(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-08
(45)【発行日】2024-08-19
(54)【発明の名称】ロックボルト孔への充填材注入システム及び充填材注入方法
(51)【国際特許分類】
E21D 20/00 20060101AFI20240809BHJP
E21D 20/02 20060101ALI20240809BHJP
【FI】
E21D20/00 L
E21D20/02
(21)【出願番号】P 2023213115
(22)【出願日】2023-12-18
【審査請求日】2024-06-04
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】591029921
【氏名又は名称】フジモリ産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003340
【氏名又は名称】弁理士法人湧泉特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 賢吾
(72)【発明者】
【氏名】坂根 一聡
(72)【発明者】
【氏名】小野 将太郎
(72)【発明者】
【氏名】樋口 晃輔
【審査官】松本 泰典
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-019611(JP,A)
【文献】特開2023-021449(JP,A)
【文献】特表2023-522433(JP,A)
【文献】中国実用新案第203957151(CN,U)
【文献】特開平07-187298(JP,A)
【文献】中国実用新案第207539221(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 20/00
E21D 20/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地山に形成されたロックボル
ト孔に充填材を注入するシステムであって、
前記充填材を吐出する注入ポンプと、
前記注入ポンプから延びて前記ロックボルト孔に挿し入れられる注入管と、
前記充填材の吐出流量を計測する流量計と、
前記流量計による計測流量に基づく前記ロックボルト孔への前記充填材の注入量が、前記ロックボルト孔の所要充填量から前記注入ポンプの停止後の慣性吐出時間中の充填材の慣性吐出予測量を差し引いた充填前注入量に達したかを判定する判定部と、
前記判定に応じて、前記注入ポンプの停止の指示を行なう停止指示部と、
を備え、前記流量計が、前記注入ポンプの停止後、前記慣性吐出時間が経過するまで計測を継続することを特徴とする充填材注入システム。
【請求項2】
前記吐出された前記充填材の流速を計測する流速計と、
前記流速計による計測流速に基づき前記慣性吐出予測量を算出する算出部と、
を更に備えた請求項1に記載の充填材注入システム。
【請求項3】
前記停止指示部が、前記停止のための発報部を含む請求項1又は2に記載の充填材注入システム。
【請求項4】
前記停止指示部が、前記注入ポンプを自動停止させる指令信号の出力部を含む請求項1又は2に記載の充填材注入システム。
【請求項5】
地山に形成されたロックボル
ト孔に注入ポンプによって充填材を注入する方法であって、
前記注入ポンプから延びる注入管を前記ロックボルト孔に挿し入れて前記注入を行なう工程と、
前記充填材の吐出流量を流量計で計測する工程と、
前記流量計による計測流量に基づく前記ロックボルト孔への前記充填材の注入量が、前記ロックボルト孔の所要充填量から前記注入ポンプの停止後の慣性吐出時間中の充填材の慣性吐出予測量を差し引いた充填前注入量に達したとき、前記注入ポンプの停止の指示を行なう工程と、
を備え、前記注入ポンプの停止後、前記慣性吐出時間が経過するまで前記吐出流量の計測工程を継続することを特徴とする充填材注入方法。
【請求項6】
前記充填材の吐出流速を流速計で計測する工程と、
前記流速計による計測流速に基づき、前記慣性吐出予測量を算出する工程と、
