケイ素化合物と上記式Ti(OH)4 で表されるテトラヒドロキシチタンとの反応は、例えば以下の
とおり進行すると考えられる。
6Si(OR10) (OR11) (OR12)OH+2Ti(OH)4
→Ti2O{OSi(OR10) (OR11) (OR12) }6+4H2O
上記反応により得られる一般式Ti2O{OSi(OR10) (OR11) (OR12)
}6で表される化合物は、上記一般式(IV)で表される化合物において、kが2である場合に相当する。
反応系内にテトラヒドロキシチタン(Ti(OH)4)2モルに対して一般式Si(OR
10) (OR11) (OR12)OHで表されるケイ素化合物が6モル以上存在するケイ素
化合物の過剰存在下で反応させることにより、系内に存在するテトラヒドロキシチタンは全て上式に従って反応すると考えられる。
【0095】
本発明に係る光学フィルター1としては、吸収ガラス基板に対し、下記一般式(IV)
(TikOk-1){OSi(OR10)(OR11) (OR12)}2k+2 (IV)(ただし、R10、R11およびR12は、炭素数1~10の直鎖状または分岐鎖状の炭化水素基であって、互いに同一であっても異なっていてもよく、kは、2以上15以下の実数であり、複数の-OSi(OR10)(OR11) (OR12)基は互いに同一であっ
てもよいし異なっていてもよい。)
で表される化合物から選ばれる一種以上のカップリング剤の加水分解、脱水縮合物を含む接合層を介して後述する樹脂膜が設けられてなるものが好ましい。
【0096】
上記一般式(IV)で表される化合物からなるカップリング剤がTi2O{OSi(OR
10) (OR11) (OR12) }6である場合(上記一般式(IV)で表される化合物において、kが2である場合)を例にとって説明すると、上記カップリング剤は、以下の反応式に示すとおり系内に水を加えることにより加水分解反応が進行する。
Ti2O{OSi(OR10) (OR11) (OR12) }6+18H2O→
Ti2O{OSi(OH)3}6+6R10OH+6R11OH+6R12OH
上記加水分解反応は、例えば、10~40℃の温度条件下、適宜HCl等の触媒を用いて、適量の水の存在下に行うことができる。
次いで、上記一般式(IV)で表される化合物からなるカップリング剤の加水分解物を含む塗布液を吸収ガラス基板に塗布して塗布膜を形成する。
上記塗布液中の一般式(IV)で表される化合物からなるカップリング剤の含有濃度は、0.5~20質量%であることが好ましい。また、上記塗布液の吸収ガラス基板への塗布量は0.005~0.5ml/cm2であることが好ましい。
上記カップリング剤の加水分解物を含有する塗布液を塗布する方法としては、浸漬コーティング法、キャストコーティング法、スプレーコーティング法、スピンコーティング法等から選ばれる一種以上のコーティング法を挙げることができる。
その上で、上記塗布膜上に後述する樹脂膜形成用塗布液を塗布して吸収樹脂塗布膜を形成した後、適宜加熱することにより、加水分解物の脱水縮合物として、[-(TiO3)2(SiO3)5-]m(ただし、mは正の整数である。)で表される反応物を得ることができる。
【0097】
上記脱水縮合物は、カップリング剤同士とともに、カップリング剤と吸収ガラスないし
は樹脂膜と強固に結合すると考えられ、このため、本発明によれば、リン酸塩系ガラスまたはフツリン酸塩ガラスからなる吸収ガラス基板に対し高い密着性を有する樹脂膜を設けた光学フィルター1を容易に提供することができる。
【0098】
本発明の光学フィルター1においては、上述したように、前記接合層がさらにシラノールの加水分解、脱水縮合物を含むものであってもよい。
【0099】
すなわち、シラノールSi(OH)4は、適宜加熱することにより、以下の反応式に示すとおり脱水縮合物(Si-O-Si)2を生じる。
Si(OH)4 →(Si-O-Si)2+2H2O
本発明者等の検討によれば、上記シラノールの脱水縮合物のみでは、特に水分共存下において吸収ガラス基板や樹脂膜に対する密着性が不足し易いが、上記一般式(II)または一般式(IV)で表される化合物からなるカップリング剤の加水分解物を脱水縮合して得られる脱水縮合物と併用することにより、相互に補完し合って上記密着性が向上すると考えられる。
