(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-09
(45)【発行日】2024-08-20
(54)【発明の名称】脂質代謝改善剤
(51)【国際特許分類】
A61K 38/05 20060101AFI20240813BHJP
A23L 33/18 20160101ALI20240813BHJP
A61K 38/01 20060101ALI20240813BHJP
A61P 3/06 20060101ALI20240813BHJP
A23J 1/02 20060101ALN20240813BHJP
A23J 3/34 20060101ALN20240813BHJP
【FI】
A61K38/05
A23L33/18
A61K38/01
A61P3/06
A23J1/02
A23J3/34
(21)【出願番号】P 2018037464
(22)【出願日】2018-03-02
【審査請求日】2020-12-23
【審判番号】
【審判請求日】2022-07-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000118497
【氏名又は名称】伊藤ハム株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中出 浩二
(72)【発明者】
【氏名】長岡 利
【合議体】
【審判長】磯貝 香苗
【審判官】淺野 美奈
【審判官】天野 宏樹
(56)【参考文献】
【文献】特開平6-172202号公報(JP,A)
【文献】特開平11-292896号公報(JP,A)
【文献】特開2017-155026号公報(JP,A)
【文献】NAKADE,Koji et al.,Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry, Volume 73,Issue 3, p.607-612
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミノ酸配列がPhe-Proであるジペプチドからなる、脂質代謝改善剤。
【請求項2】
請求項1に記載の脂質代謝改善剤を含む、脂質代謝改善用食品組成物
(但し、前記脂質代謝改善用組成物が牛心臓加水分解組成物又はその限外ろ過物である場合、及びそれらを含む場合を除く)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペプチドを有効成分として含む脂質代謝改善剤、脂質代謝改善用食品、及び、脂質代謝改善作用を有する動物由来のペプチドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、大豆タンパク質などの植物性タンパク質は、カゼインなどの動物性タンパク質と比較して、抗動脈硬化作用を有すると考えられている(非特許文献1)。しかし、現在活発に行われている有効成分の検討により(非特許文献2~10)、このような血清コレステロール低下作用は動物性素材にも見られることが明らかにされている。実際に、本発明者は、牛乳の乳清タンパク質が、動物性タンパク質でありながら大豆タンパク質よりも、強力な血清コレステロール低下作用を発現することを発見し検討している(非特許文献2,3)。また、主要な食糧資源でありながら、従来ほとんど検討がなされていない畜産食品素材のうち、牛肉ペプチド、牛レバーペプチドが体内コレステロール低下作用を有することも見出した(非特許文献6)。さらに、動物性食餌タンパク質である牛肉に再度着目し、畜産資源の高度有効利用という観点から、廃棄部位を含めた各部位である牛肉、牛心臓、牛赤血球、牛血漿加水分解物を用いた研究を行った結果、特に牛心臓加水分解物(HPH)が強力なコレステロール代謝改善作用を発現することを発見した(非特許文献7)。
【0003】
本発明者らはまた、HPHが肝臓の脂質代謝改善効果を有することを見出している(特許文献1)。
【0004】
さらに、本発明者らは、非特許文献8~10の研究手法を用いて、牛心臓タンパク質加水分解物(HPH)のコレステロール低下作用機構を明らかにした。コレステロールミセル溶解性はカゼインよりもHPHで有意に低下した。Caco-2細胞のコレステロール吸収抑制はカゼインミセルよりもHPHミセルで有意に高かった。血清コレステロールはカゼインよりもHPHで有意に低かった。放射性コレステロールで測定したコレステロール吸収はカゼインと比べてHPHで有意に減少し、HPHのコレステロール低下作用は空腸のコレステロール吸収阻害によるものである。さらに、HPH由来の牛心臓タンパク質加水分解物の限外濾過物(HPHU、分子量約1000ダルトン以下のペプチド分画物)は、ラットにおいてHPHよりも強力なコレステロール低下作用を示すことを本発明者らは見出している(非特許文献11)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Carroll, K.K. and Hamilton, R.M.G.: J. Food Sci., 40, 18 (1975)