を更に備えた請求項5に記載の充填材注入方法。
【請求項7】
前記慣性吐出予測量が、前記注入管の長さに応じて設定される請求項5に記載の充填材注入方法。
【請求項8】
前記慣性吐出予測量が、前記注入ポンプと前記ロックボルト孔との高低差に応じて設定される請求項5に記載の充填材注入方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネル周辺や法面等の地山に形成したロックボルト孔にロックボルトを挿し込むロックボルト工に関し、特に、挿し込みの前又は後のロックボルト孔に充填材を注入するシステム及び注入方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、山岳トンネルの構築においては、掘削した地山を安定させるために、トンネル掘削面から地山にロックボルトを挿し込むロックボルト工が行われる。ロックボルト工は、地山にロックボルト孔を形成し、そのロックボルト孔にモルタル等の充填材を注入する工程を含む(特許文献1等参照)。
【0003】
注入工程では、注入ポンプから延びる注入管の先端部をロックボルト孔の奥端まで挿し込んでから、注入ポンプによってモルタル等の充填材を圧送する。これによって、充填材が注入管の先端部から吐出されてロックボルト孔内に注入される。注入しながら、注入管を漸次手元側へ引く。ロックボルト孔におけるトンネル掘削面へ開口する手元側開口から充填材が溢れ出たとき、充填材がロックボルト孔に充填されたと判断して、注入ポンプを停止する。その後、ロックボルト孔にロックボルトを挿入する。
ロックボルト孔にロックボルトを挿入した後、ロックボルト孔の内周とロックボルトとの間隙に充填材を充填する場合もある。
【0004】
特許文献1には、注入ポンプに流量計を設けて、充填材の充填量を取得することによって、施工不良の有無や周辺地山の状態の判断に役立てることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1のように注入ポンプに流量計を設けると、その計測値から充填が完了したかを判断するシステムを構築できると考えられる。
一方、発明者の知見によれば、注入ポンプから一定量の充填材を吐出したところ、流量計による積算計測流量は一定量に満たなかった。
本発明は、かかる知見に鑑み、地山に形成されたロックボルト孔に充填材を注入する工程において、注入ポンプによる実際の吐出量と流量計による積算計測流量とのずれを小さくすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の課題を解決するために、発明者は、鋭意研究を行なった。
注入ポンプによる実際の吐出量と流量計による積算計測流量の間にずれが生じる要因として、注入ポンプから注入管へ押し出された充填材が慣性を有していることが挙げられる。この種の充填材は質量が比較的大きいから慣性も大きく、注入ポンプへの電力供給を停止しても、その後しばらく注入管内を流れ続けて、注入管の先端部から吐き出される。この電力供給停止後の慣性吐出量が、積算計測流量とのずれを惹き起こすと考えられる。
かかる事情に鑑み、本発明システムは、地山に形成されたロックボルト孔に充填材を注入する充填材注入システムであって、
前記充填材を吐出する注入ポンプと、
前記注入ポンプから延びて前記ロックボルト孔に挿し入れられる注入管と、
前記充填材の吐出流量を計測する流量計と、
前記流量計による計測流量に基づく前記ロックボルト孔への前記充填材の注入量が、前記ロックボルト孔の所要充填量から前記注入ポンプの停止後の慣性吐出時間中の充填材の慣性吐出予測量を差し引いた充填前注入量に達したかを判定する判定部と、
前記判定に応じて、前記注入ポンプの停止の指示を行なう停止指示部と、
を備え、前記流量計が、前記注入ポンプの停止後、前記慣性吐出時間が経過するまで計測を継続することを特徴とする。
【0008】
好ましくは、前記充填材注入システムは、
前記吐出された前記充填材の流速を計測する流速計と、
