(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-08
(45)【発行日】2024-08-19
(54)【発明の名称】制振装置
(51)【国際特許分類】
F16F 15/04 20060101AFI20240809BHJP
F16F 7/00 20060101ALI20240809BHJP
【FI】
F16F15/04 B
F16F7/00 D
(21)【出願番号】P 2023506722
(86)(22)【出願日】2021-09-29
(86)【国際出願番号】 JP2021035894
(87)【国際公開番号】W WO2022195932
(87)【国際公開日】2022-09-22
【審査請求日】2023-09-08
(31)【優先権主張番号】P 2021041851
(32)【優先日】2021-03-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000124096
【氏名又は名称】株式会社パイオラックス
(74)【代理人】
【識別番号】100109081
【氏名又は名称】三木 友由
(72)【発明者】
【氏名】中里 宏
(72)【発明者】
【氏名】橋本 匠海
【審査官】大谷 謙仁
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-019467(JP,A)
【文献】特開2015-168409(JP,A)
【文献】実公昭63-009447(JP,Y2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/04
F16F 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1部材および第2部材に介在して前記第1部材に対する前記第2部材の振動を抑制する制振装置であって、
前記第1部材および前記第2部材の一方に固定する固定部材であって、筒部と前記筒部の内側に形成される挿通孔とを有する固定部材と、
前記挿通孔に挿通され、前記第1部材および前記第2部材の他方から力を受けて進退可能に設けられるピストンと、
前記ピストンの進退に応じて前記ピストンに摺動する摺動部材と、を備え、
前記摺動部材は、
前記筒部の内側にて径方向内向きに突出して、前記ピストンの外周面に当接する突出部と、
前記筒部の外側に配置される外筒部と、
前記外筒部の一端から径方向内向きに延在して、前記突出部と前記外筒部とを間接的または直接的に連結する延在部と、を有することを特徴とする制振装置。
【請求項2】
第1部材および第2部材の間に介在し、前記第1部材および前記第2部材の一方に固定され、前記第1部材に対する前記第2部材の振動を抑制する制振装置であって、
前記第1部材および前記第2部材の他方から力を受けて進退可能に設けられるピストンと、
前記ピストンの進退に応じて前記ピストンに摺動する摺動部材と、
筒部と前記筒部の内側に形成される挿通孔とを有する支持部材と、を備え、
前記ピストンは、前記挿通孔に挿通され、
前記摺動部材は、
前記筒部の内側にて径方向内向きに突出して、前記ピストンの外周面に当接する突出部と、
前記筒部の外側に配置される外筒部と、
前記外筒部の一端から径方向内向きに延在して、前記突出部と前記外筒部とを間接的または直接的に連結する延在部と、を有することを特徴とする制振装置。
【請求項3】
前記摺動部材は、前記筒部の内側に配置される内筒部をさらに有し、
前記延在部は、前記内筒部および前記外筒部を連結し、
前記突出部は、前記内筒部から径方向内向きに突出することを特徴とする請求項1または2に記載の制振装置。
【請求項4】
前記ピストンを付勢するばねをさらに備え、
前記摺動部材は、前記外筒部から径方向外向きに張り出す台座部を有し、
前記ばねの座部は、前記台座部に着座することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の制振装置。
【請求項5】
前記摺動部材は、前記外筒部の外面に径方向外向きに膨出するように形成され、前記ばねの内側に当接する膨出部を有することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の制振装置。
【請求項6】