【文献】Nagaoka, S., Kanamaru. Y., Kuzuya, Y., Kojima, T. and Kuwata, T.: Biosci. Biotch. Biochem., 56, 1484 (1992)
【文献】長岡 利 : 日本栄養・食糧学会誌, 49, 303 (1996)
【文献】Iwami, K., Sakakibara, K. and Ibuki, F.: Agric. Biol. Chem., 50, 1217 (1986)
【文献】Sugano, M., Goto, S., Yamada, Y., Yosida, K., Hashimoto, Y., Matsuo, T. and Kimoto, M.: J. Nutr., 120,977 (1990)
【文献】長岡 利 : 食肉に関する助成研究調査成果報告書 336 (1998)
【文献】長岡 利 : 食肉に関する助成研究調査成果報告書 378 (1999)
【文献】Nagaoka, S., Awano, T., Nagata, N., Masaoka, M., Hori, G. and Hashimoto, K.: Biosci. Biotech. Biochem., 61, 354 (1997)
【文献】Nagaoka, S., Miyazaki, H., Oda, H., Aoyama, Y. and Yoshida, A.: J. Nutr., 120, 1134 (1990)
【文献】Nagaoka, S., Miwa, K., Eto, M., Kuzuya, Y., Hori, G. and Yamamoto, K.: J.Nutr. 129, 1725 (1999)
【文献】Nakade, K., Kaneko, H. Oka, T., Ahhmed, A.M., Muguruma, M., Numata, M. and Nagaoka, S.: Biosci. Biotechnol. Biochem. 73, 607 (2009)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の通り、牛心臓タンパク質加水分解物の限外濾過物(HPHU)がコレステロール代謝改善作用を有することを本発明者らは見出しているが、活性ペプチドの特定には至っていない。
そこで本発明は、コレステロールを含む脂質の代謝改善作用を有するペプチドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、HPHUの脂質代謝改善作用に寄与するペプチドを見出すべく鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。本発明は以下の発明を包含する。
(1)Phe-Pro又はPro-Pheで表されるアミノ酸配列を少なくとも一部に含む、アミノ酸残基数が10以下のペプチドを含む、脂質代謝改善剤。
(2)前記ペプチドのアミノ酸残基数が5以下である、(1)に記載の脂質代謝改善剤。
(3)前記ペプチドが、Phe-Proで表されるアミノ酸配列を少なくとも一部に含む、(1)又は(2)に記載の脂質代謝改善剤。
(4)前記ペプチドが、Phe-Proで表されるアミノ酸配列からなるジペプチドである、(1)~(3)のいずれかに記載の脂質代謝改善剤。
(5)Phe-Pro又はPro-Pheで表されるアミノ酸配列を少なくとも一部に含む、アミノ酸残基数が10以下のペプチドを含む、脂質代謝改善用食品組成物。
(6)前記ペプチドのアミノ酸残基数が5以下である、(5)に記載の脂質代謝改善用食品組成物。
(7)前記ペプチドが、Phe-Proで表されるアミノ酸配列を少なくとも一部に含む、(5)又は(6)に記載の脂質代謝改善用食品組成物。
(8)前記ペプチドが、Phe-Proで表されるアミノ酸配列からなるジペプチドである、(5)~(7)のいずれかに記載の脂質代謝改善用食品組成物。