【0100】
上記シラノールは、上記一般式(II)または一般式(IV)で表される化合物からなるカップリング剤の加水分解物を含む塗布液中に添加した上で、係る塗布液を吸収ガラス基板に塗布して塗布膜を形成し、次いで適宜上記加熱処理を加えることによって、カップリング剤の加水分解物の脱水縮合物とともにシラノールの脱水縮合物を生成することができる。
【0101】
次に、本発明の光学フィルター2について説明する。
本発明の光学フィルター2は、リン酸塩系ガラスまたはフツリン酸塩系ガラスからなる吸収ガラス基板に対し、Si原子とともに、Ti原子、Zr原子およびAl原子から選ばれる一種以上とを含む樹脂膜が設けられてなることを特徴とするものであり、その具体的態様としては、本発明の光学フィルター2-1または本発明の光学フィルター2-2を挙げることができる。
【0102】
本発明の光学フィルター2-1は、リン酸塩系ガラスまたはフツリン酸塩系ガラスからなる吸収ガラス基板に対し、下記一般式(I)
M(OSiR1R2R3)n (I)
(ただし、MはTi原子、Zr原子またはAl原子であり、R1、R2およびR3は、酸素原子または窒素原子を含んでもよい炭素数1~10の直鎖状または分岐鎖状の炭化水素基であって、互いに同一であっても異なっていてもよく、nは、MがTi原子またはZr原子である場合は4でありMがAl原子である場合は3であり、複数の-OSiR1R2R3基は互いに同一であってもよいし異なっていてもよい。)
で表される化合物および下記一般式(II)
(TikOk-1)(OSiR4R5R6)2k+2 (II)
(ただし、R4、R5およびR6は、酸素原子または窒素原子を含んでもよい炭素数1~10の直鎖状または分岐鎖状の炭化水素基であって、互いに同一であっても異なっていてもよく、kは、2以上15以下の実数であり、複数の-OSiR4R5R6基は互いに同一であってもよいし異なっていてもよい。)
で表される化合物から選ばれる一種以上のカップリング剤の加水分解、脱水縮合物を含む樹脂膜が設けられてなるものである。
【0103】
また、本発明の光学フィルター2-2は、リン酸塩系ガラスまたはフツリン酸塩系ガラスからなる吸収ガラス基板に対し、下記一般式(III)
M{OSi(OR7) (OR8) (OR9)}n (III)
(ただし、MはTi原子、Zr原子またはAl原子であり、R7、R8およびR9は、炭
素数1~10の直鎖状または分岐鎖状の炭化水素基であって、互いに同一であっても異なっていてもよく、nは、MがTi原子またはZr原子である場合は4でありMがAl原子である場合は3であり、複数の-OSi(OR7) (OR8) (OR9)基は互いに同一であってもよいし異なっていてもよい。)
で表される化合物および下記一般式(IV)
(TikOk-1){OSi(OR10)(OR11) (OR12) }2k+2 (IV
)
(ただし、R10、R11およびR12は、炭素数1~10の直鎖状または分岐鎖状の炭化水素基であって、互いに同一であっても異なっていてもよく、kは、2以上15以下の実数であり、複数の-OSi(OR10)(OR11) (OR12) 基は互いに同一であってもよいし異なっていてもよい。)
で表される化合物から選ばれる一種以上のカップリング剤の加水分解、脱水縮合物を含有する樹脂膜が設けられてなるものである。
【0104】
本発明の光学フィルター2は、上記本発明の光学フィルター1との関係では、接合層の構成成分(例えば、カップリング剤またはカップリング剤組成物の加水分解、脱水縮合物)を後述する樹脂膜内に含む点において、上記光学フィルター1と相違するが、その他の点において共通する。このため、共通する事項についての説明の詳細は、上述したとおりである。
【0105】
また、本発明の光学フィルター2を構成する樹脂膜において、Si原子、Ti原子、Zr原子およびAl原子の総数(総原子数)に占める、Ti原子、Zr原子およびAl原子の合計原子数の割合α(atomic%)も、0atomic%を超え33.3atomic%以下であることが好ましく、9~33.3atomic%であることがより好ましく、12~33.3atomic%であることがさらに好ましい。