前記膨出部の内側に空隙が形成されていることを特徴とする請求項5に記載の制振装置。
【請求項7】
前記摺動部材は、粘弾性体であることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の制振装置。
【請求項8】
前記ばねは、前記座部から立ち上がり、前記ピストンに当接する立ち上がり片を有することを特徴とする請求項4に記載の制振装置。
【請求項9】
前記立ち上がり片は、前記外筒部に摺動可能であることを特徴とする請求項8に記載の制振装置。
【請求項10】
前記第1部材および前記第2部材の一方に固定される固定部材をさらに備え、
前記支持部材は、軸方向に移動可能に設けられ、
前記固定部材と前記支持部材との間には、前記固定部材に対する前記支持部材の高さを移動可能に保持する高さ調整機構が形成されており、
前記摺動部材は、前記支持部材に載置され、前記支持部材の移動に応じて軸方向に移動することを特徴とする請求項2に記載の制振装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第1部材および第2部材に介在して第1部材に対する第2部材の振動を抑制する制振装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、ハッチバック、ワゴン、バン等の自動車には、後部の荷室を開閉するためのバックドアが備えられている。このバックドアの縁部が荷室開口の周縁部にゴム状のストッパ等を介して当接して、バックドアが荷室開口を閉じている。しかし、走行時やアイドリング中の振動等により、バックドアが車体と共振して不快音が生じる場合がある。
【0003】
特許文献1には、軸部材の外周面に摺接する環状のシールが開示されている。このシールは、断面X字形であり、軸部材に摺接するリップ部を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示されるシールでは、軸部材に接触して運動エネルギーを吸収する部分がリップだけで、制振効果が小さい。制振性能を向上するためには軸部材に接触して運動エネルギーを吸収する部分が大きいと好ましい。
【0006】
本発明の目的は、制振性能を向上した制振装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の制振装置は、第1部材および第2部材に介在して第1部材に対する第2部材の振動を抑制する制振装置であって、第1部材および第2部材の一方に固定する固定部材であって、筒部と筒部の内側に形成される挿通孔とを有する固定部材と、挿通孔に挿通され、第1部材および第2部材の他方から力を受けて進退可能に設けられるピストンと、ピストンの進退に応じてピストンに摺動する摺動部材と、を備える。摺動部材は、筒部の内側にて径方向内向きに突出して、ピストンの外周面に当接する突出部と、筒部の外側に配置される外筒部と、外筒部の一端から径方向内向きに延在して、突出部と外筒部とを間接的または直接的に連結する延在部と、を有する。
【0008】
本発明の別の態様は、第1部材および第2部材の間に介在し、第1部材および第2部材の一方に固定され、第1部材に対する第2部材の振動を抑制する制振装置である。この制振装置は、第1部材および第2部材の他方から力を受けて進退可能に設けられるピストンと、ピストンの進退に応じてピストンに摺動する摺動部材と、筒部と筒部の内側に形成される挿通孔とを有する支持部材と、を備える。ピストンは、挿通孔に挿通され、摺動部材は、筒部の内側にて径方向内向きに突出して、ピストンの外周面に当接する突出部と、筒部の外側に配置される外筒部と、外筒部の一端から径方向内向きに延在して、突出部と外筒部とを間接的または直接的に連結する延在部と、を有する。
【0009】
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、制振性能を向上した制振装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図4】
図4(a)は、摺動部材の側面図であり、
図4(b)は、
図5(a)に示す摺動部材の線分A-A断面図である。
【
図5】
図5(a)は、摺動部材の上面図であり、
図5(b)は、摺動部材の下面図である。
【
図6】