前記流速計による計測流速に基づき前記慣性吐出予測量を算出する算出部と、
を更に備えている。
【0009】
好ましくは、前記停止指示部が、前記停止のための発報部を含む。前記発報部としては、表示灯、ブザー、モニタ等が挙げられる。
【0010】
好ましくは、前記停止指示部が、前記注入ポンプを自動停止させる指令信号の出力部を含む。
【0011】
本発明方法は、地山に形成されたロックボルト孔に注入ポンプによって充填材を注入する充填材注入方法であって、
前記注入ポンプから延びる注入管を前記ロックボルト孔に挿し入れて前記注入を行なう工程と、
前記充填材の吐出流量を流量計で計測する工程と、
前記流量計による計測流量に基づく前記ロックボルト孔への前記充填材の注入量が、前記ロックボルト孔の所要充填量から前記注入ポンプの停止後の慣性吐出時間中の充填材の慣性吐出予測量を差し引いた充填前注入量に達したとき、前記注入ポンプの停止の指示を行なう工程と、
を備え、前記注入ポンプの停止後、前記慣性吐出時間が経過するまで前記吐出流量の計測工程を継続することを特徴とする。
【0012】
好ましくは、前記充填材注入方法が、
前記充填材の吐出流速を流速計で計測する工程と、
前記流速計による計測流速に基づき、前記慣性吐出予測量を算出する工程と、
を更に備えている。
前記慣性吐出予測量が、前記注入管の長さに応じて設定されてもよい、
前記慣性吐出予測量が、前記注入ポンプと前記ロックボルト孔との高低差に応じて設定されてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、地山に形成されたロックボルト孔に充填材を注入する工程において、注入ポンプによる実際の吐出量と流量計による積算計測流量とのずれを小さくできる。したがって、ロックボルト孔に所要量の充填材を注入できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係るロックボルト工の充填材注入システムの概要を示す解説図である。
【
図2】
図2は、前記充填材注入システムの構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を図面にしたがって説明する。
図1は、施工中の山岳トンネル1を示したものである。山岳トンネル1においては、吹付けコンクリート(図示せず)を吹き付けたトンネル掘削面1aから地山2内へロックボルト3が打ち込まれている。
【0016】
ロックボルト工においては、ドリルジャンボ4によって地山2にロックボルト孔5が削孔される。形成されたロックボルト孔5には、充填材注入システム9によってモルタル6(充填材)が注入されたうえで、ロックボルト3が挿し込まれる。
【0017】
図1に示すように、施工中の山岳トンネル1内に4tトラック等の運搬車両8が乗り入れられている。運搬車両8はドリルジャンボ4の近くに配車されている。運搬車両8の荷台に充填材注入システム9が積載されている。充填材注入システム9は、注入ポンプ10と、注入管19と、流量計20と、流速計21と、制御盤30と、発報部40,45を備えている。
【0018】
図2に示すように、注入ポンプ10は、一般的なコンクリート打設ポンプによって構成され、ポンプ部11と、ミキサー12と、オンオフスイッチ13を含む。ミキサー12の上部にホッパー14(固体原料投入部)が設けられている。ミキサー12に水供給路15(液体原料投入部)が接続されている。
【0019】
ミキサー12から筒状のポンプ部11が延び出ている。ポンプ部11の内部にはスクリュー11aが設けられている。
【0020】
オンオフスイッチ13によって、注入ポンプ10の運転開始及び停止の操作がなされる。
注入ポンプ10の運転によって、ホッパー14に投入されたセメント6a(固体原料)と、水供給路15からの水6w(液体原料)とが、ミキサー12において練り混ぜられることによって、モルタル6(充填材)が出来る。モルタル6は、スクリュー11aの回転によって、ポンプ部11から注入管19へ押し出される。
【0021】