なお、本出願書類において、上記樹脂膜を構成するTi原子、Zr原子およびAl原子の合計原子数の割合α(atomic%)も、上述した接合層を構成するTi原子、Zr原子およびAl原子の合計原子数の割合α(atomic%)と同様の測定条件により光学フィルターのSTEM-EDX測定を行うことにより算出した値を意味する。
【0106】
本発明の光学フィルター2の製造方法としては、例えば、リン酸塩系ガラスまたはフツリン酸塩系ガラスからなる吸収ガラス基板に対し、上記カップリング剤組成物の加水分解物を含有する(後述する)樹脂膜形成液を塗布して塗布膜を形成し、その上で、適宜加熱処理等して脱水縮合反応を施す方法を挙げることができる。本製造方法により、上記カップリング剤が、カップリング剤同士が強固に結合しまたはカップリング剤の加水分解、脱水縮合物および吸収ガラス基板が強固に結合して、所望の光学フィルターを形成することができる。
【0107】
[樹脂膜]
本発明に係る光学フィルターにおいて、樹脂膜としては、例えば、紫外光または近赤外光を吸収する吸収樹脂膜、反射防止膜、反射増幅膜、ガラスのヤケを防ぐための保護膜、ガラスの強度を向上させるための強化膜、撥水膜等が挙げられる。
紫外光または近赤外光を吸収する吸収樹脂膜としては、近赤外吸収色素および透明樹脂を含むものを挙げることができ、透明樹脂中に近赤外吸収色素が均一に溶解または分散してなるものが好ましい。
【0108】
吸収樹脂膜を構成する近赤外線吸収色素としては、従来公知のものを採用することができ、シアニン系色素、ポリメチン系色素、スクアリリウム系色素、ポルフィリン系色素、金属ジチオール錯体系色素、フタロシアニン系色素、ジイモニウム系色素および無機酸化物粒子から選ばれる一種以上が好ましく、スクアリリウム系色素、シアニン系色素、フタ
ロシアニン系色素から選ばれる一種以上がより好ましい。
【0109】
樹脂膜を構成する樹脂としては、従来公知の透明樹脂を採用することができ、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、エン・チオール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリサルホン樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリパラフェニレン樹脂、ポリアリーレンエーテルフォスフィンオキシド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、環状オレフィン樹脂およびポリエステル樹脂から選ばれる一種以上が挙げられる。
透明樹脂としては、透明性、近赤外線吸収色素の透明樹脂に対する溶解性および耐熱性の観点から、ガラス転移点(Tg)の高いものが好ましく、具体的には、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリイミド樹脂、およびエポキシ樹脂から選ばれる一種以上が好ましく、ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂から選ばれる一種以上がより好ましい。
ポリエステル樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂から選ばれる一種以上が好ましい。
【0110】
樹脂膜は、上記近赤外線吸収色素および透明樹脂以外に、さらに、本発明の効果を損なわない範囲で、色調補正色素、レベリング剤、帯電防止剤、熱安定剤、光安定剤、酸化防止剤、分散剤、難燃剤、滑剤、可塑剤等の任意成分を含有してもよい。
【0111】
上述したように、本発明に係る光学フィルターが、本発明の光学フィルター1である場合、例えば、リン酸塩系ガラスまたはフツリン酸塩系ガラスからなる吸収ガラス基板上に、上記カップリング剤組成物を含有する含有液を加水分解した加水分解形成膜を形成し、その上に紫外光および近赤外光の少なくともいずれか一方を吸収する樹脂膜形成液を塗布して塗布膜を形成する。