図5(a)に示す摺動部材の線分B-Bの断面斜視図である。
【
図8】摺動部材がピストンに摺動する際の動作について説明するための図である。
【
図12】回転部材およびギア部材の斜視断面図である。
【
図13】高さ調整機構の動作について説明するための図であり、固定部材、移動部材およびギア部材の斜視図を示す。
【
図14】摺動部材、ばね、ピストンおよび移動部材の斜視図であり、移動部材に摺動部材、ばねおよびピストンを取り付けた状態を示す図である。
【
図16】実施例の制振装置における摺動部材およびばねの上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は、実施例の制振装置10の斜視図である。制振装置10は、車両のドアおよびバックドア等の開閉体に固定され、開閉体を閉じた状態で、車体側のパネルに当接する。制振装置10は、開閉体を閉じたときの衝撃を吸収し、開閉体を閉じた状態で車両振動によって開閉体が共振して不快音を発生することを抑えることができる。また、制振装置10は、開閉体を閉じた状態で、開閉体と車体側のパネルとの距離差を吸収できる。制振装置10は、損失係数が高いほど有用な制振性能を発揮する。
【0013】
なお、制振装置10は、車体側のパネル等の固定体に固定されて、開閉体に当接する態様であってもよい。つまり、制振装置10は、開閉体および固定体の一方に固定され、開閉体および固定体の他方に当接可能である。また、制振装置10は、車両のドアに固定される態様に限られず、蓋体および蓋体によって閉塞される開口を有する固定体に設けられてよい。いずれにしても、制振装置10は、第1部材および第2部材に介在して第1部材に対する第2部材の振動を抑制する。
【0014】
制振装置10は、第1部材および第2部材の一方に固定する固定部材20と、第1部材および第2部材の他方に当接可能なピストンおよびカバー28とを備える。実施例では、固定部材20は、車両のドアに設けられた取付孔に挿入されて固定され、ピストンおよびカバー28は、ドアを閉じたときに車体側の開口縁に当接する。
【0015】
図2は、制振装置10の分解図である。制振装置10は、固定部材20、摺動部材22、ばね24、ピストン26およびカバー28を備える。
【0016】
固定部材20は、筒部44、フランジ部46、挿通孔48、係止爪50および内方突起部(不図示)を備える。筒部44は、内側に挿通孔48を形成する。挿通孔48には、ピストン26が挿通される。
【0017】
フランジ部46は、筒部44の外周面から径方向外向きに張り出し、軸方向において筒部44の略中心位置に配置される。フランジ部46は、摺動部材22と当接して受け止める。つまり、固定部材20は、摺動部材22を支持する支持部材としても機能する。係止爪50は、筒部44に形成された弾性爪であり、車両ドアの取付孔に係止する。なお、ドアへの固定方法は、係止爪50の形状に限られず、パネルに固定できれば他の形状であってよい。不図示の内方突起部は、後ほど図示するが、筒部44の内周面に径方向内向きに張り出すように形成される。
【0018】
ピストン26は、軸部54、円盤部56、抜け止め部58および凹部60を有する。軸部54は、棒状に形成される。円盤部56は、軸部54の先端側に形成され、径方向外向きに張り出す。凹部60は、円盤部56の中央に形成される。抜け止め部58は、軸部54の基端側に爪状に形成され、径方向外向きに突出している。抜け止め部58は、固定部材20に引っかかってピストン26の抜け止めをする。
【0019】
カバー28は、粘弾性材料または軟質エストラマー材料でカップ状に形成され、摺動部材22、ばね24およびピストン26を覆う。カバー28の係合部62は、固定部材20のフランジ部46の外周縁に係合する。カバー28は、ピストン26と一体であってよく、ピストン26の円盤部56は、カバー28とともに車体に押し付けられる押し付け部として機能してよい。いずれにしても、カバー28および円盤部56は、車体から力を受ける。
【0020】
ばね24は、コイルばねであり、ピストン26を付勢する。ばね24の一端は円盤部56に支持され、ばね24の他端は摺動部材22を介してフランジ部46に支持される。
【0021】