図1に示すように、注入管19が、ポンプ部11の吐出ポート11pからドリルジャンボ4の高所作業台4dへ延び、そこから注入対象のロックボルト孔5へ挿し入れられている。
【0022】
図2に示すように、吐出ポート11pと注入管19との間又は注入管19の中途部には、流量計20及び流速計21が介在されている。流量計20は、注入ポンプ10からのモルタル6の吐出流量q(瞬時流量)を計測する。好ましくは、流量計20は、流体(導体)の流れと磁界とによる電磁誘導作用によって発生した起電力(電圧)を検知する電磁流量計である。より好ましくは、流量計20は、検知電圧すなわちモルタル流量の計測値をデジタル信号で出力するデジタル流量計である。
【0023】
流速計21は、注入ポンプ10から吐出されたモルタル6の流速vを計測する。好ましくは、流速計21は、測定流速値をデジタル信号で出力するデジタル流速計である。
なお、流量計20が流速計を兼ねていてもよく、流量を流路断面積で除して流速を算出してもよい。流速計21が流量計を兼ねていてもよく、流速に流路断面積を乗じて流量を算出してもよい。
【0024】
図2に示すように、制御盤30は、処理部31(判定部、算出部)と、信号変換部32と、設定部33を含む。好ましくは、制御盤30の外筐34は防水防塵仕様になっている。処理部31は、CPU31aと、記憶部31mを含み、充填材注入システム9の制御動作を行なう。記憶部31mには、充填材注入システム9を動作させるための制御プログラムや演算式が記憶されている。演算式として、後述する慣性吐出予測量Q2を算出するための演算式等が挙げられる。処理部31は、パーソナルコンピューター(以下「PC」と表記)によって構成されていてもよく、プログラマブルロジックコントローラ(以下「PLC」と表記)にて構成されていてもよい。
【0025】
処理部31と信号変換部32とがイーサネットケーブル35等にて有線接続されている。なお、処理部31が信号変換部32を含んでいてもよい。
【0026】
信号変換部32は、例えばイーサネットスイッチにて構成されている。信号変換部32を介して、処理部31と、各種の入出力機器とが、信号伝達可能に接続されている。信号変換部32ひいては処理部31と接続された入力機器としては、オンオフスイッチ13、流量計20、流速計21、設定部33等が含まれる。信号変換部32ひいては処理部31と接続された出力機器としては、表示灯40及びブザー45等が含まれる。
【0027】
設定部33は、各種設定値の入力を受け付ける。設定値としては、各ロックボルト孔5へのモルタル6(充填材)の所要充填量Q0が挙げられる。所要充填量Q0は、ロックボルト孔5を満タンまで充填するのに必要なモルタル6の体積であり、ロックボルト孔5の容積すなわち削孔ビットの直径と削孔深さとの積などに基づいて導出される。所要充填量Q0は、ロックボルト3の断面積をも考慮して設定してもよい。
【0028】
好ましくは、設定部33は、設定値を数値(デジタル)で受け付けて、デジタル信号で信号変換部32に出力するデジタルデバイスである。設定部33による所要充填量Q0等の設定値は、信号変換部32を介して、処理部31に入力される。
処理部31(判定部)は、流量計20による計測流量q及び設定部33による所要充填量Q0等に基づき、ロックボルト孔5へのモルタル注入量が注入ポンプ停止タイミング相当量(後記充填前注入量Q1)に達したかの判定等を行なう。
【0029】
図2に示すように、表示灯40(光による発報部)は、好ましくは、トンネル1内のモルタル注入現場の見通しの良い場所に配置されている。例えば、表示灯40は、運搬車両8に立設された支柱44の上端部にそれぞれ設けられている。
【0030】
表示灯40は、上下に例えば3段(複数段)の発光部41,42,43を含む。これら発光部41~43は、互いに発光色が異なっている。例えば、上段の発光部41は赤色、中段の発光部42は黄色、下段の発光部43は青色ないしは緑色にそれぞれ発光されるが、本発明はこれに限らない。好ましくは、表示灯40は、発光部41~43が回転される回転表示灯である。
【0031】