また、本発明に係る光学フィルターが、本発明の光学フィルター2である場合、例えば、リン酸塩系ガラスまたはフツリン酸塩系ガラスからなる吸収ガラス基板に対し、上記カップリング剤組成物を含有する樹脂膜形成液を塗布して塗布膜を形成する。
【0112】
樹脂膜は、例えば、色素と、透明樹脂と、さらに本発明の第二の形態に係る赤外カットフィルターを形成する場合はカップリング剤と、任意配合成分とを、溶媒に溶解または分散させて樹脂膜形成液を調製し、これを塗工し乾燥させ、さらに必要に応じて硬化させることにより形成することができる。
【0113】
上記樹脂膜形成液は、カチオン系、アニオン系、ノニオン系等の公知の界面活性剤を含むものであってもよい。
【0114】
樹脂膜形成液の塗工には、浸漬コーティング法、キャストコーティング法、スプレーコーティング法、スピンコーティング法等から選ばれる一種以上のコーティング法を採用することができる。
【0115】
上記樹脂膜形成液を基材上に塗工後、乾燥処理することにより樹脂膜を形成することができる。
【0116】
本発明に係る光学フィルターとしては、例えば、赤外カットフィルター(IRCF)を挙げることができる。
【0117】
本発明に係る光学フィルターが赤外カットフィルター(IRCF)である場合、例えば、
図2(b)に例示するように、紫外光または近赤外光を吸収する吸収ガラス基板3’の下面側(光出射面側)にさらに紫外光または近赤外光を吸収する吸収樹脂膜5を有する赤
外カットフィルター(IRCF)1を挙げることができる。
【0118】
図2(b)に例示する態様においては、紫外光または近赤外光を吸収する吸収ガラス基板3’の上面側(光入射面側)に反射膜(UVIR膜)2が設けられるとともに、上記紫外光または近赤外光を吸収する吸収樹脂膜5の下面側にさらに反射防止膜(AR膜)4が設けられてなる。
【0119】
上記例において、反射膜(UVIR膜)としては、可視光を透過し、紫外領域および近赤外領域の光を遮蔽するものであればよく、このような反射膜(UVIR膜)としては、誘電体多層膜からなるものを挙げることができる。
誘電体多層膜は、低屈折率の誘電体膜(低屈折率膜)と高屈折率の誘電体膜(高屈折率膜)とを交互に積層した誘電体多層膜から構成されており、高屈折率膜の構成材料としては、Ta2O5、TiO2、Nb2O5等から選ばれる一種以上を挙げることができ、TiO2が好ましい。
また、低屈折率膜の構成材料としては、SiO2、SiOxNy等から選ばれる一種以上を挙げることができ、SiO2が好ましい。
【0120】
反射防止膜(AR膜)としても誘電体多層膜を挙げることができる。
【0121】
本発明によれば、リン酸塩系ガラスまたはフツリン酸塩ガラスからなる吸収ガラス基板に対し高い密着性を有する樹脂膜を設けた赤外カットフィルターを提供することができる。
【0122】
次に、本発明に係る撮像装置について説明する。
本発明に係る撮像素子は、固体撮像素子と、撮像レンズと、本発明に係る光学フィルターとを有することを特徴とするものである。
固体撮像素子としては、CCD(Charge-Coupled Device)セン
サやCMOS(Complementary Metal Oxide Semicond
uctor)センサ等のイメージセンサーを挙げることができる。
【0123】
本発明に係る撮像装置の構成例としては、
図1に例示するカメラモジュールを挙げることができる。
図1(a)は、スマートフォン等に搭載されるコンパクトデジタルカメラに係るカメラモジュールの概略説明図であり、
図1(a)に示すカメラモジュールは、1(または1以上の整数n)枚のレンズL(またはレンズL1…Ln)、本発明に係る光学フィルタ1およびイメージセンサICを有している。
また、
図1(b)は、デジタル一眼レフカメラに係るカメラモジュールの概略説明図であり、
図1(b)に示すカメラモジュールは、レンズL、本発明に係る光学フィルター1、カバーグラスCGおよびイメージセンサICを有している。
【0124】
本発明によれば、リン酸塩系ガラスまたはフツリン酸塩ガラスからなる吸収ガラス基板に対し高い密着性を有する樹脂膜を設けた光学フィルターを有する撮像装置を提供することができる。
【実施例】