(9)動物心臓タンパク質を加水分解酵素により処理する工程を含む、Phe-Pro又はPro-Pheで表されるアミノ酸配列を少なくとも一部に含む、アミノ酸残基数が10以下のペプチドの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の脂質代謝改善剤及び脂質代謝改善用食品組成物は、経口摂取により脂質代謝を改善することができる。
本発明の方法によれば、動物由来のタンパク質から脂質代謝改善作用を有するペプチドを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、牛心臓加水分解物(HPHU)の限外ろ過物のゲルろ過クロマトグラフィーによる溶出パターンを示す。
【
図2】
図2は、HPHU-gf3の逆相クロマトグラフィーによる溶出パターンを示す。
【
図3】
図3は、HPHU-gf3-RPIの逆相クロマトグラフィーによる溶出パターンを示す。
【
図4】
図4は、HPHU-gf3-RPIBの逆相クロマトグラフィーによる溶出パターンを示す。
【
図5】
図5は、HPHU-gf3-RPIB2のゲルろ過クロマトグラフィーによる溶出パターンを示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<ペプチド>
本発明において活性成分として用いるペプチドは、Phe-Pro又はPro-Pheで表されるアミノ酸配列、好ましくはPhe-Proで表されるアミノ酸配列を、少なくとも一部に含む、アミノ酸残基数が10以下のペプチド(以下「本発明のペプチド」と称する場合がある)である。
【0012】
ここでPhe-Proとは、フェニルアラニンのカルボキシ基にプロリンのアミノ基がアミド結合したアミノ酸配列を表し、Pro-Pheとは、プロリンのカルボキシ基にフェニルアラニンのアミノ基がアミド結合したアミノ酸配列を表す。
【0013】
アミノ酸残基数が10以下の本発明のペプチドにおいて、Phe-Pro又はPro-Pheで表されるアミノ酸配列はどの位置に位置していてもよい。
【0014】
本発明のペプチドのアミノ酸残基数は10以下であればよいが、好ましくは9以下、好ましくは8以下、好ましくは7以下、好ましくは6以下、好ましくは5以下、好ましくは5以下、好ましくは3以下、最も好ましくは2である。アミノ酸残基数が2のペプチドはジペプチドと呼ばれる。本発明のペプチドがアミノ酸残基数が2のジペプチドである場合、Phe-Pro又はPro-Pheで表されるアミノ酸配列からなるジペプチドであり、最も好ましくは、Phe-Proで表されるアミノ酸配列からなるジペプチドである。
【0015】
本発明のペプチドは、より好ましくは分子量が1,000ダルトン以下のペプチドであり、より好ましくは700ダルトン以下のペプチドである。1,000ダルトン以下又は700ダルトン以下の本発明のペプチドは、それぞれ、分画分子量が1,000ダルトン以下又は700ダルトン以下の限外ろ過膜を通過するペプチドとして取得することができる。
【0016】
本発明のペプチドは塩や水和物等の各種の形態で存在していてもよい。
本発明のペプチドの製造方法は特に限定されず、天然物であってもよいし、人為的に作出されたものであってもよい。
【0017】
本発明のペプチドの好適な製造方法は、動物心臓タンパク質を加水分解酵素により処理する酵素加水分解工程を含む方法である。動物とは典型的には非ヒト動物であり、特に好ましくはウシ、ウマ、ブタ等の家畜動物であり、最も好ましくはウシである。動物心臓タンパク質としては、動物の心臓をミキサー等で粉砕したものを用いることができる。加水分解酵素としてはプロテアーゼが好ましい。プロテアーゼはエンド型プロテアーゼであってもエキソ型プロテアーゼであってもよいが、好ましくはエンド型プロテアーゼである。エンド型プロテアーゼの具体例としてはアルカラーゼ(Alcalase:商標)2.4Lが例示できる。
【0018】
本発明のペプチドの製造方法は、好ましくは、加水分解工程で得られた動物心臓タンパク質加水分解物から、本発明のペプチドを高濃度化する高濃度化工程を含む。高濃度化工程は、限外ろ過による本発明のペプチドの濃縮、クロマトグラフィーを利用した本発明のペプチドの高濃度化などの工程を1以上含む。
【0019】
限外ろ過を行う場合、分画分子量が1,000ダルトン以下の限外ろ過膜を通過する成分として、本発明のペプチドを濃縮することができる。
【0020】
クロマトグラフィーの種類は特に限定されないが、ゲルろ過クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー等を1種又は2種以上組み合わせて利用することができる。