表示灯40は、制御盤30によって点滅制御される。表示灯40における点灯中の発光部41~43の数によって、各ロックボルト孔5へのモルタルの注入度合が報知される。点灯中の発光部41~43の数が増えるにしたがって、注入度合が大きいことを表す。すべての発光部41,42,43の点灯は、注入ポンプ10の停止の指示を表す。
【0032】
また、制御盤30によってブザー45(音による発報部)が制御される。ブザー45からの警報音は、注入ポンプ10の停止の指示を表す。
表示灯40及びブザー45は、処理部31(判定部)による判定に応じて、注入ポンプ10の停止の指示を行なう停止指示部を構成する。
【0033】
ロックボルト工においては、充填材注入システム9が、次のように作動されることによって、ロックボルト孔5へのモルタル(充填材)の充填が行われる。
<所要充填量設定工程>
予め、注入対象のロックボルト孔5におけるモルタル6(充填材)の所要充填量Q0を、設定部33によって設定しておく。設定された所要充填量Q0は、処理部31に送られて記憶部31mに格納される。所要充填量Q0の算出因子であるロックボルト孔5の長さや内径等の値を設定部33に入力することで、その入力データが信号変換部32を介して処理部31に送られて、処理部31において所要充填量Q0が算出されるようにしてもよい。
好ましくは、所要充填量設定工程は、注入対象のロックボルト孔5の長さや断面積が変更される都度、実行される。
【0034】
<注入管挿し入れ工程>
図1に示すように、注入管操作担当の作業者Bは、例えばドリルジャンボ4の高所作業台4dに乗って、注入管19を注入対象のロックボルト孔5の手元側開口5aから該ロックボルト孔5の内部へ挿し込む。注入管19の先端部をロックボルト孔5の奥端部まで挿し込んだら合図を出す。
【0035】
<注入ポンプ運転開始工程>
注入ポンプ操作担当の作業者Aは、合図に応じて、注入ポンプ10のオンオフスイッチ13によって運転開始の操作を行なう。
【0036】
<注入工程>
注入ポンプ10の運転によって、モルタル6が注入ポンプ10から注入管19内へ圧送され、注入管19の先端部から吐出されて、ロックボルト孔5内に注入される。作業者Bは、注入しながら、注入管19を漸次手元側へ引く。これによって、モルタル6が、ロックボルト孔5内の奥端部から手元側へ向かって充填されていく。
【0037】
<流量計測工程>
注入工程中、流量計20によって、モルタル6の流量q(L/min)が計測される。計測されたモルタル流量が、信号変換部32を経て処理部31に入力される。処理部31は、入力された計測流量を積算することで、注入中のロックボルト孔5におけるモルタル6の現時点の計測注入量Q(L)を算出する。
【0038】
<注入度合算出工程>
更に、処理部31は、記憶部31mから所要充填量Q0の設定値を読み出し、下式によって計測注入量Qと所要充填量Q0との比Rを算出する。
R=Q/Q0 (1)
比Rは、注入中のロックボルト孔5における、所要充填量Q0に対するモルタル注入度合を示す。
【0039】
処理部31は、算出された注入度合Rに応じて、表示灯40のうち点灯させる発光部41~43の数を調整する。
注入管操作担当の作業者Bは、表示灯40の点灯状況を見ることによって、注入作業中のロックボルト孔5におけるモルタル6の注入度合をリアルタイムで的確に把握できる。その点灯状況に応じて、注入管19の手元側への引き具合を調節する。これによって、作業者Bは、勘に頼ることなく、注入管19を適切な速度で手元側へ引くことができる。
【0040】
<慣性吐出予測量算出工程>
流量計20による流量計測と併行して、流速計21によってモルタル6の吐出流速v(m/min)が計測される。計測流速vは、信号変換部32を経て処理部31に入力される。
処理部31(算出部)は、計測流速vに基づき、慣性吐出予測量Q2を算出する。
【0041】
詳しくは、慣性吐出予測量Q2は、注入ポンプ10が停止された場合に、その後も慣性で吐出されると予測されるモルタル6の量(L)である。注入ポンプ10から吐出されたモルタル6の慣性力はモルタル6の速度vに依存するから、慣性吐出予測量Q2は、速度vを変数とする関数式(2)で表される。