【0125】
以下、実施例および比較例により本発明を更に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0126】
(実施例1~実施例7、比較例1)
1.カップリング剤含有塗布液の調製
(1) 容器中に0.5N(mol/L)のHCl水溶液0.3mLと2-メトキシエタノール2.2mLを秤量し、密閉下で混合した。
(2)上記容器内にオルトケイ酸テトラエチル(Si(OC2H5)4)を加え、密閉下
で30分間混合し、下記反応式で表される反応を生じさせた。
Si(OC2H5)4+H2O → HO-Si(OC2H5)3+C2H5OH
上記反応により水が全て消費され水酸基が生じるため、加水分解速度の速いTiのアルコキシドを加えても水酸化物が析出せず、溶液が均質となることが期待された。
(3)上記容器内にさらにチタン(IV)n-ブトキシド(Ti(OC4H9)4)を表1に示す割合になるように各々添加し、密閉下で30分間混合することにより、カップリング剤含有塗布液を調製した。表1に、HO-Si(OC2H5)3およびTi(OC4H9)4の合計を100モル%としたときのHO-Si(OC2H5)3およびTi(OC4H9)4の添加割合を各々記載する。
なお、このとき容器内では下記反応式で表される反応が生じたと考えられる。
4OH-Si(OC2H5)3+Ti(OC4H9)4→Ti(O-Si(OC2H5)3)4+4C4H9OH
【0127】
2.塗布膜の形成
上記カップリング剤含有塗布液を含有する容器内に対し、さらに0.5NのHCl水溶液1.2mLと、水4.7mLと、2-メトキシエタノール8.1mLを秤量し、密閉下で30分間混合して塗布膜形成液を調製した。
このとき容器内では下記反応式で表される反応が生じたと考えられる。
Ti{(O-Si(OC2H5)3}4+12H2O→Ti{(O-Si(OH)3}4+12C2H5OH
HO-Si(OC2H5)3+3H2O→ Si(OH)4 + 3C2H5OH
得られた塗布膜形成液を、スピンコーターを用いてフツリン酸塩系ガラスからなる吸収ガラス基板(HOYA(株)製CD700、厚さ0.59mm)上に、0.03mL/cm2となるように塗布した。
上記塗布膜形成液が塗布された吸収ガラス基板を250℃に加熱したホットプレートに乗せ、30分間加熱して脱水縮合させることにより表面に硬化膜(接合層)を有する吸収ガラス基板(以下、「評価基板1」と称する。)を作製した。
【0128】
上記各実施例および比較例において各々複数の評価基板1を作製し、以下のとおり(1)未処理のもの、(2)煮沸処理したもの、(3)高度加速寿命試験装置処理(PCT処理)したもの、または(4)高温高湿処理を施したものを用意した。
上記煮沸処理、高度加速寿命試験装置処理(PCT処理)および高温高湿処理の内容は、各々以下のとおりである。
【0129】
(煮沸処理)
沸騰した湯浴中に評価基板を浸漬し、60分間沸騰し続けた後、評価基板を取り出し、窒素ブローにより乾燥する。
(高度加速寿命試験装置処理(PCT処理))
高度加速寿命試験装置(エスペック(株)製EHS-411M)に評価基板を投入し、温度135℃、湿度85%の条件下で72時間0.13MPaで加圧処理した後、評価基板を取り出す。
(高温高湿処理)
高温高湿試験機(エスペック(株)製PL-2KPH)に評価基板を投入し、温度85℃、湿度85%の条件下で1000時間処理した後、評価基板を取り出す。
【0130】
上記(1)未処理の評価基板、(2)煮沸処理した評価基板、(3)高度加速寿命試験装置処理(PCT処理)した評価基板および(4)高温高湿処理を施した評価基板につい
て、JIS 5600-5-6の規定に準拠して上記硬化膜を設けた面に対して付着性ク
ロスカット試験を行った。
このときの試験結果を以下の評価基準0~5に基づいて分類した。結果を表1に示す。0:カットの縁が完全に滑らかで、どの格子の目にもはがれがない
1:カットの交差点における積層体の小さなはがれ。単位面積当たり5%未満のはがれ。2:塗膜がカットの縁に沿って、および/又は交差点においてはがれている。単位面積当たり5%以上15%未満のはがれ。