【0021】
高濃度化工程は、好ましくは、加水分解工程で得られた動物心臓タンパク質加水分解物を限外ろ過膜で処理して、限外ろ過膜の通過分として分子量1,000ダルトン以下のペプチドを回収する限外ろ過工程と、限外ろ過工程で得られたペプチドを、クロマトグラフィーにより処理して本発明のペプチドを含む画分を回収するクロマトグラフィー工程を含む。
【0022】
本発明のペプチドは、単独のペプチドとして存在する必要はなく、他のペプチドとともに混合した状態で存在してもよい。
【0023】
<脂質代謝改善剤及び脂質代謝改善用食品組成物>
本発明において、脂質代謝の改善とは、血中のコレステロール、トリグリセリド等の脂質が低減することや、肝臓中のコレステロール、トリグリセリド等の脂質が低減することを指標として評価することができる。
【0024】
本発明の脂質代謝改善剤は、ヒト等の動物に摂取又は投与されたときに、該動物において脂質代謝を改善することができる。本発明の脂質代謝改善剤を動物に投与する投与経路は特に限定されないが好ましくは経口投与である。本発明の脂質代謝改善剤は、本発明のペプチド以外に、他のペプチドや、許容される他の成分を含んでもよい。他の成分としては担体、賦形剤、溶媒等が挙げられる。本発明の脂質代謝改善剤の形態は特に限定されず、液体、固体のいずれの形態であってもよく、固体の形態としては錠剤、粉末、顆粒等の任意の形態であることができる。
【0025】
本発明の脂質代謝改善用食品組成物は、ヒトにより摂取されたときに、該ヒトにおいて脂質代謝を改善することができる。本発明の脂質代謝改善用食品組成物は、本発明のペプチド以外に、他のペプチドや、食品として許容される他の成分を含んでもよい。他の成分としては担体、賦形剤、溶媒、他の食品素材等が挙げられる。本発明の脂質代謝改善用食品組成物の形態は特に限定されず、液体、固体のいずれの形態であってもよく、固体の形態としては錠剤、粉末、顆粒等の任意の形態であることができる。
【0026】
本発明の脂質代謝改善剤又は脂質代謝改善用食品組成物の動物が摂取する又は動物に投与する量は、脂質代謝を改善することができる有効量であればよいが、典型的には、1日あたり、100mg/kg体重~600mg/kg体重、より好ましくは、300mg/kg体重~600mg/kg体重であることができる。
【実施例】
【0027】
以下、本発明の実施形態を、実施例に基づき具体的に説明する。ただし本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0028】
1.牛心臓加水分解物(HPH)の調製
牛心臓400kgをミンチし、2倍量の水を加え、pH8.5、温度を50℃に調整した。アルカラーゼ(Alcalase:商標)2.4Lを800g加え、3時間酵素分解を行なった後、80℃以上で30分間保持し、酵素を失活させた。室温付近まで冷却後再びpHを7.0に調整してろ過し、不溶物を除去した。ろ液を55℃で減圧濃縮したのち、10℃以下に冷却し、脂肪を析出させた。濾過後、ろ液にデキストリンを30kg加え、噴霧乾燥して、約75kgの牛心臓加水分解物(「HPH」と称する)を得た。
【0029】
2.限外ろ過
上記のHPHを、分画分子量が1,000Da(MW)の限外ろ過膜(東洋濾紙株式会社製)により分画してろ液を回収した。回収したろ液を、牛心臓加水分解物の限外ろ過物(「HPHU」とする)とした。HPHUの分子量は約1,000Da未満である。
【0030】
3.ゲルろ過クロマトグラフィーによる分画
上記のHPHUをゲルろ過クロマトグラフィー(GFC)により4分画し、コレステロール(CHOL)ミセル溶解性に対する影響を評価した。
【0031】
HPHUのGFCによる分画は、AKTA avant 25(GE Healthcare)高速液体クロマトグラフィーにより、HiLoad 26/60 Superdex 30pg(GE Healthcare)を用いて行なった。検出波長は215nmとした。
【0032】
図1に、HPHUのGFCによる溶出パターンを示す。
図1に示す4つの画分(gfl~4)を得た。
【0033】
HPHU、及び、HPHUのGFCによる4つの画分HPHU-gf1、HPHU-gf2、HPHU-gf3、HPHU-gf4のコレステロールミセル溶解性を評価した。比較のために、カゼイントリプシン加水分解物(CTH)についても同様に評価した。
【0034】