Q2=f(v) (2)
式(2)は、速度vの一次関数式でもよく、速度vの二次関数式でもよい。CPU31aが記憶部31mから関数式(2)を読み出し、流速vの計測値を関数式(2)に当てはめて演算することで、慣性吐出予測量Q2を求める。
慣性吐出予測量Q2は、所要充填量Q0の例えば数%~数十%程度である。
【0042】
<慣性吐出予測量算出の変形例1>
慣性吐出予測量Q2は、注入管19の長さL19に応じて設定されてもよい。注入管長さL19が大きいほど、流通抵抗が増すために慣性吐出予測量Q2が小さくなる。
注入管長さL19は、あらかじめ設定部33によって入力しておく。
入力された注入管長さL19の値が、記憶部31mに保存される。
慣性吐出予測量算出工程時に、CPU31aが記憶部31mから注入管長さL19の値を読み出し、慣性吐出予測量Q2を算出する。
速度vと注入管長さL19から慣性吐出予測量Q2を算出してもよい。関数式(2)が、速度v及び注入管長さL19を変数として含んでいてもよい。
【0043】
<慣性吐出予測量算出の変形例2>
慣性吐出予測量Q2は、注入ポンプ10とロックボルト孔5との高低差ΔHに応じて設定されてもよい。ロックボルト孔5が注入ポンプ10より高所に在る場合、高低差ΔHが大きいほど、慣性吐出予測量Q2が小さくなる。
高低差ΔHは、あらかじめ設定部33によって入力しておく。厳密には、注入ポンプ10の吐出ポート11pからロックボルト孔5の手元側開口5aまでの高低差ΔHを入力しておく。
入力された高低差ΔHの値が、記憶部31mに保存される。
慣性吐出予測量算出工程時に、CPU31aが記憶部31mから高低差ΔHの値を読み出し、慣性吐出予測量Q2を算出する。
【0044】
速度v又は注入管長さL19と、高低差ΔHから慣性吐出予測量Q2を算出してもよい。関数式(2)が、速度v又は注入管長さL19と、高低差ΔHを変数として含んでいてもよい。
速度vと注入管長さL19と高低差ΔHから慣性吐出予測量Q2を算出してもよい。関数式(2)が、速度v、注入管長さL19及び高低差ΔHを変数として含んでいてもよい。
慣性吐出予測量算出工程は、注入工程の開始時ないしは初期から行ってもよく、注入がある程度(例えば所要充填量Q0の1/2~2/3程度)進んだ段階から実行してもよい。
【0045】
<注入ポンプ停止タイミング判定工程>
さらに、処理部41(判定部)は、所要充填量Q0から慣性吐出予測量Q2を差し引くことで、充填前注入量Q1を求める。
Q1=Q0-Q2 (3)
そして、計測注入量Qが、充填前注入量Q1に達したか否かを判定する。
【0046】
<発報工程(注入ポンプ停止指示工程)>
計測注入量Qが充填前注入量Q1に達した(Q≧Q1)と判定されたとき、処理部31は、信号変換部32を介して、表示灯40へ全点灯指令を出力する。これによって、3つの発光部41,42,43の全部が点灯される。すなわち、表示灯40から発光による注入ポンプ10の停止を指示する発報がなされる。
また、ブザー45から注入ポンプ10の停止を指示する警報音が発報される。
【0047】
<注入ポンプ停止工程>
これに応じて、作業者Aは、注入ポンプ10のオンオフスイッチ13によって運転停止操作を行なう。これによって、注入ポンプ10への駆動電力の供給が停止され、注入ポンプ10の運転が停止される。
【0048】
<注入ポンプ停止工程の変形例>
作業者Aによる手動停止に代えて、処理部31(出力部)が、信号変換部32を介して、注入ポンプ10へ自動停止の指令信号を出力し、その指令信号に応じて、注入ポンプ10が自動停止されるようにしてもよい。
【0049】
<慣性吐出工程>
注入ポンプ10の停止後の慣性吐出時間中、慣性によってモルタル6が注入管19の先端部から吐出され続ける。
作業者Bは、注入ポンプ10の停止後も、慣性吐出時間中は、注入管19の先端部をロックボルト孔5内に挿し込んだ状態に保持しておく。これによって、慣性で吐出されたモルタル6がロックボルト孔5に注入される。したがって、慣性吐出分のモルタル6がロックボルト孔5の外部に無駄に排出されるのを防止できる。