3:塗膜がカットの縁に沿って、部分的又は全面的に大はがれが生じており、および/又は目のいろいろな部分が、部分的又は全面的にはがれている。単位面積当たり15%以上35%未満の剥がれ。
4:塗膜がカットの縁に沿って、部分的または全面的に大はがれが生じており、および/または数箇所の目が部分的または全面的にはがれている。単位面積当たりの35%未満の剥がれ。
5:単位面積当たり35%以上の剥がれ。
【0131】
(実施例8)
実施例6において、チタン(IV)n-ブトキシド(Ti(OC4H9)4)に代えて、ジルコニウム(IV)n-ブトキシド(Zr(OC4H9)4)を用いた以外は、実施例6と同様にして、カップリング剤含有塗布液を調製した後、塗布膜を設けた評価基板1を作成して、同様にクロスカット試験を行った。結果を表2に示す。
【0132】
(実施例9)
実施例3において、チタン(IV)n-ブトキシド(Ti(OC4H9)4)に代えて、アルミニウムn-ブトキシド(Al(OC4H9)3)を用いた以外は、実施例3と同様にして、カップリング剤含有塗布液を調製した後、塗布膜を設けた評価基板1を作成して、同様にクロスカット試験を行った。結果を表3に示す。
【0133】
(実施例10~実施例12)
1.カップリング剤含有塗布液の調製
(1) 容器中に0.5N(mol/L)のHCl水溶液0.3mLと2-メトキシエタノール2.2mLを秤量し、密閉下で混合した。
(2)上記容器内にオルトケイ酸テトラエチル(Si(OC2H5)4)を加え、密閉下
で30分間混合し、下記反応式で表される反応を生じさせた。
Si(OC2H5)4+H2O → HO-Si(OC2H5)3+C2H5OH
上記反応により水が全て消費され水酸基が生じるため、加水分解速度の速いTiのアルコキシドを加えても水酸化物が析出せず、溶液が均質となることが期待された。
(3)上記容器内にさらにテトラ-n-ブトキシチタン重合体(Ti4O3(OC4H9)10)を表4に示す割合になるように各々添加し、密閉下で30分間混合することにより、カップリング剤含有塗布液を調製した。なお、このとき容器内では下記反応式で表される反応が生じたと考えられる。
10OH-Si(OC2H5)3+Ti4O3(OC4H9)10→Ti4O3(O-Si(OC2H5)3)10+10C4H9OH
Ti4O3(OC4H9)10(実施例10)に代えて、Ti7O6(OC4H9)16(実施例11)およびTi10O9(OC4H9)22(実施例12)を用いて同様に塗布液を作成した。表4に、各塗布液におけるケイ素化合物およびチタン化合物の配合割合を各々記載する。なお、表4に記載の含有割合はHO-Si(OC2H5)3と一式式TikOk-1(OC4H9)2k+2で表される各チタン化合物との合計を100モル%と
したときのHO-Si(OC2H5)3およびチタン化合物の各配合割合を意味している。
【0134】
2.塗布膜の形成
上記カップリング剤含有塗布液を含有する容器内に対し、さらに0.5NのHCl水溶液1.2mLと、水4.7mLと、2-メトキシエタノール8.1mLを秤量し、密閉下で30分間混合して塗布膜形成液を調製した。
たとえばTi4O3(OC4H9)10を用いた場合、容器内では下記反応式で表される反応が生じたと考えられる。
Ti4O3{O-Si(OC2H5)3}10+30H2O→Ti4O3{(O-Si(OH)3}10+30C2H5OH
HO-Si(OC2H5)3+3H2O→Si(OH)4+3C2H5OH
得られた塗布膜形成液を、スピンコーターを用いてフツリン酸塩系ガラスからなる吸収ガラス基板(HOYA(株)製CD700、厚さ0.59mm)上に、0.03mL/cm2となるように塗布した。
上記塗布膜形成液が塗布された吸収ガラス基板を250℃に加熱したホットプレートに乗せ、30分間加熱して脱水縮合させることにより表面に硬化膜(接合層)を有する吸収ガラス基板(評価基板1)を作製した。
【0135】
3.樹脂膜の形成
上記工程により得られた、表面に硬化膜(接合層)を有する吸収ガラス基板上に、以下の手順によってさらに樹脂膜を形成した。
(1) 容器中にポリビニルブチラール樹脂0.2gとシクロペンタノン1.8gを秤量し
、密閉下で混合した。