摺動部材22は、略筒状に形成され、固定部材20の筒部44に取り付けられる。摺動部材22は、ピストン26の進退に応じてピストン26に摺動し、ばね24の伸縮に応じてばね24に摺動する。摺動部材22の材質は、ゴム等の粘弾性材料または軟質エストラマー材料である。制振性を向上するには、摺動部材22は、4-メチル-1-ペンテン・α-オレフィン共重合体、ならびに熱可塑性樹脂(ただし、前記共重合体を除く)をゴムまたは軟質エストラマーを含有する材料で形成された粘弾性体である。これにより、適切な摺動抵抗をピストン26およびばね24に付与することができる。なお、摺動部材22は、粘弾性体に限られず、ゴム性の弾性体であってもよい。
【0022】
図3は、摺動部材22の斜視図である。また、
図4(a)は、摺動部材22の側面図であり、
図4(b)は、
図5(a)に示す摺動部材22の線分A-A断面図である。
図5(a)は、摺動部材22の上面図であり、
図5(b)は、摺動部材22の下面図である。
図6は、
図5(a)に示す摺動部材22の線分B-Bの断面斜視図である。
【0023】
摺動部材22は、外筒部30、内筒部32、延在部34、突出部36、台座部38、膨出部40および空隙部42を有する。外筒部30は、
図3および
図4(b)に示すように筒状に形成される。
図4および
図6に示すように、内筒部32は、円筒状に形成され、外筒部30の内側に位置する。内筒部32は、外筒部30よりも軸方向長さが短く、外筒部30よりも厚さが薄い。外筒部30および内筒部32は、離間しており、それらの一端が延在部34によって連結されている。
【0024】
延在部34は、
図3および
図4(b)に示すように、外筒部30の一端から径方向内向きに延在して、摺動部材22の上端面を形成し、内筒部32の一端に連結する。つまり、延在部34は、外筒部30および内筒部32を連結する。延在部34により、外筒部30および内筒部32が径方向に離間して配置される。
【0025】
突出部36は、
図5(a)に示すように内筒部32から径方向内向きに突出する。突出部36は、周方向に離間して複数形成される。これにより、突出部36が複数の方向からピストン26に当接でき、ピストン26の軸ブレを抑えることができる。
【0026】
突出部36は、
図4(b)に示すように、延在部34の上端面から軸方向下向きにずれて位置し、内筒部32の下端から軸方向上向きにずれて位置する。なお、突出部36は、延在部34の上端面から突出してもよく、延在部34から突出してもよい。
【0027】
図5(a)および
図5(b)に示すように、複数の突出部36には、第1溝部36aおよび第2溝部36bが交互に形成される。第1溝部36aは、
図5(a)に示すように、上方から下方へ窪むように形成され、第2溝部36bは、
図5(b)に示すように、下方から上方へ窪むように形成される。第1溝部36aおよび第2溝部36b(これらを区別しない場合、「溝部」という)は、突出部36の基端側を周方向に沿って切り欠くように形成され、突出部36を径方向に撓みやすくさせる。また、第1溝部36aおよび第2溝部36bが複数の突出部36に交互に設けられることで、ピストン26の進行にも退行にも同様の摺動性能を発揮させることができる。
【0028】
台座部38は、外筒部30から径方向外向きに張り出す。台座部38は、ばね24の端末(座部)を着座させ、フランジ部46に着座する。膨出部40は、外筒部30の外面に径方向外向きに膨出するように形成され、ばね24の内側に当接する。膨出部40は、周方向に離間して複数形成される。膨出部40の一端には、台座部38に向かって拡径するように傾斜したテーパ部40aが形成される。テーパ部40aによってばね24が膨出部40に引っかかることを抑えることができる。
【0029】
図5(b)および
図6に示すように、膨出部40の内側には空隙部42が形成されている。膨出部40の内側に空隙が形成されることで、膨出部40が径方向に撓みやすくなる。膨出部40の上端は、外筒部30に接続され、膨出部40の下端は外筒部30に接続されておらず、空隙部42が設けられなくとも可撓性を有する態様であってよい。
【0030】
図7は、制振装置10の断面図である。
図7に示す断面位置は、
図6と同様である。カバー28の係合部62が、フランジ部46に係合して、カバー28が、ばね24およびピストン26などの内部構造を覆っている。
【0031】