各試料のコレステロールミセル溶解性は、Nagaoka,S.et al.,J.Nutr.,129,1725-1730(1990)に記載の方法に改変を加えた方法により測定した。0.74kBqの[4-14C]-コレステロール(2.1GBq/mmol,NEN)、0.1mmol/lのコレステロール(シグマ)、6.6mmol/1のタウロコール酸ナトリウム(シグマ)、1mmol/lのオレイン酸(シグマ)、0.6mmol/lのホスファチジルコリン(シグマ)、0.5mmol/lのモノオレイン(シグマ)、及び、132mM NaClを含む15mmol/lのリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.4)という組成を有する[14C]標識ミセル溶液(10ml)を調製し超音波照射(VP-5超音波ホモゲナイザー、タイテック)により混合した。37℃で24時間インキュベートした後、前記ミセル溶液に、試料を5mg/mlの濃度で添加し、超音波照射により溶解させ、37℃で1時間インキュベートした後、100,000×gで60分間37℃にて遠心分離した。上清を回収し、液体シンチレーションカウンターにより上清中の[14C]-コレステロールを定量した。
【0035】
実験結果の統計的分析には、Tukey’s-testを用いた。
結果を表1に示す。
【0036】
【0037】
HPHU、及びHPHUのゲルろ過クロマトグラフィーによる画分の1つであるHPHU-gf3は、カゼイントリプシン加水分解物(CTH)と比較して、コレステロールミセル溶解性が有意に低下した(表1)。
【0038】
4.逆相クロマトグラフィーによる分画1
上記のHPHU-gf3を、逆相クロマトグラフィー(RPC)により4分画し、コレステロールミセル溶解性に対する影響を評価した。
【0039】
HPHU-gf3のRPCによる分画は、AKTA purifier 10 plus(GE Healthcare)により、SOURCE 5 RPC ST 4.6/150(GE Healthcare)を用いて行った。溶出液として、A液(0.065% トリフルオロ酢酸を含む2%アセトニトリル溶液)に、B液(0.050%トリフルオロ酢酸を含む80%アセトニトリル溶液)を、
図2に示すように段階的に異なる混合比で加えた溶液を用いた。検出波長は215nmとした。
【0040】
図2に、HPHU-gf3のRPCによる溶出パターンを示す。
図2に示す4つの画分(HPHU-gf3-RPI、-RPII、-RPIII、-RPIV)を得た。
【0041】
上記の実験3と同様の手順により、各試料のコレステロールミセル溶解性を評価した。
実験結果の統計的分析には、Tukey’s-testを用いた。
結果を表2に示す。
【0042】
【0043】
HPHUのGFCによる分画物であるgf3はCTHと比較して、コレステロールミセル溶解性が低下傾向を示し、さらに、gf3のRPCによる分画物であるgf3-RPI、gf3-RPII、gf3-RPIIIでは有意に低下した(表2)。
【0044】
なお、予備的な機器分析によるペプチド分析から、gf3-RPI、gf3-RPII、gf3-RPIIIは、種々のペプチドの混合物であることから、活性ペプチドの特定のために、以下に示す更なる分画精製を行った。
【0045】
5.逆相クロマトグラフィーによる分画2
上記のHPHU-gf3-RPIを逆相クロマトグラフィー(RPC)により6分画し、コレステロールミセル溶解性に対する影響を評価した。
【0046】
RPCによる分画は、AKTA purifier 10 plus(GE Healthcare)により、SOURCE 5 RPC ST 4.6/150(GE Healthcare)を用いて行った。溶出液として、A液(0.065% トリフルオロ酢酸を含む1%アセトニトリル溶液)に、B液(0.050%トリフルオロ酢酸を含む80%アセトニトリル溶液)を、
図3に示すように連続的に変化する混合比で加えた溶液を用いた。検出波長は215nmとした。
【0047】
図3に、HPHU-gf3-RPIのRPCによる溶出パターンを示す。
図3に示す6つの画分(HPHU-gf3-RPIA、-RPIB、-RPIC、-RPID、-RPIE、-RPIF)を得た。
【0048】
上記の実験3と同様の手順により、各試料のコレステロールミセル溶解性を評価した。
実験結果の統計的分析には、Tukey’s-testを用いた。
結果を表3に示す。
【0049】
【0050】
コレステロールミセル溶解性はCTHと比較して、HPHUのGFC-RPC分画物であるHPHU-gf3-RPI、HPHU-gf3-RPIA、HPHU-gf3-RPIB、HPHU-gf3-RPIC、HPHU-gf3-RPIDおよびHPHU-gf3-RPIEでは有意に低下した。HPHU-gf3-RPIBで、最大のコレステロールミセル溶解性の低下を示した(表3)。