(2) 上記容器内にトルエンジイソシアネートを0.09g加え、密閉下で混合して樹脂
膜形成液を調製した。
(3) 得られた樹脂膜形成液を、スピンコーターを用いて、上記工程により得られた表面
に硬化膜(接合層)を有する吸収ガラス基板上に、0.03mL/cm2となるように塗布した。
(4)上記樹脂膜形成液が塗布された吸収ガラス基板を160℃に加熱したホットプレートに乗せ、20分間加熱して硬化させることより表面に樹脂膜を有するガラス基板(評価基板2)を作製した。
【0136】
上記実施例10~12において、硬化膜(接合層)のみ形成した評価基板1と、接合層上にさらに樹脂膜を形成した評価基板2について、以下のとおり(1)未処理のものおよび(2)実施例1~実施例9と同様に煮沸処理したものを用意した。
【0137】
上記(1)未処理の評価基板および(2)煮沸処理した評価基板について、上述したJIS 5600-5-6の規定に準拠して上記評価基板1の硬化膜(接合層)を設けた面
または上記評価基板2の樹脂膜を設けた面に対して付着性クロスカット試験を行い、実施例1~実施例9と同様に評価基準0~5に基づいて評価した。結果を表4に示す。
【0138】
また、実施例11で得られた評価基板2において、STEM-EDX測定を行ってSTEM-EDXライン(光学フィルターを構成する各元素の深さ方向におけるEDX線検出強度ライン)を得、接合層部分を構成する、Si原子およびTi原子の総数に占めるTi原子の含有割合α(atomic%)と、Si原子およびTi原子の総数に占めるSi原子の含有割合β(atomic%)を各々下記式により算出した。
【0139】
【0140】
【0141】
(なお、XSiは接合層を構成する領域におけるSi原子のEDX線積算強度、XTiは接合層を構成する領域におけるTi原子のEDX線積算強度、KSiはSi原子のkファクター(補正係数)、KTiはTi原子のkファクター(補正係数)、MSiはSi原子の原子量、MTiはTi原子の原子量を意味する。)
結果を表5に示す。
【0142】
【0143】
【0144】
【0145】
【0146】
【0147】
表1~表3より、実施例1~実施例9においては、吸収ガラス基板上に形成された硬化膜が、一般式M{OSi(OR7)(OR8) (OR9)}nで表される特定のカップリング
剤の加水分解、脱水縮合物を含む硬化膜(接合層)であることから、吸収ガラス基板に対し高い密着性を有することが分かる。
また、表4~表5より、実施例10~実施例12においては、吸収ガラス基板上に形成された硬化膜(接合層)または樹脂膜が、一般式 (TikOk-1){OSi(OR10) (OR11) (OR12) }2k+2で表される特定のカップリング剤の加水分解、脱水縮合物を含む硬化膜(接合層)または係る硬化膜(接合層)上に形成された樹脂膜であることから、吸収ガラス基板に対し高い密着性を有することが分かる。特に、実施例10~実施例12においては、硬化膜を構成するチタン化合物の配合割合(モル%)が低くても、チタン化合物の配合割合(モル%)が同程度である実施例1~実施例3に比較して密着性に優れることが分かる。このため、チタン化合物として単量体よりも多量体を用いた方がより低い含有割合で優れた密着性を発揮し得ることが分かる。
【0148】
一方、表1より、比較例1においては、吸収ガラス基板上に形成された硬化膜(接合層)が、特定のカップリング剤の加水分解、脱水縮合物を含まないことから、特に水分存在下において吸収ガラス基板に対する密着性に劣ることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0149】
本発明によれば、リン酸塩系ガラスまたはフツリン酸塩ガラスからなる吸収ガラス基板に対し高い密着性を有する樹脂膜を設けた赤外カットフィルターを提供するとともに、係る赤外カットフィルターを有する撮像装置を提供することができる。
【符号の説明】
【0150】
1 光学フィルター(赤外カットフィルター(IRCF))
2 反射膜(UVIR膜)
3 ガラス基板
3’ 吸収ガラス基板
4 反射防止膜(AR膜)
5 吸収樹脂膜
L レンズ
CG カバーグラス
IC イメージセンサ