ピストン26の軸部54は、固定部材20の挿通孔48に挿入され、ピストン26の抜け止め部58は、固定部材20の内方突起部52に引っかかる。ばね24は、ピストン26の円盤部56を付勢し、付勢されたピストン26は、抜け止め部58で抜け止めしている。
【0032】
摺動部材22の外筒部30は、筒部44の外側に配置され、内筒部32は、筒部44の内側に配置され、外筒部30および内筒部32が筒部44を挟むように配置される。延在部34が筒部44の先端に乗っかかるようにして、摺動部材22が筒部44に取り付けられる。
【0033】
突出部36は、筒部44の内側にて径方向内向きに突出して、ピストン26の外周面に当接する。これにより、突出部36がピストン26の進退に応じて摺動して、ピストン26の動きを減衰することができる。また、突出部36を支持する内筒部32が筒部44の内側に位置するため、突出部36は内筒部32を介して筒部44によって移動が規制され、ピストン26に安定して当接することができる。
【0034】
内方突起部52は、ピストン26の軸部54を環囲するように設けられる。内方突起部52と突出部36は、一定の軸方向距離を保って離間しており、軸部54を2カ所で支持できる。これにより、ピストン26の軸ブレを抑えることができ、突出部36の摺動を安定させることができる。
【0035】
ばね24の端末(座部)は、摺動部材22の台座部38に着座する。ばね24の端末を粘弾性体に着座させることで、ばね24の伸縮動作を安定させることができる。
【0036】
ばね24の内径側は、摺動部材22の膨出部40に当接している。そのため、ばね24が伸縮した際に膨出部40に摺動する。これにより、ばね24の振動を減衰することができる。また、摺動部材22が、突出部36によるピストン26への摺動と、膨出部40によるばね24への摺動をそれぞれ実行することで、制振装置10の制振性能を向上できる。なお、ばね24の内径側は膨出部40が形成されていない外筒部30には当接しない。つまり、ばね24の内径は、膨出部40の外接円の直径より小さく、外筒部30の外接円の直径より大きい。仮に比較的堅い外筒部30にばね24が当接すると、外筒部30に当接した部分が伸縮しなくなるおそれがあるが、ばね24が膨出部40に当接することでばね24の摺動させることができる。
【0037】
図8は、摺動部材22がピストン26に摺動する際の動作について説明するための図である。突出部36は、ピストン26に摺動するとともに、ピストン26の進退に追従して軸方向に移動する。
図8では、突出部36がピストン26の進行によって上方に移動することで、延在部34が上方に持ち上げられた状態を示し、延在部34にかかる応力を示す。突出部36が上方に移動したことにより摺動部材22に応力がかかった領域が
図8では灰色で示されている。延在部34は、外筒部30から径方向内向きに張り出すことで、上下に変位することができる。
【0038】
応力がかかった領域は、主に突出部36から延在部34に亘って示されている。つまり、突出部36の上下移動によって延在部34が応力を受けて変形し、減衰力を発揮する。このように、突出部36の上下変位だけでなく、延在部34の変形によっても減衰力を発揮させることで、制振装置10の制振性能を向上できる。
【0039】
図9は、変形例の制振装置110の斜視図である。また、
図10は、変形例の制振装置110の分解図である。変形例の制振装置110は、
図1に示す制振装置10と比べて、ばね124の形状が異なり、高さ調整機構170を有する点が主に異なる。変形例では、高さ調整機構170が設けられたことで、摺動部材122が移動部材172に支持されているが、
図1に示す制振装置10では固定部材20に支持されていることが異なる。つまり、摺動部材122の支持部材が、変形例では移動部材172であり、
図1では固定部材20である。
【0040】
制振装置110は、固定部材120、摺動部材122、ばね124、ピストン126、カバー128、高さ調整機構170およびワッシャ178を備える。
【0041】
固定部材120は、凸部144、フランジ部146、挿入孔148および係止爪150を有する。係止爪150は、固定部材120の両側面に一対形成され、撓み可能であり、開閉体の取付孔の縁に係止する。凸部144は、フランジ部146よりも突出し、略環状に形成される。挿入孔148は、移動部材172を挿入可能である。