【0051】
6.逆相クロマトグラフィーによる分画3
上記のHPHU-gf3-RPIBを逆相クロマトグラフィー(RPC)により更に4分画し、コレステロールミセル溶解性に対する影響を評価した。
【0052】
RPCによる分画は、AKTA purifier(GE Healthcare)により、SOURCE 5 RPC ST 4.6/150(GE Healthcare)を用いて行った。溶出液として、A液(0.065%トリフルオロ酢酸を含む1%アセトニトリル溶液)に、B液(0.05%トリフルオロ酢酸を含む80%アセトニトリル溶液)を、
図4に示すように連続的に変化する混合比で加えた溶液を用いた。検出波長は215nmとした。
【0053】
図4に、HPHU-gf3-RPIBのRPCによる溶出パターンを示す。
図4に示す4つの画分(HPHU-gf3-RPIB1、HPHU-gf3-RPIB2、HPHU-gf3-RPIB3、HPHU-gf3-RPIB4)を得た。
【0054】
上記の実験3と同様の手順により、各試料のコレステロールミセル溶解性を評価した。
実験結果の統計的分析には、Tukey’s-testを用いた。結果を表4に示す。
【0055】
【0056】
HPHU-gf3-RPIB2はCTHやHPHUと比較して、コレステロールミセル溶解性が顕著に有意に低下した(表4)。
【0057】
7.有効成分の特定1
上記のHPHU-gf3-RPIB2を、AKTA avant 25でSuperdex Peptide 10/300 GL(Amersham)カラムを用いたゲルろ過クロマトグラフィーに供して分画した。そして、同じ装置及びカラムを用いて、既知分子量の基準ペプチド(IIAEKK、IIAE、IIA、IA、G)を分画した。得られたピークの保留時間及び基準ペプチドの分子量から、ピークの保留時間と分子量との検量線を作成した。この検量線から、HPHU-gf3-RPIB2に含まれるペプチドの分子量を推定した。検出波長は220nmとした。
【0058】
図5に溶出パターンを示す。
図5においてAは分子量200~700に相当する保留時間の範囲であり、Bは75~200に相当する保留時間の範囲であり、Cは分子量75以下に相当する保留時間の範囲を示す。HPHU-gf3-RPIB2に含まれるペプチドのうち、分子量75~200が全体の約62%、分子量200~700が約33%であった。
【0059】
8.有効成分の特定2
MALDI-TOFMS(マトリックス支援レーザー脱離イオン化法-飛行時間型質量分析法)により、HPHU-gf3-RPIB2の質量分析を行った。その結果、複数のピークのなかの1つとして、質量電荷比M/Zが260.22のピークが検出された。また、MS/MSによる質量スペクトルでは、質量電荷比M/Z261.18のベースピークとM/Z147.66のフラグメントピークが検出された。これらの結果と、ウシ心筋のミオシン-7の既知のアミノ酸配列の情報から、HPHU-gf3-RPIB2には、N末端にフェニルアラニンが位置し、C末端にプロリンが位置するジペプチド(Phe-Pro=FP)が含まれると結論付けた。
【0060】
9.ペプチドFPの生理活性
化学的に合成した市販のジペプチドFPを用いて、高脂コレステロール血症ラットにおいて、脂質代謝に対する影響を評価した。
高脂コレステロール食(HFC)の食餌組成を表5に示す。
【0061】
【0062】
Wistar系雄ラット4週齢を実験に使用した。FPは14日間ゾンデによって経口投与した。FPの投与量は600mg/kg体重/日とした。解剖前8時間絶食後に解剖し、血液を採取し、遠心分離により血漿を得て、-80℃で保管したのち、分析した。
【0063】
なお、実験結果の統計的分析にはStudent’s t-testを用いた。
結果を表6に示す。「HFC」は高脂コレステロール食を与え、FPを与えなかった対照群である。「HFCFP」は、高脂コレステロール食とFPを与えた試験群である。
【0064】
【0065】
表6に示す結果から、体重増加量、食餌摂取量、肝臓重量には、群間で有意な変化は認められなかった。血清コレステロール、肝臓総脂質、肝臓コレステロールは、対照群(HFC)と比較して、試験群(HFCFP)で有意に低下した。血清トリグリセリドは、対照群と比較して、試験群で低下傾向を示した。今回の結果は、世界初のコレステロール代謝改善ジペプチドの発見を意味するものである。