慣性吐出時間は、例えば数秒~数十秒程度であり、好ましくは2秒~5秒程度である。
【0050】
注入ポンプ停止後のモルタル6の慣性による実吐出量Q3は、式(2)によって求められた慣性吐出予測量Q2と近似する。
Q3≒Q2 (4)
慣性吐出時間経過後のトータルの実吐出量Qtは、充填前注入量Q1に慣性実吐出量Q3が加算された値となる。
Qt=Q1+Q3 (5)
したがって、式(3)~(5)より、トータル実吐出量Qtが所要充填量Q0と近似する。
Qt≒Q0 (6)
このようにして、ロックボルト孔5に所要量のモルタル6を充填できる。
【0051】
<流量計測継続工程>
注入ポンプ10の停止(駆動電力の供給停止)後も、少なくとも慣性吐出時間が経過するまでは流量計20への電力供給が継続される。そして、流量計20によるモルタル流量の計測が、慣性吐出時間が経過するまで継続される。これによって、流量計20の計測による慣性吐出時間経過後の最終の積算注入量Qeとトータル実吐出量Qtとのずれを小さくできる。
【0052】
処理部31は、最終の積算注入量Qe(≒Qt)をそのロックボルト孔5へのトータルの注入量として記憶部31mに保存するとともに、積算注入量をリセットする。
保存された注入量等のデータは、作業日報等の帳票の作成に用いられる。
【0053】
作業者Bは、モルタル充填済のロックボルト孔5の手元側開口5aから注入管19を引き抜く。
続いて、ドリルジャンボ4の操作によって、モルタル充填済のロックボルト孔5にロックボルト3が打ち込まれる。
このようにして、削孔したロックボルト孔5ごとにモルタル6が充填されたうえでロックボルト3が打ち込まれる。
【0054】
本発明は、前記実施形態に限定されず、種々の改変をなすことができる。
例えば、本発明は、地山に形成されたロックボルト孔への充填材注入工法であれば、トンネル工事に限らず、法面工事等にも適用可能である。すなわち、法面にロックボルトを打ち込むのに際して、法面のロックボルト孔に充填材を注入する工程にも本発明を適用可能である。
発報部は、表示灯40及びブザー45の一方だけで構成してもよく、他方は省略してもよい。
発報部が、注入度合を表示し、ひいては注入停止タイミングを発報するモニタを含んでいてもよい。
本発明に係る充填材注入システムは、ロックボルト孔5にモルタルを注入した後、ロックボルト3を挿し込む前注入方式に限らず、ロックボルト孔5にロックボルト3を挿し込んだ後、モルタル注入を行なう後注入方式にも適用可能である。
充填材は、モルタルに限らず、ウレタン系等の発泡樹脂であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明は、例えば山岳トンネルにおけるロックボルト工に適用可能である。
【符号の説明】
【0056】
1 山岳トンネル
2 地山
3 ロックボルト
5 ロックボルト孔
5a 手元側開口
6 モルタル(充填材)
9 充填材注入システム
10 注入ポンプ
13 オンオフスイッチ
19 注入管
20 流量計
21 流速計
30 制御盤
31 処理部(判定部、算出部、出力部)
33 設定部
40 表示灯(発報部)
41,42,43 発光部
45 ブザー(発報部)
【要約】
【課題】地山に形成されたロックボルト孔に充填材を注入する工程において、注入ポンプによる実際の吐出量と流量計による積算計測流量とのずれを小さくする。
【解決手段】注入ポンプ10から延びる注入管19をロックボルト孔5に挿し入れて、注入ポンプ10からの充填材6をロックボルト孔5に注入する。充填材6の吐出流量qを流量計20で計測する。流量計20による計測流量に基づく積算注入量Qが、ロックボルト孔5の所要充填量Q0から注入ポンプ10の停止後の慣性吐出時間中の充填材6の慣性吐出予測量Q2を差し引いた充填前注入量Q1に達したとき、表示灯40やブザー45で注入ポンプ10の停止指示を行なう。注入ポンプ10の停止後、慣性吐出時間が経過するまで吐出流量の計測を継続する。
【選択図】
図2