【0042】
凸部144は、フランジ部146から凸部144の上端側に向かって延在し、傾斜した面として形成されるガイド部144aを有する。ガイド部144aは、ギア部材176の回転をガイドする。ワッシャ178は、フランジ部146の下側に取り付けられる。
【0043】
カバー128は、粘弾性材料または軟質エストラマー材料でカップ状に形成され、摺動部材122、ばね124およびピストン126を覆う。カバー128は、移動部材172に係合する。
【0044】
ピストン126は、軸部154、円盤部156および抜け止め部158を有する。軸部154は、棒状に形成される。円盤部156は、軸部154の先端側に形成され、径方向外向きに張り出す。抜け止め部158は、軸部154の基端側に爪状に形成され、径方向外向きに突出している。抜け止め部158は、移動部材172に引っかかってピストン26の抜け止めをする。
【0045】
摺動部材122は、外筒部30、内筒部32、延在部34、突出部36、台座部38および膨出部40を有する。外筒部30は、筒状に形成され、内筒部32は、円筒状に形成され、外筒部30の内側に位置する。外筒部30および内筒部32は、径方向に離間しており、それらの一端が延在部34によって連結されている。
【0046】
突出部36は、内筒部32から径方向内向きに突出する。突出部36は、周方向に離間して複数形成される。なお、突出部36は、延在部34の上端面から突出してもよく、延在部34から突出してもよい。
【0047】
台座部38は、外筒部30から径方向外向きに張り出す。台座部38は、ばね124の座部を着座させ、移動部材172に着座する。膨出部40は、外筒部30の外面に径方向外向きに膨出するように形成され、ばね124に当接する。膨出部40は、周方向に離間して複数形成される。膨出部40の内部には空隙が形成されよい。
【0048】
ばね124は、座部64および立ち上がり片66を有する。ばね124は、金属製の板ばねである。ばね124を板ばねにすることで、コイルばねと比べて軸方向に小さくでき、開閉体と車体側パネルの間隔が小さくても取り付けられる。ばね124について、
図11を参照しつつ説明する。
【0049】
図11(a)は、ばね124の上面図であり、
図11(b)は、ばね124の側面図である。座部64は、環状に形成され、摺動部材122の台座部38に着座する。立ち上がり片66は、座部64から立ち上がり、
図11(a)に示す上面視にて円弧状に形成される。立ち上がり片66は、ピストン126の円盤部156に当接する。立ち上がり片66の先端部は、座部64側に折り返すように屈曲する。
【0050】
立ち上がり片66は、内縁に形成された摺動片68を有する。摺動片68は、立ち上がり片66の内縁に上方に屈曲しており、軸方向に沿う面を形成する。立ち上がり片66の摺動片68は、摺動部材122の外筒部30、特に外筒部30の膨出部40に摺動する。
【0051】
図10に戻る。高さ調整機構170は、移動部材172、回転部材174およびギア部材176を有する。固定部材120と移動部材172との間には、固定部材120に対する移動部材172の高さを移動可能に保持する高さ調整機構170が形成されている。移動部材172は、筒部77、フランジ部78、挿通孔79、軸部80、歯部82および抜け止め孔84を有する。
【0052】
移動部材172は、固定部材120に対して軸方向に移動可能であり、摺動部材122を支持する支持部材としても機能する。軸部80は、角筒状に形成され固定部材120の挿入孔148に挿入される。歯部82は、軸方向に沿って軸部80の両側面に形成される。
【0053】
フランジ部78は、筒部77から径方向外向きに張り出し、円盤状に形成される。フランジ部78の上部に円筒状の筒部77が形成され、フランジ部78の下部に軸部80が形成される。筒部77および軸部80は同軸に形成される。抜け止め孔84は、ピストン126を抜け止めするため、軸部80の側面に形成される。挿通孔79は、筒部77から軸部80の内側に亘って形成され、軸方向上方に開口する。高さ調整機構170について新たな図面を参照して説明する。
【0054】
図12は、回転部材174およびギア部材176の斜視断面図である。ギア部材176は、回転部材174の内側に取り付けられる。回転部材174は、円筒部86、支持部88および内方突出部90を有する。支持部88は、円筒部86の内側に突出して形成され、複数設けられる。支持部88は、ギア部材176に係合してギア部材176を支持する。
【0055】
内方突出部90は、径方向内向きに突出して形成され、径方向に変位可能である。内方突出部90は、固定部材120のフランジ部146に係合して回転部材174を固定部材120から外れないようにする。
【0056】
ギア部材176は、多段山部92および延在山部94を有する。多段山部92は、多段状であるのに対し、延在山部94は1つの山部を形成する。延在山部94は、多段山部92に連なっており、多段山部92よりも山部の数が少ない。延在山部94は、円筒部86から離れて配置され、径方向外向きに撓み可能である。回転部材174およびギア部材176は、移動部材172に対して、中心軸周りに回転する。
【0057】
図13は、高さ調整機構170の動作について説明するための図であり、固定部材120、移動部材172およびギア部材176の斜視図を示す。ギア部材176は、回転によって2つの位置を取ることができ、移動部材172の移動を制限するロック状態と、移動部材172を移動可能な状態にするアンロック状態とをとる。
図13(a)では、アンロック状態のギア部材176を示し、
図13(b)では、ロック状態のギア部材176を示す。不図示であるが、回転部材174は、ギア部材176と一体に回転する。
【0058】
図13(a)に示すギア部材176がアンロック状態である場合には、延在山部94が移動部材172の歯部82に係合している。延在山部94は径方向に撓み可能であるため、移動部材172が延在山部94を撓ませながら軸方向に移動することができる。また、延在山部94が歯部82に係合することで、移動部材172の軸方向位置を維持できる。
【0059】
一方、
図13(b)に示すギア部材176がロック状態である場合には、多段山部92が歯部82に係合している。これにより、移動部材172の軸方向の移動が止められる。ギア部材176は、アンロック状態では、フランジ部146に着座しており、ロック状態ではガイド部144aに案内されて凸部144に乗り上げる。このように、ギア部材176を回転させることで、移動部材172を固定部材120に対して軸方向に移動可能な状態と、移動不可能な状態にさせ、高さ調整を可能にする。これによって、ピストン126の進退ストローク量を小さくなるように調整でき、ピストン126の進退ストロークを安定させることができる。
【0060】
図14は、摺動部材122、ばね124、ピストン126および移動部材172の斜視図であり、移動部材172に摺動部材122、ばね124およびピストン126を取り付けた状態を示す。
【0061】
移動部材172のフランジ部78には、摺動部材122の台座部38が着座し、台座部38の上にばね124の座部64が着座している。ピストン126は、摺動部材122に挿通され、抜け止め部158が抜け止め孔84に入り込んでいる。摺動部材122およびばね124が移動部材172に載置される。
【0062】
移動部材172が軸方向に移動することで、移動部材172に載置されている摺動部材122、ばね124およびピストン126も軸方向に移動する。なお、カバー128もピストン126に取り付けられるため、移動部材172とともに移動する。これにより、開閉体を閉じた状態で、開閉体と車体側のパネルとの距離差に合わせて、ピストン126の突出高さを調整し、制振性能を安定させることができる。
【0063】
ばね124の立ち上がり片66は、ピストン126の円盤部156の裏面に当接し、ピストン126を軸方向上方に付勢する。これによって、ピストン126が押されて退行した場合に、立ち上がり片66が元の位置に押し戻すことができる。例えば開閉体を閉じた状態で開閉体または車体側が振動した場合に、ピストン126は立ち上がり片66に押し戻されて進退することになる。
【0064】
立ち上がり片66の摺動片68は、ピストン126の進退に応じて摺動部材122、特に外筒部30の膨出部40に摺動する。これにより、ピストン126の進退に応じて摩擦が生じ、減衰力を発生することができる。また、摺動片68が軸方向に沿った面を有することで、摺動部材122を損傷しにくくできる。また、高さ調整機構170によって、ピストン126の進退ストロークを小さくなるように調整でき、立ち上がり片66のストロークも小さくすることができる。これによって、立ち上がり片66のへたれも抑え、ばね付勢力を安定させることができる。
【0065】
図15は、実施例の制振装置110の断面図である。また、
図16は、制振装置110における摺動部材122およびばね124の上面図である。
図15では、ギア部材176は、フランジ部146に載っており、
図13(a)に示すようなアンロック状態にある。移動部材172は、固定部材120の挿入孔148に軸部80を挿入した状態で軸方向に移動できる。
【0066】
カバー128は、ピストン126の円盤部156に係止する係止部96を有する。摺動部材122、ばね124、ピストン126および移動部材172はカバー128の内側に設けられる。
【0067】
移動部材172の挿通孔79には、ピストン126の軸部154が挿通される。摺動部材122の内筒部32および突出部36は、移動部材172の筒部77の内側に位置し、外筒部30は、筒部77の外側に位置する。突出部36は、ピストン126の軸部154に当接する。
【0068】
摺動部材122の突出部36は、ピストン126の進退時にピストン126に摺動する。さらに、
図16に示すように、立ち上がり片66の摺動片68が外筒部30の膨出部40に当接しており、ピストン126の進退時に立ち上がり片66の摺動片68が外筒部30の膨出部40に摺動する。突出部36の摺動に加えて、立ち上がり片66の摺動片68も摺動することで、制振性能を向上できる。
【0069】
本発明は上述の各実施例に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて各種の設計変更等の変形を各実施例に対して加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施例も本発明の範囲に含まれうる。
【0070】
実施例では、突出部36が内筒部32の内周面に設けられる態様を示したが、この態様に限られず、内筒部32が設けられず、突出部36が延在部34に設けられる態様であってもよい。つまり、延在部34は、突出部36および外筒部30を内筒部32を介して間接的に連結するか、突出部36および外筒部30を直接的に連結する。
【0071】
また、実施例では膨出部40の内側に空隙部42が形成される態様を示したが、膨出部40の幅を小さくして撓みやすくすることで空隙部42を形成しない態様も可能である。また、実施例では、突出部36に第1溝部36aおよび第2溝部36bを形成する態様を示したが、この態様に限られず、溝部を形成しなくともよい。
【0072】
また、変形例のばね124は、
図7に示す制振装置10に用いられてよい。いずれにしても、ばね124は、ピストン26,126を軸方向上方に付勢するとともに、ピストン26,126の進退に応じて摺動部材22,122の外筒部30に摺動する。
【0073】
また、高さ調整機構170について、回転部材174およびギア部材176を含む態様
を示したが、この態様に限られない。例えば、固定部材120が雌ネジを有し、移動部材172が雄ネジを有し、固定部材120の雌ネジと移動部材172の雄ネジが螺合して高さ調整可能であってよい。さらに別の態様では、移動部材172の歯部82にロックするロック部材が回転部材174およびギア部材176の代わりに用いられてよい。例えば、ロック部材は、歯部82に係止する係止爪と、軸方向に直交する回転軸部とを有し、回転によってロック状態とアンロック状態とをとるように構成されてよい。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明は、第1部材および第2部材に介在して第1部材に対する第2部材の振動を抑制する制振装置に関する。
【符号の説明】
【0075】
10 制振装置、 20 固定部材、 22 摺動部材、 24 ばね、 26 ピストン、 28 カバー、 30 外筒部、 32 内筒部、 34 延在部、 36 突出部、 36a 第1溝部、 36b 第2溝部、 38 台座部、 40 膨出部、 40a テーパ部、 42 空隙部、 44 筒部、 46 フランジ部、 48 挿通孔、 50 係止爪、 52 内方突起部、 54 軸部、 56 円盤部、 58 抜け止め部、 60 凹部、 62 係合部。